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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1256790
審判番号 不服2010-29031  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-22 
確定日 2012-05-07 
事件の表示 特願2006-338721「圧力シールドを組み入れたリソグラフィ装置およびデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 7月 5日出願公開、特開2007-173814〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年12月15日(パリ条約による優先権主張 2005年12月22日 米国)を出願日とする特願2006-338721号)であって、平成21年11月16日付けで拒絶理由が通知され、平成22年3月11日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年8月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付けで手続補正がなされたものである。
その後、平成23年6月2日付けで請求人の意見を事前に求める審尋がなされ、同年9月5日付けで回答書が提出された。

第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成22年12月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項19に係る発明は、平成22年3月11日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項19の、

「基板またはパターニングデバイスを保持するテーブルを移動させるステップと、
圧力波によって引き起こされる、変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように、前記テーブルの前記移動によって誘起される前記圧力波から前記デバイスをシールドするステップと、
パターンを基板に転写するステップと、
を含むデバイス製造方法。」が

「基板またはパターニングデバイスを保持するテーブルを移動させるステップと、
圧力波によって引き起こされる、変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように、前記デバイスから機械的に分離され、前記テーブルの前記移動によって誘起される前記圧力波から前記デバイスをシールドするステップと、
パターンを基板に転写するステップと、
を含むデバイス製造方法。」と補正された。(下線は補正箇所を示す。)

そして、この補正は、本件補正前の請求項1の「前記デバイスをシールドする」ことについて「前記デバイスから機械的に分離され」てなされることを特定する補正事項からなる。これは、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正事項であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項19に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成22年12月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項19に記載されている事項により特定されるものである。(上記の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)特許法第36条第6項第2号(特許請求の範囲の記載要件)の違反について
請求項19に記載の「前記デバイスから機械的に分離され、・・・前記デバイスをシールドする」は、「(デバイスを)シールドする」という動作(作用)が「(デバイスから)機械的に分離され」て行われることになるが、これがどういう意味であるのか明確でなく、したがって、本願補正発明は明確でない。(なお、これが「デバイスから機械的に分離されたシールド部材によりデバイスをシールドする」、すなわち、デバイスに直接接続されていないシールド部材によりデバイスをシールドすることを意味していると解すれば、「明確でない」とまでいうことはできないが、そのように解してよいかは不明である。)
よって、本願補正発明は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)特許法第29条第1項第3号(発明の新規性)の違反について
ア 上記(2)に記載したように、本願補正発明の「前記デバイスから機械的に分離され、・・・前記デバイスをシールドする」が、「デバイスから機械的に分離されたシールド部材によりデバイスをシールドする」、すなわち、デバイスに直接接続されていないシールド部材によりデバイスをシールドすることを意味していると解することができる場合、本願補正発明は「明確でない」とまでいうことはできないので、その場合について、本願補正発明が発明の新規性進歩性を有するかについて検討する。

イ 引用例
(ア)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-115451号公報(以下「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下記「(イ)引用例1に記載された発明の認定」に直接関連する記載に下線を付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、半導体素子、撮像素子、液晶表示素子、薄膜磁気ヘッドその他のマイクロデバイスを製造するためなどに用いられる露光装置及びにこの露光装置を用いたデバイスの製造方法やこの露光装置の制御方法に関するものである。」

