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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B82B
管理番号 1258823
審判番号 不服2010-3783  
総通号数 152 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-22 
確定日 2012-06-21 
事件の表示 特願2006-535025「ナノ物質の操作方法およびその利用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日国際公開、WO2006/027863〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成17年3月3日を国際出願日(優先日 平成16年9月3日)とする出願であって、平成21年6月29日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年9月4日付けで意見書ならびに手続補正書が提出されたものの、同年11月24日付けで拒絶査定がされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として平成22年2月22日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、当審における数度の応対の後、平成23年4月12日付けで、実験成績証明書提出のための猶予期間を求める上申書が提出され、当該上申書の内容に沿って、同年4月18日付けで実験成績証明書提出のための1年間の猶予期間を与える旨の通知を行ったところ、平成24年4月4日付けで、実験成績証明書の提出をしない旨記載した上申書が提出された。

2 本願発明
本願の請求項1?27に係る発明は、平成21年9月4日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?27に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ナノ物質に対して、当該ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する共鳴光を照射することにより、共鳴光からナノ物質に力を及ぼして当該ナノ物質を操作するナノ物質の操作方法において、
共鳴光の照射対象が、複数個のナノ物質からなるナノ物質集団であるとともに、
ナノ物質間に生じる力学的相互作用を制御するために、照射する上記共鳴光の偏光を変化させることを特徴とするナノ物質の操作方法。」
また、上記本願発明を引用し、本願発明の「共鳴光」について特定した請求項5、6に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項5】
互いに直交する方向をD1およびD2とするとき、
共鳴光として、D1方向に振動する偏光であって、単一のナノ物質が有する共鳴エネルギーよりも低エネルギー側のピークのみをカバーするレーザービームAを照射し、それにより、D1方向にあるナノ物質同士に引力を働かせ、D2方向にあるナノ物質同士には何の力も働かせないことを特徴とする請求の範囲1に記載のナノ物質の操作方法。」(以下「本願発明5」という。)
「【請求項6】
互いに直交する方向をD1およびD2とするとき、
共鳴光として、D1方向に振動する偏光であって、単一のナノ物質が有する共鳴エネルギーよりも高エネルギー側のピークのみをカバーするレーザービームAを照射し、それにより、D2方向にあるナノ物質同士に斥力を働かせ、D1方向にあるナノ物質同士には何の力も働かせないことを特徴とする請求の範囲1に記載のナノ物質の操作方法。」(以下「本願発明6」という。)

3 原査定の理由
拒絶査定の理由として、原審が通知した理由は、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであって、下記(1)、(2)の具体的指摘をしている。
(1)本願の各請求項に係る発明は、ナノ物質に対して共鳴光を照射することによって、該ナノ粒子を操作できることを前提としている。
本願明細書の発明の詳細な説明中には、立方体状又は球状のCuCl半導体量子ドットが2つ隣接して存在する系に対して、偏光の異なる共鳴光を照射した際に、前記量子ドットに発生する力を、Maxwellの応力テンソルを用いたモデル計算により求めたことが記載されている。
しかしながら、「近接場光学研究グループ第10回研究討論会予稿集」の第49頁において本願発明者も言及しているように、「現実には、共鳴効果を用いた場合には物質に対する熱的影響や環境の問題など種々の検討すべき問題が発生する」ものと認められる。
また、PHYSICAL REVIEW LETTERS,2004,Vol.92,No.8,p.089701_1、または、PHYSICAL REVIEW LETTERS,2004,Vol.92,No.8,p.089702_1 には、ナノ粒子の共鳴準位幅が広がることにより、ナノ粒子と輻射場の相互作用が、本願明細書で記載されている水準よりも低下することの可能性が指摘されている。そして、室温では輻射場による操作が実現不可能である旨の示唆もなされている。
したがって、本願明細書の実施例において開示された実験条件によって、実際にナノ物質の位置を制御できることは、明らかであるものとは認められない。

