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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 F01M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01M |
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管理番号 | 1262127 |
審判番号 | 不服2011-12341 |
総通号数 | 154 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-06-08 |
確定日 | 2012-08-20 |
事件の表示 | 特願2008-151097「鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 9月11日出願公開、特開2008-208843〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本件出願は、平成15年6月9日(特許法第41条に基づく優先権主張:平成14年6月10日、出願番号:特願2002-168605号、日本国)を国際出願日とする特願2004-511667号の一部を平成20年6月9日に新たな特許出願としたものであって、平成22年8月25日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年3月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで手続補正書が提出されて明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年2月6日付けで書面による審尋がなされ、これに対し、同年4月9日付けで回答書が提出されたものである。 【2】平成23年6月8日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年6月8日付けの手続補正を却下する。 [理 由] 1.本件補正の内容 平成23年6月8日付けの手続補正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年10月28日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記の(b)に示す請求項1ないし4を、下記の(a)に示す請求項1ないし4へと補正するものである。 (a)本件補正後の特許請求の範囲 「【請求項1】 クランクケース(3)の上部の連結用ボス(8)を介して車体フレームに揺動自在に支持される車両搭載のユニットスイング式エンジン(1)を設け、上記クランクケース(3)の側部に取付けられるクランクケースカバー(26)がフライホイールマグネトウ(25)を覆うようにし、上記クランクケースカバー(26)の内部で、このクランクケースカバー(26)の外側壁(26a)から車両内側へ延設される補強壁(61)と上記クランクケースカバー(26)の上壁(26c)との間に形成され、かつ、車両側面視で、上記クランクケース(3)に支持されるクランク軸(15)と上記連結用ボス(8)との間に形成されるブリーザ室(72)を設け、車両側面視で、上記連結用ボス(8)とクランク軸(15)との各軸心を通る仮想線(A)の両側方に跨るよう上記ブリーザ室(72)を形成し、このブリーザ室(72)内を上記仮想線(A)の一側方から他側方に向かってブローバイガスが流れるようにし、上記クランクケースカバー(26)の上壁(26c)と補強壁(61)とから上記ブリーザ室(72)内に向かって延びるリブ(64,65)を形成し、上記ブローバイガスが上記リブ(64,65)に当たって流れるようにしたことを特徴とする鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項2】 車両側面視で、上記フライホイールマグネトウ(25)の径方向の外側に沿って円弧状に延びるよう上記補強壁(61)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項3】 車両側面視で、上記クランク軸(15)に連動するバランサ(28)に重なるよう上記ブリーザ室(72)を設けたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項4】 上記クランクケース(3)から車両前方にほぼ水平に突出するようシリンダ(4)を設け、上記連結用ボス(8)に連結されたリンクを介して上記エンジン(1)を車体フレームに支持させたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。」(下線部は審判請求人が補正箇所を示したものである。) (b)本件補正前の特許請求の範囲 「【請求項1】 クランクケース(3)の上部の連結用ボス(8)を介して車体フレームに揺動自在に支持される車両搭載のユニットスイング式エンジン(1)を設け、上記クランクケース(3)の側部に取付けられるクランクケースカバー(26)がフライホイールマグネトウ(25)を覆うようにし、上記クランクケースカバー(26)の内部で、このクランクケースカバー(26)の外側壁(26a)から車両内側へ延設される補強壁(61)と上記クランクケースカバー(26)の上壁(26c)との間に形成され、かつ、車両側面視で、上記クランクケース(3)に支持されるクランク軸(15)と上記連結用ボス(8)との間に形成されるブリーザ室(72)を設け、車両側面視で、上記連結用ボス(8)とクランク軸(15)との各軸心を通る仮想線(A)の両側方に跨るよう上記ブリーザ室(72)を形成し、このブリーザ室(72)内を上記仮想線(A)の一側方から他側方に向かってブローバイガスが流れるようにしたことを特徴とする鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項2】 車両側面視で、上記フライホイールマグネトウ(25)の径方向の外側に沿って円弧状に延びるよう上記補強壁(61)を形成したことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項3】 車両側面視で、上記クランク軸(15)に連動するバランサ(28)に重なるよう上記ブリーザ室(72)を設けたことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。 