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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1260379
審判番号 不服2011-26575  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-08 
確定日 2012-07-19 
事件の表示 特願2011- 43120「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日出願公開、特開2012- 32137〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年7月30日に出願した特願2010-171853号の一部を平成23年2月28日に新たな特許出願としたものであって、平成23年9月6日付けで拒絶査定がなされ(平成23年9月13日発送)、これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

2.平成23年12月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年12月8日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「筐体の吸込み口に設けられたエアフィルタと、該エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するエアフィルタ清掃装置と、を備えた空気調和機において、 前記エアフィルタは、
左右両側に設けられて背面側の全域にラックが形成された縦枠、これら縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦棧、及び前記横枠の間に設けられた横棧を有する枠体と、
該枠体に設けられたフィルタ通気体と、
を備え、
前記エアフィルタ清掃装置が、
前記縦枠の背面側に形成された前記ラックと噛合う歯車を有し、これら歯車を駆動させることにより、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて湾曲させるエアフィルタ移動手段と、
前記エアフィルタの湾曲箇所に接するブラシと、
を備え、
該エアフィルタ移動手段により、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて、前記エアフィルタの前記湾曲箇所を前記縦枠の長手方向に移動させ、
該湾曲箇所において前記ブラシにより前記エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するものであるとともに、
前記エアフィルタは、
該エアフィルタが一様に湾曲するように、前記縦棧の背面側にも、その全域に前記ラックと略同一形状のラックが形成されていることを特徴とする空気調和機。」と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定する事項である「エアフィルタ」について「該エアフィルタが一様に湾曲するように、」との限定を付加するものであって、その補正前の請求項1に記載された発明と補正後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第6項において準用する特許法法第126条第5項に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例
1)原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-71524号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
筐体に対して装着、取外し自在な、空気中の塵埃を捕捉するためのエアフィルターにおいて、エアフィルターガイドに接触する面に挿入方向に対し平行な複数の凸凹溝を設けたことを特徴としたエアフィルター。
【請求項2】
筐体に対して装着、取外し自在な、空気中の塵埃を捕捉するためのエアフィルターにおいて、エアフィルターは柔軟性のあるエラストマー樹脂で成型されており、エアフィルターの両端部の面にはエアフィルターを移動させるためのラック形状を設け、その反対側のエアフィルターガイドと接触する面には挿入方向に対し平行な複数の凸凹溝を設けたことを特徴としたエアフィルター。
・・・
【請求項4】
請求項1?請求項3のいずれか1項に記載のエアフィルターと、該エアフィルターを移動させるためのエアフィルター移動手段と、前記エアフィルターに捕捉された塵埃を除去するためのエアフィルター清掃機構部を備えたことを特徴とするエアフィルター清掃装置。
【請求項5】
請求項4に記載のエアフィルター清掃装置と、吸込み口から空気を吸い込み、吸込んだ空気を吹出し口へ吹き出すための送風手段を備え、前記エアフィルターが前記吸込み口と送風手段の間に設けられていることを特徴とする空気調和機。」(特許請求の範囲)

イ「しかしながら、前記特許文献1に開示された空気調和機には以下の問題があった。
すなわち、この特許文献1の空気調和機は、柔軟性のある素材を用い湾曲させやすくするために、エアフィルターを移送させる駆動手段に噛合するための凹凸が縦枠の可動方向に形成され、凹凸により形成された凸部の他面側に、移動する方向と直行する方向に溝が形成されているために、エアフィルターの移動軌跡上の僅かな凸で引っ掛かり、挿入性が悪化する。さらに可動することのできるエアフィルターに対しては、引っ掛かりが生じても引っ掛かり力に対し移動する力が強ければ動作するが、それが外れた時には異音が発生するという問題があった。
また、空気調和機室内機の限られた空間内でエアフィルターを移動させるため、曲率半径の小さい箇所が発生する。前記特許文献1に開示された空気調和機のように、エアフィルターは、湾曲させやすいように柔軟性を持たせる必要がある。柔軟性を持たせるためには製品を薄くする方法もあるが、その場合、曲率半径が小さくなると樹脂が白化する、または、破壊強度が弱くなってしまうという問題がある。このため構成材料として熱可塑性エラストマー樹脂を用いる場合があるが、安価な熱可塑性エラストマー樹脂は、柔軟性を持たせるためにゴム成分を微量分散させているものが主流であり、そのため表面の摩擦抵抗が一般樹脂(ABSやPP)と比較して大きくなるため、エアフィルターを移動させるために大きな力が必要になり、挿入性の悪化、移動させる場合の駆動トルクの増加という問題があった。
この発明は上記に鑑みてなされたものであって、エアフィルターの移動軌跡に関係なくエアフィルターが移動しているときに周囲と引っ掛ることなくスムーズに動作することができるエアフィルター及びそれをもちいたエアフィルター清掃装置並びに空気調和機の提供を目的とする。」(段落【0004】?【0006】)

