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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) G06F
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由)(定型) G06F
管理番号 1260571
審判番号 不服2010-7668  
総通号数 153 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-12 
確定日 2012-07-24 
事件の表示 特願2003-368802「商品購入における信頼値の算出方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月26日出願公開、特開2005-135071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本願は、平成15年10月29日の出願であって、その請求項に係る発明は、特許請求の範囲の請求項に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
これに対して、平成23年 7月28日付けで拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人からは何らの応答もない。
なお、平成23年7月28日付けの拒絶理由通知は以下のとおりである。
「理由1
この出願の下記の請求項に記載されたものは、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。


1.請求項1の記載内容
本願の請求項1には下記のように記載されている。

「入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置を有し、所与のn個のノード(u_(i)、i=1?n)の信頼値を求める装置であって、
それぞれ入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置により実現される手段であって、
(a)前記ノード間の信頼関係に関する情報に基づいて、前記ノード間における信頼の方向を示す矢を選択する手段と、
(b)ノードu_(i)からノードu_(j)への前記矢の重み付け値P_(ij)(i=1?n、j=1?n)を求める手段、
(c)前記求められた重み付け値P_(ij)を要素とする行列Pから行列P'を求める手段であって、
ここで、
前記行列P'は、P’=cP+(1-c)E により与えられ、
eは、行列P’を与え、全ての要素が1であるベクトルであり、
vは、行列P’を与え、各要素がノードに対する重みを示し、各要素の和が1であるベクトルであり、
ベクトル・行列に付されたTは、転置を示し、
cは0≦c≦1であり、
行列Eは、E=e・v^(T)により与えられる
手段と、
(d)前記求められた行列P'から、次式に従って各ノードの信頼値TV(u_(i))、(i=1?n)を求める手段であって、
【数1】
TV(u_(i))= Σ P'(u_(j)→u_(i))TV(u_(j))
uj∈BN(ui)
ここで、
【数2】
U_(j)∈BN(U_(i))

は、u_(i)に向かっている情報を有する全てのノードの集合を表わし、P'Tの固有値1に対する固有ベクトルX^(T)(=(TV(u_(1)),・・・,TV(u_(n)))に含まれるTV(u_(i))、i=1?nを求め、各ノードの信頼値TV(u_(i))とする手段と
を有する装置。」

2.請求項1の(a)?(d)に記載されている内容の検討
上記した請求項1の(a)から(d)に示されていることについて、明細書等の記載を踏まえて検討する。

2の1.(a)について
まず、請求項1には「前記ノード間の信頼関係に関する情報に基づいて、前記ノード間における信頼の方向を示す矢を選択する」と記載されている。
請求項1の指摘した箇所に対応して、明細書等には次のように記載されている。

「【0009】
本願発明では、消費活動の主体と及び主体間の信頼関係とをアンケート、ウェブページ、雑誌、電子掲示板などさまざまな情報源から抽出し、主体をノードとし、信頼関係を矢とするネットワーク図で表現する。以下本願明細書では図1を「信頼値無しの信頼ネットワーク図」と呼ぶ。」

「【0013】
…(中略)…
日常生活における消費活動においては、ウェブサイト、消費者、広告媒体、商店、製造者、専門家(評論家)など(「主体」)が関与している。これらの主体間にはある種の信頼関係があると考えられる。図1は本願発明の基本的な概念を説明する信頼ネットワーク図である。消費活動に参加しているウェブサイト、消費者、広告媒体、商店、製造者、専門家(評論家)等の「主体」をノードとし、それらの間の信頼関係を「矢」で表現する。ここで、矢は信頼しているノードから信頼されているノードへの向かいその方向を矢で示す。消費活動の場での信頼関係の図ができる。これを信頼ネットワーク図と呼ぶことにする。図1ではまだ信頼値は、計算されていないので、「信頼値無しの信頼ネットワーク図」と呼ぶ。」

「【0014】
本願発明に依れば、先ず信頼値を必要とする「主体」を決定し、次に主体間を関連付ける「矢」を決める。これらの「主体」、「矢」及びこれらの重み付けの値を決定するが、本願発明で対象とする、消費活動に存在する信頼関係の基となる考え方として、例えば次のようなものが挙げられる。
(1)良い商品を求める顧客は、信頼できる製造者や商店の製品を買おうとする。
(2)顧客は自分が信頼する専門家や雑誌などの意見を参考にする。
(3)顧客は実際に製品を使ったことのある別の顧客の意見を参考にする。
(4)製造者や商店は信頼する広告媒体に広告を出す。
(5)評論家は信頼できる製品、商店、製造者を紹介する。」

「【0017】
以下、図2に示すアルゴリズムの詳細について説明する。
10:ノード・矢の選択
消費活動の信頼ネットワークに関係する「主体」は、顧客、専門家(評論家)、広告媒体、雑誌、ウェブサイト、製品、製造者、商店等である。これらがノードとして表現される。これらの主体(ノード)間に何らかの信頼関係に関する情報がある時には、これらの「ノード」間を矢で結び、信頼しているノードから信頼されているノードへ向いその方向を示している。ノード間にある信頼関係としては、「製品の評価をした」、「雑誌に記事を書いた」、「広告を出した」、「製品を買った」、「製品を作った」、「製品を紹介した」、「専門家を雇った」等がある。
20:信頼値なしの信頼ネットワーク図の作成
ステップ10で、決定した情報をもとに、信頼ネットワーク図を作成する(図1参照)。」

「【0021】
以下、信頼値の計算について詳細を説明する。
110:各ノード間の0又は1以上の矢を選択する。
ノード間を結んでいる矢について説明する。ノード間に信頼性の情報が存在し無ければ、矢も存在しない。また、相対するノード間の矢の数は1つとは限らない。例えば、評論家Aと商品Bとの関係において、評論家Aの商品Bの機能・価格に関する記事が雑誌Cに掲載され、また同時期に、評論家Aの商品Bの性能に関する記事が雑誌C’に掲載された場合、評論家Aを表わすノードと商品Bを表わすノードとの間には2つの矢が存在することになる。これらの情報を考慮してノード間の矢を決める。ここで、ノードu_(i)及びノードu_(j)間に存在する矢をA(u_(i)→u_(j))_(k)(k=1?m)と表わす。
…(後略)…」

