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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A47L
管理番号 1253402
判定請求番号 判定2011-600051  
総通号数 148 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2012-04-27 
種別 判定 
判定請求日 2011-11-25 
確定日 2012-02-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3482414号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件目録に示す「拭布」は、特許第3482414号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
判定請求人の請求の趣旨は、イ号物件は、特許第3482414号(以下「本件特許」という)の請求項1及び請求項4に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

また、本件に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成 6年 3月11日 本件特許に係る特許出願
平成15年 6月 9日 特許査定
平成15年10月17日 本件特許登録
平成23年11月25日 本件判定請求
平成24年 1月16日 判定事件答弁書

第2 本件特許発明
1.本件特許発明の構成
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたものであり、そのうちの請求項1及び4に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明4」、両者を合わせて「本件特許発明」とそれぞれいう)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】多角断面極細繊維を含んだ不織布の拭き取り面に複数の突部を設けたことを特徴とする拭布。」

「【請求項4】液を含侵させたことを特徴とする請求項1および請求項2またはいずれか記載の拭布。」

そして、本件特許発明1及び4の構成要件を分説すると以下のとおりである。

(1)本件特許発明1
A 多角断面極細繊維を含んだ不織布であること
B 拭き取り面に複数の突部を設けたこと
C 拭布であること

(2)本件特許発明4
上記A,B,Cに加えて、
D 液を含侵させたこと
E 拭布であること

2.本件特許発明1,4の目的及び効果
本件特許明細書の記載によれば、「【0013】・・多角断面極細繊維不織布の拭き取り面に複数の突部2を設けたので、拭き取り時には突部2が強く押し付けられて摺接により前述の二枚刃の如き作用で傷つけないで塵を取り外すとともに、取り外した塵を摺接方向に寄せるという機能を発生し、必然的に隣接する凹部に塵が収納されるから、刃状部への塵の絡みを減少させて刃状部を有効に機能させ、効率良く油汚れや塵を除去できる。」(本件特許発明1)、「【0013】・・塵除去液を含浸させた場合は、上記の機能との相乗効果によりしつこい塵を除去し液状物は多角断面極細繊維に吸収される。」(本件特許発明4)という効果を奏するものである。

第3.イ号物件
1.イ号現物、イ号写真及び甲号証について
(1)イ号現物として提出されたパッケージには、イ号現物が収納されていることを確認した。また、展開した状態において、短辺方向に延びる白色の濃淡からなる筋模様を有していることを確認した。なお、被請求人がイ号現物であるとして提出した検乙第2号証のタッチパネルフレッシュナーにおいても同様の短辺方向に延びる筋模様を有していることを確認した。

(2)イ号写真の1には、イ号物件が収納されたパッケージが示されており、表面には、「ゲームも携帯もナビもOK」、「タッチパネルフレッシュナー」、「使い捨てのウエットティッシュタイプ」などの記載があり、裏面には、「使い捨てウエットティッシュタイプ!」、「タッチパネルフレッシュナー」、「液晶画面の指紋やホコリや汚れを綺麗に落とす!」、「成分:界面活性剤・防錆剤・除菌剤・帯電防止剤」、「サイズ:100mm×140mm(1枚サイズ)」、「材質:分割アクリル繊維」、「【ご使用方法】 本品を取り出して、モニター等を軽く拭いて下さい。汚れがひどい時は、本品が乾かないうちに汚れているところをきれいに拭き取って下さい。」などの記載がある。

(3)イ号写真の2において、折り目を展開した状態の布体であるイ号物件を撮影した写真が示されており、短辺方向に延びる白い筋模様が確認できる。

(4)甲第3号証の1のイ号物件に関する図面には、イ号物件の拭き取り面に設けられた、短辺方向の筋模様が示されている。

(5)甲第3号証の4には、分割繊維の断面形状が多数の角を備えたものであることが示されている。

(6)甲第4号証の1にはイ号物件の断面図の電子顕微鏡写真が示されており、突部(凸部)及び凹部として示された部分は繊維の方向、繊維の密度が異なる濃淡があり厚みも異なっている。

