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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800040 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  E03C
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  E03C
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E03C
審判 全部無効 2項進歩性  E03C
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  E03C
管理番号 1261724
審判番号 無効2008-800041  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-29 
確定日 2009-12-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3392390号発明「中高層建物用増圧給水システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3392390号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3392390号に係る主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成12年 4月 7日 平成6年6月14日に出願した特願平6-13 2265号のの一部を出願した(特願2000 -106839号)、出願人(株式会社日立製 作所)
平成15年 1月24日 特許権の設定登録(特許第3392390号)
平成15年 2月26日 特許権が株式会社日立製作所から株式会社日立 産機システムに移転登録
平成20年 2月29日 特許無効審判請求(無効2008-800041 )(請求人)
平成20年 6月23日 答弁書提出(被請求人)
平成20年 6月23日 訂正請求書提出(被請求人)
平成20年11月28日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成20年11月28日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成20年11月28日 第1回口頭審理実施

第2 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明から当業者が容易に想到し得た発明であるから、本件特許は、特許法第29条第2項に該当し、無効とされるべきものである(特許法第123条第1項第2号)。
2 無効理由2(分割要件違反)
本件特許発明は本件特許の原出願の出願当初の明細書及び図面に記載されたものではないため、出願日を遡及させることができず、本件特許の特許願を提出した日(平成12年4月7日)に出願されたものと見做されるべきもので、当該本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明から当業者が容易に想到し得た発明であるから、本件特許は、特許法第29条第2項に該当し、無効とされるべきものである(特許法第123条第1項第2号)。

[証拠方法]
平成20年2月29日付け特許無効審判の審判請求書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
(1)甲第1号証 特許第3392390号公報
(2)甲第2号証 実願昭58-1506号(実開昭59-107072 号)のマイクロフィルム
(3)甲第3号証 水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第68 9号)
(4)甲第4号証 特開平5-263444号公報
(5)甲第5号証 特開平5-240186号公報
(6)甲第6号証 平成6年特許願第132265号の願書及び願書に添 付された明細書及び図面の写し
(7)甲第7号証 特開平7-331711号公報
(8)甲第8号証 特許第3392390号特許登録原簿の写し

平成20年11月28日付け口頭審理陳述要領書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
(10)甲第9号証 給水装置工事施行基準 神戸市水道局(平成4年 4月)
(12)甲第10号証 特開平4-362295号公報

第3 被請求人の主張の概要
1 無効理由1(特許法第29条第2項)について
本件特許の請求項1に係る本件特許発明は、甲第2号証と甲第3号証に記載のものから容易に想到できたものでもなく、また、甲第2号証と甲第4号証に記載のものから容易に想到できたものでもない。したがって、本件の請求項1に係る本件特許発明は、特許法第123条第1項第2号に該当しない。
2 無効理由2 (分割要件違反)について
本件特許は分割出願の要件を満たしているものであるので、その出願日を繰り下げる必要のないものである。したがって、甲第7号証に記載のものからの容易想到性に該当しないものである。

第4 本件訂正請求についての当審の判断
1 本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1について、

訂正前の、
「【請求項1】 中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、
上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、
上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」を、
「【請求項1】 中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、
上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、
上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0015】について、
訂正前の、
「【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的は、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるようにして達成される。」を、
「【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的は、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるようにして達成される。」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否の検討
ア 訂正事項aについて
訂正前の特許明細書の請求項1の記載、該記載と発明の詳細な説明との関係について検討する。
請求項1には
「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、
上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続する」、及び「中高層建物用増圧給水システム」(これらを以下「前者の事項」という。)は、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項であり、明確な記載である。
前者の事項によれば、「各階床」は、少なくとも2群の階床群に分割する対象としての意味しか有せず、専用の増圧ポンプとの関係は規定されていない。一方、「各階床群」の方は、専用の増圧ポンプが設けられる対象であり、また、増圧ポンプ及び給水管との接続関係が規定されている。

そこで、訂正前の請求項1に記載された
「上記専用の増圧ポンプによる各階床毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したこと」(以下「後者の事項」という。)について検討する。
前者の事項における、各階床群に夫々専用の増圧ポンプが設けられる点、及び階床群の給水管と増圧ポンプとの接続関係からみて、増圧ポンプの運転を制御することによって、「各階床群毎」の給水圧力を制御することはできても、後者の事項における「各階床毎」の給水圧力を制御できないことは明らかである。
また、訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明に、増圧ポンプの運転を制御することによって、「各階床群毎」の給水圧力を制御することは説明されているが、「各階床毎」の給水圧力を制御することについて何ら説明されていないことは明らかである。

したがって、後者の事項のうち、「各階床毎」、「各階床」は、本来「各階床群毎」、「各階床群」と記載すべきであったものを、それぞれ「各階床毎」、「各階床」と誤記したものといえる。
よって、訂正事項aは、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項aは、訂正前の特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものでもないから、適法な訂正である。

イ 訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項1を訂正する訂正事項aに伴って、発明の詳細な説明の段落【0015】の記載を特許請求の範囲と整合させるためであり、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項bは、訂正前の特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものでもない。

ウ まとめ
以上のことから、本件訂正は適法な訂正であるから、本件訂正請求を認める。

第5 本件特許発明
本件訂正請求は、認められたから、本件特許の請求項1に係る発明は、訂正された特許明細書の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの以下のものと認める(以下「本件発明1」という。)。

「【請求項1】 中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し、
上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、
上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」

第6 甲号各証の記載事項
1 甲第2号証【実願昭58-1506号(実開昭59-107072号)のマイクロフィルム】
本件特許の出願の原出願である特願平6-132265号の出願前(以下「本件特許の出願前」という。)に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下に示す(1-1)?(1-6)の事項が記載されている。

