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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41J
審判 一部無効 2項進歩性  B41J
審判 一部無効 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  B41J
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B41J
管理番号 1263708
審判番号 無効2009-800091  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-05-08 
確定日 2012-09-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3793216号発明「液体インク収納容器、液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許第3793216号に係る手続の概要

本件特許第3793216号に係る手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成16年11月15日 特願2004-330952号出願
(優先権主張日 平成15年12月26日、平成
16年10月22日)
平成18年 4月14日 本件特許第3793216号の設定登録(請求項
1?16)
平成21年 1月 9日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の請求項1に係る発明についての特許無効審判
請求(無効2009-800006号)
平成21年 1月 9日 フューチャーウェルホールディングリミテッドに
よる特許第3793216号の請求項1に係る発
明についての特許無効審判請求(無効2009-
800007号)
平成21年 1月28日 無効2009-800006号及び無効2009
(起案日) -800007号の併合
平成21年 4月 6日 訂正請求(無効2009-800006号及び無
効2009-800007号に対して)
平成21年 5月 8日 田口哲也他2名による特許第3793216号
明の特許請求の範囲の請求項1及び請求項5に記
載された発明についての特許無効審判請求(無効
2009-800091号)
平成21年 5月19日 株式会社プレジール他4名による特許第3793
216号の請求項1?16に係る発明についての
特許無効審判請求(無効2009-800101
号)
平成21年 5月29日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の請求項5に係る発明についての特許無効審判
請求(無効2009-800113号)
平成21年 5月29日 フューチャーウェルホールディングリミテッドに
よる特許第3793216号の請求項5に係る発
明についての特許無効審判請求(無効2009-
800114号)
平成21年 6月16日 無効2009-800113号及び無効2009
(起案日) -800114号の併合
平成21年 6月25日 無効2009-800006号及び無効2009
(起案日) -800007号の併合分離
平成21年 6月30日 エステー産業株式会社による特許第379321
6号の請求項1及び5に係る発明についての特許
無効審判請求(無効2009-800141号)
平成21年 7月27日 訂正請求(無効2009-800091号に対し
て)
平成21年 8月 3日 訂正請求(無効2009-800101号に対し
て、以下「101号訂正」という。)
平成21年 8月18日 訂正請求(無効2009-800113号及び無
効2009-800114号に対して)
平成21年 8月24日 無効2009-800006号につき「特許第3
(起案日) 793216号の請求項1に係る発明についての
特許を無効とする。」との審決及び無効2009
-800007号につき「特許第3793216
号の請求項1に係る発明についての特許を無効と
する。」との審決(以下、まとめて「第1審決」
という。平成21年4月6日付けの訂正は認めて
いない。)
平成21年 9月 3日 第1審決の送達(各請求人及び被請求人)
平成21年 9月14日 無効2009-800006号についての審決取
消訴訟(平成21年(行ケ)第10275号)
平成21年 9月14日 無効2009-800007号についての審決取
消訴訟(平成21年(行ケ)第10276号)
平成21年 9月15日 特許第3793216号についての訂正審判請求
(訂正2009-390110号)
平成21年 9月24日 訂正請求(無効2009-800141号に対し
て)
平成21年11月 5日 無効2009-800007号の第1審決につい
ての差戻し決定(平成21年(行ケ)第1027
6号)
平成21年11月 6日 無効2009-800006号の第1審決につい
ての差戻し決定(平成21年(行ケ)第1027
5号)
平成21年12月17日 無効2009-800091号及び無効2009
(起案日) -800141号事件の手続中止
平成21年12月21日 訂正審判請求の取下げ(訂正2009-3901
10号)
平成21年12月25日 無効2009-800006号、無効2009-
800007号、無効2009-800113号
及び無効2009-800114号の無効審判請
求の取下げ
平成22年 1月26日 無効2009-800101号につき「訂正を認
(起案日) める。特許3793216号の請求項1ないし7
に係る特許を無効とする。」との審決(以下「第
2審決」という。)
平成22年 2月 5日 第2審決の謄本の送達(各請求人及び被請求人)

(第2審決で認めた101号訂正のうち、特許請求の範囲について、請求項3、請求項4、請求項6ないし10、請求項14、請求項15を削除する訂正、及び、明細書について、段落0014ないし段落0016の記載を削除する訂正は、第2審決の謄本が当事者へ送達されたことにより平成22年2月5日に確定した。)

平成22年 2月17日 第2審決に対する審決取消訴訟(平成22年(行
ケ)第10056号)
平成23年 2月 8日 第2審決を取り消すとの判決(平成22年(行ケ
)第10056号)
平成23年 2月 8日 特許第3793216号の請求項1(101号訂
正後の請求項1)及び請求項5(101号訂正後
の請求項3)についての特許権侵害差止請求控訴
事件(平成22年(ネ)第10063号及び平成
22年(ネ)第10064号)判決
平成23年 9月29日 第2審決を取り消すとの判決(平成22年(行ケ
)第10056号)確定
平成23年10月13日 第2審決の一部確定登録(平成21年8月3日付
け訂正請求書において、特許請求の範囲について
する訂正のうち、訂正前の請求項3、請求項4、
請求項6ないし請求項10、請求項14、請求項
15を削除する訂正、並びに特許明細書について
する訂正のうち、段落【0014】ないし【00
16】を削除する訂正を認める。)
平成23年11月10日 エステー産業株式会社及び株式会社プレジールに
よる特許第3793216号の請求項1及び5に
係る発明についての特許無効審判請求(無効20
11-800230号)
平成23年11月15日 無効2009-800101号につき「訂正を認
(起案日) める。本件審判の請求は、成り立たない。」との
審決(以下「第3審決」という。)
平成23年11月25日 第3審決の送達(各請求人及び被請求人)
平成23年12月 2日 無効2011-800230号事件の手続中止
(起案日)
平成23年12月26日 第3審決(無効2009-800101号)確定

(101号訂正のうちの平成22年2月5日に確定した部分以外の部分(残余の部分)は、第3審決が確定したことにより平成23年12月26日に確定した。101号訂正後の請求項1及び3を以下「訂正請求項1及び3」という。)

平成24年 1月19日 第3審決の確定登録(訂正を認める 不成立)
平成24年 1月20日 無効2009-800091号、無効2009-
(起案日) 800141号及び無効2011-800230
号の手続中止解除
平成24年 2月16日 訂正請求取下げ(無効2009-800091号
に対しての平成21年7月27日付け訂正請求及
び無効2009-800141号に対しての平成
21年9月24日付け訂正請求)
平成24年 3月 1日 株式会社オーム電機による特許第3793216
号の訂正請求項1及び3に係る発明についての特
許無効審判請求(無効2012-800017号
)
平成24年 5月 1日 エステー産業株式会社及び株式会社プレジールに
よる特許第3793216号の訂正請求項1及び
3に係る発明についての特許無効審判請求(無効
2012-800068号)
平成24年 7月12日 無効2009-800141号につき「本件審判
(起案日) の請求は、成り立たない。」との審決(「第4審
決」という。)
平成24年 7月20日 第4審決の送達(請求人及び被請求人)
平成24年 7月27日 無効2011-800230号につき「本件審判
(起案日) の請求は、成り立たない。」との審決(「第5審
決」という。)

第2 本件無効2009-800091号に係る手続の概要

本件無効2009-800091号に係る手続の経緯は概略以下のとおりである(「第1」と重複する手続も再掲した。)。

平成21年 5月 8日 審判請求(「特許第3793216号発明の特許
請求の範囲の請求項1及び請求項5に記載された
発明についての特許を無効とする。審判費用は被
請求人の負担とする。」との審決を求める。)
平成21年 7月 2日 上申書(請求人ら)
平成21年 7月27日 審判事件答弁書(被請求人)
平成21年 7月27日 訂正請求書(被請求人)
平成21年 9月 4日 審尋(各請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成21年 9月15日 回答書(各請求人)
平成21年 9月24日 回答書(被請求人)
平成21年10月 8日 訂正請求書に対する弁駁書(請求人ら)
平成21年10月 8日 答弁書に対する弁駁書(請求人ら)
平成21年12月17日 手続中止通知(各請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成22年11月 2日 上申書(請求人ら)
平成24年 1月20日 手続中止解除通知(各請求人及び被請求人へ)
(起案日)
平成24年 1月20日 訂正拒絶理由通知(被請求人へ)
(起案日)
平成24年 2月16日 意見書(被請求人)
平成24年 2月16日 訂正請求取下(被請求人;平成21年7月27日
付け訂正請求を取り下げる。)
平成24年 2月24日 通知書(各請求人へ;無効理由の整理指示)
(起案日)
平成24年 3月29日 第2弁駁書(請求人ら)
平成24年 4月10日 通知書(被請求人へ;第2弁駁書に対する請求の
(起案日) 理由の補正の許可についての同意確認)
平成24年 5月11日 同意回答書(被請求人;補正の許可に同意する)
平成24年 5月11日 審判事件答弁書(被請求人)
平成24年 5月18日 補正許否決定(各請求人及び被請求人へ;第2弁
(起案日) 駁書による請求の理由の補正を許可する決定)
平成24年 7月 9日 審理事項通知(各請求人及び被請求人へ)
平成24年 7月25日 口頭審理陳述要領書(請求人ら)
平成24年 7月25日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 8月 8日 口頭審理(審理終結通知、調書)

第3 本件発明

第2審決で認めた101号訂正のうち、特許請求の範囲について、請求項3、請求項4、請求項6ないし10、請求項14、請求項15を削除する訂正、及び、明細書について、段落0014ないし段落0016の記載を削除する訂正は、第2審決の謄本が当事者へ送達されたことにより平成22年2月5日に確定し、101号訂正のうちの残余の部分は、第3審決が確定したことにより平成23年12月26日に確定した。
そして、本件無効審判の対象である101号訂正前の請求項1及び請求項5は、101号訂正により、訂正請求項1及び訂正請求項3となった。
したがって、本件無効審判の対象である本件特許第3793216号の訂正請求項1及び訂正請求項3に係る発明は、101号訂正明細書、101号訂正特許請求の範囲及び本件図面の記載からみて、101号訂正特許請求の範囲の訂正請求項1及び訂正請求項3にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

「【訂正請求項1】
複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と、
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、
を有することを特徴とする液体インク収納容器。」(以下「訂正発明1」という。)

「【訂正請求項3】
複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置と、
前記記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器と、を備える液体インク供給システムにおいて、
前記液体インク収納容器は、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部と、
前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部と、
前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部と、を有し、
前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され、
前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出することを特徴とする液体インク供給システム。」(以下「訂正発明2」という。)

第4 請求人らが主張する無効理由

請求人らは、「特許第3793216号発明の特許請求に範囲の請求項1及び請求項5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めるとして、本件審判を請求した。
上記第1ないし第3のとおり、本件無効審判の対象である101号訂正前の請求項1、本件無効審判の対象である101号訂正前の請求項5及び本件無効審判が前提としていた101号訂正前の明細書は、平成21年12月17日付けで手続中止がなされてから平成24年1月20日付けで手続中止解除がなされるまでの間に変化しているので、審判合議体は、本件特許第3793216号の最新の特許請求の範囲、明細書及び図面に基づいて、101号訂正前の請求項1に対応する請求項である「訂正請求項1」及び101号訂正前の請求項5に対応する請求項である「訂正請求項3」について、無効理由を整理し直して、弁駁書として提出するように、平成24年2月24日付け通知書で期間を指定して通知した。
請求人らは、上記通知に応じて平成24年3月29日付けで第2弁駁書を提出した。
平成21年7月27日付け訂正請求は平成24年2月16日付けで取り下げられたにもかかわらず、第2弁駁書では訂正が訂正要件を満たしていない旨の主張がなされているので、この主張は101号訂正が訂正要件を満たしていない旨の無効理由を追加すること(請求の理由の補正)になる。
そこで、平成24年4月10日付け同意確認書で、被請求人がこの補正を許可することに同意するか否かを確認したところ、被請求人は同年5月11日付け同意回答書で補正を許可することに同意するとともに同日付けの答弁書で更なる答弁の機会も訂正の機会も不要であると答弁したので、同年5月18日付けで第2弁駁書による請求の理由の補正を許可した。
以下では第2答弁書の整理内容に従って無効理由を列記する。

1 無効理由1(特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号)附則第2条第18項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法(以下「平成23年改正前特許法」という。)第134条の2第5項準用同法第126条第3項及び第4項違反;同法第123条第1項第8号、第2答弁書16頁22行ないし18頁2行)

101号訂正により訂正請求項1及び3に「投光するための光を発光する」発光部と記載することは、101号訂正前明細書に記載のない新規事項の追加、及び実質的な特許請求の範囲の拡張又は変更に当たるものであり、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に違反する。
すなわち、101号訂正前明細書には、「投光するための光を発光する」という記載はなく、発光部の発光の形態として101号訂正前明細書に記載されているのは、受光手段にあたる第1受光部210と対向する位置にあるインクタンクの発光部が、第1受光部210に対して直接光を照射する構成のみである(甲第2号証図29、図30参照)。
一方、「投光するための光を発光する」という構成は、「投光するための光」を発光さえすれば、受光手段に対して直接に光を照射しなくても、その構成に含まれることになることから、受光手段に対して直接光を照射する場合のみならず、発光した光が反射するなどして間接的に投光されるものも含むことになる。そのような構成は101号訂正前明細書には記載されておらず、新規事項の追加に当たるものである。
よって、かかる訂正を含む101号訂正は平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第8号に該当し、訂正請求項1及び3に係る本件特許は無効とすべきである。

2 無効理由2(特許法第36条第4項第1号又は第6項違反;特許法第123条第1項第4号)
訂正発明1は、発光部とこの発光を制御する制御部が備えられたインクタンク単体の発明であり、訂正発明2は、このインクタンクを備えたプリントシステムの発明である。
しかしながら、下記の項目aないしg及び無効理由aないしkで説明されるように、訂正請求項1及び3の記載は、その構成要件がについて技術的認定ができず、101号訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1及び2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されない。
したがって、訂正発明1及び2は、特許を受けようとする発明が明確でなく、発明の詳細な説明に記載されていない。
また、101号訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1及び2について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
よって、訂正発明1及び2は、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、訂正発明1及び2に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。



(1)項目a) 「液体収納容器の個体情報」の技術的認定ができない。

101号訂正明細書の段落【0097】には、「図26は、…それぞれのインクタンクについて状態情報(インクタンクの個体情報)を取得する。取得される状態情報としてはそのときのインク残量などであり…。」と記載されている。一方、101号訂正明細書の段落【0144】には、「…本実施形態が図21に示す第一の実施形態と異なる点はメモリアレイ103Bが無いことである。メモリアレイ上に記憶されている個体情報(例えば色情報)が無い場合でもインクタンクを特定して、…。」と記載されている。
これらの記載は、「液体収納容器の個体情報」は「状態情報」でもあり、「そのときのインク残量」或は「色情報」を意味すると開示している。つまり、状態情報としては、変化し続けるインク残量(単位ml)が該当し、変化しない色情報も該当するのであるから、水でないことを示す「インクタンク」、「製造元情報」或は「暗号」を含むことになる。また、「液体収納容器」が単色インクタンクであるのか複数色のインクタンクであるのかも不明であるから個体情報が複数色情報である場合も含まれるので、構成が不明瞭である。
更に、「液体収納容器の個体情報」が「そのときのインク残量」である場合、変化しているインク量は常に変更されることになるから、それぞれのインクタンクもばらばらに量変化するのであるから、どのような基準でインクタンクの装着位置を判定するのかについても技術的に理解できない。この場合に対して、101号訂正明細書に具体的な実施例がないことから、訂正発明1及び2の技術的認定ができない。同様に、「液体収納容器の個体情報」が「インクタンク」や「そのときのインク残量」であるとすると、装着される複数のインクタンクは共通の情報を持つことになるので、インクタンク間の相互の区別もできない。したがって、「液体収納容器の個体情報」は、訂正発明1及び2の課題である「ユーザによる誤装着状態の確認」を達成できる要件とはなっていない。
しかも、上記記載は、「個体情報(例えば色情報)が無い場合でもインクタンクを特定」できることも記載されているので、「液体収納容器の個体情報」が発明に必要不可欠な要件であるのかも不明である。
被請求人は、101号訂正において、個体情報を色情報に訂正し、請求人らが主張した段落【0144】を含む実施例を参考例と訂正発明1及び2と無関係なものに訂正して、訂正発明1及び2が明瞭になったとしているが、101号訂正明細書の記載内容はいまだに訂正されていないので、「状態情報」、「個体情報」、「インク残量」が相互に入れ替えて権利主張する可能性を残しており、訂正発明1及び2の不明瞭を解消できていない。

(2)項目b) 「発光部」の技術的認定ができない。

ア 「前記受光手段に投光するための光を発光する発光部」に関して、101号訂正明細書の段落【0020】には、「…複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い…」と記載されている。したがって、「発光部」の単語のみでは、「LEDなどの表示器」がキャリッジ、タンクホルダ、記録装置本体或いは、インクタンクのいずれにあるのかが不明である。いつ、どのように発光するものであるのか或いは電気的配線接続がどのようになされているいのか不明であり、更には、どの位置にあって、何のために設けられている構成要件なのかが不明である。この単語のみでは、「常に発光している部分」とも解釈できるので、技術用語として完全に不十分であり、当業者であっても到底技術認定できない。
イ 訂正請求項1及び3に記載の「…投光するための光を発光する」と「液体インク収納容器(の発光部)からの光を受光する位置検出用の受光手段(受光部)」とにおける「投光するための光」と「液体インク収納容器(の発光部)からの光」の関係が不明瞭である。
しかも、受光時における、発光部と受光手段(及び受光部)との位置関係が不明確である。
受光時の発光部と受光手段との位置関係について、訂正発明1及び2の構成要件には、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」との構成が追加されている。
しかし、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器」という構成の意義が不明確である。
まず、そもそも、「キャリッジの位置に応じて特定された」とは、キャリッジ内部の各インクタンクの装着箇所に応じて特定されたという意味とも理解しうるし、移動するキヤリッジのシヤフト上における位置に応じて特定されたという意味とも理解できるという点で、少なくとも二義的に解釈が可能な記載となっており、不明確であって、明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号違反)の無効理由がある。
また、仮に、上記構成における「キャリッジの位置に応じて特定された」が移動するキャリッジのシヤフト上における位置に応じて特定されたという意味だと仮定したとしても、キャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに、キャリッジ内のどのインクタンクを「光らせる」のかについて、訂正請求項1及び3の記載は明らかにしていない。
その結果、訂正発明1及び2の構成要件は、インクタンクの発光部が受光手段と対向する位置ではなく、対向する位置と隣接する位置又はさらに離れた位置において発光する場合はおろか、そもそもキャリッジ自体が受光手段から著しく離れた位置や障害物により光が遮断される位置にある場合などの、受光手段が発光部からの発光を受光できず、結果としてインクタンクの位置を検出できないような場合に特定色のインクタンクの発光部を光らせる場合も含むとこととなっている。
しかし、受光手段が発光部からの発光を受光できないような場合には、そもそも発光部と受光手段との間に技術的な関連性がないといえ、訂正発明1及び2は、その不明確性のゆえに、かかる技術的に意味がないような不当に広い範囲にまで特許権が及ぶおそれがある。
したがって、訂正請求項1及び3は、訂正発明1及び2の権利範囲が不当に広いという観点から見ても、明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号違反)の無効理由があるというべきである。
ウ 被請求人は、101号訂正により、「受光手段/受光部に投光するための光を発光する発光部」と規定され、また「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき液体インク収納容器位置検出手段は液体インク収納容器の搭載位置を検出する」と規定されたので、発光部が発光する条件及び役割も明確であると主張する。
しかしながら、ホルダ150の穴150Hを構成規定することで投光を可能にする実施例(図4、8、9、11矢印=投光)を請求項で明確に規定すべきである。
また、「キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき液体インク収納容器位置検出手段は液体インク収納容器の搭載位置を検出する」も具体的な構成を請求項に規定したものではなく、希望的表現である。
101号訂正明細書には、光照合処理として、図29、図30しか開示していないから、隣接するインクタンクの発光部の光を受光しないための「このタイミング」(【0112】)という極めて重要な構成要件が請求項に規定されていないし、「発光部」の規定である「投光」と関係も請求項において明確にされていない。
しかも、「キャリッジの位置に応じて特定された」は意味不明である。

