ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06N 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06N |
---|---|
管理番号 | 1250431 |
審判番号 | 不服2010-10069 |
総通号数 | 147 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-05-12 |
確定日 | 2012-01-12 |
事件の表示 | 特願2003-374230「設備保守・操業知識伝承システムおよび方法、並びに知識ベース構築システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 2日出願公開、特開2005-141292〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成15年11月4日の出願であって,平成20年11月11日付けの拒絶理由の通知に対し,平成21年1月16日付けで手続補正がなされたが,平成22年2月5日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年5月12日付けで審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年3月24日付けで審尋がなされ,これに対して同年5月17日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成22年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年5月12日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の記載は,次のとおり補正された。 「【請求項1】 設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索して提示する設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容および両事象間の因果関係において原因側となる事象の内容を示す文字情報からなる原因事象情報と,結果側となる事象の内容を示す文字情報からなる結果事象情報とをリンク情報として蓄積する知識ベースと, 前記知識ベースに蓄積されている各リンク情報の原因事象情報および結果事象情報の内容を示すそれぞれの文字情報と前記入力事象の内容を示す文字情報との類似性に基づいて,前記各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する原因事象情報を持つ第1のリンク情報と,前記入力事象の内容と関連する結果事象情報を持つ第2のリンク情報とを検索する関連リンク検索手段と, この関連リンク検索手段で検索された前記第2のリンク情報に含まれる原因事象情報を前記入力事象の発生原因を示す原因事象として提示するとともに,前記関連リンク検索手段で検索された前記第1のリンク情報に含まれる結果事象情報を前記入力事象の事後に発生しうる結果事象として提示する検索結果提示手段と を備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項2】 請求項1記載の設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記リンク情報は,当該リンク情報の原因事象情報と結果事象情報との関連度合いを示す重み情報を有し, 前記検索結果提示手段は,前記関連リンク検索手段で検索された前記第1のリンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する第1のリンク情報に含まれる前記原因事象情報のみを提示し,前記関連リンク検索手段で検索された前記第2のリンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する第2のリンク情報に含まれる前記結果事象情報のみを提示する ことを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項3】 請求項2記載の設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記知識ベースに蓄積されている任意のリンク情報に含まれる原因事象情報と結果事象情報との関連性に対する評価情報を受け付ける評価受付手段と, この評価受付手段で受け付けた評価情報に基づき,前記知識ベースに蓄積されている当該リンク情報の重み情報を更新する知識ベース更新手段とをさらに備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項4】 設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索して提示する設備保守・操業知識伝承システムで用いられる設備保守・操業知識伝承方法において, 記憶装置が,前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容および両事象間の因果関係において原因側となる事象の内容を示す文字情報からなる原因事象情報と,結果側となる事象の内容を示す文字情報からなる結果事象情報とをリンク情報として知識ベースに蓄積する蓄積ステップと, 制御部の関連リンク検索手段が,前記知識ベースに蓄積されている各リンク情報の原因事象情報および結果事象情報の内容を示すそれぞれの文字情報と前記入力事象の内容を示す文字情報との類似性に基づいて,前記各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する原因事象情報を持つ第1のリンク情報と,前記入力事象の内容と関連する結果事象情報を持つ第2のリンク情報とを検索する検索ステップと, 前記制御部の検索結果提示手段が,前記検索ステップで検索された前記第2のリンク情報に含まれる原因事象情報を前記入力事象の発生原因を示す原因事象として提示するとともに,前記検索ステップで検索された前記第1のリンク情報に含まれる結果事象情報を前記入力事象の事後に発生しうる結果事象として提示する提示ステップと を備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。 