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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1256651
審判番号 不服2008-31485  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2012-05-10 
事件の表示 特願2003- 5601「エピタキシャル基板」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月12日出願公開、特開2004- 43281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年1月14日(優先権主張平成14年5月16日)の出願であって、平成20年5月8日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月7日付けで拒絶査定された。
これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服審判請求がなされ、平成21年1月13日に明細書に係る手続補正書が提出され、同年2月20日に審判請求の理由に係る手続補正書が提出され、平成23年6月27日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ、これに対する回答書が同年9月1日に提出された。
その後、同年12月7日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成24年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されている。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明は、平成24年2月13日付けで提出された手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
所定の単結晶基材と、この単結晶基材上に形成された、AlNからなるIII族窒化物下地膜とを具え、前記III族窒化物下地膜の表面に酸素濃度が5?10原子%であり、厚さが10?40Åの層を含むと共に、
前記III族窒化物下地膜の、表面から0.2μmの深さにおける酸素濃度が、10^(18)/cm^(3)以下であり、
前記層は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置し、前記反応管内の露点を-90℃以下の条件の下で形成する、
ことを特徴とする、エピタキシャル基板。」

第3 当審の拒絶理由
当審において、平成23年12月7日付けで通知した拒絶の理由のうち、「4.特許法第29条第1項第3号について」の概要は、次のとおりである。

本願発明1?6は、国内優先権は認められず、その現実の出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものを含むものである。

第4 当審の判断
4-1.国内優先権について
本願発明の発明特定事項である「III族窒化物下地膜の、表面から0.2μmの深さにおける酸素濃度が、10^(18)/cm^(3)以下」である点は、先の特許出願(特願2002-141340号)には開示されておらず、国内優先権は認められないから、新規性の判断は、本願出願日である平成15年1月14日を基準日として行うものとする。

4-2.引用文献の記載事項
当審の拒絶理由に引用された、引用文献2(特開2002-274996号公報には、次の事項が記載されている。
(2-ア)「単結晶材料からなる基板上と、この基板上に形成された、少なくともAlを含み、らせん転位密度が1×10^(8)/cm^(2)以下のIII族窒化物膜とを具える・・・エピタキシャル下地基板。」(特許請求の範囲【請求項1】)
(当審注:「単結晶材料からなる基板上」は、「単結晶材料からなる基板」の誤記と認める。)
(2-イ)「前記III族窒化物膜は、Alを50原子%以上含有する・・・請求項1に記載のエピタキシャル下地基板。」(特許請求の範囲【請求項2】)
(2-ウ)「前記III族窒化物膜は、AlNから構成されている・・・請求項2に記載のエピタキシャル下地基板。」(特許請求の範囲【請求項3】)
(2-エ)「本発明は、エピタキシャル下地基板及びエピタキシャル基板に関し、詳しくは複数のIII族窒化物膜から構成される半導体発光素子などの基板として好適に用いることのできる、エピタキシャル基板及びこのエピタキシャル基板を形成する際の下地基材として用いることのできる、エピタキシャル下地基板に関する。」(段落【0001】)
(2-オ)「図1に示すエピタキシャル基板10は、単結晶材料からなる基板1と、この基板1上に形成されたAlを含むIII族窒化物緩衝膜2と、このIII族窒化物緩衝膜2上に形成されたIII族窒化物下地膜3とを具えている。なお、基板1及びIII族窒化物緩衝膜2によって、エピタキシャル下地基板が構成される。
基板1は、サファイア単結晶、・・・などの公知の基板材料から構成することができる。」(段落【0018】?【0019】)
(2-カ)「また、III族窒化物緩衝膜2は、好ましくはAlを50原子%以上含み、さらにはAlNから構成されていることが好ましい。・・・」(段落【0022】)
(2-キ)「上述した高結晶性のIII族窒化物緩衝膜2は、Al供給原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)又はトリエチルアルミニウム(TEA)などを用い、窒素供給原料としてアンモニアなどを用いて、MOCVD法により基板1上に形成する。・・・」(段落【0024】)
(2-ク)「【実施例】(実施例)基板としてc面サファイア基板を用い、これを反応管内に設置されたサセプタ上に載置した後、吸引固定した。Al供給原料としてTMAを用い、N供給原料としてアンモニアガスを用いた。そして、アンモニアガスからなるV族供給原料と、TMAからなるIII族供給原料との比(V/III比)が450、圧力が15Torrとなるようにして前記反応管内に導入するとともに、前記基板上に供給した。このとき前記基板を1200℃まで加熱し、緩衝膜としてのAlN膜を厚さ1μmに形成した。
なお、(0002)面のX線ロッキングカーブの測定を行なったところ半値幅は60秒であり、極めて結晶性に優れることが判明した。また、表面平坦性(Ra)を評価したところ2Åであり、表面平坦性にも優れる膜であることが判明した。・・・」(段落【0037】?【0038】)

