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審決分類 審判 全部無効 特174条1項  C23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
管理番号 1252990
審判番号 無効2011-800209  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-10-14 
確定日 2012-02-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2732519号発明「ピストンリング及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2732519号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

昭和59年10月 5日 特願昭59-207986号(以下,「原出願 」という。)の出願
昭和61年 5月 6日 原出願の出願公開(特開昭61-87950号 )
平成 7年 1月26日 本件特許出願(特願平7-10393号)
平成 7年10月31日 本件特許出願公開(特開平7-286261号 )
平成 9年12月26日 設定登録(特許第2732519号)
平成23年10月14日 本件無効審判請求
平成23年11月10日 答弁書の提出

第2 本件発明

本件特許第2732519号の請求項1,2に係る発明は,特許権の設定登録時の明細書及び図面(以下,「特許明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1,2に記載されたとおりのものと認めるべきところ,請求項2に記載の「Cr_(2)N型窒素クロム」は,「Cr_(2)N型窒化クロム」の明らかな誤記と認められるから,「Cr_(2)N型窒化クロム」と読み替えて次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】 少なくとも一つの摺動面に,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなるイオンプレーティング被覆層を形成したことを特徴とするピストンリング。
【請求項2】 イオンプレーティング法により,少なくとも一つの摺動面に,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなるイオンプレーティング被覆層を形成することを特徴とするピストンリングの製造方法。」(以下,それぞれ,「本件特許発明1,2」という。)

第3 請求人の主張の趣旨及び証拠方法

請求人は,以下の無効理由を主張している。
本件出願は,分割要件(昭和45年法律第91号改正特許法第44条第1項)を満たさず不適法な分割出願であるから,出願日の遡及を認めることができず,その出願日は現実の出願日である平成7年1月26日である。そして,本件特許発明は,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は昭和50年法律第46号改正特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきである。(審決注:無効とすべき根拠条文は,「特許法第123条第1項第2号」の誤記と認める。)

そして,請求人は,証拠方法として次の甲各号証を提出している。

甲第1号証:特許第2732519号公報
甲第2号証:特許第2732519号特許原簿
甲第3号証:特願昭59-207986の願書,願書に最初に添付した明 細書及び図面
甲第4号証:特開昭61-87950号公報
甲第5号証:特願平07-010393の願書,願書に最初に添付した明 細書及び図面,要約書

第4 被請求人の主張

被請求人は,答弁書において,請求人の主張を認容する旨の主張をしている。

第5 当審の判断

1 分割出願の適法性に関する当審の判断

(1)原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「原出願当初明細書等」という。)の記載

ア 「〔従来技術と問題点〕
往復動内燃機関に使用されるピストンリングには高度な耐摩耗特性が要求させる。それ故,ピストンリングに耐摩耗特性を付与することを目的として,摺動面に硬質クロムめっき層を形成させたピストンリングが内燃機関用ピストンリングとして従来から多用されている。
ところで,近年,内燃機関がますます高速化,高出力化する趨勢にあり,したがって,ピストンリングの使用条件もますます過酷なものとなってきており,従来のクロムめっき層を有するピストンリングでは耐摩耗特性が充分ではない場合があり,更に優れた耐摩耗耐焼き付き特性を有するピストンリングが望まれている。
それ故,ピストンリングの耐摩耗耐焼き付き特性を更に改善するための努力が払われており,摺動面にイオンプレーティング法により金属の窒化物あるいは炭化物の皮膜を形成させたピストンリングも提案されている(特開昭57-57868号及び特開昭57-65837号)。
しかしながら,金属の窒化物や炭化物の皮膜は硬質クロムめっき層に比べて優れた耐摩耗耐焼き付き特性を示すものではあるが,窒化物や炭化物は硬度が高く柔軟性に欠け,また,熱膨張係数が金属のそれに比べて著しく小さいために,金属母材との密着性が悪く,特に応力の作用状態の下で使用されるピストンリングの摺動面層としてこれらの窒化物や炭化物層を形成する場合には機関の運転中にリング母材から剥離を生じ易いという問題があり,実用に供されるには到っていない。
また,イオンプレーティング法による上記被膜の形成は被膜の生成速度が遅く,充分な厚さの被覆膜を形成するには長時間を要するので生産上難があり実用に供し得るものではない。
〔発明の目的〕
この発明は,上記に鑑み,従来の問題点を解消し,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗耐焼き付き特性を示すピストンリングを提供することを目的としてなされたものである。」(第1頁第14行?第3頁第12行)

