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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1250989
審判番号 不服2010-28565  
総通号数 147 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-17 
確定日 2012-01-26 
事件の表示 平成11年特許願第289715号「ハニカム構造体」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月15日出願公開、特開2000-225340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年10月12日(特許法第41条に基づく国内優先権主張 平成10年11月30日)の出願であって,平成20年3月18日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月25日)、同年5月20日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年7月17日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年同月28日)、同年9月22日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成22年9月17日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年同月28日)、これに対して、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1-3に係る発明は、平成21年9月22日付けの明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「SiO_(2:)45?55重量%、Al_(2)O_(3):33?42重量%、MgO:12?18重量%の化学組成よりなるコージェライトを主成分とする隔壁をハニカム状に設けて多数のセルを形成してなるハニカム構造体において、該ハニカム構造体は、上記隔壁の表面に触媒が担持された触媒担体であり、上記セルの密度は600メッシュ以上であり、かつ、上記隔壁の気孔率は30%以上であり、
上記隔壁の内部に形成された細孔の平均径は、1?10μmであり、
上記隔壁の厚さは80μm以下であることを特徴とするハニカム構造体。」

3.原査定の理由
原査定には「この出願については、平成21年7月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」と記載され、上記理由は全請求項にかかる発明に対して引用文献1?6の記載に基づき特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、上記原査定の「備考」欄には次のように記載されている。
「請求項1-3
引用文献3,5には、本願請求項1で特定した セル密度 及び 隔壁の厚さを満たす、触媒を担持するためのハニカム構造体が記載されている(引用文献3:表2,引用文献5:532頁、「4.コージェライトハニカムの性能向上」の欄、図4 )。
ここで出願人の主張するように、上記各文献には、上記ハニカム構造体の気孔率についての記載はない。
しかし、上記ハニカム構造体において、触媒の担持量を確保することは当然の課題であり(引用文献1:請求項4,14頁15-17行,図7、引用文献5:531頁左欄15-24行)、気孔率が高い方が触媒の担持量を確保できる。
そうすると、上記ハニカム構造体において、気孔率を30%以上の範囲に設定することは、当業者であれば容易になし得ることである。
次に、本願発明で特定された隔壁の内部に形成された細孔の平均径、及び隔壁の表面の平均粗さについても、コージェライトハニカム構造体において周知の範囲のものであり、触媒の担持のしやすさや、隔壁の強度等を考慮して決定すればよい程度のものである。
そして、本願明細書を参照しても、隔壁の内部に形成された細孔の平均径、及び隔壁の表面の平均粗さに臨界的意義は見出せない。」
以上を総合すると、原査定では引用文献3または引用文献5を主たる引用例とし、他の文献を副引用例として、それらの記載事項から本願発明は容易想到であるので特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるといえる。
そこで、以下で当該判断の適否について検討する。

