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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B65D
審判 全部無効 特126 条1 項  B65D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65D
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  B65D
管理番号 1258465
審判番号 無効2011-800139  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-08-05 
確定日 2012-05-07 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3951660号発明「ブロー成形容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3951660号は、平成13年10月11日に出願され、平成19年5月11日に設定登録がなされたものである。
また、本件無効審判請求後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成23年 8月 5日 無効審判請求
平成23年10月25日 答弁書提出
平成23年10月25日 訂正請求
平成23年12月 5日 弁駁書提出
平成24年 2月20日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 2月28日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 3月13日 口頭審理

2.訂正請求
2-1.訂正の内容
平成23年10月25日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許第3951660号に係る願書に添付した明細書を、以下の(A)?(N)のとおりに訂正するものである。
(A)特許請求の範囲の請求項1における「ノルボルネン系重合体水素化物」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する。
(B)特許請求の範囲の請求項2における「ノルボルネン系重合体水素化物」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する。
(C)段落【0006】における「脂環式構造含有重合体樹脂」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する。
(D)段落【0007】における「脂環式構造含有重合体樹脂」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する。
(E)段落【0008】?【0010】を削除する。
(F)段落【0012】(訂正後【0009】)において、「ノルボルネン系モノマーの開環重合体、またはノルボルネン系モノマーとこれと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体は、」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体は、」と訂正する。
(G)段落【0012】(訂正後【0009】)において、「ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとしては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体などを挙げることができる。」とあるのを削除する。
(H)段落【0014】?【0018】を削除する。
(I)段落【0019】(訂正後【0011】)において、「本発明で使用されるノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体又は環状共役ジエン系重合体の分子量は、」を「本発明で使用されるノルボルネン系重合体の分子量は、」と訂正する。
(J)段落【0020】及び【0021】を削除する。
(K)段落【0022】(訂正後【0012】)において、「脂環式構造含有重合体樹脂」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する。
(L)段落【0023】(訂正後【0013】)において、「脂環式構造含有重合体樹脂」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する(2か所)。
(M)段落【0023】(訂正後【0013】)において、「本発明に使用するの脂環式構造含有重合体樹脂には」を「本発明に使用するノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物には」と訂正する。
(N)段落【0025】(訂正後【0015】)において、「脂環式構造含有重合体樹脂」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と訂正する(2か所)。

2-2.訂正の適否
(1)訂正事項(A)及び(B)について
訂正事項(A)及び(B)による訂正は、「ノルボルネン系重合体水素化物」の重合が「モノマーの開環重合」であることを限定するものあり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項(A)及び(B)による訂正は、本件特許公報の段落【0010】における「これらの中でも、耐熱性、機械的強度等の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が最も好ましい」との記載を根拠とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。
さらに、訂正事項(A)及び(B)による訂正は、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、請求人は、弁駁書の「(2)訂正について」の「(あ)訂正事項(A)について」及び「(い)訂正事項(B)について」において、「ノルボルネン系重合体水素化物」を「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」とする訂正は、少なくとも後者に含まれる「重合体」という用語の意義を「単独重合体および共重合体を包含する概念であり、共重合体のみに限定するものではない」と解釈するものである点で、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、さらに実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであって、特許法134条の2第1項ただし書1号、並びに同条5項において準用する同法126条3項及び4項に規定する要件を満たしていない不適法なものである旨の主張をしているが、上記訂正は、上記したように願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、下記の「7-1.無効理由(2)について」及び「7-2.無効理由(3)について」において後述するように、本件特許に係る発明の「重合体」を請求人の主張するように「共重合体」に限定して解釈しなければならない理由はないので、上記請求人の主張は採用できない。

(2)訂正事項(C)?(L)及び(N)について
訂正事項(C)?(L)及び(N)による訂正は、上記訂正事項(A)及び(B)に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項(C)?(L)及び(N)は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、請求人は、弁駁書の「(2)訂正について」の「(え)訂正事項(E)について」及び口頭審理陳述要領書の「(4)段落0010を削除する訂正が認められない法的根拠」において、段落【0010】を削除する訂正は、本件特許発明が本来的に有する効果の一部(「耐熱性、機械的強度」)を初めからなかったものとみなし、本件特許発明の効果を大きく変更させることに等しいことより、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当し、特許法134条の2第5項において準用する同法126条4項に規定する要件を満たしていない不適法なものである旨の主張をしているが、「耐熱性、機械的強度」は、単に「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」が有する樹脂特性を記載したものにすぎず、それが削除されたからといって、本件特許に係る発明の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」についての解釈を何ら変更するものではなく、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえないことより、上記請求人の主張は採用できない。

(3)訂正事項(M)について
訂正事項(M)による訂正は、上記訂正事項(A)及び(B)に整合するものであり、また、「本発明に使用するの」は「本発明に使用する」の誤記であると認められることより、訂正事項(M)による訂正は、明りょうでない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項(M)は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正であり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第134条の2第5項の規定において準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであることより、本件訂正を認める。

3.本件特許発明
本件特許第3951660号の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明6」という。)は、訂正された特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物をブロー成形して得られる、縦方向の延伸倍率yが0.9以上1.4未満、横方向の該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であるブロー成形容器。
【請求項2】
前記ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物のガラス転移温度をTgとした場合に、ブロー成形時におけるブロー金型温度が、(Tg-55°C)?(Tg-10°C)である請求項1記載のブロー成形容器。
【請求項3】
胴体部及び首部を有する請求項1または2記載のブロー成形容器。
【請求項4】
首部に螺子溝を有する請求項3記載のブロー成形容器。
【請求項5】
医薬品容器又は食品容器である請求項1乃至4のいずれかに記載のブロー成形容器。
【請求項6】
哺乳瓶である請求項1乃至4のいずれかに記載のブロー成形容器。」

4.請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第3951660号発明の特許請求の範囲の請求項第1項乃至第6項に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、無効理由の概要は以下の(1)?(3)であると主張している。

(1) 本件の請求項1ないし請求項6に係る各特許発明は,甲第1号証ないし甲第9号証に記載された発明に基づいて,本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とされるべきである。
(2) 本件の請求項1ないし請求項6に係る各特許発明は,発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められないから,本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とされるべきである。
(3) 本件の請求項1ないし請求項6に係る各特許発明は,明確であるとは認められないから,本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とされるべきである。

また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第10号証を提出している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平07-080919号公報
甲第2号証:特開平10-139865号公報
甲第3号証:特開平07-231928号公報
甲第4号証:特開平03-000726号公報
甲第5号証:特開平04-059218号公報
甲第6号証:特開平05-185490号公報
甲第7号証:特開平08-283490号公報
甲第8号証:特開平10-168251号公報
甲第9号証:特開平11-043132号公報
甲第10号証:本件特許公報