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図15に示す露光装置においては、周辺雰囲気の温度を安定化するために温調ガスが露光領域周辺に流されている。この温調ガスが直接吹きつけられるウエハステージの端部は若干圧力が上昇し、ウエハステージの移動と伴に光路空間の周辺の圧力分布を変化させることになる。この場合、ウエハステージの移動に伴う圧力変動に対応して、光路空間内部の圧力も変化し、その圧力の変化に応じて光路空間内の不活性ガスの濃度が変化してしまい、不活性ガス濃度が安定化しない。
【0007】また、図16、図17に示すように、ステージの移動時に光路空間周辺の雰囲気を巻き込みが発生する場合がある。図16に示すように周辺雰囲気の流れが+X方向に向かっている場合、ステージの移動方向が+X方向ではノズル1の下部(空間A)に存在する雰囲気の巻き込みが発生し、逆に-X方向への移動の場合、ノズル2の下部(空間B)に存在する雰囲気の巻き込みが発生する。周辺雰囲気の流れにより、光路空間内から漏れ出した不活性ガスが多く存在するのはノズル2の下部(空間B)になり、空間Aと空間Bでは不活性ガスの濃度が異なり、空間Bの不活性ガス濃度が高くなる。そのために、ステージの移動方向によって、光路空間内に巻き込んでくる不活性ガスの濃度が異なり、光路空間内部の不活性ガス濃度が変化する。
【0008】同じ問題が、マスク(例えば、レチクル)周辺に不活性ガスを供給する場合にも当てはまり、レチクルにおいても遮蔽部材によって囲まれた光路空間内の不活性ガス濃度が変化してしまい、不活性ガス濃度が安定化しない。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明の露光装置は、光源からの光でマスクに形成されたパターンを照明する照明光学系、前記マスクが搭載されており、移動可能なマスクステージ、前記マスクのパターンからの光をウエハに導く投影光学系、前記ウエハが搭載されており、移動可能なウエハステージとを有する露光装置であって、露光光が通過する空間のうち、前記照明光学系と前記マスクステージとの間、前記マスクステージと前記投影光学系との間、前記投影光学系と前記ウエハステージとの間の少なくとも1箇所に、前記露光光の光路を含む光路空間と該光路空間周辺の周辺空間とを形成する遮蔽部材と、前記光路空間に不活性ガスを供給する第1ガス供給手段と、前記マスクステージ及び/又は前記ウエハステージの移動に伴って発生する、前記ウエハに到達する前記露光光の光量の合計の変化を低減する低減手段とを有することを特徴としている。
【0010】ここで、前記低減手段が、前記レチクルのパターンに到達する光量を調節する手段、前記光源の光量を調整する手段、前記光源からの露光光の光路中にフィルターを挿入する手段、前記光源からの露光光の光路中に配置された絞り、前記レチクルステージ及び/又は前記ウエハステージの駆動速度を調整する手段を有するようにしてもよい。
【0011】前記レチクルステージ及び/又は前記ウエハステージの位置情報、移動速度に関する情報、移動方向に関する情報の少なくとも1つの情報に基づいて、或いは前記光路空間内部の圧力を測る圧力センサを有し、該センサの出力に従って、或いは前記光路空間内部の酸素濃度及び/又は水分濃度を測定する濃度センサを有し、該センサの出力に従って、前記低減手段を制御するように構成すると好ましい。」

「【0018】また、デバイス製造方法であって、前述の露光装置を用いて、感光材が塗布された基板にパターンを転写する転写工程と、前記基板を現像する現像工程とを備えることを特徴としている。
【0019】また、マスクに形成されたパターンを露光光を用いて基板に投影し転写する露光装置であって、ステージと、光学系と、前記ステージと前記光学系との間の露光光が通過する空間を含む光路空間に不活性ガスの流れを形成するガス流形成機構と、前記ガス流形成機構周辺の雰囲気の流速もしくは圧力を制御する制御手段とを備えることを特徴としても良い。」

「【0119】また、光路空間116内の圧力を圧力計117で測定する変わりに、光路空間116の周辺のどこかに圧力計を設け、周辺圧力の変化に対応して、光路空間116への不活性ガスの給気量もしくは光路空間116からの不活性ガスを含むガスの排気量を制御することで、光路空間116内の不活性ガス濃度を安定化させても良い。前述のように、周辺雰囲気が吹きつけられるウエハステージ102の端部は圧力が高く、ウエハステージ102の移動に伴って、圧力分布が変化するために、光路空間116周辺の圧力変化に対応して、光路空間内部の圧力、濃度は変化する。そのため、光路空間116周辺の圧力が上昇する場合には周辺雰囲気が光路空間内に進入しやすくなるので、光路空間内の圧力が上昇するように給気量を上げるもしくは光路空間内の排気量を下げるといった制御を行い、光路空間116周辺の圧力が減少する場合には逆に光路空間内の圧力が減少するように給気量を下げるもしくは光路空間内の排気量を上げるといった給排気量の制御を
行う。」

