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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない G02F
審判 訂正 5項独立特許用件 訂正しない G02F
管理番号 1252307
審判番号 訂正2011-390093  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2011-08-08 
確定日 2012-02-03 
事件の表示 特許第3924587号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要及び本件審判の経緯
本件審判は、請求人が特許権者である、2006年(平成18年)5月29日(優先権主張平成17年5月27日、平成17年12月6日)を国際出願日とする出願に係る特許第3924587号(以下「本件特許」という。平成19年3月2日設定登録、登録時の請求項の数は13である。)の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)について、審判請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを請求するものである(審判請求書の請求の理由においては、訂正の要旨として、訂正事項1ないし訂正事項9が挙げられている。)ところ、平成23年9月13日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年10月17日付けで審判事件意見書及び審判事件補正書が提出されたものである。
なお、本件特許に係る無効審判請求事件である無効2009-800165号の請求人から、本件審判について、平成23年9月13日付けで上申書が提出された。

第2 本件特許に係る訂正の経緯
本件特許に係る無効審判請求事件である無効2009-800165号において、平成21年10月13日付け及び平成22年11月19日付けで訂正請求がなされたところ、平成21年10月13日付け訂正請求において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、訂正前の請求項2、請求項5、請求項6を削除する訂正、平成22年11月19日付け訂正請求において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、訂正前の請求項7、9を削除する訂正、請求項3(訂正前の請求項4)、4(訂正前の請求項8)及び7(訂正前の請求項12)の訂正は、確定した。

第3 補正の適否
平成23年10月17日付けで提出された審判事件補正書における補正は、請求の理由について、訂正の要旨のうち、訂正事項3を削除するとともに、請求の原因のうち、訂正事項3に関連する部分を削除するものであって、請求の要旨を変更するものではなく、特許法第131条の2第1号の規定に違反するものではないから、同補正を認める。

第4 訂正の内容
第2のとおり、平成22年11月19日付け訂正請求において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項3(訂正前の請求項4)、4(訂正前の請求項8)及び7(訂正前の請求項12)の訂正が確定したところ、審判請求書の請求の理由においては、訂正の要旨として、以下の1ないし5の事項のほか、登録時の請求項4に係る訂正事項5、登録時の請求項8に係る訂正事項6及び登録時の請求項12に係る訂正事項8が挙げられているが、当該各訂正事項は、確定した上記訂正の内容と同一であり、既に訂正されているから、本件審判における訂正事項といえないものである。
また、第3のとおり、訂正事項3は削除された。
よって、本件審判請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、審判請求書に挙げられた訂正事項から上記各訂正事項を除いた、以下の1ないし5の事項をその訂正内容とするものである(訂正による変更部分に下線を付した。なお、訂正事項の番号は、審判請求書と対応させたものである。)。

1 訂正事項1
登録時の請求項1に「前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるものであり、」とあるのを、「前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるものであり、かつ前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角が40?70度になるように調整し、更にスペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.1以下であり、」と訂正する。

2 訂正事項2
登録時の請求項1に「前記基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴径よりも狭い領域に配置される」とあるのを、
「前記基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴径よりも狭い領域に配置され、
かつ配置された基板において、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めたスペーサ粒子の固着力が5μN/個以上である、」と訂正する。
なお、審判請求書の請求の理由においては、訂正事項2について、「・・・5μN/個以上であり、」と訂正するものとされているが、平成23年10月17日付けで提出された審判事件補正書に添付された訂正特許請求の範囲においては、該当箇所は「・・・5μN/個以上である、」とされていることが認められるから、訂正事項2は、上記のとおりのものと認める。

3 訂正事項4
登録時の請求項3に「請求項1又は2記載の」とあるのを、「請求項1記載の」と訂正するとともに、請求項番号を請求項2と訂正する。

4 訂正事項7
登録時の請求項10、11を、それぞれ請求項番号を5、6と訂正する。

5 訂正事項9
登録時の請求項13に「請求項1、2若しくは3記載の」とあるのを「請求項1又は2記載の」と、「請求項4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載の」とあるのを「請求項3、4、5、6又は7記載の」と訂正するとともに、請求項番号を請求項8と訂正する。

第5 特許法第126条第1項、第3項及び第4項に規定する要件について
1 訂正事項1について
(1)訂正事項1は、請求項1に係る発明における「スペーサ粒子分散液」について、「前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角が40?70度になるように調整し、更にスペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.1以下であり」との特定事項を付加するものであるから、特許法第126条第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(2)そして、本件特許明細書(以下においては、便宜上、特許掲載公報である特許第3924587号公報を参照して引用する。)には、「本明細書において後退接触角とは、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時(液滴が縮みだした時)に示す接触角であり」(20頁19行?21行)、「上記後退接触角が5度以上となるようにする方法としては、上述したスペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法が挙げられる。」(20頁47行?48行)、「また、上記スペーサ粒子分散液の後退接触角の好ましい上限は70度である。」(21頁10行)、「上記後退接触角の上限を70度にする方法としては、上記後退接触角を5度以上にする方法と同様に、上述したスペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法が挙げられる。」(21頁18行?20行)、「上記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.2以下であることが好ましい。・・・0.1以下であると、スペーサ粒子の径が大きい場合でも、長時間にわたって沈降や浮遊しないので、なお好ましい。」(18頁30行?34行)との記載があるから、付加された上記特定事項のうち、「前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角」を調整したものであり、その角度の上限が70度であること、「更にスペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.1以下」であることは、本件特許明細書に記載されていたものと認められる。

(3)本件特許明細書には、後退接触角の下限が40度であることを明示する記載は認められない。しかるところ、本件特許明細書には、上記(2)に摘示した記載のほか、「上記スペーサ粒子分散液は、基板に対する後退接触角(θr)が5度以上であることが好ましい。」(20頁13行?14行)、「上記スペーサ粒子分散液は、基板に対する後退接触角(θr)が5度以上であることが好ましい。後退接触角が5度以上あれば、基板に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴が乾燥するときに、その中心に向かって縮小していくとともに、その液滴中に1個以上含まれるスペーサ粒子がその液滴中心に寄り集まることが可能となる。5度未満であると、基板上で液滴の着弾した箇所の中心(着弾中心)を中心として液滴が乾燥し、その液滴径が縮小するとともに、スペーサ粒子がその中心に集まり難くなる。」との記載があり、表3(38頁)、表4(39頁)には、後退接触角が40度?58度である実施例1が、また、表6(46頁)には、後退接触角が44度?48度である実施例2?6が示されている。
したがって、後退接触角が40度以上であるとの要件を満たすスペーサ粒子分散液は、本件特許明細書に記載されていたものと認められる。

(4)そして、本件特許明細書の記載を見ても、後退接触角の下限を40度とすることにより格別の技術的意義が生じるものとは認められない。

(5)してみれば、本訂正事項は、本件特許明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものといえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

