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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F24D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F24D
管理番号 1258468
審判番号 無効2010-800081  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2012-05-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3552217号発明「高断熱・高気密住宅における深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3552217号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3552217号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成14年5月2日に特許出願され、平成16年5月14日にその発明についての特許権の設定登録がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成22年 4月28日 本件無効審判の請求
2.平成22年 7月20日 答弁書
3.平成22年 7月20日 訂正請求
4.平成22年10月19日 審理事項通知書
5.平成22年11月17日 口頭審理陳述要領書(請求人、被請求人)
6.平成22年11月26日 通知書
7.平成22年12月 7日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
8.平成22年12月 7日 口頭審理
9.平成22年12月28日 上申書(請求人、被請求人)
10.平成23年 1月 6日 上申書(被請求人)
11.平成23年 1月21日 上申書(2)(請求人)

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
被請求人が求めた訂正の内容は、下記(1)ないし(8)のとおり訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項ア
特許請求の範囲請求項1中の「確保しした上で」を「確保した上で」と訂正する。
(2)訂正事項イ
同請求項1中の「蓄熱であるコンクリート層」を「蓄熱層であるコンクリート層」と訂正する。
(3)訂正事項ウ
同請求項1中の「酸化マグネシア」を「酸化マグネシウム」と訂正する。
(4)訂正事項エ
同請求項1中の「床下空間の加温された空気がスリットを介して室内へ自然対流する構成とすることで、家屋空間全体を24時間低温暖房可能で過乾燥がなく、気流を感じさせない快適な暖房を行う」を「床下空間の加温された空気がスリットを介して室内へ自然対流する構成とすることで、居住空間を24時間低温暖房で暖房を行う」と訂正する。
(5)訂正事項オ
同請求項2中の「施行」を「施工」と訂正する。
(6)訂正事項カ
同請求項2中の「それぞれ選択して構成される」を「それぞれ選択し埋設して構成される」と訂正する。
(7)訂正事項キ
明細書段落【0010】及び【符号の説明】中の「酸化マグネシア」を「酸化マグネシウム」と訂正する。
(8)訂正事項ク
明細書段落【0012】中の「施行」を「施工」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
訂正事項ア、イ、ウ、オは、いずれも誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項エは、「家屋空間全体」を、「室内」から導かれる用語である「居住空間」と限定するとともに、「過乾燥がなく、気流を感じさせない快適な」という曖昧で不明瞭な記載を省くものであって、特許請求の範囲の減縮及び、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項カは、明細書段落【0010】、【0012】に基づいて、「埋設して構成される」とするもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
さらに、訂正事項キ、クは、それぞれ、特許請求の範囲の訂正に係る訂正事項ウ、オと明細書の整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、訂正事項アないしクは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲においてされたものであり、前記訂正事項アないしクにより、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとまではいえない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記平成22年7月20日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 請求人主張の概要
請求人は、審判請求書において、「特許第3552217号発明の特許請求の範囲の請求項1、請求項2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(2)、口頭審理、上申書、上申書(2)を総合すると、請求人が主張する無効理由は、概略、次のとおりのものである。
1.無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.無効理由2
本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

[証拠方法]
(1)甲第1号証 : エナーテック株式会社「深夜電力利用電気蓄熱床暖房システム技術資料」(平成13年3月現在)
(2)甲第2号証 : 2002年2月5日発行「北海道住宅新聞」第6面
(3)甲第3号証 : エナーテック株式会社「深夜電力用/電気蓄熱床暖房システム」カタログ(2000年12月現在)
(4)甲第4号証 : 熱損失係数(Q値)(http://www.konasapporo.or.jp/Heating/HeatLoss/HeatLoss.htm)
(5)甲第5号証 : 特開平9-125549号公報
(6)甲第6号証 : 特開2002-349882号公報
(7)甲第7号証 : 特開平11-93109号公報
(8)甲第8号証 : 登録実用新案第3034691号公報
(9)甲第9号証 : 特開平5-311768号公報
(10)甲第10号証 : エナーテック株式会社「深夜電力蓄熱/低温 輻射熱 省エネ/床下暖房システム」カタログ(2006年7月現在)
(11)甲第11号証 : 平成21年(行ケ)第10175号の平成21年11月9日付け「準備書面」柿崎喜世樹(被請求人代理人)
(12)甲第12号証 : Wikipedia「ルーバー」
(13)甲第13号証 : 平成22年(行ケ)第10224号の平成22年11月11日付け「準備書面」柿崎喜世樹(被請求人代理人)(抜粋)
(14)甲第14号証 : 平成21年(行ケ)第10175号の平成21年8月27日付け「準備書面」柿崎喜世樹(被請求人代理人)
(15)甲第15号証 : 知財高裁判決要旨平成22年1月28日判決「平成21年(行ケ)第10175号」
(16)甲第16号証 : 韓星エナーテック株式会社「深夜電力用/電気蓄熱床暖房システム」カタログ(1999年9月現在)
(17)甲第17号証 : エナーテック株式会社「深夜電力用/エコロジー・エコノミー/床暖房システム」カタログ(2001年11月現在)
(18)甲第18号証 : エナーテック株式会社「深夜電力用/エコロジー・エコノミー/床暖房システム」カタログ(2002年9月現在)
(19)甲第19号証 : 被請求人のホームページの掲載内容
(20)甲第20号証 : 建築大辞典 第2版<普及版>(平成5年6月10日)彰国社 「がらり」、「羽板」、「がらり戸」、「ルーバー」
(21)甲第21号証 : 特開2001-201075号公報
(22)甲第22号証 : 登録実用新案第3038324号公報
(23)甲第23号証 : 特開平8-151700号公報
(24)甲第24号証 : 特開2000-87466号公報
(25)甲第25号証 : 実願昭56-148879号(実開昭58-61893号)のマイクロフィルム
(26)甲第26号証 : 意匠登録第973961号公報
(27)甲第27号証 : 特許法概説[第13版](平成13年6月20日)有斐閣137ページ
(28)甲第28号証 : 韓星エナーテック株式会社「深夜電力利用/電気蓄熱床暖房システム 技術資料(設計・プラン・施行の手引き)」(平成11年10月現在)
(29)甲第29号証 : エナーテック株式会社「深夜電力利用/電気蓄熱床/床下暖房システム技術資料」(平成14年5月現在)
(30)甲第30号証 : 2010年12月1日付け「陳述書」李七相、陳鐘哲
(31)甲第31号証 : 平成22年(行ケ)第10224号の平成22年10月15日付け「準備書面」中川邦雄(請求人代理人)
(32)甲第32号証 : 平成22年11月29日付け「発行証明書」株式会社北海道住宅新聞社
(33)甲第33号証 : 請求人作成資料
(34)甲第34号証 : ダウ加工業株式会社HPの写し
(35)甲第35号証 : 特許法概説[第13版](平成13年6月20日)有斐閣107、112-115ページ
(36)甲第36号証 : 請求人作成資料
(37)甲第37号証 : 上道電気工業株式会社、代表理事 李 七相 宛 ファックス写し(平成13年12月22日)
(38)甲第38号証 : 上道電気工業株式会社カタログ(1999.9.1)
(39)甲第39号証 : 発注書、梱包明細書、請求書の写し
(40)甲第40号証 : 韓星エナーテック株式会社の商業登記簿(履歴事項全部証明書)
(41)甲第41号証 : エナーテック株式会社の商業登記簿(履歴事項全部証明書)
(42)甲第42号証 : 韓星エナーテック株式会社「深夜電力利用/電気蓄熱床暖房システム 技術資料(設計・プラン・施行の手引き)」(平成11年10月現在)(抜粋)
(43)甲第43号証 : 山形県白鷹町公報「しらたか」JUN 2007 No.970(抜粋)
(44)甲第44号証 : 登録実用新案第3134351号公報
(45)甲第45号証 : 特開2010-27315号公報

第4 被請求人主張の概要
被請求人は、答弁書において「本件請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書を総合すると、概略次のとおり主張する。