(2)本願の各請求項に係る発明は、ナノ物質を操作するための共鳴光の偏光を変えることにより、複数のナノ物質間の力学的相互作用を制御することを特徴とする。
当該特徴に関して、発明の詳細な説明中には、1辺20nmの立方体でCuClの半導体量子ドットを2個、8nm間隔で配置した場合(図3)と直径40nmの球でCuClの半導体量子ドットを2個、6nm間隔で配置した場合(図4)に関して、偏光の向きと照射エネルギーに応じて該量子ドット間に働く力を計算した結果が開示されている。
しかしながら、他の条件(ナノ物質の形状や大きさ、また、複数のナノ物質の間隔など)に関して、どのような力が発生するのかは何ら説明がなされていない。そして、[0106]段落の60nmの量子ドットに関する記載からも、ナノ物質間の相互作用は、様々な条件に複雑に依存するものと認められる。
さらに、発明の詳細な説明中の上記実施例には、いかなる環境のもとに前記ナノ物質がおかれている場合の計算であるのか、何ら説明がなされていない。また、他の環境(温度や周囲の媒質)において、どのような力が発生するのか、記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明中の記載に基づいて、当業者が所望のナノ物質間の相互作用を制御しようとした場合には、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるものと認められる。

4 請求人の主張の概要
特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていることについて、請求人は、審判請求書において、「出願当初の本願明細書には、ナノ物質の電子的励起準位間のエネルギー差等を決定する方法、操作用のレーザー光源の条件に関する情報、操作環境に関する情報や操作対象のナノ物質の導入方法、操作に必要な種々の装置に関する情報に至るまで具体的にかつ詳細に開示している(例えば、出願当初の本願明細書の段落〔0086〕?〔0098〕並びに図面参照)から、確認実験の結果がなくても、当業者であれば、本願の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて発明を実施をすることができる」旨主張し、原審または当審において、以下の文献を提示もしくは指摘している。
(1)特開2003-200399号公報(上記意見書で指摘)(本願明細書の実施例で開示された実験条件によって、実際にナノ物質の位置を制御できることについて)
(2)physica status solidi (b),2006,Vol.243, No.14 p.3829-3833(上記意見書で指摘した文献A)(本願明細書の実施例で開示された実験条件によって、実際にナノ物質の位置を制御できることについて)
(3)Japanese Journal of Applied Physics,2006,Vol.45,No.16,p.L453-L456(上記意見書で指摘した文献B)(本願明細書の実施例で開示された実験条件によって、実際にナノ物質の位置を制御できることについて)
(4)Journal of American Chemical Society, 2006,Vol.128, p.5711-5717(上記意見書で指摘した文献C)(本願明細書の実施例で開示された実験条件によって、実際にナノ物質の位置を制御できることについて)
(5)Mechanical interaction between nano objects induced by resonant light(CLEO/IEQE&PhAST 2004 技術要旨CD-ROM IWG2)(新規性喪失の例外適用に該当するとして提出された文献)(照射すべき共鳴光のエネルギーについて)
(6)PHYSICAL REVIEW LETTERS, VOLUME 71, NUMBER 7, P1039-1042(審判請求書に添付された参考資料1)(ナノ物質の共鳴準位を決定し、操作用のレーザー光源の条件の設定することについて)
(7)色素分子Alexa-647の検索結果(審判請求書に添付された参考資料2)(文献Cの共鳴光を用いた実験で用いられている色素分子Alexa-647が100個以上の原子からなる高分子であってナノサイズであることについて)
(8)光化学,Vol.36,No.2,「溶液中単一金ナノ粒子のレーザー照射実験」の項(平成23年3月30日にFAX送信された参考資料)(本願発明が実施可能であることについて)
(9)光技術コンタクト,Vol.49,No.3,「熱揺らぎの下での金属ナノ粒子の光マニピュレーション」の項(平成24年4月6日にFAX送信された参考資料2)(本願発明が実施可能であることについて)

