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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E02F
審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  E02F
管理番号 1263187
審判番号 無効2011-800022  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-02-08 
確定日 2012-08-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2128294号発明「法面等の加工機械」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許
本件特許第2128294号は、平成3年10月28日に出願され、平成5年6月8日付けで手続補正がなされ、平成7年6月12日付けで公告決定がなされ、平成8年1月30日に異議が申し立てられ、同年11月5日付けで手続補正がなされ、同年同月14日に異議が取り下げられ、平成9年1月20日付けで特許査定がなされ、同年4月18日に特許権の設定登録がされた(その明細書を「本件特許明細書」といい、本件特許明細書及び図面を併せて、「本件特許明細書等」という。)。

2 本件審判請求
請求人 ノーベル技研工業株式会社は、平成23年2月8日に、本件特許第2128294号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めて、本件審判を請求した。

審判の手続の経緯は、以下のとおりである(日付は、書類に記載された日付を記載した。)。

平成23年 2月 8日 審判請求書・甲第1?7号証提出
平成23年 4月26日 答弁書・訂正請求書
平成23年 6月15日 審判事件弁駁書・甲第8号証提出
(なお、甲第9号証は、取り下げられた。)
平成23年 8月 2日 通知書
平成23年 9月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成23年 9月14日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成23年 9月28日 口頭審理
平成23年10月11日 上申書(被請求人)
平成23年10月12日 上申書(請求人)
平成23年10月18日 審理終結通知
平成23年10月19日 上申書(請求人)

第2 審判請求の概要・被請求人の答弁等
1 請求人の主張の概要
請求人が主張する無効理由は、概略、以下のとおりである。

(1)設定登録時の請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)平成23年4月26日付け訂正後の請求項2に係る発明について
ア 特許法第36条第6項第2号違反
(ア)訂正後の請求項2における「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」との記載は不明確である。
(イ)訂正後の請求項2における「急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械」との記載も不明確である。
イ 特許法第29条第2項違反
訂正後の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明を主引用例とし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人提示の証拠方法
請求人が本件審判請求にあたり提示した証拠方法は、以下のとおりである。

平成23年2月8日付けの審判請求書に添付されたもの
甲第1号証:実願平1-33681号(実開平2-125062号)の
マイクロフィルム
甲第2号証:実公昭48-17479号公報
甲第3号証:特開昭61-176703号公報
甲第4号証:特開平2-144415公報
甲第5号証:実公昭46-5886号公報
甲第6号証:実公昭35-7654号公報
甲第7号証:実公昭45-32029号公報

平成23年6月15日付け審判事件弁駁書に添付されたもの
甲第8号証:実願昭59-104120号(実開昭61-19060号) のマイクロフィルム

3 被請求人 岡本 俊仁の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をした。

第3 訂正請求の内容
平成23年4月26日付けの訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件の特許明細書を請求書に添付された訂正明細書(以下「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正内容は、次のとおりである(下線は審決で付した。以下同様。)。

訂正事項:
特許請求の範囲の請求項2について、
「車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられた作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体あるいはベース板の一方に取付けられた該車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチあるいは一対のウインチのワイヤーが取付けられる一対のワイヤー取付け金具とからなることを特徴とする法面等の加工機械。」を、
「車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ、前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする、急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械。」と訂正する。

第4 訂正の適否
1 訂正目的について
上記訂正事項は、請求項2に係る発明の「走行装置」について「無限軌道」と限定し、「作業台」について「前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する」と限定し、「一対のウインチ」の車体あるいはベース板の一方への取付位置について「両側部に互いに距離を置いて」と限定し、「一対のウインチ」について「車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」と限定し、「法面等の加工機械」について「急勾配の地形部分に使用される」と限定したものであるから、いずれも、特許請求の範囲を減縮することを目的としているものである。

2 新規事項、実質変更について
上記訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第5 本件訂正発明
上記したように、本件訂正は認められるから、本件請求項2に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。
「車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ、前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする、急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械。」

第6 甲各号証
1 甲第1号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第1号証(実願平1-33681号(実開平2-125062号)のマイクロフィルム)には、以下の記載が図とともにある。
(1)「2.実用新案登録請求の範囲
(1) 作業アタッチメントを装着した上部旋回体を下部走行体に対して傾動可能に連設した油圧ショベルにおいて、上記下部走行体の上部側前後方向位置にそれぞれヒンジ用ボス部材と傾動シリンダ取付用ブラケット部材を設け、また上部旋回体の下面に装着している旋回軸受の下面側と、下部走行体の上面側との間にフレーム体を設け、そのフレーム体の基板上面は旋回軸受の下面に固定して取付け、また上記基板下面にヒンジ用ブラケット部材と傾動シリンダ取付用ブラケット部材を垂設し、上記フレーム体下面側のヒンジ用ブラケット部材を下部走行体のヒンジ用ボス部材に回動自在に枢支し、さらにフレーム体と下部走行体のそれぞれ傾動シリンダ取付用ブラケット部材を傾動シリンダを介して連結し、その傾動シリンダの作動により上部旋回体を下部走行体の前後方向に向けて傾動させるように構成したことを特徴とする油圧ショベル。」(1頁4行?2頁2行)

(2)「産業上の利用分野
この考案は、上部旋回体を下部走行体に対して軽装させることのできる油圧ショベルの傾動機構に関する。」(2頁4行?同頁7行)

(3)「この考案の解決しようとする課題
従来技術の傾動機構をそなえた油圧ショベルでは、下部走行体に対して上部旋回体を左右横方向に傾動させることができる。しかし、油圧ショベルが傾斜面を昇降走行しながら作業を行う場合に、下部走行体の前後方向に向けて、上部旋回体を前後たて方向に傾動させることはできなかった。それで、上記油圧ショベルが傾斜面に沿って昇降走行を行うと、運転者は傾斜状態となって作業困難となるとともに、エンジンが設置許容傾斜角度をこえて回転不能になったり旋回作動が困難になったりした。したがって上記理由により、油圧ショベルがたとえば大規模な法面に沿って昇降走行を行いながら、法面整成作業を行うことはできなかった。」(3頁5行?同頁19行)

(4)「この考案は上記の課題を解決し、上部旋回体を下部走行体の前後方向に傾動できるようにした油圧ショベルを提供することを目的とする。」(4頁8行?同頁10行)

(5)「課題を解決するための手段
上記の課題を解決するために講じたこの考案の手段は、
イ.下部走行体の上部側前後方向位置にそれぞれヒンジ用ボス部材と傾動シリンダ取付用ブラケット部材を設け、
ロ.また、上部旋回体の下面に装着している旋回軸受の下面側と、下部走行体の上面側との間にフレーム体を設け、そのフレーム体の基板上面は旋回軸受の下面に固定して取付け、また上記基板下面にヒンジ用ブラケット部材と傾動シリンダ取付用ブラケット部材を垂設し、
ハ.上記フレーム体下面側のヒンジ用ブラケット部材を下部走行体のヒンジ用ボス部材に回動自在に枢支し、さらにフレーム体と下部走行体のそれぞれ傾動シリンダ取付用ブラケット部材を傾動シリンダを介して連結し、
ニ.上記傾動シリンダの作動により、上部旋回体を下部走行体の前後方向に向けて傾動させるように構成した。」(4頁11行?5頁10行)

