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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1261796
審判番号 無効2011-800123  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-07-13 
確定日 2012-08-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第2927279号発明「発光ダイオード」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯の概要
本件特許第2927279号に係る手続の経緯は以下のとおりである。

平成 9年 7月28日 特許出願(特願平9-218149号)
(国内優先権主張:平成 8年 7月29日、
平成 8年 9月18日、
平成 8年12月27日)
平成10年 6月13日 手続補正
平成10年11月25日 手続補正
平成11年 4月 5日 特許査定
平成11年 5月14日 特許第2927279号として設定登録
平成11年 7月28日 特許公報発行
平成12年 1月27日 異議申立(2)
平成12年 1月28日 異議申立(1)、異議申立(3)
平成14年 7月24日 取消理由通知
平成14年10月 4日 訂正請求、意見書
平成14年11月 8日 異議決定
平成23年 7月13日 無効審判請求
平成23年10月 7日 答弁書
平成24年 1月26日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成24年 1月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 2月 9日 口頭審理
平成24年 2月 9日 上申書(請求人)
平成24年 2月24日 上申書(被請求人)
平成24年 3月 2日 上申書(請求人)


第2 本件発明
本件特許第2927279号の請求項に係る発明は、平成14年10月4日付けで訂正の請求がなされ、同年11月8日付けの異議決定において認められた、訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】マウント・リードのカップ内に配置させた発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光するLEDチップと、該LEDチップと導電性ワイヤーを用いて電気的に接続させたインナー・リードと、前記LEDチップが発光した光によって励起され発光する蛍光体を含有する透明樹脂を前記カップ内に充填させたコーティング部材と、該コーティング部材、LEDチップ、導電性ワイヤー及びマウント・リードとインナーリードの先端を被覆するモールド部材とを有する発光ダイオードであって、前記LEDチップは、InGaN発光層から青色発光し、前記蛍光体は(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)0_(12):Ceであり、且つLEDチップからの光及び蛍光体からの光はモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性発光ダイオード。ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である。
【請求項2】前記モールド部材が、レンズ効果を有する形状であると共に拡散材を含有する請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】前記透明樹脂が、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーンから選択される一種であり、照明として使用可能な請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項4】前記モールド部材は、前記コーティング部材を構成する透明樹脂と同じ部材を用いている請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項5】前記コーティング部の表面側からLEDチップ側に蛍光体を徐々に多くする請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項6】チップタイプLEDの筐体内に配置させた発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光するLEDチップと、該LEDチップが発光した光によって励起されて発光する蛍光体を含有する透明樹脂を前記LEDチップが配設された筐体内に充填させたモールド部材とを有する発光ダイオードであって、前記LEDチップは、InGaN発光層から青色発光し、前記蛍光体は(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)0_(12):Ceであり、且つLEDチップからの光及び蛍光体からの光は、前記モールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性発光ダイオード。ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である。」(以下、請求項1ないし請求項6に係る各発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)


第3 審判請求人の主張の概要
1 審判請求書
(1)特許法第29条第2項の規定違反に基づく進歩性欠如(無効理由1)
ア 甲第1号証に開示された発明(甲第1号証発明)、本件発明1との対比
特開平5-152609号公報(甲第1号証)には、発光素子の発光色を変換する目的で樹脂モールド中に無機顔料、または有機顔料が混入される場合があることが記載され、発光色の変換の一例として、緑色発光素子の樹脂モールド中に赤色顔料を添加することで発光色を白色とすることが記載されているところ、一種類の発光素子で多種類の発光ができることを目的とし、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することが記載されている。したがって、甲第1号証にかかる発明は、多種類の発光をするために数々の光を変換することの一例として、発光色を白色にできることが開示されているといえる(12頁下から9行?13頁1行)。
また、本件発明1と甲第1号証発明とを比較すると、本件発明1における発光ダイオードが「高演色性」の意義が不明確であるが、本件発明1においては、構成要件1A-1から1Dを備えることで「高演色性」という効果を当然に備えるものと理解するほかはなく、「高演色性」という要件は相違点とはならない(13頁下から2行?14頁下から11行)。
以上により、両者は、以下の点が相違する(15頁)。
(ア)本件発明1では、モールド部材と「蛍光体を含有する透明樹脂をカップ内に充填させたコーティング部材」とを区別しているのに対し、甲第1号証発明では、「樹脂モールド」は、カップの内外に区別なくモールドされている点(相違点1)。
(イ)本件発明1では、LEDチップは「発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光」するのに対し、甲第1号証発明では、…420?440nm付近の波長を発光するものである点(相違点2)。
(ウ)本件発明1では発光層がInGaNからなるのに対して、甲第1号証発明では発光層がGa_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1)である点(相違点3)。
(エ)本件発明1では、「蛍光体は(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)O_(12):Ceであり、ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である」のに対し、甲第1号証発明では、蛍光体の種類は記載されていない点(相違点4)。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
本件訂正明細書の段落【0047】には、「…フォトルミネセンス蛍光体はモールド部材中に含有させてもそれ以外のコーティング部などに含有させてもよい。…屈折率を考慮してモールド部材とコーティング部とを同じ部材を用いて形成させても良い。」と記載されており、本件発明1には、モールド部材とコーティング部材とを同じ部材を用いて形成し、両者に蛍光体を含有させたものも含まれるといえる。しかも、特開平7-99345号公報(甲第2号証)には、カップの底部に載置された青色LEDを、緑色発光が得られる蛍光物質を含有した第1の樹脂でカップの縁部の水平面より低くなるように充填し、その周囲を蛍光物質を含有しない第2の樹脂で充填することが開示されており、本件発明1のコーティング部材のみに蛍光体を含有させることも公知である。
したがって、相違点1は格別の相違点ではなく、当業者が容易に設計変更できる事項である(15?16頁)。
(イ)相違点2及び3について
InGaNを発光層とする窒化ガリウム系化合物半導体において、発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光することは周知技術であった(甲第3?5号証)から、甲第1号証に係る周知技術を適用することは当業者にとって極めて容易であった(16?18頁)。
(ウ)相違点4について
単色性ピーク波長の青色光を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体として、セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は周知慣用技術であった(甲第6?10号証)。
したがって、かかる周知慣用技術を甲第1号証発明に適用することは極めて容易である(18?25頁)。
ウ 本件発明1の作用効果
本件発明1の作用効果は、顕著なものでもなく、当業者が予測不可能なものでもない(25頁)。
エ 小括
以上より、本件発明1は、甲第1号証発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(25頁)。
オ 本件発明2ないし6について
(ア)本件発明2
モールド部材が、レンズ効果を有する形状であると共に拡散材を含有する構成は、本件特許の最先の優先日当時周知慣用技術であったから(甲第11号証(実開昭59-50455号公報)、甲第12号証(実開平4-63162号公報))、本件発明1を引用している本件発明2についても、甲第1号証発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(26?27頁)。
(イ)本件発明3
透明樹脂がエポキシ樹脂である構成は、本件特許の最先の優先日当時周知慣用技術であった(甲第12、11号証)。加えて、発光ダイオードが照明に使用可能であることも自明である。よって、本件発明1を引用している本件発明3についても、甲第1号証発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(27?28頁)。
(ウ)本件発明4
甲第1号証発明においても、全体が同じ樹脂モールドにより被覆されているのであるから、本件発明4と甲第1号証発明とに差異はない(28頁)。
(エ)本件発明5
特開平7-99345号公報(甲第2号証)の図1には、蛍光体の分布を発光チップの近辺に限定し、発光チップから離れた位置の樹脂には蛍光体を含有させないことが記載されている。甲第1号証発明も特開平7-99345号公報(甲第2号証)に記載の発明も、ともにLEDチップに蛍光体を添加して波長を変換させるという共通の技術分野にかかるものであること、甲第1号証発明において蛍光体を全体に均一に分布させる必要性はないのであるから、甲第1号証発明に特開平7-99345号公報(甲第2号証)に記載の発明を適用することは容易である(28?29頁)。
(オ)本件発明6
チップタイプLEDは、特開平7-30153号公報(甲第13号証)や特開平7-288341号公報(甲第14号証)に記載されているとおり、本件特許の最先の優先日当時、周知慣用技術であった。したがって、甲第1号証発明及び周知慣用技術をチップタイプLEDに転用し、本件発明6を想到することは容易である(29頁)。

(2)特許法第36条第4項又は第6項の規定違反に基づく記載不備(無効理由2)
ア 「高演色性」が不明確である点について
「高」演色性ということは比較の基準や程度が不明確であることは明らかであり、また、「高演色性」にするためには、いかなる構成・方法が必要となるかが本件訂正明細書に記載されていない。よって、本件各発明は不明確であり、かつ、本件明細書は当業者が容易に実施できるものではないため、本特許出願は特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである(30?31頁)。
イ 本件特許の請求項1に記載されている事項は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていない構成を含むものであること(審決注:以下「サポート要件違反」という。)について
本件訂正明細書に記載の実施例において演色性について記載があるものは、発光波長が450nm(実施例1)及び460nm(実施例2)のもののみである。他方で、本件訂正明細書において、発光スペクトルが450nmから475nmであることにより、「高演色性」という効果を有することについての記載はない。したがって、本件訂正明細書では、450nmを超えて460nm未満で高演色性を有するか不明であるかも記載されていないばかりか、460nmを超えた部分について高演色性を有することが一切サポートされていない。よって、本件特許は、本件訂正明細書においてサポートされていない事項を含むものであるため、本特許出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである(31頁)。

