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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1257318
審判番号 不服2009-7099  
総通号数 151 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-07-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-02 
確定日 2012-05-24 
事件の表示 特願2003-549426「ポリスチレン樹脂処理用溶剤及びこれを用いたポリスチレン樹脂の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月12日国際公開、WO03/48243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2002年12月3日(優先権主張2001年12月4日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月20日付けで手続補正がなされたものである。その後、平成23年7月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋がなされ、同年9月22日に回答書が提出され、同年12月21日に面接がなされたものである。

2.平成21年4月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年4月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の平成21年1月26日付け手続補正書の「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状にしてその体積を減少させるための液状媒体であって、この液状媒体は炭素数6?18の直鎖或は分枝状の脂肪族炭化水素及び不飽和脂肪族炭化水素から選ばれた少なくとも一種以上の脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±2.0重量%であることを特徴とするポリスチレン樹脂処理用溶剤。」から
「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状にしてその体積を減少させるための液状媒体であって、この液状媒体は、C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%であることを特徴とするポリスチレン樹脂処理用溶剤。」と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「炭素数6?18の直鎖或は分枝状の脂肪族炭化水素」を、「C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素」と限定するとともに、「脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±2.0重量%」を、「脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%」と限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開2001-164037号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素とを含む発泡スチロール減容処理剤であって、前記脂肪族炭化水素が、少なくとも炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素を含む複合パラフィン系炭化水素であることを特徴とする発泡スチロール減容処理剤。」(【請求項1】)
(イ)「前記芳香族炭化水素を55?65重量%、前記脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含む請求項1ないし4のいずれかに記載の発泡スチロール減容処理剤。」(【請求項5】)
(ウ)「とくに特開平9-157435号公報に記載された技術は、短時間に少ないエネルギーで発泡スチロール廃材を溶解させ、かつ溶解後に容易に固形分を分離させる目的で、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤と、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤とを混合するものである。
このように性質の異なる2つの溶剤を使用することによって、この混合溶液中で発泡スチロール廃材が膨潤して固形相として分離し、さらにこの固形の発泡スチロール樹脂相混合溶剤から分離した場合、固形物中には若干の溶剤を含むものの極めて少量とすることができる。
ここで、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤としては、芳香族、ケトン類、エステル類、エーテル類、不飽和脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素などの各種化合物からなる溶剤を用いることができ、芳香族溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、テトラリン、その他、石油原料由来の芳香族留分が、またケトン類からなる溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが、さらに、エステル系としては、酢酸エチル、酢酸メチルが使用できる。
