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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1256271
審判番号 不服2010-1927  
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-01-28 
確定日 2012-05-22 
事件の表示 特願2000-545042「無線通信信号による衛星位置決めの強化」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月28日国際公開、WO99/54752、 平成14年 4月23日国内公表、特表2002-512373、 請求項の数(37)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由
【第1 手続経緯の概要】
本件審判請求及び本願出願手続きの概要は次のとおりである。

平成11年 4月12日:国際特許出願
(優先日:平成10年4月22日、米国
09/064673、US)
平成12年10月23日:国内書面提出
平成18年 3月31日:審査請求
平成18年 4月18日:補正(特許請求の範囲)
平成20年 1月22日:拒絶理由の通知(同年同月17日起案)
平成20年 7月22日:意見・補正(特許請求の範囲、明細書)
平成21年 9月29日:拒絶査定の謄本の送達(同年同月11日起案)
平成22年 1月28日:審判請求・補正(特許請求の範囲)
平成22年12月14日:審尋(同年同月8日起案)
平成23年10月25日:当審拒絶理由の通知(同年同月18日起案)
平成24年 4月25日:意見・補正(特許請求の範囲)

【第2 本願発明】
本願の請求項1?37に係る発明は、平成24年4月25日付け補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?37に記載されたとおりの次のものであると認める。
「【請求項1】
位置情報を処理するための方法であって、
少なくとも一つのSPS衛星からのSPS信号を、SPS受信器に接続された通信システムの前記SPS受信器において受信するステップと、
前記SPS受信器に接続された通信システムと、前記SPS受信器から離間して設けられた第一のセルベース・トランシーバとの間で、無線により、双方向に音声メッセージまたはデータメッセージを伝達することが可能であるセルベース通信信号を送受信するステップと、
前記第一のセルベース・トランシーバと前記通信システムとを具備するセルベース通信システムにおいて、前記セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間を表す第一の時間測定値を測定するステップと、
前記少なくとも一つのSPS衛星からのSPS信号を前記通信システムのSPS受信器により受信することにより、前記SPS衛星から前記SPS受信器までの前記SPS信号の伝搬時間を表す第二の時間測定値を測定するステップと、
前記第一の時間測定値と第二の時間測定値との少なくとも三つの組み合わせから、前記通信システムのSPS受信器の位置を検知するステップとを具備する、
前記通信システムのSPS受信器の位置情報を処理するための方法。
【請求項2】
前記通信システムは、前記SPS受信器と一体的に設けられた移動セルベース・トランシーバを含み、
前記セルベース通信信号は、埋め込まれたナビゲーション信号を含まない、
請求項1記載の位置情報処理方法。
【請求項3】
前記SPS受信器は、前記少なくとも一つの衛星までの擬似距離に相当する前記第二の時間測定値を測定し、
前記通信システムは、前記擬似距離と前記第一の時間測定値とを、前記第一のセルベース・トランシーバへ送信し、
前記第一のセルベース・トランシーバは、前記第一の時間測定値と前記擬似距離とを、前記位置を検知するデジタル処理システムへ送信する、
請求項1記載の位置情報処理方法。
【請求項4】
前記デジタル処理システムは、衛星天体位置推算表(ephemeris)データを受信し、前記第一のセルベース・トランシーバのための基地局位置データを取得し、
前記SPS受信器の前記位置は、前記擬似距離、前記第一の時間測定値、前記衛星天体位置推算表(ephemeris)データ、前記基地局位置データ、及び(a)第三の時間測定値と(b)第四の時間測定値のうちの一つに基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表し、また前記第四の時間測定値は、前記通信システムと他のセルベース・トランシーバとを備える前記セルベース通信システムにおける、前記セルベース通信信号に含まれる他のデータメッセージの伝搬時間を表す、
請求項3記載の位置情報処理方法。
【請求項5】
前記セルベース通信信号を送信する時間が記録され、前記セルベース通信信号を受信する時間が記録される、
請求項1記載の位置情報処理方法。
【請求項6】
前記送信する時間と前記受信する時間とにより前記第一の時間測定値が検知される、
請求項5記載の位置情報処理方法。
【請求項7】
前記SPS受信器は、前記少なくとも一つの衛星までの擬似距離に相当する前記第二の時間測定値を測定し、
前記通信システムは、前記擬似距離と前記第一の時間測定値とを、前記第一のセルベース・トランシーバへ送信し、
前記第一のセルベース・トランシーバは、前記第一の時間測定値と前記擬似距離とを、前記位置を検知するデジタル処理システムへ送信する、
請求項6記載の位置情報処理方法。
