• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1263563
審判番号 不服2010-21337  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-09-22 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 平成11年特許願第111301号「無線通信装置及び伝送レート制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月18日出願公開、特開2000- 49663〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯と本願発明

1.手続の経緯
本願は、平成11年4月19日(国内優先権主張 平成10年4月17日)の出願であって、平成22年6月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月22日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものであって、平成24年4月12日付けで当審より拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明

本願の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明は、平成20年7月28日付けで補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、上記補正後の特許請求の範囲として記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
通信相手における受信品質情報と、多重コード数にしたがって設定された閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段と、
切り替えられた伝送レートで送信信号を送信する送信手段と、
を具備することを特徴とするCDMA通信方式の無線通信装置。」

第2 引用例と引用発明

1.引用例1の記載事項
当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特表平09-506231号公報(以下、「引用例1」という。)には、「可変レート通信システムにおいて電力を制御するための方法及び装置」に関して、図面とともに下記の事項が記載されている。

(1)「【発明の詳細な説明】
可変レート通信システムにおいて電力を制御するための方法及び装置
発明の背景
I.発明の分野
この発明は通信システムに関する。とくに、この発明は可変レート通信システムにおいて送信電力を制御するための新しくかつ改良された方法及び装置に関する。
II.関連する技術の記述
符号分割多重アクセス(CDMA)変調技術の使用は、システム使用者がかなりの数ある場合の通信を容易にするためのいくつかの技術の一つとなっている。他の多重アクセス通信システム技術,例えば時分割多重アクセス(TDMA)及び周波数分割多重アクセス(FDMA)は既知技術である。しかし、CDMAのスペクトラム拡散変調技術は多重アクセス通信システム用のこれらの変調技術に優る重要な利点を有する。多重アクセス通信システムにおけるCDMA技術の使用はU.S.Pat.No.4,901,307,1990年2月13日発行,名称”衛星又は地上中継器を用いたスペクトラム拡散多重アクセス通信システム”,本発明の譲渡人に譲渡済に開示され、この開示がここで参照に供するものとなっている。多重アクセス通信システムにおけるCDMA技術の使用は、さらにU.S.Pat.No.5,103,459,1992年4月7日発行,名称”CDMAセルラ電話システムにおける信号波形生成用のシステム及び方法”,本発明の譲受人に譲渡済に開示され、ここで参照に供するものとなっている。」(9頁1?21行)

(2)「発明の要約
本発明は通信システムにおける閉ループ送信電力制御用の新しくかつ改良された方法及び装置である。この発明の目的は適時に電力制御を行なって、高速フェージング条件下で堅固な通信リンク品質を提供する必要性に備えることである。電力制御のための異なる方法(複数)が、伝送の過程でシグナリングデータの交換によって、変更され得る点が注目される。この電力制御形式の変更はチャンネル特性についての変更又は提供されるサービスについての変更に応答するのが望ましい。
さらに、電力制御技術は可変レート通信システムにおける実施例に提供されることも注目しなければならないが、提案された方法は固定レートの通信システムにもまた伝送レートに配慮している通信リンクの両端でデータレートが変る通信システムにも等しく応用できる。伝送レートが知れている場合には、既知のレートに関係した情報だけが送信されなければならない。
実施例では、この発明は可変レート通信システムであって、第一の通信装置が所定のデータ容量のデータフレーム内の可変レートデータをもつデータパケットを、第二の通信装置に向けて伝送するようになされ、かつ、データパケットがデータ容量よりも小さく、データパケット内のビットの繰返したものを生成し、データパケットビットの第一のものを用意するときであって、送信にあたってはデータフレームを送信するための電力がデータレートに従って計量され、第一の通信装置の送信電力を第二の通信装置で制御するためのシステムとして、次の構成のものが開示されている:データフレームを受領するための受信機手段,データフレームからフレーム品質因子を判断するためのフレーム品質判断手段,フレーム品質因子を少くとも一つのしきい値に対して比較するための比較手段であり、ここでしきい値はデータレートに適切な品質信号を用意するものであるような比較手段,品質信号を送信するための送信機手段。
実施例では、この発明はさらに第一の通信装置として所定データ容量のデータフレーム内の可変データレートをもつデータパケットを第二の通信装置に送信するためのものであり、データパケットがデータ容量よりも小さく、データパケット内でビットを繰返すものを生成し、かつデータパケットビットの第一のものと、データフレーム内のデータパケットビットの繰返したものとを用意するものであり、かつ送信においてはデータフレームを伝送するための電力がデータレートに従って計量されるようにし、電力制御信号に応答して第一の通信装置で送信電力を制御するためのシステムが開示されている:その構成は電力制御信号を受領するための受信機手段と,電力制御信号とデータレートとに従って送信制御信号を判断するための制御プロセッサ手段。」(11頁13行?12頁20行)