2 口頭審理陳述要領書
(1)「第2 事後分析に基づく後付けの理屈(hindsight)で進歩性を否定することはできない」について
青色LEDチップのみを用いて「白色系の発光」を得るという構成は、本件特許の優先日当時、甲1のみならず、甲15、甲16、甲17等により、周知慣用技術となっていた。すなわち、本件特許の優先日より前の平成7年7月14日に頒布された特開平7-176794号公報(甲15)、平成8年1月12日に頒布された特開平8-7614号公報(甲16)、遅くとも平成8年7月1日までに頒布された「カーオーディオのLCD用高輝度白色バックライト」(甲17)には、青色LEDと蛍光物質を組み合わせて青色光と蛍光の合成により白色光を得る発光装置が記載されている(3?6頁)。
(2)無効理由1について
ア 「1 本件発明1と甲第1号証発明との相違点」について
甲1の段落【0003】に発光色の変換の一例として白色光が挙げられており、青色光と補色関係にある黄色発光が可能な蛍光体(例えばYAG系蛍光体)が実用化されていることは技術常識であるから、「白色光が発光可能である」に係る構成は、単に甲第1号証発明に含まれ得るのみでなく、当業者が技術常識を参酌することにより甲1の記載事項から導き出すことができる。したがって、甲1には「白色光が発光可能である」に係る構成が開示されているといえる。
また、被請求人は、甲1にかかる特許出願に基づく分割出願にかかる登録特許(特許第2900928号)、及び当該分割出願からさらに分割派生した出願にかかる登録特許(特許第3724490号、特許第3724498号)を白色LEDの特許として位置づけている(甲18)。
加えて、本件明細書段落【0005】?【0007】には、甲第1号証発明が青色光と蛍光の混合による白色発光が可能なLEDであることが記載されている。
したがって、甲1に「白色が発光可能である」に係る構成の開示があることは明白である(6?8頁)。
イ 「相違点の判断について」について
本件発明については、周知技術を寄せ集めたものにすぎない(8?9頁)。
(ア)相違点2について
甲第1号証発明は、窒化ガリウム系化合物半導体の中でも、とりわけ、主に430nm付近にピーク波長をもち青色発光可能である窒化ガリウム系化合物半導体を発光素子とするLEDの高輝度化を目的とする発明である。そして、甲3?甲5に記載されたLEDは、クラッド層にAlGaN層を配した発光波長が450nm?460nmの青色LEDであり、甲第1号証発明の発光素子として適当である(10頁)。
(イ)相違点4について
甲6?甲10に開示された蛍光体(以下「YAGその他セリウム付活ガーネット系蛍光体」という。)は、発光ダイオードとの関連性が強い。すなわち、発光ダイオードは、ディスプレイ等の表示、各種照明、レーザーなど幅広い用途を持つ発光材料であり、甲6?甲10には、ディスプレイ装置、ブランウン管などの表示、ストロボ装置やランプなどの照明、及びレーザなどを用途とする蛍光体が記載されており、発光ダイオードとYAGその他セリウム付活ガーネット系蛍光体との間に作用・機能における共通性があり、技術分野の関連性が強いことは明らかである。実際、甲17においても、LCDの分野において、青色LEDと蛍光体の組み合わせが開示されている(11?12頁)。
(ウ)動機づけについて
そもそも、青色LEDと蛍光体の組み合せにより白色光を得るという構成は周知技術(甲1、甲15、甲16、甲17)であるから(上記(1)参照)、かかる周知の構成について動機づけの存在を否定する被請求人の主張は成り立つ余地がない。すなわち、青色LEDと蛍光体の組み合せにより白色光を得るという構成が周知技術である以上、青色LEDと蛍光体を組み合わせようとすること自体には動機付けが存在することは明らかである。そのうえで、蛍光体として、何を選択するかということが問題となるのである。すなわち、甲第1号証発明は、430nm付近の発光波長により効率良く励起され、高輝度であり、発光波長の調節が容易な蛍光体を用いること、劣化が少なく光出力の高い蛍光体を選択することが適当である。そして、YAGその他セリウム付活ガーネット系蛍光体は、上記の条件を満たす(13頁)。
(3)「高演色性」(無効理由2)について
ア 「高演色性」が「スペクトルの連続した」ことを意味するということは、本件明細書に記載がない(16頁)。
イ 被請求人は、構成要件1A-1から1Dを備えた発光ダイオードであっても、「高演色性」のものと「高演色性」でないものは存在しないと主張するが、本件特許の異議事件の中で被請求人たる特許権者が平成14年10月4日付で行った訂正請求によれば、請求項1につき、従来「発光ダイオード」とあったものを「高演色性発光ダイオード」と訂正したことについて、「発光ダイオードを高演色性のものに限定しようとするものである。」と述べていることからも明らかなとおり、「高演色性」のものと「高演色性」ではないものは存在する(16頁)。
ウ 本件特許の出願時の技術常識として、「青色発光素子及び本件発明が規定する蛍光体を適宜組み合わせ」て、「高演色性発光ダイオードを実現すること」の技術常識など存在しない(16頁)。
エ 被請求人は、本件明細書には450nmと460nmの発光ピークの青色発光素子しか開示されていないにも拘わらず、これらの例よりもYAGの発光スペクトルが近づいている475nmを発光ピークとする青色発光素子の発光波長がYAGからの発光波長と良好に連続することは自明であると主張するが、その理由が存在しない(16?17頁)。

3 平成24年2月9日付け上申書
(1)甲19(本件特許にかかる先の無効審判事件(無効2000-35125)にかかる平成13年4月4日付「無効理由通知書」)において、
○1 本件の甲1と同一である当該事件の甲4について、白色発光が意図されていると認定されている。
○2 本件の甲1を見た当業者が、甲1自体の記載及び周知技術から、甲1には青色LEDと蛍光体を組み合わせて白色LEDとすることが開示されているものと理解するか、少なくとも、極めて容易に白色光を発光させることができるといえると認定された。
○3 引用発明の蛍光体として、これら周知の蛍光体を使用し、本件発明1の相違点cの構成とすることに、何ら困難性は認められないと認定されている(2頁)。
(2)甲20及び甲21により、甲21に記載された「P2」、「P3」と475nmを結んだ場合、「白」を通過するどころか、「みどりみの白」や「青みの白」にすら該当せず、したがって、青色LEDの波長が475nmの場合に「高演色」の白色発光がするとはいえない(2頁)。

4 平成24年3月2日付け上申書
(1)被請求人は、甲15、16は、優先日からほぼ1年以内に公開された被請求人による特許公報であり、甲17は、優先日と同月に刊行された当時の新技術を紹介する雑誌記事であるから、これらに基づいて青色LEDチップのみを用いて「白色系の発光」を得ることが周知慣用であったとは言えないと主張するが、被請求人が1993年に青色発光ダイオードを開発して以来(甲3)、被請求人の動向は当業者の注目を集めるところとなっていたから、被請求人から、甲15及び甲16のような、青色LEDと蛍光体で白色光を生成する技術が発表されていれば、当業者の間では、かかる技術は1年もあれば周知慣用技術となる(2頁)。
(2)甲1に白色LEDが開示されていることを示す証拠として、特開平9-27642号公報(甲23)を提出する。甲23は、本件特許の最先の優先日前に出願されたものであるため、本件特許の最先の優先日当時の当業者の認識を示すものといえる。甲23の段落【0007】には「【0007】このような問題点を解消する従来例として、図5に示すような青色LED13を用いた照明装置が提案されている。この照明装置は、蛍光フィルムを青色LEDl3の上方に配置するのでなく、青色LEDチッブ13aを封止する樹脂14内に蛍光顔料15を混入させた点を特徴としている。蛍光顔料15は前記蛍光顔料11aと同様、青色発光の波長を白色発光の波長に変えるようになっている。」と記載されており、当業者が甲1を白色光のLEDであると認識していたことを示すものである。
また、甲23は、本件特許の最先の優先日前に青色LEDと蛍光体で白色光を生成する技術が周知慣用技術であったことを示すものである(2?3頁)。
(3)青色LEDと蛍光体を組み合わせて白色LEDとするには、甲15、甲16に記載された橙色蛍光体(橙色蛍光体の発光ピークは580nm前後)、甲17の図6に記載されたピーク波長が約530nmや580nmの蛍光体を用いるのが極めて自然な選択である(3頁)。
(4)甲20は、無効審判請求事件(無効2000-35125)における被請求人の答弁書であり、甲21は、当該事件において被請求人が「乙2」として提出した証拠である。甲20の3頁には、「(Y_(3)(A1_(0.6),Ga_(0.4))_(5)O_(12):Ce)(CIE色度座標x=0.32、y=0.56)(本件特許公報の第5頁表1中の第2番目)(乙第2号証第4頁中、「P2」として示している)と蛍光体(Y_(3)(A1_(0.5),Ga_(0.5))_(5)O_(12):Ce)(CIE色度座標x=0.29、y=0.54)(同表中第3番目)(乙第2号証同頁、「P3」として示している)」と記載されている(17?23行)。つまり、甲21の4頁の図中、P2とP3は本件発明の蛍光体に含まれうるものとなる。かかるP2と475nmの波長の位置、P3と475nmの波長の位置を結んだのがオレンジ色の線である。他方で、緑色で囲んである箇所が白色となる。高演色というためには、少なくとも、この白色領域の中でも特に「白」と記載された箇所(緑色で塗りつぶした箇所)を言うべきと考えられるところ、P2、P3と475nmを結んだ場合、「白」を通過するどころか、「(緑み)の白」や「(青みの)白」にすら該当しない。したがって、475nmの場合に「高演色」の白色発光をするとはいえない(3?4頁)。


