• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D07B
審判 全部無効 公序、良俗、衛生  D07B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  D07B
審判 全部無効 その他  D07B
審判 全部無効 特29条特許要件(新規)  D07B
審判 全部無効 2項進歩性  D07B
管理番号 1259970
審判番号 無効2010-800163  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-14 
確定日 2012-06-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3156812号発明「生分解性土木用繊維集合体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成5年3月11日に、名称を「生分解性土木用繊維集合体」とする発明について特許出願(特願平5-50883号。以下、「本件出願」という。)がされ、平成13年2月9日に設定登録を受けた。その後、特許異議申立人中村正實、ユニチカ株式会社、東レ株式会社及び延原立枝より特許異議の申立てがされ、取消事由通知がなされ、その指定期間内である平成14年8月9日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、その後、平成15年4月22日に「訂正を認める。特許第3156812号の請求項1に係る特許を維持する。」との異議の決定がされたものである(請求項の数1。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」という。)。
そして、本件特許を無効とすることについて、ユニチカ株式会社(以下、「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成22年 9月13日付け 審判請求書・甲第1?第11号証提出
( 同 年 9月14日提出)
同 年12月13日付け 審判事件答弁書・乙第1及び第2号証提出
平成23年 1月 5日付け 無効理由通知
同 年 2月14日付け 意見書(請求人)・甲第12号証提出
同 年 2月14日付け 意見書(被請求人)・訂正請求書・
参考資料1提出
同 年 4月 6日付け 通知書
同 年 4月26日付け 上申書(請求人)・
甲第13?第18号証提出
同 年 4月26日付け 上申書(被請求人)提出
同 年 5月10日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)・
甲第19号証提出
同 年 5月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)提出
同 年 5月24日 口頭審理
同 年 5月26日付け 手続補正書提出
同 年 6月 3日 審理終結通知
証拠方法等の一覧は、後記第4及び第6の項で示すが、参考資料1は、書証であるので乙第3号証と表示替えする。以下、書証の証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などという。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成23年2月14日付けでなされた訂正請求(平成23年5月26日付け手続補正により補正された。)は、その請求書に添付した明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。

(1)発明の名称についての訂正事項
訂正事項
発明の名称の「生分解性土木用繊維集合体」を「生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体」に訂正する。

(2)特許請求の範囲についての訂正事項
訂正事項(i)
請求項1の「脂肪族ポリエステル」を「ポリ乳酸」に訂正する。
訂正事項(ii)
請求項1の「土木用繊維集合体」を「土木用の溶融紡糸による繊維集合体」に訂正する。

(3)発明の詳細な説明についての訂正事項
訂正事項(iii)
段落【0001】、【0003】、【0004】、【0005】、【0008】の「土木用繊維集合体」を「土木用の溶融紡糸による繊維集合体」に訂正する。
訂正事項(iv)
段落【0011】の「繊維集合体」を「溶融紡糸による繊維集合体」に訂正する。
訂正事項(v)
段落【0015】の「による」を「の溶融紡糸による」に訂正する。
訂正事項(vi)
段落【0006】の「脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸をあげることができる。またこれらは」を「ポリ乳酸は」に訂正する。
訂正事項(vii)
段落【0006】の「上記脂肪族ポリエステルを製造するには、公知の方法たとえば乳酸、グリコール酸等のオキシ酸の脱水重縮合、あるいはそれらの環状エステルの開環重合により得ることができる。その際、上記オキシ酸は単独で用いてもあるいは混合物で用いても差し支えなく、不斉炭素を有するものはD体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない。」を「上記ポリ乳酸を製造するには、公知の方法たとえば乳酸(これらは、D体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない)の脱水重縮合、あるいはそれらの環状エステルの開環重合により得ることができる。」に訂正する。
訂正事項(viii)
段落【0007】、【0010】、【0012】の「脂肪族ポリエステル」を「ポリ乳酸」に訂正する。
訂正事項(ix)
段落【0010】の「あるいは溶液紡糸」を削除する。

2 訂正の適否についての検討

(1)訂正事項(i)及び(ii)について
訂正事項(i)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「脂肪族ポリエステル」を「ポリ乳酸」とする訂正であり、脂肪族ポリエステルについての発明の構成要件を限定するものである。
訂正事項(ii)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「土木用繊維集合体」を「土木用の溶融紡糸による繊維集合体」とする訂正であり、本件特許明細書には、
「【0009】本発明の繊維集合体とは規則的あるいは不規則的に繊維が集合した構成体を言い、例えば、繊維束や織物、編物、組物、不織布、多軸積層体等の布帛等として得ることができるが特にこれらに限定されるものではない。これら上述の如く繊維集合体はその集合体形態により製造法は異なり、それぞれ従来公知の方法によって製造することができる。
【0010】たとえば、本発明で言うところの脂肪族ポリエステルを溶融紡糸あるいは溶液紡糸することにより、又はその後延伸することによりモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを製造する。この際、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、防汚剤等を適当にブレンドしても問題ない。得られたモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを公知の加工法および打ち方あるいは製網法に基づいてロープあるいは網を製造できる。また、乾式、気流式、湿式法又はスパンボンド法等の公知ウェブ形成法によりウェブを形成し、例えば、接着剤、添加剤による処理、あるいはニードルパンチ、流体パンチ等の機械的接結法といった公知の方法により、あるいはその後乾燥、熱処理することにより不織布をえることができる。更には得られたそれらの土木用繊維集合体の目的に応じてコーティング等の加工、あるいは他ポリマーとの併用を行っても差し支えない。」
と記載されていたことから、この、訂正事項(ii)に係る訂正は、土木用繊維集合体についての発明の構成要件を限定するものである。
したがって、これらの訂正事項(i)及び(ii)に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、これらの訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められ、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。
さらに、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。
よって、これらの訂正は許容されるものである。

(2)発明の名称についての訂正事項及び訂正事項(iii)?(ix)について
発明の名称についての訂正事項は、特許請求の範囲の請求項1についての訂正事項(i)及び(ii)と整合するように、発明の名称を訂正しようとするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
訂正事項(iii)?(ix)に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1についての訂正事項(i)及び(ii)と整合するように、発明の詳細な説明を訂正しようとするものであるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって、これらの訂正は許容されるものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
よって、平成23年2月14日付けで請求された訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2の項で示したように、平成23年2月14日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書(本件訂正明細書を、以下、「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである(以下、「本件発明」という。)。
「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体。」

第4 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法

1 審判請求書における無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「第3156812号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、概略以下の無効理由1?5を主張した。
【無効理由1】
本件発明は、本件出願日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件発明についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
【無効理由2】
本件発明は、同日に出願された甲6の特許発明と同一であり、協議を行うことのできないものであるから、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。よって、本件発明についての特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものである。
【無効理由3】
本件発明は、産業上利用できる発明ではないので、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。また、本件発明は、公の秩序を害するおそれのある発明であり、特許法第32条の規定により、特許を受けることができない。よって、本件発明についての特許は、特許法第29条及び第32条の規定に違反してされたものである。
【無効理由4】
発明の詳細な説明には、本件発明を当業者が容易に実施し得る程度にその構成が記載されておらず、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項(審決注:平成6年法律第116号〔以下「平成6年改正法」という。〕による改正前の特許法第36条第4項のことである。以下「特許法旧第36条第4項」という。)に規定された要件を満たしていない。また、特許請求の範囲には、本件発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項第2号(審決注:同上。以下「特許法旧第36条第5項第2号」という。)の規定に違反している。よって、本件発明についての特許は、特許法第36条第4項及び第5項(審決注:同上。以下「特許法旧第36条第4項」、「特許法旧第36条第5項」という。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 請求人が提出した証拠方法
以下の証拠方法が提出されている。
[審判請求書に添付]
甲1:実願平1-120692号のマイクロフィルム(実開平3-62123号)
甲2:繊維学会編「繊維便覧-加工編-」,丸善,昭和44年5月30日,p.1044-1047,1180-1181
甲3:繊維学会編「第2版繊維便覧」,丸善,平成6年3月25日,p.845
甲4:特開平3-262430号公報
甲5:特開昭63-264913号公報
甲6:特許第3711409号公報(特願平5-50881号の特許公報)
甲7:特許第3711409号に係る平成22年8月4日付けの判定請求書
甲8:日本繊維機械学会編「産業用繊維資材ハンドブック」初版,日本繊維機械学会,昭和54年6月25日,p.8-13,559-561
甲9:地方公営企業法施行規則別表第二号
甲10:日本規格協会「日本工業規格 化学繊維フィラメント糸試験方法 JIS L 1013^(-1992)」第1刷,日本規格協会,平成4年5月31日,p.1-10
甲11:日本規格協会「JISハンドブック JIS総目録 2010」,2010年,p.658-659
[意見書に添付]
甲12:繊維学会編「繊維便覧-原料編-」第2刷,丸善,昭和45年10月30日,p.834-837
[上申書に添付]
甲13:特開平6-264343号公報(本件出願と同日に出願された特願平5-50881号の公開公報)
甲14:特開平6-264377号公報(本件出願と同日に出願された特願平5-50882号の公開公報)
甲15:特開平6-264344号公報(本件出願と同日に出願された特願平5-50884号の公開公報)
甲16:特開2010-196396号公報
甲17:平成15年(行ヶ)第206号判決
甲18:繊維学会編「繊維便覧-原料編-」第2刷,丸善,昭和45年10月30日,p.578-583
[口頭審理陳述要領書に添付]
甲19:平成22年12月28日言渡の平成22年(行ヶ)第10229号判決

第5 当審が通知した無効理由の概要
平成23年1月5日付けで通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明は、その出願前に頒布された下記刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである。

刊行物1:特開昭63-264913号公報(請求人が提出した甲5)
刊行物2:特開平3-262430号公報(請求人が提出した甲4)
刊行物3:繊維学会編「繊維便覧-加工編-」,丸善,昭和44年5月30日,p.490-491,1176-1183(請求人が提出した甲2と同じ文献。ただし引用箇所は異なる。)
刊行物4:日本繊維機械学会編「産業用繊維資材ハンドブック」初版,日本繊維機械学会,昭和54年6月25日,p.559-573(請求人が提出した甲8と同じ文献。ただし引用箇所は異なる。)
刊行物5:特開平5-59612号公報
刊行物6:特開平4-57953号公報

第6 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法

1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は、成り立たない。本件審判の請求費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている。また、当審が通知した無効理由にも理由がない旨の主張をしている。

2 被請求人が提出した証拠方法
以下の証拠方法が提出されている。
[審判事件答弁書に添付]
乙1:プラスチック標準試験方法研究会編「プラスチック試験ハンドブック」初版,日刊工業新聞社,昭和44年7月14日,p.40-55
乙2:日本繊維機械学会編「繊維計測便覧」初版,日本繊維機械学会,昭和50年3月10日,p.111-113
[意見書に添付]
乙3:辻秀人「ポリ乳酸-植物由来プラスチックの基礎と応用-」,初版,産業図書,2008年4月11日,p.73-114

第7 当審の判断
当審は、上記無効理由1?4はいずれも理由がない、と判断する。また、特許請求の範囲が訂正された結果、当審が通知した無効理由も理由がなくなったと判断する。
その理由は、以下のとおりであるが、事案に鑑み、無効理由4、同3、同1、同2、当審が通知した無効理由の順に示すことにする。

1 無効理由4について
無効理由4の概要は、発明の詳細な説明には、本件発明を当業者が容易に実施し得る程度にその構成が記載されておらず、発明の詳細な説明の記載は、特許法旧第36条第4項の規定に違反しているし、また、特許請求の範囲には、本件発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されておらず、特許請求の範囲の記載は、特許法旧第36条第5項第2号の規定に違反しているものであって、本件特許は、特許法旧第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
(i)本件発明において、モノフィラメント又はマルチフィラメントの切断強度が0.1GPa以上であり切断伸度5%以上であると規定されているが、本件明細書には切断強度及び切断伸度の測定方法が記載されておらず、甲10、甲8及び甲11によれば、つかみ間隔と引張速度の異なる試験条件(測定条件)が複数あり、それに応じて切断強度と切断伸度の値が異なるから、当業者が容易に本件発明を実施できない。(請求書、13?15頁第7の1)
(ii)本件発明において、モノフィラメント又はマルチフィラメントのヤング率が0.5GPa以上であると規定されているが、本件明細書にはヤング率の測定方法が記載されておらず、甲10、甲2によれば、ヤング率には少なくとも見掛けヤングと静的ヤング率と動的ヤング率の三つの種類があり、どのヤング率でも測定条件に応じてその値が異なるから、当業者が容易に本件発明を実施できない。(同、15?16頁第7の2)
(iii)本件明細書の段落【0008】には、切断強度等の値の技術的意義は、土木用繊維集合体として実用的な強度特性を持つことにあると記載されているが、養生シートのように高い切断強度が不要な用途もある。また、被請求人の出願に係る甲6の農業用繊維集合体の特許公報の段落【0008】では、本件発明と全く同じ切断強度、全く同じ切断伸度以上、全く同じヤング率以上でないと実用的でないとされている。本件発明の切断強度等の値は、技術的意義のあるものではなく、従来周知のポリエステルの切断強度等の値を包含するように記載したものに過ぎず、本件発明の構成に欠くことのできない事項ではない。(同、16?17頁第7の3)
(iv)被請求人は、本件明細書の実施例に延伸糸の強伸度及びヤング率の測定方法が記載されているので、モノフィラメント又はマルチフィラメントの強伸度及びヤング率の測定方法は特定されていると主張するが、実施例記載の測定方法が、請求項で特定されたモノフィラメント又はマルチフィラメントの強伸度及びヤング率の測定方法であると、本件明細書には明記されていない。また、この測定方法がそのまま長繊維の測定方法に適用できるとも認められない。したがって、請求項に特定されているモノフィラメント又はマルチフィラメントの強伸度及びヤング率の測定方法は不明である。(上申書、8?9頁第1の4(1))
(v)被請求人は、特許請求の範囲の記載は、特許出願人が発明にとって必要と考えたことを記載するものであり、強伸度及びヤング率の値は、発明の構成に欠くべからざる事項に該当すると主張するが、特許法旧第36条第5項第2号の「発明の構成に欠くべからざる事項」とは、明細書の記載から客観的に把握される発明にとって必要な構成要件という意味であって、主観的なものではないから(甲17判決)、被請求人の解釈は誤りである。本件明細書の記載からは、強伸度及びヤング率の値が、本件発明の課題と解決手段との関係において、何らの技術期意義を有するものではないから、これらの記載は、本件発明の構成に欠くことのできない事項ではない。(同、9?10頁第1の4(2))