(3)「実施例の詳細な記述
FIG1についてみると、情報は公衆交換電話網(PSTN)に対しておよびPSTNからシステム制御器及びスイッチ2へ送られ、あるいは制御器及びスイッチ2へおよびそこへ他の基地局から、呼が移動局から移動局への通信の場合に、送られる。システム制御器及びスイッチ2は、続いて、基地局4へデータを送り、かつ、基地局4からデータを受信する。基地局4はデータを移動局6へ送信し、かつ、移動局からデータを受信する。
実施例では基地局4と移動局6との間で伝送される信号はスペクトラム拡散通信信号で、この波形の生成は前掲のU.S.Pat.No.4,901,307及びU.S.Pat.No.5,103,459に詳細に記載されている。移動局6と基地局4との間のメッセージの通信用の伝送リンクは逆進リンク(reverse link)と呼び、基地局4と移動局6との間のメッセージの通信用の伝送リンクは前進リンク(forward link)と呼ぶ。
実施例では、この発明は移動局6の送信電力の制御に使用される。しかし、この発明の電力制御の方法は基地局4の送信電力の制御にも等しく応用される。FIG3について見ると、基地局30と移動局50とが構成図形式で示され、この発明の移動局50の送信電力の制御を行なう装置を示している。」(12頁28行?13頁16行)