第4 被請求人の主張の概要
1 審判事件答弁書
(1)事後分析に基づく後付けの理屈(hindsight)で進歩性を否定することはできない。
本件発明は、青色LEDチップのみを発光素子として用いて「白色系の発光」を得るという点において、従来、実現されていない、初めての技術である(8?9頁)。
(2)無効理由1について
ア 本件発明1と甲第1号証発明との相違点
本件発明1と甲第1号証発明とでは、請求人が認定する4つの相違点のみならず、
「本件発明1は、「LEDチップからの光及び蛍光体からの光はモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性発光ダイオード」であるのに対し、甲第1号証発明では、青色発光素子の色補正ないし波長変換をする発光ダイオードとされており、白色系発光可能で高演色性発光ダイオードとはされていない点」(「相違点5」)
との重要な相違点があり、請求人の主張は、一致点・相違点の認定からして誤っている(13頁)。
確かに、甲第1号証に開示された「青色発光素子の色補正ないし波長変換」という概念には、「白色系発光可能な高演色性」という具体的な態様は含まれ得るが、これは、甲第1号証に「白色系発光可能な高演色性」が開示ないし示唆されていることを意味しない。甲第1号証の段落【0003】の記載にしても、「緑色発光素子の樹脂モールド中に、赤色顔料を添加する」というものであって、赤色と緑色を混ぜれば白色になることは記載しているものの、これは単に2種類の色を混ぜれば色は変わるというに過ぎない(14頁)。
相違点の判断について
請求人は「相違点5」の存在を見逃しており、甲第1号証には、「青色発光素子と蛍光体とを組み合わせることで、高演色な白色系発光可能な発光ダイオード」は開示も示唆もされていないのであるから、甲第1号証発明の「蛍光体」として「セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体」を選択して組み合わせる動機付けはない(15頁)。
本件では、「論理付けに最も適した」引例であるはずの甲第1号証の発明とでさえ、5つもの相違点が存在し、そのうえ、甲第1号証には「青色発光素子により励起された蛍光体からの光と、蛍光体に吸収されななかった青色発光との混色により白色系発光を得る」という本件発明の基本的な技術思想の開示もない(19頁)。
また、本件では、少なくとも、相違点2?5にかかる構成が一体となって「照明にも使用できる高演色性の白色系発光ダイオード」を実現しているのであるから、これらの構成を一体とした相違点の検討が必要となる(20頁)。
(ア)相違点2について
甲第3号証には、「LEDチップからの光及び蛍光体からの光はモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性発光ダイオード」において、適切な白色系発光を得るために必要な要素として「発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光するLEDチップ」が求められることについての開示も示唆もない。
甲第4号証と甲第5号証は、相違点5との関係における相違点2は開示も示唆もしていない(21?22頁)。
(イ)相違点4について
本件発明の技術分野は「発光ダイオード」である。しかるところ、請求人が提出している各証拠は、いずれもこれとまったく無関係な技術分野における文献である。請求人が本件発明の進歩性を否定するためには、少なくとも、甲第1号証と特定の引例との組み合わせを動機付けを含めて主張しなければならない(23頁)。

(3)無効理由2について
ア 「高演色性」が不明確であるとの主張に対して
特許法36条6項2号に違反するか否かは、記載(用語)自体が明確化どうかではなく、問題となる記載(用語)によって「権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となるか否か」によって判断される。しかるところ、請求人が問題とする「高演色性」は、請求人自身が審判請求書14頁で「本件発明1においては、特許請求の範囲の記載上は、構成要件1A-1から1Dを備えることで、「高演色性」という効果を有する発光ダイオードになるものと理解できる。」と指摘しているとおり、本件発明1が規定するその他の構成要件を充足した発光ダイオードが奏する効果を記載したものである。したがって、当該記載(用語)は、そもそもその権利範囲に影響を及ぼす発明の構成要素ではないから、これによって、権利の及ぶ範囲が第三者に不明確となることはない(29頁)。
イ サポート要件違反であるとの主張に対して
段落【0039】には、「LEDチップとフォトルミネセンス蛍光体との効率をそれぞれより向上させるためには、450nm以上475以下がさらに好ましい。」と記載されており、当業者であれば、本件明細書の開示にしたがい、このような波長の青色発光素子及び本件発明が規定する蛍光体を適宜組み合わせ、高演色性発光ダイオードを実現できることは明らかである。
なお、請求人は、450nmと460nmの実施例からは460?475nmで演色性がよくなるかは不明である旨を主張しているが、本件明細書には、450nmや460nmを発光ピークとする青色発光素子の発光波長がYAGからの発光波長と良好に連続し、そのために高い演色性が得られることの開示があり、また、YAG系蛍光体の発光スペクトルがブロードであることの開示もあるから、これらの例よりもYAGの発光スペクトルに近付いている475nmを発光ピークとする青色発光素子の発光波長がYAGからの発光波長と良好に連続することは自明である(31頁)。

2 口頭審理陳述要領書
(1)本件構成要件の一部が公知であることはなんら本件発明の新規性進歩性を否定しない
本件発明を構成する各構成要件をばらばらにして見た場合には、部分的には公知な構成も含まれているとはいえる。しかしながら、これはおよそすべての発明について言えることであって、このような点はなんら本件発明の新規性進歩性を否定しない。本件発明の重要性は、むしろ、従来から個別には知られているばらばらな要素を「白色系発光可能な高演色性発光ダイオードを得る」という目的の下で、有機的な一体としてまとめ上げ、これにより、従来技術では実現不可能であった、照明用を含めた様々な用途に使用可能な新しい光源を得たことにある(5?6頁)。
(2)請求人の主張は欧州特許庁においても否定された主張の蒸し返しに過ぎない(6?7頁)。
(3)請求人の主張は本件発明1と甲第1号証発明との相違点の認定を誤っている
本件発明1と甲第1号証発明とでは、請求人が認定する4つの相違点のみならず、相違点5(上記1(2)ア参照)という重要な相違点がある。
進歩性の判断において各相違点の容易推考性を検討する際には、それぞれの相違点をばらばらに検討するのではなく、各相違点の関係を考慮した判断が求められる。しかるところ、本件において、とりわけ重要な、相違点2(発光素子の波長の点)、4(蛍光体の組成の点)、5(白色系発光の点)は、相違点5において、適切な白色系発光を得るために必要な要素として、相違点2(発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光するLEDチップ)、及び、相違点4(蛍光体は(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)O_(12):Ceであり、ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である。)が求められるという関係にある。したがって、これらの相違点を検討する際には、個別の要素としての相違点2や4にかかる構成が公知(請求人によれば周知)であるか否かではなく、相違点5を構成する要素として、相違点2や4を採用することが容易か否かが問われなければならない。
ところが、本件においては、相違点5を開示する公知例され提出されておらず、かつ、「LEDチップからの光及び蛍光体からの光はモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性発光ダイオード」を構成するための要素としての相違点2や4は公知や周知ではなく、これらを甲第1号証に組み合わせるべき動機付けもない(7?9頁)。
(4)請求人が提出した証拠について
ア 相違点2に関する証拠について
相違点2に関連する証拠は甲第3号証?甲第5号証であるが、いずれも、白色系発光可能なLEDに関する技術はなんら開示されていない(9頁)。
イ 相違点4についての証拠
相違点4に関連する証拠は甲第6号証?甲第10号証であるが、いずれも本件とはまったく技術分野が異なっており、およそ、青色LEDとYAG蛍光体の混同スペクトルによって高演色な白色系発光を得ようとする本件発明を導く動機付けになるようなものではない(9?10頁)。

3 上申書
(1)請求人が提出した平成24年1月26日付口頭審理陳述要領書について
ア 請求人は、甲15、16、17によって、青色LEDチップのみを用いて「白色系の発光」を得ることが周知慣用技術であったとし、また、青色LEDチップと組み合わせる蛍光物質として黄色を選択する理由になるなどとしているが、甲15、16、17は、優先日からほぼ1年以内に公開された被請求人による特許公報2つと、優先日と同月に刊行された当時の新技術を紹介する雑誌記事であるから、これらに基づいて「周知慣用」といえない(3頁)。
イ 請求人は本件明細書や甲18を根拠に、甲1に白色発光の点の開示があるとしているが、被請求人がここで述べているのは、甲1(ないしその関連出願)の発明が白色に適用できるということだけのことである(3頁)。
(2)平成24年2月9日付上申書について
ア 甲19は、審理途中での意見に過ぎない(3頁)。
イ 請求人は甲20及び21を根拠に甲21に示されたP2やP3と475nmを結んだ場合には白にはならないとしているが、ピーク波長が475nmの青色LEDチップからの波長を使って白色系発光を得たければ、これに適した蛍光体を使用すればよいというだけのことである(3?4頁)。


