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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1252769
審判番号 不服2010-6567  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-29 
確定日 2012-02-24 
事件の表示 特願2008-559008「SOI基板およびSOI基板を用いた半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月22日国際公開、WO2009/011152〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2008年3月25日(優先権主張2007年7月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成21年9月10日に手続補正がなされ、同年11月26日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、平成22年3月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後当審において平成23年9月20日付けで審尋がなされ、同年11月17日に回答書が提出されたものである。

2.平成22年3月29日付けの手続補正について
【補正の却下の決定の結論】
平成22年3月29日付けの手続補正を却下する。

【理由】
(1)補正の内容
平成22年3月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に補正するものであり、補正前後の請求項は、以下のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有することを特徴とするSiC、サファイア、窒化珪素、および窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられた半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。
【請求項2】
請求項1に記載のSOI基板の前記半導体層に半導体素子の少なくとも一部の領域を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
直径400mmの円の面積を超える面積を有する素子形成用基板を用意する工程と、直径400mmの円の面積を超える面積、及び、前記素子形成用基板よりも高い曲げ強度及びヤング率を備え、前記素子形成用基板を支持する基体を用意する工程と、前記素子形成用基板及び前記基体の少なくとも一方に絶縁膜を形成する工程と、前記素子形成用基板と前記基体とを前記絶縁膜を介して貼り合わせる工程と、貼り合わせた後、前記素子形成用基板を前記基体から機械的に切り離して、SOI基板を作成する工程とを有し、切り離された前記素子形成用基板を再利用する工程を含むことを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記素子形成用基板の面のうち、少なくとも、前記基体と貼り合わされる面側に、H(水素)イオン、Ar(アルゴン)イオン、He(ヘリウム)イオン、Kr(クリプトン)イオン、Ne(ネオン)イオンのいずれか一種類、或いは、これらの組み合わせによる複数種のイオンを注入する工程を有し、そのイオンの注入後、前記基体と前記素子形成用半導体基板との貼り合わせ工程が行われることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記素子形成用基板材料がシリコンであり、他方、前記基体材料が炭化珪素、サファイア、窒化珪素、及び、窒化アルミニウムの群からなる少なくとも一つを含むことを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか一項において、前記素子形成用基板及び前記基体上に形成される前記絶縁膜はSiO_(2)膜及び窒化酸化珪素膜のいずれかであることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1においてSOI基板の形状が四角形であることを特徴とするSOI基板。
【請求項8】
請求項3において作成されるSOI基板の形状が四角形であることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の基体であって、180W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とするSiC、及び窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられた半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。」

(補正後)
「【請求項1】
200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有すると共に、180W/m・Kの熱伝導率を有することを特徴とするSiCの基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられ、前記基体の前記曲げ強度および前記ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。
【請求項2】
200MPa以上の曲げ強度と180W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする窒化アルミニウムの基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられ、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を備えた半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のSOI基板の前記半導体層に半導体素子の少なくとも一部の領域を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
直径400mmの円の面積を超える面積を有する素子形成用基板を用意する工程と、直径400mmの円の面積を超える面積、及び、前記素子形成用基板よりも高い曲げ強度及びヤング率を備え、前記素子形成用基板を支持する、前記素子形成用基板と同等の大きさを有するSiC又は窒化アルミニウムの基体を用意する工程と、前記素子形成用基板及び前記基体の少なくとも一方に絶縁膜を形成する工程と、前記素子形成用基板と前記基体とを前記絶縁膜を介して貼り合わせる工程と、貼り合わせた後、前記素子形成用基板を前記基体から機械的に切り離して、SOI基板を作成する工程とを有し、切り離された前記素子形成用基板を再利用する工程を含むことを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記素子形成用基板の面のうち、少なくとも、前記基体と貼り合わされる面側に、H(水素)イオン、Ar(アルゴン)イオン、He(ヘリウム)イオン、Kr(クリプトン)イオン、Ne(ネオン)イオンのいずれか一種類、或いは、これらの組み合わせによる複数種のイオンを注入する工程を有し、そのイオンの注入後、前記基体と前記素子形成用半導体基板との貼り合わせ工程が行われることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記素子形成用基板材料がシリコンであることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項において、前記素子形成用基板及び前記基体上に形成される前記絶縁膜はSiO_(2)膜及び窒化酸化珪素膜のいずれかであり、前記絶縁膜は前記素子形成用基板の表裏面だけでなく、側面にも形成されていることを特徴とするSOI基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1においてSOI基板の形状が四角形であることを特徴とするSOI基板。
【請求項9】
請求項4において作成されるSOI基板の形状が四角形であることを特徴とするSOI基板の製造方法。」

