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審決分類 審判 全部無効 1項1号公知  A23L
審判 全部無効 2項進歩性  A23L
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部無効 1項2号公然実施  A23L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1254698
審判番号 無効2009-800168  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-31 
確定日 2012-03-23 
事件の表示 上記当事者間の特許第4111382号発明「餅」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成14年10月31日 出願
平成20年 4月18日 特許権の設定登録(特許第4111382
号)
平成21年 7月31日付け 審判請求書・甲第1?21号証の2提出
平成21年10月26日付け 答弁書・乙第1?24号証提出(被請求人)
平成22年 1月19日付け 口頭審理陳述書提出(請求人)
平成22年 1月19日付け 口頭審理陳述書・乙第25及び26号証提出
(被請求人)
平成22年 2月 2日付け 口頭審理
平成22年 2月 2日付け 上申書・乙第27号証提出(被請求人)

第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2は、以下のとおりのものである(以下、この発明を「本件発明1」及び「本件発明2」といい、まとめて「本件発明」という。本件発明の各発明特定事項について、請求人が付したとおりの文節記号を付して示す。AないしHの発明特定事項を、「構成要件A」ないし「構成要件H」ということがある。)。

【請求項1】
A.焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
B.載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、
C.この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、
D.焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した
E.ことを特徴とする餅。
【請求項2】
F.焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
G.載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた
H.ことを特徴とする請求項1記載の餅。

第3 請求・答弁の趣旨・当事者の主張の概要・当事者が提出した証拠方法
1 本件審判の請求の趣旨並びに請求人が主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
(1)審判請求書に記載した無効理由の概要及び証拠方法
請求人は、請求の趣旨の欄を
「特許4111382号はこれを無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
との審決を求める。」
として、概略以下の無効理由1?5を主張し、証拠方法として甲第1?21号証の2を提出した。

【無効理由1】
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
【無効理由2】
本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
【無効理由3】
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
【無効理由4】
本件発明1及び2は、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明であるから特許法第29条第1項第2号、又は第1号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
【無効理由5】
本件発明1及び2は、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書
甲第1号証:川島貴志郎、「平成21年第97号事実実験公正証書」平成21年6月30日作成
甲第2号証:津野潤一郎、「陳述書」平成21年7月27日作成
甲第3号証の1:イトーヨーカ堂横浜別所店食品売り場の写真(平成14年10月25日撮影)(甲第2号証における「資料整理簿」1-1)
甲第3号証の2:イトーヨーカ堂横浜別所店食品売り場の写真(平成14年10月25日撮影)(甲第2号証における「資料整理簿」1-2)
甲第3号証の3:イトーヨーカ堂横浜別所店食品売り場の写真(平成14年10月25日撮影)(甲第2号証における「資料整理簿」1-3)
甲第3号証の4:イトーヨーカ堂東村山店食品売り場の写真(平成14年10月25日撮影)(甲第2号証における「資料整理簿」1-4)
甲第4号証:「情報連絡書」と題する書面(作成者津野潤一郎)(甲第2号証における「資料整理簿」2)
甲第5号証:「報告書」と題する書面(作成者津野潤一郎)(甲第2号証における「資料整理簿」3)
甲第6号証の1:「マネキン販売計画書」と題する書面
甲第6号証の2:サトウ食品工業株式会社宛の「見積書」作成者スギアドバタイジング株式会社)(甲第2号証における「資料整理簿」4-2)
甲第7号証:「試食サンプル商品購入代金」と題する報告書(作成者渡辺今日子)(甲第2号証における「資料整理簿」5)
甲第8号証の1:「DS販売報告書」と題する書面(作成者高林恵美子)(甲第2号証における「資料整理簿」6-1)
甲第8号証の2:「DS販売報告書」と題する書面(作成者鹿野光江)(甲第2号証における「資料整理簿」6-2)
甲第9号証:「出荷案内書」と題する書面(作成者佐藤食品工業株式会社)(納品受付印、02年10月19日、伊藤忠食品株式会社)(甲第2号証における「資料整理簿」7)
甲第10号証:「生産依頼書」及び「出来高報告」と題する書面(平成14年10月19日)(甲第2号証における「資料整理簿」8)
甲第11号証:「生産依頼書」及び「出来高報告」と題する書面(平成14年10月31日)(甲第2号証における「資料整理簿」9)
甲第12号証の1:「納品書」と題する書面(平成14年10月11日、東洋製罐株式会社豊橋工場)(甲第2号証における「資料整理簿」10-1)
甲第12号証の2:「納品書」と題する書面(平成14年10月15日、東洋製罐株式会社豊橋工場)(甲第2号証における「資料整理簿」10-2)
甲第13号証の1:「納品書」と題する書面(平成14年10月15日、東洋製罐株式会社豊橋工場)(甲第2号証における「資料整理簿」11-1)
甲第13号証の2:「納品書」と題する書面(平成14年10月16日、東洋製罐株式会社豊橋工場)(甲第2号証における「資料整理簿」11-2)
甲第14号証の1:「ゲラ刷・版下在中」と題する書面(平成14年10月1日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」12-1)
甲第14号証の2:「ゲラ刷・版下」(平成14年10月15日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」12-2)
甲第15号証の1:「納品書」と題する書面(受領印、平成14年10月15日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」13-1)
甲第15号証の2:「送り状」と題する書面(受領印、平成14年10月16日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」13-2)
甲第15号証の3:「納品書」と題する書面(受領印、平成14年10月17日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」13-3)
甲第15号証の4:「納品書」と題する書面(受領印、平成14年10月18日)藤屋段ボール株式会社(甲第2号証における「資料整理簿」13-4)
甲第16号証:「御見積書」と題する書面(02年7月22日)株式会社山由製作所(甲第2号証における「資料整理簿」14)
甲第17号証:「納品書」と題する書面(02年9月30日)株式会社山由製作所(甲第2号証における「資料整理簿」15)
甲第18号証:「請求書」と題する書面(平成14年9月30日)株式会社山由製作所(甲第2号証における「資料整理簿」16)
甲第19号証:「サイドスリットカッター」の組立図面(平成14年9月20日)株式会社山由製作所(担当渡辺(幸))(甲第2号証における「資料整理簿」17)
甲第20号証:「スリット餅 スリット深さに関する傾向のまとめ」と題する書面(2002年8月26日)(作成者、研究室 柳沢)(甲第2号証における「資料整理簿」18)
甲第21号証の1:小林彰夫・村田忠彦編「菓子の事典」(朝倉書店、2000年5月20日、初版第1刷発行、476頁?477頁)
甲第21号証の2:小林彰夫・村田忠彦編「菓子の事典」(朝倉書店、2000年5月20日、初版第1刷発行、奥付)