5 当審の判断
(1)本願発明の属する技術分野について
本願発明は上記「2」で述べたとおりのものであって、「ナノ物質に対して、当該ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する共鳴光を照射することにより、共鳴光からナノ物質に力を及ぼして当該ナノ物質を操作するナノ物質の操作方法」を前提とし、さらに、「ナノ物質間に生じる力学的相互作用を制御するために、照射する上記共鳴光の偏光を変化させること」を発明特定事項とするものである。
ここで、原審の拒絶理由で指摘しているとおり、「ナノ物質に対して、当該ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する共鳴光を照射することにより、共鳴光からナノ物質に力を及ぼして当該ナノ物質を操作するナノ物質の操作方法」は、その実施をすることについて当業者から疑義が呈せられたものであって(上記「3」の「(1)」参照)、請求人の提出した意見書によると、請求人の指摘した上記「4」の「(2)」の文献は、当該疑義に反論するために実験的な確認を行ったものである。そうすると、本願発明の属する技術分野においては、理論的計算によって検証された事実のみでは、その事実の真偽が明らかでなく、本願発明の属する技術分野における発明が実施可能であるというためには、理論的計算のみによる検証では足らず、当該発明が、当業者の技術常識からして明らかに実施可能であると認識できる、もしくは、当該発明を実験的に検証する必要があるというべきである。

(2)本願発明の前提事項と本願発明の特徴的事項について
本願発明が前提とする「ナノ物質に対して、当該ナノ物質の電子的励起準位に共鳴する共鳴光を照射することにより、共鳴光からナノ物質に力を及ぼして当該ナノ物質を操作するナノ物質の操作方法」は、請求人の指摘した上記「4」の「(2)」の文献によって、実験的に検証されているといえる。
そこで、本願発明の「ナノ物質間に生じる力学的相互作用を制御するために、照射する上記共鳴光の偏光を変化させること」という特徴的事項に関し、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が、その事項を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると当業者が理解し得るか否かについて、上記(1)に鑑み、当業者の技術常識からして明らかに実施可能であると認識できるか、もしくは、実験的な検証がなされているか、という観点から検討する。