・・・
一方、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤としては、ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系溶剤、特に鎖状飽和脂肪族炭化水素およびアルコール群より選ばれた一種以上の溶剤を用いることができる。
ここで、特開平9-157435号公報によると、飽和脂肪族炭化水素の炭素数は、溶解後に分離される発泡スチロール樹脂の流動性の上昇を防止して回収発泡スチロール樹脂の溶剤からの分離を容易にし、また飽和脂肪族炭化水素の沸点を低下させ、回収発泡スチロール樹脂からの溶剤の留去を一層容易にさせるために、8?15、とくに12?13とすることが望ましいとされている。」(段落【0006】?【0011】)
(エ)「本発明の第一の目的は、固形状の発泡スチロールを速やかに溶解、ゲル状化させて減容でき、一定量の処理剤でより多くの発泡スチロールを処理可能な発泡スチロール減容処理剤を提供することにあり、・・・。」(段落【0015】)
(オ)「以下、実験例を参照しながら本発明を詳細に説明する。前述したように、発泡スチロールの易溶解性溶剤として、芳香族炭化水素を使用することが知られているが、発泡スチロールの表面に芳香族炭化水素たとえばキシレンを塗布すると、瞬時に表面が溶解し始めるものの、およそ3?5mmの深さまでの溶解で停止してしまう。・・・」(段落【0019】)
(カ)「ここで、炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素が同量程度であることが好ましく、とくにそれぞれのパラフィン系炭化水素がいずれも25?40重量%の範囲であることが望ましい。・・・このような配合比率を満足する市販の溶剤としては、たとえば「ノルマルパラフィン-M」(商品名 日本石油株式会社製)を挙げることができる。この「ノルマルパラフィン-M」は、炭素数12、炭素数13、炭素数14のパラフィン系炭化水素の混合溶剤であって、それぞれ約25重量%,45重量%,30重量%の配合比率となっている。」(段落【0033】)
(キ)「さらに、より効率の良い溶解特性を得るために、減容処理剤の芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素の種類及び重量比率を種々変えて実験研究を行い、減容速度、作業性、経済性に最も優れた配合条件を見出した。
すなわち、芳香族炭化水素としては、沸点が150?180℃の範囲で、炭素数9の芳香族炭化水素を主成分としたもの、とくに、炭素数9の芳香族炭化水素を80重量%以上含有したものが望ましい。・・・
また、減容処理剤中の複合パラフィン系炭化水素の割合は35?45重量%が望ましい。複合パラフィン系炭化水素の割合が35重量%よりも少ないと(芳香族炭化水素が65重量%よりも多いと)、発泡スチロールの溶解後のゲル状化が不完全となり、溶解速度、溶解量ともに極端に低減するばかりでなく、作業性が悪化することになる。一方、複合パラフィン系炭化水素の割合が45重量%よりも多いと(芳香族炭化水素が55重量%よりも少ないと)、発泡スチロールの溶解後のゲル状化が促進されすぎて、芳香族炭化水素がゲルから流出できなくなり、溶解速度、溶解量に大きな支障が生じる。」(段落【0034】?【0036】)

(3)引用発明の認定
引用例には、記載事項(ウ)によれば、従来技術として、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤と、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤とを混合した混合溶液とからなる発泡スチロール廃材の減容処理剤(特開平9-157435号公報)が知られており、ここで、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤としては、芳香族、ケトン類、エステル類、エーテル類、不飽和脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素などの各種化合物からなる溶剤を用いることができ、一方、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤としては、ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系溶剤、特に鎖状飽和脂肪族炭化水素およびアルコール群より選ばれた一種以上の溶剤を用いることができ、さらに、飽和脂肪族炭化水素の炭素数は、溶解後に分離される発泡スチロール樹脂の流動性の上昇を防止して回収発泡スチロール樹脂の溶剤からの分離を容易にし、また飽和脂肪族炭化水素の沸点を低下させ、回収発泡スチロール樹脂からの溶剤の留去を一層容易にさせるために、12?13とすることが望ましいことが記載されている。