(3)項目c) 「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、」の技術的認定ができない。

この記載のうち「接点から入力される色情報に係る信号」は、プリンタが供給するものであると認められるが、いつ、何のために信号が供給されるのか不明であるから、この規定だけでは、信号が発生しない場合も含むことになる。したがって、「…発光部の発光を制御する制御部」は、この信号がプリンタから供給されなければ、機能しないのであるから、インクタンク単体の発明として技術的に不明瞭である。又、上記(1)で説明したように「色情報」自体が技術認定できないものであるから、電気信号としての「色情報に係る信号」も同様に不明であり、電気信号(例えば“01”)と色情報(例えばインクタンク)とがどのように整合するのかも不明である。
しかも、「…発光部の発光を制御する制御部」を実施例で探すと、「制御部」という名称の構成はあるが、具体的な制御は不明である。明らかなことは、後述するように「プリンタの制御部300」が発する信号によって、インクタンクのLEDが次のように駆動されるだけである。
即ち、「装着確認制御」に関しては、101号訂正明細書の段落【0101】に記載されているように、タンクホルダのどの位置でも装着を受け入れ、正常に装着されたとき「…LED101を点灯する…」と記載されている。一方、実施例の「液体収納容器位置検出手段」に関しては、101号訂正明細書の段落【0114】に記載されているように、正常位置にない場合のみ「…LED101を点灯または、点滅させる…」と記載されている。
これらの記載からすると、「…発光部の発光を制御する制御部」という構成要件は、ユーザに対して、LED101が光っているインクタンクが正常なのか異常なのか全く判別できない制御を行うものである。
したがって、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、」は、技術認定できるものではない。しかも、実施例の記載は、当業者が実施できる程度に開示したものではない。
被請求人は、「発光部の発光を制御する制御部」は、101号訂正明細書の段落【0083】、【0092】に具体的な態様が記載されていると主張するが、段落【0083】、【0092】には、制御部が発光を制御することに関しての具体的な記載は存在しない。
むしろ、101号訂正明細書の記載では、インクタンク1のLED101の点灯、消灯(具体的には、「点灯し所定時間後消灯する」)の制御は、プリンタ本体側の制御回路300により行われている(2.3制御手順(図25?図31)参照。)。
「発光部の発光を制御する制御部」は、訂正発明1及び2の「液体インク収納容器(インクタンク)」にとって極めて重要な構成要件であるが、技術認定できないものである。

(4)項目d) 「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、」(訂正請求項3)の技術認定ができない。

ア 一般的に物が人間に見えるということは、その物から光が出ているからであることは常識である。例えば、3個のインクタンクの真ん中のタンクのLEDが光れば両隣のインクタンクにも光が当たり、インクタンクは3個すべて見えることになる。つまり、「液体収納容器からの光を受光することによって」だけの条件では、複数のインクタンクのどのインクタンクからの光なのかを規定していることにはならず、隣のインクタンクからの光を受光する構成とも認定できるので、この事項も技術認定ができない。
イ そもそも、「位置検出手段」は、101号訂正明細書の発明の詳細な説明には、その文言も定義もない。位置検出にかかわる説明を探すと、段落【0079】に記載されているように、「…インクタンク位置を検出する光照合処理…」は、制御フローであって、「制御部300がLEDの発光を受光部が直接検出するかしないかを判断」する制御であるから、「液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光する」は、どのように受光するのかが不明である。明らかに、「前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」の技術的認定ができない。
ウ なお、上記光照合処理(位置検出手段)は、訂正発明2にとって必須要件であるが、後述するように技術的に未完成であり、その前提として、後述する「装着確認制御」が必須であるので、更に技術的認定ができない。
エ 被請求人は、答弁書で、「搭載位置検出原理」という文言を作成して、あたかも、この原理が101号訂正明細書に発明の特徴として記載されているかのうように印象付け、光照合処理が「具体例の一つ」であるとの主張をしている。
しかしながら、101号訂正明細書には、唯一の実施例として、段落【0095】ないし【0114】に記載された2.3制御手順(図25?図31)として、段落【0107】?【0114】に「光照合処理」を開示しているだけであるから、「搭載位置検出原理」という文言は、101号訂正明細書には一切記載されておらず、「光照合処理」は「具体例の一つ」としても記載されていない。
オ 受光手段が、隣接位置にあるインクタンクからの発光を受光して正しく装着されていると誤判断することが無いようにする構成が規定されていない。(第2弁駁書19頁21行?21頁6行)
すなわち、
(ア)101号訂正明細書及び本件図面には、図3、4、8、9、11に「投光」できるようにホルダ150の穴150Hを通過させてプリンタの受光部へ光が到達することを模式的に矢印→で示している記載と、図29、30にプリンタの受光部へ光が到達することを模式的に矢印⇒で示している記載がある。特に隣接インクタンクを開示するものは、後者だけである。
(イ)この後者において、隣接するインクタンクの発光部101が発光する例示の図30(b)、(c)においては、矢印⇒が下方のみに向いており、拡散光が記載されていない。このような光はレーザー光線ぐらいで、その光源は半導体レーザーであることは周知である。ところが、訂正発明1及び2の実施例は、LEDを使用しているのであるから、拡散光が存在し、隣接するインクタンクの間隔が10mm程度であると、その拡散光が受光部210に受光されることは必然である。
(ウ)ところが、101号訂正明細書の段落【0112】では、「この結果、このタイミングでは、第1受光部210は受光できないことから、…制御回路300は、その装着位置にはインクタンク1M以外のインクタンクが装着されていると判断する。」と記載されている。とすると、プリンタの制御回路が隣接するインクタンクの発光を受光しないための、「このタイミング」は、訂正発明1及び2を実施するうえで、極めて重要な構成要件となる。
(エ)しかしながら、訂正請求項1及び3には「このタイミング」の規定がなく、さらに、隣接するインクタンクからの拡散光を受光して制御回路300が誤判断することを防止できる構成要件の規定がなく、101号訂正明細書にも具体的な説明がないのであるから、発明の詳細な説明の記載は当業者が訂正発明1及び2を容易に実施できるように記載されていない。
(オ)この点においても、発明の詳細な説明の記載は訂正発明1及び2についての実施可能要件を欠くという無効理由がある。

(5)項目e) 「位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」の技術認定ができない。

上記(4)項目d)で説明したように、「液体インク収納容器位置検出手段」は「液体収納容器からの光を受光する…」と規定され、「位置検出手段」は説明がなく、位置検出する光照合処理は、制御フローである。
したがって、「位置検出手段の前記発光部に投光するための光を発光する発光部」の規定では、どこに投光するのか、いつ投光するのか或いは常に投光しているのか不明であり、どのように、何のために投光するのかも規定されていない。しかも、「発光部」と「位置検出手段」との相対的な位置関係が全く不明瞭である。
この「位置検出手段の前記投光部に投光するための光を発光する発光部」は、上記(4)項目d)よりも一層、不明確で、技術認定ができない。

(6)項目f) 「色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」の技術認定ができない。

上記(1)で説明したように、「個体情報」自体及び「個体情報に係る信号」が技術認定できないものであるので、「これらが一致した場合」は更に不明瞭である。上記理由を総合すれば、明らかに、「個体情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」の技術認定ができない。

(7)項目g) 「液体収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」の技術認定ができない。

この接点同士が「電気的に結合可能」という記載は、出願当初からの請求項に記載されているが、101号訂正明細書の発明の詳細な説明には、具体的な説明が無い。
一般に、請求項の不明瞭な要件が、明細書において説明されていない場合は、技術用語として判断される。「結合」とは一般に構造的に一体となることを意味するから、「電気的に結合可能」は、電気的導通で且つ構造一体になる状態(例えば、コンセントとプラグのような電気的に結合)を意味するものと認定される。
ところが、訂正発明1及び2の液体収納容器は、誤装着されたときに交換できることが必須になるから、電気的導通で且つ構造一体である接点同士を交換可能にする記載は101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、「電気的に結合可能」な接点は、技術的に不明瞭である。

(8)無効理由a 「訂正発明1及び2は、唯一の実施例からすると、タンクホルダに装着されるべきインクタンクがすべて1個ずつ装着されていること及び色情報を各インクタンクから読み出す制御回路300を持つプリンタを前提要件とする発明であるが、訂正発明1及び2はこの規定が無いから不明瞭である。加えて、訂正発明1及び2は、バス接続に対してデータの入出力を行う回路構成(I/Oポート)すら規定されてないインクタンク発明であるので、前記前提要件を用いて行う装着確認制御をも実施不可能な発明である。」

ア 101号訂正明細書の段落【0100】には、「次に、ステップS302で上記フラグのインクタンクの装着判定順序に関る変数Aを1に設定し、ステップ303で、A番目のインクタンクについて装着確認制御を行う。この制御は、ユーザがインクタンクを記録ヘッドユニット105のコンタクト152とインクタンクのコンタクト102とが接触し、これにより、本体側の制御回路300が、前述しように、インクタンクの個体情報である色情報によってインクタンクを特定しつつ、その特定したタンクのメモリーアレイ103Bに格納されている色情報を順次読み出す動作である。また、上記特定するための色情報は、それまでに既に読み出されているものについては、用いないことはもちろんである。さらに、本制御では、この読み出した色情報が、本処理が起動された後、それまでに読み出された色情報と異なるものか否かの判断も行う。」と記載されている。
また、段落【0101】には、「そして、ステップS304では、色情報を読み出すことができ、かつその色情報がそれまでに読み出されたものと異なるとき、その色情報のインクタンクがA番目のインクタンクとして装着されたと判断する。それ以外の場合は、A番目のインクタンクが装着されていないと判断する。尚、ここで説明するA番目のインクタンクというのは単にインクタンクの判定を行う順番を説明するものであり、インクタンクの装着位置を示す順番ではない。…」と記載されている。
また、段落【0102】には、「次に、ステップS306で、変数Aを1インクリメントし、ステップS307で、この変数AがステップS301で設定されたN(本実施形態のプリンタの場合はN=4)より大きいか否かを判断する。ここで、変数AがN以下であると判断したときは、ステップS303以降の処理を繰り返す。また、変数AがNより大きいと判断したときは、4つのインクタンク総てについて装着確認制御が終了したとして、ステップS308で、本体カバー201が開放された状態か否かを、上記のセンサの出力に基づいて判断する。すなわち、本体カバーが閉じた状態であるときは、ユーザが、例えば、インクタンクのいくつかを未装着あるいは装着が不完全なままカバーを閉じた可能性があるとして、ステップS312で異常状態のステータスを図26の処理ルーチンへ返して本処理を終了する。」と記載されている。

イ ここで、重要なことは、上記記載が、訂正発明1及び2の実施の前提として、初期段階において、必須な前提システムを明記していることである。即ち、本体側の制御回路300が、インクタンクの個体情報である色情報によってインクタンクを特定しつつ、その特定したタンクのメモリーアレイ103Bに格納されている色情報を(インクタンクの入出力制御回路103Aを介して)順次読み出し、その色情報がそれまでに読み出されたものと異なるとき、その色情報のインクタンクが装着されたと判断(逆に、色情報が同じ場合は装着されていない判断)する。しかも、最終的にキャリッジに装着可能な個数全部である4つにインクタンクが夫々異なる色のインクタンクになった時点で「装着確認制御」が終了する。
この記載は、万人にとって周知であるように、通常プリンタの販売時に同梱されている各色一個のインクセット(以下、同梱インクタンクと呼ぶ)をすべてタンクホルダに初期に装着することを意味する。なぜなら、インクタンクの交換は、101号訂正明細書に記載されているように「一個のインクタンク」だけであるからである。
訂正発明1及び2は、上記「装着確認制御」が終了しなけらば、光照合処理(位置検出手段)による誤装着検出、即ち、プリンタが行うインクタンクの位置検出すらできないのであるから、タンクホルダに装着されるべき色のインクタンクがすべて1個ずつ装着されていること及び色情報を各インクタンクから読み出す制御回路300を持つプリンタを必須要件とする発明であると認定せざるを得ない。
このことについて、被請求人は、“インクタンクの搭載位置の検出は「装着確認制御」を経なくても可能である”旨主張しているが、その根拠を示していない。101号訂正明細書には、訂正発明1及び2の実施例に関し、「装着確認制御」を経なくてもよい旨の記載はなく、むしろ、「装着確認制御」を経なければ、「光照合処理」に入れないフローチャートの記載しかない。(第2弁駁書25頁1?6行)

ウ 上記記載においてさらに重要なことは、上記「装着確認制御」にとって、インクタンクの固有情報である色情報をプリンタの要求によって各インクタンクから呼び出せることが必須であり、タンクホルダに装着されるべき色のインクタンクをすべて1個ずつ装着するために相互の色情報を比較する必要があるためインクタンク単体の発明では発明が存在しないことである。
また、周知のごとく、バス接続される機器がI/Oポートを介して、データの入出力を行う回路構成を採用することは常識であるにもかかわらず、訂正発明1及び2はこの限定すら規定されていないインクタンク発明であるので、上記「装着確認制御」をも実施不可能な発明である。

エ 以上のとおりであるから、訂正発明1及び2は、無効理由aによって無効とすべきである。

(9)無効理由b 「101号訂正明細書の実施例は、インク無し等で使用できなくなった『交換すべきインクタンク』を取り出し、新規な『交換インクタンク』を装着する場合には受光部を使用することが必須ではない上記『装着確認制御』により正常位置に装着されるものである。また、訂正発明1及び2はインク残量情報の規定すらないので、交換時期を判定できないインクタンクも含んでいる。いずれにしても、訂正発明1及び2は、交換時のインクタンクをも権利範囲に含んでいるので、101号訂正明細書の記載と符合しない。」

ア インク無し等で使用できなくなったインクタンクを新規な交換インクタンクに交換するインクタンク交換時について以下検討する。
101号訂正明細書に記載されているように、訂正発明1及び2の実施例は、上記同梱インクタンクセットを装着後、上記「装着確認制御」を行い、光照合処理(位置検出手段)による位置検出によって各インクタンクが正常配置され、プリント可能状態になる。その後、インク無し等で使用できなくなった最初に交換すべきインクタンクが検出されると、プリンタは停止し、インクタンクの交換をユーザに要求する。ユーザは、要求された色の交換インクタンクを用意し、インク無し等で使用できなくなった色の交換すべきインクタンクを取り出し、交換インクタンクを装着することになる。
このとき訂正発明1及び2の実施例の上記「装着確認制御」は、タンクホルダに装着されるべき色のインクタンクがすべて1個ずつ装着されていること及びその各色情報を認知するものである。段落【0101】の記載、即ち、「そして、ステップS304では、色情報を読み出すことができ、かつその色情報がそれまでに読み出されたものと異なるとき、その色情報のインクタンクがA番目のインクタンクとして装着されたと判断する。」からすると、交換すべきインクタンク以外の残りのすべてのインクタンクは、既に正常位置に装着されておりその色情報は制御回路300が認知している。そして、交換すべきインクタンクが取り出されれば、制御回路300はその色情報を入手できないことになるので、新しく装着される交換インクタンクの色情報は、取り出された色情報と同じでなければ上記「装着確認制御」は終了しない。最初に交換すべきインクタンクは1つのみであるから、交換インクタンクも1つである。結果的に、上記「装着確認制御」により、交換インクタンクは、色も位置も正常なものだけが装着されることになる。
したがって、「交換インクタンク」を交換装着する場合、上記「装着確認制御」により誤装着が防止されており、受光部による光照合処理(位置検出手段)による位置検出を行う必然性がない。ところが、101号訂正明細書の記載は、誤装着防止され正常配置されている「交換インクタンク」に対して、更に、受光部による光照合処理(位置検出手段)による位置検出を行っており、明らかに技術的矛盾がある。

イ 被請求人は、“交換インクタンクが複数の場合は、「光照合処理」によって誤装着防止がなされ得る。”と反論している。
しかしながら、101号訂正明細書には、交換インクタンクが複数の場合に関する記載は一切ないし、その場合に、「光照合処理」によって誤装着防止がなされ得ることに関する記載も一切存在しない。(第2弁駁書25頁13?18行)

ウ 以上から明らかなように、「交換インクタンク」を装着する場合に、訂正発明1及び2は不要であって、上記「装着確認制御」によって「交換インクタンク」は正常装着されているので、101号訂正明細書の記載は技術的に矛盾があり、訂正発明1及び2はこの矛盾を含むものであるから、発明としての技術的認定が困難で技術的に不明瞭である。
以上のとおりであるから、訂正発明1及び2は、無効理由bによって無効とすべきである。


(10)無効理由c 「被請求人が上記『装着確認制御』を必須としないと主張するならば(訂正請求項1及び3にはこの限定が無い)、101号訂正明細書に記載の実施例の光照合処理(位置検出手段)のみによる位置検出では、複数のインクタンクが同色でそのうち1つが正常位置に装着されている場合の誤装着をユーザに報知できないので、明らかな技術的矛盾を含むことこなる。したがって、訂正請求項1及び3の各規定のみでは当業者が発明を容易に実施できるように明細書に記載されていないことになる。」

訂正発明1及び2の唯一の実施例では誤装着をユーザに報知できず、プリンタがインクタンクを使用できない場合を含んでおり、訂正発明1及び2の課題を達成できないばかりか「システム」としても完成していない。

ア 101号訂正明細書のフローチャートにある「交換すべきインクタンク」の色と異なる色のインクタンクを装着した場合の図26のステップS203を検討する。つまり、交換インクタンクを誤装着した事例(訂正発明1及び2の実施例には開示が無い)を検討する。なお、正常と判断された場合は「点灯」(○)、異常と判断された場合は、「非点灯」(×)とする。

(交換インクタンクを誤装着した事例)
┌───────┐
│K C M Y│ 左図はMの位置に「1M」でなく「1Y」を誤装
├─┬─┬─┬─┤ 着した場合である。このときインククンク1Mは存
│1│1│1│1│ 在しない。
│K│C│Y│Y│ 位置確認工程で、Mの位置で、Mに存在するべき
│ │ │ │ │ 「1M」が点灯する信号が与えられるが、「1M」
└─┴─┴─┴─┘ はどこにも存在しないので、受信されることは無い

↓ 位置確認工程が実施された後、制御手段300は
、「1M」は正常位置に無いと判断し、「1M」が
┌─────────┐正常ではないという信号(本事例では点灯しない)
│位置確認工程の実施│を送り、「1K」「1C」「1Y」は正常位置にあ
└─────────┘ると判断し「1K」「1C」「1Y」それぞれは正
↓ 常であるという信号を塔載されているインクタンク
┌─────────┐すべてにバス接続で送る。
│制御手段300判定│ 結果、「1M」は存在しないから異常表示できず
└─────────┘、その信号(本事例では非点灯信号)はどのインク
↓ タンクも受信しないから、流れていくだけである。
┌─────────┐そして、キャリッジ上に塔載されているすべてのイ
│「1K」「1C」「│ンクタンク「1K」「1C」「1Y」「1Y」のL
│1Y」は正常位置に│EDは、それぞれ「1K」「1C」「1Y」は正常
│あると判断し、その│であるという信号を受信することになるので、本事
│結果を伝達 │例では、正常位置に搭載を表示(本事例では点灯)
└─────────┘する。

