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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1260465
審判番号 不服2010-17349  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-03 
確定日 2012-07-20 
事件の表示 特願2007-700092「新規ネコ免疫不全ウイルス株及びその外被膜蛋白質遺伝子RNAに対応するDNA並びにネコ免疫不全ウイルスワクチン」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件特許及び本件特許発明
特許第3531880号(以下、「本件特許」という。)は、平成6年2月28日に出願され(特願平6-30193号)、平成16年3月12日に特許権の設定登録がされたものであって、その特許発明は特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】 ネコ免疫不全ウイルス外被膜遺伝子RNAに対応するDNA塩基配列が、
【化1】

【化2】

に示される特徴を持つネコ免疫不全ウイルス静岡株。
【請求項2】 請求項1記載のネコ不全ウイルス株を持続的に生産可能とせしめることを特徴とするネコT細胞系株化細胞。
【請求項3】 ネコ免疫不全ウイルスの外被膜遺伝子RNAに対応するDNAの塩基配列が、
【化3】(省略。なお、【化1】と同一の配列である。)
【化4】(省略。なお、【化2】と同一の配列である。)
に示されることを特徴とするDNA。
【請求項4】 ネコ免疫不全ウイルス外被膜蛋白質であり、そのアミノ酸配列が、
【化5】(省略。なお、【化1】と同一の配列である。)
【化6】(省略。なお、【化2】と同一の配列である。)
で示される蛋白質またはそれに糖鎖が付加されたことを特徴とする蛋白質。
【請求項5】 前記請求項1記載のウイルス株を不活化処理加工あるいは弱毒化処理加工により作製したことを特徴とする後天性ネコ免疫不全症候群に対するワクチン。
【請求項6】 前記請求項1記載のネコ免疫不全ウイルス株と他の1株またはそれ以上のネコ免疫不全ウイルスを混合し、不活化処理加工あるいは弱毒化処理加工により作製したことを特徴とする後天性ネコ免疫不全症候群に対する多価ワクチン。
【請求項7】 他の1株またはそれ以上の株のネコ免疫不全ウイルスが、ネコ免疫不全ウイルスペタルマ株、ネコ免疫不全ウイルスデイクソン株、ネコ免疫不全ウイルスTM2株からなる群より選ばれた1株ないしそれ以上の株のウイルス株であることを特徴とする請求項6記載の多価ワクチン。
【請求項8】 ネコ免疫不全ウイルスの外被膜遺伝子を含むDNAであり、請求項4に記載された蛋白質を発現し得るように構築されたことを特徴とする発現用プラスミド、ファージあるいはウイルスのベクターDNA構造物。
【請求項9】 ネコ免疫不全ウイルス外被膜蛋白質であり、請求項8の発現用ベクターDNAを含む菌あるいは動物の細胞の培養によって生産されたことを特徴とする蛋白質。
【請求項10】 生産された蛋白質が前記請求項4記載の蛋白質であることを特徴とする請求項9記載の蛋白質。」

2.本件特許権存続期間の延長登録出願
本件特許権存続期間の延長登録出願(以下、「本件出願」という。)は、平成19年9月25日に出願され、平成22年5月10日付けで拒絶査定がされ、同年8月3日に審判請求がされたものである。
本件出願は、特許発明の実施について特許法第67条第2項の政令に定める処分を受けることが必要であったとして、3年3月8日の特許権存続期間の延長登録を求めるものであり、平成20年9月25日付け、平成21年3月23日付け、同年8月28日付け、及び平成22年2月2日付けの各手続補正書により補正された本件出願の願書(以下、単に「本件出願の願書」という。)には、その政令で定める処分として、以下の事項が記載されている(以下、「本件処分」という。)。

(1)延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認

(2)処分を特定する番号
農林水産省指令19動薬第636号

(3)処分の対象となった物
処分の対象となった医薬品の有効成分
主剤 猫リンパ球継代細胞持続感染猫免疫不全ウイルスペタルマ株
主剤 猫リンパ球継代細胞持続感染猫免疫不全ウイルス静岡株