1.請求人の主張する無効理由1及び2について
そもそも、甲第1号証は本件特許出願日以降に頒布されたものであり、引用文献になり得ない。
仮に、甲第1号証が公知であったとしても、甲第1号証には、「熱損失係数1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃の高断熱・高気密住宅」との記載に関する点、1回のコンクリート打設によりシーズヒータユニットを埋設する点、通気孔として開閉可能なスリットを設けている点については開示されていない。
(1)「熱損失係数1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃の高断熱・高気密住宅」との記載について
甲第1号証には、「熱損失係数1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃」との記載、及び「高断熱・高気密住宅」との記載はない。
本件特許発明は、高断熱・高気密住宅において効果を奏するものであり、「熱損失係数1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃」との記載は、「高断熱・高気密住宅」を明らかにしたものである。
(2)1回のコンクリート打設によりシーズヒータユニットを埋設する点
甲第1号証には、1回のコンクリート打設によりシーズヒータユニットを埋設するとの記載はない。また、甲第10号証のカタログの発行は2006年7月以降であり、本件特許出願後に発行されたものである。したがって、甲第1号証の表紙にコンクリートを流し込んでいる写真が掲載されているからといって、甲第1号証に「1回のコンクリート打設」について記載があるとはいえない。
本件特許発明におけるシーズヒータユニットを使用することで、1回の打設により、容易にコンクリート内に埋設することが可能となる。そして、1回打設であるから、コンクリート層の強度が強く、該コンクリート層が基礎部の一部を兼ねることも可能となるのである。この点については、甲第1号証には記載はない。
(3)開閉可能なスリットについて
甲第1号証には、「開閉可能なスリット」に関する記載はない。つまり、甲第1号証に記載の構成では、本件特許発明が目的とする床下と室内の自然対流を可能とし、かつ建物内の温度の調整を可能とするということが容易にはできない。
(4)請求項2について
本件特許発明は、表面温度が23?38℃である蓄熱層であるコンクリート層からの放熱によって従来に比して低温な熱により暖房を行うのであり、これにより室温を18?23℃、床面温度を20?25℃に保つことで、従来に比して低温な暖房であっても十分な暖房を可能とするとともに、過加熱や過乾燥を防止することができるのである。
そのために、蓄熱装置において、コンクリート層の厚さ150?200mm、各ヒータの配置間隔130?200mm、深夜電力を通電するヒータを5時間通電用か8時間通電用からそれぞれ選択して構成するのである。
以上、請求項1及び請求項2に係る発明は、家屋の一部である土間基礎を蓄熱体として、基礎部や床下空間及び家屋とが一体化した蓄熱式床下暖房システムであって、請求項1の構成要件すべてを満たすことによって、従来に比して低温な暖房を可能とするなどの効果を奏し、請求項2の構成要件を満たすことによってよりその効果を得られるものである。

したがって、請求項1及び請求項2に係る発明の構成及び効果は、甲第1号証の記載に基づいて容易に想到できるものではない。

[証拠方法]
(1)乙第1号証 : 平成14年6月25日付け「納品書」コロニー印刷
(2)乙第2号証 : 平成14年6月25日付け「請求書」コロニー印刷
(3)乙第3号証 : 平成14年7月31日付け「領収書」コロニー印刷
(4)乙第4号証 : 平成22年12月22日付け「平成14年6月25日付け納品について」社会福祉法人山形県コロニー協会
(5)乙第5号証 : 平成22年12月24日付け「陳述書」エナーテック株式会社 高橋充
(6)乙第6号証 : 平成22年12月24日付け「陳述書」エナーテック株式会社 高橋充
(7)乙第7号証 : 平成14年8月30日付け「納品書」株式会社アイン企画
(8)乙第8号証 : 平成18年7月31日付け「納品書」株式会社アイン企画
(9)乙第9号証 : 平成22年12月24日付け「陳述書」エナーテック株式会社 高橋充

第5 本件特許発明
前記「第2」で述べたとおり、平成22年7月20日付けの訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、前記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された以下の事項により特定されるものである(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)。

「【請求項1】
熱損失係数が1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃の高断熱・高気密住宅における布基礎部を、断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を確保した上で、該布基礎部内の地表面上に防湿シート、断熱材、蓄熱層であるコンクリート層を積層し、蓄熱層には深夜電力を通電して該蓄熱層に蓄熱する発熱体が埋設された暖房装置を形成し、蓄熱層からの放熱によって住宅内を暖める蓄熱式床下暖房システムにおいて、布基礎部と土台とを気密パッキンを介して固定してより気密を高め、ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、ステンレスパイプと鉄クロム線の間を酸化マグネシウムで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンチューブで被覆してなるヒータ部を、銅線を耐熱ビニールで被覆してなるリード線で複数本並列若しくは直列に接続してユニット化されたコンクリート埋設用シーズヒータユニットが、配筋時に配筋される金属棒上に戴架固定後、1回のコンクリート打設によりコンクリート層内に埋設され、該シーズヒータはユニット又は複数のユニットからなるブロックごとに温度センサーの検知により制御され、さらに床面の所定位置には室内と床下空間とを貫通する通気孔である開閉可能なスリットを形成し、蓄熱された熱の放射により床面を加温するとともに、加温された床面からの二次的輻射熱と、床下空間の加温された空気がスリットを介して室内へ自然対流する構成とすることで、居住空間を24時間低温暖房可能で暖房を行うことを特徴とする蓄熱式床下暖房システム。
【請求項2】
室内温度設定を18?23℃、床面の温度設定を20?25℃、コンクリート層の表面温度設定を23?38℃とするために、施工する住宅の構造等に応じて、コンクリート層の厚さを150?200mm、各ヒータの配置間隔を130?200mm、深夜電力を通電するヒータを5時間通電用か8時間通電用からそれぞれ選択し埋設して構成される請求項1記載の蓄熱式床下暖房システム。」