【請求項5】 請求項4記載の設備保守・操業知識伝承方法において, 前記リンク情報は,当該リンク情報の原因事象情報と結果事象情報との関連度合いを示す重み情報を有し, 前記検索ステップは,前記検索ステップで検索された前記第1のリンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する第1のリンク情報に含まれる前記原因事象情報のみを提示し,前記検索ステップで検索された前記第2のリンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する第2のリンク情報に含まれる前記結果事象情報のみを提示する ことを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。 【請求項6】 請求項5記載の設備保守・操業知識伝承方法において, 前記制御部の評価受付手段が,前記知識ベースに蓄積されている任意のリンク情報に含まれる原因事象情報と結果事象情報との関連性に対する評価情報を受け付ける評価受付ステップと, 前記制御部の知識ベース更新手段が,前記評価受付ステップで受け付けた前記評価情報に基づき,前記知識ベースに蓄積されている当該リンク情報の重み情報を更新する更新ステップと をさらに備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。」 2 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の,平成21年1月16日付けの手続補正による特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索して提示する設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容および両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報,および両事象の関連度合いを示す情報をリンク情報として蓄積する知識ベースと, この知識ベースに蓄積されている各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する事象を含むリンク情報を関連リンク情報として検索する関連リンク検索手段と, この関連リンク検索手段で得られた関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報とを提示する検索結果提示手段とを備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項2】 請求項1記載の設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記リンク情報は,両事象間の関連度合いを示す重み情報を有し, 前記検索結果提示手段は,前記関連リンク検索手段で検索された関連リンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する関連リンク情報についてのみ提示することを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項3】 請求項2記載の設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記知識ベースに蓄積されている任意のリンク情報に含まれる両事象間の関連性に対する評価情報を受け付ける評価受付手段と, この評価受付手段で得られた評価情報に基づき,前記知識ベースに蓄積されている当該リンク情報の重み情報を更新する知識ベース更新手段とをさらに備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。 【請求項4】 設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索して提示する設備保守・操業知識伝承方法において, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容および両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報,および両事象の関連度合いを示す情報をリンク情報として知識ベースに蓄積するステップと, この知識ベースに蓄積されている各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する事象を含むリンク情報を関連リンク情報として検索するステップと, 得られた前記関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報とを提示するステップとを備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。 【請求項5】 請求項4記載の設備保守・操業知識伝承方法において, 前記リンク情報は,両事象間の関連度合いを示す重み情報を有し, 前記提示の際,前記関連リンク検索手段で検索された関連リンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する関連リンク情報についてのみ提示するステップをさらに備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。 