2 答弁の趣旨・被請求人の主張の概要
被請求人は、「審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。

そして、被請求人の提出した証拠方法は、以下のものである。
(1)答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証の1:本件特許の特許願
乙第1号証の2:本件特許の特許願に添付された明細書
乙第1号証の3:本件特許の特許願に添付された図面
乙第1号証の4:本件特許の特許願に添付された要約書
乙第2号証:本件特許に係る平成17年5月27日付けの拒絶理由通知書
乙第3号証の1:本件特許に係る平成17年8月1日付け意見書
乙第3号証の2:本件特許に係る平成17年8月1日付け手続補正書
乙第3号証の3:本件特許に係る平成17年8月1日付け手続補足書
乙第4号証:本件特許に係る平成17年9月21日付けの拒絶理由通知書
乙第5号証の1:本件特許に係る平成17年11月25日付け意見書
乙第5号証の2:本件特許に係る平成17年11月25日付け手続補正書
乙第5号証の3:本件特許に係る平成17年11月25日付け手続補足書
乙第6号証:本件特許に係る平成18年1月24日付け拒絶査定
乙第7号証の1:本件特許に係る平成18年3月29日付け手続補正書
乙第7号証の2:本件特許に係る平成18年3月29日付け手続補正書
乙第7号証の3:本件特許に係る平成18年3月31日付け手続補足書
乙第8号証:本件特許に係る平成18年5月19日付け前置報告書
乙第9号証:本件特許に係る平成18年2月27日付け審判請求書
乙第10号証:本件特許に係る平成18年11月1日付け審尋
乙第11号証:本件特許に係る平成19年1月4日付け回答書
乙第12号証:本件特許に係る平成20年2月19日付け拒絶理由通知書
乙第13号証の1:本件特許に係る平成20年2月29日付け意見書
乙第13号証の2:本件特許に係る平成20年2月29日付け手続補正書
乙第14号証:本件特許に係る平成20年3月24日付け審決
乙第15号証:特開2004-97063号公報
乙第16号証:「フードウイークリー」(株式会社週刊食品、2003年9月22日、第1頁)
乙第17号証:「フードウイークリー」(株式会社週刊食品、2003年9月22日、第2頁)
乙第18号証:「フードウイークリー」(株式会社週刊食品、2003年9月29日、第9頁)
乙第19号証:「フードウイークリー」(株式会社週刊食品、2003年9月29日)
乙第20号証:「商経アドバイス」(平成15年9月16日)
乙第21号証:「新潟日報」(平成15年9月24日)
乙第22号証:「総合食品9月号」第47頁
乙第23号証の1:平成15年7月17日付け特許願
乙第23号証の2:特許請求の範囲
乙第24号証:平成16年6月8日付け早期審査に関する事情説明書

(2)口頭審理陳述要領書(平成22年1月19日付け)で提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第25号証:福井智昭氏がイトーヨーカ堂に在籍していた当時の名刺
乙第26号証:福井智昭氏の平成21年10月15日付けの陳述書

