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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1258885 |
審判番号 | 不服2009-3112 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-12 |
確定日 | 2012-06-18 |
事件の表示 | 特願2006-500049「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマー固体樹脂の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月16日国際公開、WO2004/078806、平成18年8月31日国内公表、特表2006-519885〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年3月4日[優先権主張 2003年3月6日 ドイツ連邦(DE)]を国際出願日とする出願であって、平成17年11月2日付けで特許協力条約第34条補正の翻訳文提出書及び手続補正書が提出され、平成20年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月14日付けで誤訳訂正書、意見書及び物件提出書が提出されたが、同年10月30日付けで拒絶査定がなされた。 これに対し、平成21年2月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年3月13日付けで手続補正書が提出され、同年6月12日付けで手続補正書(方式)が提出されたが、同年7月27日付けで前置報告がなされた後、平成23年7月27日付けで当審において審尋がなされ、同年10月27日付けで回答書が提出されたものである。 第2.補正却下の決定 [結論] 平成21年3月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.手続補正の内容 平成21年3月13日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成17年11月2日付け手続補正書及び平成20年8月14日付け誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1について、 「【請求項1】 a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で、懸濁重合を用いて重合することを特徴とする、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」を、 「【請求項1】 a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で、懸濁重合を用いて重合し、重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加することを特徴とする、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」 と補正するものである。 2.補正の目的について 本件手続補正は、次の補正事項からなるものである。 ○「懸濁重合を用いて重合することを特徴とする」を「懸濁重合を用いて重合し、重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加することを特徴とする」に変更する補正事項 上記補正事項は、本件手続補正前の請求項5に記載されていた、「アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加する」との事項に基いて、補正前の請求項1に記載されていた重合条件を限定するものである。 したがって、上記補正事項は、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであって、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3.独立特許要件について 本件手続補正は、上記2.のとおり、特許法第17条の2第4項第2号に適合するものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正か否かについて、以下に検討する。 3-1.補正発明の認定 本件補正後の明細書及び特許請求の範囲(以下、「補正明細書等」という。)の記載からみて、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認められる。 「【請求項1】 a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で、懸濁重合を用いて重合し、重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加することを特徴とする、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」 3-2.特許法第29条第1項第3号について 3-2-1.刊行物1の記載事項 本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平11-100485号公報(以下、「刊行物1」という。原審における「引用文献1」に相当。)には、以下の事項が記載がされている。(下線は、当審において付与した。) [1-1]「【請求項1】 水中で再分散可能な架橋性粉末状組成物において、 a)ラジカル重合可能なエチレン性不飽和モノマー1個または複数からなる、水に不溶性の皮膜形成性ポリマー30?95重量部、 b)水溶性ポリマー5?70重量部、この場合、a)およびb)の少なくとも1つのポリマー成分は、互いにまたは架橋剤と一緒になって、化学的に非イオン結合することができる反応性基を有するコモノマー単位1個または複数を含有し、かつa)およびb)の重量分は合計で100重量部をなし、および c)a)とb)との全重量に対して、少なくとも1個の相転移触媒0.01?5重量%、を含有することを特徴とする、水中で再分散可能な架橋性粉末状組成物。」