(6)「作 用
イ.下部走行体と上部旋回体のそれぞれ前部側を同一方向に一致させた状態にして傾動シリンダを伸縮作動させると、上部旋回体は下部走行体の前後方向に向けて傾動する。
ロ.上記イ項により油圧ショベルが傾斜面に沿って昇降走行を行う場合に、上部旋回体を水平状態に調整操作して作業を行うことができる。」(5頁11行?同頁18行)

(7)「第1図は、法面整成作業を行っているこの考案にかかる油圧ショベル14の側面図である。図において、15は下部走行体、16は旋回軸受、17は上部旋回体、18は上部旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント、13’は作業アタッチメント18の先端部に取付けた法面バケット、19はフレーム体、20は傾動シリンダ、θは法面ロの傾斜角度である。」(6頁1行?同頁8行)

(8)「次に、この考案にかかる油圧ショベル14の構成を第1図?第3図について述べる。下部走行体15の上部側前後方向位置にそれぞれヒンジ用ボス部材21と傾動シリンダ取付用ブラケット部材22を設けた。また、上部旋回体17の下面に装着している旋回軸受16の下面側と、下部走行体15の上面側との間にフレーム体19を設け、そのフレーム体19の基板23上面は旋回軸受16の下面に固定して取付け、また上記基板23下面にヒンジ用ブラケット部材24と傾動シリンダ取付用ブラケット部材25を垂設した。それから上記フレーム体19下面側のヒンジ用ブラケット部材24を下部走行体15のヒンジ用ボス部材21に、ピン26にて回動自在に枢支し、さらにフレーム体19と下部走行体15のそれぞれ傾動シリンダ取付用ブラケット部材25,22を傾動シリンダを20を介して連結した。そして上記傾動シリンダ20を作動操作することにより、上部旋回体17を下部走行体15の前後方向に向けて、傾動調整できるように構成した。
次に、この考案にかかる油圧ショベル14の作用機能について述べる。下部走行体15と上部旋回体17のそれぞれ前部側を同一方向に一致させた状態にして傾動シリンダ20を伸縮作動させると、上部旋回体17は上記ピン26の軸心を傾動支点として、下部走行体15の前後方向に向けて傾動する。そして、油圧ショベル14の下部走行体15が第1図のように法面ロに沿って昇降移動するとき、上部旋回体17を水平状態に調整操作して法面整成作業などを行うことができる。」(6頁19行?8頁8行)

(9)「しかしこの考案にかかる油圧ショベルでは、上部旋回体の下面に装着している旋回軸受の下面側と、下部走行体の上面側との間にフレーム体を介設し、傾動シリンダの作動により上部旋回体を下部走行体の前後方向に向けて傾動調整できるように構成した。それにより、油圧ショベルが法面に沿って昇降走行しながら法面整成作業などを行うとき、上部旋回体を水平状態に調整操作することができる。運転者は正常な状態の姿勢で法面整成作業などを行うことができるとともに、エンジンや旋回ベアリングなど機器を水平状態に保持できる。
したがって、この考案にかかる油圧ショベルでは、下部走行体の前進後退方向に対して上部旋回体を傾動操作できるので、法面に沿って走行しながら行うたとえば法面整成作業、法面昇降作業などの作業性、安定性を向上させる。」(9頁4行?同頁20行)

(10)第1図ないし第5図から、下部走行体2,15は無限軌道を備えたものであることが見て取れる。

(11)第3図から、フレーム体19の基板23下面に垂設された、ヒンジ用ブラケット部材24及び傾動シリンダ取付用ブラケット部材25は、それぞれ前方向位置及び後方向位置に設けられたものであることが見て取れる。

(12)上記記載及び図面を含む甲第1号証全体の記載から、甲第1号証には、以下の発明が開示されていると認められる。
「従来技術の傾動機構をそなえた油圧ショベルでは、下部走行体に対して上部旋回体を左右横方向に傾動させることができるが、油圧ショベルが傾斜面を昇降走行しながら作業を行う場合に、下部走行体の前後方向に向けて、上部旋回体を前後たて方向に傾動させることはできなかったため、上記油圧ショベルが傾斜面に沿って昇降走行を行うと、運転者は傾斜状態となって作業困難となるとともに、エンジンが設置許容傾斜角度をこえて回転不能になったり旋回作動が困難になったりしたことから、油圧ショベルがたとえば大規模な法面に沿って昇降走行を行いながら、法面整成作業を行うことはできなかったので、
上部旋回体を下部走行体の前後方向に傾動できるようにした油圧ショベルを提供することを目的として、
無限軌道を備えた下部走行体15、旋回軸受16、上部旋回体17、前記上部旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント18、前記作業アタッチメント18の先端部に取付けた法面バケット13’、フレーム体19及び傾動シリンダ20を備えた油圧ショベル14において、
前記下部走行体15の上部側前後方向位置にそれぞれヒンジ用ボス部材21と傾動シリンダ取付用ブラケット部材22を設け、前記上部旋回体17の下面に装着している前記旋回軸受16の下面側と、前記下部走行体15の上面側との間に前記フレーム体19を設け、そのフレーム体19の基板23上面は旋回軸受16の下面に固定して取付け、また前記基板23下面の前後方向位置にそれぞれヒンジ用ブラケット部材24と傾動シリンダ取付用ブラケット部材25を垂設し、それから前記ヒンジ用ブラケット部材24を前記ヒンジ用ボス部材21に、ピン26にて回動自在に枢支し、さらに前記傾動シリンダ取付用ブラケット部材25及び22を前記傾動シリンダ20を介して連結し、そして前記傾動シリンダ20を作動操作することにより、上部旋回体17を下部走行体15の前後方向に向けて、傾動調整できるように構成し、
前記下部走行体15と前記上部旋回体17のそれぞれ前部側を同一方向に一致させた状態にして前記傾動シリンダ20を伸縮作動させると、前記上部旋回体17は上記ピン26の軸心を傾動支点として、下部走行体15の前後方向に向けて傾動し、前記油圧ショベル14の前記下部走行体15が法面ロに沿って昇降移動するとき、前記上部旋回体17を水平状態に調整操作して法面整成作業などを行うことができる油圧ショベル。」(以下「甲第1号証発明」という。)

2 甲第2号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第2号証(実公昭48-17479号公報)には、以下の記載がある。
(1)「本考案はダム、スピードウエー等の斜面を舗装するアスフアルトフイニツシヤーの正面に新規に油圧装置を附設して、これと頂上に据付けたウインチの2個のドラムから繰り出されたワイヤーとを接続することにより、左右のドラムで異つた▲手偏に卷▼(以下「捲」と記載する。)揚力が発生した際該油圧装置によって自動的にバランスをとり、アスフアルトフイニツシヤーをして常に左右の平均した捲揚力で直進させ乍ら舗設させようとするもので、其の目的とするところは斜面を舗設中のアスフアルトフイニツシヤーを不自然に左右に曲げることなく、常に正しい進行方向で直進せしめて作業能率の向上と出来映の良好なる舗装面を得ることにある。」(1頁1欄17行?同頁同欄29行)
(2)「之を実施例図について説明すれば1は斜面を舗設しているアスフアルトフイニツシヤー、2は頂上に据付けたウインチであって該ウインチには2個のドラム3,3’が取付けられており、該ドラムからは各々捲揚用ワイヤー4,4’が繰り出され、其の先端に適当な鉤5,5’が設けられている。6,6’はアスフアルトフイニツシヤー1の正面に螺着又は溶着等の方法で取付けた左右の取付基板であつて、該取付基板6,6’には各々油圧シリンダー7,7’が固設せられている。8,8’はパツキングである。9は左右の油圧シリンダー7,7’の内側基部に架設せる油送管であつて、これと対称をなす油送管9’は油圧シリンダー7,7’の内側先端部に架設し、左右の油圧シリンダー7,7’へ油、水空気等流体の流通をおこなわしめる。10及び10’は左右の油圧シリンダー7,7’に各々出没自在に取付けたピストンであつて該ピストン10,10’は前記したドラムの捲揚力と油圧シリンダーに収容せる流体の圧力との相関関係により出没作動をおこない、更にピストン10,10’の先端に掛止具11,11’を突設してワイヤー4,4’の鈎5,5’を各々掛止める。」(1頁1欄30行?同頁2欄14行)
(3)「本考案の如き油圧装置を設けていなかつた従来では、左右のドラムの回転速度の変化等に伴つて左右のワイヤーに対する捲揚力に差が生じた場合はアスフアルトフイニツシヤーが不自然に進行方向を変え、此の為作業能率を低下させ其の上良好なる出来映の舗装面を得ることが至難であつた。」(1頁2欄15行?同頁同欄20行)