(3)上申書(平成22年2月2日付け)で提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
乙第27号証:福井智昭氏の平成22年1月22日付けの陳述書

第4 当審の判断
当審は、上記無効理由1ないし5はいずれも理由がない、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張
本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は特許を受けようとする発明が明確でない、とする請求人の主張の具体的な理由は、以下のとおりである。
「(その1)構成要件B『載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け』、及び構成要件G『載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた』における『載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に』との記載はその意義が明確ではなく、本件特許発明(請求項1発明、請求項2発明)はいずれも明確であるとはいえない。
(その2)構成要件D『焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した』の意義、内容が明確ではない。」

(2)無効理由1についての検討
(2-1)無効理由1(その1)について
無効理由1(その1)を検討するにあたって、まず、構成要件B及びGの解釈について、被請求人の主張を含めて検討する。

ア 構成要件B及びGについての本件特許明細書の記載事項
本件発明の構成要件B及びGの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」ることについて、本件特許明細書をみると、次の記載がある。
a「一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。」(段落【0007】)
b「本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ないものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。」(段落【0008】)
c「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体1である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体1の上側表面部2の立直側面である側周表面2Aに、この立直側面2Aに沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部3又は溝部を設け、この切り込み部3又は溝部は、この立直側面2Aに沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面2Aの対向二側面に形成した切り込み部3又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅に係るものである。」(段落【0010】)
d「また、焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体1である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部2の立直側面である側周表面2Aに、この立直側面2Aに沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部3又は溝部を設けたことを特徴とする請求項1記載の餅に係るものである。」(段落【0011】)
e「しかも本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成するため、この切り込み3の設定によって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわない。しかも焼き上がった餅が単にこの切り込み3によって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができることとなる。」(段落【0015】)
f「即ち、例えば、側周表面2Aに切り込み3を周方向に沿って形成することで、この切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込み3が位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多い。」(段落【0016】)
g「また、この側周表面2Aに形成することで、膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。」(段落【0017】)
h「【発明の効果】
本発明は上述のように構成したから、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。」(段落【0032】)
i「しかも本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面に周方向に沿って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわず、しかも確実に焼き上がった餅は自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができこととなる画期的な餅となる。」(段落【0033】)
j「また、切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込みが位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多く、膨化によってこの切り込みの上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。」(段落【0034】)
k「特に本発明においては、方形(直方形)の切餅の場合で、立直側面たる側周表面に切り込みをこの立直側面に沿って形成することで、たとえ側周面の周面全てに連続して角環状に切り込みを形成しなくても、少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込みを形成することで、この切り込みに対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、しかも完全に側面に切り込みは位置し、オーブン天火の火力が弱いことなどもあり、忌避すべき形状とはならず、また前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。」(段落【0035】)

イ 構成要件B及びGの解釈について
これらの記載事項によると、従来、切り餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れることにより、噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれるという問題(摘記a)があったところ、本件発明は、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できることを目的に含むものである(摘記b)。
具体的には、本件発明は、切り込みを周方向、例えば、側周表面に周方向に沿って形成するため、この切り込みの設定によって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわないものである(摘記e及びi)。このように、側周表面に切り込みを周方向に沿って形成することで、この切り込み部位が焼き上がり時に平坦上面(平坦頂面)に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく、オーブン天火による火力が弱い位置に切り込みが位置するため忌避すべき焼き形状とならない場合が多く(摘記f,j及びk)、側周表面に形成することで、膨化によってこの切り込みの上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという作用効果を生じるとされている(摘記g,j及びk)。
そうすると、本件発明は、従来、切り餅の表面、すなわち平坦上面に入れていた切り込みを側周表面の周方向に沿って形成することにより、忌避すべき焼き上がり状態とならないようにしたものであるといえるから、本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」るとは、「載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、切り込み部又は溝部を設け」ることを意味することは明らかである。

ウ 構成要件B及びGの解釈についての被請求人の主張について
被請求人は、答弁書の「7.(4)」、「(4-1)無効理由1について」において、「本件各発明は、・・・載置底面又は平坦上面の切り込み部又は溝部を設けない構成及び載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けた構成の何れも含む(載置底面又は平坦上面の切り込み部又は溝部はあってもなくてもよい)ものである。」として次のような主張をしている。
(ア)「切り餅は直方体であるために、単に『この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面』と述べても、下図の3パターンのように、直方体の6面のどの部分が側周表面かを特定することができない。