上記で示した明細書等の記載を考慮すれば、請求項1における「前記ノード間の信頼関係に関する情報に基づいて、前記ノード間における信頼の方向を示す矢を選択する」という箇所は、明細書等における、例えばアンケート、ウェブページ、雑誌、電子掲示板などさまざまな情報源から抽出した、消費活動の主体(ノード)間の信頼関係に関する情報に基づいて、いずれの主体(ノード)間に矢を置くことにするのかを定め、図面の【図1】の信頼ネットワーク図を定めることに対応するものである。
ここで、主体(ノード)間の信頼関係に関する情報として、例えばアンケート、ウェブページ、雑誌、電子掲示板などのさまざまな情報源から、いかなる情報を採用するのかは、人為的に取り決めるものである。また、主体(ノード)間にいかなる信頼関係に関する情報があれば、主体(ノード)間に矢を置くことにするのか、また、矢を置く場合にどちらの主体(ノード)からどちらの主体(ノード)に向けた矢とするのかも、例えば明細書の【0014】に例示されるような人為的な取り決めにより定められるものである。

2の2.(b)について
次に、請求項1には「ノードu_(i)からノードu_(j)への前記矢の重み付け値P_(ij)(i=1?n、j=1?n)を求める」と記載されている。
請求項1の指摘した箇所に対応して、明細書等には次のように記載されている。

「【0018】
30:ノード・矢の重み付け値の決定
次に、ノードの信頼値を得るために、消費活動に関係のある情報源から関連するデータを集める。たとえばhttp://www.about.com から対象とする製品のページにアクセスし、関連あるウェブページを参照する。また雑誌の製品紹介または評価記事、広告、アンケート結果なども信頼値を得るためのデータとなる。この情報は人手により取り出すこともできるが、自然言語処理を応用した情報抽出器などを用いての自動または半自動の抽出も可能である。
また、ノード間に何らかの信頼関係に関する情報がある時には、それらの情報をもとに矢に重み付けする。…(後略)…」

「【0021】
以下、信頼値の計算について詳細を説明する。
…(中略)…
120:全ての矢に対して、重み付けの初期値を決める。
ノード間に存在する情報の内容によって、矢A(u_(i)→u_(j))_(k)(k=1?m)の重み付けの初期値を決めていく。
130:ノードu_(i)からノードu_(j)へ向かう全ての矢の初期値の和を求める。
矢の初期値の和をAW_(acc)(u_(i)→u_(j))とすると、
【0022】
【数7】
m
(1) AW_(acc)(u_(i)→u_(j))= ΣAW_(init)(u_(i)→u_(j))_(k)
k=1
【0023】
となる。
140:ノードu_(i)を始点とする矢の重みの初期値の和を求める。
この初期値の和をAW_(acc)(u_(i))とする。
150:調整された重みP_(ij)を求めるステップ。
ここで
【0024】
【数8】
(2) P_(ij) =AW_(acc)(u_(i)→u_(j))/AW_(acc)(u_(i))
【0025】
とする。
この調整によって、各ノード間の矢の重み値は0から1までの値を取り、P_(ij)で表わす事が出来る。」

「【0037】
別の応用例として、予め知られている、あるいは強調したい主体間の信頼関係の程度を信頼値計算に反映させることによる個別化が考えられる。矢の信頼値を変更する場合を例にとって説明する。前述のように、何らかの関係を有するノード間には1つ以上の矢が存在する。例えば、特定の雑誌に関係する主体と、その主体と信頼関係を有する他の主体間の矢の値の比重を重くすることが出来る。変更された矢の値を用いて、信頼値を求めることにより、その雑誌購読者特有の信頼値を考慮した信頼値を求めることが出来る。その結果信頼されていると考えられる主体の製品を推薦、紹介出来、その雑誌を購読している人に対してより良い製品が推薦、紹介できる。この場合には、ノード間の矢の重み値を変更すること、あるいは、調整された重みP_(ij)を変更することによって実現できる。個人や個人が属するグループ特有の信頼関係を活用した計算ができる。…(後略)…」

上記で示した明細書等の記載を考慮すれば、請求項1における「ノードu_(i)からノードu_(j)への前記矢の重み付け値P_(ij)(i=1?n、j=1?n)を求める」という箇所は、明細書等における、ノード間の信頼関係に関する情報を用いて、各矢A(u_(i)→u_(j))_(k)(k=1?m)の重み付けの初期値を定め、この矢の重み付けの初期値を用いて、ノードu_(i)からノードu_(j)へ向かう全ての矢の初期値の和AW_(acc)(u_(i)→u_(j))を求め、ノードu_(i)を始点とする矢の重みの総和が1となるようにAW_(acc)(u_(i)→u_(j))を調整してP_(ij)とすることに対応するものである。
既に述べたように、ノード間の信頼関係に関する情報として、例えばアンケート、ウェブページ、雑誌、電子掲示板などのさまざまな情報源から、いかなる情報を採用するのかは、人為的に取り決めるものである。また、ノード間の信頼関係に関する情報を用いて、各矢A(u_(i)→u_(j))_(k)(k=1?m)の重み付けの初期値をどのように定めるのかも人為的に取り決めるものである(特に、明細書の【0037】を参照のこと。)。結局、このように定められた各矢A(u_(i)→u_(j))_(k)(k=1?m)の重み付けの初期値を用いて導かれる行列Pの各要素P_(ij)も人為的な取り決めに基づいた行列であるといえる。

2の3.(c)について
さらに、請求項1には、「前記求められた重み付け値P_(ij)を要素とする行列Pから行列P'を求める」、「前記行列P'は、P’=cP+(1-c)E により与えられ」、「eは、…(中略)…全ての要素が1であるベクトルであり」、「vは、…(中略)…各要素がノードに対する重みを示し、各要素の和が1であるベクトルであり」、「ベクトル・行列に付されたTは、転置を示し」、「cは0≦c≦1であり」、「行列Eは、E=e・v^(T)により与えられる」と記載されている。
請求項1の指摘した箇所に対応して、明細書等には次のように記載されている。

