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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1261906
審判番号 不服2011-24672  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-15 
確定日 2012-08-16 
事件の表示 特願2009-169624「複層塗膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年2月3日出願公開、特開2011-20105〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成21年7月20日の特許出願であって、同23年2月3日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月15日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年5月9日付けで最後の拒絶の理由が通知され、同年7月13日に意見書が提出され、同年8月29日付けで拒絶をすべき旨の査定がされた。
これに対し、平成23年11月15日に本件審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、その後、同24年3月1日付け審尋に対して同年5月7日に回答書が提出された。

第2 平成23年11月15日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、平成23年4月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)補正前の請求項1
「基材上にL*a*b*表色系におけるL*値が80以上のホワイトベース塗膜(A)、アルカリ土類金属アルミン酸塩を母体結晶とし、ユーロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体の中から選ばれる1種もしくは2種以上の蛍光性白色顔料を含有してなる蛍光ベース塗膜(B)及びトップクリヤー塗膜(C)を順次形成してなる塗膜形成方法であって、トップクリヤー塗膜(C)の波長380nmにおける光線透過率が50%以上であり且つヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を含む複層塗膜形成方法。」

(2)補正後の請求項1
「基材上にL*a*b*表色系におけるL*値が80以上のホワイトベース塗膜(A)、アルカリ土類金属アルミン酸塩を母体結晶とし、ユーロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体の中から選ばれる1種もしくは2種以上の蛍光性白色顔料を含有してなる蛍光ベース塗膜(B)及びトップクリヤー塗料を塗装してなるトップクリヤー塗膜(C)を順次形成してなる塗膜形成方法であって、トップクリヤー塗膜(C)の波長380nmにおける光線透過率が50%以上であり且つヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部含む複層塗膜形成方法。」

2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「トップクリヤー塗膜(C)」について「トップクリヤー塗料を塗装してなる」との限定を付加し、「ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤」について「トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部」含むとの限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成23年法律第63号附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、上記1.(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載事項及び刊行物発明
原審で通知した平成23年5月9日付けの拒絶理由で引用した、本件出願日前に頒布された刊行物である特開2006-192384号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)請求項1
「【請求項1】
基材上にカラーベース塗膜(A)、光輝性顔料(a)及び蛍光性白色顔料(b)を含有してなる光輝性ベース塗膜(B)及びクリヤー塗膜(C)を順次形成してなる複層塗膜形成方法であって、該蛍光性白色顔料(b)がアルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を母体結晶とし、ユ-ロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体の中から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする複層塗膜形成方法。」

(イ)段落0001
「【0001】
本発明は、耐候性及び意匠性に優れた複層塗膜形成方法、塗膜構造に関するものである。」

(ウ)段落0007
「【0007】
本発明の目的は、耐候性に優れ、黄味の少ない光輝感に優れた外観を有する複層塗膜の形成方法を提供することである。」

(エ)段落0021
「【0021】
本発明において、後述する蛍光性白色顔料の効果を十分に発揮させるためには、着色ベース塗膜(A)の色は淡彩色であることが好ましく、特に白色度の高いものが適している。」

(オ)段落0025
「【0025】
また、本発明で用いる蛍光性白色顔料(b)は、紫外線(波長380nm付近)を吸収し、それを目に見える青色の可視光(波長440nm付近;蛍光という)に変えて放出する蛍光増白効果を奏する顔料であって、具体的には、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を母体結晶とし、ユ-ロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体が好適に使用できる。…(後略)」

(カ)段落0030ないし0033
「【0030】
本発明方法において、クリヤー塗膜(C)の形成に用いられる塗料は、樹脂成分及び溶剤を主成分とし、さらに必要に応じてその他の塗料用添加剤などを配合してなる無色もしくは有色の透明塗膜を形成する液状もしくは粉体状の塗料である。
【0031】
上記クリヤー塗料としては、従来公知のクリヤー塗料を制限なく使用できる。…(中略)…また、必要に応じて、水や有機溶剤等の溶媒、硬化触媒、消泡剤、紫外線吸収剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0032】
本発明の複層塗膜形成方法においては、基材上に着色ベース塗膜(A)、光輝性ベース塗膜(B)及びクリヤー塗膜(C)を順次形成する。
【0033】
基材上に着色ベース塗膜(A)用塗料を塗装した後、必要に応じて焼付け、該着色ベース塗膜上に光輝性ベース塗膜(B)用塗料を塗装し、必要に応じて焼付け、該光輝性ベース塗膜上にクリヤー塗膜(C)を塗装して焼付けることにより複層塗膜を得ることができる。…(後略)」

以上の摘記事項の記載を考慮し、補正発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明(以下「刊行物1発明」という。)が開示されていると認める。
「基材上に白色度の高い着色ベース塗膜(A)、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体を母体結晶とし、ユ-ロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体の中から選ばれる1種もしくは2種以上の蛍光性白色顔料を含有してなる光輝性ベース塗膜(B)及びクリヤー塗料を塗装してなるクリヤー塗膜(C)を順次形成してなる塗膜形成方法であって、紫外線吸収剤を、クリヤー塗料中に含む複層塗膜形成方法。」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「白色度の高い着色ベース塗膜(A)」は補正発明の「ホワイトベース塗膜(A)」に相当し、以下同様に、「アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体」は「アルカリ土類金属アルミン酸塩」に、「光輝性ベース塗膜(B)」は「蛍光ベース塗膜(B)」に、「クリヤー塗料」は「トップクリヤー塗料」に、「クリヤー塗膜(C)」は「トップクリヤー塗膜(C)」に相当する。
また、刊行物1発明の「紫外線吸収剤を、クリヤー塗料中に含む」ことと、補正発明の「ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部含む」こととは、「紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中に含む」ことである限りにおいて共通する。

