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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16D
管理番号 1261881
審判番号 不服2010-24508  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-29 
確定日 2012-08-16 
事件の表示 特願2004-571826「ディスクブレーキ用の通気されたディスクブレーキ帯」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月25日国際公開、WO2004/102029、平成18年11月16日国内公表、特表2006-526115〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年5月15日を国際出願日とする出願であって、平成22年6月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成22年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。

第2 平成22年10月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年10月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正後の本願発明
平成23年2月14日付けの手続補正により補正された平成22年10月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。
「通気形式のディスクブレーキ用ディスク(10)のブレーキ帯(14)であって、前記ブレーキ帯(14)が、前記ディスクの回転軸(X-X)に近接する内径(D1)と、前記ディスクの回転軸(X-X)から離間する外径(D2)との間に延び、
前記ブレーキ帯(14)が、中間空間(22)を区画して結合手段によって連結された二つの構成片(16、18)を有し、
前記結合手段が複数の柱体(20)の形態に構成され、当該複数の柱体(20)が、前記ブレーキ帯(14)の前記外径(D2)に近接配置された外側の列(26)と前記ディスクの回転軸(X-X)に近接配置された内側の列(28)と前記外側の列と前記内側の列との間に配置された少なくとも一つの中間の列(30)との少なくとも三つの同心状の列に区分けされるように配置されて、前記二つの構成片(16、18)間に通気ダクトを構成し、 前記内側の列(28)における柱体の各々が、長い対角線(L)が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有し、
前記中間の列(30)における柱体の各々が、長い対角線(L)が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有し、
前記外径(D2)と、前記ディスクの前記回転軸(X-X)に平行な方向で測定される前記二つの構成片(16、18)間の前記中間空間(22)の厚さ、即ち寸法との比率が、15と32との間に設定され、
前記外側の列(26)における柱体の各々が、前記ディスクから外側に向いたベース部(32)と、前記ベース部(32)から前記ディスクの内側に伸びて、前記通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部(34)が凹状の形状を有し、
前記ブレーキ帯(14)における前記列(26,28,30)毎の前記柱体(20)の数が、35個と50個の間に設定されていることを特徴とする、通気形式のディスクブレーキ用ディスク(10)のブレーキ帯(14)。」(なお、下線部は補正箇所を示す。)
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「構成片」について、「前記二つの構成片(16、18)間に通気ダクトを構成し」との限定を付加するとともに、「外側の列(26)における柱体」について、「凹状の形状を有して通気ダクト内に配置された内側サイド部(34)とを有し、且つ、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略三角形の断面を有し」との事項を「前記ベース部(32)から前記ディスクの内側に伸びて、前記通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部(34)が凹状の形状を有し」としその構成を限定したものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第02/081940号(以下、「引用例1」という。)には、「A BRAKING BAND, A VENTILATED DISK-BRAKE DISK, AND A CORE BOX FOR THE PRODUCTION OF A DISK-BRAKE DISK CORE(ブレーキバンド、換気ディスクブレーキディスクおよびディスクブレーキディスクの中子を製造するための中子型)」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、日本語訳は、引用例1のパテントファミリーである特表2004-523713号公報の記載を援用する。
ア 「The present invention relates to a braking band ・・・ in the automotive field. 」(1ページ4?6行、日本語訳:「【0001】
本発明は、ブレーキバンドと、換気ディスクブレーキディスクとに関し、特に、独占的に、自動車分野において適用されるものではない。」)
イ 「As is known, a disk of the type specified above is constituted by two coaxial portions. ・・・ the heat generated in the band upon each braking operation.」(1ページ9行?2ページ1行、日本語訳:「【0003】