なお、当事者間に甲第1号証ないし甲第10号証の成立に争いはない。

5.被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、少なくとも本件訂正により、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。

6.甲各号証の記載事項
甲第1?9号証には、以下の各事項が記載されている。

[甲第1号証]
(1a)「【請求項1】延伸ブロー成形品の樹脂組成が、環状オレフィン成分5?60モル%を有するポリオレフィンからなることを特徴とするポリオレフィン製延伸ブロー成形品。」

(1b)「【0002】
【従来の技術】従来より延伸ブロー成形法による容器の材質として、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系の樹脂が用いられ、該容器は、その優れた緒物性(軽量性、透明性、適度な剛性等)から炭酸飲料をはじめとする飲料、調味料、化粧品、液体洗剤、等の容器として広く用いられている。また、ポリプロピレン等のポリオレフィン系の樹脂から得られる延伸ブロー容器も、水蒸気バリア性、透明性に優れ、湿気を嫌う内容物(塩,調味料,錠剤等)の容器として用いられている。
【0003】しかし、ポリオレフィン系の樹脂の延伸ブロー成形は、結晶化度が高い(30?60%)等の理由から、成形困難であり、一部のポリプロピレン共重合体のグレードでしか、実用化されておらず、ポリプロピレン共重合体はエチレン成分が多い為、剛性等弱い等の欠点を有していた。・・・。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、剛性があり延伸成形が容易なポリオレフィン製延伸ブロー成形品・・・を提供することを課題とする。」

(1c)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明では、ポリオレフィン樹脂重合時に環状オレフィン成分を添加することにより、結晶化構造を取り難くさせることを研究することにより解決した。すなわち、本発明は、延伸ブロー成形品の樹脂組成が、環状オレフィン成分5?60モル%を有するポリオレフィンからなるポリオレフィン製延伸ブロー成形品である。また、延伸ブロー成形のプリフォームの材料として環状オレフィン成分5?60モル%を有するポリオレフィンを使用し、該プリフォームを延伸ブロー成形するポリオレフィン製延伸ブロー成形品の製造方法である。・・・」

(1d)「【0007】用いる材料としては、水素と炭素からだけからなるポリオレフィン系の樹脂で、なおかつ、主鎖骨格或は側鎖に、結晶構造を阻害する環状構造,傘高い構造等の因子が存在すれば良いが、主鎖骨格に環状オレフィン成分を有するポリオレフィン系の樹脂「環状ポリオレフィン共重合体」が好ましく用いられる。ポリオレフィン系の樹脂の主鎖骨格に環状オレフィン成分を有することにより、ポリオレフィン樹脂の結晶構造を阻害し、結晶化度を20%以下に制御することが可能になる。
・・・
【0009】環状オレフィン成分としては、例えばビシクロ(2.2.1)ヘプト-2-エンまたはその誘導体,テトラシクロ(4.4.0.1^(2,5) .1^(7,10))-3-ドデセンまたはその誘導体,・・・等をあげることができる。」

(1e)「【0011】環状オレフィン成分を含有させた環状ポリオレフィン共重合体において、エチレン成分等オレフィン成分に由来する構造単位は40?95モル%,好ましくは50?80モル%の範囲、環状ポリオレフィン成分に由来する構造単位は1モル%添加から効果があるが耐熱性の点から、通常5?60モル%,好ましくは20?50モル%の範囲が適当であり、エチレン成分等のオレフィン成分に由来する構造単位及び環状オレフィン成分に由来する構造単位はランダムに配列し環状ポリオレフィン共重合体を形成している。」

(1f)「【0015】また、得られた最終成形品を構成する、ポリオレフィン系の樹脂の主鎖骨格に環状オレフィン成分を有することにより、ポリオレフィン樹脂が優れたシュリンク特性を有するように成り、前記最終成形品が使用後不要に成ったとき、該最終成形品を、ガラス転移点以上融点以下で加熱することにより、容易にプリフォーム形状まで戻り、嵩高く無くなる。」

(1g)「【0020】
【実施例】
<実施例1>環状ポリオレフィン共重合体(環状オレフィン成分;25%,エチレン成分;75モル%)を射出成形し、直径30mmのフランジ部、直径27.4mmの胴部、長さ120mm、厚さ3.4mmのプリフォーム(有底パリソン)を得た。該プリフォームを再加熱し110℃とし徐冷してプリフォーム温度を均一に90℃とし、延伸ロッド圧力;7kgf/cm^(2)、一次ブロー;1.0kgf/cm^(2),1s、二次ブロー;20kgf/cm^(2),3sにて延伸ブロー成形して、・・・また、該プリフォームを使用し同様の延伸ブロー成形方法により、縦延伸倍率1.4倍,横延伸倍率2.2倍,ボトル高さ165mm,直径60mmの300mlの延伸ブロー容器も得た。」

以上の記載より、甲第1号証には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「環状オレフィン成分がビシクロ(2.2.1)ヘプト-2-エン若しくはその誘導体またはテトラシクロ(4.4.0.1^(2,5) .1^(7,10))-3-ドデセン若しくはその誘導体である環状ポリオレフィン共重合体を延伸ブロー成形して得られる、縦延伸倍率1.4倍,横延伸倍率2.2倍である延伸ブロー容器。」

[甲第2号証]
(2a)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、・・・透明性、耐湿性、耐熱性、耐衝撃性、機械的強度、溶液安定性、低誘電率、低誘電損失、低吸水性、低透湿性、ガスバリアー性、耐蒸気滅菌性、及び耐薬品性に優れたノルボルネン系重合体を樹脂成分として含有する成形材料、及び該成形材料から成形された成形体を提供することにある。
【0008】本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、テトラシクロドデセン系単量体、ジシクロペンタジエン系単量体、及び芳香族環構造を有するノルボルネン系単量体を開環共重合し、次いで、水素添加してなる特定の3元系のノルボルネン系重合体が、透明性、耐湿性、耐熱性、耐衝撃性、機械強度、低誘電率、低誘電正接、低透湿性、低吸湿性、ガスバリアー性、耐蒸気滅菌性、耐薬品性等の諸特性に優れ、しかも溶剤に対する安定性に優れるため、製造や成形が容易であることを見いだした。本発明は、これらに知見に基づいて完成するに至ったものである。」

