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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C22C |
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管理番号 | 1259971 |
審判番号 | 訂正2012-390038 |
総通号数 | 153 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-09-28 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2012-03-16 |
確定日 | 2012-07-09 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第4360295号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第4360295号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第4360295号は、平成16年7月13日に特許出願され、平成21年8月21日に特許権の設定登録がされたものである。 本件訂正審判は、平成24年3月16日に請求されたもので、審判請求書と共に甲第1号証?甲第12号証が提出され、同年4月27日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、同年5月30日付けで意見書と共に甲第13号証?甲第28号証が提出され、同年6月20日付けで上申書と共に甲第29号証?甲第37号証が提出されている。 第2 請求の要旨及び訂正の内容 本件審判請求の要旨は、特許第4360295号の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりのものと認める。 (1)訂正事項1 請求項1に記載した「Sol.Al(酸可溶Al:鋼中に固溶したAl)」を、「Sol.Al(酸可溶Al)」と訂正する。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0024】中に記載した「Sol.Al(酸可溶Al:鋼中に固溶したAl)」を、「Sol.Al(酸可溶Al)」と訂正する。 第3 訂正拒絶理由の概要 訂正拒絶理由の概要は、請求項1の記載は明確であるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き各号のいずれにも該当せず、特許法第126条第4項の規定に適合するものでもないというものである。 第4 請求人の主張 これに対して、請求人は、本件訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると主張している。 第5 甲号証の主な記載事項 (1)甲第1号証(JIS G 1257(1994)の付属書15) ア 「酸可溶性アルミニウム 8.3.1.1に記載してある操作で混酸に分解するアルミニウムをいう。」(3.定義) (2)甲第2号証(佐伯正夫著、「鉄鋼の迅速分析 速さ,精度,信頼性への挑戦」、株式会社地人書館、1998年12月1日発行) ア 「試料ごとに酸可溶性Al(微細析出AlNや固溶Al)や酸不溶性Al(酸化物系介在物や粗大AlN)の存在比率や形態および大きさが異な(る)」(第98頁(5)鋼中Alの形態別定量法の開発) (3)甲第3号証(特開平11-267844号公報) ア 「ここに述べるAlは、酸化物および非酸化物としてのAlの両方、すなわち酸不溶Alおよび酸可溶Alの両方を含む。」(段落【0022】) (4)甲第4号証(特開平9-111488号公報) ア 「酸可溶性Alとしては固溶Al、AlNが考えられる。」(段落【0014】) (5)甲第5号証(特開平4-203954号公報) ア 「製鋼に際してアルミニウムは脱酸剤として投入され、大半は酸化物となってスラブ中に移行するが、一部は鋼中に残る。この残ったアルミニウムには介在物の状態で存在するものと、鋼に固溶しているものとがある。これらのアルミニウムは正確には化学量論に基づいた化学分析により測定されるものであり、存在形態の識別は酸に溶解するかしないかによって行われている。即ち、前者は殆どが酸化物で酸に溶解しない酸不溶性アルミニウム(以下、InsolAlと称す)であり、後者は酸に溶解する酸可溶性アルミニウム(以下、SolAlと称す)である。又、両者を合わせたものが全アルミニウム(以下、T.Alと称す)である。」(第1頁右下欄第2行?