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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H03B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H03B
管理番号 1252741
審判番号 不服2009-23997  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-04 
確定日 2012-02-22 
事件の表示 特願2001-520935「良好な雑音耐性を有する広帯域電圧制御発振器」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月 8日国際公開、WO01/17100、平成16年 3月 4日国内公表、特表2004-507118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成12年8月31日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1999年9月1日、アメリカ合衆国;1999年12月15日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成14年3月1日付けで国内書面(明細書、図面、要約書についての翻訳文)が提出され、平成20年11月28日付けで、意見書を提出するための相当の期間を指定して拒絶理由の通知がなされたが、出願人からは応答がなく、平成21年7月31日付けで拒絶査定がなされ、その後、平成21年12月4日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年3月1日付けの国内書面(明細書の翻訳文)の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 雑音の影響を受けない広帯域共振回路において、
共振回路に対する入力としての第1のフィルタ素子と、
第1の可変コンデンサと、
フィルタ素子の出力を第1の可変コンデンサに結合させる第1の同調コンデンサとを具備し、
同調コンデンサと可変コンデンサとのキャパシタンスが制御電圧の印加により調整され、共振回路の共振周波数はフィルタ素子、第1の同調コンデンサ、第1の可変コンデンサにより決定される共振回路。」

3.発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないことについて

(1)原査定の拒絶の理由のうち、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないことに関するものは、以下のとおりである。
「次のaのとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?8に係る発明に関し、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
a.発明の詳細な説明には、請求項1?8の各請求項に係る発明、本発明の好ましい実施形態の各々により本願明細書記載の課題が如何にして解決されるのかが、明確に説明されていない。
特に、雑音に関連した課題が如何にして解決されるのかが、不明である。本願明細書の第0040段落の記載は全般的に不明確であり、また、第0040段落に記載されているようになる理由も不明である。」

(2)当審の判断
当審も、本願の発明の詳細な説明は、「本願発明に関し、経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」とはいえないと判断する。
理由は以下のとおりである。
すなわち、本願明細書記載の課題が本願発明の構成により如何にして解決されるのか(どのような原理で課題が解決されるのか、あるいは、本願発明に含まれる具体的構成物と課題の解決状況の間にどのような関係があるのか、といった事項)が理解できて初めて、当業者は本願発明を実施することができるというべきであるが、本願の発明の詳細な説明の記載では、「雑音に対して影響を受けない回路を設計する」という本願明細書記載の課題が本願発明の構成により如何にして解決されるのかが理解できない。
特に、本願の発明の詳細な説明の段落0040には、上記「雑音に対して影響を受けない回路を設計する」という本願明細書記載の課題が如何にして解決されるのかを説明しようとしたものと思われる記載として、「共振回路は同じノードで第1の同調コンデンサ432と第1の可変容量ダイオード442とのカソードを接続する。したがって、第1の同調コンデンサ432のアノードを通して第1の同調コンデンサ432と第1の可変容量ダイオード442に結合される任意のAC雑音は逆の態様で2つの可変容量ダイオードに対してバイアスを及ぼす。容量性電圧分割器に結合されるAC雑音は第1の可変容量ダイオード442に渡って現れるのと逆の極性で第1の同調コンデンサ432に渡って現れる。この効果は共振回路上のAC雑音の影響をさらに減少させる。AC雑音が第1の同調コンデンサ432上の逆バイアス電圧を増加させると、第1の可変容量ダイオード442上の逆バイアス電圧はそれに対応して減少する。これは可変容量ダイオード上の雑音の影響を完全にキャンセルするものではないが、雑音の影響を減少させる。」という記載があるが、その記載を技術常識に照らしても、「第1の同調コンデンサ432のアノードを通して第1の同調コンデンサ432と第1の可変容量ダイオード442に結合される任意のAC雑音」が何故「逆の態様で2つの可変容量ダイオードに対してバイアスを及ぼす」ことになるのかが理解できず、上記「雑音に対して影響を受けない回路を設計する」という本願明細書記載の課題が如何にして解決されるのかは、不明なままである。
そして、この点は、上記「(1)」に転記したように、原査定の拒絶の理由として具体的に指摘されていた事項であるが、審判請求人は、それに対する釈明を何ら行っていない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4.特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことについて

(1)原査定の拒絶の理由のうち、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことに関するものは、以下のとおりである。
「次のaのとおりであるから、請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
a.請求項1?8には、本願明細書記載の課題を解決するに足り且つ発明の詳細な説明に記載したものと対応した技術的事項が明確に記載されていない。」

(2)当審の判断
当審も、本願発明は、「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえないと判断する。
理由は以下のとおりである。
すなわち、特許法第36条第6項第1号の規定の趣旨に照らせば、「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合」には、当該請求項に係る発明は「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえないというべきであるが、本願の請求項1は、上記「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合」に該当する。
敷えんするに、上記「3.」の「(2)」で述べたように、発明の詳細な説明の記載からは、「本願明細書記載の課題が如何にして解決されるのか」が理解できないため、本願においては上記「発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段」自体が明確でないということではあるが、仮に、上記「3.」の「(2)」で指摘した本願の発明の詳細な説明の段落0040の記載が正しいとすると、そこでいう上記「第1の同調コンデンサ432のアノードを通して第1の同調コンデンサ432と第1の可変容量ダイオード442に結合される任意のAC雑音は逆の態様で2つの可変容量ダイオードに対してバイアスを及ぼす」という作用が実現され得る構成が「発明の課題を解決するための手段」として必須のものであると考えられるが、本願の請求項1には、「第1の可変コンデンサ」と「第1の同調コンデンサ」が「可変容量ダイオード」である旨の記載も、それらが相互に、また「制御電圧」と具体的にどのように接続されるのかについての記載もないから、該本願の請求項1は、上記作用が実現され得る構成であるとはいえない。そして、このことは、本願の請求項1が、上記「請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなる場合」に該当することを意味している。
なお、審判請求人は、上記「(1)」に転記した原査定における指摘事項に対しても、単に「本願の出願当初の請求項1?8に係る技術的事項は、本願の発明の詳細な説明に記載したものと対応しているものと思量致します。」と述べるだけで、具体的釈明(何故請求項の記載が課題を解決するに足りるものといえるのかに関する説明)を何ら行っていない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5.本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて

(1)引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-36657号公報(以下、「引用例」という。)の図5を技術常識に照らすと、同図5に示される「C3」及び「L」、「D1」、「D2」は、それぞれ、「共振回路に対する入力としての第1のフィルタ素子」、「第1の可変コンデンサ」、「フィルタ素子の出力を第1の可変コンデンサに結合させる第1の同調コンデンサ」とも呼び得るから、引用例には、以下の発明(以下、「引用例記載発明」と呼ぶ。)が記載されているといえる。
「共振回路に対する入力としての第1のフィルタ素子と、
第1の可変コンデンサと、
フィルタ素子の出力を第1の可変コンデンサに結合させる第1の同調コンデンサとを具備し、
同調コンデンサと可変コンデンサとのキャパシタンスが制御電圧の印加により調整され、共振回路の共振周波数はフィルタ素子、第1の同調コンデンサ、第1の可変コンデンサにより決定される共振回路。」

(2)対比
本願発明と引用例記載発明と対比すると、両者の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「共振回路に対する入力としての第1のフィルタ素子と、
第1の可変コンデンサと、
フィルタ素子の出力を第1の可変コンデンサに結合させる第1の同調コンデンサとを具備し、
同調コンデンサと可変コンデンサとのキャパシタンスが制御電圧の印加により調整され、共振回路の共振周波数はフィルタ素子、第1の同調コンデンサ、第1の可変コンデンサにより決定される共振回路。」である点。

(相違点)
本願発明は、「雑音の影響を受けない広帯域共振回路」であるのに対し、引用例記載発明は、「雑音の影響を受けない広帯域共振回路」であるとは限らない(引用例には、その図5に示される回路が、雑音の影響を受けない旨の明示的記載も、広帯域である旨の明示的記載もない)点。

