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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1262513
審判番号 無効2011-800229  
総通号数 154 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-11-10 
確定日 2012-08-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3216881号発明「試料断面観察方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3216881号(以下、「本件特許」という。)に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成 2年 9月 7日 出願(特願平2-235545号)
平成 4年 4月17日 出願公開(特開平4-116843号)
平成11年 7月 2日 拒絶理由通知(起案日)
平成11年 9月24日 手続補正書及び意見書
平成13年 8月 3日 特許権設定登録(特許第3216881号)
平成14年 4月 8日 異議申立(異議2002-070916号)
平成15年 7月 7日 取消理由通知(起案日)
平成15月 9月16日 訂正請求書(後日取下げ)及び意見書
平成15年12月16日 取消理由通知(起案日)
平成16年 1月14日 訂正請求書
平成16年 1月20日 異議の決定(起案日)
平成23年11月10日 本件特許無効審判請求(請求項1、2及び4に対して)
平成24年 1月24日 答弁書
平成24年 3月22日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成24年 3月22日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 4月 5日 口頭審理
平成24年 4月 9日 調書(作成日)

第2 本件発明
本件特許の請求項1、2及び4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」及び「本件特許発明4」といい、これらをまとめて「本件特許発明」という。)は、平成16年1月14日付け訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2及び4に記載された次のとおりのものである。

1.本件特許の請求項1に係る発明(「本件特許発明1」)
「【請求項1】
試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面の表面をイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施して前記形成した断面の表面をイオン衝撃を受けたところのみクリーニングし、該イオン・アシスト・エッチング処理によりクリーニングした断面のSEM像を観察することを特徴とする試料断面観察方法。」

2.本件特許の請求項2に係る発明(「本件特許発明2」)
「【請求項2】
イオンビーム加工装置の処理室内に設置した試料に集束イオンビームを照射して該試料の一部を除去加工することにより該試料に断面を形成し、該試料に形成した断面の表面をエッチング装置でイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施して前記断面の表面をイオン衝撃を受けたところのみクリーニングし、該イオン・アシスト・エッチング処理によりクリーニングした断面を大気に曝すことなくSEM装置でSEM像を観察することを特徴とする試料断面観察方法。」

3.本件特許の請求項4に係る発明(「本件特許発明4」)
「【請求項4】
前記断面の表面のクリーニングとSEM像の観察とを、同一の真空室内で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の試料断面観察方法。」

第3 請求人及び被請求人の主張の概要
1.請求人の主張
本件特許無効審判請求書、口頭審理陳述要領書及び調書における請求人の各主張を整理すると、請求人の主張は、以下のとおりである。
(1)東京地方裁判所で審理されている平成22年(ワ)第36002号損害賠償請求事件の平成23年5月23日付けの株式会社日立ハイテクノロジーズの第5準備書面(甲第2号証)、本件特許無効審判に係る答弁書及び口頭審理陳述要領書における被請求人の各主張を踏まえると、特許第3216881号に係る平成16年1月14日付けの訂正請求書(甲第1号証)における訂正(以下「本件訂正」という。)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。
したがって、本件特許は、特許法126条第4項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第8号の規定に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。

(2)本件特許発明は、甲第7号証に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、または、引用発明1、甲第8号証に記載された発明(以下、「引用発明2」という。)、甲第9号証に記載された発明(以下、「引用発明3」という。)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明は、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

〈証拠方法〉
甲第1号証:本件特許に係る平成16年1月14日付け訂正請求書
甲第2号証:平成22年(ワ)第36002号 損害賠償請求事件における株式会社日立ハイテクノロジーズの平成23年5月23日付け第5準備書面
甲第3号証:本件特許に係る平成14年4月8日付け異議申立書(異議2002-70916号。以下、「本件異議申立」という。)
甲第4号証:本件異議申立に係る平成15年7月7日付け取消理由通知書
甲第5号証:本件異議申立に係る平成15年9月16日付け訂正請求書
甲第6号証:本件異議申立に係る平成15年12月16日付け取消理由通知書
甲第7号証:K. NIKAWA他, NEW APPLICATIONS OF FOCUSED ION BEAM TECHNIQUE TO FAILURE ANALYSIS AND PROCESS MONITORING OF VLSI, 1989 International Reliability Physics Symposium、43頁?52頁
甲第8号証:R.J. YOUNG他, GAS-ASSISTED FOCUSED ION BEAM ETCHING FOR MICROFABRICATION AND INSPECTION, Microelectronic Engineering, Elsevier Science Publishers B.V. 11, (1990), 409頁?412頁
甲第8号証の2:「Microelectronic Engineering Volume 11, Numbers 1-4」の表紙の写し
甲第9号証:特開平1-181529号公報
甲第10号証:特開平2-15648号公報
甲第11号証:特許第3216881号公報

なお、甲第8号証は写しであり、甲第8号証に係る文献の原本は提示されなかった。
また、甲第8号証の2は、平成24年3月22日付け口頭審理陳述要領書に添付されたものである。

2.被請求人の主張
(1)無効理由1について
本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、特許法第126条第4項に規定される訂正要件を満たす。
したがって、本件特許は無効理由1を有しない。

(2)無効理由2について
ア 甲第8号証について
甲第8号証には、1990年に頒布されたことを示唆する記載があるものの、頒布の月日までは記載されていない。甲第8号証は本件出願日より前に頒布されたか否か不明である。
イ 本件特許発明について
本件特許発明は、甲第7号証?甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではなく、特許法第29条第2項に規定される特許要件を満たす。
したがって、本件特許は無効理由2を有しない。

<証拠方法>
乙第1号証:HYOUNG HO(CHRIS) KANG他, "Gas assisted ion beam etching and deposition", FOCUSED ION BEAM SYSTEMS, CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS, 2007, 67?86頁
乙第2号証:2008年にミシガン大学で行われたワークショップ「A Workshop on Focused Ion Beam Systems and Applications」において請求人の従業者が発表した資料

第4 当審の判断
1.無効理由1について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲に記載された発明について
本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件特許公報(特許第3216881号;甲第11号証)に記載された次のとおりである(以下、下記の請求項1に係る発明を「本件訂正前発明」といい、まず、当該発明について検討する。)。
「【請求項1】試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して前記形成した断面の表面をクリーニングし、該クリーニングした断面のSEM像を観察することを特徴とする試料断面観察方法。
【請求項2】イオンビーム加工装置の処理室内に設置した試料に集束イオンビームを照射して該試料の一部を除去加工することにより該試料に断面を形成し、該試料に形成した断面の表面をエッチング装置でエッチング処理を施して前記断面の表面をクリーニングし、該表面をクリーニングした断面を大気に曝すことなくSEM装置でSEM像を観察することを特徴とする試料断面観察方法。
【請求項3】前記エッチング装置が、スパッタエッチング装置又はイオンビームを用いたエッチング装置であることを特徴とする請求項2記載の試料断面観察方法。
【請求項4】前記断面の表面のクリーニングとSEM像の観察とを、同一の真空室内で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の試料断面観察方法。」

(2)本件訂正前発明に係る明細書の記載
本件訂正前発明に係る明細書(甲第11号証)には、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
(明1)「〔従来の技術〕
半導体LSIなどのプロセス解析や不良解析を行うために、従来、集束イオンビーム加工により断面を作成し、その断面をSEM像またはSIM像により観察する方法が特開平1-181529「集束イオンビーム加工方法とその装置」や、特開平2-123749「断面加工観察装置」に述べられている。これは集束イオンビームにより試料に穴を堀り、その加工穴の側壁をSEM像観察するものである。または、加工したイオンビーム装置の中で試料の加工穴側壁にイオンビームが当るように試料を回転して、走査イオンビーム顕微鏡(SIM)により観察するものである。」(1頁2欄11行?2頁3欄6行。甲第11号証における記載箇所。以下、同じ。)

