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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1258891 |
審判番号 | 不服2010-22006 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-30 |
確定日 | 2012-06-19 |
事件の表示 | 特願2005-374780「デバイス製造方法、トップコート材料、及び基板」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月20日出願公開、特開2006-191058〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、パリ条約による優先権主張(平成16年12月28日 米国)をともなって、平成17年12月27日に出願された特願2005-374780であって、平成21年3月10日付けで手続補正がなされた後、同年8月6日付けで、いわゆる最後の拒絶理由が通知され、これに対して同年11月10日付けで意見書の提出ならびに手続補正がなされたものの、平成22年5月26日付けで前記平成21年11月10日付けの手続補正の却下の決定とともに、前記平成21年8月6日付けで通知した拒絶理由によって拒絶査定がなされた。 本件は、前記拒絶査定を不服として平成22年9月30日に請求された拒絶査定不服審判事件である。 2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成21年3月10日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。 「パターン形成された放射ビームを液体を通して基板上に設けられたレジストに投影するステップを備えるデバイス製造方法であって、 前記レジストと前記液体の間にトップコート層が設けられ、前記トップコートが 【数1】 に実質的に等しい厚さを有し、ここで 【数2】 であり、m=1,2,3・・・等であり、λは前記パターン形成されたビームの前記放射の波長であり、NAは前記基板における開口数であり、n_(l)は前記液体の屈折率であり、 n_(tc)は前記トップコート層の屈折率であり、n_(r)は前記レジストの屈折率であり、 前記液体が、λの約5倍以上の厚さを有し、 前記レジストが、λの1/2倍から1倍までの範囲の厚さを有し、さらに、 n_(l)がn_(tc)以下であり、n_(tc)がn_(r)以下であり、且つn_(tc)がn_(l)とn_(r)の積の二乗根にほぼ等しい、デバイス製造方法。」 3 原査定の拒絶の理由 拒絶査定の理由として原審が通知した平成21年8月6日付け拒絶理由のうち、理由2は、「本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであって、その内容は、 「発明の詳細な説明の段落【0040】に、トップコートの厚さを式(8)(本願の請求項1の【数1】に対応)で与えることが記載されているが、トップコートの厚さを式(8)で与えることの技術上の意義が不明である。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-6に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。」というものである。 4 原査定の拒絶の理由に関する検討 (1)発明の詳細な説明の記載要件 原査定の理由2は上記のとおりであるので、本願発明のレジストと液体の間に設けられるトップコート層の厚さを【数1】で与えることに関する発明の詳細な説明の記載について、本願の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定めるところ、すなわち、特許法施行規則第24条の2に規定する「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」という要件を充足するように記載されたものであるか否かについて、以下、検討する。 (2)発明の詳細な説明の記載事項 本願の発明の詳細な説明には、段落【0010】に、上記本願発明とほぼ同一の記載がなされ、段落【0040】に、 「トップコートの最適厚さd_(tc)は、基板に対する開口数NAに依存し、次式で与えられる。 2.n_(tc).d_(tc).(1-sin^(2)β)=(m-1/2)λ (8) ここで、 【数4】 再び、10%の分散は許容可能であることがある。」 という記載があるにすぎず、それらの記載以外には、【数1】に関する記載はない。 (3)請求人の主張と対応 原査定の理由2に関し、請求人は、平成21年11月10日付け意見書及び審判請求書において、【数1】の技術上の意義について、「段落【0035】に、「トップコートTCは、(i)浸漬流体11とレジストRの間の化学的及び/又は物理的相互作用を防止するために、及び/又は(ii)浸漬流体の屈折率を高めるように浸漬流体中に懸濁した微粒子汚染物質及び/又はナノ粒子をレジストRから離して置くために設けられる。」と記載され、段落【0037】には、「トップコートは、レジストと反応せず且つレジストに混合しないと同時に、特に浸漬流体が硫酸を含む場合には浸漬流体の化学的侵蝕に耐えることが望ましい。また、トップコートは、回転塗布装置で供給でき且つ塗布された基板がリソグラフィ装置に搭載されるとき安定した厚さの層のままであることができるような物理的な特性を有することが望ましい。また、基板を処理するときトップコートを除去するための別個のステップを無くするように、トップコートは、レジスト現像液に溶解可能であることが望ましい。」と記載され、さらに、透過に最適化された厚さ及び屈折率を有するトップコートを実現する為の条件として【数1】で規定されるトップコートの厚さが適切であることが段落【0038】?【0040】に記載されているから、【数1】によって導出された厚さを有するトップコートは、干渉が強め合う効果によって最適な透過性能を実現するという技術上の意義を有することは明確であって、有利な効果も当然に明らかである。」