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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B32B
管理番号 1258479
審判番号 無効2010-800090  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-05-12 
確定日 2012-05-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4126000号「気泡シート及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年3月10日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10130号、平成24年1月16日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成15年8月11日に、名称を「気泡シート及びその製造方法」とする発明について特許出願(特願2003-320363号)がされ、平成20年5月16日に、特許第4126000号として設定登録を受けた(請求項の数3。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書、特許請求の範囲、図面を「本件特許明細書」という。)。
これに対して、平成22年5月12日に、本件特許請求の範囲の請求項1?3に係る特許を無効とすることについての審判請求がされ、それに対し、以下の手続を経て、平成23年3月10日に「訂正を認める。特許第4126000号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」とする審決がされた。

平成22年 5月12日 審判請求書・甲第1号証ないし甲第7号証
提出(請求人)
同年 8月 2日 答弁書提出(被請求人)
同年 8月25日付け 無効理由通知(1回目)
同年 9月27日 審判事件意見書(1回目)及び訂正請求書
提出(被請求人)
意見書提出(請求人)
同年10月25日付け 無効理由通知(2回目)
同年11月26日 審判事件意見書(2回目)提出(被請求人)
平成23年 2月 3日 口頭審理陳述要領書提出
(請求人、被請求人)
同年 2月17日 口頭審理
同年 3月10日付け 審決

そして、その審決の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に出訴され、平成23年(行ケ)第10130号として審理された結果、平成24年1月16日に「特許庁が無効2010-800090号事件について平成23年3月10日にした審決を取り消す。」との判決がなされた。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成22年9月27日付けでなされた訂正請求は、その請求書に添付した特許請求の範囲及び明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(ア)本件特許請求の範囲の請求項1の「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体であり、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」を「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」と訂正する(以下、「訂正1」という。)。

(イ)本件特許請求の範囲の請求項2の「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体である気泡シートの製造方法であって、キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形するとともに、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備えることを特徴とする気泡シートの製造方法。」を「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみである気泡シートの製造方法であって、キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形するとともに、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備えることを特徴とする気泡シートの製造方法。」と訂正する(以下、「訂正2」という。)。

(ウ)本件特許請求の範囲の請求項3の「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィル厶と、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成したる気泡シート。」を「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶と、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」と訂正する(以下、「訂正3」という。)。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正1について
訂正1の「前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルム」を「前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルム」とする訂正(以下、「訂正1a」という。)は、ライナーフィルムについての発明特定事項につきその付設方法を付加して限定するものであるから、この訂正1aは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正1の「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体」を「ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」とする訂正(以下、「訂正1b」という。)は、「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体」との記載は、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体以外の樹脂成分を含み得るものとも解釈できるため不明確であったところ、「ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」であることを明確にしたものであるから、この訂正1bは、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、この訂正1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正1は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、この訂正1は許容されるものである。

(2)訂正2について
訂正2の「前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルム」を「前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルム」とする訂正(以下、「訂正2a」という。)は、ライナーフィルムについての発明特定事項につきその付設方法を付加して限定するものであるから、この訂正2aは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正2の「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体」を「ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」とする訂正(以下、「訂正2b」という。)は、「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体」との記載は、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体以外の樹脂成分を含み得るものとも解釈できるため不明確であったところ、「ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」であることを明確にしたものであるから、この訂正2bは、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、この訂正2は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正2は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、この訂正2は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、この訂正2は許容されるものである。

(3)訂正3について
訂正3の「前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィル厶」を「前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶」とする訂正(以下、「訂正3a」という。)、及び「前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ、」を追加する訂正(以下、「訂正3b」という。)は、ライナーフィルムについての発明特定事項につきその付設方法を付加して限定するものであるから、この訂正3a及び3bは、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正3の「形成したる気泡シート」を「形成した気泡シート」とする訂正は、「形成したる」という文語的表現を「形成した」という口語の明瞭な記載とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、この訂正3は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、この訂正3は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、この訂正3は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、この訂正3は許容されるものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、訂正1ないし3は、いずれも許容されるものであるから、平成22年9月27日付けで請求された訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で示したように、平成22年9月27日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件訂正明細書(「本件訂正明細書」を、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。
【請求項2】多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみである気泡シートの製造方法であって、キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形するとともに、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備えることを特徴とする気泡シートの製造方法。
【請求項3】多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶と、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。」
(以下、訂正後の請求項1ないし請求項3に係る発明を、項番順に「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、また、これらを併せて「本件発明」ということがある。)

第4 無効理由の概要
請求人の主張する無効理由及び当審の通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。

1 請求人の主張する無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「特許第4126000号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」とし、大略以下の無効理由を主張している。
特許第4126000号の請求項1ないし請求項3に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明並びに甲第6号証及び甲第7号証に記載されている周知技術に基づいて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである(審判請求書第2?16ページの「7.請求の理由」の欄)。
そして、請求人が審判請求時に提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開2001-105514号公報
甲第2号証:特開平9-207260号
甲第3号証:特許第3106227号公報
甲第4号証:特開平10-315363号公報
甲第5号証:無効2009-800092号事件における
第1回口頭審理調書
甲第6号証:特開平5-194923号公報
甲第7号証:特開平9-323753号公報

また、請求人は、平成23年2月3日付け口頭審理陳述要領書の第3ページ第7?8行において、「・・・本件特許は当該合議体によって通知された無効理由によって無効になるべきものと考えます。」と主張し、平成22年9月27日付けの意見書及び平成23年2月3日付け口頭審理陳述要領書において、以下の参考資料を添付している。
参考資料1:特開平9-157598号公報
参考資料2:特開2000-43209号公報
参考資料3:特開平9-272187号公報
参考資料4:特開平7-88990号公報

2 平成22年8月25日付けで通知した無効理由の概要
平成22年8月25日付けで通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。

<理由1>訂正前の本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
<理由2>訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。



刊行物1:特開平9-207260号公報
刊行物2:特許第3106227号公報
刊行物3:特開平10-315363号公報

3 平成22年10月25日付けで通知した無効理由の概要
平成22年10月25日付けで通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。

<理由1>訂正前の本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
<理由2>訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
<理由3>訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし6に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。



刊行物1:特開平9-207260号公報
刊行物2:特許第3106227号公報
刊行物3:特開平10-315363号公報
刊行物4:特開平5-194923号公報
刊行物5:特開平9-157598号公報
刊行物6:特開2000-43209号公報

第5 当審の判断
当審は、本件発明1ないし3について、請求人の主張する無効理由、平成22年8月25日付けで通知した無効理由1及び2、及び平成22年10月25日付けで通知した無効理由1ないし3は、いずれも理由がないと判断する。
以下、詳述する。
なお、事案に鑑み、平成22年10月25日付けで通知した無効理由3、2、1について、次いで平成22年8月25日付で通知した無効理由2、1について、最後に請求人の主張する無効理由の順に述べる。

1 平成22年10月25日付けで通知した無効理由について
(1)無効理由3について
平成22年10月25日付けで通知した無効理由3の概要は、再掲すると、
「訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし6に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」
というものである。

ア 刊行物

刊行物1:特開平9-207260号公報
(無効審判請求人の提出した甲第2号証、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物1)
刊行物2:特許第3106227号公報
(無効審判請求人の提出した甲第3号証、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物2)
刊行物3:特開平10-315363号公報
(無効審判請求人の提出した甲第4号証、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物3)
刊行物4:特開平5-194923号公報
(無効審判請求人の提出した甲第6号証、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物4)
刊行物5:特開平9-157598号公報
(無効審判請求人の提出した参考資料1、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物5)
刊行物6:特開2000-43209号公報
(無効審判請求人の提出した参考資料2、及び平成22年1
0月25日付けでした無効理由通知の刊行物6)
刊行物7:特開平7-88990号公報
(無効審判請求人の提出した参考資料4、本審決において新
たに参照する文献)
刊行物8:特開平9-272187号公報
(無効審判請求人の提出した参考資料3、本審決において新
たに参照する文献)

イ 刊行物の記載事項
(ア)刊行物1
刊行物1は、平成9年8月12日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物1には、以下の記載がある。
・摘示事項1a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】基材としてのポリオレフィンフィルムの片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層を有し、他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有することを特徴とする表面保護粘着シート。
【請求項2】緩衝材シートが、ポリオレフィンフィルムからなり、かつ基材であるポリオレフィンフィルムと当該ポリオレフィンフィルムとの間で含気泡構造を構成し得る形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の表面保護粘着シート。」
・摘示事項1b:「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、衝撃に脆い物品(以下、被着体という)において、緩衝効果をもたらし得る緩衝材を付加した表面保護粘着シートに関するものである。」
・摘示事項1c:「【0002】
【従来の技術】衝撃に脆い被着体の養生時および運搬時の保護用として、従来より、片面に粘着剤を有するプラスチックフィルムや緩衝材(含気泡構造、発泡体、ダンボール等)を用い、これらを物品の数箇所端末に仮止めする方法が採用されていた。しかし、片面に粘着剤を有するプラスチックフィルムを用いた場合、養生用途に関しては特に問題は生じないが、被着体の運搬・施工時の衝撃に対しては保護する機能が殆どなく被着体の損傷は免れなかった。一方、緩衝材を用いた場合、被着体の衝撃からの保護は充分であるが、緩衝材が被着体からずれて隙間が生じ、この隙間から異物が混入して表面を傷付ける場合があり、従って、小規模の被着体の表面保護用としては殆ど機能を果たさなかった。また、上記問題を解決する保護材として、緩衝材に粘着剤層を設けた構造のものがあるが、緩衝材が被着体に強固に接着されている為、被着体の保護用としての使用後に被着体からの剥離が困難となり、剥離できず緩衝材が破壊して緩衝材の一部が被着体に接着されたままであったり、また剥離できても被着体表面に粘着剤が残っているという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の点を解決しようとするものであり、その目的は、被着体に対して有効な緩衝作用を示し、かつ使用後に被着体から剥離した際、緩衝材の破壊がなくその全部が剥離され、被着体表面に粘着剤が残っていないような表面保護粘着シートを提供することである。」
・摘示事項1d:「【0006】本発明の表面保護粘着シートは、基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に粘着剤層32を有する。本発明において、ポリオレフィンフィルム31用のポリオレフィンとしては、熱可塑性樹脂であれば特に限定はなく、その例としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびこれらの樹脂のブレンド物が挙げられる。
【0007】このポリオレフィンフィルム31は、上記ポリオレフィンを用いて従来公知の方法によりフィルムに成型される。このポリオレフィンフィルム31の厚さは0.03?0.2mmであることが好ましい。厚さが0.03mm未満の場合、基材としての役割を果たせず、強度が不充分となり、逆に厚さが0.2mmを超える場合、本発明の表面保護粘着シートを折り曲げて使用すると反撥が生じやすく被着体から剥れる恐れがある。」
・摘示事項1e:「【0011】ポリオレフィンフィルム31の粘着剤層32の形成面と反対面に緩衝材シートが形成されている。この緩衝材シートは、熱可塑性樹脂からなるものであり、好ましくは図1、図2に示すように、ポリオレフィンフィルム10からなり、かつポリオレフィンフィルム31(または熱賦活性樹脂層11)とポリオレフィンフィルム10との間で気泡20を含有するような構造を構成し得る形状を有している。」
・摘示事項1g:「【0014】気泡20は、本発明の表面保護粘着シートに緩衝機能を付与するためにポリオレフィンフィルム31(または熱賦活性樹脂層11)とポリオレフィンフィルム10との間に含有させたものであり、好ましくは500?30000個/m^(2)、より好ましくは2500?20000個/m^(2)、特に好ましくは3000?17000個/m^(2)の割合で存在している。この割合が500個/m^(2)未満の場合、本発明の表面保護粘着シートの緩衝機能が不十分となり、逆に30000個/m^(2)を超える場合、気泡密度が大きくなり、折り曲げ使用する際反撥して被着体から剥れる恐れがある。
【0015】また各気泡20の大きさは、直径が好ましくは5?20mm、より好ましくは7?10mmであり、厚さは好ましくは2?8mm、より好ましくは4?6mmである。直径が5mm未満の場合や高さが2mm未満の場合、本発明の表面保護粘着シートの緩衝機能が不十分となり、逆に直径が20mmを超える場合や高さが8mmを超える場合、全体的に容積が増すので使用し難い。
【0016】ポリオレフィンフィルム10は、上記ポリオレフィンを用いて上記範囲の密度、大きさ、高さの気泡20をポリオレフィンフィルム31(または熱賦活性樹脂層11)との間で構成し得るような形状に成型されるが、その成型方法としては、連続生産できる点から真空成型が好ましい。
【0017】また図1、図2に示すように、ポリオレフィンフィルム10のポリオレフィンフィルム31への接着性を良好とするためにこれらの間に熱賦活性樹脂層11を形成してもよく、ポリオレフィンフィルム10の接着時に加熱して熱融着させる。」
・摘示事項1h:「【0020】図1、図2に示すような構成の表面保護粘着シートは、例えば次のように作成される。まず粘着剤を含有する粘着剤層塗布液を調製する。この時使用される溶媒としては、例えばトルエン、酢酸エチル、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられる。この粘着剤層塗布液を基材であるポリオレフィンフィルム31の片面に塗布・乾燥して粘着剤層32を形成する。・・・」
・摘示事項1i:「【0021】図3は、本発明の表面保護粘着シートの他の例の断面図である。図3において、12はポリオレフィンフィルムであり、緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護してその強度を維持するために、その上にさらに積層したものである。図4は、図3に示す表面保護粘着シートの斜視図であり、上面のポリオレフィンフィルム12を切り欠いて内部の含気泡構造を示している。
【0022】このポリオレフィンフィルム12用のポリオレフィン系樹脂は、熱可塑性樹脂であれば特に限定はなく、その例としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド物等が挙げられる。
【0023】このポリオレフィンフィルム12の厚さは、好ましくは0.02?1.0mm、より好ましくは0.04?0.07mmである。この厚さが0.02mm未満である場合、ポリオレフィンフィルム10の保護が不十分となり、逆に厚さが1.0mmを超える場合、本発明の表面保護粘着シートを折り曲げて使用する際に反撥して被着体から剥がれる恐れがある。」
・摘示事項1j:「【0025】また、図5に示すような、緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10が保護用のポリオレフィンフィルム12と気泡20を含有するような構造を構成するような表面保護粘着シートであってもよい。このような表面保護粘着シートは、例えば次のように作成してもよい。まず、予め所定の形状に成型された緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成する。一方、上記の方法にてポリオレフィンフィルム31の片面に粘着剤層32を形成し、このポリオレフィンフィルム31と、上記の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを熱賦活性樹脂層11を介して熱融着させる。」
・摘示事項1k:「【図1】