【請求項4】 上記クランクケース(3)から車両前方にほぼ水平に突出するようシリンダ(4)を設け、上記連結用ボス(8)に連結されたリンクを介して上記エンジン(1)を車体フレームに支持させたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。」 2.本件補正の適否について 2-1.目的要件違反 本件補正の目的が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号の掲げる事項に該当するか否かについて、以下に検討する。 本件補正後の請求項1には、「上記クランクケースカバー(26)の上壁(26c)と補強壁(61)とから上記ブリーザ室(72)内に向かって延びるリブ(64,65)を形成し、上記ブローバイガスが上記リブ(64,65)に当たって流れるようにした」事項(以下、「補正事項」という。)が新たに追加されている。 この補正事項は、新たな部材である「リブ(64,65)」が加わり、さらに、当該「リブ(64,65)」による作用として「ブローバイガスが上記リブ(64,65)に当たって流れるようにした」ことが新たに加わったものであり、このため、本件補正前の請求項1の何れかの発明特定事項を限定するものではなく、請求項1における前記補正事項を追加する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められない。 また、請求項1における前記補正事項を追加する本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明を目的としているものでもない。 したがって、請求項1における前記補正事項を追加する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号のいずれにも該当しない。 よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 2-2.独立特許要件違反 本件補正は、上記2-1.に指摘したような特許請求の範囲の減縮を目的としたものではなく、さらに、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないが、仮に、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。 2-2-1.引用文献記載の発明 (1)原査定の拒絶理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-171915号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は自動二輪車用エンジンのブリーザ装置に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0002】 【従来の技術】4ストロークエンジンのクランク室内圧力は、ブローバイガスの漏出やピストンの往復などに伴って絶えず変動するので、クランク室内の圧力変動を外部に逃がすためのブリーザ孔をクランクケースに設ける必要がある。ところが、クランク室内に注入されたオイルが圧力変動とともに上記ブリーザ孔から流出してしまうおそれがあるため、ブリーザ孔の内側には迷路状に形成されたブリーザ室が設置され、このブリーザ室とクランク室とを連通させる圧力孔が設けられてブリーザ装置が構成される。このようなブリーザ装置において、ブローバイガスとオイル分の混合ガスは圧力孔よりブリーザ室に流入し、オイル分は分離されてクランク室に戻り、ブローバイガスのみがブリーザ孔より外部に排出される。 【0003】自動二輪車用エンジンにおいては、一般にクランク室の上部や側部に上記ブリーザ室が配置されるレイアウトとなる。」(段落【0002】及び【0003】) (ウ)「【0009】図1は、本発明が適用されたスクータ型自動二輪車用パワーユニットの左側面図、図2は図1のII-II線に沿う断面図である。このパワーユニット1は一般的なレイアウトを持っており、4ストローク単気筒であるエンジン2のクランクケース3左側方に、後方へ延びるスイングケース4が一体的に連接され、スイングケース4の後部にスクータの後輪5が軸支されている。 【0010】クランクケース3内のクランク室6に軸支されたクランクシャフト7の左端はスイングケース4内に突出しており、クランクシャフト7の回転はドライブプーリ8、Vベルト9、ドリブンプーリ10、クラッチ11を経てドライブシャフト12に伝達され、さらに連続ミッション機構13によって減速された後に後輪5を支持するリヤアクスルシャフト14に伝えられる。」(段落【0009】及び【0010】) (エ)「【0011】図3は図1のIII -III 線に沿う断面を示しており、図4は前記エンジン2の右側面図である。クランクケース3は、例えばエンジンセンタ(E.C)を境に左右に分割される型式のものである。クランクケース3の右側面にはジェネレータカバー16が被装され、内部にジェネレータ17が配置されている。なお、クランク室6内にはオイル20が規定のレベルまで注入される。 