【請求項8】
前記デジタル処理システムは、衛星天体位置推算表(ephemeris)データを受信し、前記第一のセルベース・トランシーバのための基地局位置データを取得し、
前記位置は、前記擬似距離、前記第一の時間測定値、前記衛星天体位置推算表(ephemeris)データ、及び前記基地局位置データに基づいて検知される、
請求項7記載の位置情報処理方法。
【請求項9】
前記SPS受信器の前記位置は、前記第一の時間測定値、前記第二の時間測定値、及び第三の時間測定値に基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表す、
請求項6記載の位置情報処理方法。
【請求項10】
前記SPS受信器におけるSPS信号の受信時間を表すSPS受信時間は、一つのSPS衛星からの、信号減衰の最も少ないSPS信号から検知される、
請求項6記載の位置情報処理方法。
【請求項11】
前記セルベース通信信号は、前記SPS受信器の視界内の衛星のドップラー情報を、前記第一のセルベース・トランシーバから前記SPS受信器へ伝達するために、かつ前記第二の時間測定値を前記第一のセルベース・トランシーバへ伝達するために用いられる、
請求項6記載の位置情報処理方法。
【請求項12】
デジタル処理システムにおいて位置情報を処理するための方法であって、
前記デジタル処理システムと通信する第一のセルベース・トランシーバと、前記第一のセルベース・トランシーバと無線で通信する通信システムとを有するセルベース通信システムにおいて、セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻に基づいて決定された伝搬時間を表す第一の時間測定値を測定するステップと、
前記通信システムと一体的に設けられ、かつ前記第一のセルベース・トランシーバと前記デジタル処理システムとから離間して設けられているSPS受信器において、少なくとも一つのSPS衛星からのSPS信号を受信することにより、前記SPS衛星から前記SPS受信器までの前記SPS信号の伝搬時間を表す第二の時間測定値を測定するステップと、
前記第一の時間測定値と第二の時間測定値との少なくとも三つの組み合わせから、前記通信システムのSPS受信器の位置を検知するステップとを具備する、
前記デジタル処理システムにおいて前記通信システムのSPS受信器の位置情報を処理するための方法。
【請求項13】
前記セルベース通信信号は、音声メッセージまたはデータメッセージを前記第一のセルベース・トランシーバと前記通信システムとの間で双方向に伝達することが可能であり、
前記SPS受信器の前記位置は、前記第一の時間測定値、前記第二の時間測定値、及び(a)第三の時間測定値と(b)第四の時間測定値のうちの一つに基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表し、また前記第四の時間測定値は、前記通信システムと他のセルベース・トランシーバとを備える前記セルベース通信システムにおける、前記セルベース通信信号に含まれる他のデータメッセージの伝搬時間を表す、
請求項12記載の位置情報処理方法。
【請求項14】
前記第二の時間測定値は、前記SPS受信器において測定され、
前記第二の時間測定値は、前記通信システムから前記第一のセルベース・トランシーバへ伝送される、
請求項12記載の位置情報処理方法。
【請求項15】
前記セルベース通信信号は、埋め込み型ナビゲーション信号を含まない、
請求項14記載の位置情報処理方法。
【請求項16】
前記第二の時間測定値は、SPS衛星までの擬似距離に相当し、
前記第一のセルベース・トランシーバは、前記擬似距離を前記デジタル処理システムへ伝送し、
前記デジタル処理システムは、衛星天体位置推算表データを受信し、かつ前記第一のセルベース・トランシーバの位置を表す基地局位置データを取得し、
前記SPS受信器の前記位置は、前記擬似距離、前記第一の時間測定値、前記衛星天体位置推算表データ、及び前記基地局位置データに基づいて検知される、
請求項14記載の位置情報処理方法。
【請求項17】
前記セルベース通信信号に含まれる前記音声メッセージまたはデータメッセージを送信する時間は記録され、前記セルベース通信信号に含まれる前記音声メッセージまたはデータメッセージを受信する時間は記録される、
請求項16記載の位置情報処理方法。
【請求項18】
前記送信する時間と前記受信する時間とにより前記第一の時間測定値が測定される、
請求項17記載の位置情報処理方法。
【請求項19】
位置情報を処理するためのシステムであって、
少なくとも一つのSPS衛星からのSPS信号を、SPS受信器に接続され一体化されている通信システムの前記SPS受信器において受信する前記通信システムと、
前記SPS受信器から離間され、かつセルベース通信信号を用いて前記通信システムと、無線により、双方向に音声メッセージまたはデータメッセージを伝達することが可能である第一のセルベース・トランシーバと、
前記第一のセルベース・トランシーバに接続されたデジタル処理システムとを具備し、
第一の時間測定値を、前記セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間とし、
第二の時間測定値を、前記SPS衛星から前記SPS受信器までの前記SPS信号の伝搬時間とし、
前記デジタル処理システムにおいて、第一の時間測定値と第二の時間測定値との少なくとも三つの組み合わせからから、前記通信システムのSPS受信器の位置を検知するための、
位置情報処理システム。
【請求項20】