・摘示事項1l:「【図5】


・摘示事項1m:「【0044】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、被着体に対して有効な緩衝作用を示し、被着体に対する粘着力が充分であり、また使用後被着体から剥離する際に、緩衝材の破壊がなく、粘着剤残りが生じることなく、容易に剥離することができるような表面保護粘着シートを提供することができる。」

(イ)刊行物2
刊行物2は、平成12年9月8日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物2には、以下の記載がある。
・摘示事項2a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して、オレフィン系重合体を10?100重量部配合した樹脂組成物よりなる自己粘着性エラストマーシート。」
・摘示事項2b:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガラス、セラミック、金属(合金を含む)、プラスチック、木などの平滑な表面に対して、接着剤や粘着剤を使用せずに容易に貼着することができるとともに、容易に引き剥がすことができる自己粘着性エラストマーシーとに関する。」
・摘示事項2c:「【0002】
【従来の技術】道路標識や住所表示、バス停留所や駅構内などの各種の標識、デパートやオフィスビルなどの各種の標識あるいは表示、その他種々の標識や表示が、生活環境の随所に使用されている。従来このような標識や表示(以下、「シール」と記す)は、紙、金属板(シート)、プラスチック板(シート)などを媒体として使用し、この媒体上に印刷、手書き、刻印などにより文字、数値、記号などが記されて、上記のような所定の箇所に、接着剤や粘着剤などの科学的な手段、あるいは釘、ビス、針金などの機械約手段により取りつけられるのが一般的である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記のような各種のシールのうちの幾つかは、しばしば表記の変更を要するものである。この場合、従前のシールを取外し、新しいシールに取り替えるが、従前のシールが科学的な手段により取り付けられていれば、シールの取り外し後に残留する接着剤や粘着剤を除去するための困難な作業を余儀無くされ、機械的な手段により取り付けられていれば、この取り付け手段を取り外すための困難な作業を余儀無くされる。
【0004】さらには、従来のシールとしては、紙、金属箔、プラスチックシートが使用され、片面には粘着剤を使用して粘着されていたが、粘着剤の劣化による剥がれが生じたり、シールを取り外すときに剥がれにくく、途中でシールが破れて残ったり、また取り外したあとに粘着剤が残ったりしてしまうものであった。また、再度同じシールを貼着使用とすると、粘着剤面にほこりがついて貼着できない場合が多いという問題点があった。
本発明は、これら従来の粘着性化粧シールの有する問題点を克服するためになされたものであり、貼着が容易で、剥がしたあとの粘着剤の残りの間題がなく、再使用の場合も容易に粘着できる自己粘着性エラストマーシートを提供するものである。」
・摘示事項2d:「【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明の自己粘着性エラストマーシートは、水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して、オレフィン系重合体を10?100重量部配合した樹脂組成物よりなるものである。オレフイン系重合体の配合量が、水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して、10重量部より少なくなると、得られる自己粘着性エラストマーシートの粘着性が強くなりすぎてシール素材としては不適であり、また、オレフイン系重合体の配合量が100重量部を越えると自己粘着性に劣り好ましくない。オレフイン系重合体の配合量は、水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して30?80重量部が好ましい。
【0007】本発明で使用する水添ジエン系ランダム共重合体としては、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-SBRランダム共重合体を水添した共重合体である。」
・摘示事項2e:「【0012】本発明の自己粘着性エラストマーシートには、必要に応じて、オレフイン系重合体に一般的に使用されている添加剤、例えば、滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、着色剤、充填剤、粘着付与剤などを添加することができる。ただし、滑剤については、粘着性付与の面からは、できるだけ添加量は少なくすることが好ましく、最も好ましいのは滑剤を添加しないことである。」
・摘示事項2f:「【0014】本発明の自己粘着性エラストマーシートは、水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対してオレフイン系重合体10?100重量部を配合した樹脂組成物に、必要に応じて、上記した各種の添加剤を適当量配合した配合物を、押出成型、インフレーション成型、カレンダー成型などの成型手段でシート化して製造できるが、滑剤の添加を必要としない点で押出成型が好ましい。自己粘着性エラストマーシートの厚みは0.05?1.0mm、好ましくは0.1?0.5mmである。」
・摘示事項2g:「【0015】自己粘着性エラストマーシートは、少なくとも被着体に貼着する側に存在すればよく、多層シートにして貼着面と反対面には自己粘着性エラストマーシートに限らず、他のプラスチックシート(フィルム)が積層されているものも本発明から除外されるものではない。」
・摘示事項2h:「【0016】上記のようにして形成される自己粘着性エラストマーシートは、一方の面に印刷を施し、非印刷面には剥離性を有する離型シートを貼着してラベルや広告シート、その他各種の分野で使用される。
【0017】自己粘着エラストマーシートへの印刷は通常オレフイン系樹脂シートの印刷に使用されている油性インク、水性インク、アルコール性インク、紫外線硬化型インク等の一般の印刷インクが使用でき、印刷方法としても通常使用されている印刷方法が使用でき、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、凸版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法等が使用でき、使用する印刷イシク及び印刷方法は何ら制限を受けるものではない。
【0018】自己粘着性エラストマーシートの非印刷面に貼着する離型シートとしては、離型シートに貼着されている自己粘着性エラストマーシートを容易に剥離できるものであれば、どのようなものでも使用できポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、シリコン処理もしくはテフロン処理した離型紙などが挙げられる。」
・摘示事項2i:「【0023】
【発明の効果】本発明の自己粘着性エラストマーシートは、水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して、オレフイン系重合体10?100重量部を配合してなるものであるので、被着体との密着性(自己粘着性)に優れるとともに、被着体への貼り付け作業も容易で、しかも皺入り等を発生させず貼着することができるものであり、広告用のシール材やその他の標識や表示体として繰り返し使用する用途に適したものである。」
・摘示事項2j:「【0019】
【実施例】実施例1?5、比較例1、2
水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本合成ゴム社製,ダイナロン1320P:商品名)100重量部に対し、表1に示す量のオレフイン系樹脂を配合し、それぞれ押出機にて厚み0.3mmの自己粘着性エラストマーシートを製造し、これをポリエチレンフィルムをラミネートした剥離紙に貼着してシール材を作った。このシール材を表面平滑なガラス板表面に剥離紙を剥がしながら自己粘着性エラストマーシートを貼り付け、自己粘着性とシール貼りの作業性を確認した。結果は表1に示す。
・・・【表1】

自己粘着性およびシール貼り作業性は次のように評価した。
〔自己粘着性〕
自己粘着性エラストマーシートを表面平滑なガラス板に貼りつけ、表面側を手で擦ったときの剥離状況により次の基準により判定した。
○……全く剥離も浮きもなく、シートはガラス板に密着していた。
△……部分的な浮き、シートの移動が見られた。
×……簡単に剥離し、シートはガラス板から脱落した。(シール材として不適。)
〔シール貼り作業性〕
剥離紙を剥がしながらガラス板に貼り付けたときの、作業のスムース性、シートの皺入り(空気の巻き込みによる皺入り)およびその修正し易さを次の基準により判定した。
○……皺入りもなく、スムースに貼り付けでき、仕上がりも良好。
△……皺入りが若干見られるが、修正が容易。
×……皺入りが激しく、修正が困難。又は貼りつけられない。
【0022】表1からも明らかなように、被着体との密着性(自己粘着性)に優れ、しかも被着体への貼り付け作業性に優れるのは本発明の実施例だけである。オレフイン系重合体の配合量が10重量部未満の比較例1は、粘着力が強すぎて貼り付け作業時に空気巻き込みによる皺が入りやすく、これを修正するのに手間がかかり、シール材としては好ましいものではなかった。また、オレフイン系重合体の配合量が10重量部を越える比較例2は、粘着力が極めて弱く、離型紙を剥離しながら被着体に貼り着けることが難しく、被着体に貼り着けることができても、外力により擦られると簡単に剥離してしまい、シール材としては不適のものであった。」

(ウ)刊行物3
刊行物3は、平成10年12月2日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物3には、以下の記載がある。
・摘示事項3a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】可塑化状態にあるプラスチックフィルムを、周面上に多数のキャビティを有する成形ロールにより連続的に成形して多数の突起を有するキャップフィルムとし、やはり可塑化状態にある平坦なプラスチックフィルムであるバックフィルムを、加圧ロールによりキャップフィルムに押圧し融着させ突起内に空気を封入することからなるプラスチック気泡シートの製造方法において、加圧ロールとして、その表面に真空吸引路に連なる多数の微細な孔または溝を有するものを使用し、前記の孔または溝を通じて真空吸引することにより、バックフィルムがキャップフィルムに融着する瞬間にバックフィルムを加圧ロール表面に密着させ、それによってバックフィルムのキャップ下の部分がキャプフィルムと融着した部分と同一の平面を保っている気泡シートを得ることを特徴とするプラスチック気泡シートの製造方法。」
・摘示事項3b:「【0002】
【従来の技術】今日、プラスチック気泡シートの製造は、原理的には図1に示す方法で、すなわち、可塑化状態にあるプラスチックフィルム(1A)を、周面上に多数のキャビティ(31)を有する成形ロール(3)により連続的に成形して多数の突起(11)を有するキャップフィルム(1B)とし、やはり可塑化状態にある平坦なプラスチックフィルム(2A)を、加圧ロール(4)によりキャップフィルムに押圧し融着させてバックフィルム(2B)とし、突起内部に空気を封入することによって行なわれている。
【0003】在来のプラスチック気泡シートは、全体として、必ずしも平坦性が高いとはいえない。その理由は、バックフィルム(2B)のキャップの下にある部分と、キャップフィルムと融着した部分とが同じ平面上にないからである。同じ平面にのらないのは、キャップフィルム(1A)にバックフィルムとなるフィルム(2A)が融着する瞬間において、フィルム(2A)は成形ロール上で張力を受けるためと、キャップフィルム成形時の真空吸引の影響で引き寄せられるために、図2に見るように、成形ロールの凹み(31)に乗った部分はちょうど太鼓の皮のように張ってしまい、成形ロールの周面上にある部分つまりキャップフィルムとの融着部分とは異なる面を形成してしまうからである。加えて、一般に気泡シートのキャップは、頂部があまり張っていない、少ししぼんだ感じのものである。その理由は、ひとつは、加熱可塑化されたキャップフィルムおよびバックフィルムの温度とほぼ同じ温度に熱せられた空気が、成形後冷えて体積が収縮することであり、いまひとつは、上記のようにバックフィルムがキャップ内部に落ち込んだ形で成形されて、キャップ内部の容積を若干小さくしていることである。製造された気泡シートは、誇張して描けば、図3Aのような断面を有し、図3Bの符号(21)の部分がキャップ内に落ち込んでいる。」
・摘示事項3c:「【図2】


