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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1262275
審判番号 不服2010-21329  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-22 
確定日 2012-08-22 
事件の表示 特願2003-533142「モバイルウェブクライアントに対する方法、装置及びシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月10日国際公開、WO03/30005、平成17年 2月17日国内公表、特表2005-505055〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2002年9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年9月29日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成16年3月29日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され,同年5月28日付けで特許法第184条の4第1項に規定する国際出願日における明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る)及び要約の日本語による翻訳文が提出され,平成17年9月27日付けで手続補正がなされ,平成20年11月27日付けの拒絶理由の通知に対し,平成21年6月8日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,同年6月25日付けの最後の拒絶理由の通知に対し,平成22年1月4日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,平成22年6月7日付けで補正の却下の決定とともに拒絶査定がなされた。これに対して同年9月22日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,同年10月29日付けで審査官から前置報告がなされ,平成23年4月22日付けで審尋がなされ,これに対して平成23年7月12日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年9月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年9月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により,特許請求の範囲の記載は,次のとおり補正された。
「 【請求項1】
クライアントウェブブラウザからデータベースに記憶されたデータに対するリクエストを受信する段階と,
ウェブエミュレータを用いて前記リクエストを処理する段階と,
外部データベースまたはローカルデータベースのいずれかのデータベースに記憶されたデータから前記リクエストに応答する段階とを備えたウェブアプリケーションを動作させる方法であって,
前記リクエストに応答する段階は,
前記ウェブエミュレータのサーバエミュレーションコンポーネントを介して前記データベースに記憶された前記データにアクセスする段階であって,外部データベースがネットワークを介してアクセス可能である場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは,ローカルデータベースに記憶されたデータと前記外部データベースに記憶されたデータとを同期するために前記外部データベースに記憶されたデータをダウンロードし,前記外部データベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,前記データベースに供する遠隔ノードに対して遠隔手続呼び出しを送信し,前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記ローカルデータベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供することを特徴とする,前記データにアクセスする段階と,
前記クライアントウェブブラウザに対してサービスを提供するために,処理されたリクエストに応答して前記サーバエミュレーションコンポーネントから前記ウェブエミュレータへ前記データを提供する段階とを備えているウェブアプリケーションを動作させる方法。
【請求項2】
ネットワークを介してデータベースに記憶されたデータに対するアクセスを試行する段階をさらに備え,該アクセスを試行する段階は,前記サーバエミュレーションコンポーネントによって実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ネットワークを介して成功したアクセスにおいて,前記リクエストに応答する段階が,前記ネットワークから利用できるデータを利用することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ネットワークを介して失敗したアクセスにおいて,前記リクエストに応答する段階が,前記ローカルデータからの利用できるデータを利用することを備えている請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ウェブエミュレータがウェブサーバに対するプラグインであり,前記プラグインが前記リクエストをウェブエンジンに通過させ,前記ウェブエンジンがデータマネージャと協同して前記リクエストに応答することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
利用できるデータがネットワークを介して利用できることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
利用できるデータがネットワークに対するアクセスなしにローカルに利用できることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記データマネージャが,ネットワークを介して利用できるデータに対するアクセスを試行することを備え,前記データマネージャが,成功したアクセスにおいて前記ネットワークからの利用できるデータを利用し,前記リクエストに応答するのに失敗したアクセスにおいてローカルデータから利用できるデータを利用することをさらに特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記リクエストがクライアントから前記ネットワークにデータを送信する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リクエストが前記ネットワークからのデータを受信する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記リクエストがデータを送受信する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
クライアントウェブブラウザからデータベースに記憶されたデータに対するリクエストを受信する手段と,
前記リクエストを処理する手段と,
外部データベース又はローカルデータベースのいずれかのデータベースに記憶されたデータから前記リクエストに対して応答する手段とを備えたウェブアプリケーションを動作させる装置であって,前記応答する手段は,
前記データベースに記憶された前記データにアクセスする手段を備え,
処理されたリクエストに応答し,前記データベースのデータにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブである場合には,ローカルデータベースに記憶されたデータと前記外部データベースに記憶されたデータとを同期するために前記外部データベースに記憶されたデータをダウンロードし,ネットワークを介して前記データベースのデータにアクセスするために,前記外部データベースに供する遠隔ノードに対して遠隔手続呼び出しを送信するように構成されており,
処理されたリクエストに応答し,前記データにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合には,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記ローカルデータベースのデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供するように構成されているウェブアプリケーションを動作させる装置。
【請求項13】
クライアントウェブブラウザからデータベースに記憶されたデータに対するリクエストを受信する段階と,
ウェブエミュレータを用いて前記リクエストを処理する段階と,
外部データベース又はローカルデータベースのいずれかのデータベースに記憶されたデータから前記リクエストに対して応答する段階とを備えている方法をプロセッサに実現させる命令を組み込んでいるマシン読み取り可能な媒体であって,
前記リクエストに対して応答する段階は,
前記ウェブエミュレータのサーバエミュレーションコンポーネントを介して前記データベースに記憶された前記データにアクセスする段階であって,外部データベースがネットワークを介してアクセス可能である場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは,ローカルデータベースに記憶されたデータと前記外部データベースに記憶されたデータとを同期するために前記外部データベースに記憶されたデータをダウンロードし,前記外部データベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために前記外部データベースに供する遠隔ノードに対して遠隔手続呼び出しを送信し,前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記サーバエミュレーションコンポーネントはローカルデータベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供することを特徴とする,前記データにアクセスする段階と,
前記クライアントウェブブラウザに対してサービスを提供するために,処理されたリクエストに応答して前記サーバエミュレーションコンポーネントから前記ウェブエミュレータへ前記データを提供する段階とを備えている方法をプロセッサに実現させる命令を組み込んでいるマシン読み取り可能な媒体。」
(以下,請求項1?13をそれぞれ「補正後の請求項1?補正後の請求項13」という。)