(2)補正事項の整理
(補正事項a)補正前の請求項1を、補正後の請求項1の
「【請求項1】
200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有すると共に、180W/m・Kの熱伝導率を有することを特徴とするSiCの基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられ、前記基体の前記曲げ強度および前記ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。」
と補正すること。

(補正事項b)補正前の請求項9を、独立項に書き改めるとともに、補正後の請求項2の
「【請求項2】
200MPa以上の曲げ強度と180W/m・K以上の熱伝導率を有することを特徴とする窒化アルミニウムの基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられ、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を備えた半導体層を有し、前記基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していないことを特徴とするSOI基板。」
と補正すること。

(補正事項c)補正前の請求項3を、補正後の請求項4の
「【請求項4】
直径400mmの円の面積を超える面積を有する素子形成用基板を用意する工程と、直径400mmの円の面積を超える面積、及び、前記素子形成用基板よりも高い曲げ強度及びヤング率を備え、前記素子形成用基板を支持する、前記素子形成用基板と同等の大きさを有するSiC又は窒化アルミニウムの基体を用意する工程と、前記素子形成用基板及び前記基体の少なくとも一方に絶縁膜を形成する工程と、前記素子形成用基板と前記基体とを前記絶縁膜を介して貼り合わせる工程と、貼り合わせた後、前記素子形成用基板を前記基体から機械的に切り離して、SOI基板を作成する工程とを有し、切り離された前記素子形成用基板を再利用する工程を含むことを特徴とするSOI基板の製造方法。」
と補正すること。

(補正事項d)補正前の請求項5を、補正後の請求項6の
「【請求項6】
請求項4又は5において、前記素子形成用基板材料がシリコンであることを特徴とするSOI基板の製造方法。」
と補正すること。

(補正事項e)補正前の請求項6を、補正後の請求項7の
「【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項において、前記素子形成用基板及び前記基体上に形成される前記絶縁膜はSiO_(2)膜及び窒化酸化珪素膜のいずれかであり、前記絶縁膜は前記素子形成用基板の表裏面だけでなく、側面にも形成されていることを特徴とするSOI基板の製造方法。」
と補正すること。

(補正事項f)上記の補正の伴い、補正前の請求項2ないし9の引用関係及び項番を整理すること。

(2)補正の目的の適否および新規事項の追加の有無についての検討
(2-1)補正事項aについて
(2-1-1)補正前の請求項1における「200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有する」を、補正後の請求項1における「200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有すると共に、180W/m・Kの熱伝導率を有する」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「180W/m・Kの熱伝導率を有する」は、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に基づく補正であり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(2-1-2)補正前の請求項1における「SiC、サファイア、窒化珪素、および窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体と、」を、補正後の請求項1における「SiCの基体と、」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-1-3) 補正前の請求項1における「該絶縁物層上に設けられた半導体層を有し、」を、補正後の請求項1における「該絶縁物層上に設けられ、前記基体の前記曲げ強度および前記ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する半導体層を有し、」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「前記基体の前記曲げ強度および前記ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する」は、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に基づく補正であり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(2-2)補正事項bについて
(2-2-1)補正前の請求項9が引用する補正前の請求項1における「200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有する」及び補正前の請求項9における「180W/m・K以上の熱伝導率を有する」を、補正後の請求項2における「200MPa以上の曲げ強度と180W/m・K以上の熱伝導率を有する」とする補正については、「290GPa以上のヤング率を有する」という発明特定事項を削除する補正であるから、特許請求の範囲の減縮に該当せず、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれを目的とするものにも該当しない。