┌───────┐
│K C M Y│
├─┬─┬─┬─┤
│1│1│1│1│
│K│C│Y│Y│
│○│○│○│○│
└─┴─┴─┴─┘

イ 使用されている一般のプリンタにおいて、最初にインク無しが判定されたインクタンクは1つのみであるから、交換インクタンクの「基本的な誤装着」は、残りのインクタンクすべてが正常位置に装着されていて、1つだけ異なる色のインクが誤装着される上記事例のみである。
この事例で明らかなように、「M」の位置に誤装着されているインクタンク「1Y」は、誤装着されていることが判定されているにもかかわらず、正常点灯表示をしてしまうことである。即ち、この事例の場合、「塔載位置を特定する」という訂正発明1及び2の効果を得ることができない。
つまり、「交換インクタンク」の誤装着が発生する唯一の事例では、ユーザはLEDの点灯で誤装着を確認することができない。同時に、この事例の場合、訂正発明1及び2の実施例の図26フローチャートで示される位置検出工程後は、無限ループに入ってしまい、「正常装着」の確認をすることはできない。

ウ したがって、101号訂正明細書は、当業者が容易に実施できる程度の技術開示が無いと認定される。また、この事例のように同色タンクを2つ以上あるいはすべて装着した場合、上記のごとく装着されているすべてのインクタンクが正常表示を行うことになることも明らかである。
したがって、訂正発明1及び2の実施例の「交換タンクの誤装着」のフローチャート(図26)は、当業者には理解困難なものであり、当業者が容易に実施できる程度に技術開示されたものでない。むしろ、発明が完成しているかのように「誤解」させる「偽り」の開示である。このことは、101号訂正明細書の段落【0097】に記載されているように「図26は、このインクタンク着脱処理の詳細を示すフローチャートである。同図に示すように、着脱処理では、先ず、ステップS201で、キャリッジ205を移動するとともにそのとき搭載されているそれぞれのインクタンクについて状態情報(インクタンクの個体情報)を取得する。取得される状態情報としてはそのときのインク残量などであり、これらがそのインクタンクの固有番号とともに、メモリアレイ103Bから読み出される。そして、ステップS202で、キャリッジ205が図18にて説明したインクタンク交換位置に到達したか否かを判断する。」との記載しか開示されていないのである。即ち、訂正発明1及び2が未完成であるだけでなく当業者には理解困難である。以上から明解になったように、訂正発明1及び2は、101号訂正明細書がその発明を当業者が容易に実施できる程度に技術開示されたものではない。

エ 加えて、訂正請求項1及び3は、上記実施例の矛盾を含んだもの(即ち事例を含む)と認定され上記事例を除くような開示も示唆も無いものであるから、発明に欠くことのできない「必須要件」を充足していないことが明らかである。特に、訂正発明1及び2の唯一の実施例は、「1K、1C、1M、1Y」を「1K、1M、1C、1Y」に誤装着した特殊な事例であるが、誤装着されたタンクの位置は判定できているのではない。なぜならば、1Mは、「M」の位置にいないから「1Mは点灯または点滅」という信号がプリンタから出されるだけで、塔載位置を認定できるわけではない。同様に1Cは「C」の位置にいないから「1Cは点灯または点滅」という信号がプリンタから出されるだけで、塔載位置を認定できるわけではない(訂正発明1及び2の実施例では正常位置は非点灯である)。
なお、この場合「1M」の代りに1Y又は1Kを、「1C」の代りに1Y又は1Kを誤装着していると1Cも1Mもキャリッジ上に無いから、前述した「交換インクタンクを誤装着した事例」と同じく、キャリッジに搭載されているインクタンクは「すべて非点灯して正常表示を行う」ことは言うまでもない。
いずれにしても、訂正発明1及び2の唯一の実施例でさえ、上記「装着確認制御」を必須としないならば、「インクタンクの位置の特定」ができているわけではない。つまり、この唯一の実施例で「インクタンクの位置特定」が達成されているかのように見えるのは、上記「装着確認制御」により各色インクタンクが1個ずつしかなく、このうちのインクタンクの2つのみが互いに装着されるべき位置を交換して装着されているという、限られた「偶然の誤装着」だからである。

オ 被請求人は、「搭載位置の特定」を確定するためのインクタンクの報知構成が必須ではないことを示すための根拠として、他の報知態様としては、段落【0114】に「操作部213の表示器を例えばオレンジで点滅する」との部分記載があることを主張する。
ところが、この部分記載は、「一方、(光照合が)正常の終了でないと判断したときは、ステップS109で操作部213の表示器を例えばオレンジで点滅するとともに、ステップS110で、ステップS105で特定した、本来の正しい位置に装着されていないインクタンクのLED101を、例えば点滅あるいは点灯する。これにより、ステップS108で、ユーザが本体カバー201を開けたとき、本来の正しい位置に装着されていないインクタンクを知ることができ、正しい位置への再装着を促すことができる。」という記載からの抜粋である。この記載は、光照合が正常終了したか否かという「プリンタの状態」を表示するための操作部213の説明であることは、段落【0068】で「本プリンタの状態を表示するための表示器、電源スイッチおよびリセットスイッチを備えた操作部213が設けられている。」と説明されていることからも明白である。(第2弁駁書26頁6?21行)

カ 以上の説明から訂正発明1及び2は、誤装着された同色複数インクタンク(内1つはその色の正常位置に装着されている)、即ち、インク無しによるインクタンクを交換する場合に唯一発生する交換タンクの誤装着の問題を解決できないのであるから、訂正発明1及び2は、特許を無効とされるべき発明である。つまり、訂正発明1及び2は、この交換タンクの誤装着の問題を除くような限定も、上記「装着確認制御」の限定も無いので、不明瞭である。

(11)無効理由d 「被請求人が訂正発明1及び2の個体情報をインクの色情報と主張する場合、メモリアレイにあるべきインク残量情報が無い実施例(図39)を開示しているので、産業上利用できない発明を含むものである。」

ア 101号訂正明細書の段落【0141】ないし【0145】には、メモリアレイ(インク残量情報)が無い構成である図39の実施例の記載がある。
即ち、
「図39は本発明のさらに他の実施形態の制御部103などが設けられた基板100の詳細を示す回路図である。同図に示すように、制御部103は、入出力制御回路(I/O CTRL)103A、LEDドライバ103Cを有して構成される。入出力制御回路103Aは、本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動を制御する。LEDドライバ103Cは、入出力制御回路103Aから出力される信号がオンのときLED101に電源電圧を印加するよう動作し、これにより、LED101を発光させる。従って、入出力制御回路103Aから出力される信号がオンの状態にあるとき、LED101は点灯状態となり、上記信号がオフの状態にあるとき、LED101は消灯状態となる。本実施形態が図21に示す第一の実施形態と異なる点はメモリアレイ103Bが無いことである。メモリアレイ上に記憶されている個体情報(例えば色情報)が無い場合でもインクタンクを特定して、そのインクタンクのLED101の点灯、消灯を制御する方法を図40に示すタンミングチャートで以下に説明する。本体側の制御回路300からインクタンク1の制御部103における入出力制御回路入出力制御回路103Aに対し、信号線DATA(図20)を介して「開始コード+色情報」、「制御コード」が、クロック信号CLKに同期して送られて来る。入出力制御回路入出力制御回路103Aは送られて来る「色情報」+「制御コード」を合わせて「コマンド」として識別し、LEDドライバ103Cへの出力信号のオン、オフを決定するコマンド識別部103Dを内部に有して構成される。1Kから1Yまでの各色のインクタンクにはそれぞれ異なるコマンド識別部103Dを有する制御部103が搭載されており、それぞれの色における点灯、消灯を制御するコマンドが図40に示すように構成されている。即ち、各色のコマンド識別部103D内には各色の個体情報(色情報)が含まれて構成されていることになり、これと入力された「コマンド」の「色情報」部分を比較、識別して各種の動作を制御する。これにより、例えばインクタンク1Kを点灯させる「K-ON」の色情報+制御コード「000100」を本体が開始コードと共に送信すると、インクタンク1Kのコマンド識別部103Dのみが識別し、インクタンク1Kのみが点灯する、という制御が可能になる。本実施形態では各色毎に制御部103を異ならせて構成する必要があるが、メモリアレイ103Bを搭載する必要が無い点で有利である。」と記載されている。

イ このように、「各色毎に制御部103を異ならせて構成する必要」があり、「メモリアレイが無い」、即ち、インク残量データが無い実施例を訂正発明1及び2が含む構成としている。ところが、この実施例では、インク残量メモリが無いからインクが充填された交換インクタンクを装着するとプリンタは、インク量を判断できない。つまり、交換前のインク残量なしの情報に基づきインクが充填された新交換インクタンクであってもインク無しと、判断されプリンタが稼勤しないことになり産業上利用できない発明となってしまう。

ウ 被請求人は、「訂正発明1及び2は、インクタンクにインク残量情報を必須とする発明ではない」と主張する。
しかし、この無効理由dは、実施例としてインク残量情報が無ければ交換時期を知ることはできないし、制御部103を異ならせるということは、実質的に形状が異なることも意味し、訂正発明1及び2の趣旨ともあわないことを指摘しているのであるから、被請求人の主張は失当である。(第2弁駁書27頁2?10行)

エ 以上から、訂正発明1及び2は、各色毎に制御部103を異ならせて構成する必要がある実施例を含みながら、その規定もされていない上、産業上利用できない実施例(インク残量データが無い)を含むので技術的に不明瞭である。

(12)無効理由e 「被請求人は、101号訂正明細書に掲げた特許文献1、2の記載事実を看過して記載している。特許文献1、2に記載された発明は、夫々、訂正発明1及び2の構成要件及び発明内容に酷似しているにもかかわらず、これらの看過された事実に対する訂正発明1及び2の技術的優位性の説明がなされていない。したがって、訂正発明1及び2の技術課題が不明であるばかりか、その効果も当業者でさえ認定することができない。」

まず、101号訂正明細書の段落【0003】の記載を下記表1に、被請求人による記載と、特許文献に記載されている事実と、それらの比較の結果、101号訂正明細書には被請求人が記載しなかった事項をまとめた。
表1
┌──┬────────┬─────────────┬─────┐
│ │訂正発明1、2の│ 特許文献の記載事実 │101号訂│
│ │特許文献1、2に│ │正明細書に│
│ │対する記載 │ │記載されて│
│ │ │ │いない事項│
│ │ │ │ │
├──┼────────┼─────────────┼─────┤
│背景│特許文献1には記│特許文献1(特開平4ー27│バス接続さ│
│技術│録ヘッドと一体の│5156号公報) │れ、記憶手│
│ │インクタンクに2│・プリンタに対して着脱可能│段のインク│
│ │つのLEDが設け│なインクカートリッジである│量情報が入│
│ │られこれらが2段│【0015】 │出力制御さ│
│ │階のインク残量に│・インクカートリッジは、情│れるEEP│
│ │応じて点灯するこ│報の入出力制御を得るように│ROMと交│
│ │とが記載されてい│バスライン42及び35を介│換時期を報│
│ │る。 │して接続されている【001│知するLE│
│ │ │6】 │Dを有する│
│ │ │・インクタンクはインク残量│着脱可能な│
│ │ │を記憶する記憶手段(EEP│インクタン│
│ │ │ROM)を有する【0023│ク │
│ │ │】 │ │
│ │ │・インクタンクは交換時期を│ │
│ │ │報知する手段(LED)を有│ │
│ │ │する。【0015】【002│ │
│ │ │0】 │ │
│段落├────────┼─────────────┼─────┤
│0003│特許文献2にも同│特許文献2(特開2002ー│交換時期検│
│ │様に、インク残量│301829号公報)特に、│出方法(イ│
│ │に応じて点灯する│【0020】?【0028】│ンク内のイ│
│ │ランプをインクタ│・着脱自在の4色のインクタ│ンクを光学│
│ │ンクに設けること│ンクの内、交換すべきインク│的に検出)│
│ │が記載されている│タンクを表示するための方法│によって得│
│ │。同文献では、記│:警告ランプ(LED)をキ│られた情報│
│ │録装置で用いる4│ャリッジ又は/及びインクタ│に基づいて│
│ │つのインクタンク│ンクに設け、点灯又は点滅さ│(LED)│
│ │それぞれに上記の│せる。 │を点灯又は│
│ │ランプを設けるこ│・公知のインクタンク交換時│点滅させ、│
│ │とも開示されてい│期検出方法(インクタンク内│交換すべき│
│ │る。 │のインクを光学的に検出する│インクタン│
│ │ │方法など)によって得られた│クを間違い│
│ │ │情報に基づいて行われる。 │なく判別で│
│ │ │・ユーザは警告ランプ(LE│きること │
│ │ │D)の点灯/点滅により、交│ │
│ │ │換すべきインクタンクを間違│ │
│ │ │いなく判別できる。 │ │
│ │ │・配線関係に関する記載は無│ │
│ │ │い。 │ │
└──┴────────┴─────────────┴─────┘
被請求人は、上記表1にあるように単純に特許文献1には、「記録ヘッドと一体のインクタンクに2つのLEDが設けられ2段階のインク残量に応じてそれぞれ点灯することが記載されている」と一言で片付けている。
ところが、上記表1に記載したように、特許文献1には、「バス接続」されている複数の機器のうちの1つであって、「記憶手段のインク情報」が「入出力制御」されるEEPROMと交換時期を報知するLEDが備えられ、インクジェットプリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクタンク(インクジェットヘッドを一体化している:本件図面の図33に相当)が開示されている。
一般に、個別配線されている複数機器をバス接続に置き換えて複数機器を個別に制御することは、被請求人が認識している配線の減少だけではなく、連続したシリアル信号を高速で供給して、複数機器をそれぞれパラレルに制御することが大きな目的であることは知られている。その際、各機器には個別のシリアル信号が授受できるように、各位機器に対応した識別データ(ID)をシリアル信号の先頭にもたせ、各機器がその識別データを判別して適性に信号の授受を行わせることは、当業者が回路設計する上で常識であり、EEPROMを採用する場合は当然行われる設計事項である。
したがって、特許文献1に記載されたインクタンクは「バス接続」されている複数の機器のうちの1つであるから、明確な文言は無いが、常識として、当然、インクタンク用のIDを持つシリアル信号を受け取るためのID判別手段を持つものと認定される。
すると、特許文献1に記載された発明は、訂正発明1の構成要件を備えていることになる。
とすると、訂正発明1は、公知である「訂正発明1の液体インク収納容器」を複数個使って、如何にその塔載位置を特定するかという記録装置の発明が特徴事項になると認められるが、訂正請求項1及び3には、記録装置の具体的な特徴事項の記載が認められない。
これに加え、訂正請求項1及び3は、「複数の液体収納容器が搭載可能…とする記録装置」と、「…着脱可能な液体インク収納容器において」及び「…有することを特徴とする液体インク収納容器」との関係が不明で、少なくとも後者も「前記複数の液体インク収納容器」に規定しなければ、技術的に理解不能である。
よって、訂正請求項1及び3の記載からは発明の特別な技術的特徴が認定できないのであるから、発明として不明瞭である。

(13)無効理由f 「訂正発明1及び2は、101号訂正明細書に記載されているプリンタの具体的な制御手段300が無ければ、101号訂正明細書に記載されている装着確認も光照合処理もできないのであるから、訂正発明1及び2は101号訂正明細書に記載された発明と整合せず、不明瞭である。」

前述したように、訂正請求項1の「発光部の制御」及び訂正請求項3の「発光させる制御部」は、いずれも常時点灯等の場合を含み、目的、時期(タイミング)等の具体的内容が不明である。しかも、訂正請求項1及び3は、誤装着認知の課題を解決するための具体的な光照合処理(どのような発光をどのように受光し、どのように判定するのか等)もプリンタの制御手段300も記載されていないのであるから、101号訂正明細書の段落【0010】でいう「インクタンクの搭載位置を特定する表示器の発光制御」を行うことはできない。
訂正発明1及び2は、単純に「指定されたらどこにあってもバス接続されると発光するインクタンク」と認定でき、搭載位置を特定することはできない発明である。このことは、101号訂正明細書の段落【0009】で説明されていることと同義である。
101号訂正明細書では、発光の制御はプリンタの制御手段300が行っており、発光の制御をどのように行うかが必須であるから、プリンタの制御手段300の制御方法が明確に限定されなければ訂正発明1及び2は、記載不備若しくは発明未完成である。さらに、訂正発明1及び2は、被請求人が提出した「早期審査に関する事情説明書」で認めているように、プリンタ本体(記録装置)とインクタンクとが一体となって始めて実施され得るものであるから、プリンタ本体の制御部300等の必須要件がない以上、「液体収納容器」やインク供給システムとして認められるものではない。即ち、訂正発明1及び2は、インクタンクに特徴事項があるのではなく、インクタンクを判別する記録装置の発明であって、プリンタ本体の制御部300が行う上記「装着状態確認制御」や101号訂正明細書に記載されている「光照合処理」が必須である。
しかし、訂正発明1及び2は、この規定がないから技術的に不明瞭である。
なお、上記制御手段300は、101号訂正明細書の実施例では、「制御回路300」である。(第2弁駁書28頁2行)

(14)無効理由g 「発光部の配置や構造が技術的に不明確である。」

訂正発明1は「液体インク収納容器」としての発明であり、訂正請求項1には「発光部」との記載がされているが、このような記載は、発光部の配置や構造が明確に特定できるわけではなく、技術的に明確であるとはいえず、単に「発光部」を具えていることしか把握できない。
よって、訂正請求項1は、この規定が技術的に不明瞭である。

(15)無効理由h 「訂正発明1及び2の発光部の配置や構造が技術的に不明確で、位置検出手段に投光するための発光部の技術構成が不明確である。」

前述したように、訂正発明1は「液体インク収納容器」としての発明であり、訂正請求項1には「発光部」との記載がされているが、このような記載は、発光部の配置や構造が明確に特定できるわけではなく、技術的に明確であるとはいえず、単に「発光部」を具えていることしか把握できない。
これに対して、訂正発明2では、「…前記位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部…」と規定されているだけなので、「前記位置検出手段の前記受光部に投光するため」は、希望表現(目的)であって発明を特定する構成ではない。
101号訂正明細書及び図面の記載を勘案すると、「投光」に関しては、図4(a)の開口150Hで示されるように、プリンタのホルダに光が遮断されない開口を設け、「光軸」と記載されている矢印が「LED101と第1受光部210とを結ぶ直線」として引けるように、第1受光部210が位置していることも必須である。
しかしながら、訂正請求項3に記載の発明の構成にはこの限定が無いので、構成が不明瞭である。さらに、プリンタのホルダ(キャリッジ)に光が遮断されない開口を設けることを限定したとしても、プリンタ本体の特徴事項の限定追加であり、発明の特別な技術的特徴が記録装置にあることになるので、システム特許とはならない。また、「…前記位置検出手段の前記受光部に投光するための…」の記載は、前述したように「位置検出手段」自体が101号訂正明細書に具体的に記載されていないので、構成要件として認められず、結果的に、訂正発明2は、訂正発明1と同等と認定できる。また、訂正請求項3に記載の「…前記位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部…」との構成は、いつ、どこに、どのように投光するのか不明であり、常に投光されることを含んでいるので、不明瞭である。
更に、101号訂正明細書では、複数インクタンクの誤装着の説明図である図30において、Cの位置に誤装着されたインクタンク1MのLED101の発光及びMの位置に誤装着されたインクタンク1CのLED101の発光を、第1受光部210が受光せずに、制御手段300が「Cの位置にインクタンク1Cが、Mの位置にインクタンク1Mが夫々装着されていない」ことを判断できる旨説明され、インクタンクの個別認識ができたと説明されている。ところが、Cの位置に誤装着されたインクタンク1MのLED101と第1受光部210とは、直線で結べるので上記「光軸」が存在する関係であり、インクタンク1MのLED101の発光は第1受光部210に「投光」され、つまり、誤装着されているインクタンク1Mの発光を第1受光部210は受光する。したがって、Mの位置にインクタンク1Mが装着されていると制御手段300は判断する。このことは、Mの位置に誤装着されたインクタンク1CのLED101の発光も同様に第1受光部210は受光することを意味する。つまり、誤装着されているはずのインクタンク1C及びインクタンク1Mは正常に装着されていると判断され、インクタンク1C及びインクタンク1Mには正常位置にあるという情報が制御手段から供給されてしまうことになる。
したがって、誤装着されているインクタンク1C及びインククンク1Mの夫々の発光部は、異常表示をすることなく記録に使用されることになる。この結果、記録装置の記録ヘッドには夫々異なるインクが供給され、記録画像は見るに絶えない画像となってしまう。
また、上述のように、訂正発明1及び2は、位置検出手段に常に投光されることを含んでいるのであるから、他のインクタンクの発光の光軸はすべて受光部に届くことになり、どのインクタンクの発光を受光しているのか判別できないので、位置認定は不可能である。101号訂正明細書全体を検討しても、隣のインクタンクの発光を遮光あるいは受光しないように構成する必要があることも記載されていないので、上記認定を避けることはできない。
また、訂正請求項3には、「…一致した場合に前記発光部を発光させる…」との記載があるが、位置判定はキャリッジを移動させて行なうのか、「全部インクタンクが正しい位置」において発光するのか、位置判定はプリンタが行なうのか、とういう十分条件が記載されていない。
よって、訂正発明1及び2は、これらの規定が技術的に不明瞭である。