(明2)「〔発明が解決しようとする課題〕
この方法では、イオンビームによりスパッタされた粒子が加工穴側壁、すなわち断面観察を行いたい面に付着する再付着現象が鮮明な観察像を得る上で問題となる。特開平1-181529の図18と図19に、再付着を防ぐイオンビーム操作方法が述べられているが、この方法によってもどうしても若干の再付着層が形成される。このため断面をSIM又はSEM像で観察する際、材質によるコントラストが出にくくなる欠点があった。
このため試料を軽くウエットエッチングする場合もあるが、集束イオンビーム装置、ウエットエッチング装置、SEM等の観察装置と装置間の試料移動が多く作業能率が上がらない欠点があった。またウエットエッチングの場合薬液の温度、濃度等により著しく加工速度が変わり断面観察に適したエッチングを行うことが困難であるという欠点があった。また集束イオンビーム加工した場所をSEM観察時に見つけることが大変困難であった。
本発明の目的は、集束イオンビーム加工による断面観察において、材質の相違によるSEM像あるいはSIM像のコントラストをはっきり得る方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、集束イオンビーム加工による断面観察において、材質の相違によるコントラストのはっきりしたSEM像あるいはSIM像を容易に得る方法を提供することにある。また本発明の今一つの目的は集束イオンビーム加工を行った場所を容易に見つける方法を提供することにある。」(2頁3欄7行?32行)

(明3)「〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するために、本発明では、試料断面観察方法において、試料に集束イオンビームを照射して試料に断面を形成し、この形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して形成した断面の表面をクリーニングし、このクリーニングした断面のSEM像を観察するようにした。
また、上記目的を達成するために、本発明では、試料断面観察方法において、イオンビーム加工装置の処理室内に設置した試料に集束イオンビームを照射して試料の一部を除去加工することにより試料に断面を形成し、この試料に形成した断面の表面をエッチング装置でエッチング処理を施して断面の表面をクリーニングし、この表面をクリーニングした断面を大気に曝すことなくSEM装置でSEM像を観察するようにした。」(2頁3欄33行?47行)

(明4)「〔作用〕
集束イオンビームによる加工穴の側壁をスパッタエッチングすることにより再付着層が除去され、観察したり物質が表面にでてくる。
また観察したい物質が露出した後もエッチングを行うことで、材質によるスパッタ率の違いにより加工量が異なり断面に加工物質の違いによる段差が若干つき、観察しやすくなる。イオンアシストエッチングによりエッチングガスを用いて加工した場合には、材質の違いによるエッチング速度の差が更に大きくとれ、単なるスパッタエッチングよりも観察しやすくなる場合がある。」(2頁3欄48行?4欄8行)

(明5)「〔実施例〕
以下、本発明の実施例を第1?第10図を用いて説明する。
第1図(a)から(d)は、イオンビーム加工観察方法の実施例である。第1図は半導体LSIの断面で下層配線1、コンタクトホール2、上層配線3、層間絶縁膜4、保護膜5から成っている。例えば図示のAA断面によりコンタクトホールの状態を断面SEMで見る場合は、第1図(b)に示すように下層配線の下まで集束イオンビーム6により加工する。通常太いビームで粗加工をした後、細いビームで仕上げ加工を行い、加工穴側壁への再付着を出来るだけ少なくする方法がとられる。しかしこの方法によっても、若干の再付着層7が形成される。そこで第1図(c)に示すように、アルゴンイオンビームにより側壁をスパッタエッチする。この時、アルゴンビームが加工穴の底面にあたると底面をスパッタエッチし、そのスパッタ物が側壁に付着してしまう。そこでアルゴンイオンビームの向きは、底面に当らないように設定する。再付着層が十分とれるまでスパッタエッチした後、第1図(d)に示すように、電子ビームにより走査し、2次電子顕微鏡(SEM)像を得る。この様にすれば、層間絶縁膜と配線材料との2次電子放出率の違いによりコントラストのはっきりしたSEM像を得ることが出来る。
また第1図(c)において、エッチングガスを供給しながら、アルゴンイオンを照射すると、材質の違いによりエッチング速度が異なるため、側壁において大きな段差をつけることが出来、断面SEM観察をよりうまく行える。例えば配線材料がアルミ合金である場合、塩素系のガスをアルゴンイオンと共に供給すれば、アルミ合金のみが選択的にエッチングされ、側壁において配線部がへこみ絶縁膜部が残るような凹凸が形成される。逆に絶縁膜がSiO_(2)で出来ている場合、フッ素系のガスをアルゴンイオンと共に供給することで、絶縁膜部が選択的にエッチングされ、側壁において絶縁膜部がへこみ配線部が残るような凹凸が形成される。
・・・(略)・・・
次に第2図と第3図に示した装置を用いて試料19の加工と観察を行う方法を説明する。
試料19は試料固定片20に固定され、試料移動用プレート21に載せて、ロードロック室18から真空チャンバに導入される。ここで試料表面が絶縁物でおおわれている場合は、電子シャワを照射しながら、第1図(b)に示した加工を集束イオンビームにより行う。・・・(略)・・・
この後で第3図に示した走査電子顕微鏡に、試料19を前記の試料固定片20に固定したままステージ26にのせる。第4図に示すようにまず試料をアルゴンイオン銃の下に持っていき、第5図に示すように試料19をX軸回りに回転し、第1図(c)に示すように穴の側壁をスパッタエッチする。そして第6図に示すように試料19を電子ビームの真下に移動し、試料19を第7図に示すようにX軸周りに傾けて、第1図(d)に示したように電子ビームを照射しSEM像を観察する。このときまず試料固定片20上にある2ケの基準マークを見て、ここから先ほど測定しておいた観察場所のXY座標をもとに試料19を傾き角を勘案して容易に観察場所28を見つけることが出来る。
SEM観察した結果、また再付着物が十分除去しきれていない場合は、再度第4図に示したようにスパッタエッチを追加すれば良い。同一チャンバ内でエッチングとSEM観察とができるので、作業能率は極めて高い。
・・・(略)・・・
第2図から第9図までは、集束イオンビーム装置とSEM装置が別々であったが、第10図は集束イオンビーム鏡筒11と電子ビーム鏡筒35とアルゴンイオン銃25とが、真空チャンバ14,24にゲートバルブ30a,30bを介して区分されて、同一装置に取付けられている例である。このようにすれば、加工とSEM観察が真空を破らずに同一チャンバ14,24中でできるので、断面を見つつその断面の位置を少しづつ堀込んでいくことができ、更に作業の能率が向上する。
また第4図において、アルゴンイオン銃25と共に、先に述べたようにエッチングガスの供給装置34(第6図に示す。)を設ければ、イオン衝撃を受けたところのみエッチング(イオン・アシスト・エッチング)を行うことが出来る。」(2頁4欄9行?3頁6欄24行)

(3)本件訂正前発明について
上記摘示事項(明1)から、本件訂正前発明の解決しようとする課題は、次の課題1、2であるといえる。
(課題1)
イオンビームによりスパッタされた粒子が加工穴側壁、すなわち断面観察を行いたい面に付着する再付着現象が鮮明な観察像を得る上で問題があった。
(課題2)
再付着を防ぐイオンビーム操作方法によっても、若干の再付着層が形成されるため、断面をSIM又はSEM像で観察する際、材質によるコントラストが出にくくなる欠点があった。

また、上記摘示事項(明4)から、本件訂正前発明の作用は、次の作用1?3であるといえる。
なお、「観察したり物質」(2頁3欄50行?4欄1行)とは、「観察したい物質」を誤記したものと認められる。
(作用1)
集束イオンビームによる加工穴の側壁をスパッタエッチングすることにより再付着層が除去され、観察したい物質が表面にでてくる。
(作用2)
再付着層が除去された観察したい物質が露出した後もエッチングを行うことで、断面に加工物質の違いによる段差が若干つき、観察しやすくなる。
(作用3)
イオンアシストエッチングによりエッチングガスを用いて加工した場合には、材質の違いによるエッチング速度の差が更に大きくとれ、単なるスパッタエッチングよりも観察しやすくなる。