(2-2-2)補正前の請求項9が引用する補正前の請求項1における「SiC、サファイア、窒化珪素、および窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体と、」及び補正前の請求項9における「SiC、及び窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体と、」を、補正後の請求項2における「窒化アルミニウムの基体と、」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-2-3)補正前の請求項9が引用する補正前の請求項1及び補正前の請求項9における「該絶縁物層上に設けられた半導体層を有し、」を、補正後の請求項2における「該絶縁物層上に設けられ、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を備えた半導体層を有し、」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を備えた」は、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に基づく補正であり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(2-3)補正事項cについて
(2-3-1)補正前の請求項3における「前記素子形成用基板を支持する基体を用意する工程と、」を、補正後の請求項4における「前記素子形成用基板を支持する、前記素子形成用基板と同等の大きさを有するSiC又は窒化アルミニウムの基体を用意する工程と、」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「前記素子形成用基板と同等の大きさを有するSiC又は窒化アルミニウムの基体」は、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に基づく補正であり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(2-4)補正事項dについて
(2-4-1)補正前の請求項5における「前記素子形成用基板材料がシリコンであり、他方、前記基体材料が炭化珪素、サファイア、窒化珪素、及び、窒化アルミニウムの群からなる少なくとも一つを含む」を、補正後の請求項6における「前記素子形成用基板材料がシリコンである」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-5)補正事項eについて
(2-5-1)補正前の請求項6における「前記素子形成用基板及び前記基体上に形成される前記絶縁膜はSiO_(2)膜及び窒化酸化珪素膜のいずれかである」を、補正後の請求項7における「前記素子形成用基板及び前記基体上に形成される前記絶縁膜はSiO_(2)膜及び窒化酸化珪素膜のいずれかであり、前記絶縁膜は前記素子形成用基板の表裏面だけでなく、側面にも形成されている」とする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、「前記絶縁膜は前記素子形成用基板の表裏面だけでなく、側面にも形成されている」は、本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明に基づく補正であり、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項の追加禁止の要件を満たしている。

(3)独立特許要件について
(3-1)検討の前提
上記(2-2-1)において検討したとおり、本件補正は特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないが、仮に、本件補正が当該要件を満たすものであるとした場合には、上記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものであるから、本件補正が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、一応検討する。

(3-2)補正後の請求項1に係る発明
本件補正による補正後の請求項1に係る発明(以下「補正後の発明」という。)は、
平成22年3月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(3-3)刊行物に記載された発明
(3-3-1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前である平成13年12月11日に頒布された刊行物である特表2001-525991号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図12?15とともに、以下の事項が記載されている。(なお、下線「 」は、当審において、特に強調する点に付与したものである。以下同様。)