(2)検討

ア (i)、(ii)及び(iv)の主張について

(ア)本件明細書の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、切断強度、切断伸度及びヤング率に関して、以下の記載があり、その他には記載がない。
「【0008】本発明の繊維集合体は、切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体である。繊維集合体を構成するフィラメントの特性がこの範囲を外れると土木用繊維集合体として実用的な機械特性を有することが困難となり好ましくない。」
「【0014】実施例1
粘度平均分子量15万のポリ乳酸を孔径0.4φ、ホール数48を有するノズルから185℃で溶融紡糸して未延伸糸を得た。次いで常法により延伸熱処理を行い、150デニール/18フィラメントの延伸糸を得た。テンシロン引張り試験機を使用して、試料長20cm、引張り速度20cm/minで得られた延伸糸の強伸度を測定した結果、得られた延伸糸の切断強度は0.56GPa、切断伸度は25%、ヤング率は5.9GPaであった。
得られた延伸糸を法面補強用の素材として用いた。該繊維を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ半年後で初期重量の48%、1年後には15%となり、1年半後には分解により形状を確認することができなかった。」

(イ)切断強度、切断伸度およびヤング率についての技術文献の記載
請求人が提出した甲10、甲8、甲11及び甲2並びに被請求人が提出した乙1及び乙2には、以下の記載がある。

a 甲10(「日本工業規格 化学繊維フィラメント糸試験方法 JIS L 1013^(-1992)」,平成4年5月31日,p.1-10)には、以下の記載がある。
「7.5 引張強さ及び伸び率
7.5.1 標準時試験 試料を緩く張った状態で,引張試験機のつかみに取り付け,表4のいずれかの条件で試験を行う。初荷重をかけたときの伸びを緩み(mm)として読み,更に試料を引っ張り,試料が切断したときの荷重(N){gf}及び伸び(mm)を測定し,次の式によって引張強さ(N/tex){gf/D}及び伸び率(%)を算出する。所定の試験回数(^(6))試験し,引張強さは小数点以下2けたまで,伸び率は小数点以下1けたまで,それぞれ平均値を求める。
表4 試験条件
試験機の種類 つかみ間隔 引張速度
cm
定速緊張形 50 50±3cm/min
25(^(7)) 30±2cm/min
30 30±2cm/min
定速荷重形 25(^(7)) 容量98N{10kgf}の場合・・・
容量196N{20kgf}の場合・・・
定速伸長形 20?50 1分間当たりつかみ間隔の約100%又は
約50%の伸長速度
25(^(7)) 30±2cm/min

引張強さ(N/tex){gf/D}=SD/d
ここに,SD:切断時の強さ(N){gf}
d :試料の正量繊度(tex){D}
伸び率(%)={(E_(2)-E_(1))/(L+E_(1))}×100
ここに,E_(1) :緩み(mm)
E_(2) :切断時の伸び(mm)又は最高荷重持の伸び(mm)
(審決注:上記式において、分数を?(横線)による表示形式から/(斜線)による表示形式に変えて摘示した。)
注(^(6))レーヨン及びキュプラは30回,その他は10回とする。
(^(7))タイヤコード原糸など太繊度のフィラメント糸に適用する。
備考1.上記いずれかの条件で試験を行い,用いた試験機の種類,容量,つかみ間隔及び引張速度を付記する。
2.試料に初荷重をかけた状態で,つかみに取付け試験を行ってもよい。この場合の緩みは0mmとなる。
3.必要な場合は,切断までの時間が20±3sになるように速度を調節して試験を行う。
4.切断強さが最高強さでない場合(すなわち,切断強さが最高強さより小さい場合)は,最高強さ及びそのときの伸びを測定する。
5.試験のとき,糸がつかみ部で切断した場合は,その試験は除く。
6.タイヤコード原糸など太繊度で無よりのマルチフィラメントの場合は,10cmにつき8回のよりをかけて測定する。
7.5.2 湿潤時試験 試料を・・・十分に湿潤させた後,7.5.1と同様な方法で・・・求める。」(6頁12行?7頁22行)
「7.10 初期引張抵抗度 試料を7.5.1と同じ方法で試験を行って,図7のように荷重-伸長曲線を描き,この図から原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点A(切線角の最大点)を求め,次の式によって初期引張抵抗度(N/tex){gf/D}を算出する。試験回数は10回とし,その平均値を整数位まで求める。
初期引張抵抗度(N/tex){gf/D}=P/{(l'/l)×d}
ここに,P :切線角の最大点Aにおける荷重(N){gf}
d :正量繊度(tex){D}
l :試験長(mm)
l' :THの長さ(mm)
(Hは垂線の足,Tは切線の横軸との交点)
図7 荷重-伸長曲線(審決注:省略)
備考1.測定誤差を少なくするために,初期の荷重-伸長曲線のA点における切線が,伸び軸に対して45°位になるようにチャートスピードを調節するのがよい。
2.初期引張抵抗度と見掛ヤング率との関係は,次の式のとおりである。
見掛ヤング率(N/mm2){kgf/mm2}
=1000×ρ×初期引張抵抗度(N/tex)
{9×ρ×初期引張抵抗度(gf/D)}
3.試験機は原則として定速伸長形引張試験機を用い,引張条件を付記する。ただし,その他の試験機を用いた場合は,試験機の種類及び引張条件を付記する。」(9頁下から3行?10頁下から5行)

b 甲8(「産業用繊維資材ハンドブック」,昭和54年6月25日,p.8-13,559-561)には、「1・1・2 1次元繊維集合体(繊維,糸)の強さ」の項に、以下の記載がある。
「b.測定条件
単繊維,フィラメント糸および紡績糸の引張強さの測定条件についてはそれぞれJIS L1069,L1070およびL1071で規定されている。
繊維類の引張強さは測定するときの試料の長さすなわちつまみ間隔,引張速度,荷重方法等に依存する。F. T. Peirce^(19)) は綿糸について試料の長さを変えて引張強さを測定し,一般に試料の長いものほど弱くなる傾向のあることを示し,その理由としてweakest point分布の理論を提唱した。日常的な測定ではつかみ間隔を繊維で20mm,糸で20?50cmにとっている。
引張速度は高分子粘弾性体の測定では非常に重要なファクタである。繊維の場合も超低速から,衝撃的な高速引張までの範囲で,かなり違った挙動をすることが知られている。引張速度としては100%/min前後のものが多く採用される。
引張方法あるいは荷重方法には定速緊張形(constant rate of traverse),定速荷重形(constant rate of load)および定速伸長形(constant rate of specimen extension)
の三方式があり,JISに規定されている。・・・」(9頁下から5行?10頁9行)
「表1・3 各種繊維の引張強さ」と題する表には、各種繊維ごとに、「比重」、「引張強さ(gr/tex)」、「乾湿強力比(%)」、「引掛強さ(g/tex)」、「結節強さ(g/tex)」、「伸び率(%)」の「標準時」と「湿潤時」、「ヤング率(g/tex)」が記載されている。(11?12頁)

c 甲11(「JISハンドブック JIS総目録 2010」,2010年,p.658-659)には、以下の記載がある。
「L 1069:2008
L 1069:02 天然繊維の引張試験方法(ICS 59.060.10)・・・
制 39.3.1 改 14.7.20 確・・・
L 1069:08 追補1◇(ICS 59.060.10)・・・
改 20.3.20・・・
L 1070:78 フィラメント糸の引張試験方法(→L 1013)
(廃 56.12.1)
L 1071:78 紡績糸の引張試験方法(→L 1095)〈廃 54.3.1〉」(658頁14?21行)

d 甲2(「繊維便覧-加工編-」,昭和44年5月30日,p.1044-1047,1180-1181)には、「4・3 弾性」の項に、以下の記載がある。
「4・3・1 ヤング率
繊維を引張った場合の応力-ひずみ曲線において,降伏点(yield point)に達するまでは,応力とひずみとの間にはほぼ直線的関係が成り立つ.この領域は繊維の種類によって異なるが,大体ひずみとして5%以下の場合が多い.弾性領域においてはつぎのフックの法則が成り立つ.
E=s/r
(審決注:分数を?(横線)による表示形式から/(斜線)による表示形式に変えて摘示した。)
ここにsは応力,rはひずみ,Eは引張に対する弾性率で,ヤング率(たて弾性係数)という.ヤング率は材料を引張るときに材料が示す抵抗を表わすもので,ヤング率は各種繊維について固定のものではなく,同種のものでも,配列度および結晶化度の向上,重合度の増加などによりヤング率は大きくなる.ヤング率の単位は通常kg/cm^(2),dyn/cm^(2) などを用いることが多いが,g/dで表わすこともある.
[kg/mm^(2)]=[g/d]×9×比重」(1045頁6?17行)
「4・3・2 ヤング率の測定方法
a.静的ヤング率 静的ヤング率を求める最も一般的な方法は,応力-ひずみ曲線から求めるものである.応力-ひずみ曲線の初期の直線部分,あるいは原点における切線がひずみ軸となす角をαとすると,ヤング率はtanαにより求めることができる.
応力-ひずみ曲線以外にヤング率を静的に求める一方法によこ加重によるものがある.両端を固定して水平に張った長さ2lなる糸の中点に荷重wをかけたときの中点の降下長をdとし,また異なる荷重w' をかけたときの中点の降下長をd' とすれば,ヤング率Eは次式で与えられる.
E=(w'/d'-w/d)/(d'^(2)-d^(2))・l^(3)/a
(審決注:分数を?(横線)による表示形式から/(斜線)による表示形式に変えて摘示した。)
ここにaは糸の断面積である.
b.動的弾性率 周期的に変化する応力あるいはひずみを作用させて行なう動的測定により求めた弾性率を,動的弾性率といい静的弾性率と区別する.
動的弾性率は試料によこ波またはたて波振動を与え,減衰,共振,波動伝播などの減少により測定できるが,大別すると次のようになる.
付加質量のある自由減衰振動法
付加質量のある強制振動法
付加質量のない強制振動法
波動伝播法
よく知られている振動リード法やバイブロスコープ法は強制振動法の一種で,駆動周波数は可聴周波数の範囲であり,通常20?1000c/sで実験がなされている.しかし,これより高い周波数における測定の場合には,たて波共振法あるいはたて波伝播法が用いられる.なお,動的弾性率については,次節4・4粘弾性の項も参照されたい.」(1045頁18行?1046頁4行)
表43には、各種繊維ごとに、「引張強度[g/D]」の「標準時」と「湿潤時」、「乾湿強力比[%]」、「引掛強度[g/D]」、「結節強度[g/D]」、「伸度[%]」の「標準時」と「湿潤時」、「伸び弾性率[%](3%伸長時)」、「初期引張抵抗度(見掛けヤング率)[g/D]」及び同上で単位が[kg/mm^(2)]のもの、「比重」、その他の物性が記載されている。(1180?1181頁)

e 乙1(「プラスチック試験ハンドブック」,昭和44年7月14日,p.40-55)には、「2・2 引張試験」の項に、以下の記載がある。
「弾性率(modulus of elasticity)Eは、応力-ひずみ曲線における応力とひずみの比σ/εであるが,これも三つの表わし方がある.
第1は初期接線弾性率(initial tangent modulus of elasticity)とよばれるもので,図2・29でE_(I) がそれである.実用的には多くの材料が応力-ひずみ曲線の初めに直線部分を有しているので,その直線のこう配がE_(I) となる.もし直線部分がなければ,原点において応力-ひずみ曲線に引いた接線のこう配がE_(I) となる.E_(I) は縦弾性率あるいはヤング率とよばれる.
第2は,応力-ひずみ曲線上の任意の点と原点を結んだ直線のこう配・・・で,セカント係数(secant modulus of elasticity)とよばれる.・・・
第3は,応力-ひずみ曲線の任意の位置における接線のこう配であって,接線弾性率(tangent modulus of elasticity)とよばれる。・・・」(45頁7?23行)
「(1)試験機
引張試験にはふつう万能試験機(universal testing machine)とよばれるものが用いられる.これは治具を選ぶことにより圧縮,曲げなどの試験も行なえるので,この名がある.ゴムや紙,布の引張試験にもっぱら用いられ,プラスチックにも一部用いられているショッパ(Schopper)形試験機(図2・27)は万能でなく,引張専用である.
万能試験機には,オルゼン(Olsen)形,アムスラー(Amsler)形,インストロン(Instron)形などの区別があるが,これは機能の称呼でなく,オリジナルを出したメーカの名前を形式名としているので,あまり適当ではない.しかし,我が国で慣用されたよび方なので,本書でもそれに従う.・・・
インストロン形とはアメリカのインストロン社のオリジナルであるが,プラスチック用にも好適であり,10年ほど前からしだいに用いられるようになり,現在ではプラスチック用万能試験機の主流を占めている.国産機も,テンシロン(東洋測器),オートグラフ(島津),トム(新興通信機),ストログラフ(東洋精機)がある.・・・」(49頁10行?50頁7行)
「(2)伸びの測定
伸びは試験片にあらかじめ付した標線間の距離の変化として測定される.・・・」(51頁18?20行)

