• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特174条1項  A61J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
審判 全部無効 2項進歩性  A61J
管理番号 1258464
審判番号 無効2011-800105  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-24 
確定日 2012-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4579484号発明「液漏れの改良された医療用ゴム栓」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第4579484号に係る発明についての出願は、平成14年6月24日に出願され、平成22年9月3日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対し、平成23年6月24日に請求人(株式会社大協精工)より無効審判の請求がなされ、平成23年10月24日に被請求人(ニプロ株式会社)より答弁書及び訂正請求書が提出され、平成23年12月16日に請求人より弁駁書が提出され、平成24年2月17日に請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書がそれぞれ提出されたものである。
そして、平成24年3月2日に口頭審理が行われたものである。

2 訂正の可否
(1)訂正の内容
平成23年10月24日に提出した訂正請求書により被請求人が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その内容は次のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)

(ア)特許請求の範囲の請求項1に、
「液漏れの改良された医療用ゴム栓。」とあるのを、
「、針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する液漏れの改良された医療用ゴム栓。」
と訂正する(以下、「訂正事項ア」という。)。

(イ)特許請求の範囲の請求項2及び3を削除する(以下、「訂正事項イ」という。)。

(ウ)明細書の段落【0005】に、
「また、針刺し部分の下面は、ゴム栓をバイアルの口部に打栓したときに、針刺し部分の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされるのが好ましい。」とあるのを、
「また、針刺し部分の下面は、ゴム栓をバイアルの口部に打栓したときに、針刺し部分の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされている。」
と訂正する(以下、「訂正事項ウ」という。)。

(2)訂正の可否に対する判断
これらの訂正事項について検討すると、訂正事項ア、イは、訂正前の請求項1及び2を削除し、訂正前の請求項3をその択一的記載の一方を削除して新たな請求項1とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。
また、訂正事項ウは、訂正事項ア、イに伴い、発明の詳細な説明の記載を、特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、変更するものでもない。

したがって、平成23年10月24日付けの訂正請求に係る訂正は、特許法第134条の2ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 本件特許発明
本件特許請求の範囲は本件訂正によって訂正されたので、その請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、次のとおりのものである(構成要件A?Jに分説して記載する。)。
「A:上面と下面を有する蓋部と該蓋部の下面に設けられた脚部を有してなるゴム栓であって、
B:被打栓物の口部に打栓される前記脚部を環状に形成し、
C:蓋部中央の針刺し部分が、該針刺し部分の上面と下面の間に前記蓋部の下面が位置するように陥没されて、
D:前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、
E:環状の前記脚部と前記針刺し部分とを同心状に設けて、
F:針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした、
G:針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、
H:針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する
I:液漏れの改良された
J:医療用ゴム栓。」

4 請求人の主張
請求人は、本件特許発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下に示す理由により、本件特許は無効とすべきものであると主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第3号証を提出している。

(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである(以下、「無効理由1」という。)。

(2)無効理由2
本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである(以下、「無効理由2」という。)。

(3)無効理由3
本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(以下、「無効理由3」という。)。

[証拠方法]
甲第1号証:実願昭63-73195号(実開平1-176435号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開2002-165861号公報
甲第3号証:実願平10-4271号(実開平10-260号)のCD-ROM

5 被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を以下のとおり主張している。

・本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発
明から容易に発明をすることができたものでないから、本件発明は、特許
第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
・本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている補
正をした出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号
該当せず、無効とすべきものではない。
・本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている
出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当せず
、無効とすべきものではない。

6 甲各号証の記載内容
請求人の提出した甲第1号証?甲第3号証には、それぞれ次の事項が記載されている。

(1)甲第1号証
(1-1)「この考案は、医薬品等のバイアル製剤に使用されるバイアル用栓体、殊に粉末充填製剤に好適なバイアル用栓体に関するものである。」(明細書1頁12?14行)
(1-2)「医薬品たとえば注射用抗生物質のあるものは、医薬品の粉末をバイアルに充填した粉末充填製剤として調整され、供給されている。
この製剤では、充填された医薬品の安定性を長期間保つために、しばしばバイアル内の空気を窒素で置換することが行なわれ、また異物や微生物の混入を防ぐために、気密性を保つのに適したバイアル用栓体が施されている。」(明細書1頁16行?2頁3行)
(1-3)「第1?3図は、この考案のバイアル用栓体(1)の一実施例であり、上部天板部(2)、バイアル内に挿入される中空の胴部(3)およびリング部(4)からなる。
・・・・・・
バイアル用栓体(1)の材質としては、従来からバイアル用栓体に用いられている慣用の弾性体、例えばブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、などが挙げられる。
この考案のバイアル用栓体の使用方法は、従来と同様である。すなわち中の空気を窒素で置換した粉末充填機内で、バイアルに医薬品を充填し、次いでバイアル用栓体を被せ、打栓機で強く押圧し、バイアル口部にバイアル用栓体を嵌合させ施栓する。・・・」(明細書4頁13行?5頁9行)
(1-4)「この考案のバイアル用栓体では、従来の粉末充填製剤のバイアル用栓体と比べて、胴部にバイアル口部の内径よりやや大きい小突起状のリング部が周設されているので、バイアル口部内壁への栓体胴部の嵌合度合が強く、したがって施栓後に栓体が浮き上がることがなく、気密性を保持できる。」(明細書5頁12?18行)

第1?3図の記載から、上部天板部(2)は上面と下面を有し、上部天板部(2)の下面に胴部(3)が設けられ、胴部(3)が環状に形成され、環状の胴部(3)と上部天板部(2)の中央部分(第2図(底面図)にて胴部(3)の内側に位置する範囲)とを同心状に設けたことが窺える。
また、第3図の記載から、上記の上部天板部(2)の中央部分が、該上部天板部(2)の中央部分の上面と下面の間に上部天板部(2)の外縁部分(第2図(底面図)にて胴部(3)の外側に位置する範囲)の下面が位置するように陥没されていることが窺える。

以上から、甲第1号証には次の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。
「上面と下面を有する上部天板部(2)と上部天板部(2)の下面に設けられた胴部(3)を有してなるブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、などの材質からなるバイアル用栓体であって、
医薬品等のバイアル製剤に使用されるバイアルの口部に挿入され施栓される胴部(3)を環状に形成し、
上部天板部(2)の中央部分が、該上部天板部(2)の中央部分の上面と下面の間に上部天板部(2)の外縁部分の下面が位置するように陥没され、
環状の胴部(3)と上部天板部(2)の中央部分とを同心状に設けたブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、などの材質からなるバイアル用栓体。」