(特許請求の範囲の請求項1) [1-2]「適当な、水に不溶性の皮膜形成性ポリマーは、C原子1?15個を有する非分枝鎖状または分枝鎖状アルキルカルボン酸のビニルエステル、・・・、ビニルハロゲン化物、例えば塩化ビニル、の群からの1個または複数のモノマー単位を含有する。・・・ 好ましいビニルエステルは、酢酸ビニル、・・・である。特に好ましくは酢酸ビニルである。」(段落【0009】?【0020】) [1-3]「水に不溶性のポリマーa)中では架橋性基が、好ましくは所望の官能基を含有するモノマーを共重合することによって導入される。・・・ 付加反応によって架橋性であるものは、エポキシ基含有コモノマー、例えばグリシジルアクリレート、・・・であり、・・・ 架橋性モノマー単位は、それぞれポリマーa)の全重量に対して、一般に0.1?10重量%、有利に0.5?5重量%の量で含有されている。」(段落【0014】?【0020】) [1-4]「前記の水溶性ポリマーb)は、ポリマーa)の重合中、保護コロイドとして添加されてよいか、またはポリマーb)の水性分散液噴霧の前に噴霧助剤として添加されてよいか、または重合中に部分的に添加され、かつ噴霧前に残量を添加されてよい。」(段落【0030】) [1-5]「水に不溶性のポリマーa)の製造は、有利に乳濁重合法を用いて行われる。・・・開始は、常用の少なくとも部分的に水溶性のラジカル形成剤を用いて行われ、この形成剤はモノマーの全体量に対して0.01?3.0重量%の量で使用される。・・・場合によっては前記のラジカル開始剤は公知の方法で、モノマーの全体量に対して還元剤0.01?0.5重量%と組み合わされてもよい。例えば、アルカリホルムアルデヒドスルホキシレートおよびアスコルビン酸が適当である。・・・」(段落【0032】) [1-6]「製造は、有利に前記保護コロイドの存在下に実施される。・・・分子量調節には、重合の場合常用される調節剤、例えばメルカプタン、アルデヒドおよびクロル炭化水素が添加されてよい。」(段落【0034】) [1-7]「分散液の乾燥は、噴霧乾燥、冷凍乾燥または流動層乾燥によって行われてよい。」(段落【0036】) [1-8]「例2:16リットルの撹拌型オートクレーブ中に、水2000g、およびヘプラー粘度4mPas(20℃の水中で4%の溶液)および鹸化値140を有するポリビニルアルコール487gを装入し、50℃に加温し、かつエチレンを60バールになるまで加圧した。この圧力を、モノマーの全計量供給時間中維持した。触媒計量供給物、2.6%のt-ブチルヒドロペルオキシド水溶液および4.5%のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート水溶液を、同時にモノマー計量供給物と一緒に装入した。モノマー溶液は塩化ビニル4563g、酢酸ビニル1950gならびにグリシジルアクリレート200gとからなっていた。重合開始後6?7時間で、水3937g中にヘプラー粘度4mPas(20℃の水中に4%の溶液)および鹸化値140を有するポリビニルアルコール667gを計量供給した。モノマー混合物の計量供給時間は8時間であった。計量供給の終了後、2時間に渡り後重合した。固体含量は50.2%であった。ポリマーのTgは13.5℃であった。」(段落【0047】) 3-2-2.刊行物1に記載された発明の認定 刊行物1には、「a)ラジカル重合可能なエチレン性不飽和モノマー1個または複数からなる、水に不溶性の皮膜形成性ポリマー」(以下、「水不溶性ポリマーa)」という。)の製造について、以下の事項が記載されている。なお、摘示事項[1-4]に記載されているように、「水溶性ポリマーb)」は、「ポリマーb)の水性分散液噴霧の前に噴霧助剤として添加されてよい」ものであって、この場合には、水不溶性ポリマーa)の製造には、直接関与しないものである。 ○重合されるモノマーの種類 *塩化ビニル、酢酸ビニル及びグリシジルアクリレート(摘示事項1-2 及び1-8) ○重合されるモノマーの重量割合 *塩化ビニル:4563g、酢酸ビニル:1950g及びグリシジルア クリレート:200g(摘示事項1-8) なお、これを合計で100質量%となるように計算すると、 塩化ビニル:68質量%、酢酸ビニル:29質量%及びグリシジルア クリレート:3質量%となる。 *「架橋性モノマー単位は、それぞれポリマーa)の全重量に対して、 一般に0.1?10重量%」(摘示事項1-2)であるので、これを上記 の「塩化ビニル:4563g、酢酸ビニル:1950g」に当てはめ ると、許容されるグリシジルアクリレートの重量は、7?651gの 範囲と計算できる。 グリシジルアクリレートの重量がこの下限値をとる場合には、塩化ビ ニル:70質量%、酢酸ビニル:30質量%及びグリシジルアクリレ ート:0.001質量%となり、また、グリシジルアクリレートの重 量がこの上限値をとる場合には、塩化ビニル:64質量%、酢酸ビニ ル:27質量%及びグリシジルアクリレート:9質量%となる。 ○重合工程 *水不溶性のポリマーa)の製造は、有利に乳濁重合法を用いて行われ 、重合は水溶性のラジカル形成剤により行われるが、還元剤であるア スコルビン酸などと組み合わせてもよい。(摘示事項1-5) *分子量調節には、重合の場合常用される調節剤である、アルデヒドな どが添加されてよい。(摘示事項1-6) ○重合後の処理 *分散液の乾燥は、噴霧乾燥、冷凍乾燥または流動層乾燥によって行わ れてよい。