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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03G
管理番号 1263681
審判番号 不服2011-6563  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-09 
確定日 2012-09-18 
事件の表示 特願2005-168832「テコの原理で回転する発電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日出願公開、特開2006-307822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年4月26日の出願であって、平成18年9月1日付けで手続補正書が提出され、さらに平成20年7月28日付け(差出日:平成20年7月29日)で手続補正書が提出されて平成18年9月1日付けの手続補正書の補正がなされた後、平成22年8月31日付けで拒絶理由が通知され、平成22年10月28日付けで意見書が提出されたが、平成22年12月6日付けで拒絶査定がなされ、平成23年3月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成23年5月21日付けで審判請求書について手続補正がなされ、その後、当審において平成24年2月28日付けで拒絶理由が通知され、平成24年5月4日付けで意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1ないし4に係る発明は、上記平成20年7月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び平成18年9月1日付けの手続補正書によって補正された明細書並びに願書に添付された図面の記載からみて、その【発明の名称】に記載された「テコの原理で回転する発電装置」に関するものであると認められるところ、特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
(図2)の様に大径ロール(1)の支点は発電機(10)のプーリ(5)と大径ロールの始動時補助モータ(8)で回すサポートロール(6)の2つによって、より大きなテコの原理による重力差を得るため、大径ロールの一方の辺の内と外から支える。又大径ロールが安定的に回転する様に、溝(2)にプーリ及びサポートロールがはまり込む。
【請求項2】
(図2)の様に大径ロールの溝(2)に、大径ロールの中心線に対して、ある角度をもって一定方向に液体(4)を入れた筒型羽根(3)を固着する。
【請求項3】
(図2)の様に固着した数枚の筒型羽根(3)のうち、水平の中心線近くに来た支点の左右2枚の筒型羽根の内部の液体(4)が、筒型羽根の傾斜に沿って右から左に移動し、支点に対して左右の液体の重力にテコの原理で、トータル的に大きな重力差が生じ、それが大径ロール(1)に連続的に反時計方向の回転力を生み、プーリ(5)及び発電機(10)を回し発電する。
【請求項4】
発電機(10)の回転は大径ロール(1)との回転比によるが、大径ロールの回転は大径ロールの直径及び筒型羽根(3)の全長と、液量(4)によって調整する。」

第2 当審における拒絶理由の概要
当審における平成24年2月28日付けの拒絶理由通知は、以下のとおりのものである。

「【理由1】
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

【理由2】
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

【理由3】
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.理由1(発明の詳細な説明の記載について)
(1)プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって、大径ロール(1)を支えつつ、大径ロール(1)に回転力が生じる理由が不明確である。
すなわち、段落【0004】には、本件特許出願に係る発明の原理として、
「その筒型羽根を固着した大径ロールは発電機(10)のプーリ(5)と、大径ロールの始動時補助モータ(8)で回すサポートロール(6)の2つによって、より大きなテコの原理による重力差を得るため大径ロールの一方の辺の内と外から支える。」、及び、
「支点の左側の液体の重力はテコの原理による作用で非常に大きく、又反対に右側の液体の重力はテコの原理による作用が小さいので従ってトータル的に左右の液体の重力に大きな重力差が生じ、それが大径ロールに反時計方向の回転力を生み、」
と記載されている。
そこで、本発明の力学的な系を検証してみると、プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって、大径ロール(1)を支えることができる状態とは、液体(4)を入れた筒型羽根(3)が固着された大径ロール(1)に生じる重力を、プーリ(5)とサポートロール(6)が鉛直方向上向きの力で支える状態、言い換えれば、大径ロール(1)、筒型羽根(3)及び液体(4)の重力と、サポートロール(6)に発生する抗力の鉛直方向上向きの分力の和とが釣り合う状態にあると考えられる。
このような状態において、発電機(10)のプーリ(5)を支点としてみた場合、液体(4)を入れた筒型羽根(3)が固着された大径ロール(1)により、支点の左右の液体の重力の違いで、トータル的に大きな重力差が生じることは認めるものの、サポートロール(6)が大径ロール(1)を支えるための抗力が、図2において時計回りに働くため、結果として両者の支点周りの回転モーメントは釣り合うと解される。したがって、大径ロール(1)に回転力が生じるとは認められない。
仮に、液体(4)を入れた筒型羽根(3)が固着された大径ロール(1)の重力により生じる回転モーメントが、サポートロール(6)が大径ロール(1)を支えるための抗力により生じる回転モーメントよりも大きい場合、大径ロール(1)は、プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって支えられない状態となるため、大径ロール(1)の回転中心を図2における2軸の交点の位置に保ちつつ、回転することは不可能であると解される。