周知のように、上記に明記されるタイプのディスクは、2つの同軸状部分によって構成されている。第1の部分である支持用ベル状体は、自動車の車輪のハブに連結するためのものであり、そして、残りの周辺部分である、いわゆるブレーキバンドは、自動車にブレーキ力をかけるために、ディスクブレーキのキャリパと協働するためのものである。
【0004】
より詳細には、本発明は、いわゆる換気ディスクに、すなわち、ブレーキバンドが、スペースを形成するように間隔をおいて配置されている2つの対面する同軸状のプレートによって構成されているディスクに関する。2つのプレートは、2つのプレート間のスペースを延通する柱状要素によって連結されている。換気ダクトは、従って、それらのプレート間に作成され、空気は、ブレーキバンドの内側から外側に向う方向にダクトを通って流れ、その結果、ブレーキ操作を行う毎に、バンドに生成される熱を環境に放散する助けをする。」)
ウ 「Other disks provided with pillar-like elements are known ・・・ by the known geometrical arrangement of the elements connecting the plates.」(2ページ19行?3ページ8行、日本語訳:「【0008】
柱状要素が設けられている他のディスクは、欧州特許出願第0318687号、同第0989321号およびドイツ特許出願第4210449号から周知である。
【0009】
これらの周知のディスクは、ある観点では十分であるが、それらは、かなりの不都合な点を有している。
【0010】
第1に、不十分な換気効率、すなわち、換言すれば、不十分な冷却能力が、ブレーキバンドに存在するスペースの内側の気流に示される抵抗により留意され、その抵抗は、プレートを連結する要素の周知の形状によって引き起こされる。
【0011】
しかも、熱応力に対する、極端な場合、機械応力に対するブレーキバンドの不十分な抵抗が留意され、この不十分な抵抗は、主に、プレートを連結する要素の周知の幾何学的図形配置によって引き起こされる。」)
エ 「The object of the present invention is to devise ・・・ prevent the problems mentioned with reference to the prior art.」(5ページ10?15行、日本語訳:「【0018】
本発明の目的は、上述の必要条件を満たし、同時に、先行技術に関して述べられている問題点を防止するブレーキバンド、換気ディスクブレーキディスクおよびディスクブレーキディスクの中子を製造するための中子型を考案し、提供することである。」)
オ 「With reference to the above-mentioned drawings, ・・・ the second plate 18 is on the opposite side. 」(6ページ24行?7ページ13行、日本語訳:「【0021】
上述の図面を参照すると、本発明によるディスクブレーキディスク、特に、自動車などの車両のディスクブレーキ(図示せず)に使用される、いわゆる換気ディスクは、概して10で示されている。そのディスク10は、ほぼ円形であり、図面においてZ-Zで示される軸周りに延在している。
【0022】
このディスク10は、支持用のベル状体12と、そのベル状体12と同軸のブレーキバンド14とを備えている。
【0023】
車両にブレーキ力をかけるために、ディスクブレーキキャリパと協働するように意図されるブレーキバンド14は、軸Z-Zと同軸状に配置される第1のプレート16と第2のプレートとを備えている。この第1のプレート16は、ベル状の支持体12と同じ側にあり、第2のプレート18は、反対側にある。」)
カ 「The two plates face one another and are spaced apart to form a space 20 ・・・ and the outer row (the outer pillar-like elements 28) .」(7ページ14行?8ページ17行、日本語訳:「【0024】
2つのプレートは、互いに対面し、気流が、ディスクの回転中に、軸Z-Zからブレーキバンド14の外側に向けて生じるスペース20を形成するために、間隔をおいて配置されている。
【0025】
この2つのプレートは、やはり、通常ピンとして知られている柱状要素24、26、28が、横切って延在する対面する表面22を有している。
【0026】
柱状要素は、2つのプレートを連結するために延在している。特に、第1のプレートには、支持用のベル状体12が連続して形成され、第2のプレート18は、柱状要素によって第1のプレートに連結されている。
【0027】
柱状要素は、プレートの対面する表面22周りに一様に分配され、示されている実施形態において、内側の列、すなわち、軸Z-Zに最も接近する列と、中間の列と、外側の列、すなわち、軸Z-Zから最も遠い列とに対応する3つの同心状の円形リング、あるいは、列に分割されている。記述を簡素にするために、内側の列の柱状要素は24で示し、中間の列の柱状要素は26で示し、最後に、外側の列の柱状要素は28で示す。
【0028】
1つの実施形態によれば、柱状要素は、1つ以上の中間の列(中間の柱状要素26)、例えば、内側の列(内側の柱状要素24)と外側の列(外側の柱状要素28)との間に配置される2つの中間の列を備えている。」)
キ 「The pillar-like elements 24 of the inner row constitute pillar-like elements ・・・ in the manner which will be described in greater detail below.」(8ページ18行?9ページ19行、日本語訳:「【0029】
