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審決分類 審判 査定不服 特37 条出願の単一性( 平成16 年1 月1 日から) 特許、登録しない。 B05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1252945
審判番号 不服2009-18391  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-30 
確定日 2012-03-01 
事件の表示 特願2005-311033「パターン状の微粒子膜およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月17日出願公開、特開2007-117827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年10月26日の出願であって、平成21年6月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成21年9月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成21年9月30日付け手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成21年9月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【理由】
2-1.本件補正
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項3及び16に、
「【請求項3】
基材表面を少なくとも第1のアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に接触させてアルコキシシラン化合物と前記基材表面を反応させて前記基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、前記第1の反応性の有機膜を所定のパターンに加工する工程と、微粒子を少なくとも第2のアルコキシシラン化合物とシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に分散させてアルコキシシラン化合物と前記微粒子表面を反応させて前記微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、第1の反応性の有機膜の形成された前記基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を接触させて選択的に反応させる工程と、余分な第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を洗浄除去することを特徴とするパターン状の単層微粒子膜の製造方法。
【請求項16】
シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする請求項3および11から15のいずれか1項に記載のパターン状の単層微粒子膜およびパターン状の積層微粒子膜の製造方法。」
とあるのを、請求項1及び9として、
「 【請求項1】
少なくとも、エポキシ基を含む第1のアルコキシシラン化合物と、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は複数からなるシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液を基材表面と接触させて、前記第1のアルコキシシラン化合物と前記基材表面を反応させて前記基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、
前記第1の反応性の有機膜を所定のパターンに加工する工程と、
少なくとも、アミノ基を含む第2のアルコキシシラン化合物と、カルボン酸金属(スズを除く)塩、カルボン酸エステル金属(スズを除く)塩、カルボン酸金属(スズを除く)塩ポリマー、カルボン酸金属(スズを除く)塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は複数からなるシラノール縮合触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に微粒子を分散させて、前記第2のアルコキシシラン化合物と前記微粒子表面を反応させて前記微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、
前記第1の反応性の有機膜の形成された前記基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を接触させて選択的に反応させる工程と、
余分な前記第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を洗浄除去する工程とを有することを特徴とするパターン状の単層微粒子膜の製造方法。
【請求項9】
前記シラノール縮合触媒の代わりに、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることを特徴とする請求項1及び5から8のいずれか1項に記載のパターン状の単層微粒子膜及びパターン状の積層微粒子膜の製造方法。」
とする補正を含むものである。

補正後の請求項1は、補正前の請求項3の記載において、第1のアルコキシシラン化合物に「エポキシ基を含む」こと、第2のアルコキシシラン化合物に「アミノ基を含む」こと、第1のアルコキシシラン化合物と混合するシラノール縮合触媒を「カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は複数からなる」こと、及び第2のアルコキシシラン化合物と混合するシラノール縮合触媒を「カルボン酸金属(スズを除く)塩、カルボン酸エステル金属(スズを除く)塩、カルボン酸金属(スズを除く)塩ポリマー、カルボン酸金属(スズを除く)塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は複数からなる」ことの限定を付加するものである。また、この補正により、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもないことは明らかである。
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1及び9に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2-2.本願補正発明
本件補正後の請求項1及び9に記載された発明(以下、「本願補正発明1」及び「本願補正発明9」という。)は、本件補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、それぞれ特許請求の範囲の請求項1及び9に記載された事項(上記「2-1.本件補正」の補正後の請求項1及び9参照)により特定されたとおりのものと認める。

2-3.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-168606号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の事項及び引用発明が記載されている。

(1)「【請求項1】 基板上に微粒子を配列させた構造体であって、
前記微粒子の表面には前記微粒子の表面と結合した有機コーティング膜が形成され、
前記基板表面には前記基板表面と結合した有機コーティング膜が形成され、
前記微粒子表面の有機コーティング膜と前記基板表面の有機コーティング膜との間で結合して、前記基板上に前記微粒子が固定配列されていることを特徴とする微粒子配列体。
【請求項2】 前記微粒子の配列が、単層であるセルフアセンブル(self assemble)膜である請求項1に記載の微粒子配列体。
・・・
【請求項6】 前記微粒子が、前記基板表面にパターニングされて配列されている請求項1に記載の微粒子配列体。
・・・
【請求項13】 基板上に微粒子配列体を製造する方法であって、
個々の前記微粒子表面に有機コーティング膜を形成し、
前記基板表面に有機コーティング膜を形成し、
前記微粒子表面の有機コーティング膜と前記基板表面の有機コーティング膜とを接触させ、双方の有機コーティング膜の間で結合を形成させることを特徴とする微粒子配列体の製造方法。
・・・
【請求項15】 前記微粒子表面の有機コーティング膜と前記基板表面の有機コーティング膜との間で結合を形成させる方法が、
前記基板上に形成された有機コーティング膜にエネルギー線を照射し、
前記照射部分の有機コーティング膜を除去することにより、前記基板表面の残余部分の有機コーティング膜と微粒子表面の有機コーティング膜との間で化学結合を形成させる請求項13に記載の微粒子配列体の製造方法。
・・・
【請求項23】 前記有機コーティング膜が単分子膜または単分子膜を出発材料とした重合膜である請求項13に記載の微粒子配列体の製造方法。
【請求項24】 単分子膜がセルフアセンブル膜であって、かつチオール基、クロロシラン基、配位結合基、イソシアネート基及びアルコキシシラン基から選ばれる少なくとも一つの反応基を含む分子で形成されている請求項23に記載の微粒子配列体の製造方法。」(特許請求の範囲参照)