第5 当審の判断
1 無効理由2について
事案に鑑み、まず、無効理由2につき、検討する。
(1)「高演色性」が不明確である点について
ア 本件発明の「高演色性」との要件に関し、本件訂正明細書には、以下の記載がある。
(ア)「【0017】…セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体の発する蛍光とInGaNの青色光の混色は、演色性の良い良質の白色を得るという点において他の組み合わせにはない極めて特異な性能を有する。」
(イ)「【0024】本願発明に用いられるフォトルミネセンス蛍光体は、…励起スペクトルのピークを450nm付近にさせることができる。また、発光ピークも図4に示すように、580nm付近にあり700nmまで裾を引くブロードな発光スペクトルを持つ。」
(ウ)「【0039】本願発明の発光ダイオードにおいて白色系を発光させる場合は、フォトルミネセンス蛍光体との補色関係や樹脂劣化等を考慮して発光素子の発光波長は400nm以上530nm以下が好ましく、420nm以上490nm以下がより好ましい。LEDチップとフォトルミネセンス蛍光体との効率をそれぞれより向上させるためには、450nm以上475nm以下がさらに好ましい。本願発明の白色系発光ダイオードの発光スペクトルを図3に示す。450nm付近にピークを持つ発光がLEDチップからの発光であり、570nm付近にピークを持つ発光がLEDチップによって励起されたフォトルミネセンスの発光である。」
イ 上記アによれば、本件発明における「高演色性」との要件は、「セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体の発する蛍光とInGaNの青色光の混色」によって得られる白色光がもたらす演色性を意味するものと解され、それ以上に演色性の程度を特定するものではないと解される。
ウ したがって、「高演色性」との要件を含む本件各発明が不明確なものであるとはいえない。
エ また、本件発明の「高演色性発光ダイオード」を実施するためには、上記イで述べたとおり、「セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体の発する蛍光」と「InGaNの青色光」とを混色させればよいと解されるから、本件訂正明細書は当業者がその発明を容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、ということもできない。
オ よって、本件特許出願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるとはいえない。
(2)サポート要件違反について
ア 請求人は、「本件訂正明細書に記載の実施例において演色性について記載があるものは、発光波長が450nm(実施例1)及び460nm(実施例2)のもののみである。他方で、本件訂正明細書において、発光スペクトルが450nmから475nmであることにより、「高演色性」という効果を有することについての記載はない。したがって、本件訂正明細書では、450nmを超えて460nm未満で高演色性を有するか不明であるかも記載されていないばかりか、460nmを超えた部分について高演色性を有することが一切サポートされていない。」と主張する(上記第3の1(2)イ)。
イ しかしながら、本件発明における「高演色性」との要件は、上記(1)イで述べたとおり、「セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体の発する蛍光とInGaNの青色光の混色」によって得られる白色光がもたらす演色性を意味するものであって、それ以上に演色性の程度を特定するものではないと解されるものであるから、本件訂正明細書に、発光スペクトルが450nmから475nmであることにより、「高演色性」という効果を有することについての記載がなくとも、「450nmを超えて460nm未満で高演色性を有するか不明であるかも記載されていないばかりか、460nmを超えた部分について高演色性を有することが一切サポートされていない」ということはできない。
ウ よって、本件特許は、本件訂正明細書においてサポートされていない事項を含み、本件特許出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである、ということはできない。

2 無効理由1について
次に、無効理由1につき、検討する。
(1)甲第1号証ないし甲第23号証の記載事項、甲第1、2号証発明
ア 甲第1号証
請求人が提出し、本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-152609号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、前記発光素子が、一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とする発光ダイオード。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本考案は発光素子を樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオード(以下LEDという)に係り、特に一種類の発光素子で多種類の発光ができ、さらに高輝度な波長変換発光ダイオードに関する。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】一般に、LEDは図1に示すような構造を有している。1は1mm角以下に切断された例えばGaAlAs、GaP等よりなる発光素子、2はメタルステム、3はメタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。…さらに発光素子1は透明な樹脂モールド4でモールドされている。
【0003】通常、樹脂モールド4は、発光素子の発光を空気中に効率よく放出する目的で、屈折率が高く、かつ透明度の高い樹脂が選択されるが、他に、その発光素子の発光色を変換する目的で、あるいは色を補正する目的で、その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料、または有機顔料が混入される場合がある。例えば、GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に、赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。」
(エ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来、樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず、着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら、樹脂モールドに、波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると、LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。
【0005】ところで、現在、LEDとして実用化されているのは、赤外、赤、黄色、緑色発光のLEDであり、青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。青色、紫外発光の発光素子はII-VI族のZnSe、IV-IV族のSiC、III-V族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ、最近、その中でも一般式がGa_(X)Al^(1-X)N(但しXは0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が、常温で、比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。また、窒化ガリウム系化合物半導体を用いて、初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163?p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は、主として430nm付近にあり、さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし、そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。
【0006】本発明は…、その目的とするところは、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることにある。」
(オ)「【0008】図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子、2および3は図1と同じくメタルステム、メタルポスト、4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子11の裏面はサファイアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため、GaAlN層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため、GaAlN層をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け、金線によって電気的に接続する手法が取られている。また他の電極は図1と同様にメタルポスト3から伸ばした金線によりp型層の表面でワイヤボンドされている。さらに樹脂モールド4には420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。」
(カ)「【0009】
【発明の効果】蛍光染料、蛍光顔料は、一般に短波長の光によって励起され、励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが、それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり、しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合、その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料、蛍光顔料を添加することにより、最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができる。さらに、短波長の光を長波長に変え、エネルギー効率がよい為、添加する蛍光染料、蛍光顔料が微量で済み、輝度の低下の点からも非常に好都合である。」
(キ)上記(オ)に照らして図2をみると、図2に示された発光ダイオード(LED)は、以下のa及びbのような構成を備えることがみてとれる。
a メタルステム2上部に形成された凹部に、青色発光素子11が配置されていること
b メタルステム2上部、青色発光素子11、メタルポスト3上部、前記メタルステム2と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線及び前記メタルポスト3と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線が、樹脂モールド4によってモールドされていること

よって、これらの記載を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。

「ステム上に発光素子を有し、それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて、前記発光素子が、一般式Ga_(X)Al_(1-X)N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり、さらに前記樹脂モールド中に、前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料、または蛍光顔料が添加されてなり、
その目的とするところは、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることにあり、
一実施例において、メタルステム2上部に形成された凹部に、青色発光素子11が配置され、前記メタルステム2上部、前記青色発光素子11、メタルポスト3上部、前記メタルステム2と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線及び前記メタルポスト3と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線が、樹脂モールド4によってモールドされており、
前記青色発光素子11は、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなるものであり、サファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなり、
樹脂モールド4には420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されており、
青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができ、さらに、短波長の光を長波長に変える、発光ダイオード。」

イ 甲第2号証
同じく、甲第2号証(特開平7-99345号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 発光チップの発光を発光観測面側に反射するカップの底部に発光チップが載置された発光素子全体を、樹脂で封止してなる発光ダイオードであって、前記樹脂は前記カップ内部を充填する第一の樹脂と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂とからなり、前記第一の樹脂には発光チップの発光波長を他の波長に変換する蛍光物質、または発光チップの発光波長を一部吸収するフィルター物質が含有されていることを特徴とする発光ダイオード。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は発光ダイオード(以下LEDという。)に係り、特に発光チップの発光波長を異なる波長に変換する、または発光チップの発光を一部吸収するLEDに関する。」
(ウ)「【0002】
【従来の技術】図2は従来のLEDの一構造を示す模式断面図であり、1は化合物半導体よりなる発光チップ、2はリードフレーム、3は発光チップの発光を発光観測面側に反射させる目的で設けられたカップ、4は発光素子全体を封止する樹脂である。通常、樹脂4は発光チップの発光を空気中に効率よく放出する目的で透明度の高い樹脂が選択されるが、他にその発光チップの発光色を変換する目的で、あるいは色を補正する目的で、その樹脂4の中に発光チップの発光を他の波長に変換する蛍光物質、または発光波長の発光波長を一部吸収するフィルター物質5(以下、波長変換材料5という。)が混入される場合がある。この場合、波長変換材料5は樹脂4に均一に分散するように混入されるのが通常である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、…波長変換材料5を樹脂4中に均一に分散させると、…波長変換された光、または不要な波長がカットされた光は樹脂4中で四方八方に散乱してしまい、集光が悪くなるという問題がある。」
(エ)「【0005】…本発明の目的とするところは、LEDの樹脂に波長変換材料を含有させて発光チップの波長変換を行う際、まず変換された発光の集光をよくしてLEDの輝度を高めることを目的とし、また蛍光顔料を使用した際、波長の異なるLEDを近接して設置しても混色の起こらないLEDを提供することをもう一つの目的とする。」
(オ)「【0007】
【作用】本発明のLEDは、発光チップの発光を第一の樹脂内において所望の波長に変換、または不要な波長を一部吸収する。このようにして波長変換された光は四方八方に散乱するが、散乱した光のほとんどはカップにより反射され、発光観測面側に集光される。つまり本願のカップは第一の樹脂内で波長変換材料により波長変換された光を反射して集光できるので、変換光の集光効率が格段に向上する。」
(カ)「【0009】
【実施例】図1は本願の一実施例のLEDの構造を示す模式断面図であり、図2と同様に、カップ3を有するリードフレーム2上に化合物半導体よりなる発光チップ1を載置した発光素子全体を、樹脂で封止した構造としている。しかし、図2と異なるところは、封止樹脂がカップ3内部を充填する第一の樹脂11と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂12とからなり、第一の樹脂11には発光チップの発光波長を他の波長に変換、または一部吸収する変換する波長変換材料5が含有されている。
【0010】本発明のLEDにおいて、第一の樹脂11と第二の樹脂の材料は同一材料でもよく、例えば両方ともエポキシ樹脂で構成し、第一の樹脂にのみ蛍光物質5を含有させればよい。さらに、第二の樹脂12の材料は図2の樹脂4と同一でもよいことはいうまでもない。また、波長変換材料5は蛍光物質であれば蛍光染料、蛍光顔料、蛍光体等、発光チップの発光波長を他の波長に変換できる材料であればどのようなものを使用してもよく、…。」

よって、これらの記載を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が記載されていると認められる。

「発光素子全体を封止する樹脂4中に発光チップの発光を他の波長に変換する波長変換材料5を均一に分散させた従来のLEDでは、波長変換された光が樹脂4中で四方八方に散乱してしまい、集光が悪くなるという問題があったところ、変換された発光の集光をよくしてLEDの輝度を高めるために、カップ3を有するリードフレーム2上に化合物半導体よりなる発光チップ1を載置した発光素子全体を、樹脂で封止した構造のLEDにおいて、封止樹脂をカップ3内部を充填する第一の樹脂11と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂12とで構成し、第一の樹脂11に発光チップの発光波長を他の波長に変換する波長変換材料5が含有されているLED。」

