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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B
管理番号 1256749
審判番号 不服2009-16449  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-07 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2003-96204「ディスクロール及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-299984〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成15年3月31日の出願であって、平成21年2月18日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成21年6月5日付けで拒絶査定がなされ、平成21年9月7日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものであり、その後、平成23年8月23日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、平成23年10月27日付けで回答書が提出され、平成24年2月24日に面接が行われたものである。

2 平成21年9月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年9月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正
平成21年9月7日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、
「【請求項1】 回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールにおいて、
前記ディスク材が、マイカをディスク材全量の20?30質量%及び無機繊維をディスク材全量の20?40質量%含有し、かつ、空隙率が55?65容量%、充填密度が1.2?1.4g/cm^(3)、10kgf/cmの荷重に対する圧縮変形率が0.05?0.3mmであることを特徴とするディスクロール。
【請求項2】 マイカが白マイカであることを特徴とする請求項1記載のディスクロール。
【請求項3】 回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールの製造方法において、
マイカを20?30質量%及び無機繊維を20?40質量%含有するスラリー原料を板状に成形してディスクロール用基材を得る工程と、前記ディスクロール用基材からディスク材を打ち抜く工程と、前記ディスク材を複数枚回転軸に嵌挿させ該ディスク材を固定する工程とを備えることを特徴とするディスクロールの製造方法。
【請求項4】 ディスクロール基材を得る工程を抄造法により行うことを特徴とする請求項3記載のディスクロールの製造方法。
【請求項5】 スラリー原料が、焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を5?15質量%含有することを特徴とする請求項3または4記載のディスクロールの製造方法。」
から
「【請求項1】 回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールの製造方法において、
マイカを20?30質量%、無機繊維を20?40質量%及び焼成時に焼失する材料を15?20質量%含有するスラリー原料を板状に成形し、焼成してディスクロール用基材を得る工程と、前記ディスクロール用基材からディスク材を打ち抜く工程と、前記ディスク材を複数枚回転軸に嵌挿させ該ディスク材を固定する工程とを備えることを特徴とするディスクロールの製造方法。
【請求項2】 マイカが白マイカであることを特徴とする請求項1記載のディスクロールの製造方法。
【請求項3】 ディスクロール基材を得る工程を抄造法により行うことを特徴とする請求項1または2記載のディスクロールの製造方法。
【請求項4】 回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールにおいて、
請求項1?3の何れか1項に記載の方法により得られ、かつ、マイカをディスク材全量の20?30質量%及び無機繊維をディスク材全量の20?40質量%含有し、空隙率が55?65容量%、充填密度が1.2?1.4g/cm^(3)、10kgf/cmの荷重に対する圧縮変形率が0.05?0.3mmであることを特徴とするディスクロール。」
に補正するものである。

(2)補正要件の検討
ア そこでまず、本件補正後の請求項2が、本件補正前の特許請求の範囲のどの請求項に対応するものであるか検討する。
本件補正後の請求項2は、本件補正後の請求項1記載の「ディスクロールの製造方法」において、「マイカが白マイカであること」を特定するものである。
しかし、本件補正前の特許請求の範囲を検討しても、「ディスクロールの製造方法」の発明を記載したどの請求項にも「マイカが白マイカであること」を特定するものは無い。確かに、本件補正前の請求項2は「マイカが白マイカであること」を特定するものではあるが、「ディスクロール」の発明を記載したものであって「ディスクロールの製造方法」の発明を記載したものではない。
してみると、本件補正後の請求項2は、本件補正前の特許請求の範囲に対応する請求項の存在しない請求項である。
イ そもそも、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号は、特許請求の範囲の減縮を行う補正のうち、「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるもの」(同号括弧書き)についてのみ、これを認めることにしている。ここで、「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であるかどうかは、特許請求の範囲に記載された当該請求項について、その補正の前後を比較して判断すべきものであり、補正前の請求項と補正後の請求項とが一対一に対応することを当然の前提としているものと解すべきである。
そうすると、本件補正前の特許請求の範囲に対応する請求項の存在しない本件補正後の請求項2を新たに追加する補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正とはいえない。
さらに、当該補正事項が、同項第1号、第3号及び第4号に規定する、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
(3)まとめ
したがって、当該補正事項を含む本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記のとおり決定する。