第6 甲各号証について
1.甲第1号証
甲第1号証は被請求人作成の「深夜電力利用 電気蓄熱床暖房システム 技術資料」であり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「一日中、いつも安定した、快適な暖かさ。
シーズヒーターで温めますので、安全、クリーンです。
さらに、長寿命、メンテナンスフリー。
しかも、業界初5時間通電対応床暖房で、更にお得な維持費で納得。
1.エナーテック床暖房の特長
◇安全・クリーン・快適
◎電気式ですので安全・クリーンです。
◎燃焼を伴わないので、酸欠やガス中毒の心配がありません。
◎騒音や送風もありません。
◇ランニングコストがお得
◎割安な深夜電力利用ですので、維持費が大変お得です。
◎5時間通電機器として、時間帯別電灯契約に加入されると、更に割引の特典がありお得です。
◇24時間快適暖房
◎寒い早朝から深夜まで、快適な暖房が得られます。
◎輻射熱暖房ですので、ひだまりのような安定した快適暖房です。
◇メンテナンスフリー・長寿命
◎ボイラーを使用しませんので、全くメンテナンスは必要ありません。
◎発熱体はシーズヒーター使用ですので、家の寿命よりさらに長い長寿命です。
◇施行、操作が簡単
◎合理的なユニット式ですので、施行が簡単です。
◎また、シーズン始めと終わりにスイッチon/off操作だけでの簡単操作です。」(1ページ、下線は当審で付与。以下、同様。)
(2)「(2)シーズヒーターユニット仕様
・シーズヒーターユニット仕様(5時間通電対応)(表省略)
・シーズヒーターユニット仕様(8時間通電対応)(表省略)」(3ページ)
(3)「(2)電源からヒーターまでの系統図
・・・
注意
・コントローラー1回路につき、センサーを必ず敷設して下さい。
センサーは保護管(鉄製)の中に入れて下さい。」(7ページ)
(4)「8.施工手順
・・・
(1)下部施行(防湿シートと断熱材敷設)
→ 防湿シート敷設
・防湿シートの厚さは0.1mm以上のものを敷設して下さい。
→ 断熱材(発砲ポリスチレン等)敷設
・断熱材の密度は30Kg/m^(2)以上で、厚さは50mm以上のものを使用して下さい。
・壁面側にも必ず断熱材を敷設して下さい。
・断熱材の繋ぎ部分はテープを使用して密封して下さい。
(2)蓄熱層工事(1期)
→ 砂利、砂ないしコンクリートの蓄熱層打設
・右図の3通りの中から蓄熱層を選択して下さい
・蓄熱層全体の厚さは、200mmですが、ここでの工事はヒーター敷設の為、その半分(120?130mm)の厚さの工事をします。
・必ず、ヒーターの位置まで蓄熱層の工事をして下さい。
・蓄熱層に砂利採用の場合、4?5mm程度の小石(山砂利)を使用し、砂等で固めて下さい。
・砂利、砂は乾燥したものを使用して下さい。
砂利、砂が乾燥するまで水蒸気が発生し結露します。
注意1 コンクリート蓄熱層の場合は、ヒーター検査には、蓄熱層打設中も行なう等細心の注意が必要です。
注意2 コンクリート蓄熱層は、打設後のヒーターの交換は不可能になりますのでご注意下さい。
(3)ヒーター敷設前と敷設後のヒーター検査
・・・
(4)ヒーターの敷設
→ 鉄筋もしくはワイヤメッシュの敷設
・結束線で鉄筋とヒーター先端にある保護管とを固定して下さい。
・ヒーターは地面から浮かさないで下さい。
→ ヒーター敷設
・ヒーターパイプ間の間隔
5時間通電→140?160mm
8時間通電→230?250mm
・ヒーターと壁との間隔150mm以上。
・ヒーターパイプどうしが重なったり、またヒーターと絶縁電線が重ならないようご注意下さい。
・工事の際は、ヒーターと絶縁電線を踏みつけないで下さい。また、絶縁電線を途中で切断したり、引っ張る等絶対にしないで下さい。
(5)リード線処理
・・・
(6)温度コントローラセンサーの保護管敷設
→ 温度コントローラ用センサーの保護管敷設
・センサーを入れる保護管は、ヒーターとヒーターの中間にし、且つヒーターと同一方向に敷設します。
注意 5時間通電の場合、ヒーター間隔は200mmにして、その中間に保護管を敷設します。
・センサーを入れる保護管は鉄製でφ30mm以上、長さ600mm以上のものをご使用下さい。
・センサー保護管の先端部分は、コンクリートが入らないよう蓋をして下さい。
・センサー保護管は移動しないように固定して下さい。
(7)センサーの取付け(温度コントローラ用)
→ 温度コントローラセンサーの取付け
・予め(6)で敷設してあるセンサー保護管の先端まで、センサーを挿入して下さい。
・センサーの先端は、リード線から最低500mm以上で、ヒーターとヒーターの中間に設定して下さい。
・センサーは、1回路につき1つですが、予備として2本一緒に取付けて下さい。
予備センサーは、後日センサーにトラブルが発生した時の予備用です。
(8)蓄熱層工事(2期)
→ ヒーターとセンサーの敷設後、蓄熱層2期工事として、所定の残工事をして下さい。
・ヒーターとリード線に損傷しないよう作業上の注意と監視を十分行なって下さい。
・やむを得ず、ヒーターを地面から浮かした状態で2期工事をする場合、足場を作り、直接ヒーターやリード線に上がらないようにして下さい。
・スコップやハンマー等でヒーターやリード線を傷つけたり、足でヒーターとヒーターを繋ぐ絶縁電線を引っ掛けたり、また、ヒーターと絶縁電線を踏みつけないで下さい。
(9)ヒーターの中間検査
・・・
(10)電気工事(コントローラボックス、センサー及びヒーターとの結線)
・・・
(11)モルタル施行(床土間蓄熱方式の場合)
・・・
(12)表面材の仕上げ
・・・
(13)完成検査
・・・」(11?14ページ)
(5)「9.家屋構造及び補助暖房について
(1)家屋構造
家屋の構造については断熱及び気密を充分確保して下さい。
断熱と気密が不充分ですと床暖房の効率が悪くなり、充分な温かさが得られなくなります。
(2)家屋の土台、柱等の構造材、床材等は乾燥した材料を使用して下さい。
畳は床暖房用のものをご使用して下さい。
★断熱材付き畳は、使用を避けて下さい。
(3)床暖房方式のご注意
○1床下から温める暖房方式は、布基礎の外側から屋根裏まで断熱材を施す外断熱工法に限ります。
布基礎の断熱は内と外の両側に敷設して下さい。
○2床下から温める暖房方式は、布基礎と土台の接点にゴムパッキンを施す等して隙間を無くす必要があります。
○3床下空間から1階2階へ暖かい空気を移動する為に、基本的に各部屋の窓側に、大きな吹出口(ガラリ)を設けて下さい。
更に、階段下等の床面を利用して、大きな開口部を設けて下さい。家屋全体に暖かい空気の流れをよくするために必要です。」(15ページ、なお、「○数字」は丸付き数字である。)
(6)「安全に関するご注意
・工事される前「技術資料」をよくお読みの上、正しい施行を実施して下さい。
誤施行の場合、感電、発火の原因になります。
・・・
・放熱状態のまま床暖房部に長時間お休みにならないで下さい。低温やけどの恐れがあります。
・床暖房部に木製家具やピアノ等を置かないで下さい。熱によるひずみ、反りが発生する恐れがあります。
・・・・
・商品改良のため、仕様・外観は予告なしに変更することがありますのでご了承下さい。
・この技術資料の内容は、平成13年3月現在のものです。」(最終ページ)
(7)上記(5)の「家屋の構造については断熱及び気密を充分確保して下さい。断熱と気密が不充分ですと床暖房の効率が悪くなり、充分な温かさが得られなくなります。」によれば、電気蓄熱床暖房システムは高断熱・高気密家屋に用いられるシステムということができ、また、「床下から温める暖房方式は、布基礎の外側から屋根裏まで断熱材を施す外断熱工法に限ります。布基礎の断熱は内と外の両側に敷設して下さい。」によれば、布基礎部は断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を有するものということができる。
(8)1ページの「床下土間蓄熱方式(外断熱工法)の場合」の概念図、6ページの「5時間通電対応施工断面図の『・床下土間蓄熱式断面図(外断熱工法)の場合』」の断面図及び「8時間通電対応施行断面図の『・床下土間蓄熱式断面図』」の断面図、15ページの「床下構造図」及び上記(4)の記載によれば、電気蓄熱床暖房システムは布基礎部内の地表面上に防湿シート、断熱材、コンクリート蓄熱層を積層し、蓄熱層にはシーズヒータを埋設するものである。また、各図面には、床面に1階室内と床下空間とを貫通する通気孔であるガラリが設けられることが示されている。また、ガラリが設けられるのは床面の所定位置であることは明らかである。
(9)2ページの「3.床暖房の主要部材」の「(1)シーズヒータの名称及び断面」の図面によれば、シーズヒータは「保護管であるステンレスパイプに発熱体である鉄クロム線を入れ、その間を絶縁体である酸化マグネシアで充填し、ステンレスパイプの外側をチューブであるポリプロピレンで覆ったもの」、すなわち、「ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、その間を酸化マグネシアで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンで覆ったもの」であり、リード線は「導体である銅より線をシースである耐熱ビニールで覆ったもの」、すなわち、「銅より線を耐熱ビニールで覆ったもの」であり、また、シーズヒーターユニットはシーズヒーターをリード線で複数本直列に接続したものであるといえる。
(10)上記(4)の「8.施工手順」によれば、蓄熱層工事(1期)で半分の厚さの工事の後、ヒーターユニットが鉄筋に結束線で固定され、蓄熱層工事(2期)で残りの厚さの工事が行われるものであり、コンクリート打設は2回ということができる。
(11)7ページの「(2)電源からヒーターまでの系統図」及び上記(3)の記載事項によれば、コントローラ1回路ごとにセンサーが設けられるものである。また、2ページの「2.床暖房システム構成」の図面及び7ページの「(2)電源からヒーターまでの系統図」を併せて考察すると、コントローラ1回路は単一のヒーターユニット又は複数のヒーターユニットからなるものといえる。そして、2ページの「2.床暖房システム構成」には、センサーが温度センサーと過昇温防止センサーからなることが示されており、また、このセンサーの検出、すなわち、温度センサーの検出によりシーズヒータが制御されることは明らかである。
(12)上記(5)の「床下空間から1階2階へ暖かい空気を移動する為に、基本的に各部屋の窓側に、大きな吹出口(ガラリ)を設けて下さい。」によれば、床下空間の加温された空気が通気孔であるガラリを介して室内へ自然対流するものといえる。