f 乙2(「繊維計測便覧」,昭和50年3月10日,p.111-113)には、「3・4・1 伸張特性」の項に、以下の記載がある。
「何かにつけて測定されるのが,強伸度を中心とした伸張特性である。それだけに特性評価値としてはもっとも重要で,基本的なものである。
引張試験を変形形式により分けると,
1)定速緊張形(たとえばシヨパー型)
2)定速荷重形( 〃 スコット型)
3)定速伸張形( 〃 インストロン型)
の三つに大別されるが,抵抗線ひずみ計を力の検出に用いた定速伸張型のインストロン型引張試験機が精度や耐久性に優れ,取扱いや精度の検定が容易であるなどの利点を持ち,伸張特性の測定に最も良く使用されている。この引張試験機は,糸の試験では操作の完全自動化も完成している。
測定項目としては,応力-歪曲線(荷重-伸張曲線),強伸度,弾性率,降伏点,そして繊維や糸では引掛け強さと結節強さがある。
なおこれらの値は引張速度や温湿度に大きく依存するので,使用目的に応じて測定条件,周囲条件を考慮した総合評価をしなければならないが,ここではまず一般に行なわれている静的な測定についてのみ述べる。その他の時間依存性や温度依存性などについては,(5・1・3(2))粘弾性や温度特性,(5・1・2(2))熱的性質などの項を参照されたい。
測定には標準状態(20°±2℃,65±2%R.H.)で行なう測定と,水中で行なう湿潤時測定とがある。引張速度,初荷重などその他の測定条件や試験方法はJISに規定されている(繊維や糸ではL1069,L1070,L1071,L1073など,織物ではL1068,メリヤスはL1018)。特殊な条件下の測定以外はこのJISに従う方がよい。」(111頁3?22行)
「3・4・1(2) 弾性
応力と伸び歪との比
E=dσ/dε …………(5)
をヤング率(たて弾性係数)といい,弾性を表わす実用的尺度として良く用いられている。これは上記の応力-歪曲線の接線の勾配より得られる。原点付近の直線的立上がりより求めたものを初期引張抵抗度(初期弾性率),任意の伸び歪におけるものを二次弾性率として区別することがある。
なお前述の伸張特性に関するすべての評価値は時間の関数である。厳密には時間効果を考慮しなければならず,レオロジカルな取扱いが必要である。粘弾性挙動の実用的な表現法としては,伸張弾性率と仕事弾性率(Resilience)がある。これらは,引張変形を与えたのち外力を除去すると,瞬間的に回復する変形と時間とともに徐々に回復する変形とがあるが,この両者の比により表現しようとするもので・・・」(113頁19?末行)

(ウ)上記(イ)によれば、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」の、「切断強度」には「引張強さ」(甲10、甲8)や「引張強度」(甲2)とよばれることがあるものが相当し、「切断伸度」には「伸び率」(甲10、甲8)や「伸度」(甲2)とよばれることがあるものが相当し、「ヤング率」には単位がそのままGPaに換算できるN/mm^(2) やkg/mm^(2) で表される以外に密度を考慮してg/dやg/texで表されることもある「見掛(け)ヤング率」(甲10、甲2)、「初期引張抵抗度」(甲10、甲2、乙2)、「たて弾性係数」(甲2、乙2)とよばれることがあるものが、単位の点を除いて、相当すると認められる。ここで、甲10は「日本工業規格 化学繊維フィラメント糸試験方法 JIS L 1013^(-1992)」である。
そうすると、本件発明における上記「切断強度」、「切断伸度」及び「ヤング率」は、JISに「引張強さ」、「伸び率」及び「初期引張抵抗度(見掛ヤング率)」として測定方法が規定されるような、繊維の物性としては基本的なものであることが認められる。
これらの物性が基本的なものであることは、甲8のハンドブックに一覧表として各種繊維の「引張強さ(gr/tex)」、「伸び率(%)」及び「ヤング率(g/tex)」が記載されていることや、甲2の便覧に一覧表として各種繊維の「引張強度[g/D]」、「伸度[%]」、「初期引張抵抗度(見掛けヤング率)[g/D]」及び同上で単位が[kg/mm^(2)]のものが記載されていることからも、明らかである。
一方、上記(ア)によれば、本件明細書には、「切断強度」、「切断伸度」及び「ヤング率」の測定方法に関し、定義は記載されていないが、段落【0014】の実施例に、「テンシロン引張り試験機を使用して、試料長20cm、引張り速度20cm/minで・・・測定」と記載されている。
この測定方法は、テンシロン引張り試験機を用いており、これはインストロン形試験機であり(乙1)、インストロン型(審決注:「インストロン形」と同じであると認める。)を用いる引張試験は、定速伸張型であり(乙2)、そうすると、甲10のJISの表4に記載された試験条件のうち、上から5番目の、試験機が「定速伸長形」(審決注:「定速伸張型」と同じであると認める。)、つかみ間隔が「20?50」cm、引張速度が「1分間当たりつかみ間隔の約100%又は約50%の伸長速度」という条件において、つかみ間隔20cm、引張速度が1分当たりつかみ間隔の100%の伸長速度であるものに、該当している。また、甲8には、「日常的な測定ではつかみ間隔を・・・糸で20?50cmにとっている」こと、「引張速度としては100%/min前後のものが多く採用される」ことが記載されている。
これらの記載からみて、本件明細書の段落【0014】の実施例に記載された測定方法は、標準的で、JISにも従ったものであると認められる。
そして、切断強度に相当する引張強さの単位を、N/texやgf/DからGPaに換算すること、また、単位の点を除いてヤング率に相当する初期引張抵抗度又は見掛ヤング率の単位を、N/texやgf/D又はN/mm^(2) やkgf/mm^(2) からGPaに換算することは、簡単な計算により、当業者が直ちに行えることである。
そうすると、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」は、本件明細書の段落【0014】の記載に従い、あるいはJISのような標準的な試験方法に従い、当業者が容易に測定をすることができるものであると認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に本件発明の構成を記載したものでない、ということはできない。

(エ)請求人は、本件明細書には切断強度、切断伸度及びヤング率の測定方法が記載されていないと主張している。
しかし、本件明細書には、上記(ア)のとおり、測定方法の定義としてではないが、測定方法が記載されているから、請求人の主張は誤りである。

(オ)また、請求人は、つかみ間隔と引張速度の異なる試験条件(測定条件)が複数あり、それに応じて切断強度と切断伸度の値が異なるし、ヤング率には少なくとも見掛けヤングと静的ヤング率と動的ヤング率の三つの種類があり、どのヤング率でも測定条件に応じてその値が異なるから、当業者が容易に本件発明を実施できないと主張している。
しかし、つかみ間隔と引張速度の点は、まずは本件明細書の段落【0014】に記載された「テンシロン引張り試験機を使用して、試料長20cm、引張り速度20cm/minで・・・測定」して、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」に該当するか否かを確認すればよいのである。あるいは、JIS(甲10)の他の条件を採用しても、つかみ間隔は20?50cmの範囲であり、引張速度は1分間当たりつかみ間隔の約100%又は約50%の伸長速度であり、この条件で、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」に該当するか否かを確認すればよいのである。
ヤング率の点については、上記(イ)及び(ウ)によれば、本件発明における「ヤング率」は、請求人が挙げた三つのうちでは、見掛けヤング率と静的ヤング率が該当し、この二つは同義であること、そして、動的弾性率ではあり得ないことが、明らかである。
したがって、請求人の主張は理由がない。

(カ)請求人は、実施例記載の測定方法が、請求項で特定されたモノフィラメント又はマルチフィラメントの強伸度及びヤング率の測定方法であると、本件明細書には明記されていないし、この測定方法がそのまま長繊維の測定方法に適用できるとも認められないから、請求項に特定されているモノフィラメント又はマルチフィラメントの強伸度及びヤング率の測定方法は不明であると主張している。
しかし、本件明細書の段落【0014】の実施例の記載に従い、あるいはJISのような標準的な試験方法に従い、当業者が容易に測定をすることができるものであると認められることは、上記(ウ)に示したとおりである。
また、モノフィラメント又はマルチフィラメントが、糸でない長繊維である場合についても、甲10のJISには、備考6に「タイヤコード原糸など太繊度で無よりのマルチフィラメントの場合は,10cmにつき8回のよりをかけて測定する。」との記載があり、当業者はこれを参考に測定することができる。
したがって、請求人の主張は理由がない。

(キ)以上のとおりであるから、請求人の(i)、(ii)及び(iv)の主張は、採用できない。

イ (iii)及び(v)の主張について
請求人は、土木用繊維集合体であっても養生シートのように高い切断強度が不要な用途もあり、また、被請求人の出願に係る甲6の農業用繊維集合体の特許公報でも同じ値が記載されていることからみて、本件発明の切断強度等の値は、本件発明の課題と解決手段との関係において技術的意義のあるものではないから、本件発明の構成に欠くことのできない事項ではないと主張している。
しかし、本件明細書の段落【0008】には、
「本発明の繊維集合体は、切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体である。繊維集合体を構成するフィラメントの特性がこの範囲を外れると土木用繊維集合体として実用的な機械特性を有することが困難となり好ましくない。」
と記載されている。一方、本件発明の課題は、本件明細書の段落【0003】によると、
「本発明者らの目的は、自然環境下で徐々に分解し、最終的には消失し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配のない生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体を提供することにある。」
であって、本件発明は、土木用の繊維集合体を提供することを前提としている。
そうすると、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」は、「土木用繊維集合体として実用的な機械特性」を規定したものといえるから、本件発明の課題と解決手段との関係において技術的意義がない、とはいえない。
また、そもそも、特許請求の範囲は、出願人において特許を請求したい範囲であり、特許権の及ぶ技術的範囲を定める基準として、出願人の責任において定めることができるものである。本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」は、被請求人が、発明の構成に欠くことのできない事項として認識して、特許請求の範囲に記載したものである。
請求人は、特許法旧第36条第5項第2号の「発明の構成に欠くべからざる事項」とは、明細書の記載から客観的に把握される発明にとって必要な構成要件という意味であって、主観的なものではない、として、甲17の判決を引用するが、甲17の事案は、特許請求の範囲に記載した数値範囲の「5%以下」、「10%以下」、「60%以上」、「5ml/cm^(2)・sec以上」の意義について、明細書には具体的に記載したところがなく、実施例を参酌しても技術的意義が明らかであると認められないものであるから、本件とは、事案が異なる。
したがって、本件発明における「切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である」は、発明の構成に欠くことのできない事項であるとはいえない、ということはできず、請求人の主張は理由がない。
以上のとおりであるから、請求人の(iii)及び(v)の主張は、採用できない。

(3)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明には、本件発明を当業者が容易に実施し得る程度にその構成が記載されているから、発明の詳細な説明の記載は特許法旧第36条第4項の規定に違反しておらず、また、特許請求の範囲の記載は、明確であって、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されているから、明細書の特許請求の範囲の記載は特許法旧第36条第5項第2号に適合し、本件特許は、同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由4によっては、無効とすべきものでない。

2 無効理由3について
無効理由3の概要は、本件発明は、産業上利用できる発明ではないので、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明は、公の秩序を害するおそれのある発明であり、特許法第32条の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
(i)本件発明は、いかなる土木工事にも利用されるものである。甲9の法令によれば、構築物の建設に用いる土木資材は、少なくとも3年の耐用年数がなければならないし、その材料が合成樹脂であれば、10年の耐用年数がなければならないところ、本件発明の土木用繊維集合体は1年半程度で跡形もなく崩壊してしまうものであるから(本件明細書の段落【0014】)、耐用年数が少なくとも3年以上又は10年以上である構築物の土木用資材として本件発明を利用できず、本件発明は産業上利用できる発明とはいえない。(請求書、11?13頁第6)
(ii)本件発明は、甲9の法令に法定された耐用年数を否定するものであるから、公の秩序を害するおそれがある発明である。(同上)
(iii)被請求人は、本件発明は、半永久的又は長期に亙って分解しない用途は含まないという大前提が存在すると主張するが、本件明細書の段落【0011】には、土木用であれば無限定に適用しうると記載されている。挙げられた遮水シートやドレーン材用ロープは、土と水に常に接しているため短期で崩壊してしまい、水漏れが生じたり水抜きができなくなって、構築物が崩落し大事故となる。したがって、本件発明は、産業上利用できる発明ではなく、また公の秩序を害するおそれがある発明である。(上申書、7?8頁第1の3)

(2)検討

(ア)特許法第29条第1項柱書について
本件明細書の段落【0011】には、
「本発明の溶融紡糸による繊維集合体は、土木用に使用されるものを言い、その具体例としては、例えば、法面保護用シート、養生シート、遮水シート、野積シート、境界分離用シート、各種フィルター用シート等の土木用シート類、あるいは潅・排水ホース等の土木工事用ホース類、仮設ネット、防風ネット等の土木用ネット類、仮止め用ロープ、ドレーン材用ロープ等の土木用ロープ類として用いることができるが特にこれらに限定されるものではない。」
と記載されている。
請求人は、耐用年数が少なくとも3年以上又は10年以上である構築物の土木用資材として本件発明を利用できないし、遮水シートやドレーン材用ロープに使用すると大事故になるから、本件発明は産業上利用できる発明とはいえないと主張している。
しかし、本件発明の土木用の繊維集合体は、上記の用途のそれぞれにおいて、使用環境や、必要とされる耐水性や使用期間に応じて、使用することができるものである。一律に3年以上又は10年以上の耐用年数が求められるものでもないし、遮水シートやドレーン材用ロープに使用すると大事故になるとか使用する余地がないとはいえず、安全に使用できる範囲で使用すればよいといえる。
したがって、本件発明は産業上利用できる発明とはいえないという請求人の主張は、誤りである。

(イ)特許法第32条について
請求人は、本件発明は、法令に法定された構築物の耐用年数を否定するものであるし、遮水シートやドレーン材用ロープに使用すると大事故になるから、本件発明は公の秩序を害するおそれがある発明であると主張している。
しかし、上記(ア)で示したとおりであり、一律に耐用年数が求められるものではなく、安全に使用できる範囲で使用すればよいといえる。
したがって、本件発明は公の秩序を害するおそれがある発明であるという請求人の主張は、誤りである。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明は、産業上利用できる発明であり、本件特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたということはできないから、同法第123条第第1項第2号に該当しない。
また、本件発明は、公の秩序を害するおそれのある発明ではなく、特許法第32条の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許は、同法同条の規定に違反してなされたということはできず、同法第123条第第1項第2号に該当しない。
よって、本件特許は、無効理由3によっては、無効とすべきものでない。