(2b)「【0094】[実施例1]
(重合)テトラシクロドデセン(以下、TCDと略記)50%、ジシクロペンタジエン(以下、DCPと略記)30%、及び1,4メタノー1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)20%からなる単量体混合物10部、シクロヘキサン150部、分子量調節剤として1ーヘキセン0.38部、テトラブチルスズ0.44部、ジブチルエーテル0.42部、及び六塩化タングステン0.10部を窒素で置換した重合反応器に入れ、60℃で5分間撹拌した。その後、直ちに撹拌したままの前記重合反応器中に前記単量体混合物90部と六塩化タングステン0.15部を等速度で30分間連続的に加え、さらに滴下終了後30分間撹拌した。得られた重合反応液を^(1)H-NMR及び^(13)C-NMRを用いて分析した結果、TCD由来の繰り返し単位50%、DCP由来の繰り返し単位30%、及びMTF由来の繰り返し単位20%からなる開環共重合体であることが確認された。
【0095】(水素添加)上記の重合反応液を撹拌器付きオートクレーブに移し、シクロヘキサン400部、ニッケルアセチルアセトナート1部、イソブチルアルミニウム20%含有シクロヘキサン溶液15部を加えた。オートクレーブ内を水素置換した後、撹拌しながら100℃、15kg/cm^(2)の反応条件下で2時間反応させた。反応終了後、イソプロピルアルコール1部及び活性白土2部を加えて、80℃で1時間撹拌した。この溶液をケイソウ土をろ過助剤としてポアサイズ1μmのろ紙でろ過した。得られた反応溶液を2000部のイソプロピルアルコール中に撹拌下に注いで水素添加樹脂を沈殿させ、ろ別して回収した。さらに、アセトン500部で洗浄した後、1torr以下、100℃に設定した真空乾燥器中で24時間乾燥し、94部の開環共重合体水素添加物を得た。」

[甲第3号証]
(3a)「【請求項1】 下記式[I]または下記式[II]で表される環状オレフィン成分を開環重合してなる重合体、共重合体およびその水素添加物、ならびに下記式[I]または下記式[II]で表される環状オレフィン成分とエチレン成分とを付加重合してなる共重合体よりなる群から選ばれる環状オレフィン系樹脂からブロー成形されてなることを特徴とする医薬品容器;
(式[I]及び式[II]は省略)」

(3b)「【0001】
【発明の技術分野】本発明は医薬品容器に関し、さらに詳細には、環状オレフィン系重合体からブロー成形され、耐薬品性、および耐衝撃性に優れた医薬品容器に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】合成樹脂のブロー成形方法としては、エクストルージョンブロー、インジェクションブローおよび2段ブロー等が知られており、これ等のブロー成形品の素材としては、従来、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が知られている。特に、インジェクションブローに基づいて、ポリエステル樹脂等からなるパリソン(プリフォーム)を軸方向に延伸し、かつ金型内で流体により周方向に膨脹させることにより得られた医薬品容器では、その容器胴部が二軸方向に分子配向されており、透明性、ガスバリアー性、耐熱性等が優れた容器として広く使用されている。
【0003】このような従来のポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂等を素材としてブロー形成された医薬品容器の中には、その用途によって、耐酸性、耐アルカリ性、耐沸水性等の耐薬品性が問題となる場合がある。
【0004】
【発明の目的】本発明の目的は、このような従来のブロー形成された医薬品容器の問題に鑑み、耐薬品性を備えた医薬品容器を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、耐薬品性に優れるだけでなく機械的強度にも優れた医薬品容器を提供することにある。」

(3c)「【0027】本発明で用いられる上記式[I]で示される環状オレフィンとしては、具体的には、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン誘導体、テトラシクロ[4,4,0,1^(2.5),1^(7.10)]-3-ドデセン誘導体、・・・が挙げられる。」

(3d)「【0050】(1)環状オレフィン開環重合体およびその水素添加物
環状オレフィン開環重合体は、前記式[I]または式[II]、好ましくは[III]で表される環状オレフィンをそれ自体公知の方法で開環重合させたものであり、単独重合または共重合させたものである。たとえば、1,4,5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a- オクタヒドロナフタレン類同士を共重合させたもの、または前記のノルボルネン(ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン)とを共重合させたものでもよい。
【0051】上記のような環状オレフィンの開環重合体あるいは開環共重合体において、例えば式[III]で表される環状オレフィンの少なくとも一部は、次式[IV]で表される構造を有しているものと考えられる。
(式[III]及び式[IV]は省略)」

(3e)「【0053】また、上記開環重合体はそれ自体公知の方法で容易に残留している二重結合を水素添加することができ、水素添加物はより熱安定性、耐候性に優れた射出成形用素材である。」

(3f)「【0098】射出等によってプリフォームを形成する場合の条件は、環状オレフィン系共重合体のTMAあるいはMFRによって相違するが、一般に樹脂温度150?300℃、金型温度50?150℃、射出圧力;一次圧600?1500kg/cm^(2)、二次圧400?1200kg/cm^(2)の範囲である。プリフォームの温度は、使用樹脂のTMAの±50℃の範囲になるようにするのが好ましい。
【0099】このようなプリフォーム10はブロー成形部へ移行した後、割型で挟んでエアを吹き込みブロー成形を行う。また、プリフォーム10の延伸倍率は容積比で2?20倍の範囲が好ましい。」

[甲第4号証]
甲第4号証は、甲第3号証に係る分割出願の原出願の公開公報であるので、上記甲第3号証と同様な事項が記載されている。

[甲第5号証]
(5a)「(1)下記(a)成分を少なくとも50重量%以上含有する、300℃での溶融粘度が2×10^(3)poise以上の重合体配合物を240?360℃で押出成形またはブロー成形することより成形された成形体であり、かつ成形体の熱変形温度が少なくとも100℃以上、曲げ弾性率が1.5×10^(4)kgf/cm^(2)以上であることを特徴とする水素添加重合体の成形品。
(a)成分:下記一般式( I )で表わされる少なくとも1種のノルボルネン誘導体よりなる単量体、またはこの単量体およびこれと共重合可能な共重合性単量体を開環重合させて得られる開環重合体を、さらに水素添加して得られる水素添加重合体。
(一般式( I )は省略)」(特許請求の範囲)