そして、記載事項(ア)に、上記従来技術を改良した発泡スチロール減容処理剤として、「芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素とを含む発泡スチロール減容処理剤であって、前記脂肪族炭化水素が、少なくとも炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素を含む複合パラフィン系炭化水素であることを特徴とする発泡スチロール減容処理剤」が記載されることから、上記「芳香族炭化水素」は、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤であり、上記「脂肪族炭化水素」は、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤であるといえる。
さらに、上記「芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素とを含む発泡スチロール減容処理剤」については、記載事項(イ)に、「前記芳香族炭化水素を55?65重量%、前記脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含む」ことが記載されている。
さらに、記載事項(エ)によれば、上記「発泡スチロール減容処理剤」は、固形状の発泡スチロールを速やかに溶解、ゲル状化させて減容できるものであるといえる。
以上のことから、引用例に記載された事項を本願補正発明に則して整理し直すと、引用例には、
「固形状の発泡スチロールを速やかに溶解、ゲル状化させて減容できる発泡スチロール減容処理剤であって、発泡スチロール減容処理剤は、発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤である芳香族炭化水素と、発泡スチロール樹脂の溶解度が低い第二の溶剤である脂肪族炭化水素とを混合した混合溶液からなり、前記脂肪族炭化水素は、少なくとも炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素を含む複合パラフィン系炭化水素であり、しかも、芳香族炭化水素を55?65重量%、脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含む発泡スチロール減容処理剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(4)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較する。
まず、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂」については、本願明細書の第9ページ12?13行に「本発明において処理されるポリスチレン樹脂としては、特に制限されないが、発泡スチロール(発泡ポリスチレン)が好ましい。」と記載されることから、引用発明の「発泡スチロール」は、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂」に相当するといえる。
つぎに、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状に処理する」については、本願明細書の第9ページ18?21行に「本発明において、「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状に処理する」とは、ポリスチレン樹脂を液体媒体(溶剤)に接触させることにより、ポリスチレン樹脂の内部に含まれる気泡を除去し、ポリスチレン樹脂をゼリー状(ペースト状)ないしはゲル状(半固形状)に擬集させてポリスチレン樹脂の体積を減少させることをいう。」と記載されることから、引用発明の「固形状の発泡スチロールを速やかに溶解、ゲル状化させて減容できる発泡スチロール減容処理剤」は、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状にしてその体積を減少させるための液状媒体」に相当するといえる。
つぎに、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂可溶性溶剤」については、本願明細書の第9ページ29行?第10ページ7行に「ポリスチレン樹脂可溶性溶剤としては、単独でポリスチレン樹脂を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、一般的には、ベンゼン環、エステル基、ケトン基及びエーテル基等から選ばれた少なくとも一つの官能基をその分子構造に有する化合物等であれば良く、具体的には、例えばキシレンやエチルベンゼン等のアルキルベンゼンなどの芳香族化合物や酢酸エチル、酪酸エチル又はラウリン酸エチル等のエステル系化合物、メチルイソブチルケトン及びオクタノン等のケトン類、ジエチルエーテル及びジイソブチルエーテル等のエーテル系化合物等から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。」と記載されるのに対し、引用例の記載事項(ウ)に「発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤としては、芳香族、ケトン類、エステル類、エーテル類、不飽和脂肪族炭化水素、環状脂肪族炭化水素などの各種化合物からなる溶剤を用いることができ」と記載されるとともに、記載事項(オ)に「発泡スチロールの易溶解性溶剤として、芳香族炭化水素を使用することが知られている」と記載されることから、引用発明の「発泡スチロール樹脂が易溶解性の第一の溶剤である芳香族炭化水素」は、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂可溶性溶剤」に相当するといえる。