前記セルベース通信信号は、埋め込み型ナビゲーション信号を含まない、
請求項19記載の位置情報処理システム。
【請求項21】
前記SPS受信器は、SPS衛星までの擬似距離に相当する前記第二の時間測定値を測定し、
前記通信システムは、前記擬似距離を前記第一のセルベース・トランシーバへ送信し、
前記第一のセルベース・トランシーバは、前記擬似距離を前記デジタル処理システムへ送信する、
請求項19記載の位置情報処理システム。
【請求項22】
前記デジタル処理システムは、衛星天体位置推算表データを受信し、前記第一のセルベース・トランシーバのための基地局位置データを取得し、
前記SPS受信器の前記位置は、前記擬似距離、前記第一の時間測定値、前記衛星天体位置推算表データ及び前記基地局位置データから検知される、
請求項21記載の位置情報処理システム。
【請求項23】
前記セルベース通信信号に含まれる前記音声メッセージまたはデータメッセージを送信する時間は記録され、
前記セルベース通信信号に含まれる前記音声メッセージまたはデータメッセージを受信する時間は記録され、
前記送信する時間と前記受信する時間とにより前記第一の時間測定値が検知される、
請求項22記載の位置情報処理システム。
【請求項24】
前記データメッセージは前記擬似距離を含む、
請求項23記載の位置情報処理システム。
【請求項25】
前記データメッセージは、前記SPS受信器の視界内のSPS衛星のドップラー情報を含む、
請求項23記載の位置情報処理システム。
【請求項26】
前記データメッセージは、前記通信システムからの911形式のデータメッセージを含む、
請求項23記載の位置情報処理システム。
【請求項27】
前記SPS受信器の前記位置は、前記擬似距離、前記第一の時間測定値、前記衛星天体位置推算表データ、前記基地局位置データ、及び(a)第三の時間測定値と(b)第四の時間測定値と(c)前記SPS受信器の近似高度とのうちの一つに基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表し、また前記第四の時間測定値は、前記通信システムと他のセルベース・トランシーバとを備える前記セルベース通信システムにおける、前記セルベース通信信号に含まれる他のデータメッセージの伝搬時間を表す、
請求項23記載の位置情報処理システム。
【請求項28】
前記SPS受信器の前記位置は、前記第一の時間測定値、前記第二の時間測定値、及び、(a)第三の時間測定値と(b)前記SPS受信器の近似高度とのうちの一つに基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表す、
請求項23記載の位置情報処理システム。
【請求項29】
衛星測位システム(SPS)受信器とセルベース通信システムとを含む移動統合システムであって、
前記SPS受信器は、少なくとも一つのSPS衛星からのSPS信号を受信することにより、前記SPS衛星から前記SPS受信器への前記SPS信号の伝搬時間を表す第一の時間測定値を測定するためのデータを与えることのできるものであり、
前記SPS受信器が接続された通信システムは、離間された第一のセルベース・トランシーバと、無線により、セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージを双方向に通信可能であって、前記セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻に基づいて決定された伝搬時間を表す第二の時間測定値を検知するためのデータを与えることのできるものであるあり、
さらに、前記第一の時間測定値と前記第二の時間測定値との少なくとも三つの組み合わせを与えることのできるものである、
移動統合システム。
【請求項30】
前記移動統合システムの位置は、前記第一の時間測定値と前記第二の時間測定値との少なくとも三つの組み合わせから検知される、
請求項29記載の移動統合システム。
【請求項31】
前記SPS衛星は、地球の軌道を回るGPS衛星であり、
前記組み合わせは、前記第一及び第二の時間測定値によって規定される測定値領域(measurement domain)の中にある、
請求項30記載の移動統合システム。
【請求項32】
前記セルベース通信信号は、埋め込まれたナビゲーション信号を含まない、
請求項29記載の移動統合システム。
【請求項33】
前記移動統合システムは、前記第二の時間測定値を検知する、
請求項29記載の移動統合システム。
【請求項34】
離間されたデジタル処理システムが、前記第二の時間測定値と前記移動統合システムの位置を検知する、
請求項30記載の移動統合システム。
【請求項35】
前記移動統合システムが、前記移動統合システムの位置を検知する、
請求項33記載の移動統合システム。
【請求項36】
前記移動統合システムの位置は、前記第一の時間測定値、前記第二の時間測定値、及び(a)第三の時間測定値と(b)第四の時間測定値とのうちの一つに基づいて検知され、
前記第三の時間測定値は、他のSPS衛星から前記SPS受信器へのSPS信号の伝搬時間を表し、前記第四の時間測定値は、前記通信システムと他のセルベース・トランシーバとを備える前記セルベース通信システムにおける、前記セルベース通信信号に含まれる他のデータメッセージの伝搬時間を表す、
請求項30記載の移動統合システム。
【請求項37】
前記移動統合システムは、前記セルベース通信信号に含まれる、少なくとも前記SPS衛星のための衛星天体位置推算表データを受信する、
請求項31記載の移動統合システム。」