2 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に係る発明における「乾燥後のスペーサ粒子」について、「配置された基板において、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めたスペーサ粒子の固着力が5μN/個以上である」との特定事項を付加するものであるから、特許法第126条第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「上記スペーサ粒子が配置された基板においては、スペーサ粒子の固着力の好ましい下限が0.2μN/個である。より好ましい下限は1μN/個、更に好ましい下限は5μN/個である。
なお、本明細書において、スペーサ粒子の固着力は、例えば、ナノスクラッチ試験機(ナノテック社製)を用いて、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めることができる。」(27頁23行?29行)との記載があるから、付加された上記特定事項は、本件特許明細書に記載されていたものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 訂正事項4について
訂正事項4は、登録時の請求項2を削除する訂正(なお、該訂正が確定したことは、第2のとおりである。)に伴って、登録時の「請求項3」を「請求項2」に訂正するとともに、引用する請求項を「請求項1又は2」から「請求項1」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、同訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

4 訂正事項7について
訂正事項7は、登録時の請求項2、5ないし7を削除する訂正(なお、該訂正が確定したことは、第2のとおりである。)に伴って、登録時の「請求項10」及び「請求項11」を、それぞれ、「請求項5」及び「請求項6」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、同訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

5 訂正事項9について
訂正事項9は、登録時の請求項2、5ないし7及び9を削除する訂正(なお、該訂正が確定したことは、第2のとおりである。)に伴って、登録時の「請求項13」を「請求項8」に訂正するとともに、引用する請求項について、「請求項1、2若しくは3」とあるのを「請求項1又は2」に、「請求項4、5、6、7、8、9、10、11又は12」とあるのを「請求項3、4、5、6又は7」に訂正するものであるから、特許法第126条第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、同訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

第6 特許法第126条第5項に規定する要件について
第5、1及び2のとおり、請求項1に係る訂正事項1及び2は、特許法第126条第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるから、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(本件訂正が、特許法第126条第5項に規定する要件に適合するものであるかどうか)について検討する。

1 本件訂正発明1
本件訂正発明1は、次のとおりのものと認められる。

「インクジェット装置を用いてスペーサ粒子分散液の液滴を吐出して基板上の所定の位置に着弾させた後、乾燥させることによりスペーサ粒子を基板上に配置する工程を有する液晶表示装置の製造方法であって、
前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるものであり、かつ前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角が40?70度になるように調整し、更にスペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.1以下であり、
前記乾燥後のスペーサ粒子が、前記基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴径よりも狭い領域に配置され、
かつ配置された基板において、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めたスペーサ粒子の固着力が5μN/個以上である、
ことを特徴とする液晶表示装置の製造方法。」

2 特許法第29条第2項に規定する要件について
(1)刊行物の記載
ア 本件特許の優先日前に頒布された刊行物である特開2005-10412号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「【請求項1】
一定のパターンに従って配列された画素領域と画素領域を画する遮光領域とからなる液晶表示装置において、インクジェット装置を用いて、スペーサ粒子を分散させたスペーサ粒子分散液を吐出し、画素が形成されている方の基板の遮光領域または画素が形成されていない方の基板の遮光領域に相当する領域にスペーサ粒子を配置した基板とスペーサ粒子を配置していない基板とを、上記遮光領域または遮光領域に相当する領域に配置されたスペーサ粒子を介して対向させた液晶表示装置の製造方法であって、少なくとも一方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成された低エネルギー表面を有する箇所にスペーサ粒子分散液の液滴を着弾させ、スペーサ粒子分散液の液滴を乾燥して、スペーサ粒子を上記遮光領域または遮光領域に相当する領域中に留めることを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
【請求項2】
低エネルギー表面を有する箇所の表面エネルギーが45mN/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶表示装置の製造方法。
【請求項3】
低エネルギー表面を有する箇所が配向膜によって形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶表示装置の製造方法。」

(イ)「【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題点および現状に鑑み、インクジェット装置を用いてスペーサ粒子を液晶表示装置用基板の遮光領域(非表示部分)または遮光領域に相当する領域中に効率的かつ高い精度で選択的に配置することが可能であって、スペーサ粒子に起因する消偏現象の発生や光抜けによるコントラストや色調の低下がなく、優れた表示品質を発現する液晶表示装置を得ることができる液晶表示装置の製造方法を提供することにある。」

(ウ)「【0022】
本発明においては、上記無機系微粒子および有機系微粒子の中でも、液晶表示装置の基板上に形成された配向膜を傷つけない程度の適度な硬度を有し、熱膨張や熱収縮による厚みの変化に追随しやすく、さらにセル内部でのスペーサ粒子の移動が比較的少ない等の長所を有していることから、有機高分子系微粒子が好適に用いられる。」

(エ)「【0054】
さらに、上記微粒子やスペーサ粒子は、表面に接着層が設けられていても良いし、液晶表示装置に用いる場合に、微粒子やスペーサ粒子の周辺の液晶の配向を乱さないための表面修飾が施されていても良い。」

(オ)「【0056】
[スペーサ粒子分散液]
本発明の液晶表示装置の製造方法で用いられるスペーサ粒子分散液は、上述したスペーサ粒子が分散媒体中に分散されてなる。
【0057】
上記分散媒体としては、インクジェット装置のヘッドのノズルから吐出される温度で液体であって、スペーサ粒子を分散させることができるものであれば如何なる化合物であっても良く、特に限定されるものではないが、中でも、水や親水性有機溶媒が好適に用いられる。
【0058】
一部のインクジェット装置のヘッドは水系分散媒体に適するものとなされているので、そのようなヘッドを用いる場合には、分散媒体が疎水性の強い有機溶媒であると、ヘッドを構成する部材が分散媒体に侵されたり、部材の接着に用いられた接着剤の一部が分散媒体中に溶出する等の問題が生じる。従って、スペーサ粒子分散液の分散媒体は、水や親水性有機溶媒であることが好ましい。
【0059】
上記水としては、特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換水、純水、地下水、水道水、工業用水等が挙げられる。これらの水は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0060】
上記親水性有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘキサノール、1-メトキシ-2-プロパノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどのモノアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのエチレングリコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールなどのプロピレングリコール類;エチレングリコール類やプロピレングリコール類のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノイソプロピルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルなどの低級モノアルキルエーテル類;エチレングリコール類やプロピレングリコール類のジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジプロピルエーテルなどの低級ジアルキルエーテル類;エチレングリコール類やプロピレングリコール類のモノアセテート、ジアセテートなどのアルキルエステル類;1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-ヘキセン-2,5-ジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのジオール類;ジオール類のエーテル誘導体;ジオール類のアセテート誘導体;グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール類;多価アルコール類のエーテル誘導体;多価アルコール類のアセテート誘導体等や、ジメチルスルホキシド、チオジグリコール、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン、スルホラン、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、α-テルピネオール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビス-β-ヒドロキシエチルスルホン、ビス-β-ヒドロキシエチルウレア、N,N-ジエチルエタノールアミン、アビエチノール、ジアセトンアルコール、尿素等が挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。また、上記水および親水性有機溶媒は、それぞれ単独で用いられても良いし、両者が併用されても良い。」