(16)無効理由i 「訂正請求項1には“発光部の発光を制御する制御部”が、訂正請求項3には“発光部を発光させる制御部”が規定されている。しかし、101号訂正明細書では、インクタンクのLEDの点滅、消灯は、プリンタ本体の制御部300の判断とその結果を制御部300が送る信号の内容によって支配的に行っているのであるから、プリンタ本体の制御部300は必須の構成要件である。訂正請求項1及び3には、このプリンタ本体の制御部300の構成が規定されていない。」

以下に、その根拠となる101号訂正明細書の記載を列挙する。
・「入出力制御回路103Aは、本体側の制御回路300からフレキシブルケーブル206を介して送られてくる制御データに応じて、LED101の表示駆動や、メモリアレイ103Bに対するデータの書き込みおよび読み出しを制御する。」(段落【0083】)
・「LEDの点滅制御は、上記の説明からも分かるように、本体側の制御回路300が、点灯と消灯の『制御コード』をそれぞれ含むデータ信号をそのインクタンクを特定して送ることによって可能となる。」(段落【0094】)
・「…本処理では、先ず、ステップS401で、インク残量確認処理を行う。この処理は、これから記録しようとしているジョブについて、記録データからその記録量を求め、この量とそれぞれのインクタンクの残量とを比較して、上記ジョブの記録に十分な量があるか否かを確認する処理である。なお、この処理では、上記のインク残量は、制御回路300でそのときの残量としてカウントして求めたものを用いることができる。…ステップS402で十分なインク量がないと判断したときは、ステップS405で、操作部213の表示器をオレンジに点滅するとともに、ステップS406で、インク残量が少ないインクタンク1のLED101を点滅または点灯させて、異常終了する。 …」(段落【0115】?【0116】)

しかも、インクタンクがインク量情報に基づく前記発光部の発光を制御するような記載は101号訂正明細書に一切存在しないから、上記のとおりインク量情報(インク残量)に基づく点灯、点滅を行うためには、記録装置の「制御回路300」が必須である。よって、訂正発明1及び2は、この規定がないから技術的に不明瞭である。
なお、制御部300と説明したが、101号訂正明細書の実施例では「制御回路300」である。(第2弁駁書29頁14?15行)

(17)無効理由j 「訂正請求項1及び3には、複数のインクタンクが同一形状で互いに同じ位置に装着できること及びキャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状を前記複数のインクタンクで同一であることが規定されていないので技術的に不明瞭であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。特に、訂正請求項3の「互いに異なる位置に搭載可能」とした規定は「互いに同じ位置には装着できない」ことと同義であるから「形状を異ならせる」ことと同義になるので、訂正発明1及び2の構成要件として認定できない。」

ア 訂正発明1及び2は、複数のインクタンクが誤装着された後の塔載位置確認を課題としているにもかかわらず、インクタンクの形状の規定がなく、「互いに異なる位置に搭載可能」であれば、異なる形状同士とすることで同じ位置に装着されることが無いから、誤装着が発生しない場合を含むので、明らかに、訂正発明1及び2には技術的矛盾がある。

イ そもそも、101号訂正明細書の段落【0004】に記載の背景技術、段落【0007】に記載の課題で、「キヤリッジの塔載部とインクタンク相互の係合の形状をインクタンクごとに異ならせ」、「異なる形状のインクタンク」であれば「搭載位置を特定できる」が「製造効率化やコストの点で不利」と認定し、発明の実施例の記載である段落【0108】では、光照合処理の必要性について、「インクタンクと装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できないような形状とし、それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置を定めるような構成をとらないことから、それぞれの色のインクタンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能性がある。このため、光照合処理を行い、誤って装着されている場合は、ユーザにその旨を知らせるものである。これにより、特に、インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく、インクタンクの製造の効率化や低コスト化を図ることができる。」と記載されているので、明らかに、訂正発明1及び2の前提条件として、「複数のインクタンクが同一形状」、「互いに同じ位置に装着できる」及び「キャリッジの塔載部とインクタンク相互の係合の形状を複数のインクタンクで同一である」が必要不可欠と認められる。

ウ よって、訂正発明1及び2は、発明の前提条件である上記必須要件が規定されていないので技術的に不明瞭である。

エ また、訂正発明2は、「互いに異なる位置に搭載可能」としたインクタンクを規定しているが、この規定は「形状を異ならせる」ことと同義であるので、上記必須要件と全く逆の規定であり、訂正発明2の技術的内容を認定できない。

被請求人は、「複数の異なるインクタンクが搭載できる」と答弁しているが、「異なる」の意味が不明瞭で、「色」及び「形状」との関係が認定できず、また、訂正請求項1及び3では、複数のインクタンクの構成を規定していないので、「互いに異なる位置に搭載可能」の表現が、「互いに異なる位置に搭載されている」ことを意味すると解釈される。(第2弁駁書30頁4?11行)

(18)無効理由k 「訂正発明1及び2の効果は、バス接続された訂正発明1及び2のインクタンク(発光部及びこの発光を制御する制御部)を特定できることにある。しかしながら、訂正発明2のように、“一致した場合にのみ発光部を発光させる”場合、インクタンクの特定ができないので、訂正請求項1,3の記載も、101号訂正明細書の記載も技術的に不明瞭である。」

前述したように、訂正請求項1及び3では、位置判定はキャリッジを移動させて行なうのか、「全部インクタンクが正しい位置」において発光するのか、位置判定はプリンタが行なうのかとういう具体的な記載が無い。
一方、101号訂正明細書の具体的な「発光」は、要約すると、以下のみである。
ア 装着時
キャリッジに塔載され装着完了すると、インクタンクはどこに装着されても「点灯」する。
イ 光照合処理時
(ア)正常位置(例えばY)に対象インクタンク(Y)が正常装着
キャリッジ移動して、対象インクタンク(Y)が装着されるべきY装着位置で、対象インクタンク(Y)を発光させる信号が制御手段300からバス接続ラインに供給される。対象インクタンク(Y)はこの信号を受け取り、発光する。この発光を第1受光部210が受け取り、制御手段300が、Y装着位置に対象インクタンク(Y)が存在することを確認する。
つまり、正常装着である場合は、制御手段300が「発光信号をバス接続ラインに供給」し、「インクタンクを発光」させ、「第1受光部210の受信情報を確認」する。このとき、「色情報一致」と記載されている。
(イ)正常位置(例えばY)に“異なるインクタンク(M)”が誤装着
キャリッジ移動して、対象インクタンク(Y)が装着されるべきY装着位置で、“対象インクタンク(Y)を発光させる信号”が制御手段300からバス接続ラインに供給される。対象インクタンク(Y)は存在しないので、対象インクタンク(Y)がこの信号を受け取ることはない。
誤装着されている“異なるインクタンク(M)”は、制御手段300から“対象インクタンク(Y)を発光させる信号”が供給されるものの異なる色(Y)信号なので受け取ることが無い。したがって、制御手段は、Y装着位置では発光を検出できないので、対象インクタンク(Y)がY装着位置に存在しないことを判定し、誤装着に対応する“対象インクタンク(Y)に対して、異なる位置に存在していることを報知しなさいという報知信号”がバス接続ラインに供給される。
ところが、Y装着位置に存在しているインクタンクが“異なるインクタンク(M)”であるから、この誤装着に対応する報知信号を受けとることは無い。つまり、制御手段は、誤装着されている“異なるインククンク(M)”を特定することはできない。
このとき、誤装着である場合は、制御手段300が「発光信号をバス接続ラインに供給」するが、発光も受光も無く、「色情報一致」も無い。
以上の要約から理解できるように、101号訂正明細書を判定すると、明細書の光照合処理もインクタンク単体の誤装着を判定できても、その「インクタンクは特定できない」。しかも、訂正請求項3(訂正請求項1も同等)では、上記要約内容も規定されていないので不明瞭であるが、更に、訂正請求項3は、“一致した場合にのみ発光部を発光させる”とういう規定では、訂正発明2の課題や効果でもある「誤装着されたインクタンクの特定」を達成することができないものである。
明らかに、訂正請求項3の記載も101号訂正明細書の記載も技術的に不明瞭である。

3 無効理由3(特許法第29条第1項第3号及び第2項違反;特許法第123条第1項第2号)
(1) 無効理由3-1(第2弁駁書第107頁16行?109頁最下行)
ア 上記無効理由eで表1にまとめた101号訂正明細書の段落【0005】に記載されている特許文献2(特開2002-301829号公報;甲第2号証)に記載されている事項は、訂正請求項1の構成と照らし合わせると次の表2のとおりとなり、甲第2号証に記載された発明は訂正請求項1の構成要件を備えている。
表2(第2弁駁書45頁?47頁の要約3)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │ 訂正発明1 │証拠(甲第2号証) │
│ │ │特開2002-301829号公報 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │A?D.複数の液体インク収│第3頁【0020】?【0028】、【│
│正 │納容器を搭載して移動するキ│0041】。 │
│請 │ャリッジと?前記装置側接点│着脱自在の複数のインクタンク│
│求 │に対して共通に電気的接続し│であって、交換可能なインクタ│
│項 │色情報に係る信号を発生する│ンクそれぞれにユーザに知らせ│
│1 │ための配線を有した電気回路│る(報知する)警告ランプ(L│
│ │とを有し、 │ED)を設け、インクタンク内│
│ │ │のインクを光学的に抽出する方│
│ │E.前記キャリッジの位置に│法などによりインク残量を検出│
│ │応じて特定されたインク色の│し、インク残量が少なくなった│
│ │前記液体インク収納容器の前│インクタンクの警告ランプ(L│
│ │記発光部を光らせ、その光の│ED)を点灯/点滅させて、交│
│ │受光結果に基づき前記液体イ│換すべきインクタンクを間違い│
│ │ンク収納容器位置検出手段は│なく交換することができるよう│
│ │前記液体インク収納容器の塔│にユーザに報知している。 │
│ │載位置を検出する記録装置の│インク残量検知方法としては、│
│ │前記キャリッジに対して着脱│公知のインクタンク交換時期検│
│ │可能な液体インク収納容器に│出方法により得られた情報に基│
│ │おいて、 │づいてインク残量がほぼ無くな│
│ │F.前記装置側接点と電気的│った時又は/及び完全に無くな│
│ │に接続可能な前記接点と、 │った時にキャリッジ3又は/及│
│ │G.少なくとも液体インク収│びインクタンク2bk,2c,│
│ │納容器のインク色を示す色情│2m,2yに設けられたランプ│
│ │報を保持可能な情報保持部と│によって交換すべきインクタン│
│ │、 │クを表示する方法が採用されて│
│ │H.前記受光手段に投光する│いる。【0023】 │
│ │ための光を発光する前記発光│ │
│ │部と、 │ │
│ │I.前記接点から入力される│ │
│ │前記色情報に係る信号と、前│ │
│ │記情報保持部の保持する前記│ │
│ │色情報とに応じて前記発光部│ │
│ │の発光を制御する制御部と │ │
│ │J.を有することを特徴とす│ │
│ │る液体インク収納容器。 │ │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第2号証(特開2002-301829号公報)には、訂正発明1の構│
│由 │成である交換可能な複数のインクタンクに発光部(LED)を│
│の │設け、インク残量などが少なくなりインクタンクの交換が必要│
│要 │な場合、対象インクタンクのLEDを点灯させその旨をユーザ│
│点 │に報知するということが記載又は開示されている。また、イン│
│ │クタンクそれぞれにLEDを設けること及びキャリッジにLE│
│ │Dを設けることを設計変更の範疇として共に開示されている。│
│ │したがって、「キャリッジに発光部を設ける」ことに変えて、│
│ │複数のインクタンクそれぞれにLEDを個々に設けて、LED│
│ │を発光させ搭載しているインクタンクの個々の状況をユーザに│
│ │報知するという技術思想は公知である。 │
└──┴────────────────────────────┘

イ 被請求人が製造販売し、日本国内で一般に周知慣用されているインクジェットプリンタ(記録装置)は、本件特許の最先の優先日よりもはるかに古い1990年代初期から長年、インクジェット市場の少なくとも50%を占めており、周知慣用化されている。その記録装置に用いられるインクタンクは、本件図面の図9に示される「プリズム状被検知部17」を備えており、インク残量を記録装置が判定するために必ず設けられている。このインクタンクは、透明であるため、インク量が一目で分かることで一般ユーザによく知られており、極めて多量に使用されてきている。このインクタンクを使用する記録装置は、本件図面の図9に示されるように、「液体収容容器からの光を受光する受光部117B」を有するインク残量センサ117がインク残量検知用として備えられている。
したがって、「液体収容容器からの光を受光する受光部117Bを有するインク残量センサ117がインク残量検知用として備えられている記録装置」は、本件特許の最先の優先日前に周知慣用である。

ウ 甲第2号証には、公知のインクタンク交換時期検出方法(インクタンク内のインクを光学的に検出する方法など)が明記されており、この記載は「プリズム状被検知部17」及び「液体収容容器からの光を受光する受光部117B」を有するインク残量センサ117の組み合わせ構成を示唆するものである。また、甲第2号証には、この検出によって得られた情報に基づいて点灯または点滅させる警告ランプ(LED)をキャリッジ又は/及びインクタンクに設けることが開示されている。

エ 101号訂正明細書の段落【0005】に記載されている特許文献1(特開平4-275156号公報)には、特許文献2の警告ランプと同様に、LED22、23を持つインクタンク20であって、コネクタ17と、インク残量情報を保持可能なEEPROM41と、通電カウンタ32aの加算値N又はインクタンク用IDとEEPROM41の記憶値N又はインクタンク用IDとに応じて、マイクロプロセッサ31からの指示信号で表示回路22a,23aを作動し、LED22、23の点灯が制御されるインクタンク20がバス接続されている。

オ 一般に、個別配線されている複数の機器をバス接続に置き換えて複数機器を個別に制御することは、被請求人が認識している配線の減少だけでなく、略連続したシリアル信号を高速で供給して、複数機器をそれぞれパラレルに制御することが大きな目的であることは知られている。その際、各機器には個別にシリアル信号が接受できるように、各機器に対応した識別データ(ID)をシリアル信号の先頭にもたせ、各機器にその識別データを判別して適性に信号の授受を行わせることは、当業者が回路設計する上で常識であり、EEPROMを採用する場合は当然行われる設計事項である。(上記無効理由e参照。)
したがって、各機器において、識別データを判別して適性に信号の授受を行わせることは、バス接続する以上周知慣用技術である。

カ 上記アないしオからして、これらの技術は、本件特許の最先の優先日より前の周知慣用技術であり、甲第2号証に記載された発明において、上記周知慣用技術に基づいて、
a 「液体収納容器(インクタンク)からの光を受光する受光部117B」を有するインク残量センサ117がインク残量検知用として備えられている周知慣用の記録装置に対して、
b 各インクタンクの交換時期を表示するための警告用LEDをそれぞれ備えた甲第2号証に記載のインクタンクを、
c 複数のインクタンクをバス接続して各LEDを記録装置が制御するため、コネクタ17と、インク残量情報を保持可能なEEPROM41と、通電カウンタ32aの加算値N又はインクタンク用IDとEEPROM41の記憶値N又はインククンク用IDとに応じて、マイクロプロセッサ31からの指示信号で表示回路22a、23aを作動し、LED22、23の点灯を行う(特許文献1の開示による)ように、
設計することは、当業者にとって極めて当然で、何ら技術的に困難なものではない。

(キ) まとめ
上記(ア)ないし(カ)からして、訂正発明1は、当業者が本件特許の最先の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特許文献2)に開示されている発明である。

(2) 無効理由3-2(第2弁駁書110頁1行?114頁5行)
ア 甲第1号証(国際公開第02/40275号)には以下の記載がある。
A.「…前記印刷装置には複数の印刷記録材容器が規定の装着位置にそれぞれ装着されており…」(第3頁3?17行)
B.「次に、図4および図5を参照してインクカートリッジに備えられている記憶装置とパーソナルコンピュータPCとの接続について説明する。…各記憶装置20,21,22,23のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RTは、データバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている…パーソナルコンピュータPCとデータバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBとは、データ信号線DL、クロック信号線CL、リセット信号線RLを介して接続されている。…」(第17頁19行?第18頁17行)。第5図には装置側接点と接続される複数のインクカートリッジに備えられている記憶装置の接点が図示されている。

C.「印刷装置に装着されると共に識別情報を格納する記憶装置を有する印刷記録材容器を識別する識別装置であって、…装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段とを備える…」(請求項1)。

D.「…図4はインクカートリッジに備えられている各記憶装置とパーソナルコンピュータPCとの接続状態を示すブロック図である。…記憶装置として不揮発的に記憶内容を保持すると共に記憶内容を書き換え可能なEEPROMを用いた。各記憶装置20,21,22,23のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RTは、データバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている…パーソナルコンピュータPCとデータバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBとは、データ信号線DL、クロック信号線CL、リセット信号線RLを介して接続されている。…」(第17頁2行?第18頁22行)。
また、第4図には、電気的配線がバス接続(共通接続)され、搭載される複数のインクタンクそれぞれの前記接点と結合する前記装置側接点に対して共通に電気的接続する配線を有した電気回路とを有する記録装置が明確に図示されている。


E.「…インクカートリッジの識別装置によれば、インクカートリッジCAの初期装着時において、…識別データを利用して、正しいインクカートリッジCAが装着されたか否かを検出することができる。…誤ったインクカートリッジCAが装着された場合には、正しいインクカートリッジCAが装着されるまでインクカートリッジCAの識別処理は継続される…」(第27頁13行?第28頁15行)。

F.「次に、図4および図5を参照してインクカートリッジに備えられている記憶装置とパーソナルコンピュータPCとの接続について説明する。…各記憶装置20,21,22,23のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RTは、データバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている…パーソナルコンピュータPCとデータバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBとは、データ信号線DL、クロック信号線CL、リセット信号線RLを介して接続されている。…」(第17頁19行?第19頁2行)。

G.「…個々の記憶装置20,21,22,23の内部構造は、格納されている識別情報(識別データ)、固有のデータを除いて同一である…記憶装置20は、メモリアレイ201、アドレスカウンタ202、IDコンパレータ203、オペレーションコードデコーダ204、I/Oコントローラ205および工場設定ユニット206を備えている。メモリアレイ201は、…識別データが格納され、先頭から4ビット目の記憶領域は無効領域とされている。…メモリアレイ201は、書き込みが優先されるべき情報、たとえば、インク消費量またインク残量、を書き込む領域を先頭5ビット目から有している。」(第20頁11行?第21頁25行)。
第7図には上記記載「固有のデータ、識別データなどの情報をインクカートリッジに備えたメモリアレイ(201)」が図示され、第6図には記録装置側から記憶装置20、21、22、23に対して送出されるデータ列の一例が図示されている。




