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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01R
管理番号 1263242
審判番号 不服2011-15689  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-20 
確定日 2012-09-11 
事件の表示 特願2008-130186号「完全統合イーサネット(登録商標)コネクタ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月23日出願公開、特開2008-258173号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、2003年4月8日(パリ条約による優先権主張、外国庁受理2002年4月15日、米国)を国際出願日とする特願2003-586971号の一部を平成20年5月16日に新たな出願としたものであって、平成23年3月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成23年7月20日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、平成23年7月20日付け手続補正では、請求項1は補正されていない。

「組み込み型の通信用ジャックを形成する方法であって、
a.オープンキャビティと、該オープンキャビティから隔離された内部チャンバとを有するハウジングを提供するステップであって、該ハウジングが標準RJ-45ジャックの高さおよび幅に実質的に等しい高さおよび幅を有する、ステップと、
b.該オープンキャビティ内に電気的コンタクトのアレイを配置して標準RJ-45接続ポートを形成するステップと、
c.該内部チャンバ内に少なくとも2つの回路基板を配置するステップであって、該回路基板の少なくとも1つがイーサネット(登録商標)データをシリアルデータに変換するように構成されているコントローラを有する、ステップと、
d.該回路基板を該接続ポートの該電気的コンタクトと電気的に相互に接続するステップと
を包含する、方法。」

第2 引用例の記載事項
1.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、米国特許第6203334号明細書(以下「引用例1」という)には、図面と共に次の事項が記載されている(訳文は、当審による仮訳。)

ア 「The present invention is directed to a modular jack receptacle that includes a plurality of removable interfaces that provide for interconnection between and among the plurality of interfaces and a modular jack held by the receptacle.
In a preferred embodiment, the present invention is directed to a modular jack receptacle adapted to accept and hold a modular jack that includes a terminal. The modular jack receptacle comprises a housing having an aperture for accepting the modular jack. A first interface provided in the housing includes a first connector for making an electronic connection to the modular jack terminal when the modular jack is held within the receptacle. A second interface is provided in the housing and includes a second connector for making an electronic connection to the first connector when the second interface is placed within the housing, thus establishing an electronic connection between the modular jack and the second interface.
The present invention is also directed to a system for evaluating a communication line provided between a central office (CO) and a customer premise location. The CO may include communications equipment for communicating a signal from the CO to the customer premise location over the communications line, and the system comprises a modular jack receptacle adapted to accept and hold a modular jack that includes a terminal. The modular jack receptacle is located at the customer premise location and connected to the communication line. The receptacle comprises a housing having an aperture for accepting the modular jack and a first interface provided in the housing and including a first connector for making an electronic connection to the modular jack terminal when the modular jack is held within the modular jack receptacle. A second interface is provided that is removably placeable in the housing and includes a second connector for making an electronic connection to the first connector when the second interface is placed within the housing. The second interface further comprises electronic circuits, devices, connectors, etc. adapted for receiving the signal communicated from the CO and for communicating a return signal to the CO in response to the received signal.」
「本発明は、レセプタクルによって保持されたモジュラージャック及び複数のインターフェース間の相互結合を提供する着脱可能な複数のインターフェースを含んだモジュラージャック・レセプタクルに関する。
好ましい実施例では、本発明は、端子を有するモジュラージャックを受容し保持するのに適したモジュラージャック・レセプタクルに関する。このモジュラージャック・レセプタクルは、モジュラージャックの受容のための開口を有するハウジングを含む。ハウジング内に設けられる第1インターフェースは、モジュラージャックがレセプタクル内に保持されるときに、モジュラージャック端子への電気接続をするための第1コネクタを含む。ハウジング内に位置付けられると第1コネクタと電気接続を行う第2コネクタを有する第2インターフェースがハウジング内に設けられ、それにより、モジュラージャックと第2インターフェース間の電気接続が確立される。
本発明はまた、中央局(CO)と顧客所在地の間で提供される通信回線の評価のためのシステムに関する。COには、COから顧客所在地へ通信回線を通して信号を伝えるための通信装置が含まれ得る。また、システムは、端子を有するモジュラージャックを受容し保持するためのモジュラージャック・レセプタクルを含む。モジュラージャック・レセプタクルは顧客所在地に位置し、通信回線に接続される。レセプタクルは、モジュラージャックの受容のための開口を有するハウジング、およびハウジング内に設けられ、モジュラージャックがレセプタクル内に保持される時、モジュラージャックの端子に電気接続をするための第1コネクタを有する第1インターフェースを含む。ハウジング内に位置付けられたとき第1コネクタに電気接続するための第2コネクタを有する第2インターフェースがハウジング内に着脱自在に設けられる。第2インターフェースはさらに、COから通信された信号を受け取り、受信信号に応じてCOに応答信号を伝えるための電子回路、デバイス、コネクタなどを有している。」(1欄47行?2欄19行、下線は当審で付与。以下同様。)