つぎに、本願補正発明の「C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素」については、本願明細書の第11ページ21?26行に「この脂肪族炭化水素の好適な市販品の例としては、日本石油化学工業(株)社製のn-パラフィンSL(C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン及びC_(12)パラフィンの混合物)、n-パラフィンL(C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン及びC_(13)パラフィンの混合物)、n-パラフィンM(C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン及びC_(14)パラフィンの混合物)、・・・等が挙げられる。」と記載されるのに対し、引用例の記載事項(カ)に「ここで、炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素が同量程度であることが好ましく、・・・このような配合比率を満足する市販の溶剤としては、たとえば「ノルマルパラフィン-M」(商品名 日本石油株式会社製)を挙げることができる。この「ノルマルパラフィン-M」は、炭素数12、炭素数13、炭素数14のパラフィン系炭化水素の混合溶剤であって」と記載され、上記「ノルマルパラフィン-M」は、本願明細書に記載された「n-パラフィンM(C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン及びC_(14)パラフィンの混合物)」と同じものであるから、引用発明の「少なくとも炭素数12、炭素数13および炭素数14のそれぞれのパラフィン系炭化水素を含む複合パラフィン系炭化水素」である脂肪族炭化水素は、本願補正発明の「C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素」相当するといえる。
つぎに、引用発明の「芳香族炭化水素を55?65重量%、脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含む」ことは、本願補正発明の「脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%であること」と、「脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が特定の範囲である」点で、共通するといえる。
つぎに、引用発明の「発泡スチロール減容処理剤」は、本願補正発明の「ポリスチレン樹脂処理用溶剤」に相当するといえる。
以上のことを総合すると、本願補正発明と引用発明は、
「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状にしてその体積を減少させるための液状媒体であって、この液状媒体は、C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が特定の範囲であるポリスチレン樹脂処理用溶剤」の点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]本願補正発明は、「脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%である」のに対し、引用発明は、「芳香族炭化水素を55?65重量%、脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含」むものである点。

(5)判断
[相違点]について
本願補正発明において、「脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%である」ことの技術的意義については、本願明細書の第6ページ28行?第8ページ7行に「まず、本発明者は、実験用のポリスチレン樹脂処理用溶剤として、脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とを混合した液状媒体を作成し、25度の温度条件下、脂肪族炭化水素の配合割合を5重量%刻みで変化させ、配合割合の変化に応じた引火点の変化を調査した。
・・・
なお、前記3つの試験は、種々の炭素数の脂肪族炭化水素及び種々のポリスチレン樹脂可溶性溶剤(芳香族炭化水素類、エステル類、ケトン類及びエーテル類)を用いて、その組み合あわせを適宜変えて行った結果を総合的に判断したものである。