上述した甲第1号証「請求項2」の「報知手段」の1例として、第40頁20行?第42頁10行には「…図20は交換対象となるインクカートリッジCAを示す矢印Yが付されたカラープリンタ10のメンテナンス用開口部15を示す説明図である。…図20に示す実施例では、制御回路30は、キャリッジモータ103を駆動して、交換対象となるインクカートリッジCAをメンテナンス用開口部15に設けられた矢印Yの位置まで移動させることによって交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに示す。したがって、プリンタ10に交換用開口部14を特別に設けることなくして、ユーザに対して交換されるべきインクカートリッジCAを矢印Yによって指し示し、正しいインクカートリッジCAの交換を実現することができる。」と記載されている。
また、「図21に示す実施例では、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。…交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。交換対象となるインクカートリッジCAが複数個存在する場合には、複数のLED18が同時に点灯される。」と記載されているようにカートリッジに対応する数だけキャリッジ上にLEDを備えている。また第21図には上記のことが明確に図示されている。さらに請求項2には「…前記判定手段によって、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器でないと判定された場合には、誤った印刷記録材容器が装着された旨を報知する報知手段を備える…」と記載されている。

H.更に、第42頁6?10行には「いくつかの実施例に基づき本発明に係る印刷記録材容器(インクカートリッジ)の識別装置を説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。」と記載されている。よって、甲第1号証に記載の発明はその趣旨並びにと虚勢球の範囲を逸脱しなければ、改良や等価物が含まれるものである。

I.甲第1号証の請求項2に係る発明の「判定手段」として、第25頁23行?第28頁15行には「…インクカートリッジCA1が装着されると(ステップS220:Yes)、インクカートリッジCA1の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS230)。
パーソナルコンピュータPCは送信した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS240)。すなわち、装着されるべきインクカートリッジCA1が装着されている場合には、送信された識別データに対応する識別データを保有する記憶装置20が応答し、誤ったインクカートリッジCAが装着されている場合には、いずれの記憶装置も記憶装置20に対応する識別データに対して応答することができない。パーソナルコンピュータPCは、応答がない場合には(ステップS240:No)、誤ったインクカートリッジCAが装着されている旨を報知し(ステップS250)、ステップS220に戻り、再度、正しいインクカートリッジCAの装着を検出する。」と記載されている。
また、甲第1号証の第41頁17?23行には「…制御回路30は、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。交換対象となるインクカートリッジCAが複数個存在する場合には、複数のLED18が同時に点灯される。」と記載されている。

J.「本実施例に係る印刷記録材容器(インクカートリッジ)の識別装置は、インクジェット式カラープリンタ(印刷装置)10上で実現されている。カラープリンタ10は、…例えば、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色の色インクを印刷媒体上に噴射してドットパターンを形成することによって画像を形成するインクジェット方式のプリンタである。色インクには、上記4色に加えて、ライトシアン(薄いシアン、LC)、ライトマゼンタ(薄いマゼンタ、LM)、ダークイエロ(暗いイエロ、DY)を用いても良い。」(第15頁6行?第17頁1行)。

イ 上記アからみて、甲第1号証には、「識別情報を格納する記憶装置を有する印刷記録材容器を識別する識別装置であって、前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器でないと判定された場合には、誤った印刷記録材容器が装着された旨を報知する報知手段を備える印刷記録材容器の識別装置。」の発明が記載されている。
甲第1号証に記載された発明は、インクジェット記録装置のバス接続に端子接続されたインクタンクを開示し、このインクタンクを、訂正請求項1の構成と照らし合わせると、次の表3のとおり、訂正発明1の構成要件を備えている。
表3(第2弁駁書39頁?41頁の要約1)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │ 訂正発明1 │証拠(甲第1号証) │
│ │ │WO02/40275号 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │A.複数の液体インク収納容│A.第3頁3行?17行、第2│
│正 │器を搭載して移動するキャリ│図。 │
│請 │ッジと │複数の印刷記録材容器が?装着│
│求 │ │されている。 │
│項 │B.該液体インク収納容器に│B.第17頁19行?第18頁│
│1 │備えられる接点と電気的に接│23行、第5図。 │
│ │続可能な装置側接点と、 │各記憶装置の端子は?それぞれ│
│ │ │接続されている。 │
│ │C.前記キャリッジの移動に│C.請求項1の「判定手段」 │
│ │より対向する前記液体インク│ │
│ │収納容器が入れ替わるように│ │
│ │配置され前記液体インク収納│ │
│ │容器の発光部からの光を受光│ │
│ │する位置検出用の受光手段を│ │
│ │一つ備え、該受光手段で該光│ │
│ │を受光することによって前記│ │
│ │液体インク収納容器の搭載位│ │
│ │置を検出する液体インク収納│ │
│ │容器位置検出手段と、 │ │
│ │ │ │
│ │D.搭載される液体インク収│D.第16頁11行?第18頁│
│ │納容器それぞれの前記接点と│23行、第4図。 │
│ │接続する前記装置側接点に対│電気的配線がバス接続(共通接│
│ │して共通に電気的接続し色情│続)されている。 │
│ │報に係る信号を発生するため│ │
│ │の配線を有した電気回路とを│ │
│ │有し、 │ │
│ │ │ │
│ │E.前記キャリッジの位置に│E.第27頁13行?第28頁│
│ │応じて特定されたインク色の│15行。 │
│ │前記液体インク収納容器の前│請求項1の「判定手段」+ │
│ │記発光部を光らせ、その光の│着脱可能な液体インク収納容器│
│ │受光結果に基づき前記液体イ│(インクカートリッジ) │
│ │ンク収納容器位置検出手段は│ │
│ │前記液体インク収納容器の塔│ │
│ │載位置を検出する記録装置の│ │
│ │前記キャリッジに対して着脱│ │
│ │可能な液体インク収納容器に│ │
│ │おいて、 │ │
│ │ │ │
│ │F.前記装置側接点と電気的│F.第17頁19行?第19頁│
│ │に接続可能な前記接点と、 │11行、第5図。 │
│ │ │装置側接点と電気的に接続可能│
│ │ │な前記接点(接続端子)を備え│
│ │ │たインクカートリッジ。 │
│ │ │ │
│ │G.少なくとも液体インク収│G.第20頁12行?第21頁│
│ │納容器のインク色を示す色情│25行、第6、7図、請求項1│
│ │報を保持可能な情報保持部と│。固有のデータ、識別データを│
│ │、 │格納、記録するメモリーアレイ│
│ │ │(201)がある。 │
│ │ │ │
│ │H.前記受光手段に投光する│H.請求項2の報知手段及び、│
│ │ための光を発光する前記発光│第41頁17行?第42頁10│
│ │部と、 │行、第21図。 │
│ │ │インクカートリッジの数に対応│
│ │ │する数だけキャリッジ上にLE│
│ │ │Dを備えている。 │
│ │ │ │
│ │I.前記接点から入力される│I.請求項1、2の識別装置及│
│ │前記色情報に係る信号と、前│び、第25頁23行?第28頁│
│ │記情報保持部の保持する前記│15行、第41頁17行?第4│
│ │色情報とに応じて前記発光部│2頁5行、第7図。 │
│ │の発光を制御する制御部と │インクカートリッジの識別デー│
│ │ │タに基づいて発光部(LED)│
│ │ │を発光させ報知(制御)してい│
│ │ │る。 │
│ │ │I/Oコントローラがある。 │
│ │ │特に、第41頁19?23行。│
│ │ │制御回路30は、キャリッジ1│
│ │ │01をカートリッジ交換位置1│
│ │ │9まで移動させた後、交換の対│
│ │ │象となるインクカートリッジC│
│ │ │Aに対応するLED18を点灯│
│ │ │または点滅させて、交換対象と│
│ │ │なるインクカートリッジCAを│
│ │ │ユーザに指し示す。交換対象と│
│ │ │なるインクカートリッジCAが│
│ │ │複数個存在する場合には、複数│
│ │ │のLED18が同時に点灯され│
│ │ │る。 │
│ │ │ │
│ │J.を有することを特徴とす│J.第15頁6行?第17頁1│
│ │る液体インク収納容器。 │行、第42頁6?10行。 │
│ │ │インクジェット方式に使用され│
│ │ │るインクカートリッジ(液体イ│
│ │ │ンク収納容器)である。 │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第1号証(国際公開第02/40275号)には、訂正発明│
│由 │1の構成要件A?Jが実施例レベルの構成要件としてみても実│
│の │質的にすべて開示或いは示唆されている。したがって、訂正発│
│要 │明1と甲第1号証に記載された発明とは実質的に同一の発明で│
│点 │あり、特許法第29条第1項第3号に該当する。 │
└──┴────────────────────────────┘

ウ また、甲第1号証には、次の表4に示すように、101号訂正明細書に記載されている従来技術の認識、解決しようとする課題及び発明の効果の実質すべての技術思想が記載されている。
表4(第2弁駁書42頁?45頁の要約2)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │ 101号訂正明細書 │証拠(甲第1号証) │
│内容│ │WO02/40275号 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│背景│段落【0002】?【0004】 │第1頁10?19行 │
│技術│a)記録の途中でインクタンク│a)複数色のインクカートリッジ│
│の認│のインク量不足の状態をユー│(印刷記録材容器)を備えるカ│
│識 │ザに報知する構成として、L│ラープリンタにおいて、インク│
│ │EDなどの表示素子を用いた│カートリッジの交換時における│
│ │ものが知られている。 │インクカートリッジの誤装着、│
│ │b)インクタンクに2つのLE│すなわち、交換されるべきイン│
│ │Dが設けられ、これらが2段│ク色とは異なるインクカートリ│
│ │階のインク残量に応じてそれ│ッジの装着、を防止するための│
│ │ぞれ点灯すること。 │技術が提案されている。 │
│ │c)インク残量に応じて点灯す│b)インク色毎にインクカートリ│
│ │るランプをインクタンクに設│ッジの外形形状を変更し、誤っ│
│ │けること。 │たインクカートリッジが物理的│
│ │d)記録装置で用いる4つのイ│に装着できないようにする技術│
│ │ンクタンクそれぞれに上記ラ│が知られている。 │
│ │ンプを設けること。 │c)同一の外形形状を有するイン│
│ │e)カラーインクのように何種│クカートリッジを用いる場合に│
│ │類ものインクタンクがプリン│は、一個のインクカートリッジ│
│ │タに搭載される際、プリンタ│のみが着脱可能な開口部を有す│
│ │の搭載部とインクタンク相互│るカバーをプリンタ上に設け、│
│ │の係合の形状をインクタンク│交換されるべきインクカートリ│
│ │ごとに異ならせて、インクタ│ッジを開口部まで移動させて、│
│ │ンクが誤った位置に装着され│交換されるべきインクカートリ│
│ │ることを防止している構成が│ッジのみの脱着を許容する技術│
│ │開示されている。 │が知られている。 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│発 │段落【0006】?【0009】 │第2頁1?4行 │
│明 │a)インクタンクの搭載位置を│a)インクカートリッジの誤装着│
│が │特定する構成としては、搭載│は防止できても交換を要しない│
│解 │部とインクタンクが係合する│インクカートリッジを誤って取│
│決 │相互の形状を搭載位置ごとに│り外してしまうという問題は防│
│し │異ならせるものがあるが、イ│止することができなかった。さ│
│よ │ンクの種類ごとに異なる形状│らに、インク色毎にインクカー│
│う │のインクタンクを製造する必│トリッジ用の異なる金型を作成│
│と │要があり、製造効率やコスト│しなければならず、コスト高に│
│す │の点で不利となる。 │なるという問題があった。 │
│る │b)インクタンクの特定のため│b)インクカートリッジを所定の│
│課 │に、信号線をインクごとに個│交換位置まで移動させる技術で│
│題 │別なものとする構成は、信号│は、交換されるべきでないイン│
│ │線の数を増やすものでコスト│クカートリッジの誤った取り外│
│ │を増やすなどの要因となる。│しは防止できても、装着された│
│ │c)配線数を削減するためには│インクカートリッジが正しいイ│
│ │バス接続といった所謂共通の│ンクカートリッジであるか否か│
│ │信号線の構成が有効であるが│までは検出することはできず、│
│ │、単にバス接続のような共通│誤装着は防止できないという問│
│ │の信号線を用いる構成では、│題があった。 │
│ │インクタンクを特定すること│c)実施例がバス接続のような共│
│ │ができない。 │通の信号線を用いる構成を当然│
│ │ │の設計事項として採用している│
│ │ │。しかもインクタンクを特定で│
│ │ │きている。 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│目的│複数のインクタンクの搭載位│第2頁7?10行及び実施例、│
│ │置に対して共通の信号線を用│第7図。バス接続、I/Oポー│
│ │いてLEDなどの表示器の発│ト、ID、インク残量情報を持│
│ │光制御を行い、この場合でも│つメモリアレイを備えたインク│
│ │インクタンクなど液体収納容│カートリッジにおいて、外形に│
│ │器の搭載位置を特定した表示│特徴を持たせることなくインク│
│ │器の発光制御をすることを可│カートリッジCAの誤装着を防│
│ │能とする。 │止することを目的とする。交換│
│ │ │すべきでない容器の誤った取り│
│ │ │外しを防止する。報知手段によ│
│ │ │りユーザが交換すべき容器を確│
│ │ │認できる。 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│発明│段落【0019】?【0020】 │第2頁?第14頁、第41頁?│
│の効│a)インクタンクの誤装着が判│第42頁。 │
│果 │定できる。インクタンクは誤│a)インクタンク交換時における│
│ │った位置に搭載されているこ│誤装着を検出できる。 │
│ │とを認識できる。インクタン│b)正しいインクタンクが装着さ│
│ │クごとにその搭載位置を特定│れたか否かを判定することがで│
│ │することができる。 │きる。ユーザに対して誤装着の│
│ │b)ユーザに対して誤装着の報│報知ができる。 │
│ │知ができる。ユーザに対して│c)インクタンクの搭載位置に対│
│ │インクタンクを正しい位置に│応した表示手段があるので、交│
│ │再装着することを促すことが│換すべきインクタンクを報知で│
│ │できる。 │きる。 │
│ │c)インクタンクの搭載位置を│d)インクタンクの誤った取り外│
│ │特定した表示器の発光制御を│しを防止することができる。 │
│ │することができる。 │e)インクタンクに対応するLE│
│ │d)インクタンクを特定した発│Dを点灯点滅している。 │
│ │光部の点灯など発光制御が可│第44頁11?13行。 │
│ │能となる。 │f)たとえ、インクカートリッジ│
│ │ │が互いに異なるサイズ、形状を│
│ │ │有する場合であっても、インク│
│ │ │カートリッジの誤装着をより適│
│ │ │切に防止することができる。 │
│ │ │第35頁24行?第36頁1行│
│ │ │。 │
│ │ │g)インクカートリッジの外形に│
│ │ │特徴を持たせることなくインク│
│ │ │カートリッジCAの誤装着を検│
│ │ │出することができるので、同一│
│ │ │形状のインクカートリッジCA│
│ │ │を用いることが可能となり、収│
│ │ │容されるインク種毎に異なる外│
│ │ │形に変更する場合に必要なコス│
│ │ │トを削減することができる。 │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理由│甲第1号証(WO02/40275号)には、訂正発明1の従│
│の要│来技術の認識、発明が解決しようとする課題、発明の効果と実│
│点 │質同一の従来技術の認識、発明が解決しようとする課題、発明│
│ │の効果の記載があり、訂正発明1は甲第1号証に記載された発│
│ │明と実質的に同一である。さらに、訂正発明1は同色タンクを│
│ │複数(例えば2?すべて同色)搭載した場合すべて「良好表示│
│ │」となるから実質効果は甲第1号証に記載された発明の方が優│
│ │れている。したがって、訂正発明1は、甲第1号証に記載され│
│ │た発明に比較して格別の効果を有していない。 │
└──┴────────────────────────────┘

エ また、訂正発明1の構成は不明瞭であるが、101号訂正明細書に記載された実施例を要約すると、以下の技術内容となる。即ち、インクタンクの制御部103の主要部は、図21に記載されているとおり、プリンタの制御部300の信号を受けてインクタンクの色情報と一致するかどうか位置確認を行うためのI/O(入出力制御回路)及びEEPROMからなるメモリアレイから構成されている。
甲第1号証の第7図には、I/O(入出力制御回路)205及びメモリアレイ201がインクタンクに設けられている構成が記載されており、この構成は、訂正発明1の上記実施例と同一の構成である。したがって、訂正発明1における交換インクタンクの搭載位置確認を行う上記の図21に記載されている構成は、甲第1号証の第7図に記載された構成と実質同一である。
なお、甲第1号証はバス接続を当然の設計条件として開示し、その記録装置からインクタンクに供給する信号を、第6図にあるようにID(識別情報)と処理データ(256ビット)を持つものにして、合致する識別情報を記憶装置に備えたインクタンクだけが受領するようにしている。つまり、本件図面の図20で示される、プリンタとインクタンクとの間における信号の双方向通信は、甲第1号証の第4図に記載の「バス接続」と同一である。

オ そして、甲第1号証には、インクタンクが所定の位置でなく誤装着されていた場合に、誤装着のインクタンクの発光部を発光させ、ユーザにその旨を報知し、所定の位置に搭載し直すことを促すこと、また、検出したインクタンクのインク残量が残り少ない場合には、同様の発光によってインクタンクの交換を促すという訂正発明1と実質同一の発明の効果が記載されている(次の表5参照。)。
表5
┌────────────────┬──────────────┐
│訂正発明1の効果 │証拠(甲第1号証)の効果 │
├────────────────┼──────────────┤
│段落書【0019】?【0020】 │第8頁?第12頁、第25頁 │
│インクタンクの誤装着が判定できる│インクタンク交換時における誤│
│。インクタンクは誤った位置に搭載│装着を検出できる。正しいイン│
│されていることを認識できる。イン│クタンクが装着されたか否かを│
│クタンクごとにその搭載位置を特定│判定することができる。 │
│することができる。ユーザに対して│ユーザに対して誤装着の報知が│
│誤装着の報知ができる。ユーザに対│できる。 │
│してインクタンクを正しい位置に再│インクタンクの搭載位置に対応│
│装着することを促すことができる。│した表示手段があるので、交換│
│インクタンクの搭載位置を特定した│すべきインクタンクを報知でき│
│表示器の発光制御をすることができ│る。インクタンクの誤った取り│
│る。インクタンクを特定した発光部│外しを防止することができる。│
│の点灯など発光制御が可能となる。│インクタンクに対応するLED│
│ │を点灯点滅している。 │
└────────────────┴──────────────┘
即ち、甲第1号証には訂正発明1の技術思想及び構成要件が実質、記載されている。特に、甲第1号証には、報知手段の例示として、「交換対象となるインクカートリッジCAを示す矢印」と、「メンテナンス用開口部15に設けられた矢印Yの位置まで移動させること」や、「搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている」ことが開示されており、25頁36行?40行には「…本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。」と記載されているので、「報知手段」としてのLEDをインクタンクに設けること及びこのLEDに前記ID(識別情報)と処理データ(256ビット)を持つ信号の信号駆動を供給して発光させ、記録装置の受光部へ与えることは、甲第1号証の技術範躊内の設計事項である。

カ 以上の比較検討から明らかなように、訂正発明1は、甲第1号証に記載されている発明よりも格別優れた効果を見出せず、構成上の微差はあるものの甲第1号証に開示された発明の技術範躊内にあるので、甲第1号証に開示された発明と実質的に同一の発明である。

