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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1253181
審判番号 不服2010-356  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-07 
確定日 2012-03-08 
事件の表示 特願2001-180176号「カラーフィルター用赤色硬化性組成物及びそれを用いたカラーフィルター」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月26日出願公開、特開2002-372618号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年6月14日の出願であって、平成20年12月1日付けで手続補正がなされ、平成21年9月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成22年1月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、その後、平成23年1月31日付けで審尋がなされ、同年4月1日付けで回答書が提出され、さらに、同年7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月20日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

本願の請求項1、2に係る発明は、平成23年9月20日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。

「 【請求項1】
(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある、C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用赤色硬化性組成物。
【請求項2】
(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にあるカラーフィルター用赤色硬化性組成物を、基板上に、塗布、乾燥、露光、現像、ポストベークにより得られた、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲で含有し、C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値として以下の範囲にある赤色被膜を有することを特徴とする液晶表示素子用カラーフィルター。
0.570≦ x ≦0.670
0.325≦ y ≦0.335 」

第2 特許法第36条の要件について
1.当審の拒絶理由
当審において平成23年7月14日付けで通知した拒絶理由の「理由3」の概要は以下のとおりである。
「[理由3]
本願の明細書の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、下記の理由により明確でなく、特許法第36条第6項第2号に適合しないので、本願は、特許を受けることができない。
備考:
(1)……(中略)……

(2)請求項1に係る発明は、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有するカラーフィルター用」と赤色硬化性組成物の用途を限定した発明であるが、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する」というカラーフィルターの特性については、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲となっている赤色硬化性組成物をカラーフィルターに用いた場合であっても、顔料の濃度や赤色被膜の膜厚、用いる光源によっては上記特性を満たす場合と満たさない場合があるから、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有するカラーフィルター用」に含まれる技術的範囲が不明確である。
また、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有するカラーフィルター用」というだけでは、いかなる手段を用いて「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する」ことを達成できるのかが不明確である。つまり、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する」というだけでは、例えば、別の赤色硬化性組成物と混合することで「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する」ことを達成できるようなものまで包含されており、「CIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有するカラーフィルター用」の意味するものが特定できない。

以上(1)、(2)で述べた理由により、本願の請求項1、2に係る発明は、明確でない。」

2.当審の判断
本願の請求項1に係る発明は、「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある」「赤色硬化性組成物」の用途を「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」に限定した発明である。
上記「赤色硬化性組成物」における「着色顔料(A)」は、「主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料」であるが、本願の明細書の発明の詳細な説明の【0017】には「なお、本発明においては、上記主顔料、調色顔料のほかに本発明の効果を損なわない範囲で他の顔料も添加混合しうることは勿論である。他の顔料の添加量は、C.I.ピグメントレッド254と242の総量の100質量部に対し、通常10質量部以下である。」と記載されており、該記載を参酌すると、上記混合顔料は、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242のみからなる場合と、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242と他の顔料を添加混合した場合を含んでいるものと認められる。
そして、上記混合顔料が、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242のみからなる場合に、「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある」「赤色硬化性組成物」を液晶表示素子におけるカラーフィルターに用いても、混合顔料の濃度や赤色被膜の膜厚によっては「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値」は変化して「0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲」という特性を満たす場合と満たさない場合があることは明らかである。(この点、本願明細書の【0113】の【表1】における実施例1?3のx、yの値からも裏づけられる。)
そうすると、「赤色硬化性組成物」をカラーフィルターに用いて濃度や膜厚を調整しながら実際に赤色被膜を形成しないと「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」であるか否かはわからないのであるから、カラーフィルターに用いられる前の「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある」「赤色硬化性組成物」が「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」であるか否かを特定することは困難であり「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」に含まれる技術的範囲が不明確である。
また、上記混合顔料が、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242と他の顔料を添加混合した場合にも、混合顔料の濃度や赤色被膜の膜厚を変えると「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値」は変化して「0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲」という特性を満たす場合と満たさない場合があることは明らかであるから、上記混合顔料が、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242のみからなる場合と同様に「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」に含まれる技術的範囲が不明確である。さらに、上記混合顔料に添加混合される他の顔料の種類、添加量によっても「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値」が変化することは明らかであり、「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある」「赤色硬化性組成物」が「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」であるか否かを特定することはさらに困難となるから「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」に含まれる技術的範囲が不明確である。また、上記混合顔料が、主顔料であるC.I.ピグメントレッド254と調色顔料であるC.I.ピグメントレッド242と他の顔料を添加混合した場合には、例えば別の赤色顔料を添加混合することで「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する」ことを達成できるようなものまで包含されているから、「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」の意味するものが特定できず不明確である。