そこで、本件請求項1に係る発明において『焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなく』として、焼き網に載置して焼き上げる場合を前提とした載置底面又は平坦上面をそれぞれ特定した上で、載置底面及び平坦上面ではない側周表面であるという特定をしたのである・・・。
したがって、『載置底面又は平坦上面ではなく』という記載によって、本件各発明において、『載置底面又は平坦上面』には切り込み部又は溝部を設けないと解釈する余地があるとはいえないのである。」(答弁書第8頁13行?第9頁3行)
(イ)「本件発明において、仮に、切餅の載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けたものを除外する意図があって、切餅の側周表面だけに切り込み部を設けることを表現する場合には、一般に『切餅の載置底面又は平坦上面には切り込み部を設けずに、切餅の側周表面に切り込み部を設ける』、『切餅の載置底面又は平坦上面にはなく、切餅の側周表面にある切り込み部』または『切餅の側周表面のみに切り込み部を設ける』等と記載されるのに対し、本件請求項1では、そのようには記載されていないのであるから、本件各発明は、文言解釈において、載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けても設けなくてもよいと解釈されるべきものである。」(答弁書第10頁3行?11行)
(ウ)「また、本件特許発明の作用効果を参酌しても、・・・載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けた餅を除外するとは解釈できない。
例えば、本件明細書【0032】によれば、本件特許発明の効果として、以下のとおりの記載がある(なお、本件明細書【0008】にも同様の記載がある。
本件明細書【0032】・・・
【発明の効果】
本発明は上述のように構成したから、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。
・・・
本件明細書【0008】・・・
本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ないものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。
すなわち、切餅の薄肉部である側面の『切り込みの設定によって』、切餅が最中やサンドウイッチのように焼板状部間に膨化した中身がサンドされた状態に焼き上がって、噴きこぼれを抑制されるだけでなく、見た目よく、均一に焼き上がり、食べ易い切り餅が簡単にできることに、本件特許発明の作用効果があるのであって、載置底面又は平坦上面に切り込みが存在するか否かは、かかる作用効果とは無関係である。
他方で、本件明細書【0032】では、『切り込みの設定によっては』、つまり、例えば載置底面又は平坦上面に切り込みを設けない場合には、『焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわない』としているのであって、この記載は、本件特許発明においても載置底面又は平坦上面に切り込みを設ける場合があることを想定した記載である。すなわち、本件明細書【0032】の『切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく』との記載は、本件特許発明において載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けた餅を包含することを前提としているのである。」(答弁書第10頁12行?第11頁下から5行)
(エ)「本件明細書【0033】では、『本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく』・・・との記載に続き、切り込みを『周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面に周方向に沿って対向位置に形成』するとしている。ここに『単なる』とは、『ただの。それだけの。』という意味であることから(広辞苑第6版)、本件明細書【0033】の記載は、餅の平坦上面に切り込みを入れるだけではなく、これに加えて周方向に切り込みを形成することを意味しているのである。」(答弁書第12頁20行?末行)
(オ)「本件特許の出願経過では、平成17年11月25日付意見書(乙5の1)、平成18年3月29日付け手続補正書(乙7の1)及び平成19年1月4日付け回答書(乙11)において、本件特許発明では切餅の上下面である載置底面及び平坦上面に切り込みがあってもなくてもよいことを積極的に主張し、その結果、特許すべき旨の審決がなされている。このように、本件特許発明では載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けても設けなくてもよいことを前提に、特許登録に至っているのである。
・・・
さらにいえば、被請求人は、平成17年8月1日付手続補正書(乙3の2)において、一旦、『小片餅体の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の側周表面のみに、周辺縁あるいは輪郭縁に沿う周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け』との補正を試みたところ、平成17年9月21日付拒絶理由通知書(乙4)において、『『小片餅体の上側表面部の側周表面のみに、』(補正後の請求項1)は願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載されていない。・・・記載された事項から『のみ』であることが自明な事項であるとも認められない。』とされた。
そこで、被請求人は、平成17年11月25日付意見書(乙5の1)において、『切り込みが側周表面にのみ存するとの点については、審査官の要旨変更とのご指摘を踏まえて、元通り『のみ』を削除し、この『のみ』であるか否かは出願当初どおり請求項には特定せず、本発明の必須の構成要件でなく出願当初通り『のみ』かどうかは本発明とは無関係と致しました。』と述べている。つまり、本件特許の出願経過の当初から、本件特許発明においては、側周表面のみに切り込みを設けるという構成には限定出来ないことを審査官より指摘された上、被請求人としても限定しないことを前提に本件特許発明の審査がなされているのである。」(答弁書第13頁6行?第15頁20行)