キ 被請求人は、甲第1号証の第1実施例に対して、「なお、この第1実施例は、全インクカートリッジが未装着の状態で、順次装着していく場合が想定されているところ、インクカートリッジCAの装着検出を、カートリッジアウチ信号に基づいて行っているが(26頁21?23行)、カートリッジアウト信号は、全インクカートリッジが装着されている場合にのみ0レベルとなるので(24頁1?11行)、個々のインクカートリッジCAの装着検出はなし得ず、実施例1の装着検出は成立しないものと理解される。」と答弁している。
しかしながら、甲第1号証の25頁23行?28頁15行には、
「図11?図14を参照してインクカートリッジの初期装着時に実行されるインクカートリッジ識別処理について説明する。…以下の説明ではn=1として説明する。…先ず、第1番目のインクカートリッジCA1が、交換用開口部14に対応する位置まで移動させられる。ここで、交換用開口部14が形成されている位置と各インクカートリッジCAとの移動距離は、ホームポジションからのキャリッジ101の移動距離としてそれぞれ設定されている。…パーソナルコンピュータPCは、…インクカートリッジCA1が装着されると(ステップS220:Yes)、インクカートリッジCA1の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS230)。
パーソナルコンピュータPCは送信した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS240)。すなわち、装着されるべきインクカートリッジCA1が装着されている場合には、送信された識別データに対応する識別データを保有する記憶装置20が応答し、誤ったインクカートリッジCAが装着されている場合には、いずれの記憶装置も記憶装置20に対応する識別データに対して応答することができない。パーソナルコンピュータPCは、応答がない場合には(ステップS240:No)、誤ったインクカートリッジCAが装着されている旨を報知し(ステップS250)、ステップS220に戻り、再度、正しいインクカートリッジCAの装着を検出する。誤ったインクカートリッジCAの装着の報知は、例えば、…ランプLMを点滅させても良い。あるいは、…画面を介して警告を表示するようにしてもよい。…全てのインクカートリッジCA1?CA4の装着が終了したか否か、すなわち、n=mであるか否かを判定する(ステップS260)。…本実施例ではm=4である。…」と記載されている。
この記載を要約すると、バス接続された複数のインクタンクを初期装着において、位置判定をキャリッジの移動を利用しながら行い、装着されるべきインクタンクの識別信号に対応する識別信号を、プリンタからバス配線上に送信し、装着されたインクタンクの記憶装置にある識別データとが一致すると、その応答信号がインクタンクからプリンタ側に送られ誤装着を防止した正常装着を可能にする報知を行う発明が記載されていることは明らかである。
ここに記載されている甲第1号証発明は、受光素子などに投光される光は発しないが、報知用の発光は行うもので、本体からバス配線を介して供給された識別信号と、記憶装置が保有する識別信号とが一致する場合インクタンクから応答信号を出し、一致しなければ応答信号を出さない構成をインクタンクが備えていることは、原理的に訂正発明1と同等である。
しかも、ここに記載されている発明の効果は、インクタンクの位置確認も、誤装着防止、すなわち、訂正発明1の課題である「搭載位置の特定」さえも達成していることも明らかである。
訂正発明1とここに記載された甲第1号証発明との相違は、インクタンクからの応答信号が電気信号か光かの違いである。ところが、インクタンクの応答信号として、光を用いることは周知であり、あるいは甲各号証に記載されていることであるから、設計事項と認められる。一方、訂正発明1が、交換インクタンクが誤装着された際に、誤装着を報知できない発明であるという欠点を含むものであるが、ここに記載された発明は、この欠点がないのであるから、訂正発明1よりも優れた効果を発揮する。(第2弁駁書32頁1行?34頁9行)

なお、101号訂正明細書では「点灯するランプ(LED)を4つのインクタンクに設ける」点を背景技術として記載した上で、「配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが、単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では、インクタンクを特定することができない。単にバス接続するだけでは位置確認ができない」としているが、甲第1号証では位置確認ができている以上、101号訂正明細書には瑕疵が存在すると認められる。

ク したがって、訂正発明1は、本件特許の最先の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明である。

(3) 無効理由3-3(第2弁駁書114頁6行?115頁2行)
ア 甲第1号証、甲第2号証に記載されている発明は、上記(2)及び(1)のとおりである。

イ 甲第2号証には、報知手段の1例として、甲第1号証のキヤリッジに設けられているLEDと同一の構成が図6に開示されており、この変形例として、図7にインクタンクそれぞれにLEDを設けた構成が開示されている。この開示は、甲第1号証の報知手段の構成がインクタンクにLEDを設ける構成を含むことを立証するものである。

ウ したがって、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証に記載された報知手段の例示を考慮すれば、より一層、甲第1号証に記載された発明が訂正発明1の構成と一致することは明らかである。つまり、識別情報を持つLED付インクタンクが、I/Oコントローラ(入出力制御回路)を介して色情報を含む識別情報と処理信号をプリンタから得て、インクタンクのLEDを点灯・点滅をすることは、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に設計できる。

エ まとめ
したがって、訂正発明1は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものである。

(4) 無効理由3-4(第2弁駁書115頁3行?116頁7行)
ア 甲第1及び第2号証に記載されている発明は、上記(2)及び(1)のとおりである。

イ 甲第3号証の請求項1には、「発光部からの光を受光部で受光する受光手段を有し、各種プリンタなどのような情報機器の対象物判定装置。」が記載されている。

ウ 甲第3号証に記載された発明は、訂正請求項1の構成と照らし合わせると、次の表6のとおり、訂正請求項1の構成要件を備えている。
表6(第2弁駁書47頁?48頁の要約4)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │ 訂正発明1 │証拠(甲第3号証) │
│ │ │特開平11-342662号公報 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │A?D.複数の液体インク収│甲第3号証は、発光部からの光│
│正 │納容器を搭載して移動するキ│を受光部で受光する受光手段を│
│請 │ャリッジと?前記装置側接点│有し、各種プリンタなどのよう│
│求 │に対して共通に電気的接続し│な情報機器の対象物判定装置で│
│項 │色情報に係る信号を発生する│あって、(請求項1) │
│1 │ための配線を有した電気回路│a)インクジェットプリンタでは│
│ │とを有し、 │インクカートリッジを対象とし│
│ │ │ている。【0002】 │
│ │E.前記キャリッジの位置に│b)発光部と受光部で構成する受│
│ │応じて特定されたインク色の│発光ユニット2は、基板17に│
│ │前記液体インク収納容器の前│搭載され、この基板17に接続│
│ │記発光部を光らせ、その光の│するケーブル18がバスライン│
│ │受光結果に基づき前記液体イ│16に接続された図示しないI│
│ │ンク収納容器位置検出手段は│/Oポートに接続されることに│
│ │前記液体インク収納容器の塔│よってCPU13にバス接続さ│
│ │載位置を検出する記録装置の│れている。【0019】 │
│ │前記キャリッジに対して着脱│c)発光部(LED)は、駆動回│
│ │可能な液体インク収納容器に│路によって点灯されその光を受│
│ │おいて、 │光素子で受光し各種カートリッ│
│ │F.前記装置側接点と電気的│ジ(インクカートリッジ)の対│
│ │に接続可能な前記接点と、 │象の真偽を検知対象物の形状を│
│ │G.少なくとも液体インク収│複雑化することなく検知判定し│
│ │納容器のインク色を示す色情│ている。これにより正常なカー│
│ │報を保持可能な情報保持部と│トリッジが搭載されたことを確│
│ │、 │認している。この対象物の真偽│
│ │H.前記受光手段に投光する│判定法はカートリッジの交換時│
│ │ための光を発光する前記発光│にも実行されている。【0021】│
│ │部と、 │?【0025】 │
│ │I.前記接点から入力される│ │
│ │前記色情報に係る信号と、前│ │
│ │記情報保持部の保持する前記│ │
│ │色情報とに応じて前記発光部│ │
│ │の発光を制御する制御部と │ │
│ │J.を有することを特徴とす│ │
│ │る液体インク収納容器。 │ │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第3号証(特開平11-342662号公報)には、イ.共通バス接│
│由 │続、ロ.発光に対して「I/O」を介して接続、ハ.発光と受│
│の │光の検知技術を使用、ニ.対象物がインクカートリッジ、ホ.│
│要 │判定手段、で構成される発明が開示されている。つまり、訂正│
│点 │発明1の実質すべての技術思想が開示されている。 │
└──┴────────────────────────────┘

エ 特に注目すべきは、甲第3号証には、インクタンクの発光を検知する受光素子を判定用に用いている開示が存在することである。つまり、甲第3号証には、甲第1号証に記載されている「報知手段」の1例として、記録装置側に、発光を受光するインクタンク判定用の受光素子が開示されている。

オ 上記のとおりであるから、甲第2、3号証に記載された発明を考慮すれば、甲第1号証に記載されている「報知手段」として、インクタンクにLEDを設け、その発光を判定用に受光することは、容易に想起できる設計事項である。

カ まとめ
訂正発明1は、甲第1、2、3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(5) 無効理由3-5(第2弁駁書116頁8行?119頁5行、119頁21行?127頁3行)
ア 甲第1号証に記載されている発明は、上記(2)のとおりである。

イ 甲第4号証には次の記載がある。(第2弁駁書103頁14行?107頁15行)
A.甲第4号証の第3頁の【0002】には「また本発明は、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を検知し、…インクタンクを着脱可能に搭載するファクシミリ・プリンター・複写機等のインクジェット記録装置に関する。」と記載されているように着脱可能なインクタンクが搭載可能である。

B.第9頁の【0072】には「…記録ヘッド78には、ID機能(認証機能)を備えた第2の実施の形態の立体形半導体素子79が配置される。この素子79への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい。」と記載されているように電力供給をコンタクト部の接触によって行ってもよい。

C.請求項21には、「立体形半導体素子からの伝達を受信する手段を有する…インクジェット記録装置。」、第5頁の【0025】には「…インクジェット記録装置は、立体形半導体素子からの伝達を受信する手段を有する…」、第5頁の【0028】には「…本発明は、立体形半導体素子を用いた通信システムであって、…容器内の情報を入手する情報入手手段、外部より信号を受信する受信手段および外部へ情報を伝達する情報伝達手段と、…前記立体形半導体素子の前記受信手段および前記情報伝達手段とで双方向通信を行う外部通信手段とを備えた…」、第8頁の【0062】には「…タンク交換の必要性を判断するためのフローチャートである。…外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により…光を発信し、その光を外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信することにより素子31の位置が検知され、この素子の位置によりインクタンク交換の必要があるか等をインクジェット記録装置が判断し、必要がある場合はタンク交換を音や光等で報知する。」と記載され、図1では、外部Bは、図面上「外部B(人の目視・聴覚)」と記載されている。

D.第9頁の【0075】には「この素子83への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい。」と記載されているように接触による電機的接続できる。また、図3には受信手段29と外部AorBorC、外部A、起電力22、電力23、インクジェット記録装置600が図示されている。


E.第3頁の【0002】には「また本発明は、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を検知し、…インクタンクを着脱可能に搭載するファクシミリ・プリンター・複写機等のインクジェット記録装置に関する。」と記載されているように着脱可能なインクタンクが記載されている。

F.第9頁の【0072】には「…記録ヘッド78には、ID機能(認証機能)を備えた第2の実施の形態の立体形半導体素子79が配置される。この素子79への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい。」と記載されている。


G.第6頁の【0045】には「…情報入手手段15は、素子周囲の環境情報であるインクタンク内の情報、例えば、インクの残量、インクの種類、温度、phなどの情報を入手する…判断手段16は、入手したタンク内部情報と参照するための条件を情報蓄積手段17より読み出し(図2のステップS12)、この読み出した条件と入手したタンク内部情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断する…」、第13頁の【0131】には「…送受信の概要を説明する。下記では、立体形半導体素子から記録装置へのデータ送信について述べる。尚、逆に記録装置側から立体形半導体素子へのデータ送信を行う場合は、それぞれ側にデータIDを配しており、それによって、識別される。」、第14頁の【0139】には「…立体形半導体素子をインクタンク内に少なくとも一つ配することで、インクタンク内に収容したインクに関する情報や、タンク内の圧力などをリアルタイムで外部の例えばインクジェット記録装置に伝達させることが可能である。…」と記載されているようにインクの残量、インクの種類、温度、phなどの情報(素子周囲の環境情報)を蓄積(保持)する情報蓄積手段がある。

H.図3には光などの情報を伝達する情報伝達手段18が図示されている。
つまり、インクタンクに係わる情報の判別に基づき、外部(視覚やインクジェット記録装置等)へ光学報知している。

I.第9頁の【0076】には「…入手したインク残量情報およびph情報とIDを比較し、一致したときのみ、…外部にタンク交換を知らせる信号を伝達したり、人の目や聴覚に訴える音や光等を出力する。…」と記載され、図1には立体形半導体素子が、周囲の環境情報を情報入力手段15と情報蓄積手段17とに応じて情報伝達手段を制御する判断手段16を有することが図示されている。

J.図9、図10、図11、図12、図14、図23にはそれぞれインクタンク72、531、501、511、801が図示されている。

要するに、甲第4号証には、共通バス接続よりも優れた無線配線において、インクタンク自らが「周囲の環境情報(例示は、インク自体に関する情報とインク残量情報)」に基づいて判断する判別手段を備えており、自らの「発光」を含む情報伝達手段がその報知を外部(視覚やインクジェット記録装置等)へ報知する発明が開示されている。

ウ 甲第4号証に記載された発明を、訂正請求項1の構成と照らし合わせると、次の表7のとおりとなるから、甲第4号証に記載された発明は訂正請求項1の構成要件をすべて備えている。
表7(第2弁駁書48頁?50頁の要約5)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │ 訂正発明1 │証拠(甲第4号証) │
│ │ │特開2001-293883号公報 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │A?D.複数の液体インク収│A.第3頁【0002】。着脱可能│
│正 │納容器を搭載して移動するキ│なインクタンクが搭載可能なこ│
│請 │ャリッジと?前記装置側接点│とが記載されている。 │
│求 │に対して共通に電気的接続し│B.第9頁【0072】、図9。電│
│項 │色情報に係る信号を発生する│力供給をコンタクト部の接触に│
│1 │ための配線を有した電気回路│よって行ってもよい。 │
│ │とを有し、 │C.請求項21、第5頁【0025│
│ │ │】、【0028】、第8頁【0062】│
│ │E.前記キャリッジの位置に│、図1外部B。 │
│ │応じて特定されたインク色の│D.第9頁【0075】、図1、図│
│ │前記液体インク収納容器の前│3、図15。 受信手段29と│
│ │記発光部を光らせ、その光の│外部AorB、外部A、起電力│
│ │受光結果に基づき前記液体イ│22、電力23、インクジェッ│
│ │ンク収納容器位置検出手段は│ト記録装置600。 │
│ │前記液体インク収納容器の塔│E.第3頁【0002】。 │
│ │載位置を検出する記録装置の│着脱可能なインクタンク。 │
│ │前記キャリッジに対して着脱│F.第9頁【0072】、図9。 │
│ │可能な液体インク収納容器に│電力供給をコンタクト部の接触│
│ │おいて、 │によって行ってもよい。 │
│ │F.前記装置側接点と電気的│G.第6頁【0045】、第13頁│
│ │に接続可能な前記接点と、 │【0131】、第14頁【0139】。│
│ │G.少なくとも液体インク収│インクの種類、残量(素子周囲│
│ │納容器のインク色を示す色情│の環境情報)、情報蓄積手段1│
│ │報を保持可能な情報保持部と│7。 │
│ │、 │H.図1。 情報伝達手段18│
│ │H.前記受光手段に投光する│。 │
│ │ための光を発光する前記発光│I.第9頁【0076】、図1。 │
│ │部と、 │周囲の環境情報を入手する情報│
│ │I.前記接点から入力される│入手手段15と情報蓄積手段1│
│ │前記色情報に係る信号と、前│7とに応じて情報伝達手段を制│
│ │記情報保持部の保持する前記│御する判断手段16。入手した│
│ │色情報とに応じて前記発光部│インク残量情報及びph情報と│
│ │の発光を制御する制御部と │IDを比較し、一致したときの│
│ │J.を有することを特徴とす│み、外部へタンク交換を知らせ│
│ │る液体インク収納容器。 │るように伝達指示する。伝達は│
│ │ │人の目に訴える光を出力する。│
│ │ │J.インクタンク72、531│
│ │ │、501、511、801 │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第4号証(特開2001-293883号公報)には、実質的に訂正発│
│由 │明1の構成要件A?Jのすべてが記載又は示唆されている。即│
│の │ち、共通バス接続よりも優れた無線配線において、インクタン│
│要 │クとして自らが判別手段を備えているので、インク自体に関す│
│点 │る情報とインク残量情報を保存する情報蓄積手段に基づいて、│
│ │自らの「発光」を含む情報伝達手段によってを外部へタンク交│
│ │換を適正に報知できる発明が甲第4号証に開示されている。 │
│ │したがって、甲第4号証は、訂正発明1よりも優れた発明であ│
│ │り、その技術水準を落としてバス接続構成を採用することは、│
│ │設計事項にすぎない。明らかに訂正発明1は甲第4号証に対し│
│ │優位性は無く、実質同一である。 │
└──┴────────────────────────────┘
即ち、甲第4号証には、有線のバス接続よりも上位技術である無線通信で、インク自体に関する情報とインク残量情報を保存する情報蓄積手段に基づいた判断を例示する「周囲の環境情報を情報入手手段と情報蓄積手段とに応じて情報伝達手段を制御する判断手段」を持ち、自らの「発光」を含む情報伝達手段によってタンク交換を外部(大の視覚、聴覚或はインクジェット記録装置、他の外部C)に適正に報知できる発明が開示されている。
つまり、甲第4号証は、訂正発明1よりも配線数を限りなく少なくした発明であり、インクタンクの周囲の環境情報(即ち、置かれた状況である位置も含まれる)を判断して、自らの情報と比較判断し、その状態を「発光」を含む情報伝達手段によって外部に報知するという優れた発明が開示されているのである。
これは、甲第4号証に記載された発明が訂正発明1のインクタンク構成のすべてを含むことを明らかにするものであり、甲第4号証には「電力を接点接続による供給としても良い」旨が開示されているのであるから、電気的接続を拒否しているわけでもない。

エ 一方、無線接続よりも下位であるバス接続構成を採用することは、101号訂正明細書に記載の課題で「配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが、単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では、インクタンクを特定することができない。」と被請求人が自認していることからも至極当然に想起できることである。

オ 無論、バス接続した際に、記録装置から識別情報(ID)を含む情報信号が送られ、これを受け取るI/Oコントローラでこの識別情報(ID)に対応する記憶装置内の識別情報(ID)と比較判別され、適正な情報のやり取りがインクタンクと記録装置との間で行われることは、甲第1号証及び甲第3号証に開示された発明からも理解できるように、周知慣用技術と認定できるものである。

カ また、訂正発明1の「制御部」が当業者で一般に認識されている「制御」の技術的意味、即ち、“制御本来の「判断」をもつものだとしても、甲第4号証に記載の発明では、明確な判断手段がインクタンクに設けられているので、新規なことではない。

キ そして、甲第4号証において、電気的に配線接続が否定されていない以上、配線数を削減するためにバス接続を採用する「甲第1号証に開示された発明」に「甲第4号証に開示された発明」を組み合わせることは、なんら困難性は無く、むしろ極めて容易であると認められる。
明らかに、訂正発明1は、甲第4号証及び上述した甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に得られる設計構成である。そして、訂正発明1の課題、効果等の文言上の比較をしても、甲第1号証は、101号訂正明細書に記載された従来技術の認識、発明が解決しようとする課題と実質同一の従来技術の認識、発明が解決しようとする課題の記載があり、さらに甲第1号証に記載されている発明の効果は、(特に、甲第1号証請求項1、2、4)訂正発明1の効果より格段と優れた効果であるから、これらの点においても訂正発明1が格別の効果をもたらすとも認められない。

ク まとめ
以上のとおりであるから、訂正発明1は、当業者が甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。

(6) 無効理由3-6(第2弁駁書119頁6?20行)
ア 甲第1号証、甲第3号証及び第4号証に記載されている発明は、上記(2)、(4)及び(5)のとおりである。

イ 甲第3号証には、インクタンクの発光を検知する受光素子を判定用に用いて、甲第1号証に記載されている「報知手段」の1例として、記録装置側に、発光を受光するインクタンク判定用の受光素子を用いる技術示唆がある。
つまり、甲第3号証に記載されている発明に従えば、甲第4号証に記載されている情報伝達先の「外部A、B、C」として、或は、甲第1号証に記載されている「報知手段」として、受光素子を記録装置側に設けることは極めて容易である。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、訂正発明1は、当業者が甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(7)訂正発明2について
訂正発明2と訂正発明1との表現上の差は、概略、次のK?Mである。
K.記録装置が前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する
L.前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部を備えた液体収納容器
M.前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前発光部を発光させる制御部と、を有し、