(カ)「【0071】
上記沸点が100℃未満の親水性有機溶媒は、特に限定されるものではないが、20℃における表面張力が25mN/m以下であることが好ましい。また、上記沸点が150℃以上の親水性有機溶媒は、特に限定されるものではないが、20℃における表面張力が30mN/m以上であることが好ましい。
【0072】
一般にインクジェット装置は、吐出するスペーサ粒子分散液の20℃における表面張力が30?50mN/mである場合に良好な吐出精度を示す。一方、基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴の表面張力は高い方がスペーサ粒子を乾燥過程で移動させるのに適している。
【0073】
沸点が100℃未満の親水性有機溶媒の20℃における表面張力が25mN/m以下であると、吐出時においてはスペーサ粒子分散液の表面張力が比較的低い状態にあるので、良好な吐出精度を得ることが可能となり、基板上に着弾後はスペーサ粒子分散液中の他の分散媒体成分より先に揮散して、スペーサ粒子分散液の表面張力が高くなるので、乾燥過程におけるスペーサ粒子の移動が容易となる。
【0074】
また、沸点が150℃以上の親水性有機溶媒の20℃における表面張力が30mN/m以上であると、スペーサ粒子分散液の液滴が基板上に着弾後、より低沸点の水や親水性有機溶媒が揮散した後に、スペーサ粒子分散液の表面張力が高く保たれるので、乾燥過程におけるスペーサ粒子の移動が容易となる。
【0075】
本発明で用いられるスペーサ粒子分散液は、特に限定されるものではないが、上記各種有機溶媒を1種類以上混合して、20℃における表面張力が[基板の表面エネルギー-5]?50mN/mとなるように調整することが好ましい。
【0076】
スペーサ粒子分散液の20℃における表面張力が[基板の表面エネルギー-5]mN/m未満であると、疎水性の強いすなわち表面エネルギーの小さい配向膜等を使用した基板の場合でも、基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴の基板に対する接触角を大きくすることができず、スペーサ粒子分散液の液滴が基板上に濡れ拡がった状態となって、スペーサ粒子の配置間隔を狭くすることができなくなることがあり、逆にスペーサ粒子分散液の20℃における表面張力が50mN/mを超えると、インクジェット装置のノズル内に気泡が残存して、吐出を円滑に行うことができなくなることがある。
【0077】
また、本発明で用いられるスペーサ粒子分散液は、特に限定されるものではないが、基板面との接触角が30?90度であることが好ましい。
【0078】
スペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30度未満であると、基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴が基板上に濡れ拡がった状態となって、スペーサ粒子の配置間隔を狭くすることができなくなることがあり、逆にスペーサ粒子分散液の基板面との接触角が90度を超えると、少しの振動でスペーサ粒子分散液の液滴が基板上を動き回って、スペーサ粒子の配置精度が悪くなったり、基板面に対するスペーサ粒子の密着性が悪くなったりすることがある。」

(キ)「【0084】
本発明で用いられるスペーサ粒子分散液には、必要に応じて、例えば、粘接着性を向上させるための粘接着性付与剤、スペーサ粒子の分散性を向上させたり、表面張力、基板面との接触角、粘度などの物理的特性を制御して、吐出精度やスペーサ粒子の移動性等を向上させるための界面活性剤(乳化剤)、粘性調整剤、pH調整剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上が添加されていても良い。」

(ク)「【0099】
上記低エネルギー表面を有する箇所は、一方の基板のみの遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成されていても良いし、双方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成されていても良い。また、スペーサ粒子分散液の液滴は、一方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成された低エネルギー表面を有する箇所のみに着弾させても良いし、双方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成された低エネルギー表面を有する箇所に着弾させても良い。
【0100】
上記低エネルギー表面を有する箇所は、表面エネルギー(SE)が45mN/m以下であることが好ましく、より好ましくは40mN/m以下である。
【0101】
上記低エネルギー表面を有する箇所の表面エネルギーが45mN/mを超えると、インクジェット装置で吐出できる程度の表面張力を有するスペーサ粒子分散液を使用する限り、スペーサ粒子分散液の液滴が低エネルギー表面を有する箇所で大きく濡れ拡がってしまい、乾燥するにつれ、液滴が遮光領域または遮光領域に相当する領域中へと縮まりにくくなったり、液滴中のスペーサ粒子が遮光領域または遮光領域に相当する領域に移動しにくくなって、スペーサ粒子が基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域からはみ出してしまうことがある。
【0102】
このような低エネルギー表面を有する箇所を形成する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂などからなるフッ素系樹脂膜やシリコーン系樹脂膜などの低エネルギー表面を有する樹脂膜を塗設する方法や、液晶分子の配向を規制するために基板上に設けられる配向膜(通常は、厚み0.1μm以下の樹脂薄膜)そのものを低エネルギー表面を有する箇所として利用する方法等が挙げられ、中でも、液晶表示装置の製造工程が簡略になり、作業性も良好であることから、配向膜そのものを低エネルギー表面を有する箇所として利用する方法を採ることが好ましい。上記低エネルギー表面を有する箇所を形成する方法は、単独で用いられても良いし、複数の方法が併用されても良い。」

(ケ)「【0120】
[乾燥方法]
次に、基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴中の分散媒体を乾燥する工程について説明する。上記液滴中の分散媒体を乾燥する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、次のように行えば良い。
【0121】上記乾燥に当たっては、インクジェット装置のノズルから基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴を乾燥した後に、スペーサ粒子が、基板上に吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の径より小さい径の円内に存在するように乾燥することが好ましい。
【0122】
このように乾燥過程において、スペーサ粒子を吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の中央部付近に寄せ集めるためには、分散媒体の沸点、乾燥温度、乾燥時間、分散媒体の表面張力、分散媒体の配向膜に対する接触角、スペーサ粒子の濃度等を適切な条件に設定することが重要であるが、特に乾燥条件が重要である。」

イ 同じく特開平1-156723号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の記載がある。

(ア)「2.特許請求の範囲
相対向する一対の基板の間の隙間に、液晶とスペーサ材料を内蔵してなる液晶表示素子を製造する際に、スペーサ材料の比重の0.8?1.2倍の比重を有する溶媒の中にスペーサ材料を分散させた状態で基板の内面に付着させた後、該基板と他方の基板とを貼り合わせて液晶充填室を形成し、液晶を充填、封止することを特徴とする液晶表示素子の製造方法。」(1頁左下欄3行?12行)

