ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B05D |
---|---|
管理番号 | 1259958 |
審判番号 | 無効2011-800181 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2011-09-21 |
確定日 | 2012-06-11 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4114617号発明「膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法と装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第4114617号の請求項1ないし8に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第4114617号は、平成16年2月19日に出願され、平成20年4月25日に設定登録がなされたものである。 また、本件無効審判請求に係る経緯は、以下のとおりである。 平成23年 9月21日 無効審判請求 平成23年12月12日 答弁書提出 平成23年12月12日 訂正請求 平成24年 2月 1日 弁駁書提出 平成24年 4月 6日 口頭審理陳述要領書提出(請求人) 平成24年 4月 6日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人) 平成24年 4月20日 口頭審理 2.訂正請求 2-1.訂正の内容 平成23年12月12日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、特許第4114617号に係る願書に添付した特許請求の範囲における請求項5及び6を、次のように訂正するものである。 [請求項5] 膜電極接合体を構成する基材へ電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する装置であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段、とを少なくとも備え、静電気力と弾性体からなる押し付け手段による押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させることを特徴とする膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 [請求項6] 電極粉体を収容したホッパーと、ホッパーの出口側に取り付けたフィードローラとを備え、フィードローラはスクリーンに圧接した状態で転動できるようになっており、該フィードローラが、スクリーン上に電極粉体を供給する手段とスクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段とを構成することを特徴とする請求項5に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 2-2.訂正の適否 請求項5に係る訂正は、訂正前の請求項5における「押し付ける手段」を「押し付ける弾性体からなる押し付け手段」と訂正し、押し付け手段が弾性体からなるものであることに限定するもの及び、 「静電気力と弾性体の押し出し力の双方により」を「静電気力と弾性体からなる押し付け手段による押し出し力の双方により」と訂正し、前記訂正箇所に合わせるものである。 また、請求項6に係る訂正は、「押し付ける手段」を請求項5の上記訂正に合わせて「押し付ける弾性体からなる押し付け手段」と限定するものである。 よって、上記各訂正は、特許請求の範囲の減縮または明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、いずれの訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とし、特許法第134条の2第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するのであるので、当該訂正を認める。 3.本件特許発明 本件特許第4114617号の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、訂正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する方法であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した電極粉体を弾性体で押し付けることによって、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含むことを特徴とする膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項2】 弾性体として弾性材料で作られたフィードローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程は、電極粉体をフィードローラに付着させる行程と、電極粉体を付着したフィードローラをスクリーンに押し付けながら転動させる行程を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項3】 電極粉体をフィードローラに付着させる行程は電極粉体を帯電する行程を含むことを特徴とする請求項2に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項4】 基材が電解質膜またはガス拡散層である請求項1?3のいずれかに記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項5】 膜電極接合体を構成する基材へ電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する装置であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段、とを少なくとも備え、静電気力と弾性体からなる押し付け手段による押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させることを特徴とする膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項6】 電極粉体を収容したホッパーと、ホッパーの出口側に取り付けたフィードローラとを備え、フィードローラはスクリーンに圧接した状態で転動できるようになっており、該フィードローラが、スクリーン上に電極粉体を供給する手段とスクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段とを構成することを特徴とする請求項5に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項7】 ホッパー内に収容した電極粉体を帯電させる手段をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項8】 基材が電解質膜またはガス拡散層である請求項5?7のいずれかに記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。」 なお、上記請求項1ないし3において、「行程」という記載があるが、「工程」と同義の用語として本審決においては取り扱う。 