第14行) (6)甲第6号証(特開2000-46739号公報) ア 「鋼材中のアルミニウム(以下、Alと記す)は、地鉄中に固溶している原子状Al、窒化物系Al及び硫化物系Alと、脱酸反応によって生成して鋼材中に残留するアルミナ系介在物の形で存在すると言われており、鉄鋼分析では,前者をsol.Al、後者をinsol.Alとして分析される場合が多い。」(段落【0002】) (7)甲第23号証(特開2000-219914号公報) ア 「本発明は、強度バラツキが小さく、かつ、細粒組織を有するインライン熱処理による継目無鋼管に関する。」(段落【0001】) イ 「N:Nは不可避的に鋼中に存在する。NはAl、TiやNbと結合して窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると、靱性や耐SSC(耐硫化物応力腐食割れ)性、耐HIC(耐水素誘起割れ)性に悪影響を及ぼすため、0.0070%以下とした。」(段落【0033】) (8)甲第29号証(特開2002-349177号公報) ア 「N:Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であり、AlやTiなどの元素と窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると鋼の靭性が劣化する。そこで、N含有量は0.01%以下とするのが好ましい。N含有量は、少なければ少ないほどよく、より好ましいのは、0.008%以下である。」(段落【0066】) イ 「表1に示す4種の化学組成の鋼を溶製し、通常のマンネスマン-マンドレル製管法によって外径139.7mm、肉厚10.5mm、長さ10mの継目無鋼管を製造した。その鋼管に焼入れ-焼戻しの熱処理を施してAPI-L80グレード(降伏強度:570MPa)相当品とした。」(段落【0074】) (9)甲第30号証(特開2003-41341号公報) ア 「N:0.0070%以下 Nは、不可避的に鋼中に存在し、Al、TiまたはNbと結合して窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると、靱性に悪影響を及ぼすため、その含有量は0.0070%以下とする。」(段落【0046】) イ 「上記の各鋼種からなる外径225mmφのビレットを作製し、1250℃に加熱した後、マンネスマン-マンドレル製管法にて、外径244.5mm×肉厚13.8mmの継目無鋼管を製管した。引き続いて、製管された鋼管にインライン熱処理プロセスおよびオフライン熱処理プロセスを施した。」(段落【0052】) (10)甲第31号証(特開2002-266055号公報) ア 「N:Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であり、AlやTiなどの元素と窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると靭性が劣化する。また、耐SSC性も悪化する。そこで、N含有量は0.010%以下とした。N含有量は少なければ少ないほどよく、好ましくは、0.008%以下である。」(段落【0038】) イ 「これらの鋼を用いて熱間鍛造により直径80mm、長さ300mmのバー材を作製し、このバー材から外削および、くり貫き加工をして、外径75mm、肉厚10mm、長さ300mmのシームレス鋼管を作製した。この鋼管に、焼入れ焼戻し処理を2回繰り返して施し、細粒組織を有する鋼管を得た。」(段落【0050】) (11)甲第32号証(特開2002-129283号公報) ア 「N:0.010%以下 Nは、不可避的に鋼中に存在するが、Al、TiさらにはNb等と結合して窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると、靱性に悪影響を及ぼす。そこで、本実施の形態では、N含有量は0.010%以下と限定する。」(段落【0040】) イ 「表1に示す組成を有するビレットを、1200?1250℃に加熱した後、マンネスマン-マンドレル製管法により外径:88.9mm、および肉厚:7.34mmの寸法を有する継目無鋼管を製造した。」(段落【0051】) (12)甲第33号証(特開2001-73086号公報) ア 「本発明は、高靱性および高耐食性を有する継目無鋼管、特に焼入れ・焼戻しを行った継目無鋼管に関する。」(段落【0001】) イ 「N:Nは不可避的に鋼中に存在する。NはAl、TiやNbと結合して窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると、靱性や耐SSC(硫化物応力腐食割れ性)、耐HIC水素誘起割れ性に悪影響を及ぼすため、0.0070%以下とした。