(4)処分の対象となった物について特定された用途(効能効果)
猫免疫不全ウイルスの持続感染の予防

3.原審の拒絶理由の概要
原審の拒絶理由は、「この出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、この出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当する。」というものである。
より具体的には、本件特許の請求項5?7が引用する請求項1には、ネコ免疫不全ウイルス静岡株に関し、その外被膜遺伝子RNAに対応するDNA塩基配列が特定のものである旨が記載されているところ、本件出願の延長の理由を記載した資料、及び本件処分について添付された資料の記載からは、本件処分の対象となった静岡株が、本件特許発明における静岡株に相当することが十分に説明されたものといえないため、本件特許発明の実施に、本件処分を受けることが必要であったとは認められない旨を指摘している。

4.当審の判断
(1)本件出願の願書において、本件処分の対象となった医薬品の有効成分は、猫リンパ球継代細胞持続感染猫免疫不全ウイルス静岡株を主剤の一つとするものであって、この有効成分が請求項5?7に記載されているとあるので、まず、請求項5に係る特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったか否かについて検討する。
本件出願の願書に添付された資料である、平成19年6月20日付けの農林水産省指令19動薬第636号には、平成18年1月10日付けで申請のあった動物用医薬品「フェロバックスFIV」に関する製造販売について承認する旨が記載されており、平成18年1月10日付けの動物用医薬品製造販売承認申請書には、上記猫免疫不全ウイルス(以下、「FIV」という。)静岡株について、以下の記載がなされている(なお、下線は当審で付加した。)。

「6.1.2 FIV静岡株持続感染猫リンパ球継代細胞Shiz-SF株
6.1.2.1 名称
FIV静岡株(以下「静岡株」という。)持続感染猫リンパ球継代細胞Shiz-SF株(以下「Shiz-SF細胞株」という。)
6.1.2.2 由来
静岡株は、1995年、静岡県で免疫不全様症状を呈した猫から、北里大学獣医畜産学部の宝達らにより分離・同定されたものである。
Shiz-SF細胞株は、1997年、カリフォルニア大学の山本らが静岡株を感染させた猫リンパ球継代培養細胞FetJ株から作出したもので、静岡株を持続的に産生する細胞株である。フォートダッジ・アニマルヘルス社は、1998年、フロリダ大学に移籍した山本から122代継代されたShiz-SF細胞株の分与を受け、これを初代として12代継代したものを原株(別紙規格8)とした。
・・・(中略)・・・
6.1.2.4 継代及び保存
原株及び原種ウイルスは(別紙規格9)は、細胞増殖用培養液(付記1)で継代する。種ウイルスは、原種ウイルスからワクチンの製造ごとに用事調整する。・・・(中略)・・・
6.2 製造用材料
・・・(中略)・・・
6.2.2 静岡株
6.2.2.1 培養細胞
Shiz-SF細胞株を用いる。
・・・(中略)・・・
6.3.2.2 細胞の不活化及び濃縮
個体別細胞浮遊液にホルマリンを0.3vol%の割合に加えて、攪拌しながら18?25℃で36時間以上感作して細胞及びウイルスを不活化する。・・・(後略)」

「8 効能又は効果
猫免疫不全ウイルスの持続感染の予防」

以上の記載から、本件処分の対象となった医薬品は、Shiz-SF細胞株によって持続的に産生されるFIV静岡株を不活化処理したものを含有する、猫免疫不全ウイルスの持続感染の予防のためのワクチンであると認められるから、請求項5の発明特定事項のうち、「ネコ免疫不全ウイルス静岡株を不活化処理加工により作製したことを特徴とする後天性ネコ免疫不全症候群に対するワクチン」を備えているといえる。

一方で、本件特許の請求項5は請求項1を引用して記載されているところ、請求項1に記載されたFIV静岡株は上記「1.」で示したとおり、その外被膜遺伝子RNAに対応するDNA塩基配列が【化1】?【化2】に示される特徴を持つものとして定義されたものである。