(1-1)
「実用新案登録請求の範囲
ビル等の高所への給水システムであって、下部に水を貯める受水槽と下部あるいは任意の階に水を収容する圧力タンクと受水槽から配管を介して前記圧力タンクへ揚水するポンプとを有し、前記圧力タンクは、剛性のある気密構造の中空の本体と、この本体内に柔軟弾性材によりなる袋体を有しこの袋体内へ水を収納するようになし、かつ、前記本体と袋体間の液体を収納する側と反対側に気体が密封してある給水装置において数階毎にポンプと圧力容器を逆止弁を介して配置し、数階毎の前記ポンプ逆止弁、圧力容器を送水管により直列に複数配置したことを特徴とする圧力容器。」(明細書第1ページ第3?15行)

(1-2)
「考案の詳細な説明
本考案は、ビル等の高所への給水装置に関するものである。
従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、ビルの屋上に開放形の高過水槽を設置したもの、中空気密構造で剛性容器からなる本体内に柔軟弾性部材よりなる変形自在の袋体又は隔膜を有し、袋体又は隔膜と本体間に気体を加圧封入してある給水圧力タンクを地上あるいは任意の階に設置し、前記袋体内又は隔膜を介しての一方の側にポンプから揚水した水を一時収納するようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし、さらに吐出量も時間平均使用量の2?3倍のポンプ又はバリアブルポンプが使用され、設備費、運転費等も高価であり、またポンプ吐出口にかかるウォータハンマー等も大きく故障の原因ともなる。」(明細書第1ページ第16行?第2ページ第15行)

(1-3)
「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し、低い揚程のポンプを使用し、揚水管を介して直列に接続することによりポンプの設備費を下げるとともに、運転費をも少なくできる給水装置を提供するものである。」(明細書第2ページ第16行?第3ページ第2行)

(1-4)
「本考案の要旨とするところは、ビル等の高所への給水装置において、数階毎に低楊程のポンプ逆止弁と内部に液体を収納する袋体を有した圧力容器とを送水管を介し直列に配置した給水装置であって以下実施例を図面により説明する。」(明細書第3ページ第3?7行)

(1-5)
「第3図は、下部受水槽より下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13を介して上部ポンプ22の吸込側へ揚水するようにし、さらに上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23を介して各階へ揚水する給水装置であり各ポンプ吐出側と圧力タンクとの間には逆止弁15を設けてある。この場合下部で水を使用した場合、一旦下部圧力タンク11内に収容された水は排出され、ある設定圧力以下になると下部ポンプ12が起動し、揚水を開始する。水の使用が止まった後も下部ポンプ12は、揚水を継続し、下部圧力タンク11内へ送水し、設定最高圧力になると、下部ポンプは停止する。この状態で上部において水の使用が開始されると、一旦上部圧力タンク21内に収容された水が排出され、その圧力タンク21位置での低圧側設定圧力以下になると上部ポンプ22が起動する。上部ポンプ22の起動後は、下部圧力タンク11より水が加圧供給され、さらに水の使用が継続されると、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり下部ポンプ12が起動し上部へ給水する。
下部ポンプ12は下部圧力タンク11近くに取付けた圧力スイッチ17により起動、停止を制御し、上部ポンプ22は、上部圧力タンク21近くに取付けた圧力スイッチ27により起動、停止を制御する。」(明細書第3ページ第8行?第4ページ第12行)

(1-6)
「以上のように本考案の効果は、ポンプと圧力タンクを数階毎に設置することにより、各々のポンプの運転時間を少なくし、下部にポンプ1台を設置したのに比べて、設備費、運転費供安くすることができ、さらに従来の給水装置の場合に生じる最上階と、一階の給水圧力差をほとんどなくすことができ、長い揚水管を持つ給水装置において発生するウォータハンマー等もなくすことができる等、すぐれた効果を奏するものである。」(明細書第4ページ第13行?第5ページ第1行)

2 甲第3号証【水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第689号)】
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下に示す(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。

(2-1)
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)

(2-2)
「2.ブースタ装置外観
図-1にブースタ装置外形図を示す。
800×800mmのべース上に2台のステンレスプレス製の陸上ポンプと吸込,吐出配管,吐出側圧力タンク,制御盤,バルブ類が搭載されている。
2台のポンプ吸込側と吐出配管の合計3箇所にメンテナンス用のバタフライ弁がある。各ポンプの吐出側はフロースイッチ,逆止弁を介して吐出し曲管へ配管される。
吸込管は逆止弁を介して吐出管へポンプをバイパスするように配管され,十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる。圧力センサは配管の吸込側と吐出側にそれぞれ1個づつ付いている。」(第35頁左欄第3行?第36頁右欄第3行)

(2-3)
「3.ブースタ装置運転フロー
ブースタ装置の運転フローを図-2に示す。
2台のポンプがそれぞれ独立してインバータに接続され可変速運転するようになっている。同時に2台が並列運転することはなく,停止するたびに始動ポンプを切り替える単独交互方式である。」(第36頁右欄第8?13行)

(2-4)
「3.1 基本動作
装置を起動すると,1号又は2号のいずれか一方のポンプが起動する。水量が減少しポンプを停止させた後運転ポンプを切り替える。
流量が増大すると回転速度が上昇し,流量が減少すると回転速度を下げて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。また,入口圧力が増大すると回転速度が減少し,入口圧力が減少すると回転速度を上昇させて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。流量の増減,入口圧力の増減により前記動作をくり返す。
また,入口圧力が増大し吐出設定圧力以上になると,ポンプは自然停止し,バイパス配管を通って給水する。」(第36頁右欄第14行?第37頁左欄第6行)

(2-5)
「4. 検証試験
1991年10月より,上記ブースタ装置を実際の住宅に据え付けて検証試験を行った。
試験現場として選定したのは,横須賀市内の5階建て40戸の集合住宅で,現在41m^(3)の受水槽を持ち,圧力タンク方式の給水装置で給水している。住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」(第37頁右欄第7?16行)

第7 無効理由に対する当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件発明1
本件発明1は、「第4 本件特許発明」の項に記載したとおりである。