3 無効理由1について
無効理由1の概要は、本件発明は、本件出願日前に頒布された甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲1?甲5の記載
甲1?甲5は、いずれも本件出願前に頒布された刊行物である。

ア 甲1(実願平1-120692号のマイクロフィルム(実開平3-62123号)、考案の名称「土木用シート」)には、以下の記載がある。
(1a)「耐摩耗性糸条によって織成された土木用シートであって、該耐摩耗性糸条は、長手方向に走行する複数本の単糸と該単糸を囲繞すると共に該単糸相互間を固着する合成樹脂とからなることを特徴とする土木用シート。」(実用新案登録請求の範囲)
(1b)「本考案は、地盤改良や地盤強化等の土木工事において、土中に埋設或いは敷設等して使用する土木用シートに関するものである。」(1頁12?14行)
(1c)「従来より、土木用シートとして、マルチフィラメントを織成してなる織物が使用されている。特に、土木用シートには高強度が要求されるため、引張強度の高い織物が使用されている。
しかしながら、土木用シートは土中に埋設して使用される場合が多く、工事中或いは工事後において、土中の岩石等の鋭い角と接触し、その部分から土木用シートが破れるということがあった。
この原因は、高強度の土木用シート即ち高強度のマルチフィラメントであっても、摩擦強度の点で劣っているからである。つまり、マルチフィラメント全体としては高強度なのであるが、摩擦に対してはマルチフィラメントを構成している単糸が1本づつ切断してゆき、徐々に強度が低下してゆくのである。」(1頁16行?2頁10行)
(1d)「そこで、本考案は、土木用シートを構成する糸条として特殊な耐摩耗性糸条を用いることにより、土中の岩石等との間に摩擦が生じても、破断しにくい土木用シートを提供しようとするものである。」(2頁11?14行)
(1e)「本考案に係る土木用シートは、耐摩耗性糸条(1)が織成されてなるものである。織組織としては、従来公知のものが採用され、特に第1図に示す如き組織で、三本の耐摩耗性糸条(1)を一組として織成したものが好ましい。
耐摩耗性糸条(1)は、長手方向に走行する複数本の単糸(2)と、この単糸(2)を囲繞すると共に単糸(2)間を固着する合成樹脂(3)とからなるものである。・・・
単糸(2)としては、代表的には、ポリエステル系フィラメント,ポリアミド系フィラメント,ポリオレフィン系フィラメント等の高強度の糸が用いられる。・・・
これらの単糸(2)は合成樹脂(3)によって囲繞されている。そして、更にこの合成樹脂(3)によって単糸(2)相互間が固着されている。合成樹脂(3)としては、従来公知のものが使用されるが、特にポリ塩化ビニル・・・等が好適に用いられる。
このような耐摩耗性糸条(1)は、複数本の単糸(2)よりなるマルチフィラメントに合成樹脂溶液を含浸し、その後乾燥することによって製造することができる。・・・
以上の如き耐摩耗性糸条(1)を所望の織組織で織成して土木用シートを得る。また、得られた織物の目ズレを防止するために、経糸と緯糸の交点において合成樹脂(3)を軟化又は溶融させて、経糸及び緯糸を熱融着して、土木用シートとするのが好ましい。」(3頁3行?5頁11行)
(1f)「【実施例】
3000d/384fのポリエステルマルチフィラメント高強力糸に、糸100重量部に対して、ポリ塩化ビニルを120重量部付与した耐摩耗性糸条を作成し、この耐摩耗性糸条を経糸及び緯糸として、第1図に示す如き織組織で織成した。そして、この織物の目ズレを防止するために、経糸及び緯糸の交点でポリ塩化ビニルを加熱して、経糸及び緯糸の交点を熱融着し、土木用シートを得た。この土木用シートの引張強力は357kg/5cm巾であった。また、伸度は17%であった。
この土木用シートの耐摩耗性を試験した結果、第1表に示すとおりであった。
また、比較のため、ポリ塩化ビニルを付与していない前記のポリエステルマルチフィラメント高強力糸を経糸及び緯糸として、第1図に示す如き織組織で織物を織成した。この織物の引張強力は369kg/5cm巾であった。そして、この織物の耐摩耗性を試験した結果、第1表に示すとおりであった。
なお、耐摩耗試験はシートベルト摩耗試験機を用いて、下記の条件で行った。

試験巾 :5cm
ストローク :30往復/分
ストローク長:330mm
摩擦材 :サンドペーパー(AA-240番)、
14mmφ
荷重 :2300g
第1表
実施例に係る土 比較例に係る織
木用シート 物
摩擦 引張強 強力保 引張強 強力保
回数 力^(1)) 持率^(2)) 力^(1)) 持率^(2))
0 357 100 369 100
5 345 97 186 50
10 318 89 173 47
25 328 92 143 39
50 315 88 110 30
(注)1)引張強力の単位は、kg/5cm巾である。
2)強力保持率(%)は、(摩擦後の引張強力/当初の引張強力)×100で表される。
以上の結果より明らかなとおり、実施例に係る土木用シートは比較例に係る織物に比べて、摩擦後において引張強力が低下しにくいことが判る。なお、実施例に係る土木用シートにおいて摩擦回数25回後の引張強力が、摩擦回数10回後の引張強力よりも大きいのは、引張強力試験における誤差のためと考えられる。」(5頁14行?8頁1行)
(1g)「本考案に係る土木用シートは・・・単糸が合成樹脂によって保護されており、土中において岩石等の鋭い角と接触し、摩擦を生じても、単糸が切断しにくい。また、単糸相互間は合成樹脂によって固着されているので、単糸が別々になることを防止でき、土中において岩石等の鋭い角と接触し、摩擦を生じても、単糸が切断しにくい。従って、耐摩耗性糸条は土中において強力の低下が起こりにくく、ひいては土木用シートの強力の低下も起こりにくいという効果を奏する。」(8頁3?15行)

イ 甲2(「繊維便覧-加工編-」,昭和44年5月30日,p.1044-1047,1180-1181)の記載は、既に上記1(2)ア(イ)dにおいて摘示したが、表43の物性値は摘示しなかったので、ポリエステルについて以下に示す。
(2a)表43には、各種繊維の物性が記載されている。そのうち、ポリエステル(1181頁)について、「引張強度[g/D]」、「伸度[%]」、「初期引張抵抗度(見掛けヤング率)[g/D][kg/mm^(2)]」、「比重」を抜粋すると以下のとおりである。

ポリエステル
フィラメント
普通 強力
引張強度 標準時 4.3?6.0 6.3?9.0
[g/D] 湿潤時 4.3?6.0 6.3?9.0
伸度 標準時 20?32 7?17
[%] 湿潤時 20?32 7?17
初期引張抵抗度 [g/D] 90?160
(見掛けヤング率)[kg/mm^(2)] 1100?2000
比重 1.38 」

ウ 甲3(「第2版繊維便覧」,平成6年3月25日,p.845)には、「付録1 SI単位と他の単位の換算表(太字がSI単位)」の項に、「応力」と題する表があり、抜粋すると、以下の記載がある。
(3a)「
応力
MPaまたはN/mm^(2) kgf/cm^(2) gf/D
9.8065×10^(-2) 1 ・・・
8.82599×10×ρ/d ・・・ 1
注)繊維の密度はρ[g/cm^(3)],デニール数はd[D]として計算,また1Pa=1N/m^(2),1MPa=1N/mm^(2)」(845頁)

エ 甲4(特開平3-262430号公報、発明の名称「漁網」)には、以下の記載がある。
(4a)「1.分解性高分子をその構成素材としたことを特徴とする漁網。
2.分解性高分子がポリグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網。
3.分解性高分子がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網。」(特許請求の範囲第1項?第3項)
(4b)「(作用)
本発明は、前記のように分解性、特に、水分により分解する高分子にて漁網を構成したので、水中に放置しておよそ数ヵ月?1年以上経過後にはモノマー化し、最終的には微生物の餌となって消失してしまうので従来のような放置に伴う環境汚染の問題を生じない。」(2頁右上欄2?8行)
(4c)「尚、本発明を構成するポリグリコール酸は、以下の構造式で示され、
O O
? ?
-(C-CH_(2)-O-C-CH_(2)-O)_(n)-
グリコリドは以下の構造式で示される。
・・・・・・・・・・・・・・・・
また、ポリ乳酸は、L体、D,L体、D体等の異性体、L体とD体の混合ラクチドを原料として化学的に重合、合成されたものがあるが、以下の構造式で示される。
O O
? ?
-(C-*CH-O-C-*CH-O)_(n)-
| |
CH_(3) CH_(3) 」(2頁右上欄17行?左下欄7行)
(4d)「これらの分解性ポリマーは夫々異なった分解性、弾性、強度を示し、その分子量、重合比率、混合比率によっても様々な特性を示す。
従ってその目的、用途によって適宜これらを選択して用いることができ、例えば、2ヵ月単位で分解性の異なる構成とすることができる。」(2頁右下欄4?9行)
(4e)「前記したポリマーの性状について一例を挙げると、ポリグリコール酸、グリコリドは他のポリマーと比較して分解速度が速く、約20℃に維持された水中において数ヵ月でモノマー化し、分解してしまうが、漁網として必要とされる4g/d以上の強度、25?40%の伸度を備え、透明感、乱反射のない性質も有する。」(2頁右下欄10?16行)
(4f)「(実施例1)
固有粘度0.8のポリグリコール酸を原料とし、これをノズル温度250℃で溶融紡糸した後30℃に急冷し、90℃の環境下で6倍に延伸し、次いで0.9倍の弛緩熱処理を行って直径0.221ミリのモノフィラメント糸を得た。
かかる糸条について、JISの測定法に準じてその物性を測定したところ強度5.8g/d、伸度27.9%の性能を有した。
・・・・・・・・・・
以上のようにして得た糸条を用い、漁網を編成し、20℃の水中に継続して浸漬してその強度低下、分解の変化を観察したところ、約1週間後には強度が約50%に半減し、3週間後においては強度がほぼゼロとなり、6週間以上経過後においてはモノマー化して繊維状のものが消滅してしまった。
・・・・・・・・・・
また、かかる処理後の糸に対し、更に、結晶化温度以上、融点以下の熱処理を2時間以上具体的には、80?200℃で2?36時間の熱処理を行なうことは、強度劣化の程度を遅延させ、或は調整する上において有効な手段である。」(2頁右下欄18行?3頁右上欄17行)
(4g)「(発明の効果)
本発明は以上のように経時的に強度劣化し、最終的には自然の中で消失してしまう特性を有するので、老朽化した網の処分も不要となり、海中に投棄して、或は陸上に放置して、何れも水分の影響を受けて分解、消失するため従来のような環境汚染の問題を生じない。
また、本発明においては、分子量を変えたり異種のポリマーとの共重合化、混合により分解性のコントロールが可能であり、その目的に応じて、性能に変化を持たせることができる利点がある。」(3頁右上欄18行?左下欄8行)
(4h)「尚、網を構成する糸の形態としては、モノフィラメト、マルチフィラメント、合撚、組紐状等その態様は任意であり、また、かかる素材を適用して糸、紐、ロープ、網、シート、フィルム、成型物等を構成し、当該分野において使い捨て、放置に伴う環境汚染を回避するに必要があればこれを用いれば本発明と同一の効果を得ることができるものである。」(3頁右下欄8?15行)

オ 甲5(特開昭63-264913号公報、発明の名称「ポリ乳酸繊維」)には、以下の記載がある。
(5a)「1 ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物からなることを特徴とするポリ乳酸繊維。」(特許請求の範囲第1項)
(5b)「〔従来の技術〕
脂肪族ポリエステルであるポリグリコール酸及びポリ乳酸は、生体内で非酵素的に加水分解を受け、その分解産物であるグリコール酸や乳酸は生体内で代謝される興味ある生体内分解吸収性高分子である。
ポリグリコール酸は吸収性の縫合系として臨床で広く使用されている。しかし、生体内での分解吸収速度が大きいため、数か月以上の強度保持が要求される部分には使えない。一方、ポリ乳酸の繊維化、並びに吸収性縫合糸としての応用も検討されている・・・。しかし、ポリ乳酸繊維は、力学的性質と熱的性質に満足できるものではない・・・。」(1頁左下欄14行?右下欄14行)
(5c)「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明の目的は、従来公知のポリ乳酸の力学的性質(引張強度70kg/mm^(2) 以下)と熱的性質(融点180℃以下)を大きく上回る高強度、高融点のポリ乳酸系繊維を提供するにある。」(1頁右下欄15?19行)
(5d)「ポリ乳酸繊維をつくるための紡糸方法は、乾式でも湿式でも、或いはその両者を組み合わせた乾・湿式方法でもよい。或いは溶融紡糸法により製造することができる。・・・
・・・・・・・・・・
本発明のポリ乳酸繊維としては、引張強度70kg/mm^(2) 以上、好ましくは100kg/mm^(2) 以上の高引張強度の繊維を得ることができ、従来のものより遥かに機械的性質が優れている。」(2頁右下欄14行?3頁右上欄3行)
(5e)「〔発明の効果〕
本発明のポリ乳酸繊維はポリ乳酸コンプレックスを形成しており、未延伸繊維或いは低延伸倍率の繊維には、多孔質構造を有するので、中空繊維として用いれば気体や液体の分離用繊維として、また、生体内で使用される吸収性縫合糸、人工腱、人工靭帯、人工血管、骨プレートやビスの補強材等の医療用繊維、更に、一般工業用のロープや繊維としての応用が考えられる。
また、本発明によるポリ乳酸コンプレックス繊維は、従来ポリ-L-乳酸或いはポリ-D-乳酸のホモポリマーの使用が考慮された用途の全てにおいて、より物性が改良された繊維素材を提供することができる。」(3頁右上欄4?17行)
(5f)「実施例1?4
重量平均分子量の異なる6種類のポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸を第1表に示す組み合わせにより1対1のブレンド比で、クロロホルムを溶媒として紡糸ドープを調製した。
これらのドープを孔径0.5mm、孔数10のノズルより吐出することによって、湿式及び乾式紡糸を行った。湿式紡糸の場合は、凝固液としてエタノールとクロロホルムの混合溶液(100:30V/V)を用い50℃で紡糸した。乾式紡糸の場合は、長さ50cmの乾燥筒を用いて50℃で乾燥し、吐出速度0.2ml/min、引取速度1m/minの条件で紡糸した。
これらの方法によって紡糸された繊維を120?200℃のシリコーンオイルバス中にて種々の倍率に延伸した。得られた各繊維について、次の測定条件下で引張強度、弾性率、融点及び融解熱を測定した。湿式紡糸の結果を第2表に、また乾式紡糸の結果を第3表に示す。
引張強度及び弾性率
(株)東洋ボールドウィン製Tensilon/UTM-4-100を用いて引張速度100%/min、温度25℃、相対湿度65%にて測定した。
融点及び融解熱
Perkin Elmer社製DSCI-B型により、窒素ガス雰囲気中にて熱測定を行って求めた。約3?4mgの試料を用いて測定し、温度及び融解熱の補正は99.99%高純度のインジウムを用いて行った。
第 1 表
ポリ-L-乳酸 ポリ-D-乳酸 紡糸ドープ
No. 重量平均分子量 重量平均分子量 濃度(g/dl)
実 1 9.2×10^(4) 9.0×10^(4) 15
施 2 26.5×10^(4) 28.3×10^(4) 10
例 3 40.0×10^(4) 36.0×10^(4) 5
4 40.0×10^(4) 9.0×10^(4) 8