イ 「Referring next to FIGS. 2 and 3, in which the modular jack receptacle 10 of the present invention is depicted in cross-section, a plurality of interfaces 40, 50, 60 are held in separate channels or guides 24 defined in the housing 20. Each interface 40, 50, 60 comprises a printed wiring board (PWB) 41, 51, 61 and may include electronics 46, 56, 66 to provide a predetermined functionality for an interface 40, 50, 60. For example, an interface may include electronics that provide the functionality of a maintenance test unit (MTU), a half-ringer, or virtually any other known or hereafter developed circuit, depending upon the desired functionality of the interface. Each interface 40, 50, 60 may also include an external connector 70 to provide an electronic path between the interface 40, 50, 60 and an external device, circuit, system, etc.」
「次に、本発明のモジュラージャック・レセプタクル10の断面が示されている図2,図3を参照すると、複数個のインターフェース40、50、60がハウジング20に位置付けられた分離した溝またはガイド24に保持されている。インターフェース40、50、60はそれぞれプリント基板(PWB)41、51、61、を含んでおり、インターフェース40、50、60に所定の機能を提供する電子機器46、56、66を含むこともできる。例えば、インターフェースは、メンテナンス・テスト・ユニット(MTU)の機能を与える電子機器や、ハーフリンガーや、事実上いかなる既知のあるいは今後開発されるであろう回路を、それに要求される機能に応じて包含することができる。各インターフェース40、50、60はさらに、インターフェース40、50、60と外部デバイス、回路、システムなどの間の電気経路を提供するための外部コネクタ70を含んでいてもよい。」(3欄34?48行)

ウ 「A first interface 40, depicted in FIGS. 2, 4 and 5, includes two terminals 42 connected to two separate circuit traces 44 defined on the PWB 41. The terminals 42 are positioned on the PWB 41 so that when a modular jack 80 is inserted into the housing 20 and the first interface 40 is in place within the housing 20, the modular jack terminals 82 separately contact the interface terminals 42. The circuit traces 44 of the first interface 40 are positioned on the PWB 41 so that when a second interface 50 is provided (see, e.g., FIG. 2), the interface terminals 52 of the second interface 50 contact the circuit traces 44 of the first interface 40. In this way, an electronic connection may be established between the modular jack terminals 82 and the second interface 50 (via the first interface 40). Similarly, the circuit traces 54 provided on the second interface 50 are positioned so that when a third interface 60 is provided (see, e.g., FIG. 2), the interface terminals 62 of the third interface 60 contact the circuit traces 54 of the second interface 50. Thus, an electrical connection may be established between the modular jack terminals 82 and the third interface 60 (via the first and second interfaces 40, 50).」
「図2、4および5に示す第1インターフェース40は、PWB41上に配置された2本の分離した回路配線44に接続された2つの端子42を含む。端子42は、モジュラージャック80がハウジング20に挿入され、第1インターフェース40がハウジング20内に配置されるとき、モジュラージャック端子82がそれぞれインターフェース端子42と接続するようにPWB41上に配置される。第1インターフェース40の回路配線44は、第2インターフェース50が設けられるとき(例えば図2参照)、第2インターフェース50のインターフェース端子52が第1インターフェース40の回路配線44に接続するようにPWB41上に配置される。このように、モジュラージャックターミナル82と第2インターフェイス50とは電気接続される(第1インターフェイス40を介して)。同様に、第3インターフェース60が設けられるとき(例えば図2参照)、第3インターフェース60のインターフェース端子62が第2インターフェース50の回路配線54と接続するように、第2インターフェース50上に回路配線54が配置される。このようにして、モジュラージャック端子82と(第1、第2インターフェース40、50経由の)第3インターフェース60との間で電気接続がなされる。」(3欄60行?4欄13行)