エ 上記被請求人に主張に対する当審の判断
(ア)被請求人の主張(ア)について
被請求人は、小片餅体の上面部の立直側面である側周表面と述べても、直方体の6面のどの部分が側周表面かを特定することができないと主張している。
しかしながら、焼き網に切餅を載置して餅を焼き上げる際、狭い面積で安定性に乏しい側周表面を焼き網に載置するよりは、広い面積を有する載置底面を焼き網に載置することが普通に行われることである。そうすると、「小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」という規定だけで側周表面は、狭い面積を有する長辺部又は短辺部と特定されるから、「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」は、側周表面を特定するためのものではなく、「複数の切り込み部又は溝部を設け」ることの否定、すなわち、切餅の載置底面又は平坦上面には、切り込み部又は溝部は設けないと解するのが相当である。
したがって、被請求人の主張(ア)は、是認できない。
(イ)被請求人の主張(イ)及び(エ)について
被請求人は、「本件各発明は、文言解釈において、載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けても設けなくてもよいと解釈されるべきものである。」(主張(イ))及び「本件明細書【0033】の記載は、餅の平坦上面に切り込みを入れるだけではなく、これに加えて周方向に切り込みを形成することを意味しているのである。」(主張(エ))との主張をしている。
そこで、これらの主張について検討する。
本件特許明細書には、段落【0015】に「本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成するため、この切り込み3の設定によって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわない。」との記載があり、また、段落【0033】に「本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面に周方向に沿って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわず、」とある。
段落【0015】の「切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく」及び段落【0033】の「切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく」との記載は、切り込みを餅の平坦上面に形成することを否定するものである。また、上記各段落には、「餅の平坦上面に切り込みを入れるだけではなく」とは記載されておらず、餅の平坦上面とともに側周表面に切り込み部を設けることが記載されているとすることはできない。そして、餅の平坦上面に切り込みを形成したりするのではないことにより、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわないのである。
そうすると、上記本件特許明細書の記載からみて、構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」は、載置底面又は平坦上面には、切り込み部又は溝部を設けないと解するのが相当である。
したがって、被請求人の「切餅の載置底面又は平坦上面には切り込み部を設けずに、切餅の側周表面に切り込み部を設ける」等の記載がなされていないから、「文言解釈において、載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けても設けなくてもよいと解釈されるべきものである。」との主張や、「餅の平坦上面に切り込みを入れるだけではなく、これに加えて周方向に切り込みを形成することを意味しているのである。」との主張は、採用することができない。
(ウ)被請求人の主張(ウ)について
被請求人は、「本件特許発明の作用効果を参酌しても、・・・載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けた餅を除外するとは解釈できない。」との主張をしているので、この点について検討する。
本件特許明細書には、発明が解決しようとする課題として、「一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、・・・焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。本発明は、・・・切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、・・・また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。」(段落【0007】及び【0008】)と記載されており、餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御すると焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなるので、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるとされており、美感を損なわないことを発明の解決しようとする課題としている。そうすると、「餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ」の「餅表面」とは、数条の切り込み(スジ溝)を入れると焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなる面をさすのであるから、「載置底面又は平坦上面」であるといえ、「切り込みの設定によって」とは、「小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面」における一若しくは複数の切り込み部又は溝部についての切り込みの設定と解するのが相当である。
そして、同明細書には、餅表面である載置底面又は平坦上面に数条の切り込み(スジ溝)を入れた場合において、焼いた後の焼き餅の美感を損なわないようにすることは記載されていない。
そうすると、「『切り込みの設定によっては』、つまり、例えば載置底面又は平坦上面に切り込みを設けない場合には、『焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわない』としているのであって、この記載は、本件特許発明においても載置底面又は平坦上面に切り込みを設ける場合があることを想定した記載である。」との被請求人の主張は、本件特許明細書に載置底面又は平坦上面に切り込みを設けることが記載も示唆もされていないといえるから、是認できない。
(エ)被請求人の主張(オ)について
被請求人は、「本件特許発明では載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けても設けなくてもよいことを前提に、特許登録に至っているのである。」との主張をしているので、この点について検討する。
上記「イ」で述べたように、本件特許明細書の記載からみて、本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」るとは、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、切り込み部又は溝部を設けることを意味するのであるから、平成17年9月21日付け拒絶理由通知書においてなされた、「『小片餅体の上側表面部の側周表面のみに、』(補正後の請求項1)は願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載されていない。・・・記載された事項から『のみ』であることが自明な事項であるとも認められない。」との判断は誤りであることが明らかである。
したがって、平成17年9月21日付け拒絶理由通知書以降の出願経過における、本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」に関して被請求人が指摘する事項は、前提において誤りであるので、参酌することはできない。

オ 無効理由1(その1)についてのまとめ
本件特許明細書の記載からみて、本件発明の構成要件B及びGの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」るとは、「載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」ることを意味することは明らかであるから、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」の記載は明確であり、この記載を明確でないとする請求人の主張は採用できない。

(2-2)無効理由1(その2)について
本件特許明細書には、「この側周表面2Aに形成することで、膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
即ち、この持ち上がりにより、図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。またほぼ均一に焼き上げることが可能となる。」(本件特許明細書段落【0017】?【0018】)との記載がある。
上記本件特許明細書の記載によれば、切餅を焼き上げる方法(均等加熱か否か)によって、「最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」の焼き上がり形状、又は、「焼はまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような」焼き上がり形状のいずれかの形状となることが明らかであり、そのいずれの態様も本件発明に包含される。
したがって、「最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」との記載が不明確であるとはいえず、請求人の主張は是認できない。