第 2 表
延伸 引張強度 弾性率 融点 融解熱
No. 倍率 (kg/mm^(2)) (kg/mm^(2)) (℃) (cal/g)
実 1 6 39.5 427 231 37
施 2 13 73.7 653 235 41
例 3 22 168.6 1920 242 52
4 17 101.2 986 236 43

第 3 表
延伸 引張強度 弾性率 融点 融解熱
No. 倍率 (kg/mm^(2)) (kg/mm^(2)) (℃) (cal/g)
実 1 9 63.3 767 233 38
施 2 17 105.2 1093 237 45
例 3 25 220.5 2889 245 54
4 21 186.4 2105 243 51 」
(3頁左下欄2行?4頁左上欄下から4行)
(5g)「比較例1、2
ポリ-L-乳酸(重量平均分子量40.0×10^(4))とポリ-D-乳酸(重量平均分子量36×10^(4))をそれぞれクロロホルム5%溶液から紡糸ドープを調製し、ブレンドすることなく実施例と同じ条件下で乾式紡糸を行った。得られた繊維を170℃のシリコーンオイルバス中で延伸を試みたところ、繊維は溶融し延伸できなかった。従って160℃にて延伸した。得られた繊維の物性試験結果を第4表に示す。
第 4 表
延伸 引張強度 弾性率 融点 融解熱
No. 試料 倍率 (kg/mm^(2)) (kg/mm^(2)) (℃) (cal/g)
比 1 ポリ-L- 8 68.4 725 184 36
較 乳酸
例 2 ポリ-D- 8 65.9 703 182 35
乳酸 」
(4頁左上欄下から3行?右上欄)

(2)対比・判断

ア 甲1に記載された発明
甲1には、実用新案登録請求の範囲に、「耐摩耗性糸条によって織成された土木用シートであって、該耐摩耗性糸条は、長手方向に走行する複数本の単糸と該単糸を囲繞すると共に該単糸相互間を固着する合成樹脂とからなることを特徴とする土木用シート」の考案が記載されている(摘示(1a))。該シートを構成する耐摩耗性糸条の単糸にはポリエステル系フィラメントが、また合成樹脂としてポリ塩化ビニルが、それぞれ用いられるとされているから(摘示(1e)(1f))、甲1には、
「耐摩耗性糸条によつて織成された土木用シートであって、該耐摩耗性糸条は、長手方向に走行する複数本の単糸と該単糸を囲繞すると共に該単糸相互間を固着する合成樹脂とからなる土木用シートであって、上記単糸はポリエステル系フィラメントであり、上記合成樹脂はポリ塩化ビニルである、土木用シート」
の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているということができる。
また、摘示(1c)には、従来の技術として、土木用シートとして「マルチフィラメントを織成してなる織物」であって「引張強度の高い織物」が用いられることが記載されているから(摘示(1c))、
「マルチフィラメントを織成してなる引張強度の高い織物からなる土木用シート」
の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているということができる。

イ 甲1発明1との対比・検討

(ア)対比
本件発明と甲1発明1を対比する。
まず、甲1発明1の「土木用」は、本件発明の「土木用」に相当する。
また、甲1発明1の「耐摩耗性糸条によって織成された・・・シートであって、該耐摩耗性糸条は、長手方向に走行する複数本の単糸と該単糸を囲繞すると共に該単糸相互間を固着する合成樹脂とからなる」は、「単糸」は「フィラメント」であり、それが「複数本」あり「糸条」とされるので、該糸条は「マルチフィラメント」であり、そして、本件明細書の段落【0009】には、
「本発明の繊維集合体とは・・・例えば・・・織物・・・として得ることができる」
と記載され、また、段落【0010】には、
「得られたそれらの土木用繊維集合体の目的に応じてコーティング等の加工・・・を行っても差し支えない。」
と記載されるから、該「シート」は、本件発明の「マルチフィラメントの複数本からなる繊維集合体」に相当する。
そして、甲1発明1における土木用シートは、ポリエステルからなるが、合成繊維の技術分野において、単に「ポリエステル」というときは、通常は「ポリエチレンテレフタレート」であり、式-CO-φ-CO-OCH_(2)CH_(2)O-(審決注:φは1,4-フェニレン基)を主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステルであり、一般的には溶融紡糸される。
一方、本件発明の「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸」は、ポリエステルの一種である。
そうすると、本件発明と甲1発明1は、
「ポリエステルを主成分とするマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:上記の、ポリエステルを主成分とするマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体が、本件発明では、一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるマルチフィラメントからなる生分解性の繊維集合体であるのに対し、甲1発明1では、ポリエステルを主成分とする生分解性でない織成されたシートである点

(イ) 相違点の検討

a 甲1発明1において、土木用シートの素材にポリエステルが用いられているのは、ポリエステルが、単糸の引張強度が高いので好ましいからである(摘示(1e))。また、甲1の実用新案登録請求の範囲に係る考案の土木用シートは、「地盤改良や地盤強化等の土木工事において、土中に埋設或いは敷設等して使用する土木用シートに関する」ものであり(摘示(1b))、「土中において岩石等の鋭い角と接触し、摩擦を生じても、単糸が切断しにくい。従って、耐摩耗性糸条は土中において強力の低下が起こりにくく、ひいては土木用シートの強力の低下も起こりにくいという効果を奏する」ものである(摘示(1g))。このことは、甲1発明1の土木用シートにも当てはまり、素材のポリエステルは、そもそも、土中に埋設して使用できる耐水性を有するものといえる。
そして、甲1には、土中に埋設すると分解や劣化しやすい素材を、土木用シートに用いること、あるいは、ポリ乳酸を用いることは、記載されておらず、意図されていないといえる。

b 一方、甲4には、特許請求の範囲第1項?第3項に、それぞれ、「分解性高分子をその構成素材としたことを特徴とする漁網」、「分解性高分子がポリグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」及び「分解性高分子がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」の発明が記載されている(摘示(4a))。
甲4には、上記特許請求の範囲第1項?第3項に係る発明の作用として、
「本発明は、前記のように分解性、特に、水分により分解する高分子にて漁網を構成したので、水中に放置しておよそ数ヵ月?1年以上経過後にはモノマー化し、最終的には微生物の餌となって消失してしまうので従来のような放置に伴う環境汚染の問題を生じない。」
と記載され(摘示(4b))、また、同じく発明の効果として、
「経時的に強度劣化し、最終的には自然の中で消失してしまう特性を有するので、老朽化した網の処分も不要となり、海中に投棄して、或は陸上に放置して、何れも水分の影響を受けて分解、消失するため従来のような環境汚染の問題を生じない。」
と記載されている(摘示(4g))。
しかし、具体的に製造して、水により分解することが示されているのは、ポリグリコール酸についてのみであり、固有粘度0.8のポリグリコール酸を溶融紡糸して直径0.221ミリのモノフィラメント糸を得て、これを用いて漁網を編成し、20℃の水中に浸漬して観察すると、約1週間後には強度が約50%に半減し、3週間後においては強度がほぼゼロとなり、6週間以上経過後においてはモノマー化して繊維状のものが消滅してしまった、というもののみである(摘示(4f))。
このように、甲4には、「ポリ乳酸」との記載はあるが、具体的に示されているのはポリグリコール酸を素材としたもののみであって、その用途も、漁網であって土木用途ではない。

c また、甲2には、一般的なポリエステルのフィラメント強力品は、引張強度が6.3?9.0g/D、伸度が7?17%、初期引張抵抗度(見掛けヤング率)が1100?2000kg/mm^(2) であることと、比重が1.38であることが記載されている(摘示(2a))。また、一般的なポリエステルのフィラメント普通品は、引張強度が4.3?6.0g/Dであり、伸度等は上記強力品と同じであることが記載されている(摘示(2a))。
甲3には、単位の換算表に、以下の関係が記載されている(摘示(3a))。
1kgf/cm^(2)=9.8065×10^(-2)MPa
1gf/D=8.82599×10×ρ/dMPa
(ρは密度[g/cm^(3)]、dはデニール数[D])
ポリエステルの比重(審決注:密度[g/cm^(3)]と同じ)は、上記のとおり1.38であるので、以下のように、「kg/mm^(2)」及び「g/d」(審決注:「g/D」も同じ)の単位で表された数値を「GPa」の単位に換算して表すことができる(審決注:計算は後に示す。)。
1kg/mm^(2)=0.0098GPa
1g/d(=1g/D)=0.122GPa
そして、「引張強度」、「伸度」及び「初期引張抵抗度(見掛けヤング率)」が、それぞれ、本件発明の、「切断強度」、「切断伸度」及び「ヤング率」に相当することは、上記1(2)ア(ウ)で示したとおりであるので、甲2に記載された一般的なポリエステルのフィラメント強力品は、上記に従い換算してGPa換算値も併記すると、
切断強度が6.3?9.0g/D(0.77?1.1GPa)、
切断伸度が7?17%、
ヤング率が1100?2000kg/mm^(2)(11?20GPa)
ということになる。また、一般的なポリエステルのフィラメント普通品は、
切断強度が4.3?6.0g/D(0.52?0.73GPa)
ということになる。
しかし、それだけのことであって、一般的なポリエステルのフィラメント強力品及び普通品の切断強度、切断伸度及びヤング率は、ポリ乳酸のフィラメントの切断強度、切断伸度及びヤング率とは、何の関係もない。
----------------------------------
(計算)
1kg/mm^(2) =100kg/cm^(2)
=100×(1kgf/cm^(2))
=100×(9.8065×10^(-2)MPa)
=9.8065MPa
=0.0098065GPa
なお、上記文献の記載によらなくても、1kgf=9.8N、1Pa=1N/m^(2) より直接導くことができる。
1g/d(=1g/D)=1gf/D
=8.82599×10×ρ/dMPa
=8.82599×10×1.38/1MPa
=121.799MPa
=0.121799GPa
----------------------------------

d また、甲5には、特許請求の範囲に「ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物からなることを特徴とするポリ乳酸繊維」の発明が記載され(摘示(5a))、実施例1?4として、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が39.5?220.5kg/mm^(2) の範囲で弾性率が427?2889kg/mm^(2) の範囲の繊維が記載されている(摘示(5f))。また、比較例1として、ポリ-L-乳酸から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が68.4kg/mm^(2) で弾性率が725kg/mm^(2) の繊維が、比較例2として、ポリ-D-乳酸から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が65.9kg/mm^(2) で弾性率が703kg/mm^(2) の繊維が、それぞれ記載されている(摘示(5g))。これらの繊維は、いずれも、マルチフィラメントの形態である。
そして、「引張強度」が本件発明の「切断強度」に相当することは、上記1(2)ア(ウ)で示したとおりであり、「弾性率」は、「(株)東洋ボールドウィン製Tensilon/UTM-4-100を用いて引張速度100%/min、温度25℃、相対湿度65%にて測定した」というものであり(摘示(5f))、本件発明の「ヤング率」に相当するので、上記と同様に換算してGPa換算値も併記すると、甲5に記載されたポリ乳酸のマルチフィラメントは、
切断強度が39.5?220.5kg/mm^(2)(0.39?2.16GPa)、
ヤング率が427?2889kg/mm^(2)(4.09?28.3GPa)
ということになる。
しかし、甲5の特許請求の範囲に係る発明のポリ乳酸繊維は、ポリ乳酸を溶媒に溶解した紡糸ドープを紡糸してつくったものである(摘示(5f))。比較例1及び2のポリ乳酸繊維も同様である(摘示(5g))。甲5には、このような溶液を用いる乾式又は湿式の紡糸法のほか、溶融紡糸法を用いることができる旨の記載があるが(摘示(5d))、溶融紡糸法でつくることについては、溶融樹脂の温度その他の紡糸条件が何ら具体的に記載されていない。また、甲5には、ポリ乳酸繊維の用途に関し、「気体や液体の分離用繊維として、また、生体内で使用される吸収性縫合糸、人工腱、人工靭帯、人工血管、骨プレートやビスの補強材等の医療用繊維、更に、一般工業用のロープや繊維としての応用が考えられる」との記載がある(摘示(5e))が、これらは土木用途でなく、土木用途を示唆するものでもない。

e そうすると、甲1発明1の、土木用シートは、ポリエステルを素材としていて、それは、単糸の引張強度が高く、土中に埋設して使用できる耐水性を有するものとして素材が選択されたものといえるのであるから、甲1発明1において、その素材を、耐水性があり生分解性でないポリエステルから、加水分解しやすい生分解性のポリ乳酸にかえ、ポリ乳酸を主成分とする生分解性の織成されたシートにしようとする動機付けとなるものは、何もないというべきである。
そして、甲4には、漁網について、分解性高分子をその構成要素としたことにより、海中に投棄したり陸上に放置しても、経時的に強度劣化し、最終的には自然の中で消失してしまう特性を有するため、環境汚染の問題が生じないと記載され、ポリ乳酸にも言及がされてはいるが、甲4には、具体的にはポリグリコール酸の漁網が記載されるだけで、ポリ乳酸は実体があるものとして記載されているのではない。
そうすると、甲1発明1を知った当業者が、甲4に記載された発明について知ったとしても、甲1発明の土木用シートについて、ポリエステルを主成分とする生分解性でない織成されたシートであったものを、その素材をポリ乳酸に変更して、「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるマルチフィラメントからなる生分解性の繊維集合体」という相違点に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到できたということはできない。

f そして、上記eの判断は、甲2、甲5及び甲3に記載された事項を参酌しても、変わるものではない。
すなわち、甲2は、一般的なポリエステルのフィラメント強力品及び普通品の物理的性質を示すだけであるし、甲5は、ポリ乳酸を溶媒に溶解した紡糸ドープを紡糸してつくったポリ乳酸繊維の物理的性質を示すが、溶融紡糸については具体的に記載がなく、また、土木用途について示唆するものでもない。甲3は、応力の単位の換算法を示すだけのものである。