イ 「なお,被覆層の構成組織はX線解析によっておこなった。操作条件および調査結果を第1表および第5図に示す。」(第6頁第11?13行)


ウ 「(耐焼き付き試験)
・・・(省略)・・・
試験結果を第2表に示す。


第2表より明らかな如く,本発明に係る表面被覆層(NO.1,2)は窒化チタンの被覆層に匹敵する耐焼き付き特性を示し,硬質クロムめっき材に比較して格段に優れた耐焼き付き特性を示している。」(第9頁第1行?第11頁第15行)

エ 「(耐摩耗試験)
・・・(省略)・・・
試験結果を第4図に示す。
窒化クロムや窒化チタンでなる被覆層を有する試験片(試料NO.3,5およびTiN)は,耐摩耗特性が優れているとして従来実用に供されている硬質クロムめっきに較べ良好な耐摩耗特性を示しており,金属クロムと窒化クロムとの超微細混合組織でなる被覆層を有する試験片(試料NO.1,2,)は自身の摩耗量および相手円板の摩耗量共に試料NO.3,5やTiNよりも少なく,一層優れた耐摩耗特性を示している。なお,試料NO.4は前記耐焼き付き特性試験において満足な特性を示さなかったので,本耐摩耗試験の対象から除いた。」(第11頁第16行?第13頁第1行)
(審決注;第4図における「試料No4」は,「試料No5」の誤記と認める。)

オ 「次に,第1図に示すように,ばね鋼(SUP-8)製ピストンリング(2)を製作し,その外周摺動面に前記方法により金属クロムと窒化クロムとの超微細混合組織をなす表面被覆層(3)を形成した。
被覆層(3)の形成条件およびその特性は次の通りである。
形成条件:Arガス分圧...1×10^(-3)torr
窒素ガス分圧...0.3×10^(-3)torr
電子ビーム出力...25V-300A
素材温度...400℃
処理時間...60分
被覆層特性:被覆層厚さ...30μm
硬 さ...HmV 1600
組 織...X線解析により金属クロムと窒化クロムとの共存を確認した。
上記のピストンリングを排気量1500CC,水冷4気筒の4サイクルガソリンエンジンの第1圧力リングに組み込み,加鉛ガソリンを燃料として回転数5500rpm,油温110℃,冷却水温度90℃,全負荷の条件で200時間のベンチテストを行った後,ピストンリング外周面の摩耗料を測定した。なお,比較のために外周面に硬質クロムめっきを施したピストンリングを用いて同様の試験を実施した。
試験の結果,硬質クロムめっきを施した従来のピストンリングの外周面の摩耗量は79μmであったのに対し,本発明のピストンリングのそれは11μmであった。また,本発明のピストンリングには被覆層の剥離等も発生していなかった。
以上の通りで,本発明のピストンリングは,耐焼き付き特性が良好で且つ耐摩耗特性に優れており,過酷な運転条件下で使用される内燃機関に使用する場合に特にその効果が顕著である。」(第13頁第2行?第14頁第15行)

(2)本件特許明細書等の記載

ア 「【0002】
【従来の技術】
往復動内燃機関に使用されるピストンリングには高度な耐摩耗特性が要求される。それ故,ピストンリングに耐摩耗特性を付与することを目的として,摺動面に硬質クロムめっき層を形成させたピストンリングが内燃機関用ピストンリングとして従来から多用されている。