・摘示事項3d:「【図3】



(エ)刊行物4
刊行物4は、平成5年8月3日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物4には、以下の記載がある。
・摘示事項4a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式A-B-AもしくはA-Bで表されるブロック共重合体(但し、これらの式中、Aはスチレン系重合体ブロック、Bはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック又はこれらを水素添加して得られる重合体ブロックを夫々意味する)100重量部と、粘着性付与樹脂10?200重量部と、ポリオレフィン樹脂10?200重量部とを含有してなる粘着剤組成物。・・・(中略)・・・
【請求項6】ポリオレフィンからなる基材フィルムの片面に請求項1、2、3又は4記載の粘着剤組成物からなる粘着層が形成されている表面保護フィルム。」
・摘示事項4b:「【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、粘着テープ等の製品形態としては、これらを粘着層を内側にしてコイル状に巻上げた巻重体が一般的である。このような巻重体に於いては、外側基材の粘着層と内側基材の背面とが比較的強い接着力で密着しており、このままでは使用に当たり粘着テープを巻重体から巻戻す際に、引剥がすのが困難である。・・・(中略)・・・
【0010】本発明は上記の如き実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、得られた粘着テープ巻重体に於いて良好な再剥離性を発揮し、離型剤を使用することなく良好な巻戻し性即ち展開性を有し、長期にわたって良好な展開力、再剥離性を維持すると共に、実際の使用時の剥離速度20?30m/分の如き高速剥離時に低速剥離時よりも粘着力が軽くなる粘着剤組成物及び前記粘着剤組成物を用いてなる粘着テープもしくはシート又は表面保護フィルムを提供することにある。」
・摘示事項4c:「【0015】又、合成樹脂板、化粧合板、金属板等の表面に仮着し、塵の付着や損傷が生じないように使用される表面保護フィルムの基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びこれらの混合物からなるフィルムが採用される。このフィルムは、未延伸であっても、一軸又は多軸に延伸されていてもよい。」
・摘示事項4d:「【0023】ポリオレフィンの配合量は、一般式A-B-AもしくはA-Bで表されるブロック共重合体100重量部に対し、10?200重量部の範囲である。その理由は、ポリオレフィンの配合量が10重量部未満では良好な巻戻し性が得られず、逆に200重量部を超えると粘着性がなくなるからである。ポリオレフィンの配合量は、一般式A-B-AもしくはA-Bで表されるブロック共重合体100重量部に対し、好ましくは15?180重量部、更に好ましくは20?150重量部である。」
・摘示事項4e:「【0029】g)本発明の粘着剤組成物を用いた粘着テープもしくはシート又は表面保護フィルムの製造方法は特に限定されず、塗工法、押出ラミネート法、共押出法が適宜採用されるが、基材がポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂からなる場合には、共押出法によるのが好ましい。」
・摘示事項4f:「【0071】実施例22
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(シェル化学社製「クレイトンG1657」)100部、粘着性付与樹脂(荒川化学工業社製「アルコンP-100」)100部、低密度ポリエチレン(三菱油化社製「LK-30」をn-ヘキサンで沸騰洗浄して低分子量分を除去し、n-ペンタンに対する抽出量を0.8重量%としたもの)80部、酸化防止剤(チバ・ガイギー社製「イルガノクス1010」)1部からなる組成物と、低密度ポリエチレン(三井石油化学工業社製「ミラソン16」)とを、前者を厚み20μm、後者を厚み60μmとなるようにしてTダイ2層共押出法により押出成形して表面保護フィルムを得た。・・・(中略)・・・
【0077】上記実施例22?25及び比較例8?9において得られた表面保護フィルムについて、巻重体とした直後の巻戻し力(展開力)、製造後常温(23℃)にて12時間放置した後のSP粘着力、及び製造後40℃、7日間放置した後のSP粘着力を測定したを測定した。なお、これらの測定方法については、前記実施例1?21、比較例1?7により得られた表面保護フィルムについての測定方法と同様な方法に依るものである。
・・・これらの結果をまとめて表3に示す。
【0079】
【表3】


・摘示事項4g:「【0081】
【発明の効果】本発明の粘着剤組成物は、以上のとおり構成されているので、これを用いて得られた粘着テープもしくはシート又は表面保護フィルムの巻重体は、良好な再剥離性を発揮し、離型剤を使用することなく良好な巻戻し性即ち展開性を有し、長期にわたって良好な展開力、再剥離性を維持すると共に、高速剥離時に低速剥離時よりも粘着力が軽くなる。」

(オ)刊行物5
刊行物5は、平成9年6月17日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物5には、以下の記載がある。
・摘示事項5a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルムの片面に粘着剤層が形成され、該粘着剤層の主成分がスチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂からなることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項2】粘着剤層の主成分がスチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂とエチレン-αオレフィン共重合体とからなることを特徴とする請求項1に記載の表面保護フィルム。」
・摘示事項5b:「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の欠点を解決する目的で鋭意検討を行った結果、適度な初期粘着力(100g?400g/50mm)を有し、高温に曝されたり、長期に被着されても粘着力の経時的な上昇が起こらず、かつ、不要時には容易に剥離できて被着体に糊残りがなく、基材の破断が起こらない表面保護フィルムを提供することを目的とする。」
・摘示事項5c:「【0012】本発明の粘着剤層に使用されるスチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂とは、スチレン系モノマ7?45重量%、好ましくは7?35重量%とブタジエン93?55重量%、好ましくは93?65重量%との共重合体の水素添加樹脂である。スチレン系モノマ量が7重量%未満になると樹脂としての取扱い性が悪くなり、スチレン系モノマ量が45重量%を超えると樹脂として硬くなる。さらに、共重合体の水素添加率は95%以上、好ましくは97%以上である。また、これらの樹脂には重合法によりブロック型とランダム型があるが、凹凸を有するエンボス板、マット板への粘着性の点でランダム型が好ましい。」
・摘示事項5d:「【0020】本発明の表面保護フィルムは、上記粘着剤組成物が前記基材フィルムの片面に積層されたものであり、その積層方法は任意の方法が採用されてよく、例えば、上記粘着剤組成物を溶剤に溶解しバーコート等により基材フィルムに塗布し積層する方法でも良いが、基材フィルムを形成するポリオレフィン系樹脂と粘着剤組成物とを共押出して積層する方法がコストの点からは好ましい。」
・摘示事項5e:「【0022】また、粘着剤層に本発明の効果を損なわない範囲で、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLD-PE)、エチルアクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-nブチルアクリレート共重合体、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を1種または2種以上を添加することもできる。また、必要に応じて、軟化剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、顔料、染料、無機・有機の充填剤など通常樹脂に添加して使用される添加剤と併用することができる。」
・摘示事項5f:「【0023】
【特性の測定方法および評価基準】・・(中略)・・
(2)粘着力
表面保護フィルムをマット板(中心平均粗さJIS-B0601、Ra=1.0μm)、エンボス板(Ra=2.1μm)の表面に23℃で2kgの圧着ローラを用いて貼付け、23℃×30分、60℃×7日のそれぞれの場合における粘着力をJIS-Z0237に準じ、測定した。
・・(3)被着体表面の汚染性
表面保護フィルムをマット板(中心平均粗さJIS-B0601、Ra=1.0μm)、エンボス板(Ra=2.1μm)の表面に23℃で2kgの圧着ローラを用いて貼付け、23℃×30分、60℃×7日のそれぞれの場合における剥離した後のマット板の汚染性を目視により判定した。全く汚染されていないものを○、汚れが少しみえるが、実用可能なものを△、汚れがみえ、実用不可なものを×として評価した。
・・【実施例】次に本発明の効果を実施例により説明する。
・・(1)粘着剤組成物の調整
実施例1?6
粘着層にスチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂として、日本合成ゴム社製“ダイナロン”1320P、エチレン-αオレフィン共重合体として、エチレン-オクテン-1共重合体(ダウケミカル社製“ENGAGE”EG8200)、粘着付与樹脂として、ヤスハラケミカル社製テルペン樹脂“クリアロン”P125を使用し、それぞれの添加量は表1および表2に示し、酸化防止剤としてチバガイギ社製“イルガノックス”1010を1.0重量部、紫外線吸収剤としてチバガイギ社製“チヌビン”327を0.5重量部を配合して粘着剤組成物を調整した。・・・(中略)・・・
・・(2)表面保護フィルムの作製
上記粘着剤組成物と基材層用の高密度ポリエチレン(昭和電工社製“ショーフレックス”F6080)/低密度ポリエチレン(住友化学工業社製“スミカセン”L705)=50/50を2層共押出法により押出成形して、基材層の厚みが50μm、粘着層の厚みが10μmとなるように60μm厚みの表面保護フイルムを作製した。
【0033】得られた表面保護フィルムを中心平均粗さの異なるマット板、エンボス板に貼付け、フイルムの特性を評価した。この結果は表1、表2および表3に示す通りであった。
【0034】
【表1】


・摘示事項5g:「【0039】
【発明の効果】本発明で得られた表面保護フイルムは、スチレン系ランダム共重合体の水素添加物とエチレン-αオレフィン共重合体と粘着付与樹脂とを主成分とした粘着剤層と基材層とを2層共押出法により、溶融押出したフィルムであって、ヘアライン加工、マット加工、エンボス加工の凹凸を有する金属板・合成樹脂板等の被着体に対して、適度な初期粘着力を有し、高温に曝されたり、長期にわたって、被着されても粘着力の経時的な上昇が起こらず、さらに、剥離の際には容易に剥離できて、被着体に糊残りがなく、基材フィルムを破断することがないものである。」

(カ)刊行物6
刊行物6は、平成12年2月15日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物6には、以下の記載がある。
・摘示事項6a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】オレフィン系樹脂からなる基材の裏面に粘着剤層が積層され、基材の表面が摩擦処理されてなる表面保護フィルムにおいて、基材は密度が0.920g/cm^(3)以上のポリエチレン系樹脂である表面層とポリオレフィン系樹脂である中層とが積層された積層体であり、粘着剤層がA-B-A又はA-B-C(A、Cはそれぞれポリスチレン及び結晶性ポリオレフィンブロック、Bはポリブタジエン、ポリイソプレン又はそれらを水素添加したポリマーブロックを示す)型熱可塑性エラストマーを主体として基材樹脂とともに共押出成形により積層され、引張破断強度が200kg/cm^(2)以上、引張破断時の伸びが500%以上、引張伸長時応力の降伏点がないかもしくは降伏点後の応力低下率が降伏点強度の15%以下であり、且つ伸長回復率が70%以上であることを特徴とする表面保護フィルム。」
・摘示事項6b:「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、巻物とした表面保護フィルムの展開力が小さく、使用後に剥離しても被着体に曇りが発生せず、また、焼却しても塩化水素ガス等の有害な化合物を発生することのない表面保護フィルムを提供することを目的とする。」
・摘示事項6c:「【0013】粘着剤はベースエラストマ-として、A-B-A又はA-B-C(A、Cはそれぞれポリスチレン及び結晶性ポリオレフィンブロック、Bはポリブタジエン、ポリイソプレン又はそれらを水素添加したポリマーブロックを示す)型熱可塑性エラストマ-を主体とする。必要に応じて粘着付与樹脂や各種添加剤を添加してもよい。
【0014】A-B-A型熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、これらのゴム部分を水素添加したもの、上記スチレン部分を結晶性ポリオレフィンで置換したもの等を用いることができ、単独でもよく、2種類以上の混合物であってもよい。上記ゴム部分を水素添加したものは、表面保護フィルムとしての耐候性や基材と粘着剤層との積層強度(アンカー性)に優れるので特に好ましい。」
・摘示事項6d:「【0025】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施例を説明する。
(実施例1)表面層樹脂として低密度ポリエチレン(密度0.927g/cm^(3),三井化学社製,商品名「ミラソン12」)を厚み10μm、中層樹脂として超低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm^(3),三井化学社製,商品名「ウルトゼックス1020L」)を厚み100μm、粘着層としてスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(シェル化学社製,商品名「クレイトンG1657」)100重量部と粘着付与樹脂(荒川化学社製,商品名「アルコンP100」)10重量部の混合物を10μmとなるようにTダイ押出し機で共押出しすることにより積層してフィルムを製造した後、ポリエステル織布を表面に巻いた金属ロールをフィルムの進行方向とは逆方向に回転させながら押し当てて摩擦処理を行い本発明の表面保護フィルムを得た。
【0026】(実施例2)粘着層としてスチレン-エチレン-ブチレン-結晶性オレフィン型熱可塑性エラストマ-(JSR社製,商品名「ダイナロン4600P」)を単独で用いたこと以外は実施例1と同様にして表面保護フィルムを得た。・・・(中略)・・・上記実施例1?4及び比較例1、2で得た表面保護フィルムの物性を下記の方法で測定し、評価した。・・・(中略)・・・
【0033】(4)展開力 表面保護フィルムを50mm幅として50m巻きのロールとし、40℃のオーブン内で1ケ月放置した後取り出して、展開速度30m/分で展開したときの荷重を測定した。・・・(中略)・・・
【0034】
【表1】