ウ 甲第3号証
同じく、甲第3号証(日経エレクトロニクス1994年2月28日号93?102頁)には、以下の記載がある。
(ア)「日亜化学工業が光度1cdのGaN青色発光ダイオードを開発した。発光波長は450nm,光出力は1.2mW,寿命は数万時間である。…」(93頁)
(イ)「開発したInGaN/AlGaNダブルへテロ構造高輝度青色発光ダイオードの構造を図8に示す。まずサファイア基板上にGaNバッファ層を+550℃で成長させ,その上に約+1000℃でn型GaN,n型AlGaN,ZnドープInGaN,p型AlGaN,p型GaNを順次成長させる。…開発した発光ダイオードのピーク波長は450nmで,半値幅は70nmである(図9)。」(99頁)

エ 甲第4号証
同じく甲第4号証(Appl.Phys.Lett.67(13),25 September 1995 1868?1870頁)には、以下の記載がある。
「High-power blue and violet light-emitting diodes(LEDs)based on III-V nitrides were grown by metalorganic chemical vapor deposition on sapphire substrates. As an active layer, the InGaN single-quantum-well-structure was used. …The blue LEDs produced 4.8 mW at 20 mA and sharply peaked at 450nm,…」(1868頁要約欄)
(和訳:高出力の青色及び紫色のIII-V族窒化物系発光ダイオード(LED)が、サファイア基板上に有機金属化合物気相成長法により成長された。活性層として、InGaN単一量子井戸構造が用いられた。…青色のLEDは20mWで4.8mWを出力し、450nmで鋭いピークを示した。)

オ 甲第5号証
同じく、甲第5号証(特開平7-162038号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【0014】
【実施例】[実施例1]MOCVD法により、厚さ300μmのサファイア基板上に、GaNよりなるバッファ層を200オングストローム、コンタクト層としてSiドープGaN層を4μm、第一のクラッド層としてSiドープGa_(0.9)Al_(0.1)N層を0.1μm、活性層としてZnとSiとをドープしたn型In_(0.1)Ga_(0.9)N層を0.1μm、および第二のクラッド層としてMgをドープしたp型Ga_(0.9)Al_(0.1)N層を0.1μmを順に積層した窒化ガリウム系化合物半導体ウェ-ハを作成した。…」
(イ)「【0016】以上のようにして得たウェーハをチップ状に裁断し、青色発光素子として発光させたところ、順方向電圧20mAにおいて、Vfは4.3Vであり、主発光波長460nmにおける発光輝度は1400mcd、発光出力1600μWと過去最大の発光輝度、発光出力を示した。」

カ 甲第6号証
同じく、甲第6号証(特公昭49-1221号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明は投射デイスプレイ装置に関し、主として非コヒーレントは(審決注:「非コヒーレントな」の誤りと認める。)照射による黒白像を作る装置に関する。
可視或は紫外領域でのレーザ・ビームの走査及び、可視領域に発光する光ルミネツセンス・スクリーンを用いる投射法によつて単色デイスプレイが作られる。燐光の結合によつて白色或は所望の色を出すことができる。」(1頁右欄2?9行)
(イ)「レーザ・デイスプレイ装置によつて、斑点形成を排除した黒白画像が得られる。本発明の装置はスクリーンからの発光光よりいくらか短い波長での可視領域で発光するレーザによりエネルギーを付与されたセリウム活性化ガーネツトの燐光体スクリーンを用いることによる。一つの構成にはセリウムを含有するイツトリウム・アルミニウム・ガーネツトを用いる。肉眼には、この燐光性物質からの発光は帯黄色である特性であり、レーザ発光の一部を故意に反射させることによつてより白色に近いように修正される。
構成分に関する観点から、本発明の一具体例は、4880Åに発光するように配置されたアルゴン・イオン・レーザによつてエネルギー付与されたセリウム・ドープのイツトリウムアルミニウム・ガーネツト(YAG)で被膜されたスクリーンを用いる。
セリウム-活性化燐光物質は約5500Åに中心を持つ広い波長領域にわたつて発光する。
変更例は、4416Åに発光できるカドミウム-イオンレーザのような他のレーザ源を、燐光物質の組成分の変更と同じように包含する。そのようなすべての組成物はセリウム活性化されて、ガーネツト構造(即ちY_(3)Al_(5)O_(12)の構造)のホストを利用する。これは適当な色と輝度の再発光を与えると知られている結合であるからである。燐光物質の吸収ピークは特殊なエネルギー付与源によりよく順応するように移動させることができる。そしてこの目的の為に、アルミニウムの一部をガリウムで置換して吸収波長をより短い方へ移動させる。或るいはイツトリウムの全部又は一部をガドリウムで置換しより長い波長へ吸収ピークを移動させる。吸収ピークの移動は同方向での相当する発光変化を起こし、レーザ・ビームの一部の反射による色修正(例えば、白色像を作るため)が容易に続けられる。」(1頁右欄30行?2頁左欄28行)
(ウ)「本発明の他の配置構成では、燐発光組成物の範囲は少なくとも一部が有機物であるものを利用する。本発明装置は1以上の波長の、そのうち少なくとも一つは可視或は紫外スペクトル内で、燐発光の主要部分の波長よりいくらか短い波長で発光するレーザ・エネルギの利用に依存している。
利用するに適する有機燐光物質の多くの種類により、エネルギ付与しレーザの性質に関する制限はほとんどない。適当なレーザは4880Åで発光するアルゴン・イオン及び4416Åで発光するカドミウム・イオン・レーザを包含する。有用な単色デイスプレイの為の適当な励起波長領域は約2500?5500Åである。
この広い範囲の特定波長は燐光特性に従つて選択される。」(2頁左欄29?43行)
(エ)「第1図について説明すると、示されたデータはセリウム・ドープYAGによる発光及び励起スペクトルである。
発光スペクトルは破線により、約0.55ミクロンの波長に最大値を有する広いピークを持つ。黒線で示す励起スペクトルは多種のポンプ周波数に示される発光強度の測定である。最大の励起ピークは約0.46ミクロンのポンプ波長に一致している。」(2頁右欄28?36行)
(オ)「多くの燐光体を用いるにもかかわらず、色度図から、本当の白色光を得るに要する条件は、照射レーザ・ビームは約4950Åより短い波長を有することである…。」(3頁右欄24?27行)
(カ)「Ce^(3+)の発光は一般的に近紫外領域である。しかし、多分YAGのようなガーネツト中の大きな結晶場分裂により、発光が可視に変化されうることが知られている。第1図に示されるように、YAG:Ce^(3+)の発光は約0.55ミクロン(帯黄白色)にピークのある非常に広いバンドを有する約0.46ミクロンに中心を持つ格子のピーク吸収及びこの吸収スペクトルはアルゴン(0.488μ)或は、カドミウム(0.4416μ)レーザの両方に適している。」(4頁左欄30?39行)
(キ)「セリウム-ドープ・ガーネツト中の励起スペクトルは上記のレーザに適応するように、或は他のレーザ源をより効率良く利用するように変動しえる。この目的の為、原型組成Y_(3)Al_(5)O_(12)はアルミニウムに対して一部又は全部ガリウムに置換し、及び/又はイツトリウムに対してガドリニウムで置換することにより変更しえる。
前者は励起ピークを短い波長に移動する効果があり、後者は逆の効果がある。このような方法で励起スペクトルのピークは、約0.33ミクロンから約0.48ミクロンの範囲内で、任意に変化できる…。
励起スペクトルの変動は約0.51?約0.61ミクロンの範囲にある発光範囲内の発光スペクトルに変動を与える。白色又は近白色像を得るための好適な設計具体例には、発光ピークは約0.52ミクロン…以下の波長にすべきではない。この好適な具体例と同じ観点から燐光体は約0.58μ以上の波長の励起ピークを得るように変更されるべきでない。」(4頁右欄4?26行)

キ 甲第7号証
同じく、甲第7号証(APPLIED PHYSICS LETTERS Vol.11 No.2(1967年7月)53?55頁)には、以下の記載がある。
(ア)「In this Letter we report on a Ce^(3+)-activated phosphor with an emission at considerably longer wavelengths, viz. Y_(3)Al_(5)O_(12)-Ce.」(53頁左欄4?6行)
(和訳:本稿では、発光波長がかなり長いCe^(3+)付活の蛍光体、すなわちY_(3)Al_(5)O_(12)-Ceについて報告する。)
(イ)「…Y_(3)Al_(5)O_(12)-Ce is most efficiently excited by 460nm radiation.」(54頁右欄16?17行)
(和訳:Y_(3)Al_(5)O_(12)-Ceが、460nmの放射光によって最も効率的に励起される…。)

ク 甲第8号証
同じく、甲第8号証(特開昭50-43913号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明はすぐれた演色性を有するストロボ装置に関する。」(1頁左下欄10?11行)
(イ)「本発明は、従来有害光として排除することに主眼を置かれてきたクセノンガス放電管の紫外発光または可視青色発光の一部をけい体の励起に利用し、けい光体による吸収と発光の両方の効果でクセノンガス放電管の発光の色補正を行うものである。
具体的には、300?400nmの近紫外光、あるいは400?500nmの青色光によって効率よく黄?赤色の発光が励起されるけい光体(例えば、Y_(3)Al_(5)O_(12):Ce,YVO_(4):Euなど)を選んで、クセノンの放電光がよく当たる位置に配置すればよい。」(1頁右下欄最下行?2頁左上欄10行)
(ウ)「青色光励起用けい光体としてはY_(3)Al_(5)O_(12):Ce,Y_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12):Ceなどが適している。」(2頁右上欄1?2行)
(エ)「Y_(3)Al_(5)O_(12):Ceけい光体は丁度450?500nm附近の波長領域に強い励起バンドを持ちそれに対し560?580nmをピークとする発光バンドを示し、キセノン放電光の色補正には最も適している。」(2頁左下欄1?5行)