「【0010】
…(中略)…予め信頼程度が分かっている主体に関する情報を反映させて信頼値を計算できる。
【0011】
さらに、個人が持っている、いろいろな主体に対する信頼の度合いを反映させて信頼値を計算できる。いわゆるパーソナライゼーション的な個別化を図ることができる。」

「【0015】
…(中略)…予め信頼できると分かっているノードは重く、信頼できないと分かっているノードは軽く重み付けをして信頼値を計算する。…(後略)…」

「【0018】
30:ノード・矢の重み付け値の決定
…(中略)…さらに、これらの情報をもとに予め信頼が置けるノードであることが分かっている場合には、そのノードに対してより高い重み付けの値を与える。」

「【0026】
160:ベクトルvを定義する。
ベクトルvは、各要素がノードに対する重みを表わし各要素の和が1であるベクトルである。ベクトルvの値は、ノードに対する信頼の程度と考えられ、例えばノードに対する雑誌の評価記事や個人の信頼感、評価機関などによる格付け情報をもとに決めることができる。ベクトルvの値を、消費者の所望の目的に従って調整することにより消費者の目的を考慮した信頼値が得られる。
170:行列E=e・v^(T)を求め、P’=cP+(1-c)Eを算出する。
全ての要素が1であるベクトルeを用いて、行列E=e・v^(T)を求め、P’=cP+(1-c)Eを算出する。ここでcは0≦c≦1を満たす定数であり、実験によりその値を求めることが出来る。」

「【0036】
個人の嗜好プロファイル情報を考慮して、ノードや矢の重み付け値を変更することにより、個人の嗜好プロファイルを考慮した信頼値が得られる。例えば、ある個人の嗜好の傾向があるファッション雑誌Aの内容と似通っている場合について説明する。図3のステップ160で示すベクトルvは、各要素がノードに対する重みを表わし各要素の和が1であるベクトルである。このベクトルvの値を、所望の目的によって変更することにより所望の目的を考慮した信頼値が得られる。ファッション雑誌Aに対応するノードに対応するベクトルvの値を高くすることにより、結果として得られる各ノードの信頼値は、ファッション雑誌Aの傾向が考慮されたものとなる。」

「【0037】
…(中略)…さらに、図3のステップ160で示すベクトルv、及び、矢の信頼値を変更することにより、年齢、性別、年収、家族構成、趣味、嗜好などが多岐に亙っており異なっている個人嗜好プロファイル情報を反映した信頼値の計算も出来る。」

上記で示した明細書等の記載を考慮すれば、請求項1における「前記求められた重み付け値P_(ij)を要素とする行列Pから行列P'を求める」、「前記行列P'は、P’=cP+(1-c)E により与えられ」、「eは、…(中略)…全ての要素が1であるベクトルであり」、「vは、…(中略)…各要素がノードに対する重みを示し、各要素の和が1であるベクトルであり」、「ベクトル・行列に付されたTは、転置を示し」、「cは0≦c≦1であり」、「行列Eは、E=e・v^(T)により与えられる」の箇所は、明細書等における、例えば個人が予め持っている消費活動の主体(ノード)に対する信頼の度合いなどを要素の和が1であるベクトルvに反映させて、当該ベクトルvと全ての要素が1であるベクトルeとを用いて定義式E=e・v^(T)により行列Eを求め、例えば実験的に定数cを得て、定義式P’=cP+(1-c)Eにより行列P’を求めることに対応するものである。
ここで、ベクトルvを定める際に用いる情報は、例えば個人が予め持っている消費活動の主体(ノード)に対する信頼の度合いなどであり、人為的に取り決めるものである。また、ベクトルvを定める際に用いる情報によりベクトルvの各要素の値をいかに定めるかも、要素の和が1となるように調整する範囲内において、人為的に取り決めるものである。定数cも、例えば実験的に定めるものであるが、いかなる実験を行うか、また、実験に基づいて定数cの値をいかに定めるかは、人為的に取り決めるものである。また、既に述べたように、行列Pは人為的な取り決めに基づいた行列である。結局、このように定められたベクトルv、定数c、行列Pを用いて導かれる行列P’も人為的な取り決めに基づいた行列であるといえる。

2の4.(d)について
加えて、請求項1には「前記求められた行列P'から、次式に従って各ノードの信頼値TV(u_(i))、(i=1?n)を求める」、
「 【数1】
TV(u_(i))= Σ P'(u_(j)→u_(i))TV(u_(j))
uj∈BN(ui)
ここで、
【数2】
U_(j)∈BN(U_(i))

は、u_(i)に向かっている情報を有する全てのノードの集合を表わし」、「P'Tの固有値1に対する固有ベクトルX^(T)(=(TV(u_(1)),・・・,TV(u_(n)))に含まれるTV(u_(i))、i=1?nを求め、各ノードの信頼値TV(u_(i))とする」と記載されている。
請求項1の指摘した箇所に対応して、明細書等には次のように記載されている。

「【0019】
40:ノードの信頼値の計算
ステップ30で決定した重み付け値をもとに、各ノードの信頼値を求める。計算方法は後述の方法によって求める。信頼値の高いノードほど信頼性が高いと言える。…(後略)…」

「【0027】
180:ノードu_(i)の信頼値TV(u_(i))を求める。
ノードu_(i)の信頼値TV(u_(i))を次のように定義する。
【0028】
【数9】
(3) TV(u_(i))= Σ P'(u_(j)→u_(i))TV(u_(j))
uj∈BN(ui)
【0029】
(ここで、
【0030】
【数10】
(4) U_(j)∈BN(U_(i))
【0031】
は、u_(i)に矢を出しているノードの集合を表わす。)の固有ベクトル(TV(u_(i))、i=1?n)を求める。
ここで、ベクトルX^(T)=(TV(u_(1))、・・、TV(u_(n)))と定義すると、式(3)は
【0032】
【数11】
→ →
(5) X = P'^(T) X
【0033】
と表すことが出来るので、ベクトルXを行列P' の転置行列の固有値1に対する固有ベクトルとして求める。固有ベクトルXの各値が、各ノードの信頼値となる。この中で、TV(u_(j))が大きな値のノードu_(j)が信頼度の高いノード(主体)と言える。」