(4)「この発明では、冗長度のあるデータにゲートをかけることをしないで、全体の繰返しフレームを送信するが、伝送フレーム内にある冗長度の量に比例して送信電力は減少される。
この発明の実施例の伝送フレームはFIG2h-2kに示されている。この発明は伝送フレーム内の電力制御群の他の順序にも等しく応用できることに留意されたい。FIG2hでは全レートフレームが示されている。そこには16のデータの電力制御群があってデータフレームの全容量を占有し、最高電力レベルで送信がされる。FIG2iは半レートフレームを示す。そこには8のデータの独自の電力制御群が二つの繰返しレートであって、最高送信電力レベルの約半分で送信されている。FIG2jには1/4レートフレームが示されている。そこには4の独自の制御群が4の繰返しレートであって、最高送信電力レベルの約1/4で送信される。FIG2kでは1/8レートのフレームが示されている。そこには2の独自の電力制御群が8の繰返しレートであり、最高送信電力レベルの約1/8で送信される。
送信電力は繰返しフレームの伝送におけるリンク品質を劣化させずに次により低減することができる。すなわち、繰返される信号をコヒートントもしくは非コヒーレントに組合せることによる冗長度の利点を採用すること、及び冗長度を含むデータフレームの補正で得られる前進誤り補正技術を利用することによるのであり、この両者は従来技術で知られているところである。
この伝送機構では、もし受信機がデータが伝送されるレートを演繹的に知っていないと電力制御がかなり一層複雑なものとなる。FIG2h-2kに示すように、受信した電力の適切さはデータが送信されたレート,受信機が演繹的に知っていない情報に完全に依存している。以下にこの形式の通信システムで電力制御が実現することができる方法について述べる。
通信リンクの等級が落ちるときは、リンク上を伝送するデータレートを低げ、かつ誤り補正目的で冗長度をトラヒック流の中に導入するか、あるいは送信装置の送信電力を増大させることによって、リンクの品質を改善することができる。移動局50の送信電力を制御する実施例では、移動局50の送信電力が増加されるべきか、あるいは移動局のデータレートが減少されるべきかを判断するためのいくつかの方法に、次を含むようにしている:
(a)逆進行リンク上の高フレーム誤差レートの基地局検出;
(b)移動局はその電力が逆進リンクに対して最大であることを検出する;
(c)基地局は受信した電力が逆進リンク上で低いことを検出する;
(d)移動局に対する基地局の範囲が大きい;および
(e)移動局の位置が良くない。
逆に移動局50の送信電力が減少されるべきか、あるいは移動局のデータレートを増加してもよいかを判断するためのいくつかの方法に次を含むようにしている。
(a)逆進行リンク上の低フレーム誤差レートの基地局検出;
(b)移動局はその電力が逆進リンクに対してしきい値よりも低いことを検出する。
(c)基地局は受信した電力が逆進リンク上で高いことを検出する;
(d)移動局に対する基地局の範囲が小さい;および
(e)移動局の位置が良い。
データリンクを強固なものとするためにそのリンクの送信電力を増大する代りにデータ伝送レートを低減させるのが好ましいことがしばしばある。リンク接続を改善するためにデータレートを低減させる3つの理由がある。第一の理由は伝送システムがすでに最大送信電力にあるとされる場合である。第二の理由は伝送システムが内蔵バッテリィ電力を離れて動作するようにされていて、増加した送信電力が動作時間を低減することとなる場合である。第三の理由はCDMAシステムの実施例の場合で、使用者の送信が基地局に向けて送信している他の使用者に対して雑音となり、この干渉を抑制することが望ましい場合である。
移動局50が伝送レートを修正する必要を検出したときは、移動局50内の制御プロセッサ58は可変レートデータソース60に対して修正したレートの組を特定する信号を送る。修正したレートの組はデータソース60がデータを送出することを許されている一組のレートである。修正されたレート信号に応答して、可変レートデータソース60は修正されたレートの組の中で伝送用にすべてのデータを用意する。データソース60は可変レートソースであり、その伝送レートを伝送全般にわたってフレームからフレームへのベースで変えるか、命令のあるときだけレートを変えることができるようにしている。可変レート音声ソースは前掲の出願番号08/004,484内に詳しく記述してある。
データレートの組の修正が必要なことは上記列挙した条件の一つによって示される。データレートの組が修正されるべきであると判断する方法が範囲(レンジ)とか移動局移置といった位置が関係するする効果であるときは、外部信号が制御プロセッサ58に送られて、位置条件を示す。この位置条件は移動局50もしくは基地局30によって検出されて移動局50に送られる。応答した制御プロセッサ58は移動局50が送信してよい修正されたレートの組を示す信号を用意する。
代って、レート修正の必要性が検出される方法が送信電力条件に従うものであるとき、(例えば、移動体の送信電力が最大であるか、しきい値以下のとき),送信機(XMTR)64から制御プロセッサ58へ信号が送られ、送信電力が示される。制御プロセッサ58は送信電力を所定のしきい値と比較し、この比較に従って、可変レートデータソース60へレート組表示を送る。
閉ループ電力制御を実現したものでは、電力制御信号が基地局30から移動局50へ送られる。基地局30が電力制御信号を判断する方法は基地局30がリンク品質を判断するのに使用するリンク特性に依存している。例えば、基地局30は受信した電力に従って、あるいはそれに代ってフレーム誤差レートに従って、電力制御信号を判断する。この発明は他のリンク品質因子にも等しく応用できる。
リンク品質因子として使われたものが受信電力のときは、移動局50からの信号で基地局30がアンテナ40で受信したものは受信機(RCVR)42に送られ、そこで受信電力を示すものが制御プロセッサ46に対して用意される。使用されたリンク品質因子がフレーム誤差レートであるときは、受信機42は信号をダウン変換し、復調して、復調した信号をデコーダ44に送る。デコーダ44は誤差レートを示すものを判断し、誤差レートを示す信号を制御プロセッサ46に送る。
制御プロセッサ46は送られてきたリンク品質因子をしきい値またはしきい値の組であって定常的でも可変でもよいものと比較する。そして、制御プロセッサは電力制御情報をエンコーダ34又は電力制御エンコーダ(P.C.ENC.)47に送る。電力制御情報がデータフレーム内に符号化されるべきものであるときは、電力制御データはエンコーダ34に送られる。この方法はデータの全フレームが電力制御データを送信する前に処理されることを必要とする。次に、符号化されたトラヒックデータと電力制御データのフレームが送信機(XMTR)36に送られる。電力制御データは単にデータフレームの部分に書込むのでもよいし、伝送フレーム内の所定の空いた位置に置かれてもよい。電力制御データがトラヒックデータの上に書くのであれば、これは移動局50で前進誤差補正技術によって補正される。
電力制御データを用意する前にデータの全フレームを処理するような構成を実現する際は、遅延の原因となり、高速フェード条件で好ましくない。代替手段として電力制御データを直接に送信機36に送り、そこで送出するデータ流の中に刺し込められる(be punctured)ようにする。電力制御データが誤差補正符号化なしに送信されるときは、電力制御エンコーダ47は電力制御データを送信機36に単に送る。誤差補正符号化が電力制御データ用に好ましく、データの全フレームが処理されるのを待つ遅延が生じないのであれば、電力制御エンコーダ47は送出するトラヒックデータとは無関係に電力制御データの符号化を提供する。送信機36は信号をアップ変換し、変調して、送信のためにアンテナ38に送る。
送信された信号はアンテナ52で受信され、受信機(RCVR)54に送られ、そこでダウン変換されて、復調される。電力制御データがトラヒックデータの全フレームで符号化されているときは、トラヒック及び電力制御データがデコーダ56に送られる。デコーダ56は信号をデコードし、電力制御信号をトラヒックデータから分離する。
一方、電力制御データがデータの全フレームで符号化されてはおらず、データの伝送流の中に刺し込まれているときは、受信機54は電力制御データを到来データ流から抽出して、符号化したデータを電力制御デコーダ(P.C.DEC)55に送る。電力制御データが符号化されているときは、電力制御デコーダ55は電力制御データをデコードし、デコードした電力制御データを制御プロセッサ58に送る。電力制御データが符号化されていないときは、データは受信機54から制御プロセッサ58に直接に送られる。
電力制御信号は制御プロセッサ58に送られ、そこでは電力制御信号に従って、可変レートデータソース60へ適切なレートの組を示す信号を送るか、送信機64へ修正された電力レベルを示す送信信号を送る。
基地局30は伝送されたフレームのデータレートを演繹的に知っていないから、フレーム内でデータの冗長度あるいはフレームのデータレートに従って電力が変化する構成では、受信したリンク品質特性からの電力制御信号の判断は、レートに依存したものとなる。」(14頁23行?19頁11行)