「【0130】図8は、露光装置の光源から投影光学系(鏡筒)、ウエハ周辺並びに制御システムを示す模式図である。
【0131】この露光装置は、F_(2)エキシマレーザのような短波長レーザ光を照明光として発生する光源を備え、適当な照明光学系を介して該光源が照明光(露光光)をレチクルステージ102上に搭載された不図示のレチクルチャックに固定したレチクル101(マスク)に均一照明する。レチクル101を透過した光(露光光)は、投影光学系103を構成する種々の光学部材を介してウエハステージ106上に載置されたウエハチャック105によって保持されたウエハ104の表面上に到達し、ここにレチクル101のパターンを結像する。
【0132】照明光学系100内部に搭載されたセンサ400は露光量検出器であり、ハーフミラーにより分割されたパルス光の一部の光束をモニタしている。光源制御器135は所望の露光量に応じて放電電圧信号、トリガー信号により、光源となるF2レーザのパルスエネルギ、及び、発光間隔を制御する。放電電圧信号、トリガー信号を生成する際には,センサ400の計測結果やステージ制御器132からのステージの現在位置信号,主制御系からの履歴情報などがパラメータとして用いられている。
【0133】不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等)がボンベから照明光学系100、投影光学系103に温調装置501、バルブVa、Vb、Vc、流路a、b、cを介して供給され、流路abo、coを介して排気装置503で排気することで、各容器内部は高濃度のヘリウムガスで置換される。
【0134】温調された不活性ガス(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス等)が温調装置502、バルブVd,Vf、Vg、流路d、f、gを介して、照明光学系下部の遮蔽部材301とレチクル101との間の露光光が通過する空間及びその周辺を含む空間(以下、光路空間200)と投影光学系103上部の遮蔽部材302とレチクル101との間の露光光が通過する空間及びその周辺を含む空間(以下、光路空間201)と投影光学系103下部の遮蔽部材303とウエハ104との間の露光光が通過する空間及びその周辺を含む空間(以下、光路空間202)に供給される。
【0135】各光路空間に供給された窒素ガスの一部は、排気口で回収され、do、eo、fo、go、hoを介して循環装置504で回収され、バルブVe、Vh、及び、フィルタを介してレチクルステージ102、ウエハステージ106周辺の温調雰囲気として給気される。
【0136】排気される。また、各バルブ類、排気装置503、循環装置504は環境制御器131気により、制御される。循環装置504は給気する窒素ガスの濃度・温度を制御し、レチクル101及びウエハ104の周辺雰囲気の濃度と温度を安定化する。窒素ガスの濃度はボンベから供給され、各光路空間に供給される窒素ガス濃度は循環装置504を介して供給される窒素ガス濃度より高い。
【0137】本構成ではヘリウムガスと窒素ガスの2種類の不活性ガスを用いて置換などを行っているが、1種類のガスのみで置換などを行っても良い。
【0138】また、循環装置を使用せず、ドライエアや低濃度の窒素ガスを用いて、温調し、ステージの周辺に流しても良い。
【0139】ステージ制御器132によりレチクルステージ101及びウエハステージ106は制御され、レチクルステージ101はX方向に移動可能に構成され、ウエハステージ106は3次元方向(XYZ方向)に移動可能に構成されている。レチクル101のパターンは、ステッピング移動と走査露光とを繰り返す所謂ステッピングアンドスキャン方式で、ウエハ104に逐次投影され転写される。」