上記で示した明細書等の記載を考慮すれば、請求項1における「前記求められた行列P'から、次式に従って各ノードの信頼値TV(u_(i))、(i=1?n)を求める」、
「 【数1】
TV(u_(i))= Σ P'(u_(j)→u_(i))TV(u_(j))
uj∈BN(ui)
ここで、
【数2】
U_(j)∈BN(U_(i))

は、u_(i)に向かっている情報を有する全てのノードの集合を表わし」、「P'Tの固有値1に対する固有ベクトルX^(T)(=(TV(u_(1)),・・・,TV(u_(n)))に含まれるTV(u_(i))、i=1?nを求め、各ノードの信頼値TV(u_(i))とする」は、明細書等における、行列P’^(T)の固有値1に対する固有ベクトルを求め、その固有ベクトルの各要素の値を各ノードの信頼値とすることに対応する。
既に述べたように、行列P’は人為的な取り決めに基づいた行列であるから、その転置行列である行列P’^(T) も人為的な取り決めに基づいた行列である。そのため、行列P’^(T) の固有値1に対する固有ベクトルも人為的な取り決めに基づいたベクトルであるといえる。また、ここで得られた固有ベクトルの各要素の値を各ノードの信頼値と定めることも、人為的な取り決めである。

2の5.(a)?(d)に関する小括
上記の2の1.?2の4.で示したように、請求項1の(a)?(d)の指摘した箇所に記載されているものは、人為的な取り決めそのものか、人為的な取り決めから導き出されるものである。

3.入力装置、記憶装置、出力装置、処理装置について
請求項1は「入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置を有し、…(中略)…を求める装置であって、
それぞれ入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置により実現される手段であって、
(a)…(中略)…する手段と、
(b)…(中略)…を求める手段、
(c)…(中略)…を求める手段であって、…(中略)…手段と、
(d)…(中略)…を求める手段であって、…(中略)…手段と
を有する装置。」という形式で記載されている。つまり、請求項1に係る装置が、入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置を有するものであって、(a)?(d)に記載されているものは入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置により実現されるものである、という形式で請求項1は記載されている。
しかしながら、請求項1に係る装置においては、(a)?(d)に記載されているものを実現するために、入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置というごく一般的なハードウェア資源を単に道具として用いた程度に過ぎない。つまり、請求項1の記載は、(a)?(d)において単なる達成すべき機能の願望を示し、その機能をごく一般的なハードウェア資源を単に道具として用いて実現すると表明している程度のものであり、請求項1においては、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置が構築されているとはいえない。

4.まとめ
以上より、本願の請求項1に係る装置は、特許法第2条第1項でいう「発明」、つまり、「自然法則を利用した技術的創作のうち高度なもの」とはいえない。よって、請求項1に関して、本願は特許法第29条第1項柱書の要件を満たすものとはいえない。

5.請求項2及び請求項3に関して
本願の請求項2は「プログラム」を特許請求するものであり、本願の請求項3は「方法」を特許請求するものである。
しかしながら、本願の請求項1乃至3は互いに、(a)?(d)に記載されているものは同様のものであるため、本願の請求項2に係るプログラム及び本願の請求項3に係る方法も、本願の請求項1と同様に、特許法第2条第1項でいう「発明」、つまり、「自然法則を利用した技術的創作のうち高度なもの」とはいえない。よって、請求項2及び請求項3に関しても、本願は特許法第29条第1項柱書の要件を満たすものとはいえない。

理由2
この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


請求項1乃至3には行列P’の転置行列P’^(T)の固有値1に対する固有ベクトルを求め、その固有ベクトルの各要素の値を各ノードの信頼値とする旨の記載がある。
ところで、一般的なn×n正方行列が必ず固有値として1を持つとはいえないことは数学の知識を有する者にとっては自明のことである。また、本願明細書等にはその数学的な証明は示されていないが、あるn×n正方行列が全ての列について列ごとの要素の和が1であるならば、当該n×n正方行列が必ず固有値として1を持つことは、数学的に証明できる。
(ちなみに、その数学的な証明の概略を示すならば次のようになる。
全ての列について列ごとの要素の和が全て1となるn×n正方行列をAとし、n×n単位行列をIとする。すると、A-Iの全ての列について列ごとの要素の和が0となる。A-Iの行列式を行列式の値を変えないようにしつつ式変形(第1行目に第2行目?第n行目を足し込む式変形をする。すると、式変形後の第1行目の全ての要素が0となる。)した結果、A-Iの行列式が0となることが導かれる。A-Iの行列式が0であるならば、Ax=xとなるx≠0である固有ベクトルxが存在する。つまり、Aは固有値として1を持つ。)
本願明細書等においては、全てのiについて、
n
Σ P_(ij) = 1
j=1
となる、調整された矢の重み付け値P_(ij)をi行j列の要素として有する行列Pと、
全てのiについて、
n
Σ E_(ij) = 1
j=1
となるE_(ij)をi行j列の要素として有する(このことは、全ての要素が1であるベクトルeの定義と、要素の和が1であるベクトルvの定義と、E=e・v^(T)の定義式から自明である。)行列Eを用いて、
P’=cP+(1-c)E
の定義式により行列P’を導くことが示されている。
上記したような行列Pと行列Eの条件付け(つまりは、行列Pも行列Eもともに、全ての行について行ごとの要素の和が1となる条件付け。)のもとでは、行列P’が全ての行について行ごとの要素の和が1となることは自明である。つまり、行列P’の転置行列であるP’^(T)は、全ての列について列ごとの要素の和が1となる。すると、上記したような行列Pと行列Eの条件付けのもとでは、P’^(T)は必ず固有値として1を持つといえる。
その一方で、本願明細書等においては、上記したような行列Pと行列Eの条件付け以外にいかなる場合に行列P’^(T)が固有値として1を持つようにすることができるのかは一切示していない。
ここで、請求項1乃至3の記載を検討すると、行列Pについては、全ての行について行ごとの要素の和が1となる条件付けが示されていない。つまり、請求項1乃至3の記載のままでは、行列P’^(T)が全ての列について列ごとの要素の和が1となるとは限られず、行列P’^(T)が必ず固有値として1を持つとはいえない。よって、請求項1乃至3の記載のままでは、行列P’^(T)の固有値1に対する固有ベクトルを求めることが必ずできるとはいえない。この点で実施可能要件が満たされておらず、本願は特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものである。