【第3 当審拒絶理由の概要】
平成23年10月25日に通知された当審の拒絶理由は、平成22年1月28日付け補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?38に記載された発明は、本願優先日前に日本国において頒布された刊行物である特開平10-32533号公報(以下、刊行物1という)及び特開平7-181242号公報(以下、刊行物2という)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

【第4 刊行物に記載された発明】
(刊行物1に記載された発明)
刊行物1の特に段落【0029】の記載から、刊行物1には次の発明(以下、引用発明1という)が記載されていると認められる。
「移動局(103)と離間して設けられた固定局(101)と移動局(103)との間で中継局(104)を介さずに無線双方向通信(110、112、111、109)可能なシステムにおいて、
固定局(101)からの測距電波(113)を移動局(103)で受信することによりGPS測距電波(114)を補完する測距電波(113)の擬似伝搬時間を測定し、
GPS衛星(105)からのGPS測距電波(114)を移動局(103)で受信することによりGPS測距電波(114)の擬似伝搬時間を測定し、
擬似伝搬時間の組み合わせ演算により、移動局(103)の位置を検知すること。」

(刊行物2に記載された発明)
刊行物2の特に第2頁の特許請求の範囲の請求項1の記載から、刊行物2には次の発明(以下、引用発明2という)が記載されていると認められる。「複数の基地局との間でCDMA方式により通信を行う移動通信システムにおける移動局の位置を測定する測位システムであって、
上記複数の基地局が送信する同系列のスペクトル拡散信号から、予め各基地局毎に決められた送信時間の差分を減算して、複数の基地局からのスペクトル拡散信号の伝搬遅延時間差を得ることにより、上記移動局の位置を求めることを特徴とする測位システム。」

【第5 対比、判断】
(対比)
引用発明1と本願請求項1に記載された発明(以下、本願発明1という)とを比較すると、両者は少なくとも下記の2点で相違し、その他の点では両発明は概略一致している。

(相違点1)
引用発明1が衛星からの電波信号を補完するものとして、無線双方向通信信号(110、112、111、109)ではなく、「測距電波(113)」を用いているのに対し、本願発明1が衛星からの電波信号を補完するものとして、「音声メッセージまたはデータメッセージを伝達することが可能であるセルベース通信信号」を用いている点。

(相違点2)
引用発明1が衛星からの電波信号の伝搬時間を補完するものとして、「測距電波(113)」の伝搬時間を用いているのに対し、本願発明1が衛星からの電波信号の伝搬時間を補完するものとして、「セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間」を用いている点。

(判断)
相違点1及び相違点2は相互に関係するので、以下、総合的に判断する。

相違点1に関連して、当審の平成23年10月18日起案の拒絶理由では、引用発明2はセルベース通信信号でもある基地局からのスペクトル拡散信号を移動局の測位に用いるものであって、引用発明1も引用発明2も共に無線通信システムの移動局の位置を無線電波信号の伝搬時間を利用して測定することに関して技術分野及び課題を同じくするものであることから、引用発明1において衛星からの電波信号を補完するものとして、測距電波(113)を用いないで、引用発明2のセルベース通信信号を用いる技術思想を適用し、無線双方向通信信号(110、112、111、109)を用いることは、当業者が容易に成し得ることであると説示した。

しかし、引用発明2において、移動局の位置を求める際に利用される基地局からのスペクトル拡散信号は、本願発明1の「音声メッセージまたはデータメッセージを伝達することが可能であるセルベース通信信号」に相当するものではない。