また、上記摘示事項(明5)の記載によれば、半導体LSIのコンタクトホールの状態を断面SEMで観察するイオンビーム加工観察方法において、通常太いビームで粗加工をした後、細いビームで仕上げ加工を行い、加工穴側壁への再付着を出来るだけ少なくするようにしても、若干の再付着層7が形成されるので、再付着層が十分とれるまで第1図(c)に示すように、アルゴンイオンビームにより側壁をスパッタエッチすること、が示されている。

ここで、上記摘示事項(明5)における「第1図(c)において、エッチングガスを供給しながら、アルゴンイオンを照射すると、材質の違いによりエッチング速度が異なるため、側壁において大きな段差をつけることが出来、断面SEM観察をよりうまく行える。」という記載について、検討する。
第1図(c)については、次のように記載されている。「通常太いビームで粗加工をした後、細いビームで仕上げ加工を行い、加工穴側壁への再付着を出来るだけ少なくする方法がとられる。しかしこの方法によっても、若干の再付着層7が形成される。そこで第1図(c)に示すように、アルゴンイオンビームにより側壁をスパッタエッチする。・・・(略)・・・再付着層が十分とれるまでスパッタエッチした後、・・・(略)・・・2次電子顕微鏡(SEM)像を得る。この様にすれば、・・・(略)・・・コントラストのはっきりしたSEM像を得ることが出来る。」

この記載によれば、第1図(c)においては、「加工穴側壁」に形成された「若干の再付着層7」を除去するために、アルゴンイオンビームによって側壁をスパッタエッチするものである。
そうすると、上記「第1図(c)において、エッチングガスを供給しながら、アルゴンイオンを照射すると、材質の違いによりエッチング速度が異なるため、側壁において大きな段差をつけることが出来、断面SEM観察をよりうまく行える。」という記載は、「加工穴側壁」に形成された「若干の再付着層7」を除去することを前提とするものであって、エッチングガスを供給しながら、アルゴンイオンを照射することによって、再付着層が十分とれるまで加工穴側壁をスパッタエッチすることを意味する記載であるといえる。

すなわち、上記課題1、2において示された、イオンビームによりスパッタされた粒子が加工穴側壁に再付着する、及び、再付着を防ぐイオンビーム操作によっても若干の再付着層が形成される、という課題、上記作用1?3において示された、集束イオンビームによる加工穴の側壁をスパッタエッチングすることにより再付着層が除去されること、及び、観察したい物質が露出した後もエッチングをすることで、断面に加工物質の違いによる段差が若干つき、観察しやすくなること、という作用、並びに上記摘示事項(明5)の実施例からみて、本件訂正前発明は、「試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して前記形成した断面の表面をクリーニングし、該クリーニングした断面のSEM像を観察する試料断面観察方法」であって、集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成した際に形成される再付着層を除去するために、形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して前記形成した断面の表面をクリーニングするものであり、「クリーニング」とは、形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理をすることであって、当該再付着層を除去すること、或いは、再付着層の除去に加えて、形成した断面に加工物質の違いによる段差を若干つけることが、当該クリーニングの目的である。
そして、当該再付着層の除去によって、本件訂正前発明は、上記作用1?3の作用効果を奏するものである。

(4)平成16年1月14日付け訂正請求書の訂正事項
当該訂正事項は、次のア?ウである。また、発明の詳細な説明についての訂正はない。
ア 訂正事項a
請求項1の「該形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して前記形成した断面の表面をクリーニングし、該クリーニングした断面のSEM像」を、
「該形成した断面の表面をイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施して前記形成した断面の表面をイオン衝撃を受けたところのみクリーニングし、該イオン・アシスト・エッチング処理によりクリーニングした断面のSEM像」と訂正する。

イ 訂正事項b
請求項2の「該試料に形成した断面の表面をエッチング装置でエッチング処理を施して前記断面の表面をクリーニングし、該表面をクリーニングした断面を大気に曝すことなく」を、
「該試料に形成した断面の表面をエッチング装置でイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施して前記断面の表面をイオン衝撃を受けたところのみクリーニングし、該イオン・アシスト・エッチング処理によりクリーニングした断面を大気に曝すことなく」と訂正する。

ウ 訂正事項c
請求項3を削除する。

(5)訂正事項aについて
訂正事項aの請求の原因について、訂正請求書には、次の記載がある。
「(4)請求の原因
"丸1"(審決注:これは、数字の1を○で囲った文字を意味する。)上記訂正事項aは、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「形成した断面の表面をスパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理を施して」において「イオンビームを用いたエッチング処理」が、明細書(特許公報)の第3頁右欄第19行?22行における「また第4図において、アルゴンイオンガス銃25と共に、先に述べたようにエッチングガスの供給装置34(第6図に示す。)を設ければ、イオン衝撃を受けたところのみエッチング(イオン・アシスト・エッチング)を行うことができる。」との記載に基いて、エッチング処理がイオン・アシスト・エッチング処理であることを限定し、さらにこのイオン・アシスト・エッチング処理をイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながら行うものであり、かつ、このイオン・アシスト・エッチング処理により、イオン衝撃を受けたところのみクリーニングすることに限定するものでありますので、上記訂正事項aは、特許法第120条の4第2項ただし書きの第1号に規定する特許請求の範囲の減縮に相当するものであると思料いたします。
上記訂正事項aは、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないと思料いたします。」

すなわち、上記訂正請求書に記載された訂正事項aは、明細書(甲第10号証)の第3頁6欄第19行?22行における「また第4図において、アルゴンイオンガス銃25と共に、先に述べたようにエッチングガスの供給装置34(第6図に示す。)を設ければ、イオン衝撃を受けたところのみエッチング(イオン・アシスト・エッチング)を行うことができる。」との記載に基いて、次の(訂a1)及び(訂a2)の訂正を行うものである。
(訂a1)「エッチング処理」について、「イオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながら」行う「イオン・アシスト・エッチング処理」であると限定する。
(訂a2)「形成した断面の表面をクリーニング」することについて、クリーニングする断面の表面を、「イオン衝撃を受けたところのみ」と限定する。

したがって、明細書の発明の詳細な説明については訂正がないことを鑑みれば、上記訂正事項aは、訂正前の特許発明のクリーニングする対象である「試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面の表面」について何ら変更するものではなく、クリーニングする目的を変更するものでもない。
なお、以下、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載を「本件特許明細書」という。

また、訂正事項aの請求の原因の記載においても、訂正事項aは、再付着層が十分とれるまで側壁をスパッタエッチすることを行うことが記載された図1(c)を根拠としている。
すなわち、訂正事項aにおいては、再付着層の除去を伴わないエッチング処理を意図するものではない。
そうすると、訂正事項aは、本件訂正前発明を減縮するものであって、本件訂正前発明の範囲を拡張するものではなく、変更するものでもない。

(6)被請求人の主張について
ア 答弁書において、次のように記載している。
(答1)本件訂正の前後の何れにおいても、また、請求項1、2の何れにおいても文言上、「クリーニング」が断面の再付着層の除去を含む処理であるとは記載されていない。」(答弁書6頁16?18行)
(答2)本件発明における「クリーニング」は、形成された断面をSEM観察する際に材質の相違によるコントラストをはっきり得る為に「エッチング処理を施して」行われるものである。(答弁書10頁10?12行)

イ 口頭審理陳述要領書において、次のように記載している。
(「(2-6)本件訂正前の『クリーニング』の意義」の項)
本件訂正前の「スパッタエッチングまたはイオンビームを用いたエッチング処理」による「クリーニング」は、集束イオンビーム照射により形成した試料の断面に再付着層が存在する状態、或いは、観察したい断面が露出した状態で行われることにより、その役割を果たすものといえる。
そして、集束イオンビーム照射により形成した試料の断面に再付着層が存在する状態で「クリーニング」を行うことにより、その再付着層を除去することができて、所期の目的の効果を奏することができる。「クリーニング」の際に再付着層が存在せず、観察したい断面が既に露出していれば、「クリーニング」により再付着層を除去するまでもない。
また、観察したい断面が露出した状態で「クリーニング」を行うことにより、材質によるスパッタ率またはエッチング速度の違いから、断面に加工物質の違いによる段差をつけることができて、所期の目的の効果を奏することができる。
再付着層除去や段差形成は、「クリーニング」することにより所期の目的を達成して効果を得る際に、途中段階の作用として奏せられるものである。
なお、本件訂正前の請求項1には文言上、「クリーニング」が断面の再付着層の除去を含む処理であるとは記載されておらず、また、「クリーニング」が断面の材質の違いによる段差の形成を含む処理であるとも記載されていない。(口頭審理陳述要領書8頁1?17行)