(5b)「本発明における水素添加重合体(a)に係る開環重合体は、特定単量体を単独で開環重合させたものであってもよいが、当該特定単量体と共重合性単量体とを開環共重合させたものであってもよい。このように共重合性単量体が使用される場合において、開環重合体における特定単量体の割合は5モル%以上、好ましくは20モル%以上とされる。使用される共重合性単量体としては、メタセシス重合触媒によって開環重合し得る単量体、および重合体の主鎖に炭素-炭素二重結合を有する一部重合された低重合度体を挙げることができる。
上記特定単量体のうちでは、上記一般式(I)においてmが1であるテトラシクロドデセン誘導体が、ガラス転移点の高い重合体が得られる点で好ましい。一般式(I)において、mが1であるテトラシクロドデセン誘導体のうち、好ましい化合物としては・・・を挙げることができる。
特定単量体は環状オレフィン化合物と共重合することもできる。・・・
特定単量体とこれと共重合可能な共重合性単量体との開環重合の方法および水素添加の方法は、特開平1-132626号公報に記載される方法と同様の方法を挙げることができる。
得られる水素添加重合体(a)の水素添加率は、通常50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上とされる。水素添加率が50%未満の場合には、熱安定性が低くなるので好ましくない。」(第3頁右上欄8行?同右下欄17行)

[甲第6号証]
(6a)「【請求項1】(i) α-オレフィン・ポリエン共重合体と、
(ii)オレフィン重合体と
からなるα-オレフィン・ポリエン共重合体含有オレフィン重合体からなることを特徴とするブロー成形体。」

(6b)「【0005】
【発明の目的】本発明は、ブロー成形法によってボトルなどの大型容器に成形された、特定のオレフィン重合体からなるブロー成形体を提供することを目的としている。」

(6c)「【0013】またポリエン化合物としては、具体的に以下のような化合物が挙げられる。・・・、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、・・・など。」

(6d)「【0137】例として押出ブロー成形の場合は、樹脂温度100℃?300℃、好ましくは170℃?270℃でダイより上記オレフィン重合体を溶融状態でチューブ状パリソンを押出し、次いで付与すべき形状の金型中にパリソンを保持した後、空気を吹き込み樹脂温度130℃?300℃、好ましくは200℃?270℃で金型に着装し、中空成形品を得る。延伸倍率は横方向に1.5?5倍である。
【0138】射出ブロー成形の場合は樹脂温度100℃?300℃、好ましくは170℃?270℃で上記オレフィン重合体を金型に射出してパリソンを成形し、次いで付与すべき形状の金型中にパリソンを保持した後空気を吹き込み、樹脂温度120℃?300℃、好ましくは140℃?270℃で金型に着装し、中空成形品を得る。延伸倍率は縦方向に1.1?1.8倍、横方向に1.3?2.5倍である。」

[甲第7号証]
(7a)「【請求項1】(A)230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1?500g/10分の範囲にあり、
23℃デカン不溶成分の結晶化度が50%以上であり、
密度が0.910g/cm^(3) 以下であり、
23℃デカン不溶成分の^(13)C-NMRスペクトルにおけるPmmmm、Pw、Sαγ、Sαδ^(+) 、Tδ^(+)δ^(+)の吸収強度から下記式(1)により求められる立体規則性指標[M_(5)]の値が0.970?1.010の範囲にあるプロピレン系ランダム共重合体と、(B)フェノール系安定剤(B-1) :前記プロピレン系ランダム共重合体(A)100重量部に対して0.001?10重量部とからなることを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体組成物;
(式(1)は省略)
・・・
【請求項20】 請求項1ないし請求項14のいずれかに記載のプロピレン系ランダム共重合体組成物からなることを特徴とするブロー成形体。」

(7b)「【0001】
【発明の技術分野】本発明は、プロピレン系ランダム共重合体組成物およびその用途に関し、さらに詳しくは、プロピレン系ランダム共重合体と、特定の少なくとも1種の安定剤とからなるプロピレン系ランダム共重合体組成物およびその用途に関するものである。」

(7c)「【0018】
【発明の具体的説明】以下本発明に係るプロピレン系ランダム共重合体組成物およびその用途について具体的に説明する。
【0019】なお本発明において「重合」という語は、単独重合のみならず、共重合を包含した意で用いられることがあり、また「重合体」という語は、単独重合体のみならず、共重合体を包含した意で用いられることがある。
【0020】まず本発明のプロピレン系ランダム共重合体組成物に用いられるプロピレン系ランダム共重合体について具体的に説明する。本発明で用いられるプロピレン系ランダム共重合体は、プロピレンと、エチレンおよび炭素数4?20のオレフィンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンとのランダム共重合体である。
【0021】ここで炭素数4?20のオレフィンとして具体的には、・・・ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、・・・などが挙げられる。・・・」

(7d)「【0186】本発明のプロピレン系ランダム共重合体組成物からなる射出成形体は、従来公知の射出成形装置により製造することができる。また成形条件も、従来公知の条件を採用することができる。このような射出成形体は、剛性、耐衝撃性、表面光沢、耐薬品性、耐磨耗性などに優れており、容器など幅広く用いることができる。
【0187】本発明のプロピレン系ランダム共重合体組成物からなるブロー成形体は、従来公知のブロー成形装置により製造することができる。また成形条件も、従来公知の条件を採用することができる。たとえば押出ブロー成形の場合には、樹脂温度100?300℃でダイより上記プロピレン系ランダム共重合体組成物を溶融状態でチューブ状パリソンを押出し、次いで付与すべき形状の金型中にパリソンを保持した後、空気を吹き込み樹脂温度130?300℃で金型に着装し、中空成形品を得る。延伸倍率は、横方向に1.5?5倍であることが望ましい。射出ブロー成形の場合には、樹脂温度100?300℃で上記プロピレン系ランダム共重合体組成物を金型に射出してパリソンを成形し、次いで付与すべき形状の金型中にパリソンを保持した後空気を吹き込み、樹脂温度120?300℃で金型に着装し、中空成形品を得る。延伸倍率は、縦方向に1.1?1.8倍であることが望ましく、横方向に1.3?2.5倍であるであることが望ましい。このようなブロー成形体は、剛性および透明性に優れると共に、防湿性に優れている。」

[甲第8号証]
(8a)「【0006】
【発明の目的】本発明は、透明性に優れ、剛性および耐衝撃性に優れるとともに溶融張力が高く成形性にも優れたプロピレン系重合体組成物およびその成形品を提供することを目的としている。」

(8b)「【0029】またプロピレン系重合体は、本発明の目的を損なわない範囲であれば、他のモノマーから導かれる単位を極少量含有してもよく、このような他のモノマーとしては・・・メチレンノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ポリエン類などが挙げられる。」

(8c)「【0125】また本発明で用いられるエチレン系重合体は、本発明の特性を損なわない範囲であれば、必要に応じて他の重合性モノマーから導かれる単位を含有していてもよい。
【0126】このような他の重合性モノマーとしては、たとえば・・・メチレンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、6-クロロメチル-5-イソプロペニル-2-ノルボルネン、2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-エチリデン-3-イソプロピリデン-5-ノルボルネン、2-プロペニル-2,2-ノルボルナジエンなどの非共役ポリエン類およびこれらの組合わせなどが挙げられる。」

