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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1255004
審判番号 不服2010-19346  
総通号数 149 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-26 
確定日 2012-04-04 
事件の表示 特願2006-343506「有機電界発光膜蒸着用蒸着源」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月17日出願公開、特開2007-123285〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 :平成18年12月20日
(特願2003-277602号を原出願とした分割出願)
(パリ条約に基づく優先権主張の日:平成14年7月19日、韓国)
拒絶理由通知(最初):平成21年 7月27日(起案日)
手続補正 :平成21年11月 4日
拒絶理由通知(最後):平成21年11月25日(起案日)
手続補正 :平成22年 4月 1日
拒絶査定 :平成22年 4月20日(起案日)
拒絶査定不服審判請求:平成22年 8月26日
手続補正 :平成22年 8月26日
審尋 :平成23年 5月27日(起案日)

第2 平成22年8月26日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成22年8月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、その補正は、平成22年4月1日付け手続補正により補正された請求項1の、
「【請求項1】
供給される電力によって加熱され、内部に収容された蒸着材料に熱を伝達し、内部で生成された蒸着材料の蒸気を噴射させて基板表面に蒸着膜を形成する有機電界発光膜蒸着用蒸着源において、
蒸気放出開口が形成された上部プレート、側壁、及び底部材を含み、さらに前記蒸気放出開口は、蒸着膜が蒸着される基板の幅と同一の長さを有し、
前記蒸着源は、ジルコニウム(Zr)の酸化物または窒化物で形成され、前記蒸着源は、前記蒸着材料である有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく、
前記蒸着源は、固定された前記基板に対して水平移動自在に設けられていることを特徴とする有機電界発光膜蒸着用蒸着源。」
を引用する請求項2の、
「【請求項2】
前記蒸着源は上側部分と下側部分とを有し、前記上側部分の断面積が前記下側部分の断
面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光膜蒸着用蒸着源。」
なる記載を、
本件補正後の請求項1の、
「【請求項1】
供給される電力によって加熱され、内部に収容された蒸着材料に熱を伝達し、内部で生成された蒸着材料の蒸気を噴射させて基板表面に蒸着膜を形成する有機電界発光膜蒸着用蒸着源において、
蒸気放出開口が形成された上部プレート、側壁、及び底部材を含み、さらに前記蒸気放出開口は、蒸着膜が蒸着される基板の幅と同一の長さを有し、
前記蒸着源は、ジルコニウム(Zr)の酸化物または窒化物で形成され、前記蒸着源は、前記蒸着材料である有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく、
前記蒸着源は、固定された前記基板に対して水平移動自在に設けられ、
前記蒸着源は、上側部分と下側部分とを有し、開口が形成された前記上側部分の断面積が前記下側部分の断面積よりも小さいことを特徴とする有機電界発光膜蒸着用蒸着源。」
という記載にすることを含むものである。

本件補正後の請求項1に係る補正は、平成22年4月1日付け手続補正により補正された請求項1について、「上側部分」を「開口が形成された」ものと限定するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。

そこで、本件補正後の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下に検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は、上記「1 本件補正の目的」で検討した、本件補正後の請求項1に記載のとおりのものである。