(「(2-7)本件訂正後の『クリーニング』の意義」の項)
以上のことから、本件訂正後の請求項1の発明における「イオン・アシスト・エッチング処理」による「クリーニング」は、
・「断面観察方法」において集束イオンビーム照射により断面を形成した後であってSEM観察の前に行われる処理であり、
・「形成した断面の表面をイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施」すことで、
・(断面に再付着層があればそれを除去でき)断面に物質の違いによる、より大きな段差を形成できるという作用により、
・「材質の相違によるSEM像のコントラストをはっきり得る」、「材質の相違によるコントラストのはっきりしたSEM像を容易に得る」という所期の目的の達成を図るものである。(口頭審理陳述要領書8頁7?27行)

ウ 被請求人の上記主張について
確かに、本件訂正の前後の何れにおいても、また、請求項1、2の何れにおいても文言上、「クリーニング」が断面の再付着層の除去を含む処理であるとは限定されていない。

しかしながら、本件特許明細書には、「通常太いビームで粗加工をした後、細いビームで仕上げ加工を行い、加工穴側壁への再付着を出来るだけ少なくする方法がとられる。しかしこの方法によっても、若干の再付着層7が形成される。そこで第1図(c)に示すように、アルゴンイオンビームにより側壁をスパッタエッチする。」(甲11の2頁4欄18?23行)と記載されているように、若干ではあっても再付着層7が形成されることを前提として、側壁をスパッタエッチするものであり、集束イオンビーム照射によって形成した断面であっても再付着層がないものに対して、クリーニング(イオン・アシスト・エッチング処理)をすることは記載されていない。
そして、上述したように、本件特許明細書の発明の解決しようとする課題、作用及び実施例の記載からみて、本件特許発明1は、再付着層が全く存在しない断面に対して、或いは、再付着層のない部位のみを選択的に対象として、クリーニング(イオン・アシスト・エッチング処理)するものまでを含むものではない。

また、確かに、第4 1(2)の摘示事項(明2)には、「本発明の目的は、集束イオンビーム加工による断面観察において、材質の相違によるSEM像あるいはSIM像のコントラストをはっきり得る方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、集束イオンビーム加工による断面観察において、材質の相違によるコントラストのはっきりしたSEM像あるいはSIM像を容易に得る方法を提供することにある。」と記載されている。
しかしながら、摘示事項(明2)における「材質の相違によるSEM像あるいはSIM像のコントラストをはっきり得る方法」及び「材質の相違によるコントラストのはっきりしたSEM像あるいはSIM像を容易に得る方法」とは、「集束イオンビーム加工による断面観察」を前提とするものであり、コントラストが出にくくなる原因が、「若干の付着層が形成される」ことなのであるから、断面に再付着層が全くない試料に対して、クリーニング(イオン・アシスト・エッチング処理)するものまでを含むものとすることはできない。

したがって、被請求人の主張は、本件の特許請求の範囲及び明細書の記載に基づかないものであって採用することができない。
よって、本件特許発明1に係る無効理由1について、請求人の主張には理由がない。

(7)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、「試料」を「イオンビーム加工装置の処理室内に設置した試料」と限定し、「該試料に断面を形成し」を「該試料の一部を除去加工することにより該試料に断面を形成し」と限定し、さらに「クリーニングした断面のSEM像を観察すること」を「クリーニングした断面を大気に曝すことなくSEM装置でSEM像を観察すること」と限定したものである。
本件訂正前の請求項2に係る発明は、本件訂正前発明に本件特許発明2における本件特許発明1に対する上記限定と同じ限定をするものである。
また、本件特許発明2に係る訂正は、訂正前の請求項2について、本件特許発明1に係る訂正と同様な訂正を行うものである。
したがって、本件特許発明1について、請求人の主張には理由がないのであるから、同様に、本件特許発明2についても、無効理由1について、請求人の主張には理由がない。

(8)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1又は本件特許発明2において、「前記断面の表面のクリーニングとSEM像との観察とを、同一の真空室内で行うこと」を限定とするものである。

本件特許発明4は、本件特許発明1及び本件特許発明2と同様に、無効理由1について、請求人の主張には理由がない。

2.無効理由2について
(1)甲第8号証について
被請求人は、甲第8号証の公知日について争う旨主張しているので、まず、最初に甲第8号証の公知日について検討する。
甲第8号証の1頁には、「MICROELECTRONIC ENGINEERING」、「Volume 11 1990」及び「ELSEVIER」との記載がある。
また、甲第8号証の2には、左上に「Volume 11, Numbers 1-4, April 1990」と記載され、その下に「MICROELECTRONIC ENGINEERING」と記載され、中央下に「Elsevier」と記載されている。
ここで、「ELSEVIER」及び「Elsevier」が同一の出版社を示すことは明らかである。
そして、Elsevier社の出版物を含め、一般に、図書の裏表紙や奥付に記載されている日付が、その図書の出版された日付を示すことは明らかである。
一方、甲第8号証の2には、中央右の枠内の「MICROELECTRONIC ENGINEERING」及び「1989 VOLUME 11. ISSUES 1 THROUGH 4」と示された部分に、「東京工業大学 2.5.24 附属図書館」と示された押印がされていることが窺える。
そうすると、甲第8号証は、1990年(平成2年)の4月に出版されたものであり、東京工業大学の附属図書館に平成2年(1990年)5月24日に受け入れされたものと認めることができる。
すなわち、甲第8号証に係る文献は、本件の出願日である平成2年9月7日より前に頒布された刊行物であると理解するのが自然である。
また、そのような理解を覆すに足りる具体的な主張、立証があるものでもない。
したがって、甲第8号証に係る文献は、本件の出願日である平成2年9月7日より前に頒布された刊行物であるとするのが相当である。
よって、以下、甲第8号証を無効理由2における、本件に係る特許出願の前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物として検討する。

(2)甲第7号証の記載内容
本件出願前に頒布された刊行物であることが明らかな「NEW APPLICATIONS OF FOCUSED ION BEAM TECHNIQUE TO FAILURE ANALYSIS AND PROCESS MONITORING OF VLSI((甲7の翻訳1頁1行?2行):集束イオンビーム技術の故障解析への新用途及びVLSIのプロセスモニタリング]。翻訳として、甲第7号証の訳文を用いた。以下、同じ。)」と題する文献には、以下の記載がある。

(甲7a)「The focused Ion Beam (FIB)has been recently utilized as a diagnostic tool for multilevel metallization VLSI [1,2,3]
The main functions of FIB are microscopic selective etching, microscopic partial deposition, and microscopy as Scanning Ion Microscope (SIM). AS a diagnostic tool, these three functions were utilized to form probing pads and to monitor the pad formation. We have applied these functions to other purposes in failure analysis and process monitoring, and have shown that the FIB technique is useful for both purposes.(訳(甲7の翻訳1頁19行?25行):集束イオンビーム(FIB)は、近時、多層メタライゼーションVLSI用診断ツールとして使用されている[1、2、3]。FIBの主な機能は、微細な選択的エッチング、微細な部分堆積、及び、走査イオン顕微鏡(SIM)としての顕微鏡法である。診断ツールとしてこれら3つの機能が利用されて、ブロービングパッドが形成され、また、パッドの形成がモニターされる。我々は、これらの機能を、故障解析及びプロセスモニタリングにおける他の目的に適用し、FIB技術が双方の目的にとって有益であることを示した。)」(43頁左欄9行?20行)