理由3
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


1.請求項1乃至3において「行列P’」における「’」を、全角文字「’」としている箇所と半角文字「'」としている箇所があり、記法が統一されていない。

2.請求項1乃至3において、「eは、行列P’を与え、全ての要素が1であるベクトルであり、」と記載され、「vは、行列P’を与え、各要素がノードに対する重みを示し、各要素の和が1であるベクトルであり、」と記載されている。しかしながら、eやvが単独で行列P’を与えるわけではないので、上記で指摘した箇所のいずれにおいても「行列P’を与え、」の部分が存在することは適切でないと考えられる。

3.請求項1乃至3において「P’(u_(j)→u_(i))」と記載されているが、請求項1乃至3において当該記載の箇所以前に同様の記法が存在せず、この記法では行列P’のいかなる要素を指し示すのかが明確でない。単に「P’_(ji)」と記載すればよいものと考えられる。(ただし、P’_(ji)の記法を用いる場合には、下記の4.にも注意すること。)

4.請求項1乃至3の【数1】、【数3】、【数5】において、Σの下に「uj∈BN(ui)」と記載されている。しかしながら、この記載は下付き文字を適切に用いたものではない。また、P’の要素との関係も明確ではない。正しくは「j|u_(j)∈BN(u_(i))」であると考えられる。

5.請求項1乃至3の【数2】、【数4】、【数6】において「U_(j)∈BN(U_(i))」と記載されているが、この記載において大文字のUを用いるのは適切でない。正しくは「u_(j)∈BN(u_(i))」であると考えられる。

6.請求項1乃至3に「u_(i)に向かっている情報を有する全てのノードの集合を表わし、」と記載されている(なお、請求項2では「ui」という表記である。)が、この記載における「u_(i)に向かっている情報を有する」の部分の意味するところが明確でない。おそらくは、ノードu_(i)に向かっている矢の始点となっているノードであることを示そうとしたものと考えられるが、指摘した箇所の記載はその旨を明確に意味するとは言えない。

7.請求項1及び2に「P'Tの固有値1に対する」と記載されているが、この記載における「T」は上付き文字にすべきものであると考えられる。

8.請求項2に「uiに向かっている」と記載され、「TV(ui)」と記載されているが、これらの箇所のうち「i」は下付き文字にすべきものと考えられる。

理由4
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
上記理由1で示したように、本願の請求項1乃至3は特許法第2条第1項でいう「発明」に該当しないが、仮に本願の請求項1乃至3が「発明」に該当するとしても、以下に示すように、本願の請求項1乃至3は進歩性を有さない。(なお、以下で、引用例1乃至3に記載されたものを認定して「発明」と便宜上表記しているが、引用例1乃至3について認定したものが特許法第2条第1項でいう「発明」に該当することを示している、というわけではない。)

・請求項 1、2、3
・引用文献等 1、2、3
・備考
本願の出願前に頒布された刊行物である、櫻井茂明,小山聡,”ネット上の情報を分析する技術”,日本知能情報ファジィ学会誌,日本知能情報ファジィ学会,平成15年10月15日,Vol:15,No:5,Pages:498-505(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。
なお、以下では、引用例1において分数として記載されている箇所については/の記号を用いた表記に変更して示している。またRやCがベクトルであることを示すために、→を用いた表記に代えて、上付文字でvecという文字を付する表記を用いている。

「4.1 PageRankアルゴリズム
PageRankアルゴリズム[24]は検索エンジンGoogle[9]のランキングの基本となっているアルゴリズムであり,リンク構造に基づいてページの重要性を決定しようというものである.
リンクに基づいてページの重要度を決定する場合,ページの被リンク数をカウントし,より多くのページからリンクされているページほど,重要度が高いとする方法が考えられる.しかしながら,この方法では,Yahoo!のような重要なページからのリンクも,個人のページからのリンクも同じ重要度で計算されてしまう.また,故意に大量のページを作成し,あるページヘリンクを張ることで,ランキング値を操作するリンクスパムと呼ばれる行為に対して,脆弱であるという欠点がある.そこで,PageRankでは,”重要なページから多くリンクされているページは重要である”という考えを採用している.
ここで,ページの重要度は再帰的に定義されているが,これを以下のような反復計算で求める.
まず,ページiにリンクしているページの集合をB_(i)とし,ページjがリンクしているぺージ数をN_(j)とする.このとき,ページiの重要度r_(i)を

r_(i)= Σ r_(j)/N_(j) (1)
j∈B_(i)
を用いて,適当な初期値から始めて反復計算することで求める.これは,直感的には,リンク元jが重要度の高いページであり,かつそのページが他のページにリンクしている数が少ないほど,iの重要度に対する寄与が大きいことを意味している.
ここで,以下のm_(ij)を要素とする行列Mを考える.

m_(ij)= 1/N_(j) if j∈B_(i) (2)
0 otherwise

この行列を用いると,r_(i)を要素とするPage.RankベクトルのR^(vec)の計算式は,

R^(vec)=M × R^(vec) (3)