(摘示事項1-7) 以上のことから、刊行物1には、 「 a)塩化ビニル64?70質量%、 b)グリシジルアクリレート0.001?9質量%、及び c)酢酸ビニル27?30質量%、 (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、ラジカル形成剤と還元剤であるアスコルビン酸を組み合わせ、有利に乳濁重合法を用いて重合を行い、分子量調節のためにアルデヒドを添加する、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」 の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。 3-2-3.補正発明1と刊行物発明との対比 補正発明1と刊行物発明とを対比すると、刊行物発明の「グリシジルアクリレート」及び「酢酸ビニル」は、それぞれ、本願発明の「エポキシド含有ビニルモノマー」及び「1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル」に相当することは明らかであるので、両者は、 「a)塩化ビニル64?70質量%、 b)グリシジルアクリレート5?25質量%、及び c)酢酸ビニル5?25質量%、 (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で重合し、重合の間に、アスコルビン酸を添加する、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」 の点で一致し、次の点で一応相違している。 ○相違点:重合手段について、補正発明1では、懸濁重合を採用しているのに対し、刊行物発明では、有利に乳化重合を用いて重合を行うとしている点。 3-2-4.相違点についての検討 上記相違点について検討する。 刊行物発明では、有利に乳化重合を用いて重合を行うとしているが、懸濁重合を用いて重合を行うことが排除されている訳ではない。 また、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平11-511195号公報(以下、「刊行物2」という。原審における「引用文献2」に相当。)の記載を参酌すると、この刊行物2には、刊行物発明と同様の、塩化ビニル、不飽和二重結合とグリシジルを有するモノマー及び酢酸ビニルとの重合を懸濁重合を用いて行うことが記載されており(5頁5?9行)、さらに、塩化ビニルと酢酸ビニルコモノマーのコポリマーの調製には、望ましい樹脂の性質が何であるかに応じて、溶液重合法、乳化重合法、または懸濁重合法の何れかの方法が用いられ得ることが記載されている(5頁24?27行)ことからみて、懸濁重合は、乳化重合とともに、塩化ビニル、酢酸ビニルなどのモノマーを重合するための典型的な重合手段であるといえる。 さらに、補正明細書の記載内容をみても、実施例1(段落【0020】)では懸濁重合が用いられ、実施例2(段落【0021】)では乳化重合が用いられており、この両実施例において「白い、流動性の粉末が得られた。」と同様の結果が示されていることから、懸濁重合は、乳化重合とともに、塩化ビニル、酢酸ビニルなどのモノマーを重合するための典型的な重合手段であるといえる。 したがって、刊行物発明の重合手段には、「有利に」とされている乳化重合だけでなく、塩化ビニル、酢酸ビニルなどのモノマーを重合するための典型的な重合手段である懸濁重合も包含されていると解される。 よって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。 3-2-5.特許法第29条第1項第3号についての検討のまとめ したがって、補正発明1は、刊行物1記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-3.特許法第36条6項1号について 3-3-1.補正発明1について 特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。これは、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合には、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないことを意味するものである。 そこで、この点について以下に検討する。 補正発明1は、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」(補正明細書等の段落【0003】)を発明の課題とするものであって、所定のモノマーの重合工程を、 a.「アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で」行うこと(以下、「a事項」という。)、 b.「懸濁重合を用いて」を行うこと(以下、「b事項」という。)及び c.「重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加すること」(以下、「c事項」という。) を発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、補正明細書等の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)に記載された実施例1?3(段落【0020】?【0022】)は、これらのa?c事項の全て備えることにより、ポリマーを固体樹脂の形状において提供している訳ではない。すなわち、 ○実施例1は、「白い、流動性の粉体が得られた。」と記載されていることから、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるといえるが、重合工程は、a事項を備えていない。 ○実施例2では、「白い、流動性の粉体が得られ」と記載されていることから、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるといえるが、重合工程は、a事項及びb事項を備えていない。 ○実施例3では、「メチルエチルケトン中のコポリマー20%溶液」と記載されているように、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるとはいえず、さらに、重合工程は、b事項を備えていない。 このように、重合工程においてa?c事項を備えることにより、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できることは、発明の詳細な説明の実施例においては全く裏付けられていないものである。 また、発明の詳細な説明の実施例1?3以外の箇所には、a?c事項 に関連する事項として、次の事項が記載されている。 ○a事項関連 「分子量の制御のために、重合の間に調節物質を使用する。調節剤は、重合するモノマーに対して0.02?10.0質量%の量において使用され、及び単独で、又は反応構成要素と前混合して計量供給される。適した調節剤は、アルデヒド、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、及びイソブチルアルデヒドである。」(段落【0014】) ○b事項関連 「懸濁重合の際には、水中で、界面活性物質、例えば保護コロイド及び/又は乳化剤の存在下で重合される。」(段落【0012】) ○c事項関連 「固体樹脂の熱安定性の改良のために、場合によって重合の間又は重合後に、そのつどコモノマーの総質量に対して、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸0.001?0.1質量%、有利には0.005?0.05質量%が添加される。」(段落【0013】) このように、発明の詳細な説明の実施例1?3以外の記載箇所には、a事項は「分子量の制御」の目的で採用されること、c事項は「固体樹脂の熱安定性の改良」の目的で採用されること、及びb事項は「水中で、界面活性物質、例えば保護コロイド及び/又は乳化剤の存在下で重合される」ことにより行われることが記載されているが、重合工程においてa?c事項を備えることにより、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できることが説明されている訳ではない。 したがって、補正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 なお、エチレン性不飽和モノマーを、水中で、保護コロイドと共に撹拌して重合する重合法である、懸濁重合によって、補正発明1の 「a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物」(以下、「補正発明1の原料モノマー」という。)の重合を適切に進行することができるのであれば、粉体状のポリマーが得られる場合もあり、この場合には結果的に、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決されることもあり得るので、この観点からも検討を加える。 発明の詳細な説明の実施例1?3以外の箇所には、懸濁重合を行う温度、使用する重合開始剤、界面活性物質などについての一般的な説明が記載されている(段落【0012】、【0013】など)ものの、これら一般的な懸濁重合のどの条件により、補正発明1の原料モノマーの懸濁重合を適切に進行させることができるのかについては、理論などに基いて論理的に説明されている訳ではない。 また、発明の詳細な説明の実施例1?3では、特定の原料モノマーを懸濁重合または乳化重合したことが記載されているが、具体的にどのような懸濁重合の条件(重合温度、重合開始剤の種類・配合量、保護コロイドの種類・配合量など)で懸濁重合を行ったのかは記載されていない。 一般に、エチレン性不飽和モノマーの懸濁重合が適切に進行するか否かは、懸濁重合の条件に大きく依存するものであるので、発明の詳細な説明の記載からは、補正発明1の原料モノマーの懸濁重合が必ず適切に進行し、粉体状のポリマーが得られるとまではいえない。 したがって、上記観点から検討してみても、補正発明1は、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できるとはいえないので、補正発明1は発明の詳細な説明に記載したものとすることはできない。 3-3-2.特許法第36条6項1号についての検討のまとめ したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3-4.独立特許要件についてのまとめ 以上検討したとおり、この出願は、補正発明1が特許法第29条第2項の規定に該当すること、及び特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 よって、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成21年3月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成17年11月2日付け手続補正書及び平成20年8月14日に提出された誤訳訂正書により補正された明細書及び特許請求の範囲(以下、「本願明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物の、水性系の、 ラジカルにより開始した重合、及び前記重合により得られた水性分散液の引き続く乾燥により得られる、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法において、アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で、懸濁重合を用いて重合することを特徴とする、固体樹脂の形状にあるエポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーの製造方法。」 2.拒絶査定の理由について 原査定の拒絶の理由は、平成20年2月8日付け拒絶理由通知に記載された理由1?5によるものであるところ、このうち理由1及び4の概要は、以下のとおりである。 ○理由1 この出願の請求項1?6、8、9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 引用文献1:特開平11-100485号公報 ○理由4 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1-9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3.当審の判断 原査定の拒絶の理由が妥当かどうかについて検討する。 3-1.拒絶理由1について 本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(前記第2.3.3-2.における「刊行物1」に相当。)には、前記第2.3.3-2.3-2-1の項で摘示した事項が記載されており、前記第2.3.3-2.3-2-2の項で認定した発明、すなわち「刊行物発明」が記載されている。 そして、前記第2.3.3-1の項で認定した補正発明1は、本願発明1に、「重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加する」との発明特定事項を追加加入したものであるので、本願発明1と、刊行物発明、すなわち、引用文献1に記載された発明とを対比すると、相違点については、前記第2.3.3-2.3-2-3の項に記載したとおりであり、また、この相違点についての検討についても、前記第2.3.3-2.3-2-4の項に記載したとおりである。 したがって、本願発明1は、補正発明1と同様、刊行物1、すなわち、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 3-2.拒絶理由4について 本願発明1は、補正発明1から「重合の間又は重合後に、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加する」との発明特定事項を除いたものに相当する。 そこで、前記第2.3.3-3.3-3-1の項で行ったと同様の検討を行う。 本願発明1は、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」(本願明細書等の段落【0003】)を発明の課題とするものであって、所定のモノマーの重合工程を、 a.「アルデヒドのグループからの調節剤の存在下で」行うこと(以下、「a事項」という。)、及び b.「懸濁重合を用いて」を行うこと(以下、「b事項」という。) を発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、本願明細書等の発明の詳細な説明(以下、「本願の発明の詳細な説明」という。)に記載された実施例1?3(段落【0020】?【0022】)は、これらの事項a?bの全て備えることにより、ポリマーを固体樹脂の形状において提供している訳ではない。すなわち、 ○実施例1は、「白い、流動性の粉体が得られた。」と記載されていることから、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるといえるが、重合工程は、a事項を備えていない。 ○実施例2では、「白い、流動性の粉体が得られ」と記載されていることから、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるといえるが、重合工程は、a事項及びb事項を備えていない。 ○実施例3では、「メチルエチルケトン中のコポリマー20%溶液」と記載されているように、ポリマーは固体樹脂の形状において提供されるとはいえず、さらに、重合工程は、b事項を備えていない。 このように、重合工程において、a?b事項の全てを備えることにより、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できることは、本願の発明の詳細な説明の実施例においては全く裏付けられていないものである。 また、本願の発明の詳細な説明の実施例1?3以外の箇所には、a?c事項に関連する事項として、次の事項が記載されている。 ○a事項関連 「分子量の制御のために、重合の間に調節物質を使用する。調節剤は、重合するモノマーに対して0.02?10.0質量%の量において使用され、及び単独で、又は反応構成要素と前混合して計量供給される。適した調節剤は、アルデヒド、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、及びイソブチルアルデヒドである。」(段落【0014】) ○b事項関連 「懸濁重合の際には、水中で、界面活性物質、例えば保護コロイド及び/又は乳化剤の存在下で重合される。」(段落【0012】) ○c事項関連 「固体樹脂の熱安定性の改良のために、場合によって重合の間又は重合後に、そのつどコモノマーの総質量に対して、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸0.001?0.1質量%、有利には0.005?0.05質量%が添加される。」(段落【0013】) このように、本願の発明の詳細な説明の実施例1?3以外の記載部分には、a事項は「分子量の制御」の目的で採用されること、c事項は「固体樹脂の熱安定性の改良」の目的で採用されること、及びb事項は「水中で、界面活性物質、例えば保護コロイド及び/又は乳化剤の存在下で重合される」ことにより行われることが記載されているが、重合工程においてa?c事項を備えることにより、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できることが説明されている訳ではない。 したがって、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載したものではない。 