4.刊行物の記載
4-1.刊行物1
原査定の拒絶の理由(平成21年7月17日付け拒絶理由通知書記載)に引用文献5として引用された、本願の優先権主張日前である平成10年7月1日に頒布された刊行物である梅原一彦、排ガス浄化用多孔性コージェライトハニカム、セラミックス、1998年7月、第33巻第7号、530-533頁(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。
(刊1-ア)「自動車用ハニカムセラミックスは幾何学的にハニカム構造という多孔体を構成しているのに加えて、ハニカム構造を構成する壁が多孔質であるという二重の多孔性を備えている。その機能はハニカム構造の表面に触媒を保持して排ガスと効果的に接触させることにある。」(530頁右欄下から21?16行)
(刊1-イ)「ハニカム構造体の材質としては、自動車排ガスの高温に耐えるために高融点、激しい温度変化に耐えるために低熱膨張率が求められる。表面に塗布した触媒層を前記の過酷な条件下で保持するためにハニカム構造体は多孔性であることが必要である。自動車ハニカムセラミックスの材質として、材質の安定性や原料の入手面も考慮してコージェライトが選択された。」(530頁右欄下から4行?531頁左欄4行)
(刊1-ウ)「触媒層は大きな表面積を持ったウォッシュコートとこの中に細かく分散した触媒金属により構成されている。ウォッシュコートは大きな比表面積を有するガンマアルミナとその安定化及び酸素貯蔵のためのセリア等より成り、触媒金属はPt・Rh・Pd等の貴金属より成っている。貴金属を分散させたウォッシュコート層は、ウォッシュコートがハニカム壁面の表面気孔に入り込むことによる機械的なアンカー効果によりハニカム壁面に固定されている。」(531頁左欄5?14行)
(刊1-エ)「コージェライトハニカムの気孔率は自動車排ガス触媒用ではウォッシュコート層の塗布のしやすさとハニカム構造体の機械的強度とに関連している。一般に気孔率が高い方が塗布しやすいが、機械的強度は低下する。後に述べるフィルターとしての用途でも気孔率が高い方が通気抵抗は低いが、触媒用と同じく機械的強度の制約を受ける。コージェライトハニカムの気孔率はその目的に合わせて20?60%の範囲に設定されている。」(531頁左欄15?24行)
(刊1-オ)「4.コージェライトハニカムの性能向上
ハニカム構造は多数の互いに並行な通気孔を有するため、排ガスと触媒の接触面積(幾何学的表面積)を大きく取りつつ通気抵抗(圧力損失)を小さくしうる特長を備えており、自動車排ガス触媒に適している。通気孔を細かくすれば幾何学的表面が増大し機械的強度も向上するが圧力損失も増大する。通気孔の隔壁を薄くすれば熱容量及び圧力損失が低減するが機械的強度も低下する。通気孔の断面形状(セル形状)も幾何学的表面積・圧力損失・機械的強度を決定する重要な要素である。上記各種の特性のバランス上、現在では四角形のセル形状でセル密度(通気孔の細かさ)が400セル(1平方インチに400個のセル)、壁厚が公称6ミル(150μm)の構造が標準となっている。気孔率は35%が標準である。
エンジン始動直後から触媒が機能を開始するためにはコージェライトハニカムの熱容量を極力減らして触媒がわずかな熱量でも昇温しうるようにする必要がある。また、触媒性能の向上のためには排ガスと触媒の接触面積(幾何学的表面積)を増すことが有効である。これらの目的で従来の標準壁厚6ミルを低減した4ミル(100μm)薄壁ハニカムが開発された。セル密度は400セルと600セルの2種類があり、標準の6ミル/400セルと比較して各々25%、10%の熱容量低減が得られた。4ミル/600セルはセル密度増大のため標準の6ミル/400セルより幾何学的表面積は25%拡大されており、大幅な触媒性能の向上が図られた。今後の排ガス規制強化に対応するためには、コージェライトハニカムにも更なる性能向上が求められ、いっそうの薄壁化・高セル密度化が追求されている。壁厚2ミル(50μm)・セル密度900セルまでの触媒性能の調査の結果、触媒性能を大幅に向上できる見通しが得られている。」(532頁左欄12行?同頁右欄下から14行)

4-2.刊行物2
原査定の拒絶の理由(平成21年7月17日付け拒絶理由通知書記載)に引用文献2として引用された、本願の優先権主張日前である平成5年3月2日に頒布された刊行物である特開平5-51248号公報(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。
(刊2-ア)「【産業上の利用分野】
本発明は熱膨脹係数(CTE)が低いコージーライトボディに関する。また、本発明は、原料の少なくとも一部がアルミン酸マグネシウムスピネル(以下、スピネルと呼ぶ)である原料組成物を使用するボディの製造方法にも関する。詳しくは、このボディは押出しにより形成される。より詳しくはこのボディはハニカム構造を有する。ハニカム構造を有するコージーライトボディは自動車用触媒式転化器のための基材として特に好適であるが、その用途に限定されるものではない。
【従来の技術】
押出し加工したコージーライトハニカムは、自動車の触媒式転化器用触媒活性成分を支持するための基材として製造されている。」(【0001】、【0002】)
(刊2-イ)「ハニカムボディは、薄い多孔質の交差壁により形成された開放セルを含む。開放セル全体は、本体の形状を限定する外壁により包まれている。セルは通常、本体の長さに沿い、その全長に渡って伸びている。セルの数または密度は任意である。しかし、一般的には、ハニカムは約7.75セル/cm^(2)?約400セル/cm^(2)以上で、壁厚は約0.05mm?約1.27mmであり、用途により異なる。」(【0010】)
(刊2-ウ)「本発明の原料は、実質的に約11.5?約16.5重量%のMgO、約33.0?約41.0重量%のAl_(2)O_(3) 、および約46.5?約53重量%のSiO_(2) からなる公称組成物を形成するように選択する。この組成は図1のFGHIJK区域で示す。好ましい公称組成物の一つは、実質的に約12.5?約15.5重量%のMgO、約34.2?約39.5重量%のAl_(2)O_(3) 、および約48.0?約51.6重量%のSiO_(2) からなる。この好ましい組成を図1のABCDE区域で示す。・・・
得られた焼成ボディは少なくとも約90重量%がコージーライトである。・・・
このボディの気孔率は約35%未満である。」(【0012】?【0026】?【0029】)
(刊2-エ)「【実施例】・・・
コージーライトハニカムを形成するために、原料としてスピネル、シリカ、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムの各成分からなる乾燥粉末の、幾つかの1000gバッチ材料を調製・・・得られた混合物を・・・押出し機を使用して、約62セル/cm^(2) および0.15mm壁厚の構造を有する1インチ直径の未焼成ハニカムを押し出す。乾燥後・・・焼成したボディの特性を、各組成物に対して表1に示す。」(【0030】?【0031】)として、実施例として焼成された約62セル/cm^(2) および0.15mm壁厚のコージーライトハニカムの特性を示す「表1」(【0032】)の「バッチ材料番号」が「組成1」のものは、「気孔率31.7%」「細孔径5.0μm」であることが記載されている。