(2)甲第2号証に記載された発明
ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。
そして、第3図には、6階分の各階に給水することが図示されているが、記載事項(1-3)の「数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し」等の記載からみて、図示はされていないが、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定していることは明らかである。
したがって、記載事項(1-1)、(1-3)、及び第3図の記載から、ビルの各階に対して給水する給水システムを読み取ることができる。

第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、以下の点を読みとることができる。
(ア)1階から3階に給水する下部ポンプ12を設ける点
(イ)4階から6階に給水する上部ポンプ22を設ける点
(ウ)1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続する点
(エ)「ア」の項で述べたように、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定しており、7階建て、8階建て、9階建て以上の階数に応じて、7階に、7階から8階に、7階から9階に、給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設ける点を読み取ることができる。そして、上記「7階に、7階から8階に、7階から9階に」を、これ以降、7階から所定の階にと呼称する。
したがって、第3図の記載から、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設ける点を読み取ることができる。
(オ)4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続する点
(カ)7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続する点

よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、甲第2号証には、
「ビルの各階に対して給水する給水システムにおいて、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け、
1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し、
4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続し、かつ、7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続した
ビルの各階に対して給水する給水システム。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(3) 対比
本件発明1と引用発明1とを比較すると、

(ア)引用発明1の「ビル等」、「各階」は、本件発明1の「中高層建物」、「各階床」に相当する。
(イ)引用発明1は、ビル等の各階に対する給水するために、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設けているから、ビル等の各階は、本件発明1のように、「下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割」されているといえる。
(ウ)引用発明1の「1階から3階」は本件発明1の「最も下の階床群」に相当し、以下同様に、「4階から6階」及び「7階から所定の階」は「最も下の階床群を除く各階床群」に相当する。引用発明1の「上部ポンプ22」は4階から6階に給水し、「ポンプ」は7階から所定の階に給水するから、引用発明1の「上部ポンプ22」及び「ポンプ」は、本件発明1の「各階床群に専用の増圧ポンプ」に相当する。
(エ)引用発明1の「4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け」と本件発明1の「最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け」とは、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設ける点で共通する。
(オ)したがって、引用発明1の「ビルの各階に対して給水する給水システムにおいて、1階から3階に給水する下部ポンプ12を設け、4階から6階に給水する上部ポンプ22を設け、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを設け」と本件発明1の「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け」とは、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設ける点で共通する。

イ 引用発明1の「下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管」と本件発明1の「水道用配水管」とは、給水配管の点で共通する。
したがって、引用発明1の「1階から3階に給水する下部送水管13の下端部を、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続し」と本件発明1の「上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続し」とは、上記最も下の階床群の給水管の下端を給水配管に接続しの点で共通する。

ウ 引用発明1の「4階から6階に給水する上部送水管23」、「7階から所定の階に給水する送水管」は、1階から3階に給水する下部送水管13、すなわち、本件発明1の「最も下の階床群の給水管」を除く給水管に相当する。
したがって、引用発明1の「4階から6階に給水する上部送水管23の下端部は、上部ポンプ22を介して下部送水管13の上端部に接続し、かつ、7階から所定の階に給水する送水管の下端部は、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプを介して上部送水管13の上端部に接続し」は、本件発明1の「上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続する」に相当する。

エ 引用発明1の対象である「ビルの各階に対して給水する給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプによって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、本件発明1の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明1の両者は、
「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群は別として各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、
上記最も下の階床群の給水管の下端を給水配管に接続し、
上記最も下の階床群の給水管を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続した、
中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1?1]
専用の増圧ポンプが設けられる各階床群について、本件発明1は、最も下の階床群を除かれるのに対して、引用発明1は、1階から3階は除かれない、すなわち「最も下の階床群」は除かれない点。
[相違点1?2]
最も下の階床群の給水管の下端の接続について、本件発明1は、水道用配水管に直接接続するのに対して、引用発明1は、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続する点。
[相違点1?3]
本件発明1は、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したのに対して、引用発明1は、そのように限定されていない点。

(4) 判断
ア 相違点1?2について
先ず、相違点1?2について検討する。

甲第2号証の記載事項(1-2)に、「下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載されていることを踏まえ、また、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度で十分であることは甲第2号証の記載から自明である。
すなわち、引用発明1において、1階から3階まで給水するために必要とされる下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度の揚水能力で済む。また、引用発明1において、上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、甲第2号証の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。

一方、甲第3号証の記載事項(2-1)には、
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm2)以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」と記載され、また
同号証の記載事項(2-5)には、
「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載されている。

甲第3号証のこれらの記載からみて、水道本管圧力は、約3kgf/cm^(2))(揚水能力として、約30m程度)であり、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた建物の3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管から各階に直結給水が常時可能であること、及び受水槽式の給水方式には、衛生面等の問題があることや、受水槽空間を有効利用から、受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることは、本件特許の出願前において当業者の技術常識というべきである。
そして、この項の冒頭で述べたように、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度であり、水道本管圧力(約30m程度)の揚水能力は、引用発明1の「下部ポンプ12」のものと同等以上である。

してみると、上記引用発明1が記載された甲第2号証に上記技術常識を有する当業者が接したとき、引用発明1の下部受水槽と下部ポンプ12による給水に代えて、常時水道本管の給水圧力のみを利用した給水に変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。
換言すると、最も下の階床群の給水管の下端の接続について、引用発明1のように、下部受水槽の水を揚水する下部ポンプ12からの給水配管に接続することから、本件発明1のように、水道用配水管に直接接続することに変更することは当業者が甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点1?2に係る本件発明1の構成要件は、当業者が甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて容易に想到し得るものである。

イ 相違点1?1について
相違点1-2に係る本件発明1の構成要件である「最も下の階床群の給水管の下端を水道用配水管に直接接続」すると、相違点1-1に係る本件発明1の構成要件である、専用の増圧ポンプが設けられる各階床群として、最も下の階床群が除かれることになるから、相違点1-1に係る本件発明1の構成要件は、相違点1-2に係る本件発明1に付随する構成要件に過ぎない。
よって、相違点1?2に係る本件発明1の構成要件は、当業者が甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて容易に想到し得るものであるから、同様な理由により、相違点1-1に係る本件発明1の構成要件は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 相違点1?3について