したがって、少なくとも本願の請求項1に係る発明は、明確でない。

3.むすび
以上検討したとおり、本願の請求項1に係る発明は、明確でなく特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第3 特許法第29条第2項の要件について
1.当審の拒絶理由
当審において平成23年7月14日付けで通知した拒絶理由の「理由1」の概要は以下のとおりである。
「[理由1]
本願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された特開平11-14824号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 」

2.本願発明
平成23年9月20日付けの手続補正で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にある、C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用赤色硬化性組成物。」

3.引用例の記載事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-14824号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

記載事項ア.
「【特許請求の範囲】
【請求項1】バインダー樹脂および、C.I.ピグメントレッド177より黄味で、透過スペクトルの立ち上がり波長が530?560nmの範囲にある赤色の主顔料を含有することを特徴とするカラーフィルター用赤色組成物。
【請求項2】赤色の主顔料がC.I.ピグメントレッド242である請求項1記載の組成物。
……(中略)……
【請求項5】さらに、C.I.ピグメントレッド177およびC.I.ピグメントレッド254から選ばれる調色顔料を含有する請求項1?4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の組成物から作成された赤色画素を含むことを特徴とするカラーフィルター。」

記載事項イ.
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カラー液晶ディスプレイ、カラービデオカメラなどに使用されるカラーフィルターの製造に有用な赤色着色組成物および、この赤色組成物を用いたカラーフィルターに関するものである。
……(中略)……
【0004】有機顔料を用いてカラーフィルターを製造する場合、要求される色特性を得るためには、2種類以上の顔料を用いて調色するのが普通である。そして、赤フィルターについては一般に、主顔料として、色特性、耐光性および耐熱性に優れたアントラキノン系の赤色顔料であるC.I.ピグメントレッド177が、また調色用として、黄色顔料であるC.I.ピグメントイエロー83やC.I.ピグメントイエロー139が使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、透過度、すなわち明度を高め、また色純度を上げるなど、カラーフィルターに対する色特性の要求が日増しに高まるなか、赤フィルターについては、上記の主顔料および調色顔料を用いた場合、その微粒子化や微分散化を行っても、これら顔料種の組合せだけではカラーフィルターとしての色特性の向上に限界があった。
【0006】本発明の目的は、色特性に優れた、特に透過度が高く、したがって明度の高いカラーフィルター用赤色組成物を提供することにある。本発明の別の目的は、この赤色組成物を用いて作成された色特性のよいカラーフィルターを提供することにある。」

記載事項ウ.
「【0013】図1は、C.I.ピグメントレッド242をニーダーで微粒化して、比表面積を140m^(2)/gとした顔料〔曲線(1)〕、およびC.I.ピグメントレッド177〔曲線(2)〕の、それぞれ透過スペクトルを測定したグラフである。これらの透過スペクトルはいずれも、酸価100mg-KOH/gで重量平均分子量約 50,000のメタクリル酸/メタクリル酸ベンジル共重合体樹脂に、それぞれの顔料を40重量%濃度で均一に分散させた厚さ1μm のフィルムについて測定したものである。赤の主顔料として公知のC.I.ピグメントレッド177〔曲線(2)〕は、約570nmの波長で立ち上がっているのに対し、C.I.ピグメントレッド242〔曲線(1)〕は、約550nmの波長で立ち上がっている。また、曲線(1)および(2)は、700nm以上の波長において、さらには650nm以上の波長においても、85%以上、さらには90%以上の透過率を示している。
【0014】図1を参照した以上の説明から分かるように、本発明でいう透過スペクトルの立ち上がり波長とは、その顔料の透過スペクトル曲線において、透過率が急激に立ち上がりはじめる波長を意味する。より具体的には、その波長より10nm長い波長における透過率が、パーセント表示で少なくとも5ポイント高くなりはじめる波長と定義することもできる。」

記載事項エ.
「【0019】顔料は、調色顔料を用いる場合はその量も含めて、着色組成物の全固形分に対して、一般的には5?80重量%、好ましくは20?50重量%の範囲で使用される。また主顔料と調色顔料の重量比は、カラーフィルター用赤色組成物中で、一般的には100:0?50:50の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは100:0?60:40の範囲である。
【0020】本発明のカラーフィルター用赤色組成物は、以上説明したバインダー樹脂および顔料を、溶剤や分散剤などと、また必要に応じて、光重合性モノマーや光重合開始剤などと適宜混合し、ロールミル、ボールミル、サンドミルまたはビーズミルのような分散機を用いて分散させ、さらに必要に応じてレットダウン(希釈)することにより、製造することができる。」

