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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1258532
審判番号 不服2011-15882  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-22 
確定日 2012-06-14 
事件の表示 特願2005- 43306「生体情報測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日出願公開、特開2006-223694〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年2月21日を出願日とするものであり,平成23年4月15日付けで拒絶査定がされ,これに対し同年7月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成23年7月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成23年7月22日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,補正前の特許請求の範囲の請求項1を,
「【請求項1】生体表面から生体内を流れる血液に対して信号を送受信し,受信した前記信号から前記血液の流速に対応して変化したドップラシフト信号を出力する計測手段と,前記ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,前記周波数分布データから前記信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度を算出する角度演算手段と,前記周波数分布データを前記角度と対応させて前記血液の流速値を算出する速度演算手段とを有し,
前記速度演算手段は,前記角度が変動したか否かによりノイズを判定し,前記ノイズと判定された角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,
前記ノイズを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出することを特徴とする生体情報測定装置。」とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。以下,同様。)。

(2)補正要件について
上記請求項1についての補正は,「生体情報測定装置」について,補正前の請求項1において「速度演算手段は,前記角度を判定し,前記判定した角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,前記エラーを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出する」と特定されていたのを,「速度演算手段は,前記角度が変動したか否かによりノイズを判定し,前記ノイズと判定された角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,前記ノイズを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出する」として,その内容を限定する補正を含むものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)独立特許要件(進歩性)について

ア 刊行物1およびその記載事項
本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である,特開平8-622号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。以下,下線は当審において付記したものである。

(ア-1)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,超音波画像生成装置を用いた血管中の血液の血流速度分布表示方法に関する。」

(ア-2)「【0002】【従来の技術】周知のように,医学的適用事例において用いられる最近の超音波画像生成装置はスペクトルドップラモードを備えており,これは動脈および静脈の疾患の診断に利用する目的で対象物の血管中の血流を検出し血液速度を測定するために用いられる。このような最近の超音波画像生成装置は,対象物の領域から受信された1つの受信ビーム方向からの複数のエコーを分析することにより得られるドップラ周波数シフトを利用して,対象物における血管中の血流速度を測定する。しかし周知のように,このようにして測定された血流速度は,超音波送信ビームに対する血流角度の関数である。」

(ア-3)「【0013】【実施例の説明】図1には,超音波画像生成装置における本発明の第1の観点による実施例を実現するために用いられる送/受信ビームの幾何学的形状を得るためのトランスデューサアレイの配置構成が図示されている。図1に示されているように,血管200中を速度Vおよび矢印10に対し角度Θ_(i) で血液が流れる。本発明の第1の観点によれば,トランスデューサアレイ100はサブアパーチャ110と120とに分けられている。サブアパーチャ120からは単一の送信ビームが発生し,受信ビームはサブアパーチャ110と120により検出される。サブアパーチャ110は,角度による散乱に起因するエコーを受信し,サブアパーチャ120は後方散乱に起因するエコーを受信する。」

(ア-4)「【0016】本発明の第1の観点による有利な実施形態によれば,受信された2つのビームは,装置内の2つの同一の処理チャネルを用いることで実質的に同時に並行処理される。図2はデータ受信機500のブロック図であって,この受信機は導線300を介して受信ビーム1(サブアパーチャ110)から高周波データを受信し,導線310を介して受信ビーム2(サブアパーチャ120)から高周波データを受信する。」

(ア-5)「【0018】・・・さらに図3に示されているように,ウォールフィルタ処理された各チャネルのI信号とQ信号は,自己相関ベースつまりACベースの平均周波数推定器420と421とへそれぞれ供給され,これにより受信ビームの各々の平均ドップラ周波数が決定される。自己相関ベースの推定器420および421で用いられるアルゴリズムについては後で詳細に説明する。
【0019】ACベースの平均周波数推定器420および421による平均ドップラ周波数の推定出力は装置CPU460へ入力として供給され,そこにおいて所定のスキャン形状パラメータとの組み合わせで,血管200中の推定血流角度が決定される。推定血流角度は,血管200中の血流速度の速さの推定値を決定するために用いられる。」

(ア-6)「【0021】図3に示されているように,サブアパーチャ120からのデータはFFTベースのスペクトル計算装置430と音声処理装置470とへ供給される。当業者に周知のように,FFTベースのスペクトル計算装置430は,スペクトル前処理装置440へ入力として加えられるデータを得るために,サンプリングされたデータを分析する。スペクトル前処理装置440は当業者に周知のように,スペクトルドップラモード表示を行わせるために用いられるデータを生成するための装置である。スペクトル前処理装置440はたとえば,ノイズの除去,画像のスムーシング,ブラックドット充填等を行う。スペクトル前処理装置440からの出力は,装置CPU460からの推定血流角度および推定血流速度とともにディスプレイ装置へ供給される。これに応答して,ディスプレイ装置450は血流速度分布を生成する。」