内側の列の柱状要素24は、軸Z-Zに対面するブレーキバンド14の縁部の付近に配置される柱状要素を構成する。スペース内の気流方向にほぼ平行な領域内のこれらの柱状要素のそれぞれの横断面は、軸Z-Zに向かって先細になっている。より詳細には、柱状要素は、プレートの軸Z-Zの方と、ブレーキバンド14の外側の方との両方に向かって先細になっており、ほぼ菱形の横断面を形成している。
【0030】
1つの実施形態によれば、内側の列と少なくとも1つの中間の列とを意味するバンドの内側の列に配置されている柱状要素24、26は、菱形の横断面を有し、横断面とは、さらに以下に記述されるように、スペース20を通る気流方向にほぼ平行な領域において熟考される断面を意味している。
【0031】
菱形の横断面は、4つの少なくとも部分的に平坦な側を有する横断面である。菱形の横断面を有する柱状要素は、以下により詳細に記述される方法で、ブレーキバンドの換気ダクトを画定するのに適し、かつ、ディスクの内部から外部に向かって気流を方向付けるのに適している4つの少なくとも部分的に平坦な面を備えている横表面、つまり、壁を有している要素である。」)
ク 「Advantageously, the rhombic cross-sections of the pillar-like elements 24, 26 ・・・ at least one inner row and one outer row which are concentric with one another.」(10ページ18行?12ページ22行、日本語訳:「【0035】
有利には、バンド14の内側の列にある柱状要素24、26の菱形の横断面は、流れ方向を横切る軸に対して相称的であり、プレート16、18間の連結に適している各要素24、26、28は、1つのプレート16からもう1つのプレート18に延在するとはいえ、スペース20の内側にとどまっている。換言すれば、最大接線範囲、あるいは、最大寸法の中央部分から始まり、バンドの内部の列(内側の列、あるいは、軸Z-Zに最も接近する列および少なくとも1つの中間の列)の柱状要素は、等しい範囲の部分でディスクの内部に向かって、および外部に向かって先細になっており、有利には、スペース内に画定されるダクト、あるいは、チャンネルを通って、制御された方法で空気を方向付けるように配置される複数対の平行面を互いに形成する。
【0036】
しかも、プレートを連結する役割を果たす各要素は、スペース20の外側に突出、あるいは、隆起せず、スペースからプレートの外部に放出する気流を変えるための要素を形成することを回避する。換言すれば、スペース20の内側開口および外側開口には、気流の自由循環に対する障害がない。
【0037】
さらなる利点に関して、隣接した列の横断面の半径方向端部は、ほぼ同じ円形に整列されている(図2)。換言すれば、例えば、内側の列と中間の列、あるいは、中間の列と外側の列などの隣接した列の間に、柱状要素24、26、28間に接線方向にオーバーラップ部がない(プレート16、18の軸Z-Zと同心であり、1つの列の柱状要素を延通するあらゆる円形は、別の列の柱状要素を延通しない)。
【0038】
有利には、各列の柱状要素24、26、28のそれぞれは、前記横断面においてほぼ同じ半径方向範囲Dを有している。換言すれば、プレートの連結要素は、プレートのための連結領域、ゆえに、全体として、プレートの範囲全体に一様に分配される補強領域でもある。
【0039】
有利には、柱状要素24、26、28は、各プレートの対面する表面全体の15%?25%を超えない、好ましくは、20%の領域全体にプレート16、18を相互連結している。換言すれば、内側横方向表面領域全体(ブレーキシステム、あるいは、ブレーキ表面のパッドと相互に作用するのに適している外側表面領域にほぼ等しい)を有する対面する表面は、対面する表面の領域全体の15%から25%まで可変の、好ましくは、20%の領域全体を連結要素によってカバーされている。
【0040】
1つの実施形態によれば、2つのプレート16、18は、互いに同心状である少なくとも1つの内側の列と1つの外側の列とに沿って配列される柱状要素24、28によって連結されている。」)
ケ 「The dimensions of the pillar-like elements may vary ・・・ The sides of the rhombic cross-section are linked together.」(13ページ8?20行、日本語訳:「【0044】
柱状要素の寸法は、ディスクが意図される車両を基礎として変えることができる。例えば、周辺方向の寸法、すなわち、菱形の短い対角線dは、車両のタイプにより変えられる値であり、例えば、自動車には6mm、あるいは、商業乗物には10mm?12mmであるのに対して、半径方向の寸法、すなわち、長い対角線Dは、ブレーキバンドの幅hによる値であり、ブレーキバンドの外側半径と内側半径との間の差異を意味する。菱形の横断面の両側は、互いにリンクされている。」)
コ 「The cross-section of each of the pillar-like elements 28 ・・・ similar to that of the pillar-like elements of the inner row.」(14ページ19行?15ページ8行、日本語訳:「【0048】
スペースを通る気流方向にほぼ平行な領域内の外側の列の柱状要素28のそれぞれの横断面は、ドロップ形状である。特に、この横断面は、プレートの軸Z-Zに向かって先細になり、例えば、5mmの半径を有する外側リンク部分を有する。
【0049】
しかも、スペースを通る気流方向にほぼ平行な領域における中間の列の柱状要素26のそれぞれの横断面は、プレートの軸Z-Zの方と、ブレーキバンドの外側の方との両方に向かって先細になっている。中間列の柱形状要素は、従って、内側の列の柱状要素のものと類似するほぼ菱形の横断面を有している。」)
サ 「The embodiment of Figure 3 in fact has a disk ・・・ indicated by a line 30 in Figure 3.」(15ページ12行?16ページ4行、日本語訳:「【0051】