(3)本願の明細書の発明の詳細な説明における実施の教示
ア 装置の構成等
上記特徴的事項に関して、本願の明細書の発明の詳細な説明には、装置の構成について、例えば、段落【0091】に「上記レーザー光源21aおよび/または21bの具体的な構成は特に限定されるものではなく、ナノ物質の操作に用いられる公知のレーザー光源を用いることができる。具体的には、例えば、操作対象となるナノ物質がCuClの量子ドットである場合、CuCl電子励起準位が存在する近紫外領域の光を照射するレーザー光源を用いればよい。より具体的には、波長385±1nm、出力3mW、線幅0.05nmの青紫色半導体レーザー素子を用いることができる。他にも、波長可変のレーザー光源として、モードロックチタン・サファイアレーザー(基本波:波長720nm?900nm、LBOやLiO_(3)等の非線形光学結晶を用いた場合、第2高調波:波長360?450nm)を用いることができる。また、偏光の変化等、照射条件の制御手法についても特に限定されるものではなく、公知のレーザー用光学系、例えば、偏光の変化の場合、波長板を用いればよい。波長板として、例えば、λ/2波長板を用いれば、レーザー光の偏光を90°回転させることができる。」と記載されている。
また、ナノ粒子を操作する装置内の環境(雰囲気)については、段落【0092】、【0094】に、「上記筐体22は、ナノ物質集団12を存在させ、かつ、操作可能とする内部空間を有しており、上記レーザー光源21aおよび/または21bによるレーザー光(共鳴光)の照射により、内部のナノ物質集団12を操作する。筐体22の大きさや形状等は特に限定されるものではなく、ナノ物質(ナノ物質集団12)の種類や操作環境に応じて適切な構成のものを採用すればよい。例えば、ナノ物質集団12を超流動ヘリウム等の流動性媒質中で操作する場合には、超流動ヘリウムが充填可能となっているヘリウムクライオスタット等を用いることができる。」、「図2に示す構成では、筐体22内で流動性媒質を充填させる構成となっているので、流動性媒質供給部24を備えている。流動性媒質としては、上記超流動ヘリウム等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。流動性媒質供給部24の具体的構成も特に限定されるものではなく、例えば、ヘリウムクライオスタットで用いられている公知の構成を採用すればよい。」などと記載されている。
そうすると、技術常識を勘案すれば、当業者は、装置の構成やナノ粒子を操作する装置内の環境(雰囲気)について理解することができるといえる。
イ 偏光の変化とナノ物質の操作
一方、「共鳴光の偏光を変化させること」により、「ナノ物質間に生じる力学的相互作用を制御」して「ナノ物質を操作する」ことを実施することについては、段落【0104】?【0108】に、以下のとおり記載されている。
「【0104】
ナノ物質としては、1辺20nmの立方体で材質がCuClの半導体量子ドットを選択した。半導体量子ドットの電子的励起状態はLorentz振動子モデルで近似し、離散化積分方程式により応答場を計算し、それをMaxwellの応力テンソルに代入して量子ドットに及ぼされる力を評価した。具体的な条件は、図3(a)に示すように、2つの立方体量子ドットが8nm間隔という近い領域に存在するとして、その重心をx-y平面上に設定し、z方向においては、CuClのZ_(3)励起子のパラメーターを使用した(共鳴エネルギー:3.2022[eV])。照射する共鳴光(レーザー光)の強度は50μW/100μm^(2)(=50W/cm^(2))とした。この条件で、偏光の異なる共鳴光を照射した場合、個々の量子ドットが受ける加速度(力/質量)のx,y成分の周波数依存性を、図3(b)・図3(c)に示す。
【0105】
図3(b)・図3(c)では、単一の量子ドットの電子的励起準位は縦線で示される。立方体形状の半導体量子ドットが近い領域に存在する場合、それらの内部に誘起される分極が電磁場を介して相互作用し、単一の量子ドットの電子的励起準位とは異なる固有エネルギーの結合状態(BS)または反結合状態(AS)を有する量子ドット対の1種である『ポラリトニック分子』が形成されることが分かる。
【0106】
また、2個の立方体量子ドットが接近すると、各量子ドット間の重心を結ぶ直線(重心線)に垂直な偏光の共鳴光を照射すれば、量子ドット間に反発力(斥力)が生じ、重心線に平行な偏光の共鳴光を照射すれば引力が生じ、距離の減少とともにその大きさが増大した。さらにナノメートル程度の距離まで接近すると、線形応答の範囲のレーザー強度でも、生じる加速度は重力加速度の数十倍となった。また、量子ドットの大きさが、例えば60nm程度に大きくなると、本来、斥力が生じる垂直な偏光の場合でも、条件によって力の成分が負となり、引力が生じる領域が現れた。なお、直方体状の微粒子の場合、長軸と並行な偏光の入射光の方が、そのピーク値が大きく、ピーク周波数の位置は形状・偏光により変わることがわかった。
【0107】
さらに、ナノ物質として、直径40nmの球で材質がCuClの半導体量子ドットを選択した場合でも、図4(b)・図4(c)に示すように結合状態(BS)または反結合状態(AS)を有する『ポラリトニック分子』が形成されることが分かる。単一の立方体に、共鳴光を照射したときの力のピーク値は、同体積の球と同程度となった。
【0108】
このように、結合状態および反結合状態は、異なる偏光の入射光により選択的に生じせしめることができる。結合状態となるようにエネルギーを励起すると量子ドット間には引力が、反結合状態となるようにエネルギーを励起すると量子ドット間には斥力が生じる。それゆえ、これを利用すれば、従来にないナノ物質の操作方法を提供することができる。」
上記記載からして、本願の明細書の発明の詳細な説明の操作の実施に関する記載は、所与の条件を選択した上で、「電子的励起状態はLorentz振動子モデルで近似し、離散化積分方程式により応答場を計算し、それをMaxwellの応力テンソルに代入して量子ドットに及ぼされる力を評価した。」もの、すなわち、シミュレーション結果を記載したものであって、実際に、「共鳴光の偏光を変化させること」によって、「ナノ物質間に生じる力学的相互作用が制御」され、「ナノ物質を操作する」ことができたことを確認、検証し、その内容を記載したものであるとはいえない。