2 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は,平成21年6月8日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された,次のとおりのものである。なお,平成22年1月4日付けの手続補正は却下されている。
「 【請求項1】
クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する段階と,
ウェブエミュレータを用いて前記リクエストを処理する段階と,
データベースデータから前記リクエストに対するサービスを提供する段階と,
サーバエミュレーションコンポーネントを介して前記データベースデータにアクセスする段階であって,外部データベースがネットワークを介してアクセス可能である場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは前記外部データベースにおけるデータから,処理されたリクエストに応答して前記データベースデータにアクセスし,前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントはローカルデータベースにおけるデータから,処理されたリクエストに応答して前記データベースデータにアクセスすることを特徴とする,前記データベースデータにアクセスする段階と,
前記クライアントウェブブラウザに対してサービスを提供するために,処理されたリクエストに応答して前記サーバエミュレーションコンポーネントから前記ウェブエミュレータへ前記データベースデータを提供する段階とを備えているウェブアプリケーションを動作させる方法。
【請求項2】
ネットワークを介してデータベースデータに対するアクセスを試行する段階をさらに備え,該アクセスを試行する段階は,前記サーバエミュレーションコンポーネントによって実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ネットワークを介して成功したアクセスにおいて,前記リクエストに対するサービスを提供する段階が,前記ネットワークから利用できるデータを利用することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ネットワークを介して失敗したアクセスにおいて,前記リクエストに対するサービスを提供する段階が,前記ローカルデータからの利用できるデータを利用することを備えている請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ウェブエミュレータがウェブサーバに対するプラグインであり,前記プラグインが前記リクエストをウェブエンジンに通過させ,前記ウェブエンジンがデータマネージャに関連して前記リクエストに対するサービスを提供することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
利用できるデータがネットワークを介して利用できることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
利用できるデータがネットワークに対するアクセスなしにローカルに利用できることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記データマネージャが,ネットワークを介して利用できるデータに対するアクセスを試行することを備え,前記データマネージャが,成功したアクセスにおいて前記ネットワークからの利用できるデータを利用し,前記リクエストに対するサービスを提供するのに失敗したアクセスにおいてローカルデータから利用できるデータを利用することをさらに特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記リクエストがクライアントから前記ネットワークにデータを送信する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リクエストが前記ネットワークからのデータを受信する段階を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記リクエストがデータを送受信する段階をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する手段と,
前記リクエストを処理する手段と,
データベースデータから前記リクエストに対するサービスを提供する手段と,
前記データベースデータにアクセスする手段とを備え,
処理されたリクエストに応答し,前記データベースデータにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブである場合にはネットワークを介して前記データベースデータにアクセスするように構成されており,
処理されたリクエストに応答し,前記データベースデータにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルのデータベースデータにアクセスするように構成されているウェブアプリケーションを動作させる装置。
【請求項13】
クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する段階と,
ウェブエミュレータを用いて前記リクエストを処理する段階と,
データベースデータから前記リクエストに対するサービスを提供する段階と,
サーバエミュレーションコンポーネントを介して前記データベースデータにアクセスする段階であって,外部データベースがネットワークを介してアクセス可能である場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは前記外部データベースにおけるデータから,処理されたリクエストに応答して前記データベースデータにアクセスし,前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントはローカルデータベースにおけるデータから,処理されたリクエストに応答して前記データベースデータにアクセスすることを特徴とする,前記データベースデータにアクセスする段階と,
前記クライアントウェブブラウザに対してサービスを提供するために,処理されたリクエストに応答して前記サーバエミュレーションコンポーネントから前記ウェブエミュレータへ前記データベースデータを提供する段階とを備えている方法をプロセッサに実現させる命令を組み込んでいるマシン読み取り可能な媒体。」
(以下,請求項1?13をそれぞれ「補正前の請求項1?補正前の請求項13」という。)