3 甲第3号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第3号証(特開昭61-176703号公報)には、以下の記載がある。
(1)「舵取り手段を有する処理用作業車を法面に沿って巻上げ巻下げする2台の同型のウインチを巻上機上の左右に搭載し、各ウインチに巻かれるワイヤロープを前記作業車の前部の牽引フレームの左右の端部にそれぞれ接続し、前記各ウインチの駆動用油圧モータの油圧回路には、両油圧モータに供給する作動油の流量を等流量とする分流装置を設けると共に、該分流装置と前記油圧モータとの間の各油圧モータ対応の回路間に、両回路間を連通、遮断する2位置切換弁を設けたことを特徴とする法面処理用作業車の巻上装置。」(特許請求の範囲第1項)
(2)「本発明の特徴となる部分は、アスファルトフィニッシャ8の巻上装置であり、本体7上の左右に搭載されるウインチ9A,9Bは同型の油圧モータ9a,9bとドラム9c,9dをそれぞれ有するもので、各ウインチ9A,9Bにそれぞれ巻取り繰出しされるワイヤロープ19a,19bを、アスファルトフィニッシャ8の前部に設けた牽引フレーム20の左右の端部にそれぞれ接続する。」(2頁右下欄4行?同頁同欄11行)
(3)「この装置において、法面1の舗装を行なう場合は、運転室18内のオペレータがウインチ9A,9B,11を運転することにより、アスファルトフィニッシャ8をゆっくりと巻上げて舗装すると共に、バギ車10をアスファルト供給車(図示せず)とアスファルトフィニッシャ8との間で往復させてアスファルトフィニッシャ8にアスファルトを供給しながら作業を行なう。この場合、運転室18のオペレータは、油圧ポンプ22A,22Bのうちの1台を作動させると同時に、油圧モータ9a,9bの制御部を低速側に切換え、方向切換弁25を右位置に切換え、かつ2位置切換弁33をa位置(連通位置)に切換える。これにより、油圧ポンプ22A、22Bのいずれかより吐出した油圧は管路31、管路31A,31Bおよびカウンタバランス弁32A,32Bのチェック弁34A,34Bをそれぞれ通って油圧モータ9a,9bに供給され、これらの油圧モータ9a,9bを出た作動油は管路30A,30Bを通り、油流量の多い方の管路30A(または30B)の油が2位置切換弁33を通して他方の管路30B(または30A)に流れ込み、その後、分流装置26、管路30、方向切換弁25を通ってタンク29に戻る。従って、油圧モータ9a,9bに流れる流量を変えることができ、アスファルトフィニッシャ8上のオペレータはアスファルトフィニッシャ8の向きを変えることができ、アスファルトの舗装ずみの領域と、未舗装領域との間の境界線に沿って上昇方向に移動させることができる。」(3頁左上欄18行?同頁左下欄7行)

4 甲第4号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第4号証(特開平2-144415号公報)には、以下の記載がある。
(1)「第5図および第6図は破砕装置を現場で動作させている場合の状況を説明するそれぞれ側面図および正面図である。図において(12a)(12b)(12c)は台車(1)を補強面(4)上で移動させるためのワイヤーで、補強面(4)の上方にそれぞれアンカーにより地面に固着された基台(13a)(13b)(13c)に取付けられたウインチに巻回されている。(14)は後述する可搬式の操作盤(15)は補強面(4)の下方に位置する道路面である。
第7図は上記のワイヤー(12a)(12b)(12c)により台車(1)を牽引する場合の各ワイヤー(12)と台車(1)との連結構造を示す説明図である。図において、主ワイヤー(12a)は台車(1)のベース(2)に設けられた固定連結具(9a)に係止されており主として台車(1)の重量を支え、台車(1)の昇降移動を受持つ。左ワイヤー(12b)および右ワイヤー(12c)は台車(1)のベース(2)に軸(16)を介して回動自在に取付けられた可動連結具(9b)の先端に係止されており、台車(1)の左右方向への移動を受持つとともに、事故等により主ワイヤー(12a)が緩んだり切れたような場合に台車(1)の落下を防止する。(17)は可動連結具(9b)の回動に応じて車輪(3)の軸を水平面内で回動させる舵取り機構である。」(3頁右上欄1行?同頁左下欄3行)
(2)「次に動作について説明する。先ず、搬送されてきた台車(1)を道路面(15)上に降ろし、この位置で各基台(13)とのワイヤー(12)の係止、および各信号線(21)等の接続を行う。この準備作業が終了すると、操作盤(14)の操作ボタンを操作して、先ず台車(1)補強面(4)の所定位置にまで移動させる。この場合、傾斜面の登坂は主ワイヤー(12a)の牽引力により行い、左右方向への方向転換は左右両ワイヤー(12b)(12c)の張力バランスで行う。即ち、例えば右ワイヤー(12c)に比較して左ワイヤー(12b)の張力が大きくなるようウインチモータ(18b)による巻取量をより大きくすると、第7図に示すように、可動連結具(9b)が反時計方向に回動し、舵取り機構(17)がこれに従動して車輪(3)を左へ傾動させる。」(3頁右下欄9行?4頁左上欄3行)