4.請求人の主張及び証拠方法 請求人は、「特許第4114617号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、無効理由の概要は、第1回口頭審理調書に記載されているように以下のとおりであると主張している。 本件の請求項1乃至8に係る各特許発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 また、請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2002-367616号公報 甲第2号証:特開2002-347221号公報 甲第3号証:特開2003-163011号公報 甲第4号証:本件特許公報 なお、当事者間に甲第1ないし4号証の成立に争いはない。 5.被請求人の主張の概要 被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張に対し、本件特許の請求項1から8に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではなく、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものではない旨の主張をしている。 6.甲各号証の記載事項 甲第1号証及び甲第2号証には、以下の各事項が記載されている。 [甲第1号証] (1a)「【請求項1】 触媒および水素イオン伝導性高分子電解質を担持した導電体からなる電極用触媒粉末を帯電する工程、帯電した電極用触媒粉末をローラーの上に堆積する工程、および前記電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写する工程を有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用電極の製造方法。 【請求項2】 前記基体が高分子電解質膜である請求項1記載の高分子電解質型燃料電池用電極の製造方法。 ・・・ 【請求項5】 触媒および水素イオン伝導性高分子電解質を担持した導電体からなる電極用触媒粉末を帯電する帯電手段、前記帯電手段を格納する格納室、帯電した電極用触媒粉末をその上に堆積して前記格納室から外部へ搬出するローラー、および前記ローラー上に堆積した電極用触媒粉末をシート状の基体へ転写する転写手段を具備することを特徴とする高分子電解質型燃料電池用電極の製造装置。 ・・・ 【請求項9】 前記ローラーと前記基体との間に、制御プレートを具備し、この制御プレートが前記電極用触媒粉末を通過させる透孔および前記透孔の縁部に配されたリング状の制御電極を有し、この制御電極の電位を制御することにより、前記ローラー上から前記基体へ転写される電極用触媒粉末層の位置を制御する請求項4?8のいずれかに記載の高分子電解質型燃料電池用電極の製造装置。」 (1b)「【0002】 【従来の技術】高分子電解質型燃料電池は、水素などの燃料ガスと、空気などの酸化剤ガスをガス拡散電極で電気化学的に反応させ、電気と熱を同時に発生させるものである。以下、一般的な高分子電解質型燃料電池の構造を、図1を用いて説明する。水素イオン伝導性高分子電解質膜11の両面には、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末と水素イオン伝導性高分子電解質とを混合した触媒層12が接合されている。触媒層12の外面には、通気性と電子導電性を併せ持つ拡散層13が密着して配置されている。触媒層12とこの拡散層13とを併せて電極14と呼ぶ。水素イオン伝導性高分子電解質膜11の両面に、一対の電極14を接合したものを電解質膜電極接合体15(以下、MEA)と言う。」 (1c)「【0007】 【課題を解決するための手段】以上の課題を解決するために、本発明の燃料電池用電極の製造方法は、触媒および水素イオン伝導性高分子電解質を担持した導電体からなる電極用触媒粉末を帯電する工程、帯電した電極用触媒粉末をローラーの上に堆積する工程、および前記電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写する工程を有する。ここにおいて、前記基体には高分子電解質膜が用いられる。・・・」 (1d)「【0010】実施の形態1 図2は、本実施例の電極製造装置の構成を示す概念図である。電極用触媒粉末21を収容する格納室25には、攪拌室22が設けられている。電極用触媒粉末21は、まず窒素ガスで満たした攪拌室22に入れ、ハンドル24を回すことにより攪拌室22を回転させる。これにより電極用触媒粉末は、攪拌されるとともに、相互に摩擦しあって帯電される。次に、攪拌室22のシャッタ23を開き、格納室25に電極用触媒粉末21を投入する。格納室25の左端開口部には、搬出ローラー26が設けてある。この搬出ローラーに対向させて背面電極31が設置されている。搬出ローラー26と背面電極31との間には、ロール29から繰り出され、ロール30に巻き取られる高分子電解質膜28が挿入されている。搬出ローラー26と背面電極31には、前者がプラス、後者がマイナスとなるように、高電圧が印加されている。 【0011】電極用触媒粉末21とは逆極性のプラス側に帯電された搬出ローラー26を回転させると、搬出ローラー26はその表面に静電的に付着した電極用触媒粉末21を格納室25から搬出する。搬出ローラー26上に堆積して搬出される電極用触媒粉末21は、ブレード27により所定厚みに調製される。搬出ローラー26上に堆積されている一定の厚みの触媒粉末層は、搬出ローラー26に対してマイナス3000Vの電位が印加されている背面電極31側に吸引され、水素イオン伝導性高分子電解質膜28上に静電的に付着する。・・・」 (1e)「【0012】実施の形態2 図3は本実施の形態の製造装置を示す。本実施の形態では、実施の形態1における攪拌室22の代わりに、格納室25内に回転フィン33を設けている。回転フィン33は、直径5mmのジュラコン製のシャフトに翼長さ10mm、厚み1mmのジュラコン製翼8枚を固定したものである。その翼は、曲げ半径50mmにて曲げられている。この回転フィン33を回転することにより、電極用触媒粉末を負に帯電させることができる。・・・」 (1f)「【0013】実施の形態3 図4は本実施の形態の製造装置を示す。回転フィン33を設けた格納室25内に、コロナ放電装置34を設けている。コロナ放電装置34は、直径0.1mmのタングステン線からなるコロナ線と、厚み0.5mmのステンレス鋼板からなるシールドにより構成される。そのコロナ線に、シールドに対して-5000Vの電位を印加すると、数μA程度の電流が電極間を流れ、コロナ放電が発生する。これによって格納室25内をイオン化して電極用触媒粉末の帯電を促進することができる。」 (1g)「【0017】実施の形態5 図7に本実施の形態の製造装置の構成を示す。本実施の形態では、実施の形態2の装置における搬出ローラー26と背面電極31の間に、電極用触媒粉末の転写パターンをコントロールする制御プレート57を設けている。制御プレート57は、両端に制御プレート自体を振動させる超音波アクチュエータ60を設け、ローラー58、59および搬出ローラー26に張架されている。この制御プレート57は、図9に示すように、直径150μmの穴60が300μm間隔に1列、更に半ピッチずらして300μm間隔でもう1列、併せて2列設けられ、これらの穴の周縁部に、リング状の電極61が埋め込まれている。制御プレート57の幅は、搬出ローラー26の幅と同じである。 