【請求項6】 請求項5記載の設備保守・操業知識伝承方法において, 前記知識ベースに蓄積されている任意のリンク情報に含まれる両事象間の関連性に対する評価情報を受け付けるステップと, 得られた前記評価情報に基づき,前記知識ベースに蓄積されている当該リンク情報の重み情報を更新するステップとをさらに備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承方法。 【請求項7】 設備の保守・操業業務で生じた各種事象を予め蓄積し,新たに入力された入力事象に関連する関連事象を検索して提示する際に用いられる知識ベースを構築する知識ベース構築システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各種事象から,文字情報の類似性に基づき関連する2つの事象を関連事象として検索する関連事象検索部と, この関連事象検索部で得られた関連事象ごとに,両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報を因果関係情報として設定するとともに,および両事象に対する評価を示す評価情報に基づき両事象の関連度合いを示す重み情報を因果関係情報として設定する評価設定手段と, 前記関連事象ごとに得られた両事象の内容とその因果関係情報とからそれぞれリンク情報を生成し,前記関連情報のうち重み情報が所定構築基準を満足する関連情報のみを用いて前記知識ベースを構築する知識ベース構築手段とを備えることを特徴とする知識ベース構築システム。 【請求項8】 設備の保守・操業業務で生じた各種事象を予め蓄積し,新たに入力された入力事象に関連する関連事象を検索して提示する際に用いられる知識ベースを構築する知識ベース構築方法において, 前記設備の保守・操業業務で生じた各種事象から,文字情報の類似性に基づき関連する2つの事象を関連事象として検索するステップと, 得られた前記関連事象ごとに,両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報,および結果側となる事象を示す情報を因果関係情報として設定するとともに,両事象に対する評価を示す評価情報に基づき両事象の関連度合いを示す重み情報を因果関係情報として設定するステップと, 前記関連事象ごとに得られた両事象の内容とその因果関係情報とからそれぞれリンク情報を生成し,前記関連情報のうち重み情報が所定構築基準を満足する関連情報のみを用いて前記知識ベースを構築するステップとを備えることを特徴とする知識ベース構築方法。」 3 補正の目的の適否についての判断 本件補正は,補正前の請求項7及び8を削除するとともに,請求項1ないし6を上記のとおり補正するものであるところ,請求項1に係る補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報,および両事象の関連度合いを示す情報をリンク情報として蓄積する知識ベース」を,「原因側となる事象の内容を示す文字情報からなる原因事象情報と,結果側となる事象の内容を示す文字情報からなる結果事象情報とをリンク情報として蓄積する知識ベース」とすることにより,知識ベースに蓄積された「リンク情報」を特定していた構成から,「両事象の関連度合いを示す情報」との構成を削除する補正事項を含むものであり,当該補正事項は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,「平成18年改正前特許法」という。)17条の2第4項2号に規定する,特許請求の範囲の減縮(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的としたものとはいえない。請求項4に係る補正についても同様である。 また,本件補正が,同法17条の2第4項1号(請求項の削除),3号(誤記の訂正),4号(明りょうでない記載の釈明)に規定される事項を目的とするものでないことは明らかである。 4 むすび 以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第4項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成22年5月12日付けの手続補正は,上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成21年1月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された,上記第2の2のとおりのものであるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,再掲すれば,次のとおりである。 「設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索して提示する設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容および両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報,および両事象の関連度合いを示す情報をリンク情報として蓄積する知識ベースと, この知識ベースに蓄積されている各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する事象を含むリンク情報を関連リンク情報として検索する関連リンク検索手段と, この関連リンク検索手段で得られた関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報とを提示する検索結果提示手段とを備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。」 2 引用例 (1)原査定の拒絶の理由に引用された,特開平1-265301号公報(以下,「引用例1」という。以下,同様。)には,図面(第2図,第7図,第8図参照)とともに,次の事項が記載されている。 