旨、主張しているものの、【数1】の技術上の意義を裏付けるべく、その技術的意義を検証するための実験成績証明書等の提出は行っていない。 (4)検討、判断 上記(2)及び(3)を踏まえ、本願の発明の詳細な説明の記載が、当業者をもって、本願発明の【数1】の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるか否か、検討する。 【数1】は、「m(1,2,3…)」、「λ(パターン形成されたビームの放射波長)」、「n_(tc)(トップコート層の屈折率)」、ならびに、「NA(基板における開口数)」、「n_(l)(液体の屈折率)」及び「n_(r)(レジストの屈折率)」の関数である「sinβ」をパラメータとして定義しているものの、本願の発明の詳細な説明の【数1】に関する記載は、上記(2)で述べたとおりであって、本願の発明の詳細な説明には、「最適厚さd_(tc)」を与える数式として【数1】を導き出した理由や根拠、あるいは、【数1】で用いられているパラメータ相互の関係や意味について何ら記載がないばかりでなく、何をもって「最適厚さ」としているのかについても記載がなく、また、【数1】を用いた場合と用いない場合で、デバイス製造方法においてどのような相違が生じるかについての検証結果についても何ら記載がない。加えて、請求人は、上記拒絶理由に接しても、【数1】の技術上の意義や、上記(3)で述べた主張を裏付けるため、検証を行って、その実験結果等を示してもいない。 一方、請求人が【数1】の技術上の意義と関連づけて主張する、本願の発明の詳細な説明の「浸漬流体とレジストとの化学的/物理的相互作用」、「浸漬流体中に懸濁した微粒子汚染物質やナノ粒子とレジストとの隔離」、「浸漬流体による化学的浸食への耐性」、「回転塗布装置使用時の層厚の安定性」、「レジスト現像液への可溶性」等の記載は、単にトップコートに求められる化学的、物理的特性についての記載にすぎず、トップコート層の厚さに関連する記載ではなく、また、【数1】で用いられている上述のパラメータと関連する、あるいは、請求人の主張する「干渉」に関連する記載でもない。 そうすると、当業者といえども、それらトップコートに望ましい特性に関する記載をもって、上述のパラメータによって表された【数1】を用いて、トップコートの厚さを定義することの技術上の意義を理解できるということはできない。 また、【数1】の分子がλ(パターン形成されたビームの放射波長)を含む「(m-1/2)λ」であって、当該分子が光の反射に関連する項であることを理解することができたとしても、分母に用いられている「1-sin^(2)β」が、前記光の反射とどのように関連するかについて到底理解できるとはいえないから、当業者が、【数1】について、光の反射と何らかの関連を有することが理解できたとしても、【数1】が、「干渉が強め合う効果によって最適な透過性能を実現する」という作用を発揮する点に技術上の意義を有する式であると理解できるとはいえず、やはり、当業者をもってしても、本願の発明の詳細な説明の記載が、発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるとはいえない。 (5)小括 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明のレジストと液体の間に設けられるトップコート層の厚さを【数1】で与えることに関して、特許法第36条第4項第1号で規定する経済産業省令で定めるところ、すなわち、特許法施行規則第24条の2に規定する要件を充足するように記載したものであるとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合していると認めることはできない。 5 原査定の妥当性 本願の発明の詳細な説明の記載が、本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものであるといえないことは上述のとおりであるが、原査定の妥当性についても、併せ検討する。 特許法第36条第4項第1号が委任省令(経済産業省令)要件を定めた趣旨は、発明の技術上の意義を明らかにして特許審査や技術調査等に役立てるというものではあるが、発明が新しい技術的思想の創作であることに鑑みれば、出願時の技術水準に照らして当該発明がどのような技術上の意義(技術的貢献)を有するかを理解することができなければ、当該発明によって創作された新しい技術的思想がどのようなものであるか理解できないことは明らかである。そして、特許制度は、新しい技術を開発して公開した者に対し、一定期間、一定条件下に特許権という独占権を付与することにより発明の保護を図り、他方、第三者に対しては、この公開により発明の技術内容を知らしめて、その発明を利用する機会を与える制度である。 これらに照らすと、技術上の意義(技術的貢献)について理解することができない発明に対して特許権を付与するならば、何らの新しい技術的思想を公開しない発明に独占権が付与されることとなり、権利者と第三者の間で著しく公平を欠く結果となることは明らかである。 してみると、原査定が、本願の発明の詳細な説明の記載が、本願発明の技術上の意義が理解できる程度に記載したものでないことを理由として、本願は特許を受けることができないとしたことには合理的理由があり、誤りはない。 6 結び 以上検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものであるとは認められない以上、本願は特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-01-26 |
結審通知日 | 2012-01-27 |
審決日 | 2012-02-08 |
出願番号 | 特願2005-374780(P2005-374780) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 海 |
特許庁審判長 |
村田 尚英 |
特許庁審判官 |
吉川 陽吾 神 悦彦 |
発明の名称 | デバイス製造方法、トップコート材料、及び基板 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 大貫 敏史 |