【0018】この装置を用いて、高分子電解質膜28の所定の部位、例えば6cm×6cmの正方形の部位のみに付着させるには、次のように操作する。まず、電極用触媒粉末21が飛翔しないように、制御プレート57のすべてのリング状電極61に-50Vの電位を印加する。次に、搬出ローラー26を周速100mm/sにて回転させるとともに、高分子電解質膜28を送り速度100mm/sにて送り出す。そして、上記6cm×6cmの正方形の部位に対応する位置のリング状電極61に+300Vの電位を0.6秒印加した後、-50Vの電位に戻す。この間、他のリング状電極61には常時-50Vの電位を印加する。このようにすると、高分子電解質膜28の所定の部位のみに電極用触媒粉末層を形成することができる。こうして高分子電解質膜28の一方の面の所定の部位に電極用触媒粉末層を形成した後、高分子電解質膜の他方の面の、前記所定の部位と対応する部位にも同様の方法で電極用触媒粉末層を形成する。これにより、リング状電極を用いて電極形状を自由にパターニングすることができる。」 以上の記載より、甲第1号証には、下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「触媒および水素イオン伝導性高分子電解質を担持した導電体からなる電極用触媒粉末を帯電する帯電手段、前記帯電手段を格納する格納室、帯電した電極用触媒粉末をその上に堆積して前記格納室から外部へ搬出する搬出ローラー、および前記ローラー上に堆積した電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されシート状の基体へ転写する転写手段を具備するものであって、 前記基体には高分子電解質膜が用いられ、 前記ローラーと前記基体との間に、制御プレートを具備し、この制御プレートが前記電極用触媒粉末を通過させる透孔および前記透孔の縁部に配されたリング状の制御電極を有し、この制御電極の電位を制御することにより、前記ローラー上から前記基体へ転写される電極用触媒粉末層の位置を制御する高分子電解質型燃料電池用電極の製造方法及び製造装置。」 [甲第2号証] (2a)「【0002】 【従来の技術】従来から、静電力を利用して粉体インキを被印刷物の表面に付着させ、文字や図形などの印刷パターンを被印刷物の表面に印刷する静電印刷装置が知られている。図7はこの種の静電印刷装置の構成を示す概略図である。従来の静電印刷装置は、被印刷物100の上方に配置されるステンシルスクリーン110と、スクリーン110上の回転ブラシ120と、粉体インキ130をブラシ120に供給するホッパ140とを備えている。スクリーンには文字や図形などの印刷パターンがメッシュ網111によって形成されている。回転ブラシ120としては、スクリーン110に対するインキの擦込性の良さから軟質の連泡ウレタンスポンジが採用されている。 【0003】ホッパ140から供給される粉体インキ130は、ブラシ120の回転によってスクリーン110のメッシュ網111から下方に押し出される。被印刷物100とスクリーン110との間には直流電源DCによって直流高電圧が印加され、被印刷物100とスクリーン110との間に静電界が形成されている。メッシュ網111を通過し荷電された粉体インキは、静電界中を対電極である被印刷物100に向かって直進して被印刷物100の表面に付着する。このようにして、スクリーン110の文字や図形などの印刷パターンが被印刷物100の表面に印刷される。」 (2b)「【0021】 ・・・なお、被印刷物100は菓子などの食品に限らず、工業製品であってもよい。また、粉体インキとしては、天然色素又は合成色素を含んだ可食性インキ、ココア粉、小麦粉、抹茶粉、シュガー粉、あるいは工業用の粉体インキなど、用途に応じて種々な粉体を用いることができる。」 以上の記載より、甲第2号証には、下記の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「被印刷物100の上方に配置されるスクリーン110と、スクリーン110上の回転ブラシ120と、粉体インキ130をブラシ120に供給するホッパ140とを備え、 印刷パターンがスクリーン110のメッシュ網111によって形成され、 回転ブラシ120としては、スクリーン110に対するインキの擦込性の良さから軟質の連泡ウレタンスポンジが採用され、 ホッパ140から供給される粉体インキ130は、ブラシ120の回転によってスクリーン110のメッシュ網111から下方に押し出され、 被印刷物100とスクリーン110との間には直流電源DCによって直流高電圧が印加され、被印刷物100とスクリーン110との間に静電界が形成され、メッシュ網111を通過し荷電された粉体インキは、静電界中を対電極である被印刷物100に向かって直進して被印刷物100の表面に付着し、スクリーン110の印刷パターンが被印刷物100の表面に印刷される静電印刷方法及び静電印刷装置。」 7.当審の判断 7-1.本件特許発明1について <甲1発明との対比> 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、 甲1発明の「基体」は、高分子電解質膜であって電解質膜電極接合体を構成するものである(上記記載事項(1b)参照)ので、本件特許発明1の膜電極接合体を構成する「基材」に相当し、 甲1発明の「電極用触媒粉末」及び「電極用触媒粉末層」は、それぞれ本件特許発明1の「電極粉体」及び「触媒層」に相当し、また、帯電した該「電極用触媒粉末」をローラーの上に堆積し、該「電極用触媒粉末」をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写することから、基体に本件特許発明1でいう「静電付着」されるものといえることより、両者は、 「膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する方法。」で一致し、以下の点で相違する。 相違点1a:本件特許発明1では、膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させるのに、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した電極粉体を弾性体で押し付けることによって、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含むのに対し、甲1発明では、搬出ローラーと背面電極の間に、電極用触媒粉末の転写パターンをコントロールする制御プレートを設け、電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写する点。 上記相違点1aについて検討すると、 上記相違点1aに係る基材に粉体を静電付着させる方法は、下記「<甲2発明との対比>」の一致点及び相違点2bにおいて示すように甲2発明として公知であり、また、甲2発明に係る甲第2号証には、被印刷物は、工業製品であってもよく、また、粉体インキとしては工業用の粉体インキなど、用途に応じて種々な粉体を用いることができる旨の記載がある(上記記載事項(2b)参照)こと及び、印刷に係る技術は様々な分野において応用が可能でもあることは技術常識であり、本件特許明細書に「電極粉体を基材である電解質膜あるいはガス拡散層に配置して触媒層を形成する方法としては、電極インクを、印刷、ローラコート、スプレーなどにより基材に塗布する、いわゆる湿式塗布方法が従来から行われてきた。」