ケ 甲第9号証
同じく、甲第9号証(JOURNAL of the Illuminating Engineering Society Vol.6,No.2(1977年1月)89?91頁)には、以下の記載がある。
(ア)「We have found another phosphor, cerium-activated yttrium aluminate garnet(YAG:Ce) which is useful in improving color rendition by absorbing the blue Hg radiation and also adds to the total emission of the lamp by converting this blue radiation into emission centered at 560 nanometers.」(89頁右欄3?8行)
(和訳:我々は、他の蛍光体として、セリウム付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)を見いだした。これは、青色のHg放射光を吸収することにより演色性の改善に有効であり、この青色放射光を560nmに中心を有する発光に変換することによってランプ全体の発光も増加する。)
(イ)「The color shift is due largely to the absorption of the 436 nanometer Hg line, …. This is due to the efficient conversion of the 436 Hg line into visible emission.」(89頁右欄最下行?90頁左欄6行)
(和訳:色シフトは、436nmのHg線の吸収に起因するところが大きく、…。これは436nmのHg線を効率良く可視光に変換することによる。)

コ 甲第10号証
同じく、甲第10号証(三菱電機技報Vol.48(1974年9月)1121?1124頁)には、以下の記載がある。
(ア)「ここで述べるPYGけい光体はY_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12);Ceであらわされ…。」(1121頁左欄下から8行?下から7行)
(イ)「Y_(3)Al_(5)O_(12);Ce中のAlをGaで置換するとその量に応じて発光ピーク波長が540nmから500nm付近へ連続的に変化する。」(1121頁右欄7?8行)
(ウ)「また刺激スペクトルも二つのピークがあり約450nmにある長波長側のものについては…。」(1121頁右欄15?17行)
(エ)「PYGけい光体の発光スペクトルは図5.に示すように比較的広い波長域にわたっている上に同用途の他種けい光体にくらべて光出力もきわめて高い。」(1122頁右欄13?15行)
(オ)「PYGけい光体は非常に劣化の少ないことが大きな特長の一つでもある。」(1123頁左欄30?31行)

サ 甲第11号証
同じく、甲第11号証(実願昭57-115503号(実開昭59-50455号)のマイクロフィルム)には、以下の記載がある。
(ア)「一端に夫々反射器が形成された複数のリード、該リードの各反射器底面に配された発光ダイオードペレツト、上記各反射器を個別に被覆する第1モールド体、上記各反射器を一体にモールドする第2のモールド体を具備し、上記第1モールド体はフイラ(光拡散剤)入り透光性材料からなり、また第2モールド体は透光性材料からなることを特徴とする発光ダイオード装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「(17)は上記第1モールド体(16)(16)でモールドされた反射器(11a)(12a)を一体のモールドしてなる凸レンズ効果を有する第2モールド体であり、該モールド体は透光性材料、例えば透明エポキシ樹脂からなる。」(5頁8?12行)

シ 甲第12号証
同じく、甲第12号証(実願平2-103859号(実開平4-63162号)のマイクロフィルム)には、以下の記載がある。
「透明樹脂で略円柱状体に樹脂成型され、略円柱状体一端開放の空洞部に、略円柱状体より屈折率の小さい光拡散剤入り樹脂が充填された二重構造の発光カバーを有し、前記空洞部の開放面に発光ダイオード発光部を設置することを特徴とする発光ダイオードランプ。」(実用新案登録請求の範囲の請求項2)

ス 甲第13号証
同じく、甲第13号証(特開平7-30153号公報)には、チップタイプLEDが記載されている。

セ 甲第14号証
同じく、甲第14号証(特開平7-288341号公報)には、チップタイプLEDが記載されている。

ソ 甲第15号証
同じく、甲第15号証(特開平7-176794号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 透明な導光板の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオードが光学的に接続されており、さらに前記導光板の主面のいずれか一方に、前記青色発光ダイオードの発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質と、蛍光を散乱させる白色粉末とが混合された状態で塗布された蛍光散乱層を有し、前記青色発光ダイオードの発光が前記蛍光散乱層で波長変換され、前記蛍光散乱層と反対側の導光板の主面側から観測されることを特徴とする面状光源。」
(イ)「【0010】まず図2の矢印で示すように、青色LED1から出た光は、チップ近傍で一部導光板以外の外部に放射されるが、大部分の光は導光板2の中を全反射を繰り返しながら、導光板の端面に達する。端面に達した光は端面全てに形成された反射膜4に反射されて、全反射を繰り返す。この時、導光板2の第二の主面側に設けられた蛍光散乱層3により一部の光は散乱され、また一部の光は蛍光物質により吸収され同時に波長変換されて放射され、導光板2の第一の主面側から観測する発光色はこれらの光を合成した光が観測できる。例えば橙色の蛍光顔料と白色顔料からなる蛍光散乱層3を設けた面状光源では、先に述べた作用により、青色LEDからの発光色が白色となって観測できる。」

タ 甲第16号証
同じく、甲第16号証(特開平8-7614号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 透明な導光板2の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオード1が光学的に接続されており、さらに前記導光板2の主面のいずれか一方に白色粉末が塗布された散乱層3を有し、前記散乱層3と反対側の導光板2の主面側には、透明なフィルム6が設けられており、そのフィルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されていることを特徴とする面状光源。」
(イ)「【0010】まず図2の矢印で示すように、青色LED1から出た光は、チップ近傍で一部導光板2以外の外部に放射されるが、大部分の光は導光板2の中を全反射を繰り返しながら、導光板2の端面に達する。端面に達した光は端面全てに形成された反射膜4に反射されて、全反射を繰り返す。この時、導光板2の第二の主面側に設けられた散乱層3により光は散乱され、散乱された光の一部は蛍光層5により吸収され同時に波長変換されて放射され、導光板2の第一の主面側から観測する発光色はこれらの光を合成した光が観測できる。例えば橙色の蛍光顔料からなる蛍光層5を設けた面状光源では、先に述べた作用により、青色LED1からの発光色が白色となって観測できる。」

チ 甲第17号証
同じく、甲第17号証(「電子技術」1996年7月号55?58頁)には、以下の記載がある。
「高輝度白色バックライトの開発
1993年に日亜化学工業から画期的な高輝度の青色LEDが発表された。このLEDは波長450nmの純青色で、従来の青色LEDよりも100倍も明るい、1000mcd/m^(2)の輝度をもっている。
…効率を落とさずに、白色をつくるフィルタができないものか、いろいろ試行するなかで、青色のもつ波長帯で励起発光する蛍光体の存在が確認された。この原理を応用して、色変換材を混合し、白色発光が可能な色変換シート(CCS)を開発することができた。…
図4に青色LED光源の白色バックライト照明構造、図5にCCS(色変換シート)の構造を示す。
基本的な構造は小型電球光源のバックライト照明と同様である。アクリル導光板に青色LEDを配置し、エッジライト方式で均一に反射された青色光はCCSで白色に変換されるとともに、輝度アップされてLCDを透過する。」(57頁)

ツ 甲第18号証
請求人が提出する甲第18号証(被請求人のウェブサイト(プレスリリース「白色LED特許網の構築について」)を印刷したもの)には、日亜化学工業株式会社が取得した、窒化ガリウム系半導体発光素子と蛍光体とを組み合わせた白色LED等に関する様々な特許権の例として、特許第2900928号、特許第3724490号、特許第3724498号等があることが記載されている。

テ 甲第19号証
請求人が提出する甲第19号証(本件特許にかかる先の無効審判事件「無効2000-35125」にかかる平成13年4月4日付け「無効理由通知書」)には、訂正前の本件特許の請求項1に係る発明と特開平5-152609号公報に記載された発明(引用発明)とが、相違点d(引用発明では、白色系が発光可能とは記載されていない点)において相違するが、当該特開平5-152609号公報には、「GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に、赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。」(【0003】)と記載され、白色発光が意図されているものと解され、また、特開平8-7614号公報には、「白色発光、あるいはモノクロの光源として、一部では青色LEDチップの周囲を蛍光物質を含む樹脂で包囲して色変換する試みもある」(【0004】)と記載されており、本件出願時には、青色LEDチップの周囲を蛍光物質を含む樹脂で包囲して白色発光させるものが公知であったものと解されるから、特開平5-152609号公報の記載及び本件出願時における公知技術を考慮すれば、引用発明において、青色の補色関係にある色を発光する蛍光体を使用し、白色系の発光をさせることは当業者ならば容易に想到し得た、との無効理由が記載されている。

ト 甲第20、21号証
請求人が提出する甲第21号証(上記無効審判事件(無効2000-35125)の乙第2号証)には、系統色名の一般的な色度区分の座標図が示されており、同甲第20号証(前記「無効2000-35125」にかかる平成12年6月20日付け「審判事件答弁書」)の(特に3頁の)記載に照らせば、前記座標図には、蛍光体(Y_(3)(Al_(0.6),Ga_(0.4))_(5)O_(12):Ce)のCIE色度座標x=0.32、y=0.56が「P2」、蛍光体(Y_(3)(Al_(0.5),Ga_(0.5))_(5)O_(12):Ce)のCIE色度座標x=0.29、y=0.54が「P3」として示されている。

ナ 甲第22号証
請求人が提出する甲第22号証(「電子技術」1996年6月号104頁)には、「電子技術」1996年7月号(甲第17号証)が、同年6月12日に発売予定であることが記載されている。