4-3.引用発明
(a)引用文献2には、記載事項(2-ア)に、「単結晶材料からなる基板と、この基板上に形成された、少なくともAlを含み、らせん転位密度が1×10^(8)/cm^(2)以下のIII族窒化物膜とを具えるエピタキシャル下地基板。」が記載されている。
(b)上記「少なくともAlを含み、らせん転位密度が1×10^(8)/cm^(2)以下のIII族窒化物膜」について、記載事項(2-ウ)には、「前記III族窒化物膜は、AlNから構成されている」と記載され、記載事項(2-カ)には、「また、III族窒化物緩衝膜2は、好ましくはAlを50原子%以上含み、さらにはAlNから構成されていることが好ましい。」と記載されていることからみて、前記「らせん転位密度が1×10^(8)/cm^(2)以下のIII族窒化物膜」は、「AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜」であるといえる。
(c)上記「AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜」の形成について、記載事項(2-ク)には、「基板としてc面サファイア基板を用い、これを反応管内に設置されたサセプタ上に載置した後、・・・緩衝膜としてのAlN膜を厚さ1μmに形成した」と記載されている。この「c面サファイア基板」は、記載事項(2-オ)に、「単結晶材料からなる基板1と、・・・基板1は、サファイア単結晶、・・・などの公知の基板材料」と記載されていることからみて、「単結晶材料からなる基板」であることは明らかであるから、上記「AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜」は、「反応管内に設置されたサセプタ上に単結晶材料からなる基板を載置して」形成されるといえる。

(d)上記(a)?(c)の検討を踏まえ、上記記載事項(2-ア)、(2-ウ)、(2-オ)、(2-カ)、(2-ク)の事項を本願発明の記載ぶりに即して整理すると、引用文献2には、
「単結晶材料からなる基板と、この基板上に形成された、AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜とを具え、前記AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜は、反応管内に設置されたサセプタ上に単結晶材料からなる基板を載置して形成されるエピタキシャル下地基板。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