4-3.刊行物3
原査定の拒絶の理由(平成21年7月17日付け拒絶理由通知書記載)に引用文献3として引用された、本願の優先権主張日前である平成10年10月6日に頒布された刊行物である特開平10-264274号公報(以下、「刊行物3」という。)には次の事項が記載されている。
(刊3-ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の内燃機関から排出される排気ガスに含まれる有害成分、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物を浄化する触媒・・・に利用されるセラミックハニカム構造体に関し、特に隔壁の薄いセラミックハニカム構造体に関するものである。」(【0001】)
(刊3-イ)「次に、現在実用化されているセラミック材料は、耐熱性および耐熱衝撃性の点からコージェライトが選定されている。・・・」(【0022】)
(刊3-ウ)「【実施例】以下、実際の例について説明する。まず、本発明例および比較例として、コージェライト材料を押し出し成形し焼成して得られた図1(A)に示す形状で直径:106mm、全長:150mmのセラミックハニカム構造体で、以下の表1および表2に示すセル(貫通孔)数、隔壁厚、外壁厚を有するセラミックハニカム構造体を準備した。・・・」(【0024】)として、【表2】(【0031】)には「本発明11?14」である「セル数930[k cpsm]」「中央部隔壁厚0.08mm」のものと、同じく「本発明15?18」である「セル数1395[k cpsm]」「中央部隔壁厚0.08mm」のものが記載されている。
ここで、次のように単位が換算される。
1[k cpsm]=1[キロ セル/m^(2) ]=0.645[セル/in^(2)]
930[k cpsm]=600[セル/in^(2)]
1395[k cpsm]=900[セル/in^(2)]