(ウ)効果について
そして、本件発明は、その実施例1に記載された「得られた延伸糸を法面補強用の素材として用いた。該繊維を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ半年後で初期重量の48%、1年後には15%となり、1年半後には分解により形状を確認することができなかった。」で代表される、優れた生分解性と良好な物性を有し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配がない、という効果を奏するものである。この効果は、甲1?甲5に記載された事項から予測できない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明は、甲1発明1及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲1発明2との対比・検討

(ア)対比
本件発明と甲1発明2を対比する。
甲1発明2の土木用シートは、甲1発明1の土木用シートに対してその従来技術に相当するものである。その「マルチフィラメントを織成してなる引張強度の高い織物」は、本件発明の「マルチフィラメントの複数本からなる繊維集合体」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明2は、
「マルチフィラメントの複数本からなる土木用の繊維集合体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点’:上記の、マルチフィラメントの複数本からなる土木用の繊維集合体が、本件発明では、一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるマルチフィラメントからなる生分解性の溶融紡糸による繊維集合体であるのに対し、甲1発明2では、引張強度の高い織物からなる点

(イ)相違点の検討
甲1発明2の引張強度の高い織物の素材は、甲1に、その実用新案登録請求の範囲に係る考案について記載された「代表的には、ポリエステル系フィラメント,ポリアミド系フィラメント,ポリオレフィン系フィラメント等の高強度の糸」(摘示(1e))が該当すると解される。甲1には、素材にポリ乳酸又は生分解性の樹脂を用いることは、記載も示唆もない。
また、甲4については、上記イ(イ)で検討したとおりであって、甲4には具体的にはポリグリコール酸の漁網が記載されるだけでポリ乳酸は実体があるものとして記載されているのではない。甲2、甲5及び甲3についても、上記イ(イ)で検討したとおりである。
そうすると、甲1発明2を知った当業者が、甲4に記載された発明について知ったとしても、そして、甲2、甲5及び甲3に記載される事項を参酌しても、甲1発明2の土木用シートについて、その素材をポリ乳酸に変更して、「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるマルチフィラメントからなる生分解性の溶融紡糸による繊維集合体」という相違点’に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到できたということはできない。

(ウ)効果について
上記イ(ウ)で検討したのと同じである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明は、甲1発明2及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明は、甲1発明1又は甲1発明2及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
(i)本件発明は、用途発明ではなく、使用後自然環境下で分解する生分解性繊維集合体を得るために、その素材としてポリ乳酸を採用したものであり、土木用、農業用、漁業用又は衛生用の各種用途のうち、土木用を選択したに過ぎない。用途発明ではない理由は以下のとおり;
本件明細書の記載によれば、特に土木用に適した形状、構造又は組成等を持つものではない、
刊行物5によれば、使用後に自然環境下で分解する繊維集合体の用途は、土木用に特有のものでなく、漁業用、農業用、衛生用等のその他の用途においても要求されているものである、
被請求人が同日に出願した甲13、甲14及び甲15に係る発明は、それぞれ農業用、漁業用及び衛生用であるが、本件発明と同趣旨のものであり、本件発明は、土木用に特有のものではなく、農業用、漁業用及び衛生用にも通用するものである。(上申書、2?5頁第1の1(1))
(ii)被請求人は、本件発明は生分解性を課題とするものであり、一方、甲1に記載の土木用シートは長期使用を課題とするものであるから、その課題及び解決手段が異なると主張しているが、本件発明の生分解性は、使用後に廃棄する際に生分解性であるというものであり、一方、甲1の高強度は、使用中に高強度ということであり、被請求人は、これを混同又は同一視しているから、誤りである。(同、5?6頁第1の1(3))

イ 検討

(ア)(i)の主張について
本件発明は、「土木用」との点を発明の構成に欠くことのできない事項とした発明であり、用途を特定した発明であるから、本件発明が用途発明ではないとの請求人の主張は誤りである。
請求人は、本件発明は、特に土木用に適した形状、構造又は組成等を持つものではないと主張しているが、「土木用」と特定されたことにより、土木用に適した形状、構造を持つものであることは、既に含意されているし、「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする」との組成が土木用に適した組成であることは、本件明細書の実施例その他の記載から明らかである。
請求人は、使用後に自然環境下で分解する繊維集合体の用途は、土木用に特有のものでなく、漁業用、農業用、衛生用等のその他の用途においても要求されているものであると主張しているが、そうであるとしても、本件発明は、そのような多様な用途のうちから「土木用」であることを発明の構成に欠くことのできない事項とした発明であり、土木用と他の用途では、繊維集合体の使われ方が異なるのであるから、漁業用、農業用、衛生用の用途で生分解性が要求されているか否かに関係なく、本件発明は用途発明というべきである。
また、請求人は、被請求人が同日に出願した甲13、甲14及び甲15を挙げて、本件発明は、土木用に特有のものではなく、農業用、漁業用及び衛生用にも通用するものであると主張しているが、同様に、本件発明が農業用、漁業用及び衛生用に通用するか否かに関係なく、本件発明は用途発明というべきである。
以上のとおりであるから、請求人の(i)の主張は、採用できない。

(イ)(ii)の主張について
本件発明と、甲1に記載された発明とで、課題と解決手段が異なり、甲1には、土中に埋設すると分解や劣化しやすい素材を、土木用シートに用いること、あるいは、ポリ乳酸を用いることは、記載されておらず、意図されていないことは、上記(2)イ(イ)aで述べたとおりである。
請求人の(ii)の主張は、採用できない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明は、甲1及び甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。

4 無効理由2について
無効理由2の概要は、本件発明は、同日に出願された甲6の特許発明と同一であり、協議を行うことのできないものであるから、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲6の記載
甲6(特許第3711409号公報、発明の名称「生分解性農業用繊維集合体」)には、特許請求の範囲の請求項1に、以下の記載がある。なお、甲6の特許に対しては、その無効審判(無効2010-800127号)の手続の中で訂正請求がされている。このため、甲6の特許は特許請求の範囲が訂正される可能性を排除することができないが、ここでは、甲6の設定登録時の請求項の記載に基づいて判断する。
(6a)「一般式-O-CHR-CO-(但し、RはHまたは炭素数1?3のアルキル基を示す)を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする下記a群の用途の中のいずれかである生分解性農業用モノフィラメント及び/又はマルチフィラメント繊維集合体。
a群
防虫用シート、遮光用シート、防霜シート、防風シート、農作物保管用シート、保温用不織布、防草用不織布、農業用ネット、農業用ロープ」(特許請求の範囲の請求項1)

(2)対比・判断

ア 甲6の特許発明
甲6の特許発明は、上記(1)に示したとおりのものである(以下、「甲6発明」という。)。

イ 対比
本件発明と甲6発明を対比すると、少なくとも、本件発明が「土木用」の繊維集合体であるのに対し、甲6発明は「農業用」の繊維集合体である点で、相違する。

ウ 相違点の検討
上記相違点は、土木用と農業用では、繊維集合体の使われ方が異なるのであるから、実質的な相違点でないといえるものでもない。

エ まとめ
したがって、本件発明は、甲6発明と同一の発明であるとはいえない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
(i)本件発明と甲6発明は、ポリ乳酸よりなる生分解性モノフィラメント及び/又はマルチフィラメントからなる点並びにモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの切断強度、切断伸度及びヤング率の点で一致し、前者が土木用、後者が農業用である点で相違する。しかし、甲7の判定請求書によれば、被請求人は、ユニチカ株式会社が製造販売するイ号物件の用途が養生シートであり、これは甲6発明の技術的範囲に属する、との判定を求めており、一方、本件明細書の段落【0011】によれば、本件発明は養生シートを含むから、両者は重複し、上記相違点は、相違点にならない。(請求書、8?11頁第5)
(ii)農業用養生シートも土木用養生シートも、保温用シートであり、両者に何らの相違もない。(上申書、7頁第1の2)

イ 検討
土木用の養生シートは、一般的にはコンクリートの養生に用いられるものであり、これが、農業用のシートと、使われ方が重複するものでないことは、明らかである。
請求人の主張は採用できない。

(4)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明は、同日に出願された甲6の特許発明と同一の発明であるとはいえないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
よって、本件特許は、特許法第39条の規定に違反してなされたということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由2によっては、無効とすべきものではない。

5 当審が通知した無効理由について
当審が通知した無効理由の概要は、本件発明は、本件出願日前に頒布された刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)刊行物1?6の記載

ア 刊行物1(特開昭63-264913号公報、発明の名称「ポリ乳酸繊維」)は、甲5と同じであり、その記載は、既に上記3(1)オにおいて(5a)?(5g)として摘示した。ここでは、その摘示を(101a)?(101g)と読み替える。

イ 刊行物2(特開平3-262430号公報、発明の名称「漁網」)は、甲4と同じであり、その記載は、既に上記3(1)エにおいて(4a)?(4h)として摘示した。ここでは、その摘示を(102a)?(102h)と読み替える。

ウ 刊行物3(「繊維便覧-加工編-」,昭和44年,p.p.490-491,1176-1183)には、以下の記載がある。
(103a)「3・5 産業資材織物
3・5・1 一般帆布およびターポリン
・・・・・・・・・・
b.シート シート類としては船舶用,トラック用,貨車用,土木建築用,倉庫用および農業用など広範囲な用途がある.・・・合成繊維の使用が増加したのは耐食性,強力の他ビニロンの耐候性などの特長が認められたためである.なお建築用のコンクリート養生シートなどは防水の他防炎加工が施されている.また土木工事用シートは合成繊維の耐食性と強力を利用した新しい土木工法の開発によって生まれた新用途で,埋立工事用の透水布,軟弱地盤の補強用布,貯水池のしゃ水布などである.透水布と補強用布は生機でありしゃ水布はターポリンである.」(490頁下から3?下から2行及び491頁26?35行)
(103b)「表43 繊維性能表」と題する表(1176?1183頁)に、各種繊維の物性が記載されている。
そのうち、ビニロン(1179頁)、ポリエステル(1181頁)、ポリエチレン(1182頁)、ポリプロピレン(1182頁)について、「引張強度[g/D]」、「伸度[%]」、「初期引張抵抗度(見掛けヤング率)[g/D][kg/mm^(2)]」、「比重」を抜粋すると以下のとおりである。

ビニロン ポリエステル
フィラメント フィラメント
普通 強力 普通 強力
引張強度 標準時 3.0?4.0 6.0?9.0 4.3?6.0 6.3?9.0
[g/D] 湿潤時 2.1?3.2 5.0?7.9 4.3?6.0 6.3?9.0
伸度 標準時 17?22 9?22 20?32 7?17
[%] 湿潤時 17?25 10?26 20?32 7?17
初期引張抵抗度 [g/D] 60?90 70?180 90?160
(見掛けヤング率)[kg/mm^(2)] 700?950 800?2000 1100?2000
比重 1.26?1.30 1.38

ポリエチレン(低圧法) ポリプロピレン
フィラメント フィラメント
普通 強力
引張強度 標準時 5.0?9.0 4.5?7.5 7.5?9.0
[g/D] 湿潤時 5.0?9.0 4.5?7.5 7.5?9.0
伸度 標準時 8?35 25?60 15?25
[%] 湿潤時 8?35 25?60 15?25
初期引張抵抗度 [g/D] 35?100 40?120
(見掛けヤング率)[kg/mm^(2)] 300?850 330?1000
比重 0.94?0.96 0.91 」