上記記載事項、上記認定事項及び図示内容を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「高断熱・高気密家屋における布基礎部を、断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を有するものとし、該布基礎部内の地表面上に防湿シート、断熱材、コンクリート断熱層を積層し、蓄熱層には深夜電力を利用して該蓄熱層に蓄熱するシーズヒータが埋設された床暖房装置を形成し、蓄熱層からの放熱によって部屋内を暖める電気蓄熱床暖房システムにおいて、
布基礎部と土台の接点にゴムパッキンを施し隙間を無くし、ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、その間を酸化マグネシアで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンで覆ったシーズヒータを、銅より線を耐熱ビニールで覆ったリード線で複数本直列に接続してシーズヒーターユニットとし、シーズヒーターユニットが鉄筋に結束線で固定され、2回のコンクリート打設によりコンクリート層内に埋設され、該シーズヒータは単一のヒーターユニット又は複数のヒーターユニットからなるコントローラ1回路ごとに温度センサーの検出により制御され、さらに床面の所定位置には1階室内と床下空間とを貫通する通気孔であるガラリが設けられ、輻射熱暖房と、床下空間の加温された空気がガラリを介して室内へ自然対流することで、24時間ひだまりのような暖房を行う電気蓄熱床暖房システム。」

2.甲第2号証
甲第2号証は、2002年2月5日(平成14年2月5日)発行の「北海道住宅新聞」の第6面であって、「経済的な土間コン電気蓄熱暖房 販売代理店を募集 耐久性に優れメンテも不要」との見出で、図面とともに、以下の記載がある。
(1)「エナーテック(株)(山形市)では、床下からの輻射熱による穏やかな暖かさや低いイニシャル・ランニングコストなどが好評の暖房システム「エナーテック式エコロジー・エコノミー蓄熱床下暖房システム」の部材販売を行う販売代理店の募集をこのほど開始した。」
(2)「この暖房システムは、一階床下の土間または基礎断熱を施した床下の抑えコンクリートにシーズヒーターを埋設し、深夜電力を利用してコンクリートに蓄熱した熱で室内を暖房する方式。電気熱源による安全性の高さはもちろんのこと、床下からの輻射熱によって自然で快適な暖かさを得られるほか、イニシャルコストはシーズヒーターをユニット化するなどシンプルで合理的なシステムとすることにより、施工面積一坪当たり二万円(施工費除く)と低価格を実現。ランニングコストも深夜電力の利用と五時間通電への対応によって、より低く抑えることが可能だ。
また、メンテナンスは全く必要なく、システムの寿命も百年以上と、高耐久化が進む現在の住宅に適したシステムであることも魅力の一つで、これまで東北地方において多くの採用実績がある。
施工は、防湿・断熱した地盤面に配筋を行ってからシーズヒーターユニットを敷設・結線し、コンクリートを一〇〇?一五〇ミリ打設。後は室内に取り付ける温度コントローラーと配線するだけで、必要に応じて二階に補助暖房を設置する。蓄熱量は温度コントローラーによって最大七回路まで、それぞれ三段階に調節できる。
問い合わせは同社(山形市久保田二丁目一六番一二号・・・」
(3)「大好評につき 販売代理店募集
エナーテック式エコロジー・エコノミー深夜電力利用蓄熱床下暖房システムオール電化住宅の新しい暖房システム
・・・
東北地方中心に実績が多数あります。
問い合わせ先
エナーテック株式会社」(下段の公告欄)

3.甲第3号証
甲第3号証は被請求人作成の「深夜電力用 電気蓄熱床暖房システム」のカタログであり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「 ランニングコストがお得
割安な深夜電力利用で、維持費が断然お得です。
5時間通電機器として、時間帯別電灯Aに加入すると更に割引の特典があり、お得です。・・・
メンテナンスフリーと長寿命
電気式ですので、メンテナンスフリー、しかもシーズヒータ使用ですので、長寿命です。」(「おすすめポイント」欄)
(2)「このカタログの記載内容は2000年12月現在のものです。」(末尾)
(3)図面として、「床下土間蓄熱方式断面図」、「シーズヒーターユニット図」及び「施行断面図」が記載されている。

4.甲第17号証
甲第17号証は被請求人作成の「深夜電力 エコロジー・エコノミー 床暖房システム」のカタログであり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「 安全・クリーン・快適
・・・
メンテナンスフリー・長寿命
・ボイラーを使用しませんので、全くメンテナンスは必要ありません。
・発熱体はシーズヒーター使用ですので、家の寿命よりさらに長い長寿命です。」(「おすすめポイント」欄)
(2)「このカタログの記載内容は20001年11月(「2001年11月」の誤記と認める。)現在のものです。」(末尾)
(3)図面として、「シーズヒーターユニット図」及び「施工断面図(床下土間蓄熱方式断面図)」が記載されている。

5.甲第18号証
甲第18号証は被請求人作成の「深夜電力 エコロジー・エコノミー 床暖房システム」のカタログであり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「安全・クリーン・快適
・・・
メンテナンスフリー・長寿命
・ボイラーを使用しませんので、全くメンテナンスは必要ありません。
・発熱体はシーズヒーター使用ですので、耐用年数が100年以上と非常に長い長寿命です。」(「おすすめポイント」欄)
(2)「このカタログの記載内容は2002年9月現在のものです。」(末尾)
(3)図面として、「シーズヒーターユニット図」及び「施工断面図(床下土間蓄熱方式断面図)」が記載されている。

6.甲第29号証
甲第29号証は被請求人作成の「深夜電力利用 電気蓄熱床/床下暖房システム 技術資料」であり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「◇安全・クリーン・快適
・・・
◇メンテナンスフリー・長寿命
◎ボイラーを使用しませんので、全くメンテナンスは必要ありません。
◎発熱体はシーズヒーター使用ですので、耐用年数100年以上の長寿命です。」(1ページ「1.エナーテック床暖房の特長」欄)
(2)「・この技術資料の内容は、平成14年5月現在のものです。」(最終ページ、末尾)
(3)図面として、「ヒーターユニット展開図」(2ページ「3.床暖房の主要部材」の欄)及び「断面図(床下土間蓄熱式断面図)」(6ページ「4.施工断面図」5時間通電対応施工断面図及び8時間通電対応施工断面図の欄)が記載されている。

7.甲第16号証
甲第16号証は韓星エナーテック株式会社作成の「深夜電力用 電気蓄熱床暖房システム」のカタログであり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「 ランニングコストがお得
・・・
メンテナンスフリーと長寿命
電気式ですので、メンテナンスフリー、しかもシーズヒーターで長寿命です。」(「おすすめポイント」欄)
(2)「このカタログの記載内容は1999年9月現在のものです。」(末尾)
(3)図面として、「床下土間蓄熱方式断面図」(全館暖房事例の欄)及び「シーズヒーターユニット図」が記載されている。

8.甲第28号証
甲第28号証は韓星エナーテック株式会社作成の「深夜電力利用 電気蓄熱床暖房システム 技術資料」であり、図面、写真、表、グラフとともに、以下の記載がある。
(1)「◇温度分布が均一です。
・・・
◇メンテナンスフリー・長寿命
◎ボイラーを使用しませんので、全くメンテナンスは必要ありません。
◎しかも、発熱体はシーズヒーター使用ですので、長寿命です。」(1ページ「1.エナーテック床暖房の特長」欄)
(2)「技術資料の内容は、平成11年10月現在のものです。」(最終ページ)
(3)図面として、「基礎断熱工法の断面図(2ページ、「2.床暖房事例」の欄)及び「シーズヒーター構成図とその名称(例:HM-10)」(3ページ「4.床暖房の主要部材」の欄)が記載されている。

9.甲第7号証
甲第7号証(特開平11-93109号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
(1)「次に図4を参照して、熱線反射断熱シート5上に部分的に適切な高さのブロック36を置き、そのブロック36を台として、鉄筋4を格子状に敷設する。その後、その鉄筋4に接触するようにヒーティングケーブル9を敷設する。
ヒーティングケーブル9は、図5に示すように、保護用銅チューブ管9cにニクロム線などの電導線9aを挿通するとともに、保護用銅チューブ管9c内に充填された絶縁用の酸化マグネシウム9bによって両者が電気的に絶縁されている。保護用銅チューブ管9cには、腐食防止用ビニール被覆9dが形成されている。
次に図6および図7を参照して、縁石35を形成するとともに、鉄筋4およびヒーティングケーブル9を埋込むように熱線反射断熱シート5上にコンクリート11を打設し、溝3を埋込む。これにより、鉄筋4およびその鉄筋4に接するヒーティングケーブル9を埋設したコンクリート発熱板13が形成される。」(段落【0038】?【0040】)
(2)「【0049】さらに、上述した施工方法によれば車道および歩道に限られず、たとえば、図10に示すように、建物の玄関付近やその階段部分にも適用することができる。」(段落【0049】)