好ましくは、0.0040%以下である。」(段落【0021】) (13)甲第34号証(特開2001-11568号公報) ア 「本発明は、インライン熱処理を施した場合に、強度バラツキが小さく、その結果として、耐硫化物応力腐食割れ性に優れる高強度な製品が得られるインライン熱処理用鋼とこの鋼からなる継目無鋼管、具体的には油井やガス井用のケーシングやチュービングおよび掘削用のドリルパイプの製造方法に関する。」(段落【0001】) イ 「N:Nは不可避不純物として鋼中に存在し、Al、Ti、Nbと結合して窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると、靱性や耐SSC性、耐水素誘起割れ性に悪影響を及ぼす。しかし、その含有量が0.0080%以下であれば特に問題ないことから、その上限を0.0080%とした。好ましい上限は0.0060%である。」(段落【0035】) (14)甲第36号証(特開平9-235617号公報) ア 「本発明は、原油または天然ガスの探査、採取または移送に用いられる溶接性に優れた高強度高靭性の継目無鋼管、とくにラインパイプとして用いられる継目無鋼管の製造方法に関する。」(段落【0001】) イ 「solAl(酸可溶Al):solAlは、精錬中または凝固中に酸素と反応したAl量を超えるAlが、凝固を完了した鋼に残留したものをいう。solAlは凝固中または凝固直後のピンホール発生の防止および靭性に有害な固溶NをAlNとして固定するために残留させる。精錬中にAlが十分脱酸に働き酸素の大部分が除去されても微量の酸素は凝固した鋼中に含まれており、凝固が完了した後におけるsolAlが0.001%未満では凝固直後に微小なピンホールが発生することを防止できない。また、靭性に有害なNの固定も不十分になる。いっぽう、solAlが0.5%を超えると靭性が低下するので0.001?0.5%とする。」(段落【0030】) ウ 「N:Nは不純物として鋼の存在して、とくに溶接部の靭性を劣化するので0.01%以下とする。」(段落【0046】) 第6 当審の判断 (1)訂正事項1について (1-1)訂正の目的の適否 請求人が提出した甲第23号証、甲第29号証?甲第34号証の記載によれば、通常、継目無鋼管中には、不可避に混入する不純物として、Nが0.01%以下混入し、これらのNはAlNを形成するものと認められる。 そうすると、訂正前の請求項1に係る継目無鋼管の発明にはNの含有量が特定されていないものの、不可避に混入する不純物としてNが混入しているものと解するのが自然であり、そのNは、AlNを形成するものと認められる。また、甲第36号証の記載によれば、形成したAlNは、酸に可溶なものということができる。 ここで、甲第1号証の記載によれば、酸可溶Alは、混酸に分解するアルミニウムであり、甲第2号証?甲第6号証には、酸可溶Alの具体例として、固溶Al、微細AlN、AlSが挙げられている。 そうすると、訂正前の請求項1の、「Sol.Al(酸可溶Al:鋼中に固溶したAl)」との記載は、「酸可溶Al」について、「鋼中に固溶したAl」に限定したものであるとも、例示したものであるとも解することができる。 そして、本件特許明細書には、酸可溶Alが、鋼中に固溶したAlに限定されるとは記載されておらず、また、酸に可溶なAlNを排除する理由もないから、上記発明において、酸可溶Alは、鋼中に固溶したAlに加え、酸に可溶なAlNを含むと解され、「Sol.Al(酸可溶Al:鋼中に固溶したAl)」との記載は不明確なものといえるから、訂正事項1は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (1-2)新規事項の追加の有無 訂正前の請求項1に記載の鋼組成に酸に可溶なAlNが含まれることは、上記甲号証に記載のとおり、当該技術分野の技術常識からみて自明であるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (1-3)特許請求の範囲の拡張・変更の有無 上記のとおり、訂正前の請求項1に係る発明に酸に可溶なAlNが含まれることは明らかであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、前記訂正事項1の訂正に合わせて、発明の詳細な説明の記載を訂正するものである。 