エ 刊行物4(「産業用繊維資材ハンドブック」,昭和54年,p.559-573)には、以下の記載がある。
(104a)「繊維の土木分野への利用は,従来から種々の形で使用されていたが,本格的に土木の分野に大量に利用されるようになったのは,ナイロンの発明を最初とする合成繊維の出現からである。
合成繊維の出現によって急速に活発な用途の開発も行なわれ,使用量も急増したが,その理由は合成繊維が強度,耐久性,耐熱性,耐薬品性,耐水浸性等,特に強度,耐久性の点において従来の天然繊維よりも数段すぐれており,土木分野の過酷な使用条件に耐えうるところが大きいようである。
用途面を見ると,当初は土のう,埋立地の土砂流失防止柵,種々の洗堀防止,吸出し防止等が主体であったが,昭和41年ごろ,軟弱地盤の表層処理方法のシート工法が発明され,一回に数万?数10万m^(2) のシートが使用されるようになったのがきっかけとなって,繊維メーカおよび利用者側とも,土木分野での合成繊維類の用途開発に力を入れはじめ,その用途は多岐にわたることとなった。
現在使用されている土木分野での繊維の種類は,ポリエステル,ビニロン,ポリオレフィン系繊維,ポリプロピレン,ポリエチレン,ナイロン,塩化ビニール繊維,コットンリンター,パーム繊維,サラン繊維(ポリ塩化ビニリデン)等である。特殊な一部のものを除いてほとんど化学繊維で占められていることがわかる。」(559頁3?18行)
(104b)「土木分野における用途は多種多様である。極端にいえば,あらゆる土木工事に何らかの形で繊維素材が使用されているといっても過言ではないだろう。
表3・118は,繊維資材が土木のどのような種類の工事にどのような形で使用されているかを分類したものである。
この表によると,考えられるあらゆる種類の土木工事が列記されることになる。また,その具体的用途も多種類にわたっていることも明らかである。ただし,用途の種類はこのように多様であるが,繊維の果たす機能としては,フィルタ機能,引張り強度機能が主な特長で,保温機能などがこれにつづく。」(559頁20?27行)
(104c)「表3・118 繊維資材の土木的用途の概要」と題する表(560頁)に、「地形的分類」と対応する「土木工事」、それらに対応する「繊維資材の土木的用途」及び(その他)の「繊維資材の土木的用途」の項目で記載され、前者の用途として「防水シート」、「バーチカルドレーン材」、「水平ドレーン材」、「コンクリート養生」等が、後者の(その他)の用途として「ネット」、「ロープ」、「養生シート」、「しゃ音壁」が、それぞれ記載されている。
(104d)「土木分野へ利用されている産業用繊維資材を形状で分類すると,シート,マット,ドレーン材状,暗渠パイプ状,網状,ロープ状等に分けられる。」(563頁7?8行)の記載に続き、「繊維資材の形状」ごとに「用途別」が箇条書きされ、それらを示すと以下のとおりである:
「シート状(織布,不織布)」は
「○地盤表層処理用(不等沈下防止,土地・道路造成)
○洗堀・吸出し防止用(陸上盛土,切土法面,水中法面,各種裏込法面防護)
○防水シート用(工場製品,現場製作)
○境界分離用(各種盛土,噴泥防止)
○各種フィルタ用」、
「マット状(砂・コンクリート・モルタ詰)」は
「○法面防護用(ライニング,侵食防止,法覆工)
○根固め用
○仮設道路用」、
「ドレーン材状(単独,併用)」は
「○水平ドレーン材用
○重直ドレーン材用
○暗渠排水材用」
「網状」は
「○法面防護用
○地盤表層処理用
○重直ドレーン材(砂袋)」
「ロープ状」は
「○各種緊結用
○重直ドレーン材」
「袋状」は
「○コンクリートブロック」(563頁9?下から4行)
(104e)「合成繊維は下記のような性能がすぐれているため,土木分野への需要が拡大されてきている。
i.透水性
・・・透水性といっても水だけを通過させて土粒子等の固形分を残すフィルタ効果を必要とするものであるが,繊維間隔(目)あるいは厚さを自由に調整できることが必要である。
ii.引張強度
・・・引張強度は一般に大であればあるほど利点となる用途が多い。合成繊維の急速な土木分野への利用が増大した最大の理由がこの点にある。
iii.耐水耐候性
空中,土中,水中などの条件によって異なるが,すぐれた特長の一つである。ただし,土木では一時的にしろ大気中に曝露されて使用することが多いが,合成繊維においても紫外線に弱く劣化するものもある。
iv.耐腐食性
いずれの合成繊維も良好であるが,一部で虫,バクテリア等に侵される場合もある。
v.耐薬品性
素材および対象薬品によって異なるが,合成繊維は全般に優れている。」(563頁下から2行?564頁18行)

オ 刊行物5(特開平5-59612号公報、発明の名称「微生物分解性マルチフイラメント」)には、以下の記載がある。
(105a)「【請求項1】ポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントであって、その引張強度が4.0g/d以上、引張破断伸度が30%以上であることを特徴とする微生物分解性マルチフィラメント。」
(105b)「【0002】【従来の技術】従来、漁業や農業、土木用として用いられる産業資材用繊維としては、強度及び耐候性の優れたものが要求されており、主としてポリアミド、ポリエステル、ビニロン、ポリオレフィン等からなるものが使用されている。しかし、これらの繊維は自己分解性がなく、使用後、海や山野に放置すると種々の公害を引き起こすという問題がある。この問題は、使用後、焼却、埋め立てあるいは回収再生により処理すれば解決されるが、これらの処理には多大の費用を要するため、現実には海や山野に放置され、景観を損なうばかりでなく、鳥や海洋生物、ダイバー等に絡みついて殺傷したり、船のスクリューに絡みついて船舶事故を起こしたりする事態がしばしば発生している。
【0003】このような問題を解決する方法として、自然分解性(微生物分解性又は生分解性)の素材を用いることが考えられる。
【0004】従来、自然分解性ポリマーとして、セルローズやキチン等の多糖類、カット・グット(腸線)や再生コラーゲン等の蛋白質やポリペプチド(ポリアミノ酸)、微生物が自然界で作るポリ-3-ヒドロキシブチレート又はその共重合体のような微生物ポリエステル、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリカプロラクトン等の合成脂肪族ポリエステル等がよく知られている。
【0005】しかし、これらのポリマーから繊維を製造する場合、湿式紡糸法で製造しなければならなかったり、素材のコストが極めて高いため、製造原価が高価になったり、高強度の繊維を得ることができなかったりするという問題があった。」
(105c)「【0009】【発明が解決しようとする問題点】本発明は、比較的安価で、かつ、実用に供することができる強度を有し、微生物により完全に分解されるポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントを提供しようとするものである。」
(105d)「【0017】実施例1?4及び比較例1
メルトフローレートが30及び4のポリカプロラクトンをそのままあるいは適当にブレンドして、表1に示したメルトフローレートとなるようにあらかじめ2軸のエクストルーダーで溶融混練後、チップ化したポリマーを用いて、0.5mmφ×24ホールの紡糸口金からそれぞれ表1に示す温度で溶融紡糸した。未延伸糸を一旦巻き取った後、約3倍に冷延伸し、75d/24fのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントの引張り強伸度特性及び微生物分解性評価結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
メルトフローレート 紡糸温度 引張り強伸度特性 微生物
(g/10min) (℃) 強度(g/d) 伸度(%) 分解性
実施例1 4 270 5.51 33.3 良好
実施例2 10 260 5.34 34.1 良好
実施例3 15 250 5.12 35.2 良好
実施例4 25 210 4.28 37.6 良好
比較例1 30 200 3.80 37.4 良好 」
(105e)「【0019】【発明の効果】本発明によれば、実用に耐え得る強伸度特性を有し、かつ微生物分解性のマルチフィラメントが提供される。本発明のマルチフィラメントは、漁業用資材、農業用資材、土木用資材、衛生材、廃棄物処理材等として好適であり、使用後微生物が存在する環境(土中又は水中)に放置しておけば一定期間後には完全に生分解されるため、特別な廃棄物処理を必要とせず、公害を防止に有用である。」

カ 刊行物6(特開平4-57953号公報、発明の名称「微生物分解性不織布」)には、以下の記載がある。
(106a)「1.ポリカプロラクトンを3?30重量%含むポリエチレンから成る単糸繊度5デニール以下の繊維で構成されている微生物分解性不織布。」(特許請求の範囲)
(106b)「産業上の利用分野
本発明は微生物分解性を具備した不織布に関するものである。さらに詳しくは、使い捨ておむつや生理用品のカバーストックあるいは、ワイパーや包装材料などの一般生活資材として好適で、しかも微生物分解性を兼ね備えた不繊布に関するものである。」(1頁左下欄9?15行)
(106c)「従来の技術
不織布は衛生材、一般生活資材や産業資材として広く使用されており、不織布を構成する繊維素材はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどが主なものである。・・・使用済みの不織布は・・・焼却処理が広く行なわれているが、多大の諸経費が必要とされる。・・・近年、廃棄プラスチックスによる公害が発生しつつあり・・・使い捨て製品の分野で、年々その使用量が増大している不織布に関して、短期間の内に、自然に分解される新しい不織布が要望されている。・・・
・・・・・・・・・・
・・・微生物分解性で熱可塑性のある共重合ポリエステルが生産されるようになっている。・・・
この他の合成高分子素材として、脂肪族ポリエステルであるポリグリコリドやポリラクチドおよびこれらの共重合体が広く知られている。これらの重合体は、熱可塑性であることから、溶融紡糸が可能であるが、重合体のコストが高いため、その適用は、生体吸収性縫合糸のような分野に限られている。
・・・・・・・・・・
以上のように、微生物分解性で、しかも熱可塑性のある細繊度の繊維を安価に得ることは極めて困難であることから、プラスチック成形品やフィルムなどの分野に比べ、繊維分野での微生物分解性の実用化が著しく遅れているといえる。」(1頁左下欄16行?2頁右上欄18行)
(106d)「発明が解決しようとする課題
本発明は、以上のような背景を踏まえて、汎用素材であるポリエチレンをベースとして、微生物分解性と熱可塑性とを兼ね備えた安価な不織布を提供することを目的とするものである。」(2頁右上欄19行?左下欄3行)
(106e)「実施例1?4、比較例1?2
平均分子量が約4万のポリカプロラクトンと、オクテン-1を5重量%含有し、密度が0.937g/cm^(3)、メルトインデックス値がASTMのD-1238(E)の方法で測定して25g/10分、融点が125℃の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)とを二軸の混練用エクストルーダーを用いて、種々の割合に混合してマスターチップを作成した。・・・次に、得られたマスターチップを用い、孔径0.35mm、孔数64ホールのノズルを複数個使用し、1.2g/分/ホールの吐出量で、230?250℃の紡糸温度範囲にて溶融押し出しし、ノズル下120cmの位置に設けたエァーサッカーを使用して連続マルチフィラメントを3500m/分の速度で引き取り、移動するエンドレスの金網上にフィラメントを捕集してウェッブとした後、金属エンボスロールと金属フラットロールを用いて、線圧30kg/cm、圧接面積率20%、熱処理温度105℃にて加熱処理して単糸繊度3dのフィラメントで構成される目付20g/m^(2) のスパンボンド不織布を得た。得られた各不織布の性能を第1表に示す。なお、第1表の中で微生物分解性については、不織布を10?25℃の土壌中に6ケ月埋設した後、不織布がその形態を保っているか否か、あるいは形態を保っていても引張強力が初期の50%以下に低下しているか否かで判定した。不織布の形態を保っていても引張強力が初期の50%以下に低下したものを微生物分解性良好とし、そうでないものを微生物分解性不良とした。微生物分解性良好の場合でも不織布の初期引張強力が800g/3cm未満である場合には総合評価として不良とした。
第1表
ポリカプロラクトン 不織布性能 微生物 総合
含有量(重量%) 引張強力(g/3cm) 分解性 評価
実施例1 3 1100 良好 良好
〃 2 10 1020 〃 〃
〃 3 20 910 〃 〃
〃 4 30 880 〃 〃
比較例1 1 1120 不良 不良
〃 2 35 670 良好 不良

第1表の結果からも、実施例1?4のポリカプロラクトンを3?30重量%含む不織布は不織布性能(引張強力)、微生物分解性共に良好であることが判る。」(3右上欄18行?4頁左上欄下から7行)
(106f)「発明の効果
以上のように本発明によれば、大幅なコストアップを伴うことなく、引張強力が大で微生物分解性と熱可塑性とを兼ね備えた不織布を得ることができる。」(4頁左上欄下から6?下から2行)

(2)刊行物1に記載された発明との対比・判断

ア 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、特許請求の範囲第1項に、「ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物からなることを特徴とするポリ乳酸繊維」の発明が記載され(摘示(101a))、ポリ乳酸は「生体内分解吸収性高分子」である(摘示(101b))。そして、「引張強度70kg/mm^(2) 以上、好ましくは100kg/mm^(2) 以上の高引張強度の繊維を得ることができ」るとされ(摘示(101d))、具体的には、実施例2?4として、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が73.7?220.5kg/mm^(2) の範囲で弾性率が653?2889kg/mm^(2) の範囲の繊維が記載されている(摘示(101f))。また、比較例1として、ポリ-L-乳酸から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が68.4kg/mm^(2) で弾性率が725kg/mm^(2) の繊維が、比較例2として、ポリ-D-乳酸から紡糸ドープを調製し、孔数10のノズルから紡糸し延伸して得られた、引張強度が65.9kg/mm^(2) で弾性率が703kg/mm^(2) の繊維が、それぞれ記載されている(摘示(101g))。これらの繊維は、いずれも、マルチフィラメントの形態である。
そして、上記3(2)イ(イ)cでも示したとおり、1kg/mm^(2)は0.0098GPaであるので、GPa換算値も併記すると、刊行物1には、
「生体内分解吸収性高分子であるポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物からなり、引張強度が73.7?220.5kg/mm^(2)(0.72?2.16GPa)で弾性率が653?2889kg/mm^(2) (6.40?28.3GPa)の、マルチフィラメントの形態のポリ乳酸繊維」
の発明(以下、「刊行物1発明1」という。)、
「生体内分解吸収性高分子であるポリ-L-乳酸からなり、引張強度が68.4kg/mm^(2)(0.67GPa)で弾性率が725kg/mm^(2)(7.11GPa)の、マルチフィラメントの形態のポリ乳酸繊維」
の発明(以下、「刊行物1発明2」という。)、及び
「生体内分解吸収性高分子であるポリ-D-乳酸からなり、引張強度が65.9kg/mm^(2)(0.65GPa)で弾性率が703kg/mm^(2)(6.89GPa)の、マルチフィラメントの形態のポリ乳酸繊維」
の発明(以下、「刊行物1発明3」という。)が記載されているということができる。