甲第2号証の記載事項(1-2)に、「下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載されていることを踏まえ、また、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、上部ポンプ22の給水圧力は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度であり、また、4階から6階における水の使用量に応じて上部ポンプ22の給水圧力を若干制御する必要があることは甲第2号証の記載から当業者にとって自明である。してみると、4階から6階に設けられた上部ポンプ22の給水圧力が、高さ換算で約20mより大幅に超えない値に制御されることが甲第2号証に示唆されているといえる。
また、7階から所定の階に給水する上部ポンプ22より上方に設置されるポンプについても、同様に、その給水圧力が、高さ換算で約20mより大幅に超えない値に制御されることが甲第2号証に示唆されているといえる。

そして、ポンプの給水圧力について、甲第2号証に示唆されているとした「高さ換算で約20mより大幅に超えない値」や本件発明1の「最大値は、高さ換算で約30m」も、減圧弁の設置を要しない低い圧力の点で同じであり、また本件発明1において、最大値は、高さ換算で約30mと限定した点に、それ以上の格別な意義を認めることができない。
したがって、相違点1?3に係る本件発明1の構成要件は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

また、本件発明1によってもたらされる効果は、甲第2、3号証の記載から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明1の検討のまとめ
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 無効理由2について
請求人は、本件特許発明は、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載された発明ではないため、本件出願が分割要件を満たさないことを前提として、甲第7号証記載の発明から容易に想到しえた発明であるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることのできないものであると主張するので、本件特許発明が、原出願の出願当初の明細書及び図面(以下「原出願の当初明細書」という。甲第6号証)に記載された発明であるか否かについて検討する。

(1)請求人の主張
原出願の当初明細書には、本件特許発明の構成E、すなわち「上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成した」ことに関して、原出願の当初明細書には、
a 各階床毎に給水圧力の最大値が約30mとなるように増圧ポンプを制御すること
b 最も下の階床群の給水管の上端に接続された(下から2番目の階床群の増圧ポンプ)が、給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように制御されること
c 給水圧力の最大値が約30mとなるように増圧ポンプが制御されること
d 約30mで示される範囲が、30mを超える値であること
が、それぞれ記載されていないと主張する。

(2)当審の判断
ア 上記「a」について
「第4 2 (1)ア 訂正事項aについて」の項で、述べたように、訂正前の「各階床毎」、「各階床」は、本来「各階床群毎」、「各階床群」と記載すべきであったものを、それぞれ「各階床毎」、「各階床」と誤記したものといえ、訂正により本来の意味である「各階床群毎」、「各階床群」に訂正されたから、請求人の主張は理由がない。

イ 上記「a」ないし「c」に関して、増圧ポンプの給水圧力の最大値が約30mとなるように制御される点について
原出願の当初明細書には、
「【0036】このようにすれば、第2段目の増圧ポンプ40の吐出側の圧力は、最高でも30m以下になるので、各階床に減圧弁を設ける必要はなくなる。・・・」
「【0038】<7階以上、9階までの階床で水が使用されたとき>水栓10g?10iが開かれると、高層ゾーン用の給水管80の圧力が低下する。そこで、圧力センサ140による検出圧力が第2段目の増圧ポンプ40の始動圧力PON以下になると、第2段目の増圧ポンプ40を始動させる。そして、始動後は、給水量に応じて、この増圧ポンプ40を可変速運転して、予め定めてある負荷ロード曲線に沿った運転が得られるようにする。・・・」
と記載されている。
そして、図4には増圧ポンプ40を有する高層ゾーン7F?9Fへの給水システムが図示されている。

これらの記載及び図4から、増圧ポンプ40の吐出側圧力を最高でも30mになるようにするのは、増圧ポンプ40の運転制御によるものである。
したがって、本件発明1でいう、最大値が約30mとなるように増圧ポンプを制御することは、原出願の当初明細書の記載の範囲内の事項である。

ウ 上記「b」について
最大値が約30mとなるように増圧ポンプを制御することについては、上記「イ」の項で検討済みである。
そこで、そのように制御される増圧ポンプに、請求人が主張する、下から2番目の階床群の増圧ポンプが含まれていないかどうかについて検討する。
原出願の当初明細書には、
「【0038】・・・この増圧ポンプ40を可変速運転して、予め定めてある負荷ロード曲線に沿った運転が得られるようにする。なお、このときの制御も、図1の実施例における増圧ポンプ4の制御と同じである。」と記載されている。
この記載における増圧ポンプ40は、上記「イ」の項で原出願の当初明細書の記載の範囲内の事項であるとした増圧ポンプであるから、同様な運転制御がされる増圧ポンプ4、すなわち、2番目の階床群の増圧ポンプも最大値が約30mとなるように増圧ポンプを制御することは、原出願の当初明細書の記載の範囲内の事項である。

エ 上記「d」について
特許明細書の請求項1及び訂正された請求項1には、「約30m」と記載されているが、この記載及び請求項1の他の記載を参酌しても、上記「約30m」が、30mを超える値を含むか否かははっきりとしない。
そこで、特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に記載した、給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになることに関連して、
「【0011】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は、構成の簡略化について充分に配慮がされているとは言えず、コストの低減の点で問題があった。
【0012】すなわち、まず、図6のシステムでは、多数の減圧弁と、バイパス給水管を必要とし、このため、ローコスト化が困難である。一般に、例えば3階を越えるような中高層建物を対象とした増圧給水システムの場合、5?6階程度までなら、給水圧力は、最高でも30m程度なので、減圧弁は不要であるが、これ以上の階床の建物では、増圧ポンプの吐出圧力がかなり高くなり、この結果、低層ゾーンも含めて、高層ゾーンの一部の階床にも減圧弁が必要になる。一般には、給水圧力が概略3.0Kgf/cm^(2)を越える毎に、減圧弁が必要になる。・・・」、
「【0035】第2段目の増圧ポンプ40に必要な圧力(全揚程)は、実揚程;2.6m×5階、管路ロス;実揚程の20%、所要末端圧力10m、第1段目による給水圧力10m、という条件が満足されるように、例えば23mとし、この条件が満足されるようにして設置する。
【0036】このようにすれば、第2段目の増圧ポンプ40の吐出側の圧力は、最高でも30m以下になるので、各階床に減圧弁を設ける必要はなくなる。・・・」
と記載されている。