3 引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開2001-291589号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(1a)「【0010】
【発明の実施の形態】図1、図2及び図3に、長方形の熱物理蒸着源1の透視図と断面図を示す。長方形の熱物理蒸着源1は、側壁12及び14、端壁16及び18並びに底壁15によって画定される長方形のハウジング10からなる。ハウジング10は固体の有機電界発光用蒸着材料40を初期レベル42まで含有する。ハウジングは、興味ある固体有機電界発光用蒸着材料を気化させるのに必要な高温に耐えられ且つ付形可能なものであれば、どのような材料でも構築することができる。壁に電流を流した時に、壁に続いてハウジング10に含まれる有機電界発光用蒸着材料40が輻射及び伝導により加熱されるに十分な温度にまで壁を抵抗加熱するように、電気抵抗率の比較的高い耐熱金属で壁を製作することができる。このようなハウジング材料は、当業者であれば周知であるが、多くの場合、機械的付形及び溶接がしやすいこと、機械的に丈夫な容器が得られる厚さt_(h)において電気抵抗率が有用な範囲をとること、そして、気化に必要な温度において興味ある有機電界発光材料のほとんどに対する化学反応性が限られていることから、タンタルが特に魅力的な材料である。また、これらの壁を、高温誘電体材料、例えば、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、アルミナ、その他当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ、で製作することもできる。特に、固体の有機電界発光用蒸着材料が溶融してから気化する場合には、溶融材料を含有するため、溶接された金属ハウジングよりも、上記の誘電体材料の方が有用であり得る。
【0011】長方形熱物理蒸着源1の最後の六番目の壁は、蒸気流出口22を有する長方形の上板20である。蒸気流出口22は、長方形上板20の平面内においてハウジング10に関して中心に位置することが典型的である。蒸気流出口の機能は、気化した有機電界発光用蒸着材料をハウジング10から基板(例えば、図4中の基板102)の方向へ漏れされることである。
【0012】蒸着材料40の粒状物又は液滴が流出口を通して基板の方向へ直接出ていくのを遮断するように、長方形の流出口22の下方に長方形のバフル部材30の中心を置く。本発明の特徴は、粒状物又は液滴が出ていく危険性が極力抑えられると同時に蒸気が出ていく確率が最大限に引き上げられるように、長方形熱物理蒸着源1と、長方形ハウジング10と、長方形上板20と、長方形流出口22と、長方形バフル部材30と、そしてバフル部材30の長方形上板20からの間隔との相対寸法の大きさを最適化するために、適切な寸法の組合せを選択したことにある。興味ある寸法を図5に示す。
【0013】上板20は電気接続用フランジ21及び23を有し、これらを接続用クランプにより電源に接続することができる(図4参照)。図1及び図2に略示したように、上板20は、少なくともハウジング10の長辺側壁12、14に沿って延びるシールリップ25、27を有する。他のシール手段を構築し得ることは理解できよう。例えば、予め成形したセラミックシール(図示なし)をハウジング10の側壁12、14及び端壁16、18の各々の上に配置することができ、このようなシールにより上板20を封止するように係合することができる。
【0014】ハウジング10は幅寸法w_(h)を有し、上板20の蒸気流出口22は幅寸法w_(s)を有する。図2中の垂直中心線24で略示したように、蒸気流出口スリット22はハウジング10に関して中心に位置している。
【0015】長方形バフル部材30は、バフル支持体32、34によって、上板20から間隔を置かれている。バフル支持体はバフル部材と上板とに対して、スポット溶接、リベット締め、その他の締結手段によって固定することができる。バフル部材30はバフル端末36、38を有し(図3参照)、また、バフル部材30の構造安定性を確保する特徴、例えば、リブその他の構造設計の形態で構築されたバフルスタビライザー31、を有することもできる。
【0016】バフル部材30と蒸気流出口22との位置関係は、バフル部材30が、有機電界発光用蒸着材料40の粒状物又は液滴を蒸気流出口22から噴出させないようにすると同時に、気化する有機電界発光用材料40の分子がハウジング10内部のバフル部材30の周囲を経て最終的に蒸気流出口22から基板に向けて出ていくことを許容するような関係にある(図4参照)。
【0017】上板の電気接続用フランジ21、23で電源と電気接続して電流を流すことにより、上板20とバフル部材30はどちらも抵抗加熱される。ハウジング10の少なくとも一部分を加熱したい場合には、ハウジングの壁厚t_(h)を、上板20からの輻射熱に加えて、ハウジング10の側壁、端壁及び底壁からの電流熱が固体の有機電界発光用蒸着材料40に付加され得る抵抗加熱通路を提供するように選定する。熱物理蒸着源1は、その設計が長方形であるため線形蒸着源とも呼ばれる。
【0018】本発明の熱物理蒸着源の、特に有機電界発光用蒸着材料40について使用する場合の重要な特徴は、長方形上板20と長方形バフル部材30とからの輻射熱が最上層、例えば、固体有機電界発光材料40の最上部に位置する初期層42、を輻射のみによって加熱するため、最上層が固体相から蒸気相へ変化する機会を最多化すると共に、最上位よりも下方に位置する固体有機電界発光材料40が、固体有機電界発光材料(通常は粉末状である)から発生する吸着気体又は吸収気体が粒状物又は液滴を蒸気流出口22の方へ上向きに噴出させることになるであろう温度にまで加熱される危険性を極力抑える、ということにある。」
(1b)「【0019】図4に、真空容器又は真空室の内部で基板102の上に有機電界発光被膜を形成するように作動する熱物理蒸着源を含む物理蒸着装置200を示す。当該容器又は室は、一般的に、ベース板202と、上部板204と、真空シール210により当該ベース板202に係合封止され且つ真空シール208により当該上部板204に係合封止される室壁206とから形成されている。真空ポンプ220が、真空弁222及びベース板202内の吸入排出口224を介して1.33×10^(-5)?1.33 Pa(10^(-7)?10^(-2) Torr)の範囲の圧力にまで室内排気を行う。当該圧力は、上部板204を貫通して室内に延びている圧力モニター口260を有する圧力モニター262によって指示される。
【0020】熱物理蒸着源1の電気接続フランジ21及び23は、それぞれ接続クランプ248及び258を介して導線244及び254に、またそれぞれ電力フィードスルー246及び256並びにそれぞれ導線244及び254を介して電源240に接続されている。導線241の途中に電流計242を挿入し、電源240により供給される調整可能な電圧の関数として熱物理蒸着源1を流れる電流を表示させる。
【0021】熱物理蒸着源1は、一般に金属製のベース板202に対して、断熱構造体230により支持される。この断熱構造体230は、真空容器又は真空室の効率的排気を可能ならしめるような構造を有する。
【0022】熱物理蒸着源1の上板20及びバフル部材30(図1?3の説明参照)をそこを流れる電流Iにより十分に加熱すると、有機電界発光材料の蒸気44が、ハウジング10の側壁12及び14、上板20の下側並びにバフル部材30から屈折した後、蒸気流出口22を通って出ていく。図中破線で示した有機電界発光材料の蒸気44は、上板104の方向へほぼ上方に向かい、したがって、基板取り付け用ブラケット104及び106により上部板204に保持されている基板102の方向へ向かう。特定の特性、例えば、接着性や結晶学的特性、を有する有機電界発光層を形成させるため、基板102を、上部板204に対してではなく、温度制御できる表面に取り付けることができる、ということも認識される。
【0023】有機電界発光材料の蒸気44は、導線272により速度モニター274に接続されている蒸着速度モニター要素270にも入射する。一般に実施されているように、速度モニター274が一定の蒸着速度を示すようになる時間まで基板102を覆うため、シャッター(図示なし)を使用することができる。このようなシャッターを開くことにより、基板102の上に有機電界発光層が蒸着される。」
(1c)図1