(7)甲第4号証の2は、イ号物件を電子顕微鏡で撮影したものであり、突部(凸部)、凹部として示された筋模様が示されている。

(8)甲第4号証の3?8は、イ号物件を電子顕微鏡で撮影したものであり、イ号物件は不織布であって、非分割繊維と分割繊維とからなり、分割繊維が極細繊維となっていることが示されている。

(9)甲第8号証は、特開平2-200857号公報であって、0.5?3μmの最長断面径を有するアクリル系極細繊維からなるアクリル系不織布の製造方法に関して、「アクリル系合成繊維(以降原繊維と略す)よりなるシートに、高圧水をノズルより噴射し、原繊維を交絡させつつ原繊維一本一本を細分割し、さらに交絡を進める」(公報第2ページ左下欄第12?15行)ことが示されており、第1図からは、水流により繊維の細分割が進んだ粗になった部分と細分割が進んでいない密な部分が生じていることが看取できる。

(10)甲第10号証は、特開平5-321109号公報であって、「繊維シート(不織布)に高圧噴射流体流を少なくともその片面に当てて繊維の交絡、繊維の割裂による微細繊維の形成、ひげ状微細繊維の形成等を行うと共にそれらを交絡させる」(公報段落【0058】)ことが示されている。

上記事項より、以下のことが認められる。
A 上記(5)、(8)によれば、イ号物件は、多角断面極細繊維を含んだ不織布からなるものであること。

B 上記(1)、(3)、(4)、(6)、(7)によれば、イ号物件は厚み及び繊維の密度が異なることによる筋模様、すなわち、厚みが厚く繊維が密な部分からなる筋模様を有するものであること。
なお、この点に関して、請求人は「凹凸で形成される筋である」旨主張し、被請求人は「不織布を構成する繊維の粗密である」旨主張しているが、上記のとおりほぼ両者の主張を合わせたものとして認定した。

C 上記(2)の「ウエットティッシュタイプ」、「・・きれいに拭き取って下さい。」等の記載から、イ号物件は「拭布」であること。

D 上記(2)の「成分:界面活性剤・防錆剤・除菌剤・帯電防止剤」の記載から、イ号物件には薬剤が含浸されているものであること。

2.イ号物件の構成
以上により、イ号物件の構成を本件特許発明1,4の分説に合わせて、構成aないしeに分説すると、次のとおりのものと認められる。
(本件特許発明1に対応する部分)
a 多角断面極細繊維を含んだ不織布であること
b 拭き取り面に厚みが厚く繊維が密な部分からなる筋模様を有すること
c 拭布であること

(本件特許発明4に対応する部分)
上記a,b,cに加えて
d 薬剤を含浸させたこと
e 拭布であること

第4.当事者の主張
当事者間に争いのある本件特許発明の構成要件Bとイ号物件の構成との関係及び作用効果についての両者の主張は以下のとおりである。

1.構成要件Bについて
(1)請求人の主張
ア.甲第3号証の1、2、および甲第4号証の1の電子顕微鏡写真より明らかなように、イ号物件の拭き取り面には、複数の凸部が設けられている。より詳しくは、イ号物件には、短辺方向に走る「筋」が、長辺方向に向かって多数本設けられており、断面視で見ると、長辺方向に凸部と凹部が交互に連続して形成されている。(判定請求書6.(4)、(オ))

イ.イ号物件を構成する不織布の拭き取り面には、複数の凸部が設けられている。かかる凸部は、本件特許発明の「突部」に相当する。従って、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bの全てを充足する。(判定請求書6.(5)、(ア)一致点ウ)

(2)被請求人の主張
ア.本件製品の拭き取り面には、複数の凸部は設けられておらず、本件特許発明における「突部」に相当する構成はない。・・単にウォータージェットによる粗密部分が形成されているに過ぎない。(判定事件答弁書7.(5)ア)

イ.請求人は、本判定請求において、本件製品が構成要件Bの「突部」を有すると主張する。しかし、請求人が主張する「突部」に関する主張は、本件特許明細書は拭布の材料として記載する多角断面極細繊維の不織布「シャレリア」や「ミラクルクロス」の製造工程、すなわち、繊維を圧力により分割しかつ繊維を交絡して不織化するために複数のノズルから水を噴射するウォータージェット(WJ)工程・・によって生ずる繊維の交絡が粗な部分と密な部分からなる構成の後者を「突部」と誤認して主張しているに過ぎない。(判定事件答弁書8.(3)(3-1)オ)