ウ「実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る空気調和機を模式的に示す側面視の中央部における断面図である。図1において、空気調和機100は、筐体10と、筐体10内に設置され、空気を吸引すると共に吸引した空気を吹き出す送風ファン20と、送風ファン20が形成する風路内に配置され、吸引した空気を調和する熱交換器30と、吸引した空気に含まれる塵埃を捕捉するエアフィルター40と、エアフィルター40の移動する軌跡を決めるエアフィルターガイド16と、エアフィルター40を清掃するエアフィルター清掃装置50を有している。以下、各構成部材について個別に説明する。
筐体10は、両端面(図示しない)が塞がれた筒状であって、天面(図中、上側)の一部が開口し、該開口部が空気を吸い込む吸込口11を形成し、底面(図中、下側)の一部が開口し、吸込口11から吸い込んだ空気を吹き出す吹出口12を形成している。そして、前面(図中、左側)は開口しており、該開口部を開閉する前面パネル13が設置されている。なお、背面(図中、右側)は塞がれている。
・・・
また、図1に示すようにエアフィルター40は、筐体10の吸込口11と熱交換器30との間の吸込口側に設けたエアフィルターガイド16に沿って吸込口の全面を覆うように配置されており、エアフィルター清掃装置50は、前面側下部の熱交換器30と前面パネル13との間に設置される。
図2は、図1のエアフィルター40及びエアフィルター清掃装置50の設置部分を拡大して示す前方視の斜視図である。また、図3は、図1のエアフィルター40及びエアフィルター清掃装置50の設置部分を拡大して示す後方視の斜視図である。
図2および図3において、エアフィルター40は、図示しない熱交換器30に沿って前面パネル13から見て回転出力装置60を挟んで左右に1つずつ設けられている。また、エアフィルター40は、左右よりも奥行きが長い略方形の形状を持ち、エアフィルター通気体(網状体)41と、エアフィルター通気体41が設置されたエアフィルター枠体42とから構成されている。また、エアフィルター枠体42は、柔軟性のある材料で成形され、両端裏面には等間隔に配置された凹凸のパターンであるエアフィルター従動ギヤ43が形成されている。
なお、エアフィルター40は、成形時は平板状で形成されるが、空気調和機100に搭載されると柔軟性があるので、図1のようにエアフィルターガイド16に沿って、逆U字状の縦断面を有するような湾曲した形状で保持される。
また、エアフィルター清掃装置50は、図2および図3に示すように、モータ(図示せず)を内蔵し、2枚のエアフィルター40の横方向での間に位置するように設けられた回転出力装置60と、エアフィルター40から塵埃を除去し、この塵埃を溜める塵埃回収部70とから構成される。
また、図4は、この発明の実施の形態1に係るエアフィルターの正面図である。図4に示すようにエアフィルターガイド16と接触する面44には、エアフィルターの挿入方向に対して平行に凸凹45を設けている。また、この凸凹45は挿入方向に対して途中で途切れることなく、そして、凸凹45が逆転することなく連続した形状で形成されている。
・・・
また、図6は、エアフィルター枠体42の断面図である。桟の表面にPET繊維製のエアフィルター通気体(網状体)41を配設した場合には、エアフィルター通気体(網状体)41が簡単に桟から剥れてしまうことがある。そのための対策としてエアフィルター通気体(網状体)41を桟で挟むように配置してインサート成型し、且つエアフィルター枠体42の桟の断面を台形もしくは円弧になるようにすることで、エアフィルター通気体(網状体)41の剥がれを改善しつつ、エアフィルター清掃機構の清掃部での塵埃除去性能を良好に維持することができる。
また、図7は、この発明の実施の形態1に係る塵埃回収部のブラシ機構とエアフィルター駆動歯車の取り付け状態を示す前方視の斜視図である。図7に示すように回転出力装置60の左右側面からエアフィルター駆動歯車52とブラシ揺動軸61が突出している。エアフィルター駆動歯車52は、その先に駆動シャフト53が同軸で伸び、駆動シャフト53の先端にエアフィルター駆動歯車51が同軸で設置されている。また、エアフィルター駆動歯車51およびエアフィルター駆動歯車52は、エアフィルター40の両端裏面に形成されたエアフィルター従動歯43と噛み合うようになっている。
また、図8は、塵埃回収部の横断面図である。図3および図8に示すようにこのエアフィルターガイド82の斜め上方に駆動シャフト53に接続されたエアフィルター駆動歯車51およびエアフィルター駆動歯車52を配置し、エアフィルターガイド82とこれらのエアフィルター駆動歯車51、52との間にエアフィルター40をガイドし、エアフィルター40の裏面の左右両端部に形成されたエアフィルター従動歯43をエアフィルター駆動歯車51、52に押し付けることにより、エアフィルター40がエアフィルター駆動歯車51および52の回転軸を中心として枢動される。
また、ブラシ機構90は、図7に示すように、棒状のアルミ製のブラシ係止シャフト91に短冊状のブラシ92が横方向に延びて配置され、ブラシ係止シャフト91に挿入し固定されている。そして、ブラシ係止シャフト91の両端はブラシ92が抜けてこないようにスリーブ93、94で固定される。
また、図8ではブラシ係止シャフト91は中空円筒状で内部にブラシ92を固定する凸部を設けたものであるが、形状はこれに限定されるものではなく、長手方向側面からブラシ92を挿入でき、内側に設けた凸部でブラシ92を固定することができる形状であれば(例えば中空で断面四角形状のシャフトで内側に固定用の凸部を設けるもの)であればどのような形状であってもよい。
ブラシ係止シャフト91は、その両端が本体80の側面板のブラシ係止穴85に挿入され、図8に示すように短冊状のブラシ92の先端が、本体80の細長い開口穴83から上方に出るように配置される。
また、ブラシ係止シャフト91の左右の一方の端面が回転出力装置60のブラシ揺動軸61に同軸で接続される。
また、回転出力装置60の内部にはモータ(図示せず)とギヤなどの伝達機構によるエアフィルター駆動歯車52の回転と連動して180度を往復揺動する機構(例えば、正転用ギヤの連結と反転用ギヤの切り離しによる往動と、正転用ギヤの切り離しと反転用ギヤの連結による復動を繰り返す機構、あるいは往動用ギヤの連結による往動とこのギヤの切り離しおよび予め設けられているフライホイールによる反転力を利用した復動を繰り返す機構など)が内蔵され、これによりブラシ揺動軸61が180度往復揺動するように構成されている。
このときにブラシ揺動軸61の揺動速度は、エアフィルター40の移動速度がブラシ92の移動速度より遅くなるように選択される。すなわちエアフィルター40の移動速度<ブラシ92の移動速度の関係となるように設定される。
また、回転出力装置60、エアフィルター駆動歯車51、エアフィルター駆動歯車52、駆動シャフト53は空気調和機100に固定されているが、エアフィルター40と塵埃回収部70は着脱自由に空気調和機100に固定される。なお、塵埃回収部70の固定時に図7に示すスリーブ93とブラシ揺動軸61の形状が互いに係合して固定される形状を有するために軸固定された状態になる。
上述したように回転出力装置60は空気調和機100の左右方向の中央に配置されており、これまで、この回転出力装置60の一方(図中、左側)に配置されたエアフィルター清掃装置50のみについて説明したが、他方(図中、右側)についても全く同様の構成となっていて、1つの回転出力装置60で左右の両エアフィルター清掃装置50を駆動させている。
なお、送風ファン20は、送風手段を構成し、エアフィルター駆動歯車51、エアフィルター駆動歯車52、回転出力装置60および駆動シャフト53は、エアフィルター移動手段を構成する。」(段落【0011】?【0031】)