(段落【0003】)と記載されているように触媒層を形成する方法として印刷に係る技術を用いることは従来から行われていたものと認められること、 そして、甲1発明の高分子電解質膜に電極用触媒粉末を転写する方法と甲2発明の静電印刷方法とは、静電気力を利用して粉体を基体または被印刷物に付着させるという類似した技術であって、それらの方法を置き換えることを妨げる事由も認められないことより、 甲1発明において、制御プレートを用いた方法に換えて、上記甲2発明の静電印刷方法を用い、上記相違点1aの本願特許発明1のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。 <甲2発明との対比> 本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、 甲2発明の「被印刷物100」及び「スクリーン110」は、それぞれ本件特許発明1の「基材」及び「スクリーン」に相当し、 甲2発明の「粉体インキ130」と本件特許発明1の「電極粉体」とは、「粉体」である限りにおいては一致し、また、被印刷物100の表面に付着された「粉体インキ130」は、層を形成することは明らかであり、「粉体インキ130」が「荷電」されることは、本件特許発明1でいう「帯電」されることを意味し、 甲2発明の「回転ブラシ120」は、軟質の連泡ウレタンスポンジであるので、本件特許発明1の「弾性体」といえ、また、スクリーン110に対してインキを擦込むものであることから、粉体インキ130は該スクリーン110に押し付けられていることは明らかであることより、両者は、 「基材に粉体を静電付着させて層を形成する方法であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した粉体を弾性体で押し付け、静電気力により、粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含む基材へ上記層を形成する方法。」で一致し、以下の各点で相違する。 相違点2a:本件特許発明1では、基材が膜電極接合体を構成するもので、粉体が電極粉体であって、膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法であるのに対し、甲2発明では、そのような限定がなされていない点。 相違点2b:本件特許発明1では、電極粉体の基材側への飛翔が、静電気力と弾性体の押し出し力の双方によるものとされているのに対し、甲2発明では、弾性体である回転ブラシ120の押し出し力については明確でない点。 上記各相違点について検討すると、 ・相違点2aについて 甲第2号証には、被印刷物は、工業製品であってもよく、また、粉体インキとしては工業用の粉体インキなど、用途に応じて種々な粉体を用いることができる旨の記載がある(上記記載事項(2b)参照)こと及び、印刷に係る技術は様々な分野において応用が可能であることは技術常識であり、本件特許明細書に「電極粉体を基材である電解質膜あるいはガス拡散層に配置して触媒層を形成する方法としては、電極インクを、印刷、ローラコート、スプレーなどにより基材に塗布する、いわゆる湿式塗布方法が従来から行われてきた。」(段落【0003】)と記載されているように触媒層を形成する方法として印刷に係る技術を用いることは従来から行われていたものと認められること、 そして、甲1発明にあるように、膜電極接合体を構成する高分子電解質膜に電極用触媒粉末層を形成するのに静電気力を用いること自体は、公知の技術であることから、 甲2発明を、膜電極接合体を構成する基材への触媒層の形成に用いることは、当業者が容易になし得たものである。また、それにより格別な作用効果を生ずるものとも認められない。 ・相違点2bについて 「弾性体の押し出し力」について本件特許明細書には、 「スクリーン5とフィードローラ7とは、スクリーン5の表面にフィードローラ7が圧接する状態、すなわち、フィードローラ7がスクリーン5の表面に押し付けられることにより、スクリーン5の接する面は潰されるように変形して、メッシュ内に部分的に入り込んだ状態と取り得るようにされている。」(段落【0022】)、「フィードローラ7が回転することにより、フィードローラ7の表面の一部はメッシュ状とされたスクリーン5内に入り込むようになるので、電極粉体10は弾性体であるフィードローラ7の表面で押し付けられるようになり、印可された電圧による静電気力に加えて、基材2側への押し出し力を受ける。」(段落【0025】)と記載され、また、[比較例]として「フィードローラとして、弾性体ではなく硬質体からなるフィードローラを用いて、実施例と同様にして塗布テストを行った。比較例である硬質体のフィードローラの場合、電極粉体を押し出す力がなくなるために、・・・」(段落【0031】、【0032】)と記載されていることからすると、「弾性体の押し出し力」は、硬質体ではなく弾性体からなるフィードローラをメッシュ状とされたスクリーンに押し付ける結果としての作用と解するのが相当である。 そして、本件特許明細書には「弾性体としては、ポリエチレン、ポリウレタンまたはそれぞれに対して発泡剤を添加したもの、さらにゴムに発泡剤を添加したものなどを用いることができる。」(段落【0016】)と、甲2発明と対応するポリウレタンに対して発泡剤を添加したものが記載されていることから、本件特許発明1でいう「弾性体」とは、特別なものともいえない。 そうすると、甲2発明においても、回転ブラシ120は弾性体であり、メッシュ網111により形成されたスクリーン110に押し付けられていることからみて、粉体インキ130には、回転ブラシ120により本件特許発明1でいう「押し出し力」が作用するものと認められる。 よって、上記相違点2bは、実質的な相違とはいえない。 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7?2.本件特許発明2について <甲1発明との対比> 本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、上記「7-1.本件特許発明1について<甲1発明との対比>」において一致するとした点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1b:本件特許発明2では、膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させるのに、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した電極粉体を弾性体で押し付けることによって、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含み、弾性体として弾性材料で作られたフィードローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程は、電極粉体をフィードローラに付着させる行程と、電極粉体を付着したフィードローラをスクリーンに押し付けながら転動させる行程を含むのに対し、甲1発明では、搬出ローラーと背面電極の間に、電極用触媒粉末の転写パターンをコントロールする制御プレートを設け、電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写する工程を有するものである点。 そこで、上記相違点1bについて検討すると、 上記相違点1bに係る基材に粉体を静電付着させる方法は、下記「<甲2発明との対比>」において示すように甲2発明及び、甲1発明に含まれている構成からなる方法であるので、上記「7-1.