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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02C
管理番号 1249279
審判番号 不服2010-15233  
総通号数 146 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-02-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-08 
確定日 2011-12-28 
事件の表示 特願2000- 8672「燃焼ガス雰囲気中でシリカおよびケイ素含有材料の後退損失を防止する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月12日出願公開、特開2000-248961〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成12年1月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年2月26日、米国)を出願日とする特許法第36条の2第1項の規定による特許出願であって、平成12年3月6日付けで明細書、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成19年1月18日付けで手続補正書が提出され、平成21年7月16日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年1月21日付けで意見書及び明細書を補正する手続補正書が提出されたが、平成22年3月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年7月8日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書についての手続補正がなされ、その後、当審において平成22年11月22日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成23年5月31日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年7月8日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成22年7月8日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成22年7月8日付けの明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年1月21日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし15を下記の(b)に示す請求項1ないし14と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「 【請求項1】 燃焼ガス雰囲気中でケイ素含有セラミックおよびケイ素含有セラミック複合材の材料損失を低減する方法であって、エンジンの作動中にケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することにより有効量のケイ素を前記燃焼ガス雰囲気中に注入する工程を含んでおり、このケイ素が元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種の形態で注入されることを特徴とする、方法。
【請求項2】 ケイ素含有セラミックが、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素-炭化ケイ素、ケイ化モリブデンおよびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 ケイ素含有セラミック複合材が連続繊維強化セラミック複合材である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 繊維が、炭素、炭化ケイ素、炭化ケイ素含有材料およびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】 繊維が繊維表面に少なくとも1種のコーティングを有する、請求項3記載の方法。
【請求項6】 コーティングが、窒化ホウ素、ケイ素ドープ窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭素およびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】 燃焼ガス雰囲気が液体燃料、天然ガス、水素または石炭の燃焼生成物を含有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】 ケイ素含有化合物が、シロキサン、シラン、シリカ、シリコーン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素、ケイ酸塩およびエステル、砂ならびにこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】 ケイ素またはケイ素含有化合物を固形物、スラリー、液体、液体溶液、噴霧スプレー、気体状物質またはこれらの混合物として注入する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】 有効量が燃焼ガスの0.01?10.0重量ppmである、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】 ケイ素含有セラミックまたはケイ素含有セラミック複合材が燃焼器ライナ、シュラウド、ブレード、ベーン、尾筒またはこれらの混合物であり、燃焼ガス雰囲気が工業用陸上タービン、航空機用エンジン、自動車用エンジンまたは熱交換器の内部である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】 ケイ素含有セラミックまたはケイ素含有複合材がその表面上にシリカの膜を有する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】 燃焼ガス雰囲気が少なくとも500℃の温度である、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】 温度が1000℃を超える、請求項13記載の方法。
【請求項15】 燃焼ガス雰囲気中でケイ素含有セラミックまたはケイ素含有複合材の長期化学的耐久性を維持する方法であって、元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種の形態のケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することによりタービンエンジンまたは熱交換器の作動中にケイ素またはケイ素含有化合物をppmレベルで燃焼ガス中に混合することを含む、方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「 【請求項1】 燃焼ガス雰囲気中でケイ素含有セラミックおよびケイ素含有セラミック複合材の材料損失を低減する方法であって、エンジンの作動中にケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することにより、燃焼ガスの0.01?10.0重量ppmのケイ素を前記燃焼ガス雰囲気中に注入する工程を含んでおり、このケイ素が元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種の形態で注入されることを特徴とする、方法。
【請求項2】 ケイ素含有セラミックが、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ケイ素-炭化ケイ素、ケイ化モリブデンおよびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】 ケイ素含有セラミック複合材が連続繊維強化セラミック複合材である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】 繊維が、炭素、炭化ケイ素、炭化ケイ素含有材料およびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】 繊維が繊維表面に少なくとも1種のコーティングを有する、請求項3記載の方法。
【請求項6】 コーティングが、窒化ホウ素、ケイ素ドープ窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭素およびこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】 燃焼ガス雰囲気が液体燃料、天然ガス、水素または石炭の燃焼生成物を含有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】 ケイ素含有化合物が、シロキサン、シラン、シリカ、シリコーン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化ケイ素、ケイ酸塩およびエステル、砂ならびにこれらの混合物より成る群の中から選択される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】 ケイ素またはケイ素含有化合物を固形物、スラリー、液体、液体溶液、噴霧スプレー、気体状物質またはこれらの混合物として注入する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】 ケイ素含有セラミックまたはケイ素含有セラミック複合材が燃焼器ライナ、シュラウド、ブレード、ベーン、尾筒またはこれらの混合物であり、燃焼ガス雰囲気が工業用陸上タービン、航空機用エンジン、自動車用エンジンまたは熱交換器の内部である、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】 ケイ素含有セラミックまたはケイ素含有複合材がその表面上にシリカの膜を有する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】 燃焼ガス雰囲気が少なくとも500℃の温度である、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】 温度が1000℃を超える、請求項12記載の方法。
【請求項14】 燃焼ガス雰囲気中でケイ素含有セラミックまたはケイ素含有複合材の長期化学的耐久性を維持する方法であって、元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種の形態のケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することによりタービンエンジンまたは熱交換器の作動中にケイ素またはケイ素含有化合物を燃焼ガスの0.01?10.0重量ppmのレベルで燃焼ガス中に混合することを含む、方法。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「エンジンの作動中にケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することにより有効量のケイ素を前記燃焼ガス雰囲気中に注入する工程」の記載を、「エンジンの作動中にケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することにより、燃焼ガスの0.01?10.0重量ppmのケイ素」とすることを含むものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「有効量」を「燃焼ガスの0.01?10.0重量ppm」と概念的に下位のものに限定することを含むものである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を下位概念に変更したものといえるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とすることを含むものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物に記載された発明

