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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1259437 |
審判番号 | 不服2011-11847 |
総通号数 | 152 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-08-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-03 |
確定日 | 2012-07-02 |
事件の表示 | 特願2009-249130「サファイア基板を活性窒素に暴露して半導体デバイスを作製する方法及び半導体デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月22日出願公開、特開2010- 93271〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 1 手続の経緯 本願は、下記のようにパリ条約による優先権主張をしている国際出願の一部を6回分割した分割出願であり、下記の経緯を経たものである。 平成21年10月29日 本願(第5分割出願を分割した第6分割出願) 平成 4年 3月18日(国際出願日) 特願平4-508357 1991年 3月18日 パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成12年 4月 4日 第1分割出願 (特願2000-101903) 平成14年 8月14日 第1分割出願を分割した第2分割出願 (特願2002-236272) 平成18年 2月 2日 第2分割出願を分割した第3分割出願 (特願2006- 25642) 平成19年 2月 2日 第3分割出願を分割した第4分割出願 (特願2007- 24009) 平成20年 8月27日 第4分割出願を分割した第5分割出願 (特願2008-217588) 平成22年 6月14日 拒絶理由通知 平成22年12月15日 意見書及び手続補正書 平成23年 2月 1日 拒絶査定 平成23年 6月 3日 拒絶査定不服審判請求及び手続補正書 平成23年10月12日 当審による拒絶理由通知 平成24年 1月13日 意見書及び手続補正書 2 本願発明 本願の請求項1?23に係る発明は、平成24年 1月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その内、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】 半導体デバイスの作製方法であって、該方法は、 第1の温度で、III族元素の不存在下において、サファイア基板の表面を活性窒素に暴露し、窒化サファイア基板を形成するステップと、 前記窒化サファイア基板を、前記第1の温度より低温の第2の温度に冷却するステップと、 前記窒化サファイア基板の表面に窒化ガリウム半導体材料のバッファ層を前記第2の温度で堆積するステップと、 前記バッファ層上に窒化ガリウム成長層を、前記第2の温度より高温の第3の温度で堆積するステップと、 を備えた方法。 第2 当審拒絶理由通知の概要 1 特許法第29条第2項について 「 刊行物1:特開昭63-178516号公報 刊行物2:特公昭56-31320号公報 刊行物3:特開平3-3233号公報 (1)請求項1及び16に係る発明について 刊行物1には、1100?1200℃で窒化処理をしたサファイア基板 の上に、窒化処理よりも温度の低い900?1000℃でGaNを成長さ せることが記載されている。 そして、窒化されたサファイア基板上のGaNにおいては、膜厚が薄い 場合は、結晶化度が低く、厚く形成していることから、窒化されたサファ イア基板に接している近傍のGaN層である結晶化度の低い部分は、本願 発明のバッファ層に相当する。 また、少なくとも、結晶化度の高いGaN単結晶層を形成するために、 GaNのバッファ層を形成することは、例えば、刊行物2のように周知の 事項であるから、刊行物1におけるGaNの形成に際して、GaNのバッ ファ層を別途の工程として形成することは、当業者ならば容易に想到し得 たものである。」 2 特許法36条第6項第2号、第6項1号及び第4項について 「(1)請求項1?9,15について ア.「バッファ層」がどの様な物か不明である。 バッファ層がどの様な結晶状態から成るものか特定されておらず、また 、単一の第2の温度がどのような温度であるのか不明であり、第2の温度 で堆積したとの製造条件のみで当該バッファ層がどの様な物かを特定する ことも出来ない。 また、明細書中の記載においても、任意のバッファ層については説明さ れていない。 明細書中には、少なくとも特定の低温下で、非晶質で堆積した後に、特 定の温度下により結晶化させている事が記載されているのみである。 