(3)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、上記理由によっては、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2項に適合しないということはできない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたということはできず、同法第123条第1項第4号の規定に該当するものということはできない。
よって、無効理由1は、理由がない。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張
本件発明1及び2が発明の詳細な説明に記載したものではない、とする請求人の主張の具体的な理由は、以下のとおりである。
「(その1)構成要件B『載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け』、及び構成要件G『載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた』は、特許請求の範囲の記載上は『載置底面又は平坦上面に切り込みが設けられる』構成は除外されていない(つまり、『載置底面又は平坦上面に切り込みが設けられる』構成も請求項1発明及び請求項2発明に含まれる。)が、『載置底面又は平坦上面に切り込みが設けられる』構成については『発明の詳細な説明』に記載されておらず、さらに、当該構成では所定の効果を奏することが自明のことであるとはいえないから、本件特許発明(請求項1発明及び請求項2発明)は『発明の詳細な説明』に記載されていない発明についてそれを超えて『特許請求の範囲』に記載して特許発明としたものである。
(その2)構成要件Dは『焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した』と記載されているが、発明の詳細な説明には構成要件A、B、Cを充足する餅(構成要件E)は焼き上げると、『この持ち上がりにより、図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。また、ほぼ均一に焼き上げることが可能となる。』(【0018】)・・・と記載されている。構成要件Dはそのうち、『最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形すること』を請求項1発明の構成要件としたものであるが、『焼きはまぐりができあがったような状態』ではなく、『最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態』に膨化変形するための具体的構成は『発明の詳細な説明』に記載されていない。」

(2)無効理由2についての検討
(2-1)無効理由2(その1)について
先に述べたように、本件特許明細書の記載からみて、本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」とは、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、切り込み部又は溝部を設けることを意味することは明らかである。
そうすると、請求人の主張する本件発明1及び2の解釈、すなわち、「本件特許発明(請求項1発明及び請求項2発明)には本件特許発明の対象である「餅」(切餅)の載置底面又は平坦上面)に切り込みが設けられる(例えば、X状や+状に交差形成したりすること)構成が含まれることになる。」との解釈は、誤りである。
したがって、載置底面又は平坦上面に切り込みが設けられる構成について発明の詳細な説明に記載されていないことを根拠として、「本件特許発明(請求項1発明及び請求項2発明)は『発明の詳細な説明』に記載されていない発明についてそれを超えて『特許請求の範囲』に記載して特許発明としたものである。」という請求人の主張は是認できず、本件特許明細書の記載に請求人の主張する不備はない。

(2-2)無効理由2(その2)について
本件特許明細書には、「この側周表面2Aに形成することで、膨化によってこの切り込み3の上側が下側に対して持ち上がり、この切り込み部位はこの持ち上がりによって忌避すべき焼き上がり状態とならないという画期的な作用・効果を生じる。
即ち、この持ち上がりにより、図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。またほぼ均一に焼き上げることが可能となる。」(本件特許明細書段落【0017】?【0018】)、及び「立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで、図2に示すように、この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり、」(同段落【0027】)との記載がある。
上記本件特許明細書の記載によれば、切餅を焼き上げる方法(均等加熱か否か)によって、「最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」の焼き上がり形状、又は、「焼はまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような」焼き上がり形状のいずれかの形状となることが明らかであり、「焼はまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状」は、「最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形すること」の一態様であると認められる。
したがって、側周表面に、切り込み部又は溝部を設けるという具体的な構成により、「最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」のであるから、発明の詳細な説明に具体的構成が記載されているといえる。
したがって、請求人の主張には、理由がない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、上記理由によっては、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1項に適合しないということはできない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたということはできず、同法第123条第1項第4号の規定に該当するものということはできない。
よって、無効理由2は、理由がない。

3 無効理由3について
(1)請求人の主張
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない、とする請求人の主張の具体的な理由は、以下のとおりである。
「(その1)『載置底面又は平坦上面に切り込みが設けられる』構成の場合に、『焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなることがない』との目的、効果を達することは当業者においてもできない。
(その2)『側周表面の対向二側面に形成した切り込み部(溝部)』(構成要件B、構成要件C)について、『発明の詳細な説明』には周方向の具体的な長さや切り込み部の深さが記載(開示)されていないので、当業者においても請求項1発明は実施できない。
(その3)構成要件Dには『最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形するように構成した』と記載されているが、『焼きはまぐりができあがったような状態』ではなく、『最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態』に膨化変形するための具体的な構成、手段が記載されていないので当業者といえども実施できない。」