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭57-90096号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「(6)作動中のジエツト・エンジンのタービン部の炭素-炭素複合材料より成る部材の表面を被覆するSiC保護コーテイングをエンジン燃料の燃焼中に該保護コーテイングを保持するに充分な量のテトラエチル・シランを前記エンジン燃料に加えてなる保護コーテイングの保持方法。」(第1ページ右下欄第第14ないし19行)

b)「本発明は、高温雰囲気に曝される物体に対し保護コーテイングの形成、保持及び補修又はこれらの処理のいずれかを行なう方法に関する。」(第2ページ左上欄第1ないし3行)

c)「エンジンの高温領域にある少なくとも一つの部品の表面に保護コーテイングを形成及び保持して、エンジンの作動中に部品が曝される雰囲気の成分との破壊が生ずる反応から部品を保護することが望まれる場合、本発明の方法によれば、保護コーテイングの形成及び保持を行なうのに必要とされるタイプの可溶性添加剤の有効量をエンジン燃料に添加する。
本明細書において使用されている添加剤の「有効量」なる語は、本発明の上記目的を達成するのに充分な燃料添加剤の略最少量を意味するものである。本発明の上記目的を達成するのに必要な量以上の添加剤を使用すると、エンジン内部にコーテイング物質の望ましくない付着が起る。添加剤の必要量、即ち、有効量は当業者が経験に基づいて定めることができる。」(第3ページ左上欄第8行ないし右上欄第3行)

d)「炭素又は黒鉛繊維と、フエノールポリマ、あるいは、コールタール、石油、ポリ塩化ビニル等から得られるピツチ等のポリマからなる混合物を熱処理することにより一般に得られる炭素-炭素複合材料は本技術分野において良く知られている。かかる複合材料は中性あるいは還元性雰囲気においては比較的高温に耐えるが、ジエツト・エンジン内で発生する温度では酸化により破損し始める。従つて、かかる現象に曝される炭素-炭素複合材料には、保護コーテイングを施こすことが必要となる。
炭化珪素(SiC)は、かなりの高温でも炭素-炭素複合材料を有効に保護することがわかつた。しかしながら、ジエツト・エンジンの高温領域においてみられる一層高い温度と雰囲気条件においては、SiCコーテイングは複合材料を破損せしめる程度まで肉厚が減少する現象がみられる。かかる現象は、SiO_(2)の揮散により生ずるもので、SiO_(2)は、燃焼生成物及び過剰の酸素に曝されるSiC層の表面酸化により、薄層となつて形成される。このSiO_(2)層は、この層が揮散し、次の新たなSiO_(2)層がSiCコーテイングの最外領域の酸化により形成されるまでは、その下にあるSiCコーテイングを保護する。この現象は継続して進行し、終にはSiCコーテイングと複合材料の破損を引き起す。
ジエツト・エンジンの作動中にエンジンのタービン部にあるSiCでコーテイングした炭素-炭素複合材料の素子を保護するには、ジエツト燃料に可溶な、テトラエチル・シランのような珪素含有化合物を燃料に添加してSiO_(2)層を保持することにより、部品のSiCコーテイングを保護する。ジエツト・エンジンの燃焼領域にある高温雰囲気は強い酸化状態にあるので、SiO_(2)がテトラエチル・シランから形成されて、SiCコーテイングの表面にある揮散するSiO_(2)を常に補充する。かかる添加剤の濃度は、SiO_(2)をゆっくりした速度で被着して、SiO_(2)を補充及び「補修」する作用を行なうことができるように調整される。(第3ページ右上欄第8行ないし右下欄第5行)

(2)上記(1)a)ないしd)の記載より分かること

イ)上記(1)a)及びd)の記載によれば、エンジン燃料の燃焼領域にある高温雰囲気中で、「SiCコーティング」及び「SiCコーティングを施された炭素-炭素複合材料」における「SiCコーティング」の表面酸化によって薄層となって形成されるSiO_(2)の揮散による「SiCコーティング」の肉厚の減少を、SiO_(2)を補充及び補修することにより低減することが分かる。