ア 「本発明は,プラントの運転方法に係り,特にプラントに異常が発生した時における適切な運転ガイドを提供できるプラントの運転方法に関するものである。」(1頁右下欄1行?4行) イ 「多くの検出器にて測定された原子炉水位17およびジェットポンプ流量等のプロセス量は,電子計算機18のプロセス入出力装置18Aを介して電子計算機18の中央処理装置18B内に入力される。電子計算機18はさらにメモリ(内部メモリおよび外部メモリ)18Cを有している。中央処理装置18Bにて処理された結果は,制御盤20に設けられたブラウン管(CRTという)21に表示される。」(2頁左下欄2行?11行) ウ 「本実施例は,知識工学の手法を利用して上記の原子炉プラントの異常時における運転ガイダンスを求め,そのガイダンスに応じて異常時における運転を実施し,原子炉プラントの異常事態を収束させようとするものである。このような運転方法について以下に説明する。電子計算機18のメモリ18Cは,原因・結果データベース22,推移予測データベース23,操作データベース24,詳細データベース25,事例データベース26および処理プログラム27を記憶している。」(2頁左下欄12行?右下欄1行) エ 「原因・結果データベース22は,原因とその原因から直接判定できる結果との組みあわせからなる因果関係を記憶しておくデータベースである。これは,一般に知識工学の研究者の間で,″ルール″と呼ばれているものに相当するデータの格納場所である。沸騰水型原子炉プラントにおける原因・結果データベース22の一例を第2図に示す。」(2頁右下欄2行?右下欄8行) オ 「処理プログラム27の概要を第7図および第8図に基づいて説明する。処理プログラム27は,異常判定部28,データ変換部30,状態把握部31,原因判定部32,最適操作判定部38,詳細化部42,類似事例検出部43およびガイダンス作成部44からなっている。原因判定部32は,原因列挙部33,状態把握部31,予測部34,無矛盾確認部35,原因判定部32の再帰呼出し部36および判定部37を有している。」(3頁左上欄14行?右上欄2行) カ 「データ変換部30は,測定されたプロセス量であるプラントデータを入力して各プラントデータの値について多数決等の論理判定を行なって1つに絞り,どのプラントデータであるかの識別子と,以下に示す処理においてのプラントデータの値を表わすプラント運転のガイダンスを求める装置(以下運転ガイド装置という)内での特別な値に変形した結果とを組み合わせて要素状態(プラントの1つの状態を示す項目)とし,これらの要素状態をあつめてプラント状態信号として出力する。」(3頁右上欄6行?15行) キ 「状態把握部31は,原因結果データベース22に収納されている各「原因」と入力したプラント状態信号とを比較し,このプラント状態信号に対応する「原因」に基づいて生じる「結果」を選択する。そして選択された結果を新しい要素状態として入力したプラント状態信号に付加する。」(3頁右上欄18行?左下欄3行) ク 「原因列挙部33は,入力したプラント状態信号の各要素状態の原因となりえる要素状態またはそれらの組み合わせを,原因・結果データベース22に収納されている「結果」を検索することにより求め,検索した「結果」を出力する。」(3頁左下欄5行?9行。なお,「検索した「結果」を出力」との記載は,下記コ等を参酌すれば,「検索した「原因」を出力」の誤記と認められる。) ケ 「入力されたプラントデータは,その後の中央処理装置18B内での処理が円滑に行えるようにアナログ・デジタル変換される。プラントデータの入力とともに中央処理装置18Bは,メモリ18C内の運転ガイド装置である処理プログラム27(第7図および第8図参照)を呼出し,その処理プログラム27に基づいて所定の処理を行う。異常判定部28は,入力したプラントデータのうちで異常な値を示すプラントデータの有無を判断する。・・・異常な値を示すプラントデータが存在する場合は,処理プログラム27のデータ変換部30以後の処理が実行される。」(4頁左下欄15行?右下欄10行) コ 「プラント状態信号47は,原因判定部32内の原因列挙部33にまず入力される。原因列挙部33は,プラント状態信号47の各要素状態を「結果」とし,原因・結果データベース22(第2図)の結果部からプラント状態信号47の要素状態を検索し,この要素状態に対応する原因部の項目をプラント状態信号47に付加する。すなわち,プラント状態信号47の要素状態は,「原子炉水位=L7」および「ジェットポンプ流量減」である。要素状態が2個以上ある場合は,重要度の高い要素状態について検索を行う。要素状態の重要度については,予め定められている。・・・原因列挙部33は,第22A図および第22B図に示す「ボイド増」および「給水流量増」を付加したプラント状態信号48Aおよび48Bを出力する。 状態把握部31は,プラント状態信号48Aおよび48Bを入力することによって「ボイド増」および「給水流量増」の項目を原因・結果データベース22の原因部より検索し,それに対応する結果部の結果の項目「原子炉水位上昇」を求める。これを付加した各々のプラント状態信号49A,49Bを出力する。」(5頁右上欄4行?左下欄15行) 上記キないしコの記載及び第2図から,原因列挙部は,入力したプラント状態信号の各要素状態を「結果」として原因・結果データベースの結果部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する「原因」を出力するものであり,また,状態把握部は,入力したプラント状態信号の各要素状態を「原因」として原因・結果データベースの原因部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する「結果」を出力するものであるということができるから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 「知識工学の手法を利用して原子炉プラントの異常時における運転ガイダンスを求め,そのガイダンスに応じて異常時における運転を実施し,原子炉プラントの異常事態を収束させるためのシステムにおいて, 