【0012】図3および図4に示すように、クランク室6の上方にはブリーザ室21が自動二輪車の車幅方向(図3の左右方向)に延設されている。このブリーザ室21は、例えば隔壁22によって第1ブリーザ室21aと第2ブリーザ室22bとに分割され、隔壁22の連通孔23で繋っている。 【0013】クランク室6内の圧力変動をブリーザ室21へ逃がすための圧力孔24は、例えば第1ブリーザ室21aの底面に形成され、クランクケース3の分割面に隣接している。 【0014】また、ブリーザ室21を外部に連通させるブリーザ孔25は、第2ブリーザ室21bの上部に設けられ、ユニオン26が圧入されている。このユニオン26にはホース27が接続され、ホース27は図1に示すエアクリーナ28に繋っている。なお、隔壁22には圧力孔24側へ延びるリブ29が設けられている。」(段落【0011】ないし【0014】) (2)ここで、上記(1)の(ア)ないし(エ)及び図面の記載からみて、次のことがわかる。 (オ)上記(1)の(ウ)並びに図1及び2の記載からみて、パワーユニット1はエンジン2を含にでおり、当該パワーユニット1はスクータ型自動二輪車に搭載されているので、何らかの連結部を介してスクータ型自動二輪車の車体フレームに支持されるものであることがわかる。 また、「このパワーユニット1は一般的なレイアウトを持っており、4ストローク単気筒であるエンジン2のクランクケース3左側方に、後方へ延びるスイングケース4が一体的に連接され、スイングケース4の後部にスクータの後輪5が軸支されている。」(上記(ウ)【0009】参照。)との記載から、パワーユニット1は車体フレームに揺動自在に支持される車両搭載のユニットスイング式のものといえる。 (カ)上記(1)の(ウ)及び(エ)並びに図1ないし4の記載からみて、パワーユニット1に含まれるエンジン2には、クランクケース3の側部にジェネレータカバー16が取付けられており、当該ジェネレータカバー16は、ジェネレータ17を覆うようになっており、第2ブリーザ室22bは、該ジェネレータカバー16の内部で、このジェネレータカバー16の外側壁から自動二輪車である車両の内側へ延設される当該第2ブリーザ室22bの下部壁とジェネレータカバー16の上部壁との間に形成され、かつ、車両側面視で、クランクケース3に支持されるクランクシャフト7と前記上部壁にあるブリーザ孔25との間に形成されていることがわかる。 また、第2ブリーザ室22bは、車両側面視で、前記上部壁にあるブリーザ孔25とクランクシャフト7との各軸心を通るIII-III線の両側方に跨るように形成され、この第2ブリーザ室22b内をブローバイガスが流れるようになるものといえる。 さらに、このような第2ブリーザ室22bの構造から、ブローバイガスは、該第2ブリーザ室22bの内壁に当たって流れるようになるものといえる。 (3)上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 「エンジン2を含むパワーユニット1の連結部を介して車体フレームに揺動自在に支持される車両搭載のユニットスイング式のパワーユニット1におけるエンジン2を設け、クランクケース3の側部に取付けられるジェネレータカバー16がジェネレータ17を覆うようにし、上記ジェネレータカバー16の内部で、このジェネレータカバー16の外側壁から車両内側へ延設される第2ブリーザ室22bの下部壁と上記ジェネレータカバー16の上部壁との間に形成され、かつ、車両側面視で、上記クランクケース3に支持されるクランクシャフト7と上記上部壁にあるブリーザ孔25との間に形成される第2ブリーザ室22bを設け、車両側面視で、上記上部壁にあるブリーザ孔25とクランクシャフト7との各軸心を通るIII-III線の両側方に跨るよう上記第2ブリーザ室22bを形成し、この第2ブリーザ室22b内をブローバイガスが流れるようにし、上記ブローバイガスが上記第2ブリーザ室22bの内壁に当たって流れるようにした自動二輪車用におけるエンジンのブリーザ装置。」 2-2-2.対比 本件補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「クランクケース3」は、その機能、形状、構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「クランクケース(3)」に相当し、以下同様に、「ユニットスイング式のパワーユニット1におけるエンジン2」は「ユニットスイング式エンジン(1)」に、「ジェネレータカバー16」は「クランクケースカバー(26)」に、「ジェネレータ17」は「フライホイールマグネトウ(25)」に、「外側壁」は「外側壁(26a)」に、「第2ブリーザ室22b」は「ブリーザ室(72)」に、「下部壁」は「補強壁(61)」に、「上部壁」は「上壁(26c)」に、「クランクシャフト7」は「クランク軸(15)」に、「自動二輪車用におけるエンジンのブリーザ装置」は「鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置」に、それぞれ相当する。 また、引用文献記載の発明における「エンジン2を含むパワーユニット1の連結部を介して」は、「エンジン又はエンジンと一体となっている部材の連結部を介して」という限りにおいて、本件補正発明における「クランクケース(3)の上部の連結用ボス(8)を介して」に相当し、以下同様に、「上部壁にあるブリーザ孔25」は、「クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材」という限りにおいて、「連結用ボス(8)」に、「上部壁にあるブリーザ孔25とクランクシャフト7との各軸心を通るIII-III線」は、「クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材とクランク軸との各軸心を通る仮想線」という限りにおいて、「連結用ボス(8)とクランク軸(15)との各軸心を通る仮想線(A)」に、「第2ブリーザ室22bの内壁」は、「ブリーザ室内にある壁部材」という限りにおいて、「リブ(64,65)」に、それぞれ相当する。 