10.甲第9号証
甲第9号証(特開平5-311768号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
(1)「【産業上の利用分野】本発明は家屋、特に高断熱、高気密家屋において、特に結露防止を図った家屋に関するものである。」(段落【0001】)
(2)「【実施例】以下に図面を用いて本発明に係る家屋の一実施例について詳細に説明する。すなわち、図1、図2は本発明に係る家屋Aの原理を説明する概略図であり、1は小屋裏空間、2は居住空間、3は床下空間である。
・・・
20は通気口で、内壁19、床18、天井17等に形成し、居住空間2と床下空間3、小屋裏空間1、壁内空間7を連通化し、床下空間暖房部8によって加温された空気の一部を直接居住空間2へ取り入れるためのものである。特に通気口20を図1のように窓21の下部に設けた場合は居住空間2に床下空間暖房部8で加温された空気を直接取り入れると共に、壁内空間7を上昇する空気が窓21によって上昇を止められ、停滞するのを防止し、内壁19の温度ムラを阻止するためのものである。なお、通気口20にはルーバー、開閉機構、ファン等を内蔵することも可能である。」(段落【0005】?【0013】)

11.甲第22号証
甲第22号証(登録実用新案第3038324号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
(1)「【考案の属する技術分野】
本考案は、空気循環式建物、更に詳しくは、建物内の部屋を囲う通路に強制循環される冷気または暖気による人工的な冷暖房機構と、その循環空気の自然対流を利用した冷暖房機構とを巧みに組み合わせて、建物内の部屋の最適な温度調節を効率よく行うことができる空気循環式建物に関するものである。」(段落【0001】)
(2)「【考案の実施の形態】
以下、本考案を添附図面に示す実施形態に基いて更に詳しく説明する。なお、図1は本考案の実施形態である空気循環式建物の内部における暖気の流れの一例を示した全体説明図である。
・・・
符号4で指示するものは、部屋Rの上方に配設された上部通気口であり、符号5で指示するものは、部屋Rの下方に配設された下部通気口である。これら上部通気口4および下部通気口5は開閉操作可能に形成されており、前記空調機3にてエア通路2内を強制循環する温調空気を各通気口4・5から取り入れ可能となっている。これにより、暖房時には下部通気口5を開放して其処からエア通路2内の暖気を取り入れると、図1の矢印で示すように、当該暖気が部屋Rの下部通気口5から上方へ向けて自然対流により上昇して部屋R内を直接効率よく暖房することができる。一方、冷房時には上部通気口4を開放して其処からエア通路2内の冷気を取り入れると、当該冷気が部屋Rの上部通気口4から下方へ向けて自然対流により下降して(図示せず)、部屋R内を冷房することができる。なお、本実施形態においては、上部通気口4として開閉式換気扇、下部通気口5として開閉式断熱タイプの通気ガラリを採用している。」(段落【0007】?【0011】)

第7 当審の判断
1.甲第1号証
(1)被請求人の主張に対して
被請求人は、乙第1ないし9号証を提出して、甲第1号証は、本件特許の出願日である平成14年5月2日以降に頒布された旨主張している。
まず、乙第1ないし3号証により、甲第1号証の納品日が平成14年6月25日であると主張しているが、乙第1及び2号証には「システム技術資料 初版代」と記載されているだけあり、この「システム技術資料」と甲第1号証である「深夜電力利用電気蓄熱床暖房システム技術資料」の関係が明らかでなく、乙第1ないし3号証から、甲第1号証の納品日が平成14年6月25日であると直ちに認めることはできない。
また、乙第4号証には、乙第1及び2号証は甲第1号証500部と甲第29号証1000部の2種類の納品である旨が記載されているが、版の異なる技術資料の納品をまとめてするなら、少なくともその内訳は明記されるはずであり、その旨の記載のない乙第1及び2号証が乙第4号証に記載された取引のものであるとは認めることができない。しかも、技術資料としての目的、すなわち、工事の施工者や施工主が使うものであることからみて、同じような内容である甲第1号証の技術資料(平成13年3月現在)と甲第29号証の技術資料(平成14年5月現在)を同時に納品させるようなことは通常考えられない。
さらに、乙第9号証において、甲第28号証をまとめたのが平成14年6月頃で、これ等を参考にして出来たのが平成14年5月現在の技術資料(甲第1号証、甲第29号証)である旨、及び、平成14年6月25日に甲第1号証と甲第29号証を納品してもらった旨述べているが、甲第2号証の記事内容(販売代理店の募集、販売実績がある)からみて、既に販売しているものの技術資料が存在しないようなことは、通常考えられず、乙第9号証の内容は信用できない。また、乙第5、6、9号証において、甲第28号証は、自分のワープロ専用機で作成したもので、頒布を目的に作成したものではない旨述べているが、甲第28号証には、頒布を目的としたものとしか考えられない記載(例えば、価格の記載等)が多数見受けられ、また、1999年9月現在のものとされる韓星エナーテック株式会社のカタログ(甲第16号証)を製作していることからみて、平成14年に「韓星エナーテック株式会社」名の技術資料をまとめる理由もなく、乙第5号証及び乙第6号証の内容も信用できない。
そして、乙第6ないし8号証によれば、「2006年7月(平成18年7月)現在」と記載されている甲第10号証の納品日が平成18年7月31日、「2002年9月(平成14年9月)現在」と記載されている甲第18号証の納品日が平成14年8月30日、さらに、乙第1、2、4、9号証によれば、「平成14年5月現在」と記載されている甲第29号証の納品日が平成14年6月25日、であると被請求人自ら述べている。してみると、被請求人の作成した技術資料、カタログは、そこに記載された「・・・現在」と記載される頃に納品されたものと推定することができ、甲第1号証のみが大きく異なることは不自然である。
また、被請求人のカタログも、甲第3号証、甲第17号証、甲第18号証、甲第10号証のように頻繁に更新され、そのたびに「・・・現在」を更新していることからも、被請求人の作成した技術資料、カタログはそこに記載された「・・・現在」とされる頃に納品されたものと推定できる。
したがって、乙第1ないし9号証によっては、甲第1号証が平成14年6月25日以降に頒布されたものとは認めることができない。