5.当審の判断
5-1.引用発明の認定
刊行物1の記載事項について検討する。
(1)刊行物1の記載事項(刊1-ア)には「自動車用ハニカムセラミックス」の「ハニカム構造」の「機能」として「ハニカム構造の表面に触媒を保持して排ガスと効果的に接触させること」が記載され、同(刊1-イ)には「ハニカム構造体」の「材質」として「自動車排ガスの高温に耐えるために高融点、激しい温度変化に耐えるために低熱膨張率」が求められ、「表面に塗布した触媒層を前記の過酷な条件下で保持する」ために「材質の安定性や原料の入手面も考慮」して「コージェライト」が選択されることが記載されており、他の材質では「材質の安定性や原料の入手面」も含めてそのような機能を発揮し得ないであろうから、少なくとも「コージェライト」を主成分とする「ハニカム構造」が開示されているということができる。
そして、「ハニカム構造は多数の互いに並行な通気孔を有」し、「通気孔の隔壁」、「通気孔の断面形状(セル形状)」とあることから、上記「ハニカム構造体」は「隔壁をハニカム状に設けて多数のセルを形成してなる」ものということができる。
さらに、「ハニカム構造体」は「ハニカム構造の表面に触媒を保持して排ガスと効果的に接触させる」ものであり、「表面に塗布した触媒層を前記の過酷な条件下で保持する」ものであるから、「ハニカム構造体」は「触媒担体」といえるものであり、「ハニカム構造の表面」は、「ハニカム構造」を形成する「通気孔の隔壁」の表面であるといえるので、「ハニカム構造体は、隔壁の表面に触媒が担持された触媒担体」ということができる。
(2)同(刊1-エ)には「コージェライトハニカムの気孔率」は「自動車排ガス触媒用ではウォッシュコート層の塗布のしやすさとハニカム構造体の機械的強度」とに関連し、「気孔率が高い方が塗布しやすいが、機械的強度は低下する」ことが示され、目的に合わせて「20?60%の範囲」に設定されていることが記載されている。
(3)同(刊1-オ)には、
i)「通気孔を細かくすれば幾何学的表面が増大し機械的強度も向上するが圧力損失も増大」するが、「触媒性能の向上のためには排ガスと触媒の接触面積(幾何学的表面積)を増す」必要のあること、
ii)「通気孔の隔壁を薄くすれば熱容量及び圧力損失が低減するが機械的強度も低下」するが、「エンジン始動直後から触媒が機能を開始するためにはコージェライトハニカムの熱容量を極力減らして触媒がわずかな熱量でも昇温しうるようにする必要」のあることから、
「薄壁化・高セル密度化」が追求され、「標準」の「壁厚」が「公称で6ミル(150μm)」、「セル密度(通気孔の細かさ)」が「400セル(1平方インチに400個のセル)」、「気孔率は35%が標準」のものから、「4ミル(100μm)/600セル」のものが開発され、この開発されたものの「触媒性能」を「大幅に向上できる見通し」であることが記載されており、これらのことから、「壁厚」が「100μm以下」であって「50μm」まで、「セル密度」が「600セル」以上であって「900セル」までの「コージェライトハニカム」が開示されているということができる。
なお、上記のような「コージェライトハニカム」が実在することについては、例えば刊行物3の記載事項(刊3-ア)?(刊3-ウ)に、「自動車等の内燃機関から排出される排気ガス」を「浄化する触媒」の担持に利用される「コージェライト」でなる「ハニカム構造体」の構造として、セル密度 600[セル/in^(2)]=600[メッシュ]、隔壁厚 0.08mm=80μmのもの、900[セル/in^(2)]=900[メッシュ]、隔壁厚 0.08mm=80μmのものが実用されることが記載されていることからも裏付けられる。
(4)上記(1)-(3)の検討結果を総合し、本願発明の記載ぶりに則して表現すれば、刊行物1には、
「コージェライトを主成分とする隔壁をハニカム状に設けて多数のセルを形成してなるハニカム構造体において、
該ハニカム構造体は、上記隔壁の表面に触媒が担持された触媒担体であり、
上記セル密度は600?900セルであり、かつ、上記隔壁の気孔率は20?60%であり、
上記隔壁の厚さは50?100μmであることを特徴とするハニカム構造体。」(以下、「引用発明」という。)の発明が記載されているといえる。

5-2.本願発明と引用発明との対比
(1)本願明細書には「600メッシュ(個/in^(2))以上の高メッシュハニカム構造体」(【0004】)とあり、刊行物1の記載事項(刊1-オ)には「400セル(1平方インチに400個のセル)」とあることから、引用発明の単位としての「セル」と本願発明の単位としての「メッシュ」は共に「1平方インチ当たりのセル(またはメッシュ)数」を指示する同一の単位といえる。
この「1平方インチ当たりのセル(またはメッシュ)数」について、本願発明では「600メッシュ以上」であるのに対して、引用発明では「600?900セル(メッシュ)」であり、両者は「600?900メッシュ」という点で共通する。
(2)「隔壁の気孔率」について、本願発明では「30%以上」であるのに対して、引用発明では「20?60%」であり、引用発明の数値は本願発明の数値と重複するもので、両者は「30?60%」という点で共通する。
(3)「隔壁の厚さ」について、本願発明では「80μm以下」であるのに対して、引用発明では「50?100μm」であり、引用発明の数値は本願発明の数値と重複するもので、両者は「50?80μm」という点で共通する。
(4)すると、本願発明と引用発明とは
「コージェライトを主成分とする隔壁をハニカム状に設けて多数のセルを形成してなるハニカム構造体において、
該ハニカム構造体は、上記隔壁の表面に触媒が担持された触媒担体であり、
上記セル密度は600?900メッシュであり、かつ、上記隔壁の気孔率は30?60%であり、
上記隔壁の厚さは50?80μmであるハニカム構造体。」の点(一致点)で一致し、次の点で両者は相違する。

(相違点1)本願発明の「コージェライト」は「SiO_(2):45?55重量%、Al_(2)O_(3):33?42重量%、MgO:12?18重量%の化学組成よりなる」のに対して、引用発明の「コージェライト」はかかる特定がなされていない点。
(相違点2)本願発明では「隔壁の内部に形成された細孔の平均径は、1?10μm」であるのに対して、引用発明ではかかる特定はなされていない点