(イ)「本発明の技術的課題は、従来の液晶表示素子の製造方法におけるこのような問題を解消し、スペーサ材料を2枚の基板間に均一に分散可能とすることにある。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明においては、基板内面にスペーサ材料を付着させる際に、スペーサ材料の比重の0.8?1.2倍の比重を有する溶媒の中にスペーサ材料を分散させ、この溶媒を基板の内面に吹きつける。そして該基板と他方の基板とを貼り合わせて液晶充填室を形成し、液晶を充填した後、充填口を封止する。
〔作用〕
スペーサ材料を分散させる溶媒とスペーサ材料との比重の差が小さいので、スペーサ材料が沈降したり、浮上したりすることはなく、スペーサ材料が溶媒中に均一に分散する。その結果、液晶表示素子用の基板内面に散布した場合に、スペーサ材料が均一に分散して付着するので、2枚の基板を貼り合わせた場合も、第1図に示すように、スペーサ材料S・・・が全面にわたって均一に分散するために、2枚の基板1、2間のギャップGが表示面全面にわたって一定となり、表示品質が低下するような問題が解消される。スペーサ材料が溶媒中に均一に分散するので、スペーサ材料の塊ができて、表示欠陥を引き起こすような恐れもない。」(2頁左下欄6行?同頁右下欄14行)

(ウ)「例えば、フロンおよびエタノールの単一溶媒を使用した場合は、約10分後にスペーサ材料と溶媒が分離してしまうのに対し、溶媒の比重をスペーサ材料の0.8?1.2倍程度にした場合は、2時間以上にわたって均一な懸濁状態が維持された。比重がスペーサ材料と同等の溶媒を使用することが望ましいが、実用上は2時間程度の懸濁時間で足りるため、スペーサ材料の比重の0.8?1.2倍程度の溶媒を使用することで、液晶表示素子の全面にわたって均一なギャップを確保できる。」(3頁左上欄末行?同頁右上欄9行)

(2)引用発明
ア 前記(1)アによれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「一定のパターンに従って配列された画素領域と画素領域を画する遮光領域とからなり、インクジェット装置を用いて、スペーサ粒子を分散させたスペーサ粒子分散液を吐出し、画素が形成されている方の基板の遮光領域または画素が形成されていない方の基板の遮光領域に相当する領域にスペーサ粒子を配置した基板とスペーサ粒子を配置していない基板とを、上記遮光領域または遮光領域に相当する領域に配置されたスペーサ粒子を介して対向させた液晶表示装置の製造方法において、
インクジェット装置を用いてスペーサ粒子を液晶表示装置用基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に効率的かつ高い精度で選択的に配置することを目的として、少なくとも一方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成された低エネルギー表面を有する箇所にスペーサ粒子分散液の液滴を着弾させ、スペーサ粒子分散液の液滴を乾燥して、スペーサ粒子を上記遮光領域または遮光領域に相当する領域中に留める液晶表示装置の製造方法であって、
前記低エネルギー表面を有する箇所が配向膜によって形成されており、その表面エネルギーが45mN/m以下であり、前記スペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30?90度であり、前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子が親水性有機溶媒からなる分散媒体中に分散されてなり、該スペーサ粒子分散液には、粘接着性を向上させるための粘接着性付与剤が添加されており、前記スペーサ粒子が基板上に吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の径より小さい径の円内に存在するように乾燥させ、前記スペーサ粒子を吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の中央部付近に寄せ集める、液晶表示装置の製造方法。」(以下「引用発明1」という。)

イ 前記(1)イによれば、刊行物2には、次の発明が記載されているものと認められる。

「相対向する一対の基板の間の隙間に、液晶とスペーサ材料を内蔵してなる液晶表示素子を製造する際に、スペーサ材料の比重の0.8?1.2倍の比重を有する溶媒の中にスペーサ材料を分散させた状態で基板の内面に付着させた後、該基板と他方の基板とを貼り合わせて液晶充填室を形成し、液晶を充填、封止する液晶表示素子の製造方法であって、
比重がスペーサ材料と同等の溶媒を使用することが望ましいが、スペーサ材料の比重の0.8?1.2倍程度の溶媒を使用すれば、スペーサ材料を分散させる溶媒とスペーサ材料との比重の差が小さいのでスペーサ材料が沈降したり浮上したりすることがなくスペーサ材料が溶媒中に均一に分散し、2時間以上にわたって均一な懸濁状態が維持され、その結果、液晶表示素子用の基板内面に散布した場合にスペーサ材料が均一に分散して付着し、2枚の基板を貼り合わせた場合に液晶表示素子の全面にわたって均一なギャップを確保できる、液晶表示素子の製造方法。」(以下「引用発明2」という。)

(3)本件訂正発明1との対比・判断
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1における「インクジェット装置」、「液晶表示装置」、「スペーサ粒子」、「スペーサ粒子分散液」、「親水性有機溶媒からなる分散媒体」及び「液晶表示素子の製造方法」は、それぞれ、本件訂正発明1の「インクジェット装置」、「液晶表示装置」、「スペーサ粒子」、「スペーサ粒子分散液」、「溶剤」及び「液晶表示素子の製造方法」に相当する。

(イ)引用発明1の「スペーサ粒子分散液」は、インクジェット装置を用いて吐出されるものであって、吐出される際に「液滴」であることが明らかであるから、本件訂正発明1の「スペーサ粒子分散液」と、「インクジェット装置を用いて」その「液滴」が「吐出」される点で一致する。

(ウ)引用発明1は、「少なくとも一方の基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に形成された低エネルギー表面を有する箇所にスペーサ粒子分散液の液滴を着弾させ、スペーサ粒子分散液の液滴を乾燥して、スペーサ粒子を上記遮光領域または遮光領域に相当する領域中に留める」ものであって、液滴の乾燥が、基板の上記箇所に当該液滴が着弾した後に行われることは明らかであるから、引用発明1は、本件訂正発明1の「基板上の所定の位置に着弾させた後、乾燥させることによりスペーサ粒子を基板上に配置する工程を有する」との事項を備える。

(エ)また、引用発明1は、「スペーサ粒子が基板上に吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の径より小さい径の円内に存在するように乾燥させ、前記スペーサ粒子を吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の中央部付近に寄せ集める」ものであるから、引用発明1は、本件訂正発明1の「基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴径よりも狭い領域に配置される」との事項を備える。