甲第1号証に記載された発明は、訂正請求項3の構成と照らし合わせると、次の表8のとおり、訂正発明2の構成要件を備えていることになる。
表8(第2弁駁書50頁?51頁の要約6)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │訂正発明2(訂正発明1との│証拠(甲第1号証) │
│ │差:アンダーライン部のみ)│WO02/40275号 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │K.記録装置が前記キャリッ│K.請求項1の「判定手段」、│
│正 │ジの位置に応じて特定された│請求項2の「報知手段」及び、│
│請 │インク色の前記液体インク収│第41頁17?23行、第21│
│求 │納容器の前記発光部を光らせ│図。インクカートリッジの識別│
│項 │、その光の受光結果に基づき│データを格納、記録するメモリ│
│3 │前記液体インク収納容器位置│ーアレイ(201)から識別デ│
│ │検出手段は前記液体インク収│ータ受け、「制御回路30は、│
│ │納容器の搭載位置を検出する│キャリッジ101をインクカー│
│ │ │トリッジ交換位置19まで移動│
│ │ │させた後、交換の対象となるイ│
│ │ │ンクカートリッジCAに対応す│
│ │ │るLED18を点灯または点滅│
│ │ │させて、交換対象となるインク│
│ │ │カートリッジCAをユーザに指│
│ │ │し示す。」 │
│ │ │ │
│ │L.前記液体インク収納容器│L.第20頁11行?第21頁│
│ │位置検出手段の前記受光部に│25行、第6図、第7図、請求│
│ │投光するための光を発光する│項1。固有のデータ、識別デー│
│ │発光部を備えた液体収納容器│タを格納、記録するメモリーア│
│ │ │レイ(201)、I/Oコント│
│ │ │ローラ(205)はインクタン│
│ │ │クの識別データを制御回路30│
│ │ │へ送る。 │
│ │ │ │
│ │M.前記接点から入力される│M.請求項1、2の識別装置及│
│ │前記色情報に係る信号と、前│び、第25頁23行?第28頁│
│ │記情報保持部の保持する前記│15行、第41頁17行?第4│
│ │色情報とが一致した場合に前│2頁5行、第7図。制御部30│
│ │発光部を発光させる制御部と│から入力されるインクカートリ│
│ │、を有し、 │ッジにかかわるIDを持つ信号│
│ │ │(第6図)と、メモリーアレイ│
│ │ │(201)の識別データと、に│
│ │ │基づいて報知(LEDを発光し│
│ │ │て報知)するI/Oコントロー│
│ │ │ラ(205)。 │
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第1号証(国際公開第02/40275号)には、インクカ│
│由 │ートリッジの識別情報を受信して制御部30がその位置を判定│
│の │する位置検出手段と、インクカートリッジは自らの識別情報を│
│要 │制御部30へ送るI/Oコントローラと、制御部30から入力│
│点 │されるインクカートリッジにかかわるIDを持つ信号(第6図│
│ │)と、メモリーアレイ(201)の識別データと、に基づいて│
│ │報知(LEDを発光して報知)するI/Oコントローラ(20│
│ │5)とを、「判定手段」、「報知手段」の実施例として開示す│
│ │る「識別装置」が記載されている。したがって、甲第1号証は│
│ │、訂正請求項3の訂正請求項1と異なる構成要件K?Mも、発│
│ │光を直接位置検出には用いてはいないが、その上位技術として│
│ │明記しているので、訂正発明2と甲第1号証に開示された発明|
│ |とは実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定|
| |に該当する。 |
└──┴────────────────────────────┘

また、甲第3号証に記載された発明は、訂正請求項3の構成と照らし合わせると、次の表9のとおり、訂正発明2の構成要件を備えていることになる。
表9(第2弁駁書52頁?53頁の要約7)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │訂正発明2(訂正発明1との│証拠(甲第3号証) │
│ │差:アンダーライン部のみ)│特開平11-342662号公報 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │K.記録装置が前記キャリッ│K?M. │
│正 │ジの位置に応じて特定された│ 甲第3号証は発光部からの光│
│請 │インク色の前記液体インク収│を受光部で受光する受光手段を│
│求 │納容器の前記発光部を光らせ│有し、各種プリンタなどのよう│
│項 │、その光の受光結果に基づき│な情報機器の対象物判定装置で│
│3 │前記液体インク収納容器位置│あって、(請求項1) │
│ │検出手段は前記液体インク収│a)インクジェットプリンタでは│
│ │納容器の搭載位置を検出する│インクカートリッジを対象とし│
│ │ │ている。【0002】 |
│ |L.前記液体インク収納容器|b)発光部と受光部を構成する受|
│ │位置検出手段の前記受光部に│光ユニット2は、基板17に搭│
│ │投光するための光を発光する│載されこの基板17に接続する│
│ │発光部を備えた液体収納容器│ケーブル18がバスライン16│
| | |に接続された図示しないI/O|
│ │M.前記接点から入力される│ポートに接続されることによっ│
│ │前記色情報に係る信号と、前│てCPU13にバス接続されて│
│ │記情報保持部の保持する前記│いる。【0019】 │
│ │色情報とが一致した場合に前│発光部(LED)は、駆動回路│
│ │発光部を発光させる制御部と│によって点灯されその光を受光│
│ │、を有し、 │素子で受光し各種カートリッジ│
│ │ │(インクカートリッジ)の対象|
│ │ │の真偽を、検知対象物の形状を|
│ │ │複雑化することなく検知判定し|
│ │ │ている。これにより正常なカー|
│ │ │トリッジが搭載されたことを確|
│ │ │認している。この対象物の真偽|
│ │ │判定法はカートリッジの交換時|
│ │ │にも実行されている。【0021】|
│ │ │?【0025】 |
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第3号証(特開平11-342662号公報)には、イ.共通バス接│
│由 │続、ロ.発光に対して「I/O」を介して接続、ハ.発光と受│
│の │光の検知技術を使用、ニ.対象物がインクカートリッジ、ホ.│
│要 │判定手段、で構成されている発明が開示されている。 │
│点 │したがって、甲第3号証は、訂正発明2の訂正発明1と異なる│
│ │構成要件K?Mも、発光、受光の位置検出を判定用技術として│
│ │明記しているので、訂正発明2と甲第3号証に開示された発明│
│ │とは実質的に同等水準の発明と認定できる。 │
└──┴────────────────────────────┘

さらに、甲第4号証に記載された発明は、訂正請求項3の構成と照らし合わせると、次の表10のとおり、訂正発明2の構成要件を備えていることになる。
表10(第2弁駁書53頁?54頁の要約8)
┌──┬─────────────┬──────────────┐
│ │訂正発明2(訂正発明1との│証拠(甲第4号証) │
│ │差:アンダーライン部のみ)│特開2000-293883号公報 │
├──┼─────────────┼──────────────┤
│訂 │K.記録装置が前記キャリッ│K.第9頁【0075】、図1、図│
│正 │ジの位置に応じて特定された│3、図15。 │
│請 │インク色の前記液体インク収│情報伝達手段18、外部A側の│
│求 │納容器の前記発光部を光らせ│受信手段19と外部AorBo│
│項 │、その光の受光結果に基づき│rC │
│3 │前記液体インク収納容器位置│ │
│ │検出手段は前記液体インク収│L.第9頁【0075】、図1、図│
│ │納容器の搭載位置を検出する│3、図15。 │
| | |情報伝達手段18、外部A側の|
│ │L.前記液体インク収納容器│受信手段19と外部AorBo│
│ │位置検出手段の前記受光部に│rC │
│ │投光するための光を発光する│ │
│ │発光部を備えた液体収納容器│M.第6頁【0045】、第13頁│
| | |【0131】、第14頁【0139】。|
│ │M.前記接点から入力される│インクの種類、残量(素子周囲│
│ │前記色情報に係る信号と、前│の環境情報)、情報蓄積手段1│
│ │記情報保持部の保持する前記│7、周囲の環境情報を入手する│
│ │色情報とが一致した場合に前│情報入手手段15、情報入手手│
│ │発光部を発光させる制御部と│段15と情報蓄積手段17と情│
│ │、を有し、 │報伝達手段18を制御する判断│
│ │ │手段16。入手したインク残量|
│ │ │およびph情報とIDを比較し|
│ │ │、一致したときのみ、外部へタ|
│ │ │ンク交換を知らせるよう伝達指|
| | |示する。伝達は人の目に訴える|
| | |光を出力する。
├──┼─────────────┴──────────────┤
│理 │甲第4号証(特開2001-293883号公報)には、イン│
│由 │クの種類、残量(素子周囲の環境情報)を、情報蓄積手段17│
│の │、周囲の環境情報を入手する情報入手手段15、情報伝達手段│
│要 │18を制御して外部へ伝達指示する判断手段16が開示され、│
│点 │自らの「発光」を含む情報伝達手段によってタンク交換を外部│
│ │へ適正に報知できる発明が開示されている。 │
│ │したがって、甲第4号証は、訂正発明2の訂正発明1と異なる│
│ │構成要件K?Mも開示されているから、訂正発明2と甲第4号|
| |証に開示された発明とは実質的に同一の発明であり、訂正発明│
| |2は第29条第1項第3号に該当する。 |
└──┴────────────────────────────┘

(8) 無効理由3-7(第2弁駁書127頁13行?最下行)
訂正発明2は、「液体収納容器からの光」、「液体収納容器位置検出手段」、「前記位置検出手段に投光するための発光部」及び「前記個体情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する個体情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」という技術的に不明瞭で且つ技術認定が困難な構成要件を持つものである。したがって、訂正発明2は、訂正発明1と本質的な差異は認められない。
したがって、訂正発明1及び2の一方が刊行物に記載された発明と同一であれば、他方も刊行物に記載された発明と同一であり、訂正発明1及び2の一方が刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであれば、他方も刊行物に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) 無効理由3-8(第2弁駁書128頁1?25行)
甲第4号証には、「情報伝達手段」から「外部(A、B、C)」に向けて「矢印」が図示されており(図3)、この「矢印」は本件図面に示される矢印である光軸と同義である。
また、甲第1号証の第7図には、複数のインクタンクの塔載位置を検出する位置検出手段が開示されており、バス接続された複数のインクタンクが記憶装置に記憶されている識別情報(ID)と甲第1号証の第6図に示される記録装置からの「識別情報(ID)付き情報信号」とが一致した際にその情報信号を受け取るI/Oコントローラが備えられ、甲第2号証の開示(報知LEDをキャリッジに設けることとインクタンクに設けることは等価)に基づいて、報知手段としてのLEDをインクタンクに設ければ、当然、この情報信号によりLEDを駆動する構成となることは必然である。
したがって、訂正発明2の訂正発明1からの変更点は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明から容易に想到できたものである。

(10) 無効理由3-9(第2弁駁書128頁26行?129頁最下行)
甲第3号証には、発光部に対して受光素子を設け、この受光素子の出力に基づいてインクタンクを判定する構成が開示されている。
したがって、上記イの理由に加えて、この甲第3号証の開示に従えば、甲第1号証のインクタンク搭載位置検出手段として、受光素子による判定構成を採用することは単なる設計変更に過ぎないから、訂正発明2は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(11) まとめ
したがって、訂正発明1及び2は、本件特許の最先の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第4号証のそれぞれに記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、かつ、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、訂正発明1及び2に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。

第5 証拠方法(甲各号証及び参考資料)
(1)請求人らは、審判請求書に添付して甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。ただし、甲第1号証は、平成21年9月4日付け審尋に対する平成21年9月15日付け回答書において再提出したもの。被請求人は平成21年9月24日付け回答書においてこの再提出に同意している。

甲第1号証:国際公開第02/40275号
甲第2号証:特開2002-301829号公報
(101号訂正明細書の段落【0005】で特許文献2として提示されている刊行物である。)
甲第3号証:特開平11-342662号公報
甲第4号証:特開2001-293883号公報

なお、請求人らは、審判請求書において、甲第1?4号証に加え、甲第5号証、甲第6号証、甲第6号証の1、甲第6号証の2を提出しているが、甲第5号証は、本件特許の特許出願の審査において平成17年12月28日付けで提出された早期審査に関する事情説明書であり、甲第6号証は、本件特許の2つの優先権主張のうちの1つである特願2004-435942号に基づいて優先権主張している他の出願である特願2004-319751号の公開公報である特開2005-205886号公報であり、甲第6号証の1は、上記他の出願である特願2004-319751号について平成19年11月2日付けで提出された手続補正書であり、甲第6号証の2は、上記他の出願である特願2004-319751号について平成20年12月5日付けで通知された拒絶理由通知書である。

(2)請求人らは、平成21年7月2日付け上申書において、参考資料1ないし3を提出した。

参考資料1:特開平10-112598号公報
参考資料2:特開2002-5818号公報
参考資料3:平成20年(ヨ)第22071号 特許侵害差止仮処分申立事
件 債権者第1主張書面写し
なお、参考資料1及び2は、無効理由3における周知慣用技術に関する周知例である(口頭審理調書)。

第6 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」として、以下のように答弁している。

1 はじめに
訂正請求項1及び訂正請求項3は、上記「第3 本件発明」のとおりであり、訂正発明1及び2は、「インクジェット記録で用いられるインクタンクに代表される液体インク収納容器に関する」(段落【0001】)ものであって、「本発明の出願当時、カラー化に伴い複数のインクタンクがプリンタに用いられるようになっており、インクタンクが正しい搭載位置に搭載されない誤搭載が生じる可能性があった。よって、搭載されるインクタンクの搭載位置を特定することができるように構成することが好ましいが、搭載位置毎の個別信号配線を設ける構成とすればインクの種類の数に比例して配線が増大し、配線数削減のために共通の信号線によるバス接続を採用すれば液体インク収納容器の搭載位置を特定することができないという問題があった」(段落【0008】?【0009】)ので、訂正発明1及び2の課題は、「複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすること」(段落【0010】)にある。
そして、次に述べる特徴は、このような訂正発明1及び2の課題を達成するために見出された構成である。

特徴1:個別制御
訂正発明1の液体インク収納容器は、
○「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」、及び、
○「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」
を備える。
また、訂正発明2の液体インク供給システムを構成する液体インク収納容器は、
○「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部」及び
○「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」
を備える。
このような構成により、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続」する配線方式(バス接続方式)という、比較的簡便な接続方式を採用しながら、液体インク収納容器を個別に制御することができる。

特徴2:搭載位置検出
(1)訂正請求項1
訂正発明1は、
○「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備え、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」記録装置に用いられること
○「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」
との構成を備える。

(2)訂正請求項3
訂正発明2は、
○「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」
○「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」
○「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」
○「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」
との構成を備える。

(3)搭載位置検出原理
訂正発明1及び2において、記録装置側の「受光手段」(訂正発明1)、「受光部」(訂正発明2)は、「キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」ている。よって、キャリッジの移動により、各「発光部」と「受光手段」/「受光部」との相対位置関係が変化する。
そして、訂正発明1及び2は、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出」する。
これにより、液体インク収納容器がキャリッジ上の正しい搭載位置に搭載された場合と、誤った搭載位置に搭載された場合とで、液体インク収納容器の発光部が発光する位置が異なり、「受光手段」/「受光部」との相対位置関係が異なるので、これが「受光手段」/「受光部」により受光された光の受光強度の変化という受光結果に現れる。その結果、液体インク収納容器が正しい搭載位置にあるか否かを検出することができる。その具体例の一つは、101号訂正明細書の段落【0108】ないし【0113】に光照合処理として記載されている。

2 無効理由1に対して
101号訂正が適法な訂正であることについては、関連する無効2009-800101号審判事件、関連する平成21年(ワ)第3529号、平成22年(ネ)第10063号、平成23年(オ)第912号、平成23年(受)第1028号の各特許侵害訴訟事件の確定審決、確定判決において、正当な判断がなされており、無効理由1に理由がないことは明らかである。

3 無効理由2について
訂正発明1及び2につき、請求人らが主張する項目a)?g)及び無効理由aないしkについて逐一反論する。その結果、無効理由2は全て失当である。

ア 項目a(個体情報)
101号訂正前の「個体情報」は「色情報」に訂正したので、訂正発明1及び2は明瞭である。

イ 項目b及び項目e(発光部)
訂正請求項1では液体インク収納容器が備える構成として「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」と規定し、また、訂正請求項3では液体インク収納容器が備える構成として「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」と規定している。
また、訂正請求項1では「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」と、訂正請求項3では「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出すること」と規定しており、発光部が発光する条件及び役割も明確である。
したがって、訂正発明1及び2は明瞭である。

ウ 項目c(制御部)
項目cについての請求人らの主張は、
(ア)「発光部の発光を制御する制御部」は、この信号がプリンタから供給されなければ、機能しないのであるから、インクタンク単体の発明として技術的に不明瞭である、
(イ)「個体情報」自体が技術認定できないものである、
(ウ)「発光部の発光を制御する制御部」を実施例で探すと、「制御部」という名称の構成はあるが、具体的な制御は不明である、
というものである。
まず、(ア)について、訂正請求項1に記載の発明は、特定の記録装置に用いられることを前提とした収納容器に関する発明であり、プリンタ(記録装置)側から信号が供給されることが、収納容器単体の発明として直ちに不明瞭となるわけではない。
(イ)については、項目aについて述べたとおりである。
(ウ)については、例えば、訂正明細書の段落【0083】、【0092】に制御部による制御の具体的な態様が記載されている。
以上のことから、「発光部の発光を制御する制御部」は明瞭であり、かつ、当業者が実施可能なように明細書に記載されている。

エ 項目d(位置検出手段)
訂正請求項3では「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出すること」と規定しており、搭載位置の検出原理は明確である。
また、この搭載位置の検出の具体例の一つが訂正明細書の段落【0108】ないし【0113】に記載されている。
したがって、訂正発明1及び2は明確である。

オ 項目f(制御部)
項目aについて述べたとおり、101号訂正前の「個体情報」は「色情報」に訂正したので、訂正発明1及び2は明瞭である。

カ 項目g(結合)
101号訂正前の「結合」及び「接続」を「接続」に統一したので、訂正発明1及び2は明瞭である。

ク 無効理由a
請求人らの主張は、101号訂正前明細書の段落【0098】以下に記載の「装着確認制御」が必須であること、バス接続に対してデータの入出力を行う回路構成(I/Oポート)が規定されていないので「装着確認制御」すら行うことができない、というものである。
ここで、101号訂正明細書の実施形態欄においては、「装着確認制御」を行って、装着されるべきインクタンクが全て1個ずつ装着されていることを確認した後、インクタンクの搭載位置の検出に関わる「光照合処理」を行っているが、インクタンクの搭載位置の検出は「装着確認制御」を経なくても可能であり、かつ、訂正明細書の実施形態欄は発明の一例を示すに過ぎない。
このように訂正発明1及び2において「装着確認制御」は必須ではなく、この「装着確認制御」を行うための回路構成を規定する必要もないから、無効理由aは失当である。

ク 無効理由b
請求人らの主張は、インクタンクを交換装着する場合、上記「装着確認制御」により誤装着防止されており、光照合処理(位置検出手段)による位置検出を行う必然性がなく、明らかに技術的矛盾があるというものである。
訂正明細書の実施形態欄に記載の例においては、「装着確認制御」→「光照合処理」という処理手順を踏んでいるので、交換インクタンクが1個の場合は、「装着確認制御」により誤装着防止がなされる。
しかし、交換インクタンクが複数の場合は、「光照合処理」によって誤装着防止がなされ得る。
また、上記無効理由aについて述べたとおり、インクタンクの搭載位置の検出は「装着確認制御」を経なくても可能であり、かつ、明細書の実施形態欄は発明の一例を示すに過ぎない。
以上のことから、無効理由bは失当である。