エ「次に、塵埃回収部70の動作について説明する。・・・ブラシ機構90は、図8のブラシ92の先端が上方を向いた状態を中心として前後(図中、左右)に90度ずつ揺動する。つまり図9と図10に示す状態に往復揺動することになる。ブラシ92は、その先端が開口穴83から少し飛び出した状態で構成されているため、エアフィルター通気体(網状体)41とラップした状態で往復揺動し、塵埃を掻き落としていく。エアフィルター通気体(網状体)41からブラシ92に移動した塵埃は、ブラシ機構90の少なくとも一方の側に設置した波状の掻き落とし片84に接触し、掻き落とし片84により掻き落とされて集塵室81に回収、貯留される。
さらに、図8に示すように、往復揺動するブラシ92の両側に掻き落とし片84を設けることで、ブラシ92は往復揺動の片道工程毎に掻き落とし片84と接触し、エアフィルター通気体41から移動してきた塵埃は掻き落とされる。従って、往復揺動の往路でブラシ92に移動した塵埃が、復路において再びエアフィルター通気体41に戻ってしまうという事態は回避でき、確実な塵埃回収が成し遂げられる。
ブラシ92は、上方を向いた短冊状であり、且つ180度往復揺動するため、ブラシ機構90の搭載スペースが小さくできるし、それにより、従来の360度回転ブラシのようにブラシが下方に向かって伸長していないことで、そのブラシの高さ分集塵室81を浅くしても集塵室81に必要な容積、すなわち従来同様の容積は確保できる。よって、このエアフィルター装置50は、装置全体が360度回転ブラシを備えた従来のエアフィルター清掃装置に比べて小型化でき、空気調和機100におけるエアフィルター清掃装置50の搭載スペースを小さくすることができる。また、エアフィルター清掃装置50を小型化できることで、空気調和機100本体を小型化することも可能となる。
さらに、ブラシ92の動作が上方に向かって180度の範囲のみなので、集塵室81に貯留した塵埃、すなわち既にブラシ92によりエアフィルター40から回収した塵埃を、ブラシ92によって上に舞上げてしまうこともない。一度回収した塵埃は、確実に集塵室81内に収めておくことができ、一度集塵室81に回収した塵埃がブラシ92によってエアフィルター40に再び戻ってしまうような事態を回避することができる。
エアフィルター40は、図11の位置まで移動したら、再び元の位置(図1)まで戻ってくる。このときにブラシ機構90も往復揺動しているため、前記同様エアフィルター40を清掃し、エアフィルター40の移動時に常に清掃することになる。エアフィルター40の可動方向に対してブラシ92の可動方向が逆の場合は、当然問題なく塵埃を除去でき、お互いの可動方向が同一の場合もブラシ92の方がスピードを速く設定してあるため問題なく除去できる。」(段落【0040】?【0044】)