3 補正の適否
(1)新規事項の有無
本件補正は,補正後の請求項1の発明を特定するために必要な事項(以下,「発明特定事項」という。)の一部を,
「前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記ローカルデータベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供する」とする補正を含むものである。
そこで,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に,補正後の請求項1の上記発明特定事項が記載されているか検討する。
ネットワーク接続されたとき及びネットワーク接続されないときのデータベースに対するウェブアプリケーションの動作に関連して,本願の出願当初の明細書の段落【0146】?【0156】には,以下のような記載がある。
「 【0146】
図18は,データベースに対してウェブアプリケーションのリクエストを提供するプロセスの実施例を説明する。ブロック1810において,ウェブアプリケーションリクエストは,例えばクライアントから受信される。ブロック1820において,決定は,サービスエージェント又はコンポーネントとメインデータベースの間の最新の接続が与えられるかどうかに関してなされる。接続がされない場合,ブロック1830において,リクエストが,サービスエージェントによって受け入れ可能なローカルSQLデータベースにおいて与えられるデータに基づいて提供される(又はエラー出力する)。接続が与えられる場合,リクエストが,メインSQLデータベースにおいて与えられるデータに基づいてブロック1840において提供される(又はエラー出力する)。…(中略)…
【0147】
図19は,ウェブアプリケーションにおけるサービスリクエストのプロセスの実施例を説明する。ブロック1910において,ウェブアプリケーションリクエストは,例えばクライアントから受信される。ブロック1920において,決定は,サービスエージェント又はコンポーネントとネットワークの間の最新の接続が与えられるかどうかに関してなされる。接続される場合,ブロック1940において,リクエストが,ネットワーク接続を介して受け入れ可能なデータに基づいて(可能な範囲で)提供される。接続されない場合,ブロック1930において,リクエストが,サービスエージェントによって受け入れ可能なデータのローカルキャッシュ又は他のソースで与えられるデータに基づいて(可能な範囲で)提供される。
…(中略)…
【0149】
図20は,データベースに対してウェブアプリケーションを動作させるプロセスの実施例を説明する。ブロック2010において,ウェブアプリケーションは,ローカルモードで動作し,ローカルデータベースを利用しているローカルウェブサーバを介してリクエストを提供する。ブロック2020において,メイン又は第1のデータベースに対するネットワーク接続が認識される。ブロック2030において,ローカルデータベースとメインデータベースの間の同期化が生じる。ブロック2040において,ウェブアプリケーションは,ネットワークモードにおいてメインデータベースのデータからのサービスリクエストを動作させる。ブロック2050において,ネットワーク接続の欠乏又はネットワーク接続における故障についての認識が生じる。ブロック2060において,ウェブアプリケーションは,ローカルモードのオペレーションに復帰する。
【0150】
ネットワークとの切断は,幾つかの例において適切な方法で処理され,同期化は切断より前に生じることに注目すべきである。さらに,同期は一切生じる必要はないことに注目すべきである。択一的に,メインデータベースとローカルデータベースの間の同期化は,ネットワークモードにおいて動作する一方で,裏プロセスとして実現される。同様に,ネットワークモードで動作中のメインデータベースにおけるデータの任意変化は,本質的には,ローカルデータベースにおいて同時になされるか,又はメインデータベースに対する前記変化をコミットすることが成功した指示が戻る際になされる。
…(中略)…
【0152】
図22は,データベースに対するウェブアプリケーションを動作させるプロセスの別の択一的な実施例を説明する。ブロック2210において,システムは起動し,システム自体を初期化し,その構成を決定するか又はパラメータを動作させる。ブロック2050において,ネットワーク接続の欠乏又はネットワーク接続における故障の認識がなされる。ブロック2060において,ウェブアプリケーションは,ローカルモードにおいて動作し,ローカルデータベースを利用しているローカルウェブサーバを介してリクエストを提供する。ブロック2270において,システム動作は停止する。
【0153】
図23は,データベースに対してウェブアプリケーションにおけるリクエストを提供するプロセスの択一的な実施例を説明する。ブロック2300において,手段は,ステータスの初期化及び認識で始まる。ブロック2310において,決定は,ネットワーク接続の最新ステータスに関してなされる。ネットワーク接続されない場合,動作はブロック2320におけるネットワークなしに進行する。ブロック2320において,ウェブアプリケーションリクエストが受信される。ブロック2330において,ブロック2320において受信されたリクエストが,ローカルデータベースの利用するか又はローカルデータを用いて提供される。ブロック2340において,決定は,動作が終了するかどうかに関してなされる。終了しない場合,プロセスは,ブロック2320に戻り,次のリクエストを待つ。動作が終了すべき場合,ブロック2390において,動作が停止する。
【0154】
ネットワーク接続される場合,プロセスは,ブロック2310からブロック2350に進行する。ブロック2350において,ウェブアプリケーションリクエストが受信される。ブロック2360において,リクエストが,メインデータベースからのデータを用いるか又はネットワーク接続を介して利用できる他のデータを介して提供される。ブロック2370において,決定は,動作が終了するかどうかに関してなされる。終了しない場合,プロセスは,ブロック2350に戻り,別のリクエストを待つ。動作が終了する場合,プロセスは,ブロック2390に進行し,停止する。
【0155】
図24は,ウェブアプリケーションにおいてリクエストを提供するプロセスの択一的な実施例を説明する。ブロック2410において,手段は,ステータスの初期化及び認識で始まる。ブロック2415において,決定は,ネットワーク接続の最新ステータスに関してなされる。接続される(又は動作可能な)場合,ブロック2020において,メイン又は第1のデータベースに対するネットワーク接続が認識される。ブロック2030において,ローカルデータベースとメインデータベースの間の同期化が生じる。ブロック2040において,ウェブアプリケーションは,ネットワークモードにおいて動作し,ネットワーク接続を介してメインデータベースにおけるデータからのリクエストを提供する。動作が完了する場合,ブロック2490において,プロセスが停止する。
【0156】
ネットワーク接続がされていないか又は動作可能でない場合,プロセスはブロック2050に進行する。ブロック2050において,ネットワーク接続の欠乏又はネットワーク接続における故障の認識がなされる。ブロック2060において,ウェブアプリケーションはローカルモードで動作し,ローカルデータベースを利用しているローカルウェブサーバを介してリクエストを提供する。最後に,動作が完了する場合,ブロック2490において,プロセスが停止する。」
そして,明細書の上記記載及び関連する図18ないし図24を参照してもネットワーク接続がされていないか又は動作可能でない場合,もしくは,ネットワーク接続の欠乏又はネットワーク接続における故障の認識がなされた場合の態様に関し,ローカルモードで動作する,もしくは,ローカルデータベースを用いてリクエストを提供する旨の記載はあるものの,補正後の請求項1に特定された事項である「前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記サーバエミュレーションコンポーネントは,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記ローカルデータベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供する」点は,当初明細書等に記載も示唆もされておらず,当初明細書等の記載から自明なことでもないので,この補正事項は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