5 甲第5号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第5号証(実公昭46-5886号公報)には、以下の記載がある。
(1)「道路、堰堤等の法面に配置して、原動機により駆動されるワイヤロープ巻取装置のドラムを一側面の前後に設けた自走振動式締固め機械と、道路、堰堤等の上面に配置した保持用機械とをワイヤロープにより連結し、両機械を道路、堰堤等に沿つて縦断並行移動させると共に軌跡の広幅を該巻取装置の遠隔操作により、該法面の横断上下方向に幅寄せできるようにさせ、駆動時は上昇、解放時は降下、停止時は任意位置に保持を可能ならしめ、更に該ワイヤロープの片方を他方よりも長くあるいは短くさせることにより縦横自在に操縦転圧し得るようにしたことを特徴とする道路、堰堤等の法面締固め装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(2)「7は締固め機械1に取付けた巻取り用減速機でVベルト8を介して原動機3と連結されており、減速機7の出力は、出力軸の減速機鎖車9、ローラチエーン10、ドラム軸鎖車11を経て、振動締固め機械1の一側面の前後に各1個宛設けられた軸受12に支承されたドラム軸13に伝達される。ドラム軸13の両端には、ワイヤロープ14を巻取り巻戻すワイヤ用ドラム15を備えてあるもちろんワイヤロープ14の一端はワイヤドラム15に繋着しており、ドラムには充分なワイヤロープが巻かれている。
16は保持用機械で、この例ではブルドーザである。ブルドーザ16と締固め機械1とはワイヤロープ接手17を介してワイヤロープ14により繋着されている。
この装置により法面19を転圧するには、ブルドーザ16を道路等18上に置き、ワイヤロープで繋留した締固め機械1を法面に配置すれば、転圧輪は自動的に法面に接地するから、法面縦断長手方向は両機械を並行移動運転すればよいし、締固め軌跡の拡幅は法面横断上下方向へ繋留ワイヤロープを巻取り巻戻しすることにより、任意の場所の転圧が可能となり、法面の横断上下幅及び縦断方向の長さに制限されることなく、広範囲に縦横自在の転圧施工が可能となる。」(1頁2欄13行?同頁同欄37行)
(3)「第2図に示すように両機械を配置した後、締固め機械1と保持用機械(ブルドーザ16)を法面縦断方向に並行往復運転させ、同時に転圧輪5を起振させることにより、法面はよく締固められる締固め機械1を縦断方向締固め後の軌跡の拡幅を行うため法面の幅方向(第2図では上下)に移動させたい時は、ワイヤロープ巻取装置の操作用スイツチ27を用いて、巻取装置を駆動、解放、停止させることにより、締固め機械をそれぞれ法面を上昇、降下、任意の位置に保持させることができ、更に図示していないがワイヤロープの片方を他方よりも長くあるいは短くさせて斜め平行移動の操作により変化のある締固めをさせることも可能である。」(2頁3欄36行?同頁4欄12行)

6 甲第6号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第6号証(実公昭35-7654号公報)には、以下の記載がある。
(1)「図面に示す様に機上に取り付けた原動機2により輾圧ローラー1を廻転及び振動させる様になした輾圧機に於て機枠3上に原動機2を利用して廻転する捲取機4を設け傾斜地面の傾斜上位部に一端を固定させた条体5の他端を捲取機4のドラム6に捲き付け機枠3の前端下部に条体5の滑車9を設け機枠3の後部に枠杆16を設け之れに枠杆16の傾斜方向調整ハンドル17及機枠操作ハンドル18を設けてなる傾斜地面輾圧用振動ローラー機の構造。」(登録請求の範囲)

7 甲第7号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第7号証(実公昭45-32029号公報)には、以下の記載がある。
(1)「この考案は傾斜地面例えば道路、堰堤の法面を転圧する装置に関するもので、・・・」(1頁1欄17行?同頁同欄18行)
(2)「1は傾斜地面転圧用ローラ機のフレームでその上に原動機2、変速機3、捲取機4が取付けてあり、変速機3は原動機2の出力軸5よりベルト6をへて駆動され、捲取機4は変速機3の出力軸7よりチェーン8、中間軸9、チェーン10をへて駆動される。・・・28は法面でその上に以上説明したローラ機が第1図のように配置してあり、法面28上端の平坦な頂面29にアンカ・・・としてのブルドーザ30が配置され、ブルドーザ30と捲取機4がワイヤ31を介して連結してある。・・・」(1頁1欄23行?同頁2欄5行)
(3)「法面28を締固める場合アンカとしてのブルドーザ30(これは杭のような支持部材であつてもよい)よりワイヤ31を介してローラ機を法面28上にセツトし、原動機2を始動してリモートコントロールにより変速機3を中立より前進位置に切替え、ローラ11,12を駆動すると共に捲取機4をローラ11,12と同一周速度で駆動すると、ローラ機を法面28に沿って上方(左方)に引き上げることができる。その時ローラ11,12により法面28を転圧することができ、一方排土板22,23を操作して法面を所定の角度に成形しかつ整地することができる。・・・」(1頁2欄15行?同頁同欄26行)

8 甲第8号証について
本件の出願前に頒布され、請求人が提出した甲第8号証(実願昭59-104120号(実開昭61-19060号)のマイクロフィルム)には、以下の記載がある。
(1)「本考案の実施例は上記のように構成されているものであり、ワイヤ(10)を機体(a)後方に引出し、フック(9)を機体(a)後方の固定物に係止せしめれば、傾斜地で滑り防止を果した状態で作業を行うことができ、またかかる状態でウインチドラム(8)を駆動せしめれば、機体(a)がワイヤを介して引上げられ、傾斜地での登り走行を円滑に行える。」(6頁15行?7頁2行)

第7 明確性についての検討
1 本件訂正発明の意義
(1)本件訂正明細書には、以下の記載がある。
ア「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高く、急勾配の地形部分に法面を形成したり、アースアンカー孔を形成したりする場合等に使用される法面等の加工機械に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合、全面にわたってブルトーザーやバックホウ等の土木機械の投入が不可能であるため、土木機械での作業が不可能な部分を安全ロープを使用した人の手作業によって、該部の土砂等の切取り、掘削等の作業を行なっている。また、高くて急勾配の法面にアースアンカー孔を形成する場合、法面に足場を組立て、該足場上にボーリングマシンを設置して行なっている。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】従来の高くて急勾配の地形部分の法面形成作業は人手で行なっているので、作業効率が悪く、危険な作業であるとともに、工期が長くなり、コスト高になるという欠点があった。また、アースアンカー孔を形成する場合にも足場を組立てなければならず、作業効率が悪く、時間がかかるとともに、コスト高になるという欠点があった。
【0004】本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、高くて急勾配の地形部分でも作業者がほぼ水平状態で操作できる機械を用いて土砂等の切取り、掘削等の作業や、アースアンカー孔の形成作業を安全に効率よく、短時間に行なうことができる法面等の加工機械を提供することを目的としている。」
イ「【0006】
【作用】上記のように構成された法面等の加工機械は走行装置の作動によって車体が走行するとともに、車体は一対のウインチのワイヤーを伸縮させることにより、急勾配の地形部分に位置させることができる。また、回動機構の作用によってベース板を回動し、該ベース板をほぼ水平状態に位置させ運転席を安全な水平状態にできる。」
ウ「【0014】前記一対のウインチ14、14Aは油圧モーター48、48の駆動によってワイヤー49、49Aを伸縮できるように構成されたものが使用されるとともに、ワイヤー49、49Aの先端部には法面を形成する部位の上部位置に所定間隔離間されて固定された左右のアンカー50、50Aに係止できるフック51、51Aがそれぞれ取付けられている。
【0015】上記構成の法面等の加工機械1は、一対のウインチ14、14Aのワイヤー49、49Aを法面を形成する部位の上部位置に固定した左右のアンカー50、50Aにフック51、51Aを介して取付ける。この状態で一対のウインチ14、14Aをそれぞれ作動させてワイヤー49、49Aの長さを伸縮させるとともに、油圧駆動装置4の作動により無限軌道3、3を駆動させ、車体2を図6に示すように上下左右方向に移動させる。
【0016】車体2の傾斜面に応じて回動機構8を作動させ、ベース体7をほぼ水平状態になるように回動させ、運転席11で安全に作業できるようにする。運転席11では従来のバックホウ等と同様な操作によって、図7に示すように駆動アーム12、バケット13および回転機構9を作動させ、法面となるように土砂等の切取り、掘削等の作業を行なう。」
エ「【0024】
【本発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
【0025】(1)車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させるパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構と、前記ベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して取付けられた作業台と、この作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体の一方に取付けられた該車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチあるいは一対のウインチのワイヤーが取付けられる一対のワイヤー取付け金具とで構成されているので、車体が傾斜状態となる傾斜面での作業時にはパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構の作動により、ベース板を回動させて作業台をほぼ水平に位置させることができる。したがって、安全に作業することができる。
【0026】(2)前記(1)によって、自走することができない傾斜面部位にでも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ、土砂等の切取り等の法面形成作業を効率よく行なうことができる。
【0027】(3)前記(1)によって、構造が簡単であるので、容易に実施することができる。
【0028】(4)前記(1)によって、傾斜面での危険な作業を効率よく、安全に行なうことができる。」