そして、上記のとおり、訂正事項1が明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、訂正事項1に合わせて行う訂正事項2も、訂正事項1と同様に、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項1と同様に、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 第7 むすび 以上のとおり、訂正事項1、2を有する本件訂正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第3項及び第4項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 継目無鋼管 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、継目無鋼管に関し、さらに詳しくは、凹版及び平版等の印刷機の版として利用されるロール(以下、印刷ロールと称する)やシリンダロッドに加工される継目無鋼管に関する。 【背景技術】 【0002】 印刷ロールやシリンダロッドは、軸方向に対して円周方向の金属組織及び機械的性質が均一であることが求められる。印刷ロールやシリンダロッドは、一般的に円周方向の金属組織及び機械的性質が均一である継目無鋼管から製造される。 【0003】 印刷ロールやシリンダロットを製造する工程で、継目無鋼管の外面はめっき処理される。具体的には、継目無鋼管の外面は切削され、切削後の外面上にめっき処理によりめっき層が形成される。 【0004】 印刷ロールやシリンダロッドでは、めっき処理された外面に凹凸が存在したり、めっき層が剥離したりするのは好ましくない。これらのめっき不良が印刷ロールに存在する場合、印刷不良が発生する。また、これらのめっき不良がシリンダロッドに存在する場合、腐食及び油漏れによる作動不良が生じる。 【0005】 めっき不良が発生する原因は、めっき処理前の継目無鋼管の外面に存在する地疵であると考えられている。一般的に、地疵は鋼中に残留した種々の介在物が切削面に露呈することにより発生する。そのため、継目無鋼管の外面に均一にめっき層を形成するためには、地疵の原因となる種々の介在物を低減する必要があると考えられている。 【0006】 介在物の低減対策は主に製鋼工程で実施される。継目無鋼管の素材となる鋳片、鋼片及び鋼塊を製造する工程で鋼中に介在物が含まれるからである。 【0007】 従来、精錬時に真空脱ガス処理や長時間Arバブリング処理を実施し、鋼中の介在物を低減する対策が行われてきた。さらに、介在物低減の他の対策として、連続鋳造法において、以下の対策が報告されている。 【0008】 (1)浸漬ノズルの形状を改善することにより、溶鋼中の介在物を鋳型内の溶鋼面に浮上させ、除去する。具体的には、ノズル内径の接線方向に複数個の吐出孔を有する有底の浸漬ノズルを使用して連続鋳造を実施する。浸漬ノズルの形状に基づいて鋳型内の溶鋼流が渦運動するため、介在物が溶鋼面に浮上しやすくなる。そのため、介在物をより多く除去できる(下記特許文献1参照)。 【0009】 (2)鋳型周囲のメニスカス近傍に直流磁界を与え、溶鋼流の鋳型への侵入深さ及び侵入方向を制御する。この制御により介在物を鋳型内の溶鋼面に浮上させ除去する(下記特許文献2参照)。 【0010】 しかしながら、これらの対策を実施した継目無鋼管であっても、依然としてめっき不良が発生する場合がある。 【特許文献1】特開昭58-3758号公報 【特許文献2】特開昭58-55157号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明の目的は、めっき不良の発生を抑制できる継目無鋼管を提供することである。 【課題を解決するための手段及び発明の効果】 【0012】 本発明者らは、めっき不良が発生する原因となる地疵の形態を調査した。具体的には、印刷ロール用又はシリンダロッド用の複数の継目無鋼管から、表面に地疵を含むサンプル(外径139?146mm,肉厚5?10mm,長さ500mm)を複数採取した。 【0013】 JIS G0555に基づく顕微鏡試験方法により、各サンプルの外面に露呈した介在物の種類を特定した。 【0014】 介在物を特定した結果、JIS規格に定められたグループBに相当する粒子群状介在物が露呈したサンプルと、JIS規格に定められたグループCに相当する粒状介在物が露呈したサンプルとが存在した。EDXS法に基づいて粒子群状介在物及び粒状介在物の化学組成を分析した。その結果、粒子群状介在物はAl_(2)O_(3)を含有していた。粒状介在物は主としてAl_(2)O_(3)を含有し、さらにCaO,CaS,SiO_(2),MnSのうちの少なくとも2種を含有していた。 【0015】 粒状介在物を含むサンプルについてはさらに、粒状介在物の大きさを測定した。具体的には、光学顕微鏡を用いて粒状介在物の大きさを測定した。