オ そして、摘記事項ウの「エアフィルター枠体42は、柔軟性のある材料で成形され、両端裏面には等間隔に配置された凹凸のパターンであるエアフィルター従動ギヤ43が形成されている。」、摘記事項エの「図8に示すように、・・・エアフィルター通気体41から移動してきた塵埃は掻き落とされる。・・・確実な塵埃回収が成し遂げられる。」、「エアフィルター40は、図11の位置まで移動したら、再び元の位置(図1)まで戻ってくる。」の記載、及び、【図2】にエアフィルター通気体41が全域に渉って設けられていることを勘案すると、明記はないものの、エアフィルター従動歯43は、エアフィルター枠体42両端の全域に形成されているものと理解できる。

カ また、【図2】?【図4】によると、エアフィルター枠体42は、その両端の上下端を接続する横枠、上下端がこられ横枠に接続されてエアフィルター枠体42両端の間に設けられた縦棧、及び横枠の間に設けられた横棧を有するものであることが看取できる。

キ 摘記事項エの「ブラシ92は往復揺動の片道工程毎に掻き落とし片84と接触し、・・・塵埃は掻き落とされる。」や、【図9】の記載からみて、エアフィルター40は、湾曲箇所においてブラシ92によりエアーフィルター40に捕捉された塵埃を除去するものといえる。

これら摘記事項ア?エ、認定事項オ?キ及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例1には、
「筐体10の吸込口11に設けられたエアフィルター40と、該エアフィルター40に捕捉された塵埃を除去するエアフィルター清掃装置50と、を備えた空気調和機100において、
前記エアフィルター40は、
左右両側に設けられて裏面側の全域にエアフィルター従動歯43が形成されたエアフィルター枠体42両端、これらエアフィルター枠体42両端の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記エアフィルター枠体42両端の間に設けられた縦棧、及び前記横枠の間に設けられた横棧を有するエアフィルター枠体42と、
該枠体に設けられたエアフィルター通気体41と、
を備え、
前記エアフィルター清掃装置50が、
前記エアフィルター枠体42両端の裏面側に形成された前記エアフィルター従動歯43と噛み合うエアフィルター駆動歯車51,52を有し、
これら歯車を駆動させることにより、前記エアフィルター40を前記エアフィルター枠体42両端の長手方向に移動させて湾曲させる回転出力装置60と、
前記エアフィルター40の湾曲箇所に接するブラシ92と、
を備え、
該回転出力装置60により、前記エアフィルター40を前記エアフィルター枠体42両端の長手方向に移動させて、前記エアフィルター40の前記湾曲箇所を前記エアフィルター枠体42両端の長手方向に移動させ、
該湾曲箇所において前記ブラシ92により前記エアフィルター40に捕捉された塵埃を除去するものである空気調和機100。」(以下「引用発明」という。)が記載されている。

2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実開平5-4848号(実開平6-60416号)のCD-ROM(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア「【請求項1】 空気等の流体が透過可能な板状の透過部材と、該透過部材の少なくとも縁部を覆う枠部材とから構成されるフィルターにおいて、
前記枠部材の表面に当該断面方向の溝が一定個数備えられ、該枠部材の該溝が備えられた付近を、当該溝方向と垂直な面方向へ湾曲させて、一部又は全部を所定の形状に湾曲させ得ることを特徴とするフィルター。
【請求項2】 前記溝が一定間隔で複数個備えられたことを特徴とする請求項1に記載するフィルター。」(【実用新案登録請求の範囲】)

イ「【産業上の利用分野】
本考案は空気洗浄等のためにエアーコンディショニング装置等に取り付けられるフィルターに関する。」(段落【0001】)