「前述の実施形態を基体から材料の薄膜を劈開することに関して説明した。しかしながら、基体は制御された劈開プロセスの前にスチフナ等のようなワークピース上に配置されることができる。ワークピースは制御された劈開プロセス中に材料の薄膜に構造上の支持を与えるために基体の上部表面または注入された表面に接合する。ワークピースは種々の結合または接合技術、例えば静電的、接着剤、原子間接合を使用して基体に接合されることができる。これらのうちの幾つかの結合技術をここで説明する。ワークピースは誘電材料(例えば水晶、ガラス、サファイヤ、窒化シリコン、二酸化シリコン)と、導電材料(シリコン、炭化シリコン、ポリシリコン、III/V族材料、金属)と、プラスティック(例えばポリイミドベースの材料)から作られている。勿論、使用されるワークピースのタイプは応用に依存している。」(第19頁第29行?第20頁第11行)
「2.シリコン・オン・絶縁体プロセス
本発明によるシリコン・オン・絶縁体基体を製造するプロセスを以下、簡単に概略する。
(1)(誘電材料で被覆されてもよい)ドナーシリコンウェハを設け、
(2)シリコンフィルムの厚さを限定するため選択された深さまで粒子をシリコンウェハ中に導入し、
(3)(誘電材料で被覆されてもよい)ターゲット基体材料を設け、
(4)注入された表面をターゲット基体材料に接合することによってドナーシリコンウェハをターゲット基体材料に結合し、
(5)劈開動作(選択的)を開始することなく選択された深さの注入された領域の全般的な応力(またはエネルギ)を増加し、
(6)流体ジェットを使用して、選択された深さにおける制御された劈開動作を開始するために結合された基体の選択された領域に応力(またはエネルギ)を与え、
(7)シリコンウェハ(任意選択的)からシリコンフィルムの厚さを取り除くために制御された劈開動作を維持するように結合された基体に付加的なエネルギを与え、
(8)ドナーシリコンウェハとターゲット基体と完全に結合し、
(9)シリコンフィルムの厚さ表面を研磨する。
上記のステップのシーケンスは本発明により劈開フロントを形成するために多層基体構造の選択された領域へ与えられるエネルギを使用して、制御された劈開動作を開始するステップを与える。この開始ステップは基体に与えられたエネルギ量を限定することにより制御された方法で劈開プロセスを開始する。さらに劈開動作の伝播は、劈開動作を維持するため基体の選択された領域へ付加的なエネルギを与えることにより、またはさらに劈開動作の伝播を行うために開始ステップからのエネルギを使用することによって行われることができる。このステップのシーケンスは単なる1例であり本発明の技術的範囲を限定するものではない。
さらに前述のステップのシーケンスに関する詳細を図面を参照して以下説明する。
図12-18は本発明によりシリコン・オン・絶縁体ウェハの製造プロセスが行われる基体の簡単な断面図である。このプロセスは図12で示されているようにシリコンウェハ2100に類似した半導体基体を設けることにより開始する。基体またはドナーは除去される材料領域2101を含んでおり、これは基体材料から得られた薄くて比較的均一なフィルムである。シリコンウェハは上部表面2103と底部表面2105と厚さ2107とを含んでいる。材料領域もまたシリコンウェハの厚さ2107内に厚さ(z_(0))を含んでいる。任意選択的に誘電層2102(例えば窒化シリコン、酸化シリコン、酸窒化シリコン)は基体の上部表面に存在する。本発明のプロセスはシリコン・オン・絶縁体ウェハを製造するための以下のステップのシーケンスを使用して材料領域2101を除去する新しい優れた技術を提供する。
選択されたエネルギ粒子2109はシリコンウェハの上部表面を通って選択された深さへ注入され、その選択された深さは材料の薄膜と呼ばれる材料領域の厚さを限定する。示されているように、粒子は選択された深さ(z_(0))において所望の濃度2111を有する。エネルギ粒子をシリコンウェハ中に注入するための種々の技術が使用されることができる。これらの技術は、例えばApplied Material、Eaton Corporation Varian、その他の会社から製造されているビームラインイオン注入装置を使用するイオン注入を含んでいる。代わりに、注入はプラズマ浸潰イオン注入(“PIII”)技術を使用して行われることもできる。さらに注入はイオンシャワーを使用して行われることができる。勿論、使用される技術は応用に依存している。」(第20頁第24行?第22頁第16行)