(2)「前記微粒子に形成した単分子膜と、基板に形成した単分子膜の結合の一例を図27-28に示したが、下記にも示す。
(1) アミノ基と-ClCO基反応系
(2) 水酸基と-ROSi基反応系
(3) ベンジル基とアミノ基反応系
(4) ベンジル基とフェニル基反応系
(5) アルデヒド基とアミノ基反応系
(6) フェニル基とアルキル基反応系
(7) フェニル基と-ClCO基反応系
(8) ベンジル基とベンゾアルデヒド基反応系
(9) イソシアネート基とアミノ基反応系
(10) イソシアネート基と水酸基反応系
(11) エポキシ基とアミノ基反応系
(12) カルボキシル基と水酸基反応系
(13) 不飽和結合基とハロゲン基反応系
(14) カルボキシル基とアミノ基反応系
図27-28において、R_(1),R_(2)はそれぞれ炭素数1以上30以下のアルキル鎖を主とする基、ただし、R_(1)およびR_(2)には基板または微粒子と結合可能な官能基(クロロシラン基、チオール基、イソシアネート基、アルコキシシラン基、配位結合を形成する基)がある。また、当該官能基に不飽和結合、環状基(ベンゼン環、ヘテロ環、シクロ環、単環式炭化水素基、多環式炭化水素基など)、化学合成上必要な結合基(エステル結合基、エーテル結合基、イオウを含む結合基、チッソを含む結合基など)を含む場合がある。R_(1)およびR_(2)は同一の基であっても別々の基であってもよい。」(段落【0035】参照)及び図27、28

(3)「(実施例3)本実施例について図7A-C、図8A-C及び図9A-Bを用いて説明する。
エチルアルコールを溶媒にして末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))の0.01モル溶液を作成した。この溶液50mLに磁性Co微粒子20を10mgを加えて、緩やかに攪拌し、つぎに反応促進のため1M塩化水素水を1mL加えてさらに攪拌した。半時間後に固液分離を行って、平均粒子直径9nmの磁性Co微粒子を取り出し、エチルアルコール100mL中に当該磁性Co微粒子約10mgを入れて、緩やかに攪拌して洗浄した。その後、再び固液分離を行って磁性微粒子を取り出した。次に当該磁性微粒子を120℃に設定した加熱装置に入れて、半時間静置した。これらの操作によって磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜21が形成された(図7A-C)。」(段落【0130】-【0131】参照)

(4)「一方、シリコン基材22の表面にも同様の処理を行い、単分子膜を形成した。エチルアルコールを溶媒にして末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))の0.01モル溶液を作成した。この溶液50mLをシャーレに採り、その溶液に塩化水素水を1mL加えた後に、2cm×3cmのシリコン基板22を浸漬し、約1時間静地した。次にシリコン基板を溶液から取り出し、エチルアルコールで数度基板表面を洗った。基板表面に乾燥窒素ガスを当てて基板表面を乾燥し、その後、120℃に維持したベーク装置に当該基板を入れて、半時間静地した。これらの操作を経てシリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜23が形成された(図8A-C)。」(段落【0133】参照)