ウ「【作用】
本考案のフィルターは、フィルター取り付け部の曲面に合わせられたりして一定の外力が付加されることにより、溝の幅が広げられるようにして、或いは溝の幅が狭められるようにして、枠部材の各溝の各底部付近が、溝方向と垂直な面方向へ湾曲させられる。枠部材の各溝の底部付近が湾曲させられることにより、枠部材の溝が備えられた付近が所定の形状に湾曲させられる。枠部材の溝が備えられた付近が所定の形状に湾曲させられることにより、それに伴い透過部材も湾曲させられて、フィルターの一部又は全部が所定の形状に湾曲させられる。本考案のフィルターはこのようにして枠部材がエアーコンディショニング装置等のフィルター取り付け部の曲面に対応した所定の形状に湾曲させられつつ、フィルター取り付け部に取り付けられる。
従って、本考案のフィルターは、樹脂成形時には平面状に形成しておいて、エアーコンディショニング装置等への取り付け時に、所定の形状に湾曲させることが可能となる。
・・・さらに、樹脂成形金型が曲面を有しなくて良いため、透過部材と枠部材とを一体成形する場合に、透過部材を曲げながら樹脂成形金型へ挿入する必要がなく、透過部材の復元力により位置がずれてしまうことがなくなる。
また、溝が一定間隔で複数個備えられた本考案のフィルターは、溝が一定の間隔で備えられているため、各溝の各底部付近が略同一の曲率に湾曲させられる。
各溝の各底部付近が略同一の曲率に湾曲させられることにより、枠部材の溝が備えられた付近が一定曲率のR形状に湾曲させられる。枠部材の溝が備えられた付近が所定の一定曲率のR形状に湾曲させられることによって、それに伴い透過部材も湾曲させられて、フィルターの一部又は全部が所定のR形状に湾曲させられる。」(段落【0008】?【0010】)

エ「次に、本考案に係るフィルターの枠部材に備えられる溝の位置は特に限定されるものではない。例えば、図7に示すように枠部材46の一端付近50及び中間部付近52に溝48を備えたフィルター51であっても良い。このような枠部材46は、図7(b)に示すように、一端付近と中間部付近との2箇所で異なる方向へ湾曲させることが容易にできる。一方、一端付近と中間部付近との2箇所で同一の方向へ湾曲させることもできる。このため、フィルターを複雑な形状の曲面に柔軟に対応させて湾曲させることが可能となる。
また、本考案に係るフィルターの枠部材に備えられる溝の方向は特に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、X軸方向の溝54とY軸方向の溝56とを備えたフィルター60であっても良い。このような溝54及び56を備えた枠部材58は、溝54付近をX軸と垂直な面方向へ湾曲させ、溝56付近をY軸と垂直な面方向へ湾曲させることによって、ある程度の3次元曲面に湾曲させることができる。このため、3次元曲面を有するフィルター取り付け部の形状に対応させて湾曲させることが可能となる。
以上、本考案に係るフィルターの実施例について、図面に基づいて種々説明したが、本考案に係るフィルターは図示したものに限定されるものではない。」(段落【0022】?【0024】)

オ【図1】、【図7】から、フィルター1の枠部材14は、左右両側に設けられる縦枠、該縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて縦枠の間に設けられた縦桟、前記横枠の間に設けられた横桟を有するものであるとともに、両側の縦枠と同様の溝を縦桟に設けていることが看取できる。

そうすると、引用例2には、
「フィルター10は、左右両側に設けられて表面に一定間隔で溝を備えた縦枠、これら縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦桟、及び前記横枠の間に接続された横桟を有する枠部材14と、
該枠部材14に設けられたネット(透過部材)と、を備え、
該フィルター10の一部又は全部を所定のR形状に湾曲させられるように、縦桟の表面にも前記縦枠の溝と同様の溝を形成したエアコンディショニング装置に取り付けられるフィルター。」(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されている。

3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用した実願昭54-97978号(実開昭56-15921号)のマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

ア「本考案は空気調和機のエアフイルタに関するものである。」(2頁1?2行)

イ「エアフイルタ6は、第2図に示すように可撓性の材料で縦棧7、横棧8及び取つ手9にて構成される枠に網10を一体成形し、前記網10部で吸込空気の除塵を行なうものである。尚一点鎖線部は化粧カバ4に装着した際の形状を示す、また矢印は空気の流れを示している。
この様な構造であるため、エアフイルタ6を化粧カバ4に挿入する際、一点鎖線の如く曲げるため挿入抵抗が大きく、挿入しにくいことや、曲げられる際の応力で網10がねじれやたるみが発生する欠陥があつた。」(2頁10?20行)