(オ)a 本件訂正発明1の「接着成分」の技術上の意義について、本件特許の願書に添付した明細書(本件訂正後のもの。以下「本件訂正明細書」という。なお、発明の詳細な説明及び図面の簡単な説明は登録時のものから訂正されていない。)には、「上記接着成分は、基板上に着弾したスペーサ粒子分散液が乾燥する過程において接着力を発揮し、スペーサ粒子をより強固に基板に固着させる役割を有するものである。」(【0029】)との記載がある。しかるところ、引用発明1のスペーサ粒子分散液に添加される「粘接着性付与剤」は、粘接着性を向上させるためのものであって、この粘接着性がスペーサ粒子を基板に固着させることであることは明らかであるから、引用発明1の「粘接着付与剤」は、「スペーサ粒子をより強固に基板に固着させる役割を有する」ものといえ、その技術的意義は、本件訂正発明1の「接着成分」と格別異なるものではない。よって、引用発明1の「粘接着付与剤」は、本件訂正発明1の「接着成分」に相当し、引用発明1は、本件訂正発明1の「スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるもの」との事項を備える。

b 請求人は、審判請求書(25頁?27頁)において、引用発明1の「粘接着性付与剤」は、それ単独では粘接着性を向上させるためのものではない、引用発明1の「粘接着性付与剤」は、接着剤や粘着剤において、粘接着性を向上させるための補助成分(タッキファイヤー)であることが明らかであるから、上記aの「粘接着性付与剤」は、スペーサ粒子の表面に接着層が設けられた際の補助成分であり、「粘接着性付与剤」はあくまでも、すでに接着性のある状態を更にその粘接着性を向上させるためのものとしか解せないと主張する。
そして、参考資料6(高分子辞典)によれば、「粘着付与剤」とは「ゴムやプラスチックに添加して、被着体に対して濡れを与え、表面拡散か内部拡散を通じて最低の圧力で高い粘着性を与えるもの。」であり、接着剤においては、補助剤として必要に応じて加えられ、粘着剤においても、通常ポリマーのみでは粘着力、接着力が不足するため添加されるとされていることが認められる。また、参考資料7(接着・粘着の事典)によれば、ゴム系接着剤において、ゴムに粘着性を付与するために加えるとされていることが認められる。更に、参考資料8(特開2004-359769号公報、【0035】)、参考資料9(特開2003-48929号公報、【0063】)及び参考資料10(特開2000-239327号公報、【0020】)によれば、接着剤あるいは粘着剤に用いる硬化性樹脂組成物には、必要に応じて粘接着性を向上させる粘接着性付与剤(タッキファイヤー)が添加されるとされていることが認められる。
そうであれば、「粘接着性付与剤」がスペーサ粒子の表面に接着層が設けられた際の補助成分であるなら、接着剤や粘着剤となる接着層に添加されることがまず想定されるところである。
しかし、引用発明1において粘接着性付与剤が添加されるのはスペーサ粒子分散液であって、接着剤や粘着剤ではないし、刊行物1に、スペーサ粒子の表面に接着層が設けられていてもよい旨の記載がある(上記(1)ア(エ)を参照。)としても、接着層の粘接着性を向上させるために接着層ではなくスペーサ粒子分散液にタッキファイヤーを添加することは不自然であって、刊行物1の「本発明で用いられるスペーサ粒子分散液には、必要に応じて、例えば、粘接着性を向上させるための粘接着性付与剤、スペーサ粒子の分散性を向上させたり、表面張力、基板面との接触角、粘度などの物理的特性を制御して、吐出精度やスペーサ粒子の移動性等を向上させるための界面活性剤(乳化剤)、粘性調整剤、pH調整剤、消泡剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上が添加されていても良い。」との記載(上記(1)ア(キ)を参照。)における粘接着性付与剤について、刊行物1には、スペーサ粒子の表面に設けられる接着層との関連を示唆する記載も見当たらないことに照らせば、同記載に接した当業者が、当該粘接着性付与剤について、スペーサ粒子の表面に接着層が設けられた際の補助成分であるタッキファイヤーであると理解するものとは認め難い。
よって、請求人の上記主張は、引用発明1が本件訂正発明1の「スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるもの」との事項を備えるとする、上記aの認定を左右するものではない。

(カ)以上によれば、本件訂正発明1と引用発明1とは、
「インクジェット装置を用いてスペーサ粒子分散液の液滴を吐出して基板上の所定の位置に着弾させた後、乾燥させることによりスペーサ粒子を基板上に配置する工程を有する液晶表示装置の製造方法であって、
前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるものであり、前記基板上に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴径よりも狭い領域に配置される液晶表示装置の製造方法。」
である点で一致し、以下のaないしcの点で相違するものと認められる。

a 本件訂正発明1では、スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子、接着成分及び溶剤からなるものであり、かつ前記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角が40?70度になるように調整したものであるのに対して、引用発明1のスペーサ粒子分散液は、そのようなものであるかどうか不明である点(以下「相違点1」という。)。

b 本件訂正発明1では、スペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.1以下であるのに対して、引用発明1では、スペーサ粒子及び液状部分の比重が不明である点(以下「相違点2」という。)。

c 本件訂正発明1では、配置された基板において、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めたスペーサ粒子の固着力が5μN/個以上であるのに対して、引用発明1は、そのようなものであるかどうか不明である点(以下「相違点3」という。)。

イ 判断
(ア)相違点1について
a 刊行物1の「本発明で用いられるスペーサ粒子分散液は、特に限定されるものではないが、上記各種有機溶媒を1種類以上混合して、20℃における表面張力が[基板の表面エネルギー-5]?50mN/mとなるように調整することが好ましい。」(【0075】、前記(1)ア(カ)を参照。)との記載によれば、引用発明1における「スペーサ粒子分散液」は、基板の表面エネルギーとの関係を考慮して組成が調整されるものであることが理解でき、同じく「スペーサ粒子分散液の20℃における表面張力が[基板の表面エネルギー-5]mN/m未満であると、疎水性の強いすなわち表面エネルギーの小さい配向膜等を使用した基板の場合でも、基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴の基板に対する接触角を大きくすることができず」(【0076】、前記(1)ア(カ)を参照。)との記載によれば、引用発明1は、疎水性の強い配向膜等を使用して基板の表面エネルギーを調整し得ること、引用発明1における「スペーサ粒子分散液の基板面との接触角」は、基板の表面エネルギーに影響されるものであることが理解できる。
そして、参考資料1(化学大辞典)に「接触角は、これを形成する固体・液体の表面張力および固/液界面張力と密接な関係があり、この関係の一つにヤングの式がある.」(「接触角」の項)と記載され、また、参考資料2(化学便覧 基礎編)に「接触角θは、ヤングの式・・・によって、固-気、気-液、固-液の界面張力・・・と関係づけられる.」(「8.2.2 接触角」の項)と記載されるとおり、接触角が表面張力ないし界面張力と関係することは技術上の常識であることを踏まえると、引用発明1における「スペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30?90度」との構成は、スペーサ分散液の組成ないし基板表面の状態がしかるべく調整されることを前提とするものというべきである。
してみると、本件訂正発明1の「後退接触角」及び引用発明1の「接触角」のいずれも、「スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって調整したものである」点において差異はないものと認められる。