(2)甲第2号証
(2-1)「【請求項1】 注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部と医療用容器口上端面に接するフランジ部とを有する天面フランジと、
前記天面フランジの下面に突出して医療用容器口内に嵌入される栓脚と、を備え、
前記天面フランジの直径は10?32mmであり、
前記栓脚は、栓脚内面が平面形状で構成されるとともに栓脚外面が円柱外面形状で構成された断面略半円形状の柱体を二個設けて構成された、
凍結乾燥製剤用の医療用ゴム栓であって、
前記栓脚は、栓脚外面の正面方向から見た場合、前記天面フランジから栓脚先端への方向にかけて、前記栓脚が先細になる第一テーパー部を両端部に有するとともに、
前記栓脚は、栓脚外面の横方向から見た場合、前記天面フランジから栓脚先端への方向にかけて、前記栓脚が先細になる第二テーパー部を有するように、前記平面形状が傾斜している、
医療用ゴム栓。
【請求項2】 ・・・・・・
【請求項3】 前記栓脚は、前記天面フランジの下方に位置する頸部と、前記頸部の下方に設けられた脚部と、から構成され、
前記頸部の高さである頸部高さが2.0?3.0mmであり、
前記脚部の高さである脚部高さが5.0?6.0mmであり、
前記天面フランジの中央下端部から前記頸部下端部までの高さである頸部深さが2.0?3.0mmであり、
前記頸部高さと前記脚部高さとの和が7.0?9.0mmである、
請求項1または2記載の医療用ゴム栓。」(【特許請求の範囲】)
(2-2)「【発明の属する技術分野】本発明は、医療用ゴム栓に関し、詳しくは、凍結乾燥製剤を長期に保存するガラス容器の栓として用いるための凍結乾燥用ゴム栓に関する。」(段落【0001】)
(2-3)「【従来の技術】医薬品用容器の口部に適用する医療用ゴム栓には高度の品質特性および物理的特性が要求される。たとえば、抗生物質などの製剤を保存するバイアルの開口部を密封または止栓する医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第13改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。さらに、バイアルの開口部を密封などする医療用ゴム栓には、耐ガス透過性、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。」(段落【0002】)
(2-4)「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題を解決するものであり、ゴム栓表面に異物が付着したとしても洗浄工程においてその異物を容易に取り除くことができるとともに、たとえ洗浄工程を経た後にゴム栓表面に異物が付着していたとしてもその異物を外観検査にて容易に発見できる医療用ゴム栓を提供することを目的とする。」(段落【0011】)
(2-5)「本発明に係る医療用ゴム栓は、前記第一テーパー部と前記第二テーパー部とを有するから、ゴム栓製造工程の洗浄工程において、通常は水流が届きにくい一対の栓脚間内部まで水流を十分に到達させることができるのである。したがって、たとえ医療用ゴム栓の材質としてブチル系ポリマーを使用し、その結果医療用ゴム栓に異物が付着したとしても、洗浄工程において医療用ゴム栓を十分に洗浄させることができるのである。
・・・・・・
さらに、第二テーパー部は、栓脚外面の横方向から見た場合、前記天面フランジから前記栓脚への方向にかけて、前記栓脚が先細になるように、前記平面形状が傾斜している。従来、栓脚を二個有する二股形状の医療用ゴム栓は、栓脚内面が鉛直方向へ切り立った平面形状を有している。しかしながら本発明に係る医療用ゴム栓では、栓脚内面には第二テーパー部が設けられている。したがって、たとえ異物が一対の栓脚間内部に付着していたとしても、天面フランジから栓脚への方向にかけて設けられた平面形状の傾斜を通して、一対の栓脚間内部に付着した異物を容易に発見することができるのである。」(段落【0018】?【0020】)
(2-6)「【発明の実施の形態】図1は本発明に係る医療用ゴム栓の一具体例の概略図であり、鉛直上方から説明する図である。天面フランジ1の中央部には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aが設けられている。・・・」(段落【0026】)
(2-7)「図2は、図1に係る医療用ゴム栓をA-A´面にて切断した断面であり、本発明に係る医療用ゴム栓を水平横方向から説明する図である。天面フランジ1には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aと医療用容器口上端面に接するフランジ部1bとが設けられている。また、天面フランジ1の下方には、天面フランジ1の下面に突出して医療用容器口内に嵌入される栓脚2が設けられている。栓脚2は、天面フランジ1の下方に位置する頸部3と、頸部3の下方に設けられた脚部4と、から構成されている。また、栓脚2は、栓脚内面2aが平面形状で構成されるとともに、栓脚外面2bが円柱外面形状で構成された断面略半円形状の柱体からなる。
本発明に係る医療用ゴム栓は二股の栓脚2を有するものである。頸部3があるから、栓脚2を医療用容器内部へ嵌入させた場合、頸部3の側端部3aと医療用容器口の内端面部とが接して、医療用ゴム栓の医療用容器口上端面への係止を強固にするとともに、医療用容器内部の密閉性を確実なものとする。栓脚2の内面である栓脚内面2aは平面形状で構成されており、栓脚2の外面である栓脚外面2bは略円柱外面形状で構成されている。脚部4には凸部4cが設けられている。この脚部4に設けられた凸部4cは、医療用ゴム栓を医療用容器内部へ嵌入する際に医療用容器口の内面と摩擦力により引っかかり、そのため嵌入させた医療用ゴム栓を医療用容器口から外れることを防止することができる。」(段落【0027】?【0028】)
(2-8)「図5は本発明に係る医療用ゴム栓の一具体例の概略図であり、鉛直下方から説明する図である。天面フランジ1の中央部には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aの裏面がある。天面フランジ1の周辺端部には医療用容器口上端面に接するフランジ部1bが設けられている。天面フランジ1の下方には、天面フランジ1の下面に突出して医療用容器口内に嵌入される栓脚2が設けられている。・・・」(段落【0034】)
(2-9)「図4は、図1に係る医療用ゴム栓をB-B´面にて切断した断面であり、本発明に係る医療用ゴム栓を水平横方向から説明する図である。頸部3の高さである頸部高さh1は2.7mmである。脚部4の高さである脚部高さh2は5.5mmである。天面フランジ1の中央下端部から頸部下端部までの高さである頸部深さh3は2.0mmである。・・・」(段落【0048】)
(2-10)「【発明の効果】本発明に係る医療用ゴム栓は、・・・(中略)・・・構成された医療用ゴム栓である。したがって、ゴム栓表面に異物が付着したとしても洗浄工程においてその異物を容易に取り除くことができる。また、たとえ洗浄工程を経た後にゴム栓表面に異物が付着していたとしてもその異物を外観検査にて容易に発見できる。また、本発明に係る医療用ゴム栓は栓脚のゴムの容量が比較的小さく抑えられているので、医療用ゴム栓の乾燥速度が従来より速いものとなった。さらに、栓脚のゴムの容量が比較的小さいため、医療用ゴム栓の含有水分量および昇華性物質量を抑制することができ、そのため、医療用容器内の製剤の安定性に優位である。すなわち、栓脚のゴムの容量が比較的小さく抑えられているから、バイアル瓶内部の製剤に対する水分の影響を極めて抑制することができた。本発明に係る医療用ゴム栓を用いて医療用容器を封入した場合にあっては、凍結乾燥用製剤中に異物を混入させることを完全に防止することができ、本発明における利益は計り知れないものである。」(段落【0051】)