(5)「次に、上記磁性微粒子約10mgをエチルアルコール10mLに加えて上記単分子膜形成を終えた磁性微粒子をエチルアルコールに分散させた液を調整した。その濃度は適宜でよい。上記基板をホットプレート上に置き、上記基板上にスポイトを用いて上記エチルアルコール溶液を数箇所滴下して、基板表面が上記エチルアルコール溶液で濡れた状態にした。次いでホットプレートの温度を上げて、150℃程度に設定し、加熱した。基板上のエチルアルコールはすぐに気化し、基板上には磁性微粒子が残り、磁性微粒子と基板の双方の表面に形成された単分子膜の官能基同士の脱水反応が行われた。この反応は基板表面に形成された単分子膜の官能基と磁性微粒子表面に形成された単分子膜表面の官能基に対してだけ行われ、磁性微粒子表面に形成された単分子膜の官能基同士では反応が起きず、反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落とすことができ、基板上には反応が起きた磁性微粒子が化学結合24で固定された。図9Aには、基板上に脱水反応が起き、アミド結合(-NHCO-)24を含む分子21,23で固定されている例を示す。」(段落【0135】参照)

以上の記載によると、引用例には、
「個々の微粒子表面に有機コーティング膜を形成し、基板表面に有機コーティング膜を形成し、前記基板上に形成された有機コーティング膜にエネルギー線を照射し、前記照射部分の有機コーティング膜を除去することにより、前記基板表面の残余部分の有機コーティング膜と微粒子表面の有機コーティング膜との間で化学結合を形成させることにより基板上に微粒子配列体を製造する方法であって、
上記個々の微粒子表面に有機コーティング膜を形成する工程が、エチルアルコールを溶媒にして末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))の溶液を作成し、この溶液に磁性Co微粒子を加えて緩やかに攪拌し、つぎに反応促進のため塩化水素水を加えてさらに攪拌し、固液分離を行って、磁性Co微粒子を取り出し、エチルアルコール中に当該磁性Co微粒子を入れて緩やかに攪拌して洗浄し、その後、再び固液分離を行って磁性微粒子を取り出し、次に当該磁性微粒子を加熱装置に入れて、半時間静置して磁性微粒子表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜を形成するものであって、
基板表面に有機コーティング膜を形成する工程が、エチルアルコールを溶媒にして末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))の溶液を作成し、この溶液に塩化水素水を加えた後に、シリコン基板を浸漬し、静置した後シリコン基板を溶液から取り出し、エチルアルコールで数度基板表面を洗った後、基板表面を乾燥し、その後、ベーク装置に当該基板を入れて静置することにより、シリコン基板表面にメトキシシラン化合物からなる単分子膜を形成するものであって、
上記有機コーティング膜と微粒子表面の有機コーティング膜との間で化学結合を形成する工程が、上記磁性微粒子をエチルアルコールに加えて上記単分子膜形成を終えた磁性微粒子をエチルアルコールに分散させた液を調整し、上記基板をホットプレート上に置き、上記基板上に上記エチルアルコール溶液を数箇所滴下して、基板表面が上記エチルアルコール溶液で濡れた状態にして加熱し、磁性微粒子と基板の双方の表面に形成された単分子膜の官能基同士の脱水反応を行わせるものであって、
反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落とし、基板上には反応が起きた磁性微粒子が化学結合で固定されて基板上に単層の微粒子配列体を製造する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2-4.本願補正発明1について
2-4-1.対比
そこで、本願補正発明1と引用発明とを対比すると、
引用発明の「基板」は、本願補正発明1の「基材」に相当し、
引用発明の「末端にカルボキシル基を官能基として有するメトキシシラン化合物(10-カルボキシ-1-デカントリメトキシシラン(COOH-(CH_(2))_(10)-Si(OCH_(3))_(3)))」と本願補正発明1の「エポキシ基を含む第1のアルコキシシラン化合物」とは、「第1の官能基を含む第1のアルコキシシラン化合物」である限りでは一致し、
引用発明の「末端にアミノ基を有するメトキシシラン化合物(4-アミノブチルトリメトキシシラン(NH_(2)-(CH_(2))_(4)-Si(OCH_(3))_(3))」と本願補正発明1の「アミノ基を含む第2のアルコキシシラン化合物」とは、「アミノ基を含む第2のアルコキシシラン化合物」である限りでは一致し、
引用発明の溶媒として用いた「エチルアルコール」は、本願補正発明1の「非水系の有機溶媒」に相当し、
引用発明の「塩化水素水」は、各メトキシシラン化合物の反応促進を行うものであることから、本願補正発明1の「シラノール縮合触媒」とは、「反応促進のための触媒」である限りでは一致し、また、該「塩化水素水」が加えられた溶液は、本願補正発明1の「化学吸着液」に相当し、
基板表面に形成される「メトキシシラン化合物からなる単分子膜」及び微粒子表面に形成される「メトキシシラン化合物からなる単分子膜」は、それぞれ本願補正発明1の「第1の反応性の有機膜」及び「第2の反応性の有機膜」に相当し、
引用発明の「基板上に形成された有機コーティング膜にエネルギー線を照射し、前記照射部分の有機コーティング膜を除去すること」は、本願補正発明1の「第1の反応性の有機膜を所定のパターンに加工する工程」に対応し、
引用発明の「基板表面に有機コーティング膜を形成する工程」、「個々の微粒子表面に有機コーティング膜を形成する工程」及び「有機コーティング膜と微粒子表面の有機コーティング膜との間で化学結合を形成する工程」は、それぞれ本願補正発明1の「第1のアルコキシシラン化合物と基材表面を反応させて前記基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程」、「第2のアルコキシシラン化合物と微粒子表面を反応させて前記微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程」及び「第1の反応性の有機膜の形成された基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を接触させて選択的に反応させる工程」に対応し、
引用発明の「反応後に基板をエチルアルコールで洗うことにより未反応の磁性微粒子は基板から洗い落と」すことは、本願補正発明1の「余分な第2の反応性の有機膜で被覆された微粒子を洗浄除去する工程」に対応し、
そして、引用発明の基板上に形成された「単層の微粒子配列体」は、本願補正発明1の「パターン状の単層微粒子膜」に相当することから、両者は、
「少なくとも、第1の官能基を含む第1のアルコキシシラン化合物と、反応促進のための触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液を基材表面と接触させて、前記第1のアルコキシシラン化合物と前記基材表面を反応させて前記基材表面に第1の反応性の有機膜を形成する工程と、
前記第1の反応性の有機膜を所定のパターンに加工する工程と、
少なくとも、アミノ基を含む第2のアルコキシシラン化合物と、反応促進のための触媒と非水系の有機溶媒を混合して作成した化学吸着液中に微粒子を分散させて、前記第2のアルコキシシラン化合物と前記微粒子表面を反応させて前記微粒子表面に第2の反応性の有機膜を形成する工程と、
前記第1の反応性の有機膜の形成された前記基材表面に第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を接触させて選択的に反応させる工程と、
余分な前記第2の反応性の有機膜で被覆された前記微粒子を洗浄除去する工程とを有するパターン状の単層微粒子膜の製造方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1;本願補正発明1では、第1の官能基が、エポキシ基であるのに対し、引用発明では、カルボキシル基である点。