エ 「Referring next to FIG. 8, a communications network 130 is schematically depicted and includes a central office (CO) 110 having installed therein communications equipment 112 that may include, by way of non-limiting example, a voice switch, a data switch, test/diagnostic equipment, computers, and various other electronic hardware and software devices and systems generally known in the art. A communication line 90 extends from the CO 110 to a customer premise location 120 that includes a building entrance protector (BEP) 122 having a modular jack receptacle 10 constructed in accordance with the present invention and connected between the communication line 90 and customer premise equipment (CPE) 124. The receptacle 10 includes a plurality of interfaces 40, 50, 60 that provide various interconnection and test/diagnostic functionality, or other functionality, as desired. The communications equipment 112 may communicate with the customer premise equipment 124 and may, for example, initiate and control and electronics provided on any of the interfaces 40, 50, 60 to diagnose the communications line 90. The interfaces 40, 50, 60 may include electronic circuits, devices, connectors, firmware, etc. adapted to receive a signal communicated from the communications equipment 112 and the communicate a signal to the CO 110 in response to the received signal. The signal communicated by the interface electronics 46, 56, 66 may indicate, for example, the condition of the communication line 90, e.g., open circuit, short circuit, over-current, etc. The interface electronics 46, 56, 66 may comprise, by way of non-limiting example a maintenance test unit, a half-ringer, or other know electronics devices.」
「次に図8を参照すると、通信網130が概略的に描かれており、そこには、非制限的に例示すると、公知の音声スイッチ、データ・スイッチ、テスト/診断設備、コンピューター、他の種々な電子ハードウェアやソフトウェアのデバイス、システムといった通信装置112を有する中央局(CO)110が包含されている。通信回線90は、CO110から、本発明に従って作られ通信回線90と顧客所在地設備(CPE)124との間に接続されるモジュラージャック・レセプタクル10を有する建物入口プロテクタ(BEP)122を経て、顧客所在地120にまで及ぶ。レセプタクル10は、必要に応じて、様々な相互連結、テスト/診断機能や他の機能を提供する複数個のインターフェース40、50、60を含む。通信装置112は顧客所在地設備124との通信を行い、例えばインターフェース40、50、60のいずれかに設けられた電子機器による通信回線90の診断を始動、制御することもできる。インターフェース40、50、60は通信装置112から通信された信号を受信し、受信信号に応答する信号をCO110に返信するための電子回路、デバイス、コネクタ、ファームウェアなどを含むことができる。インターフェース電子機器46、56、66によって送信される信号は、例えば、開放、短絡、過電流などの通信回線90の状態を示すことができる。インターフェース電子機器46、56、66は、非制限的に例示すれば、メンテナンス・テスト・ユニット、ハーフリンガーその他の公知の電子機器を含む。」(4欄33?62行)

そして、図2,3には、端子42のある開口にモジュラージャック80を受容し、ハウジング20の内部空間にインターフェース端子52,62で相互に電気的に接続する複数のインターフェース40、50、60を分離収容したモジュラージャック・レセプタクル10の断面が示されている。