ウ.本件特許の出願時に商業化され販売されていた「シャレリア」および「ミラクルクロス」の実物が、それぞれ検乙第1号証の166頁および169頁に添付されており、これらの拭き取り面には、可視的には拭き取り面上に物理的な縞ないし凹凸があるように一見は見える。しかし、検乙第1号証に添付されていた本件特許出願前の上記各サンプルを電子顕微鏡写真で撮影すると(乙第2号証)、かかる物理的な微細な縞ないし凹凸に見える部分は、不織布を構成する繊維の「粗密」であることが観察される(乙第2号証の写真2?3および5?6を参照)。これは、不織布を製造する工程で、繊維を分割、交絡させるために複数のノズルから噴出されるウォータージェットの水が当たったことにより不織布が「粗密」になり、一見微細な凹凸のように見えているものである。
本件特許発明では、これらウォータジェットによる粗密部分を有する公知の多角断面極細繊維不織布に、さらに熱エンボス等の熱融着又はミシン縫いを施すことにより、拭き取り面に複数の突起を設けている(同本件特許明細書【0006】、【0009】および【0010】参照)。従って、本願発明の構成要件Bでいう「不織布の拭き取り面」に設けられた「複数の突部」とは、本件特許の出願当時に公知であったシャレリアおよびミラクルクロス等の多角断面極細繊維不織布に存在する粗密部分ではなく、更に熱エンボス等の熱融着又はミシン縫い(本件特許明細書【0006】、【0009】および【0010】)工程を施して設けられた突起をいう、と解釈すべきであり、逆に、請求人は、これに反する主張をすることはできない。(判定事件答弁書8.(3)(3-3))

エ.本件特許発明の構成要件Bにいう「不織布の拭き取り面」に「複数の突部を設け」という構成には、ウォータージェットによる不織布化工程により形成される粗密部分が存在するに過ぎない構成は含まれないから、単にウォータージェットにより粗密部分を構成しているにすぎない本件製品は、本件特許発明の構成要件Bを充足しない。(判定事件答弁書8.(3)(3-5))

(3)被請求人提出の乙号証、検乙号証
被請求人は乙号証、検乙号証として以下の証拠を提出している。
・乙第1号証:「超極細繊維不織布と不織布複合化技術の新展開」、(株)大阪ケミカル マーケティング センター、1993年9月29日、大阪ケミカル・リサーチシリーズVOL.3 No.135、表紙、p.37?40、52?54、65?69、99?101、166および169、奥付

・乙第2号証:「比較実験証明書」、作成日 平成24年1月5日、作成者 三菱製紙株式会社 機能材事業部つくばR&Dセンター 分析グループ上席主任職 岡田晃徳

・検乙第1号証:上記乙第1号証の原本であって、特に、p.166に添付された旭化成工業(メーカー)「シャレリア」(登録商標)の実物、及び、p.169に添付された大和紡績(メーカー)「ミラクルクロス」(登録商標)の実物

ア.乙第1号証の記載
乙第1号証には以下のような記載がある。(下線は当審で付与。)
a.「この短繊維をローラカードでウェブ(40g/cm^(3))にし、ローラに巻取る。次いで図2-11に示す噴射装置で、繊維の分繊と結合を行う。噴射ノズルは前段20kg/cm^(2)と後段60kg/cm^(2)の2段階で、得られた不織布を沸水浴中で収縮させ、乾燥して巻取る。この不織布は目付45g/m^(2)、厚さ0.8mmで、分割された繊維と未分割繊維が混在している。」(乙第1号証 第39ページ第9?13行)

b.図2-11 高圧液体噴射装置の概略図には、ネットコンベア10によって一方向に移送されるウェブ9に噴射用ノズル11から高圧液体を噴射することが図示されている。(乙第1号証 第39ページ)