b 進んで、「接触角」と「後退接触角」との関係について検討するに、本件訂正明細書の「なお、上記後退接触角は、いわゆる接触角(液滴を基板に置いた際の初期接触角で通常はこれを接触角と呼ぶことがほとんどである)に比べ小さくなる傾向がある。これは、初期の接触角は、スペーサ粒子分散液を構成する溶剤に接触していない基板表面上での液滴の基板に対する接触角であるのに対し、後退接触角はスペーサ粒子分散液を構成する溶剤に接触した後の基板表面上での液滴の基板に対する接触角であるためと考えられる。即ち、後退接触角が初期接触角に対して著しく低い場合は、それらの溶剤によって配向膜が損傷を受けていることを示しており、これらの溶剤を使用することが配向膜汚染に対して好ましくないことを示すと考えられる。ただし、スペーサ粒子分散液を構成する溶剤の組成によっては、乾燥過程で後退接触角が初期接触角より高くなることもある。例えば、表面張力が低い溶剤が多く含まれていた場合、乾燥過程で該表面張力が低い溶剤が無くなれば、その過程、すなわち、液滴が縮みだしてから、いわゆる液滴端が後退する際の接触角が、初期より高くなることもあり得るというわけである。」(【0081】)との記載によれば、例えば、表面張力が低い溶剤が多く含まれていた場合には後退接触角が接触角より大きくなることもあり得るが、一般的には、後退接触角は、接触角に比べ小さくなる傾向があるものと認められる。

c そして、引用発明1が、「前記スペーサ粒子が基板上に吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の径より小さい径の円内に存在するように乾燥させ、前記スペーサ粒子を吐出された直後のスペーサ粒子分散液の液滴の中央部付近に寄せ集める」ものであることに照らせば、引用発明1においても、「基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角」、すなわち後退接触角が存在することが明らかである。
しかるところ、引用発明1における「スペーサ粒子分散液」が表面張力が低い溶剤を多く含むものといわなければならない格別の理由も見いだせず、上記bに照らせば、接触角が30?90度である引用発明1の「後退接触角」を想定すると、一般的には、30?90度より小さいものとなる傾向にあるものと認められるから、引用発明1のすべての範囲において、本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を満たすものとはいえない。
しかるに、引用発明1は、接触角が、例えば60?90度の範囲内のものであってよいものと認められるところ、かかる引用発明1の「後退接触角」が60?90度よりどの程度小さいものとなるのか定かではないが、接触角が上限である「90度」となる場合の後退接触角を想定するに、本件訂正発明1の後退接触角の上限である「70度」を大きく上回るものになるとは想定し難いから、かかる引用発明1の後退接触角は、本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を相当程度の範囲にわたって満たすことになるものと認めるのが相当である。

d 請求人は、審判請求書(22頁)において、参考資料13を挙げ、刊行物1記載の実施例1?11の後退接触角を測定したところ、17.0?33.5度であったから、本件訂正発明1の後退接触角と異なる旨主張する。
しかるに、参考資料13(表1)によれば、上記実施例1?11の接触角は42.0?55.0度の範囲内のものであるところ、上記cのとおり、引用発明1は、接触角が、例えば60?90度の範囲内のものであってよいものであるから、参考資料13の測定結果をもって、引用発明1が本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を満たすものでないと認めることはできない。
むしろ、後退接触角が接触角より21.5?25度程度小さくなることを示す参考資料13によれば、接触角が60?90度の範囲内のものは、本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を満たすものとなるがい然性が高いことを示すものと考えられる。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

e ここで、本件訂正発明1において、後退接触角の範囲を40?70度に特定したことの技術上の意義について検討するに、本件訂正明細書には、「上記スペーサ粒子分散液は、基板に対する後退接触角(θr)が5度以上であることが好ましい。後退接触角が5度以上あれば、基板に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴が乾燥するときに、その中心に向かって縮小していくとともに、その液滴中に1個以上含まれるスペーサ粒子がその液滴中心に寄り集まることが可能となる。5度未満であると、基板上で液滴の着弾した箇所の中心(着弾中心)を中心として液滴が乾燥し、その液滴径が縮小するとともに、スペーサ粒子がその中心に集まり難くなる。」(【0080】)、
「また、上記スペーサ粒子分散液の後退接触角の好ましい上限は70度である。後退接触角が70度を超えると、本発明で提示している基板形状に対してスペーサ粒子が寄り集まる効果がそがれる場合がある。また、スペーサ粒子と、該スペーサ粒子以外の液状部分との比重差が小さい場合、液滴中でスペーサ粒子が浮遊しているため、液滴が乾燥していく過程でスペーサ粒子が乾燥中心に集まっていく際、スペーサ粒子の上に他のスペーサ粒子が積み重なることがあり、製造する液晶表示装置の基板のギャップを正確に維持できなくなることがある。」(【0083】)
との記載がある。
そして、本件訂正明細書には、表3(【0155】)、表4(【0156】)に、後退接触角が、40度?58度である実施例1と、85度である実験例1、<5度(何度かは定かでない。)である実験例2についての評価が示されており、実施例と比較して、実験例1ではスペーサ粒子の最上部と基板との間隔のばらつきが大きいこと、実験例2では遮光領域の配置率が劣ることが理解できるものの、これら実施例ないし実験例からは、後退接触角の下限を40度、上限を70度にするとの特定を直ちに導けるものではなく、40度あるいは70度を境として格別の作用効果の差異が生じるものと認めるには至らない。また、表6(【0192】)にも、44度?48度である実施例2?6が示されるにとどまる。
むしろ、上記のとおり、下限については5度以上であることが明記されるところであるから、上記dのように、後退接触角が17.0?33.5度である刊行物1記載の実施例1?11と対比しても後退接触角の相違によって格別の作用ないし効果の差異が生じるものとは認め難い。
したがって、本件訂正発明1において、後退接触角の下限を40度、上限を70度に特定したことにより格別の技術的意義を生じるものとは認め難く、適宜設計的に後退接触角の範囲を定めた以上のものとは認められない(なお、第4、1(3)のとおり、本件特許明細書には、後退接触角の下限が40度であることを明示する記載は認められないところ、後退接触角の下限を40度に特定したことにより格別の技術的意義を生じるものとすれば、本件訂正は、新たな技術的意義を導入することになるものと解され、この点も考慮すると、後退接触角の下限を40度に特定したことにより格別の技術的意義を生じるものとは解せない。)。