上記(2-6)の記載事項「・・・天面フランジ1の中央部には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aが設けられている。・・・」、上記(2-7)の記載事項「・・・頸部3があるから、栓脚2を医療用容器内部へ嵌入させた場合、頸部3の側端部3aと医療用容器口の内端面部とが接して、医療用ゴム栓の医療用容器口上端面への係止を強固にするとともに、医療用容器内部の密閉性を確実なものとする。・・・」、上記(2-8)の記載事項「・・・天面フランジ1の中央部には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aの裏面がある。・・・」、図1及び図3?5の図示内容を併せみれば、頸部3が環状に形成され、環状の頸部3と穿刺部1aとを同心状に設けているといえる。
また、上記(2-8)の記載事項「・・・天面フランジ1の中央部には、注射器の注射針を穿刺可能とする穿刺部1aの裏面がある。・・・」、上記(2-9)の記載事項「・・・頸部3の高さである頸部高さh1は2.7mmである。脚部4の高さである脚部高さh2は5.5mmである。天面フランジ1の中央下端部から頸部下端部までの高さである頸部深さh3は2.0mmである。・・・」、及び図4の図示内容を併せみれば、穿刺部1aの下面が、h1-h3の分、すなわち0.7mm分、天面フランジ1のフランジ部1bの下面より下に位置するといえる。
さらに、第1?4図の記載から、天面フランジ1の中央に設けられた穿刺部1aが、該穿刺部1aの上面と下面の間に天面フランジ1のフランジ部1bの下面が位置するように陥没されていることが窺える。

以上から、甲第2号証には次の発明が記載されている(以下、「甲2発明」という。)。
「上面と下面を有する天面フランジ1と天面フランジ1の下面に設けられた二股の栓脚2を備える医療用ゴム栓であって、
医療用容器口内に嵌入される二股の栓脚2は、天面フランジ1の下方に位置し環状に形成された頸部3と、頸部3の下方に設けられた脚部4とから構成され、
天面フランジ1の中央に設けられた穿刺部1aが、該穿刺部1aの上面と下面の間に天面フランジ1のフランジ部1bの下面が位置するように陥没され、
環状の頸部3と穿刺部1aとを同心状に設け、
穿刺部1aの下面が、0.7mm分、天面フランジ1のフランジ部1bの下面より下に位置する医療用ゴム栓。」

(3)甲第3号証
(3-1)「【請求項1】 フランジを有する上部の天板部と該天板部下面に形成された容器口内に挿入される胴部とからなるゴム栓において、該胴部が該天板部下面直下の外周部に3?7個の環状突起を有してなり、該環状突起は全体で幅2?20mmの帯状の突起部分を形成し、且つ該突起部分の外径が上記容器口内径より4?10%大きいものであることを特徴とする医薬品用ゴム栓。」(【実用新案登録請求の範囲】)
(3-2)「【考案の属する技術分野】
本考案は医薬品用容器、医療用具に使用する医薬品用ゴム栓に関し、本考案のゴム栓は医薬品類を長期間に高品位に保持することのできる容器、医療用具品の一部品として使用できるものである。」(段落【0001】)
(3-3)「【考案が解決しようとする課題】
・・・・・・
本考案は薬の製剤工程での作業性、操作性を改善し、特に凍結乾燥製剤の製造に適し、潤滑油を使用しないで、しかも小なる打栓力で容器口に接着でき、製剤工程で該栓の浮き上がり等の移動の発生しない、容器口に密封性の良い形状のゴム栓を提供することを目的とする。」(段落【0003】)
(3-4)「【考案の実施の形態】
本考案に係る医薬品用ゴム栓の形状を本考案の実施例を示す図1を参照して説明すると、図1の(a),(b)は本考案ゴム栓の具体例の概略断面図であり、ゴム栓3の胴部8において、天板部4のフランジ6の下面7の直下部分の胴部8の外周に複数の突起を有してなる突起部分10が設けられ、該突起部分10は複数の環状突起からなっている。図1の(a)の例は3本の環状突起14,15,16、図1の(b)の例は5本の環状突起17,18,19,20,21を有する。」(段落【0005】)
(3-5)「上記の本考案の胴部外周の突起形状は、フランジ付天板と該天板下面に形成され容器口内に嵌挿される胴部からなるタイプのゴム栓であれば、どのようなゴム栓にも適用でき、胴部に続き脚部を有するゴム栓においても非常に有効である。本考案に係る突起部分の種々のゴム栓への適用を、図1の(a)に示した環状突起を例にして説明すると、図3は本考案の一具体例を示し、薬面12及び天面に樹脂フィルム13を積層し、胴部8の表面はゴム素面として図1の(a)と同様の3本のリング状突起14,15,16を設けてあるため、容器口内壁とのスベリ、嵌合性、密着性が改善されている。」(段落【0008】)
(3-6)「本考案の医薬品用ゴム栓は、図5に示す如く、容器1内に薬2を入れ、本考案のゴム栓3を容器口5に打栓し、その上にアルミキャップ25を巻き締めて製品とする。 容器1内の薬の使用に際しては、ゴム栓3のフランジ6中央の注射針刺し部11から注射針(図示せず)にて注射剤用精製水を注入し、薬2を溶解し、該溶液を注射器などにて人体に投与する。
本考案のゴム栓は該注射針刺し位置に適するような形状を有する。即ち、図1、図3?図5に示すように注射針刺位置11を浅い凹部に形成し、該針刺し位置11の反対面、即ち薬面12に大きな窪26を設けることにより、針刺し部11のゴムの厚さを薄層にして、ゴム破れを防止している。ただし、容器口5の内壁との接触面が広くなるようにゴム栓3には胴部8に続き脚部9を設けて面を広めることもある。」(段落【0010】?【0011】)

上記(3-1)の記載事項「・・・該胴部が該天板部下面直下の外周部に3?7個の環状突起を有してなり・・・」、上記(3-5)の記載事項「・・・図3は本考案の一具体例を示し、・・・」及び「・・・胴部8の表面はゴム素面として図1の(a)と同様の3本のリング状突起14,15,16を設けてあるため、容器口内壁とのスベリ、嵌合性、密着性が改善されている。」、並びに図1及び図3の図示内容を併せみれば、胴部8は環状に形成されているといえる。
また、上記(3-6)の記載事項「・・・ゴム栓3のフランジ6中央の注射針刺し部11・・・」及び「・・・図1、図3?図5に示すように注射針刺位置11を浅い凹部に形成し、該針刺し位置11の反対面、即ち薬面12に大きな窪26を設けることにより、針刺し部11のゴムの厚さを薄層にし・・・」、並びに図1、図3?5の図示内容を併せみれば、天板部4のフランジ6中央の針刺し位置11のゴムの厚み部分が、針刺し位置11と針刺し位置11と反対側の薬面12との間に天板部4のフランジ6の下面7が位置するように陥没され、胴部8と胴部8に続き設けられた脚部9と針刺し位置11のゴムの厚み部分とを同心状に設けているといえる。