「【図8】



(イ)引用例1に記載された発明の認定
【0131】から「投影光学系103」は「種々の光学部材」により構成され、そして、【図8】及び技術常識から、遮蔽部材303は投影光学系103を構成する種々の光学部材に直接接続されているものではないことは明らかであるから、上記記載(図面の記載も含む)を総合すれば、引用例1には、
「光源からの光でレチクル101(マスク)に形成されたパターンを照明する照明光学系100、前記レチクル101が搭載されており、移動可能なレチクルステージ102、前記レチクル101のパターンからの光をウエハ104に導く投影光学系103、前記ウエハ104が搭載されており、移動可能なウエハステージ106とを有する露光装置を用いて、感光材が塗布されたウエハ104にパターンを転写する転写工程を備えるデバイス製造方法であって、
上記転写工程においてレチクルステージ102及びウエハステージ106は走査のために移動され、ウエハステージ106の移動と伴に光路空間202の周辺の圧力分布を変化させることになり、
前記投影光学系103と前記ウエハステージ106との間に、前記露光光の光路を含む光路空間202と該光路空間周辺の周辺空間とを形成する遮蔽部材303を有し、
遮蔽部材303は投影光学系103を構成する種々の光学部材に直接接続されているものではないデバイス製造方法。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 本願補正発明と引用発明の対比
(ア)対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

引用発明の「ウエハ104」及び「レチクル101」が、それぞれ、本願補正発明の「基板」及び「パターニングデバイス」に相当し、引用発明の「レチクルステージ102」または「ウエハステージ106」が、本願補正発明の「基板またはパターニングデバイスを保持するテーブル」に相当するから、引用発明の「光源からの光でレチクル101(マスク)に形成されたパターンを照明する照明光学系100、前記レチクル101が搭載されており、移動可能なレチクルステージ102、前記レチクル101のパターンからの光をウエハ104に導く投影光学系103、前記ウエハ104が搭載されており、移動可能なウエハステージ106とを有する露光装置を用いて、感光材が塗布されたウエハ104にパターンを転写する」こと、及び「転写工程においてレチクルステージ102及びウエハステージ106は走査のために移動され」ることが、本願補正発明の「基板またはパターニングデバイスを保持するテーブルを移動させる」ことに相当する。

引用発明の「圧力分布を変化させること」と本願補正発明の「圧力波」は、「空気の変動」である点で一致する。
引用発明の「投影光学系103を構成する種々の光学部材」が、本願補正発明の「変位の影響を受けやすいデバイス」に相当し、引用発明の「遮蔽部材303」は、「ウエハステージ106の移動と伴に光路空間202の周辺の圧力分布を変化させることに」なった場合に、その圧力分布の変化の影響を受けて「投影光学系103を構成する種々の光学部材」が変位することを抑制(低減)し得ることは明らかであるから、引用発明において「ウエハステージ106の移動と伴に光路空間202の周辺の圧力分布を変化させることに」なった状況下で「遮蔽部材303」を有することが、本願補正発明の「変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように」「前記デバイスをシールドする」ことに相当するといえる。
また、上記「ア」で述べたように、本願補正発明の「前記デバイスから機械的に分離され、・・・前記デバイスをシールドする」は、「デバイスから機械的に分離されたシールド部材によりデバイスをシールドする」、すなわち、デバイスに直接接続されていないシールド部材によりデバイスをシールドすることを意味しているのであるから、引用発明の「遮蔽部材303は投影光学系103を構成する種々の光学部材に直接接続されているものではない」ことが、本願補正発明の「前記デバイスから機械的に分離され」ることに相当する。
すると、引用発明の「ウエハステージ106の移動と伴に光路空間202の周辺の圧力分布を変化させることになり、前記投影光学系103と前記ウエハステージ106との間に、前記露光光の光路を含む光路空間202と該光路空間周辺の周辺空間とを形成する遮蔽部材303を有し、遮蔽部材303は投影光学系103を構成する種々の光学部材に直接接続されているものではない」ことと、本願補正発明の「圧力波によって引き起こされる、変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように、前記デバイスから機械的に分離され、前記テーブルの前記移動によって誘起される前記圧力波から前記デバイスをシールドする」こととは、「空気の変動によって引き起こされる、変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように、前記デバイスから機械的に分離され、前記テーブルの前記移動によって誘起される前記空気の変動から前記デバイスをシールドする」点で一致する。