(2)頒布時期
甲第1号証は被請求人の作成した技術資料であるところ、その内容からみて販売代理店、施工者及び施工主に、秘密を守る義務のない態様で配布されたものと認められるが、その頒布日については明らかでない。そして、甲第1号証には、「この技術資料の内容は、平成13年3月現在のものです。」との記載があり、この記載からみて、上記(1)で述べたように平成13年3月頃に納品されたものであると推定できる。
そして、甲第2号証(「北海道住宅新聞」2002年2月5日発行)には、被請求人が、甲第1号証にも説明されている「床下土間蓄熱方式」を含む蓄熱式床暖房システムの部材販売を行う販売代理店を募集していたこと、及び、蓄熱床暖房システムの販売実績があることが記載されている。また、甲第3号証(2000年12月現在)及び甲第17号証(2001年11月現在)には、「床下土間蓄熱方式」についての説明がある。甲第3号証や甲第17号証のようなカタログは蓄熱式床暖房システムの販売に用いられるものであり、甲第2号証の記載を裏付けるものといえる。さらに、甲第2号証で使われている「エコロジー・エコノミー」なる表現も甲第17号証に使われていることからも、このカタログを使用して床暖房システムを販売していたことをうかがわせる。したがって、被請求人は、平成14年2月には、蓄熱式床暖房システムの販売実績があり、また、蓄熱式床暖房システムの販売を進めていたものと認められる。
また、蓄熱式床暖房システムの施工に必要な甲第1号証のような技術資料は、販売に際して施工主、施工者に配布するものであることは明らかであり、また、甲第1号証のような技術資料を、甲第3号証や甲第17号証で床暖房システムの販売を進めていながら、配布しない理由もなく、その技術資料の納品時期から1年以上も配布されなかったとは到底認めることができない。
次に、上記(1)で述べたように、被請求人の作成した技術資料、カタログはそこに記載された「・・・現在」とされる頃に納品され、頒布されたと推定できるので、請求人の提出した被請求人の技術資料及びカタログの記載内容についても検討する。
床暖房システムの寿命に関する記載についてみてみると、甲第3号証(2000年12月現在)では、単に「長寿命」とされているが、甲第1号証では「家の寿命よりさらに長い長寿命です。」とされ、甲第17号証(2001年11月現在)も同じく「家の寿命よりさらに長い長寿命です。」とされている。そして、「北海道住宅新聞」2002年2月5日発行(甲第2号証)では、「システムの寿命も百年以上」とされ、本件特許の出願後である平成14年5月現在のものとされる甲第29号証でも「耐用年数100年以上の長寿命です。」とされ、甲第18号証(2002年9月現在)も同様に「耐用年数100年以上と非常に長い長寿命です。」とされている。これらの床暖房システムの寿命に関する記載の変遷は、各証拠の頒布時期と密接に関連すると考えられるところ、本件特許出願前である甲第2号証の発行日には床暖房システムの寿命について、それまで「家の寿命より長い」としていたものを「100年以上」と代えていることからみて、甲第1号証は甲第2号証の発行日以前に頒布されていたものと推定できる。
また、温度コントローラの仕様の温度調整についての記載については、甲第3号証では「弱・中・強」であり、甲第1号証及び甲第17号証も同じく「弱・中・強」であり、甲第2号証では「三段階に調節できる。」とされているが、甲第29号証及び甲第18号証では「0?50」とされており、各証拠の温度コントローラの仕様の変遷も各証拠に記載された「・・・現在」と矛盾するところはなく、各証拠に記載された「・・・現在」の順に、頒布されたものと推定できる。
以上を総合すると、甲第1号証は、少なくとも本件特許の出願日である平成14年5月2日前に頒布されたものと認められる。

(3)まとめ
以上のとおり、甲第1号証は、本件特許出願前に配布されたものであり、頒布された刊行物に該当するから、本件特許出願前に頒布された刊行物(特許法29条1項3号)に該当する。

2.対比
本件発明1と引用発明を対比すると、その用語の意味・内容・機能・構成からみて、
後者の「高断熱・高気密家屋」は前者の「高断熱・高気密住宅」に、以下、同様に、
「十分な気密を有するものとし」は「十分な気密を確保した上で」に、
「コンクリート断熱層」は「蓄熱層であるコンクリート断熱層」に、
「深夜電力を利用」は「深夜電力を通電」に
「シーズヒータ」は「発熱体」に、
「床暖房装置」は「暖房装置」に、
「部屋内」は「住宅内」に、
「電気蓄熱床暖房システム」は「蓄熱式床下暖房システム」に、
「コントローラ1回路」は「ブロック」に、
「1階室内」は「室内」に、
それぞれ相当する。
そして、後者の「布基礎部と土台の接点にゴムパッキンを施し隙間を無く」すことは、布基礎部と土台の間の気密を高めるためにゴムパッキンを介在させることであるから、前者の「布基礎部と土台とを気密パッキンを介して固定してより気密を高め」ることに相当する。
また、後者の「ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、その間を酸化マグネシアで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンで覆ったシーズヒータ」は、前者の「ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、ステンレスパイプと鉄クロム線の間を酸化マグネシウムで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンチューブで被覆してなるヒータ部」に相当し、同様に、
「銅より線を耐熱ビニールで覆ったリード線」は、「銅線を耐熱ビニールで被覆してなるリード線」に相当し、
「シーズヒータ」を「リード線」「で複数本直列に接続してシーズヒーターユニット」は、「ヒータ部」を「リード線」「で複数本並列若しくは直列に接続してユニット化されたコンクリート埋設用シーズヒータユニット」に相当する。
そして、後者の「ガラリ」は通気孔として加温された空気を室内へ自然体流させるものであるから、前者の「スリット」に相当する。
また、後者において「輻射熱暖房」は蓄熱された熱の放射により床面が加温され、加温された床面からの二次的輻射熱であることは明らかであり、後者において「ひだまりのような暖房」は「低温暖房」ということができる。

そうすると、本件発明1と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「高断熱・高気密住宅における布基礎部を、断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を確保した上で、該布基礎部内の地表面上に防湿シート、断熱材、蓄熱層であるコンクリート層を積層し、蓄熱層には深夜電力を通電して該蓄熱層に蓄熱する発熱体が埋設された暖房装置を形成し、蓄熱層からの放熱によって住宅内を暖める蓄熱式床下暖房システムにおいて、
布基礎部と土台とを気密パッキンを介して固定してより気密を高め、ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、ステンレスパイプと鉄クロム線の間を酸化マグネシウムで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンチューブで被覆してなるヒータ部を、銅線を耐熱ビニールで被覆してなるリード線で複数本並列若しくは直列に接続してユニット化されたコンクリート埋設用シーズヒータユニットが、コンクリート層内に埋設され、該シーズヒータはユニット又は複数のユニットからなるブロックごとに温度センサーの検知により制御され、さらに床面の所定位置には室内と床下空間とを貫通する通気孔であるスリットを形成し、蓄熱された熱の放射により床面を加温するとともに、加温された床面からの二次的輻射熱と、床下空間の加温された空気がスリットを介して室内へ自然対流する構成とすることで、居住空間を24時間低温暖房で暖房を行う蓄熱式床下暖房システム。」

<相違点1>
高断熱・高気密住宅について、本件発明1では「熱損失係数が1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃」のものであるのに対して、引用発明では熱損失係数が特定されていない点。

<相違点2>
シーズヒーターユニットのコンクリート層内への埋設が、本件発明1では「配筋時に配筋される金属棒上に戴架固定後、1回のコンクリート打設により」行われるのに対し、引用発明では「鉄筋に結束線で固定され」るものの「2回のコンクリート打設により」行われる点。

<相違点3>
通気孔であるスリットが、本件発明1では「開閉可能なスリット」であるのに対し、引用発明では「ガラリ」であり、開閉可能であるか否か不明な点。

3.相違点の判断
(1)相違点1について
本件特許に係る無効審判(無効2008-800233)の審決取消判決で熱損失係数に関する特定は、「本件発明の解決課題及び解決手段に寄与する技術的事項には当たらない事項について、その範囲を明らかにするために補足した程度にすぎない場合というべきであるから、結局のところ、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入していない場合とみるべきであり」と判断され、また、「仮に、本件補正によって付加された事項が技術的内容を含んでいると解したとしても、本件出願当初明細書には『熱損失係数が1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃』における数値が明示されているわけではないが、本件発明の課題解決の対象である『高断熱・高気密住宅』をある程度明りょうにしたにすぎないという意味を超えて、当該数値に本件発明の解決課題及び解決手段との関係で格別な意味を見いだせない本件においては、その付加された事項の内容は、本件出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないといえる。」と判断された。
このことからみて、高断熱・高気密住宅の熱損失係数を「1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃」の範囲と特定することは、蓄熱式床下暖房システムの効率を考慮して、当業者が適宜設定し得た事項にすぎず、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
甲第7号証には、「鉄筋4およびヒーティングケーブル9を埋込むように熱線反射断熱シート5上にコンクリート11を打設」する施工方法が記載されており、この施工方法は「ヒーティングケーブルの1回のコンクリート打設による埋設」(以下「甲7号証記載の事項」という。)といえるものである。また、甲第7号証には、この施工方法は建物においても適用することが記載されている。そして、甲第7号証のヒーティングケーブル9は、「保護用銅チューブ管9cにニクロム線などの電導線9aを挿通するとともに、保護用銅チューブ管9c内に充填された絶縁用の酸化マグネシウム9bによって両者が電気的に絶縁され」、「保護用銅チューブ管9cには、腐食防止用ビニール被覆9dが形成され」るものであって、引用発明の「シーズヒータ」と同様の構造を有するものであるから、引用発明の「シーズヒータの埋設に甲7号証記載の事項を適用することは、当業者が容易に成し得たことである。
したがって、相違点2に係る本件発明1の特定事項とすることは、甲7号証記載の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
甲第9号証には、高断熱、高気密の家屋において、床下暖房の熱を開閉可能な通気口を通して取り入れることが記載されており、また、甲第22号証には、建物内の空気循環のために設けた通気口に開閉式の通気ガラリを採用することが記載されているように、建物に通気孔として設けられた開口やガラリに開閉機構を設けることは、特別な構造といえるものではなく、引用発明のガラリを開閉可能なものとして、相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることは、設計事項として当業者が容易に想到し得たことである。