図3の実施形態は、実際に、ブレーキバンドを構成する2つのプレートが、軸Z-Zに直交する平面にほぼ平行であり、スペース20は、相応じて、軸Z-Zと同軸状のリング内に延在するディスクを有している。第1のプレート16とベル状体12との間の連結は、それらが適切にリンクされるが、互いにほぼ直交する壁の間に形成されている。この構成において、2つのプレートの対面する表面22は、柱状要素24?28が、垂直に突出する2つの平面に延在している。この実施形態によれば、気流は、軸Z-Zに最も接近する領域の付近にあるスペース20に入り、ブレーキバンドの外側に向かってそれを通過する。その結果、スペース20を通る気流方向にほぼ平行な領域は、図3の線30によって示されるスペースの中間の平面によって構成されることが可能である。」)
シ 「As will be appreciated from the foregoing description, ・・・ they are stressed by severe and repeated braking operations.」(17ページ24行?18ページ24行、日本語訳:「【0056】
前述の記述から明らかなように、スペース内に全体にわたって配置され、そして、内側の列の柱状要素の場合、相称的な菱形の形状である柱状連結要素によって連結されるプレートが設けられているブレーキバンドを供給することによって、先行技術のディスクの不利な点を解消することが可能であり、特に、著しく改良された点は、スペースの換気ダクト、あるいは、チャンネルを通る気流にあることが分かった。
【0057】
しかも、前述の記述から明らかなように、横断面の半径方向端部が、同じ円形にほぼ整列され、そして、各列の柱状要素24、26、28のそれぞれが、前記横断面においてほぼ同じ半径範囲を有している隣接した列状態に配置される柱状連結要素によって連結されるプレートを有するブレーキバンドを供給することによって、先行技術のディスクの不利な点を解消することが可能であり、特に、著しく改良された点が、ブレーキバンドの抵抗にある、例えば、かなりの熱の勾配によって生じる大きな応力だけではなく、それらが、過酷で、かつ、繰り返しのブレーキ操作によって応力が加えられるときでさえ、プレートにおける分裂、あるいは、ひび割れの発生率が低いことが分かった。」)
ス 「A comparison of tests on the behaviour of the air-flow ・・・ which are stressed by the braking action, and
- low weight of the disk.」(18ページ25行?21ページ21行、日本語訳:「【0058】
先行技術による幾何学的図形の配置を有するディスクと、本発明による幾何学的図形の配置を有するディスクとの2つのプレート間のスペースに設けられる換気ダクト、あるいは、チャンネル内の気流の動きについてのテストの比較は、ここに提案されている解決法の幾何学的図形の配置によって達成される換気において著しい改良を示した。特に、周知のディスク、および、ここに提案される解決法の結果として生ずる幾何学的図形の配置を有するディスクのスペースの部分を通過する気流の速度のベクトル範囲を評価することが可能であり、そのベクトル範囲は、スペース全体の周囲に繰り返される。周知の幾何学的図形の配置と、ここに提案される解決法の幾何学的図形の配置との間の比較テストは、条件として、1500rpm(毎分回転数)でのディスクの回転と、スペースの入力および出力における周囲圧力と、20℃の温度とを設定して、計算流体力学プログラムによって行われた。このテストによって、ベクトル範囲を比較することと、ここに提案される解決法における気流が、スペースへの入力と、スペースからの出力との両方において、いっそう一様であり、そして、いっそう良く柱状要素周りを通過した、換言すれば、柱状要素に対する衝撃によって偏向されることが少なかったという結論を下すこととができた。量的な比較から、ここに提案される解決法において、空気が達する最大速度は、周知の解決法の最大速度と比較すると、わずかに減少し、最小空気速度においてかなりの増加となり、その結果として、周知のディスクの流速と比較すると、5%より大きい体積流量(空気の毎秒リットルにおいて)が改良され、あるいは、増大することになることが分かった。
【0059】
提案されている解決法の別の利点は:
-内側の列と中間の列(バンドの内部の列)との要素の提案された横切る範囲は、スペースにおける気流の改良された制御が達成されることを可能とし、
-隣接した列間のオ-バーラップ、あるいは、スペースの不足は、ディスク全体の局部剛性を同質にし、隣接した列の連結要素のオーバーラップ(少量だが)の場合に存在する不利な点を回避し、換言すれば、他の部分より多数の連結要素を2倍有する円形部分を回避し、従って、非同質の剛性を有するバンドの領域を回避することと、
-相称的な菱形の横断面を有する連結要素の提供により、換気効率における改良、特に、時間単位のスペースを通過する気流が増大することを可能とすることと、
-連結要素の平坦な表面間の提案されたリンク半径によって、両方の場合に、空気の制御された移動に不都合に影響を及ぼすとがった角ときわめて丸くされた要素との提供の間の著しい妥協の達成と;特に、柱状要素とプレートとをリンクする提案された半径は、達成することが難しい角度と、所望の気流に不適当な横断面とを回避することと
-連結要素によってカバーされるプレートの対面する表面全体の提案されたパーセンテージによって、ブレーキ表面のひび割れに対する著しい抵抗を達成し、ブレーキ作用によって応力が加えられるプレートの熱膨張に対する制御された抵抗を可能とすることができることと、
-ディスクの少ない重量と、
である。」)
セ 「Naturally, the number of pillar-like elements ・・・ the braking band facing the axis Z-Z, may vary.」(29ページ1?6行、日本語訳:「【0085】