そして、明細書には、堆積した層全部が結晶化されているのか否か、表 面のみが結晶化されているのか等、層の厚み方向の結晶化の分布について も説明されておらず、また、結晶化の程度・状態が単結晶ではないと言う こと自体も説明されていない。 また、結晶化の程度についても、どの程度の単結晶状態なのか、方向性 の揃っている或いは方向の揃っていないランダム方向の多結晶状態なの か、微結晶状態なのか等、結晶化の程度・状態についても、明細書中に具 体的な説明がなされておらず、実験的な証明もなされていない。 したがって、特定の温度条件による結晶化が行われていることが明確に なっていない請求項1?9,15に記載された発明は不明確であり、明細 書に記載された発明でもなく、明細書に当業者が実施し得る程度に記載し た発明でもない。」 第3 特許法第36条についての当審の判断 1 請求項1の記載について 本願の請求項1には、「バッファ層」に関して 「第1の温度で、III族元素の不存在下において、サファイア基板の表面を活性窒素に暴露し、窒化サファイア基板を形成するステップと、 前記窒化サファイア基板を、前記第1の温度より低温の第2の温度に冷却するステップと、 前記窒化サファイア基板の表面に窒化ガリウム半導体材料のバッファ層を前記第2の温度で堆積するステップ」 との記載、即ち、窒化サファイア基板を形成する際の第1の温度より低い第2の温度で、窒化サファイア基板の表面に「バッファ層」を形成することが記載されているのみで、第1の温度及び第2の温度については、具体的な温度が特定されておらず、また、雰囲気成分、圧力及び形成時間等の各種製造条件も特定されず、形成された「バッファ層」の具体的な特定もなされていない。 2 明細書の記載について 本願明細書の発明の詳細な説明には、【0020】に、特定の製造装置を用いて特定の製造条件により結晶化したバッファ層の実施例が記載されているものの、形成された「バッファ層」が、微結晶、多結晶或いは単結晶なのか、また、どの様な結晶化度なのか、層の厚み方向における結晶化の分布、結晶欠陥の分布等「バッファ層」自体の構造・状態については、具体的な説明はなされておらず、実施例等の製造条件に基づいて作成された「バッファ層」自体もどの様な物か不明であり、加えて、「バッファ層」で有りさえすれば、その製造条件は、上記の温度条件あるいはその他の各種形成条件が任意でよいとの説明もなされていない。 すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 現在のGaN作製方法は、格子内の窒素空孔を制御することができない。したがって、真性GaNを作製することができない。さらに、GaN膜のドープ工程を制御して、p-n接合の製造を可能ならしめることが望ましい。本発明は、真性に近い単結晶GaN膜を有し、かつこの膜をn形又はp形に選択的にドープした半導体デバイスを提供する。 【課題を解決するための手段】 【0009】 ・・・膜を2つの工程、低温核形成工程と高温成長工程でエピタキシャル成長させる。核形成工程は基板を100?400℃の範囲の温度の窒素プラズマとガリウムに暴露させるのが好ましく、高温成長工程は600?900℃の範囲の温度で実施するのが好ましい。・・・ 【0010】 好適な実施例では、窒素プラズマの圧力とGa フラックスの圧力を制御して、金属ガリウムの膜表面のビード(beading)の形成と格子内の窒素空孔の形成を阻止する。・・・ 【0011】 更に別の好適な実施例では、低温核形成工程において3?15分間基板をGaと窒素に暴露させる。厚さが200?500Åの膜を蒸着させる。この膜は、核形成工程の低温下においては非晶質である。非晶質膜を活性窒素の存在下において600?900℃で加熱することによって結晶化することができる。続いて、高温、好ましくは600?900℃の処理を行うと、単結晶の真性に近いGaN膜のエピタキシャル成長が行われる。・・・」 「【0015】 GaNの意図しないドープはGaN格子内の窒素の空孔の形成による。GaNは、上記方法の処理温度(>1000℃)より十分に低い温度である約650℃で分解する(かつ窒素を失う)。それ故、成長法自身が空孔形成のために十分な熱エネルギーを提供することになる。より低い温度での成長方法では、窒素の格子内の空孔の数が減り、GaN格子に意図しないn形ドープが行なわれるのが阻止され、真性GaNの形成が達成される。」 「【0020】 典型的な方法においては、基板19を600℃の窒素でスパッターエッチングした。基板を270℃まで窒素プラズマの存在下で冷却した。その後、Ga シャッター23を開いて、始めにGaNのバッファ層を蒸着した。活性窒素源を使用することにより、GaNを低温で蒸着させることが可能となった。バッファ層は10分以上にわたって核形成を可能とし、その後に、Ga シャッター23を閉めて該膜の核形成を止めた。