f 上記cのとおり、引用発明1の後退接触角は、本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を相当程度の範囲にわたって満たすことになるものと認めるのが相当である。
更に、上記eのとおり、本件訂正発明1において、後退接触角の範囲を40?70度に特定したことにより格別の技術的意義を生じるものとは認め難く、同特定は、適宜設計的に後退接触角の範囲を定めた以上のものとは認められないことに照らせば、上記cのとおり、引用発明1のすべての範囲において、本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を満たすものとはいえず、一部の接触角の範囲において本件訂正発明1において特定される後退接触角の範囲「40?70度」との要件を満たさない可能性はあるものの、それによって生じ得る差異は、設計的事項の差異にとどまるものであって、技術的思想としての差異ではないというべきである。
そして、上記aのとおり、本件訂正発明1の「後退接触角」及び引用発明1の「接触角」のいずれも、「スペーサ粒子分散液の分散媒の組成を調整する方法、又は、基板の表面を調整する方法によって調整したものである」点において差異はない。
してみれば、刊行物1には、後退接触角についての明示的な記載はないものの、引用発明1は、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を実質的に備えるものであるか、本件訂正発明1と相違する部分があるとしても、技術的思想としての差異ではないから、相違点1は、実質的な相違ではない。

g なお、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角を特定することの技術上の意義について、本件訂正明細書には、上記eに摘示した記載(【0080】及び【0083】)があり、これによれば、本件訂正発明1における、基板上に置かれたスペーサ粒子分散液の液滴が、基板上に置かれてから乾燥するまでの過程で、基板上に最初に置かれた際の着弾径より小さくなりだした時に示す接触角である後退接触角の範囲を特定することの技術上の意義は、以下の(a)及び(b)の点にあると認められる。

(a)後退接触角が5度以上あれば、基板に着弾したスペーサ粒子分散液の液滴が乾燥するときに、その中心に向かって縮小していくとともに、その液滴中に1個以上含まれるスペーサ粒子がその液滴中心に寄り集まることが可能となるのに対し、5度未満であると、基板上で液滴の着弾した箇所の中心として液滴が乾燥し、その液滴径が縮小するとともに、スペーサ粒子がその中心に集まり難くなること。

(b)後退接触角が70度を超えると、
(b-1)本発明で提示している基板形状に対してスペーサ粒子が寄り集まる効果がそがれる場合があること。
(b-2)スペーサ粒子と、該スペーサ粒子以外の液状部分との比重差が小さい場合、液滴中でスペーサ粒子が浮遊しているため、液滴が乾燥していく過程でスペーサ粒子が乾燥中心に集まっていく際、スペーサ粒子の上に他のスペーサ粒子が積み重なることがあり、製造する液晶表示装置の基板のギャップを正確に維持できなくなることがあること。

h 一方、引用発明1においては、スペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30?90度であり、その技術上の意義について、刊行物1には、「スペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30度未満であると、基板上に吐出されたスペーサ粒子分散液の液滴が基板上に濡れ拡がった状態となって、スペーサ粒子の配置間隔を狭くすることができなくなることがあり、逆にスペーサ粒子分散液の基板面との接触角が90度を超えると、少しの振動でスペーサ粒子分散液の液滴が基板上を動き回って、スペーサ粒子の配置精度が悪くなったり、基板面に対するスペーサ粒子の密着性が悪くなったりすることがある。」(前記(1)ア(カ)、【0078】)との記載がある。

i 上記g及びhに照らせば、引用発明1においてスペーサ粒子分散液の基板面との接触角が30?90度であるとすることの技術上の意義は、本件訂正発明1において後退接触角の範囲を特定したことの技術上の意義と全く一致するというものではないものと認められる。
しかしながら、そうであるとしても、上記eのとおり、本件訂正発明1において後退接触角の下限を40度、上限を70度に特定したことにより格別の技術的意義を生じるものとは認め難く、上記gの本件訂正発明1の技術的意義は、後退接触角が小さい、あるいは大きい場合に生じる作用を定性的に示すにとどまるものと解される。そして、上記fのとおり、引用発明1は、相違点1に係る本件訂正発明1の構成を実質的に備えるものであるか、本件訂正発明1と相違する部分があるとしても、技術的思想としての差異ではないものであることに照らして、本件訂正発明1が「後退接触角」という指標を採用したことをもって、引用発明1との実質的な相違とまでいうことはできない。

j 請求人は、接触角と後退接触角との差異、スペーサ粒子の重なりの防止などについてるる主張する(審判請求書21頁?22頁)が、上記での検討に照らして採用できない。

k 請求人は、平成23年10月17日付けで提出された審判事件意見書(以下「意見書」という。)において、進歩性の判断の観点からるる主張する(意見書9頁?11頁)が、上記fの判断は、相違点1について、想到容易とするものではなく、実質的な相違でないとするものであるから、請求人の主張は、上記fの判断を左右するものではない。
また、請求人は、意見書において、刊行物1の(前進)接触角と数値が重複するか否かを認定するに根拠とできる記載は、刊行物1において具体的に(前進)接触角が示されたもの、すなわち、刊行物1における実施例のみである(意見書11頁)、進歩性の判断において、本件出願前の公知技術や技術常識からでなく、本件訂正明細書の記載だけから、「後退接触角」と「接触角」の関係を判断し、一般的には、後退接触角は、接触角に比べ小さくなる傾向があるものと認められるとすること自体、誤りである(意見書9頁)などと主張する。
しかし、上記cのとおり、引用発明1においても後退接触角が存在することが明らかであるから、この後退接触角を想定すること自体に格別の誤りは認められないし、引用発明1における後退接触角を明らかにするために本件訂正明細書の記載を参照することに支障があるものとは解されない。
よって、請求人の上記主張は、採用できない。

(イ)相違点2について
a スペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差を特定することの技術上の意義について、本件訂正明細書には、
「上記スペーサ粒子分散液は、スペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差が0.2以下であることが好ましい。0.2を超えると、スペーサ粒子分散液を保存中にスペーサ粒子が沈降したり、浮遊したりしてしまい、吐出したスペーサ粒子分散液中のスペーサ粒子の数が不均一になることがある。0.1以下であると、スペーサ粒子の径が大きい場合でも、長時間にわたって沈降や浮遊しないので、なお好ましい。」(段落【0072】)との記載がある。

b 上記aによれば、本件訂正発明1における、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差を「0.1以下」とする技術上の意義は、スペーサ粒子の径が大きい場合でも、長時間にわたって沈降や浮遊しないようにすることにあると認められる。

c しかるところ、刊行物2には、前記(2)イのとおりの引用発明2が記載され、同発明は、スペーサ材料を分散させる溶媒とスペーサ材料との比重の差を小さくすることで、スペーサ材料が沈降したり浮上したりすることがなくスペーサ材料が溶媒中に均一に分散し、その結果、液晶表示素子用の基板内面に散布した場合にスペーサ材料が均一に分散して付着し、2枚の基板を貼り合わせた場合に液晶表示素子の全面にわたって均一なギャップを確保する技術を開示するものといえ、当該技術の技術上の意義は、上記bの本件訂正発明1の技術上の意義と共通するものであると認められる。