なお,請求人は,当該補正の根拠として,平成22年9月22日付け審判請求書において,『特に,「ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させない」との事項は図24において,ネットワーク接続を認識した場合には同期化することが記載されている一方で,ネットワーク接続を認識した場合には同期化することが記載されていないことを根拠とするものである。』と主張する。
ここで,「ネットワーク接続を認識した場合には同期化することが記載されていない」は,図24の記載からみて,「ネットワーク切断を認識した場合には同期化することが記載されていない」の誤記と解する。
しかしながら,図24及び段落【0155】?【0156】に記載されているように,ネットワーク切断を認識した場合にローカルモードで動作することは,ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させないことを意味するものではない。
むしろ,段落【0149】?【0150】及び図20に記載されているような,ローカルモードで動作した後にネットワーク接続を認識した後に同期化するとの記載から,ローカルモードでローカルデータベースを変化させたためにネットワーク接続を認識した時に同期化が必要であると理解するべきであるから,請求人の上記主張は妥当ではない。

同様に,補正後の請求項12の
「処理されたリクエストに応答し,前記データにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合には,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記ローカルデータベースのデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供する」,及び,
補正後の請求項13の
「前記外部データベースが前記ネットワークを介してアクセス可能でない場合には,前記ローカルデータベースに記憶されたデータを変化させずに,前記サーバエミュレーションコンポーネントはローカルデータベースに記憶されたデータから,処理されたリクエストに応答するデータにアクセスするために,データベースアクセスリクエストを提供する」についても,補正後の請求項1について上述した理由と同様の理由により,当初明細書等のいずれにも記載も示唆もされておらず,該当初明細書等の記載から自明なことでもないので,これらの補正事項は,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(2)本件補正についてのむすび
したがって,上記補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年9月22日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし13に係る発明は,平成21年6月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項12に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項12に記載された事項により特定される,次に再掲するとおりのものである。

「【請求項12】
クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する手段と,
前記リクエストを処理する手段と,
データベースデータから前記リクエストに対するサービスを提供する手段と,
前記データベースデータにアクセスする手段とを備え,
処理されたリクエストに応答し,前記データベースデータにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブである場合にはネットワークを介して前記データベースデータにアクセスするように構成されており,
処理されたリクエストに応答し,前記データベースデータにアクセスする手段は,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルのデータベースデータにアクセスするように構成されているウェブアプリケーションを動作させる装置。」

2 刊行物の記載事項
(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開平11-134277号公報(平成11年5月21日公開。以下,「引用例」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。(下線は,参考のために当審にて付した。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,遠隔/モバイル・コンピューティングに関し,具体的には,ウェブ・ブラウザ/ウェブ・サーバ通信モデルを使用した遠隔/モバイル・コンピューティングに関する。」
(イ)「【0019】さらに,遠隔/モバイル・データ処理システムが第2のコンピュータに接続されているときに記憶されている要求を第2のコンピュータに送信することができ,第2のコンピュータを介してサーバから要求に対する応答を受信することができる。要求に対する応答は,記憶されている要求に関連づけられた遠隔/モバイル処理システムで記憶することができる。記憶された応答はクライアント・アプリケーションに供給することもできる。」
(ウ)「【0022】他の実施形態では,遠隔/モバイル・データ処理システムが応答を受信すると,受信応答が入手可能であることがユーザに通知され,ユーザがその応答を要求した場合,ウェブ・ブラウザにその応答が供給される。」
(エ)『【0030】図2に,本発明の一実施形態を示す。図2に示すように,ウェブ・ブラウザ10はクライアント側インタセプト・モジュール30と通信する。ウェブ・サーバ20はサーバ側インタセプト・モジュール40と通信する。次に,クライアント側インタセプト・モジュール30は,通信リンク35を介してサーバ側インタセプト・モジュール40と通信する。ウェブ・ブラウザ10とクライアント側インタセプト・モジュール30は,第1のコンピュータ5内に含めることができる。サーバ側インタセプト・モジュール40とウェブ・サーバ20は第2のコンピュータ6内に含めることができる。第1のコンピュータ5と第2のコンピュータ6は外部通信リンク35を介して通信する。第1のコンピュータ5は,遠隔/モバイル・データ処理システムであることが好ましい。本明細書で使用する「遠隔/モバイル」とは「一時的および断続的にリンクされる」ことを意味し,一時的とは「限定された時間のあいだ続くこと」を意味し,断続的とは「間隔をおいて行われたり終わったりすること,連続していないこと,または時折行われること」を意味する。遠隔/モバイル・データ処理システムには,ネットワークなどを介して他のシステムに遠隔アクセスするデータ処理システムも含めることができる。』
(オ)「【0048】図4に,本発明を使用するクライアント側インタセプトの動作を示す。図4に示すように,クライアント側インタセプト30はブラウザ10からの要求をインタセプトする(ブロック50)。次に,クライアント側インタセプトはその要求に対する応答がキャッシュに入っているかどうかを判断し(ブロック52),入っている場合はそのキャッシュ内の応答がウェブ・ブラウザに返される(ブロック54)。
【0049】応答がキャッシュに入れられていない場合,クライアント側インタセプトはデータ処理システムがサーバにアクセスする第2のコンピュータに接続されているかどうかを判断する(ブロック56)。データ処理システムが接続されている場合,要求が据え置きでなければ(ブロック58),その要求は第2のコンピュータに送られる(ブロック60)。しかし,データ処理システムが接続されていないか,要求処理が据え置かれる場合,要求は要求待ち行列に記憶され,その要求に対する応答として暫定応答がブラウザに送られる(ブロック62)。」
(カ)「【0052】接続が確立されると,ブラウザから元々保管され,要求待ち行列に記憶されていた情報を使用して要求を再構成し,その要求を第2のコンピュータに送る(ブロック72)。この時点で,要求はサーバにとってはブラウザから直接送られてきたかのように見える。無線リンクにおける障害のために要求が失敗した場合(ブロック74),後で後続の試行が行われる。要求の再試行によって一時的な通信障害が隠蔽される。他のタイプの障害も記録されて後でユーザに返される。
【0053】図5に,前に待ち行列に入れられていた要求に対する応答を受け取るときの,クライアント側インタセプト・モジュールの動作を示す。図5に示すように,サーバから応答を受け取る(ブロック80)。しかし,現在,ウェブ・ページではグラフィックス,アプレット,およびその他の埋込みがほとんど一般的に使用されている。ユーザがこの情報の表示を求めた場合,返されたページを解析して埋込みを探す(ブロック82)。次に各埋込みを取り出し(ブロック84),元の応答と共にキャッシュに追加する(ブロック86)。この応答に,要求が関連づけられ,応答と共に返される状況情報がその要求に関連づけられる(ブロック88)。この時点で要求は完了し,それが使用可能であることをユーザに通知することができる(ブロック90)。」
(キ)「【0062】応答を受け取った後,その応答はユーザが将来オフラインで見ることができるように保管する必要がある。しかし,ブラウザは要求を行って応答を受け取るときに,一般にそれを2通りの方法のうちのいずれかで処理する。応答が比較的静的であると予測される場合,そのページに対する将来の要求を迅速に処理することができるように,その応答はブラウザによってキャッシュに入れられる。しかし,そのページがフォーム要求に対する応答の場合,またはその他の方法で生成された場合(いわゆる「cgi-bin」要求),ブラウザは応答を表示するだけで,キャッシュには入れない。これは,その応答が一般に1つのcgi-bin要求と次のcgi-bin要求とでは異なるためである。また,ソース・サーバが「キャッシュなし」とマークしたオブジェクトについては,その指示に従うブラウザおよびプロキシはそれらの項目を保管しない。しかし,待ち行列化された要求の処理の一環として取り出された場合には,それを後で表示するために保管しなければならない。
…(中略)…
【0065】あらゆるHTMLページと同様に,将来の使用のためにHTMLフォームをキャッシュに入れることができる。本発明によると,キャッシュに入れられたHTMLフォームを編集して後で発信したり,異なるユーザ入力値を使用して再発信することができる。たとえば,検索入力フォームを何度も編集して異なる検索要求を送出することができる。同様に,入院フォームなどのイントラネット・データ入力フォームを編集してデータ入力エラーを修正したり,異なる患者の新規データを再発信したりすることができる。ほとんどのフォームは,単純なワンフォーム対話モデルを有するか,または自己完結型隠れフィールドを含み,それによってウェブ・アプリケーションが発信を別々に受け入れることができるため,将来独立して発信するように有意義にキャッシュに入れることができる。
【0066】モバイル環境では,サーバに接続できないときでも切断フォーム送信によってユーザの生産性を高めることができる。これによって,どのネットワークにも接続せずに複数のデータ入力ページに記入することができる。また,本発明の再編集機能を使用して,ユーザは2,3件のフォームの原稿を作成し,それを最終的にサーバに送る前に見直し,承認,または編集することができる。」