c.「FCA繊維の大きな特長は分繊度をコントロールできることであり、サンパクトにはこの特性が生かされている。FCA繊維のウェブにWJをかける場合、ノズル径が小さいほど、また水圧が低いほど分繊は不織布の表面部で起こり、ノズル径が大きく、水圧が高いほど不織布の内部まで分繊が進む。・・・表面層の超極細アクリル繊維は不定形の多角断面であるため、汚れのハギ取り効果が高くなる。内部層のアクリル繊維(1.5d)は超多孔質構造であるため、拭き取られた水油類が繊維内部に吸引、収納される。従って、サンパクトは拭き取られた汚れの再付着が少なくなる。内部層まで分繊させると、不織布はペーパー状になって布帛ボリュームが下がり、汚れの除去は逆に低下する。」
(乙第1号証第53ページ第1?10行)

d.「無数の非連続性微細空隙を有した特殊アクリル繊維(FCA繊維)による超極細繊維不織布である。FCA繊維をカード法または抄造法によってウェブにし、このウェブにウォータージェットをかけてFCA繊維を分繊、交絡させる。FCA繊維は分繊されると0.001?0.1dの超極細繊維になり、その繊維は不定形の異形断面である。高圧水流の処理条件によって分繊度や超極細繊維の太さを自由にコントロールできる。
用途としてはワイパー、包材・袋物、フィルター、合成皮革基布、寝具・インテリアなどであるが、ワイパー主体に展開されている。」(乙第1号証第166ページ「5.超極細繊維不織布サンプル」、「(1)メーカー:旭化成工業 商品名:シャレリア」)

e.「剥離分割型複合繊維による超極微細繊維不織布である。複合繊維(セパ)にはPET/PP、PET/N、PP/PE、PP/改質PPなどのほかいくつか種類がある。カードウェブにウォータージェットをかけて分繊(17分割)、交絡させた不織布で、複合繊維は平均0.18dの超極細繊維になる。
用途としてはワイパー、合成皮革基布、フィルター、電池セパレータなどに展開されている。
サンプルはミラクルクロスDF-5-250で、PET/Nタイプの複合繊維が用いられている。」(乙第1号証第169ページ「(4)メーカー:大和紡績 商品名:ミラクルクロス」)

イ.乙第2号証の記載
乙第2号証には写真1?9が示されており、そのうち写真1?3は、実験対象(A)すなわち、シャレリア(登録商標)に関するものである。写真2下段には、シャレリア(登録商標)の断面に、粗及び密の部分が形成されていることが示されている。
また、写真4?6は、実験対象(B)すなわち、ミラクルクロス(登録商標)に関するものである。写真5下段にはミラクルクロス(登録商標)の断面に、粗及び密の部分が形成されていることが示されている。

ウ.乙第3号証の記載
乙第3号証は、特開平3-152257号公報であって、「分割型複合繊維が分割することにより形成された極細繊維及び/又は極細繊維の束が絡合してなる不織布」(公報第1ページ左欄第5?7行)であって、「分割された繊維は水流絡合処理によって絡合される」(公報第3ページ左上欄第11?12行)ことについて示されている。

エ.検乙第1号証
a.検乙第1号証の第166ページの「商品名:シャレリア」
貼付されたシャレリア(登録商標)の実物のサンプルを目視で観察して、その表面に短辺方向に筋模様が形成されていることが確認できる。

b.検乙第1号証の第169ページの「(4)メーカー:大和紡績 商品名:ミラクルクロス」
貼付されたミラクルクロス(登録商標)の実物のサンプルに筋模様は確認できないが、表面には細かい凹凸が確認できる。

2.作用効果について
(1)請求人の主張
イ号物件は、多角断面極細繊維を含んだ不織布で構成され、しかもその拭き取り面には複数の突部が設けられる、従って、「多角断面極細繊維不織布の拭き取り面に複数の突部2を設けたので、拭き取り時には突部2が強く押し付けられて摺接により前述の二枚刃の如き作用で傷つけないで塵を取り外すとともに、取り外した塵を摺接方向に寄せるという機能を発生し、必然的に隣接する凹部に塵が収納されるから、刃状部への塵の絡みを減少させて刃状部を有効に機能させ、効率良く油汚れや塵を除去できる。」という、本件特許発明と同様の作用効果を奏する。
加えて、イ号物件は、本件特許発明と同様に突部を備えるものであるから、「拭き取り面の突部によって、被拭き取り面にたいしては接触面が小さいから滑りがよく一方手には突部と緻密に密生した刃状部によって摩擦抵抗が大になって手が滑らず拭きやすい」という、本件発明と同様の作用効果を奏する。
さらに、イ号物件には、界面活性剤・防錆剤・除菌剤・帯電防止剤といった薬剤が含浸されているから、「塵除去液を含浸させた場合は、上記の機能との相乗効果によりしつこい塵を除去し液状物は多角断面極細繊維に吸収される」という、本件特許発明と同様の作用効果を奏する。(判定請求書6(5)(ア)オ?キ)