したがって、本件補正発明と引用文献記載の発明は、次の一致点及び相違点を有するものである。 <一致点> 「エンジン又はエンジンと一体となっている部材の連結部を介して車体フレームに揺動自在に支持される車両搭載のユニットスイング式エンジンを設け、クランクケースの側部に取付けられるクランクケースカバーがフライホイールマグネトウを覆うようにし、上記クランクケースカバーの内部で、このクランクケースカバーの外側壁から車両内側へ延設されるブリーザ室の補強壁と上記クランクケースカバーの上壁との間に形成され、かつ、車両側面視で、上記クランクケースに支持されるクランク軸と上記クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材との間に形成されるブリーザ室を設け、車両側面視で、上記クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材とクランク軸との各軸心を通る仮想線の両側方に跨るよう上記ブリーザ室を形成し、このブリーザ室内をブローバイガスが流れるようにし、上記ブローバイガスが上記ブリーザ室内にある壁部材に当たって流れるようにした鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置。」 <相違点> なお、〈 〉内に、相当する本件補正発明における発明特定事項を示す。 (1)相違点1 車体フレームに支持する連結部、ブリーザ室の配置及びブリーザ室内のブローバイガスの流れ方向に関し、 本件補正発明においては、 車体フレームに支持する連結部は、「クランクケース(3)の上部の連結用ボス(8)」であり、 ブリーザ室は、「両側面視で、クランクケース(3)に支持されるクランク軸(15)と連結用ボス(8)との間に形成され」、「車両側面視で、連結用ボス(8)とクランク軸(15)との各軸心を通る仮想線(A)の両側方に跨るよう」形成され、 ブリーザ室内のブローバイガスの流れは、「仮想線(A)の一側方から他側方に向かって」流れるのに対し、 引用文献記載の発明においては、 車体フレームに支持する連結部は、「エンジン2を含むパワーユニット1の連結部」であり、 ブリーザ室は、「車両側面視で、クランクケース3〈クランクケース(3)〉に支持されるクランクシャフト7〈クランク軸(15)〉と上部壁〈上壁(26c)〉にあるブリーザ孔25との間に形成され」、「車両側面視で、上部壁〈上壁(26c)〉にあるブリーザ孔25とクランクシャフト7〈クランク軸(15)〉との各軸心を通るIII-III線〈仮想線(A)〉の両側方に跨るよう」形成され、 ブリーザ室内のブローバイガスの流れは、「III-III線〈仮想線(A)〉の一側方から他側方に向かって」流れるのか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。 (2)相違点2 ブリーザ室内にある壁部材及び該壁部材に対するブローバイガスの流れに関し、 本件補正発明においては、「クランクケースカバー(26)の上壁(26c)と補強壁(61)とからブリーザ室(72)内に向かって延びるリブ(64,65)を形成し」、ブローバイガスは、「リブ(64,65)に当たって流れる」のに対し、 引用文献記載の発明においては、ブリーザ室内にある壁部材は、「第2ブリーザ室22b〈ブリーザ室(72)〉の内壁」であり、ブローバイガスは、当該「第2ブリーザ室22b〈ブリーザ室(72)〉の内壁に当たって流れる」点(以下、「相違点2」という。)。 2-2-3.判断 上記各相違点について検討する。 (1)相違点1について (ア)自動二輪車におけるユニットスイング式のエンジンにおいて、車体フレームに支持する連結部をクランクケースの上部の連結用ボスとすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、原査定の拒絶の理由において引用又は例示された特開平3-199609号公報の特に、第3ページ右上欄第12ないし20行並びに第1、3及び5図参照。)である。 (イ)また、ブリーザ室の配置に関し、本件補正発明も引用文献記載の発明もいずれも[「車両側面視で、クランクケースに支持されるクランク軸とクランクケース又はクランクケースカバーの上部部材との間に形成され」、「車両側面視で、クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材とクランク軸との各軸心を通る仮想線の両側方に跨るよう」を形成される]点で共通しており、上記周知技術1における「連結用ボス」も「クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材」に包含されるものである。 (ウ)ところで、本件出願の明細書には、ブリーザ室の配置に関し用いられている「車両側面視で、連結用ボス(8)とクランク軸(15)との各軸心を通る仮想線(A)」は、連結用ボス(8)の軸心を通ることによる効果は記載されておらず、仮想線(A)はブリーザ室の配置のためのおおよその基準線と推察されるものであり、仮想線は、クランク軸(15)の軸心又はその近傍を通るほぼ垂直な直線で十分なものといわざるを得ない。換言すると、ブリーザ室は、クランクケースカバー(26)内の上方略中央部でクランク軸(15)の上方に形成されればよいものと解される。 (エ)さらに、エンジンのブリーザ装置において、ブリーザ室内のブローバイガスの流れを、ブリーザ室を通る垂直な仮想線の一側方から他側方に向かって流れるようにすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、実願昭60-47786号(実開昭61-162523号)のマイクロフィルムの特に、明細書第8ページ第2行ないし第10ページ第8行及び第12ページ第4ないし18行並びに第1、2及び6図参照。)