(甲7b)「The apparatus used is the SMI8100 focused ion beam system for IC development, manufactured by Seiko Instruments Inc. [1,2]. … A schematic diagram of the system is shown in Fig. 2. This system uses a gallium liquid metal ion source (LMIS). The ion optics column consists of two electrostatic lenses, beam blanker, selectable aperture, octapole stigmator, and scanning deflector. The accelerating voltage is usually 30 kV, with probe current between few pA and 6 nA. Fig. 3 shows the relationship between beam current and beam diameter. Using selectable aperture, this system can attain both of high resolution as well as high throughput. The sample stage has five axes - X, Y, Z, tilt and rotation. Ultimate vacuum level is less than 1x10^(-4 )Pascal.(訳(甲7の翻訳2頁3行?14行):使用された装置は,セイコーインスツル株式会社製のIC開発用SMI8100集束イオンビームシステムである[1,2]。・・・このシステムの複式図を図2に示す。このシステムはガリウム液体金属イオン源(LMIS)を使用する。イオン光学カラムは、二つの静電気レンズ、ビームブランカー、選択可能なアパーチャー、8極の非点収差補正装置及び走査偏向器によって構成される。加速電圧は通常、30kVであり、プローブ電流が数pAと6nAの間にある。図3は、ビーム電流とビーム径の関係を示す。選択可能なアパーチャーを使用して、このシステムは、高い解像度と高い処理能力の双方を達成することができる。試料ステージは、x、y、z、傾斜及び回転の5つの軸を有している。最高の真空のレベルは、1×10^(-4)パスカルを下回る。)」(43頁右欄3行?44頁左欄16行)

(甲7c)「The system has three functions. Firstly it can be used as SIM (scanning ion microscope). As primary gallium ions strike the sample surface, secondary electrons are emitted and detected by the detector. SIM function is very useful for in-situ observation.
The second function is maskless etching. Microsectioning is performed using this function. Fig. 4 shows the relationship between etching area and etching time.
The third function is maskless deposition (FIB assisted CVD). Fig. 5 shows the principle of this method. Using W(CO)6 as source gas, specific conductivity of deposited film is 100 - 200 μΩ・cm. Fig. 6 shows maskless deposition data. This functions useful for pre-deposition before microsectioning.
(甲7c)「(訳(甲7の翻訳2頁18行?28行):このシステムは3つの機能を有する。第一にSIM(走査イオン顕微鏡)として使用できる。一次ガリウムイオンが試料の表面に衝突すると、二次電子が放射されて、検知器により検知される。SIM機能はイン・シチュ観察にとって非常に有益である。
第二の機能はマスクなしのエッチングである。マイクロセクショニングがこの機能を使用して行われる。図4は、エッチングの領域とエッチングの時間との関係を示す。
第三の機能はマスクなしの堆積(FIBアシストCVD)である。図5はこの方法の原理を示す。W(CO)_(6)をソースガスとして使用して、堆積されたフィルムの具体的な伝導率は、100-200μΩ・cmである。図6はマスクなしの堆積のデータを示す。この機能は、マイクロセクショニング前の前堆積に有用である。)」(44頁左欄18行?右欄2行)

(甲7d)「Procedure
1) A roughly etched rectangular hole is formed at the area of interest on the VLSI chip. The etching condition being, primary beam current (ip) :2?5 nA, and the etch rate (re): 0.5?1 μm3/sec (Fig. 7 (a)(b)).
2) The side wall of the hole is then etched finely. The conditions being, ip: 400pA, and r_(e):0.1 μm3/sec (Fig. 7 (c)).
3 ) The chip is then tilted (0?60°), and the side wall (cross section) is observed utilizing the SIM function, under the conditions of being, ip:20 pA, and re: 0.005 μm3/sec. These conditions ensure no actual etching during observation. (訳(甲7の翻訳3頁3行?13行):手順
1)粗くエッチングされた長方形の穴が、VLSIチップの関係する領域に形成される.エッチングの条件は、一次ビーム電流が、(i_(p)):2?5nAであり、エッチング速度が、(r。):0.5?1μm^(3)/secである([図7(a)(b))。
2)次いで穴の側壁が微細にエッチングされる。その条件は、i_(r):400pA及びr_(e):0.1μm^(3)/secである(図7(c))。
3)次いでチップが傾けられ(0?60°)、側壁(断面)が、i_(r): 20pA 及びr_(e):0.005μm^(3)/secという条件の下で、SIM機能を利用して観察される。これらの条件により、観察の間に実際のエッチングが生じないことが確保されている。」(44頁左欄下から9行?45頁右欄5行)」

(甲7e)「Comparison to Conventional Cross-section Observation Methods
Destructive Physical Analysis (DPA) or structure analysis of semiconductor device is widely performed not only for failed devices but also for non-failed devices. In the analysis, cross-section observation is the highlight. SEM (Scanning Electron Microscope) or TEM (Transmission Electron Microscope) are widely used for this purpose.
The FIB method has many advantages over these conventional methods (see Table 1). First advantage is the ease in microscopic cross-sectioning. SEM and TEM techniques require special sample preparation. In addition, TEM also requires special preparation for operation. As a result, reliability engineers and process engineers can not use these methods as daily routines. On the other hand, the technique required for the FIB method, in both sample preparation and operation, is as easy as SEM operation, as a result engineers can use the method as a daily routine. Second advantage is the amount of time required, using FIB for analysis is much less as compared to SEM and TEM analysis: the ratios being approximately one hour to one day's work. Third advantage is the ability of performing multiple microscopic cross-sectioning simultaneously (Fig. 11). Fourth advantage is the ability of simultaneous and continuous micro-slicing (Fig. 12). Fifth advantage is being able to perform simultaneously the microsectioning and observation in the same chamber. Metallization structures can be better observed using SIM since SIM enhances the image contrast due to material differences, this being sixth advantage. Last but not least, using FIB, only the area being cross-sectioned is destroyed, as compared to the destruction of whole sample in case of SEM and TEM.(訳(甲7の翻訳4頁12行?下から3行):従来の断面観察方法との比較
半導体装置の破壊的物理分析(DPA)又は構造分析は、故障した装置のみならず、故障していない装置についても広く行われている。この分析においては、断面の観察がハイライトである。この目的でSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)が広く使用されている。FIB方法は、これらの従来の方法に対して多くの利点を有している(表1参照)。第一の利点は、微細断面形成の容易さである。SEM及びTEMの技術は、特別の試料の調製を必要とする。さらに、TEMは、動作のために特別の調製も必要とする。その結果、信頼性エンジニアとプロセスエンジニアは、これらの方法を日常業務として使用することができない。他方、試料の調製と動作において、FIB方法で必要となる技術は、SEMの動作と同程度に容易であり、その結果、エンジニアは日常業務としてこの方法を使用することができる。第二の利点は、所要時間量であり、SEM及びTEMの分析と比べると、分析にFIBを使用する場合、所要時間が非常に少なく、およそ、一日の労働に対し1時間の労働という割合である。第三の利点は、複数の微細断面形成を同時に行うことができることである(図11)。第四の利点は、マイクロスライシングを同時かつ継続的に行うことができることである(図12)。第五の利点は、同じチェンバーにおいてマイクロセクショニング及び観察を同時に行うことができることである。メタライゼーション構造はSIMを使用してより良く観察することができる。なぜなら、SIMが、材料の相違に起因する画像のコントラストを際立たせるからである。これが第六の利点である。」(46頁右欄1行?47頁右欄1行)

ここで、Fig.2には、セイコーインスツル株式会社製のIC開発用SMI8100集束イオンビームシステムにおいて、試料を設置する処理室については明示していないものの、甲第7号証には、「試料ステージは、x、y、z、傾斜及び回転の5つの軸を有している。最高の真空のレベルは、1×10^(-4)パスカルを下回る。」(摘示事項(甲7b)と記載されていることから、甲第7号証に記載されたSMI8100集束イオンビームシステムは、試料加工のための真空処理室を備えていることは明らかである。また、同図には、SIM像を観察するための二次電子像(SEI)検出器が記載されており、この二次電子像検出器は、当該真空処理室内に配置されていることも明らかである。