(ア-7)「【0022】次に,ドップラ平均周波数推定f_(d1)とf_(d2)を用いて血流角度と血流速度を決定するために利用される方法について説明する。f_(d1)およびf_(d2)は次式により得られる:
f_(d2)=2|V|cos(Θ_(i) +Θ_(t))f_(0)/c (1)
f_(d1)=|V|[cos(Θ_(i)+Θ_(t))+cos(Θ_(i)+Θ_(t)+Θ_(a))]f_(0)/c (2)
この場合,f_(0) は送信周波数であり,cは音響速度,|V|は流速,血流は図1に示されている矢印10に対し角度Θ_(i)を成し,サブアパーチャ120の送/受信ビームは図1に示されている矢印20に対し角度Θ_(t)で発生し,さらにΘ_(a)は図1に示されている2つの受信ビーム間の角度である。Θ_(a)は次式で表すことができる:
Θ_(a)=sin^(-1)[Scos(Θ_(t))/(R^(2)+S^(2)+2RSsin(Θ_(t)))^(1/2)] (3)
この場合,Sは図1に示されているSはサブアパーチャアレイ110の中央とサブアパーチャアレイ120の中央との間の距離であり,Rはサブアパーチャ120の中央から血管200中のサンプルボリュームまでの距離である。次式で表される血流角度Θ_(i)と血流速度|V|を得るために式(1)および(2)が解かれる。
【0023】
Θ_(i)=tan^(-1)[(1+cos(Θ_(a))-2f_(d1)/f_(d2))/sin(Θ_(a))]-Θ_(t) (4)
|V|=(f_(d2)c)/(2f_(0)cos(Θ_(i)+Θ_(t))) (5)
式(4)中,f_(d1)とf_(d2)の極性符号はf_(d1)/f_(d2)の除算によりなくなる。」

(ア-8)「【0024】・・・図4には,本発明にしたがって得られる血流速度分布表示が図示されている。図4に示されているように血流角度が表示されており,このグラフは速度に関してスケーリングされている。さらに本発明によれば,血流とトランスデューサアレイの幾何学的配置が速度測定が不精確になるようなときには常に,ユーザは警告を受信する。たとえば,(Θ_(i)+Θ_(t))つまりドップラ角度(送信ビームと血流方向との間の角度)が所定の閾値を越えたときには,不精確な測定の生じる可能性がある。したがって本発明の有利な実施形態によれば,たとえばΘ_(i)+Θ_(t)が70゜を越えたときには常に,あるいはΘ_(a) つまり2つの受信ビーム間の角度がユーザにより定義できる所定の閾値を下回ったときには常に,そのような警告が出される。」

(ア-9)「図1は,発明の実施形態を実現するために用いられる幾何学的配置関係の送信ビームと受信ビームのためのトランスデューサアレイの配置構成図であり,この図において,トランスデューサアレイ100に対する特定の方向に矢印10および20が記載されている。」

イ 対比・判断
刊行物1からの摘記事項(ア-1)?(ア-9)を総合すると,刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。

「血管中の血液の血流速度分布表示方法に用いる超音波画像生成装置であり,サブアパーチャ110と120とに分けられたトランスデューサアレイ100を備え,血流はトランスデューサアレイ100に対する特定の方向に対して角度Θ_(i) を成し,サブアパーチャ120の送/受信ビームはトランスデューサアレイ100に対する特定の方向に対して角度Θ_(t) を成し,サブアパーチャ120からは単一の送信ビームが発生し,受信ビームはサブアパーチャ110と120により検出され,平均周波数推定器420と421において受信ビームの各々の平均ドップラ周波数が決定され,平均周波数推定器420および421による平均ドップラ周波数の推定出力は装置CPU460へ供給され,そこにおいて血管200中の推定血流角度が決定され,推定血流角度は,血管200中の血流速度の速さの推定値を決定するために用いられ,スペクトル前処理装置440からの出力は,装置CPU460からの推定血流角度および推定血流速度とともにディスプレイ装置へ供給され,これに応答して,ディスプレイ装置450は血流速度分布を生成し,血流とトランスデューサアレイの幾何学的配置が速度測定が不精確になるようなとき,たとえば,(Θ_(i)+Θ_(t))つまりドップラ角度である送信ビームと血流方向との間の角度が所定の閾値を越えたときに,ユーザは警告を受信する,超音波画像生成装置。」(以下,「刊行物1発明」という。)