当然のことながら、柱状要素の数、および、軸Z-Zに対面するブレーキバンドの縁部の付近に配置されない外側の列と中間の列のとの要素、あるいは、いずれにしろ、柱状要素の要素の横断面の形状は、変更することができる。」)
ソ Fig.1から、ブレーキバンド14が、ディスクの軸Z-Zに近接する内径と、ディスクの軸Z-Zから離間する外径との間に延びていることが看取できる。また、Fig.1には、外側の列における柱状要素28の各々が、換気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面においてディスクの軸Z-Zに向かって先細となるドロップ形状の断面を有している点が図示されている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「換気ディスクブレーキディスクのブレーキバンド14であって、前記ブレーキバンド14が、前記ディスクの軸Z-Zに近接する内径と、前記ディスクの軸Z-Zから離間する外径との間に延び、
前記ブレーキバンド14が、スペース20を区画して結合手段によって連結された第1のプレート16と第2のプレート18を有し、
前記結合手段が複数の柱状要素の形態に構成され、当該複数の柱状要素が、前記ブレーキバンド14の前記外径に近接配置された外側の列と前記ディスクの軸Z-Zに近接配置された内側の列と前記外側の列と前記内側の列との間に配置された一つの中間の列との三つの同心状の列に区分けされるように配置されて、前記第1のプレート16と第2のプレート18との間に換気ダクトを構成し、
前記内側の列における柱状要素24の各々が、長い対角線Dが放射方向に向いた状態の、換気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において菱形の断面を有し、
前記中間の列における柱状要素26の各々が、長い対角線が放射方向に向いた状態の、換気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において菱形の断面を有し、
前記外側の列における柱状要素28の各々が、前記換気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において前記ディスクの軸Z-Zに向かって先細となるドロップ形状の断面を有している、換気ディスクブレーキディスクのブレーキバンド14。」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である独国実用新案第9319490号明細書(以下、「引用例2」という。)には、「Bremsscheibe(ブレーキディスク)」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。なお、ウムラウトは表示できないので、ウムラウトは省略して表記した。
タ 「Die Erfindung bezieht sich ・・・Oberbegriff des Anspruches 1.」(2ページ5?6行、日本語訳:「本発明は、請求項1の前提部に記載のブレーキディスクに関する。」)
チ 「Bremsscheiben sind im Betrieb hohen thermischen ・・・ der Bremsscheibe herausgeschleudert wird.」(2ページ8?20行、日本語訳:「ブレーキディスクは、作動中に高い熱的および機械的負荷に曝されるので、摩擦リングに亀裂が生じたり、ブレーキディスクが完全に割れてしまったりする可能性がある。
摩擦リングが、互いに間隔をおいて配置され周囲に規則正しく分散配置されているセグメントからなる鉄道用のブレーキディスク、特に内部換気式ディスクがすでに公知である。この場合、個々のセグメント間の中間空間は比較的大きく、半径方向に直線的に延びている。個々のセグメントは、ハブと一点で接続されているにすぎない。この場合、ハブと摩擦リングとの接続が外れ、それぞれのセグメントがブレーキディスクから投げ出される危険がある。」)
ツ 「Aufgabe der Erfindung ist es, ・・・der gesamten Bremsscheibe vermieden wird.」(2ページ22?24行、日本語訳:「本考案の課題は、特に摩擦リングにおける熱衝撃による亀裂と、ブレーキディスク全体の割れとが回避される同種のブレーキディスクを提案することである。」)
テ 「In den Figuren ist・・・oder S-formig 6d ausgefuhrt sein.」(3ページ27?33行、日本語訳:「図において、鋳造されたアクスルブレーキディスクが示され、この場合、2つの摩擦リング1、2はハブ4と強固に接続されている。2つの摩擦リング1、2間には冷却を顧慮して、流動に有利に形成された冷却ウェブ5が設けられている。半径方向に非直線的に延びる分離継ぎ目は、摩擦リングの内径から外径まで弓形6aに、実質的に直角形6bに、メアンダ形6cに、またはS字形6dに実施することができる。」)
ト 上記タ?テの記載事項、及びFig.1?Fig.5の図示内容からみて、内部換気式ブレーキディスクのディスクであって、ディスクが回転軸3に近接する内径と、回転軸3から離間する外径との間に延び、ディスクが、中間空間を区画して結合手段によって連結された二つの摩擦リング1,2を有し、結合手段が複数の冷却フィン5の形態に構成され、当該複数の冷却フィン5が、外側の列と内側の列と中間の列との少なくとも三つの同心状の列に区分けされるように配置されて、二つの摩擦リング1,2間に換気ダクトを構成するディスクが記載されていると認められる。
ナ Fig.1?Fig.4には、外側の列における冷却フィン5の各々が、ディスクから外側に向いたベース部と、ベース部からディスクの内側に延びて、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部が凹状の形状を有している点が図示されている。