なお、エチレン性不飽和モノマーを、水中で、保護コロイドと共に撹拌して重合する重合法である、懸濁重合によって、本願発明1の 「a)塩化ビニル50?90質量%、 b)エポキシド含有ビニルモノマー5?25質量%、及び c)1?18個のC原子を有する、非分枝又は分枝したアルキルカルボン酸の、1種類又は数種類のビニルエステル5?25質量%、 d)a)、b)及びc)と共重合可能な、更なるコモノマー0?40質量% (その際質量%の記載は合計で100質量%になる)を、含有する混合物」(以下、「本願発明1の原料モノマー」という。)の重合を適切に進行することができるのであれば、粉体状のポリマーが得られる場合もあり、この場合には結果的に、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決されることもあり得るので、この観点からも検討を加える。 本願の発明の詳細な説明の実施例1?3以外の箇所には、懸濁重合を行う温度、使用する重合開始剤、界面活性物質などについての一般的な説明が記載されている(段落【0012】、【0013】など)ものの、これら一般的な懸濁重合のどの条件により、補正発明1の原料モノマーの懸濁重合を適切に進行させることができるのかについては、理論などに基いて論理的に説明されている訳ではない。 また、本願の発明の詳細な説明の実施例1?3では、特定の原料モノマーを懸濁重合または乳化重合したことが記載されているが、具体的にどのような懸濁重合の条件(重合温度、重合開始剤の種類・配合量、保護コロイドの種類・配合量など)で懸濁重合を行ったのかは記載されていない。 一般に、エチレン性不飽和モノマーの懸濁重合が適切に進行するか否かは、懸濁重合の条件に大きく依存するものであるので、本願の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1の原料モノマーの懸濁重合が必ず適切に進行し、粉体状のポリマーが得られるとまではいえない。 したがって、上記観点から検討してみても、本願発明1は、「エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供すること」という発明の課題が解決できるとはいえないので、本願発明1は本願の発明の詳細な説明に記載したものとすることはできない。 したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5.審判請求人の主張について 1.主張の内容 審判請求人は、平成21年6月12日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書(以下、単に「審判請求書」という。)において、概略次のような主張をしている。 (1)本願発明の課題は、調節剤としてのアルデヒドが存在しながらも、熱負荷しても長期間熱安定性なものとして、固体樹脂の形で、エポキシ変性した塩化ビニルコポリマーを得ることであって、この課題は、アルデヒドの存在下で、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸の添加下に、エポキシド含有モノマーを用いて、塩化ビニルコポリマーを製造する方法により解決された(本願明細書の段落[0013]、[0018]等参照)。 [審判請求書3.(b)] (2)平成20年8月14日提出の意見書において示した「実施例4」及び「比較例5」(審決注:審判請求書において、これらの「実施例4」及び「比較例5」は、それぞれ、「追加の実験データ1」及び「追加の実験データ2(比較例)」と読み替えるとされている。)、並びに、審判請求書において示した「実施例1についての追加の説明」及び「追加実験データ1についての追加の説明」を参酌すれば、拒絶理由3?5は解消している。 なお、これらの追加の説明資料は、当業者であれば、本願明細書等の記載並びに出願時の技術常識を参酌して、本願明細書等中に記載されているに等しいことを、認識することができるものである。 [審判請求書3.(c)] (3)引用文献1には、調節剤としてアルデヒドを使用することが一般的に記載されているかも知れないが、このことは、引用文献1の実施例1?6には、具体的に一切記載されていない。 また、アルデヒドを用いて分子量を制御しながらも、熱安定性の固体樹脂の形にある塩化ビニルコポリマーを製造することができる、との本願発明の効果は、引用文献1-11に記載された発明のものと比較して有利であってかつ当業者といえども予想できないほど顕著なものである。 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明に対して新規性を有する。 [審判請求書3.(d)] 2.上記審判請求人の主張についての検討 上記審判請求人の主張(1)?(3)について検討する。 ○主張(1)について 審判請求人が主張するように、「調節剤としてのアルデヒドが存在しながらも、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加することにより、熱負荷しても長期間熱安定性なものとして、固体樹脂の形で、エポキシ変性した塩化ビニルコポリマーを得る」との事項が、本願発明の課題として認識できるか否かについて、本願の発明の詳細な説明の記載に基いて検討する。 まず、本願の発明の詳細な説明の実施例1?3以外の記載には、上記の事項が、本願発明の課題として記載されている訳ではない。すなわち、 *「本発明の基礎となる課題は、エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマーを、その固体樹脂の形状において提供することである。」との記載(段落【0003】)、 *「固体樹脂の熱安定性の改良のために、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加する」旨の記載(段落【0013】)、及び *「分子量の制御のために、アルデヒドなどの調節物質を使用する」旨の記載(段落【0014】) はなされているが、上記の事項が、本願発明の課題として記載されている訳ではない。 