【0003】
ところで,近年,内燃機関がますます高速化,高出力化する趨勢にあり,したがって,ピストンリングの使用条件もますます過酷なものとなってきており,従来のクロムめっき層を有するピストンリングでは耐摩耗特性が充分でない場合があり,更に優れた耐摩耗耐焼き付き特性を有するピストンリングが望まれている。

【0004】
それ故,ピストンリングの耐摩耗耐焼き付き特性を更に改善するための努力が払われており,摺動面にイオンプレーティング法により金属チタンの窒化物あるいは炭化物の皮膜を形成させたピストンリングも提案されている(特開昭57-57868号及び特開昭57-65837号)。

【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,金属チタンの窒化物や炭化物の皮膜は硬質クロムめっき層に比べて優れた耐摩耗耐焼き付き特性を示すものであるが,窒化物や炭化物は硬度が高く柔軟性に欠け,また,熱膨張係数が金属のそれに比べて著しく小さいために,金属母材との密着性が悪く,特に応力の作用状態の下で使用されるピストンリングの摺動面層としてこれらの窒化物や炭化物層を形成する場合には機関の運転中にリング母材から剥離を生じ易いという問題があり,実用に供されるには到っていない。

【0006】
また,イオンプレーティング法による上記皮膜の形成は皮膜生成速度が遅く,充分な厚さの被覆膜を形成するには長時間を要するので生産上難があり実用に供し得るものではない。

【0007】
この発明は,上記に鑑み,従来の問題点を解消し,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗耐焼き付き特性を示し,皮膜の剥離が起こり難いピストンリング及び皮膜形成速度が速いピストンリング皮膜形成方法を提供することを目的としてなされたものである。」

イ 「【0012】
【実施例】・・・(省略)・・・操作条件及び調査結果を表1に示す。

【0013】
【表1】
操作条件 皮膜特性
試料 N_(2)ガス分圧 試料温度 構成組織 被覆層 硬さHmV
No ×10^(-3)torr ℃ 厚さμm
1 1.5 400 Cr2N 35 1700
CrN 」

ウ 「【0018】
試験結果を表2に示す。

【0019】
【表2】
試料 焼き付き発生面圧(kg/cm2)
本発明 110
比較材(TiN) 130
比較材(Crめっき) 110

【0020】
表2より明らかな如く,本発明に係る表面被覆層は硬質クロムめっき材に匹敵する耐焼き付き特性を示している。」

エ 「【0021】
次に,図1に示すように,ばね鋼(SUP-1)製ピストンリング母材(2)を製作し,その外周摺動面に前記方法により,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分として組織でなる表面被覆層(3)を形成した。その形成条件およびその特性は次の通りである。

【0022】
形成条件:Arガス分圧...1×10^(-3)torr
窒素ガス分圧...1.5×10^(-3)torr
電子ビーム出力...25V-300A
素材温度...400℃
処理時間...60分

【0023】
被覆層特性:被覆層厚さ...30μm
硬さ...HmV 1760
組織...X線解析によりCrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムの存在を確認した。

【0024】
上記のピストンリングを排気量1500CC,水冷4気筒の4サイクルガソリンエンジンの第1圧力リングに組み込み,加鉛ガソリンを燃料として回転数5500rpm,油温110℃,冷却水温度90℃,全負荷の条件で200時間のベンチテストを行った後,ピストンリング外周面の摩耗量を測定した。なお,比較のために外周面に硬質クロムめっきを施したピストンリングを用いて同様の試験を実施した。
試験の結果,硬質クロムめっきを施した従来のピストンの外周の摩耗は量は79μmであったのに対し,本発明のピストンリングのそれは13μmであった。また,本発明のピストンリングには被覆層の剥離等も発生していなかった。