(4)出願時の当業者の技術常識
次いで、請求人の提示もしくは指摘した文献を参酌し、当業者の出願時における技術常識をもって、上記特徴的事項が明らかに実施可能であると認識できるか否かについて検討する。
請求人の提示もしくは指摘した上記「4」の「(1)」?「(9)」の文献中、「(1)」?「(7)」及び「(9)」の文献からして、共鳴光を用いてナノ物質をマニュピュレートすること、あるいは、光の偏光を利用して操作することの理論を理解することができるといえるものの、光の偏光を変化させることによってナノ物質が実際に何らかの操作を受けることについては、何ら記載されていない。
一方、文献「(8)」には、本願の出願の時と公開日との関係はともかく、金ナノ粒子に偏光させたレーザー光を照射した結果、ナノ粒子が偏光方向に並べて配向せしめられ、さらに、NaClの添加によって平均粒子間距離が短縮した、という実験結果が記載されている。しかしながら、当該文献には、「波長520nm付近に表面プラズモン共鳴に起因する吸収ピークを有し、ナノ粒子のサイズや形状によりスペクトル形状が変化する興味深い光学応答を示す」、「金ナノ粒子」を用いたもの(文献(8)の第1頁左欄第4?8行参照)において、「金ナノ粒子対は常に捕捉用レーザー光の偏光方向に配向」し(同第6頁右欄第8?9行参照)、「二つの金ナノ粒子は力学的ポテンシャルの最も安定な配置に並んでいると考えられる。」(同第7頁左欄第3?4行参照)ことが記載されているにすぎない。そうすると、これらの記載から、「偏光させたレーザー光」によって「捕捉して並べた」こと、すなわち「何らかの力が及ぼされた」という実験結果を理解することができるとしても、当該「偏光させたレーザー光」が、本願発明の「ナノ物質に力を及ぼして当該ナノ物質を操作」し、「ナノ物質間に生じる力学的相互作用を制御」するための共鳴光、すなわち、ナノ物質を「操作」し、「力学的相互作用を制御」するための共鳴光に該当するとまで理解することはできない。加えて、当該「偏光させたレーザー光」が、本願発明の共鳴光の具体的態様である、本願発明5や本願発明6の「レーザービームA」に該当するレーザー光であると理解することも到底できない。
してみると、文献「(8)」の記載をもってしても、当業者が、本願の出願時に上記特徴的事項が明らかに実施可能であると認識できるとはいえない。
以上のとおりであるから、請求人の提示もしくは指摘したいずれの文献を参酌しても、当業者が、本願出願時に、上記特徴的事項が明らかに実施可能であると認識できたとはいえない。

(5)追試実験による検証の有無
さらに、本願の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例を検証することによって、本願発明が実施可能であったと言い得るか否かについて検討する。
はじめに、上記文献「(8)」が本願の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の検証結果といえるか否か検討するに、文献「(8)」において、実験に用いられているナノ粒子は、上述のとおり、「金ナノ粒子」であって、本願の明細書の発明の詳細な説明の実施例で用いたとされているCuClと相違するから、上記文献「(8)」が本願の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の検証結果といえないことは明らかである。
そして、上記「1」で述べたとおり、当審において、猶予期間を指定して実験成績証明書提出の機会を与えたものの、請求人は、実験成績証明書を提出するものでもない。

(6)小括
上述のとおり、本願の発明の明細書の発明の詳細な説明は、実際に、「ナノ物質間に生じる力学的相互作用が制御」されて「ナノ物質を操作する」ことができたこと教示するものとはいえず、出願時の技術常識をもってしても、その実施をすることについて理解できるといえない上、本願発明は、追試による実験的な検証も行われていない以上、本願の明細書の発明の詳細な記載は、当業者が本願発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

6 結び
以上検討したとおり、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものであるとは認められない以上、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-04-24 
審決日 2012-05-08 
出願番号 特願2006-535025(P2006-535025)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (B82B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 吉川 陽吾
樋口 信宏
発明の名称 ナノ物質の操作方法およびその利用  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  
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