このとき、図1に示すように、粒状介在物と母材との界面上の異なる2点を結ぶ直線のうち、最大のものを粒状介在物の大きさとした。 【0016】 異なる種類及び大きさの介在物を含むこれらのサンプルにめっき不良が発生するか否かを調査した。具体的には、これらのサンプルにめっき処理を実施し、地疵が発生した表面に0.03?0.1mmの厚さのCrめっき層を形成した。Crめっき層を形成後、各サンプルでめっき不良が発生しているか否かを判断した。具体的には、光学顕微鏡を用いて50?100倍の倍率でCrめっき層の断面を観察し、めっき不良の発生の有無を判断した。地疵のある表面に形成されたCrめっき層が剥離していた場合、又はCrめっき層に凹みがある場合、めっき不良と判断した。 【0017】 以上の調査の結果、80μm以上の粒状介在物が露呈したサンプルでめっき不良が発生した。一方、粒子群状介在物が露呈したサンプル及び80μm未満の粒状介在物が露呈したサンプルではめっき不良が発生しなかった。 【0018】 以上より、発明者らは、鋼中に含まれる全ての介在物がめっき不良を発生させるのではなく、その大きさが80μm以上の粒状介在物がめっき不良を発生させると考えた。よって、印刷ロールやシリンダロッドのような、外面をめっき処理する用途に使用される継目無鋼管でめっき不良の発生を抑制するために、鋼中の全ての介在物を低減する必要はなく、大きさが80μm以上の粒状介在物の個数を低減すればよいと考えた。 【0019】 そこで発明者らは、大きさが80μm以上の粒状介在物の鋼中の個数と継目無鋼管の外面に発生する粒状介在物起因の地疵の個数との関係を調査した。初めに、製造した複数の丸鋼片を穿孔機により軸方向に穿孔し、マンドレルミル及びレデューサ等により複数の継目無鋼管とした。丸鋼片は、連続鋳造法により製造したものと、連続鋳造した後分塊圧延により製造したものとを用意した。なお、丸鋼片は機械構造用炭素鋼に相当する化学組成とし、各丸鋼片中のCa含有量を変化させた。 【0020】 製造した継目無鋼管の外面を旋盤で切削し、切削後の鋼管表面の地疵の有無を調査した。切削量は、印刷ロールで一般的な切削量である切削前肉厚の30%とし、仕上げ粗さは印刷ロールで一般的な12.5?25Sとした。さらに、スライム法により、継目無鋼管中の粒状介在物の個数及び大きさを調査した。具体的には、継目無鋼管から1kgのサンプルを採取した。採取したサンプルを塩化第2鉄水溶液をベースとした溶液中で定電流電解法により溶解した。溶解後の残さから粒状介在物を採取し、各々の大きさを測定した。介在物の種類はJIS G0555に基づく顕微鏡試験方法により特定した。 【0021】 図2に調査結果を示す。粒状介在物に起因した地疵の個数は、鋼中の大きさが80μm以上の粒状介在物の個数に比例した。80μm未満の粒状介在物の個数と発生した地疵の個数とには相関関係がなかった。 【0022】 以上の調査結果より、発明者らは、大きさが80μm以上の粒状介在物の個数が100個/10kg以下であれば、継目無鋼管の外面に発生する地疵個数が0.1個/100cm^(2)以下となり、めっき不良の発生を十分に抑制できると考えた。 【0023】 そこで、発明者らは、これらの知見に基づいて以下の本発明を完成させた。 【0024】 本発明による継目無鋼管は、化学組成が質量%で、C:0.08?0.61%、Si:0.15?0.55%、Mn:0.30?1.60%、P:0.040%以下、S:0.040%以下、O(酸素):0.0005?0.0050%、Sol.Al(酸可溶Al):0.0010?0.100%、Ca:0?0.0002%、残部はFe及び不純物であり、各々の大きさが80μm以上であって、JISG0555に定められたグループCに相当する粒状介在物が10kg当たり100個以下である。本発明による継目無鋼管は、外面をめっき処理して使用される用途に用いられる。 【0025】 ここで、粒状介在物は、JIS G0555に定められたグループCに相当する介在物である。また粒状介在物の大きさはたとえば、図1に示すように粒径介在物と母材との界面上の異なる2点を結ぶ直線のうち最大のものをいう。 【0026】 なお、本発明の継目無鋼管は、各々の大きさが80μm以上であって、10kg当たり100個以下の粒状介在物以外の他の介在物を含んでもよい。たとえば、JIS G0555に定められたグループA及びBに相当する介在物を含んでもよいし、各々の大きさが80μm未満の複数の粒状介在物を含んでもよい。 【0027】 好ましくは、粒状介在物は質量%で50%以上のAl_(2)O_(3)と、CaO、CaS、SiO_(2)、MnSのうち少なくとも2種以上とを含有する。 【0028】 好ましくは、継目無鋼管は、連続鋳造法により製造された鋼片から製造される。 