(8d)「【0157】また射出ブロー成形では、上記プロピレン系重合体組成物を樹脂温度100℃?300℃でパリソン金型に射出してパリソンを成形し、次いでパリソンを所望形状の金型中に保持した後空気を吹き込み、樹脂温度120℃?300℃で金型に着装することにより中空成形品を製造することができる。し、中空成形品を得る。延伸(ブロー)倍率は、縦方向に1.1?1.8倍、横方向に1.3?2.5倍であるであることが望ましい。」

[甲第9号証]
(9a)「【請求項1】 容器本体部が下記1式で示される構造単位と下記2式で示される構造単位とを主成分として含有するポリエステルから構成され、その胴部の肉厚が1.5?7mmであることを特徴とするエアゾール用容器。
(1式及び2式は省略)
・・・
【請求項5】 有底パリソンを軸方向に1.0?1.5倍、周方向に1.3?2.5倍に2軸延伸ブロー成形してなることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエアゾール用容器の製造方法。」

(9b)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記問題点を解決し、耐熱圧性や紫外線防止特性に優れ、内容物の残量確認を行うことができ、しかもコスト的に安価なエアゾール用容器を提供するものである。」

(9c)「【0025】本発明のエアゾール用容器の製造方法においては、有底パリソンを軸方向に1.0?1.5倍、周方向に1.3?2.5倍に2軸延伸ブロー成形することが必要である。有底パリソンの延伸倍率を上記の範囲とすることで、上述のような肉厚Aを有する本体部1を容易に作製することができる。周方向の延伸倍率が上記範囲の下限よりも低くなると、自立型容器としたときの安定性が悪くなる。また、軸方向及び周方向の延伸倍率が上記範囲の上限よりも高くなると、耐熱圧性に劣るものとなる。」

(9d)【表1】?【表4】には、実施例1?29及び比較例1?8についての軸方向及び周方向の延伸倍率が記載されている。

以上の記載より、甲第9号証には、下記の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されている。
「容器本体部が特定の構造を主成分として含有するポリエステルから構成され、有底パリソンを軸方向に1.0?1.5倍、周方向に1.3?2.5倍に2軸延伸ブロー成形してなるエアゾール用容器。」

7.当審の判断
先ず、特許法第36条関係の無効理由である無効理由(2)及び(3)から検討する。
7-1.無効理由(2)について
請求人は、各本件特許発明の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」(訂正前は「ノルボルネン系重合体水素化物」)について、耐ソルベントクラック性という各本件特許発明の効果との関係において、実験等により具体的に確認されているものは、実施例に記載された「DCP/MTF/TCD開環“共”重合体」のみであることから、各本件特許発明は、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない旨の主張をしている。

しかし、本件特許明細書(訂正前)の段落【0011】には、種々のノルボルネン系モノマーが例示され、また、「これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。」と記載されていることから、発明の詳細な説明に記載された「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」は、上記「“共”重合体」のみであるとはいえない。
また、各本件特許発明は、「油分が付着した状態でもスチーム滅菌が可能な程に耐ソルベントクラック性に優れた、医薬品用や食品用として好適な容器を提供すること」(段落【0004】)を課題とし、「熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を、縦方向の延伸倍率を一定範囲に設定し、さらに前記縦方向の延伸倍率に対する横方向の延伸倍率を一定範囲に設定して特別な延伸条件でブロー成形した」(段落【0005】)ものである。これに対して、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明において、重合体としては1種類ではあるが、上記延伸倍率を変えた多数の実施例及び比較例によって、各本件特許発明の上記「耐ソルベントクラック性」に係る有効性が確認されいる(訂正前段落【0032】?【0036】、表1)。そして、上記重合体については、「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」と限定された範囲のものであり、上記「“共”重合体」以外の例えば単独重合体等の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」において、上記「耐ソルベントクラック性」に係る課題を解決できないとする技術常識ないし理論といった技術的な理由もないことより、各本件特許発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとすることもできない。

よって、各本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとすることはできないことより、各本件特許発明に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとすることはできなく、請求人の主張する無効理由(2)によっては、各本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。

7-2.無効理由(3)について
請求人は、本件請求項1に記載された「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」は、客観的には「ノルボルネン系モノマーの開環“共”重合体水素化物」と解するのが相当であり、この点において、各本件特許発明は明確であるとは認められない旨の主張をしている。

しかし、上記「7-1.無効理由(2)について」で述べたように、「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」を「ノルボルネン系モノマーの開環“共”重合体水素化物」と解さなければならない理由はない。

よって、各本件特許発明は、明確でないとすることはできないことより、各本件特許発明に係る特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとすることはできなく、請求人の主張する無効理由(3)によっては、各本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。

7-3.無効理由(1)について
7-3-1.本件特許発明1について
請求人の無効理由(1)の具体的な主張内容は、本件特許発明1は、
(i)甲第1号証、および甲第2?甲第5号証から当業者が容易にすることができたものである(審判請求書第13頁下から8行?同第21頁2行)というもの及び
(ii)甲第3号証に記載された構成を甲第9号証に記載されたものに適用することはいわゆる当業者が容易に推考し得るものである(審判請求書第21頁3行?同第23頁2行)というものである。
よって、以下に甲1発明及び甲9発明を、それぞれ主引用発明として対比・判断する。

<甲1発明との対比>
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「延伸ブロー成形」及び「延伸ブロー容器」は、それぞれ本件特許発明1の「ブロー成形」及び「ブロー成形容器」に相当し、
甲1発明の「環状オレフィン成分がビシクロ(2.2.1)ヘプト-2-エン若しくはその誘導体またはテトラシクロ(4.4.0.1^(2,5) .1^(7,10))-3-ドデセン若しくはその誘導体である環状ポリオレフィン共重合体」と本件特許発明1の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」とは、「ノルボルネン系重合体」である限りおいては一致し、
甲1発明の「縦延伸倍率」及び「横延伸倍率」は、それぞれ本件特許発明1の「縦方向の延伸倍率y」及び「横方向の延伸倍率x」に相当し、甲1発明の縦延伸倍率に対する横延伸倍率は、約1.6(2.2/1.4)となり、本件特許発明1の「1.2?2」に含まれるものである。
よって、両者は、
「ノルボルネン系重合体をブロー成形して得られる、横方向の縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であるブロー成形容器。」である点一致し、以下の各点で相違する。