その結果、ポリスチレン樹脂処理用溶剤において、脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤の種類にかかわらず、引火点、処理速度及び処理量の相反する性質を全て満足する脂肪族炭化水素の配合割合が35重量%?40重量%の間に存在することが認められたのである。」と記載され、さらに、第8ページ8?26行に「そして、更に実験を進め、35重量%?40重量%の間を、0.5重量%刻みで配合割合を変化させて検討した結果、引火点、処理速度及び処理量の相反する性質を全て満足する脂肪族炭化水素の配合割合が37.5重量%を中心にした極僅かな範囲に存在することが認められたのである。
加えて、その理由は定かではなく現在調査中であるが、おそらく液状媒体の比重と処理速度のバランスが非常に良いためであろうと予想されるが、脂肪族炭化水素の配合割合をこの37.5重量%を中心とした僅かな範囲に設定した液状媒体に投入されたポリスチレン樹脂は、処理されると速やかに処理容器の底に沈降し、新たにポリスチレン樹脂を投入する際に全く障害にならないことも確認されたのである。
又、驚くべきことに、脂肪族炭化水素の配合割合が35重量%から粘着性やベタツキが極めて小さくなり、しかも適度な流動性も有しており、処理容器内の壁面や底面に付着することもなく、まさにスッポリと処理容器から除去し得るようになり、又、40重量%を超えると、処理後のゼリー状ないしゲル状のポリスチレン樹脂が硬くなり、その流動性が喪失される結果、この場合も廃棄場や再処理工場等に運搬する際の詰め替えや流し込みが困難となるといった新たな問題が浮上することが確認された。
即ち、脂肪族炭化水素の配合割合が37.5重量%を中心とした僅かな範囲に設定した液状媒体に投入されたポリスチレン樹脂は、粘着性やベトツキが極めて小さくなり、しかも適度な流動性も有しており、処理容器内の壁面や底面に付着することもなく、まさにスッポリと処理容器から除去し得ることも確認されたのである。」と記載されている。
これらの記載から、本願補正発明において、「C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±0.5重量%である」ことの技術的意義は、液状媒体であるポリスチレン樹脂処理用溶剤において、配合するポリスチレン樹脂可溶性溶剤の種類にかかわらず、脂肪族炭化水素の配合割合が37.5重量%を中心とした僅かな範囲に設定すると、その液状媒体に投入されたポリスチレン樹脂は、粘着性やベトツキが極めて小さくなり、しかも適度な流動性も有しており、処理容器内の壁面や底面に付着することもなく、まさにスッポリと処理容器から除去し得ることに依拠するものといえる。
これに対して、引用発明の「発泡スチロール減容処理剤」は、記載事項(キ)によれば、より効率の良い溶解特性を得るために、減容処理剤の芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素の種類及び重量比率を種々変えて実験研究を行った結果、芳香族炭化水素として、沸点が150?180℃の範囲で、炭素数9の芳香族炭化水素を主成分としたものが望ましく、減容速度、作業性、経済性に最も優れた配合条件として、芳香族炭化水素を55?65重量%、脂肪族炭化水素を35?45重量%の範囲で含むのが望ましいことを見出したものといえる。
そこで、本願補正発明と引用発明における脂肪族炭化水素の配合割合についてみると、引用発明は、減容処理剤中に配合する芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素の種類を限定したにもかかわらず、減容処理剤中の脂肪族炭化水素の配合割合が35?45重量%の範囲、すなわち40±5重量%であるのに対し、本願補正発明は、ポリスチレン樹脂可溶性溶剤の種類にかかわらず、例えば、芳香族炭化水素に限らず、ベンゼン環、エステル基、ケトン基及びエーテル基等から選ばれた少なくとも一つの官能基をその分子構造に有する化合物から選ばれたものであれば条件を満足することから、液状媒体の比重だけをみても、ポリスチレン樹脂可溶性溶剤として選ばれる化合物によって異なるにもかかわらず、本願補正発明の脂肪族炭化水素の好ましい配合割合の範囲が引用発明の好ましい配合割合よりも狭い範囲にあるとは、技術常識からみて直ちには理解できない。
そして、本願補正発明は、脂肪族炭化水素の配合割合を37.5±0.5重量%にするだけで、ポリスチレン樹脂可溶性溶剤の種類にかかわらず、引火点、処理速度及び処理量の相反する特性を全て満足させることができると本願明細書に記載しているが、本願明細書の実施例をみても、実施例1?5には、脂肪族炭化水素の配合割合が37.5重量%の例のみが示され、一方、比較例には、脂肪族炭化水素の配合割合が30重量%と45重量の例が示されているだけで、例えば脂肪族炭化水素の配合割合が36重量%と38重量%の例が示されていないことから、37.5±0.5重量%の範囲に設定することによって顕著な作用効果を奏するとは、本願明細書全体の記載をみても確認できない。
これに対して、引用発明の発泡スチロール減容処理剤は、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素との種類及び重量比率を種々変えて、減容速度、作業性、経済性に最も優れた配合条件を調べたところ、脂肪族炭化水素の割合が35重量%よりも少ないと、発泡スチロールの溶解後のゲル状化が不完全となり、溶解速度、溶解量ともに極端に低減するばかりでなく、作業性が悪化すること、さらに、脂肪族炭化水素の割合が45重量%よりも多いと、発泡スチロールの溶解後のゲル状化が促進されすぎて、溶解速度、溶解量に大きな支障が生じること、すなわち、脂肪族炭化水素の割合が35重量%以上になると、効率の良い溶解特性が得られるが、45重量%を超えると、効率の良い溶解特性を得られないことをみつけたわけであるから、本願補正発明のポリスチレン樹脂処理用溶剤における脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤との配合割合について得られる知見と同様のものとみることができる。