と書くことができる.すなわち,Page RankベクトルR^(vec)は行列Mの固有ベクトルであり,Page Rankを計算するために,R^(vec)の適当な初期値から始めて行列Mを繰り返し掛けることは,べき乗法で行列の固有ベクトルを求めることに一致する.
PageRankの計算は,Webグラフ上でランダムウォークをするランダムサーファのモデルで捉えることができる.すなわち,m_(ij)をユーザがページjからページiへ遷移する確率と捉えれば,Page Rankベクトルは,推移確率行列Mのもとで,ユーザがぺ一ジiに滞在する平衡分布を与える.
しかしながら,R^(vec)が一意に収束することが保証されているのは,Mが既約(グラフが強連結で任意のページから任意のページヘの経路が存在する)かつ非周期の場合である.
実際のWebのリンク構造では一般に後者は成り立つが前者は成り立たない.そこで,Page Rankアルゴリズムでは,dumping項を導入し,

R^(vec)=(1-α)M × R^(vec) + αC^(vec) (4)

としてページランクベクトルを計算している.ここで,C^(vec)の要素は全てc_(i)=1/Nである.(Nは全てのページの数.)
これは,図1のように,ランダムウォークをするユーザが,リンクをたどらない確率がαあり,その場合には,いずれかのページに等しい確率でジャンプするというモデルになっている.
これにより,任意のページの間にパスが存在する(グラフが強連結である)ことになり,R^(vec)の収束は保証される.
dumping項は当初はPage Rankを計算する都合上導入されたが,特定のトピックやユーザに適応したPage Rankを計算する際に,重要な役割を果たしている.」
(第23頁右欄第26行目?第24頁右欄第18行目)

上記引用例1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ページiにリンクしているページの集合をB_(i)とし、ページjがリンクしているページ数をN_(j)とするとき、ページjからページiへのリンクの重み付け値m_(ij)を、
m_(ij)= 1/N_(j) if j∈B_(i)
0 otherwise
の定義式により求め、
求められたリンクの重み付け値m_(ij)を要素とする行列M、要素c_(i)=1/N(Nは全てのページの数)であるベクトルC及びスカラー値αと、PageRankベクトルRの関係を示す
R = (1-α)M × R + αC
なる式を満たすPageRankベクトルRを求め、求められたRの各要素を各ページのランクとするPageRankアルゴリズム。」

本願の請求項1に係る装置と引用発明を比較する。

引用発明における「ページ」と本願の請求項1に係る装置における「ノード」は、互いに(ページ間またはノード間で)関係があるそれぞれのものである点で一致する。
引用発明における「リンク」と本願の請求項1に係る装置における「矢」は、ノード(ページ)間に何らかの関係があることを示すものである点で一致する。
引用発明における「行列M」と、本願の請求項1に係る装置における「行列P」の転置行列は、ノード(ページ)間の矢(リンク)の重み付け値を各要素に有する行列である点で一致する。
引用発明における「スカラー値α」は、本願の請求項1に係る装置における「(1-c)」に相当する。
引用発明における「PagerRankベクトルR」は、本願の請求項1に係る装置における「固有ベクトルX」に相当する。
引用発明における「各ページのランク」と本願の請求項1に係る装置における「各ノードの信頼値TV(u_(i))」は、互いに関係があるそれぞれのものに付与される値である点で一致する。

すると、本願の請求項1に係る装置と引用発明とは、次の点で相違する。

<相違点1>
本願の請求項1に係る装置は、「入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置を有」するものであり、請求項1における(a)乃至(d)に記載されたものは「入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置により実現される手段」により実行されるものであるのに対し、引用発明に係る「PageRankアルゴリズム」をいかなるハードウェア資源を用いて実行するのかが不明である点。

<相違点2>
本願の請求項1に係る装置は、「所与のn個のノード(u_(i)、i=1?n)の信頼値を求める」ものであって、「前記ノード間の信頼関係に関する情報に基づいて、前記ノード間における信頼の方向を示す矢を選択する」ものであり、求められた「固有ベクトルX^(T)(=(TV(u_(1)),・・・,TV(u_(n)))に含まれるTV(u_(i))、i=1?n」を「各ノードの信頼値TV(u_(i))とする」ものであるのに対し、引用発明に係る「PageRankアルゴリズム」は「各ページのランク」を求めるものである点。

<相違点3>
本願の請求項1に係る装置は、「ノードu_(i)からノードu_(j)への前記矢の重み付け値P_(ij)(i=1?n、j=1?n)を求める」ものであるのに対し、引用発明に係る「PageRankアルゴリズム」は「ページiにリンクしているページの集合をB_(i)とし、ページjがリンクしているページ数をN_(j)とするとき、ページjからページiへのリンクの重み付け値m_(ij)を、
m_(ij)= 1/N_(j) if j∈B_(i)
0 otherwise
の定義式により求め」るものであり、j∈B_(i)であるiとjに対しては、iの値に関わらずm_(ij)の値は1/N_(j) という一定値である点。

<相違点4>
本願の請求項1に係る装置は、「前記求められた重み付け値P_(ij)を要素とする行列Pから行列P'を求める」ものであって、「前記行列P'は、P’=cP+(1-c)E により与えられ」、「eは、行列P’を与え、全ての要素が1であるベクトルであり」、「vは、行列P’を与え、各要素がノードに対する重みを示し、各要素の和が1であるベクトルであり」、「ベクトル・行列に付されたTは、転置を示し」、「cは0≦c≦1であり」、「行列Eは、E=e・v^(T)により与えられる」ものであるのに対し、引用発明に係る「PageRankアルゴリズム」は、「求められたリンクの重み付け値m_(ij)を要素とする行列M、要素c_(i)=1/N(Nは全てのページの数)であるベクトルC及びスカラー値αと、PageRankベクトルRの関係を示す
R = (1-α)M × R + αC
なる式」を扱うものである点。

<相違点5>
本願の請求項1に係る装置は、「前記求められた行列P'から、次式に従って各ノードの信頼値TV(u_(i))、(i=1?n)を求める」ものであって、
「 【数1】
TV(u_(i))= Σ P'(u_(j)→u_(i))TV(u_(j))
uj∈BN(ui)
ここで、
【数2】
U_(j)∈BN(U_(i))