ウ「本考案はエアフイルタが化粧カバに挿入された際曲る部分の縦棧と横棧を他の部分より薄くすることにより上記の欠陥を除去するものである。
以下実施例を第3図により説明する。11は、エアフイルタ、12は、縦棧、12aは縦棧を薄くした部分で、化粧カバ4に挿入した際一点線の如く曲げられる部分である。13は横棧、13aは横棧の薄くした部分、尚縦棧12の薄くした部分12aの直前には横棧13bを設けてある。
14は取つ手、15は網、16は突部で薄い部分12a,13a部に形成していて、化粧カバ4からエアフイルタ11を引抜く際、薄くした棧部12a,13a近辺の網と吸込口5との間に隙間を確保し、網面に付着している塵等と、吸込口5とが接触しないようにしている。また矢印は空気の流れを示している。
本考案によれば、薄くした棧部12a,13aが曲り安いためエアフイルタ11の挿入引抜きの際大きな抵抗のない操作ができる。」(3頁1?19行)

エ 第3図の記載からみて、引用例3の左右両側の縦棧の下端には、これらを接続する横棧が認められ、また、摘記事項ウ及び引用例3の左右両側の縦棧の間に設けられた縦棧は、左右両側の縦棧と同様、他の部分よりも薄くされているものと理解できる。

オ さらに、摘記事項イの「曲げられる際の応力で網10がねじれやたるみが発生する欠陥があった」、摘記事項ウの「本考案はエアフイルタが・・・上記の欠陥を除去するものである」との記載からみて、引用例3記載のものは、ねじれやたるみが発生する欠陥を除去する、すなわち、エアフィルタを一様に湾曲するものであることが理解できる。

上記摘記事項ア?ウ、認定事項エ、オ及び図面の記載から、引用例3には、
「空気調和機のエアフイルタであって、
左右両側に設けられた縦棧12、これら縦棧12の上下端を接続する横棧、上下端がこれら横棧に接続されて前記縦棧12の間に設けられた縦棧、及び前記横棧の間に設けられた横棧13を有する枠と、
枠に設けられた網15を備え、
該エアフイルタを、化粧カバに挿入する際曲り安くし、一様に湾曲するため、曲がる部分の左右両側の縦棧と、これらの間に設けられた縦棧とを同様に、他の部分よりも薄くした空気調和機のエアフィルタ。」(以下「引用例3記載事項」という。)が記載されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「吸込口11」は本願補正発明の「吸込み口」に相当し、以下同様に「エアフィルター40」は「エアフィルタ」に、「エアフィルター清掃装置50」は「エアフィルタ清掃装置」に、「裏面」は「背面」に、「エアフィルター従動歯43」は「ラック」に、「エアフィルター枠体42の両端」は「縦枠」に、「エアフィルター枠体42」は「枠体」に、「エアフィルター通気体41」は「フィルタ通気体」に、「フィルター駆動歯車51、52」は「歯車」に、「回転出力装置60」は「エアフィルタ移動手段」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、
「筐体の吸込み口に設けられたエアフィルタと、該エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するエアフィルタ清掃装置と、を備えた空気調和機において、
前記エアフィルタは、
左右両側に設けられて背面側の全域にラックが形成された縦枠、これら縦枠の上下端に接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦桟、及び前記横枠の間に設けられた横桟を有する枠体と、
該枠体に設けられたフィルタ通気体と、
を備え、
前記エアフィルタ清掃装置が、
前記縦枠の背面側に形成された前記ラックと噛合う歯車を有し、
これら歯車を駆動させることにより、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて湾曲させるエアフィルタ移動手段と、
前記エアフィルタの湾曲箇所に接するブラシと、
を備え、
該エアフィルタ移動手段により、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて、前記エアフィルタの前記湾曲箇所を前記縦枠の長手方向に移動させ、
該湾曲箇所において前記ブラシにより前記エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するものである空気調和機。」
の点で一致し、
次の点で相違している。
[相違点]
本願補正発明では、「エアフィルタは、該エアフィルタが一様に湾曲するように、縦棧の背面側にも、その全域に前記ラックと略同一形状のラックが形成されている」のに対し、引用発明では、縦棧がそのようになっていない点。

(4)判断
そこで、上記相違点について検討する。
まず、本願補正発明において、エアフィルタが一様に湾曲するように構成することの技術的意味を検討する。
本件明細書の段落【0004】?【0005】に、「エアフィルタをガイド手段に沿って湾曲させた際に、凹凸が設けられた縦枠と凹凸のない縦棧との間で曲率が異なるため、エアフィルタを一様に湾曲させることができなかった。
そのため、エアフィルタがガイド手段から外れたり、エアフィルタが撓んで他の構造体に引っ掛かったりして動作不良を起こし易いという問題があり、また、このために清掃手段によるフィルタの清掃効率が悪いなどの問題があった。」、
段落【0009】「【発明の効果】本発明によれば、エアフィルタを湾曲させる際に屈曲率が一定となるので、エアフィルタ清掃装置の塵埃除去機能を良好に維持することができる。」と記載されている。
このように、本願補正発明において前記構成のようにするのは、エアフィルタの屈曲率を一定とすることにより動作不良を改善し、延いては塵埃除去機能を良好に維持するためと考えられる。
一方、引用例1において、発明の解決しようとする課題について、「エアフィルターが移動しているときに周囲と引っ掛かることなくスムーズに動作することができるエアフィルター及びそれをもちいたエアフィルター清掃装置並びに空気調和機の提供を目的とする。」との記載がある(上記「(2)1)イ」参照。)ように、エアフィルターが湾曲し曲率半径の小さな箇所が発生するものにおいて、その移動に際し、スムーズな動作をすることは、一般的な課題といえ、引用発明においても、求められるものと考えられる。