つぎに、本願の発明の詳細な説明の実施例1?3の記載をみても、上記の事項が、本願発明の課題であることは推察できない。すなわち、 *実施例1の重合工程は、「調節剤としてのアルデヒドが存在する」という事項を備えておらず、さらに得られたポリマーについても、「白い、流動性の粉体が得られた。」と記載されているだけであって、「熱負荷しても長期間熱安定性なもの」か否かは不明である。 *実施例2の重合工程は、「調節剤としてのアルデヒドが存在する」という事項を備えておらず、さらに得られたポリマーについても、「白い、流動性の粉体が得られた。」と記載されているだけであって、「熱負荷しても長期間熱安定性なもの」か否かは不明である。(さらに、実施例2の重合工程は乳化重合を用いて行われており、本願発明1の発明特定事項である「懸濁重合を用いて重合を行う」との事項も備えていない。) *実施例3において得られたポリマーについては、「メチルエチルケトン中のコポリマーの20質量%溶液は、実施例2からの生成物よりもより低い溶液粘性を示し、及び1週間の貯蔵時間の後でも60℃で完全に無色のままである。」と記載されているだけであって、「熱負荷しても長期間熱安定性なものとして、固体樹脂の形で、エポキシ変性した塩化ビニルコポリマーを得る」ものではない。(さらに、実施例3の重合工程は乳化重合を用いて行われており、本願発明1の発明特定事項である「懸濁重合を用いて重合を行う」との事項も備えていない。) 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載によっては、審判請求人が主張するように、「調節剤としてのアルデヒドが存在しながらも、アスコルビン酸及び/又はイソアスコルビン酸を添加することにより、熱負荷しても長期間熱安定性なものとして、固体樹脂の形で、エポキシ変性した塩化ビニルコポリマーを得る」との事項を、本願発明の課題として認識することはできない。 よって、上記主張(1)は採用できない。 ○主張(2)について 上記「追加の実験データ1」、「追加の実験データ2(比較例)」、「実施例1についての追加の説明」及び「追加実験データ1についての追加の説明」は、本願の出願当初の明細書に記載されていないものであり、しかも、本願明細書等の記載内容及び本願出願時の技術常識に照らしても、出願当初の明細書に記載された実施例1?3を補足するものともいえないので、これらの追加データによって、前記第3.3.3-2の項で説示した、拒絶の理由4についての判断は覆えることはない。 さらに付言すると、前記第3.3.3-2の項でも述べたように、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例1?3は、本願発明1の発明特定事項であるa事項及びb事項の少なくとも1つの事項を備えていないものであるが、追加提出された「追加の実験データ1」はこの両事項を備えるものであって、この「追加の実験データ1」によって本願発明1が初めて具体的に裏付けられたというべきものであるので、このような「追加の実験データ1」を考慮して、拒絶の理由4(いわゆる、サポート要件違反)が解消されたとすることはできない。 よって、上記主張(2)は採用できない。 ○主張(3)について 前記第3.3.3-1及び第2.3.3-2.3-2-2の項で説示したように、刊行物1、すなわち、引用文献1には、「分子量調整には、重合の場合に常用される調整剤である、アルデヒドなどが添加されてよい。」旨の記載がされており、例え実施例1?6ではアルデヒドが添加されていないとしても、分子量調整は常時行われる事項であって、アルデヒドも常用される分子量調整剤であることから、刊行物発明、すなわち、引用文献1に記載された発明が「分子量調整にためにアルデヒドなどを添加する」工程を包含すると認定したことに誤りはない。 また、審判請求人は、「アルデヒドを用いて分子量を制御しながらも、熱安定性の固体樹脂の形にある塩化ビニルコポリマーを製造することができる、との本願発明の効果は、引用文献1-11に記載された発明のものと比較して有利であってかつ当業者といえども予想できないほど顕著なものである。」と主張するが、上記「主張(2)について」の項でも述べたように、本願の発明の詳細な説明に記載された実施例1?3は、本願発明1の発明特定事項であるa事項及びb事項の少なくとも1つの事項を備えていないものであって、審判請求人の主張するような本願発明の顕著な効果は、具体的に確認できないものである。 よって、上記主張(3)は採用できない。 以上のとおり、上記請求人の主張(1)?(3)は採用することができない。 第5.むすび 以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由1及び4は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこれらの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-24 |
結審通知日 | 2012-01-27 |
審決日 | 2012-02-07 |
出願番号 | 特願2006-500049(P2006-500049) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(C08F)
P 1 8・ 113- Z (C08F) P 1 8・ 121- Z (C08F) P 1 8・ 537- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村上 騎見高、大久保 智之 |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 ▲吉▼澤 英一 |
発明の名称 | エポキシ変性した塩化ビニル-ビニルエステル-コポリマー固体樹脂の製造方法 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 矢野 敏雄 |