5-3.相違点の検討
5-3-1.相違点1について
引用発明は「コージェライトを主成分」とするものであるが、「コージェライト」の成分組成はよく知られており、例えば刊行物2の記載事項(刊2-ア)、同(刊2-ウ)に「熱膨脹係数(CTE)が低」い「コージーライト」として、「本発明の原料は、実質的に約11.5?約16.5重量%のMgO、約33.0?約41.0重量%のAl_(2)O_(3) 、および約46.5?約53重量%のSiO_(2) からなる公称組成物を形成するように選択する・・・得られた焼成ボディは少なくとも約90重量%がコージーライトである」と記載されており、これは本願発明の「コージェライト」の組成に相当するものである。
よって、引用発明において刊行物2に代表される周知技術を勘案することで、相違点1にかかる本願発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

5-3-2.相違点2について
(1)本願発明の「隔壁の内部に形成された細孔の平均径は、1?10μm」との数値限定は、「上記隔壁の内部に形成された細孔の平均径は,1?10μmであることが好ましい。細孔の平均径が1μm未満の場合には上記アルミナ粉が細孔に入らないため密着力が低下するという問題があり,一方,10μmを超える場合には隔壁の強度が低下するという問題がある。」(【0017】)ことを理由とするものである。
ここで、「触媒成分として用いられるアルミナ粉の粒径が1?5μmの範囲内に多く分布する」(【0016】)とあることから、「アルミナ粉」は「触媒成分」ということができる。
すると、本願発明では、「隔壁の内部に形成された細孔」の大きさと触媒成分の大きさとのかねあいで、「隔壁の内部に形成された細孔」に触媒成分が入ることで密着力が生じることによって、触媒成分が隔壁に密着するものであり、「隔壁の内部に形成された細孔」が大きすぎれば「隔壁」の強度が低下するものであるということができる。
(2)一方、引用発明では、刊行物1の記載事項(刊1-ウ)に「触媒層は大きな表面積を持ったウォッシュコートとこの中に細かく分散した触媒金属により構成されている。ウォッシュコートは大きな比表面積を有するガンマアルミナとその安定化及び酸素貯蔵のためのセリア等より成り、触媒金属はPt・Rh・Pd等の貴金属より成っている。貴金属を分散させたウォッシュコート層は、ウォッシュコートがハニカム壁面の表面気孔に入り込むことによる機械的なアンカー効果によりハニカム壁面に固定されている。」と記載され、「触媒金属」も「触媒成分」といえるから、「壁面の表面気孔」の大きさと触媒金属の大きさとの兼ね合いで、「壁面の表面気孔」に触媒金属が入り込むことによって触媒金属がハニカム壁面に固定されるものということができ、また、「壁面の表面気孔」が大きすぎれば「壁面」の機械的強度が低下することは当然といえる。
よって、本願発明と引用発明とでは「ハニカム構造体」の「壁面」への触媒成分の固定は同様のメカニズムによって行われているということができる。
(3)そして、上記メカニズムは「隔壁の内部に形成された細孔」の大きさと触媒成分の大きさとのかねあいで決まるところ、本願発明では請求項の記載上で「隔壁の内部に形成された細孔」の大きさは規定されるが、触媒成分の大きさは規定されていないため、触媒成分の大きさによって「隔壁の内部に形成された細孔」の大きさは変更されるものであるので、「隔壁の内部に形成された細孔」の大きさの特定に技術的な臨界的意義は見いだせない。
また、たとえば刊行物2の(刊2-ア)?(刊2-エ)には、「コージーライト」製の「自動車の触媒式転化器用触媒活性成分を支持するための基材」としての「ハニカム構造」において「約62セル/cm^(2) 」(400メッシュ)および「0.15mm壁厚」のコージーライトハニカムで「気孔率31.7%」「細孔径5.0μm」であることが示されているように、触媒を担持する壁面の細孔径の大きさを、触媒成分の大きさとのかねあいから「5μm」にすることは知られているといえる。
すると、引用発明において、「細孔径」の大きさを、触媒成分の大きさとのかねあいから、例えば「5.0μm」程度にすることに格別の困難性は見いだせない。
よって、引用発明において刊行物2に記載の技術的事項及び技術常識を勘案することで、相違点2にかかる本願発明の特定事項を想到することは当業者の容易に推考し得るところということができる。

そして上記各相違点に基づく本願発明の奏する作用効果も各刊行物の記載事項、周知技術及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

6.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1-3に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-11-24 
結審通知日 2011-11-29 
審決日 2011-12-12 
出願番号 特願平11-289715
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 政博  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
小川 慶子
発明の名称 ハニカム構造体  
代理人 加藤 大登  
代理人 伊藤 高順  
代理人 井口 亮祉  
代理人 碓氷 裕彦  

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