以上から、甲第3号証には次の発明が記載されている(以下、「甲3発明」という。)。
「天面と下面を有する天板部4と天板部4下面に形成された胴部8と胴部8に続き設けられた脚部9とからなる医薬品用ゴム栓であって、
容器口内に挿入される胴部を環状に形成し、
天板部4のフランジ6中央の針刺し位置11のゴムの厚み部分が、針刺し位置11と針刺し位置11と反対側の薬面12の間に天板部4のフランジ6の下面7が位置するように陥没され、
胴部8と胴部8に続き設けられた脚部9と針刺し位置11のゴムの厚み部分とを同心状に設けた医薬品用ゴム栓。」

7 当審の判断
A 無効理由1
請求人が、本件特許発明は、甲1発明?甲3発明のいずれに基いても、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているので、甲1発明?甲3発明のそれぞれを主引用例とする場合に分けて検討する。

(1)甲1発明を主引用例とする場合
(i)対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「上部天板部(2)」は前者の「蓋部」に相当し、以下同様に、「胴部(3)」は「脚部」に、「ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、などの材質からなるバイアル用栓体」は「ゴム栓」及び「医療用ゴム栓」に、「医薬品等のバイアル製剤に使用されるバイアル」は「被打栓物」に、「挿入され施栓される」は「打栓される」に、「上部天板部(2)の外縁部分の下面」は「蓋部の下面」に、それぞれ相当する。
また、後者の「上部天板部(2)の中央部分」は前者の「針刺し部分」と「蓋部の中央部分」である点で共通している。
そうすると、本件特許発明と甲1発明とは、本件特許発明の用語を用いて記載すると次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「上面と下面を有する蓋部と蓋部の下面に設けられた脚部を有してなるゴム栓であって、
被打栓物の口部に打栓される脚部を環状に形成し、
蓋部の中央部分が、該蓋部の中央部分の上面と下面の間に蓋部の下面が位置するように陥没され、
環状の脚部と蓋部の中央部分とを同心状に設けた医療用ゴム栓。」
(相違点1)
蓋部の中央部分が、本件特許発明では、針刺し部分であるのに対して、甲1発明では、上部天板部(2)の中央部分ではあるものの、当該部分が注射針等により刺通使用されるものであるのか不明な点。
(相違点2)
本件特許発明では、「D:前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、
F:針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした、
G:針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、
H:針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する
I:液漏れの改良された」との特定があるのに対して、
甲1発明は、そのような特定がない点。

(ii)判断
上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
甲第1号証には、甲1発明の医療用ゴム栓(バイアル用栓体)が、注射針等により刺通使用されることについて特に記載がないものの、「この考案は、医薬品等のバイアル製剤に使用されるバイアル用栓体、殊に粉末充填製剤に好適なバイアル用栓体に関するものである。」(上記6(1-1)の記載事項)と記載されており、また粉末充填製剤が使用時に所定の溶媒をバイアル内に添加して溶液剤を調製する製剤であること、及び一般的に注射針等による刺通はバイアルの口部に打栓されたゴム栓の蓋部の中央部分に対して行われることがいずれも技術常識であることを踏まえると、甲1発明の医療用ゴム栓(バイアル用栓体)の上部天板部(2)の中央部分が針刺し部分とされることは、甲第1号証に記載されているに等しい事項といえる。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
甲第1?3号証には、上記6(1)?(3)に記載したとおりの事項が記載されているにすぎないから、構成要件D、F?Iに相当する構成は記載されているとすることはできず、またこれらの構成要件に至らしめる示唆も同構成要件に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。

この点について、請求人は、甲第1号証の第3図を実測すると、針刺し部分の厚みと蓋の厚みがともに6mmであり、針刺し部分の下面と蓋部の下面との距離が1mmであることから、甲第1号証には、「針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%である」構成、及び「針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する」構成が記載されていると主張している(審判請求書8頁)。
しかしながら、一般に、特許出願や実用新案登録出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許(実用新案登録)を受けようとする発明(考案)に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるのであって、設計図と異なるものであるから、当該図面に表示された寸法や角度、曲率などは、必ずしも正確でなくても足り、もとより、当該部分の寸法や角度、曲率などがこれによって特定されるものではない。
そして、甲第1号証は、公開実用新案公報の全文明細書及び図面であるところ、全文明細書の記載を仔細に検討しても、第1?3図に甲1発明の医療用ゴム栓(バイアル用栓体)の各部分の寸法が正確に記載されていると認めるに足る根拠は見いだせない。
したがって、第1?3図の図示内容の参酌によっても、甲第1号証に、構成要件G及びHが記載されているとはいえない。

また、請求人は、構成要件G及びHについて、
a)液漏れ、コアリング、刺通抵抗が「ゴム栓の基本的な要求特性」であ
ることは周知の事実となっている
b)ゴム栓を設計するに際して、材質はもとより、形状・構造においても、
液漏れ、コアリング、刺通抵抗の充足が必須であることは、当業者の常
識である
c)針刺し部が薄ければ刺通抵抗が小さくなり、バイアル口部に接触する
部分の肉厚が大きければ口部への係止性が高くなることは、一般的な常
識事項とも言える
d)上記「ゴム栓の基本的要求特性」を充足するために、「針刺し部の厚
みを蓋部の厚み(100%)以下とすること」も当業者の常識的事項で
あることは明白な事実である
e)バイアル口部側壁との係止性を確保するには、脚部が当該側壁に強固
に係止することが必須であり、脚部の当該部分の肉厚を大きくすれば係
止性が向上することは、一般的な常識事項であり、この常識事項を踏ま
えたゴム栓の構成、すなわち蓋部中央に設ける針刺し部の下端を蓋部下
端より下方に位置させて該部(バイアル口部側壁に接触する部分)の肉
厚を大きくしたものが、甲1?3号証に開示されている
f)相反する基本的な要求特性の双方を充足するために、甲1号証に開示
のゴム栓においても、具体的な設計に際し、針刺し部の蓋部下端より下
方の寸法が決められることも明白な事実である
g)上記a)?f)の常識的事項や明白な事実を踏まえて、甲1号証の図
面を見れば、同図には実質的にG,Hの構成が記載されているか、当業
者なら甲1号証の記載から容易に想到し得る事項と言うべきである
と主張している(弁駁書6?8及び10頁、口頭審理陳述要領書6頁)。