相違点1a:本件特許発明1では、ノルボルネン系重合体が、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物であるのに対し、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

相違点2:本件特許発明1では、縦方向の延伸倍率yが、0.9以上1.4未満であるのに対し、甲1発明では、1.4である点。

そこで、上記相違点1aについて検討すると、
甲1発明は、「ポリオレフィン系の樹脂の延伸ブロー成形は、結晶化度が高い(30?60%)等の理由から、成形困難」(上記記載事項(1b)参照)である課題を、「ポリオレフィン樹脂重合時に環状オレフィン成分を添加することにより、結晶化構造を取り難くさせる」ことにより解決するもので、ポリオレフィン系の樹脂の主鎖骨格に環状オレフィン成分を有する環状ポリオレフィン共重合体を用いる(上記記載事項(1c)?(1f)参照)ことを前提とした発明であり、また、甲1発明の各延伸倍率についても上記環状ポリオレフィン共重合体を用いることを前提とした値である。
よって、甲第3号証に、ブロー成形される樹脂としてノルボルネン系モノマーの開環重合水素化物が記載されているからといって、甲1発明の上記用いることを前提とした環状ポリオレフィン共重合体に換えて、甲第3号証に記載された「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」を用いることについての動機付けはない。
また、甲第2号証には、本件特許発明1に係る実施例に用いられたものと同一の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」が記載されているが、上記甲第3号証と同様な理由により、甲1発明の環状ポリオレフィン共重合体に換えて、甲第2号証に記載された「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」を用いることについても動機付けはない。
さらに、甲各号証には、ブロー成形容器において、耐ソルベントクラック性に係る課題を解決するために、特定の樹脂を、縦方向の延伸倍率を一定範囲に設定し、さらに前記縦方向の延伸倍率に対する横方向の延伸倍率を一定範囲に設定してブロー成形するという本件特許発明1に係る技術的事項は開示されていない。

よって、甲1発明において、上記相違点1aを容易になし得たとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、上記相違点2を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び他の甲各号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとすることはきない。

<甲9発明との対比>
本件特許発明1と甲9発明とを対比すると、
甲9発明の「2軸延伸ブロー成形」及び「エアゾール用容器」は、それぞれ本件特許発明1の「ブロー成形」及び「ブロー成形容器」に相当し、
甲9発明の「特定の構造を主成分として含有するポリエステル」と本件特許発明1の「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」とは、「重合体」である限りおいては一致し、
甲9発明の「軸方向に1.0?1.5倍」に延伸することは、本件特許発明1の「縦方向の延伸倍率y」を1.0?1.5にすることを意味し、甲9発明の「周方向」の寸法は、横方向(直径方向)の寸法と比例関係であるので、「周方向に1.3?2.5倍」に延伸することは、本件特許発明1の「横方向の延伸倍率x」を1.3?2.5にすることを意味するものと認めらる。また、甲9発明には、「軸方向」への延伸倍率及び該「軸方向」への延伸倍率に対する「周方向」への延伸倍率の比が、それぞれ本件特許発明1で規定されている各範囲に含まれる実施例が記載されている(上記記載事項(9d)参照)。
よって、両者は、
「重合体をブロー成形して得られる、縦方向の延伸倍率yが0.9以上1.4未満であり、横方向の該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であるブロー成形容器。」である点一致し、以下の点で相違する。
相違点1b:本件特許発明1では、重合体が、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物であるのに対し、甲9発明では、特定の構造を主成分として含有するポリエステルである点。

そこで、上記相違点1bについて検討すると、
甲9発明は、「耐熱圧性や紫外線防止特性に優れ、内容物の残量確認を行うことができ、しかもコスト的に安価なエアゾール用容器を提供する」(上記記載事項(9b)参照)ために、特定の構造を主成分として含有するポリエステルを採用したものであって、当該特定の構造を主成分として含有するポリエステルを用いることを前提とした発明であり、また、甲9発明の各方向の延伸倍率についても上記ポリエステルを用いることを前提とした値である。
よって、甲第3号証に、ブロー成形される樹脂としてノルボルネン系モノマーの開環重合水素化物が記載されているからといって、甲9発明の上記用いることを前提とした特定の構造を主成分として含有するポリエステルに換えて、甲第3号証に記載された「ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物」を用いることについての動機付けはなく、甲9発明において、上記相違点1bを容易になし得たとすることはできない。

したがって、本件特許発明1は、甲第9号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

7-3-2.本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明または甲9発明とを対比すると、両者は、上記「7-3-1.本件特許発明1について」で挙げた各相違点に加えて、以下の点で相違している。
相違点3:本件特許発明2では、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物のガラス転移温度をTgとした場合に、ブロー成形時におけるブロー金型温度が、(Tg-55℃)?(Tg-10℃)であるとされているのに対し、甲1発明または甲9発明では、ブロー成形時におけるブロー金型温度が特定されていない点。

そこで、上記相違点3について検討すると、
甲第3号証には、射出等によってプリフォームを形成する場合の条件として「金型温度50?150℃」とすることの記載はあるものの、樹脂のガラス転移温度Tgとの関係は何ら記載されていなく、その他甲各号証にもこの点が記載されていないことより、甲1発明または甲9発明において、上記相違点3を容易になし得たとすることはできない。

よって、本件特許発明2は、甲1発明または甲9発明において、相違点1aまたは相違点1bに加えて、上記相違点3についても、当業者が容易になし得たとすることはできない。

したがって、本件特許発明2は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

7-3-3.本件特許発明3ないし6について
本件特許発明3ないし6と甲1発明または甲9発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記「7-3-1.本件特許発明1について」で挙げた各相違点において相違し、該各相違点は、上記したように容易になし得たとすることはできないことより、本件特許発明3ないし6は、甲第1ないし9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