(2)無効理由3についての検討
(2-1)無効事由3(その1)
先に述べたように、本件特許明細書の記載からみて、本件発明の構成要件B及びGの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、・・・切り込み部又は溝部を設け」とは、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けず、上側表面部の立直側面である側周表面に、切り込み部又は溝部を設けることを意味すると解される。
したがって、請求人の主張は、前提において誤りであり、本件特許明細書の記載に請求人の主張する不備はない。

(2-2)無効事由3(その2)
本件特許明細書には、実施例として「即ち、立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで、図2に示すように、この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
従って、例えば図3に示すように対向二側面の側周表面2Aに刃板5によって切り込み3を形成することで、(前後に切り込み3を殆ど形成せず環状に切り込み3を形成しないが)四面に全てに連続させて形成して四角環状とする場合に比して十分ではないが持ち上がり現象は生じ、前記作用・効果は十分に発揮される。」(段落【0027】及び【0028】)との記載があり、また、図2及び図3には、最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態の焼き上がり状態の図、及び、対向二側面の側周表面2Aに刃板5によって切り込み3を形成する図が記載されており、上記記載及び図2及び図3を参酌すれば、切り込み部又は溝部の周方向の長さ及び切り込みの深さが明らかにされていなくても当業者であれば、過度な試行錯誤を経ずに容易に切り込み部を設定し得るものであるから、本件特許明細書の記載に請求人の主張する不備はない。

(2-3)無効事由3(その3)
本件特許発明は、所定の「一若しくは複数の切り込み部又は溝部」を設けることにより「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制する」のであるから、切り込み部又は溝部の上側が下側に対して均等にすれば、最中やサンドウィッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態の焼き上がり形状になり、不均等に膨化すれば、焼はまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような焼き上がり形状になるから、具体的な構成、手段が「発明の詳細な説明」に記載されていないとの指摘は当たらず、本件特許明細書記載に請求人の主張する不備はない。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、上記理由によっては、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、特許法第36条第4項に適合しないということはできない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたということはできず、同法第123条第1項第4号の規定に該当するものということはできない。
よって、無効理由3は、理由がない。

4 無効理由4について
(1)請求人の主張の概要
請求人は、「請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において製造販売された佐藤食品工業株式会社(本件審判請求人)製の切餅『こんがりうまカット』(以下、『サトウの『こんがりうまカット』』という。)において公然実施された発明(または公然知られた発明でもある。)(以下、『サトウの『こんがりうまカット』発明』という。)を含むから、特許法第29条第1項第2号あるいは第1号の規定に該当し特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。」と主張する。
そして、サトウの『こんがりうまカット』発明の構成について、甲第1号証により明らかであると主張している。

(2)無効理由4についての検討
(2-1)本件発明1について
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「第2 目撃した事実及び実験した事実
1 本公証人が嘱託人代理人弁護士島田康男から提出を受けた袋は,・・・個包装された内容物が入れられており、そのままの状態でその大きさを計測すると,縦が約31cm,横が約23cmであった。・・・
2 外装の表側には,『サトウの切り餅』,『こんがりうまカット』,『焼いてきれい。割って便利。煮てもおいしい。切り込みが入ってふっくら焼きやすく,食べやすく便利になりました。』・・・との文字が印刷されていた(写真1,3ないし5参照)。・・・
4 次いで,本公証人は,鋏を用いて外袋の上部を切り,封入されていた個包装された内容物(前記外装の各種記載や内容物の外観から,以下『切り餅』という。)の全部を取り出した。・・・
個包装も合成樹脂製の透明な袋で,そこには別紙図面のとおり,『この餅には切り込みが入っています。』という文字・・・が印刷されていた(写真15参照)。・・・
5 本公証人は,20個の切り餅を順に手に取り,個包装された状態のままで外側から切り餅に施された切り込みの有無を確認できるか否か確認したところ,切り餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施されていることが見て取れたほか,切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の上下方向のほぼ中央あたりに,長辺部の全長にわたり切り込みが施されていることを見て取ることができた(写真12ないし14参照。)
6 本公証人は,次いで,20個の個包装された切り餅の中から無作為に3個を選び,個包装を開封し,切り餅を取り出し,その大きさを計測したところ,長辺が約60mm,短辺が約38mm,厚さが約15mmであった。
7 本公証人は,3個の切り餅にa,b,cの印を付け(写真15参照),切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部を確認したところ,ずれはあるものの,いずれもその上下方向の中央部付近に長辺部の全長にわたって切れ込みが施されていることを確認することができた。・・・また,切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する短辺部から見て取れる長辺部の切れ込みの深さは,約2mmないし3mm程度であった(写真24ないし29参照)。」(第1頁下から2行?第6頁4行)
また、甲第1号証の別紙には、切り餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施され、切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対抗する長辺部の全長にわたり切り込みが施された切り餅(写真12?写真14及び写真16?29)が認められる。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記、「切り餅を取り出し,その大きさを計測したところ,長辺が約60mm,短辺が約38mm,厚さが約15mmであった。」との記載からみて、この切り餅は、輪郭形状が方形であるといえ、「切り餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施されていることが見て取れた」との記載及び写真12?写真14、写真16?29からみて、この切餅は、切り餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施されており、「切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部を確認したところ,ずれはあるものの,いずれもその上下方向の中央部付近に長辺部の全長にわたって切れ込みが施されていることを確認することができた。」との記載及び写真12?写真14、写真16?29からみて、切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部の全長にわたって一の切れ込みが施されているといえる。そうしてみると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「(a)輪郭形状が方形の小片餅体である切り餅の
(b)切り餅の上面及び下面に十字状の切れ込みが施され,切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部に一の切り込みが施されており、
(c)この切り込みは、この側周表面の対向する長辺部の全長にわたり形成した切り込みである、
(e)ことを特徴とする餅。」(以下、「甲1発明」という。)