しかしながら、上記a)?c)の事項が周知の事実や常識事項であったとしても、上記d)の事項までもが「当業者の常識的事項」とはいえない。
また、上記e)の事項について、甲第1?3号証に、蓋部中央に設ける針刺し部の下端を蓋部下端より下方に位置させて該部の肉厚を大きくしたものが開示されていたとしても、穿刺針刺通部付近からの液漏れを防止するという技術課題を解決するために、針刺し部の下端を蓋部下端より下方に位置させたことは記載されておらず、そのようなことが技術常識であったともいえない。
よって、上記e)の事項を踏まえた主張である、上記f)の事項も「明白な事実である」とはいえない。

本件特許発明は、液漏れ防止の観点から針刺し部の下端を蓋部下端より下方に位置させた上で、さらに「液漏れが生じがたく、コアリングが少なく、刺通抵抗の小さなバイアル用ゴム栓を提供する」という技術課題を解決するために、構成要件G及びHのように針刺し部分に係る各パラメータの数値範囲を最適化したものであって、仮にa)?c)の事項が周知の事実や常識事項であったとしても、液漏れが生じがたく、コアリングが少なく、刺通抵抗の小さなバイアル用ゴム栓を提供する」という技術課題及び解決手段について記載も示唆もない甲第1?3号証に基いて、成要件G及びHの構成が、甲第1号証の図面に、実質的に記載されているか、当業者なら甲第1号証の記載から容易に想到し得る事項(上記g)の事項)であるとはいえない。

したがって、本件特許発明は、甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、また、本件特許発明は、甲1発明に甲2発明ないし甲3発明を適用し、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(2)甲2発明を主引用例とする場合
(i)対比
本件特許発明と甲2発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「天面フランジ1」は前者の「蓋部」に相当し、以下同様に、「二股の栓脚2」は「脚部」に、「備える」は「有してなる」に、「医療用ゴム栓」は「ゴム栓」及び「医療用ゴム栓」に、「医療用容器口内に嵌入される」は「被打栓物の口部に打栓される」に、「天面フランジ1の中央に設けられた」は「蓋部中央の」に、「穿刺部1a」は「針刺し部分」に、「天面フランジ1のフランジ部1bの下面」は「蓋部の下面」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件特許発明と甲2発明とは、本件特許発明の用語を用いて記載すると次の一致点及び相違点を有する(対応する甲2発明の用語を()内に記載する。)。
(一致点)
「上面と下面を有する蓋部と蓋部の下面に設けられた、被打栓物の口部に打栓される脚部を有してなるゴム栓であって、
蓋部中央の針刺し部分が、該針刺し部分の上面と下面の間に蓋部の下面が位置するように陥没され、
環状に形成された脚部の一部と針刺し部分とを同心状に設け、
針刺し部分の下面が、0.7mm分、蓋部の下面より下に位置する医療用ゴム栓。」
(相違点1)
本件特許発明では、脚部を環状に形成しているのに対して、甲2発明では、脚部(二股の栓脚2)が環状に形成された頸部3と、頸部3の下方に設けられた脚部4とから構成されている点。
(相違点2)
本件特許発明では、「D:前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、
F:針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした、
G:針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、
H:針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する
I:液漏れの改良された」との特定があるのに対して、
甲2発明では、「針刺し部分(穿刺部1a)の下面が、0.7mm分、蓋部の下面(天面フランジ1のフランジ部1bの下面)より下に位置する」ことのみが特定され、その余の構成については特定がない点。

(ii)判断
最初に、上記相違点2について検討する。

上記(1)(ii)に記載したとおり、甲第1?3号証には、構成要件D、F?Iに相当する構成は記載されているとすることはできず、またこれらの構成要件に至らしめる示唆も同構成要件に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。
また、構成要件G及びHに関して、請求人は、甲第2号証の図面の実測に基づき甲第2号証に記載されていると主張し(審判請求書11?12頁)、常識的事項や明白な事実を踏まえて、甲第2号証の図面を見れば、実質的に記載されているか、当業者なら甲第2号証の記載から容易に想到し得る事項である旨主張している(弁駁書8?10頁)が、これらの主張は、上記(1)(ii)に記載した理由と同様の理由により、採用できない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲2発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、また、甲2発明に甲1発明ないし甲3発明を適用し、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(3)甲3発明を主引用例とする場合
(i)対比
本件特許発明と甲2発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、後者の「天面」は前者の「上面」に相当し、以下同様に、「天板部4」は「蓋部」に、「天板部4下面」は「蓋部の下面」に、「形成された」は「設けられた」に、「とからなる」は「を有してなる」に、「医薬品用ゴム栓」は「ゴム栓」及び「医療用ゴム栓」に、「容器口内に挿入される」は「被打栓物の口部に打栓される」に、「天板部4のフランジ6中央」は「蓋部中央」に、「針刺し位置11のゴムの厚み部分」は「針刺し部分」に、「針刺し位置11」は「針刺し部分の上面」に、「針刺し位置11と反対側の薬面12」は「針刺し部分の下面」に、「天板部4のフランジ6の下面7」は「蓋部の下面」に、それぞれ相当する。
また、後者の「胴部8と胴部8に続き設けられた脚部9」は前者の「脚部」と、「打栓部分」である点で共通している。
そうすると、本件特許発明と甲3発明とは、本件特許発明の用語を用いて記載すると次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「上面と下面を有する蓋部と蓋部の下面に設けられた、被打栓物の口部に打栓される打栓部分を有してなるゴム栓であって、
蓋部中央の針刺し部分が、針刺し部分の上面と下面の間に蓋部の下面が位置するように陥没され、
打栓部分と針刺し部分とを同心状に設けた医療用ゴム栓。」
(相違点1)
打栓部分が、本件特許発明では、環状に形成された脚部であるのに対して、甲3発明では、環状に形成された胴部8と、胴部8に続き設けられた脚部9である点。
(相違点2)
本件特許発明では、「D:前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、
F:針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした、
G:針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、
H:針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する
I:液漏れの改良された」との特定があるのに対し、
甲3発明では、そのような特定がない点。

(ii)判断
最初に、上記相違点2について検討する。

上記(1)(ii)に記載したとおり、甲第1?3号証には、構成要件D、F?Iに相当する構成は記載されているとすることはできず、またこれらの構成要件に至らしめる示唆も同構成要件に至る動機付けとなるに足る技術的課題も何ら見いだすことはできない。
また、構成要件G及びHに関して、請求人は、甲第3号証の図面の実測に基づき甲第3号証に記載されていると主張し(審判請求書14頁)、常識的事項や明白な事実を踏まえて、甲第3号証の図面を見れば、実質的に記載されているか、当業者なら甲第3号証の記載から容易に想到し得る事項である旨主張している(弁駁書8?10頁)が、これらの主張は、上記(1)(ii)に記載した理由と同様の理由により、採用できない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲3発明に基いて容易に発明をすることができたものではなく、また、甲3発明に甲1発明ないし甲2発明を適用し、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであるとする請求人の主張は採用することができない。