(2)上記(1)の記載によれば、従来、高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合、土木機械の投入が不可能であるため、人の手作業によって、該部の土砂等の切取り、掘削等の作業を行なっていたところ、これらの作業は、作業効率が悪く、危険な作業であるとともに、工期が長くなり、コスト高になるという問題点を有していたと認められる。
そこで、上記問題点を解決することを課題として、本件訂正発明は、「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする、急勾配の地形部分に使用される」ものとし、自走することができない傾斜面部位にでも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ、土砂等の切取り等の法面形成作業を効率よく安全に行なうことが可能となったものである。

2 明確性についての判断
(1)請求人は、本件訂正後の請求項2に記載された「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の内、「該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」とは具体的にどのような構造のものかが記載されていないから不明確である旨主張している。
しかしながら、本件訂正発明の「一対のウインチ」に関する構成は、前記1(1)で述べたとおり、土木機械の投入が不可能である急勾配の地形部分に法面を形成する場合に、人の手作業では、作業効率が悪く、危険な作業であるとともに、工期が長くなり、コスト高になるという課題を解決する観点から、車体を上下左右方向に移動させ、土砂等の切取り等の法面形成作業を効率よく安全に行なうために設けられた構成であって、「一対のウインチ」が「該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を有しているという限度で理解でき、ウインチの向き等が具体的に定められていないからといって直ちに不明確であるとまではいえない。
(2)また、請求人は、本件訂正後の請求項2に記載された「急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械」の内、「急勾配」とは具体的にどの程度の勾配を指すのか不明確である旨主張している。
しかしながら、前記1(1)で述べたとおり、土木機械の投入が不可能な程度の、あるいは、自走することができない程度の勾配であることが当業者に認識でき、「急勾配」の範囲が数値等により具体的に定められていないからといって直ちに不明確であるとまではいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、訂正後の請求項2の記載が不明確であることを主張する請求人の理由を採用することはできない。

第8 進歩性についての検討
1 対比
(1)本件訂正発明と甲第1号証発明とを比較すると、甲第1号証発明の「下部走行体15」、「無限軌道」、「上部」、「『前』『方向位置』」、「ピン26」、「フレーム体19」、「旋回軸受16」、「上部旋回体17」、「『後』『方向位置』」、「傾動シリンダ20」、「上部旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント18」、「作業アタッチメント18の先端部に取付けた法面バケット13’」及び「法面整成作業などを行うことができる油圧ショベル」は、それぞれ本件訂正発明の「車体」、「無限軌道」、「上部」、「一方」、「枢支ピン」、「ベース板」、「回転機構」、「作業台」、「他方」、「回動機構」、「作業台の端部に取付けられた駆動アーム」、「駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメント」及び「法面等の加工機械」に相当する。
(2)ア 甲第1号証発明の「車体(下部走行体15)」は「無限軌道」を備えたものであり、この「無限軌道」が、「車体」に取付けられた何らかの駆動機構により駆動されて「車体」を走行させることができる装置であることは、当業者に自明である。
イ 本件訂正発明の「車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道」における「油圧等」は、「無限軌道」を駆動させる機構であるといえる。
ウ 上記ア及びイより、甲第1号証発明の「無限軌道」と本件訂正発明の「車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道」とは、「車体に取付けられた駆動機構によって該車体を走行させることができる走行装置である」点で一致する。
(3)ア 甲第1号証発明においては、「車体(下部走行体15)」の「上部」側「一方(前方向位置)」にヒンジ用ボス部材21を設け、「ベース板(フレーム体19)」の基板23下面の「一方(前方向位置)」にヒンジ用ブラケット部材24を垂設し、前記ヒンジ用ブラケット部材24を前記ヒンジ用ボス部材21に、「枢支ピン(ピン26)」にて回動自在に枢支しているから、甲第1号証発明の「ベース板」は、「車体」の「上部」側「一方」に「枢支ピン」にて回動自在に枢支されているといえる。
イ 上記アから、甲第1号証発明の「ベース板」と本件訂正発明の「ベース板」とは、「前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられた」点で一致する。
(4)ア 甲第1号証発明の「回転機構(旋回軸受16)」が、何らかの駆動機構を用いて駆動されることは、当業者に自明である。
イ 本件訂正発明の「油圧等を用いた回転機構」における「油圧等」は、「回転機構」を駆動させる機構であるといえる。
ウ 上記ア及びイより、甲第1号証発明の「回転機構」と本件訂正発明の「回転機構」とは、「駆動機構を用いた」点で一致する。
(5)甲第1号証発明においては、「作業台(上部旋回体17)」の下面に装着している前記「回転機構(旋回軸受16)」の下面側と、「車体(下部走行体15)」の上面側との間に「ベース板(フレーム体19)」を設け、その「ベース板」の基板23上面は「回転機構」の下面に固定して取付けられているから、甲第1号証発明の「作業台」が「ベース板」上に「回転機構」を介して回転可能に取り付けられていることは当業者に自明であるといえ、さらに、甲第1号証発明の「法面等の加工機械(油圧ショベル)」は「作業台」を水平状態に調整操作して法面整成作業などを行うことができるものであるから、上記(4)に照らせば、甲第1号証発明の「作業台」と本件訂正発明の「作業台」とは、「ベース板上に駆動機構を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ、前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する」点で一致する。
(6)ア 甲第1号証発明においては、「法面等の加工機械(法面整成作業などを行うことができる油圧ショベル)」を、「作業台(上部旋回体17)」の下面に装着している前記「回転機構(旋回軸受16)」の下面側と、「車体(下部走行体15)」の上面側との間に「ベース板(フレーム体19)」を設け、「車体」の「上部」側「他方(後方向位置)」に傾動シリンダ取付用ブラケット部材22を設け、「ベース板」の基板23下面の「他方」に傾動シリンダ取付用ブラケット部材25を垂設し、それから前記ヒンジ用ブラケット部材24を前記ヒンジ用ボス部材21に、「枢支ピン(ピン26)」にて回動自在に枢支し、さらに前記傾動シリンダ取付用ブラケット部材25及び22を「回動機構(傾動シリンダ20)」を介して連結し、そして前記「回動機構」を作動操作することにより、「作業台」を「車体」の前後方向に向けて、傾動調整できるように構成しているから、甲第1号証発明の「回動機構」は、「車体」の「上部」側「他方」と「ベース板」下面の「他方」との間に取付けられ、「ベース板」を「枢支ピン」を中心に回動させるものといえる。
イ 上記アから、甲第1号証発明の「回動機構」と本件訂正発明の「回動機構」とは、「前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた」点及び「該ベース板を回動させる」点で一致する。
(7)甲第1号証発明の「法面等の加工機械(法面整成作業などを行うことができる油圧ショベル)」は、法面整成作業などを行うことができるものであるから、本件訂正発明の「急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械」と、「勾配のある地形部分に使用される」点で一致する。