引用発明の認定
a (ア)の「本発明は,…(中略)…ウェブ・ブラウザ/ウェブ・サーバ通信モデルを使用した遠隔/モバイル・コンピューティングに関する。」との記載,(エ)の「ウェブ・ブラウザ10はクライアント側インタセプト・モジュール30と通信する。」との記載,(エ)の「ウェブ・ブラウザ10とクライアント側インタセプト・モジュール30は,第1のコンピュータ5内に含めることができる。」との記載,及び(オ)の「クライアント側インタセプト30はブラウザ10からの要求をインタセプトする」との記載から,引用例には,
ウェブ・ブラウザからの要求をインタセプトする,第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプト・モジュール,
が記載されている。
b (イ)の「遠隔/モバイル・データ処理システムが第2のコンピュータに接続されているときに記憶されている要求を第2のコンピュータに送信することができ,第2のコンピュータを介してサーバから要求に対する応答を受信することができる」との記載から,引用例には,第2のコンピュータに接続されている場合,要求を受信して応答を送信する第2のコンピュータが記載されている。
また,(オ)の「クライアント側インタセプト30はブラウザ10からの要求をインタセプトする…(中略)…データ処理システムが接続されていないか,要求処理が据え置かれる場合,要求は要求待ち行列に記憶され,その要求に対する応答として暫定応答がブラウザに送られる」との記載,(カ)の「接続が確立されると,ブラウザから元々保管され,要求待ち行列に記憶されていた情報を使用して要求を再構成し,その要求を第2のコンピュータに送る…(中略)…サーバから応答を受け取る」との記載から,データ処理システムは,遠隔/モバイル・データ処理システムであるから,引用例には,遠隔/モバイル・データ処理システムが接続されていない場合,クライアント側インタセプト30は,第1のコンピュータ内に備えられて,要求を要求待ち行列に記憶して暫定応答をブラウザに返している。
さらに,(ウ)の「遠隔/モバイル・データ処理システムが応答を受信すると,受信応答が入手可能であることがユーザに通知され,ユーザがその応答を要求した場合,ウェブ・ブラウザにその応答が供給される」との記載から,ユーザは,遠隔/モバイル処理システムに応答を要求すると,ウェブ・ブラウザにその応答が供給される。
したがって,引用例には,
要求に対する応答を受信して応答を送信する第2のコンピュータと,要求を要求待ち行列に記憶して,暫定応答を返す第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプトと,
要求に対する応答が供給されるウェブ・ブラウザ,
が記載されている。
c (エ)の「クライアント側インタセプト・モジュール30は,通信リンク35を介してサーバ側インタセプト・モジュール40と通信する。ウェブ・ブラウザ10とクライアント側インタセプト・モジュール30は,第1のコンピュータ5内に含めることができる。サーバ側インタセプト・モジュール40とウェブ・サーバ20は第2のコンピュータ6内に含めることができる。第1のコンピュータ5と第2のコンピュータ6は外部通信リンク35を介して通信する。」との記載から,引用例に記載された第1のコンピュータ及び第2のコンピュータは外部通信リンクを介して通信している。そして,第1のコンピュータ5は,クライアント側インタセプト・モジュール30を含む。
また,(イ)の「遠隔/モバイル・データ処理システムが第2のコンピュータに接続されているときに記憶されている要求を第2のコンピュータに送信することができ,第2のコンピュータを介してサーバから要求に対する応答を受信することができる」との記載,及び,(エ)の「第1のコンピュータ5は,遠隔/モバイル・データ処理システムであることが好ましい」との記載から,引用例には,第1のコンピュータが第2のコンピュータと接続されているときに要求を第2のコンピュータに送信し,第2のコンピュータから応答を受信する事項が記載されている。
したがって,引用例には,
第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているときは,要求を第1のコンピュータから第2のコンピュータに送信し,第2のコンピュータからの応答を受信する,
事項が記載されている。
d (オ)の「データ処理システムが接続されていないか,要求処理が据え置かれる場合,要求は要求待ち行列に記憶され,その要求に対する応答として暫定応答がブラウザに送られる」との記載,(カ)の「接続が確立されると,ブラウザから元々保管され,要求待ち行列に記憶されていた情報を使用して要求を再構成し,その要求を第2のコンピュータに送る…(中略)…サーバから応答を受け取る」との記載,及び,(キ)の「あらゆるHTMLページと同様に,将来の使用のためにHTMLフォームをキャッシュに入れることができる。本発明によると,キャッシュに入れられたHTMLフォームを編集して後で発信したり,異なるユーザ入力値を使用して再発信することができる。…(中略)…モバイル環境では,サーバに接続できないときでも切断フォーム送信によってユーザの生産性を高めることができる。これによって,どのネットワークにも接続せずに複数のデータ入力ページに記入することができる」との記載,及び,キャッシュは第1のコンピュータに備えられていることから,引用例には,
第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないときは,第1のコンピュータ内のキャッシュに入れられたHTMLフォームを編集し後で発信する,
事項が記載されている。
e (ア)の「本発明は,…(中略)…ウェブ・ブラウザ/ウェブ・サーバ通信モデルを使用した遠隔/モバイル・コンピューティングに関する」との記載,及び,(ウ)の「遠隔/モバイル・データ処理システムが応答を受信すると,受信応答が入手可能であることがユーザに通知され,ユーザがその応答を要求した場合,ウェブ・ブラウザにその応答が供給される」との記載から,引用例には,
ウェブ・ブラウザ/ウェブ・通信モデルを使用した遠隔/モバイル・データ処理システム,
が記載されている。