イ 対比
本件発明と刊行物1発明1?同3とを対比すると、刊行物1発明1?同3の「ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物」、「ポリ-L-乳酸」、「ポリ-D-乳酸」は、いずれも、本件発明の「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸」に相当する。また、刊行物1発明1?同3の「ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物」、「ポリ-L-乳酸」、「ポリ-D-乳酸」の「生体内分解吸収性」とは、「生体内で・・・加水分解・・・代謝される」性質で(摘示(101b))、刊行物6の摘示(106c)に「微生物分解性」すなわち「生分解性」の「合成高分子素材」として、「ポリラクチド」すなわち「ポリ乳酸」が挙げられていることからみても、本件発明の「生分解性」と重複する性質である。
また、本件発明の「切断強度」、「切断伸度」及び「ヤング率」は、本件特許明細書の段落【0014】を参照すると、「テンシロン引張り試験機を使用して、試料長20cm、引張り速度20cm/minで得られた延伸糸の強伸度を測定した」というものであるところ、刊行物1発明1?同3の「引張強度」及び「弾性率」は、「(株)東洋ボールドウィン製Tensilon/UTM-4-100を用いて引張速度100%/min、温度25℃、相対湿度65%にて測定した」というものであり(摘示(101f))、刊行物1発明1?同3の「引張強度」及び「弾性率」は、本件発明の「切断強度」及び「ヤング率」に対応し、その数値は、本件発明においてそれぞれ規定している下限値の「0.1GPa」及び「0.5GPa」を大きく超えるものといえる。
そうすると、本件発明と刊行物1発明1は、
「一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、且つヤング率が0.5GPa以上である生分解性繊維」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明は、上記の、一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする生分解性繊維が、「切断伸度5%以上」であり、「モノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体」であるのに対し、引用発明1は、繊維の切断伸度が明示されておらず、該繊維をモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体とすることが特定されていない点
また、本件発明と刊行物1発明2、本件発明と刊行物1発明3も、同様の点で一致し、同様の点で相違する(以下、本件発明と刊行物1発明2との相違点を「相違点2」、本件発明と刊行物1発明3との相違点を「相違点3」という。)。

ウ 相違点1?3の検討

(ア)相違点1について
刊行物1発明1の「生体内分解吸収性高分子であるポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸とのブレンド物からなり、引張強度が73.7?220.5kg/mm^(2)(0.72?2.16GPa)で弾性率が653?2889kg/mm^(2) (6.40?28.3GPa)の、マルチフィラメントの形態のポリ乳酸繊維」は、ポリ乳酸を溶媒に溶解した紡糸ドープを紡糸してつくったものである(摘示(101f))。刊行物1には、このような溶液を用いる乾式又は湿式の紡糸法のほか、溶融紡糸法を用いることができる旨の記載があるが(摘示(101d))、溶融紡糸法でつくることについては、溶融樹脂の温度その他の紡糸条件が何ら具体的に記載されていない。また、刊行物1には、ポリ乳酸繊維の用途に関し、「気体や液体の分離用繊維として、また、生体内で使用される吸収性縫合糸、人工腱、人工靭帯、人工血管、骨プレートやビスの補強材等の医療用繊維、更に、一般工業用のロープや繊維としての応用が考えられる」との記載がある(摘示(101e))が、これらは土木用途でなく、土木用途を示唆するものでもない。上記3(2)イ(イ)dでも示したとおりである。
刊行物2には、上記2(2)イ(イ)bで示したとおり、特許請求の範囲第1項?第3項に、それぞれ、「分解性高分子をその構成素材としたことを特徴とする漁網」、「分解性高分子がポリグリコール酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」及び「分解性高分子がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の漁網」の発明が記載されている(摘示(102a))。しかし、刊行物2には、「ポリ乳酸」との記載はあるが、具体的に示されているのはポリグリコール酸を素材としたもののみであって、その形態も、モノフィラメント糸から編成した網であってスパンボンド不織布ではないし、用途も、漁網であって農業用途ではない。
刊行物3には、「産業資材織物」の「一般帆布」の「シート」について、「土木建築用」の用途があり、「合成繊維の使用が増加したのは耐食性,強力の他ビニロンの耐候性などの特長が認められたためである」と記載され、「コンクリート養生シート」、「埋立工事用の透水布」、「軟弱地盤の補強用布」、「貯水池のしゃ水布」の言及もある(摘示(103a))。
刊行物4には、「使用されている土木分野での繊維の種類は,ポリエステル,ビニロン,ポリオレフィン系繊維,ポリプロピレン,ポリエチレン,ナイロン,塩化ビニール繊維,コットンリンター,パーム繊維,サラン繊維(ポリ塩化ビニリデン)等」であること(摘示(104a))、その形状は「シート状(織布,不織布)」、「マット状」、「ドレーン材状」、「網状」、「ロープ状」、「袋状」があること(摘示(104d))、用途は「防水シート」、「ドレーン材」、「養生シート」、「ネット」、「ロープ」、「法面防護用」の「マット」、「境界分離用」の「シート」、「各種フィルタ用」の「シート」等があることが(摘示(104c)(104d))、記載されている。これらの繊維素材の機能として「フィルタ機能,引張り強度機能が主な特長で,保温機能などがこれにつづく」とされ(摘示(104b))、要求特性として「透水性」、「引張強度」、「耐水耐候性」、「耐腐食性」、「耐薬品性」が挙げられている(摘示(104e))。そして、刊行物4には、これとは異なり分解や劣化しやすい素材を、土木分野に用いること、あるいはポリ乳酸を用いることは、記載されておらず、意図されていないといえる。
刊行物5には、特許請求の範囲の請求項1に、「ポリカプロラクトンからなるマルチフィラメントであって、その引張強度が4.0g/d以上、引張破断伸度が30%以上であることを特徴とする微生物分解性マルチフィラメント」の発明が記載されており(摘示(105a))、「従来の技術」の欄に「ポリラクチド」(審決注:ポリ乳酸)との記載はあるが、参考的に示されているに過ぎず、現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではない。
刊行物6には、特許請求の範囲第1項に、「ポリカプロラクトンを3?30重量%含むポリエチレンから成る単糸繊度5デニール以下の繊維で構成されている微生物分解性不織布」の発明が記載されており(摘示(106a))、「従来の技術」の欄に「ポリラクチド」(審決注:ポリ乳酸)との記載はあるが、参考的に示されているに過ぎず、現実に問題解決できる実体があるものとして記載されているのではない。
以上のように、刊行物1にも、刊行物2にも、ポリ乳酸を溶融紡糸することは具体的に記載がなく、土木用途とすることも記載がなく、また、刊行物3?6をみても、ポリ乳酸の溶融紡糸は記載されていないから、刊行物1発明1に、刊行物2?6に記載された発明を組み合わせても、刊行物1発明1のマルチフィラメントの形態のポリ乳酸繊維を、土木用の溶融紡糸による繊維集合体とすることは、導かれない。
したがって、刊行物1発明1において、相違点1に係る本件発明の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(イ)相違点2について
相違点1についてと同様である。

(ウ)相違点3について
相違点1についてと同様である。

エ 効果について
上記3(2)イ(ウ)で検討したのと同じである。本件発明は、その実施例1に記載された「得られた延伸糸を法面補強用の素材として用いた。該繊維を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ半年後で初期重量の48%、1年後には15%となり、1年半後には分解により形状を確認することができなかった。」で代表される、優れた生分解性と良好な物性を有し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配がない、という予測できない効果を奏するものである。

オ まとめ
したがって、本件発明は、刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)当審が通知した無効理由についてのまとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1?6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないということはできない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、当審が通知した無効理由によっては、無効とすべきものではない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法並びに当審が通知した無効理由によっては、本件請求項1に係る発明の特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とするポリ乳酸を主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、土木用繊維集合体に関し、更に詳しくは自然環境下に放置しておくと、徐々に分解し、最終的には消失するため、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊のない生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、仮設ネット、養生シート、遮水シート等の土木用繊維集合体はポリエチレン、ポリ塩化ビニル等のプラスチック材料が使用されている。前記プラスチック材料は自然環境下でほとんど分解しないため、使用後回収され、焼却、埋め立てあるいはリサイクルにより処理されているが、リサイクルによる再生では採算があわず、焼却や埋め立てによる処理では大気汚染や埋め立て地の確保が困難等の問題がある。また、回収には多大な労力を必要とするために回収し切れず土中等の自然界に放置され、環境破壊等様々な問題を引き起こしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの目的は、自然環境下で徐々に分解し、最終的には消失し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配のない生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記事情を鑑み、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配のない土木用繊維集合体を得るべく鋭意検討を重ねた結果、一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上である主成分とする生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体に関するものであり、該集合体は自然環境下に放置しておくと徐々に分解され、最終的には消失し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の懸念がないものである。
【0005】
すなわち、本発明は一般式-O-CH(CH_(3))-CO-を主たる繰り返し単位とする脂肪族ポリエステルを主成分とする切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体に関するものであり、該集合体は自然環境下に放置しておくと徐々に分解され、最終的には消失し、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の懸念がないものである。
【0006】
本発明の繊維集合体を構成するポリ乳酸は単独重合体でも共重合体でもよく、あるいはブレンド体でも差し支えない。上記ポリ乳酸を製造するには、公知の方法たとえば乳酸(これらは、D体、L体、ラセミ体のいずれであってもかまわない)の脱水重縮合、あるいはそれらの環状エステルの開環重合により得ることができる。
【0007】
本発明においてポリ乳酸の粘度平均分子量は5000以上であり、好ましくは10^(4)から10^(6)のものである。5000未満では繊維集合体として十分な強度が得難くなり、10^(6)を超えると紡糸時に高粘度となりすぎて扱いにくくなる。
【0008】
本発明の繊維集合体は、切断強度0.1GPa以上、切断伸度5%以上であり、且つヤング率が0.5GPa以上であるモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントの複数本からなる土木用の溶融紡糸による繊維集合体である。繊維集合体を構成するフィラメントの特性がこの範囲を外れると土木用繊維集合体として実用的な機械特性を有することが困難となり好ましくない。
【0009】
本発明の繊維集合体とは規則的あるいは不規則的に繊維が集合した構成体を言い、例えば、繊維束や織物、編物、組物、不織布、多軸積層体等の布帛等として得ることができるが特にこれらに限定されるものではない。これら上述の如く繊維集合体はその集合体形態により製造法は異なり、それぞれ従来公知の方法によって製造することができる。
【0010】
たとえば、本発明で言うところのポリ乳酸を溶融紡糸することにより、又はその後延伸することによりモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを製造する。この際、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、防汚剤等を適当にブレンドしても問題ない。得られたモノフィラメントあるいはマルチフィラメントを公知の加工法および打ち方あるいは製網法に基づいてロープあるいは網を製造できる。また、乾式、気流式、湿式法又はスパンボンド法等の公知ウェブ形成法によりウェブを形成し、例えば、接着剤、添加剤による処理、あるいはニードルパンチ、流体パンチ等の機械的接結法といった公知の方法により、あるいはその後乾燥、熱処理することにより不織布をえることができる。更には得られたそれらの土木用繊維集合体の目的に応じてコーティング等の加工、あるいは他ポリマーとの併用を行っても差し支えない。
【0011】
本発明の溶融紡糸による繊維集合体は、土木用に使用されるものを言い、その具体例としては、例えば、法面保護用シート、養生シート、遮水シート、野積シート、境界分離用シート、各種フィルター用シート等の土木用シート類、あるいは潅・排水ホース等の土木工事用ホース類、仮設ネット、防風ネット等の土木用ネット類、仮止め用ロープ、ドレーン材用ロープ等の土木用ロープ類として用いることができるが特にこれらに限定されるものではない。
【0012】
更に本発明におけるポリ乳酸にポリカプロラクトン等の他の脂肪族ポリエステルやポリビニルアルコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリジオキサン、ポリアミノ酸のポリマー、あるいはタルク、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等の無機物、あるいはデンプン、アミノ酸、蛋白質や食品添加物等を適量混合することにより、機械特性、分解特性を種々変化させることが可能である。
【0013】
【実施例】
次に本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
実施例1
粘度平均分子量15万のポリ乳酸を孔径0.4φ、ホール数48を有するノズルから185℃で溶融紡糸して未延伸糸を得た。次いで常法により延伸熱処理を行い、150デニール/18フィラメントの延伸糸を得た。テンシロン引張り試験機を使用して、試料長20cm、引張り速度20cm/minで得られた延伸糸の強伸度を測定した結果、得られた延伸糸の切断強度は0.56GPa、切断伸度は25%、ヤング率は5.9GPaであった。得られた延伸糸を法面補強用の素材として用いた。該繊維を土壌中に埋設し、重量変化を調査したところ半年後で初期重量の48%、1年後には15%となり、1年半後には分解により形状を確認することができなかった。
【0015】
【発明の効果】
本発明の溶融紡糸による土木用繊維集合体は、優れた生分解性と良好な物性を有している故、使用後の焼却による大気汚染や放置による環境破壊の心配がないことから産業界、または環境保護に寄与すること大である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-06-03 
結審通知日 2011-06-07 
審決日 2011-06-29 
出願番号 特願平5-50883
審決分類 P 1 113・ 536- YA (D07B)
P 1 113・ 121- YA (D07B)
P 1 113・ 1- YA (D07B)
P 1 113・ 24- YA (D07B)
P 1 113・ 537- YA (D07B)
P 1 113・ 5- YA (D07B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 新居田 知生
小出 直也
登録日 2001-02-09 
登録番号 特許第3156812号(P3156812)
発明の名称 生分解性土木用の溶融紡糸による繊維集合体  
代理人 柴田 有佳里  
代理人 柴田 有佳理  
代理人 植木 久一  
代理人 植木 久一  
代理人 奥村 茂樹  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