・摘示事項6e:「【0036】
【発明の効果】本発明の表面保護フィルムによると、巻物とした巻重体からの展開力が小さいので容易に繰り出して使用することができ、使用後に剥離しても被着体に曇りが発生せず、剥離後に被着体にごみが付着することによる汚れを防止できる。従って、ベンダー曲げ加工されるステンレス板などに使用して好適である。また、オレフィン系樹脂だけを使用したので焼却しても塩化水素ガス等の有害な化合物を発生せず、環境汚染することがないので安心して使用することができる。」

(キ)刊行物7
刊行物7は、平成7年4月4日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物7には、以下の記載がある。
・摘示事項7a:「【0023】図5は、気泡シート製造装置の一例を示す図であつて、1?3は図1と同様、4は図2と同様である。また、20は押出機、21はホツパー、22はアダプターソケツト、23はTダイ、24は成形ロール、25は加圧ロールである。なお、キヤツププイルム2用押出機は20C、バツクフイルム3用押出機は20B、ライナーフイルム4用押出機は20Lとする。請求項1の気泡シート1は、図5に示す第1の製造装置によつて製造する。ホツパー21から供給されたフイルム用原料は、押出機20内において必要温度で溶融混練される。しかる後、アダプターソケツト22を経由して、Tダイ23に供給され、押出されてフイルム2、3、4となる。図1に示す2層構成の気泡シート1は、図5において押出機20C、押出機20B系統のみで製造することができる。該押出機20(20C、20B)、アダプターソケツト22を経た原料は、Tダイ23から押出されて高温溶融状態のフイルムになる。押出機20C、Tダイ23を出たフイルム2は、成形ロール24で多数の突起が形成されキヤツプフイルム2となる。押出機20B、Tダイ23を出た平滑なバツクフイルム3と前記キヤツプフイルム2とが加圧ロール25で高温にて挟圧され、貼合され2層構成の気泡シート1(図1)となる。図5の押出機20L、アダプターソケツト22、Tダイ23を経由した溶融状態の平滑なライナーフイルム4は、2基の加圧ロール25の間に前記2層構成の気泡シート1と共に導入され、キヤツプフイルム2の気泡室4頂部面に貼合5され、3層構成の気泡シート1(図2)となる。」
・摘示事項7b:「【図2】


・摘示事項7c:「【図5】



(ク)刊行物8
刊行物8は、平成9年10月21日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、刊行物8には、以下の記載がある。
・摘示事項8a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂からなる基材フイルムの片面に粘着剤層が形成され、該粘着剤層の主成分がスチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂とエチレン-αオレフィン共重合体とからなり、該スチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂の粘着剤中の含有量が30?60重量%であることを特徴とする表面保護フイルム。」
・摘示事項8b:「【0031】
【実施例】次に本発明の効果を実施例により説明する。
(1)粘着剤組成物の調製
実施例1、実施例3?4、比較例1?3
粘着剤層に、スチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂として、MFR=8.5g/10分の日本合成ゴム(株)製“ダイナロン1321P”、エチレン-αオレフィン共重合体として、エチレン-オクテン-1共重合体(MFR=5g/10分のダウケミカル社製“ENGAGE EG8200”)を使用した。それぞれの添加量は表1に示す。酸化防止剤としてチバガイギ社製“イルガノックス1010”1.0重量部、紫外線吸収剤としてチバガイギ社製“チヌビン327”0.5重量部を配合して粘着剤組成物を調製した。
・・・
【0035】(2)表面保護フイルムの作製
上記粘着剤組成物と基材層用の高密度ポリエチレン(昭和電工(株)製ショーフレックス“F6080”)/低密度ポリエチレン(住友化学工業(株)製スミカセン“L705”)=50/50にアンチブロッキング剤として花王(株)製“脂肪酸アマイドE”0.2重量部を配合し、2層共押出法により熱溶融押出成形して、基材層の厚みが50μm、粘着剤層の厚みが10μmとなるように60μm厚みの表面保護フイルムを作製した。得られた表面保護フイルムを中心線平均表面粗さRaの異なる被着体に貼り付け、フイルムの特性を評価した。この結果は表1に示す通りであった。
【0036】
【表1】



ウ 刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1
刊行物1には、「【請求項1】基材としてのポリオレフィンフィルムの片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層を有し、他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有することを特徴とする表面保護粘着シート。
【請求項2】緩衝材シートが、ポリオレフィンフィルムからなり、かつ基材であるポリオレフィンフィルムと当該ポリオレフィンフィルムとの間で含気泡構造を構成し得る形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の表面保護粘着シート。」(摘示事項1a)、すなわち、「『基材としてのポリオレフィンフィルムの片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層を有し、他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する』『表面保護粘着シート』であって、『緩衝材シートが、ポリオレフィンフィルムからなり、かつ基材であるポリオレフィンフィルムと当該ポリオレフィンフィルムとの間で含気泡構造を構成し得る形状を有している』『表面保護粘着シート。』」(以下、「特許請求の範囲の表面保護シート」という。)が記載されている。
また、その特許請求の範囲の表面保護シートの実施態様として、【図5】(摘示事項1l)が示され、また、その【図5】の説明として、「このような表面保護粘着シートは、例えば次のように作成してもよい。まず、予め所定の形状に成型された緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成する。一方、上記の方法にてポリオレフィンフィルム31の片面に粘着剤層32を形成し、このポリオレフィンフィルム31と、上記の含気泡構造のポリオレフィンフィルム10とを熱賦活性樹脂層11を介して熱融着させる。」(摘示事項1j)との記載がある。
ここで、摘示事項1jに記載の「上記の方法」とは、当該記載までの粘着剤層の形成方法についての記載は、摘示事項1hの「この粘着剤層塗布液を基材であるポリオレフィンフィルム31の片面に塗布・乾燥して粘着剤層32を形成する。」との記載のみであるから、摘示事項1hに記載の方法を意味するものと認められ、そして、当該記載から、摘示事項1jの「ポリオレフィンフィルム31」は、「基材」であると認められる。
よって、上記特許請求の範囲の表面保護シートとして、「基材」が「ポリオレフィンフィルム31」であり、「粘着剤層」が「粘着剤層32」である表面保護粘着シートにおいて、「緩衝材シート」が「緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10」であり、当該「緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10」が、「保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成」し、かつ、「基材」である「ポリオレフィンフィルム31」とも、「熱賦活性樹脂層11を介して熱融着させ」てなるものが記載されている。
また、【図5】(摘示事項1l)の「10」は、「緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10」を意味することは明らかであり、多数の凸部が形成されていることが示されている。
さらに、刊行物1には、特許請求の範囲の表面保護シートの【図1】?【図4】に示される実施態様として、「基材としてのポリオレフィンフィルム31」(摘示事項1d)、「緩衝シートは・・・ポリオレフィンフィルム10からなり」(摘示事項1e)と記載され、「・・・ポリオレフィンフィルム10は、上記ポリオレフィンを用いて上記範囲の密度、大きさ、高さの気泡20をポリオレフィンフィルム31(または熱賦活性樹脂層11)との間で構成し得るような形状に成型されるが、その成型方法としては、連続生産できる点から真空成型が好ましい。・・・」(摘示事項1g)と記載されていることから、「緩衝シート」としての「ポリオレフィンフィルム10」と、「基材としてのポリオレフィンフィルム31」を「真空成型により」形成することが記載されている。
そして、刊行物1において、【図5】の実施態様について、「ポリオレフィンフィルム31」と「緩衝シートとしてのポリオレフィンフィルム10」の成型方法を特定する記載はないので、【図5】の実施態様においても、他の実施態様の好ましい成型方法を採用して「真空成型」をしているものと認められる。
そうすると、刊行物1には、
「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有し、他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する表面保護粘着シートであって、真空成型により予め多数の凸部を形成した緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成した表面保護粘着シート。」
の発明(以下、「引用発明1ア」という。)が記載されていると認められる。

また、引用発明1アは、「表面保護粘着シート」の発明であるが、その表面保護粘着シートの製造方法の発明としても表現できるから、
刊行物1には、
「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有し、他面に熱可塑性樹脂からなる緩衝材シートを有する表面保護粘着シートの製造方法であって、真空成型により予め多数の凸部を形成した緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成した表面保護粘着シートの製造方法。」
の発明(以下、「引用発明1イ」という。)も記載されていると認められる。

そして、引用発明1アの課題とその解決手段は、以下のとおりである。
引用発明1アは、「衝撃に脆い被着体の養生時および運搬時の保護用」としての表面保護粘着シートに関するものであって、従来のいくつかの課題、具体的には、「片面に粘着剤を有するプラスチックフィルムを用いた場合」に「被着体の運搬・施工時の衝撃に対しては保護する機能が殆どなく被着体の損傷は免れなかった」という課題、また、「緩衝材を用いた場合」は「被着体の衝撃からの保護は充分であるが、緩衝材が被着体からずれて隙間が生じ、この隙間から異物が混入して表面を傷付ける場合があり、従って、小規模の被着体の表面保護用としては殆ど機能を果たさなかった」という課題、さらには、「緩衝材に粘着剤層を設けた構造のもの」の場合は、「被着体表面に粘着剤が残っているという問題があった」という課題を解決するためになされた発明(摘示事項1c)である。すなわち、引用発明1アとは、粘着剤についての「被着体に対して粘着力を有し、かつ使用後に被着体から容易に引き剥がすことができる」という課題を解決するために、シートの一方の面に適度な粘着力を有する粘着剤層を設け、これに緩衝材層を設けることで表面保護用としての課題をも解決したものであって、それを具体的構造としたものといえる。

(イ)刊行物2
刊行物2には、「本発明は、ガラス、セラミック、金属(合金を含む)、プラスチック、木などの平滑な表面に対して、接着剤や粘着剤を使用せずに容易に貼着することができるとともに、容易に引き剥がすことができる自己粘着性エラストマーシーと(審決注:「エラストマーシート」の誤記と認められる。)に関する。」(摘示事項2b)ものであって、「水添ジエン系ランダム共重合体100重量部に対して、オレフィン系重合体を10?100重量部配合した樹脂組成物よりなる自己粘着性エラストマーシート。」(摘示事項2a)と記載されている。そして、樹脂生成物中のオレフィン系重合体の配合割合について計算すると、10/(10+100)×100?100/(100+100)×100重量%=9.1?50重量%となる。
さらに、「・・・本発明で使用する水添ジエン系ランダム共重合体としては、スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-SBRランダム共重合体を水添した共重合体である。」(摘示事項2d)と記載されている。
そうすると、刊行物2には、
「オレフィン系重合体を9.1?50重量%含有する水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体とオレフィン系重合体とのブレンド物からなる自己粘着性エラストマーシート。」
の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