7-3-4.まとめ
以上のとおり、請求人の主張する無効理由(1)によっては、本件特許発明1ないし6についての特許を無効とすることはできない。

8.むすび
したがって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし6を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ブロー成形容器
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブロー成形容器に関し、さらに詳しくは、医薬品容器又は食品容器等として好適なブロー成形容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
医薬品容器や食品容器などは従来ガラス製のものが使用されてきたが、軽量化、易廃棄性などの観点からプラスチック製のものに置き換わりつつある。そうした中で、熱可塑性ノルボルネン系樹脂製の容器が、透明性、耐熱性、耐薬品性、低溶出性などに優れるために医薬品容器や食品容器などに好適であることが報告されている。
一方、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系重合体を芳香環部分まで水素添加して得られる脂環式構造含有ポリマーも、同様に、透明性、耐熱性、耐薬品性、低溶出性などに優れるため医薬品容器や食品容器などに好適である旨知られている。特開平11-170345号公報には、上記の芳香族ビニル系重合体の水素添加物を、一定のブロー倍率でブロー成形することにより、落下衝撃時の強度や耐スチーム滅菌性を向上させて医薬品容器などに使用できるものとした例が開示されている。
【0003】
しかし、上記のような脂環式構造含有ポリマーの容器であっても、例えば乳幼児が繰り返し使用する哺乳瓶、食器類、点眼薬の容器などは油分等が付着する頻度が高いため、使用途中、すなわち容器に油分等が付着した状態でスチーム滅菌等を行った場合にはソルベントクラックなどによる白化が生じる場合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、油分が付着した状態でもスチーム滅菌が可能な程に耐ソルベントクラック性に優れた、医薬品用や食品用として好適な容器を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を、縦方向の延伸倍率を一定範囲に設定し、さらに前記縦方向の延伸倍率に対する横方向の延伸倍率を一定範囲に設定して特別な延伸条件でブロー成形した容器が、耐ソルベントクラック性に優れ、人が触れた後でスチーム滅菌しても白化しないことを見出し、その知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0006】
かくして本発明によれば、
(1)ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物をブロー成形して得られる、縦方向の延伸倍率yが0.9以上1.4未満、該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であるブロー成形容器、
(2)胴体部及び首部を有する前記のブロー成形容器、
(3)首部に螺子溝を有する前記のブロー成形容器が、及び
(4)医薬品容器又は食品容器である前記のブロー成形容器、哺乳瓶である前記のブロー成形容器がそれぞれ提供される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の容器は、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物をブロー成形して得られるものであり、縦方向の延伸倍率yが0.9以上1.4未満であり、且つ、該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であることを特徴とするものである。
【0008】
ノルボルネン系モノマーとしては、ビシクロ〔2.2.1〕-ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)及びその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ〔4.3.1^(2,5).0^(1,6)〕-デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)及びその誘導体、テトラシクロ〔7.4.1^(10,13).0^(1,9).0^(2,7)〕-トリデカ-2,4,6,11-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう:慣用名メタノテトラヒドロフルオレン)及びその誘導体、テトラシクロ〔4.4.1^(2,5).1^(7,10).0〕-ドデカ-3-エン(慣用名:テトラシクロドデセン)及びその誘導体、などが挙げられる。
置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基などが例示でき、上記ノルボルネン系モノマーは、これらを2種以上有していてもよい。具体的には、8-メトキシカルボニル基-テトラシクロ〔4.4.1^(2,5).1^(7,10).0〕-ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ〔4.4.1^(2,5).1^(7,10).0〕-ドデカ-3-エンなどが挙げられる。
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0009】
これらノルボルネン系モノマーの開環重合体は、モノマー成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、及び還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0010】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0011】
本発明で使用されるノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常5,000?500,000、好ましくは8,000?200,000、より好ましくは10,000?100,000の範囲であるときに、容器の機械的強度、及び成形加工性とが高度にバランスされて好適である。
【0012】
本発明で使用されるノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物のガラス転移温度(Tg)は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常、80℃以上、好ましくは100℃?250℃、より好ましくは120℃?200℃の範囲である。この範囲において、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0013】
なお、本発明で使用されるノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物には、必要に応じて各種配合剤を配合することができる。配合剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤等が挙げられる。これらの配合剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
酸化防止剤としては、たとえばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性等を低下させることなく、成形時の酸化劣化等による容器の着色や強度低下を防止できる。
これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物100重量部に対して通常0.001?5重量部、好ましくは0.01?1重量部である。
また、本発明に使用するノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物には、他の種類の重合体(ゴムや樹脂)を混合して、重合体組成物として成形材料に供することもできる。
【0014】
具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴムなどのイソブチレン系重合体;ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などのジエン系重合体;ポリブチルアクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどのアクリル系重合体;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などのビニル化合物の重合体;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系重合体;フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン-プロピレンゴムなどのフッ素系重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、また、変性反応により官能基を導入したものでもよい。上記重合体の中でもジエン系重合体が好ましく、特に該重合体の炭素-炭素不飽和結合を水素化した水素化物が、ゴム弾性、機械強度、柔軟性、分散性の点で優れる。
【0015】
本発明においては、上記のノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物をブロー成形して容器を得ることができる。
ブロー成形法には、インジェクションブロー成形法を用いる。インジェクションブロー成形は、(1)射出成形により、開口部を有する中空体であるプリフォームを成形した後、(2)前記プリフォームをブロー金型内に挿入し、加熱溶融させながら開口部より内部にエアーを吹き込んでブロー成形を行う。
上記方法において、プリフォームは、通常、断面の直径が一定の円柱状のものを用いるのが好ましい。
本発明において、縦方向の延伸倍率(y)とは、プリフォーム首下(延伸される部分)の長さに対する容器の首下(延伸された部分)の長さの比率であり、横方向の延伸倍率(x)とは、プリフォームの横方向の最大径に対する、容器の横方向の最大径の比率である。尚、最大径とは、プリフォーム及び容器の断面が円形である場合には最大の直径であり、断面が多角形又は楕円形である場合には、最大の相当直径である。
本発明のブロー成形容器は、縦方向の延伸倍率yが、好ましくは0.9以上1.35以下、最も好ましくは1以上1.35以下であり、縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が、好ましくは1.25以上1.9以下、最も好ましくは1.3以上1.8以下である。縦方向の延伸倍率y及び、縦横延伸倍率比(x/y)が上記範囲にあると、容器は耐ソルベントクラック性に優れる。