これは、以下のことから明らかである。

即ち、刊行物2の段落【0006】に「・・・複数の基地局からパイロット・チャンネルと呼ばれるチャンネルで拡散符号(パイロットPN符号)が繰り返し送られているため、各基地局からの拡散符号の伝搬遅延時間差を測定すれば、基本的には移動局の測位を行うことは可能である。」と記載され、また刊行物2の段落【0021】?【0023】に「【0021】ここで、上記移動局は、予め複数の基地局毎に決められたスペクトル拡散信号の送信時間の差分と位置情報とをテーブルとして備え、複数の基地局から送信されるスペクトル拡散信号の周期情報を送信するためのシンク・チャンネルのメッセージを復調し、復調タイミングを検出する復調手段と、上記復調手段により復調されたデータから上記基地局のスペクトル拡散信号の送信時間の差分を求めるシフト量抽出手段と、上記スペクトル拡散信号の受信時刻を検出する受信信号検出手段と、上記復調手段からの復調タイミングと上記シフト量抽出手段からの送信時間の差分と上記受信信号検出手段からのスペクトル拡散信号の受信時刻とにより受信信号の基準タイミングを求めるタイミング抽出手段と、上記タイミング抽出手段により抽出された受信信号の基準タイミングから複数の基地局の座標情報を求める基地局座標出力手段と、上記タイミング抽出手段からの複数の基地局の受信時刻及び送信時間の差分と、上記基地局座標出力手段からの複数の基地局の座標情報とにより複数の基地局の位置を算出する位置算出手段とから成ることを特徴とする。【0022】また、上記シンク・チャンネルのメッセージには、所定の基地局及びこの所定の基地局の周辺の基地局のスペクトル拡散信号の送信時間の差分と座標情報とが含まれ、上記復調手段により復調されたデータから複数の基地局の送信時間の差分に対応する座標情報を抽出する座標情報抽出手段を設けることを特徴とする。【0023】ここで、上記所定の基地局及びこの所定の基地局の周辺の基地局のスペクトル拡散信号の送信時間の差分と座標情報とを含むメッセージをチャンネルの割り当て情報の送信に用いられるページング・チャンネル又は測位専用チャンネルを介して送信することを特徴とする。」と記載され、さらに刊行物2の段落【0035】に「・・・このCDMA方式ディジタル移動通信システムにおける基地局から移動局方向(フォワード・リンク)への信号には、パイロット・チャンネル、シンク・チャンネル、ページング・チャンネル、トラフィック・チャンネルの4種類のコード・チャンネルが用意されている。パイロット・チャンネルはデータを含まずPN符号が繰り返し送られるチャンネルであり、移動端末5の同期獲得と維持、及びクロック再生のために用いられる。シンク・チャンネルは基地局と移動端末5との間で時刻情報及び長周期のPN符号を合わせるために使用される。ページング・チャンネルは最大7通りであり、ハンドオフに必要な情報、着信時の端末呼び出し情報、発信時の基地局からの応答情報、及びトラフィック・チャンネルの割り当て情報の送信に用いられるチャンネルである。トラフィック・チャンネルは最大64通りであり、通話時に使用される音声情報を送信するチャンネルである。」と記載されているように、引用発明2では、移動局の位置を求める際に利用される基地局からのスペクトル拡散信号は、パイロット・チャンネルを利用してデータを含まないPN符号が繰り返し送られるものであって、トラフィック・チャンネルを利用した通話時に使用される音声情報ではない。
なお、刊行物2の段落【0071】には「・・・そこで、移動通信システムの電話端末は、通話中にトラフィック・チャンネルと呼ばれる通話チャンネルを使用していることから、通話中はトラフィック・チャンネルを用いて測位データの転送を行い、待ち受け状態である場合にはアクセス・チャンネルを用いて測位データの転送を行う。・・・」と記載されているが、このトラフィック・チャンネルは、移動局で測位した測位データを基地局に転送するために利用されており、移動局の測位のために利用されているわけではない。

一方、本願明細書の段落【0009】には「本発明の或る一実施例では、SPS衛星までの疑似距離とセル地点までの疑似距離を、共に使って移動統合ユニットの位置を決める。実施例によっては、一つのGPS衛星を視野に置き、二つのセル系トランシーバ(セル地点)を移動ユニットとの無線通信に供する。これにより、三つの疑似距離を使って移動ユニットの位置の決定が可能になる。無線通信システムによる衛星位置決めシステムの強化は、送信機の位置を特定する航法信号またはGPS型信号をセルラ系通信信号に組み込むこと無しに実施できる。よって、例えば移動ユニットとセル地点との間に交信されるメッセージは音声や情報メッセージであって良い。そして、これらメッセージを使って、セルラ疑似距離を決定するための時間計測を行っても良い。これらメッセージは、911番メッセージ、あるいはSPS衛星までの疑似距離を記述する疑似距離メッセージであっても良い。さらに、移動ユニットへ送られつつあるドップラ情報や他の支援情報(例えば、衛星位置推算用情報)であっても良い。」と記載され、また本願明細書の段落【0010】には「本発明の他の実施例においては、統合システムはSPS受信器とセルラ系通信トランシーバのような通信システムとを含んでいる。SPS受信器はSPS信号を受けることができ、かつSPS衛星からSPS受信器までのSPS信号の移動時間を表わす第1時間計測値を決定するための情報(例えば、疑似距離)を提供することができる。この通信システムはSPS受信器に接続されているので、と多く(「遠く」の誤記と認める)離れたセル系トランシーバと無線方式で交信でき、かつ通信システムと遠隔地のセル系トランシーバとの間で交信のセル系通信信号内に組み込んだメッセージの移動時間を表わす第2時間計測値を決定するための情報(例えば、記録時間値またはセルラ疑似距離)を提供できる。セル系通信信号は、前記通信システムと前記遠隔地のセル系トランシーバとの間でメッセージ(例えば、音声や情報)を交信させることができる。遠隔地の統合システムの位置は、少なくとも第1と第2時間計測値の組み合わせから決めることが可能である。この組み合わせは、時間計測値が定める計測域内に納まっている。」と記載されているように、本願発明1においては、「通信システムのSPS受信器の位置を検知する」ために利用される「セルベース通信信号」は、「音声メッセージまたはデータメッセージを伝達することが可能であるセルベース通信信号」である。