また、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは、「オレフィン系重合体を9.1?50重量%含有する水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体とオレフィン系重合体とのブレンド物からなる」ものであって、以下に述べるとおり、「被着体に対して粘着力を有し、かつ使用後に被着体から容易に引き剥がすことができる」ものであり、「シート単独で使用すること」ができるとともに、「他のプラスチックシートと積層して使用することも」できるものである。
すなわち、刊行物2に、「本発明は、ガラス、セラミック、金属(合金を含む)、プラスチック、木などの平滑な表面に対して、接着剤や粘着剤を使用せずに容易に貼着することができるとともに、容易に引き剥がすことができる自己粘着性エラストマーシーと(審決注:「エラストマーシート」の誤記と認められる。)に関する。」(摘示事項2b)と記載され、また「・・・本発明は、これら従来の粘着性化粧シールの有する問題点を克服するためになされたものであり、貼着が容易で、剥がしたあとの粘着剤の残りの間題がなく、再使用の場合も容易に粘着できる自己粘着性エラストマーシートを提供するものである。」(摘示事項2c)と記載されていることから、ガラス、セラミック、金属(合金を含む)、プラスチック、木などの平滑な表面に対して、接着剤や粘着剤を使用せずに容易に貼着することができるとともに、容易に引き剥がすことができる自己粘着性エラストマーシートを提供することを課題とするものである。
このことは、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートを用いれば、「被着体に対して粘着力を有し、かつ使用後に被着体から容易に引き剥がすことができる」というものであるから、これは引用発明1アにおいて粘着剤に対する課題を解決できるものといえる。

また、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは、「・・・貼着が容易で、剥がしたあとの粘着剤の残りの間題がなく、再使用の場合も容易に粘着できる自己粘着性エラストマーシートを提供するもの・・・」(摘示事項2c)であり、その具体例である実施例2(摘示事項2j)に、水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本合成ゴム社製,ダイナロン1320P:商品名)100重量部に対し30重量部(すなわち23重量%)のポリプロピレンを配合し、押出機にて厚み0.3mmとしたものが記載されている。そして、そのシール貼り作業性(剥離紙を剥がしながらガラス板に貼り付けたときの、作業のスムース性、シートの皺入り(空気の巻き込みによる皺入り)およびその修正し易さを次の基準により判定した。)の評価は、「○……皺入りもなく、スムースに貼り付けでき、仕上がりも良好。」となっている。また、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートの厚みは、「0.05?1.0mm、好ましくは0.1?0.5mmである。」(摘示事項2f)と記載されているところ、引用発明1アの「ポリオレフィンフィルム31」の厚みは、「0.03?0.2mm」(摘示事項1d)である。
そうすると、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは、引用発明1アの「ポリオレフィンフィルム31」と重複する0.05?0.2mmの範囲において、粘着剤としての機能とともに、押出成形が可能で、一層でも作業者が被着体に貼り付けたり、剥離した後もシートとして再使用できる程度の保形性を奏する基材としての機能も備えているものと認められる。

さらに、引用発明2は、「他のプラスチックシート(フィルム)が積層されているものも本発明から除外されるものではない。」(摘示事項2g)と、「シート単独で使用すること」以外にも、「他のプラスチックシート(フィルム)と積層して使用すること」が想定されている。

そして、気泡シートにおけるライナーフィルムとキャップフィルムとの熱融着手法として、溶融押出し法は、例えば刊行物7(摘示事項7a?摘示事項7c)に示されるように周知慣用技術であるところ、引用発明2の自己粘着性エラストマーシートは、押出成形で製造しているのであるから、溶融押出後の所定の時間、他のフィルムに対して熱融着可能なものである。

(ウ)刊行物4
刊行物4には、「【請求項1】一般式A-B-AもしくはA-Bで表されるブロック共重合体(但し、これらの式中、Aはスチレン系重合体ブロック、Bはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック又はこれらを水素添加して得られる重合体ブロックを夫々意味する)100重量部と、粘着性付与樹脂10?200重量部と、ポリオレフィン樹脂10?200重量部とを含有してなる粘着剤組成物。・・・(中略)・・・
【請求項6】ポリオレフィンからなる基材フィルムの片面に請求項1、2、3又は4記載の粘着剤組成物からなる粘着層が形成されている表面保護フィルム。」(摘示事項4a)と記載されているところ、一般式A-B-AもしくはA-Bで表されるブロック共重合体として、「・・・スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物・・・)(摘示事項4f)が記載されているから、刊行物4には、
「ポリオレフィンからなる基材フィルムの片面に、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物100重量部と、粘着性付与樹脂10?200重量部と、ポリオレフィン樹脂10?200重量部とを含有してなる粘着剤組成物からなる粘着層が形成されている表面保護フィルム。」
の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

また、引用発明3の効果について、刊行物4には、「・・・これを用いて得られた粘着テープもしくはシート又は表面保護フィルムの巻重体は、良好な再剥離性を発揮し、離型剤を使用することなく良好な巻戻し性即ち展開性を有し、長期にわたって良好な展開力、再剥離性を維持すると共に、高速剥離時に低速剥離時よりも粘着力が軽くなる。」(摘示事項4g)と記載されている。

さらに、「押出ラミネート法」(摘示事項4e)で製造することができることや、上記(イ)と同様に、刊行物2の摘示事項2jの記載より、一層でも保形性を有する材料である可能性がある。

(エ)刊行物5
刊行物5には、摘示事項5aや、摘示事項5fの実施例6に示されるように、表面保護フィルムの粘着剤として、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなる粘着剤が記載されている。
そして、刊行物5においては、その粘着剤は、引用発明1アの粘着剤層に具体的に使用される天然ゴム系やアクリル系の代替品(摘示事項5b)として、引用発明1アの「粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32」と同じく、「適度な初期粘着力(100g?400g/50mm)」(摘示事項5b)(換算すると、0.98?3.92(N/50mm))を有し、「不要時には容易に剥離できて被着体に糊残りがなく、基材の破断が起こらない表面保護フィルムを提供することを目的とする」(摘示事項5b)ものであって、しかも「高温に曝されたり、長期にわたって、被着されても粘着力の経時的な上昇が起こら」ない(摘示事項5g)という優れた効果について記載されている。

また、刊行物2(摘示事項2j)の比較例1には、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるものを押出機にて厚み0.3mmとした自己粘着性エラストマーシートが記載されている。この自己粘着性エラストマーシートの厚みは、「0.05?1.0mm、好ましくは0.1?0.5mmである。」(摘示事項2f)と記載されている。そうすると、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるシートは、少なくとも0.05mm以上の厚みで粘着剤層としての機能とともに、一層でも押出成形が可能な程度の保形性を備えている可能性はある。
さらに、この水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなるものは押出成形が可能であるから、溶融押出後の所定の時間、他のフィルムに対して熱融着可能なものである。

エ 対比・判断
事案に鑑み、先ず、本件発明3について、次いで本件発明1について、最後に本件発明2について述べる。

(ア)本件発明3について
a 対比
本件発明3と引用発明1アとを対比する。
引用発明1アの「表面保護粘着シート」は、気泡構造を有するのであるから、本件発明3の「気泡シート」に相当する。
引用発明1アは、緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10を保護用のポリオレフィンフィルム12と熱融着させて含気泡構造を形成したものであるから、引用発明1アの「保護用のポリオレフィンフィルム12」、「緩衝材シートとしてのポリオレフィンフィルム10」は、本件発明3の「バックフィルム」、「キャップフィルム」に相当する。
また、本件発明3の「ライナーフィルム」は、それ自体が気泡シートを構成するフィルムであるとともに、粘着性の機能も奏するもので二つの機能を備えるものである。そして、引用発明1アの「基材としてのポリオレフィンフィルム31」は、気泡シートの一部を構成するフィルムであり、「粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32」が粘着性の機能を奏するものである。してみると、本件発明3の二つの機能を担う「ライナーフィルム」は、引用発明1アの「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに対応する。
よって、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられたライナーフィルムと、を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート」
である点で一致し、次の点で相違すると認められる。
i)ライナーフィルムが、本件発明3は「一層」からなり「原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」であり「前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ」たものであるのに対し、引用発明1アは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものが、熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点
ii)層構造が、本件発明3は「三層構造」であるのに対し、引用発明1アは「五層構造」である点
iii)本件発明3は「前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し、引用発明1アはそのような規定がされていない点
(上記i)?iii)の相違点を、以下「相違点i)」?「相違点iii)」という。)

b 相違点の検討
(i)相違点i)について
引用発明2あるいは引用発明3は、上記ウ(イ)及び(ウ)において説示したとおり、本件発明3の「原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物」に相当する粘着性の材料であり、また、当該材料は一層で保形性を有し得るものではある。
そこで、引用発明1アにおける「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものを、上記引用発明2あるいは引用発明3の粘着性の材料からなる一層構造とすることの容易想到性について検討する。
まず、積層体の発明において、従来複数の層により形成されていた機能をより少ない数の層で達成しようとする場合、複数層の機能を一層で担保できる材料が公知であることに加え、積層体は、各層の材質、積層順序、膜厚、層間状態等に発明の技術思想があるので、さらに、複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討する必要があるものと認められる。
そして、引用発明1ア、引用発明2及び引用発明3の各層や材料の機能を用途の点から検討すると、引用発明2は、粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する発明であり、また、引用発明3は、表面保護フィルムに関する発明であって、被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1アとは技術分野ないし用途が異なるものである。当業者は、発明が解決しようとする課題に関連する技術分野の技術を自らの知識とすることができる者であるから、気泡シートの分野における当業者は、引用発明1アが「粘着剤層32」を有していることから「粘着剤」に関する技術も自らの知識とすることができ、「粘着剤」の材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮できるとしても、引用発明1アを構成しているのは「粘着剤層32」であるから、当業者は、気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32に関する知識を獲得できると考えるのが相当であり、両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち、「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構造を、気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構造とすること)まで、当業者の通常の創作能力の発揮ということはできないというべきである。
したがって、引用発明1アにおいて、「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは容易想到でなく、そうすると、引用発明1アに引用発明2や3を適用することは容易想到であるとはいえない。

そして、上記判断は、刊行物3及び刊行物7に記載された事項を参酌しても、刊行物3には、気泡シートの製造方法に係る発明が、また、刊行物7には、気泡シートの製造装置に係る発明が記載されているが、いずれにも気泡シートに粘着剤層を設けることについての記載はないから、変わるものではない。

(ii)相違点ii)について
上記(i)で検討したように、引用発明1アにおいて、「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
よって、引用発明1アの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明3は、刊行物1?4及び7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明1アとを対比すると、上記(ア)aで示したのと同様の理由で、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられたライナーフィルムと、を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート」
である点で一致し、次の点で相違すると認められる。
i’)ライナーフィルムが、本件発明1は「一層」からなり「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものであるのに対し、引用発明1アは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものが、熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点
ii’)層構造が、本件発明1は「三層構造」であるのに対し、引用発明1アは「五層構造」である点
iii’)本件発明1は、「前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し、引用発明1アはそのような規定がされていない点
(上記i’)?iii’)の相違点を、以下「相違点i’)」?「相違点iii’)」という。)

b 相違点の検討
(i)相違点i’)について
本件発明1と引用発明1アとの相違点1’)と、本件発明3の引用発明1アとの相違点i)とでは、前者の「ライナーフィルム」が、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」であり、後者が「『原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物』であり『前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ』たものである」点で相違する。
そこで、この相違点1’)における「ライナーフィルム」が「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」である事項について検討すると、上記ウ(エ)において説示したとおり、刊行物5には、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」である「粘着剤」が記載され、刊行物2の記載から見て、一層でも押出成型が可能である可能性がある。
しかしながら、上記(ア)bにおいて説示したとおり、積層体の発明において、従来複数の層により形成されていた機能をより少ない数の層で達成しようとする場合、複数層がどのように積層体全体において機能を維持していたかを具体的に検討する必要があるものと認められる。
そして、引用発明1ア、刊行物5及び刊行物2に記載の各層や材料の機能を用途の点から検討すると、刊行物5は表面保護フィルム、刊行物2は粘着剥離を繰り返せる標識や表示として使用される自己粘着性エラストマーシート(いわばシール)に関する文献であって、被着体の運搬・施工時の衝撃から被着体を保護するための気泡シートに関する発明である引用発明1アとは技術分野ないし用途を異にするものであり、刊行物2、5から認定できるのは表面保護フィルムや自己粘着性エラストマーシートの組成としての技術にすぎない。また、引用発明1アを構成しているのは「粘着剤層32」であるから、当業者は、気泡シート内でポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32を審決が認定した周知の粘着剤とすることを想到することはできたとしても、両者を合わせて気泡シートの構造自体を変更すること(すなわち、「ポリオレフィンフィルム31上に形成されている粘着剤層32」という二層構造を、気泡シートの構造と粘着剤の双方を合わせ考慮して一層構造とすること)まで、容易に想到することができたとはいえないというべきである。