相違点2;本願補正発明1では、非水系の有機溶媒に第1及び第2のアルコキシシラン化合物とともに混合する反応促進のための触媒が、それぞれ「カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は複数からなるシラノール縮合触媒」及び「カルボン酸金属(スズを除く)塩、カルボン酸エステル金属(スズを除く)塩、カルボン酸金属(スズを除く)塩ポリマー、カルボン酸金属(スズを除く)塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートから
なる群より選択される1又は複数からなるシラノール縮合触媒」とされているのに対し、引用発明では、それぞれ塩化水素水である点。

2-4-2.判断
そこで、上記相違点1及び2を検討すると、
エポキシ基は、他の様々な官能基と結合する本願出願前周知の官能基であり、また、引用例の上記記載事項(2)には、微粒子に形成した単分子膜と、基板に形成した単分子膜の結合の例として、引用発明に係る「カルボキシル基とアミノ基反応系」とともに、「エポキシ基とアミノ基反応系」も記載され、これらが置換可能なことも示唆されていることから、
引用発明において、カルボキシル基に換えてエポキシ基を採用し、上記相違点1の本願補正発明1のようになすことは、当業者が容易に想到しうる事項である。

また、アルコキシシラン化合物の反応促進のための触媒として、シラノール縮合触媒であるカルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルまたはチタン酸エステルキレートを用いることは、例えば、特開2005-280020号公報の段落【0127】、特開2003-145042号公報の【0050】、特開平8-337654号公報の【0024】にも記載されているように本願出願前に周知の技術であること、
アルコキシシラン化合物の官能基が、エポキシ基であったとしても、本願明細書の段落【0067】にあるように、上記各シラノール縮合触媒を用いることは可能で、格別な阻害要因は認められないこと、
さらに、引用発明は、スズ系の触媒を使用しているものではなく、また、上記したチタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートはスズ系ではなく、一般的に用いられている本願出願前周知の触媒であることから、
引用発明の各反応促進のための触媒として、上記相違点2の本願補正発明1に列挙したものをそれぞれ採用することは、当業者が容易になし得たものである。

よって、引用発明において、上記周知の技術を考慮して、上記相違点1及び2の本願補正発明1のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。

2-5.本願補正発明9について
また、本願補正発明9と引用発明とを対比すると、
「2-4-1.対比」において、本願補正発明1と引用発明との対比において、一致するとした点で一致し、上記相違点1及び以下の点で相違する。