【発明を実施するための最良の形態】 【0029】 以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。 【0030】 1.化学組成 本発明の実施の形態による継目無鋼管は、以下の組成を有する。以降、合金元素に関する%は質量%を意味する。 【0031】 C:0.08?0.61% Cは鋼の強化に有効な元素である。必要な強度を得るためにCの含有量の下限を0.08%とする。一方、Cの過剰な添加は靭性を劣化するため、Cの含有量の上限を0.61%とする。好ましいCの含有量は0.16?0.48%である。 【0032】 Si:0.15?0.55% Siは鋼の脱酸に有効な元素であり、Siの含有量を0.15%未満とするとその効果が乏しい。そのため、Siの含有量の下限値を0.15%とする。一方、過剰にSiを添加すると、鋼中の介在物が増加する。そのため、Siの含有量の上限を0.55%とする。好ましいSiの含有量は0.15?0.35%である。 【0033】 Mn:0.30?1.60% Mnは鋼の靭性及び強度の向上に有効な元素である。印刷ロールやシリンダロッド等に必要な強度を保持するために、Mnの含有量の下限を0.30%とする。一方、Mnを過剰に添加すると、かえって靭性が劣化する。よって、Mnの含有量の上限を1.60%とする。好ましいMnの含有量は0.40?1.50%である。 【0034】 P:0.040%以下 Pは不純物であり、中心偏析を助長する。そのため、Pの含有量は低い方が好ましい。したがって、Pの含有量を0.040%以下に制限する。好ましくは、0.030%以下に制限する。 【0035】 S:0.040%以下 Sは不純物であり、鋼の熱間加工性を低下させる。そのため、Sの含有量は低い方が好ましい。したがって、Sの含有量は0.040%以下に制限する。好ましくは、0.015%以下に制限する。 【0036】 O:0.0005?0.0050% Oは鋼中のAl、Ca、Siと酸化物を形成し、鋼の清浄度を下げる。さらに、粒状介在物を形成し、地疵を発生させる。そのため、Oの含有量は、なるべく低い方が好ましい。したがって、Oの含有量は0.0005?0.0050%とする。好ましくは0.0005%?0.0040%とする。 【0037】 sol.Al:0.0010?0.100% Alは、鋼の脱酸に必要な元素である。この効果を発揮するためにsol.Alの含有量の下限を0.0010%とする。一方、Alを過剰に添加すると、鋼の清浄度を下げる。具体的には、sol.Alは粒状介在物を形成し、地疵を発生させる。そのため、sol.Alの含有量の上限値を0.100%とする。好ましくは、sol.Alの含有量を0.001?0.050%とする。 【0038】 Ca:0?0.0002% Caは、連続鋳造中に浸漬ノズルが閉塞するのを防止するために一般的に添加される。鋼を精錬する工程で実施されるAl脱酸処理により、溶鋼中にアルミナ系介在物が発生する。アルミナ系介在物は連続鋳造中に浸漬ノズルの内壁に付着し、ノズルを閉塞させる。鋼中へのCa添加は、アルミナ系介在物を低融点化合物である粒状介在物に変化させ、ノズルの閉塞を防止する。 【0039】 しかしながら、先述したとおり、粒状介在物はめっき不良を発生させるため、本発明ではCaは添加しない方が好ましい。そのため、以下に示す製造方法によりノズルの閉塞を防止することで、鋼中のCa含有量を0?0.0002%に制限する。要するに、本発明では、Caは不純物である。 【0040】 なお、残部はFeで構成されるが、製造過程の種々の要因により不純物が含まれることもあり得る。 【0041】 2.製造方法 本実施の形態による継目無鋼管の製造方法の1つとして、本発明者らは、連続鋳造時の浸漬ノズルの内径を大きくし、鋳込み速度を小さくする方法を見出した。これにより、鋼中のCa含有量を最小限に抑え、鋼中の大きさが80μm以上の粒状介在物の個数を少なくできる。具体的には、以下の製造条件を満足するのが好ましい。 【0042】 (A)浸漬ノズルの内径を50mm以上にするのが好ましい。ノズル内径が大きいほど、アルミナ系介在物が内壁に付着しにくく、浸漬ノズルが閉塞しにくい。そのため、溶鋼のCa含有量を低減できる。 (B)連続鋳造の鋳造速度は遅い方が好ましい。鋳造速度を遅くすれば、粒状介在物を含む複数種類の介在物が鋳型内の溶鋼面に浮上しやすくなる。そのため、大きさが80μm以上の粒状介在物が鋼中に残存するのを防止できる。具体的には、鋳造速度を0.5?0.8m/minにするのが好ましい。 【0043】 なお、連続鋳造で製造される鋼片の断面積を大きくすれば、上記(A),(B)の条件を満たしやすくなる。具体的には、鋼片の断面積を10000mm^(2)とするのが好ましい。