ウ これらのことから,引用例には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

ウェブ・ブラウザからの要求をインタセプトする,第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプト・モジュールと,
要求に対する応答を受信して応答を送信する第2のコンピュータと,要求を要求待ち行列に記憶して,暫定応答を返す第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプトと,
要求に対する応答が供給される第1のコンピュータ内のウェブ・ブラウザと,
第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているときは,要求を第1のコンピュータから第2のコンピュータに送信し,第2のコンピュータからの応答を受信するように構成されており,
第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないときは,第1のコンピュータ内のキャッシュに入れられたHTMLフォームを編集し後で発信するように構成されているウェブ・ブラウザ/ウェブ・通信モデルを使用した遠隔/モバイル・データ処理システム。

(3)周知例1
ア 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の出願の日前に頒布された刊行物である米国特許第5991760号明細書(1999年11月23日発行。以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア)「As shown schematically in FIG. 5, another aspect of the system automatically enables the client computer 200 to first download a copy 504 of a remote network document 506 (e.g., a database) from an origin server 510 ("origin server 510"), and then modify the (database) copy 504 while disconnected from the network 295. Upon reconnect to the network 295, the client computer 200 then updates the remote (database) document 506 to reflect the changes made by the client computer 200 during disconnect. This enables the user to modify such a database during disconnect while automatically ensuring that such modifications will be made to the remote (database) document 506 upon re-connect.」(第5欄第6行?同欄第17行)
(訳:図5に図式的に示すように,このシステムのもう一つの側面は,クライアントコンピュータ200が,基コンピュータ510(“基サーバ510”)から遠隔ネットワーク文書506(例えばデータベース)のコピー504を最初にダウンロードし,それからネットワーク295から切断されている間,(データベースの)コピー504を修正することを可能とすることである。ネットワーク295に再接続した後,クライアントコンピュータ200は,遠隔(データベース)文書506を,切断中にクライアントコンピュータ200によりなされた変更を反映するために更新する。これは,ユーザーがそのようなデータベースをネットワーク切断中に修正できるようにすることを可能とする一方,再接続後に遠隔(データベース)文書506に対してその修正を自動的に行うことを保証する。)