(2)被請求人の主張
本件製品(イ号物件)は、そもそも構成要件Bを充足しないため、本件特許発明と同様な作用効果は奏しない。

第5.当審の判断
1.構成要件A,C,D,Eの充足性について
イ号物件の構成a,c,eが本件特許発明の構成要件A,C,Eに該当することは明らかである。
また、イ号物件の構成d「薬剤を含浸させたこと」における「薬剤」は、界面活性剤・防錆剤・除菌剤・耐電防止剤などの液であるから構成dは、「液を含浸させたこと」と言い換えることができ、本件特許発明の構成要件Dに該当する。
よって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A,C,D,Eを充足する。

2.構成要件Bの充足性について
(1)本件特許明細書の記載
本件特許発明の構成要件Bの技術的意義に関して、本件特許明細書には以下の記載がある。
a.「【0002】
【従来の技術】この種の拭き布として、一般の不織布や柔らかい布等が使用されていたが、効率良く拭き取ることができないものであった。
【発明が解決しようとする課題】本発明は、極細繊維の中で、特に、多角断面極細繊維を選んで、この断面の角の部分を有効に機能させてOA機器等に付着したしつこい油汚やミクロの塵を完全に除去する拭布の提供を目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するために、多角断面極細繊維を含んだ不織布の拭き取り面に複数の突部を設けたことを特徴とし、付加的構成要件として、軟質のプラスチックフィルム ゴムシート、スポンジ、紙、綿および他の不織布のいずれかを積層し、また、塵除去液を含浸させ、さらには丸棒状に形成したことを特徴とする。」

b.「【0005】
【作用】本発明が、拭布として極細繊維の中で特に多角断面極細繊維を選んだのは、図2に例示したように繊維の断面の角の部分が1mm長さ中にほぼ100乃至3000個という極細の刃状部3を形成していることに着目したからである。・・・そして被拭き取り面に当接した刃状部が塵を取り外し、長い刃状部は折れ曲がって塵を拭き取りながら付着させるものである
しかしながら、拭き取り面がフラットであると、塵を拭き取り面の繊維に付着させていると刃状部3が有効に機能しなくなり、塵除去の持続性が損なわれる。本発明は拭き取り面に複数の突部2を設けたので、拭き取り時には突部2が強く押し付けらて摺接により前述の二枚刃の如き作用で傷つけないで塵を取り外すとともに、取り外した塵を摺接方向に寄せるという機能が発生する。即ち、拭き取り面には複数の突部2があるから各突部で局部的に上記の刃状部3の作用が得られる。そして、寄せられた塵は隣接する凹部に必然的に収納されるから、刃状部3への塵の絡みを減少させて刃状部を有効に機能させ塵の除去効力を持続させることができ、凹部の塵は繊維の絡みが少ないから塵も流水で容易に洗い流されるという効果も得られる。さらに、被拭き取り面にたいしては突部2を設けたことで部分接触となって滑りがよく一方手には密生した刃状部とともに抵抗が大になって滑らず拭きやすくなる。」

c.「【0006】
【実施例1】図1は、アクリル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン多角断面極細繊維不織布またはそれらの混合の多角断面極細繊維を含んだ不織布1の両面に多数の突部2を設けて拭布を形成したものである。この突部2は高周波ウエルダー加工、超音波加工、熱エンボス加工または皺加工等の熱融着により形成することができる。特に精密機器の拭布に適するものとして目付は、30g/m^(2)乃至100g/m^(2)、突部の面積は50%乃至70%が好ましい。多角断面極細繊維としては、旭化成工業株式会社のシャレリア(商標)や、大和紡績株式会社のミラクルクロス(商標)が開発されているから、これらの多角断面極細繊維を100%使用してもよいし、安価にするためにパルプ、ポリエステル、ポリプロピレン、綿およびその他の繊維の全部もしくはいずれかの一般繊維を混合してもよい。」