3 本願発明について
(1)本願発明
平成21年9月7日付けの手続補正は前記2.のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成21年4月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項3】 回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールの製造方法において、
マイカを20?30質量%及び無機繊維を20?40質量%含有するスラリー原料を板状に成形してディスクロール用基材を得る工程と、前記ディスクロール用基材からディスク材を打ち抜く工程と、前記ディスク材を複数枚回転軸に嵌挿させ該ディスク材を固定する工程とを備えることを特徴とするディスクロールの製造方法。

(2)刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-287025号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 マイカ粒子20?85重量%、セピオライト10?40重量%、無機質充填材5?30重量%、有機質結合材1?5重量%からなる抄造法による薄板状成形物をディスク素材とすることを特徴とするガラス用ディスクロール。」(特許請求の範囲 請求項1)
(イ)「【産業上の利用分野】本発明は、板ガラス製造のレアー炉の連続処理工程で被熱処理材の搬送ロールとして用いられるガラス用ディスクロールの改良に関する。
【従来の技術】この種のディスクロールは、厚さ6mm程度の石綿板をディスク状に打ち抜いたのち、回転軸になる鋼などの金属軸に所定の厚さになるまで重ねて嵌挿し、これを軸方向に圧縮して緻密組織としてから、その表面を旋盤などで研削してロール状に仕上げたものであって、これが一般的にはディスクロールと呼ばれる形式のロールである。」(段落【0001】、【0002】)
(ウ)「本発明のディスクロールの特徴的な他の素材であるセピオライトは、理想科学構造式Mg_(8)Si_(12)O_(30)(OH)_(4)・(OH_(2))_(4)・8H_(2)Oで示される含水マグネシウム珪酸塩に分類される粘土鉱物で繊維状を有しており、石綿と類似した耐熱性があり、約250℃から結晶水、水酸基が徐々に放出し約830℃からエンスタタイト(MgSiO_(3))に変化し急激に収縮する。このセピオライトは抄造時のシートや抄造成形板の取扱い性や加工性、更には最終的に得られる繊維板の機械的性質を向上させるために最小限使用される。この繊維もなるべく繊維長の大なるものが望ましい。」(段落【0015】)
(エ)「【実施例および比較例】表1に示した原料配合により、通常の丸網式抄造機で厚さ6mmのシートを製造する。次にこのシートを外径130mm、内径60mmのリング状に打ち抜いてディスクを製造し、得られたディスクを用いて、締付圧200kgf/cm^(2)で長さ150mmのディスクロールを製造し、これを種々の温度に設定した電気炉で100時間加熱する。上記熱処理後のロールについて、亀裂の発生状況および耐摩耗性を調べた結果は表2に示すとおりであった。」(段落【0021】)として、段落【0023】には、【表1】に実施例1?4及び比較例1?4の原料配合比(重量%)が、【表2】に実施例1?4及び比較例1?4のディスクロールの特性が記載されている。

(3)対比と判断
ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、記載事項(ア)に「マイカ粒子20?85重量%、セピオライト10?40重量%、無機質充填材5?30重量%、有機質結合材1?5重量%からなる抄造法による薄板状成形物をディスク素材とする」「ガラス用ディスクロール」が記載されている。
そして、記載事項(エ)には、記載事項(ア)に記載された「ガラス用ディスクロール」の実施例について、「丸網式抄造機で・・・シートを製造」し、「このシートを・・・リング状に打ち抜いてディスクを製造し、得られたディスクを用いて、・・・ディスクロールを製造」することが記載され、さらに、記載事項(イ)には、「ガラス用ディスクロール」について、一般的には「石綿板をディスク状に打ち抜いたのち、回転軸になる・・・金属軸に所定の厚さになるまで重ねて嵌挿し、これを軸方向に圧縮して緻密組織としてから、その表面を・・・研削してロール状に仕上げたもの」であることが記載されている。
そこで、記載事項(ア)に記載された「ガラス用ディスクロール」の製造方法に着目すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているといえる。
「マイカ粒子20?85重量%、セピオライト10?40重量%、無機質充填材5?30重量%、有機質結合材1?5重量%からなる薄板状成形物を抄造法により製造し、この薄板状成形物をリング状に打ち抜いてディスクを製造し、得られたディスクを回転軸に所定の厚さになるまで重ねて嵌挿し、これを軸方向に圧縮して緻密組織としてから、その表面を研削してロール状に仕上げるガラス用ディスクロールの製造方法。」