そして、上記判断は、刊行物3、刊行物6、刊行物7及び刊行物8に記載された事項を参酌しても、変わるものではない。
すなわち、刊行物3には、気泡シートの製造方法に係る発明が、また、刊行物7には、気泡シートの製造装置に係る発明が記載されているが、いずれにも気泡シートに粘着剤層を設けることについての記載はない。
また、刊行物6(摘示事項6a?摘示事項6e)には、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなる粘着剤層を有する表面保護フィルムが、「巻物とした巻重体からの展開力が小さいので容易に繰り出して使用することができ」る(摘示事項6e)ことが記載されており、また、刊行物8の比較例1には、スチレン系ランダム共重合体の水素添加樹脂のみを含む粘着剤層の粘着力が「800」と記載され(単位は「g/50mm」であると認められる)、これを単位換算すると約7.85(N/50mm)となるため、「水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなる粘着剤層」が、引用発明1アの粘着力と同範囲となる可能性が示されている。
しかしながら、刊行物6及び刊行物8に記載の発明も、摘示事項6a及び摘示事項8aの記載からみて、刊行物5に記載の発明と同様、粘着剤層が基材に設けられる表面保護フィルムの発明に過ぎない。

(ii)相違点ii’)について
上記(i)で検討したように、引用発明1アにおいて、「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものに代えて「一層」からなるライナーフィルムとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
よって、引用発明1アの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1?3、5?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2について
a 対比
本件発明2と本件発明1、引用発明1イと引用発明1アとは、それぞれ基本的にカテゴリーを異にするだけであるから、本件発明2と引用発明1イとを対比すると、上記(イ)aで示した本件発明1と引用発明1アの対比と同様の理由で、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられたライナーフィルムと、を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートの製造方法であって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、キャップフィルムを真空成形する工程で成形する気泡シートの製造方法」
である点で一致し、次の点で相違すると認められる。
i’’)ライナーフィルムが、本件発明2は「一層」からなり「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」からなるものであるのに対し、引用発明1イは「基材としてのポリオレフィンフィルム31の片面に、粘着力が0.7?25(N/50mm)である粘着剤層32を有」するものが、熱賦活性樹脂層11を介して熱融着することによりキャップフィルムに設けられたものである点
ii’’)層構造が、本件発明2は「三層構造」であるのに対し、引用発明1イは五層構造である点
iii’’)本件発明2は、「前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備える」と規定されているのに対し、引用発明1イはそのような規定がされていない点
iV’’)本件発明2は、「エンボスロールを用い」て真空成形しているのに対し、引用発明1イはそのような規定がなされていない点
(上記i’’)?iV’’)の相違点を、以下「相違点i’’)」?「相違点iV’’)」という。)

b 相違点の検討
相違点i’’)及びii’’)について
相違点i’’)及び相違点ii’’)は、上記(イ)aで示した相違点i’)及び相違点ii’)と同じであるから、上記(イ)b(i)及び(ii)に示した理由と同じく、引用発明1イ及び刊行物2、3、5?8に記載の発明に基いて当業者が容易に想到し得るものではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明2は、刊行物1?3、5?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし本件発明3は、刊行物1?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、無効理由3は、理由がない。

(2)無効理由2について
平成22年10月25日付けで通知した無効理由2の概要は、再掲すると、
「訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」
というものである。

ア 刊行物及び刊行物の記載事項
無効理由2において引用された刊行物1?3は、上記(1)アにおいて提示した刊行物1?3と同じものである。
そして、上記刊行物1?3には、それぞれ、上記(1)イにおいて示した各事項が記載されている。

イ 刊行物に記載された発明
刊行物1及び2には、上記(1)ウ(ア)及び(イ)において示したとおりの、引用発明1ア及び1イ及び引用発明2が記載されている。

ウ 対比・判断
事案に鑑み、先ず、本件発明3について、次いで本件発明1について、最後に本件発明2について述べる。

(ア)本件発明3について
a 対比
本件発明3と引用発明1アとは、上記(1)エ(ア)aにおいて示したとおりの点で一致し、上記相違点i)?iii)において相違すると認められる。

b 相違点の検討
(i)相違点i)について
上記(1)エ(ア)b(i)において説示したものと同じ理由により、引用発明1アに引用発明2を適用することは容易想到であるとはいえない。
また、刊行物3の記載を参酌しても、その判断が変わるものではない。

(ii)相違点ii)について
上記(1)エ(ア)b(ii)において説示したものと同じ理由により、引用発明1アの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明3は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明1について
a 対比
本件発明1と引用発明1アとを対比すると、本件発明1と引用発明1アとは、上記 (1)エ(イ)aにおいて示したとおりの点で一致し、上記相違点i’)?iii’)において相違すると認められる。

b 相違点の検討
(i)相違点i’)について
上記(1)エ(イ)b(i)において説示したとおり、引用発明1アに引用発明2を適用することは容易想到であるとはいえない。
また、刊行物3の記載を参酌しても、その判断が変わるものではない。

(ii)相違点ii’)について
上記(1)エ(イ)b(ii)において説示したものと同じ理由により、引用発明1アの層構造を「三層構造」とすることは当業者が容易になし得ることではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1?3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明2について
a 対比
本件発明2と引用発明1イとを対比すると、本件発明2と引用発明1イとは、上記 (1)エ(ウ)aにおいて示したとおりの点で一致し、上記相違点i’’)?iV’’)において相違すると認められる。

b 相違点の検討
相違点i’’)及びii’’)について
相違点i’’)及び相違点ii’’)は、上記(イ)aで示した相違点i’)及び相違点ii’)と同じであるから、上記(イ)b(i)及び(ii)に示した理由と同じく、引用発明1イ及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得るものではない。
また、刊行物3の記載を参酌しても、その判断が変わるものではない。

c 小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明2は、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし本件発明3は、刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、無効理由2は、理由がない。

(3)無効理由1について
平成22年10月25日付けで通知した無効理由1の概要は、再掲すると、
「訂正前の本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。」
というものである。

そして、本件の訂正前の請求項1及び2においては、「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体であり」と記載があり、この記載は、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみからなる」という解釈と、「水素化スチレン・ブタジエン系共重合体以外の樹脂成分、例えばポリオレフィン系樹脂を含み得る」という解釈の二通りの解釈ができるため、不明瞭な記載となっていた。
しかしながら、訂正1及び2により、上記「ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体であり」との記載は、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり」となったため、上記無効理由1は解消されたものと認められる。
よって、無効理由1は、理由がない。

2 平成22年8月25日付けで通知した無効理由について
平成22年8月25日付けで通知した無効理由1及び2は、平成22年10月25日付けの無効理由における無効理由1及び無効理由2と同じである。
よって、平成22年8月25日付けで通知した無効理由1及び2は、上記1(2)及び(3)に示した理由と同一の理由により理由がない。

3 請求人の主張する無効理由について
請求人の主張する無効理由の概要は、再掲すると、
特許第4126000号の請求項1ないし請求項3に係る発明は、甲第1号証?甲第4号証に記載された発明並びに甲第6号証及び甲第7号証に記載されている周知技術に基づいて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同条の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである・・・。」というものである。
そして、この無効理由について、請求人は、平成23年2月3日付けの口頭審理陳述要領書において「請求人の主張する無効理由の適否については争わないことにします」と記載し、また、第1回口頭審理調書からみて、「請求人の主張する無効理由の適否については争わない」との陳述を口頭審理においてしており、撤回したものと認められるが、被請求人の同意の有無が明らかではないため、念のため、以下、検討する。

(1)証拠方法
甲第1号証:特開2001-105514号公報
(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:特開平9-207260号公報
(上記「刊行物1」に同じ。以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特許第3106227号公報
(上記「刊行物2」に同じ。以下、「甲3」という。)
甲第4号証:特開平10-315363号公報
(上記「刊行物3」に同じ。以下、「甲4」という。)
甲第5号証:無効2009-800092号事件における
第1回口頭審理調書(以下、「甲5」という。)
甲第6号証:特開平5-194923号公報
(上記「刊行物4」に同じ。以下、「甲6」という。)
甲第7号証:特開平9-323753号公報(以下、「甲7」という。)

(2)甲号各証の記載事項
ア 甲1
甲1は、平成13年4月17日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、甲1には、以下の記載がある。
・摘示事項k1a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられた平坦な第1のフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた平坦な第2のフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、
前記第1のフィルムは、前記キャップフィルムの凸部に接着されてなり、当該接着強度は、前記キャップフィルムの破断強度より高く、かつ前記第1のフィルムの破断強度が、前記キャップフィルムの破断強度より高い気泡シート。
・・・
【請求項5】多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられた平坦な第1のフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた平坦な第2のフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートの製造方法であって、
前記第1のフィルムを、前記キャップフイルムの破断強度より高い破断強度で形成する工程と、
前記キャップフィルムの凸部に前記第1のフィルムを、前記キャップフィルムの破断強度より高い接着強度が得られるように接着する工程と、
を備えた気泡シートの製造方法。」
・摘示事項k1b:「【0024】図1に示すように、本実施の形態に係る気泡シート1は、多数の凸部が形成されたキャップフィルム2と、キャップフィルム2の一方の面(図1では上面)に接着された第1のフィルムとしてのライナーフィルム4と、キャップフィルム2の他方の面(図1では下面)に接着された第2のフィルムとしてのバックフィルム3と、を備えて構成されている。」
・摘示事項k1c:「【0029】
【表1】

表1に示すように、ライナーフィルム4の破断強度は、キャップフィルム2の破断強度より高いことが判る。」
・摘示事項k1d:「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記従来の気泡シートは、多数の気泡空間を有するため、優れたクッション性や断熱性を有する反面、非常に嵩張るという欠点がある。このため、消費者をはじめ、廃棄物の処理に至るまでの各過程において、広い収容・保管スペースが必要となると共に、運搬、移し替え等が困難であるという問題がある。・・・
【0007】本発明は、このような従来の問題点を解決することを課題とするものであり、クッション性や断熱性を損なうことがないのは勿論のこと、簡単に気泡空間を破断させることができ、使用後にその容積を小さくすることが可能な気泡シート及びその製造方法、並びに気泡シートの破断方法を提供することを目的とする。」

イ 甲2?4、6
上記(1)のとおり、甲2?4、6は、それぞれ、上記刊行物1?4と同じであり、また、それらの記載事項も上記1(1)イにおいて示した刊行物1?4の記載事項と同じである。

ウ 甲5
甲5は、無効2009-800092号の特許無効審判事件における第1回口頭審理調書である。そして、甲5には、以下の記載がある。
・摘示事項k5:「気泡性緩衝シートでは「ベースフィルムの気泡と対向する位置に凹部が形成されることは必然的に起こる」と被請求人が認め、争いが無くなったので、無効理由は取り下げる。」

エ 甲7
甲7は、平成9年12月16日に頒布されたものであって、本件特許の出願の日(平成15年8月11日)前に頒布された刊行物であることは明らかである。そして、甲7には、以下の記載がある。
・摘示事項k7a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリオレフィンを材料とする、多数の突出部を有するキャップフィルムの1枚と平坦なフラットフィルムの1枚とを貼り合わせるか、または多数の突出部を有するキャップフィルム2枚を突出部を外側にして貼り合わせることにより多数の密閉室を形成した気泡シートであって、ポリオレフィンとしてシングルサイト触媒を用いて製造した長鎖分岐を有するポリオレフィンを使用し、自己粘着性を有することを特徴とする包装材料。」
・摘示事項k7b:「【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、シングルサイト触媒によるポリオレフィンを材料とする気泡シートからなる自己粘着性をもった包装材料を提供すること、およびこの包装材料がもつ自己粘着性を利用して有利に物品の包装を行ない、気泡シートのもつ緩衝力および保温力の少なくとも一方を活用しやすくした包装方法を提供することにある。」
・摘示事項k7c:「【0014】図1ないし図3に、扁平な小型の段ボール製の箱を、本発明に従って気泡シートで包装するところを示す。まず図1にみるように、被包装物(7)より十分に大きく、それを包んだときに重なり合う部分ができる広がりをもった気泡シート(1)を用意し、その上に被包装物(7)をのせる。次に、図2にみるように気泡シートの上側片(2)および下側片(3)を順次被包装物(2)に沿わせて重ね、重なり合った部分を押圧する。左側余剰片(4)および右側余剰片(5)の全体をそれぞれ上下から押圧すると、全体として図3に断面を示した形で気泡シート(1)が自己粘着し、別に粘着テープで固定するなどの処理を施さなくても、包装体はそのままの状態を保つことができる。」