プリフォーム成形時の成形条件は、シリンダー温度が、通常、150?400℃、好ましくは200?350℃、より好ましくは230?330℃の範囲である。シリンダー温度が過度に低いと流動性が悪化し、得られる容器にひずみを生じ、シリンダー温度が過度に高いと樹脂の熱分解等により容器が着色するおそれがある。
プリフォームの直径及び中空部分の内径、プリフォームの長さは目的とする容器の大きさにより適宜選択することができる。
ブロー成形時の成形条件は、用いるノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物のガラス転移温度をTgとした場合に、ブロー金型温度が、通常、(Tg-55℃)?(Tg-10℃、好ましくは(Tg-45℃)?(Tg-12℃)である。
プリフォーム成形条件及びブロー成形条件が上記範囲にあると、容器の耐ソルベントクラック性が向上する。
【0016】
上記方法で得られた本発明の容器は、厚みが、通常、0.5?3mm、好ましくは0.7?2mmである。
容器の形状としては、円柱状、角柱状、球状等が挙げられるが、衝撃強度等の観点から円柱状、角柱状が好ましい。容器は、開口部から底部にかけての裾広がり形状であっても、高さ方向の中央部が膨らんだ形状などであってもよい。また容器の底部の形状については特に制限されず、平面状であっても内側に向かって窪みのある形状であってもよい。
本発明の容器は、医薬品や食品等を密閉保存できるように、また、医薬品や食品等を密閉保存した状態でスチーム滅菌等の処理ができるように、蓋を取り付けることができる首部及び胴体部を有する形状であるのが好ましい。首部は、蓋が取り付けられ、かつ密閉できるように、螺子溝、蓋と嵌合可能な凹凸部等を有しているものが好ましい。
【0017】
本発明のブロー成形容器は、液体、粉体状の薬品容器、特に薬品等を充填した後に滅菌して使用する薬品容器として適当である。具体的には無菌状態が高度に保持されることを要求される無菌精剤用の容器や、造影剤などの検査診断薬用の容器などに適当である。その他、点滴用容器や輸液キット用容器;点眼薬容器;純水用容器;血液分析用のサンプリング用試験管;採血管;検体容器;紫外線検査セルなどの分析容器;メスやカン子、ガーゼ、コンタクトレンズなどの医療器具の滅菌容器;ディスポーザブルシリンジやプレフィルドシリンジなどの医療用具;ビーカー、バイアル、アンプル、試験管、フラスコなどの実験器具;人工臓器のハウジング;などに好適に使用できる。
また、本発明のブロー成形容器は、食料品保存容器、清涼飲料水などのボトルとしても好適であるが、特に、食器、哺乳瓶、マグカップなどのように皮脂や唾液等からの油分が付着しやすい食品容器としても好適であり、哺乳瓶として最も好適である。
【0018】
【実施例】
以下、本発明について、製造例、実施例及び比較例を挙げて、より具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの例に限定されるものではない。
これらの例において、[部]は、特に断りのない限り、重量基準である。また、各種物性の測定法は、次の通りである。
【0019】
(1)ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC法)により測定した。
(2)分子量は、特に記載しない限り、シクロヘキサンを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリイソプレン換算値として測定した。
(3)耐ソルベントクラック性の評価は以下の方法により評価した。
後述する方法で得られたブロー成形容器10本の胴体部の表面全面に、市販のサラダ油を塗布した後、オートクレーブに入れて121℃にて20分間スチーム処理を行う。サンプルの容器を取り出して、目視観察で確認できる程度の白化が観察されたものの本数を評価した。
【0020】
〔製造例1〕
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1-ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部、トリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.1^(2,5)]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)80部、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)50部、及びテトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]-ドデカ-3-エン(以下、TCDと略記)70部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/TCD=40/25/35でほぼ仕込組成に等しかった。
【0021】
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル-アルミナ触媒(日揮化学社製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して撹拌しながら温度200℃まで加温して4時間反応させ、DCP/MTF/TCD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。得られた反応溶液から濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体(クラレ社製;セプトン2002)、及び酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ社製;イルガノックス1010)を、添加して溶解させた(いずれも重合体100部あたり0.1部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン及びその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所製)を用いて除去し、そして水素化重合体を押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。
この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は35,000、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。
【0022】
〔実施例1〕
製造例1で得られたペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥した後、青木固研究所製SBIII250を用いて、シリンダー温度280℃、ホットランナー280℃、プリフォーム金型温度120℃の条件で、高さ95mm、断面の直径15mm、容量120mlのプリフォームを成形した。前記プリフォームは、開口部から15mmに渡り首部を有し、首部には螺子溝が形成されている。
次いで、上記プリフォームに対し、縦方向(高さ方向)の延伸倍率yが1、横方向(直径方向)の延伸倍率xが1.2(横延伸倍率/縦延伸倍率=x/y=1.2)となるようなブロー金型を用い、ブロー型温度110℃の条件で、上記プリフォーム内にエアーを吹き込みながらブロー成形を行い、開口部を有する首部と、胴体部とを有する容器を得た。
上記容器を用い、前述の耐ソルベントクラック試験を行って評価した結果、白化の確認されたものは、多くても10本中1本であった。評価結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
〔実施例2?5〕
以降、縦延伸倍率y及び横延伸倍率xを変えて評価した。評価結果を表1に示す。
【0025】
〔比較例1?4〕
同様に、縦延伸倍率y及び横延伸倍率xを変えて評価した。評価結果を表1に示す。
【0026】
以上、表1によれば、縦方向の延伸倍率x及び該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率の比(x/y)が本発明の範囲となるブロー成形容器は、サラダ油塗布後のスチーム処理において殆ど白化しないのに対し(実施例1?6)、縦方向と横方向の延伸倍率比(x/y)が本発明の範囲を外れるもの(比較例1、2、4)及び縦方向の延伸倍率yが本発明の範囲を外れるもの(比較例3)は、5本以上のサンプルが白化した。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、油などが付着した状態でも、スチーム雰囲気下において白化が生じない程に、耐ソルベントクラック性に優れた、医薬品用や食品用に好適なブロー成形容器が提供される。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物をブロー成形して得られる、縦方向の延伸倍率yが0.9以上1.4未満、横方向の該縦方向の延伸倍率yに対する横方向の延伸倍率xの比(x/y)が1.2?2であるブロー成形容器。
【請求項2】
前記ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物のガラス転移温度をTgとした場合に、ブロー成形時におけるブロー金型温度が、(Tg-55℃)?(Tg-10℃)である請求項1記載のブロー成形容器。
【請求項3】
胴体部及び首部を有する請求項1または2記載のブロー成形容器。
【請求項4】
首部に螺子溝を有する請求項3記載のブロー成形容器。
【請求項5】
医薬品容器又は食品容器である請求項1乃至4のいずれかに記載のブロー成形容器。
【請求項6】
哺乳瓶である請求項1乃至4のいずれかに記載のブロー成形容器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-03-28 
出願番号 特願2001-314516(P2001-314516)
審決分類 P 1 113・ 855- YA (B65D)
P 1 113・ 841- YA (B65D)
P 1 113・ 537- YA (B65D)
P 1 113・ 85- YA (B65D)
P 1 113・ 121- YA (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 瀬良 聡機
一ノ瀬 薫
登録日 2007-05-11 
登録番号 特許第3951660号(P3951660)
発明の名称 ブロー成形容器  
代理人 前田 均  
代理人 鈴木 亨  
代理人 鈴木 亨  
代理人 前田 均  
代理人 村田 幸雄  
代理人 鈴木 喜三郎  

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