なお、上述のとおり、大径ロール(1)に生じる重力では回転エネルギを取り出せないと解される一方、プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって、大径ロール(1)を支えた状態で、大径ロールを補助モーターの助けでサポートロールを介して回転(段落【0004】)した場合、補助モータ(8)による回転エネルギを一時的には発電機(10)により電気エネルギとして回収することは可能であるとは解される。ただし、大径ロール(1)とプーリ(5)及びサポートロール(6)との間の動力伝達損失、プーリ(5)及びサポートロール(6)を支持する軸受等の支持部材との摩擦損失、発電機(10)の発電効率等を鑑みれば、補助モータを回転させるために投入した電気エネルギに比べて、発電機(10)で回収できる電気エネルギの方が少ないことは明らかである。

したがって、プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって、大径ロール(1)を支えつつ、テコの原理によって大径ロールに回転力を有む原理が不明確であり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

(2)段落【0006】における、「大径ロールの中の3/5に筒型羽根、2/5にサポートロールを設置」とは、何を意味しているのかが不明である。

2.理由2(特許請求の範囲の記載について)
(1)請求項1ないし3において「(図2)の様に」と記載されているが、図面の記載は多義的な解釈が可能であるため、結果として請求項1ないし3に係る発明の技術的範囲が不明確である。

(2)請求項1ないし4に係る発明は、特許を受けようとする発明のカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)が不明確であるため、結果として各発明の権利の及ぶ範囲が不明確である。

(3)特許請求の範囲には請求項1から請求項4までの発明が記載されているが、特許請求の範囲をこのように記載した場合、請求項ごとに独立した4つの発明を権利化する意思があるとみなされる。
他方、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、請求項1から4までに記載された事項をすべて含むものが、本件特許出願に係る発明であるとも見受けられる。
もし、後者が審判請求人の本意であって、かつ、この拒絶理由通知に対して意見書等による反論をするのであれば、現在の請求項1ないし4に記載された事項をまとめて請求項1に記載する手続補正を行う等、併せて検討されたい。

3.理由3(特許法第29条第2項の要件について)
(1)請求項2に係る発明について
上記2.(3)にて述べたとおり、特許請求の範囲には4つの独立した発明が記載されており、そのうち、請求項2には、次のとおり記載されている(なお、請求項2では、「プーリ(5)」及び「サポートロール(6)」について、何ら特定されていないことに留意されたい。)。
「 【請求項2】
(図2)の様に大径ロールの溝(2)に、大径ロールの中心線に対して、ある角度をもって一定方向に液体(4)を入れた筒型羽根(3)を固着する。」

上記2.(1)にて述べたとおり、「(図2)の様に」との記載は不明確であり、上記2.(2)にて述べたとおり、特許を受けようとする発明のカテゴリーは不明であるが、当該記載と本件特許出願の発明の名称から、当該請求項2に係る発明は、
「大径ロールの溝(2)に、大径ロールの中心線に対して、ある角度をもって一定方向に液体(4)を入れた筒型羽根(3)を固着するテコの原理で回転する発電装置。」
であると認められる。

(2)刊行物に記載された発明
本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である特開昭52-29550号公報には、発明の詳細な説明及び図面の記載からみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「回転軸(1)に、回転軸の中心線に対して、ある角度をもって一定方向に水銀(5)を入れたタンク(4)を固着する自動回転装置。」

(3)対比・判断
請求項2に係る発明と引用発明とを対比すると、次の点で相違し、その余の点で一致する。
請求項2に係る発明においては、大径ロールの溝(2)に筒型羽根(3)を固着しているのに対し、引用発明においては、回転軸(1)に溝を有するのか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。
当該相違点について検討するに、回転体の周囲に部材を取り付けるにあたり、当該回転体に溝を設け、その溝に取り付けることは、当業者が適宜なし得ることであって、引用発明の回転軸(1)に溝を設け、その溝にタンク(4)を固着することになんら困難性は認められない。
また、請求項2に係る発明を全体として検討しても、引用発明から予測される以上の格別な効果を奏するものとは認められない。
したがって、請求項2に係る発明は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 」