d そして、引用発明1は、スペーサ粒子を液晶表示装置用基板の遮光領域または遮光領域に相当する領域中に効率的かつ高い精度で選択的に配置することを目的とするものであって、スペーサ粒子を分散液中に均一に配置すべきことが当然要請されるものであるから、引用発明1において、上記cの技術を適用し、スペーサ粒子と、スペーサ粒子分散液のうちスペーサ粒子を除くものとの比重差を小さくすることは、当業者が容易に想到し得たことである。さらに、上記の比重差については、スペーサ粒子分散液の材質、スペーサの粒径、散布条件等を考慮して当業者が適宜設計的に定めるべきものであり、当該比重差を、本件訂正発明1のごとく「0.1以下」とすることに、格別の困難性があるものとは認められない。

e また、本件訂正明細書において、スペーサ粒子の比重と、スペーサ粒子を除く液状部分の比重との差について、実施例1には、「スペーサを除く液状部分の比重に対するスペーサの比重の差」として「0.01」、「0.02」、「0.03」及び「0.05」が開示されている(【0155】【表3】)が、実験例4において「比重差が大きい(比重差:0.29)」(【0159】)ものを対比するにとどまることに照らせば、本件訂正発明1において、上記比重差を「0.1以下」に特定したことに、当業者が予測可能な域を超える程の格別の臨界的意義があるものとは認められない。

f 以上の検討によれば、引用発明1において、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

g 請求人は、引用発明1のインクジェット方式の技術に刊行物2のランダム散布方式の技術を適用することはできない旨主張する(審判請求書23頁?25頁、意見書13頁?15頁)が、上記での検討に照らして採用できない。
また、請求人は、本件訂正発明1において、比重差を「0.1以下」に特定することには、スペーサ粒子の積み重なりが起こりにくいという臨界的意義があると主張する(意見書16頁)が、本件訂正明細書には、請求人主張に係る臨界的意義を認める根拠となる記載は見当たらず、同主張は採用できない。

(ウ)相違点3について
引用発明1においては、スペーサ粒子分散液に粘接着性を向上させるための粘接着性付与剤が添加されていること、刊行物1には、スペーサ粒子の表面に接着層が設けられていてもよい旨の記載がある(前記(1)ア(エ)を参照。)ことに照らして、引用発明1における「スペーサ粒子」は基板に対して固着することが予定されていることが明らかである。
そうであれば、引用発明1における「スペーサ粒子」の基板に対する固着力を一定程度以上のものとすることは、当業者が設計上適宜考慮する程度の事項というべきであって、具体的にどのような固着力とするかは、当業者が設計上適宜定める事項である。
そして、本件訂正明細書には、本件訂正発明1において固着力を特定したことの技術的意義に関し、「上記スペーサ粒子が配置された基板においては、スペーサ粒子の固着力の好ましい下限が0.2μN/個である。より好ましい下限は1μN/個、更に好ましい下限は5μN/個である。
なお、本明細書において、スペーサ粒子の固着力は、例えば、ナノスクラッチ試験機(ナノテック社製)を用いて、基板に触針子を接触させ一定の微小加重をかけながら、基板上を走査させ、凝集し接着剤で固定されたスペーサ粒子に接触子をあてたときに、スペーサ粒子が移動した際の力をスペーサ粒子個数で割ることにより求めることができる。」(【0115】)との記載があるにとどまり、これによれば、相違点3に係る本件訂正発明1における固着力の特定は、好ましいとされる固着力を設計上適宜に定めた以上の意義を生じるものではないと認められる。
してみれば、引用発明1において、相違点3に係る本件訂正発明1における構成とすることは、当業者が設計上適宜なし得る程度のことというべきである。

(エ)本件訂正発明1の効果
a 本件訂正明細書を見ても、本件訂正発明1の奏する効果が、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著なものとは認めるに足る根拠を見いだせない。

b 請求人は、意見書において、本件訂正発明1は、
(a)インクジェット装置を用いてスペーサ粒子分散液の液滴を吐出して基板上の所定の位置に着弾させた後、乾燥させることによりスペーサ粒子を基板上に配置する工程を有する液晶表示装置の製造方法であって、正確にスペーサ粒子を所定の位置に配置することができる液晶表示装置の製造方法、及び、該液晶表示装置の製造方法に好適に用いることができるスペーサ粒子分散液を提供することができる、
(b)スペーサ粒子と基板との間に接着剤が入り込みセルギャップを不均一したりすることがあるという問題があったのを解消するという接着成分含有時の問題点をも解消するだけでなく、接着成分を含有するスペーサ粒子分散液が問題とするスペーサ粒子の積み重なりが生じないため、乾燥後のスペーサ粒子の最上部と基板との間隔のばらつきが10%以下と正確にセルギャップを実現でき、
(c)スペーサ粒子の振動試験前後における遮光領域の配置率も変化が少なく、正確にスペーサ粒子を所定の位置に、かつ振動にも耐えうる固着力で配置することができる
という効果を奏し、これらの効果は、刊行物1又は刊行物2の記載からは予測することのできない格別顕著なものである旨主張する(意見書18頁?19頁)。
しかし、上記(a)の効果は、引用発明1においても奏される効果と認められる。また、前記ア(オ)によれば、引用発明1は、スペーサ粒子分散液が接着成分を含有する点において本件訂正発明1と相違しないものと認められるところ、上記(b)の効果に係る、スペーサ粒子の最上部と基板との間隔のばらつきにおいて、本件訂正発明1が引用発明1から予測し得ない効果を奏すると認めるに足る根拠ないし構成上の相違は認められない。更に、上記(c)の効果についても、正確にスペーサ粒子を所定の位置に配置する点において、本件訂正発明1が引用発明1から予測し得ない効果を奏すると認めるに足る根拠ないし構成上の相違は認められないし、振動に耐え得る点も、引用発明1において、当業者が設計上固着力を一定程度以上のものとすることにより当然奏される効果であって、当業者が予測困難な程の格別顕著な効果とは認められない。
よって、請求人の上記主張をもって、本件訂正発明が、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、刊行物1及び刊行物2にそれぞれ記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第126条第5項に規定する要件に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-06 
結審通知日 2011-12-09 
審決日 2011-12-20 
出願番号 特願2006-534494(P2006-534494)
審決分類 P 1 41・ 121- Z (G02F)
P 1 41・ 575- Z (G02F)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 北川 創
松川 直樹
吉野 公夫
岡▲崎▼ 輝雄
登録日 2007-03-02 
登録番号 特許第3924587号(P3924587)
発明の名称 液晶表示装置の製造方法及びスペーサ粒子分散液  
代理人 石井 良夫  
代理人 城所 宏  
代理人 吉見 京子  
代理人 後藤 さなえ  
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