d.「【0007】上記のシャレリア(商標)は、図2に示したように多角断面に形成した0・1乃至0・001デニールの極細アクリル繊維a・a・・を不織布に加工したものである。また、ミラクルクロス(商標)は、図3に示したようにポリオレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ナイロン系ポリマー等を組み合わせた分割繊維b・c・d(分割前)をウオータージェット工法により分割してできた多角断面極細繊維b・c・d(分割後)を不織布としたものである。この多角断面極細繊維に一般繊維を混入してもよい。これらの多角断面極細繊維およびこれを含んだ不織布は、断面の角の部分で1mm長さ中にほぼ100乃至3000個という極細の刃状部3を形成しているので、前述の剃刀の二枚刃の如き作用がある。」

e.「【0008】本発明は、この作用に着目して多角断面極細繊維不織布の拭き取り面に複数の突部2を設けたから、拭き取り時には突部2が押し付けられて摺接により1mm長さ中ほぼ100乃至3000個という緻密に密生した極細の刃状部3が、前述の二枚刃の如き作用で細かい隙間にも入りこんで塵を傷つけないで取り外すとともにその塵を摺接方向に掃き寄せるという新規な機能を発揮するものである。・・・」

f.「【0009】
【実施例2】突部2形成の他の手段として図4の平面図および図5の断面図で例示したようにミシン縫い目4を設けてもよい。ミシン縫い目が凹んで突部2が形成され、ミシン縫いすることで強度を高めるという効果も得られる。突部2は縦横直線や斜めや弧状の線状に形成してもよいし、或いは交差させてもよい。勿論、点在させてもよい。突部2の形成については、上記の熱融着やミシン縫い目に限定するものではなく他の手段でもよい。」

g.「【0010】
【実施例3】本発明の拭布は、多角断面極細繊維の単体に限らず、軟質のプラスチックフィルム、ゴムシート、スポンジ、紙、綿および他の不織布のいずれかを積層してもよい。例えば、図6はスポンジ6の両面に多角断面極細繊維不織布1をサンドイッチ状に積層したもので模様のように高周波ウエルダー加工、超音波加工、熱エンボス加工または皺加工等の熱融着7を施した平面図を示し図7は断面図を例示したものである。・・・できあがった拭布の拭き取り面の厚みが5mm乃至10mmとなるように0・2乃至0・8mm凹ませて突部2を形成するのが好ましい。」

上記記載事項について検討すると、記載aには、本件特許発明において、多角断面極細繊維の断面の角の部分を有効に機能させるために、不織布の拭き取り面に複数の「突部」を設けたものであることが記載されている。
記載bには、「突部」は拭き取り面がフラットであると塵除去の持続性が損なわれるのでそれに対応するために設けたものであること及び「突部」により拭き取り面と手に適当な滑りが与えられることが記載されており、不織布として形成された状態(フラット)では不都合があることが記載されている。
記載cには、「突部」は高周波ウエルダー加工、超音波加工、熱エンボス加工または皺加工等の熱融着により形成することが記載されており、記載dと合わせてみると不織布は多角断面極細繊維に、旭化成工業株式会社のシャレリア(商標)や、大和紡績株式会社のミラクルクロス(商標)に用いられている繊維を100%使用してもよいし、一般繊維を混合したものを使用してよいことが記載されている。
記載dには、シャレリア(商標)やミラクルクロス(商標)は多角断面極細繊維からなる不織布であり、この不織布には断面の角の部分で剃刀の二枚刃の如き作用があることが記載されている。
記載eには、多角断面極細繊維不織布の拭き取り面に複数の突部を設けることで新規な機能を発揮するものであることが記載されている。
記載fには、「突部」はミシン縫い目で形成してもよいこと及び「突部」は他の手段で形成してもよいことが記載されている。
記載gには、「突部」を熱融着により形成すること及び「突部」は0・2乃至0・8mm凹ませて形成することが好ましいことが記載されている。
また、図2はシャレリア(商標)の断面図(段落【0007】)と認められるところ、乙第2号証の写真1とも整合するものであり、乙第2号証の写真2、検乙第1号証とも合わせてみるとシャレリア(商標)自体の表面に厚みの異なる部分(凹凸)が存在するものといえる。
そして、記載c,e,f,gによれば、「突部」は、多角断面極細繊維不織布の表面に、何らかの加工により設けたものであると認められる。