B 無効理由2
(1)請求人の主張
請求人は、概ね以下の主張をしている。

(i)補正1に係る主張
(ア)平成20年1月24日付けの手続補正に係る補正のうち、請求項1に「前記脚部を環状に形成し」及び「環状の前記脚部」を追加する補正(以下、「補正1」という。)について、「出願当初の明細書における発明の詳細な説明の段落0006、0007の記載と図1に示されたゴム栓図」はいずれも補正1の根拠とはなり得ないものであり、補正1は、「新たな技術的事項を導入するものであるので、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正に該当」しない。(審判請求書21?22頁)

(イ)「脚部」が「環状」について、「”特許を受けようとする発明(・・・)を当業者に理解させるための説明図にとどまる図面”と、当初明細書〔0007〕の「外径」(・・・)のみからは、当業者であっても導き得るものではない。」「二股栓脚(・・・)のゴム栓であっても、上記製図法で描いた図面において本件当初図面と略同一に表現される断面箇所があることは技術常識であり、断面箇所を特定していない故に『環状』であるとする理論は強引である。」(弁駁書2?3頁)

(ii)補正2に係る主張
(ウ)平成20年9月5日付けの手続補正に係る補正のうち、請求項1に「、前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、」を追加する補正(以下、「補正2」という。)について、「本件特許の出願当初明細書の段落0006」の記載から「『針刺し部分3の応力が適当な範囲に収まる』こと(目的)と、『針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する』こと(手段)とは少なくとも一対一の関係にたつものといえ」、「本件当初明細書等に記載された事項の範囲内においては、上記具体的手段の範囲を超えて、上記目的のみを当該手段と切り離して観念することはできない」から、補正2は、「新たな技術的事項を導入するものであるので、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正に該当」しない。(審判請求書22?23頁)

(エ)「当初明細書[0005]には、『針刺し部分の下面は、ゴム栓をバイアルの口部に打栓したときに、針刺し部分の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされるのが好ましい』との記載があるが、この『応力』なるもの、及び『適当な範囲』がどの程度の範囲なのか、当初明細書には一切記載されていない」から、「構成Dを追加する補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内とは言えない。」(口頭審理陳述要領書4頁)

(2)当審の判断
(i)補正1について
脚部を環状に形成することについて、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、それぞれ「当初明細書」、「当初図面」という。)に直接的な記載はない。
しかしながら、本件特許の当初図面の図1に描かれた脚部2の下端の水平線の存在から、脚部2の切断部から紙面垂直奥方向に向かう部位が連続した中実部分となっていることが窺え、また環状に形成された脚部を有する医療用ゴム栓は周知(例えば、請求人により提出された甲第1号証、参考資料5を参照)であることから、当該図面に図示された医療用ゴム栓の脚部の全体形状が必ずしも明確でないものの、当該図面には周知の環状に形成された脚部を有する医療用ゴム栓が記載されていると認識することができたといえる。
これに対して、請求人は、二股栓脚のゴム栓でも断面箇所によっては、本件特許の当初図面と略同一に表現されることがあり、断面箇所の特定がないことをもって環状ということはできない旨主張している(上記主張(イ))が、ゴム栓のような円柱物の断面図については、中央断面図を描くのが通常である(例えば、甲第1号証の第3図を参照)ところ、当初明細書の記載を検討しても、図面に中央断面図ではない断面図を描くべき特段の事情もないことから、当初図面の図1及び図2には、ゴム栓の中央断面図が示されているものと解するのが相当であり、上記請求人の主張は採用できない。
したがって、補正1は、当初明細書又は当初図面に記載された事項の範囲内で補正するものであり、新規事項の追加に該当しない。

(ii)補正2について
補正2により追加された事項「、前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、」は、”針刺し部分の応力を適当な範囲とする”という目的”を達成するために種々の手段が想定されるところ、「針刺し部分の上面と下面」を適宜の「位置」である「針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置」とすることにより当該目的を達成することを規定するものである。
そして、本件特許の当初明細書の段落【0005】には、「ここで、針刺し部分の厚みは、通常、蓋部の厚みの80?100%である。また、針刺し部分の下面は、ゴム栓をバイアルの口部に打栓したときに、針刺し部分の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされるのが好ましい。」と記載されており、「適当な範囲に収まるように・・・下に位置するようにされる」は、「適当な範囲とするのに適した位置とされる」といえるから、「、前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、」を追加する補正は、当初明細書及び当初図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、補正2は、当初明細書又は当初図面に記載された事項の範囲内の補正でするものであり、新規事項の追加に該当しない。

なお、請求人は、針刺し部分の「応力」が何を指し、その「適当な範囲」がどの程度の範囲なのかが、当初明細書に一切記載されていないと主張している(上記主張(エ))が、本件特許の当初明細書全体の記載を参酌すると、当業者であれば、「応力」とは、”バイアルの口部によって圧迫されるゴム栓の針刺し部分の圧縮応力”であり、その「適当な範囲」とは、”針刺し部分の厚みを蓋部の厚みの80?100%とし、針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する”場合の”バイアルの口部によって圧迫されるゴム栓の針刺し部分の圧縮応力”と理解することができるものである。
そして補正2が、当初明細書又は当初図面に記載された事項の範囲内の補正でするものであることは、上記の検討のとおりであるから、請求人の当該主張は採用できない。

(3)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものであるとする請求人の主張は採用することができない。

C 無効理由3
(1)請求人の主張
請求人は、概ね以下の主張をしている。

(i)ゴム栓の形性材料に係る主張
本件特許発明は、「”所定の形状”を有する医療用ゴム栓であるところ、当該ゴム栓の形性材料については何らの限定も付されていない。」「本件明細書の段落0002?0004には」、「”ブチルゴムからなるゴム栓”」における「液漏れという問題」が記載され、「本件明細書のその余の記載を検討しても、段落0006に『ゴム栓の形成材料』として用いることができるゴム種が幾つか形式的に例示されてはいるものの」、「本件請求項1に記載された特定の形状との関係で液漏れ解消の効果が具体的に立証されていると認められるゴム種は唯一『ブチルゴム』だけであ」り、「本件請求項1に係る特許発明は、液漏れ解消という発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断されるべきものであり、発明の詳細な説明に記載したものと実質的に対応しているとは到底いえず、また、本件請求項1に係る特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるその他の根拠も何ら存在していない」から、「本件請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではな」い。(審判請求書23?24頁)