その後に、基板を、窒素プラズマの存在下において15秒毎に4℃の割合でゆっくりと600℃にした。窒素の過圧も窒素空孔の形成を減らすのを助けた。 【0021】 600℃まで至った後、基板19を窒素プラズマの存在下において30分間この温度で保持してGaNバッファ層を結晶化させた。Ga シャッター23をもう一度開けて、GaN単結晶膜を成長させた。膜の厚さは、理論上は制限はないが、約1μmであった。窒素圧力とガリウムフラックスは全工程にわたって一定に保たれている。 【0022】 2工程成長法によれば、バッファ層の核形成を可能とする。バッファ層は100?400℃の範囲の温度で成長する。温度が低いために、窒素の空孔が形成される可能性は低い。温度が600℃まで上がるにつれて、非晶質膜が結晶化する。この2工程法により成長した膜は1工程法により成長した膜より優れている。」 と記載されている。 上記発明の詳細な説明の記載によれば、窒素の空孔形成を抑制することで、真性GaNを得るために、バッファ層の形成に際しては、100?400℃の範囲の温度で厚さが200?500Åの非晶質の層を形成し、この非晶質の層を活性窒素の存在下において所定時間、600?900℃で加熱することによって結晶化しているものである。 3 判断 本願の請求項1に記載された発明におけるバッファ層の形成方法については、上記「1」で述べたように、サファイア基板の窒化時の第1の温度よりも低温の第2の温度であって第2の温度よりも窒化ガリウム成長層を堆積させる際の第3の温度の方が高温であるそのような当該第2の温度でサファイア基板表面に窒化ガリウム半導体材料のバッファ層を形成することが特定されているだけであるから、特定の温度で非晶質状態で堆積したものを、より高温の所定の温度で所定時間加熱することにより結晶化したバッファ層以外のバッファ層の製造工程をも含むものである。 それに対して、発明の詳細な説明には、上記「2」で述べたように「窒素の空孔形成を抑制することで、真性GaNを得るために、バッファ層の形成に際しては、100?400℃の範囲の温度で厚さが200?500Åの非晶質の層を形成し、この非晶質の層を活性窒素の存在下において所定時間、600?900℃で加熱することによって結晶化しているもの」が記載されているだけであるから、本願の請求項1に記載された発明は、明細書に記載された発明以外の発明を含むことは明らかである。 したがって、本願の請求項1に記載された発明は、明細書に記載された発明ではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 なお、平成24年 1月13日付けの意見書で、本件審判請求人は、下記の主張をしている。 「本願発明は、第1の温度で基板を窒化し、バッファ層を前記第1の温度より低温の第2の温度で堆積し、成長層を前記第2の温度より高温の第3の温度で堆積することを構成要件として含むものであり、このような温度規定により、バッファ層が初期の非晶質状態で堆積され、より高温で結晶化され、その後、高品質の結晶された成長層が作製されるものである。」(2頁14?18行) 「第2の温度に関してより低温の範囲とする点は、単なる設計事項などではなく、本願発明の重要なポイントである。 即ち、初期の非晶質GaN材料の形成を招来することからみて、GaNバッファ層の形成に関して低温範囲は重要である。そして、非晶質のGaNは、III族窒化物成長層の堆積に先立って、より高温でアニーリングすることにより結晶化され得るものである。実験結果が成長層の格子欠陥が極めて少ないことを示していることからも、第1の温度より低温、且つ、最終成長温度より低温の第2の温度を使用することにより、GaNバッファ層上に形成された極めて高品質のGaN成長層をもたらすものである。また、このことは、従来技術においてバッファ層を成長させるために使用されるより高温の温度に由来するものではない。 以上のとおりであるから、本願発明は、実際上窒素空位がなく、それによりp型及びn型のドープが可能なGaN成長層の作製に最初に成功したものである。」(2頁下から15?4行) 「5.理由3について 審判官殿は、「バッファ層」、「非単結晶」等について不明確である旨指摘されている。 これに対し、特許請求の範囲の記載を補正し、「非単結晶」に関連する語句を削除した。また、「バッファ層」に関しても、その形成や「バッファ層」と「成長層」との関係が明瞭になるように補正し、「バッファ層」の有する技術的意義を明確化した。」(3頁下から10?5行) 上記の「第1の温度より低温、且つ、最終成長温度より低温の第2の温度を使用することにより、GaNバッファ層上に形成された極めて高品質のGaN成長層をもたらすものである。従来技術においてバッファ層を成長させるために使用されるより高温の温度に由来するものではない。」