(3)当審の判断
ア.上記相違点について
(ア)上記相違点の技術的意味合いについて
上記相違点についての容易性を検討する前に、該相違点の技術的意味合いを検討する。
電気回路一般において、雑音の影響を完全にゼロにすることは通常できないと考えられること、本願明細書の段落【0040】にも「これは可変容量ダイオード上の雑音の影響を完全にキャンセルするものではないが、雑音の影響を減少させる。」との記載があること等の事情に鑑みれば、本願発明でいう「雑音の影響を受けない」は、「本願の図3に示されるような回路構成のものに比して雑音の影響を受けにくい」といった程度の技術的意味合いを有する記載であると解される。
また、本願明細書の段落【0020】の「広帯域同調能力は単一のVCOを複数帯域のワイヤレス電話機応用に使用できるようにする。」の記載等によれば、本願発明でいう「広帯域」は、「同じ『制御電圧の変化範囲』に対する『共振周波数の変化範囲』が本願の図3に示されるような回路構成のものに比して広い」といった程度の技術的意味合いを有する記載であると解される。
したがって、上記相違点は、「本願発明の共振回路は、本願の図3に示されるような回路構成のものに比して雑音の影響を受けにくく、同じ『制御電圧の変化範囲』に対する『共振周波数の変化範囲』が同図3に示されるような回路構成のものに比して広い共振回路であるのに対し、引用例記載発明の共振回路は、そのようなものであるとは限らない点」といった程度の技術的意味合いを有する相違点であるといえる。

(イ)上記相違点についての容易性について
以下の事情を勘案すると、引用例記載発明の「共振回路」を、「本願の図3に示されるような回路構成のものに比して雑音の影響を受けにくく、同じ『制御電圧の変化範囲』に対する『共振周波数の変化範囲』が同図3に示されるような回路構成のものに比して広い共振回路」とすることは、当業者が容易になし得たことというべきである。
a.「雑音の影響を受けにくい」という特性は、電子回路一般において望まれる特性である。
b.引用例の段落【0009】の「発振周波数範囲広げるために、図5のように、コンデンサーC4に代えて、バラクタダイオードD2を用いることがある。このような構成にすることにより、図7(b)に示すように発振周波数を広げることができる。」との記載から明らかなように、引用例記載発明も、本願発明でいう「広帯域」に相当する特性を指向したものである。
c.「引用例の図5に示される回路構成」と、本願発明の技術的範囲に含まれる「本願の図4に示される回路構成から本願の段落【0038】の記載事項にしたがって平衡共振回路の第2の入力端子に接続されたすべての回路素子を除去した回路構成」とを比較して明らかなように、両者は実質的に同じ構成であり、引用例の図5に示される回路構成のものを普通に作製すれば、本願発明と同様に、「本願の図3に示されるような回路構成のものに比して、雑音の影響を受けにくく、同じ『制御電圧の変化範囲』に対する『共振周波数の変化範囲』が、同図3に示されるような回路構成のものに比して広い共振回路」が当然に構成されると考えられる。
d.以上のことは、引用例記載発明の「共振回路」を、「本願の図3に示されるような回路構成のものに比して雑音の影響を受けにくく、同じ『制御電圧の変化範囲』に対する『共振周波数の変化範囲』が同図3に示されるような回路構成のものに比して広い共振回路」とすることが当業者にとって容易であったことを意味している。

イ.本願発明の効果について
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用例記載発明を普通に具現化して得られるものが当然に有している効果であって、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。

なお、審判請求人は、「本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである」旨の原査定の拒絶の理由に対しても、単に「本願の出願当初の請求項1?8に係る発明の構成は、引例1(審決注:本審決でいう「引用例」)に開示されている発明の構成と異なる」と述べるだけで、具体的主張(本願発明が引例1に開示されている発明に対して何故進歩性を有しているといえるのか)を一切行っていない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の拒絶の理由について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-09-22 
結審通知日 2011-09-27 
審決日 2011-10-11 
出願番号 特願2001-520935(P2001-520935)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H03B)
P 1 8・ 121- Z (H03B)
P 1 8・ 536- Z (H03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 長島 孝志
甲斐 哲雄
発明の名称 良好な雑音耐性を有する広帯域電圧制御発振器  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 村松 貞男  
代理人 中村 誠  
代理人 河井 将次  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 勝村 紘  
代理人 白根 俊郎  
代理人 竹内 将訓  
代理人 佐藤 立志  
代理人 市原 卓三  
代理人 岡田 貴志  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 山下 元  

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