2.引用例1に記載された引用発明

(1)CDMA通信方式の無線通信装置

上記摘記事項(1)には、「関連する技術」として「符号分割多重アクセス(CDMA)変調技術」が使用されるものであることが記載されており、
上記摘記事項(3)の13頁7?8行目に、「・・・実施例では基地局4と移動局6との間で伝送される信号はスペクトラム拡散通信信号で・・・」と記載があること、上記摘記事項(4)の16頁18?20行にも、「・・・第三の理由はCDMAシステムの実施例の場合で・・・」と記載があることから、CDMA通信方式に係る技術であることが記載されている。
そして、上記摘記事項(2)の「発明の要約」の11頁26行?12頁5行には、「・・・この発明は・・・第一の通信装置が・・・データパケットを、第二の通信装置に向けて伝送するようになされ・・・第一の通信装置の送信電力を第二の通信装置で制御するためのシステム・・・」であると記載され、図1や図3を参照すると、上記第一の通信装置と上記第二の通信装置間で、無線を用いた通信が行われることが記載されているから、上記通信装置は、無線通信装置であることが記載されている。
以上から、引用例1には、CDMA通信方式の無線通信装置が記載されている。

(2)通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段と、切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機

上記摘記事項(4)の15頁20?26行には、「通信リンクの等級が落ちるときは、リンク上を伝送するデータレートを低げ・・ることによって、リンクの品質を改善することができる」ことが記載され、同16頁13?20行には、「データリンクを強固なものとするためにそのリンクの送信電力を増大する代りにデータ伝送レートを低減させるのが好ましいことがしばしばある。リンク接続を改善するためにデータレートを低減させる3つの理由がある。・・・第三の理由はCDMAシステムの実施例の場合で、使用者の送信が基地局に向けて送信している他の使用者に対して雑音となり、この干渉を抑制することが望ましい場合である。」と記載されていることからみて、本願発明の課題(本願明細書第6段落)と同様な課題に基づき、データ伝送レートを切り替えるものであることが記載されている。