(1d)図2

(1e)図3

(1f)図4

(1g)図5

〔引用例の記載事項からの認定事項〕
(ア)技術常識を参酌すれば、上記記載事項(1a)の「壁を、高温誘電体材料、例えば、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、アルミナ、その他当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ、で製作する」場合、「熱物理蒸着源1」の「壁」に直接電流を流して「抵抗加熱」することはできないから、「有機電界発光用蒸着材料40」の「抵抗加熱」は、「壁」とは別体の加熱手段により実現するものと認められる。
(イ)図1,2,5の記載等から、蒸気流出口22の面積は、ハウジング10の内側の空間の断面積よりも小さいことは明らかである。

〔引用例に記載された発明〕
これらの記載事項及び認定事項からして、引用例1には、
「長方形の熱物理蒸着源1(線形蒸着源)は、側壁12及び14、端壁16及び18並びに底壁15によって画定される長方形のハウジング10からなり、
長方形の熱物理蒸着源1の最後の六番目の壁は、蒸気流出口22を有する長方形の上板20であり、蒸気流出口22の機能は、気化した有機電界発光用蒸着材料40をハウジング10から基板の方向へ漏れさせることであり、
これらの壁は、高温誘電体材料、例えば、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、アルミナ、その他当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ、で製作され、
長方形の熱物理蒸着源1は、壁に続いてハウジング10に含まれる有機電界発光用蒸着材料40が輻射及び伝導により加熱されるに十分な温度にまで壁を抵抗加熱するように、加熱手段を有しており、
蒸気流出口22の面積は、ハウジング10の内側の空間の断面積よりも小さい長方形の熱物理蒸着源1」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開2001-93667号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(2a)「【0055】図2に示すように、搬送方向Xと直交する方向における蒸着窓13の幅Bは、基板1の幅E以上に設定されている。また、搬送方向Xと直交する方向における蒸着源16の蒸着材料15の幅Dも、基板1の幅E以上に設定されている。
【0056】本実施例では、蒸着窓13の長さAは5cmであり、幅Bは30cmである。また、蒸着源16の蒸着材料15の長さCは5cmであり、幅Dは30cmである。基板1と蒸着源16との間の距離は例えば20cmに設定される。
・・・(中略)・・・
【0061】図3、図4および図5は本発明の一実施例における有機EL素子の製造方法を示す工程断面図である。
【0062】図3(a)において、基板1として300mm×300mmのガラス基板を用いる。」
(2b)図2