(3)甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲(摘示事項k1a)には、「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられた平坦な第1のフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた平坦な第2のフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる・・・気泡シート。」と記載されており、また、摘示事項k1bの「第1のフィルムとしてのライナーフィルム4と、キャップフィルム2の他方の面(図1では下面)に接着された第2のフィルムとしてのバックフィルム3と、を備えて構成されている。」との記載からみて、上記特許請求の範囲に記載された気泡シートにおける「第1のフィルム」は「ライナーフィルム」であり、また、「第2のフィルム」は「バックフィルム」であると認められる。
また、摘示事項k1cには、「バックフィルム」及び「キャップフィルム」が、「LDPE」及び「HDPE」の混合物であることが記載されている。
よって、甲1には、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、キャップフィルムの一方の面に接着されたライナーフィルムと、キャップフィルムの他方の面に接着されたバックフィルムとを有する内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルム及びライナーフィルムがHDPEとLDPEの混合物である気泡シート。」
の発明(以下、「以下、甲1発明1A」という。)が記載されていると認められる。
また、甲1発明1Aは、「気泡シート」の発明であるが、その気泡シートの製造方法の発明としても表現することができる。
そうすると、甲1には、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、キャップフィルムの一方の面に接着されたライナーフィルムと、キャップフィルムの他方の面に接着されたバックフィルム3とを有する内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルム及びライナーフィルムがHDPEとLDPEを含む気泡シートの製造方法。」
の発明(以下、「甲1発明1B」という。)も記載されていると認められる。

また、甲1発明1A及び1Bの課題は、「・・・従来の気泡シートは、多数の気泡空間を有するため、優れたクッション性や断熱性を有する反面、非常に嵩張るという欠点がある。このため、消費者をはじめ、廃棄物の処理に至るまでの各過程において、広い収容・保管スペースが必要となると共に、運搬、移し替え等が困難であるという問題がある。」(摘示事項k1d)というものであると認められる。

(4)対比・判断
事案に鑑み、先ず、本件発明3について、次いで本件発明1について、最後に本件発明2について述べる。

ア 本件発明3について
(ア)対比
甲1発明1Aと本件発明3を対比すると、甲1発明1Aの「HDPEとLDPEの混合物」は、「HDPE」及び「LDPEは」、「High Density Polyethylene」及び「Low Density Polyethylene」の略であり、ポリオレフィンの一種であることは明らかであるから、本件発明3の「ポリオレフィン系樹脂」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィル厶と、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂である気泡シート。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。
相違点1:ライナーフィルムが、本件発明3は、「原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ」たものであるのに対し、甲1発明1Aは、そのような特定がなされていない点
相違点2:本件発明3は、「バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し、甲1発明1Aは、そのような特定がなされていない点

(イ)相違点の検討
相違点1について
上記(3)に示したとおり、甲1発明1Aの課題は、本件発明の課題である「緩衝性や断熱性を損なうことなく、接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなくライナーフィルム同士の粘着性を改良し、被包装物をしっかり固定でき、衝撃に脆い物品の養生及び運搬に適し、気泡シートを巻き取ってもシートが付着することなく巻き戻すことが容易にでき、気泡シートの保管スペースセーブにもなる気泡シートを提供すること」という課題とは全く異なるものであって、ライナーフィルムに粘着性を付与しようという課題自体一切示されていない。
よって、甲1発明1Aは、そもそも、ライナーフィルムに粘着性を付与することを課題としていないのであるから、単に甲2にライナーフィルムに粘着性を有する気泡シートが記載されている理由をもって、甲1発明1Aにおいて、ライナーフィルムを、粘着性を有するものに置き換えようとする、動機付けとなるものではない。
また、甲1発明1Aのライナーフィルムを、甲2に記載の、ライナーフィルムが粘着性があるものに置き換えて、さらに当該気泡シートを自己粘着シートとするにあたり、甲3の自己粘着性エラストマーシートの適用を試みるということは、いったん容易に想到し得た構成に対し、さらに容易性の論理を積み重ねるものであるから、このような論理構成によっては、当業者であっても、本件発明3を容易に想到し得たものということは困難である。

そして、上記判断は、甲4?7に記載された事項を参酌しても、変わるものではない。
すなわち、甲4には、真空成型により製造される在来のプラスチック気泡シートは、バックフィルムがキャップ内部に落ち込んだ形で成形されるのが通常であったことが記載されている(上記1イ(ウ)の摘示事項3b?3d参照)。
また、甲5には、気泡性緩衝シートにおいて、「ベースフィルムの気泡と対向する位置に凹部が形成されることは必然的に起こる」との記載がある。
しかしながら、いずれにも、粘着剤層に関する記載はない。
また、甲6には、摘示事項4a及び4gからてみて、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体にポリオレフィン樹脂を配合した粘着剤が、「良好な巻戻し性」を有することは記載されているが、摘示事項4aの記載からみて、甲6に記載の発明は、粘着剤層が基材の片面に設けられる表面保護フィルムに関するものである。 また、甲7には、気泡シートに自己粘着性を付与することで、被包物をしっかり固定できることが記載されているが(摘示事項k7a?c)、そのシートは、摘示事項k7aからみて、「シングルサイト触媒を用いて製造した長鎖分岐を有するポリオレフィン」を使用するものであり、自己粘着性の材料に水素化スチレン・ブタジエン系共重合体を用いるものではない。

(ウ)小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明3は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1Aを対比すると、上記ア(ア)で示したのと同様の理由で、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートである気泡シート。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。
相違点1’:ライナーフィルムが、本件発明1は、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり」、また、「熱融着により貼り合わされることにより設けられた」ものであるのに対し、甲1発明1Aは、そのような特定がなされていない点
相違点2’:本件発明2は、「バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し、甲1発明1Aは、そのような特定がなされていない点

(イ)相違点の検討
相違点1’について
本件発明1と甲1発明1Aとの相違点1’と、本件発明3の甲1発明1Aとの相違点1とでは、前者の「ライナーフィルム」が、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」であり、後者が「『原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物』であり『前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ』たものである」点で相違する。
そこで、この相違点1’における「ライナーフィルム」が「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」である事項について検討すると、甲3の比較例1には、摘示事項2jの記載から見て、「水添スチレン-ブタジエンランダム共重合体」のみからなる、すなわち「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」である自己粘着性エラストマーシートが記載されてはいる。
しかしながら、上記ア(イ)に示したとおり、甲1発明1Aのライナーフィルムを、甲2に記載の、ライナーフィルムが粘着性があるものに置き換えて、さらに当該気泡シートを自己粘着シートとするにあたり、甲3の自己粘着性エラストマーシートの適用を試みるということは、当業者であっても困難であると認められるので、甲1発明1Aのライナーフィルムを、甲3に記載された「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみ」とすることも困難であると認められる。
そして、上記判断は、上記ア(イ)で説示したものと同様の理由により、甲4?第7に記載された事項を参酌しても、変わるものではない。

(ウ)小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と本件発明1、甲1発明1Bと甲1発明1Aとは、それぞれ基本的にカテゴリーを異にするだけであるから、本件発明2と甲1発明1Bとを対比すると、上記イ(ア)で示した本件発明1と甲1発明1Aの対比と同様の理由により、両者は、
「多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートである気泡シートの製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違すると認められる。
相違点1’’:ライナーフィルムが、本件発明2は、「添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり」、また、「熱融着により貼り合わされることにより設けられた」ものであるのに対し、甲1発明1Bは、そのような特定がなされていない点
相違点2’’:本件発明2は、「バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した」と規定されているのに対し、甲1発明1Bは、そのような特定がなされていない点
相違点3’’:本件発明2は、「エンボスロールを用い」て真空成形しているのに対し、甲1発明1Bはそのような規定がなされていない点