そして、請求項1の「約30m」の意味する数値範囲は、特許明細書の発明の詳細な説明の上記記載から把握されるものである。これらの記載と同一の記載が原出願の当初明細書にも記載されているから、請求項1の「約30m」の意味する数値範囲は、本件特許の特許明細書、訂正された特許明細書においても、また原出願の当初明細書においても、同一であるといえる。
したがって、請求項1に記載した「約30m」の意味する数値範囲は、原出願の当初明細書の記載された範囲内のものということができる。

オ 以上によれば、請求項1の「上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成した」は、原出願の当初明細書の記載された範囲内のものというべきであり、本件特許に係る出願は分割要件を満たすものである。

よって、本件特許に係る出願が分割要件を満たさないことを前提とする無効理由2は理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1に関し、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、無効理由2によっては本件発明1についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中高層建物用増圧給水システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水道用配水管に直結して給水を行なうようにした中高層建物用の給水システムに係り、特に、配水管の水圧が所定値以上望める場合を対象とした増圧給水システムに関する。
【0002】
【従来の技術】水道管(水道用の配水管)の水圧は、日本国内では、自治体などの水道事業体で夫々所定値が保証されているのが通例であり、その一般的な値は、高さ換算で、例えば20m以上(3階建:実揚程2.6m×3、管路抵抗による損失を実揚程の20%、所要末端圧力10m)である。従って、何れの水道事業体から給水した場合でも、給水すべき建物の階床が或る程度以上高くなると、水道管の水圧だけでは上の階床への給水は不可能で、このため、高層の建物では、従来からポンプを用いた給水システムが用いられている。
【0003】ところで、このようなポンプを用いた給水システムにおいては、水道管に対するバッファ機能や衛生面での見地から、従来は受水槽の使用が義務付けられており、従って、このようなポンプを用いた給水システムでは、折角、水道管に水圧が与えられているにもかかわらず、それの有効利用ができなくなっていており、省エネ(省エネルギー)の見地から問題があった。
【0004】しかしながら、近年、設備の機能向上などに伴って、このような場合でも、受水槽を用いなくても、特に問題が無いことが判り、この面での規制が外された結果、水道管にポンプを直結し、増圧ポンプ(ブースターポンプ)として使用するようにした給水システムが、水道管の水圧も有効に利用でき、省エネが得られることから、にわかに注目を集めるようになってきた。
【0005】そこで、このような水道管直結の給水システムの従来例について説明すると、このシステムとしては、大別して、図6と図7に示すように、2方式ある。そして、これらの使い分けは、システムが接続される水道管の水圧の具合による。ところで、この水圧の値は、水道事業体によっても異なるが、上記したように通常、1.0?3.5Kgf/cm2の範囲にあり、その他、地形の違いによる水道管の起伏や長さなどにもより異なってくる。
【0006】しかして、上記した使い分けは、水圧の値そのものではなくて、主として、その変動による。すなわち、比較的水圧変動が大きいと想定される場合には、図6の方式が主として採用され、水圧が比較的安定で、しかも、その値が、高さ換算で20m以上の場合に図7の方式が選ばれる。
【0007】まず、図6の給水システムについて説明すると、このシステムでは、水道配水管1から量水計2と給水管3を介して取り込まれた所定の圧力を有する水道水をそのまま増圧ポンプ4の吸込管側に導入させるようになっている。そして、この増圧ポンプ4により増圧された水道水が、その吐出管から逆止弁(逆流防止弁)5を介して給水管8に供給され、さらに給水対象となる建物の各階にある水栓(負荷水栓)10a?10fに供給されるようになっている。
【0008】そして、このとき、ポンプ4による増圧は、最上階の水栓に対しても所定の水量が確保できる水圧に設定してあるので、下の階床では、必要に応じて、減圧弁9a?9dを介して給水するようになっている。また、このシステムでは、ポンプ4に、逆止弁6を有するバイパス給水管7が設けられており、停電などによりポンプ4の運転が出来なくなったときでも、或る程度の給水能力が確保出来るようになっている。
【0009】次に、図7のシステムでは、給水対象となる建物の階床を高層ゾーンと低層ゾーンに分けた上で、別途、量水計2を介して水道配水管1に接続された給水管11を設け、低層ゾーンの階床(この例では1階から3階までの階床)については、水道管の圧力だけで給水するようにしたものであり、従って、図示のように、高層ゾーンに属する階床の内、最下階床となる4階の水栓14dの配管にだけ減圧弁9dを設けたものである。
【0010】これらのシステムにおいては、ポンプ4の駆動にインバータを用い、可変速運転給水方式を用いるのが一般的であり、この結果、給水量に応じたポンプ4の可変速運転による省エネ化が得られることになり、水道管の水圧を有効利用できることと相俟って、更に充分に省エネ化を得ることができる。また、図7のシステムでは、低層ゾーンの階床については、水道管の圧力だけで給水するようになっているので、更にエネルギーの有効利用が得られることになる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は、構成の簡略化について充分に配慮がされているとは言えず、コストの低減の点で問題があった。