(3)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開2002-175878号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
「【0068】・・・(中略)・・・基板10ではなく、蒸着用マスク100の開口部110と各蒸着源200との位置関係を保ちつつ蒸着用マスク100と蒸着源200とを基板10に対して移動してもよい。・・・」

(4)原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開2001-52862号公報(以下「引用例4」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(4a)「【0019】電子輸送材料の蒸着に際して、図1,図4(A),(B),(C)に示すように、発光層12の所定の色、例えば赤色発光電子輸送材料Rが入れられた蒸着源である蒸着るつぼ30を真空蒸着槽に設け、基板10及びマスク20を蒸着方向に対して所定角度傾斜させて配置し、マスク20と平行に蒸着るつぼ30を移動させながら蒸着する。このときの基板10及びマスク20の傾斜角度は、図1に示すように、蒸着材料の飛散方向に対して、マスク20の開口部22bから進入した蒸着材料が、開口部22aの一側方に蒸着されるようにする。このとき蒸着範囲は、1画素中の3本の透明電極12のうちの1本の透明電極12に対応した位置である。
【0020】また、蒸着るつぼ30には、蒸着方向が直線状に略平行になるように、蒸着材料からさらに基板10側に伸びたガイド板32が設けられている。ガイド板32は、その基板10側の開口34が所定の細い幅、例えば5mmで長さ100mm程度に形成されている。この場合、蒸着は100mm幅で行うので、基板10が100mm以上の場合、その大きさに合わせて往復移動する。また、蒸着るつぼ30及びガイド板32の長さが、基板10の幅と等しく形成されて場合、蒸着は一回の移動でよい。」
(4b)図4


4 本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

<対応関係A>
引用発明の「有機電界発光用蒸着材料40」、「蒸気流出口22」、「上板20」、「側壁12及び14、端壁16及び18」及び「底壁15」はそれぞれ、本件補正発明の「蒸着材料」、「蒸気放出開口」、「上部プレート」、「側壁」及び「底部材」に相当する。

<対応関係B>
引用発明の「壁に続いてハウジング10に含まれる有機電界発光用蒸着材料40が輻射及び伝導により加熱されるに十分な温度にまで壁を抵抗加熱するように、加熱手段を有して」いる「長方形の熱物理蒸着源1」は、「有機電界発光用蒸着材料40」を「気化」して「基板」に蒸着するためのものであるから、本件補正発明の「供給される電力によって加熱され、内部に収容された蒸着材料に熱を伝達し、内部で生成された蒸着材料の蒸気を噴射させて基板表面に蒸着膜を形成する有機電界発光膜蒸着用蒸着源」に相当する。

<対応関係C>
引用発明の「長方形の熱物理蒸着源1」の「これらの壁は、高温誘電体材料、例えば、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、アルミナ、その他当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ、で製作され」ることと、本件補正発明の「蒸着源は、ジルコニウム(Zr)の酸化物または窒化物で形成され、前記蒸着源は、蒸着材料である有機物質よりも熱容量が3倍以上大き」いこととは、「蒸着源は、セラミック材料で形成され」る点で共通する。

<対応関係D>
技術常識からして、引用発明の「長方形の熱物理蒸着源1」が上下方向に有限の大きさを有しており、当該上下方向を上側と下側とに区分できることと、本件補正発明の「蒸着源は、上側部分と下側部分とを有し、開口が形成された前記上側部分の断面積が前記下側部分の断面積よりも小さい」こととは、「蒸着源は、上側部分と下側部分とを有する」点で共通する。

以上の対応関係からして、本件補正発明と引用発明とは、
「供給される電力によって加熱され、内部に収容された蒸着材料に熱を伝達し、内部で生成された蒸着材料の蒸気を噴射させて基板表面に蒸着膜を形成する有機電界発光膜蒸着用蒸着源において、
蒸気放出開口が形成された上部プレート、側壁、及び底部材を含み、
前記蒸着源は、セラミック材料で形成され、
前記蒸着源は、上側部分と下側部分とを有する有機電界発光膜蒸着用蒸着源。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明は「蒸気放出開口」が「蒸着膜が蒸着される基板の幅と同一の長さを有し」ており、かつ、「蒸着源」が「固定された基板に対して水平移動自在」であるのに対して、引用発明はそのような構成を有さない点。