よって、引用発明1と本願発明1との相違点1について、引用発明2のような、トラフィック・チャンネルを利用した通話時に使用される音声情報ではなく、パイロット・チャンネルを利用したデータを含まないPN符号が繰り返し送られるものを移動局の測位のために用いる技術思想の存在を根拠に、引用発明1において衛星からの電波信号を補完するものとして、測距電波(113)を用いないで、無線双方向通信信号(110、112、111、109)を用いることは、当業者が容易に成し得ることであると判断することは、最早妥当ではない。
また、相違点2についても、相違点1について既述したのと同様の理由により、当業者が容易に成し得ることとは言えない。
したがって、本願発明1は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと判断することはできない。

そして、本願請求項2?11は、本願請求項1に従属するものであるから、本願発明1について既述したように、本願請求項2?11に記載された発明も、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと判断することはできない。

さらに、本願請求項12、19、29に独立形式で記載された3発明も、引用発明1と本願発明1との相違点1及び相違点2を同様に有しているから、本願発明1について既述したように、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと判断することはできない。
加えて、本願請求項13?18、20?28、30?37の三請求項群は、各々本願請求項12、19、29に従属するものであるから、本願請求項13?18、20?28、30?37に記載された各発明も、引用発明1と本願発明1との相違点1及び相違点2を同様に有しているので、本願発明1について既述したように、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと判断することはできない。

【第6 原査定の拒絶理由1(進歩性欠如)について】
原査定では拒絶理由1の根拠条文として特許法第29条第2項が示され、当審の進歩性欠如の拒絶理由で引用した二つの刊行物を含めて、原査定の拒絶理由1では次の9刊行物が引用された。
刊行物1:特開平8-184451号公報
刊行物2:特開平10-32533号公報
刊行物3:国際公開第97/14049号
刊行物4:国際公開第97/21109号
刊行物5:特開平9-97398号公報
刊行物6:特開平7-181242号公報
刊行物7:Klukas,
”Cellular Telephone
Positioning Using GPS Time
Synchronization”,ION GPS 97, 1997年 9月, pages 1405-1414
刊行物8:特開平10-96765号公報
刊行物9:国際公開第97/29600号

刊行物1の特に段落【0015】?【0026】及び【図4】?【図6】を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「(1)GPS衛星(2A?2D)からの信号波の電波到達時間(疑似距離)と、
(2)放送局(3A?3D)からのFMラジオステレオ放送用パイロット信号波あるいはテレビの画像同期信号波あるいはAMラジオのステレオ放送用パイロット信号波の電波到達時間(疑似距離)とのうち、
少なくとも(1)と(2)との三つの組み合わせに基づいて、
移動体1側で移動体1の位置を算出すること。」

刊行物2は、当審拒絶理由で引用した刊行物1と同じものであり、上記【第4 刊行物に記載された発明】(刊行物1に記載された発明)で認定した発明を開示するものである。

刊行物3の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「データ通信リンクを介して基地局から送られたGPS衛星情報とGPS衛星から受信したGPS信号とを使用して、遠隔移動GPSユニット側で遠隔移動GPSユニット自身の位置を決定すること、
その後、データ通信リンクを介して遠隔移動GPSユニットから送られたGPS衛星と遠隔移動GPSユニットとの疑似距離を使用して、基地局側で遠隔移動GPSユニットの位置を決定すること。」

刊行物4の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「GPS衛星74からの衛星信号70を基地局のGPS受信機6により受信し、補正された測定値や基地局座標が基地局のセルラートランシーバ4からセルラ無線リンクを介して移動局のセルラ電話50に伝送され、受信した補正された測定値や基地局座標を用いて移動局のGPS測位システム58がGPS衛星74からの衛星信号72に基づいて基地局のGPS受信機6に対する移動局の位置を決定すること。」

刊行物5の特に段落【0030】【0048】【0049】の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「移動体5、6の位置を測位するための手段としてGPSの測位機能が使用できない場合に、
移動体5、6と三つのマスター局A、B、Cとの通信媒体4(VHF・UHF等の無線通信回線、SS無線通信回線、VHF、UHFの時分割多重接続回線(TDMA)、自動車電話回線、列車運行管理システムの通信回線、船舶無線回線等)の往復あるいは片道の伝搬遅延時間や受信時刻の差を計測して測位すること。」

刊行物6は、当審拒絶理由で引用した刊行物2と同じものであり、上記【第4 刊行物に記載された発明】(刊行物2に記載された発明)で認定した発明を開示するものである。

刊行物7の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「アナログ携帯電話から送信された30ビットのドット・シーケンス、11ビットのBakerコード化同期ワード、7ビットのコード化デジタル・カラーコードから構成される携帯電話登録メッセージを擬似測距目的の前兆信号として、GPS受信器を使用して時刻同期した既知座標の三つのセル基地局で受信し、前兆信号の到着時間(TOA)差を測定して双曲線三角測量により、アナログ携帯電話の水平位置を推定すること。」

