• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1254277
審判番号 不服2010-27085  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-30 
確定日 2012-03-21 
事件の表示 特願2004-110360「医療用アセンブリ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-305749〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年4月2日を出願日とするものであって(パリ条約による優先権主張 2003年4月3日,米国),平成22年7月26日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月30日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成16年5月25日付け翻訳文提出書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】採血処置で用いる針アセンブリを支持するためのホルダであって,開口した基端と部分的に閉じた末端とを有する中空のホルダ本体であって,該ホルダ本体の末端がホルダ本体の内部と連通している開口部を定めている中空のホルダ本体と,該ホルダ本体の開口部と回転可能に流通しており,該ホルダ本体との結合のために,針アセンブリを受ける針アセンブリ受けソケットを含んでいる一方向に回転可能なカラーと,を備え,該カラーは,針アセンブリがソケット内に受けられた時に該カラーがホルダ本体に対して一方向にだけ回転できるように,該ホルダ本体の内部と協働するように構成されていることを特徴とするホルダ。」(以下,「本願発明」という。)

第3 記載要件(特許法第36条第6項第2号)について

特許法第36条第6項第2号の趣旨について,平成20年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件,平成21年(行ケ)第10434号 審決取消請求事件において,次のように判示されている。
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載において,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許発明の技術的範囲,すなわち,特許によって付与された独占の範囲が不明となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあるので,そのような不都合な結果を防止することにある。」

そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かの判断について,同判決において,「特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかとういう観点から判断されるべきである」と判示されている。

上記発明の明確性について,本願発明に対して審判合議体は次のように判断する。

本願の請求項1には,「針アセンブリ」と「カラー」との構造上の関係について,「該カラーは,針アセンブリがソケット内に受けられた時に該カラーがホルダ本体に対して一方向にだけ回転できるように,該ホルダ本体の内部と協働するように構成されている」と記載されている。

ここで,本願発明の技術的課題は,発明の詳細な説明に「【発明が解決しようとする課題】【0007】上述の特許は,医療処置の際に又は医療措置の後に,針アセンブリがいつでも針ホルダから取り除かれ得る医療用装置を開示している。不慮の針刺しのために容易に伝達可能なウィルス感染についての心配がある場合には,体液の抜き取りを含む医療処置の後に,ユーザが針アセンブリを針ホルダから取り除こうとするのを阻止することによって,こうした針刺しの危険性を最小にすることが特に望ましい。
【0008】したがって,通常の使用に際して,ユーザが使用済みの針アセンブリを針ホルダから取り除くのを防止するか又は妨げる医療用針装置への必要性が存在する。」(下線は当審により付記したもの。以下,同様。)と記載されるように,針アセンブリが針ホルダから取り除かれることを防止すること,である。

上記「針ホルダ」について,発明の詳細な説明を参酌すると,「【0024】 図1乃至図11を参照すると,ここでは,医療用針装置10の第1の実施形態が,説明されている。図1乃至図11の医療用針装置10の作動の原理は,本明細書に説明されることになる医療用針装置10の全ての実施形態の例証となるものである。一般に,医療用針装置10は,針アセンブリ12と,中空の針アセンブリ・ホルダ14と,該針アセンブリ12をホルダ14に結合させる一方向に回転可能なカラー16とからなる。組み立てられた医療用針装置10は,針アセンブリ12とカラー16が,逆の回転方向ではなく,一方の回転方向に回転されることを可能にする。このことは,医療用針装置10のユーザによる不適切な使用を防止する。そのような不適切な使用には,採血処置の終わりに,針アセンブリ12をホルダ14から取り除こうとすることが含まれる。したがって,医療用針装置10全体は,採血又は他の体液採集処理の終わりに廃棄されることが意図される。このことは,ユーザが針アセンブリ12をホルダ14から取り除こうとする場合に起こり得る不慮の針刺し傷の危険性を減少させる。」,「【0028】針アセンブリ12は,一方向に回転可能なカラー16によってホルダ14に結合されている。ホルダ14は,軸に沿って延びているほぼ管状又は円筒形の構造体を有するホルダ本体40を含んでいる。」と記載され,「針ホルダ」は「ホルダ14」を意味するものと理解される。そうすると,上記技術的課題は,本願発明において,「針アセンブリ」が「ホルダ本体」を含んだ「ホルダ」から取り除かれることを防止することであるといえる。