(ii)構成要件Dに係る主張
本件特許発明が有する構成要件Dは、「針刺し部分の上面と下面の位置が何ら具体的に記載されておらず、当該位置を『針刺し部分の応力を適当な範囲とする』という目的的あるいは期待的な字句をもって表現しようとするものである」。「本件明細書又は図面において、上記構成Dについて説明されている箇所は段落0005、同0006のみであり」、「本件明細書に接した当業者であれば、構成D中の『針刺し部分の応力を適当な範囲とする』という目的または機能が、『針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされる』という構成によってのみ実現されるものであると解するのが相当である」から、「本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものと実質的に対応しているとは到底いえず、また、本件請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるその他の根拠も何ら存在していない」から、「本件請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではな」い。(審判請求書24頁、弁駁書3?4頁、口頭審理陳述要領書5頁)

(iii)構成要件Fに係る主張
本件特許発明が有する構成要件Fは、「針刺し部分の厚みについては何ら具体的に記載されておらず、当該厚みを『針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度』という目的的あるいは期待的な字句をもって表現しようとするものである」。「本件明細書又は図面において、針刺し部分の厚みについて説明されている箇所は段落0005のみであり」、「本件明細書に接した当業者であれば、構成F中の『針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度』という目的または機能が、『針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%である』という構成によってのみ実現されるものであると解するのが相当である」から、「本件請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものと実質的に対応しているとは到底いえず、また、本件請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるその他の根拠も何ら存在していない」から、「本件請求項1に係る特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではな」い。(審判請求書24?25頁、弁駁書3?5頁、口頭審理陳述要領書5?6頁)

(2)当審の判断
(i)ゴム栓の形性材料について
本件特許の訂正特許明細書には、従来技術における問題点として「バイアル用ゴム栓の形成材料として、従来、ガス非透過性の優れたブチルゴムが多用されているが、ブチルゴムはゴム弾性が乏しいため、バイアル内の内容液を採取する際に、穿刺針刺通部付近から液が漏れたり、或いは穿刺針をゴム栓から抜いたときに液が漏れて落下するなどの液漏れ問題が生じていた」(段落【0002】)ことが挙げられているものの、発明の実施の形態において「ゴム栓の形成材料としては、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムが好適であるが、他にブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム等も採用可能である。」(段落【0006】)と、ブチルゴム以外のゴム種にも適用可能であることが記載されている。
そうすると、訂正特許明細書に接した当業者は、ブチルゴム以外のゴム種を採用した場合においても、発明の詳細な説明に記載された効果を発揮する医療用ゴム栓が得られることを理解することができるといえるから、ゴム栓の形成材料をブチルゴムと限定しない本件特許発明の「医療用ゴム栓」は、発明の詳細な説明に記載した発明である。

(ii)構成要件D、F?Hについて
構成要件Fは、針刺し部分の厚みについて作用面から規定するものであり、構成要件Gは、針刺し部分の厚みについて数値的に規定するものである。
また、構成要件Dは、針刺し部分の上面と下面の位置について作用面から規定するものであり、構成要件Hは、針刺し部分の厚みとの関係において、針刺し部分の下面の位置について数値的に規定するものである。
このように、構成要件D、F、G及びHは一体として「針刺し部分」を規定するものであるから、以下、構成要件D、F?Hが、訂正特許明細書の発明の詳細な説明に記載した事項であるか否か検討する。

本件特許発明の課題は、訂正特許明細書の段落【0002】?【0004】の記載から、”液漏れが生じ難く、コアリングが少なく刺通抵抗の小さな、全体的に見てバランスのとれたバイアル用ゴム栓を提供すること”(以下、「本件課題」という。)であるといえ、本件課題からみて、構成要件Dにおける「適当な範囲」とは、針刺し部分を接液側方向に下げてゴム栓の針刺し部分の一部がバイアルの口部によって圧迫されるようにしつつも、圧迫され過ぎない、即ち応力を小さくする所定の範囲といえる。
また、本件課題に照らせば、構成要件Fにおける「針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する」とは、(従来のゴム栓と比較して)針刺し時の刺通抵抗が増加しないとか、液漏れが全く生じないといったことではなく、”針刺し時の刺通抵抗が小さく液漏れが生じ難くする”の意であることは明らかであるから、構成要件Fにおける「針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚み」とは、針刺し時の刺通抵抗が小さく液漏れが生じ難くする所定の範囲の厚みといえる。
一方、訂正特許明細書には、針刺し部分の厚みを蓋部の厚みの約83%とし、針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20%、40%、80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する3種類のゴム栓(実施例1?3)を作製し、液漏れ量、コアリング、刺通抵抗の測定結果(表2)から、「本発明のゴム栓は、コアリングが若干発生しやすくなり、刺通抵抗が若干大きくなるという傾向が見られるものの、液漏れの問題が大幅に改善されており、全体としてバランスの良い栓体といえる」(訂正特許明細書の段落【0007】)ことが記載されている。
そして、表2の液漏れ量、コアリング、刺通抵抗の測定結果から、当業者であれば、針刺し部分の下面の下降割合が20?80%の全範囲において、本件課題に挙げられた”液漏れが生じ難く、コアリングが少なく刺通抵抗の小さな、全体的に見てバランスのとれたバイアル用ゴム栓”が得られるものと認識できるものである。
また、針刺し部分の厚みについても、当業者であれば、厚みを厚くすると穿刺針刺通部付近からの液漏れが減少し、厚みを薄くすると針刺し時の刺通抵抗が小さくなるという技術常識(訂正特許明細書の段落【0003】を参照)からみて、実施例1?3で選択された約83%の近傍にある80?100%の全範囲において、本件課題に挙げられた”液漏れが生じ難く、コアリングが少なく刺通抵抗の小さな、全体的に見てバランスのとれたバイアル用ゴム栓”が得られるものと認識できるものである。
よって、訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「針刺し部分の厚みを、蓋部の厚みの80?100%」として、「針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚み」とし、「針刺し部分の下面を、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置」させて、「前記針刺し部分の上面と下面とを、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置」とすることによって、本件課題を解決する医療用ゴム栓が得られることを理解することができるといえることから、請求項に係るD、F?Hの事項は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
したがって、構成要件D、F?Hを発明特定事項として含む本件特許発明の「医療用ゴム栓」は、発明の詳細な説明に記載した発明である。

(3)まとめ
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであるとする請求人の主張は採用することができない。