3 対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能又は作用などからみて、後者の「換気ディスクブレーキディスク」は前者の「通気形式のディスクブレーキ用ディスク(10)」に相当し、以下同様に、「ブレーキバンド14」は「ブレーキ帯(14)」に、「軸Z-Z」は「回転軸(X-X)」に、「内径」は「内径(D1)」に、「外径」は「外径(D2)」に、「スペース20」は「中間空間(22)」に、「第1のプレート16と第2のプレート18」は「二つの構成片(16、18)」に、「柱状要素」は「柱体(20)」に、「外側の列」は「外側の列(26)」に、「内側の列」は「内側の列(28)」に、「中間の列」は「中間の列(30)」に、「第1のプレート16と第2のプレート18との間」は「二つの構成片(16、18)間」に、「換気ダクト」は「通気ダクト」に、「内側の列における柱状要素24」は「内側の列(28)における柱体」に、「長い対角線D」は「長い対角線(L)」に、「菱形」は「略長斜方形」に、「中間の列における柱状要素26」は「中間の列(30)における柱体」に、「外側の列における柱状要素28」は「外側の列(26)における柱体」に、それぞれ相当するから、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「通気形式のディスクブレーキ用ディスクのブレーキ帯であって、前記ブレーキ帯が、前記ディスクの回転軸に近接する内径と、前記ディスクの回転軸から離間する外径との間に延び、
前記ブレーキ帯が、中間空間を区画して結合手段によって連結された二つの構成片を有し、
前記結合手段が複数の柱体の形態に構成され、当該複数の柱体が、前記ブレーキ帯の前記外径に近接配置された外側の列と前記ディスクの回転軸に近接配置された内側の列と前記外側の列と前記内側の列との間に配置された少なくとも一つの中間の列との少なくとも三つの同心状の列に区分けされるように配置されて、前記二つの構成片間に通気ダクトを構成し、
前記内側の列における柱体の各々が、長い対角線が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有し、
前記中間の列における柱体の各々が、長い対角線が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有している、通気形式のディスクブレーキ用ディスクのブレーキ帯。」

そして、両者は、次の点で相違する。
[相違点1]
本願補正発明は、「前記外径(D2)と、前記ディスクの前記回転軸(X-X)に平行な方向で測定される前記二つの構成片(16、18)間の前記中間空間(22)の厚さ、即ち寸法との比率が、15と32との間に設定され」ているのに対して、引用発明は、その比率がどのような数値範囲に設定されているか明らかでない点。
[相違点2]
本願補正発明は、「前記外側の列(26)における柱体の各々が、前記ディスクから外側に向いたベース部(32)と、前記ベース部(32)から前記ディスクの内側に伸びて、前記通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部(34)が凹状の形状を有し」ているのに対して、引用発明は、外側の列の柱状要素28の各々が、換気ダクトに沿った空気の流れに平行は平面において前記プレートの軸Z-Zに向かって先細となるドロップ形状の断面を有している点。
[相違点3]
本願補正発明は、「前記ブレーキ帯(14)における前記列(26,28,30)毎の前記柱体(20)の数が、35個と50個の間に設定されている」のに対して、引用発明は、柱状要素の数がどのような数値範囲に設定されているか明らかでない点。

4 判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
一般に、実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは当業者が通常行うべきことであるから、公知技術に対して数値限定を加えることにより、特許を受けようとする発明が進歩性を有するというためには、当該数値範囲を選択することが当業者に容易であったとはいえないことが必要であり、これを基礎付ける事情として、当該数値限定に臨界的意義があることが明細書に記載され、当該数値限定の技術的意義が明細書上明確にされていなければならないものと解される。
外径と中間空間の厚さとの関係について、本願明細書の記載を見ると、本願明細書には、「【0028】有利には、ブレーキ帯即ち、ディスクの外径(D2)と、X-X軸と平行な方向で測定される2つの構成片の間の中間空間の最大厚さとの比率が、15と32との間、好ましくは21と25との間、更に好ましくは略23である。」「【0029】350mmと440mmとの間の外径を有するディスクを以下に参照し、可能な実施の形態に従い、2つの構成片の間の中間空間22の中心面24に対してハブ側に配置される構成片16は、ディスクの軸方向に10mmと16mmとの間の厚さを有する。可能な実施の形態に従い、2つの構成片の間の中間空間の中心面24に対してハブと反対側に配置される構成片18は、ディスクの軸方向に10mmと15mmとの間の厚さを有する。もう一つの実施の形態に従い、2つの構成片の間の中間空間22がディスクの軸方向に14mmと20mmとの間の最大寸法を有する。2つの構成片は同一又は異なる厚さを有していてもよい。」、「【0030】280mmと350mmとの間の外径を有するディスクを以下に参照し、可能な実施の形態に従い、構成片16、18はディスクの軸方向に7mmと10mmとの間、好ましくは8mmの距離を有する。可能な更なる実施の形態に従い、2つの構成片の間の中間空間22がディスクの軸方向に10mmと15mmとの間、好ましくは14mmの最大寸法を有する。2つの構成片は同一又は異なる厚さを有していてもよい。」、及び「【0032】X-X軸に平行な方向における中間空間の最大厚さは、公知のディスクと比較して増加され、その結果、通気ダクトの断面積を増加するのに特に有利である。これは、構成片の厚さの減少とディスクの軸寸法を実質的に一定に維持することにより有利に達成されている。」と記載されている。
しかしながら、外径と中間空間の厚さとの比率を15と32との間の数値範囲とすることについて、臨界的意義は何も記載されていないし、その技術的意義についても明確な記載はされていない。