引用発明の「感光材が塗布されたウエハ104にパターンを転写する転写工程」が、本願補正発明の「パターンを基板に転写するステップ」に相当する。


(イ)一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「基板またはパターニングデバイスを保持するテーブルを移動させるステップと、
空気の変動によって引き起こされる、変位の影響を受けやすいデバイスの変位を実質的に抑制するように、前記デバイスから機械的に分離され、前記テーブルの前記移動によって誘起される前記空気の変動から前記デバイスをシールドするステップと、
パターンを基板に転写するステップと、
を含むデバイス製造方法。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(ウ)相違点
変位の影響を受けやすいデバイスに影響を与える「空気の変動」が、本願補正発明においては「圧力波」であるのに対し、引用発明においては「圧力分布」の「変化」である点。

エ 当審の判断
上記相違点について検討する。
本願補正発明の「圧力波」については、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、【0006】の「考慮すべき一側面は、可動部品による圧力波の発生である。こうした波は、例えば干渉測定にとって問題となるおそれがある。干渉ビームが通過するガスの屈折率が圧力の変動によって変わり、したがって測定が不正確になるおそれがあるからである。」、【0036】の「加速中の周囲環境内の圧力変動は、・・・」、【0038】の「局所の圧力変動がシールド13内で減衰され、・・・」及び【0042】の「この構成では、例えば、区画22内の気圧を積極的に制御することによって、気圧補正を実施することができる。したがって、ガス圧力変動およびそれに対応する屈折率の変化も、遅くなり得る。」等の記載から、本願補正発明の「圧力波」は「圧力の変動」と同意で用いられていると解することができるから、引用発明の「圧力分布」の「変化」と同意であるといえる。
さらに、本願補正発明の「圧力波」には「(圧力の)時間的な(変動)」という意味が付加されているものとしても、引用発明の「圧力分布」の「変化」も、ウエハステージの移動にともなって生じるものであり、かつ、ウエハステージは往復動するものであることから、引用発明においても「(圧力分布の)時間的な(変化)」を生じるものであるといえる。
そうであるならば、本願補正発明の「圧力波」と引用発明の「圧力分布」の「変化」とは何等相違するものではないといえるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。
なお、仮に、本願補正発明の「圧力波」が引用発明の「圧力分布」の変化と異なるものとしても、「遮蔽部材303」が存在すれば、「圧力波」の影響が減少するのは明らかであるから、やはり、上記相違点は実質的な相違点ではない。

オ まとめ
よって、本願補正発明は引用発明であるといえるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
したがって、上記(2)又は(3)の理由により、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年12月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年3月11日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項19に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)特許法第29条第1項第3号(発明の新規性)の違反について」の「イ 引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載から認められるように、本願補正発明から、「前記デバイスから機械的に分離され」ることを特定する補正事項を省いたものが本願発明である。
なお、本願発明が、本願補正発明から「前記デバイスから機械的に分離され」ることを特定する補正事項を省いたものであることから、本願発明に関しては、「第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)特許法第36条第6項第2号(特許請求の範囲の記載要件)の違反について」の拒絶理由がないことは明らかである。
そうすると、上記「第2 平成22年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)特許法第29条第1項第3号(発明の新規性)の違反について」の「ウ 本願補正発明と引用発明との対比」及び「エ 当審の判断」において記載したとおり、本願発明の発明特定事項をすべて含み、本願発明をさらに限定して特定したものに相当する本願補正発明が引用発明であるから、本願発明も、同様に、引用発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2011-12-02 
結審通知日 2011-12-05 
審決日 2011-12-20 
出願番号 特願2006-338721(P2006-338721)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 森林 克郎
橋本 直明
発明の名称 圧力シールドを組み入れたリソグラフィ装置およびデバイス製造方法  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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