そして、「このシステムは3つの機能を有する。第一にSIM(走査イオン顕微鏡)として使用できる。一次ガリウムイオンが試料の表面に衝突すると、二次電子が放射されて、検知器により検知される。SIM機能はイン・シチュ観察にとって非常に有益である。
第二の機能はマスクなしのエッチングである。マイクロセクショニングがこの機能を使用して行われる。
第三の機能はマスクなしの堆積(FIBアシストCVD)である。図5はこの方法の原理を示す。W(CO)_(6)をソースガスとして使用して、堆積されたフィルムの具体的な伝導率は、100-200μΩ・cmである。」(摘示事項(甲7c))という記載、及び、Fig.2に示された「Gas Injector」が、図5では、W(CO)_(6) の分子を堆積するために用いられていることから、当該「Gas Injector」は、エッチングには用いられないものである。
そうすると、手順(摘示事項(甲7d))の「2)次いで穴の側壁が微細にエッチングされる。」という記載について、該エッチングは、手順1)において、粗くエッチングするために用いられた集束イオンビームと同様な、集束イオンビームのみを用いているものと解される。

そうすると、甲第7号証には、
「集束イオンビーム装置の真空処理室内に設置したVLSIチップに集束イオンビームを照射して、該VLSIチップの関係する領域に、粗くエッチングされた長方形の穴を形成し、
次いで、集束イオンビームを照射して、該形成した穴の側壁(断面)を微細にエッチングし、
側壁(断面)のSIM像を真空処理室内に設置した二次電子検出器で観察する試料断面観察方法。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(3)甲第8号証の記載内容
本件出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、「GAS-ASSISTED FOCUSED ION BEAM ETCHING FOR MICROFABRICATION AND INSPECTION(訳:微細加工及び検査のためのガスアシスト集束イオンビームエッチング(甲8の翻訳1頁3行))」と題する文献には、次の記載がある。

(甲8a)「1. Introduction
The use of focused ion beams (FIB) for the selective removal of material without the use of a patterned resist mask has been explored in recent years. Both pure sputtering and gas-assisted etching (GAE), where the scanned area is also bombarded by reactive gas molecules such as chlorine, have been reported [1,2]. Pure sputtering has found applications in mask and chip repair[3]and in the sectioning of integrated circuits for SEM and TEM examination [4], whilst the use of GAE has been reported so far only for the etching of laser facets [5]. This is despite the GAE technique holding several advantages over pure sputtering, which are an increase in the etch rate for the same beam current, typically 10 times for GaAs and Si; higher selectivities between some materials, such as Si or Al and SiO_(2); and the absence of redeposited material from the etching, which gives smooth sidewalls to any etched feature. GAE has been reported for Ga^(十)ions at beam currents of 20pA to 150pA, with Cl_(2) and XeF_(2) as the reactive gases [2].(訳(甲8の翻訳1頁18行?2頁4行):1.序論
パターン化レジストマスクを使用せずに、集束イオンビーム(FIB)の使用により材料を選択的に除去することが、近年研究されている。純粋なスパッタリング、及び、走査領域に塩素等の反応性ガス分子の照射も行うガスアシストエッチング(GAE)が、いずれも報告されている[1、2]。純粋なスパッタリングの用途として、マスクやチップの修理[3]、並びに、SEM及びTEM検査のための集積回路の切り出し[4]が見出されているが、他方、GAEの使用は、今までのところレーザー面のエッチングのみが報告されている[5]。GAE技術は純粋なスパッタリングに比していくつかの利点-即ち、同一のビーム電流を使用してもエッチング速度が速い(GaAs及びSiにつき通常10倍)、Si又はAlとSiO_(2)等、各種材料の間での商い選択性、エッチングからの再堆積物の不存在(これにより、エッチングされた構造に円滑な側壁を付与する)-を有しているにもかかわらず、その用途については上記報告がなされているのみである。GAEは、Cl_(2)及びXeF_(2)を反応性ガスとして、20pAから150pAのビーム電流によるGa^(+)イオンについて報告されている[2]。(409頁1?13行)

(甲8b)「The FIB etching system constructed uses gallium ions from a liquid-metal field-ion source to form a 30keV ion probe.(訳(甲8の翻訳2頁13?14行): 構築されたFIBエッチングシステムは、液体金属、電界イオン源からのガリウムイオンを使用して、30keVイオンプローブを発生する。)」

(甲8c)「The reactive gas used, for these experiments chlorine, is dispensed via a fine nozzle (?250μm in diameter) placed within 300μm of the specimen surface.(訳(甲8の翻訳2頁22?23行):使用される反応性ガスは、この実験では塩素であるが、試料表面から300μm以内に配置された微細なノズル(口径:?250μm)を通じて供給される。」

(甲8d)「A variety of materials important in semiconductor manufacture have been studied in the system, with comparison being made between pure sputtering and GAE, Table 1. Particular emphasis was placed upon etch rate, enhancement due to GAE over sputtering, and etch selectivity between materials. (訳(甲8の翻訳2頁28?31行):半導体の製造において重要な様々な材料がこのシステムにおいて研究されており、純粋なスパッタリングとGAEとの対比がなされている(表1)。とりわけ、エッチング速度、スパッタリングに対するGAEによる増進、及び各種材料の間のエッチング選択性に強調がなされた。)」

(4)甲第9号証の記載内容
甲第9号証には、「集束イオンビーム加工方法とその装置」(発明の名称)が記載され、図面とともに次の記載がある。
(甲9a)「2.特許請求の範囲
1.被加工物を集束イオンビームによって加工する際、所定時間加工する度に、加工状態をモニタすべくイオンビーム軸方向より傾いた軸方向より電子ビームによって被加工物における被加工領域とその近傍領域を走査し、該走査中検出される2次電子にもとづいてSEM像を作成することを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
2.SEM像と、集束イオンビームによる加工の際検出される2次荷電粒子にもとづくSIM像との併用によって、加工深さがモニタされつつ加工が行なわれる特許請求の範囲第1項記載の集束イオンビーム加工方法。
3.集束イオンビームによって被加工領域を走査するに際しては、電子ビーム走査面としての加工穴内側面へのスパッタ粒子の付着を防止すべく、集束イオンビームの走査速度は十分低速度にして加工が行なわれる特許請求の範囲第1項、または第2項記載の集束イオンビーム加工方法。
4.集束イオンビームによって被加工領域を走査するに際しては、電子ビーム走査面としての加工穴内側面へのスパッタ粒子の付着を防止すべく、被加工物との間でガス状化合物を生成するガス状物質を供給しつつ加工が行なわれる特許請求の範囲第1項、または第2項記載の集束イオンビーム加工方法。」(1頁左欄4行?右欄9行)

(甲9b)「〔従来の技術〕
これまでにあっては、LSIなどの特定位置における断面構造はSEM(Scanning Electron Microscope)像によって観察されるようになっている。熟練作業者によって試料の研磨と顕微鏡による試料の観察が所望の断面が出現するまで繰り返された後は、その断面がSEM像によって観察されていたものである。
一方、特開昭58-164135号公報による場合、加工手段としての集束イオンビーム発生手段と、観察手段としての電子ビーム発生手段および2次電子検出用光電子増倍管とによって、回転・移動し得るステージに載置された試料を加工し、所定のパターンの加工が完了した後は試料台を電子ビームに対し所望の角度と位置になるべく試料台を移動させ、電子ビームを照射することで試料の2次電子像が観察されるようになっている。」(2頁左下欄2?18行)

(甲9c)「〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、これまでにあっては、集束イオンビームによる加工の進行途中で試料を動かすことなく電子ビームを照射することで、試料の加工形状の変化を観察する点については配慮がされておらず、加工深さのインプロセス測定や加工層を速やかに判定し得ないという不具合がある。
また、上記公報による場合その不具合に加えLSIによく用いられる材料であるSiやSiO_(2)をイオンビームによりスパッタエッチした場合、加工穴底面からスパッタされた粒子の一部が加工穴側壁に付着し(再付着現象)てしまい、側面に現われるはずのLSIの断面構造が良好に観察され得ないものとなっている。更に、研磨によって観察に適した良好な断面が得られる場合にはまた熟練作業者の不足と相俟って、観察により多くの時間が要されるものとなっている。」(2頁左下欄19行?右下欄15行)