との主張は、「初期の非晶質GaN材料」を「より高温のアニーリング」により「結晶化」することが前提となっているが、少なくとも第1の温度或いは第2の温度がバッファ層を非晶質で形成する温度範囲であることが特定されていない以上、単に第1の温度、第2の温度及び第3の温度の高低が特定されていても、第2の温度によって非晶質のバッファ層或いは結晶質のバッファ層を形成することを特定したことにはならない。 そして、上記主張においては、バッファ層の形成には、「初期の非晶質GaN材料」を形成する温度および「より高温のアニーリング温度」という2段階の温度設定が必要であるにもかかわらず、請求項1にはバッファ層形成時の温度として第2の温度が記載されているのみである。 また、請求項3には、「第2の温度が100℃?400℃の範囲」であること、請求項4には、「第2の温度は270℃」であることが、さらに補正された請求項10では、「バッファ層は、初期の非晶質状態から結晶化される」こと、また補正された請求項11では、「バッファ層は、前記バッファ層の堆積後で且つ前記成長層の堆積前に、600℃?900℃の範囲の温度で結晶化される」ことがそれぞれ特定されているものの、これらの各請求項は何れも請求項1の従属項である。上記各従属項は、請求項1に係る発明の温度範囲或いは結晶化状態について限定を加えたものであり、請求項1に係る発明の一部の発明にしかすぎず、請求項1に係る発明自体を規定するものでないことは明らかであるから、当該従属項があることにより、請求項1に係る発明自体が限定解釈されるものでもない。 したがって、「「バッファ層」に関しても、その形成や「バッファ層」と「成長層」との関係が明瞭になるように補正し、「バッファ層」の有する技術的意義を明確化した。」との主張を採用することはできない。 第4 特許法第29条第2項についての当審の判断 1 本願発明について 本願発明は、上記「第1 2」に記載のとおりである。 そして、上記「第3」での検討のように、請求項1には、第1の温度、第2の温度及び第3の温度について具体的な温度が特定されておらず、また、第2の温度により形成される「バッファ層」自体がどの様なものかについても、その具体的な構成は特定されていない。 また、第1の温度と第3の温度との高低関係も特定されていない。 以上の点を踏まえて、特許法第29条第2項についての検討を以下行う。 2 引用刊行物及びその摘記事項 (1)当審の拒絶理由通知で引用した本願出願前に国内において頒布された特開昭63-178516号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (刊1ア)「1.サファイア基板上へ化合物半導体GaN単結晶膜を気相エピタキシャル成長させる方法において、Nを含む原料ガス雰囲気中でサファイア基板を熱処理することにより該サファイア基板の表面に窒化層を形成する第1の工程と、Gaを含む原料ガスとNを含む原料ガスとの反応により、上記窒化層上にGaN膜を成長させる第2の工程とを含むことを特徴とする化合物半導体単結晶膜の成長方法。」(1頁左欄5?13行) (刊1イ)「サフファイアとGaNとの間の格子不整合は大きく、・・・この格子不整合のため、GaN膜中には高密度のミスフィット転位が発生し、膜質が低下する。 ミスフィット転位はGaNの膜厚の増加に伴って減少するので、厚膜成長させることにより膜質を向上できる。」(1頁右欄10?最終行) (刊1ウ)「格子不整合の大きなヘテロエピタキシャル成長では、基板とエピタキシャル膜との中間的な物理定数を持つ材料をバッファ層として挿入することによりエピタキシャル膜の品質を向上する」(2頁左上欄6?9行) (刊1エ)「この装置を用いてGaN膜を成長させるには、まず、石英反応管3内をターボ・モルキュラー・ポンプ等の真空排気装置(図示せず。)により10^(-6)Torr以下の高真空にする。次に、基板1の表面清浄化を目的として、高周波誘導コイル4に通電することによりカーボン・サセプタ2を1100?1200℃に加熱し、導入管8から導入したH_(2)ガス雰囲気中・・・。続いて、サセプタ温度一定のまま、H_(2)ガスの導入を止め、NH_(3)ガスを導入管7から導入し、2?10分間保持する・・・ことによりサファイア表面を窒化する。以上の基板前処理後、サセプタ温度を900?1000℃の成長温度に設定する。・・・GaN単結晶膜を成長させる。」(3頁右上欄8行?左下欄8行) (刊1オ)「なお、GaN膜中のドナーの起源は、成長温度におけるN蒸気圧が高いために生じるN空孔である。第2図、第3図に示される結果は、膜厚の増加、すなわち格子不整合の緩和に伴い、N空孔が減少すること、およびこの効果は表面窒化を行なったときの方が顕著であることを示している。これは、サファイア表面窒化層の存在によりGaN膜への転位の伝搬が大いに抑制されることによる。」