また、タンディッシュ内の溶鋼の温度が低くならないようにするのが良い。溶鋼温度が低ければ、浸漬ノズルの内壁にアルミナ系介在物が付着しやすいためである。具体的には、タンディッシュ内の過熱度(溶鋼温度-液相線温度)を15?60℃にするのが好ましい。 【0044】 上記(A)、(B)の条件を満たして製造された丸鋼片を用いて、通常の穿孔及び圧延方法により継目無鋼管を製造する。具体的には、丸鋼片を回転炉床式加熱炉等の加熱炉で加熱する。加熱後、加熱炉から抽出した丸鋼片を穿孔機により軸方向に穿孔する。その後、マンドレルミル及びレデューサ等により所定の寸法の継目無鋼管に加工する。 【0045】 また、連続鋳造法により製造したスラブ又は丸鋳片を分塊圧延機により分塊圧延して丸鋼片としてもよい。丸鋼片を加熱炉で加熱する工程以降の工程は、丸鋼片を継目無鋼管に加工する工程と同じである。 【0046】 なお、上記の製造条件(A)、(B)のいずれかが満たされなくても、他に制御すべき製造条件を追加すれば、大きさが80μm以上の粒状介在物の個数を本発明の範囲内に低減できる。たとえば、製鋼工程で溶鋼をSi脱酸することにより、鋼中の介在物をケイ酸塩系介在物とする。延性を有するケイ酸塩系介在物は穿孔及び圧延により粒状から粘性変形し、伸展する。そのため、粒状介在物を低減できる。 【0047】 本発明では、精錬時に鋼中の介在物の低減を目的とした真空脱ガス処理や長時間Arバブリング処理を実施しなくてもよい。本発明の継目無鋼管は、鋼中の80μm以上の大きさの粒状介在物を低減すればよく、全ての介在物を低減する必要はないからである。精錬時に真空脱ガス処理や長時間Arバブリング処理を実施しない場合、継目無鋼管の製造コストを低く抑えることができる。 【0048】 また、継目無鋼管は造塊法により製造するよりも、連続鋳造法で製造した方が好ましい。歩留まりが向上するからである。 【実施例1】 【0049】 表1に示す化学組成の本発明鋼及び比較鋼の継目無鋼管を製造し、各鋼管(本発明鋼及び比較鋼)が含有する80μm以上の大きさの粒状介在物の数及び継目無鋼管の外面に発生する地疵の数を調査した。 【表1】 【0050】 本発明鋼1?9及び比較鋼11?16は以下のように製造した。初めに、表1中の内径を有する浸漬ノズルを使用して、表1中の鋳造速度で溶鋼を連続鋳造してスラブ又は丸鋼片を製造した。このとき、溶鋼過熱度は15?60℃の範囲内であった。製造したスラブ及び丸鋼片の一部は分塊圧延した。 【0051】 連続鋳造又は分塊圧延により製造した丸鋼片を用いて、継目無鋼管を製造した。具体的には、丸鋼片を1170?1280℃に加熱後、穿孔機により軸方向に穿孔し、ホローシェルを製造した。製造したホローシェルをマンドレルミル及びレデューサにより圧延し、表1に示した外径及び肉厚の継目無鋼管とした。 【0052】 本発明鋼1?9は、鋼中の組成が本発明の範囲内であり、かつ、製造条件(A)及び(B)も適切な条件であった。 【0053】 一方、比較鋼11?16はいずれもCa含有量が本発明の規定値を越えた。供試材12及び13のCa含有量は鋳込み初期には本発明の規定範囲内であったが、鋳込みに使用した浸漬ノズルの内径が50mm未満であったため、連続鋳造中に浸漬ノズルが詰まる危険が生じた。そのため、タンディッシュ内にCaを添加し、浸漬ノズルの詰まりを防いだ。その結果、鋼中のCa含有量が高くなった。 【0054】 製造した本発明鋼及び比較鋼を用いて、鋼中に存在する大きさが80μm以上の粒状介在物の個数と、外面に発生した粒状介在物起因の地疵個数とを調査した。 【0055】 [80μm以上の粒状介在物の個数調査] 本発明鋼及び比較鋼から加工した試験片を用いてスライム法により介在物の個数を調査した。スライム法は、金属を溶解し、介在物を抽出する方法である。具体的には、継目無鋼管から1kgのサンプルを採取した。採取したサンプルを塩化第2鉄水溶液をベースとした溶液中で定電流電解法により溶解した。溶解後の残さから粒状介在物を採取し、各々の大きさを測定した。介在物の種類はJIS G0555に基づく顕微鏡試験方法により特定した。図1に示すように、粒状介在物と母材との界面上の異なる2点を結ぶ直線のうち、最大のものを粒状介在物の大きさとした。測定後、大きさが80μm以上の介在物の個数を数えた。なお、任意の複数の介在物をEDXS法により同定した結果、これらの粒状介在物はJISG 0555に定められたグループCに相当する介在物であった。具体的には、これらの粒状介在物は、質量%で50%以上のAl_(2)O_(3)と、CaO、CaS、SiO_(2)、MnSのうち少なくとも2種以上とを含有していた。 