は、u_(i)に向かっている情報を有する全てのノードの集合を表わし」、「P'Tの固有値1に対する固有ベクトルX^(T)(=(TV(u_(1)),・・・,TV(u_(n)))に含まれるTV(u_(i))、i=1?nを求め」るものであるのに対し、引用発明に係る「PageRankアルゴリズム」は、「R = (1-α)M × R + αC なる式を満たすPageRankベクトルRを求め」るものである点。

上記相違点1乃至5について検討する。

<相違点1について>
引用例1には「PageRankアルゴリズム」をいかなるハードウェア資源を用いて実行するのかが記載されていないものの、入力装置、記憶装置、出力装置および処理装置からなるごく一般的なハードウェア資源を用いて実行することは、当業者であれば当然想到し得たことである。
よって、上記相違点1は格別のものではない。

<相違点2について>
引用例1における「PageRankアルゴリズム」は相互にリンクを張りうる複数のページを対象としたものであるが、これをページに限定せず、一般的な複数のノードからなる信頼ネットワークに当該アルゴリズムを転用することに何ら困難性はない。また、信頼ネットワークを扱う際に、ノード間の信頼関係に関する情報に基づいて、ノード間における信頼の方向を示す矢を選択(設定)することは、当然行うことである。
よって、上記相違点2は格別のものではない。

<相違点3について>
本願の出願前に頒布された刊行物である、高野元,久保信也,”サイテーション・エンジン:リンク解析を用いたWWW検索ランキングシステム”,情報処理学会研究報告,社団法人情報処理学会,2000年1月24日,Vol:2000,No:10,(2000-DBS-120),Pages:9-16(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。なお、以下では、引用例2において分数として記載されている箇所については/の記号を用いた表記に変更して示している。

「3.1.ページランク解析
ページランクは、そのページがWEB全体においてどの程度の重要度を持つかどうかの指標である[Brin97,Google]。本方式のポイントは、
●他のページからどのくらい参照されているかを重要度の指標とする。すなわち、他のページから多く参照されているページは、重要度が高くなる。
●重要度は、そのページにたどり着く確率として表される。したがって、ページへ到達する確率をリンク数で割ったものが、リンク先のページへたどり着く確率として加算される。
また、図1は本モデルの概念図である。
…(図1の図示は省略。ただし、図1にはあるページから異なるページへのリンク重みが互いに異なる様子が示されている。)…
したがって、ページuにおけるページランクR(u)は、次式のように定義される。

R(u)= Σ W_(ν→u)/W_(ν) ・ R(ν) + E(u)
ν∈B_(u)
ここで、B_(u)はページuへのリンクを持つページの集合、W_(ν→u)はページνからuへのリンク重み、W_(ν)はページνから出て行くリンクの重みの総和数、E(u)はページuをナビゲーションの起点として選択する確率である。
上記の式において、ベクトルRを固有ベクトルとみなして解くことで、、全ページに対するページランク値を得ることができる。
なお、ここでE(u)としたページアクセスの確率は、WWWのリンクから得るだけではなく、WWWサーバのアクセス数、メールマガジンや電子ニュースでの引用といった実世界からの引用数も利用できる。」
(第11頁左欄第20行目?同頁右欄第16行目)

上記引用例2には、「W_(ν→u)はページνからuへのリンク重み」、「W_(ν)はページνから出て行くリンクの重みの総和数」と記載され、ページランクベクトルRを求めるための式において重み付け値として「W_(ν→u)/W_(ν)」を用いることが示されている。また、引用例の図1には、あるページから異なるページへのリンク重みが互いに異なる様子が示されている。つまり、引用例2には、ページνからuへのリンクの調整された重み「W_(ν→u)/W_(ν)」を、uの値に関わらず一定値にするような制約もなく、定めることができる発明が記載されている。
引用発明も引用例2に記載された発明もともに、ページランクアルゴリズムに関するものであるから、引用例2に記載された発明を引用発明に適用して、引用発明におけるページjからページiへのリンクの重み付け値m_(ij)を、iの値に関わらず1/N_(j) という一定値とするような制約もなく、定めるように設計変更することに特段の困難性はない。
よって、上記相違点3は格別のものではない。

<相違点4及び5について>
本願の請求項1に係る装置は、上記した相違点4及び5に係る構成によって、行列P、行列E(=e・v^(T))、スカラー値cが与えられたときに、下記の式を満たすベクトルXを求めようとするものである。

X=(cP+(1-c)E)^(T) X

ベクトルXのi番目の要素をX_(i)とし、E=e・v^(T)であるところのベクトルvのi番目の要素をv_(i)とし、任意の定数(ベクトルXの全ての要素の和)をkとすると、上記の式の両辺のi番目の要素について表した式は次のようになる。

n
X_(i) = c Σ P_(ji)X_(j) + (1-c) k v_(i)…(甲)
j=1

その一方で、引用発明に係るPageRankアルゴリズムは、行列M、ベクトルC、スカラー値αが与えられたときに、下記の式を満たすベクトルRを求めようとするものである。

R = (1-α)M R + αC

ここで、a=1-αと置き直し、ベクトルRのi番目の要素をR_(i)とし、行列Mの転置行列M^(T)のj行i列の要素をM^(T)_(ji)とし、ベクトルCのi番目の要素をc_(i)として、上記の式の両辺をi番目の要素について表した式は次のようになる。

n
R_(i) = a Σ M^(T)_(ji)R_(j) + (1-a) c_(i) …(乙)
j=1

上記した(甲)式と(乙)式において、X_(i)とR_(i)が対応し、cとaが対応し、P_(ji)とM^(T)_(ji)が対応し、kv_(i)とc_(i)が対応するものである。このうち、P_(ji)とM^(T)_(ji)の相違点については、既に「相違点3について」において検討したとおりである。そこで、ここではkv_(i)とc_(i)の相違点について検討する。
本願の請求項1に係る装置におけるkv_(i) の値は、ベクトルvの各要素の和が1となるように調整すること、そして、v_(i)がノードiに対する重みを示すものである点以外には、格別限定されるものではない。これに対し、引用発明におけるc_(i)の値は、ベクトルCの各要素の和が1となるようになっているものであり、そして、引用例1に「dumping項は当初はPage Rankを計算する都合上導入されたが,特定のトピックやユーザに適応したPage Rankを計算する際に,重要な役割を果たしている.」と記載されていることから、引用発明におけるc_(i)の値を、ページiに対応する重みとして用いることができることが引用例1には示唆されているものの、引用例1においては、c_(i)の値としてはc_(i)=1/N(Nは全てのページの数)という一定値しか示されていない。