刊行物8の特に段落【0018】?【0042】の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「緊急探知装置10のGPS受信機16で求めた現在位置データを緊急トリガを契機にワイヤレス電話機トランシーバ18aから、ワイヤレス電話網20を介して、緊急受信機システム12のワイヤレス電話機トランシーバ18bで受信し、ディスプレイ64上へ出力すること。」

刊行物9の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「接続されたGPS受信機12からセルラー電話10の位置が得られ、特別に設置された911起動ボタン14が押されることで、セルラー電話10から911番号がかけられ、緊急メッセージとセルラー電話10の位置とが、音声合成装置16によって生成されて送信されること。」

(原査定の拒絶理由1(進歩性欠如)についての当審の判断)
上記刊行物1に記載された発明では、位置決め用衛星からの位置決め用電波信号を補完するものとして(2)の放送用信号波が用いられるが、これは移動体1側から送信されることはなく、放送局(3A?3D)側からのみ送信されるものである。
上記刊行物2に記載された発明は、位置決め用衛星からの位置決め用電波信号を補完するものとして、無線双方向通信信号(110、112、111、109)を用いないで、「測距電波(113)」を用いている。
上記刊行物3?9に記載された発明は、何れも、通信システムの位置決めのために、位置決め用衛星からの位置決め用電波信号と、地上固定局とのセルベース信号との組み合わせを用いるものではない。

よって、上記刊行物1?9に記載された発明を総合的に考慮しても、本願請求項1?37に記載された各発明に共通する次の特徴点(以下、本願発明の特徴点という)は、当業者が容易に成し得たこととは言えない。

(本願発明の特徴点)
セルベーストランシーバと無線により通信可能な通信システムのSPS受信器の位置を検知するために、
セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間と、SPS衛星からSPS受信器までのSPS信号の伝搬時間との、少なくとも三つの組み合わせを利用すること。

以上の検討により、原査定の拒絶理由1(進歩性欠如)は、最早妥当ではない。

【第7 原査定の拒絶理由2(他人先願発明との同一性)について】
原査定では拒絶理由2の根拠条文として特許法第29条の2が示され、原査定の拒絶理由2では他人先願として特願2000-537085号(特表2002-507727号公報参照)(外国語書面について、国際公開第99/47943号参照)(以下、先願1という)が引用された。

ところで、特許法第29条の2及び実用新案法第3条の2の適用についての出願人の同一に関する判断は、平成11年(行ケ)第31号審決取消請求事件で、次のように判示されている。
「2 取消事由2(出願人の同一に関する判断の誤り)について
(1)法3条の2第1項ただし書は、一般に先願明細書の記載の後願排除効を規定する同条本文の例外であるから、安易に拡張解釈することなく文言どおりに解するのが原則であるところ、同項ただし書は、「当該実用新案登録出願の時にその出願人と当該他の実用新案登録出願又は特許出願の出願人とが同一の者であるときは、」と規定するから、当該他の実用新案登録出願が単独の出願人によってされ、当該実用新案登録出願が共同出願人によってされた場合には、同項ただし書に規定する「同一の者」の要件を満たさないと解するのが、同項ただし書の文理に合致する。
また、同項ただし書は、「当該実用新案登録出願の時に」と規定し、後願の出願時を基準として先願と後願の出願人が「同一の者」に当たるかどうかを判断する旨を規定しており、当該他の考案の出願人と当該考案の出願人との実質的な関係を考慮することなく、後願の出願時における当該考案の出願人がだれであるかにより、形式的にその適用の有無が決せられる趣旨の規定であると解される。」

そして、本願も先願1もどちらもPCT国際特許出願であるから、特許法第184条の3第1項の規定により、本願についても先願1についても国際特許出願日が日本国出願日とみなされる。そうすると、本願の国際特許出願時の出願人はスナップトラック・インコーポレーテッドであって、先願1の国際特許出願時の出願人はクゥアルコム・インコーポレーテッドであるから、両特許出願の出願人は日本国特許出願の時に同一ではない。
よって、本願と先願1との関係で特許法第29条の2に規定される出願人同一の例外は適用されない。

たとえ、現時点で本願出願人のスナップトラック・インコーポレーテッドが、先願1の出願人であるクゥアルコム・インコーポレーテッドに買収され実質的な子会社になっていようが、本願について平成12年10月23日に提出された日本国内書面の出願の願書に記載された出願人の住所が「・・・クゥアルコム・インコーポレーテッド内」となっていようが、特許法第29条の2に規定される出願人同一の例外は適用されないことは、特許法上明らかであって、上記平成11年(行ケ)第31号審決取消請求事件の判示からみても妥当である。

(発明の同一性の検討)
そこで、本願発明と先願1の発明の同一性について以下検討する。

先願1の発明を、便宜的に特表2002-507727号公報から考察するに、特にこの公報の【請求項23】?【請求項29】、段落【0039】、【0051】及び【0053】を総合すると、先願1の明細書等に記載された発明(以下、先願発明1という)として次のものが認定できる。
「無線ユニット20の位置決めの際、
GPS信号の到達時間の測定によるGPS衛星から無線ユニット20までの距離と、CDMAのパイロット信号のラウンドトリップ遅れ(RTD)の測定による基地局10から無線ユニット20まで距離との、少なくとも三つの組み合わせに基づいて、
基地局10側で無線ユニット20位置を算出すること。」