本件特許発明1について<甲1発明との対比>」における検討と同様に、 甲1発明において、制御プレートを用いた方法に換えて、甲2発明の静電印刷方法を用い、上記相違点1bの本願特許発明2のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。 <甲2発明との対比> 本件特許発明2と甲2発明とを対比すると、 甲2発明の「回転ブラシ120」と甲2発明の「フィードローラ」とは、弾性材料で作られた「ローラ」である限りにおいては一致し、 また、甲2発明の「回転ブラシ120」は、「スクリーン110」に押し付けながら転動させるものであることから、両者は、 「基材に粉体を静電付着させて層を形成する方法であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した粉体を弾性体で押し付け、静電気力により、粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含み、 弾性体として弾性材料で作られたローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程は、ローラをスクリーンに押し付けながら転動させる行程を含む基材へ上記層を形成する方法。」である点で一致し、上記相違点2a及び相違点2bに加えて、以下の点で相違する。 相違点2c:本件特許発明2では、弾性体としてフィードローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程は、電極粉体をフィードローラに付着させる行程を含むのに対して、甲2発明では、「回転ブラシ120」は、「フィードローラ」とはされておらず、粉体インキ130をブラシ120に付着させているか否か明確でない点。 そこで、上記相違点2cについて検討すると、 甲1発明では、電極用触媒粉末を基体へ転写するのに「搬出ローラー」、すなわち本件特許発明2でいう「フィードローラ」を用い、また、帯電した電極用触媒粉末を前記ローラーの上に堆積するもの、すなわち電極用触媒粉末を該ローラーに付着する工程を含むものであり、また、甲1発明も静電気力を利用して粉体を基体に付着させるという甲2発明と類似した技術であるので、 甲2発明において、甲1発明の上記構成を採用し、上記相違点2cの本願特許発明2のようになすことは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-3.本件特許発明3について 甲1発明は、電極用触媒粉末を帯電する帯電手段を具備することから、本件特許発明3でいう「電極粉体を帯電する行程」を含むものと認められることより、 上記「7-2.本件特許発明2について」における検討と同様に、本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-4.本件特許発明4について 甲1発明の「高分子電解質膜」は、本件特許発明4の「電解質膜」に相当することより、 上記「7-1.本件特許発明1について」における検討と同様に、本件特許発明4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-5.本件特許発明5について <甲1発明との対比> 本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、 上記「7-1.本件特許発明1について<甲1発明との対比>」における検討と同様に、両者は、 「膜電極接合体を構成する基材へ電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する装置。」で一致し、以下の点で相違する。 相違点1c:本件特許発明5では、膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させるのに、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段、とを少なくとも備え、静電気力と弾性体からなる押し付け手段による押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させているのに対し、甲1発明では、搬出ローラーと背面電極の間に、電極用触媒粉末の転写パターンをコントロールする制御プレートを設け、電極用触媒粉末をこれとは逆極性の電位を印加されたシート状の基体に転写する点。 上記相違点1cについて検討すると、 上記「7-1.本件特許発明1について<甲1発明との対比>」における検討と同様に、甲1発明において、制御プレートを用いた装置に換えて、甲2発明の静電印刷装置を用い、上記相違点1cの本件特許発明5のようになすことは、当業者が容易になし得たものである。 <甲2発明との対比> 本件特許発明5と甲2発明とを対比すると、 上記「7-1.本件特許発明1について<甲2発明との対比>」における検討と同様に、両者は、 「基材へ粉体を静電付着させて層を形成する装置であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段、とを少なくとも備え、静電気力により、粉体を基材側に飛翔させて付着させる基材へ前記層を形成する装置。」で一致し、以下の各点で相違する。 相違点2d:本件特許発明5では、基材が膜電極接合体を構成するもので、粉体が電極粉体であって、膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置であるのに対し、甲2発明では、そのような限定がなされていない点。 相違点2e:本件特許発明5では、電極粉体の基材側への飛翔が、静電気力と弾性体の押し出し力の双方によるものとされているのに対し、甲2発明では、弾性体である回転ブラシ120の押し出し力については明確でない点。 上記各相違点について検討すると、 上記「7-1.本件特許発明1について<甲2発明との対比>」における検討と同様に、甲2発明を、膜電極接合体を構成する基材への触媒層の形成に用いることは、当業者が容易になし得たものである。また、上記相違点2eは、実質的な相違とはいえない。 したがって、本件特許発明5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-6.本件特許発明6について 甲1発明の「格納室」は、本件特許発明6の電極粉体を収容した「ホッパー」に相当し、甲1発明の「搬出ローラー」は、本件特許発明6のホッパーの出口側に取り付けた「フィードローラ」に相当することより、 上記「7-2.本件特許発明2について」における検討と同様に、本件特許発明6は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-7.本件特許発明7について 甲1発明の「電極用触媒粉末を帯電する」ことは、本件特許発明7の「電極粉体を帯電させる手段」を備えることを意味することから、 上記「7-6.本件特許発明6について」における検討と同様に、本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-8.本件特許発明8について 甲1発明の「高分子電解質膜」は、本件特許発明8の「電解質膜」に相当することより、 上記「7-5.本件特許発明5について」における検討と同様に、本件特許発明8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 7-9.まとめ よって、本件特許発明1ないし8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 8.