ここで、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-271669号公報(平成15年9月26日出願公開。以下、「引用例3」という。)には、図面とともに以下の技術的事項が記載されている。

「【0054】ホットトピック解析部6は上記基準に従って話題抽出処理を行う。例えば、話題抽出の対象となる文書集合をDOC={p1, p2,....pN}とし、文書pの話題度をWp 、文書pのリンク先の文書集合をRef(p) 、文書pのリンク元の文書集合をRefed(p) 、文書pと文書qの類似度をsim(p,q)、相異度をdiff(p,q) =1/sim(p,q) とすると、文書pから文書qにリンクが張られているとした時、そのリンク関係の重みlw(p,q) を以下の(1)式で定義する。
【0055】
【数1】
…(数1の数式は省略)…
【0056】この(1)式から分かるように、lw(p,q) は、文書pと文書qのURLの類似度sim(p,q) が低いほど、また文書pから文書pへのリンクの数がより少ないほど大きくなる。尚、上記式において類似度sim(p,q) は前述の関係(r)に対応するものである。
【0057】文書qの人気度Wq は、各文書p∈DOCに対して、Cq を定数(人気度の下限であり、文書によって異なる値を与えてもよい。)として、
【0058】
【数2】

W_(q)=C_(q)+ Σ W_(p) × lw(p,q)…(2)
p∈Refed(q)

【0059】という(2)式に示す連立一次方程式の解として定義される。そして、この連立一次方程式を解くことにより、各文書の話題度を算出できる。尚、このような連立一次方程式の解法については、既存のアルゴリズムが多数存在するため、説明は省略する。」

上記した引用例3に「Cq を定数(人気度の下限であり、文書によって異なる値を与えてもよい。)」と記載されていることから、引用例3には、引用例3における(2)式でのベクトルWに関する項ではないC_(q)(このC_(q)は(甲)式の「k v_(i)」や(乙)式の「c_(i)」に対応する、いわゆるdumping項である。)の値について一定値に限定しない発明が記載されている。

また、既に示した引用例2にも、dumping項である「E(u)」の値について一定値に限定しないことが示唆されている。

既に述べたように引用例1には「dumping項は当初はPage Rankを計算する都合上導入されたが,特定のトピックやユーザに適応したPage Rankを計算する際に,重要な役割を果たしている.」と記載され、引用例3には「Cq を定数(人気度の下限であり、文書によって異なる値を与えてもよい。)」と記載されており、dumping項の役割として同様のものが想定されているのであるから、これらの引用例3に記載された発明や引用例2に記載された発明を引用発明に適用して、引用発明の(乙)式におけるdumping項である「c_(i)」の値を一定値に限定しないように設計変更することに特段の困難性はない。
つまり、引用発明と引用例2に記載された発明と引用例3に記載された発明から、上記した(甲)式を想到することに特段の困難性はない。そして、上記した(甲)式は、本願の請求項1に係る装置における上記した相違点4及び相違点5に係る構成と数学的に同等のものであるから、結局のところ、本願の請求項1に係る装置における上記した相違点4及び相違点5に係る構成を想到することに特段の困難性はない。
よって、上記相違点4及び相違点5は格別のものではない。

また、本願の請求項1に係る装置が有する作用効果は、引用発明、引用例2に記載された発明、及び、引用例3に記載された発明から当業者が予測できた範囲内のものである。

よって、本願の請求項1に係る装置は、引用発明、引用例2に記載された発明、及び、引用例3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

本願の請求項1が「装置」を特許請求するものであり、本願の請求項2が「プログラム」を特許請求するものであり、本願の請求項3が「方法」を特許請求するものであるが、その他の点では、各請求項の内容は同様のものであるので、本願の請求項2に係るプログラム及び本願の請求項3に係る方法も、引用発明、引用例2に記載された発明、及び、引用例3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、理由2(特許法第36条第4項第1号違反)の拒絶理由及び理由3(特許法第36条第6項第2号違反)の拒絶理由を指摘したことが、理由2及び理由3に示す拒絶理由を全て解消するように請求項1乃至3を補正すれば理由1(特許法第29条第1項柱書違反)の拒絶理由や理由4(特許法第29条第2項)の拒絶理由が自動的に解消されることを、意味するものではない。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.櫻井茂明,小山聡,
”ネット上の情報を分析する技術”,
日本知能情報ファジィ学会誌,日本知能情報ファジィ学会,
平成15年10月15日,
Vol:15,No:5,
Pages:498-505
2.高野元,久保信也,
”サイテーション・エンジン:
リンク解析を用いたWWW検索ランキングシステム”,
情報処理学会研究報告,社団法人情報処理学会,
2000年1月24日,
Vol:2000,No:10,(2000-DBS-120),
Pages:9-16
3.特開2003-271669号公報」
そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-01 
結審通知日 2012-03-02 
審決日 2012-03-13 
出願番号 特願2003-368802(P2003-368802)
審決分類 P 1 8・ 121- WZF (G06F)
P 1 8・ 537- WZF (G06F)
P 1 8・ 1- WZF (G06F)
P 1 8・ 536- WZF (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北元 健太須田 勝巳  
特許庁審判長 赤川 誠一
特許庁審判官 清木 泰
石井 茂和
発明の名称 商品購入における信頼値の算出方法及び装置  
代理人 特許業務法人アイ・ピー・エス  

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