である。 (オ)そうすると、引用文献記載の発明において、車体フレームに支持する連結部として上記周知技術1を採用し、その際、クランクケース又はクランクケースカバーの上部部材として周知技術1の「連結用ボス」を用いて仮想線を選定することによりブリーザ室の配置を求め、ブリーザ室内のブローバイガスの流れについて上記周知技術2を参酌して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。 (2)相違点2について エンジンのブリーザ装置において、クランクケースカバーの上壁と補強壁とからブリーザ室内に向かって延びるリブを形成し、ブローバイガスがリブに当たって流れるようにすることは、従来周知の技術(以下、「周知技術3」という。例えば、実願昭60-47786号(実開昭61-162523号)のマイクロフィルムの特に、明細書第8ページ第2行ないし第10ページ第8行及び第12ページ第4ないし18行並びに第1、2及び6図、特に、「仕切板(36)」、「仕切壁(31)」、「リブ(25),(35)',(35)''」参照。)である。 そうすると、引用文献記載の発明において、ブリーザ室内にある壁部材及び該壁部材に対するブローバイガスの流れについて上記周知技術3を採用し、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。 また、本件補正発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 2-2-4.まとめ したがって、本件補正発明は、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に想到し得る程度のことであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび したがって、上記2.の2-1.に記載したとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、仮に、この規定に違反しないとしても、上記2.の2-2.に記載したとおり、請求項1に係る本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 【3】本件発明について 1.本件発明の内容 平成23年6月8日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成22年10月28日付けの手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、前記【2】の[理 由]の1.(b)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。 2.引用文献記載の発明 原査定の拒絶理由に引用された引用文献(特開平5-171915号公報)の記載事項及び引用文献記載の発明は、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-1.の(1)ないし(3)に記載したとおりである。 3.対比・判断 本件発明は、本件補正発明のうち「クランクケースカバー(26)の上壁(26c)と補強壁(61)とから上記ブリーザ室(72)内に向かって延びるリブ(64,65)を形成し、上記ブローバイガスが上記リブ(64,65)に当たって流れるようにした」事項(以下、「補正事項」という。)を省いたものである。 そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含んだものに上記補正事項をさらに付加した本件補正発明が、前記【2】の[理 由]の2.の2-2.の2-2-1.ないし2-2-4.に記載したとおり、引用文献記載の発明及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、上記補正事項に対応した周知技術3を省いたこと以外は同様の理由により、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本件発明は、全体として検討してみても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。 4.むすび 以上のとおり、本件発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、審判請求人は、平成24年4月9日付けの回答書において、補正を予定している一方、分割出願を考慮しているので、拒絶理由通知が欲しい旨を主張している。 しかしながら、審判請求時に、補正及び分割出願の機会はあったことから、他の審判事件の審判請求人との公平性を考慮すると、敢えて拒絶理由を通知することはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-06-20 |
結審通知日 | 2012-06-21 |
審決日 | 2012-07-06 |
出願番号 | 特願2008-151097(P2008-151097) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F01M)
P 1 8・ 57- Z (F01M) P 1 8・ 121- Z (F01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 しのぶ |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
柳田 利夫 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 鞍乗型車両におけるエンジンのブローバイガス還元装置 |
代理人 | 澤田 忠雄 |