(3頁右下欄12?19行) (刊1カ)図2は、表面窒化を行った場合と行わなかった場合のGaN膜の電子濃度nの膜厚dに対する変化を示す図、図3は、表面窒化を行った場合と行わなかった場合のGaN膜の電子移動度μの膜厚dに対する変化を示す図であり、何れも表面窒化を行った場合には、1μm程度から5μm或いは10μm程度にかけて、膜厚の増加に伴い顕著な変化がある一方、膜厚1μm程度の薄い膜厚では、表面窒化の有無にかかわらず特性が悪いことが看取できる。 (2)当審の拒絶理由通知で引用した本願出願前に国内において頒布された特公昭56-31320号公報(以下、「周知刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (周1ア)「固体の基板上にGaNの結晶をヘテロエピタキシャル成長させる際に、界面部分に効果的な歪緩和層を形成する方策を提供するにある。」(1頁2欄最5?8行) (周1イ)「第1のGaN層の成長は、トリメチルガリウムとアンモニアとの混合気体を800℃?950℃好ましくは950℃に加熱保持したサファイア基板上で熱分解させることによって形成する。・・・ つぎに、第2のGaN層の成長は、・・・上記基板の温度を1000℃?1100℃、好ましくは1050℃に加熱しておこない・・・」(2頁左欄2行?下から2行) (3)本願出願前に国内において頒布された特開昭60-173829号公報(以下、「周知刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。 (周2ア)「本発明の目的は、格子整合性を向上させることにより、窒素空格子点の少ない高品質のAl_(x)Ga_(1-x)N(0≦x≦1)・・・エピタキシャル膜を成長させることのできる化合物半導体薄膜の成長方法を提供することにある。」(2頁左下欄6?10行) (周2イ)「基板温度を300?450℃とし、・・・GaNバッファ層をサファイアC面上に形成した。・・・ 次に、GaNバッファ層2の上に、有機金属気相成長法により・・・基板1を誘導加熱法により800?1000℃に加熱し、・・・C軸配向GaNエピタキシャル層3を成長させた。」(3頁右上欄10?左下欄9行) 3 刊行物1に記載された発明 上記摘記事項(刊1ア)、(刊1エ)を整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。 「サファイア基板上へ化合物半導体GaN単結晶膜を気相エピタキシャル成長させる方法において、高真空にした後、H_(2)ガス雰囲気による正常化を行い、その後、NH_(3)ガスを供給した雰囲気中でサファイア基板を1100?1200℃で熱処理することにより該サファイア基板の表面に窒化層を形成する第1の工程と、900?1000℃でGaを含む原料ガスとNを含む原料ガスとの反応により、上記窒化層上にGaN膜を成長させる第2の工程とを含む化合物半導体単結晶膜の成長方法。」 4 対比・判断 本願発明1と刊行物1発明とを対比する。 (1)刊行物1発明の「表面に窒化層を形成」された「サファイア基板」、「1100?1200℃」及び「900?1000℃」は、本願発明の「窒化サファイア基板」、「第1の温度」及び「第3の温度」に相当する。 (2)刊行物1に記載された図2,図3は、電子濃度或いは電子移動度の状態を示しており、これらの物性値は、一般に、半導体デバイスとしての性能の指標として用いられるものであるから、刊行物1に記載された化合物半導体単結晶膜の成長方法によって形成されたサファイア基板上の化合物半導体GaN単結晶膜は、半導体デバイスの作成のために用いられるものであることは明らかである。 (3)刊行物1発明は、「高真空にした後、H2ガス雰囲気による正常化を行い、その後、NH_(3)ガスを供給した雰囲気中でサファイア基板を1100?1200℃で熱処理する」のであるから、窒化処理工程においては、高真空にした後、III族元素は供給されておらず、「III族元素が不存在」であることは明らかである。 (4)1100?1200℃の雰囲気にあるNH_(3)ガスは、通常そのような高温下では、熱分解をおこしており、熱分解したNH_(3)ガスから形成される窒素元素は、活性化されていることは明らかである。そして、刊行物1発明は、NH_(3)ガスから窒素成分をサファイア基板の窒化に用いているのであるから、窒素が活性化されていることは、明らかである。 したがって、上記(1)、(3)を踏まえると、刊行物1発明の「NH_(3)ガスを供給した雰囲気中でサファイア基板を1100?1200℃で熱処理することにより該サファイア基板の表面に窒化層を形成する第1の工程」は、本願発明の「第1の温度で、III族元素の不存在下において、サファイア基板の表面を活性窒素に暴露し、窒化サファイア基板を形成するステップ」に相当する。 (5)刊行物1の第2の工程で「窒化層上に」成長させた「GaN膜」は、本願発明の「窒化ガリウム成長層」に相当する。 そこで、上記(1)?(5)の事項を考慮すると、両者は、 「半導体デバイスの作製方法であって、該方法は、 第1の温度で、III族元素の不存在下において、サファイア基板の表面を活性窒素に暴露し、窒化サファイア基板を形成するステップと、 窒化ガリウム成長層を、第3の温度で堆積するステップと、 を備えた方法。」