4-4.対比・判断
(a)引用発明の「単結晶材料からなる基板」は、本願発明の「所定の単結晶基材」に相当する。
(b)引用発明の「AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜」は、本願発明の「AlNからなるIII族窒化物下地膜」と、「AlNからなるIII族窒化物膜」である点で一致する。
(c)本願発明の「前記層は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置し、前記反応管内の露点を-90℃以下の条件の下で形成する」ことについて、本願明細書の段落【0030】に、「単結晶基材としてC面サファイア基材を用い、これを石英製の反応管内に設置されたサセプタ上に載置した。次いで、圧力を15Torrに設定して、水素キャリアガスを流速3m/secとなるように供給した後、ヒータにより、前記基材を1200℃まで加熱した。」と記載され、段落【0031】に、「Al供給原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いるとともに、窒素供給原料としてアンモニアガス(NH_(3))を用い、これら原料ガスを水素キャリアガスとともに、TMAとNH_(3)とのモル比が1:450となるようにして前記反応管内に導入するとともに、前記基材上に供給した。そして、120分間エピタキシャル成長させることによって、下地膜としてのAlN膜を厚さ2μmに形成し、エピタキシャル基板を作製した。」と記載されている。
一方、引用発明の「前記AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜は、反応管内に設置されたサセプタ上に単結晶材料からなる基板を載置して形成される」ことについて、記載事項(2-ク)に、「基板としてc面サファイア基板を用い、これを反応管内に設置されたサセプタ上に載置した後、吸引固定した。Al供給原料としてTMAを用い、N供給原料としてアンモニアガスを用いた。そして、アンモニアガスからなるV族供給原料と、TMAからなるIII族供給原料との比(V/III比)が450、圧力が15Torrとなるようにして前記反応管内に導入するとともに、前記基板上に供給した。このとき前記基板を1200℃まで加熱し、緩衝膜としてのAlN膜を厚さ1μmに形成した。」と記載されており、キャリアガスとAlNの膜厚以外の条件が共通する。
上記(b)の検討と併せみると、引用発明の「前記AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜は、反応管内に設置されたサセプタ上に単結晶材料からなる基板を載置して形成される」ことは、本願発明の「前記層は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置し、前記反応管内の露点を-90℃以下の条件の下で形成する」ことと、「前記AlNからなるIII族窒化物膜は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置して形成する」点で共通する。
(d)本願発明の「エピタキシャル基板」は、「所定の単結晶基材と、この単結晶基材上に形成された、AlNからなるIII族窒化物下地膜とを具え」たものである。
一方、引用発明の「エピタキシャル下地基板」は、「単結晶材料からなる基板と、この基板上に形成された、AlNから構成されるIII族窒化物緩衝膜とを具え」たものであり、上記(a)?(c)の検討と併せみると、引用発明の「エピタキシャル下地基板」は、本願発明の「エピタキシャル基板」と、「エピタキシャル基板」である点で一致する。

(e)上記(a)?(d)を踏まえると、両者は、
「所定の単結晶基材と、この単結晶基材上に形成された、AlNからなるIII族窒化物膜とを具え、
前記AlNからなるIII族窒化物膜は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置して形成する、
エピタキシャル基板。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。

・相違点A
本願発明の「III族窒化物下地膜」は、「表面に酸素濃度が5?10原子%であり、厚さが10?40Åの層を含む」と共に、「表面から0.2μmの深さにおける酸素濃度が、10^(18)/cm^(3)以下」であるのに対し、引用発明の「III族窒化物緩衝膜」は、かかる事項を有していない点。

・相違点B
本願発明の「III族窒化物下地膜」の「厚さが10?40Åの層」は、「反応管内の露点を-90℃以下の条件の下で形成する」のに対し、引用発明の「III族窒化物緩衝膜」は、かかる事項を有していない点。

・相違点C
本願発明の「エピタキシャル基板」は、「III族窒化物下地膜」を具えているのに対し、引用発明の「エピタキシャル下地基板」は、「III族窒化物緩衝膜」を具えている点。