上記摘記事項(4)の16頁21?26行における、「・・・移動局50が伝送レートを修正する必要を検出したときは、移動局50内の制御プロセッサ58は可変レートデータソース60に対して修正したレートの組を特定する信号を送る。修正したレートの組はデータソース60がデータを送出することを許されている一組のレートである。修正されたレート信号に応答して、可変レートデータソース60は修正されたレートの組の中で伝送用にすべてのデータを用意する。・・・」の記載、同摘記事項(4)の17頁15行?19頁11行の「基地局30が電力制御信号を判断する方法は基地局30がリンク品質を判断するのに使用するリンク特性に依存している。例えば、基地局30は受信した電力に従って、・・・電力制御信号を判断する。この発明は他のリンク品質因子にも等しく応用できる。リンク品質因子として使われたものが受信電力のときは、移動局50からの信号で基地局30がアンテナ40で受信したものは受信機(RCVR)42に送られ、そこで受信電力を示すものが制御プロセッサ46に対して用意される。・・・制御プロセッサ46は送られてきたリンク品質因子をしきい値またはしきい値の組であって定常的でも可変でもよいものと比較する。・・・そして、制御プロセッサは電力制御情報をエンコーダ34又は電力制御エンコーダ(P.C.ENC.)47に送る。・・・電力制御データのフレームが送信機(XMTR)36に送られる。・・・送信された信号はアンテナ52で受信され、受信機(RCVR)54に送られ、・・・復調される。・・・デコーダ56は信号をデコードし、電力制御信号を・・・分離する。・・・電力制御データが符号化されているときは、電力制御デコーダ55は電力制御データをデコードし・・・電力制御信号は制御プロセッサ58に送られ、そこでは電力制御信号に従って、可変レートデータソース60へ適切なレートの組を示す信号を送るか、送信機64へ修正された電力レベルを示す送信信号を送る。・・・フレーム内でデータの冗長度あるいはフレームのデータレートに従って電力が変化する構成では、受信したリンク品質特性からの電力制御信号の判断は、レートに依存したものとなる。」の記載、及び図3の構成を参酌すると、基地局30の「制御プロセッサ46」が、移動局50から受信した電力の「リンク品質因子」と「しきい値」との比較を行い、その結果に基づいて「電力制御情報」を「電力制御データ」として移動局50に送り、移動局50で、「電力制御信号」が取り出され、移動局の送信機64からの送信伝送レートが切り替えられるものとなっている。
ここでは、「制御プロセッサ46」からの電力制御信号により、移動局50の伝送レートを切り替えているのであるから、伝送レートを切り替える手段が存在しているということができる。また、移動局50において行われる伝送レートの切り替えは、通信相手である基地局30におけるリンク品質因子に基づいて行われるものである。すると、引用例には、通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替える手段が記載されているということができる。
なお、上記伝送レート切り替えに従って、基地局の送信機64からは、切り替えられた伝送レートで、フレームが送信されるのであるから、引用例には、切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機も存在しているということができる。

以上から、引用例1には、通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替える手段と、切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機が記載されている。

したがって、上記(1)?(2)によれば、引用例1の上記摘記事項(1)?(4)及び図面(図1、図3)には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替える手段と、
切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機と、
を具備するCDMA通信方式の無線通信装置。」

3.引用例2の記載事項
当審で通知した拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された「土肥智弘、奥村幸彦、東明洋、大野公士、安達文幸、『コヒーレント・マルチコードDS-CDMA方式の伝送実験結果』、電子情報通信学会技術研究報告(RCS96-1)、日本、1996年4月26日発行、第96巻、第29号、第1?6頁」(以下、「引用例2」という。)には、「コヒーレント・マルチコードDS-CDMA方式の伝送実験結果」に関して、図面とともに下記の事項が記載されている。

(1)「(1)所要Eb/l0(情報1ビット当たりの信号電力対干渉電力および背景雑音電力密度比)を低減しセル容量を増大させるために上り・下り両リンクにパイロットシンボル内挿補間型絶対同期検波[7]を適用している。」(2頁左欄10?13行)

(2)「インターリーブされた符号化データは1?5シンボル(2ビット/シンボル)のパイロットと送信電力制御(TPC)データ(1シンボル)と多重化され、各スロットに配置される。したがって、パイロット周期Tplt、TPC周期Tplcはともに1.25msである。」(2頁右欄14行?3頁左欄4行)

(3)「マルチパス数(L)の増加にともない特性が改善されている。」(3頁左欄45?46行)

(4)「送信電力制御の精度と誤り訂正能力はともにフェージングの最大ドップラー周波数fDに依存する。」(4頁左欄6?7行)