8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法に
よっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液漏れの改良された医療用ゴム栓
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と下面を有する蓋部と該蓋部の下面に設けられた脚部を有してなるゴム栓であって、被打栓物の口部に打栓される前記脚部を環状に形成し、蓋部中央の針刺し部分が、該針刺し部分の上面と下面の間に前記蓋部の下面が位置するように陥没されて、前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、環状の前記脚部と前記針刺し部分とを同心状に設けて、針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした、針刺し部分の厚みが、蓋部の厚みの80?100%であり、針刺し部分の下面が、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置する液漏れの改良された医療用ゴム栓。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液漏れの改良されたバイアル用ゴム栓に関する。本発明のゴム栓は、液漏れが少ないだけでなく、コアリングや刺通抵抗もよく、凍結乾燥用、ワクチン用、輸液用バイアルのゴム栓に好適である。
【0002】
【従来の技術】
バイアル用ゴム栓の形成材料として、従来、ガス非透過性の優れたブチルゴムが多用されているが、ブチルゴムはゴム弾性が乏しいため、バイアル内の内容液を採取する際に、穿刺針刺通部付近から液が漏れたり、或いは穿刺針をゴム栓から抜いたときに液が漏れて落下するなどの液漏れ問題が生じていた。
【0003】
そこで、このような液漏れという不都合を解消するために、従来、(1)ゴム栓の加硫度を高くする、(2)自己密閉性のよいゴム材料を使用する、(3)ゴム栓の針を刺通する部分の厚みを大きくする、(4)ゴム栓の脚部外径を大きくする、等の対策が講じられている。
しかしながら、上記のような方法では、例えば、上記(1)、(3)では、コアリングが生じやすくなる、刺通抵抗が大きくなるという問題が、上記(2)ではガス非透過性が悪くなるという問題が、上記(4)では、コアリングが生じやすくなる、ゴム栓の打栓性が悪くなる等の問題が発生するため、バランスの取れた改善策とは言えない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、如上の事情に鑑みてなされたもので、液漏れが生じがたく、コアリングが少なく、刺通抵抗の小さなバイアル用ゴム栓を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記課題を解決するために、鋭意検討の結果、図2に示すような従来のゴム栓(蓋部51と脚部52を有してなり、針刺し部分53の下面532の位置が蓋部51の下面512の位置より上にある)において、針刺し部分53を接液側方向に下げて、バイアルの口部によって圧迫されるゴム栓の針刺し部分53の応力を小さくすれば良いことを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、上面と下面を有する蓋部とこの蓋部の下面に設けられた脚部を有してなるゴム栓であって、被打栓物の口部に打栓される前記脚部を環状に形成し、蓋部中央の針刺し部分が、該針刺し部分の上面と下面の間に前記蓋部の下面が位置するように陥没されて、前記針刺し部分の上面と下面とが、針刺し部分の応力を適当な範囲とするのに適した位置とされると共に、環状の前記脚部と前記針刺し部分とを同心状に設けて、針刺し時の刺通抵抗を増加せず液漏れを防止する程度の針刺し部分の厚みとした液漏れの改良された医療用ゴム栓に関する。
ここで、針刺し部分の厚みは、通常、蓋部の厚みの80?100%である。また、針刺し部分の下面は、ゴム栓をバイアルの口部に打栓したときに、針刺し部分の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされている。
【0006】
【発明の実施の形態】
次に、本発明のゴム栓について図面を用いて説明する。
図1は本発明のゴム栓を示す説明図である。
図1に示すように、本発明のゴム栓は、上面11と下面12を有する蓋部1とこの蓋部1の下面12に設けられた脚部2を有してなるゴム栓であって、蓋部1中央の針刺し部分3が、この針刺し部分3の上面31と下面32の間に蓋部1の下面12が位置するように陥没されてなる。
ここで、針刺し部分3の厚みは、通常、蓋部1の厚みの80?100%である。また、針刺し部分3の下面32は、ゴム栓をバイアル(図示していない)の口部に打栓したときに、針刺し部分3の応力が適当な範囲に収まるように、針刺し部分の厚みの20?80%に相当する厚み分、蓋部の下面より下に位置するようにされるのが好ましい。
ゴム栓の形成材料としては、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムが好適であるが、他にブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム等も採用可能である。本発明は、例えばブチルゴム製ゴム栓にポリテトラフルオロエチレンをラミネートした、所謂ラミネートゴム栓にも適用可能である。
【0007】
〔試験例〕直径19.0mm、肉厚3.0mmの蓋部と、直径5.0mm、肉厚2.5mmの針刺し部分からなる、脚の外径13.1mmの表1に示すようなブチルゴム製のゴム栓を、内部に6mLの水を収容した口内径12.4mm、内容量35mLのバイアルに打栓して、アルミキャップで巻き締めしたものを、それぞれ10個用意した。次に、18ゲージの金属針付きの20mLシリンジを用意し、その金属針をゴム栓の針刺し部から刺入してバイアル内にエアーを12mL入れ、次いで金属針を刺したままの状態でシリンジを倒立状態に保ち、バイアル内から水を5mL抜き、更にバイアル内の空気層から空気を6mL抜いて、その時に生じた液漏れ量を測定したところ表2のような結果が得られた。
また、18ゲージの金属針を刺通速度200mm/min.で刺通するときの抵抗値および、18ゲージの金属針を刺通速度6,000mm/min.で各10回刺通した時に生じたコアの数を表2に示す。但し、金属針は2回刺通毎に交換している。
ブチルゴムとしては、日本ブチル(株)製、HT1066を使用した。
表2から本発明のゴム栓は、コアリングが若干発生しやすくなり、刺通抵抗が若干大きくなるという傾向が見られるものの、液漏れの問題が大幅に改善されており、全体としてバランスの良い栓体といえる。
【0008】
【表1】

(注)各ゴム栓には補強剤としてタルク40phrが添加されている。
*1:ウオ-レス硬さ計で測定。
*2:エチレンテトラフルオロエチレン(商品名:テフゼル、デュポン社製)
*3:dは図1の針刺し部の上面と蓋部の下面の距離を示す。
【0009】
【表2】

*1:発生したコアの数/刺通回数を示す。
【0010】
【発明の効果】
以上述べたことから明らかなように、本発明を採用することにより、液漏れが生じ難く、コアリングが少なく刺通抵抗の小さな、全体的に見てバランスのとれたバイアル用ゴム栓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のゴム栓を示す説明図である。
【図2】従来のゴム栓を示す説明図である。
【符号の説明】
1 蓋部
11 上面
12 下面
2 脚部
3 針刺し部分
31 上面
32 下面
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-03-29 
出願番号 特願2002-182589(P2002-182589)
審決分類 P 1 113・ 55- YA (A61J)
P 1 113・ 537- YA (A61J)
P 1 113・ 121- YA (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 敏長  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 関谷 一夫
田合 弘幸
登録日 2010-09-03 
登録番号 特許第4579484号(P4579484)
発明の名称 液漏れの改良された医療用ゴム栓  
代理人 須原 誠  
代理人 梶 良之  
代理人 梶 良之  
代理人 荒木 雅也  
代理人 須原 誠  
代理人 平石 利子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