ウ 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「切り餅」、「切り餅の上面及び下面」及び「切り込み」は、本件発明1の「小片餅体」、「載置底面、平坦上面」及び「切り込み部」に相当する。また、甲第1号証の「切り込みが入ってふっくら焼きやすく」との記載からみて、この餅は焼き上げて食するものであって、通常、切餅は、焼き網に載置して焼き上げることができるものであり、甲1発明の「切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面」は、「立直側面」であり、「側周表面の対向する長辺部に一の切り込みが施され」とは、同発明における「切り餅の上面及び下面に挟まれた側周表面の対向する長辺部に一の切り込みが施され」とは、「立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一の切り込み部を設け」ることであるから、本件発明1の「小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一の切り込み部を設け」に相当し、甲1発明の「側周表面の対向する長辺部の全長にわたり形成した切り込み」とは、「立直側面に沿う方向を周方向として前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部」であるから、同発明の「この切り込みは、この側周表面の対向する長辺部の全長にわたり形成した切り込みである、」は、本件発明1の「この切り込み部は、この立直側面に沿う方向を周方向として前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部である、」に相当する。
そうすると、両者は、
「(a)焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の
(b)小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一の切り込み部を設け、
(c)この切り込み部は、この立直側面に沿う方向を周方向として前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部である、
(e)ことを特徴とする餅。」である点において一致し、以下の点で相違するといえる。
a 本件発明では、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、」と特定されているのに対して、甲1発明では、「載置底面及び平坦上面に十字状の切れ込みが施され」ている点
b 本件発明では、「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」と特定されているのに対して、甲1発明では、このような特定はなされていない点

エ 相違点についての検討
甲1発明に係る餅は、「載置底面及び平坦上面に十字状の切れ込みが施され」たものであり、甲第1号証には、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」た点についての記載又は示唆はない。
したがって、相違点aは、実質的な相違点である。

オ 小活
相違点aについては、以上のとおりであるから、相違点bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとすることはできない。
したがって、本件発明1は、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明であるとすることはできない。

(2-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた」ものである。
そうしてみると、前述のとおり、本件発明1は甲1発明であるとすることはできないから、本件発明1を引用する本件発明2も、また、甲1発明であるとすることはできない。
したがって、本件発明2についても、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明であるとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、無効理由4には理由がない。

5 無効理由5について
(1)請求人の主張の概要
請求人は、「請求項1及び2に係る発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明(公然知られた発明でもある)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。」と主張する。

(2)無効理由5についての検討
(2-1)本件発明1について
ア 甲第1号証に記載された発明及び本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点については、上記「4、(2)(2-1)」のア?ウに記載したとおりである。

イ 相違点についての検討
本件発明1における「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」た点について、甲第1号証には記載又は示唆はないのであるから、甲1発明において、相違点aに係る本件発明1の構成要件とすることは当業者が容易になし得ることとはいえない。
そして、本件発明1は、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」るにより、「切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる」(段落【0032】)ものである。
そうすると、本件発明1は、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状の切り込み部又は溝部を設けた」ものである。
そうしてみると、前述のとおり、本件発明1は、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2もまた、その出願日の前に日本国内において公然実施をされた発明又は公然知られた発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、無効理由5には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人が負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-17 
結審通知日 2010-05-19 
審決日 2010-06-08 
出願番号 特願2002-318601(P2002-318601)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A23L)
P 1 113・ 112- Y (A23L)
P 1 113・ 537- Y (A23L)
P 1 113・ 111- Y (A23L)
P 1 113・ 536- Y (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 井上 千弥子
齊藤 真由美
登録日 2008-04-18 
登録番号 特許第4111382号(P4111382)
発明の名称 餅  
代理人 末吉 亙  
代理人 吉田 正義  
代理人 高橋 元弘  
代理人 牛木 護  
代理人 坂手 英博  
代理人 島田 康男  
代理人 福田 浩志  
代理人 高橋 知之  
代理人 清武 史郎  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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