「プロセスは図13で示されているように、注入されたシリコンウェハをワークピースまたはターゲットウェハに接合するステップを使用する。ワークピースは誘電体材料(例えば水晶、ガラス、窒化シリコン、二酸化シリコン)と、導電材料(シリコン、ポリシリコン、III/V族材料、金属)と、プラスティック(例えばポリイミドベースの材料)から作られている基体のような種々のその他のタィプの基体であってもよい。しかしながら、本発明のこの実施例ではワークピースはシリコンウェハである。」(第22頁第28行?第23頁第5行)
「ウェハをサンドウィッチ構造2300に結合した後、図14で示されているように、この方法は絶縁体2305の上に位置する基体材料の薄膜2101をターゲットシリコンウェハ2201に与えるため基体材料を除去する制御された劈開動作を含んでいる。
制御された劈開は、ドナーおよび/またはターゲットウェハへのエネルギソースの選択的なエネルギの位置付けまたは配置またはターゲティング2301、2303により行われる。例えば、エネルギインパルスは劈開動作の開始に使用されることができる。1つのインパルス(または複数のインパルス)はエネルギソースを使用して与えられ、エネルギソースはとりわけ、機械的ソース、化学的ソース、熱シンクまたはソース、電気的ソースを含んでいる。
制御された劈開動作は前述の技術およびその他により開始され、図14により示されている。例えば制御された劈開動作を開始するプロセスは基体の選択された深さ(z_(0))で制御された劈開動作を開始するために基体の選択された領域にエネルギ2301と2303を与えるステップを使用し、ここで劈開動作は基体から除去される基体材料の一部を自由にするため、伝播する劈開フロントを使用して行われる。特定の実施形態では、この方法は前述したように劈開動作を開始するために単一のインパルスを使用する。その代わりに、この方法は開始インパルスを使用し、これに続いて基体の選択された領域への別のインパルスまたは連続的なインパルスが与えられる。代わりに、この方法は基体に沿って、走査されたエネルギにより維持される劈開動作を開始するためにインパルスを与える。代わりにエネルギは基体の選択された領域を横切って走査されることができ、それによって制御された劈開動作を開始および/または維持する。」(第24頁第9行?第25頁第2行)
「ターゲットウェハと材料領域の薄膜との間の最終的な結合ステップが図15に示されているように幾つかの実施形態にしたがって行われる。1実施形態では、1つのシリコンウェハが二酸化シリコンの被覆層を有し、この層は材料の薄膜を清浄にする前に正面上で熱的に成長したものである。二酸化シリコンは例えば化学蒸気付着のようなその他の種々の技術を使用して形成されることもできる。ウェハ表面との間の二酸化シリコンはこのプロセスで共に熱的に融着する。」(第26頁第19?24行)
「ウェハの結合後、シリコン・オン・絶縁体は図15に示されているように、シリコン材料の被覆フィルムと、ターゲット基体とシリコンフィルムとの間に挟まれた酸化層とを有するターゲット基体を具備する。取外されたシリコン材料のフィルム表面はしばしば粗く2404、表面仕上げを必要とする。表面仕上げはグラインダーおよび/または研磨技術の組合わせを使用して行われる。幾つかの実施形態では、取外される表面は、例えば表面の不完全性または粗さを除去するために取外される表面の上に位置する研磨材料を回転するなどの技術を使用して研磨ステップを受ける。“バックグラインダ”のような機械はDiscoと呼ばれる会社により製造され、この技術を与える。」(第27頁第7?15行)
「ある実施形態では、酸化物の薄膜2406は図15で示されているようにターゲットウェハの上に位置する材料のフィルム上に位置する。酸化物層は熱アニールステップ中に形成され、これは材料のフィルムをターゲットウェハに永久に結合することは前述したとおりである。このような実施形態では、仕上げプロセスは第1の除去酸化物に対して選択的に調節され、フィルムは続いてプロセスを完了するために研磨される。勿論、ステップの連続は特定の応用に依存している。」(第28頁第6?11行)