上記記載及び、図面の記載、認定事項を総合すると、突部及びその機能は以下のとおりのものと認められる。
本件特許発明の構成要件Bの「突部」は、多角断面極細繊維の断面の角の部分を有効に機能させるために、多角断面極細繊維で形成した不織布の表面に何らかの加工により設けたものであって、高周波ウエルダー加工、超音波加工、熱エンボス加工または皺加工等の熱融着、あるいはミシン縫いなどの加工、その他の手段により形成したものであり、その加工方法からみて突部の大きさは0・2ないし0・8mm程度のものである。
そして、突部を設けることにより、拭き取り時には突部が強く押し付けられて摺接によりの二枚刃の如き作用で傷つけないで塵を取り外すとともに、取り外した塵を摺接方向に寄せる、及び、被拭き取り面にたいしては突部を設けたことで部分接触となって滑りがよく一方手には密生した刃状部とともに抵抗が大になって滑らず拭きやすくなるという機能を有するものである。

(2)判断
イ号物件は拭き取り面に厚みが厚く繊維が密な部分からなる筋模様を有するものであるが、この「筋模様」が本件特許発明の構成要件Bの「複数の突部」に該当するものであれば、イ号物件は本件特許発明の構成要件Bを充足するものと認められる。すなわち、イ号物件の「筋模様」が上記(1)で認定したとおり不織布の表面に何らかの加工により設けられたものであれば、イ号物件の「筋模様」は本件特許発明の「複数の突部」に該当するものといえる。
しかしながら、以下のとおり、イ号物件の「筋模様」は本件特許発明の「複数の突部」に該当しない。
すなわち、多角断面極細繊維を不織布に加工するに際して、甲第8号証、甲第10号証、乙第1号証、乙第3号証に記載のようにウオータージェットが用いられることが多い。そして、ウオータージェットによって形成された不織布では、乙第1号証の記載事項c.によれば、ノズルからの水圧が高いほど不織布の内部まで分繊が進むものであり、ノズルから不織布の面に対してかかる水圧が均一でない等の理由によって、甲第8号証の第1図に示されるような水流により繊維の細分割が進んだ粗になった部分と細分割が進んでいない密な部分が生じた結果、表面に多少の凹凸ができるものと考えられる(検乙第1号証として提出されたミラクルクロス(登録商標)でも確認できる)から、イ号物件に見られる筋模様は、繊維が密になった部分であり、熱融着、ミシン縫いなどの加工により形成された凹部より形成された突部ではなく、不織布を形成する際にできた筋模様であると認められる。
このことは、イ号物件に見られる筋模様は電子顕微鏡で確認してその大きさを認識できる程度のものであって、ウオータージェットにより加工されたとされる検乙1号証として提出されたシャレリア(登録商標)において、短辺方向の筋模様として確認できるものと同程度であること(甲第4号証の1と乙第2号証の写真2)からも裏付けられる。
そうすると、イ号物件の筋模様は不織布を形成する際に設けられたものであり、不織布の表面に加工して設けられたものということはできず、イ号物件の「筋模様」は本件特許発明の構成要件Bの「複数の突部」に該当しない。
さらに、本件特許発明の「突部」はその加工方法からみて突部の大きさは0・2ないし0・8mm(200ないし800μm)程度であると認められることからみても、不織布として形成する際に分繊の度合の差によって生じる程度の凹凸を含むものではなく、イ号物件の「筋模様」は本件特許発明の構成要件Bの「複数の突部」に該当しないものである。

よって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Bを充足しない。

第6.むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足しないから、イ号物件は、本件特許の請求項1及び4に係る発明の技術的範囲に属さない。

よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2012-02-06 
出願番号 特願平6-79143
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A47L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 謙一  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 青木 良憲
松下 聡
登録日 2003-10-17 
登録番号 特許第3482414号(P3482414)
発明の名称 拭布  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  
代理人 服部 博信  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小林 正和  
代理人 森本 聡  
代理人 富岡 英次  
代理人 熊倉 禎男  

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