しかも、通気形式のディスクブレーキ用ディスクにおいて、外径と中間空間の厚さとの比率を15と32との間の数値範囲とすることは、例えば、特表2001-522021号公報(請求項2の「直径が300mm以上である」との記載及び請求項5の「空気通路幅D2が12mmである」との記載からみて、上記比率は25以上(300/12=25)であり、上記数値範囲を満たすものである。)などに見られるように、格別特異な数値範囲というわけでもない。
してみると、外径と中間空間の厚さとの比率を適宜の数値範囲に設定することは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎないというべきである。
したがって、引用発明において、外径と中間空間の厚さとの比率を、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは、当業者が容易になし得ることである。

(2)相違点2について
引用例2には、内部換気式ブレーキディスクのディスクであって、ディスクが回転軸に近接する内径と、回転軸から離間する外径との間に延び、ディスクが、中間空間を区画して結合手段によって連結された二つの摩擦リング1,2を有し、結合手段が複数の冷却フィン5の形態に構成され、当該複数の冷却フィン5が、外側の列と内側の列と中間の列との少なくとも三つの同心状の列に区分けされるように配置されて、二つの摩擦リング1,2間に換気ダクトを構成するディスクにおいて、外側の列における冷却フィン5の各々が、ディスクから外側に向いたベース部と、ベース部からディスクの内側に延びて、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部が凹状の形状を有しているものが記載されている(上記摘記事項チ?ト参照)。そして、この「冷却フィン5」は、その機能又は作用からみて、本願補正発明の「柱体」に相当する。
一方、引用例1には、「当然のことながら、柱状要素の数、および、軸Z-Zに対面するブレーキバンドの縁部の付近に配置されない外側の列と中間の列のとの要素、あるいは、いずれにしろ、柱状要素の要素の横断面の形状は、変更することができる。」(上記摘記事項セ参照)と記載され、外側の列の柱状要素(柱体)の断面形状を変更することが記載又は示唆されている。しかも、引用発明における外側の列の柱状要素(柱体)は、その断面形状がディスクの軸Z-Zに向かって先細となるドロップ形状であるから、ディスクの回転軸に向かって先細となる形状である点で、本願補正発明や引用例2に記載された断面略三角形の柱体と共通するものである。また、外側の列における柱体の断面形状を略三角形とすることは、従来周知の技術にすぎない(例えば、特開2000-274463号公報には、外側の列に設けられた三角形のフィン2が記載されている(段落【0027】の記載及び図1を参照)。また、独国特許公開第4210449号明細書にも、外側の列に設けられた三角形のStege 10(橋)が記載されている(2欄43行?47行の記載及びFIG.2参照))。
そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、どちらも通気形式のディスクブレーキ用ディスクに関するものであるから、共通する技術分野に属するものであり、どちらも空気による冷却能力を高めることを当然の課題とするものである。
そうすると、引用例1及び引用例2に接した当業者であれば、引用発明において、外側の列におけるドロップ形状の柱状要素に代えて、ディスクの回転軸に向かって先細となる断面形状である点でドロップ形状と共通する引用例2に記載された三角形状の柱体を採用し、相違点2に係る本願補正発明のような構成とすることは、格別創意を要することなく、容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
柱体の数をディスクの大きさ等に応じて適宜の数とすることは、ディスクの強度や冷却効率等を考慮して当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
本願明細書には、柱体の数を35と50の間にすることについて、「【0024】可能な実施の形態に従い、中心面24に沿って2つの構成片の間の帯を区画する帯の環状部分を考慮し、構成片の表面領域と柱体の断面の表面領域s’との間の%割合を同じにするため(一般に柱体により占有される表面領域は帯の領域の20-25%と実質的に同等である)、この発明に従ったブレーキ帯は、空気の流れに対して横断する方向において、柱帯をより多く有し、即ち、柱体の全表面領域をより多くしている。有利には、ブレーキ帯の列毎の柱体の数は35と50との間、より好ましくは37と48との間にする。」、「【0025】可能な実施の形態に従い、350mmと440mmとの間の外径を有するディスクでは、1つの列に40と47との間、好ましくは43の柱体を含む。可能な実施の形態に従い、280mmと350mmとの間の外径を有するディスクでは、1つの列に34と41との間、好ましくは37の柱体を含む。」、及び「【0026】複数の列が存在する場合、各列が実質的に同じ数の柱体を有することが有利である。」と記載されている。しかし、柱体の数を35と50の間にすることについて、その臨界的意義については何も記載されていないし、その技術的意義についても明確な記載はされていない。
一方、引用例1には、「当然のことながら、柱状要素の数、および、軸Z-Zに対面するブレーキバンドの縁部の付近に配置されない外側の列と中間の列のとの要素、あるいは、いずれにしろ、柱状要素の要素の横断面の形状は、変更することができる。」と記載され、柱体の数を変更することについて記載又は示唆されている。