記載事項オ.
「【0046】実施例2
〈赤色組成物の作成〉140mlのマヨネーズ瓶に以下の各成分を入れ、ペイントコンディショナーで2時間処理して、分散させた。
【0047】
C.I.ピグメントレッド242微粒-1 4.32 部
C.I.ピグメントレッド177-1 0.48 部
バインダー樹脂 2.33 部
溶剤PGMEA 4.32 部
溶剤CYHO 12.15 部
分散剤 6.40 部
ガラスビーズ 90.00 部
【0048】その後、以下の各成分を追加し、ペイントコンディショナーでさらに10分間レットダウンして、赤色組成物を作成した。
【0049】
バインダー樹脂 0.89 部
溶剤PGMEA 33.71 部
光重合性モノマー 1.38 部
開始剤MMP 0.46 部
開始剤DETX 0.23 部
【0050】〈赤フィルターの作成〉ガラス基板上に、スピンコーターを用いて、上で作成した赤色組成物(ガラスビーズが入らない状態)を 900?3,500 rpm で塗布した後、100℃で3分間プリベークし、赤塗膜を乾燥させた。次にこの乾燥塗膜に、高圧水銀ランプを用いて200mJ/cm^(2) で露光した後、220℃で30分間ポストベークして赤乾燥塗膜を硬化させ、赤フィルターを作成した。」

記載事項カ.
「【0054】実施例4
顔料の組合せを以下のように変えた以外は、実施例2と同様の操作を行った。結果を表2に示す。
【0055】
C.I.ピグメントレッド242微粒-2 4.09 部
C.I.ピグメントレッド254 0.71 部」

記載事項キ.
「【表2】
色特性評価結果〔(x,y)=(0.569,0.346)〕
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
例 赤の主顔料 赤の調色顔料 明度Y
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例2 C.I.ピグメントレッド242微粒-1 C.I.ピグメントレッド177-1 29.1
実施例3 C.I.ピグメントレッド242微粒-2 C.I.ピグメントレッド177-2 28.6
実施例4 C.I.ピグメントレッド242微粒-2 C.I.ピグメントレッド254 29.4
──────────────────────────────────
比較例3 C.I.ピグメントレッド177-1 C.I.ピグメントイエロー139-1 23.1
比較例4 C.I.ピグメントレッド177-2 C.I.ピグメントイエロー83-1 25.3
比較例5 C.I.ピグメントレッド177-2 C.I.ピグメントイエロー139-2 23.9
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


4.引用例に記載された発明の認定
引用例の上記記載事項ア.?キ.の記載内容からして、引用例には、次の発明が記載されていると認めることができる。

「顔料、バインダー樹脂、光重合性モノマー、及び溶剤を含有し、顔料が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド242、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド254を含有し、C.I.ピグメントレッド242とC.I.ピグメントレッド254の重量比が100:0?50:50の範囲にあるカラー液晶ディスプレイにおけるカラーフィルター用赤色組成物。」(以下「引用発明」という。)

5.本願発明と引用発明との対比・判断
(a)引用発明の「顔料、バインダー樹脂、光重合性モノマー、及び溶剤」は、本願発明1の「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤」に相当する。
(b)引用発明の「顔料が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド242、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド254を含有」することと、本願発明1の「着色顔料(A)が、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であ」ることとは、「着色顔料(A)が、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であ」る点で共通している。
(c)引用発明の「カラー液晶ディスプレイにおけるカラーフィルター用赤色組成物」は、カラーフィルターの赤色被膜に用いられ、光重合性モノマーが光重合して硬化することは明らかであるから、本願発明の「赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用赤色硬化性組成物」に相当する。

(a)?(c)に記載したことからして、本願発明と引用発明の両者は、
「(A)着色顔料、(B)結着樹脂、(C)感放射線性化合物、及び(D)溶剤を含有し、該着色顔料(A)が、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料である赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用赤色硬化性組成物。」
である点で一致し、次の相違点が存在する。

相違点(A)
着色顔料(A)が、本願発明は、主顔料としてC.I.ピグメントレッド254、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド242を含有する混合顔料であり、C.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の混合比率(質量比)が95:5?77:23の範囲にあるのに対して、引用発明は、主顔料としてC.I.ピグメントレッド242、調色顔料としてC.I.ピグメントレッド254を含有し、C.I.ピグメントレッド242とC.I.ピグメントレッド254の重量比が100:0?50:50の範囲にある点。