上記相違点A?Cについて検討する。
・相違点Aについて
引用発明の「III族窒化物緩衝膜」について、記載事項(2-ク)には、「基板としてc面サファイア基板を用い、これを反応管内に設置されたサセプタ上に載置した後、吸引固定した。Al供給原料としてTMAを用い、N供給原料としてアンモニアガスを用いた。そして、アンモニアガスからなるV族供給原料と、TMAからなるIII族供給原料との比(V/III比)が450、圧力が15Torrとなるようにして前記反応管内に導入するとともに、前記基板上に供給した。このとき前記基板を1200℃まで加熱し、緩衝膜としてのAlN膜を厚さ1μmに形成した。
なお、(0002)面のX線ロッキングカーブの測定を行なったところ半値幅は60秒であり、極めて結晶性に優れることが判明した。」と記載されている。
一方、本願明細書には、段落【0030】に、「単結晶基材としてC面サファイア基材を用い、これを石英製の反応管内に設置されたサセプタ上に載置した。次いで、圧力を15Torrに設定して、水素キャリアガスを流速3m/secとなるように供給した後、ヒータにより、前記基材を1200℃まで加熱した。」と記載され、段落【0031】に、「Al供給原料としてトリメチルアルミニウム(TMA)を用いるとともに、窒素供給原料としてアンモニアガス(NH_(3))を用い、これら原料ガスを水素キャリアガスとともに、TMAとNH_(3)とのモル比が1:450となるようにして前記反応管内に導入するとともに、前記基材上に供給した。そして、120分間エピタキシャル成長させることによって、下地膜としてのAlN膜を厚さ2μmに形成し、エピタキシャル基板を作製した。」と記載され、段落【0033】に、「AlN膜の(002)面におけるX線ロッキングカーブ半値幅は60秒であった。」と記載されていることからみて、本願発明の「III族窒化物下地膜」と引用発明の「III族窒化物緩衝膜」は、同じ原料ガスを用いて、同じ製膜条件により製膜され、同じX線ロッキングカーブ半値幅を示していることから、引用発明の「III族窒化物緩衝膜」も、本願発明の「III族窒化物下地膜」と同様に、「表面に酸素濃度が5?10原子%であり、厚さが10?40Åの層を含む」と共に、「表面から0.2μmの深さにおける酸素濃度が、10^(18)/cm^(3)以下」であるといえる。
してみると、上記相違点Aは実質的な相違点とはならない。

・相違点Bについて
基板上に膜をエピタキシャル成長させる際に、反応管内の露点を-90℃以下とすることは、例えば、特開2002-124472号公報(段落【0015】、同【0023】、同【0032】を参照)、特開平2-153894号公報(第3頁左上欄第5?8行を参照)、特開昭63-51918号公報(第5頁左上欄第8?9行を参照)、特開平7-302762号公報(段落【0028】を参照)に記載されているとおり、本願出願前当然に採用される周知技術であり、上記相違点Aの検討で述べたとおり、引用発明の「III族窒化物緩衝膜」も、本願発明の「III族窒化物下地膜」と同程度の膜が形成されていることからみて、引用発明の反応管内の露点も、本願発明と同様に、「-90℃以下」であるといえる。
してみると、上記相違点Bは実質的な相違点とはならない。

・相違点Cについて
上記相違点Aの検討で述べたとおり、引用発明の「III族窒化物緩衝膜」も、本願発明の「III族窒化物下地膜」と同程度の膜が形成されていることからみて、引用発明の「エピタキシャル下地基板」も、本願発明の「エピタキシャル基板」と同程度の「III族窒化物下地膜」を具えているといえる。
してみると、上記相違点Cは実質的な相違点とはならない。

よって、本願発明は引用文献2に記載された発明である。

第5 意見書における主張について
請求人は、平成24年2月13日付けの意見書の2-4.において、「しかしながら、引用文献1および2には、本願の新請求項1において規定された、「前記層は、所定の反応管内に前記単結晶基材を設置し、前記反応管内の露点を-90℃以下の条件の下で形成する」ことについて記載されておりません。」と主張しているので、以下に検討する。

反応管内の雰囲気を特定することは、平成23年12月7日付け拒絶理由の「3-1.(2)」にて指摘した事項であり、サポート要件及び実施可能要件としては重要であるが、上記4-4.の相違点Bの検討で述べたとおり、反応管内の露点を-90℃以下とすることは、引用文献2に記載された発明も本願と同程度の膜が形成できていることからみて、本願出願前に当然採用される周知技術であり、新規性の判断に影響を及ぼすものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
そして、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-06 
結審通知日 2012-03-13 
審決日 2012-03-26 
出願番号 特願2003-5601(P2003-5601)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 若土 雅之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 エピタキシャル基板  
代理人 杉村 憲司  

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