すすんで、本件処分の対象となった医薬品のFIV静岡株が、上記の特徴を備えているか否か、すなわち、請求項5に記載されたFIV静岡株に該当するか否かについて検討する。
審判請求書には、本件処分の対象となった医薬品「フェロバックスFIV」の製造に用いられている、FIV Shizuoka株持続感染リンパ球継代細胞Shiz-SF細胞株よりDNAを抽出し、FIV遺伝子の増幅を行い、そのenv遺伝子の塩基配列と、「FIV Shizuoka株」のenv遺伝子の塩基配列とを、遺伝子解析ソフトウェアを用いて配列比較したこと、並びにその結果として、2つの塩基配列の相同性は99.2%であり、両者は19塩基について相違するものであったことが、記載されている。
ここで、Shizuoka株とは静岡株の「静岡」をローマ字表記したものであり、またenv遺伝子は外被膜遺伝子を意味することは明らかである。さらに、比較対象とされた後者の「FIV Shizuoka株」のenv遺伝子の塩基配列(塩基数2574)のうち、3’末端の3つの塩基を除く塩基番号1?2571の配列は、本件特許の請求項1の【化1】?【化2】で示される塩基配列と同じ配列であると認められる。そして、審判請求書に示された配列比較からは、Shiz-SF細胞株から抽出されたenv遺伝子の塩基配列と、比較対象とされた後者の「FIV Shizuoka株」のenv遺伝子の塩基配列において相違する19塩基は、すべて上記の塩基番号1?2571、すなわち本件特許の請求項1の【化1】?【化2】で示される塩基配列に対応する領域に含まれるものと認められる。
してみると、本件処分の対象となった医薬品のFIV静岡株は、その外被膜遺伝子RNAに対応するDNA塩基配列が、【化1】?【化2】に示される特徴を備えておらず、請求項5に記載されたFIV静岡株に該当しないものであることが明らかである。
以上のとおり、本件処分の対象となった医薬品は、請求項5の発明特定事項の一部を備えていないから、本件請求項5に係る特許発明の実施に、本件処分を受けることが必要であったとはいえない。

また、本件特許の請求項1?4、6?10は、いずれも本件特許の請求項1と同じ塩基配列あるいは対応するアミノ酸配列を発明特定事項として含むものであるから、これらの請求項に係る特許発明についても、その実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえない。

(2)これに対し請求人は、審判請求書に示した、上記塩基配列の比較結果に基づいて、本件処分の対象となった医薬品の製造に用いられているShiz-SF細胞株から抽出されたFIV外被膜遺伝子は、本件特許発明で特定されたFIV静岡株の同遺伝子と99.2%の相同性を示すものであり、現在、外被膜遺伝子の全領域の塩基配列が公開されているFIV株のうち、最も相同性が高かったことを指摘している。
そして、Shiz-SF細胞株中にはFIV Shizuoka株の遺伝子がほとんど保存されていたことが確認できたことから、本件処分の対象となった静岡株が本件特許発明における静岡株に相当することは明白である旨、主張している。

しかしながら、上述したとおり、本件特許請求の範囲に記載されたFIV静岡株は【化1】?【化2】に示される特徴を持つ外被膜遺伝子を有するものとして定義されているから、【化1】?【化2】に示される特定の塩基配列と一部異なる塩基配列を有する、本件処分の対象となった医薬品のFIV静岡株は、本件特許請求の範囲に記載されたFIV静岡株には該当しないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件出願は特許法第67条の3第1項第1号の規定に該当し、本件特許存続期間の延長登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-05-17 
結審通知日 2012-05-23 
審決日 2012-06-05 
出願番号 特願2007-700092(P2007-700092)
審決分類 P 1 8・ 71- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荒木 英則  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 新留 豊
大久保 元浩
発明の名称 新規ネコ免疫不全ウイルス株及びその外被膜蛋白質遺伝子RNAに対応するDNA並びにネコ免疫不全ウイルスワクチン  
代理人 小林 和憲  

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