そして,上記技術的課題を解決するために必要な事項について,発明の詳細な説明には,「【0033】 カラー16は,第1及び第2ディスク部分76,78を貫通して延びている孔すなわち開口部90をさらに定めている。開口部90は,ホルダ本体40の軸の周りに第1の方向に螺旋状に進む雌ねじが切られ,ソケットを受ける針ハブを形成していることが好ましい。針アセンブリ12の針ハブ18のハブのねじ切られた基端28は,カラー16のねじ切られた開口部90内にねじ付けられる。したがって,医療用針装置10を組み立てるために,針ハブ18は,カラー16のねじ切られた開口部90とねじ係合される。ねじ結合は,カラー16のねじ切られた開口部90にねじ係合している針ハブ18の時計回りの回転での従来通りでよい。ロック用爪80の端面82は,ラチェット歯70の端面84に同時に係合し,このことは,針ハブ18がカラー16内に着座されることを可能にする。このように,針アセンブリをソケット内にねじ込むためにカラー16を第1の方向に回転させると,ロック用爪80及びラチェット歯70の対応する面が締まり係合状態になる。こうした締まり係合は,カラー16に十分な抵抗を生じさせ,針アセンブリ12が該カラー16とねじ付けられることを可能にする。特に,ロック用爪80とラチェット歯70との間の締まり係合は,針ハブ18の基端28上の雄ねじとカラー16のねじ切られた開口部90内の雌ねじとの間に存在する摩擦又はトルクより大きいものである。このように,針ハブ18をカラー16のねじ切られた開口部90内で,螺旋状に進むねじの方向に回転させることにより,該針ハブ18が該カラー16とねじ付けられる。
【0034】 一旦針アセンブリ12がカラー16内にねじ係合されると,カラー16は,ロック用爪80の外向き面86とラチェット歯70の内向き面との間の滑り相互作用によって,該針アセンブリ12の該カラー16からの分離を防止する。特に,針ハブ18をカラー16のねじ切られた開口部90からねじ戻そうとして,針ハブ18が,螺旋状に進むねじの方向と反対の方向に回転させられた場合には,ロック用爪80とラチェット歯70の特定の設計及び構成により,該ロック用爪80が該ラチェット歯70の上に滑らされる。このように,ロック用爪80とラチェット歯70との間の締まり係合は,針ハブ18をカラー16からねじ戻すには不十分なものである。」と記載されている。
これを参酌すると,本願発明は,「針アセンブリ」を「カラー」の「ソケット内」に特定方向へねじ込む特定のねじ付け手段により,「針アセンブリ」,「カラー」および「ホルダ本体」に対して,「針アセンブリ」の特定方向へのねじ付けを可能とすると同時に,これと反対の方向へのねじ戻しを不可能とする働きや役割といった技術的意味を与え,これによって「針アセンブリ」が「ホルダ」から取り除かれることを防止するという課題の解決を実現するものであることが理解される。

一方,請求項1における,「該カラーは,針アセンブリがソケット内に受けられた時に該カラーがホルダ本体に対して一方向にだけ回転できるように,該ホルダ本体の内部と協働するように構成されている」との記載は,「針アセンブリ」が「カラー」の「ソケット内」にどの様な形態で「受けられ」るのかという構造的関係を規定するものではないため,「針アセンブリ」,「カラー」および「ホルダ本体」が互いにどのように作用しながら動作するのか不明であり,上記それぞれの構成の本願発明における技術的意味を明確に理解することができない。

上記技術的意味について,発明の詳細な説明を参酌すると上述のとおり理解できるとしても,請求項1において上記特定のねじ付け手段について何ら規定されていないため,請求項1に係る本願発明において,上記技術的意味を限定的に解釈することはできない。

出願時の技術常識を考慮しても,「針アセンブリがソケット内に受けられた」との表現が,「針アセンブリ」が「ソケット内」に配置された形態を表現するにすぎず,これが上記特定のねじ付け手段を意味するものでないことは明らかであり,「針アセンブリ」,「カラー」および「ホルダ本体」に対して上記特定の働きや役割を与えるためには,「針アセンブリがソケット内に受けられた」という特定では不十分であることは明らかである。

さらに,本願の他の独立請求項13には,上記特定のねじ付け手段について規定されていること,審査の過程において,審査官によって,請求項1の記載に対して「針アセンブリを針ホルダから取り除こうとするのを阻止するためのメカニズムが明確ではない」旨の拒絶理由通知及び拒絶査定がなされたにも関わらず,請求人は補正を行わなかった経緯からみて,請求項1の記載は他の手段を意図する記載であるとも解釈できる。
しかしながら,発明の詳細な説明には,上記特定のねじ付け手段が記載されるだけであり,他の手段については記載されていないことから,上記の特定のねじ付け手段以外の手段として,どのような手段が含まれるのか不明である。

そうすると,請求項1において,発明を特定するための事項の技術的意味を理解することができず,出願時の技術常識を考慮すると,発明を特定するための事項が不足していることは明らかであるといえ,特許を受けようとする発明が不明確であるといわざるを得ない。

そして,特許を受けようとする発明が不明確となり,当該発明の技術的範囲,すなわち,上記特定のねじ付け手段以外の手段についての技術的範囲が不明確となる結果,第三者に不測の不利益を及ぼすこととなり得る。

第4 むすび
以上のとおり,本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものである。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-20 
結審通知日 2011-10-21 
審決日 2011-11-04 
出願番号 特願2004-110360(P2004-110360)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 竜介  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 医療用アセンブリ  
復代理人 伊藤 勝久  
復代理人 梅田 幸秀  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