相違点(B)
赤色硬化性組成物の用途である赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルターが、本願発明は、C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有するのに対して、引用発明は、そのような赤色被膜を有するカラーフィルター用であるか否かが不明である点。

上記相違点(A)、(B)について検討する。
引用例の記載事項イ.を参酌すると、引用発明は、色特性に優れた、特に透過度が高く、明度の高いカラーフィルター用赤色組成物を提供することを目的としているが、カラーフィルターの色度をNTSCやEBUの基準値の色度座標にできるだけ近づけたいという課題は周知の課題(特開2001-124915号公報等参照)であり、要求される色特性を得るために、2種類以上の顔料を用いて調色することも普通に行われていること(引用例の【0004】、特開2000-347019号公報等参照)である。
また、引用発明では、主顔料がC.I.ピグメントレッド242、調色顔料がC.I.ピグメントレッド254となっているが、赤色皮膜を有するカラーフィルター用の組成物において、赤色の彩度や色特性等の改善のためにC.I.ピグメントレッド254を主顔料として用いることも周知の事項(特開平11-209632号公報、特開2000-131517号公報等参照)であるし、C.I.ピグメントレッド242とC.I.ピグメントレッド254の透過率のデータ(引用例の図1、特開2000-89025号公報の図1等参照)も本願の出願前公知である。
そうすると、引用発明は、特に透過度が高く、明度の高いカラーフィルター用赤色組成物を提供することを目的としてはいるが、NTSCやEBUの基準値の色度座標にできるだけ近づけたいという課題は周知の課題であるから、必要に応じてNTSCやEBUの基準値の色度座標に近づけることを目的として調色することは当業者であれば格別困難なくなし得ることである。そして、得ようとする色特性がNTSCやEBUの基準値のような比較的黄色成分の少ない色度座標である場合に、C.I.ピグメントレッド254の配合割合がC.I.ピグメントレッド242より多くなるように調色した方がよいことはその透過率のデータから当業者であれば容易に理解できることであるから、C.I.ピグメントレッド254の配合割合をC.I.ピグメントレッド242より多くして上記相違点(A)の顔料の混合比率の範囲内の値とすることは当業者であれば容易に想到し得ることであるといわざるを得ない。
また、カラーフィルターに用いた際の赤色被膜の色特性がNTSCやEBUの基準値に近い値となるように着色顔料の濃度や赤色被膜の膜厚を適宜調整することで、結果として「C光源を用いた際のCIE色度図におけるx、yの座標値:0.570≦x≦0.670、0.325≦y≦0.335の範囲にある赤色被膜を有する液晶表示素子におけるカラーフィルター用」とすることも当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、一般論としても顔料の組み合わせと目標とする色度座標が定まれば、必要な顔料の比率は実験または計算により求められるところ、カラーフィルター用赤色組成物の混合顔料としてC.I.ピグメントレッド254とC.I.ピグメントレッド242の組み合わせが引用例から既に知られており、かつ、カラーフィルターの色度座標をNTSCやEBUの基準値の色度座標にできるだけ近づけることが当業者にとって周知の課題である以上、NTSCやEBUの基準値の色度座標を目標値として顔料の配合割合等を適宜調整して本願発明の構成に想到することが格別困難であるとはいえない。
また、本願発明の効果については、「第2 特許法第36条の要件について」で検討したとおり、着色顔料の比率のみで特定の色特性を得ることができるわけではないから格別の効果があるとは認められない。また、仮に何らかの効果があると認められたとしても、引用発明、周知の課題、各顔料の透過率データ等から当業者が予測し得る範囲内のものであり、格別のものとは認め難い。
したがって、上記相違点(A)、(B)に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者であれば容易に想到し得ることである。

6.むすび
以上検討したとおり、本願発明は、引用発明、周知の課題、各顔料の透過率データ等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ
したがって、本願の特許請求の範囲には発明が明確に記載されておらず、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、引用発明、周知の課題、各顔料の透過率データ等に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-01-05 
結審通知日 2012-01-10 
審決日 2012-01-23 
出願番号 特願2001-180176(P2001-180176)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本田 博幸  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
橋本 直明
発明の名称 カラーフィルター用赤色硬化性組成物及びそれを用いたカラーフィルター  
代理人 木村 伸也  
代理人 高松 猛  
代理人 尾澤 俊之  

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