【0056】 [粒状介在物に起因した地疵の個数調査] 本発明鋼及び比較鋼の各々から軸方向に600mmの長さのサンプルを作成した。作成した各サンプルについて、軸方向に450mmの範囲の外面を旋盤により切削した。切削量は表1に示した肉厚の30%とした。たとえば、本発明鋼3は外面を肉厚方向に3.0mm切削した。仕上げ粗さは12.5?25Sとした。 【0057】 切削後の外面について目視により地疵の有無を観察した。地疵が存在する場合、地疵を含むサンプルを採取し、JIS G0555に基づく顕微鏡試験方法により地疵の原因が粒状介在物であるか否かを判断した。切削した外面に存在した粒状介在物起因の地疵の総数を、切削した外面の表面積で除した値を粒状介在物起因の地疵個数(個/100cm^(2))とした。 【0058】 [調査結果] 本発明鋼1?9においては、いずれも80μm以上の粒状介在物の個数が100個/10kg未満であった。そのため、粒状介在物起因の地疵個数が0.1個/100cm^(2)未満であった。鋼中に含まれる80μm以上の大きさの粒状介在物の個数を少なくすることで、めっき不良の原因となる地疵(つまり、粒状介在物起因の地疵)の発生を抑制できた。 【0059】 一方、比較鋼11?16では、80μm以上の大きさの粒状介在物の個数が本発明の範囲を超えた。そのため、粒状介在物起因の地疵が0.1個/100cm^(2)よりも多く発生した。 【0060】 以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。 【産業上の利用可能性】 【0061】 本発明による継目無鋼管は、その外面をめっき処理して使用される用途に用いられる継目無鋼管に利用可能であり、特に印刷ロール及びシリンダロットに使用される継目無鋼管に利用可能である。 【図面の簡単な説明】 【0062】 【図1】本発明の実施の形態による継目無鋼管中の粒状介在物の形状を示す模式図である。 【図2】大きさが80μm以上の粒状介在物の鋼中の個数と継目無鋼管の外面に発生する粒状介在物起因の地疵の個数との関係を示す図である。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 化学組成が質量%で、C:0.08?0.61%、Si:0.15?0.55%、Mn:0.30?1.60%、P:0.040%以下、S:0.040%以下、O(酸素):0.0005?0.0050%、Sol.Al(酸可溶Al):0.0010?0.100%、Ca:0?0.0002%、残部はFe及び不純物であり、各々の大きさが80μm以上であってJISG0555に定められたグループCに相当する粒状介在物が10kg当たり100個以下であり、外面をめっき処理して使用される用途に用いられることを特徴とする継目無鋼管。 【請求項2】 請求項1に記載の継目無鋼管であって、 前記粒状介在物は質量%で50%以上のAl_(2)O_(3)と、CaO、CaS、SiO_(2)、MnSのうち少なくとも2種以上とを含有することを特徴とする継目無鋼管。 【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の継目無鋼管であって、 前記継目無鋼管は、連続鋳造法により製造された鋳片から製造されることを特徴とする継目無鋼管。 【請求項4】 請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の継目無鋼管からなることを特徴とする印刷ロール用鋼管。 【請求項5】 請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の継目無鋼管からなることを特徴とするシリンダロッド用鋼管。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2012-06-29 |
出願番号 | 特願2004-206047(P2004-206047) |
審決分類 |
P
1
41・
853-
Y
(C22C)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 真明 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
佐藤 陽一 大橋 賢一 |
登録日 | 2009-08-21 |
登録番号 | 特許第4360295号(P4360295) |
発明の名称 | 継目無鋼管 |
代理人 | 上羽 秀敏 |
代理人 | 川上 桂子 |
代理人 | 上羽 秀敏 |
代理人 | 川上 桂子 |
代理人 | 竹添 忠 |
代理人 | 坂根 剛 |
代理人 | 竹添 忠 |
代理人 | 松山 隆夫 |
代理人 | 松山 隆夫 |
代理人 | 坂根 剛 |