(甲9d)「〔課題を解決するための手段〕
上記目的は、集束イオンビームによって加工を所定時間行なう度に、試料あるいは被加工物における加工領域とその近傍に対し、イオンビーム軸方向とは軸方向を異にした電子ビームを照射しSEM像を得ることで達成される。集束イオンビーム発生手段や電子ビーム発生手段の他、2次荷電粒子検出手段を設けてSEM像、更にはSIM像をモニタに表示せしめるべく構成することで達成される。
〔作用〕
ビーム走査切替制御手段による制御下に、集束イオンビーム発生手段からの集束イオン、ビームと、電子ビーム発生手段からの電子ビームとが交互に試料あるいは被加工物を照射、走査するようにして、試料あるいは被加工物を加工しつつその加工状態をモニタしようというものである。集束イオンビームによる加工中2次荷電粒子検出手段によって検出された2次荷電粒子(例えば2次電子)によってはSIM像が、また、電子ビームによって照射、走査が行なわれている間、2次荷電粒子検出手段によって検出された2次電子によってはSEM像がモニタに表示されることから、それら像の表示上での相対的位置関係や表示倍率を考慮することによっては、その加工時点での加工状態が速やかに知れるものである。また、集束イオンビームを低速度で走査したり、あるいは加工領域にガスを吹き付はスパッタ粒子をガス化する場合は、加工穴側面へのスパッタ粒子の付着を防止し得、したがって、その側面からは良好なSEM像が得られることで、断面構造が良好に把握され得るものである。」(3頁左上欄4行?右上欄15行)

(甲9e)「一方、これとは別に第1図などに示すように、メインチャンバ1内にガス吹付けノズル90を設けるようにしてもよい。その際イオン源14、イオン光学系15をガスから保護すべくオリフィス91によりイオンビーム鏡筒10はメインチャンバ1とへだてられており、イオンビーム鏡筒10の内部は真空ポンプにより差動排気されるようになっている。
第21図に示すように、イオンビーム20による加工において、SiO_(2)加工に対してはSF_(6)、XeF等フッ素を含むガス91を、また、Al加工に対してはCl_(2)、BCり_(3)等塩素を含むガスをガス吹付けノズル90より吹付けするようにすれば、スパッタ粒子は化学反応によってそれぞれフッ化シリコン、塩化アルミといった気体92に変化することになる。このため側壁41へのスパッタ粒子の再付着は殆ど発生せず、良好な断面を確保することが可能となる。」(6頁右下欄9行?7頁左上欄5行)

(5)甲第10号証の記載内容
甲第10号証には、「微細素子の断面観察装置」(発明の名称)が記載され、図面とともに次の記載がある。
(甲10a)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、LSIなどの微細構造の素子などを観察する装置に係り、特に形成された微細素子の断面形状を観察するのに好適な装置に関する。」(1頁右下欄下から3行から末行)

(甲10b)「真空室1の一部には、微小加工手段として集束イオンビーム加工ユニット7、加工断面観察手段として走査型電子顕微鏡ユニット8が取付けられている。」(3頁左上欄18行?右上欄1行)

(甲10c)「以上本実施例によれば、集束イオンビーム加工により試料の任意の所望場所に微細な断面を形成できるので、この微細断面に対して走査電子顕微鏡像、断面構成元素の同定、あるいは光学顕微鏡像を手軽に得ることができる。」(4頁左下欄8?12行)

(6)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「VLSIチップ」及び「穴の側壁(断面)」は、本件特許発明1の「試料」及び「断面」に相当し、両者は、「試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面のSIM像を観察する試料断面観察方法」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。

(相違点1)
試料に集束イオンビームを照射して該試料に断面を形成し、該形成した断面について、本件特許発明1では、「該形成した断面の表面をイオン・アシスト・エッチング用のガスを供給しながらイオンビームを用いてイオン・アシスト・エッチング処理を施して前記形成した断面の表面をイオン衝撃を受けたところのみクリーニングし」ているのに対し、引用発明1では、形成した穴の側壁(断面)を微細にエッチングしているものの、上記のような特定はされていない点。

(相違点2)
断面の観察について、本件特許発明1では、「該イオン・アシスト・エッチング処理によりクリーニングした断面のSEM像を観察する」のに対し、引用発明1では、該形成した断面のSIM像を観察する点。

次に、相違点について検討する。
(相違点1について)
無効理由1における当審の判断(第4 1)で述べたように、本件特許発明1の「クリーニング」とは、集束イオンビームによる加工で生じた「再付着層の除去」を行うこと、或いは、再付着層の除去に加えて、形成した断面に加工物質の違いによる段差を若干つけることを前提とするものである。
そして、本件特許明細書には、「通常太いビームで粗加工をした後、細いビームで仕上げ加工を行い、加工穴側壁への再付着を出来るだけ少なくする方法がとられる。しかしこの方法によっても、若干の再付着層7が形成される。そこで第1図(c)に示すように、アルゴンイオンビームにより側壁をスパッタエッチする。」(甲11の2頁4欄18?23行)と説明されているように、粗加工に続いて行われる仕上げ加工のような加工は、本件特許発明の「クリーニング」に該当しないことも明らかである。
したがって、引用発明1の「形成した穴の側壁(断面)を微細にエッチング」することは、本件特許発明1の「クリーニング」に対応するものではない。

一方、甲第7号証には、集束イオンビームによる加工で、再付着層が生じることについては記載がなく、再付着層を除去することの記載もない。

そして、本件特許発明1では、「クリーニング」によって、集束イオンビームによる加工で生じた再付着層の除去が行われ、集束イオンビームによる加工穴の側壁をスパッタエッチングすることにより再付着層が除去され、観察したい物質が表面にでてくる、という、顕著な作用効果を奏するものである。

よって、相違点1に係る構成が設計的事項であるとすることはできない。

また、甲第8号証は、集束イオンビームの使用により材料を選択的に除去する際に、操作領域に塩素等の反応性ガス分子の照射を行うガスアシストエッチング(GAE)について記載され、純粋なスパッタリングとGAEとの対比では、エッチング速度、スパッタリングに対するGAEによる増進、各種材料の間のエッチング選択性に強調がなされたこと、及び、エッチングからの再堆積物の不存在(これにより、エッチングされた構造に円滑な側壁を付与する)については記載されているものの、集束イオンビームによる加工で生じた「再付着層の除去」を行うことは記載も示唆もされていない。

甲第9号証は、加工手段としての集束イオンビーム発生手段と、観察手段としての電子ビーム発生手段および2次電子検出用光電子増倍管とによって、回転・移動し得るステージに載置された試料を加工し、所定のパターンの加工が完了した後は試料台を電子ビームに対し所望の角度と位置になるべく試料台を移動させ、電子ビームを照射することで試料の2次電子像が観察されるようになっているものにおいて、LSIによく用いられる材料であるSiやSiO_(2)をイオンビームによりスパッタエッチした場合、加工穴底面からスパッタされた粒子の一部が加工穴側壁に付着し(再付着現象)てしまい、側面に現われるはずのLSIの断面構造が良好に観察され得ないものとなっている、という本件特許発明1の解決しようとする課題は示されているものの、甲第9号証に記載されたものでは、集束イオンビームによって加工を所定時間行なう度に、試料あるいは被加工物における加工領域とその近傍に対し、イオンビーム軸方向とは軸方向を異にした電子ビームを照射しSEM像を得るようにしたものであり、再付着層の除去をするものではない。
また、メインチャンバ1内にガス吹付けノズル90を設けるようにしたものでは、イオンビーム20による加工において、SiO_(2)加工に対してはSF_(6)、XeF等フッ素を含むガス91を、また、Al加工に対してはCl_(2)、BCり_(3)等塩素を含むガスをガス吹付けノズル90より吹付けするようにすれば、スパッタ粒子は化学反応によってそれぞれフッ化シリコン、塩化アルミといった気体92に変化し、このため側壁41へのスパッタ粒子の再付着は殆ど発生せず、良好な断面を確保することが可能となる、すなわち、再付着層を発生させないようにするというものであり、再付着層の除去をするものではない。