してみれば、引用発明において、柱体の数を、要求されるディスクの強度等を考慮して適宜の範囲に設定し、相違点3に係る本願補正発明のように構成することは、当業者であれば容易になし得たことである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「これら証拠資料A?Mから、請求項1に記載のブレーキ帯が、引用文献1及び2(注:本審決における「引用例1及び2」に相当する。以下同様)に開示のブレーキ帯並びに柱体の別のジオメトリーを有するブレーキ帯と比較して、高い熱伝達係数を有していることがご理解頂けるものと思料致します。」(「(2)本願の請求項1に係る発明の特徴」の項参照)と主張し、「本願の請求項1に記載のブレーキ帯は、引用文献1及び2に記載のブレーキ帯と比較して、引用文献1及び2に開示も教示もされていない、様々な形状の柱体の列の組合せとそれら柱体列のジオメトリーとを有し、高い熱伝達係数を発揮いたしますので、請求項1に係る発明は、引用文献1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとは認められません。」(「4.むすび」の項参照)と主張する。
しかしながら、引用発明は、換気効率、即ち冷却能力を向上させることを課題とするものであり(上記摘記事項ウ、エ、シ、ス参照)、また、引用例2に記載された発明も引用発明と同様の課題を有するものであり(上記摘記事項チ、ツ、テ参照)、しかも、引用例1には、計算流体力学プログラムによってテストを行うことにより、計算上、最適な数値範囲や形状を得ることが記載又は示唆されている(上記摘記事項ス参照)から、同様の手法を用いて、相違点1ないし3に係る数値範囲や形状について本願補正発明のように構成することは、上記のとおり、当業者が通常の創作能力の発揮の範囲内で容易に想到し得たものである。そして、本願補正発明の構成を備えることによって、本願補正発明が、従前知られていた構成が奏する効果を併せたものとは異なる、相乗的で、当業者が予測できる範囲を超えた格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成21年12月2日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「通気形式のディスクブレーキ用ディスク(10)のブレーキ帯(14)であって、前記ブレーキ帯(14)が、前記ディスクの回転軸(X-X)に近接する内径(D1)と、前記ディスクの回転軸(X-X)から離間する外径(D2)との間に延び、
前記ブレーキ帯(14)が、中間空間(22)を区画して結合手段によって連結された二つの構成片(16、18)を有し、
前記結合手段が複数の柱体(20)の形態に構成され、当該複数の柱体(20)が、前記ブレーキ帯(14)の前記外径(D2)に近接配置された外側の列(26)と前記ディスクの回転軸(X-X)に近接配置された内側の列(28)と前記外側の列と前記内側の列との間の少なくとも一つの中間の列(30)との少なくとも三つの同心状の列に区分けされるように配置され、
前記内側の列(28)における柱体の各々が、長い対角線(L)が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有し、
前記中間の列(30)における柱体の各々が、長い対角線(L)が放射方向に向いた状態の、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略長斜方形の断面を有し、
前記外径(D2)と、前記ディスクの前記回転軸(X-X)に平行な方向で測定される前記二つの構成片(16、18)間の前記中間空間(22)の厚さ、即ち寸法との比率が、15と32との間に設定され、
前記外側の列(20)における柱体の各々が、前記ディスクから外側に向いたベース部(32)と、凹状の形状を有して通気ダクト内に配置された内側サイド部(34)とを有し、且つ、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略三角形の断面を有し、
前記ブレーキ帯(14)における前記列(26,28,30)毎の前記柱体(20)の数が、35個と50個の間に設定されていることを特徴とする、通気形式のディスクブレーキ用ディスク(10)のブレーキ帯(14)。」

2 引用例
引用例1及び引用例2の記載事項並びに引用発明は、前記「第2」の「2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」の「1」の本願補正発明から、「構成片」についての限定事項である「前記二つの構成片(16、18)間に通気ダクトを構成し」との事項を省くとともに、「外側の列(26)における柱体」についての限定事項である「前記ベース部(32)から前記ディスクの内側に伸びて、前記通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において断面略三角形を呈した部分を有し、該断面略三角形状部のサイド部(34)が凹状の形状を有し」との事項を「凹状の形状を有して通気ダクト内に配置された内側サイド部(34)とを有し、且つ、通気ダクトに沿った空気の流れに平行な平面において略三角形の断面を有し」としその構成を拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、発明特定事項を限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「3」及び「4」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-02-03 
結審通知日 2012-02-28 
審決日 2012-03-12 
出願番号 特願2004-571826(P2004-571826)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16D)
P 1 8・ 575- Z (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹村 秀康  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
倉田 和博
発明の名称 ディスクブレーキ用の通気されたディスクブレーキ帯  
代理人 竹下 和夫  

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