そこで,以下に本願補正発明と刊行物1発明を対比する。

(ア)刊行物1発明の「超音波画像生成装置」は,その機能および構成からみて,本願補正発明の「生体情報測定装置」に相当するものである。

(イ)刊行物1発明は,「サブアパーチャ110と120とに分けられたトランスデューサアレイ100」によって「サブアパーチャ120から」「単一の送信ビーム」を送信し,「サブアパーチャ110と120により」「受信ビーム」を「検出」するものであり,受信ビームつまり超音波エコーにより「血管中の血液の血流速度分布」を測定するものである。ここで,摘記事項(ア-2)における「【0002】【従来の技術】・・・対象物の領域から受信された1つの受信ビーム方向からの複数のエコーを分析することにより得られるドップラ周波数シフトを利用して,対象物における血管中の血流速度を測定する。しかし周知のように,このようにして測定された血流速度は,超音波送信ビームに対する血流角度の関数である。」との記載および技術常識から,上記「トランスデューサアレイ100」が受信ビームから血流速度に対応して変化したドップラシフト信号を出力するものであるのは,明らかである。
そうすると,刊行物1発明の「サブアパーチャ110と120とに分けられたトランスデューサアレイ100」は,本願補正発明の「生体表面から生体内を流れる血液に対して信号を送受信し,受信した前記信号から前記血液の流速に対応して変化したドップラシフト信号を出力する計測手段」に相当するものであるといえる。

(ウ)刊行物1発明の「装置CPU460」は「血管200中の推定血流角度」を「決定」するものである。ここで,刊行物1発明において「血流角度」は「トランスデューサアレイ100に対する特定の方向に対」する「角度Θ_(i)」として定義されている。そして,上記「角度Θ_(i)」が,ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,周波数分布データに基づき算出されるものであるのは,上記「(イ)」において指摘した摘記事項(ア-2)における記載,摘記事項(ア-7)における数式(1),(2),(4),および,技術常識から明らかである。
一方,本願補正発明は,「信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度」について,「信号の送受信方向」を具体的に特定するものではない。上記「角度」に関して,発明の詳細な説明には,「【0011】・・・血流速度センサ10は,2対の超音波センサ,すなわち,発信素子2a,受信素子3aから成る超音波センサ1aと,発信素子2b,受信素子3bから成る超音波センサ1bとを組み合わせたものである。・・・本発明においては,2対の超音波センサ1a,1bを用い,超音波の射出および受信の指向性の方向が互いに平行にならない角度αを成すようにセンサ支持基板10上に配置してある。」と記載され,「【0019】・・・ここで,θは,血流速度センサ10と血流の方向のなす角度であり,【0020】・・・αは2つの超音波センサの超音波の射出および受信の指向性のなす角度,cは生体中での音速,Fsは超音波センサの発信周波数(駆動周波数)である。【0021】生体(指先)とセンサ位置関係が固定され,安定して接触している状態では,角度θは,ほぼ一定の値から変動せず,安定しているはずである。しかし,被験者が指先を動かした場合,角度θが変化するのみならず,皮膚とセンサの摩擦により信号にノイズが発生し,Vhの計算結果に影響を与え,・・・したがって,ノイズのない状態では一定の値を保つはずのθに変動が生じた場合,すなわち指先の動きや外部からのノイズがセンサに混入したと判断できるのである。」と記載されている。これらの記載を参酌すると,本願補正発明においてノイズ判定に用いられる「信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度」は,血流速度センサ10,すなわち上記「計測手段」と血液の流れる方向の成す角度として定義されていることが理解される。
そうすると,刊行物1発明の「トランスデューサアレイ100に対する特定の方向」と「血流方向」との成す「角度Θ_(i)」を算出する「装置CPU460」と,本願補正発明の「ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,前記周波数分布データから前記信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度を算出する角度演算手段」とは,「ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,前記周波数分布データから,信号を送受信する計測手段に対する前記血液の流れる方向の相対的な角度を算出する角度演算手段」である点で共通する。