イ 対比
そこで、本願発明3と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「薄板状成形物」、「ディスク」は、それぞれ、本願発明3の「ディスクロール用基材」、「ディスク材」に相当する。
また、刊行1発明で「薄板状成形物を抄造法により製造」するに際し、「薄板状成形物」を構成する組成物のスラリー原料を用いることは明らかであり、刊行1発明で「得られたディスクを回転軸に所定の厚さになるまで重ねて嵌挿し、これを軸方向に圧縮して緻密組織と」するに際し、回転軸に複数枚嵌挿された「ディスク材を固定する」ことも明らかである。
そして、刊行1発明の「マイカ粒子」は、本願発明3の「マイカ」に相当し、その含有量は「20?30質量%」の範囲で重複する。また、刊行1発明の「セピオライト」は、刊行物1の記載事項(ウ)からみて繊維状を有する粘土鉱物であり、この繊維状のセピオライトが従来からディスクロールに用いられる無機繊維であることは、例えば、特開2000-95536号公報の段落【0007】、特開平9-48628号公報の段落【0013】に記載されているように明らかであるから、本願発明3の「無機繊維」に相当し、その含有量は「20?40質量%」の範囲で重複する。
さらに、刊行1発明で製造される「ガラス用ディスクロール」は、刊行物1の記載事項(イ)に被熱処理材の搬送ロールとして用いられることが記載されていることからみて、回転軸に複数枚嵌挿された「ディスク材の外周面により搬送面を形成してなる」ものであることは明らかである。

ウ 相違点
してみると、両者は、
「回転軸にリング状のディスク材を複数枚嵌挿させ、前記ディスク材の外周面により搬送面を形成してなるディスクロールの製造方法において、
マイカを20?30質量%及び無機繊維を20?40質量%含有するスラリー原料を板状に成形してディスクロール用基材を得る工程と、前記ディスクロール用基材からディスク材を打ち抜く工程と、前記ディスク材を複数枚回転軸に嵌挿させ該ディスク材を固定する工程とを備えるディスクロールの製造方法」
で一致し、何らの相違も見出すことができない。
したがって、本願発明3は、刊行物1に記載された発明である。

エ 提示された補正案の検討
なお、請求人は回答書において特許請求の範囲の補正案を提示しているので、特許請求の範囲をこの補正案のとおりに補正する機会が与えられるべきかを検討する。
この補正案の請求項3には、スラリー原料が「焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を5質量%超15質量%以下含有する」ことが記載されている。
しかし、スラリー原料が「焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を5質量%超15質量%以下含有する」ことは、願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。
すなわち、当初明細書等の特許請求の範囲の請求項6及び段落【0009】には、「スラリー原料が、焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を3?15質量%含有する」との記載はあるが、「5質量%超15質量%以下」含有することは記載されていない。さらに、焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料について記載された段落【0019】の記載を検討しても、スラリー原料における焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料の含有量についての記載は無く、実施例で用いる水性スラリーの原料配合について記載された段落【0026】の【表1】にも、焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を15質量%含有する例と20質量%含有する例しか記載がない。
さらに、当初明細書等の記載を検討しても、スラリー原料が「焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を5質量%超15質量%以下含有する」ことが自明である、或いは、そのことを当業者であれば理解できるとする根拠となる何らの記載を見出すこともできない。
してみると、請求項3に、スラリー原料に「焼成もしくは使用中の加熱により焼失する材料を5質量%超15質量%以下含有する」ことを記載する補正案による補正は、当初明細書等に記載された範囲内においてするものではない。
また、無機繊維として、アルミナ繊維、ムライト繊維、シリカ・アルミナ繊維及びシリカ繊維から選ばれた少なくとも1種の人造のセラミック繊維を用いることも、上記「イ 対比」で提示した、特開2000-95536号公報の段落【0007】や、特開平9-48628号公報の段落【0013】に例示されており、格別なものでもない。
よって、補正の機会を与える必要を認めない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明3は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-01 
結審通知日 2012-03-06 
審決日 2012-03-21 
出願番号 特願2003-96204(P2003-96204)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 吉川 潤
中澤 登
発明の名称 ディスクロール及びその製造方法  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 小栗 昌平  

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