(4)本件発明2について
甲第1号証には、目標とする室内温度、床面の温度、コンクリート層の表面温度については記載されていないが、蓄熱式床下暖房システムの使用に際して、最適な温度を設定することは当業者が当然行うことであり、そのために施工する住宅の構造等に応じて、コンクリート層の厚さを設定し、各ヒータの配置間隔を深夜電力を通電するヒータを5時間通電用か8時間通電用に応じて設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、本件発明2の特定事項とすることは、設計事項として当業者が容易に想到し得たことである。
なお、甲第1号証にも、コンクリート層の厚さを200mm、各ヒータの配置間隔を5時間通電用では140?160mm、8時間通電用では230?250mmとすることが記載されている。

そして、本件発明1及び2が奏する作用効果についてみても、引用発明及び甲7号証記載の事項から、当業者が予測しうる程度のものである。

したがって、本件発明1及び2は、引用発明及び甲7号証記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明1及び2は、引用発明及び甲7号証記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.請求人の主張について
請求人は上記「2.対比」で述べた相違点は形式上の相違点であって、甲第1号証には相違点とされた事項が記載されており、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明であると主張しているが、以下のとおり、請求人の主張は採用できない。
(1)熱損失係数について
熱損失係数について、確かに審決取消訴訟では、当該熱損失係数は本件明細書に記載されていると同視できるとして、その補正が新規事項に該当しないとされ、「熱損失係数の特定に本件特許発明の解決課題及び解決手段との関係で格別の意味を見いだせない本件においては、その付加された事項の内容は、本件特許出願当初明細書において既に開示されていると同視して差し支えないといえる。」と認定しているが、この判断は特許出願手続きにおける、解決課題及び解決手段との関係という前提がある特許明細書の補正に関する判断であって、甲第1号証のような技術資料における判断ではなく、甲第1号証に熱損失係数に関する事項が開示されているとはいえない。
したがって、甲第1号証に、熱損失係数が記載されているとする請求人の主張は採用できない。
(2)1回のコンクリート打設について
請求人が主張するように、表紙に記載されている写真が1回のコンクリート打設を開示するものであったとしても、同様な写真が掲載されている甲第17号証を見る限り、床土間の施工であって、本件特許発明で特定されている床下土間の施工ではない。そして、甲第1号証には、上記「第6 1.」に記載したように、蓄熱層工事を一期、二期と分けることが明記されている以上、床下土間の施工において、1回のコンクリート打設が記載されているとはいえない。
したがって、甲第1号証に、本件発明1における1回のコンクリート打設が記載されているとする請求人の主張は採用できない。
(3)開閉可能なスリットについて
開閉可能なスリットについて、請求人は甲第1号証に記載されたガラリと同じであると主張するが、「ガラリ」は少なくとも開閉しない通気孔を含むものであるから、開閉可能な通気孔と同一ではない。
したがって、甲第1号証に、開閉可能なスリットが記載されているとする請求人の主張は採用できない。
(4)まとめ
したがって、甲第1号証には、上記(1)ないし(3)の点が記載されていないから、請求人の主張する無効理由2(本件特許発明は甲第1号証に記載された発明である。)は、理由がない。

第8 むすび
以上のとおり、本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条により、被請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
高断熱・高気密住宅における深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、高断熱・高気密住宅における深夜電力を利用した床下暖房装置及び建物構造・床構造を含めた深夜電力利用の蓄熱式床暖房システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の蓄熱式の床暖房は、床材直下にコンクリート等の蓄熱層を形成し、該蓄熱体の表面若しくは内部に埋設された温水循環用の配管や電熱線の発熱により蓄熱層に熱が蓄熱され、その熱の放射により暖房を行っている。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし温水式の場合はボイラー等の燃焼装置が必要であり、ボイラー設置後もメンテナンスをしなければならないので維持費がかかるとともに、酸欠やガス中毒になる危険や、騒音がするなどの問題があった。また、床下直下に暖房装置を設置した場合には施工に手間がかかり設置費が高くなってしまい、特に線状発熱体や温水用配管を蛇行状に設置した場合は床面の温度にむらがでてしまい、また床面の温度が高く、室内上部の温度が低くなるという現象が発生してしまうため、床面温度また室内温度を均一にするには発熱温度を高く設置しなければならないので、電気代等のランニングコストもかかってしまうという問題があった。
【0004】
さらに、高床式家屋の床下空間を利用して蓄熱層を含めた暖房装置と床面の間に密閉された空間を設けたものもあるが、空気層があるために蓄熱層の温度上昇と床面の温度上昇に時間差が生じてしまい、この時間差を丁度いい時間差にするためには蓄熱層と床面の間の空間の距離を調整しなければならず、施工に手間がかかるとともに床下空間の有効利用ができていない。また、床下と室内の一体化がなく床下空間が密閉空間であるために、空間内に熱が篭ってしまい、床面の温度が高く上部が寒いというような温度差が生じる現象が発生したり、床面が高温になってしまい床面に歪みが生じてしまうという従来技術と同様の問題があった。
【0005】
本発明は、上記のような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ヒーターをユニット化しているために施工が簡単でかつヒータのメンテナンスが必要なく、例え埋設したヒータにトラブルが生じたとしてもヒータをユニット化しているため、トラブルが生じたヒータの特定が可能で、床下空間を利用してトラブルヒータの上部に砂・砂利等で形成された蓄熱層内に同じ型式のヒータユニットを埋設することで補修が容易にできる。また深夜電力を使用しているのでイニシャルコスト・ランニングコストがともに安くて省エネを図ることのできる安全でクリーンなものであって、床面を均一に加温する低温輻射暖房だけでなく、暖められた床面からの二次的輻射熱と通気孔を介して床下空間と室内空間を一体化することにより家屋全体を自然又は強制による対流暖房により室内空間に温度差のない人にストレスを与えない快適な暖房を提供することのできる深夜電力利用蓄熱式床暖房システムを提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための手段として、熱源にはユニット化されたシーズヒータを使することで施工を容易にするとともにヒータの寿命が長く、施工後のメンテナンスが容易であり、また床下空間を利用して蓄熱層と床面の間に空間を設け、床面に床下空間と室内とを貫通する通気口を形成して床面による輻射熱による暖房と、床下空間で蓄熱層の放射熱により暖められた空気が通気孔を介して床下と室内を対流して家屋全体を暖める対流暖房の2方式の暖房方法によることを特徴とする深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0008】
【実施例】
図1?4は本発明の一実施例を示したものである。
図1及び図2は本発明の床暖房システムの一実施形態の断面図及び暖房装置部の断面斜視図である。図1の床下空間は外壁8及び布基礎9の外側・内側は断熱材1bで覆われ、さらに土台21と布基礎9は気密パッキン22を介して固定されているため、建物内部と床下空間は断熱密封空間となっている。このように床下も含めた高断熱・高気密とした建物1階の地表部に防湿シート2、断熱材1a、蓄熱層としてコンクリート層3が積層され、該コンクリート層には発熱体であるユニット化されたシーズヒータ4が埋設され暖房装置部を構成している。この時、防湿シート2は0.1mm以上、断熱材1は30mm以上、コンクリート層は約150?200mmの厚さとするのが好ましい。
【0009】
また、コンクリート層3上面と床面の間には床下空間を形成するとともに、床材6には、所定位置に床面を貫通してなる通気孔7が形成されている。該通気孔7には床面上部に開閉自在な蓋体を設けることも可能であり、該蓋体が室内と床下の通気を遮断することで建物内の温度を調整できるようにする。
【0010】
図3はコンクリート内に埋設するシーズヒータ4を示した図であり、図4はシーズヒータ4のヒータ部とリード線の断面図であって、直径7.5mmのステンレスパイプ10に鉄クロム線13を入れ、ステンレスパイプと鉄クロム線の間を酸化マグネシウム12で充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンチューブ11で被覆してなるヒータ部14を銅線19を耐熱ビニール20で被覆してなるリード線15で複数本並列若しくは直列に接続してユニット化している。蓄熱層には複数のユニットを配置して、各ユニット又は複数のユニットからなるブロックごとに温度センサーを設置し、室内にはセンサーの温度感知により電源をON/OFFにする温度調整器を設置することで温度調整を行う構成とする。
【0011】
上記シーズヒータ4は蓄熱層であるコンクリート層3内に所定数埋込設定されており、この時、5時間通電の場合は、ヒータ部それぞれの間隔は140?160mmとし、厚さ200mmのコンクリート層に対し底面から100?130mm、上面から70?100mmの位置に並列配置する。該シーズヒータ4を設置する場合には、配筋時に金属メッシュ若しくは複数本並列配置した金属棒上にシーズヒータ4を戴架固定後、コンクリートを1回打設により埋設する。
【0012】
本実施例おいてはシーズヒータ4は5時間通電対応のものを使用しているが、8時間通電や10時間通電対応のもの可能であり、施工場所に応じてそれぞれヒータ部の長さ、ヒータ部の本数、ヒータ部の間隔等をかえたシーズヒータユニットを使用することができる。以下の表はそれぞれ5時間通電、8時間通電のシーズヒータユニットの構成を示したものである。
【表1】