(8)上記(1)ないし(7)から、本件訂正発明と甲第1号証発明とは、
「車体と、この車体に取付けられた駆動機構によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板上に駆動機構を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ、前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントとからなる勾配のある地形部分に使用される法面等の加工機械。」の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]無限軌道及び回転機構の「駆動機構」について、本件訂正発明は「油圧等」であるのに対し、甲第1号証発明はどのような機構か明らかでない点。
[相違点2]本件訂正発明は「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」を有するのに対し、甲第1号証発明はウインチを有していない点。
[相違点3]前記「勾配のある地形部分」が、本件訂正発明では「急勾配の」ものであるのに対し、甲第1号証発明では勾配がどの程度であるか不明である点。

2 判断
(1)相違点1についての検討
本件訂正発明においては「駆動機構」が「油圧等」と規定されており、「油圧」であるとは特定されておらず、「油圧」以外の「駆動機構」であってもよいものであることから、相違点1は、本件訂正発明と甲第1号証発明との実質的な相違点であるとはいえない。

(2)相違点2及び相違点3についての検討
ア 本件訂正発明は、「前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメント」を有する「法面等の加工機械」であり、駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントによって、勾配を有する地形部分に法面を形成するものであって、法面を形成すべき地形部分の上下左右方向に移動して作業するものであるとともに、上記第7の1(2)で述べたように、従来、高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合、土木機械の投入が不可能であるため、人の手作業によって、該部の土砂等の切取り、掘削等の作業を行なっていたところ、これらの作業は、作業効率が悪く、危険な作業であるとともに、工期が長くなり、コスト高になるという問題点を解決することを課題として、「前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする、急勾配の地形部分に使用される」ものとし、自走することができない傾斜面部位にでも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ、土砂等の切取り等の法面形成作業を効率よく安全に行なうことが可能となったものである。
イ 甲第1号証発明も本件訂正発明と同様、「上部旋回体17のフロント部に装着した作業アタッチメント18(作業台の端部に取付けられた駆動アーム)、前記作業アタッチメント18の先端部に取付けた法面バケット13’(駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメント)」を有し、勾配を有する地形部分に法面を形成するものであるから、傾斜面部位において車体を上下左右任意な方向に移動させて作業するものであって、法面に沿って昇降走行しながら法面形成作業などを行うことができるようにしたものであるが、土木機械の投入が不可能あるいは、自走することができない傾斜面部位でも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ、法面形成作業を効率よく安全に行なおうという動機が記載も示唆もされていない。
ウ 甲第2号証は、アスフアルトフイニツシヤーに関するものであり、甲第2号証の記載から「距離を有する一対の位置それぞれにおいてウインチの2個のドラムで加工機械を支持すること」が一応把握できる。
しかしながら、甲第2号証に「不自然に進行方向を変えることがある」ことが記載されているとしても、その作業範囲は、頂上に据付けたウインチの2個のドラムに対応する僅かな範囲であり、上記甲第2号証から把握できる事項は、基本的に、加工機械を直進させて作業させるためのものである。
エ 甲第1号証発明は、無限軌道を備えており、傾斜面部位において車体を上下左右任意な方向に昇降走行させて作業可能であるものであるところ、加工機械を基本的に直進させて作業させるための甲第2号証から把握できる事項を甲第1号証発明に適用しようとする動機が見出せない。
オ しかも、アスフアルトフイニツシヤーは、法面が整形された後の仕上げに用いられるものであるから、地形の状態が良いところで使用される加工機械であり、作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントがないから、駆動アームの動きによって不安定な状態になることがない。
即ち、甲第1号証発明と甲第2号証記載のアスフアルトフイニツシヤーとは、作業内容、作業対象である地形の状態、加工機械の安定性が異なるものであるから、両者が技術的に同様の加工機械であるということができず、甲第2号証に記載の事項から把握できる事項を甲第1号証発明に適用することはできない。
カ 甲第3号証は、甲第2号証と同様、アスファルトフィニッシャに関するものであり、甲第2号証と同様、「距離を有する一対の位置それぞれにおいて1個づつのウインチで加工機械を支持すること」が一応把握できるが、上記ウないしオで検討したのと同様、甲第3号証から把握できる事項は、加工機械を基本的に直進させて作業させるためのものである。無限軌道を備えており、傾斜面部位において車体を上下左右任意な方向に昇降走行させて作業可能である甲第1号証発明に、甲第3号証から把握できる事項を適用しようとする動機が見出せない。
さらに、甲第1号証発明と甲第3号証記載のアスファルトフィニッシャとは、作業内容、作業対象である地形の状態、加工機械の安定性が異なるものであるうえに、甲第3号証のアスファルトフィニッシャには、走行手段がなく、技術的に甲第1号証発明と同様の加工機械であるということができず、甲第3号証から把握できる事項を甲第1号証発明に適用することはできない。
キ 甲第4号証に記載の主ワイヤー(12a)は台車(1)のベース(2)に設けられた固定連結具(9a)に係止されており主として台車(1)の重量を支え、台車(1)の昇降移動を受持ち、左ワイヤー(12b)および右ワイヤー(12c)は台車(1)のベース(2)に軸(16)を介して回動自在に取付けられた可動連結具(9b)の先端に係止されており、台車(1)の左右方向への移動を受持つものであるから、左右のウインチは、舵取りに使用されているもので、台車を支持しているものではない。
即ち、甲第4号証には、距離を有する一対の位置それぞれにおいて1個づつのウインチで加工機械を支持することが記載も示唆もされていない。
ク 甲第5号証は、自走振動式締固め機械に関するものであり、甲第5号証の記載から「締固め機械の一側面に支承されたドラム軸の両端にワイヤドラムを設け、該ワイヤドラムで締固め機械を支持すること」が把握できる。
しかしながら、甲第5号証に記載のドラム軸の両端のワイヤドラムのワイヤは、締固め機械の上下方向の位置決めのためのものであり、左右方向への移動は転圧輪の回動に依存している。
甲第5号証から把握できる事項は、加工機械の上下方向の位置決めのためのものであり、無限軌道を備えており、傾斜面部位において車体を上下左右任意な方向に昇降走行させて作業可能である甲第1号証発明に、甲第5号証から把握できる事項を適用しようとする動機が見出せない。
さらに、自走振動式締固め機械は、法面がある程度整形された後に用いられるものであるから、地形の状態がある程度良いところで使用される加工機械であり、作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントがないから、駆動アームの動きによって不安定な状態になることがない。
即ち、甲第1号証発明と甲第5号証記載の自走振動式締固め機械とは、作業内容、作業対象である地形の状態、加工機械の安定性が異なるものであるから、甲第5号証から把握できる事項を甲第1号証発明に適用することはできない。
ケ 甲第6号証、甲第7号証及び甲第8号証には、ウインチを加工機側に取り付けることが記載されているが、互いに距離を置いて一対のウインチを取り付けることは記載も示唆もない。
コ 上記アないしケから、甲第1号証発明において、上記相違点2及び3に係る構成を採用することが甲第2号証ないし甲第8号証に記載の事項から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
サ なお、平成23年10月19日付け請求人の上申書には、容易想到性の動機付けについての記載があるが、上記アないしコの検討を左右するものではない。
シ よって、本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものと主張する請求人の理由を採用することはできない。