先願発明1と本願請求項1に記載された発明(以下、本願発明1という)とを比較すると、少なくとも下記の点で相違するから、両発明は同一ではない。
(相違点)
先願発明1が衛星からの電波信号の伝搬時間を補完するものとして、「CDMAのパイロット信号のラウンドトリップ遅れ(RTD)」を用いているのに対し、本願発明1が衛星からの電波信号の伝搬時間を補完するものとして、「セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間」を用いている点。

また、先願発明1と本願請求項2?37に記載された各発明とについても、同様に少なくとも上記相違点が存在すると言えるから、先願発明1と本願請求項2?37に記載された各発明とは同一ではない。

(原査定の拒絶理由2(他人先願発明との同一性)についての当審の判断)
既述の検討のとおり、先願発明1と本願請求項1?37に記載された各発明とは同一ではない。
よって、原査定の拒絶理由2(他人先願発明との同一性)は、最早妥当ではない。

【第8 刊行物等提出書に記載の拒絶理由(進歩性欠如)について】
平成19年4月27日付けで提出された刊行物等提出書に引用された刊行物は、次の3文献である。
刊行物1:特開平7-128423号公報
刊行物2:特開平7-181242号公報
刊行物3:特開平9-113598号公報

刊行物1の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「GPSやGLONASS等の測位衛星を用いる測位システムについて、
全ての測位衛星から、最も測位精度が高くなるような測位衛星を選択して組み合わせ、測位演算に使用すること。」

刊行物2は、当審拒絶理由で引用した刊行物2と同じものであり、上記【第4 刊行物に記載された発明】(刊行物2に記載された発明)で認定した発明を開示するものである。

刊行物3の記載を総合すると、次の発明が記載されていると認定できる。
「基地局2から、無線データ通信部4を介して、GPS衛星軌道情報と、その時点での時刻におけるGPS衛星からの電波のドップラー周波数情報と変調信号である擬似雑音信号の位相情報とがGPS受信装置5に受信され、
GPS受信装置5は、GPS衛星軌道情報を記憶装置8へ記憶するとともに、GPS受信部3でGPS衛星1からの電波を受信し、基地局2から送られてきたドップラー周波数信号と擬似雑音信号の位相情報とを利用して受信同期に要する時間を短縮し、受信同期確立後、記憶装置8に記憶されているGPS衛星軌道情報を用いて測位演算を行うこと。」

(刊行物等提出書に記載の拒絶理由(進歩性欠如)についての当審の判断)
上記刊行物1に記載された発明は、複数の測位衛星からの測位用電波信号を選択的に用いて測位演算するものでしかない。
上記刊行物2に記載された発明は、複数の基地局からパイロット・チャンネルで繰り返し送られる拡散符号の伝搬時間差を測定して移動局の測位を行うものでしかない。
上記刊行物3に記載された発明の無線データ通信部4を介して送られるデータは、基地局2とGPS受信装置5との疑似距離の算出や、基地局2とGPS受信装置5との疑似距離に対応するデータの伝搬時間の算出のために利用されるわけではない。

よって、上記刊行物1?3に記載された発明を総合的に考慮しても、本願請求項1?37に記載された各発明に共通する次の特徴点(以下、本願発明の特徴点という)は、当業者が容易に成し得たこととは言えない。

(本願発明の特徴点)
セルベーストランシーバと無線により通信可能な通信システムのSPS受信器の位置を検知するために、
セルベース通信信号に含まれる音声メッセージまたはデータメッセージの送信時刻と受信時刻とに基づいて決定された伝搬時間と、SPS衛星からSPS受信器までのSPS信号の伝搬時間との、少なくとも三つの組み合わせを利用すること。

以上の検討により、刊行物等提出書に記載の拒絶理由(進歩性欠如)によっては、本願を拒絶することはできない。

【第9 むすび】
したがって、本願については、原査定の拒絶理由及び当審で通知した平成23年10月18日起案の拒絶理由を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-05-10 
出願番号 特願2000-545042(P2000-545042)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
P 1 8・ 16- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 雅人有家 秀郎  
特許庁審判長 下中 義之
特許庁審判官 森 雅之
▲高▼木 真顕
発明の名称 無線通信信号による衛星位置決めの強化  
代理人 勝村 紘  
代理人 村松 貞男  
代理人 竹内 将訓  
代理人 福原 淑弘  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 直樹  
代理人 堀内 美保子  
代理人 岡田 貴志  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 白根 俊郎  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 佐藤 立志  
代理人 山下 元  
代理人 野河 信久  
代理人 砂川 克  
代理人 市原 卓三  

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