【0013】
本実施例においては蓄熱層としてコンクリート層を使用しているが、そのほかにも砂利層を蓄熱層とすることも可能であり、砂利層・コンクリート層の2層による構成も可能である。いずれの場合もコンクリート層上面から100?120mmの位置にシーズヒータを埋設するのが好ましい。
【0014】
深夜電力の通電時間帯にシーズヒータ4に通電すると、該シーズヒータが発熱してコンクリート層を加熱して生じた熱がコンクリート層に蓄熱される。明け方には蓄熱量が所定の値に達するので通電を停止して、日中にこの蓄熱された熱の放射により暖房を行うことができる。コンクリート層から放射された熱は床面を暖めるとともに、床下空間の空気も暖め、暖められた床面の輻射熱と床下空間で暖められた空気が通気孔7を通って室内へ移動することにより室内空気の対流暖房をおこなうので、温度差のない安定した暖房が可能となる。
【0015】
グラフ1は2階建て住宅における本発明の蓄熱式床下暖房システムの床土間表面、1階室内、2階室内、外気の温度を時経的に測定した結果をグラフに表したものであって、通電時間は深夜1?6時までである。グラフからも分るように、本発明の蓄熱式床暖房システムは、外気温に関係なく室内温度を一定保つことができる。
【グラフ1】

【0016】
表2は本発明のヒータ利用による深夜電力の料金の目安を示したものでり、表3は山形県酒田市にて実際に本発明の蓄熱式床下暖房システムを使用した場合の電気料金を調べた結果を示したものである。以下の表より、本発明の蓄熱式床下暖房システムは比較的低いランニングコストで実施できることがわかる。
【表2】

【表3】

【0017】
建物の構造によっては1階と2階の室温に温度差が生じる場合もあるが、そのような場合には、床下から2階まで直接通じる通気孔を設けて1階と床下、2階と床下の2通りの対流による暖房を行って建物全体を暖房することも可能である。
【0018】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の床暖房システムには、以下の効果がある。
a.電気式の為、燃焼をともなうシステムのように酸欠やガス中毒の心配がなく、安全かつ環境にもクリーンで、騒音もない。
b.安価な深夜電力を使用して夜間に蓄熱層に熱を蓄え、日中に蓄熱層の放射熱により床暖房を行うので、室内温度を24時間ほぼ一定に保つ全館暖房が可能となる。
c.床材に上下貫通した通気孔があるために床下と室内が一体化した空間となり、床面からの低温による輻射熱暖房だけでなく、室内の空気を自然ないし強制対流によって暖めるので、低温でかつ均一な効率の良い全館暖房が可能である。
d.熱源としてユニット式のシーズヒータを使用するので施工が容易で、しかも発熱体の寿命が長く、メンテナンスの必要がない。もし万一ヒータにトラブルが生じた場合でもメンテナンスが容易にできる。
e.低温による効率的な暖房が可能であり全館の温度差がない為に、人にストレスを与えない快適な暖房が可能である。
f.温度コントロールと床材に上下貫通した通気孔を設けることにより、床面と家屋全体の空間の温度をコントロールすることが可能である。
g.床下空間が暖かいために、床下に埋設配管された水道管等の凍結を防止する。
h.床下空間が常に乾燥しているのでシロアリ防除の薬品を使用する必要がないので人への防蟻薬品による影響がなく健康的である。
i.床下空間をそのまま利用している為、暖房機器を部屋に設置する必要がなく、有効に部屋空間を利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の床下に空間を有する床暖房システムの断面図である。
【図2】熱源である床下暖房装置の断面斜視図である。
【図3】本発明のシーズヒータを示す斜視図である。
【図4】図3のシーズヒータを構成するヒータ及びリード線の断面図である。
【符号の説明】
1a 断熱材
1b 断熱材
2 防湿シート
3 コンクリート層
4 シーズヒータ
5 地表
6 床材
7 通気孔
8 外壁
9 布基礎
10 ステンレスパイプ
11 ポリプロピレン
12 酸化マグネシウム
13 鉄クロム線
14 ヒータ
15 リード線
16 温度コントローラ
17 金属棒
18 温度センサー
19 銅線
20 耐熱ビニール
21 土台
22 気密パッキン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱損失係数が1.0?2.5kcal/m^(2)・h・℃の高断熱・高気密住宅における布基礎部を、断熱材によって外気温の影響を遮断し十分な気密を確保した上で、該布基礎部内の地表面上に防湿シート、断熱材、蓄熱層であるコンクリート層を積層し、蓄熱層には深夜電力を通電して該蓄熱層に蓄熱する発熱体が埋設された暖房装置を形成し、蓄熱層からの放熱によって住宅内を暖める蓄熱式床下暖房システムにおいて、布基礎部と土台とを気密パッキンを介して固定してより気密を高め、ステンレスパイプに鉄クロム線を入れ、ステンレスパイプと鉄クロム線の間を酸化マグネシウムで充填し、ステンレスパイプの外側をポリプロピレンチューブで被覆してなるヒータ部を、銅線を耐熱ビニールで被覆してなるリード線で複数本並列若しくは直列に接続してユニット化されたコンクリート埋設用シーズヒータユニットが、配筋時に配筋される金属棒上に戴架固定後、1回のコンクリート打設によりコンクリート層内に埋設され、該シーズヒータはユニット又は複数のユニットからなるブロックごとに温度センサーの検知により制御され、さらに床面の所定位置には室内と床下空間とを貫通する通気孔である開閉可能なスリットを形成し、蓄熱された熱の放射により床面を加温するとともに、加温された床面からの二次的輻射熱と、床下空間の加温された空気がスリットを介して室内へ自然対流する構成とすることで、居住空間を24時間低温暖房で暖房を行うことを特徴とする蓄熱式床下暖房システム。
【請求項2】
室内温度設定を18?23℃、床面の温度設定を20?25℃、コンクリート層の表面温度設定を23?38℃とするために、施工する住宅の構造等に応じて、コンクリート層の厚さを150?200mm、各ヒータの配置間隔を130?200mm、深夜電力を通電するヒータを5時間通電用か8時間通電用からそれぞれ選択し埋設して構成される請求項1記載の蓄熱式床下暖房システム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-02-14 
結審通知日 2011-02-16 
審決日 2011-03-03 
出願番号 特願2002-130323(P2002-130323)
審決分類 P 1 113・ 113- ZA (F24D)
P 1 113・ 121- ZA (F24D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 久保 克彦  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 冨岡 和人
松下 聡
登録日 2004-05-14 
登録番号 特許第3552217号(P3552217)
発明の名称 高断熱・高気密住宅における深夜電力利用蓄熱式床下暖房システム  
代理人 柿崎 喜世樹  
代理人 柿崎 喜世樹  
代理人 中川 邦雄  

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