ニ 甲第23号証
請求人が提出し、本件特許出願の優先日前に出願され、当該優先日後に公開された刊行物である甲第23号証(特開平9-27642号公報)には、以下のような記載がある。
「【0007】…従来例として、図5に示すような青色LED13を用いた照明装置が提案されている。この照明装置は、蛍光フィルムを青色LED13の上方に配置するのでなく、青色LEDチップ13aを封止する樹脂14内に蛍光顔料15を混入させた点を特徴としている。蛍光顔料15は前記蛍光顔料11aと同様、青色発光の波長を白色発光の波長に変えるようになっている。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲第1号証発明を対比する。
(ア)甲第1号証発明の「メタルステム2」、「メタルステム2上部に形成された凹部」、「(メタルステム2上部に形成された凹部に配置され、窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる)青色発光素子11」、「メタルポスト3」、「(メタルポスト3と青色発光素子11とを電気的に接続する)金線」、「蛍光染料5」、「(メタルステム2上部、青色発光素子11、メタルポスト3上部、…前記メタルポスト3と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線とをモールドする)樹脂モールド4」及び「発光ダイオード」は、それぞれ、本件発明1の「マウント・リード」、「マウント・リードのカップ」、「(マウント・リードのカップ内に配置させた発光層が窒化ガリウム系化合物半導体である)LEDチップ」、「インナー・リード」、「(LEDチップとインナー・リードとを電気的に接続する)導電性ワイヤー」、「(LEDチップが発光した光によって励起され発光する)蛍光体」、「(LEDチップ、導電性ワイヤー及びマウント・リードとインナーリードの先端を被覆する)モールド部材」及び「発光ダイオード」に相当する。
(イ)甲第1号証発明の「(青色発光素子11をモールドする)樹脂モールド4には…蛍光染料5が添加されており」との事項と、本件発明1の「『蛍光体を含有する透明樹脂を前記カップ内に充填させ』て『コーティング部材』となし、『該コーティング部材、LEDチップ、導電性ワイヤー及びマウント・リードとインナーリードの先端を』『モールド部材』で『被覆する』」との事項とは、「蛍光体を含有し、LEDチップを被覆する透明な樹脂を有する」との点で一致する。
(ウ)請求人は、「特開平5-152609号公報(甲第1号証)には、発光素子の発光色を変換する目的で樹脂モールド中に無機顔料、または有機顔料が混入される場合があることが記載され、発光色の変換の一例として、緑色発光素子の樹脂モールド中に赤色顔料を添加することで発光色を白色とすることは記載されているところ、…一種類の発光素子で多種類の発光ができることを目的とし、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することが記載されている。したがって、特開平5-152609号公報(甲第1号証)にかかる発明は、多種類の発光をするために数々の波長の光を変換することの一例として、発光色を白色にできることが開示されているといえる。」(請求書12?13頁、上記第3の1(1)ア)、「甲1の段落【0003】に発光色の変換の一例として白色光が挙げられており、青色光と補色関係にある黄色発光が可能な蛍光体(例えばYAG系蛍光体)が実用化されていることは技術常識であるから、『白色光が発光可能である』に係る構成は、単に甲第1号証発明に含まれ得るのみでなく、当業者が技術常識を参酌することにより甲1の記載事項から導き出すことができる。」(口頭審理陳述要領書7頁、上記第3の2(2)ア)等と主張する。
しかしながら、甲第1号証の「例えば、GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に、赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。」(上記1(1)ア(ウ)【0003】)との記載は、単に「緑色発光素子の樹脂モールド中」に「赤色顔料」を添加すれば発光色を「白色」とすることができるということを述べただけのものであって、蛍光染料あるいは蛍光顔料を添加して「白色」を得ることまで示唆するものではない。
したがって、「特開平5-152609号公報(甲第1号証)にかかる発明は、…発光色を白色にできることが開示されているといえる。」との請求人の主張を採用することはできない。

よって、両者は、
「マウント・リードのカップ内に配置させた発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であるLEDチップと、該LEDチップと導電性ワイヤーを用いて電気的に接続させたインナー・リードと、前記LEDチップが発光した光によって励起され発光する蛍光体を含有し、LEDチップを被覆する透明な樹脂とを有する発光ダイオード。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

a 本件発明1の「LEDチップ」は、発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光し、InGaN発光層から青色発光するのに対し、甲第1号証発明の「LEDチップ」は、発光ピークが430nm付近および370nm付近にあり、GaAlNがn型およびp型に積層されてなるものである点(以下「相違点a」という。)。
b 本件発明1は、透明樹脂をマウント・リードのカップ内に充填させたコーティング部材と、該コーティング部材、LEDチップ、導電性ワイヤー及びマウント・リードとインナーリードの先端を被覆するモールド部材とを有し、蛍光体を前記透明樹脂に含有させたものであるのに対し、甲第1号証発明は、メタルステム2上部、青色発光素子11、メタルポスト3上部、メタルステム2と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線及び前記メタルポスト3と前記青色発光素子11とを電気的に接続する金線を樹脂モールド4によりモールドし、蛍光体(蛍光染料5)を前記樹脂モールド4に添加させたものである点(以下「相違点b」という。)。
c 本件発明1の「発光ダイオード」は、LEDチップからの光及び蛍光体からの光がモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性のものであるのに対し、甲第1号証発明の「発光ダイオード」は、その目的とするところが、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることであり、一実施例において、420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されており、青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができ、さらに、短波長の光を長波長に変えるものであって、LEDチップからの光及び蛍光体からの光がモールド部材を透過することによって白色系発光可能なものとはいえず、また、高演色性のものともいえない点(以下「相違点c」という。)。
d 蛍光体が、本件発明1では、(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)0_(12):Ceである(ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である。)のに対し、甲第1号証発明では、420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光するものではあるが、その材料が不明である点(以下「相違点d」という。)。

イ 判断
(ア)相違点aについて
相違点aに関し、請求人は、「InGaNを発光層とする窒化ガリウム系化合物半導体において、発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光することは周知技術であった(甲第3?5号証)から、甲第1号証に係る周知技術を適用することは当業者にとって極めて容易であった」と主張する(請求書16頁、上記第3の1(1)イ(イ))。
しかしながら、甲第1号証発明の「発光ダイオード」は、「その目的とするところ」が、「発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させること」にあるものであって、「一実施例において、…420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5」を「樹脂モールド4」に添加したものであるから、「InGaNを発光層とする窒化ガリウム系化合物半導体において、発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光する」技術を上記のような目的を有する甲第1号証発明の「発光ダイオード」に適用する具体的動機が見当たらず、当該技術を、甲第1号証発明に適用することが当業者にとって想到容易ということはできない。
よって、請求人の上記主張は採用できず、甲第1号証発明において、上記相違点aに係る本件発明1の構成となすことを当業者は容易になし得たということはできない。

(イ)相違点bについて
上記(1)イによれば、甲第2号証には、甲第2号証発明が記載され、変換された発光の集光をよくしてLEDの輝度を高めるために、発光素子全体を封止する樹脂4中に発光チップの発光を他の波長に変換する波長変換材料5を均一に分散させた従来のLEDに換えて、カップ3を有するリードフレーム2上に発光チップ1を載置した発光素子を、カップ3内部を充填する第一の樹脂11と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂12とで封止するとともに、前記第一の樹脂11に発光チップの発光波長を他の波長に変換する波長変換材料5を含有させたものとすることが示されている。しかるところ、甲第1号証発明のように、「青色発光素子11」全体を封止する「樹脂モールド4」中に「蛍光染料5」を添加した「発光ダイオード」において、「蛍光染料5」からの発光の集光をよくするために、前記のように「青色発光素子11」全体を封止する「樹脂モールド4」中に「蛍光染料5」を添加したものに換えて、「(凹部が形成された)メタルステム2」上に載置した「青色発光素子11」を、前記凹部を充填する第一の樹脂と、その第一の樹脂を包囲する第二の樹脂とで封止するとともに、前記第一の樹脂に「蛍光染料5」を含有させたものを採用して、上記相違点bに係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)相違点cについて
請求人は、「青色LEDチップのみを用いて『白色系の発光』を得るという構成は、本件特許の優先日当時…周知慣用技術となっていた。」(口頭審理陳述要領書3頁、上記第3の2(1))、「青色LEDと蛍光体の組み合せにより白色光を得るという構成が周知技術である以上、青色LEDと蛍光体を組み合わせようとすること自体には動機付けが存在することは明らかである。」(口頭審理陳述要領書13頁、上記第3の2(2)イ(ウ))と主張する。
しかしながら、甲第1号証発明の「発光ダイオード」は、青色発光素子からの短波長の光をより長波長の光に変換するものであるから、「青色LEDチップのみを用いて『白色系の発光』を得る」技術を適用する動機に欠けるものである。
また、請求人は、甲第19号証を提示し、「甲1自体の記載及び周知技術から、極めて容易に白色光を発光させることができたといえると認定された」(平成24年2月9日付け上申書2頁、上記第3の3)と主張するが、上記(ア)の検討によれば、甲第1号証発明の「発光ダイオード」は、青色発光素子からの短波長の光をより長波長の光に変換するものであって、「青色LEDチップのみを用いて『白色系の発光』を得る」技術を適用する動機に欠けるものというべきである。
そして、請求人が提出した他の甲号証のいずれをみても、甲第1号証発明の「(青色発光素子からの短波長の光をより長波長の光に変換する)発光ダイオード」を、上記相違点cに係る本件発明1の構成(LEDチップからの光及び蛍光体からの光がモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性の発光ダイオード)とすることについて示唆をするものは見当たらない。
したがって、甲第1号証発明において、上記相違点cに係る本件発明1の構成となすことを当業者は容易になし得たということはできない。