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:本願発明では、「窒化サファイア基板を、前記第1の温度より低温の第2の温度に冷却するステップと、 前記窒化サファイア基板の表面に窒化ガリウム半導体材料のバッファ層を前記第2の温度で堆積するステップと、」を有し「前記第2の温度より高温の第3の温度」であるのに対して、刊行物1発明ではそのようなステップ及び温度特定がない点。 次に、上記相違点1について、検討する。 刊行物1の摘記事項(刊1オ)、(刊1カ)、図2,図3によれば、刊行物1発明においても、窒化されたサファイア基板の表面近傍のGaN層においては、窒化されていないサファイア基板と同程度の特性不良の状態である事が理解できる。 また、刊行物1発明は、その表面では、サファイアとAlNとの格子不整合を回避するために、サファイアからAlNに徐々に窒化を進めているものである。 また、AlNとその上に形成するGaNとにおいて、格子が完全には、整合していないことも明らかである。 したがって、刊行物1発明が、サファイア基板に直接AlNを形成する場合に比べ、サファイア基板とAlNとの格子不整合を除去でき、より高性能のGaN膜を得られたとしても、AlNとGaNとの格子が完全に整合されたものではないこと、また、半導体デバイスにおいては、小型化、薄型化かつより高性能化が求められるのは、必然的な要求でもあるから、より高性能のGaN層を得ようとすれば、AlNとGaNとの僅かな格子不整合をも解消したいと希求することは明らかである。 一方、GaN以外の材料から成る基板との格子不整合を解消するために、GaN成長層の成長温度よりも低い温度でGaN成長層と同組成のGaN層を形成し、格子不整合による歪みを緩衝するバッファ層を形成する(以下、「2段階成長法」という。)ことは、周知刊行物1,2に記載されているように、周知の事項である。 そして、上記周知の2段階成長法は、GaNバッファ層の成長温度が300?450℃或いは800?950℃であり、GaN成長層の成長温度が800?1000℃或いは1000?1100℃とされており、GaNバッファ層の成長温度がGaN成長層の成長温度よりも低く、刊行物1発明のGaN成長層の形成温度も、900?1000℃と、周知の2段階成長法のGaN成長層の成長温度とほぼ同程度の成長温度である。 してみると、上記必然的な要求課題のもと、周知刊行物1,2に記載されている周知の2段階成長法を、刊行物1発明に適用することは当業者ならば容易に想到しうるものである。そして、刊行物1発明のサファイア基板の窒化における温度が1100?1200℃であり、GaN成長層の形成温度よりも高い温度であるから、刊行物1発明に、周知の2段階成長法を適用すれば、GaNバッファ層の成長温度は、サファイア基板の窒化温度よりも低いGaN成長層の形成温度温度よりも更に低い温度となる。また、窒化温度よりも、低い温度でその次のGaNバッファ層の成長を行う以上、窒化後には、基板を窒化温度よりも下げる工程を有することにもなる。 したがって、本願発明の「窒化サファイア基板を、前記第1の温度より低温の第2の温度に冷却するステップと、 前記窒化サファイア基板の表面に窒化ガリウム半導体材料のバッファ層を前記第2の温度で堆積するステップと、」を有し「前記第2の温度より高温の第3の温度」であるとの構成は、刊行物1発明に、周知の2段階成長法を適用することで、当業者ならば容易に想到し得たものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に記載された発明は、明細書に記載された発明ではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、また、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の請求項2?請求項23に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-06 |
結審通知日 | 2012-02-07 |
審決日 | 2012-02-21 |
出願番号 | 特願2009-249130(P2009-249130) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 酒井 英夫、井上 猛 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
鈴木 正紀 川村 健一 |
発明の名称 | サファイア基板を活性窒素に暴露して半導体デバイスを作製する方法及び半導体デバイス |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 上田 忠 |