上記記載事項について検討すると、記載アには、モジュラージャックを受容し保持する、複数のインターフェースを有するモジュラージャック・レセプタクルが記載されている。
また、このモジュラージャック・レセプタクルが、モジュラージャックの受容のための開口を有し、開口にはモジュラージャックの端子と電気接続する第1インターフェースの第1コネクタが位置しており、また、モジュラージャック・レセプタクルのハウジング内には第1インターフェースと、これに第2コネクタで電気接続する第2インターフェースとが設けられていることが記載されている。

記載イには、複数個のインターフェース40、50、60がハウジング20に配置されることが記載され、各インターフェース40、50、60が、所定の機能を提供する電子機器46、56、66を有するプリント基板(PWB)41、51、61を含むことが記載されている。また、インターフェースは要求される機能に応じた回路を包含できることが記載されている。

記載ウには、第1インターフェース40がモジュラージャック端子82と接続する2つのインターフェース端子42、すなわち、第1コネクタを有することが記載され、また、第2、第3インターフェース50,60が、それぞれ第1、第2インターフェース40,50の回路配線44,54とインターフェース端子52,62で電気接続し、こうして、第1、第2インターフェース40、50を経由して、モジュラージャック端子82と第3インターフェースとの間で電気接続がなされる旨記載されていることから、インターフェース端子42は第1ないし第3インターフェース40、50、60と電気接続されることは明らかである。

記載エには、通信回線90に介在するモジュラージャック・レセプタクル10を介して中央局(CO)と顧客所在地設備124との間の通信が行われることが記載されているように、モジュラージャック・レセプタクルは、通信用のものであることが明らかである。
また、レセプタクル10のインターフェース40、50、60は相互連結、テスト/診断機能や他の機能を提供することが記載されている。

これら記載事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という)が記載されている。

「通信用のモジュラージャック・レセプタクル10を形成する方法であって、
a.モジュラージャックの受容のための開口と、内部空間とを有するハウジング20を提供するステップと、
b.該モジュラージャックの受容のための開口内に2つのインターフェース端子42を配置してモジュラージャック端子82への電気接続をするための第1コネクタを形成するステップと、
c.該内部空間内に複数個の、プリント基板(PWB)41、51、61を含む第1ないし第3インターフェース40、50、60を配置するステップであって、プリント基板(PWB)41、51、61は所定の機能を提供する電子機器46、56、66を有する、ステップと、
d.該インターフェース端子42を第1ないし第3インターフェース40、50、60と電気接続するステップと
を包含する、方法。」

2.原査定において拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、登録実用新案第3076234号公報(以下「周知例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【0006】遠隔監視装置よりイーサーネット通信部を介してラック内に収納された電子機器を遠隔操作するために、ルーターやサーバー類の電子機器を接続出来るようにしたシリアル通信部を備えている。このため遠隔地から端末機を操作することによりラック内に収納されたネットワーク機器を操作することが出来るようにしている。」

3.原査定において拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された、特開2001-186156号公報(以下「周知例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【0023】図2は、本発明の実施形態におけるブリッジの構成例を示すブロック図である。図2を参照すると、ブリッジ1は、イーサネットインターフェース10と、IEEE1394インターフェース20と、パケット転送部30から構成される。
【0024】さらに、パケット転送部30は、受信MACフレーム処理部31と、イーサネット端末テーブル32と、1394端末テーブル33と、受信1394パケット処理部34と、フラグメント/リアセンブル部35からなる。」

4.原査定において周知例として引用された、本願の優先日前に頒布された、特開平2-129875号公報(以下「周知例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「(1)一本のクロック入力用コンタクトと一本の直列信号入出力用コンタクトとを有するコンタクト群(41?48)、
多数の電線とそれぞれ接続される多数の電線接続ピン(51)、および
前記クロック入力用コンタクトから入力されるクロックと同期して、前記直列信号入出力用コンタクトと、前記多数の電線接続ピンとを順次電気的に接続する電子回路(71、72)をハウジング(60)内に内蔵したことを特徴とするコネクタ。」(特許請求の範囲)