(3-3-2)図15に記載されたターゲットウエハ2201は、ワークピースと等価である。そして、ワークピースを構成する材料として、炭化シリコンが記載されている。また、図15に記載された絶縁体2305は、図12に記載されたシリコンウエハ2100の上部表面に存在する誘電層2102及びターゲットウエハを被覆する誘電材料からなり、誘電層2102として、窒化シリコン、酸化シリコンが記載されている。

(3-3-3)そうすると、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「炭化シリコンからなるターゲットウエハと、
前記ターゲットウエハの表面に形成された酸化シリコン、窒化シリコンからなる絶縁体と、
前記絶縁体の上に形成されたシリコンフィルムと、
からなるシリコン・オン・絶縁体。」

(3-4)対比
(3-4-1)刊行物発明の「炭化シリコンからなるターゲットウエハ」、「ターゲットウエハの表面に形成された酸化シリコン、窒化シリコンからなる絶縁体」、「シリコンフィルム」及び「シリコン・オン・絶縁体」は、補正後の発明の「SiCの基体」、「酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層」、「半導体層」及び「SOI基板」に相当する。

(3-4-2)そうすると、補正後の発明と刊行物発明とは、
「SiCの基体と、酸化珪素および窒化珪素の少なくとも一つを含み、前記基体の一表面に設けられた絶縁物層と、該絶縁物層上に設けられた半導体層を有するSOI基板。」である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1)補正後の発明では、「SiCの基体」が「200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有すると共に、180W/m・Kの熱伝導率を有する」のに対して、刊行物発明では、「炭化シリコンからなるターゲットウエハ」の曲げ強度、ヤング率及び熱伝導率については、特定されていない点。

(相違点2)補正後の発明では、「半導体層」が「基体の」「曲げ強度および」「ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、前記基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する」のに対して、刊行物発明では、「シリコンフィルム」の曲げ強度、ヤング率及び熱伝導率については、特定されていない点。

(相違点3)補正後の発明では、「基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していない」のに対して、刊行物発明では、「ターゲットウエハ」及び「シリコンフィルム」の面積、割れ、撓みについて、特定されていない点。

(3-5)判断
(3-5-1)相違点1について
炭化ケイ素セラミックスが、「200MPa以上の曲げ強度と290GPa以上のヤング率を有する」ことは、以下の周知例1に記載されているように、周知である。また、上記周知例1には、炭化ケイ素セラミックスの熱伝導率が90?170W/m・K(反応焼結の場合)、42?126W/m・K(常圧焼結の場合)であることが記載されているが、炭化ケイ素セラミックスの熱伝導率は、焼成密度、不純物の組成や濃度、原料、焼成温度など製造条件によって変わるものであるから、補正後の発明のような、180W/m・Kという値にすることは、当業者が必要に応じて、適宜なし得る程度のことである。
よって、相違点1は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。

(ア)周知例1:社団法人日本金属学会編「改訂5版 金属便覧」丸善株式会社,平成2年3月31日発行,第103頁(以下「周知例1」という。)の表1・24には、炭化ケイ素セラミックスの熱伝導率、ヤング率及び曲げ強さについて、以下の値が記載されている。

・熱伝導率:90?170W/m・K(反応焼結の場合)、42?126W/m・K(常圧焼結の場合)
・ヤング率:420GPa(反応焼結の場合)、390?480GPa(常圧焼結の場合)
・曲げ強さ(RT):250?530MPa(反応焼結の場合)、400?870MPa

(3-5-2)相違点2について
シリコンの曲げ強度は、以下の周知例2,3によれば、70、80MPaであり、ヤング率は、同じく周知例4によれば、130?198GPaであり、炭化ケイ素のそれよりも小さいことは明らかである。
また、シリコンの熱伝導率は、以下の周知例5によれば、148W/m・Kであるが、上記相違点1で検討したとおり、炭化ケイ素セラミックスの熱伝導率を180W/m・Kという値にすることは、当業者が必要に応じて、適宜なし得る程度のことであるから、シリコンの熱伝導率を炭化ケイ素のそれよりも小さくすることも格別のことではない。
よって、相違点2は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。

(イ)周知例2:特開2007-118590号公報には、以下の記載がなされている。
「【0004】・・・また、シリコン単結晶ウエハは、曲げ強度が約80MPaであるが、さらに大きな曲げ強度の方が信頼性の高いものができる。」