(エ)相違点dについて
相違点dに関して、請求人は、「単色性ピーク波長の青色光を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体として、セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体は周知技術であった(甲第6?10号証)」から、「かかる周知慣用技術を甲第1号証発明に適用することは極めて容易である。」(請求書18?25頁、上記第3の1(1)イ(ウ))、「青色LEDと蛍光体の組み合せにより白色光を得るという構成は周知技術(甲1、甲15、甲16、甲17)であるから、かかる周知の構成について動機づけの存在を否定する被請求人の主張は成り立つ余地がない。…甲第1号証発明は、430nm付近の発光波長により効率良く励起され、高輝度であり、発光波長の調節が容易な蛍光体を用いること、劣化が少なく、光出力の高い蛍光体を選択することが適当である。そして、YAGその他セリウム付活ガーネット系蛍光体は、上記の条件を満たす。」(口頭審理陳述要領書13頁、上記第3の2(2)イ(ウ))、「青色LEDと蛍光体を組み合わせて白色LEDとするには、甲15、甲16に記載された橙色蛍光体(橙色蛍光体の発光ピークは580nm前後)、甲17の図6に記載されたピーク波長が約530nmや580nmの蛍光体を用いるのが極めて自然な選択である。」(平成24年3月2日付け上申書3頁、上記第3の4(3))等と主張する。
しかるところ、上記(1)カ?コ、ソ?チによれば、甲第6号証には、4880Å(488nm)あるいは4416Å(441.6nm)の波長を有するレーザ光を、セリウム活性化イツトリウム・アルミニウム・ガーネツト燐光物質を含ませた燐光体スクリーンに投射し、帯黄色の発光を得て、白色像を得る投射デイスプレイ装置が記載され、甲第7号証には、Ce^(3+)付活の蛍光体Y_(3)Al_(5)O_(12)-Ceが、460nmの放射光によって最も効率的に励起されることが記載され、甲第8号証には、400?500nmの青色光によって効率よく黄?赤色の発光が励起される蛍光体Y_(3)Al_(5)O_(12):Ceを用いることにより、すぐれた演色性を有するストロボ装置を構成することが記載され、甲第9号証には、セリウム付活イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)が、青色(436nm)のHg放射光を吸収することにより演色性の改善に有効であることが記載され、甲第10号証には、Y_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12);Ceけい光体は、約450nmに刺激スペクトルがあり、その発光スペクトルは比較的広い波長域にわたっていることが記載され、甲第15号証には、透明な導光板の端面に青色発光ダイオードを接続し、導光板の主面に、前記青色発光ダイオードの発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質を有し、前記青色発光ダイオードの発光が前記蛍光散乱層で波長変換される面状光源が記載され、甲第16号証には、透明な導光板2の端面に青色発光ダイオード1が接続され、前記導光板2の散乱層3が塗布されていない主面側に、前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備された透明なフィルム6が設けられている面状光源が記載され、甲第17号証には、アクリル導光板に青色LEDを配置し、エッジライト方式で均一に反射された青色光がCCS(色変換シート)で白色に変換される、白色バックライト照明構造が、それぞれ記載されているものと認められる。
しかしながら、これら上記各号証は、いずれも甲第1号証発明の技術分野である「発光ダイオード」とは異なる技術分野における文献であるか、単にY_(3)Al_(5)O_(12):Ce蛍光体が青色光を吸収して黄?赤色光を発光することを述べたものであって、そのいずれも、甲第1号証発明の「発光ダイオード」において、その「蛍光染料」あるいは「蛍光顔料」として、セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を用いる動機を記載あるいは示唆するものではない。
また、請求人が提出したその他の甲号証をみても、甲第1号証発明の「発光ダイオード」において、「蛍光染料」あるいは「蛍光顔料」として、セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を用いる動機を記載、示唆するものはみあたらない。
すなわち、「単色性ピーク波長の青色光を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体として、セリウムによって付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体」を甲第1号証発明に用いる具体的な動機がない以上、上記の理由によって、「かかる周知慣用技術を甲第1号証発明に適用することは…容易である」とする請求人の主張は、採用することができないものである。
したがって、甲第1号証発明において、上記相違点dに係る本件発明1の構成となすことを当業者は容易になし得たということはできない。

ウ 小括
上記ア及びイのとおり、甲第1号証発明は、相違点a?相違点dに係る本件発明1の構成を備えるものではないところ、甲第1号証発明に、上記相違点a、相違点c及び相違点dに係る本件発明1の構成を適用する動機は見当たらないから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び請求人が提出した各甲号証に記載された発明あるいはその記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(3)本件発明2?5について
上記(2)のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び請求人が提出した各甲号証に記載された発明あるいはその記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえないから、本件発明1を引用する本件発明2?5についても、甲第1号証に記載された発明及び請求人が提出した各甲号証に記載された発明あるいはその記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(4)本件発明6について
ア 本件発明6と甲第1号証発明を対比する。
(ア)甲第1号証発明の「(窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる)青色発光素子11」、「蛍光染料5」及び「発光ダイオード」は、それぞれ、本件発明6の「(発光層が窒化ガリウム系化合物半導体である)LEDチップ」、「(LEDチップが発光した光によって励起され発光する)蛍光体」及び「発光ダイオード」に相当する。
(イ)甲第1号証発明は、「…前記青色発光素子11…が、樹脂モールド4によってモールドされている」ものであるから、甲第1号証発明の「(蛍光染料5が添加された)樹脂モールド4」と、本件発明6の「(…蛍光体を含有する透明樹脂を前記LEDチップが配設された筐体内に充填させた)モールド部材」とは、「(…蛍光体を含有する透明樹脂により前記LEDチップを被覆する)モールド部材」である点で一致する。

よって、両者は、
「発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であるLEDチップと、該LEDチップが発光した光によって励起されて発光する蛍光体を含有する透明樹脂により前記LEDチップを被覆するモールド部材とを有する発光ダイオード。」
である点で一致し、以下の点において相違する。

a 本件発明6は、「LEDチップ」が、チップタイプLEDの筐体内に配置させたものであり、「モールド部材」が、透明樹脂を前記LEDチップが配設された筐体内に充填させたものであるのに対し、甲第1号証発明は、「LEDチップ」が、チップタイプLEDの筐体内に配置させたものではなく、また、「モールド部材」が、透明樹脂をLEDチップが配設された筐体内に充填させたものではない点(以下「相違点a’」という。)
b 本件発明6の「LEDチップ」は、発光スペクトルが450nmから475nmの単色性ピーク波長を発光し、InGaN発光層から青色発光するのに対し、甲第1号証発明の「LEDチップ」は、発光ピークが430nm付近および370nm付近にあり、GaAlNがn型およびp型に積層されてなるものである点(以下「相違点b’」という。)。
c 本件発明6の「発光ダイオード」は、LEDチップからの光及び蛍光体からの光がモールド部材を透過することによって白色系発光可能な高演色性のものであるのに対し、甲第1号証発明の「発光ダイオード」は、その目的とするところが、発光ピークが430nm付近、および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし、またその輝度を向上させることであり、一実施例において、420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されており、青色LEDの色補正はいうにおよばず、蛍光染料、蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することができ、さらに、短波長の光を長波長に変えるものであって、LEDチップからの光及び蛍光体からの光がモールド部材を透過することによって白色系発光可能なものとはいえず、また、高演色性のものともいえない点(以下「相違点c’」という。)。
d 蛍光体が、本件発明6では、(RE_(1-x)Sm_(x))_(3)(Al_(y)Ga_(1-y))_(5)0_(12):Ceである(ただし、0≦x<1、0≦y≦1、REは、Y、Gdから選択される少なくとも1種である。)のに対し、甲第1号証発明では、420?440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光するものではあるが、その材料が不明である点(以下「相違点d’」という。)。

イ 判断
(ア)相違点a’について
相違点a’につき検討するに、筐体(「台座10」あるいは「『プリント基板10』及び『カバー部材3』」)内にLEDチップを配設し、該LEDチップが配設された前記筐体内に透明樹脂を充填させた構造のチップタイプLEDは、本願の優先日時点で周知であったから(例えば、甲第13、14号証参照)、甲第1号証発明の「発光ダイオード」を、上記のようなチップタイプLEDとして構成して、上記相違点a’に係る本件発明6の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。
(イ)相違点b’、相違点c’及び相違点d’について
相違点b’、相違点c’及び相違点d’につき検討するに、上記相違点b’、相違点c’及び相違点d’は、それぞれ、上記(2)イの(ア)、(ウ)及び(エ)において検討した相違点a、相違点c及び相違点dと全く同じである。
そして、上記(2)イの(ア)、(ウ)及び(エ)において検討したとおり、甲第1号証発明に、上記相違点b’、相違点c’及び相違点d’に係る本件発明6の構成を適用する動機は見当たらないから、本件発明6は、甲第1号証に記載された発明及び請求人が提出した各甲号証に記載された発明あるいはその記載事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-15 
結審通知日 2012-03-26 
審決日 2012-04-09 
出願番号 特願平9-218149
審決分類 P 1 113・ 536- Y (H01L)
P 1 113・ 121- Y (H01L)
P 1 113・ 537- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小原 博生  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 江成 克己
北川 創
登録日 1999-05-14 
登録番号 特許第2927279号(P2927279)
発明の名称 発光ダイオード  
代理人 ▲高▼橋 綾  
代理人 田村 啓  
代理人 鮫島 睦  
代理人 言上 恵一  
代理人 吉村 誠  
代理人 黒田 健二  
代理人 牧野 知彦  
代理人 古城 春実  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 加治 梓子  
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