第9 むすび
請求人の主張する無効理由についての当審の判断は、以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
法面等の加工機械
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させるパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構と、前記ベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して取付けられた作業台と、この作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体の一方に取付けられた該車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチあるいは一対のウインチのワイヤーが取付けられる一対のワイヤー取付け金具とからなることを特徴とする法面等の加工機械。
【請求項2】車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置である無限軌道と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して回転可能に取付けられ、前記車体が傾斜状態にあっても水平状態で回転する作業台と、前記ベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させる回動機構と、前記作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体あるいはベース板の一方の両側部に互いに距離を置いて取付けられた一対のウインチであって、該車体を支持し、かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチとからなることを特徴とする、急勾配の地形部分に使用される法面等の加工機械。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は高く、急勾配の地形部分に法面を形成したり、アースアンカー孔を形成したりする場合等に使用される法面等の加工機械に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、高くて急勾配の地形部分に法面を形成する場合、全面にわたってブルトーザーやバックホウ等の土木機械の投入が不可能であるため、土木機械での作業が不可能な部分を安全ロープを使用した人の手作業によって、該部の土砂等の切取り、掘削等の作業を行なっている。また、高くて急勾配の法面にアースアンカー孔を形成する場合、法面に足場を組立て、該足場上にボーリングマシンを設置して行なっている。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】従来の高くて急勾配の地形部分の法面形成作業は人手で行なっているので、作業効率が悪く、危険な作業であるとともに、工期が長くなり、コスト高になるという欠点があった。また、アースアンカー孔を形成する場合にも足場を組立てなければならず、作業効率が悪く、時間がかかるとともに、コスト高になるという欠点があった。
【0004】本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、高くて急勾配の地形部分でも作業者がほぼ水平状態で操作できる機械を用いて土砂等の切取り、掘削等の作業や、アースアンカー孔の形成作業を安全に効率よく、短時間に行なうことができる法面等の加工機械を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させるパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構と、前記ベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して取付けられた作業台と、この作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体の一方に取付けられた該車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチあるいは一対のウインチのワイヤーが取付けられる一対のワイヤー取付け金具とで法面等の加工機械を構成している。
【0006】
【作用】上記のように構成された法面等の加工機械は走行装置の作動によって車体が走行するとともに、車体は一対のウインチのワイヤーを伸縮させることにより、急勾配の地形部分に位置させることができる。また、回動機構の作用によってベース板を回動し、該ベース板をほぼ水平状態に位置させ運転席を安全な水平状態にできる。
【0007】
【本発明の実施例】以下、図面に示す実施例により、本発明を詳細に説明する。
【0008】図1ないし図10の本発明の第1の実施例において、1は本発明の法面等の加工機械で、この法面の加工機械1は車体2と、この車体2の両側面に取付けられた該車体2を急勾配の状態でも走行させることができる無限軌道3、3と、この無限軌道3、3を駆動させる油圧式バックホウ等で使用される油圧駆動装置4と、前記車体2の上部に該車体2の一方の支持台5に枢支ピン6を介して一方が回転可能に取付けられたベース板7と、このベース板7の他方と前記車体2の他方との間に取付けられた該ベース板7を回動させる回動機構8と、前記ベース板7上に油圧を用いた回転機構9を介して取付けられた作業台10と、この作業台10上に設置された運転席11と、前記作業台10の端部に取付けられた駆動アーム12と、この駆動アーム12の先端部に取付けられた作業アタッチメントとしてのバケット13と、前記車体2の一方に取付けられた該車体2を支持する一対のウインチ14、14Aと、前記車体2に取付けられたドーザー15とから構成されている。
【0009】前記油圧駆動装置4は、モーター16によって駆動される油圧ポンプ17からの油圧を油圧供給ホース18、18を介して前記車体2に取付けられた無限軌道3、3の駆動軸駆動部(油圧モーター)19、19に供給できるように構成されている。すなわち、この油圧駆動装置4は従来の無限軌道を駆動させる油圧駆動装置と異なる点は、車体以外の部位にモーター16とポンプ17を設置し、油圧供給ホース18、18を介して駆動軸駆動部19、19に油圧を供給できるようにしているだけで、他は従来と同様に構成されたものが使用される。
【0010】前記ベース板7を回動させる回動機構8は一端が前記ベース板7の他方に固定された取付け金具20に枢支ピン21を介して回動可能に取付けられ、他端が前記車体2の他方に固定された取付け金具22に枢支ピン23を介して回動可能に取付けられたパンタグラフ状のリンク24と、一端が前記リンク24の枢支ピン25に作動杆26の先端部が枢支され、他端が前記車体2に枢支ピン27で回動可能に枢支された油圧シリンダー28とから構成され、該油圧シリンダー28の作動によってリング24が伸縮し、ベース板7を枢支ピン6を支点に回動させることができる。
【0011】前記回転機構9は、従来と同様に作業台10を回転させる油圧を用いた構造が使用されている。すなわち、この回転機構9はベース板7に回転可能に取付けられた作業台10が固定される回転軸29と、この回転軸29に固定された歯車30と、この歯車30と噛合うピニオン31が駆動軸32に取付けられた前記ベース板7に固定された油圧モーター33とから構成されている。
【0012】前記駆動アーム12は前記作業台10に固定された支持金具34に枢支ピン35で回動可能に取付けられたへ字状のリンク36と、一端が前記車体2に回動可能に枢支され、他端が前記リンク36のほぼ中央部に枢支ピン37で枢支されたリンク回動用油圧シリンダー38と、前記リンク36の先端部に枢支ピン39で後端部寄りの部位が回動可能に取付けられた回動ブーム40と、一端が前記リンク36のほぼ中央部に枢支ピン41によって回動可能に枢支され、他端が前記回動ブーム40の後端部に枢支ピン42で回動可能に取付けられた回動ブーム回動用油圧シリンダー43とから構成されている。
【0013】前記バケット13は前記回動ブーム40の先端部に枢支ピン44で回動可能に取付けられるとともに、一端が前記回動ブーム40のほぼ中央部に枢支ピン45で回動可能に取付けられ、他端が前記バケット13の後端部に枢支ピン46で回動可能に取付けられたバケット回動用油圧シリンダー47によって回動可能に取付けられている。
【0014】前記一対のウインチ14、14Aは油圧モーター48、48の駆動によってワイヤー49、49Aを伸縮できるように構成されたものが使用されるとともに、ワイヤー49、49Aの先端部には法面を形成する部位の上部位置に所定間隔離間されて固定された左右のアンカー50、50Aに係止できるフック51、51Aがそれぞれ取付けられている。
【0015】上記構成の法面等の加工機械1は、一対のウインチ14、14Aのワイヤー49、49Aを法面を形成する部位の上部位置に固定した左右のアンカー50、50Aにフック51、51Aを介して取付ける。この状態で一対のウインチ14、14Aをそれぞれ作動させてワイヤー49、49Aの長さを伸縮させるとともに、油圧駆動装置4の作動により無限軌道3、3を駆動させ、車体2を図6に示すように上下左右方向に移動させる。