【0012】すなわち、まず、図6のシステムでは、多数の減圧弁と、バイパス給水管を必要とし、このため、ローコスト化が困難である。一般に、例えば3階を越えるような中高層建物を対象とした増圧給水システムの場合、5?6階程度までなら、給水圧力は、最高でも30m程度なので、減圧弁は不要であるが、これ以上の階床の建物では、増圧ポンプの吐出圧力がかなり高くなり、この結果、低層ゾーンも含めて、高層ゾーンの一部の階床にも減圧弁が必要になる。一般には、給水圧力が概略3.0Kgf/cm2を越える毎に、減圧弁が必要になる。この結果、図6の従来例では、高層ゾーンの給水には、水道管の水圧が有効に利用されているが、低層ゾーンでは、ことさら多数の減圧弁が必要になる上、上記したように、逆止弁を備えたバイパス給水管も必要になるため、構成が複雑になってコスト低減が困難になってしまうのである。
【0013】次に、図7のシステムでは、更に別途、低層ゾーン用の配水管が必要で、この結果、やはり構成が複雑になってコスト低減が困難になってしまうのである。
【0014】本発明の目的は、簡単な構成で、水道管給水圧力が常に有効に利用でき、充分にコストダウンが可能な中高層建物用増圧給水システムを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的は、中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも2群の階床群に分割した上で、最も下の階床群を除く各階床群に夫々専用の増圧ポンプを設け、上記最も下の階床群の給水管の下端を水道用配管に直接接続し、上記最も下の階床群を除く各階床群の給水管の下端は、上記専用の増圧ポンプの夫々を介して各々直下の階床群の給水管の上端に接続すると共に、上記専用の増圧ポンプによる各階床群毎の給水圧力の最大値が高さ換算で約30mになるように各階床群の増圧ポンプの運転が制御されるようにして達成される。
【0016】
【作用】低層ゾーンには水道管の水圧だけで給水されるので、減圧の必要は無くなり、増圧ポンプは高層ゾーンで必要とする増圧だけを得るように働けば良いので、水道管の水圧が充分に活用され、この結果、低層ゾーンでの減圧が不要になることと相俟って、必要なエネルギーを少なくすることができ、且つ、バイパス管路がなくても低層ゾーンへの給水が途絶える虞れをなくすことができる。
【0017】
【実施例】以下、本発明による中高層建物用増圧給水システムについて、図示の実施例により詳細に説明する。図1は、6階建のビルを給水対象の建物とし、その1階から3階までを低層ゾーン(低階床群)、4階から6階までを高層ゾーン(高階床群)に分けて本発明を適用した場合の一実施例で、特許請求の範囲の第1項に記載の発明に対応したものであり、図において、12、14は圧力センサ、13は流量スイッチ、15は圧力タンク(アキュームレータ)、そして16は制御装置で、その他の構成要素については、図6及び図7で説明した従来技術と同じである。
【0018】なお、以下、この実施例の説明では、給水管3、8について、夫々低層ゾーン用給水管3と、高層ゾーン用給水管8とに分けて説明する。まず、この実施例では、増圧ポンプ4の吸込管は、低層ゾーン用給水管3の一部で、0.2?0.5Kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置、例えば給水管3の立上り配管の一部などに接続されており、その吐出管は、高層ゾーン用給水管8に接続されている。そして、この実施例では、水道配水管1から供給される水道水の圧力が略20m以上期待できるものとしてあり、この結果、低層ゾーン用給水管3に接続されている1階から3階までの各階床にある水栓10a?10cには、水道配水管1の水圧により直接、給水が得られるようになっている。
【0019】水圧センサ12は、増圧ポンプ4の吸込管側の圧力、すなわち、低層ゾーン用給水管3の上端部の水圧を検出して制御装置16に入力する働きをする。流量スイッチ13は、増圧ポンプ4から高層ゾーン用給水管8に供給される水量を監視し、それが所定流量以下になったとき所定の出力を発生し、それを制御装置16に入力する働きをする。
【0020】水圧センサ14は、増圧ポンプ4の吐出側の圧力、すなわち、高層ゾーン用給水管8の下端部の水圧を検出して制御装置16に入力する働きをする。圧力タンク15は空気室を備えた、いわゆるアキュームレータで構成されていて、高層ゾーンで水が使用されていないときには、この給水管8内の水圧が所定値POFF(ポンプ停止圧力)に保たれるように働く。
【0021】制御装置16は、図3に示すように、主要な構成要素としてインバータ16Aと、制御回路16Bを備え、インバータ16Aにより、商用3相交流電源PWから3相交流電力R、S、Tを受電し、これから可変電圧可変周波数の3相交流電力U、V、Wを発生して増圧ポンプ駆動用誘導電動機IMを可変速運転させるようになっている。
【0022】一方、制御回路16Bは、CPUとメモリM、それに入出力インターフェースPIO-1、PIO-2、PIO-3からなるコンピュータ部と、安定化電源AVRとディジタル-アナログコンバータD/A、アナログ-ディジタルコンバータA/D、ディジタルスイッチSWなどからなる周辺装置で構成されており、これにより圧力センサ12、14と、流量スイッチ13からの信号を取り込み、これらの信号と、メモリMに格納してある所定のプログラムに従って所定の演算を行ない、インバータ16Aに制御信号O、Lを供給し、このインバータ16Aを制御するようになっている。
【0023】なお、この図3において、SSはスイッチで、システム全体の動作と停止の操作を行なう為のもの、STXはリレーと接点、EBLは漏電遮断器、そしてCONSはインバータ16Aの操作パネルであり、従って、スイッチSSを投入操作することにより安定化電源AVRに電力が供給され、制御回路16Bが動作状態になると共に、リレーSTXの接点が閉じて、インバータ16Aの電源が投入され、これも動作可能な状態にされることになる。
【0024】次に、この実施例による増圧ポンプ4の制御動作について説明する。まず、上記したように、低層ゾーンの1階から3階までの各階床の水栓10a?10cに対しては、水道配水管1の水圧により給水が行なわれるので、増圧ポンプ4の運転は、このときの給水動作とは無関係である。
【0025】一方、高層ゾーンの4階から6階までの各階床の水栓1d?1fに対しては、水道配水管1の水圧だけでは足りないので、さらに増圧ポンプ4により増圧して給水するようになっている。まず、高層ゾーンの4階から6階までの各階床の水栓1d?1fの何れも閉じられているときには、上記したように、高層ゾーン用給水管8の水圧は、圧力タンク15によりポンプ停止圧力POFFに保持されているので、ポンプ4は停止している。