(エ)本願補正発明の「速度演算手段」は「周波数分布データを前記角度と対応させて前記血液の流速値を算出する」ものであるが,「角度と対応させて」の具体的な内容については特定していない。これについて発明の詳細な説明を参酌すると,「【0018】以上の方法で超音波センサ1aのデータから得られた周波数シフトをFa,超音波センサ1bのデータから得られた周波数シフトをFb,とすると,血流速度Vhは,下記の式で導出できる。・・・ここで,θは,血流速度センサ10と血流の方向のなす角度であり,・・・ とあらわせる。αは2つの超音波センサの超音波の射出および受信の指向性のなす角度,cは生体中での音速,Fsは超音波センサの発信周波数(駆動周波数)である。」と記載されており,「角度と対応させて」とは,特定の角度における血液の流速値を算出することを意味するものと理解される。
一方,刊行物1発明の「装置CPU460」は「血管200中の推定血流角度」を「決定」し「推定血流角度」を「血管200中の血流速度の速さの推定値を決定するために用い」るものであり,上記「血流速度」の算出において周波数分布データが用いられているのは明らかであるから,本願補正発明の「前記周波数分布データを前記角度と対応させて前記血液の流速値を算出する速度演算手段」に相当する。

(オ)刊行物1発明の「角度Θ_(t)」は「サブアパーチャ120の送/受信ビーム」と「トランスデューサアレイ100に対する特定の方向」との成す角度であるから,「血流とトランスデューサアレイの幾何学的配置が速度測定が不精確になるようなとき」に変動する角度ではない。そうすると,「Θ_(i)+Θ_(t)」が「所定の閾値を越えたとき」とは,「Θ_(i)」が「所定の閾値を越えたとき」,つまり,「Θ_(i)」が変動したときであるといえる。
また,刊行物1発明における「警告」の発信は,血流角度に基づく血流速度の演算が正確に行われなかったこと,すなわち,血流速度の演算値がエラーとなったことの判定を前提に行われるものといえるから,刊行物1発明はエラー判定のための手段を当然に備えるものであるといえる。
そうすると,刊行物1発明における,「超音波画像生成装置」の「血流とトランスデューサアレイの幾何学的配置が速度測定が不精確になるようなとき,たとえば,(Θi+Θt)つまりドップラ角度である送信ビームと血流方向との間の角度が所定の閾値を越えたときに,ユーザは警告を受信する」構成と,本願補正発明における,「生体情報測定装置」の「速度演算手段」が「前記角度が変動したか否かによりノイズを判定し,前記ノイズと判定された角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え」る構成とは,「生体情報測定装置」が「角度が変動したか否か」に基づき,その「角度に対応する前記流速値」の「エラー」を「判定する手段を備え」るものである点で共通する。

以上より,本願補正発明と刊行物1発明とは,
「生体表面から生体内を流れる血液に対して信号を送受信し,受信した前記信号から前記血液の流速に対応して変化したドップラシフト信号を出力する計測手段と,
ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,前記周波数分布データから,信号を送受信する計測手段に対する前記血液の流れる方向の相対的な角度を算出する角度演算手段と,前記周波数分布データを前記角度と対応させて前記血液の流速値を算出する速度演算手段とを有し,
角度が変動したか否かに基づき,その角度に対応する前記流速値のエラーを判定する手段を備える生体情報測定装置。」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)「角度演算手段」が算出する「角度」が,本願補正発明においては「信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度」,すなわち,「計測手段」と「血液の流れる方向の成す角度」であるのに対して,刊行物1発明においては,「トランスデューサアレイ100に対する特定の方向」と「血流方向」との成す「角度Θ_(i)」である点。

(相違点2)「生体情報測定装置」が,本願補正発明においては「速度演算手段」が「角度が変動したか否かによりノイズを判定し,前記ノイズと判定された角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え」,「前記ノイズを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出する」ものであるのに対して,刊行物1発明は,「(Θ_(i)+Θ_(t))つまりドップラ角度である送信ビームと血流方向との間の角度が所定の閾値を越えたときに」「速度測定が不精確」であるとして「ユーザは警告を受信」するものであるが,速度演算手段がノイズの判定によるエラー判定手段を備えることについて特定されておらず,また,ノイズを判定した時に流速値を削除し,これに代えて流速平均値を算出するものではない点。

以下,上記相違点について検討する。

(相違点1について)刊行物1発明の「トランスデューサアレイ100に対する特定の方向」と「血流方向」との成す「角度Θ_(i)」と,本願補正発明の「信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度」,すなわち,「計測手段」と「血液の流れる方向の成す角度」とは,共に,送受信手段に対する,血流の相対的な角度である点で共通するものであり,上記角度の測定基準を送受信手段に対するどの角度に設定するかという点に技術的な意味はなく,両者は実質的に等価なものといえる。
そうすると,刊行物1発明における角度Θiを,本願発明におけるのと同様に,「計測手段」と「血液の流れる方向の成す角度」とすることは,当業者が適宜なし得ることである。