(相違点2)
「蒸着源」の材質に関して、本件補正発明は「ジルコニウム(Zr)の酸化物または窒化物で形成」され、「蒸着材料である有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく」されているのに対して、引用発明は「高温誘電体材料、例えば、石英、パイレックス(登録商標)ガラス、アルミナ、その他当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ」としている点。

(相違点3)
「蒸着源の構造」に関して、本件補正発明は「蒸着源は・・・開口が形成された上側部分の断面積が下側部分の断面積よりも小さい」としているのに対して、引用発明にはそのような構成が明示されていない点。

5 検討・判断
上記各相違点について検討する。

(1)相違点1について
基板の各領域に対して均一な蒸着膜を形成するために、長方形の蒸着源(線形蒸着源)の蒸気放出開口を、蒸着膜が蒸着される基板の幅と同一の長さとし、基板に対して蒸着源を水平移動させながら蒸着することは、本願出願前の周知の技術である。例えば、引用例4の「【0020】・・・また、蒸着るつぼ30及びガイド板32の長さが、基板10の幅と等しく形成されて場合、蒸着は一回の移動でよい。」等の記載を参照されたい(他にも、引用例2には、蒸着窓の長さを基板の幅以上、すなわち、基板の幅と同一またはそれよりも大きくすること及び基板と蒸着源とを相対移動する点が記載され、引用例3、特開2001-247959号公報、特開2002-60926号公報及び特開2000-138095号公報には、蒸着源側を水平移動させることが記載されている。)。
引用発明の「長方形の熱物理蒸着源1(線形蒸着源)」も長方形の蒸着源である線形蒸着源の一種であるから、当該周知の技術を採用(若しくは、引用発明の蒸着源を周知用途に用いる)して、「蒸気流出口22」の長さを基板の幅と同一とし、かつ、蒸着源が基板に対して水平移動できるようにすることは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。
よって、引用発明に周知の技術を採用することにより、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(2)相違点2について
蒸着源のセラミック材料として酸化ジルコニウム(ジルコニア)を用いることは、本願出願前の周知の技術である。例えば、特開平6-228740号公報(段落【0013】等)、特開平10-124869号公報(段落【0036】等)を参照されたい。
引用発明における「当業者に公知の数あるセラミック材料の1つ」として当該酸化ジルコニウムを採用することは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。
そして、酸化ジルコニウムを用いれば、材料に依存する熱容量の条件も同時に満たすのは、当然の結果に過ぎない。
また、蒸着源の熱容量を調整することは周知課題であるから、熱容量の調整のために蒸着原材料を適宜に選択することも、当業者にとって格別のことではない。
よって、引用発明に周知の技術を採用することにより、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

なお、有機物質の「熱容量」は、有機物質の種類によって大きく異なる(低分子系か高分子系かでも大きく異なる)から、有機物質の種類を特定せずに、「有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく」と限定しても格別の技術的意義が認められない。例えば、有機物質の「熱容量」が極めて小さい場合、「有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく」するだけでは、「蒸着源の断熱性を向上」(本願明細書、段落【0079】)することはできない。そもそも、厳密には、熱容量は有機物質の量に依存するから、「有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく」という限定だけでは、その技術的意味も明確とはいえない。ここでは、技術常識を踏まえて、「熱容量」とは、蒸着源の重量と蒸着材料の重量とが共に一定の場合の熱容量か、あるいは、各材料の「比熱」のことを指すものと解釈した。