そして、本願補正発明のポリスチレン樹脂処理用溶剤における脂肪族炭化水素の配合割合(37.5±0.5重量%)は、引用発明の発泡スチロール減容処理剤における脂肪族炭化水素の配合割合である35?45重量%の範囲内の数値であって、その効果も格別のものとはいえない。
したがって、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用発明に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

(6)回答書について
請求人は、平成23年9月22日付け回答書の「(2)前置報告書に対する回答」において、「前置報告書は、要するに、本願発明は、脂肪族炭化水素の割合を37.5±0.5重量%とした点において、その旨の記載のない引用文献1及び引用文献2と相違するが、脂肪族炭化水素の割合を37.5±0.5重量%とした点について、引用文献2に記載された35?45重量%の範囲内で最適化したに留まらない有利な効果があるのか判然としないから、本願発明に特段の有利な効果は見出せず、請求項1?9に係る発明に進歩性は認められないと結論付けるものと解釈いたします。
しかしながら、・・・引用文献1において考慮される処理後の半固体状物質の硬さや粘度、及び引用文献2において考慮されるゲルのベタ付きによる処理容器への付着による作業性は、処理用溶剤1グラム単位に対して、せいぜい0.5倍程度の発泡スチロールを溶解させた際に得られる被処理物に対して評価されたものと解されます。
ここで、処理用溶剤1グラム単位に対して、0.5倍程度の発泡スチロールを溶解させると、減容された被処理物は、処理用溶剤中に浮揚した状態で存在します。
処理用溶剤中に浮揚した状態で存在する被処理物を処理容器内から取り出すことは非常に容易です。なぜなら、残存している処理用溶剤と共に処理容器外へ流し出すことができるからです。・・・しかしながら、発泡スチロールを更に投入し、処理用溶剤1グラム単位に対して、1倍以上の発泡スチロールを溶解させると、減容された被処理物は処理用溶剤を殆ど吸収し、膨潤した状態で処理容器内底部に滞留します。
この処理容器内底部に滞留した被処理物を処理容器内から取り出す際、被処理物が処理容器内壁にへばりつくと、取り出し作業は非常に難航します。
本願発明は、このような技術的課題に鑑みて完成されたものであり、本願の出願時以前に、このような技術的課題に着目した発明は存在せず、当然、この技術的課題を解決し得る手段、即ち、「脂肪族炭化水素の割合を37.5±0.5重量%とする」旨の手段に想到した発明も存在しません。
従って、本願発明は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明とは、解決しようとする課題が明らかに異なるものといえます。
又、本願発明によって奏される効果、即ち、粘着性やベトツキが極めて小さくなり、しかも適度な流動性も有しており、処理容器内の壁面や底面に付着することなく、まさにスッポリと処理容器から除去し得るようになる、といった効果は、引用文献1や引用文献2に記載された発明では達成することができない特別顕著な効果といえます。」と主張するので、以下検討する。
本願明細書の第1ページ26行?第2ページ5行には、「そこで、最近では、芳香族炭化水素等の発泡スチロールを溶解可能な溶剤と、脂肪族炭化水素等の発泡スチロールを溶解できない溶剤とを混合した液状媒体を使用し、発泡スチロールを半固形状の膨潤状態、即ち、ゼリー状ないしペースト状の樹脂とすることによって体積を減少する、発泡スチロール処理用溶剤及びこれを用いた発泡スチロールの処理方法の研究・開発が主流となっている(特開平9-40802号公報、特開平9-157435号公報等)。
即ち、このように構成することにより、省エネルギーで短時間に発泡スチロール廃材を処理する事ができる上、処理後のスチロール樹脂の回収、再生が容易となり、又、場所をとらず、しかも比較的廉価な溶剤を用いることができるのである。」と記載されている。
そこで、上記の特開平9-40802号公報(以下、「先行技術文献」という。)をみると、段落【0010】に「従って、本発明の目的は、低価格の有機溶媒を使用し、粘着性の低い中間生成物を短時間で生成でき、しかも中間生成物から高品質のスチロールを再生できる発泡スチロールの処理方法を提供することにある。」と発明が解決しようとする課題が記載され、段落【0011】に「上記従来技術の問題点を解決する本発明の処理方法は、発泡スチロールの廃材をその発生箇所の近傍において液状炭化水素を主体とする石油系の有機溶媒に浸漬し軟化させて餅状の中間生成物を生成し、この餅状の中間生成物を有機溶媒から物理的に分離して再生処理工場に運搬し、この運搬先の再生処理工場において上記中間生成物からこれに含まれるスチロールを再生するように構成されている。好適的には、この液状炭化水素は芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素との混合体を主体とし、芳香族炭化水素の重量比が20%乃至60%の範囲に設定される。」と【課題を解決するための手段】が記載されている。