(相違点2について)生体を対象とした測定装置が,測定値のノイズの判定に基づいてエラーを判断し,エラーと判断された測定値を削除して,削除された測定値を他の値により内挿して補間することは,本願出願前における周知の技術事項であり,例えば,原査定の拒絶の理由において引用した刊行物である,特開平9-521号公報の【0001】,【0021】,図6bに,「ドップラー法により心臓の血流特性を測定する超音波診断装置の血流情報の連続的表示において,ドップラー表示処理器により,虚像70の開始点X1と終止点Y2を特定し,この虚像を,虚像両末端のX1とY2を結ぶ直線状に内挿する値を表示することにより除去すること」について記載され,また,同じく原査定の拒絶の理由において引用した刊行物である,特開平5-277101号公報の【0001】,【0013】,【0018】に,「画像ノイズフィルタを備えた超音波診断装置において,超音波ビーム100の走査において,超音波ビーム103上の受信信号を処理するにあたり,そのエコーデータ103aに対してそれぞれの両側に存在する同一深度のエコーデータ104a,105aが参照され,中央のエコーデータ103aがその両側のエコーデータ104a,105aよりも大きい場合あるいは小さい場合には,それがノイズである可能性が高いためノイズ除去を実行し,エコーデータ104a及び105aを用いてエコーデータ103aの補正が行われ,補正値として両側のエコーデータ104a,105aの平均がとられること」について記載され,さらに,特開平11-113909号公報の【請求項1】,【請求項2】に,「被検体内の血流によりドプラ偏移を受けた信号を用いて血流の位置と方向を演算手段により求めて表示する超音波ドプラ装置において,血流速度信号スムージング処理部により,ノイズ判定手段によりノイズと判定され除去された信号に代わり,ノイズと判定された近傍の信号を用いて補間演算又はスムージング演算により求めた信号に置換して画像表示信号とすること」について記載されているとおりである。さらに,内挿する値として平均値を用いることも,上記文献特開平5-277101号公報に記載されるように,一般的な手法である。
そうすると,刊行物1発明における,エラーを判定するための,送信ビームと血流方向との間の角度が所定の閾値を越えたときに速度測定が不精確であるとしてユーザに警告を発信する構成に対して,上記周知技術を適用して,上記角度が所定の閾値を越えたときにこれをノイズとして,ノイズの判定により速度測定値のエラーを判定し,エラーと判定された速度測定値を削除して,削除した速度測定値の前後の値の平均値を用いて速度測定値を再び算出する構成とすることは,当業者が容易になし得ることといえる。
そして,上記適用に際して,エラーの判定を測定装置における適宜の構成で行うものとすること,すなわち,刊行物1発明において,これを血流速度を演算する装置CPU460とすることは設計事項であり,当業者が容易になし得ることである。

(本願補正発明の効果について)
本願補正発明の有する効果は,刊行物1の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成23年7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし5に係る発明は,平成23年4月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】生体表面から生体内を流れる血液に対して信号を送受信し,受信した前記信号から前記血液の流速に対応して変化したドップラシフト信号を出力する計測手段と,前記ドップラシフト信号を演算処理して周波数分布データに変換し,前記周波数分布データから前記信号の送受信方向と前記血液の流れる方向との成す角度を算出する角度演算手段と,前記周波数分布データを前記角度と対応させて前記血液の流速値を算出する速度演算手段とを有し,
前記速度演算手段は,前記角度を判定し,前記判定した角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,前記エラーを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出することを特徴とする生体情報測定装置。」

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2(3)」で検討した本願補正発明における,
「生体情報測定装置」についての,「速度演算手段は,前記角度が変動したか否かによりノイズを判定し,前記ノイズと判定された角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,前記ノイズを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出する」との限定事項を,「速度演算手段は,前記角度を判定し,前記判定した角度に対応する前記流速値のエラーを判定するエラー判定手段を備え,前記エラーを判定した時の角度に対応する流速値を削除し,前記削除した流速値の前後の流速値の流速平均値を算出し,前記流速平均値を用いて前記流速値を再び算出する」とするものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-28 
結審通知日 2012-04-04 
審決日 2012-04-27 
出願番号 特願2005-43306(P2005-43306)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 横井 亜矢子
信田 昌男
発明の名称 生体情報測定装置  
代理人 久原 健太郎  
代理人 木村 信行  
代理人 内野 則彰  

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