5.原査定において周知例として引用された、本願の優先日前に頒布された、国際公開第99/54968号(以下「周知例4」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。(訳文は、当審による仮訳。)
「Existing microelectronic electrical connectors, such as those of the RJ 45 or RJ 11 type, frequently incorporate magnetics or other electrical components within the connector body itself. These components may provide a variety of electrical or signal conditioning functions, such as noise suppression or signal transformation.」
「RJ45若しくはRJ11のような既存のマイクロエレクトロニックコネクタはしばしばコネクタボディ内に磁石若しくは他の電子部品を組み入れる。これらの部品はノイズ圧縮若しくは信号変換のようなさまざまな電子的若しくは信号調整機能を与える。」(明細書1ページ11?13行)

6.原査定において周知例として引用された、本願の優先日前に頒布された、特開平4-147515号公報(以下「周知例5」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「電子機器本体に接続される第1のコネクタ部と、
外部機器に接続される第2のコネクタ部と、
上記第1のコネクタ部を介して入力される入力信号又は上記第2のコネクタ部を介して入力される入力信号を、上記第2のコネクタ部又は上記第1のコネクタ部に対応した形式に変換する変換回路と、
を具えることを特徴とする接続ケーブル。」(特許請求の範囲)

7.原査定において周知例として引用された、本願の優先日前に頒布された、特開平10-222264号公報(以下「周知例6」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

「【請求項1】 雌雄一対のコネクタ・アッセンブリ-を組み合わせて脱着可能に嵌合し接続する小型の箱構造で、上部或いは側面部に複数の超小型のスイッチならびに内部に超小型電池を搭載し、かつ4方向に接続部を有するコネクタボックスからなり、各コネクタ部が互いに相隣接して4方向に配列されると共に、信号変換機能を有することを特徴とする多機能コネクタボックス。」

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用からみて、引用発明の「通信用のモジュラージャック・レセプタクル10」は本願発明の「組み込み型の通信用ジャック」に相当し、以下同様に、
「モジュラージャックの受容のための開口」は「オープンキャビティ」に、
「複数個のプリント基板(PWB)41、51、61を含む第1ないし第3インターフェース40、50、60」は「少なくとも2つの回路基板」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「内部空間」は、その内部に電子機器46、56、66を有する複数個のプリント基板(PWB)41、51、61を含む第1ないし第3インターフェース40、50、60を配置するものであるから、本願発明の「内部チャンバ」と「回路基板の配置空間」として共通する。
また、引用発明の「2つのインターフェース端子42を配置してモジュラージャック端子82への電気接続をするための第1コネクタを形成する」ことは、インターフェース端子42を配置してモジュラージャック端子82への接続ポートを形成することであるから、本願発明の「電気的コンタクトのアレイを配置して標準RJ-45接続ポートを形成する」ことと、「電気コンタクトのアレイを配置して接続ポートを形成する」ことで共通する。
さらに、引用発明の「プリント基板(PWB)41、51、61は所定の機能を提供する電子機器46、56、66を有する」ことは、本願発明の「回路基板の少なくとも1つがイーサネット(登録商標)データをシリアルデータに変換するように構成されているコントローラを有する」ことと、「回路基板の少なくとも1つが電気回路部品を有する」ことで共通する。
また、引用発明の「該インターフェース端子42を第1ないし第3インターフェース40、50、60と電気接続する」ことは、第1ないし第3インターフェース40、50、60を第1コネクタを形成するインターフェース端子42と相互に電気接続することになるから、本願発明の「該回路基板を該接続ポートの該電気的コンタクトと電気的に相互に接続する」ことに相当する。

そこで、本願発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「組み込み型の通信用ジャックを形成する方法であって、
a.オープンキャビティと、回路基板の配置空間とを有するハウジングを提供するステップと、
b.該オープンキャビティ内に電気的コンタクトのアレイを配置して接続ポートを形成するステップと、
c.該回路基板の配置空間内に少なくとも2つの回路基板を配置するステップであって、該回路基板の少なくとも1つが電気回路部品を有する、ステップと、
d.該回路基板を該接続ポートの該電気的コンタクトと電気的に相互に接続するステップと
を包含する、方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点1)
回路基板の配置空間が、本願発明では、オープンキャビティから隔離された内部チャンバであるのに対し、引用発明では、内部空間であって、オープンキャビティ(モジュラージャックの受容のための開口)から隔離されていない点。