第3 当審における拒絶理由についての検討・判断

1.意見書の内容
当審における拒絶理由に対して、審判請求人は平成24年5月4日付けの意見書において、次のとおり反論した。

「1 理由1
大径ロール(1)に回転力が生じる理由が不明確であるとして、それについて、3つの疑問があげられております。
これについて説明致します。
本願の図2大径ロール(1)の支点である、発電機(10)のプーリ(5)とサポートロール(6)が大径ロール(1)の一方の辺の内と外から支持する。
その大径ロールの支点の発電機のプーリの左右のテコの長短は15?20倍程に設定し支点の左側のテコが長く、テコの極端な長さの相違によって、テコの原理作用で大きな重力差を生み、それが大径ロールに反時計方向の回転力を生じる。
例えば自転車をこいで、急な坂道を登る時に、ペタルをこぐ力が弱いと、自転車は前進せず時にはあとずさりをする、自転車が停止するのはペタルをこぐ力と自転車があとずさりしようとする力がバランスして停止する。しかしあとずさりしようとする力に抗して強い力でペタルをこぐと自転車は前進する。このようにテコの原理作用による大きな重力差で大径ロールは回転する。
次に発電機(10)で発電した電気をサポートロール(6)のモータの電源として使用すると、発電機で発電した電気を使い切るので、発電効果がないとの指摘ですが、これも発電機に改良を加えて大きな出力の発電機を設置する。
2 理由2
特許請求の範囲の記載について、
本願は物の発明でもあり又方法の発明、物を生産する方法の発明でもあります。
従って、特許の権利取得の範囲はできるだけ広範囲に漠然と取る方が有利である考えます。
3 理由3
刊行物に記載された発明
本件特許出願前に頒布された刊行物である特開昭52-29550号と本願は構造も作動原理も相違し、対比することすら不可思議ですらある。
本願は大径ロール(1)をテコの原理作用で発生する大きな重力差で回転させ、それに接しているプーリ(5)を介して発電機(10)を回し発電する。
そのためにはテコの原理作用を最大限に引き出すために、大径ロールの一方の辺に支点であるプーリを設ける。それに反して特開昭52-29550は回転体の中心に回転軸が設けてあり、図面を1目見ただけで本願とは大きく相違することが分る。特開昭52-29550の発明の詳細な説明のどこにもテコの原理作用という字句は入っていない。
そもそも本願と特開昭52-29550とは発想の段階からして相違し、従って構造も作動原理も全く異なる。」

2.当審における拒絶理由に対する意見書についての検討・判断

2.-1 理由1(発明の詳細な説明の記載について)
審判請求人は、意見書において「その大径ロールの支点の発電機のプーリの左右のテコの長短は15?20倍程に設定し支点の左側のテコが長く、テコの極端な長さの相違によって、テコの原理作用で大きな重力差を生み、それが大径ロールに反時計方向の回転力を生じる。」と記載しているが、大径ロール(1)とプーリ(5)との接点を支点と考えたときに、図2において大径ロール(1)の左側に生じる回転モーメントは、大径ロール(1)とサポートロール(6)との接点において、サポートロール(6)が大径ロール(1)を支える力によって生じるモーメントと釣り合い、回転力は生じないものと考えられる。
したがって、当審における拒絶理由に対する上記意見書の内容を検討しても、プーリ(5)とサポートロール(6)の2つによって、大径ロール(1)を支えつつ、テコの原理によって大径ロール(1)に回転力を発生する原理はなお不明確であり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1ないし4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

2.-2 理由2(特許請求の範囲の記載について)
特許請求の範囲の記載は、これに基づいて新規性進歩性等の特許要件の判断がなされ、また特許発明の技術的範囲が定められるという点において重要な意義を有するものであり、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要である。また、特許発明のカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)が不明確である場合には、その権利の及ぶ範囲が不明確になることから、特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明のカテゴリーが明確となるように記載する必要がある。
これに対し、本願は、特許請求の範囲の記載が、上記当審における拒絶理由の理由2の(1)及び(2)に記載した点(上記第2.理由2の理由2(特許請求の範囲の記載について)参照。)で、明確でない。

2.-3 理由3(特許法第29条第2項の要件について)
審判請求人は、意見書において、本願の請求項1ないし4に係る発明は、特開昭52-29550号公報に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とは、構造と作動原理が異なるものである旨を主張している。
しかし、本願の請求項2に係る発明は、当審における拒絶理由の理由3の(1)に記載したように、特許請求の範囲の請求項2の記載と発明の名称から、「大径ロールの溝(2)に、大径ロールの中心線に対して、ある角度をもって一定方向に液体(4)を入れた筒型羽根(3)を固着するテコの原理で回転する発電装置。」(以下、「本願発明2」という。)であると認められる。
したがって、本願発明2と引用発明との相違点は、本願発明2においては、大径ロールの溝(2)に筒型羽根(3)を固着しているのに対し、引用発明においては、回転軸(1)に溝を有するのかが明らかでない点である。そして、引用発明の回転軸(1)に溝を設け、その溝にタンク(4)を固着することに何ら困難性は認められない。
また、上記2.-1に記載したように、テコの原理によって大径ロールに回転力を発生する原理はなお不明確であって、発電装置によって発電を行うとの作用効果は認められないから、本願発明2を全体として検討しても、引用発明から予測される以上の格別な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明2は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第3 むすび
以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。また、本願発明2は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-06 
結審通知日 2012-07-17 
審決日 2012-07-30 
出願番号 特願2005-168832(P2005-168832)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F03G)
P 1 8・ 121- WZ (F03G)
P 1 8・ 536- WZ (F03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 茂夫  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
中川 隆司
発明の名称 テコの原理で回転する発電装置  

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