【0016】車体2の傾斜面に応じて回動機構8を作動させ、ベース体7をほぼ水平状態になるように回動させ、運転席11で安全に作業できるようにする。運転席11では従来のバックホウ等と同様な操作によって、図7に示すように駆動アーム12、バケット13および回転機構9を作動させ、法面となるように土砂等の切取り、掘削等の作業を行なう。
【0017】駆動アーム12の回動ブーム40の先端部に、図8に示すようにブレーカー52を取付けたり、図9に示すようにスパイキハンマー53を取付けたり、図10に示すように削岩機54を取付けたりして使用される。
【0018】なお、油圧シリンダー28、油圧モーター33、リンク回動用油圧シリンダー43、バケット回動用油圧シリンダー47および油圧モーター48、48への油圧の供給は油圧供給ホース18からの油圧を用いてもよく、あるいは車体2や作業台に油圧ポンプを設置して使用してもよい。また、無限軌道3、3を駆動させる油圧式バックホウ等で使用される油圧駆動装置4の駆動軸駆動部(油圧モーター)19、19の代わりに電動モーターを用いたり、回転機構9として電動モーターを用いたものを使用してもよい。
【0019】
【本発明の異なる実施例】次に図11ないし図17に示す本発明の異なる実施例につき説明する。なお、これらの実施例の説明に当って、前記本発明の第1の実施例と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0020】図11および図12の本発明の第2の実施例において、前記本発明の第1の実施例と主に異なる点は、一対のウインチ14、14Aが取付けられた支持板7Aを回転機構9を介して車体1に取り付けるとともに、回転機構9を介して取付けられた作業台10を支持するベース板7と前記支持板7Aに該ベース板7を回動可能に取付ける回動機構8Aを取付けた点で、この回動機構8Aは車体2に枢支ピン55で回動可能に取付けられたアーム56と、ベース板7に枢支ピン57で回動可能に取付けられたアーム58と、このアーム58の先端部と前記アーム56の先端部とを回動可能に枢支する枢支ピン59と、前記アーム56を回動させる一端が該アーム56のほぼ中央部に枢支ピン60で枢支され、他端が前記車体2に枢支ピン61で枢支された油圧シリンダー28とで構成されている。このように構成された回動機構8Aを用いた法面等の加工機械1Aにしても前記本発明の第1の実施例と同様な作用効果が得られる。
【0021】図13および図14の本発明の第3の実施例において、前記本発明の第1の実施例と主に異なる点は作業台10に枠62を取付けた点で、このように構成された法面等の加工機械1Bにすることにより、法面への資材の運搬を効率よく行なうことができる。
【0022】図15ないし図17の本発明の第4の実施例において、前記本発明の第1の実施例と主に異なる点は駆動アーム12、運転席11あるいは枠を着脱可能に取付けることができる作業台10を用いた点と、油圧駆動装置4の油圧モーター19、19と一対のウインチ14、14Aの油圧モーター48、48へ供給する油圧を図17に示すように一つの油圧ポンプ17からの油圧を用いて行えるように構成した油圧回路を用いた点で、このように構成された法面等の加工機械1Cにしても前記本発明の第1の実施例と同様な作用効果が得られるとともに、油圧駆動装置4の油圧モーター19、19と、一対のウインチ14、14Aの油圧モーター48、48の内の荷重がかからない方に油圧が供給され、効率良く車体を移動させることができる。なお、65は油圧ポンプ17からの油圧を制御するコントロールバルブレバーである。66、67、68、69は電源71からの電流をスイツチ70を介してON、OFFされる電磁弁である。
【0023】前記本発明の各実施例の説明では車体2に一対のウインチ14、14Aを取付けたものに付いて説明したが、本発明はこれに限らず、法面を形成する部位の上部位置に一対のウインチ14、14Aを固定し、該一対のウインチ14、14Aのワイヤー49、49Aの先端部に取付けられたフック51、51Aを取付けることができるアイボルト等の取付け金具を車体2に取付けた法面等の加工機械にしても同様な作用効果が得られる。
【0024】
【本発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
【0025】(1)車体と、この車体に取付けられた油圧等によって該車体を走行させることができる走行装置と、前記車体の上部に該車体の一方に枢支ピンを介して一方が回動可能に取付けられたベース板と、このベース板の他方と前記車体の他方との間に取付けられた該ベース板を回動させるパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構と、前記ベース板上に油圧等を用いた回転機構を介して取付けられた作業台と、この作業台の端部に取付けられた駆動アームと、この駆動アームの先端部に取付けられた作業アタッチメントと、前記車体の一方に取付けられた該車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチあるいは一対のウインチのワイヤーが取付けられる一対のワイヤー取付け金具とで構成されているので、車体が傾斜状態となる傾斜面での作業時にはパンタグラフ状のリンクを用いた回動機構の作動により、ベース板を回動させて作業台をほぼ水平に位置させることができる。したがって、安全に作業することができる。
【0026】(2)前記(1)によって、自走することができない傾斜面部位にでも一対のウインチを用いて車体を上下左右方向に移動させ、土砂等の切取り等の法面形成作業を効率よく行なうことができる。
【0027】(3)前記(1)によって、構造が簡単であるので、容易に実施することができる。
【0028】(4)前記(1)によって、傾斜面での危険な作業を効率よく、安全に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す側面図。
【図2】本発明の第1の実施例を傾斜面で作業する場合の状態の側面図。
【図3】本発明の第1の実施例の回動機構の説明図。
【図4】本発明の第1の実施例の一対のウインチの取付け状態を示す説明図。
【図5】本発明の第1の実施例の油圧回路の説明図。
【図6】本発明の第1の実施例の作業範囲を示す説明図。
【図7】本発明の第1の実施例の作業状態を示す説明図。
【図8】ブレーカーを取付けた本発明の第1の実施例の説明図。
【図9】スパイキハンマーを取付けた本発明の第1の実施例の説明図。
【図10】削岩機を取付けた本発明の第1の実施例の説明図。
【図11および図12】本発明の第2の実施例を示す説明図。
【図13および図14】本発明の第3の実施例を示す説明図。
【図15ないし図17】本発明の第4の実施例を示す説明図。
【符号の説明】
1、1A:法面等の加工機械、
2:車体、
3:無限軌道、
4:油圧駆動装置、
5:支持台、
6:枢支ピン、
7:ベース板、
8、8A:回動機構、
9:回転機構、
10:作業台、
11:運転席、
12:駆動アーム、
13:作業アタッチメントとしてのバケット、
14、14A:ウインチ、
15:ドーザー、
16:モーター、
17:油圧ポンプ、
18:油圧供給ホース、
19:駆動軸駆動部、
20:取付け金具、
21:枢支ピン、
22:取付け金具、
23:枢支ピン、
24:リンク、
25:枢支ピン、
26:作動杆、
27:枢支ピン、
28:油圧シリンダー、
29:回転軸、
30:歯車、
31:ピニオン、
32:駆動軸、
33:油圧モーター、
34:支持金具、
35:枢支ピン、
36:リンク、
37:枢支ピン、
38:リンク回動用油圧シリンダー、
39:枢支ピン、
40:回動ブーム、
41:枢支ピン、
42:枢支ピン、
43:回動ブーム回動用油圧シリンダー、
44:枢支ピン、
45:枢支ピン、
46:枢支ピン、
47:バケット回動用油圧シリンダー、
48:油圧モーター、
49、49A:ワイヤー、
50:左のアンカー、
50A:右のアンカー、
51、51A:フック、
52:ブレーカー、
53:スパイキハンマー、
54:削岩機、
55:枢支ピン、
56:アーム、
57:枢支ピン、
58:アーム、
59:枢支ピン、
60:枢支ピン、
61:枢支ピン。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-10-18 
結審通知日 2011-10-20 
審決日 2011-11-01 
出願番号 特願平3-308537
審決分類 P 1 123・ 121- YA (E02F)
P 1 123・ 534- YA (E02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 良和太田 恒明  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 鈴木 秀幹
星野 浩一
登録日 1997-04-18 
登録番号 特許第2128294号(P2128294)
発明の名称 法面等の加工機械  
代理人 神保 欣正  
代理人 麦島 隆  
代理人 勝又 祐一  
代理人 高橋 敬一郎  
代理人 麦島 隆  
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