むすび 以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし8は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許発明1ないし8の特許は、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担するものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法と装置 【技術分野】 【0001】 本発明は燃料電池、特に、固体高分子型燃料電池に用いられる膜電極接合体における基材(電解質膜またはガス拡散層)に触媒層を形成する方法とその装置に関する。 【背景技術】 【0002】 固体高分子型燃料電池は、イオン交換膜からなる電解質膜とこの両面に配置される触媒層およびガス拡散層からなる膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)と、膜電極接合体に積層されるセパレータなどを備える。触媒層は最初に電解質膜側に形成される場合もあり、最初にガス拡散層側に形成される場合もある。前者の場合には、基材である電解質膜に形成した触媒層に対してガス拡散層を加熱加圧して積層することにより膜電極接合体とされ、後者の場合には、電解質膜の両面に触媒層が面するようにしてガス拡散層を積層することにより膜電極接合体とされる。 【0003】 触媒層は白金担持カーボンのような電極粉体(触媒担持導電体)を含み、上記のように電極粉体を基材である電解質膜あるいはガス拡散層に配置して触媒層を形成する方法としては、電極インクを、印刷、ローラコート、スプレーなどにより基材に塗布する、いわゆる湿式塗布方法が従来から行われてきた。近年になり、静電気力や気体(キャリヤーガス)の流れを利用して、電極粉体を基材である電解質膜またはガス拡散層に向けて飛翔させて直接付着させる乾式方法も採用されつつある。 【0004】 静電気力を利用した乾式方法により連続的に膜電極接合体を製造する方法として、特許文献1(特開2003-163011号公報)が提案されている。ここでは、電極粉体を所定パターンでドラム上に塗布し帯電させ、それを連続供給される電解質膜に静電気力を利用して転写し、次いで加熱加圧して定着するようにしている。特許文献2(特開2002-367616号公報)には、電極粉体である白金担持カーボンを帯電させて、転写パターンをコントロールする制御ブレードを介してパターニングしながらローラ上に堆積させ、その後電解質膜に転写、定着して膜電極接合体とする技術が記載されている。 【0005】 【特許文献1】特開2003-163011号公報 【特許文献2】特開2002-367616号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明者らは上記したように乾式法による膜電極接合体の製造を多く経験してきているが、その過程で、転写パターンが複雑な形状となったような場合に、基材である電解質膜あるいはガス拡散層に転写された電極粉体で形成される触媒層の厚みにムラか生じたり、パターンの輪郭が不明瞭となったりして、製品精度が低下する場合があることを経験した。印加電圧を高くすることによりその不都合をある程度は解消することができるが、絶縁破壊が生じるために電界を3kV/mm以上にすることはできない。また、電極粉体に大電流が流れて発火する恐れもある。 【0007】 特許文献2に記載の方法では、制御ブレードに形成した穴を囲むようにして多数のリング状電極を配置し、-電位をかけた穴からは分極粉体が出ないようにし、+電位をかけた穴からのみ飛翔するような構成として、電解質膜への粉体付着部位を特定するようにしており、ほぼ均一な触媒層が形成されると期待できる。しかし、このような複雑な構成を持つ制御ブレードを形成することは可能ではあるとしても、装置のコストが高くなりメンテナンスも煩雑となるために現実的ではない。 【0008】 本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、従来使用されているメッシュ状のスクリーンを用いながら、静電気力により基材側に転写される触媒層の厚みムラや輪郭の崩れをきわめて少なくして、製品精度の高い膜電極接合体を得ることのできる、新規な触媒層の形成方法と装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記課題を解決すべく、本発明者らは静電気力を利用した乾式法による膜電極接合体の製造方法について多くの実験を行うことにより、本質的に静電気力のみによる電極粉体の飛翔では、電極粉体が付着したローラから基材(電解質膜あるいはガス拡散層、以下、本発明では双方を含めて「基材」という)へ移動するときの運動量が十分でなく、そのために、上記のような厚みムラや輪郭の崩れのような不具合が生じることを知った。そこで、基材への移動が十分ではないスクリーン上で帯電した電極粉体に弾性体を用いて基材に向けた押し出し力を付加したところ、転写パターンの厚みはそのすべてにおいて高い均一性を示し、また、輪郭の崩れも生じなかった。 【0010】 本発明は、本発明者らが得た上記の知見に基づくものであり、基本的に、膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する方法であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した電極粉体を弾性体で押し付けることによって、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含むことを特徴とする。このようにして所望形状に乾式塗布された電極粉体を基材に熱圧定着することにより、所望のパターンの触媒層を持つ基材が得られる。 【0011】 本発明の方法によれば、静電気力と押し出し力の双方によって、スクリーンから基材への電極粉体の飛翔が行われるので、低い印加電圧でもって所望の塗布パターンを得ることができる。基材とスクリーン間の電圧は0?10kV程度、距離は1?20mm程度が好ましく、より好ましくは、空気の絶縁破壊電界である3kV/mmを越えないことを条件に、基材とスクリーン間の電圧を1?5kV、距離1?10mmの間で適宜設定する。 【0012】 後の実施例に示すように、本発明の方法を採用することにより、塗布層の厚みムラを実質的になくすことができ、また、基材とスクリーン間の距離を狭くすることにより、輪郭が鮮明となる。そのために、電極粉体の歩留まりも向上する。また、スクリーンには、従来使用されてきた単にメッシュ状のスクリーンをそのまま利用できる利点もある。 【0013】 より具体的な態様では、前記弾性体として弾性材料で作られたフィードローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程を、電極粉体をフィードローラに付着させる行程と、電極粉体を付着したフィードローラをスクリーンに押し付けながら転動させる行程とで行うようにする。この態様では、フィードローラをスクリーン上で転動するだけで所望の塗布を終えることができ、製造工程は簡素化する。また、電極粉体がフィードローラに確実に付着するように、コロナ放電や摩擦などで電極粉体を帯電させることも、好ましい態様である。 【0014】 本発明は、上記の製造方法を好適に実施することのできる基材へ触媒層を形成するための装置をも開示する。