(3)相違点3について
(3-1)本件補正発明において、「断面積」が「蒸着源」の断面のどの部分(壁部、空間部分、あるいは壁部と空間部分の双方を合わせた部分)の面積であるのかが定かでないが、本願明細書の段落【0076】には、以下のとおり記載されている。
「【0076】
一方、上述した第1から第4の実施形態で説明された蒸着源100、200、300、及び400は、上側部分と下側部分に分かれた内部空間を有し、その上側部分の断面積が下部部分の断面積と同じ大きさで構成されている。」
当該記載からすると、「断面積」とは、蒸着源の「内部空間」の断面積を意味するから、壁部を除いた空間部分の面積を指すものと認められる。
ここで、引用発明において、「上板20」は「長方形の熱物理蒸着源1」を構成する部材であるから、「長方形の熱物理蒸着源1」の上方を構成する部分であることは明らかである。
そうすると、引用発明において、当該「上板20」を蒸着源の「上側部分」とし、蒸着源の下方を構成する「ハウジング10」を蒸着源の「下側部分」とすると、「上側部分の断面積」(=「蒸気流出口22の面積」)が「下側部分の断面積」(=「ハウジング10の内側の空間の断面積」)よりも小さいから、相違点3は実質的な相違点ではない。
(3-2)上記(3-1)では相違点3が実質的な相違点でないとしたが、仮に、相違点3が実質的な相違点である場合について検討する。
蒸着の安定化、蒸着材料の飛散防止、蒸着領域の制御等々の課題解決のために、蒸着源(るつぼ)の上側部分の断面積を下側部分の断面積よりも小さくすることは、本願出願前の周知の技術である。例えば、特開平5-182196号公報(段落【0021】?【0033】、図1?4等)、実願平4-11900号(実開平5-72965号)のCD-ROM(図1(ハ)等)、特開平4-99267号公報(第2頁右上欄第14行?同頁右下欄第19行等)、特開平8-269695号公報(図2等)、特開平1-103857号公報(第7図等)、特開平1-198467号公報(第1図等)、引用例4(図4等)を参照されたい。
上記各種の課題は蒸着源に共通する周知課題であるから、引用発明において、当該周知課題解決のため、周知の技術を採用することにより、相違点3に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
(3-3)小括
上記(3-1)、(3-2)の何れにしても、引用発明に基づいて相違点3に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(4)本件補正発明の作用効果
本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、「蒸着源は、上側部分と下側部分とを有し、開口が形成された前記上側部分の断面積が前記下側部分の断面積よりも小さい」という構成については、「上側部分」と「下側部分」のそれぞれの範囲が任意であり、具体的型状等も特定するものではないから、蒸着材料の蒸気の流速を適切に制御する作用効果を奏するものとは認められない(開口近傍でのみ内部空間の断面積を小さくするものや二段階等のステップ状に断面積を小さくするもの等を含んでおり、蒸気流の連続的な制御ができないものを明らかに含んでいる。)。開口側が小さくなれば熱損失が減少する点は当業者にとって自明な現象であって、従来の蒸着源でも必然的に奏する作用効果に過ぎない。

(5)まとめ
よって、本件補正発明は、当業者が、引用発明及び周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

6 本件補正の却下の決定についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年8月26日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年4月1日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「【請求項1】
供給される電力によって加熱され、内部に収容された蒸着材料に熱を伝達し、内部で生成された蒸着材料の蒸気を噴射させて基板表面に蒸着膜を形成する有機電界発光膜蒸着用蒸着源において、
蒸気放出開口が形成された上部プレート、側壁、及び底部材を含み、さらに前記蒸気放出開口は、蒸着膜が蒸着される基板の幅と同一の長さを有し、
前記蒸着源は、ジルコニウム(Zr)の酸化物または窒化物で形成され、前記蒸着源は、前記蒸着材料である有機物質よりも熱容量が3倍以上大きく、
前記蒸着源は、固定された前記基板に対して水平移動自在に設けられていることを特徴とする有機電界発光膜蒸着用蒸着源。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2」「〔理由〕」「3 引用例」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比、検討・判断
本願発明は、前記「第2」「〔理由〕」「1 本件補正の目的」で検討した本件補正発明の発明特定事項から、「蒸着源は、上側部分と下側部分とを有し、開口が形成された前記上側部分の断面積が前記下側部分の断面積よりも小さい」とする発明特定事項を省いたものに相当するから、本願発明と引用発明とは、上記「第2」「〔理由〕」「4 本件補正発明と引用発明との対比」で述べた本件補正発明と引用発明との一致点で一致し、上記「相違点1」?「相違点2」の点で相違する。
そして、上記「第2」「〔理由〕」「5 検討・判断」「(1)相違点1について」?「(2)相違点2について」に記載したとおり、引用発明において、上記「相違点1」?「相違点2」に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
してみると、本願発明は、当業者が引用発明及び周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-10-26 
結審通知日 2011-11-08 
審決日 2011-11-21 
出願番号 特願2006-343506(P2006-343506)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 大輔井亀 諭  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 橋本 直明
森林 克郎
発明の名称 有機電界発光膜蒸着用蒸着源  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  
代理人 上田 俊一  

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