相違点3;本願補正発明9では、非水系の有機溶媒に第1及び第2のアルコキシシラン化合物とともに混合する反応促進のための触媒が、それぞれ「ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物」とされているのに対し、引用発明では、それぞれ塩化水素水である点。

相違点1については、「2-4-2.判断」において言及したのと同様に、当業者が容易に想到しうる事項である。
また、上記相違点3について検討すると、アルコキシシラン化合物の反応促進のための触媒として、ケチミン化合物、又は有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物を用いることは、例えば、特開2005-280020号公報の段落【0128】にも記載されているように本願出願前に周知の技術であるので、引用発明の各反応促進のための触媒として、上記相違点3の本願補正発明9に列挙したものをそれぞれ採用することは、当業者が容易になし得たものである。

したがって、本願補正発明1及び9は、引用発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-6.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するもので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成21年9月30日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成21年5月1日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、それぞれ特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
基材表面に選択的に1層形成された微粒子の膜が前記基材表面に選択的に形成された単分子膜で構成された第1の有機膜と前記微粒子表面に形成され、前記第1の有機膜と異なる単分子膜で構成された第2の有機膜を介して、エポキシ基とイミノ基の反応で形成された-N-C-の結合で互いに共有結合していることを特徴とするパターン状の単層微粒子膜。
【請求項2】
基材表面に選択的に1層形成された微粒子の膜が前記基材表面に選択的に形成された単分子膜で構成され、光反応性、ラジカル反応性及びイオン反応性のいずれかを有する第1の有機膜と、前記微粒子表面に形成され、前記第1の有機膜と異なる単分子膜で構成され、光反応性、ラジカル反応性及びイオン反応性のいずれかを有する第2の有機膜を介して、光反応、ラジカル反応及びイオン反応のいずれかによって形成された結合によって互いに結合していることを特徴とするパターン状の単層微粒子膜。」

4.先行技術
本願出願前に頒布された刊行物である上記引用例には、上記「2-3.引用発明」での指摘事項(1)から、
「基板上に微粒子を配列させた構造体であって、
前記微粒子の表面には前記微粒子の表面と結合した有機コーティング膜が形成され、前記基板表面には前記基板表面と結合した有機コーティング膜が形成され、
前記微粒子表面の有機コーティング膜と前記基板表面の有機コーティング膜との間で結合して、前記基板上に前記微粒子が固定配列され、
前記微粒子が、単層であり、前記基板表面にパターニングされて配列され、前記有機コーティング膜が単分子膜である微粒子配列体」という先行技術が記載されている。

5.判断
特許法第37条には、
「二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができる。」とされ、
また、特許法施行規則第25条の8には、
「特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。」と規定されている。

そこで、本願発明1及び2について検討すると、それらの同一の又は対応する技術的特徴は、
「基材表面に選択的に1層形成された微粒子の膜が前記基材表面に選択的に形成された単分子膜で構成された第1の有機膜と前記微粒子表面に形成され、前記第1の有機膜と異なる単分子膜で構成された第2の有機膜を介して、互いに結合していることを特徴とするパターン状の単層微粒子膜」ということになる。
しかし、引用例記載の「基板表面と結合した有機コーティング膜」及び「微粒子の表面と結合した有機コーティング膜」は、それぞれ本願発明1及び2の「第1の有機膜」及び「第2の有機膜」に相当し、引用例記載の微粒子が「単層であり、基板表面にパターニングされて配列され」ていることは、本願請求項1及び2に係る発明でいう「基材表面に選択的に1層形成された」ことを意味することから、
引用例には、本願発明1及び2の上記同一の又は対応する技術的特徴が先行技術として記載されているといえ、本願発明1と本願発明2とは、同一の又は対応する先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴、すなわち特別な技術的特徴を有していないことより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係を有しているとは認められない。

なお、本願補正発明1及び9の補正前に対応する本願請求項3及び16に係る発明は、その特定するための事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明1及び9が、前記「2-4.本願補正発明1について」及び「2-5.本願補正発明9について」に記載したとおり引用発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願請求項3及び16に係る発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものでもある。

6.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第37条に規定する要件を満たしていないものでもあるから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-26 
結審通知日 2012-01-05 
審決日 2012-01-17 
出願番号 特願2005-311033(P2005-311033)
審決分類 P 1 8・ 65- Z (B05D)
P 1 8・ 121- Z (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 ▲高▼辻 将人
瀬良 聡機
発明の名称 パターン状の微粒子膜およびその製造方法  
代理人 中嶋 和昭  

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