また、前記のとおり、当該技術分野において、引用文献2、引用文献3があり、これらを本願補正発明と対比すると次のようになる。

引用例2記載事項について、引用例2記載事項の「フィルター10」は本願補正発明の「エアフィルタ」に相当し、以下同様に、「枠部材14」は「枠体」に、「ネット(透過部材)2」は「フィルタ通気体」に、「エアコンディショニング装置」は「空気調和機」に、それぞれ相当する。
また、引用例2記載事項の「一定間隔で備えた溝」と本願補正発明の「ラック」は、「フィルターを所定のR形状に湾曲させるための構造」である点で共通する。

そうすると、引用例2記載事項は、
「エアフィルタは、左右両側に設けられて表面にフィルターを所定のR形状に湾曲させるための構造を備えた縦枠、これら縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦棧、及び前記横枠の間に接続された横棧を有する枠体と、
該枠体に設けられたフィルタ通気体と、を備え、
該エアフィルタの一部又は全部を所定のR形状に湾曲させられるように、縦棧の表面にも前記縦枠の構造と同様の構造を備えたエアフィルタ。」と言い換えることができる。

引用例3記載事項についてみると、引用例3記載事項の「エアフイルタ」は本願補正発明の「エアフィルタ」に相当し、以下同様に、「縦棧12」は「縦枠」及び「縦棧」に、「横棧13」は「横枠」及び「横棧」に、「枠」は「枠体」に、「網15」は「フィルタ通気体」に、それぞれ相当する。
そして、引用例3記載事項における「他の部分より薄くする(こと)」と本願補正発明の「ラック」は、エアフィルタを湾曲し、抵抗のない操作ができるための構造である点で共通する。

そうすると、引用例3記載事項は、
「空気調和機のエアフィルタであって、
左右両側に設けられた縦枠、これら縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦棧、及び前記横枠の間に設けられた横棧を有する枠体と、
該枠体の設けられたフィルター通気体と、
を備え、
該エアフィルタを化粧カバに挿入する際曲がり安くするため、曲がる部分の左右両側の縦枠と、これらの間に設けられた縦棧とを同様に、エアフィルタを湾曲し、抵抗のない操作ができるための構造を備えた空気調和機のエアフィルタ。」と言い換えることができる。

このように、空気調和機のエアフィルタの分野において、エアフィルタの湾曲を容易とするために、その枠体を構成する縦枠及び縦棧について、湾曲を容易とするための構成を、同様に設けることは、本件遡及出願の出願前、良く知られた技術事項であるといえる。

そして、引用例1に「特許文献1の空気調和機は、柔軟性のある素材を用い湾曲させやすくするために、エアフィルターを移送させる駆動手段に噛合するための凹凸が縦枠の可動方向に形成され、」(上記「(2)1)イ」)とあり、引用例1記載のものにおいて、縦枠に凹凸を設ければ湾曲させやすくさせるとの認識はあったものといえる。

してみると、引用発明のエアフィルタにおいて、エアフィルタが一様に湾曲するように、縦棧の背面側にも、その全域に前記ラックと略同一形状のラックが形成されるものとした点は、エアフィルタをスムーズに動作させるために、上記引用例2記載事項、引用例3記載事項に基づいて、当業者であれば容易に想到することができたものである。