以上から、補正発明と刊行物1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

[一致点]基材上にホワイトベース塗膜(A)、アルカリ土類金属アルミン酸塩を母体結晶とし、ユーロピウム、デスプロシウム又はネオジウムを賦活性剤とする蛍光体の中から選ばれる1種もしくは2種以上の蛍光性白色顔料を含有してなる蛍光ベース塗膜(B)及びトップクリヤー塗料を塗装してなるトップクリヤー塗膜(C)を順次形成してなる塗膜形成方法であって、紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中に含む複層塗膜形成方法。
[相違点1]ホワイトベース塗膜(A)について、補正発明においては、L*a*b*表色系におけるL*値が80以上であるのに対し、刊行物1発明においては、そのような限定がない点。
[相違点2]補正発明においては、トップクリヤー塗膜(C)の波長380nmにおける光線透過率が50%以上であり且つヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部含むのに対し、刊行物1発明においては、クリヤー塗膜(C)の波長380nmにおける光線透過率について限定がなく、クリヤー塗料中の紫外線吸収剤の材料及び質量部について不明な点。

(4)相違点についての検討及び判断
(ア)相違点1について
白色の測定方法において、白さの指標である白色度の一つであるハンター白色度では、L*a*b*表色系における明度(L*)が大きいほうが白色度が高いことが知られている。
摘記事項(エ)に示すように、刊行物1には着色ベース塗膜の白色度を高くすることの教示があるから、刊行物1発明における着色ベース塗膜の白色度を高いものとするために、数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であり、明度(L*)を80以上とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(イ)相違点2について
蛍光体と紫外線吸収剤とを用いる技術において、蛍光体の吸収波長と紫外線吸収剤の吸収波長とが重ならないようにし、紫外線吸収剤が蛍光体の効果を阻害しないようにすることは、例えば、原審の平成23年5月9日付けの拒絶理由で引用した特開2008-12903号公報の段落0023、特開2007-144097号公報の段落0018及び特開2009-23341号公報の段落0018に示されるように周知の事項である。
摘記事項(オ)及び(カ)の記載から、刊行物1には、波長380nm付近の紫外線を吸収する蛍光性白色顔料を含有してなる蛍光ベース塗膜(B)の上に、紫外線吸収剤を含むクリヤー塗料を塗装してなるクリヤー塗膜(C)を形成することが示されている。
したがって、刊行物1発明において、クリヤー塗膜(C)に含まれる紫外線吸収剤が、蛍光ベース塗膜(B)に含有される波長380nm付近の紫外線を吸収する蛍光性白色顔料による蛍光増白効果を阻害しないようにするため、上記周知の事項を用いて、クリヤー塗膜(C)の波長380nmにおける光線透過率を高くすることに格別の困難性はない。
また、公知材料の中からの最適材料を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮であるところ、波長380nm付近の紫外線の透過率が高い紫外線吸収剤として、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤は、例えば、原審の平成23年5月9日付けの拒絶理由で引用した特開2009-51167号公報の段落0019並びに特開2009-51543号公報の段落0028及び図3に示されるように周知であるから、刊行物1発明における紫外線吸収剤としてヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を採用することは、当業者が容易に想到することができたものである。
一般に、塗料における紫外線吸収剤は耐候性を得るために配合されるものであるうえに、摘記事項(イ)及び(ウ)に示すように、刊行物1にも耐候性についての目的が示されているところ、刊行物1発明に上記周知の事項を適用する際に、複層塗膜の耐候性及び波長380nmにおける光線透過率とを勘案して、数値範囲を最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であるから、刊行物1発明において、トップクリヤー塗膜の波長380nmにおける光線透過率を50%以上とし、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を、トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部含むようにすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(ウ)補正発明の作用ないし効果について
補正発明によってもたらされる作用ないし効果は、刊行物1発明及び周知の事項から予測できる作用ないし効果以上の顕著なものではない。

(エ)まとめ
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件出願の発明について
1.本件出願の発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1及び2に係る発明は、平成23年4月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1.(1)に示す特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの「複層塗膜形成方法」である。

2.刊行物の記載事項及び刊行物発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載内容は第2の2.(2)に示したとおりである。

3.対比及び検討
本願発明は、第2の2.で検討した補正発明から、「トップクリヤー塗膜(C)」について「トップクリヤー塗料を塗装してなる」と特定した事項、及び「ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤」について「トップクリヤー塗料中の樹脂成分100質量部に対して1?10質量部」含むと特定した事項を削除したものである。
そうすると、本願発明を構成する事項の全てを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が第2の2.(4)で示したとおり刊行物1発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件出願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-06-04 
結審通知日 2012-06-12 
審決日 2012-06-25 
出願番号 特願2009-169624(P2009-169624)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05D)
P 1 8・ 575- Z (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 大輔山本 昌広  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
藤井 眞吾
発明の名称 複層塗膜形成方法  

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