(5)「3.3 直交化マルチコード伝送
直交化Gold符号を用いた直交化マルチコード伝送特性を測定した。fDTplt=0.005(fD=4Hz)のとき、コードチャネル数に対する所要Eb/l0(BER=10^(-3))を図7に示す。3マルチパスの相対時間遅延は0,0.1,0.2μsである。RAKEの窓幅は6チップとした。送信電力制御を用いた場合、L=1のときは、直交性が保たれているためコードチャネル数に関係なく所要Eb/l0はほぼ一定である。しかしながら、L>1のときは、パス間の干渉が増加するためにコードチャネル数の増加にともない所要Eb/l0は増加している。」(4頁右欄1?10行)

4.引用例2に開示された技術的事項

(1)Eb/l0、Tplc、L、fDの説明
上記摘記事項(1)には、「Eb/l0」が「情報1ビット当たりの信号電力対干渉電力および背景雑音電力密度比」であることが記載され、上記摘記事項(2)には、「Tplc」が「送信電力制御の周期」であることが記載され、上記摘記事項(3)には、「L」が「マルチパス数」であることが記載され、上記摘記事項(4)には、「fD」が「最大ドップラー周波数」であることが記載されている。

(2)マルチコードの伝送特性
上記摘記事項(5)には、「マルチコード」を用いる場合の伝送特性が図7に示され、「L>1のときは、パス間の干渉が増加するためにコードチャネル数の増加にともない所要Eb/l0は増加している。」の記載がある。
ここで、上記(1)のとおり、「L」は「マルチパス数」であり、「Eb/l0」は「情報1ビット当たりの信号電力対干渉電力および背景雑音電力密度比」のことである。
そして、技術常識を参酌すると、マルチコードは多重コードのことであり、コードチャネルは、多重コードにより形成されるチャネルであるから、コードチャネル数は多重コード数と同じ数であることは明らかである。
また、所要の受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比は、必要とされる受信品質のことであるということができる。
以上から、引用例2には、マルチパスが存在するときは、パス間の干渉が増加するために多重コード数の増加にともない、必要とされる受信品質が増加することが記載されている。

したがって、上記(1)?(2)によれば、引用例2の上記摘記事項(1)?(5)及び図7には、以下の技術的事項が開示されている。

(引用例2に開示された技術的事項)
「マルチパスが存在するときは、パス間の干渉が増加するために多重コード数の増加にともない、必要とされる受信品質が増加する。」

第3 対比
1.本願発明と引用発明の対比

(1)「通信相手における受信品質情報と、多重コード数にしたがって設定された閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段」について
本願発明は、通信相手における受信品質情報と、多重コード数にしたがって設定された閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える手段を有するものであるところ、
引用発明も、通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替える手段を有するものである。
また、引用発明の「リンク品質因子」は、受信信号の品質の情報のことであるから、本願発明の「受信品質情報」と同じものであり、
引用発明の「しきい値」は、本願発明の「閾値」のことであり、
引用発明の「送信伝送レートを切り替える手段」は、送信する信号の伝送レートを切り替える手段のことであるから、本願発明の「送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段」と同じである。

すると、本願発明の「通信相手における受信品質情報と、多重コード数にしたがって設定された閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段」は、引用発明の「通信相手におけるリンク品質因子と、しきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替える手段」と、 通信相手における受信品質情報と、閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段 である点で一致する。

しかしながら、本願発明では、「多重コード数」にしたがって「閾値」が設定されるのに対し、引用発明では、多重コード数にしたがって「しきい値」が設定されるものとはされていない点で相違する。

(2)「切り替えられた伝送レートで送信信号を送信する送信手段」について
本願発明は、切り替えられた伝送レートで送信信号を送信する送信手段を有するものであるところ、引用発明も、切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機を有するものであって、
引用発明の「送信機」は、本願発明の「送信手段」であり、
引用発明の「送信機」が送信する「フレーム」は、本願発明の「送信信号」のことであるから、
本願発明の「切り替えられた伝送レートで送信信号を送信する送信手段」は、引用発明の「切り替えられた伝送レートで、フレームを送信する送信機」と一致する。

2.よって、上記(1)?(2)から、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また相違している。

(一致点)
「通信相手における受信品質情報と、閾値との比較結果に基づいて送信信号の伝送レートを切り替える伝送レート切り替え手段と、
切り替えられた伝送レートで送信信号を送信する送信手段と、
を具備するCDMA通信方式の無線通信装置。」

(相違点)
本願発明では、「多重コード数」にしたがって「閾値」が設定されるのに対し、引用発明では、多重コード数にしたがって「しきい値」が設定されるものとはされていない点。