(イ)「FIG. 8 thus shows a process of accessing and modifying the downloaded database copy 504 in the client computer 200 when disconnected. Specifically, after data is entered into the templates, the browser 399 first requests access to the database 506 via the interceptor 394 and the redirector 600 (step 800). The redirector then queries the connection manager 602 at step 802 to determine if the client computer 200 is connected to the network 295. If connected to the network 295, the database 506 on the origin server 510 is accessed and modified, by conventional means, over the network 295 (step 804).
If the client computer 200 is not connected to the network 295, the redirector 600 accesses the mapping table 606 to ascertain the location of the database and local application program 502 in the client directory structure (step 806). The redirector 600 then transmits the location of the local application program 502, the database copy 504, and the data to modify the database copy 504 to the local engine 604 at step 808. The local engine 604 then locates the database copy 504 and local application program 502, translates the data, and then transmits the translated data to the local application program 502, (step 810). The application program 502 then modifies the database at step 812 and responsively sends an HTML response to the browser 399 reflecting the modifications (step 814). Upon reconnect, the data pump 608 may upload the modified database to the origin server 510 to reflect the changes made in the database.」(第6欄第49行?第7欄第9行)
(訳:したがって,図8は,ネットワーク切断時に,クライアントコンピュータ内のダウンロードされたデータベースのコピー504にアクセスして修正するプロセスを示す。特に,データがテンプレートに入力された後,ブラウザ309はまず最初にインタセプタ394及びリダイレクタ600経由でデータベース506へのアクセスを要求する(ステップ800)。それから,そのリダイレクタは,クライアントコンピュータ200がネットワーク295に接続されているか決定するために,ステップ802において,接続マネージャ602に問い合わせを行う。もしネットワーク295に接続されていれば,基サーバ510上のデータベース506は,通常の手段により,ネットワーク295経由でアクセス及び修正を行う(ステップ804)。もし,クライアントコンピュータ200がネットワーク295に接続されていなければ,リダイレクタ600は,クライアントディレクトリ構造内におけるデータベース及びローカルアプリケーションプログラム502の位置を確認するためにマッピング表606にアクセスする(ステップ806)。それから,ステップ808において,リダイレクタ600は,ローカルアプリケーションプログラム502,データベースのコピー504,及び,データベースコピー504を修正するためのデータの位置を,ローカルエンジン604に送る。それから,ローカルエンジン604は,データベースのコピー504及びローカルアプリケーションプログラム502の位置を検出して,データを翻訳し,それから翻訳されたデータをローカルアプリケーションプログラム502に送る(ステップ810)。それから,アプリケーションプログラム502はステップ812においてデータベースを修正し,修正を反映したHTML応答をブラウザ399に応答送信する(ステップ814)。再接続すると,データ送信装置608は,データベースへの更新を反映するために基サーバ510に修正されたデータベースをアップロードし得る。)

イ これらのことから,周知例1には,以下の周知技術(以下,「周知技術1」という。)が記載されている。

クライアントコンピュータがデータベースを備えて,ネットワーク切断中は,該データベースを修正し,ネットワークに再接続すると該データベースをサーバー上にアップロードするシステム。

(4)周知例2
ア 本願の出願の日前に頒布された刊行物である,相場隆宏,「活用&選択 業務クライアントとしてのPDA オンライン/オフライン機能が充実 残る課題は少ない資源」,日経オープンシステム,日経BP社,平成13年1月15日受入,第94号,pp.166-173(以下,「周知例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア)「図1●PDAの業務利用を推し進める環境 無線通信ができない場所でも使えて,操作が手軽で携帯性に優れるPDAを,本格的にフィールド・ワークで業務に利用できる環境が整ってきた。PDAと企業内のサーバーとの間でデータ交換を可能にすることで業務用端末として威力を発揮する」(第167頁図1の説明文)

(イ)「2000年中にPalm OSやWindows CE向けの製品出荷が相次いだモバイルDBを使えば,この工数を減らせる(図3)。モバイルDBは,サーバーのDBMSと同様に,SQL文を使って端末内のデータを操作できる。また,サーバー側のDBを端末側のDBにコピーする,双方で更新内容を反映するといった機能を備える。簡単なスクリプトを記述するなどで,同期の条件を細かく定義することも可能である。」(第168頁右欄第28行?第169頁左欄第5行)

(ウ)図3の「2 クライアント・アプリケーション(独自開発)+モバイルDB」には,クライアントがモバイルDBを備え,モバイルDBの機能を利用してサーバー上のDBに入力を行うシステムであって,モバイルDBから携帯電話などの無線通信によりサーバー上のDBと連携をとる技術事項が記載されていると認められる。

イ これらのことから,周知例2には,以下の周知技術(以下,「周知技術2」という。)が記載されている。

クライアントがデータベースを備えて,無線通信ができない場所では,該データベースを操作し,無線通信ができる場所では,該データベースとサーバー上のデータベースを同期させるシステム。