【0025】
【発明の効果】
以上の通り,本発明のピストンリングは,過酷な運転条件下で使用される内燃機関に使用する場合に剥離がなく特にその効果が顕著である。」

(3)分割出願の適法性に関する判断

原出願当初明細書等には,摘示アに,「従来のクロムめっき層を有するピストンリングでは耐摩耗特性が充分でない場合があり,更に優れた耐摩耗耐焼き付き特性を有するピストンリングが望まれている」との前提でなされた,「摺動面にイオンプレーティング法により金属の窒化物あるいは炭化物の皮膜を形成させたピストンリング」の問題点を解消した,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗耐焼き付き特性を示すピストンリングが記載されている。具体的には,摘示イ,ウのとおり,第2表に,窒化チタンの被覆層に匹敵する耐焼き付き特性を示すCrとCr_(2)Nとからなる表面被覆層(NO.1,2)と,比較材として,硬質クロムめっき層相当の,耐焼き付き特性試験において満足な特性を示さないCrNとCr_(2)Nとからなる表面被覆層(NO.4)とが記載されている。
また,前記比較材について,摘示エには,「試料NO.4は前記耐焼き付き特性試験において満足な特性を示さなかったので,本耐摩耗試験の対象から除いた。」と記載されている。
さらに,摘示オには,CrとCr_(2)Nとからなる表面被覆層の耐摩耗量測定試験の結果として,「硬質クロムめっきを施した従来のピストンリングの外周面の摩耗量は79μmであったのに対し,本発明のピストンリングのそれは11μmであった。また,本発明のピストンリングには被覆層の剥離等も発生していなかった。」と記載されている。

そうすると,原出願当初明細書等において,CrNとCr_(2)Nとからなる表面被覆層(NO.4)は,耐焼き付き特性試験において満足な特性を示さないものであり,耐摩耗性試験も行っていないことから,この表面被覆層を有するピストンリングが,原出願に係る発明が提供しようとする,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗耐焼き付き特性を示すピストンリングであるとはいえない。

一方,本件特許明細書等には,摘示アに,本件特許発明の解決しようとする課題が,「従来のクロムめっき層を有するピストンリングでは耐摩耗特性が充分でない場合があり,更に優れた耐摩耗耐焼き付き特性を有するピストンリングが望まれている」との前提でなされた,「摺動面にイオンプレーティング法により金属の窒化物あるいは炭化物の皮膜を形成させたピストンリング」の問題点を解消した,過酷な使用条件下においても充分な耐摩耗耐焼き付き特性を示し,皮膜の剥離が起こり難いピストンリングを提供することである旨記載されている。
また,摘示イ,ウのとおり,実施例の表2には,硬質クロムめっき材に匹敵する耐焼き付き特性を示すCrNとCr_(2)Nとからなる表面被覆層(試料No1)が記載されている(原出願当初明細書等に記載の試料NO.4に相当。)。
また,摘示エには,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなる表面被覆層の耐摩耗量測定試験の結果として,「硬質クロムめっきを施した従来のピストンの外周の摩耗は量は79μmであったのに対し,本発明のピストンリングのそれは13μmであった。また,本発明のピストンリングには被覆層の剥離等も発生していなかった。」と記載されている。

そうすると,本件特許明細書等では,原出願に係る発明の目的と同一の課題である耐焼き付き特性に関し,CrNとCr_(2)Nとからなる表面被覆層(試料No1:原出願当初明細書等に記載の試料NO.4)が,原出願当初明細書等の記載とは異なり,過酷な使用条件下においても充分な焼き付き特性を示すものとして扱われており,また,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなる表面被覆層の耐摩耗量測定試験を行うことにより,原出願当初明細書等に記載のない,当該表面被覆層の耐摩耗性についての効果を確認しているということができる。