電子計算機は,検出器で測定されたプロセス量(プラントデータ)を入力するプロセス入出力装置,原因・結果データベース及び処理プログラムを記憶したメモリ,及び中央処理装置で処理された結果を表示するブラウン管(CRT)を備え, 原因・結果データベースは,原因とその原因から直接判定できる結果との組みあわせからなる因果関係を記憶しておくデータベースであり, 処理プログラムは,入力したプラントデータのうち異常な値を示すプラントデータに基づいて,プラント状態信号を出力するデータ変換部と,入力したプラント状態信号の各要素状態を『結果』として原因・結果データベースの結果部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『原因』を出力する原因列挙部と,入力したプラント状態信号の各要素状態を『原因』として原因・結果データベースの原因部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『結果』を出力する状態把握部とを備え, ここで,原因列挙部は,プラント状態信号の要素状態が2個以上ある場合は,予め定められた重要度の高い要素状態について検索を行うものであるシステム。」 (2)原査定の拒絶の理由に引用された,特開平6-44074号公報(引用例2)には,次の事項が記載されている。 ・「本発明は,知識ベースおよび推論方法および説明文生成方法に関し,さらに詳しくは,因果関係の知識ベースおよび因果関係の知識ベースを用いた推論方法および推論過程を示す説明文生成方法に関する。」(段落【0001】) ・「本発明の知識ベースでは,事象情報を表わす複数のノードと,それらノードの因果関係を定義したリンクとからなるネットワーク構造により知識を構成する。この知識ベースは因果関係を表現するから推論に用いることが出来る。」(段落【0012】) ・「ここに示すように,リンクは,リンク名称と,入力ノード名称と,出力ノード名称と,重みと,評価値と,入力ノード→出力ノード間の因果関係を示す関数(数式・ルール・対応表)を蓄積する。・・・評価値は,推論の過程でリンクの因果関係の強さを基に決定する変数であり,リンクの因果関係が強いほど大きな値を持つ。」(段落【0019】) ・「ステップ709では,複数の入力リンクが競合を起こすか判定する。・・・競合を起こす場合は,ステップ710に進む。」(段落【0032】) ・「ステップ710では,第1に評価値の最も高い入力リンク,第2に重みの最も大きい入力リンクおよびその入力リンクと連結したノードを仮説として選択する。」(段落【0033】) 3 対比 (1)本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明は,「知識工学の手法を利用して原子炉プラントの異常時における運転ガイダンスを求め,そのガイダンスに応じて異常時における運転を実施し,原子炉プラントの異常事態を収束させるためのシステム」であって,入力したプラントデータのうち異常な値を示すプラントデータ,すなわち入力事象から得られたプラント状態信号に基づいて,「原因・結果データベース」を検索して運転ガイダンスを求めるものであるから,引用発明の「システム」と本願発明とは,「設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索する設備保守・操業知識伝承システム」である点で共通する。 イ 引用発明の「原因・結果データベース」は,原因とその原因から直接判定できる結果との組みあわせからなる因果関係を記憶しておくデータベースであって,第2図を参照すれば,原因側となる事象を示す情報,結果側となる事象を示す情報をリンクさせたものであるから,本願発明に対応させれば,「前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容及び両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報及び結果側となる事象を示す情報をリンク情報として蓄積する知識ベース」ということができる。 ウ 引用発明の「処理プログラム」は,「入力したプラント状態信号の各要素状態を『結果』として原因・結果データベースの結果部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『原因』を出力する原因列挙部と,入力したプラント状態信号の各要素状態を『原因』として原因・結果データベースの原因部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『結果』を出力する状態把握部と」を備え,「原因列挙部」及び「状態把握部」は,その機能からみて,本願発明の「この知識ベースに蓄積されている各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する事象を含むリンク情報を関連リンク情報として検索する関連リンク検索手段」に相当する。 エ 引用発明の「原因列挙部」及び「状態把握部」は,それぞれ検索結果を出力しており,他方,本願発明の「検索結果提示手段」は,「関連リンク検索手段で得られた関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報とを提示する」ものであり,いずれも「検索結果を出力」することから,両者は,「この関連リンク検索手段で得られた検索結果を出力する手段」を備える点で共通する。 (2)以上のことから,本願発明と引用発明とは, 「設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索する設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容及び両事象間の因果関係において原因側となる事象を示す情報及び結果側となる事象を示す情報をリンク情報として蓄積する知識ベースと, この知識ベースに蓄積されている各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する事象を含むリンク情報を関連リンク情報として検索する関連リンク検索手段と, この関連リンク検索手段で得られた検索結果を出力する手段と を備えることを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。」 