(イ)相違点の検討
相違点1’’について
相違点1’’は、上記イ(ア)で示した相違点1’と同じであるから、上記イ(イ)に示した理由と同じく、甲1?7に記載の発明に基いて当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)小括
よって、その余を検討するまでもなく、本件発明2は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし本件発明3は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、請求人の主張する無効理由及び無効理由通知の無効理由によっては、無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし本件発明3についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
気泡シート及びその製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝材等として使用される気泡シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、ポリエチレンに代表されるプラスチック材料を原材料として用い、多数の凸部が形成されたキャップフィルムの一方の面に、第1のフィルム(以下「バックフィルム」という)を貼り合わせ、多数の密封された気泡空間を形成した二層構造の気泡シートがある。この気泡シートは、主として包装用の緩衝材として広く使用されている。
【0003】
この気泡シートは、前記気泡空間の大きさを変更することで、様々な用途に適用されている。また、さらにキャップフィルムの他の面に、第2のフィルム(以下「ライナーフィルム」という)を貼り合わせたバックフィルム、キャップフィルム及びライナーフィルムの三層構造からなる気泡シートも開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この場合被包装物をしっかり固定しづらい欠点がある。
【0004】
この点を改良したものとして、衝撃に脆い物品の養生及び運搬のための包装用に寄与するためにバックフィルムの上に粘着材層を積層あるいは塗布した気泡シートが開発されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献2の場合は接着剤層を積層あるいは塗布する手間がかかりコスト高となる不利益があり、さらには気泡シートを巻き取ると付着してしまい巻き戻すことができないという問題点がある。
【特許文献1】特開2001-105514号公報
【特許文献2】特開平09-207260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの従来の問題点を解決することを課題とするものであり、緩衝性や断熱性を損なうことなく、接着剤層を積層あるいは塗布する手間をかけることなくライナーフィルム同士の粘着性を改良し、被包装物をしっかり固定でき、衝撃に脆い物品の養生及び運搬に適し、気泡シートを巻き取ってもシートが付着することなく巻き戻すことが容易にでき、気泡シートの保管スペースセーブにもなる気泡シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するため本発明は、多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他の面に設けられたライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体である気泡シートを提供するものである。
【0007】
更に本発明は、キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形することを特徴とする、本発明の気泡シートの製造方法をも提供するものである。
【0008】
本発明の気泡シートは、ライナーフィルム同士が適度の粘着性を示し、ライナーフィルム同士を容易に貼り合わせることができ、被包装物品をしっかりと固定でき、衝撃に脆い物品の養生及び運搬に適し、ライナーフィルムとバックフィルムとの間に粘着性がないため気泡シートを巻き取っても気泡シートが付着することなく巻き戻すことが容易にでき、気泡シートの保管スペースセーブになる特異の特性は、驚くべきことに、バックフィルムとキャップフィルムの原材料にポリオレフィン系樹脂を用い、ライナーフィルムの原材料に水素化スチレン・ブタジエン系共重合体を用いることで始めて達成できる。
【0009】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明で用いられるキャップフィルムおよびバックフィルムの原材料であるポリオレフィン系樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂であれば特に限定はなく、オレフィン成分を50モル%以上含有する樹脂であり、例えば分岐状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレンブロック共重合体、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテンブロック共重合体、エチレン-ブテンランダム共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、ポリブテン、ポリペンテン、プロピレン-エチレン-ブテン三元共重合体、プロピレン-アクリル酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる、好ましくは分岐状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂である。これらのポリオレフィン系樹脂は、一種単独又は二種以上の混合物としても使用される。
【0010】
本発明で用いられるライナーフィルムの原材料である水素化スチレン・ブタジエン系共重合体としては、スチレン・ブタジエン系ブロック共重合体またはスチレン・ブタジエン系ランダム共重合体を水素添加した熱可塑性エラストマー性の樹脂を用いることができるが、ブロック共重合体をベースとしたものがより適度な粘着性を有しているのでより好適である。使用目的により、水素化スチレン・ブタジエン系共重合体の結合スチレン含有量及び水素添加率を適宜変えることができるが、ライナーフィルム同士の粘着性および気泡シートの巻き戻し容易性の面から、水素化スチレン・ブタジエン系共重合樹脂の結合スチレン含有量は5?25重量%が好ましく、さらに好ましくは10?20重量%であり、フィルム成形性の観点から水素添加率は80%以上が好ましく、さらに好ましくは90%以上である。
【0011】
市販の好適な水素化スチレン・ブタジエン系共重合体として、JSR製ダイナロン4600P(結合スチレン含有量20重量%)またはJSR製ダイナロン1320P(結合スチレン含有量10重量%)が用いられ、4600Pと1320Pとを90:10?10:90の重量比でブレンドして用いたフィルムが用いられる。
【0012】
ライナーフィルムの原材料には、結合スチレン含有量の異なる水素化スチレン・ブタジエン系共重合体同士を、あるいは上記のブロック共重合体と上記のランダム共重合体とをブレンドして用いることができる。また、特性を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂とブレンドして用いることができる。ポリオレフィン系樹脂のブレンド可能範囲は、ライナーフィルム同士の粘着性の点から30重量%以内である。
【0013】
本発明に用いられるバックフィルムの厚さは5?100μm、好ましくは10?40μm、キャップフィルムの厚さは10?100μm、好ましくは15?60μm、ライナーフィルムの厚さは5?100μm、好ましくは8?30μmであり、用途に応じて適宜選択される。
【0014】
本発明のフィルムには、使用の際の利便性から、他の樹脂を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。この他に老化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、耐候剤、難燃剤、酸化防止剤、充填剤などの樹脂用添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。
【0015】
本発明のバックフィルムのキャップ背面(キャップフィルムと接しない面)には凹部を有するものが、ライナーフィルムとの巻き戻し容易性の面から好ましい。凹部の面積は、10cm角(10000平方mm)当たり7000?8500平方mmで、気泡シートの気泡空間に類似した直径及び配置ピッチの略円形の凹部が好ましい。
本発明の気泡シートで、用途に応じてバックフィルムの上に更に各種の押し型の凹部を有するフィルム、着色したフィルム、あるいはペーパーシート等を接着した4層構造、5層構造などの多層構造シートとして用いることができる。
【0016】
本発明の気泡シートの断面図を図1に、気泡シートの気泡空間の配置図を図2に示したが、バックフィルムとキャップフィルムとで形成された気泡空間は、直径(d)5?35mm、高さ(h)2?15mmが好ましく、気泡空間の配置ピッチは、巾方向(w)が5?40mm、長手方向(l)が5?40mmが好ましく、用途に応じて適宜選択される。
【0017】
本発明の三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートは、例えば、特許文献1に開示されているような、バックフィルム上に平面略円形の凸部を備えたキャップフィルムの底面を接着剤で接着、または熱融着して貼り合わせ、さらにキャップフィルムの頂面上にライナーフィルムを接着剤で接着、または熱融着して貼り合わせることで製造される。
【0018】
また、本発明の気泡シートの好ましい製造方法は、キャップフィルムを、エンボスロールを用いた真空成形する工程で成形することを特徴とする気泡シートの製造方法で、この方法により気泡シート製造における作業性が改善され好ましい。より具体的には以下に示す製造方法である。
【0019】
本発明の気泡シートは、図3において、第1のTダイ(T1)および第2のTダイ(T2)から、それぞれポリオレフィン系樹脂フィルムを溶融押出し、第1のTダイからのフィルム(F1)をエンボスロールで真空成形することにより多数の凸部から形成された突起を有するキャップフィルムを成形し、第2のTダイからポリオレフィン系樹脂を溶融押出しされるフィルム(F2)はバックフィルムとして、表面に多数の吸引パンチ孔を有する真空成形ロールであるエンボスロール(V)に接触している加圧ロール(S1)により押圧して、キャップフィルムの突起の底面に貼り付けることにより、空気が封入された多数の気泡空間である密閉室を有する気泡シートを成形し、次いで第3のTダイ(T3)を用いて水素化スチレン・ブタジエン系共重合体を溶融押出して得られるライナーフィルム(F3)を、加圧ロールとエンボスロールから押し出された気泡シートのキャップフィルム側に貼り合わせることにより製造することができる。
【0020】
本発明の、気泡シートの他の製造方法では、図3での、第1のTダイ及び第2のTダイによりキャップフィルム用またはバックフィルム用のポリオレフィン系樹脂フィルムを成形するのに代えて、Tダイ法および/またはインフレーション法などにより予め成形されたポリオレフィン系樹脂フィルムをキャップフィルム用またはバックフィルム用に用い、第3のTダイによりライナーフィルム用の水素化スチレン・ブタジエン系共重合体フィルムを成形するのに代えて、Tダイ法および/またはインフレーション法などにより予め成形された水素化スチレン・ブタジエン系共重合体フィルムをライナーフィルム用に用いることにより、気泡シートを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、気泡シートで特定の原材料をバックフィルム、キャップフィルムおよびライナーフィルムに用いることにより、緩衝性および断熱性を損なわずに、本発明の特異な効果であるライナーフィルム同士の粘着性と、気泡シートの巻き戻し容易性の両立を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の気泡シートの好適な用途は、緩衝材、包装材、緩衝機能を有する封筒、開封防止用包装材、養生又は運搬用の表面保護材、断熱材などで、緩衝、断熱機能を必要とする多くの用途に適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に本発明の実験例及び実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
キャップフィルムとバックフィルム用の原材料に低密度ポリエチレン(旭化成社製商品名M1920)を、ライナーフィルム用の原材料に水素化スチレン・ブタジエン共重合体(JSR製商品名ダイナロン4600P:結合スチレン含有量20重量%、水素化率90%以上)を用い、図3に示した方法で気泡シートを製造した。得られた気泡シートは、キャップフィルムに多数の直径10mm、高さ4mmの円筒型凸部を有し、その気泡空間の配置ピッチは巾方向が12mm、長手方向が10mmであり、バックフィルムのキャップ背面には凹部を有する。この気泡シートは気泡空間に空気を十分含むため緩衝性および断熱性に優れており、表1に示すとおり、ライナーフィルム同士の粘着性に優れており、被包装物をしっかり包装するのが容易である。また表1に示すとおり、ライナーフィルムとバックフィルムとの巻き取り後の剥離性に優れており、気泡シートの巻き取り後の巻き戻し性に優れている。
【0025】
なお、ライナーフィルム同士の粘着性、ならびに気泡シートの巻き戻し性は次のように評価した。
(ライナーフィルム同士の粘着性)
ライナーフィルム同士を圧着5分後の剥離性を評価し、剥離しづらい順に粘着性が良いと評価した。
○:良(十分に粘着し剥離しにくい)、△:やや良(○より粘着力低いが実用的粘着力を有する)、×:不良(圧着しても粘着しない)、で評価した。
(気泡シートの巻き戻し性)
ライナーフィルムとバックフィルムとを圧着5分後の剥離性を評価し、その剥離し易い順に気泡シートの巻き戻し性が良いと評価とした。
◎:良(粘着性全くなし)、○:やや良(若干粘着性あるが簡単に剥がせ巻き戻せる)、△:やや不良(粘着して剥がしにくい)×:不良(強く粘着し、巻き戻しできない)、で評価した。
【実施例2】
【0026】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン4600Pに低密度ポリエチレン(旭化成社製商品名L6810)を10重量%ブレンドしたものを使用した以外は、実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートは、表1に示すように、緩衝性および断熱性に優れ、ライナーフィルム同士の粘着性に優れ、かつライナーフィルムとバックフィルムとの剥離性に優れていて巻き戻し性に優れている。
【実施例3】
【0027】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン4600Pに低密度ポリエチレンを20重量%ブレンドしたものを使用した以外は、実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートは、表1に示すように、緩衝性および断熱性に優れ、ライナーフィルム同士の粘着性に優れ、かつライナーフィルムとバックフィルムとの剥離性に優れていて巻き戻し性に優れている。
【比較例1】
【0028】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、実施例1でキャップフィルムに用いたのと同じポリエチレンフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートは、表1に示すように、緩衝性および断熱性はあるものの、ライナーフィルム同士の粘着性は全くなく、包んでもすぐ解けてしまい被包装物を固定することができなかった。また表1に示すとおり、気泡シートの巻き取り後の巻き戻し性は問題ないことがわかる。
【比較例2】
【0029】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン4600Pに低密度ポリエチレンを40重量%ブレンドしたものを使用した以外は、実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートは、表1に示すように、緩衝性および断熱性はあるものの、ライナーフィルム同士の粘着性は不十分で、包んでもすぐに解けてしまい被包装物を固定することができなかった。また表1に示すとおり、気泡シートの巻き戻し性は問題ないことがわかった。
【実施例4】
【0030】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン1320P(JSR製水素化スチレン・ブタジエン共重合体:結合スチレン含有量10%のスチレン・ブタジエンランダム共重合体の水素化共重合体)を用いた以外は実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートの評価結果は表1に示すとおりで、緩衝性および断熱性、ライナーフィルム同士の粘着性、ならびに気泡シート巻き戻し性に優れていた。
【実施例5】
【0031】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン4600Pとダイナロン1320Pとの60:40の重量比でブレンドした原材料を用いた以外は実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートの評価結果は表1に示すとおりで、緩衝性および断熱性、ライナーフィルム同士の粘着性、ならびに気泡シートの巻き戻し性に優れていた。
【実施例6】
【0032】
実施例1で、ライナーフィルムに使用のダイナロン4600P単独に代えて、ダイナロン1320Pにポリプロピレン(サンアロマー社製商品名PC630A)を10重量%ブレンドしたものを用いた以外は実施例1と同様にして気泡シートを製造した。得られた気泡シートの評価結果は表1に示すとおりで、緩衝性および断熱性、ライナーフィルム同士の粘着性、ならびに気泡シートの巻き戻し性に優れていた。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の気泡シートの一部断面図である。
【図2】本発明の気泡シートの気泡空間の配置図である。
【図3】本発明の気泡シートを製造する工程を表す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 気泡シート
2 キャップフィルム
3 バックフィルム
4 ライナーフイルム
5 底面
6 気泡空間
7 頂面(凸部)
8 空間
h 高さ
d 直径
w 巾方向
l 長手方向
T1 Tダイ1
T2 Tダイ2
T3 Tダイ3
S1 ヒートシールロール(加圧ロール)1
S2 ヒートシールロール(加圧ロール)2
S3 ヒートシールロール(加圧ロール)3
V エンボスロール
F1 ポリオレフィン系樹脂フィルム
F2 ポリオレフィン系樹脂フィルム
F3 水素化スチレン・ブタジエン系共重合体フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみであり、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。
【請求項2】
多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に熱融着により貼り合わされることにより設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの添加剤以外の原材料が水素化スチレン・ブタジエン系共重合体のみである気泡シートの製造方法であって、キャップフィルムをエンボスロールを用いた真空成形する工程で成形するとともに、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成する工程を備えることを特徴とする気泡シートの製造方法。
【請求項3】
多数の凸部が形成されたキャップフィルムと、当該キャップフィルムの一方の面に設けられたバックフィルムと、前記キャップフィルムの他方の面に設けられた一層からなるライナーフィルムと、を有する三層構造を備え、内側に多数の気泡空間が形成されてなる気泡シートであって、キャップフィルムおよびバックフィルムの原材料がポリオレフィン系樹脂であり、ライナーフィルムの原材料が、ポリオレフィン系樹脂を30重量%以下含有する水素化スチレン・ブタジエン系共重合体とポリオレフィン系樹脂とのブレンド物であり、前記ライナーフィルムは、前記ブレンド物を溶融押し出しし、融着することにより前記キャップフィルムに直接設けられ、前記バックフィルムの背面である、前記キャップフィルムと接しない面に、前記気泡空間の直径及び配置ピッチの円形の凹部を形成した気泡シート。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-03-19 
結審通知日 2012-03-22 
審決日 2012-04-17 
出願番号 特願2003-320363(P2003-320363)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
小石 真弓
登録日 2008-05-16 
登録番号 特許第4126000号(P4126000)
発明の名称 気泡シート及びその製造方法  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 森▲崎▼ 博之  
代理人 中山 真一  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 岡野 功  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 渡辺 喜平  

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