ロ)上記(1)a)及びd)の記載によれば、エンジン燃料の燃焼領域にある強い酸化状態の高温雰囲気中で、SiO_(2)がテトラエチル・シランから形成されて、SiCコーティングの表面にある揮散するSiO_(2)を常に補充することから、テトラエチル・シランが酸化されてSiO_(2)が形成されていることが明らかであるので、テトラエチル・シランは珪素(Si)をエンジン燃料の燃焼領域にある強い酸化状態の高温雰囲気中に供給するために用いられていることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明>

「エンジン燃料の燃焼領域にある高温雰囲気中でSiCコーティングおよびSiCコーティングを施された炭素-炭素複合材料のSiCコーティングの肉厚の減少を低減する方法であって、エンジンの作動中に珪素を燃料中に添加することにより、有効量の珪素を前記エンジン燃料の燃焼領域にある高温雰囲気中に供給する工程を含んでおり、
この珪素がテトラエチル・シランのような珪素含有化合物の形態で供給される、方法。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その機能又は技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「エンジン燃料の燃焼領域にある高温雰囲気中」、「SiCコーティング」、「SiCコーティングを施された炭素-炭素複合材料」、「SiCコーティングの肉厚の減少」、「珪素」、「供給」及び「テトラエチル・シランのような珪素含有化合物」は、それぞれ、本件補正発明における「燃焼ガス雰囲気中」、「ケイ素含有セラミック」、「ケイ素含有セラミック複合材」、「材料損失」、「ケイ素」、「注入」及び「元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種」に相当する。
また、刊行物に記載された発明における「有効量」は、「所定量」という限りにおいて、本件補正発明における「燃焼ガスの0.01?10.0重量ppm」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「燃焼ガス雰囲気中でケイ素含有セラミックおよびケイ素含有セラミック複合材の材料損失を低減する方法であって、エンジンの作動中に所定量のケイ素を燃焼ガス雰囲気中に注入する工程を含んでおり、このケイ素が元素状ケイ素、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物の少なくとも1種の形態で注入されることを特徴とする、方法。」の点で一致し、次の2点で相違する。

<相違点1>

ケイ素を燃焼ガス雰囲気中に注入する工程に関して、本件補正発明においては、「ケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入する」のに対して、刊行物に記載された発明においては、「珪素を燃料中に添加する」点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

所定量に関して、本件補正発明においては、「燃焼ガスの0.01?10.0重量ppm」であるのに対して、刊行物に記載された発明においては、「有効量」である点(以下、「相違点2」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

燃焼ガス雰囲気中への添加剤を添加する手法として、添加剤を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入することは、本件出願の優先日前に周知の手法(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭54-40807号公報[特に、第5ページ左下欄第3ないし7行、第7ページ左下欄第3行ないし右下欄第8行及び第14ページ右下欄第17行ないし第15ページ左上欄第7行]等参照。以下、「周知の手法」という。)である。
してみると、周知の手法を考慮すれば、刊行物に記載された発明における「珪素を燃料中に添加する」ことに代えて、「ケイ素を燃焼用空気中に注入する又は燃焼ガスに直接注入する」ことを採用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になしえたことである。

次に、上記相違点2について検討する。

一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮というべきであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値範囲に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていなければならないものと解するのが相当である。
一方、本件出願の明細書及び図面を検討しても、本件補正発明のように「燃焼ガスの0.01?10.0重量ppm」と数値限定したことの臨界的意義が明らかにされているとは認められない。
ところで、刊行物に記載された発明における「有効量」は、上記1.(1)c)及びd)並びに(2)イ)及びロ)によれば、「SiCコーティング」の肉厚の減少を、SiO_(2)を補充及び補修することにより低減するとの目的を達成するのに十分な燃料添加剤の略最少量を意味するものであり、有効量は当業者が経験に基づいて定めることができること、及び、添加剤の濃度は、SiO_(2)をゆっくりした速度で被着して、SiO_(2)を補充及び「補修」する作用を行うことができるように調整されることが刊行物1に開示されている。
してみると、刊行物に記載された発明における「有効量」については、上記の開示された事項等を考慮して、当業者が適宜設定し得るものであるから、刊行物に記載された発明に基いて上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になしえたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知の手法から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明及び周知の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成22年7月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし15に係る発明は、願書に添付して提出した明細書とみなす平成12年3月6日付けで提出された明細書の翻訳文、平成19年1月18日及び平成22年1月21日付けの手続補正により補正された明細書、並びに、願書に添付して提出した図面とみなす平成12年3月6日付けで提出された図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物(特開昭57-90096号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「燃焼ガスの0.01?10.0重量ppm」という発明特定事項を、上位概念である「有効量」に変更したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物に記載された発明及び周知の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明及び周知の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び周知の手法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-07-19 
結審通知日 2011-07-26 
審決日 2011-08-17 
出願番号 特願2000-8672(P2000-8672)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02C)
P 1 8・ 121- Z (F02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲葉 大紀  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 安井 寿儀
中川 隆司
発明の名称 燃焼ガス雰囲気中でシリカおよびケイ素含有材料の後退損失を防止する方法  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  
代理人 小倉 博  

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