以上によれば,本件特許発明に係る本件特許明細書等の記載は,「CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなる表面被覆層」について,原出願当初明細書等に記載されていない「耐摩耗耐焼き付き特性」に関する新たな技術的事項を含むから,本件特許発明の構成に欠くことができない技術的事項が,原出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるとすることはできない。

したがって,本件特許出願は,特許法第44条第1項に違反する不適法な分割出願であって,特許法第44条第2項に規定される出願日の遡及は認められないから,その出願日は,分割出願の現実の出願日である平成7年1月26日となる。

2 本件特許発明の新規性の有無に関する当審の判断

(1)引用発明の認定
刊行物1:特開昭61-87950号公報

平成7年1月26日前に頒布された刊行物1の特許請求の範囲,第2頁左下欄第18行?第3頁右上欄第20行,第1表試料NO.4の記載によれば,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明1,2」という。)が記載されているといえる。

引用発明1
「少なくとも一つの摺動面にCrNとCr_(2)Nとからなる混合組織でなるイオンプレーティング被覆層を形成したことを特徴とするピストンリング。」

引用発明2
「イオンプレーティング法により,少なくとも一つの摺動面にCrNとCr_(2)Nとからなる混合組織でなるイオンプレーティング被覆層を形成することを特徴とするピストンリングの製造方法。」

(2)本件特許発明1と引用発明1との対比・判断

ア 対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「CrN」及び「Cr_(2)N」は,それぞれ,本件特許発明1の「CrN型窒化クロム」及び「Cr_(2)N型窒化クロム」に相当する。
したがって,両者は,「少なくとも一つの摺動面に,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を含むイオンプレーティング被覆層を形成したことを特徴とするピストンリング。」である点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点1
本件特許発明1では,イオンプレーティング被覆層が,「CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなる」のに対し,引用発明1では,イオンプレーティング被覆層が,「CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織でなる」点。

イ 相違点1についての判断
「主成分」とは,「ある物質の中の主な成分」(広辞苑 第5版 平成10年11月11日発行)を意味するところ,引用発明1において,イオンプレーティング被覆層の組織は,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織であって,この混合組織がイオンプレーティング被覆層の組織の主成分であることは明らかであるから,この点は実質的な相違点とはならない。

ウ 小括
したがって,本願特許発明1は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

(3)本件特許発明2と引用発明2との対比・判断

ア 対比
本件特許発明2と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「CrN」及び「Cr_(2)N」は,それぞれ,本件特許発明2の「CrN型窒化クロム」及び「Cr_(2)N型窒化クロム」に相当する。
したがって,両者は,「イオンプレーティング法により,少なくとも一つの摺動面にCrNとCr_(2)Nとからなる混合組織含むイオンプレーティング被覆層を形成することを特徴とするピストンリングの製造方法。」である点で一致し,以下の点で一応相違する。

相違点2
本件特許発明2では,イオンプレーティング被覆層が,「CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織を主成分とした組織でなる」のに対し,引用発明2では,イオンプレーティング被覆層が,「CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織でなる」点。

イ 相違点2についての判断
「主成分」とは,「ある物質の中の主な成分」(広辞苑 第5版 平成10年11月11日発行)を意味するところ,引用発明2において,イオンプレーティング被覆層の組織は,CrN型窒化クロムとCr_(2)N型窒化クロムからなる混合組織であって,この混合組織がイオンプレーティング被覆層の組織の主成分であることは明らかであるから,この点は実質的な相違点とはならない。

ウ 小括
したがって,本願特許発明2は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,請求人の主張する無効理由には理由があるから,本件特許は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-28 
結審通知日 2012-01-05 
審決日 2012-01-19 
出願番号 特願平7-10393
審決分類 P 1 113・ 55- Z (C23C)
P 1 113・ 113- Z (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山川 雅也  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 佐藤 陽一
小柳 健悟
登録日 1997-12-26 
登録番号 特許第2732519号(P2732519)
発明の名称 ピストンリング及びその製造方法  

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