である点で一致し,以下の点で相違する。 【相違点1】 本願発明の「知識ベース」は,「リンク情報」として,「両事象の関連度合いを示す情報」を蓄積しているのに対し,引用発明の「原因・結果データベース」(知識ベース)は,対応する構成を有しない点。 【相違点2】 本願発明は,「関連リンク検索手段で得られた関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報とを提示する検索結果提示手段」を備え,検索結果を「提示する」ものであるのに対し,引用発明は,「関連リンク検索手段で得られた検索結果を出力する手段」を備えるものの,出力する検索結果である情報の内容及び当該情報を提示することについて記載されていない点。 4 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について ア 相違点1に係る「両事象の関連度合いを示す情報」に関連して,本願の特許請求の範囲の請求項2には,「請求項1記載の設備保守・操業知識伝承システムにおいて,前記リンク情報は,両事象間の関連度合いを示す重み情報を有し,前記検索結果提示手段は,前記関連リンク検索手段で検索された関連リンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する関連リンク情報についてのみ提示することを特徴とする設備保守・操業知識伝承システム。」と記載されており,また,明細書には,「この際,リンク情報に,両事象間の関連度合いを示す重み情報を設け,検索結果提示手段は,関連リンク検索手段で検索された関連リンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する関連リンク情報についてのみ提示するようにしてもよい。」(段落【0008】),「また,リンク情報に,両事象間の関連度合いを示す重み情報を設け,検索結果提示手段15Bで,関連リンク検索手段15Aにより検索された関連リンク情報のうち,当該リンク情報の重み情報が所定の提示基準を満足する関連リンク情報についてのみ提示するようにしてもよく,入力事象と所望の関連度合いを有する事象のみを選択的に提示することができる。」(段落【0031】)と記載されていることから,本願発明の「両事象の関連度合いを示す情報」は,「重み情報」を含み,検索された複数の関連リンク情報から1つの関連リンク情報を選択するための情報と解される。 イ 引用発明の「原因列挙部」は,「プラント状態信号の要素状態が2個以上ある場合は,予め定められた重要度の高い要素状態について検索を行うもの」であることから,引用例1には,原因・結果データベースに,複数の検索結果から検索結果を選択するための情報を蓄積することが示唆されている。 一方,原査定の拒絶の理由に引用された,特開平6-44074号公報(引用例2)には,上記2(2)の記載から,因果関係の知識ベースにおいて,リンクに,「リンクの因果関係の強さを基に決定する変数」である「評価値」を蓄積し,複数の入力リンクが競合を起こす場合,「評価値の最も高い入力リンク」を選択する技術,換言すれば,検索された複数の関連リンク情報から1つの関連リンク情報を選択するために,「リンク情報」として「両事象の関連度合いを示す情報」を蓄積する技術が開示されており,ここで,「評価値」は,その目的からして,本願発明の「両事象の関連度合いを示す情報」である「重み情報」に相当する。 そうすると,引用発明において,複数の検索結果から検索結果を選択するための情報として,「両事象の関連度合いを示す情報」である「評価値」をリンク情報として蓄積する引用例2に記載された技術を採用し,相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。 (2)相違点2について ア 相違点2に係る「提示」に関連して,本願の明細書の記載を参照すれば,「検索結果提示手段15Bは,関連リンク検索手段15Aで得られた関連リンク情報のうち,当該関連リンク情報の重み情報に基づき予め記憶部13に設定されている提示基準情報13Cの基準を満たすものを選択し,選択した関連リンク情報に含まれる事象の内容および入力事象との因果関係を,画面表示部11への表示または記憶部13へのファイル出力などで提示する。」(段落【0020】)と記載されていることから,本願発明の「提示」とは,画面表示部への表示又は記憶部へのファイル出力を含むものであることが理解できる。 イ 引用例1の記載,及び第2図に示された「原因・結果データベース」の内容を総合すれば,引用発明は,「原因列挙部」及び「状態把握部」における検索結果として,「関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報」に係る情報を有することは明らかであり,また,電子計算機の中央処理装置で処理された結果を表示するブラウン管(CRT)及びメモリを備える。 一般に,システムが有する情報を,画面表示部への表示又は記憶部へのファイル出力等により提示することは,周知の技術手段であり,その際,提示する情報は,当業者が適宜選択できる事項であるから,引用発明において,「原因列挙部」及び「状態把握部」で得られた検索結果,すなわち,「関連リンク情報に含まれる事象と因果関係情報」を,ブラウン管(CRT)等の画面表示,又はメモリへのファイル出力により「提示」する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。 (3)そして,これらの相違点に係る構成を総合しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 5 審尋に対する回答書について 上記第2(平成22年5月12日付けの手続補正についての補正却下の決定)に関連して,請求人は,平成23年5月17日付けの回答書において,「両事象の関連度合いを示す情報」との発明特定事項は,平成22年5月12日付けの手続補正の請求項1,4に記載すべきところ,錯誤により欠落したものである旨釈明し,上記発明特定事項を含む補正案を提示している。 しかしながら,仮に,特許請求の範囲の各請求項が回答書の補正案のとおり補正されたとしても,補正案の請求項1に係る発明(以下,「補正案発明」という。)は,以下のとおり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,審決の結論に影響を及ぼすものではない。 [補正案発明について] (1)補正案発明と引用発明とを対比すれば,上記3(1)ア,イに加え,引用発明における,「入力したプラント状態信号の各要素状態を『結果』として原因・結果データベースの結果部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『原因』を出力する原因列挙部と,入力したプラント状態信号の各要素状態を『原因』として原因・結果データベースの原因部から要素状態を検索し,プラント状態信号に対応する『結果』を出力する状態把握部と」からなる構成は,補正案発明に対応させれば,「前記各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する原因事象情報を持つ第1のリンク情報と,前記入力事象の内容と関連する結果事象情報を持つ第2のリンク情報とを検索する関連リンク検索手段と,この関連リンク検索手段で検索された前記第2のリンク情報に含まれる原因事象情報を前記入力事象の発生原因を示す原因事象として出力するとともに,前記関連リンク検索手段で検索された前記第1のリンク情報に含まれる結果事象情報を前記入力事象の事後に発生しうる結果事象として出力する手段」ということができることから,両者は,次の一致点及び相違点を有する。 【一致点】 「設備の保守・操業業務で生じた複数の事象から,新たに入力された入力事象に関連する事象を検索する設備保守・操業知識伝承システムにおいて, 前記設備の保守・操業業務で生じた各事象のうち,関連する2つの事象ごとに,両事象の内容及び両事象間の因果関係において原因側となる事象の内容を示す原因事象情報と,結果側となる事象の内容を示す結果事象情報とをリンク情報として蓄積する知識ベースと, 前記知識ベースに蓄積されている各リンク情報の原因事象情報及び結果事象情報の内容を示す情報と前記入力事象の内容を示す情報に基づいて,前記各リンク情報のうち,前記入力事象の内容と関連する原因事象情報を持つ第1のリンク情報と,前記入力事象の内容と関連する結果事象情報を持つ第2のリンク情報とを検索する関連リンク検索手段と, この関連リンク検索手段で検索された前記第2のリンク情報に含まれる原因事象情報を前記入力事象の発生原因を示す原因事象として出力するとともに,前記関連リンク検索手段で検索された前記第1のリンク情報に含まれる結果事象情報を前記入力事象の事後に発生しうる結果事象として出力する検索結果提示手段と を備える設備保守・操業知識伝承システム。」 【相違点】 上記相違点1,相違点2に加え,補正案発明は,原因事象情報及び結果事象情報が「文字情報」からなり,「文字情報の類似性」に基づいてリンク情報を検索するのに対し,引用発明には,これらの構成が特定されていない点(相違点3)。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1及び2について 上記4で判断したとおりである。 イ 相違点3について 引用例1には,第2図に示された原因・結果データベースの結果部及び原因部の項目が文字情報で記載されおり,また,プラント状態信号について,「第20図においては,普通の文字で内容を示すが,実際の場合は論理演算の容易な,EBCDIC文字コード,整数値であってもよい。」(5頁左上欄5行?7行)との記載がある。また,「文字情報の類似性」に基づいてデータベースを検索する技術は,例えば,特開2000-276487号公報(段落【0032】,【0033】,【0040】等参照。)に記載されているように周知である。 これらのことから,引用発明において,原因事象情報及び結果事象情報を「文字情報」とし,「文字情報の類似性」に基づいてリンク情報を検索する構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。また,上記構成としたことによる作用効果も,予想し得る範囲内のものである。 (3)まとめ したがって,補正案発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 6 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用例1及び引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2011-11-09 |
結審通知日 | 2011-11-15 |
審決日 | 2011-11-28 |
出願番号 | 特願2003-374230(P2003-374230) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(G06N)
P 1 8・ 121- Z (G06N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北川 純次 |
特許庁審判長 |
西山 昇 |
特許庁審判官 |
田中 秀人 石井 茂和 |
発明の名称 | 設備保守・操業知識伝承システムおよび方法、並びに知識ベース構築システムおよび方法 |
代理人 | 山川 茂樹 |
代理人 | 黒川 弘朗 |
代理人 | 西山 修 |
代理人 | 山川 政樹 |