なお、請求人は、平成23年12月8日付けの審判請求書において、「一方、引用文献2,3に記載の技術は、単に曲げたい箇所の縦枠及び縦棧の厚みを薄くし、当該箇所を曲がりやすくしているにすぎません。そして、引用文献2,3には、エアフィルタを一様に湾曲させるために縦棧の背面側にラックを形成するという本願発明1における思想は全く開示されておらず、示唆する記載もありません。」(7頁27行?8頁3行)、平成24年4月5日付けの回答書において、「一方、引用文献2の内容を見る限り、引用文献2に記載の発明は、倣い部材(つまり、引用文献2に示す曲面19と当該曲面19に対向する図示しない部材とによって構成されるガイド)に倣いながら湾曲する縦枠又は横枠を前提とした発明となっています。そして、引用文献2には、縦枠又は横枠の強度が弱いほど(例えば、溝の底部が薄いほど、溝の底部が細いほど、溝の底部の長さ(縦枠の長手方向の距離)が長いほど)縦枠が湾曲しやすいと記載されています。このため、引用文献2の段落[0010]の上記記載のうち「…溝が一定の間隔で備えられているため、各溝の各底部付近が略同一の曲率に湾曲させられる。各溝の各底部付近が略同一の曲率に湾曲させられることにより、枠部材の溝が備えられた付近が一定曲率のR形状に湾曲させられる。枠部材の溝が備えられた付近が所定の一定曲率のR形状に湾曲させられることによって、それに伴い透過部材も湾曲させられて、フィルターの一部又は全部が所定のR形状に湾曲させられる。」という記載は、倣い部材(つまり、ガイド)に支持される1本の縦枠又は横枠に着目した記載と思慮いたします。つまり、引用文献2の当該記載は、「倣い部材に支持される1本の縦枠又は横枠は、溝の底部形状を同じにすることによって溝形成範囲を一定曲率で倣い部材に倣わせることができる」ということを開示しているのみであって、「倣い部材に倣いながら湾曲する縦枠と、倣い部材がない状態で湾曲する縦棧とが、一様に湾曲する」という本願発明1の構成を開示又は示唆するものではありません。」(5頁6行?24行)と主張するので検討する。
前者についてみると、引用例2に記載のものは、「フィルターの一部又は全部を所定のR形状に湾曲させられるように、」するものであるから、エアフィルタが一様に(同様に)湾曲するようにすることの示唆があり、引用例3にも同様の示唆があることは、前記のとおりである(「(2)3)オ」参照。)。
後者についてみると、引用例2の「フィルター取り付け部の曲面19」が、すべて、倣い部材(ガイド)の支持を必須の構成とするものかは明らかではない。しかし、エアフィルタの全部を所定のR形状に湾曲することが明記されている以上、仮に縦桟(縦枠以外)の支持部材がない場合であっても、エアフィルタを一様に湾曲するようにする程度のことは、動作をスムーズにする必要に応じて、当業者が通常の創作能力を発揮することにより想到し得ることである。引用例3においても、曲がり易くするため縦枠と縦桟に同様の構成を採用するものが開示されている以上、仮に、縦桟(縦枠以外)の支持部材がない場合であっても、エアフィルタを一様に湾曲する程度のことは、動作をスムーズにする必要に応じて、当業者が通常の創作能力を発揮することにより想到し得ることである。
したがって、請求人の上記主張は、採用できない。

そして、本願補正発明の効果をみても、エアフィルタの動作不良を改善し、塵埃除去機能を良好に維持することは、エアフィルタを一様に湾曲させることに伴って奏される効果であるといえる。
したがって、本願補正発明の奏する効果を全体としても、引用発明、引用例2記載事項、引用例3記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2記載事項、引用例3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成23年12月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、本願の平成23年7月13日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「筐体の吸込み口に設けられたエアフィルタと、該エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するエアフィルタ清掃装置と、を備えた空気調和機において、 前記エアフィルタは、
左右両側に設けられて背面側の全域にラックが形成された縦枠、これら縦枠の上下端を接続する横枠、上下端がこれら横枠に接続されて前記縦枠の間に設けられた縦棧、及び前記横枠の間に設けられた横棧を有する枠体と、
該枠体に設けられたフィルタ通気体と、
を備え、
前記エアフィルタ清掃装置が、
前記縦枠の背面側に形成された前記ラックと噛合う歯車を有し、これら歯車を駆動させることにより、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて湾曲させるエアフィルタ移動手段と、
前記エアフィルタの湾曲箇所に接するブラシと、
を備え、
該エアフィルタ移動手段により、前記エアフィルタを前記縦枠の長手方向に移動させて、前記エアフィルタの前記湾曲箇所を前記縦枠の長手方向に移動させ、
該湾曲箇所において前記ブラシにより前記エアフィルタに捕捉された塵埃を除去するものであるとともに、
前記エアフィルタは、
前記縦棧の背面側にも、その全域に前記ラックと略同一形状のラックが形成されていることを特徴とする空気調和機。 」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から「エアフィルタ」の限定事項である「該エアフィルタが一様に湾曲するように、」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成をすべて含み、さらに他の構成を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2記載事項、引用例3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用例2記載事項、引用例3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2記載事項、引用例3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-16 
結審通知日 2012-05-22 
審決日 2012-06-05 
出願番号 特願2011-43120(P2011-43120)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F24F)
P 1 8・ 121- Z (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松井 裕典礒部 賢  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 森川 元嗣
亀田 貴志
発明の名称 空気調和機  
代理人 安島 清  
代理人 小河 卓  
代理人 村田 健誠  
代理人 高梨 範夫  
代理人 山東 元希  
代理人 大谷 元  
代理人 小林 久夫  

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