(相違点2)
ハウジングが、本願発明では、標準RJ-45ジャックの高さおよび幅に実質的に等しい高さおよび幅を有するものであるのに対し、引用発明では、高さおよび幅が不明な点。

(相違点3)
接続ポートが、本願発明では、標準RJ-45接続ポートであるのに対し、引用発明では、モジュラージャック用の接続ポートであるものの規格が不明な点。

(相違点4)
回路基板の少なくとも一つが、本願発明では、イーサネット(登録商標)データをシリアルデータに変換するように構成されているコントローラを有するものであるのに対し、引用発明では、プリント基板(PWB)41、51、61は所定の機能を提供する電子機器46、56、66を有するものである点。

第4 相違点の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
所定の機能を有する電気回路部品を内蔵したモジュラージャックにおいて、内部チャンバに相当する電気回路部品の配置空間を、オープンキャビティに相当するプラグを受容する部分から隔離した空間としたものは、従来周知である(例えば、実願平3-3160号(実開平4-91087号)のマイクロフィルム:段落【0008】、図1等:プリント基板30を収容する収容室18bをモジュラープラグ60を受容するプラグ挿入穴18aからセパレータ19で隔離したモジュラージャック参照、米国特許第5403207号明細書:明細書1欄9?37行、図4等:トランス40を配置した空間42をプラグ受容部から隔離したLAN用のテレフォンジャック型、すなわちモジュラー型コネクタ参照、米国特許第5971805号明細書:明細書1欄44?59行、図2等、電気要素を配置した空間164をプラグ受容部20から隔離したモジュラージャック参照。)。
したがって、引用発明において、電気回路部品である、回路基板を配置する内部空間をオープンキャビティ(モジュラージャックの受容のための開口)から隔離した空間である内部チャンバとして形成し、相違点1に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2、3について)
モジュラーコネクタにおいて、コネクタの形状を規格に合わせたものとすることは、当業者が当然考慮する事項にすぎず、イーサネット等のLANに広く用いられる周知のモジュラーコネクタである標準RJ-45に適合させるべく、ハウジングのモジュラージャック受容のための開口の高さ及び幅を標準RJ-45に合わせて、標準RJ-45接続ポートとして、相違点2、3に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことといわざるをえない。

(相違点4について)
イーサネット信号をシリアル信号に変換して、機器の制御や通信を行うことは従来周知であり(周知例1、2参照。)、また、信号変換機能を有する電子機器を内蔵したコネクタも、従来周知である(周知例3?6参照。)。
一方、引用発明のインターフェース40、50、60は様々な相互連結、テスト/診断機能や他の機能を提供することが想定されているものである(記載事項エ参照)ことから、引用発明において、モジュラ型通信用ジャック(通信用のモジュラージャック・レセプタクル10)に内蔵する回路基板の所定の機能を提供する電子機器46、56、66として、イーサネット(登録商標)データをシリアルデータに変換するように構成されているコントローラを選択し、相違点4に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。

なお、請求人は、回答書において、内部チャンバ、及び、回路基板と電気コンタクトの接続について限定する補正案を提示しているが、内部チャンバについては上記相違点1で検討したとおりであり、また、回路基板と電気コンタクトの接続をハンダ付けすることも周知(例えば、上記実願平3-3160号(実開平4-91087号)のマイクロフィルム:段落【0009】参照。)であって、補正案によっても進歩性を肯定することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-18 
結審通知日 2012-04-19 
審決日 2012-05-02 
出願番号 特願2008-130186(P2008-130186)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 正章莊司 英史  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 森川 元嗣
長浜 義憲
発明の名称 完全統合イーサネット(登録商標)コネクタ  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 安村 高明  

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