本発明による装置は、膜電極接合体を構成する基材へ電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する装置であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける手段、とを少なくとも備え、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させることを特徴とする。 【0015】 上記の装置において、好ましくは、電極粉体を収容したホッパーと、ホッパーの出口側に取り付けたフィードローラとを備えるようにし、フィードローラはスクリーンに圧接した状態で転動できるようになっていて、該フィードローラが、スクリーン上に電極粉体を供給する手段とスクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける手段とを構成するようにされる。ホッパー内に収容した電極粉体を、コロナ放電や摩擦などで帯電させる手段を備えることは好ましく、フィードローラへの電極粉体の付着をより確実にすることができる。 【0016】 本発明において、基材としての電解質膜あるいはガス拡散層は、従来の固体高分子型燃料電池で用いられる膜電極接合体を製造するときに使用される任意のイオン交換膜からなる電解質膜あるいはガス拡散層を用いることができ、また、そこに塗布する電極粉体は、白金担持カーボンのように触媒担持導電体を適宜用いることができる。また、弾性体、特にフィードローラを構成する弾性体としては、ポリエチレン、ポリウレタンまたはそれぞれに対して発泡剤を添加したもの、さらにゴムに発泡剤を添加したものなどを用いることができる。 【発明の効果】 【0017】 本発明によれば、膜電極接合体を構成する基材に対して触媒層を形成するに当たって、低い印加電圧でもって、厚みムラのないかつ輪郭のはっきりした所要パターンの触媒層を塗布形成することができる。そのために、製品精度が向上するばかりでなく、製造の安全性も向上し、電極粉体の歩留まりも向上する。 【発明を実施するための最良の形態】 【0018】 以下、本発明を、図面を参照しながら、基材としての電解質膜に触媒層を形成する場合の実施の形態について説明するが、ガス拡散層に触媒層を形成する場合は、基材として電解質膜に代えてガス拡散層を用いることによりも実質的に同様にして行うことができる。図1は、本発明の製造方法を好適に実施することのできる装置の一実施の形成を示す概略図であり、図2は装置の他の実施の形態を示す概略図である。 【0019】 装置Aは、ロール状に巻かれた基材(電解質膜)2を保持する巻き出しロール1と、電極粉体10が付着されかつ定着された後の基材2を巻き取る巻き取りロール3を備える。図示しない駆動手段により巻き出しロール1と巻き取りロール3は同期した回転をし、基材2は一定の速度で巻き取りロール3に巻き取られる。 【0020】 巻き出しロール1と巻き取りロール3との間には、移動する基材2を背面から支持するバックアップ材4が位置しており、前記バックアップ材4から所定距離(例えば、10mm程度)離れた位置には、バックアップ材4と平行する姿勢で、メッシュ状のスクリーン5が適宜の保持手段により保持されている。そして、図示しない駆動手段によりスクリーン5はその下を移動する基材2と同期した速度で所定距離だけ基材2と同方向に移動し、その後、原位置に復帰するようになっている。スクリーン5には、基材2の上に電極粉体10を塗布(付着)しようとするパターン(すなわち、膜電極接合体での触媒層のパターン)と同じパターンの模様が例えば200メッシュのような編み目体で形成されている。スクリーン5にはSUSなどの導電性材料またはナイロンなど樹脂の絶縁材料のいずれかが用いられる。基材2の移動路であって、スクリーン5よりも下流側には、加熱ロールのような加熱圧着手段8が備えてあり、基材2に塗布された電極粉体10の定着を行う。 【0021】 スクリーン5の上にはホッパー6が位置しており、該ホッパー6には電極粉体10が充填される。また、ホッパー6の出口部分には弾性体で作られたフィードローラ7が、その回転軸心を基材2の移動方向に直交する姿勢で配置されている。この例において、フィードローラ7の素材はポリエチレンであるが、ポリウレタンやゴムに発泡剤を添加したもので作ることもできる。また、フィードローラ7は図示しない駆動手段により回動するようになっている。 【0022】 スクリーン5とフィードローラ7とは、スクリーン5の表面にフィードローラ7が圧接する状態、すなわち、フィードローラ7がスクリーン5の表面に押し付けられることにより、スクリーン5の接する面は潰されるように変形して、メッシュ内に部分的に入り込んだ状態と取り得るようにされている。 【0023】 さらに、装置Aは電圧印加手段20を備え、スクリーン5に0?10kV程度の電圧をかけて、基材2とスクリーン5間に電界が印加されるようになっている。また、図示しないが、ホッパー6に収容した電極粉体10に帯電させる手段として、コロナ放電手段や攪拌による摩擦帯電手段などが、必要に応じて配置される。 【0024】 基材2である電解質膜に触媒層を形成するに際し、スクリーン5に電圧印加手段20により所要に電圧をかけておく。ホッパー6に電極粉体10を充填し、必要に応じて帯電させる。巻き込みロール3を駆動して基材2を一定速度、例えば5m/分で矢印方向に移送する。それに同期して所望にパターンニングされたスクリーン5も同じ方向に移動させ、かつ、フィードローラ7にも回転を与える。 【0025】 ホッパー6内の電極粉体10はフィードローラ7の表面に付着した状態でホッパー6から繰り出され、フィードローラ7がスクリーン5の表面に圧着すると同時に、電極粉体10はスクリーン5上に供給されかつ帯電した状態となる。さらにフィードローラ7が回転することにより、フィードローラ7の表面の一部はメッシュ状とされたスクリーン5内に入り込むようになるので、電極粉体10は弾性体であるフィードローラ7の表面で押し付けられるようになり、印可された電圧による静電気力に加えて、基材2側への押し出し力を受ける。 【0026】 フィードローラ7の回転中にホッパー6からスクリーン5上に電極粉体10が落下することもあるが、その場合にも、落下した電極粉体10はスクリーン5の移動によりフィードローラ7の下に来たときにフィードローラ7により押し付けられ、やはり、印可された電圧による静電気力に加えて、基材2側への押し出し力を受ける。 【0027】 この静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体10は基材2側に飛翔し付着する。付着した電極粉体10は、加熱圧着手段8を通過するときに基材2に定着されて安定し、触媒層10aを形成する。その状態で基材2は巻き取りローラ3に巻き取られる。膜電極接合体の一枚分に対して電極粉体10の塗布(付着)が終了した時点で、スクリーン5は原位置に復帰し、次の塗布に備える。なお、図示の例では、一枚のスクリーン5を往復動させるようにしているが、複数枚のスクリーンを用いてスクリーンをローテーションさせるようにしてもよい。この態様は連続生産に好適である。 【0028】 上記のように、本発明によれば、電極粉体10の基材(電解質膜)2への飛翔と付着は、静電気力と押し出し力の双方で行われるので、十分に安全な低い電圧であっても、安定した飛翔と定着を実現することかできる。そのために、形成される膜厚は一定なものとなり、輪郭もはっきりしたものとなって、製品精度は向上する。