【0026】次に、高層ゾーンの階床で水が使用されると、高層ゾーン用給水管8の水圧がポンプ停止圧力POFFから低下し、さらに図2に示す始動圧力PONにまで低下すると、これが圧力センサ14により検知され、この結果、制御装置16は、図2に示すようにしてポンプ4の運転を開始し、低層ゾーン用給水管3から水を取り込み、高層ゾーン用給水管8に増圧された水が供給されるようにする。
【0027】このため、まず、制御回路16B内にあるコンピュータのメモリMには、例えばディジタルスイッチSWなどにより、予めポンプ停止圧力POFF、ポンプ始動圧力PON、各回転速度N1、N2、N3でのポンプのQ-H特性A、B、C、負荷ロード曲線F、及び、その他、必要な制御定数などが、上記したプログラムの外にも格納してある。そして、圧力センサ12、14、流量スイッチ13などから取り込んだ信号により、所定の制御信号を演算し、これをインバータ16Aに供給することによりポンプ4を可変速運転して、図2の負荷ロード曲線Fに沿った運転が得られるようにする。
【0028】すなわち、いま、高層ゾーンでの使用水量Qが0から増加し、ポンプ4が始動した後、さらに使用水量Qが増加して行ったとすると、この使用水量Qの増加に応じて、制御回路16Bはインバータ16Aの出力周波数を増加させ、ポンプ4の回転速度Nを増加させてゆく。そして使用水量Q2では回転速度N2になり、使用水量Q3では回転速度N3になるようにし、反対に、使用水量Qが、Q2→Q1→0と減少していったら、ポンプ4の回転速度Nを、N1→N2→N3と低下させて行き、使用水量Qが所定流量QS(0<QS<Q2)にまで低下したら、これを流量スイッチ13の信号により検知し、ポンプ4の回転速度Nを、所定値N’にまで増速させ、圧力タンク15に給水して高層ゾーン用給水管8の水圧がポンプ停止圧力POFFに達したところでポンプ4を停止させるのである。
【0029】従って、この実施例によれば、各階層ゾーン毎に異なった水圧で給水することができるので、減圧弁を使用する必要が無く、このため、減圧に伴うエネルギーの損失が無くなるので、充分に省エネを得ることができる。また、ポンプ4は、水道配水管1から供給される水道水が有する圧力では足りない部分の増圧を行なえば済むため、水道配水管の水圧が有効に利用された分、省エネが得られることになる。
【0030】一方、この実施例では、減圧弁やバイパス配管を設ける必要が無いから、コストを低減することができる。さらに、高層ゾーンに対する給水が、低層ゾーンの給水管を共用して行なわれるので、別途、低層ゾーン専用の給水管を設ける必要も無いので、この面でも構成が簡単になり、さらにコストダウンを得ることができる。
【0031】次に、本発明の他の実施例について説明する。図4は、給水対象となる建物が9階建てのビルで、これを1階から3階までの低層ゾーン(低階床群)と、4階から6階までの中層ゾーン(中階床群)、それに7階から9階までの高層ゾーン(高階床群)に分け、それに本発明を適用した場合の一実施例で、特許請求の範囲の第2項に記載の発明に対応したものであり、図から明らかなように、この実施例は、図1の実施例に、さらに増圧ポンプ40と逆止弁50、7階から9階までの各階床の水栓10g、10h、10iに接続された高層ゾーン用の給水管80、圧力センサ120、140、流量センサ130、圧力タンク150、それに制御装置160を加えたものであり、従って、その他は、図1の実施例と同じであるが、以下、この実施例では、4階から6階までの階床を中層ゾーンと記し、7階から9階までの階床を高層ゾーンと記すことにする。なお、1階から3階までの低層ゾーンについては、図1の実施例と同じである。
【0032】増圧ポンプ40の吸込管は、中層ゾーン用給水管8の一部で、第1段目の増圧ポンプ4により0.2?0.5Kgf/cm2程度の水圧が確保できる位置、例えば給水管8の立上り配管の一部などに接続されており、その吐出管は、高層ゾーン用給水管80に接続されている。そして、この高層ゾーン用給水管80には、上記したように7階から9階までの各階床の水栓10g、10h、10iが接続されている。
【0033】従って、この実施例では、水道配水管1の水圧を、第1段目の増圧ポンプ4と第2段目の増圧ポンプ40により2段に増圧して、高層ゾーンの各各階床の水栓10g、10h、10iに給水が行なわれるようにしたものであり、このため、制御装置160は、第1段目の制御装置16と同じようにして、圧力センサ120、140と、流量スイッチ130の信号により、増圧ポンプ140を可変速制御し、所定の水圧に昇圧された水を水栓10g、10h、10iに供給するように、このポンプ40を運転制御するようになっている。
【0034】しかして、このとき、第2段目の増圧ポンプ40による給水のためには、第1段目の増圧ポンプ4も同時に運転されている必要が有り、従って、この実施例では、第1段目の制御装置16にも圧力センサ120からの信号が取り込まれるようになっており、これにより、第2段目の増圧ポンプ40を運転して、高層ゾーンに対する給水が開始されたときには、増圧ポンプ40の吸込管側の圧力が所定値から低下しないように、必ず第1段目の増圧ポンプ4も運転状態になるように構成されている。具体的には、第2段目の増圧ポンプ40の吸込側の圧力が、例えば、常に1.0Kgf/cm2に保たれるように第1段目の増圧ポンプ4を運転制御するのである。
【0035】第2段目の増圧ポンプ40に必要な圧力(全揚程)は、実揚程;2.6m×5階、管路ロス;実揚程の20%、所要末端圧力10m、第1段目による給水圧力10m、という条件が満足されるように、例えば23mとし、この条件が満足されるようにして設置する。
【0036】このようにすれば、第2段目の増圧ポンプ40の吐出側の圧力は、最高でも30m以下になるので、各階床に減圧弁を設ける必要はなくなる。但し、第1段目の増圧ポンプ4による吐出流量は、第2段目の増圧ポンプ40の吐出量分もまかなえるように設定しておく必要がある。
【0037】次に、この図4の実施例の動作について、説明する。