そして、段落【0012】、【0013】に「発泡スチロールの廃材をその発生箇所の近傍において液状炭化水素を主体とする石油系の有機溶媒に浸漬し軟化させることにより、高密度の餅状の中間生成物を生成する。この石油系の有機溶媒中にスチロールを溶解させる代わりに、餅状の中間生成物を生成することにより、中間生成物を石油系の有機溶媒から物理的に容易に分離できる。・・・石油系の有機溶媒の好ましい一例である芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素との混合物を主体とする液状炭化水素は、リモネンに比べてかなり安価である。また、餅状の中間生成物は粘着性が低く、取扱いが容易である。」と記載されるとともに、段落【0023】に「また、本発明者の予想に反して、餅状の中間生成物の表面は、ほとんど粘着性を示さないことが確認された。このことは、餅状の中間生成物を有機溶媒から機械的に分離するための機構や、有機溶媒から分離した餅状の中間生成物を運搬用のトラックに積み下ろしするための装置や作業者にとって極めて大きな利点となる。何故ならば、もしこの餅状の中間生成物がリモネンを使用した場合のように粘着性を示すとすれば、分離装置や積み下ろし装置に付着した中間生成物をかき取る作業が必要になると共に、この種の装置の劣化を早めるからである。」と記載されることから、先行技術文献には、発泡スチロール廃材を、芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素との混合体である液状炭化水素を主体とする石油系の有機溶媒に浸漬し軟化させることにより、高密度の餅状の中間生成物を生成することが記載され、さらに、予想に反して、餅状の中間生成物の表面は、ほとんど粘着性を示さないことが確認されたことから、分離装置や積み下ろし装置に付着した中間生成物をかき取る必要がなくなることが開示されているといえる。
してみると、請求人が本願補正発明による効果と主張する上記の「粘着性やベトツキが極めて小さくなり、しかも適度な流動性も有しており、処理容器内の壁面や底面に付着することなく、まさにスッポリと処理容器から除去し得るようになる」ことは、請求人も認めるように先行技術で既に開示された周知の事項といえる。
したがって、本願補正発明のポリスチレン樹脂処理用溶剤において、脂肪族炭化水素の割合を37.5±0.5重量%としたことにより奏される効果は、周知技術からみて、予測可能な範囲のことといえるから、上記主張は採用できない。

(7)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年4月20日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成21年1月26日付け手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「ポリスチレン樹脂をゼリー状ないしゲル状にしてその体積を減少させるための液状媒体であって、この液状媒体は炭素数6?18の直鎖或は分枝状の脂肪族炭化水素及び不飽和脂肪族炭化水素から選ばれた少なくとも一種以上の脂肪族炭化水素とポリスチレン樹脂可溶性溶剤とからなり、しかも当該液状媒体における脂肪族炭化水素の配合割合が37.5±2.0重量%であることを特徴とするポリスチレン樹脂処理用溶剤。」

4.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び、その記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。

5.対比・判断
本願発明1は、上記2.(1)で検討した本願補正発明の発明特定事項である「C_(10)パラフィン、C_(11)パラフィン、C_(12)パラフィン、C_(13)パラフィン又はC_(14)パラフィンから選ばれた少なくとも1種以上からなる脂肪族炭化水素」を「炭素数6?18の直鎖或は分枝状の脂肪族炭化水素及び不飽和脂肪族炭化水素から選ばれた少なくとも一種以上の脂肪族炭化水素」に拡張するとともに、「脂肪族炭化水素の配合割合」を「37.5±0.5重量%」から「37.5±2.0重量%」に拡張したものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.(4)(5)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-10 
出願番号 特願2003-549426(P2003-549426)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
P 1 8・ 575- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 慶子
斉藤 信人
発明の名称 ポリスチレン樹脂処理用溶剤及びこれを用いたポリスチレン樹脂の処理方法  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  

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