さらに、強い力で基材に向けて飛翔するので、無駄に飛散する電極粉体量を少なくすることができ、それらのことから、電極粉体10の歩留まりも向上する。 【0029】 上記の装置Aでは基材2の一面にのみ電極粉体10を塗布して触媒層を形成するようにしたが、図2に示す装置は、基材2である電解質膜の両面に連続して電極粉体10を塗布することを可能としている。ここでは、図1に示す装置Aでの巻き取りロール3に代えて送りロール3aを使用し、そこを通過する一面に電極粉体10を触媒層10aとして定着した基材2を、さらに送りロール3bを通過させることにより反転させ、該反転した基材2の触媒層10aが形成されていない反対側の面に対して、図1に示した装置Aと同じ装置Aaを用いて、電極粉体10を塗布し定着して触媒層10bとするようにしている。両面に所定のパターンで電極粉体10が触媒層10a,10bとして定着した基材2は、装置Aaの巻き取りロール3により巻き取られる。 【実施例】 【0030】 以下、実施例と比較例により本発明を説明する。 [実施例] 図1に示した装置を用いて塗布を行った。電極粉体は、50wt%Pt/C:電解質樹脂=2:1としてものを用いた。塗布の目標値は、0.5mgPt/cm^(2)とした。装置条件としては、スクリーン-基材間の印加電圧:3kV、スクリーン-基材間の距離:10mm、スクリーンメッシュ:200メッシュ、基材送り速度:5m/分、とした。スクリーンは素材がステンレスのものを用い、スクリーンに対してフィードローラは全圧で100g重?1kg重で圧接させた。 【0031】 [比較例] フィードローラとして、弾性体ではなく硬質体からなるフィードローラを用いて、実施例1と同様にして塗布テストを行った。 【0032】 [比較] 実施例と比較例で得た電解質膜に形成された触媒層について、目標塗布量に対する実際の塗布量の変化量と塗布ムラを測定した。その結果を表1に示す。また、硬質体のフィードローラの場合、電極粉体を押し出す力がなくなるために、目標塗布量まで塗布量を確保するためにフィードローラの回転数を早くして、粉体供給量を多くする必要があるために、材料歩留まりが実施例1と比較して低下した。 【0033】 【表1】 【0034】 表1に示すように、実施例品は均一な塗布膜が得られており、本発明の優位性が示される。 【図面の簡単な説明】 【0035】 【図1】本発明による膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法を好適に実施することのできる装置の一実施の形成を示す概略図。 【図2】本発明による装置の他の実施の形態を示す概略図。 【符号の説明】 【0036】 A,Aa…基材へ触媒層を形成するための装置、1…巻き出しロール、2…基材(電解質膜またはガス拡散層)、3…巻き取りロール、4…バックアップ材、5…メッシュ状のスクリーン、6…ホッパー、7…フィードローラ、8…加熱圧着手段、10…電極粉体、10a,10b…形成された触媒層 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 膜電極接合体を構成する基材に電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する方法であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを配置し、基材とスクリーン間に電圧を印加しておき、スクリーン上に供給されることにより帯電した電極粉体を弾性体で押し付けることによって、静電気力と弾性体の押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる行程を少なくとも含むことを特徴とする膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項2】 弾性体として弾性材料で作られたフィードローラを用い、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させる工程は、電極粉体をフィードローラに付着させる行程と、電極粉体を付着したフィードローラをスクリーンに押し付けながら転動させる行程を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項3】 電極粉体をフィードローラに付着させる行程は電極粉体を帯電する行程を含むことを特徴とする請求項2に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項4】 基材が電解質膜またはガス拡散層である請求項1?3のいずれかに記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法。 【請求項5】 膜電極接合体を構成する基材へ電極粉体を静電付着させて触媒層を形成する装置であって、基材に対して非接触状態にスクリーンを保持する手段、基材とスクリーン間に電圧を印加する手段と、スクリーン上に電極粉体を供給する手段と、スクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段、とを少なくとも備え、静電気力と弾性体からなる押し付け手段による押し出し力の双方により、電極粉体を基材側に飛翔させて付着させることを特徴とする膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項6】 電極粉体を収容したホッパーと、ホッパーの出口側に取り付けたフィードローラとを備え、フィードローラはスクリーンに圧接した状態で転動できるようになっており、該フィードローラが、スクリーン上に電極粉体を供給する手段とスクリーン上に供給された電極粉体を基材に向けて押し付ける弾性体からなる押し付け手段とを構成することを特徴とする請求項5に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項7】 ホッパー内に収容した電極粉体を帯電させる手段をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 【請求項8】 基材が電解質膜またはガス拡散層である請求項5?7のいずれかに記載の膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する装置。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-05-01 |
出願番号 | 特願2004-42957(P2004-42957) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZA
(B05D)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
鳥居 稔 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 ▲高▼辻 将人 |
登録日 | 2008-04-25 |
登録番号 | 特許第4114617号(P4114617) |
発明の名称 | 膜電極接合体を構成する基材へ触媒層を形成する方法と装置 |
代理人 | 廣澤 哲也 |
代理人 | 石川 滝治 |
代理人 | 小杉 良二 |
代理人 | 関谷 三男 |
代理人 | 早川 康 |
代理人 | 関谷 三男 |
代理人 | 早川 康 |
代理人 | 石川 滝治 |
代理人 | 渡邉 勇 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 平木 祐輔 |