3 引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「ウェブ・ブラウザ」,「要求」,「通信外部リンク」は,各々,本願発明の「クライアントウェブブラウザ」,「リクエスト」,「ネットワーク」に相当する。
(2)引用発明の「ウェブ・ブラウザからの要求をインタセプトする,第1コンピュータ内のクライアント側インタセプト・モジュール」は,ウェブ・ブラウザからの要求をクライアント側インタセプト・モジュールが受信することに当たるので,本願発明の「クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する手段」に相当する。
(3)引用発明の「要求に対する応答を受信して応答を送信する第2のコンピュータと,要求を要求待ち行列に記憶して,暫定応答を返す第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプト」は,要求に対して,応答を返す,又は,要求待ち行列に記憶して暫定応答を返すという,要求に対する処理を行うことに当たるので,本願発明の「前記リクエストを処理する手段」に相当する。
(4)引用発明の「要求に対する応答が供給される第1のコンピュータ内のウェブ・ブラウザ」は,要求に対する応答をユーザーに表示する手段であり,応答のユーザーへの表示は要求に対するサービスをユーザーに提供することに当たるから,本願発明の「前記リクエストに対するサービスを提供する手段」に相当する。
(5)引用発明の「第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているときは,要求を第1のコンピュータから第2のコンピュータに送信し,第2のコンピュータからの応答を受信するように構成されており」において,第2のコンピュータから応答を受信することは本願発明の「処理されたリクエストに応答」に相当し,引用発明の「第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているとき」は本願発明の「ネットワークに対する接続がアクティブである場合」であることに相当し,引用発明において,第2のコンピュータは要求を受信して何らかの処理を行って応答しているといえる。
したがって,引用発明と本願発明は,
処理されたリクエストに応答し,ネットワークに対する接続がアクティブである場合にはネットワークを介して処理を行うように構成されている点,
で共通する。
(6)引用発明の「第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないときは,第1のコンピュータ内のキャッシュに入れられたHTMLフォームを編集し後で発信するように構成されている」において,キャッシュに入れられたHTMLフォームを編集することは,編集という処理を要求されてその結果をローカルで処理することであるから,本願発明とは,ローカルで処理を行う点で共通する。
また,引用発明の「第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないとき」は,本願発明の「ネットワークに対する接続がアクティブでない場合」に相当する。
したがって,引用発明と本願発明は,
処理されたリクエストに応答し,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルで処理を行うように構成されている点,
で共通する。
(7)引用発明の「ウェブ・ブラウザ/ウェブ・通信モデルを使用した遠隔/モバイル・データ処理システム」は,ウェブブラウザからの要求を,第1のコンピュータ内のクライアント側インタセプト・モジュールがインタセプトした後,当該要求を第2のコンピュータに送信して第2のコンピュータからの応答を受信するか,又は,第1のコンピュータにおいて,キャッシュに入れられたHTMLフォームを編集し後で発信するように構成された,第1のコンピュータ及び第2のコンピュータからなるシステムであるから,本願発明の,クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信し,当該リクエストを,ネットワークを介してデータを処理するか,又は,ローカルのデータを処理する「ウェブアプリケーションを動作させる装置」に対応する。
以上のことから,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
クライアントウェブブラウザからのリクエストを受信する手段と,
前記リクエストを処理する手段と,
前記リクエストに対するサービスを提供する手段と,
処理されたリクエストに応答し,ネットワークに対する接続がアクティブである場合にはネットワークを介して処理を行うように構成されており,
処理されたリクエストに応答し,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルで処理を行うように構成されているウェブアプリケーションを動作させる装置。

[相違点]
本願発明は,リクエストを処理するに当たり,「データベースデータから前記リクエストに対するサービス」を提供し,「前記データベースデータにアクセスする手段」を備えて,この「前記データベースデータにアクセスする手段」は,「ネットワークに対する接続がアクティブである場合にはネットワークを介して前記データベースデータにアクセス」ように構成されるとともに「ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルのデータベースデータにアクセス」するように構成されているのに対し,引用例には,「データベースデータにアクセスする」点について記載がない点。

4 判断
以下,[相違点]について検討する。
周知例1に記載された,クライアントコンピュータがデータベースを備えて,ネットワーク切断中は,該データベースを修正し,ネットワークに再接続すると該データベースをサーバー上にアップロードするシステム(「2 刊行物の記載事項」「(3)周知例1」のイに示した周知技術1。)や,周知例2に記載された,クライアントがデータベースを備えて,無線通信ができない場所では,該データベースを操作し,無線通信ができる場所では,該データベースとサーバー上のデータベースを同期させるシステム(「2 刊行物の記載事項」「(4)周知例2」のイに示した周知技術2。)から,
クライアントがデータベースを備えて,ネットワークに対する接続がアクティブである場合には,ネットワークを介してデータベースデータにアクセスし,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルのデータベースデータにアクセスすることにより,リクエストに対するサービスを提供する技術事項は,当業者に周知の技術であったといえる。
そして,引用発明は,第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているときは,要求を第1のコンピュータから第2のコンピュータに送信し,第2のコンピュータからの応答を受信するように構成されており,第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないときは,第1のコンピュータ内のキャッシュに入れられたHTMLフォームを編集するものであり,また,キャッシュもデータベースもともに情報を格納するための周知の手段であることから,これに上記周知の技術を用いて,キャッシュをデータベースとし,要求に対する処理を,データベースデータに対して処理するようにすることは当業者が適宜なし得る事項である。したがって,要求(リクエスト)を処理するに当たり,第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されているときは,外部通信リンクを介して第2のコンピュータのデータベースデータにアクセスするようにし,第1のコンピュータが外部通信リンクを介して第2のコンピュータと接続されていないときは,第1のコンピュータに設けられた(ローカルの)データベースデータをアクセスしてHTMLフォームの編集をするようにすること,すなわち,本願発明のように,ネットワークに対する接続がアクティブである場合には,ネットワークを介してデータベースデータにアクセスし,ネットワークに対する接続がアクティブでない場合にはローカルのデータベースデータにアクセスし,「データベースデータから前記リクエストに対するサービス」を提供するようにすることは,当業者が適宜なし得るものである。
よって,引用発明を,上記[相違点]に係る構成にすることは,当業者が上記周知の技術に基づいて適宜なし得る程度の事項にすぎない。

そして,本願発明の奏する作用効果は,引用例に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。
したがって,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。

5 本願発明についてのむすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-21 
結審通知日 2012-03-27 
審決日 2012-04-12 
出願番号 特願2003-533142(P2003-533142)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤穂 州一郎深沢 正志  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 殿川 雅也
酒井 伸芳
発明の名称 モバイルウェブクライアントに対する方法、装置及びシステム  
代理人 酒井 將行  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 仲村 義平  
代理人 深見 久郎  
代理人 森田 俊雄  
代理人 堀井 豊  
代理人 佐々木 眞人  

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