<4階以上、6階までの階床で水が使用されたとき>水栓10d?10fが開かれると、水圧センサ14による検出圧力が、例えば設定値1.0Kgf/cm2以下となり、これにより第1段目の増圧ポンプ4が始動される。始動後は、中層ゾーン用給水管8の末端の圧力が1.0Kgf/cm2の設定値を保つように、増圧ポンプ4の回転速度を制御する。そして、水の使用が停止されて流量が所定値QS以下になったら、流量スイッチ13の信号により、ポンプを停止させるのであるが、このとき、一旦、増圧ポンプ4の回転速度を上げ、水圧を1.5Kgf/cm2にまで昇圧し、圧力タンク15に蓄圧しておくのである。なお、この制御は、図1の実施例と同じである。
【0038】<7階以上、9階までの階床で水が使用されたとき>水栓10g?10iが開かれると、高層ゾーン用の給水管80の圧力が低下する。そこで、圧力センサ140による検出圧力が第2段目の増圧ポンプ40の始動圧力PON以下になると、第2段目の増圧ポンプ40を始動させる。そして、始動後は、給水量に応じて、この増圧ポンプ40を可変速運転して、予め定めてある負荷ロード曲線に沿った運転が得られるようにする。なお、このときの制御も、図1の実施例における増圧ポンプ4の制御と同じである。
【0039】しかして、このときには、さらに圧力センサ120による検出圧力も同時に監視し、これにより、増圧ポンプ40の吸込側の圧力が設定値(1.0Kgf/cm2)以下になったら、上記したように、1段目の増圧ポンプ4の運転を開始し、増圧ポンプ4と増圧ポンプ40の2台のポンプによる直列運転により給水が行なわれるようにする。
【0040】このときの1段目の増圧ポンプ4については、設定圧力(1.0Kgf/cm2)を目標値とする一定圧力制御となり、2段目の増圧ポンプ40については、上記した負荷ロード曲線に従った制御となる。そして、このときも、ポンプを停止させるときには、それぞれ一旦、増圧ポンプ4、40の回転速度を上げ、水圧を1.5Kgf/cm2にまで昇圧し、圧力タンク15、150に蓄圧しておくのである。
【0041】従って、この実施例でも、各階層ゾーン毎に異なった水圧で給水することができるので、減圧弁を使用する必要が無く、このため、減圧に伴うエネルギーの損失が無くなるので、充分に省エネを得ることができる。次に、ポンプ4は、水道配水管1から供給される水道水が有する圧力では足りない部分の増圧を行なえば済むため、水道配水管の水圧が有効に利用された分、省エネが得られることになる。
【0042】また、この実施例でも、減圧弁やバイパス配管を設ける必要が無いから、コストを低減することができる。さらに、高層ゾーンに対する給水が、低層ゾーンの給水管を共用して行なわれるので、別途、低層ゾーン専用の給水管を設ける必要も無いので、この面でも構成が簡単になり、さらにコストダウンを得ることができる。
【0043】ところで、この図4の実施例では、2段目の増圧ポンプ40が運転を開始する毎に、1段目の増圧ポンプ4も始動される場合が殆どであるから、この1段目の増圧ポンプ4の始動頻度がかなり高くなってしまう虞れがある。そこで、この始動頻度の増加が好ましくない場合には、圧力タンク15、150の容量を、必要に応じて適宜増加させてやればよい。
【0044】なお、この図4の実施例では、2台の増圧ポンプを用いた場合について説明したが、本発明は、更に多くの、例えばn台(n>3、4、……)の増圧ポンプを用いることにより、高層から超高層の任意の階数の建物における給水システムとして適用可能なことは、言うまでもない。
【0045】
【発明の効果】本発明によれば、以下に列挙する効果がある。
【0046】1 バイパス用の給水管や、3階以下の専用の給水管が不要になるので、配管設備に必要な工事費を少なく抑えることができる。
【0047】2 低層ゾーンでの給水にも減圧弁を必要としないので、設備費が少なくて済む。
【0048】3 1段目からn段目まで、各段に圧力タンクを設置しておき、ここで圧力制御を行なうようにできるため、停電などによりポンプの運転が停止させられてしまったときでも、ウォーターハンマ現象が発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による中高層建物用増圧給水システムの一実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例におけるポンプの運転特性図である。
【図3】本発明の一実施例における制御装置を示す回路図である。
【図4】本発明の他の一実施例を示すブロック図である。
【図5】本発明の他の一実施例における制御装置を示す回路図である。
【図6】給水システムの第1の従来例を示すブロック図である。
【図7】給水システムの第2の従来例を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 水道配水管
2 量水計
3 給水管(低層ゾーン用給水管)
4、40 増圧(ブースター)ポンプ
5、50 逆止弁(逆流防止弁)
8、80 給水管(高層ゾーン用給水管)
10a?10i 各階の水栓
12、14、120、140 圧力センサ
13、130 流量スイッチ
15、150 圧力タンク
16 制御装置
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-12-17 
結審通知日 2008-12-19 
審決日 2009-01-21 
出願番号 特願2000-106839(P2000-106839)
審決分類 P 1 113・ 841- ZA (E03C)
P 1 113・ 853- ZA (E03C)
P 1 113・ 854- ZA (E03C)
P 1 113・ 121- ZA (E03C)
P 1 113・ 852- ZA (E03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河本 明彦  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 飯野 茂
森口 正治
登録日 2003-01-24 
登録番号 特許第3392390号(P3392390)
発明の名称 中高層建物用増圧給水システム  
代理人 特許業務法人武和国際特許事務所  
代理人 松村 貴司  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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