第4 当審の判断
1.相違点について
(1)引用発明は、CDMA通信方式の無線通信装置に係る発明であるが、当該CDMA通信方式の技術常識に照らして考えれば、複数のユーザが用いるチャネルを多重化させるために、複数の多重コードを用いることは普通に行われることであるから、引用発明においても、当然、複数の多重コードが用いられることにより、複数のユーザが使うチャネルが多重化され得るものであると考えられる。

(2)また、引用発明は、リンク品質因子の値としきい値との比較結果に基づいて送信伝送レートを切り替えるようにしたものであるが、以下の点を勘案すると、そのリンク品質因子として具体的にどのようなものを用いるかは、当業者が適宜決定し得た事項であると認められる。
ア.引用例1には、リンク品質因子の例として、受信電力、フレーム誤差レートが示されるとともに、それ以外のものでもよい旨の記載もある(上記引用例1の摘記事項(4)の「この発明は他のリンク品質因子にも等しく応用できる。」の記載参照)。
イ.引用例1の記載全体から把握される引用発明の課題解決原理に照らしても、受信品質を表す値であればどのようなものでも引用発明のリンク品質因子として使用され得ると考えられる。

(3)一方、引用例2に開示される技術的事項でいう「受信品質」は、より具体的には「受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比」であるが、これも、「受信品質」を表す値の一種であるから、当然に、引用発明におけるリンク品質因子として使用され得るものであるし、上記「受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比」が単なる受信電力よりも受信品質をより的確に表すことができる指標であることは当業者に周知のことである。
してみれば、引用発明において該「受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比」を「リンク品質因子」として使用することは、当業者が容易に推考し得たことである。

(4)そして、上記(1)?(3)の事情と、引用例2に「多重コード数の増加にともない、必要とされる受信品質(「受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比」)が増加する」という知見が示されているという事情を併せ考えると、上記(3)にしたがって引用発明において上記「受信信号電力対干渉電力および背景雑音電力比」をその「リンク品質因子」として使用する場合に、上記リンク品質因子の比較基準である「しきい値」を多重コード数に応じたものとすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。
この点に関し、審判請求人は、「引用例2には、多重コード数が増加しても、必要とされる受信品質の変化は僅かである旨記載されているので、引用例2に接した当業者は、引用発明の閾値を多重コード数に応じたものにしようとは考えないはずである。」といった趣旨の主張をし、それを根拠に本願発明の進歩性が肯定されるべき旨主張しているが、以下の理由で採用できない。
ア.引用例2において「多重コード数の増加に伴う必要受信品質の変化」が僅かであるとされているのは、特定の条件下においてであり、使用する符号間の直交性の程度、マルチパスや雑音電力の状況等が異なる場合に、無視し得ない程度の必要受信品質の変化が生じる可能性があることは、引用例2に接した当業者が十分に予測し得ることである。
イ.「多重コード数の増加に伴う必要受信品質の変化」が僅かであるとしても、その変化があり得る以上、それに対する対策を試みるのは普通のことである。特に、高い受信精度と伝送効率の両立が求められるようなケースにおいては、当然に考えられることである。
ウ.「引用例2に接した当業者は、引用発明の閾値を多重コード数に応じたものにしようとは考えないはずである。」という上記請求人の主張は、本願発明が上記相違点に係る構成を採用していることと矛盾するものである。本願発明において上記相違点に係る構成が採用されているという事実は、上記ア、イのことが正しいことの証左ともいえる。
エ.仮に、本願発明が、「多重コード数の増加に伴う必要受信品質の変化が僅かである」という引用例2に示される知見に反する事実を新たに発見した、等の格別の事情に基づくものであるならば、本願発明に進歩性を認める余地があるとも考えられるが、本願明細書にはそのような格別の事情をうかがわせる記載は一切ないから、そのような観点からも、本願発明に進歩性を認めることはできない。

(5)以上のことは、引用発明において、上記相違点にかかる本願発明の構成を採用することが、当業者にとって容易であったことを意味している。

2.本願発明の効果について
本願発明が奏する効果は、いずれも引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び技術常識から当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものではない。

3.したがって、本願発明は引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び技術常識に基づいて、容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2に開示された技術的事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-18 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-09 
出願番号 特願平11-111301
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 庸介  
特許庁審判長 長島 孝志
特許庁審判官 小曳 満昭
猪瀬 隆広
発明の名称 無線通信装置及び伝送レート制御方法  
代理人 鷲田 公一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