甲第10号証は、LSI等の微細構造の素子を観察する装置において、集束イオンビーム加工により、試料の任意の所望場所に微細な断面を形成して、この微細断面に対して、走査電子顕微鏡像を得ることは開示されているものの、集束イオンビーム加工により再付着層が生じること、及び再付着層の除去を行うことは開示されていない。

そうすると、集束イオンビームによる加工で生じた「再付着層の除去」をイオン・アシスト・エッチング処理で行うことが本件の特許出願前に周知であるとは認めることができない。

また、引用発明1の形成した穴の側壁(断面)を微細にエッチングすることは、再付着層の除去を目的としたものではないから、引用発明1の形成した穴の側壁(断面)を微細にエッチングすることが、本件特許発明1のクリーニングに相当するものということはできない。
さらに、引用発明1に、甲第8?10号証に記載された技術を適用する動機付けがない。
したがって、相違点1に係る事項は、甲第8?10号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得るものであるとはいえない。

(相違点2について)
甲第7号証には、「従来の断面観察方法との比較 ・・・(略)・・・
半導体装置の破壊的物理分析(DPA)又は構造分析は、故障した装置のみならず、故障していない装置についても広く行われている。この分析においては、断面の観察がハイライトである。この目的でSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)が広く使用されている。」と記載されており、半導体装置の破壊的物理分析(DPA)又は構造分析において、SEMを用いることが周知であることは記載されている。
一方、甲第7号証には、「FIB方法は、これらの従来の方法に対して多くの利点を有している(表1参照)。第一の利点は、微細断面形成の容易さである。SEM及びTEMの技術は、特別の試料の調製を必要とする。・・・(略)・・・第五の利点は、同じチェンバーにおいてマイクロセクショニング及び観察を同時に行うことができることである。メタライゼーション構造はSIMを使用してより良く観察することができる。なぜなら、SIMが、材料の相違に起因する画像のコントラストを際立たせるからである。これが第六の利点である。」と記載され、「メタライゼーション構造はSIMを使用してより良く観察することができる」ことが記載されている。
また、甲第7号証には、「微細構造は、特別の技術を必要とし、かつ多くの時間を必要とするTEM(透過型電子顕微鏡)によってのみ観察されてきた。それゆえ、信頼性エンジニアとプロセスエンジニアの間では、より簡潔で時間を要しない技術が所望されていた。我々は、SIM機能がこの所望に対する回答であることを見出した。SIMのこの用途における最も重要な特徴は、各粒子の結晶方位を反映する強いコントラストである。我々は、SIMの結晶コントラストはTEMの結晶コントラストよりも強いことを確認した。」と記載され、微細構造の観察には、強い結晶コントラストを示すSIMが用いられることが記載されている。
さらに、甲第7号証には、「SEMとの比較:SEM画像は、アルミニウムの微細構造を観察するために使用されることがある[例えば、8]。しかしながら、SEM画像がアルミニウムの真の微細構造を示すという証拠はない。というのは、SEMの像は、主に表面の形態又は形状を明らかにするものであるからである。図15は、SIM画像とSEM画像の間の相違が描写された、二つの例を示す。これらの例は、SEMを微細構造の分析ツールとして使用すべきでないことを明らかに示すものである。」と記載され、アルミニウムの微細構造を観察するには、SEMを使用すべきではないことが示されている。
すなわち、甲第8?10号証に集束イオンビームを用いて試料に断面を作成し、該断面をSEMを用いて観察することが示され、SEM自体が周知であるとしても、甲第7号証には、SIMに代えてSEMを積極的に用いることを示唆する記載はなく、さらに、アルミニウムの微細構造を観察するにはSEMは使用すべきではない、とも記載されているのであるから、アルミニウムの微細構造を観察する引用発明1において、SIMに代えて、SEMを用いることの動機付けはない。

したがって、相違点2に係る事項は、引用発明1、甲第8号証?甲第10号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

よって、本件特許発明1は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、引用発明1、甲第8号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7)本件特許発明2、4について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、「試料」を「イオンビーム加工装置の処理室内に設置した試料」と限定し、「該試料に断面を形成し」を「該試料量の一部を除去加工することにより該試料に断面を形成し」と限定し、さらに「クリーニングした断面のSEM像を観察すること」を「クリーニングした断面を大気に曝すことなくSEM装置でSEM像を観察すること」と限定したものである。
また、本件特許発明4は、本件特許発明1又は本件特許発明2において、「前記断面の表面のクリーニングとSEM像との観察とを、同一の真空室内で行うこと」を限定とするものである。
そして、本件特許発明1が引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、しかも、引用発明1、甲第8号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないのであるから、本件特許発明2及び本件特許発明4は、同様な理由から、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、しかも、引用発明1、甲第8号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(8)請求人の口頭審理陳述要領書における主張について
請求人は、口頭審理陳述要領書において、次のように記載している。
「本件特許出願当時、FIB加工において再付着現象が生じ、それによって断面構造が良好に観察され得ないことは周知の課題であった。・・・(略)・・・引用発明1においても、上記課題は存在するのである。」(口頭審理陳述要領書4頁15?20行)
「従来の純粋なスパッタリングに比べて、ガスアシストエッチング(GAE)では、各種材料の間での高い選択性、エッチングからの再堆積物の不存在という利点が存在することが明記されている。」
「甲第8号証には、・・・(略)・・・SEM観察用の断面加工にガスアシストエッチング(GAE)を採用することの明確な示唆が存在するのである。」(口頭審理陳述要領書4頁21?28行)
「よって、FIB装置を用いてSEM断面を形成する最終段階において、各種材料の間での高い選択性を持たせ、工ツチングからの再堆積物を存在させないために、周知のガスアシストエッチング(GAE)を採用することは当業者にとって容易に想到できる事項なのである。」(口頭審理陳述要領書5頁6?10行)

しかしながら、甲第7号証には、「この分析においては、断面の観察がハイライトである。この目的でSEM(走査型電子顕微鏡)又はTEM(透過型電子顕微鏡)が広く使用されている。FIB方法は、これらの従来の方法に対して多くの利点を有している(表1参照)。第一の利点は、微細断面形成の容易さである。・・・(略)・・・SEM及びTEMの分析と比べると、分析にFIBを使用する場合、所要時間が非常に少なく、およそ、一日の労働に対し1時間の労働という割合である。・・・(略)・・・メタライゼーション構造はSIMを使用してより良く観察することができる。なぜなら、SIMが、材料の相違に起因する画像のコントラストを際立たせるからである。」(甲7の翻訳4頁14?32行)と記載されているように、FIBを使用したメタライゼーション構造の観察では、SEMではなくSIMの分析によって、材料の相違に起因するコントラストが際立った画像を得られることが記載されており、仮に、引用発明1において、FIB加工による再付着現象が生じるとしても、甲第7号証には、FIB加工において再付着現象が生じ、それによって断面構造が良好に観察され得ないという課題が記載されている、或いは、示唆されているとは認められない。

したがって、FIB加工において再付着現象が生じ、それによって断面構造が良好に観察され得ないという課題が周知であって、SEM観察用の断面加工にガスアシストエッチングを採用することが周知であったとしても、当該課題が存在せず、SIMによって観察を行う引用発明1において、ガスアシストエッチングを採用する動機付けを見出すことはできない。

4.まとめ
以上で検討したとおり、請求人の主張する無効理由1及び2は、いずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1、2及び4の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-04-19 
出願番号 特願平2-235545
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 川端 修
松岡 美和
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3216881号(P3216881)
発明の名称 試料断面観察方法  
代理人 永島 孝明  
代理人 磯田 志郎  
代理人 城戸 博兒  
代理人 阿部 寛  
代理人 安國 忠彦  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 城戸 博兒  
代理人 荒井 寿王  
代理人 阿部 寛  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 荒井 寿王  
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