(ウ)周知例3:特開平11-245405号公報には、以下の記載がなされている。
「【0008】また、上記接合体を流路部材22と同材質のシリコンで形成することも考えられるが、シリコンは曲げ強度が70MPa程度とセラミックスや金属に比べて小さいことから、熱圧着時に破損したり、ハンドリング中に破損するといった不具合があった。」

(エ)周知例4:UCS半導体基盤技術研究会編「シリコンの科学」株式会社リアライズ社,1996年6月28日発行,第989頁のTable1には、シリコンのヤング率が、20℃において、130?198GPaであることが記載されている。

(オ)周知例5:岩波「理化学辞典」第5版,岩波書店,1998年2月20日発行,第405頁には、ケイ素の熱伝導率が、148W/m・Kであることが記載されている。

(3-5-3)相違点3について
直径400mmを超えるシリコンウエーハは、以下の周知例6、7に記載されているように、従来から周知であって、ウエハの大口径化は当然の要請にすぎない。また、基体と半導体層を貼り合わせてSOI基板を製造する際に、割れ、撓みのない基体及び半導体層を用いることは、当業者が当然配慮することである。そうすると、刊行物発明においても、直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みのないシリコンフィルム及び炭化シリコンのターゲットウエハを用いることにより、本願発明のように、「基体及び半導体層が直径400mmの円の面積を超える面積を備え、割れ、撓みを有していない」構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
よって、相違点3は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。

(カ)周知例6:特開2000-12411号公報には、以下の記載がなされている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超平坦なシリコン半導体ウェーハ及び超平坦な半導体ウェーハの製造方法に関する。超平坦なシリコン半導体ウェーハは、半導体業界での使用、特に0.13μm以下の線幅を含むエレクトロニクス部品の作製、には好適である。」
「【0012】・・・好ましく製造されるシリコンウェーハは、原則としていかなる直径でもよく、例えば、ウェーハ直径が200mm、300mm、400mm、450mm及び675mmという200mm以上のウェーハ直径が、主として半導体作製(好ましくは0.13μm以下の極めて狭い線幅を含む大規模集積回路の経済的作製)の後加工産業の要求形状なので特に好ましい。・・・」

(キ)周知例7:特開2002-289562号公報には、以下の記載がなされている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は半導体ウェーハの製造方法、例えば300mmウェーハ,450mmウェーハなどの大口径ウェーハの製造に有利な半導体ウェーハの製造方法に関する。」

(3-6)独立特許要件についてのまとめ
以上、検討したとおり、補正後の発明と刊行物発明との相違点は、いずれも、当業者が、引用刊行物に記載された発明及び周知技術を勘案することにより容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、補正後の発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

(4)補正の却下についてのむすび
本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たさないものであり、また、仮に、そのような違反がなく、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合においても、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成22年3月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年9月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載されている事項により特定される上記2.(1)の補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

4.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物には、上において検討したとおり、上記2.(3-3-1)に記載したとおりの事項及び上記2.(3-3-2)において認定したとおりの発明(刊行物発明)が記載されているものと認められる。

5.判断
上記2.(2)において検討したとおり、補正後の請求項1は、補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「基体」について、「180W/m・Kの熱伝導率を有する」と限定し、同じく補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「SiC、サファイア、窒化珪素、および窒化アルミニウムからなる群の少なくとも一つを含む基体」について、「SiCの基体」と限定し、同じく補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「半導体層」について、「基体の」「曲げ強度および」「ヤング率よりも小さい曲げ強度及びヤング率を備えると共に、」「基体の熱伝導率よりも小さい熱伝導率を有する」と限定したものである。逆に言えば本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,補正後の発明から上記の限定をなくしたものである。
そうすると、上記2(3)において検討したように、補正後の発明が,引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当然に当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-22 
結審通知日 2011-12-28 
審決日 2012-01-11 
出願番号 特願2008-559008(P2008-559008)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 齋藤 恭一
特許庁審判官 松田 成正
小野田 誠
発明の名称 SOI基板およびSOI基板を用いた半導体装置  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  

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