ケ 無効理由c
請求人らの主張は、101号訂正前明細書の実施形態欄に記載の光照合処理によれば、複数のインクタンクが同色でそのうち1つが正常位置に装着している場合、誤装着をユーザに報知できないので、101号訂正前明細書は、当業者が容易に実施できる程度の技術開示が無い、そして、これらから、装着確認制御が必須である、というものである。
しかし、101号訂正明細書の実施形態欄に記載の光照合処理によれば、少なくとも複数のインクタンクのインク色が異なっていて搭載位置が誤っている場合には、搭載位置を特定した表示ができる。また、請求人らが主張するように、複数のインクタンクが同色でそのうち1つが正常位置に装着している場合、誤って装着されている同色のうちの一つのインクタンクのみを発光等させることはできないとしても、請求人らが認めるように該インクタンクが誤って装着されていることを記録装置側で特定できている。そして、このような誤装着検出時の報知態様としては、101号訂正明細書に「操作部213の表示器を例えばオレンジで点滅する」(段落【0114】)と記載されているように、プリンタ本体側で異常報知をしてユーザに誤装着を知らせることも例示されている。
更に、訂正発明1及び2は、搭載位置の検出を特徴とする発明であり、誤装着のインクタンクを発光する、という報知態様に特徴を有する発明ではない。
そして、上記のとおり、101号訂正明細書の実施形態欄に記載の光照合処理では、複数のインクタンクが同色でそのうち1つが正常位置に装着している場合であっても、請求人らが認めるように該インクタンクが誤って装着されていることを記録装置側で認識すること自体はできているのであり、インクタンクの搭載位置の検出は「装着確認制御」を経なくても可能である。
以上のことから、無効理由cは失当である。

コ 無効理由d
請求人らの主張は、101号訂正前明細書の段落【0141】ないし【0145】及び図39記載の例はメモリアレイが無い構成であり、メモリアレイにあるべきインク残量情報が無い実施例は産業上利用できない発明であるから、不明瞭であるというものである
しかし、この例はインクタンクを識別する色情報を、メモリアレイに代えて入出力制御回路103Aで保持してもよい例を示した例であり、少なくともその範囲で明確である。そして、訂正発明1及び2は、「インク残量情報」を必須とする発明ではない。
以上のことから、無効理由dは失当である。

サ 無効理由e
請求人らの主張は、101号訂正前明細書に記載の特許文献1、2との比較において、101号訂正前請求項1及び5に記載の発明の特徴が不明確であるというものである。
しかし、訂正発明1及び2の特徴は上記1のとおり明確である。
以上のことから、無効理由eは失当である。

シ 無効理由f
請求人らの主張は、101号訂正前請求項1及び5の記載では、誤装着認知の課題を解決するための具体的な光照合処理等が不明確であるというものである。
しかし、訂正発明1及び2の、課題解決のための特徴は上記1の通り明確である(「第3 本件発明」を参照)。
以上のことから、無効理由fは失当である。

ス 無効理由g
請求人らの主張は「発光部」が不明確であるというものである。
しかし、項目b及び項目eについて述べたとおり明確である。
以上のことから、無効理由gは失当である。

セ 無効理由h
請求人らの主張は「発光部」、「位置検出手段」が不明確であるというものである。
しかし、「発光部」については項目b及び項目eについて述べたとおり明確である。また、「位置検出手段」については項目dについて述べたとおり明確である。
以上のことから、無効理由hは失当である。

ソ 無効理由i
請求人らの主張は、「発光部の発光を制御する制御部」、「発光部を発光させる制御部」に関し、101号訂正前明細書ではインクタンクのLEDの点滅、消灯はプリンタ本体の制御部300が支配的に行っており、この制御部300は必須の構成要件であるところ、このプリンタ本体の制御部300の構成が規定されていない、というものである。
しかし、訂正請求項1では、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」に関し、色情報に係る信号を発生する構成として、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」と規定しており、制御部300に相当する「電気回路」を規定している。
また、訂正請求項3では、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」に関し、色情報に係る信号を発生する構成として、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」と規定しており、制御部300に相当する「電気回路」を規定している。
以上のことから、無効理由iは失当である。

タ 無効理由j
請求人らの主張は、複数のインクタンクが同一形状で互いに同じ位置に装着できること等が規定されていないので、誤装着が発生しない場合も含み、不明瞭であり、特に、101号訂正前請求項5の「互いに異なる位置に搭載可能」とした規定はキャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状を異ならせると同義であるので、101号訂正前請求項5に記載の発明の構成要件として認定できないというものである。
しかし、訂正発明1及び2が誤装着を課題としている以上、誤装着を生じえる構成であることは、訂正請求項1及び3に直接的に記載しなくても当然に認識できるものであり、訂正発明1及び2が不明確となるわけではない。
また、101号訂正前請求項5の「互いに異なる位置に搭載可能」及び訂正請求項3の「互いに異なる位置に搭載」との記載は、複数の搭載位置に複数の異なるインクタンクが搭載されることを、「互いに異なる位置」と表現しているだけである。
つまり、それぞれのインクタンクが、他のインクタンクの位置とは異なる固有の位置を有しているから、各インクタンクの搭載位置につき誤装着という問題を生じ、搭載位置を検出する必要も生じるのである。
請求人らが言うように「形状を異ならせる」という意味ではないことは訂正明細書全体から明白である。
以上のことから、無効理由jは失当である。

チ 無効理由k
請求人らの主張は、101号訂正前請求項5の「一致した場合にのみ発光部を発光させる」場合、インクタンクの特定ができず、発明が不明確であるといういうものである。
これは、結局のところ、容器の位置検出の仕組みに関わるところであると思料するが、この点については上記のとおり明確である(上記1参照。)。
以上のことから、無効理由kは失当である。

4 無効理由3に対して
(1)はじめに
訂正発明1及び2は、後述するように甲第1号証等の発明とは全く異なる発明であり、特許法第29条第1項第3号、同法同条第2項に該当しない発明であることは明白である。
以下、訂正発明1及び2が特許法第29条第2項の規定に該当しないことを主張する。

(2)甲第1乃至4号証
ア 甲第1号証
甲第1号証には、プリンタ本体とインクカートリッジとの接続に、バス接続方式を採用したものが開示されており、インクカートリッジ側に識別データを取り扱うことのできる記憶装置20?23を備えたものが開示されている。
また、甲第1号証には各インクカートリッジの誤装着を検出する処理が、その第1乃至第3実施例に開示されている。
第1実施例(18頁2行目?19頁15行目):
プリンタの交換用開口部14に、キャリッジ101の各搭載位置を配置し、装着が検出された場合に、その搭載位置に応じた識別データを送信して応答があれば正常装着、応答がなければ誤装着とする。なお、この第1実施例は、全インクカートリッジが未装着の状態で、順次装着していく場合が想定されているところ、インクカートリッジCAの装着検出を、カートリッジアウト信号に基づいて行っているが(26頁21?23行目)、カートリッジアウト信号は、全インクカートリッジが装着されている場合にのみOレベルとなるので(24頁1行目?11行目)、個々のインクカートリッジCAの装着検出はなし得ず、実施例1の装着検出は成立しないものと理解される。
第2実施例(19頁16行目?20頁20行目):
交換するインクカートリッジを交換用開口部14に移動させ、カートリッジアウト信号に基づいて交換が検出された場合にその搭載位置に応じた識別データを送信して応答があれば正常装着、応答がなければ誤装着とする。
第3実施例(20頁21行目?22頁39行目):
交換用開口部14を介さずに交換される場合の例を示している。まず、交換対象のインクカートリッジを特定した上で、カートリッジアウト信号に基づいていずれかのインクカートリッジが取り外された場合に、特定済みのインクカートリッジの識別データを送信して応答があれば誤ったインクカートリッジが取り外されたと判断し、応答がなければ、特定済みのインクカートリッジが取り外されたと判断する。特定済みのインクカートリッジが取り外されたと判断した場合、続いて、カートリッジアウト信号に基づいて新たなインクカートリッジの装着を検出し、検出されれば特定済みのインクカートリッジの識別データを送信して応答があれば正常装着とする。

イ 甲第2号証
インクタンク又はキャリッジに、残量警告ランプをインクタンク毎に設けたインクジェット記録装置が開示されている。

ウ 甲第3号証
プリンタに受発光ユニット2を設け、インクリボンカセット1に反射シール12を設け、受発光ユニット2から反射シール12へ光を照射し、その反射光を受発光ユニット2で受光し、その受光結果からインクリボンカセット1の真偽を判別するものが開示されている。

エ 甲第4号証
「立体型半導体素子」と記載された、インクタンク内部のインク中に浮遊させて使用される小さな粒子状素子を用いて、インククンク内の情報(例えばインク残量)を取得し、立体型半導体素子とブリンク本体側での通信を行う手段が開示されている。段落【0047】には、その通信を行う手段として光を用いてもよいことが記載されている。段落【0062】、【0063】には、インク残量に応じて浮遊する素子の位置が変わることを利用し、素子へ光を投光してその反射光を受光する等してインク残量を検知することが開示されている。

(3)対比
訂正発明1及び2と、甲第1号証記載の発明とを対比すると、訂正発明1及び2が以下の点を備えるのに対し、甲第1号証記載の発明が以下の点を備えていない点で相違する。

ア 訂正発明1
相違点a:
「前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備えた記録装置のキヤリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。

相違点b:
「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」、及び、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて「前記発光部の発光を制御する制御部」を備えた点。

相違点c:
受光手段が「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」だ記録装置のキャリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。

相違点d:
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」記録装置のキャリッジに着脱可能な液体インク収納容器である点。

イ 訂正発明2
相違点A:
記録装置が「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備えた点。

相違点B:
液体インク収納容器が「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」、及び、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に「前記発光部を発光させる制御部」を備えた点。

相違点C:
「前記受光部は、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」ている点。

相違点D:
「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」点。

(4)訂正発明1及び2の新規性進歩性
以上のとおり、訂正発明1及び2は、甲各号証に記載の発明とは相違するものであり、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、新規性を有するものである。
また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、あるいは他の甲各号証の組合せに基づいて訂正発明1及び2が容易に想到することができるものではないことも以下に述べる通り明白である。
甲第2号証には、インクタンク又はキャリッジに、残量警告ランプをインクタンク毎に設けたインクジェット記録装置が開示されているが、この残量警告ランプは、記録装置の受光手段、受光部に投光する光を発光するものではなく、甲第2号証は上記相違点b及びBの「発光部」をはじめとして、いずれの相違点をも示唆するものではない。
甲第3号証には、プリンタに受発光ユニット2を設け、インクリボンカセット1に反射シール12を設け、受発光ユニット2から反射シール12へ光を照射し、その反射光を受発光ユニット2で受光し、その受光結果からインクリボンカセット1の真偽を判別するものが開示されているが、上記相違点との関係では、記録装置側に光を受光する構成が存在しているという点だけが形式的に共通するだけで、その余の相違点については何ら示唆しない。
甲第4号証も、立体型半導体素子と記録装置側の通信を光で行うことや、立体型半導体素子へ光を投光してその反射光を受光する等してインク残量を検知することが開示されているが、上記相違点との関係では、記録装置側に光を受光する構成が存在しているという点だけが形式的に共通するだけで、その余の相違点については何ら示唆しない。
甲第1号証に記載の発明は、「誤装着の防止」を課題とする発明であるが、課題を解決するための「検出原理」が訂正発明1及び2と全く異なる。甲第1号証のものは、共通バス接続方式の採用の下、該共通バスを利用したデータ通信により誤ったインク色のインクカートリッジの装着を誤装着として検出するものであり、これは前述した訂正発明1及び2の検出原理とは全く異なる。このような検出原理の相違は、次に述べる発明の効果においても顕著に現れる。
訂正発明1及び2は、上記相違点に係る構成を採用することで、液体インク収納容器が正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出することができるという効果を得られる。
甲第1号証の発明においても、全てのインクカートリッジが正しく装着された状態から一つのインクカートリッジを交換する場合は前述した誤ったインク色のインクカートリッジの装着を誤装着として検出できるものの、インクカートリッジが正しい装着位置に装着されているか否かを検出することができないため、複数のインクカートリッジが同時に取り外され、対応するインク色のインクカートリッジが装着位置を入れ間違えて装着された場合には、インクカートリッジが誤った装着位置に装着されていることを検出することができない。
訂正発明1及び2は、液体インク収納容器が正しい搭載位置に搭載されているか否かを検出することができるため、複数の液体インク収納容器が同時に取り外され、対応するインク色の液体インク収納容器が搭載位置を入れ間違えて搭載された場合であっても、誤った搭載位置に搭載された液体インク収納容器を特定して誤装着を検出することができる。この点で甲第1号証の発明よりも格段に優れている。
なお、訂正発明1は、「液体インク収納容器」であるが、訂正請求項1に記載の特定の記録装置に装着されることを前提としたサブコンビネーションの発明である。サブコンビネーションの発明では、相手方との協働により特定の効果を発揮する場合があり、そのような効果はサブコンビネーションの発明の効果として評価されるべきである。そうでなければ、サブコンビネーションの発明は実質的に特許を受けることができない。
訂正発明1において、液体インク収納容器の搭載位置の検出は、記録装置と訂正発明1(液体インク収納容器)との協働によるものであり、記録装置側の構成を必要とするが、液体インク収納容器が「発光部」や「制御部」を有していてはじめて実現されるものである。
したがって、液体インク収納容器の搭載位置の検出ができるという上記の効果は、訂正発明1の効果である。

(5)まとめ
以上のことから、訂正発明1及び2は、特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定には該当しない。

5 むすび
したがって、訂正発明1及び2は、請求人らが主張する無効理由1ないし無効理由3のいずれにも該当せず、本件特許は有効である。

第7 甲各号証及び先行技術文献の記載事項
1 甲第1号証(国際公開第02/40275号)の記載事項
(1)甲第1号証には、以下の記載が存在する。
ア 「請求の範囲
(第1項)
印刷装置に装着されると共に識別情報を格納する記憶装置を有する印刷記録材容器を識別する識別装置であって、
前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段とを備える印刷記録材容器の識別装置。」(45頁2行?6行)

イ 「(第2項)
請求の範囲第1項に記載の印刷記録材容器の識別装置はさらに、
前記判定手段によって、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器でないと判定された場合には、誤った印刷記録材容器が装着された旨を報知する報知手段を備える印刷記録材容器の識別装置。」(45頁8行?11行)

ウ 「(第4項)
請求の範囲第1項ないし請求の範囲第3項のいずれかに記載の印刷記録材容器の識別装置において、
前記印刷装置には複数の印刷記録材容器が既定の装着位置にそれぞれ装着されており、
前記判定手段は、前記各装着位置に装着されるべき印刷記録材容器と前記装着位置とを関連付ける装着位置情報を有し、前記装着された印刷記録材容器に装着されている記憶装置の識別情報と前記装着位置情報とに基づいて、前記装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定することを特徴とする印刷記録材容器の識別装置。」(45頁19行?46頁1行)

エ 「(第16項)
収容されている印刷記録材の種類に対応した識別情報を格納する記憶装置を有する複数の印刷記録材容器が装着される印刷装置における印刷記録材容器の交換制御装置であって、
印刷記録材の交換要求を検出する交換要求検出手段と、
前記交換の要求された印刷記録材を内包する印刷記録材容器を交換位置まで移動させる印刷記録材容器移動手段と、
前記交換位置に移動された前記印刷記録材容器の取り外しを検出すると共に、取り外しに続く印刷記録材容器の装着を検出する脱着検出手段と、
前記識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器が交換の要求された印刷記録材を内包する正しい印刷記録材容器であるか否かを判定する判定手段とを備える印刷記録材容器の交換制御装置。」(49頁26行?50頁10行)

オ 「技術分野
本発明は、印刷装置における印刷記録材容器の識別技術に関し、さらに詳細には印刷記録材容器交換に際して正しい印刷記録材容器が装着されたか否かを識別する技術に関する。」(1頁5行?7行)

カ 「発明の背景
複数色のインクカートリッジ(印刷記録材容器)を備えるカラープリンタにおいて、インクカートリッジの交換時におけるインクカートリッジの誤装着、すなわち、交換されるべきインク色とは異なるインクカートリッジの装着、を防止するための技術が提案されている。例えば、インク色毎にインクカートリッジの外形形状を変更し、誤ったインクカートリッジが物理的に装着できないようにする技術が知られている。
また、同一の外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には、一個のインクカートリッジのみが脱着可能な開口部を有するカバーをプリンタ上に設け、交換されるべきインクカートリッジを開口部まで移動させて、交換されるべきインクカートリッジのみの脱着を許容する技術が知られている。
しかしながら、インク色毎に異なる外形形状を有するインクカートリッジを用いる場合には、インクカートリッジを再利用する際にインク色毎にしかインクカートリッジを再利用することができず、リサイクル効率が悪いという問題があった。また、インクカートリッジの誤装着は防止できても交換を要しないインクカートリッジを誤まって取り外してしまうという問題は防止することができなかった。さらに、インク色毎にインクカートリッジ用の異なる金型を作成しなければならず、コスト高になるという問題があった。
インクカートリッジを所定の交換位置まで移動させる技術では、交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても、装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出することはできず、誤装着は防止できないという問題があった。」(1頁10行?2頁4行)

キ 「発明の開示
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、外形的な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録材容器の誤装着を防止することを目的とする。また、交換されるべきでない印刷記録材容器の誤った取り外しを防止することを目的とする。(2頁7行?10行)
本発明の第3の態様は、印刷記録材の種類に対応する識別情報を格納する記憶装置を備えると共に前記印刷記録材の種類に応じて印刷装置上に既定の位置に装着される印刷記録材容器の識別方法を提供する。本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法は、前記印刷記録材容器の取り外しを検出し、前記取り外された印刷記録材容器が装着されていた装着位置を記憶し、前記印刷記録材容器の装着を検出し、前記記憶装置に格納されている識別情報を利用して、前記装着された印刷記録材容器の印刷記録材の種類を識別し、前記装着された印刷記録材容器の装着位置と、前記装着された印刷記録材容器の印刷記録材の種類とに基づいて、正しい印刷記録材容器が装着されたか否かを判定しても良い。
本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法によれば、取り外された印刷記録材容器の装着位置と、記憶装置に格納されている識別情報を利用して、装着された印刷記録材容器が装着されるべき正しい印刷記録材容器であるか否かを判定するので、外形的な識別形状を用いることなく印刷記録材容器交換時における印刷記録材容器の誤装着を検出することができる。
本発明の第3の態様に係る印刷記録材容器の識別方法において、誤った印刷記録材容器が装着されたものと判定した場合には、誤った印刷記録材容器の装着を報知しても良い。」(6頁11行?7頁1行)

ク 「発明を実施するための最良の形態
[第1実施例]
図3はカラープリンタ10の制御回路30の内部構成を示す説明図である。(15頁4行?5行)
制御回路30は、パーソナルコンピュータPCから受信した制御信号に従ってプリンタ10の各部の動作を制御する。(16頁19行?20行)
制御回路30の内部構成について、図3を参照して説明する。制御回路30には、CPU31、PROM32、RAM33、インクカートリッジCA1?CA4に備えられた記憶装置、紙送りモータ105やキャリッジモータ103等とデータのやり取りを行う周辺機器入出力部(PIO)34、タイマ35、駆動バッファ36等が設けられている。駆動バッファ36は、インク吐出用ヘッドPN1?PN4にドットのオン・オフ信号を供給するバッファとして使用される。(17頁2行?7行)
制御回路30は、インクカートリッジCAの交換時には、取り外されたインクカートリッジと新たに装着されたインクカートリッジCAとが同一のインク種を内包するインクカートリッジであるか否かを識別する。(中略)制御回路30によって実行される詳細なインクカートリッジの識別処理の流れについては、以下に説明する。(17頁12行?18行)
各記憶装置20、21、22、23は、図5に示すようにインクジェットプリンタ用の4色のインクカートリッジCA1、CA2、CA3、CA4それぞれ備えられているものとする。(18頁1行?3行)
各記憶装置20、21、22、23のデータ信号端子DT、クロック信号端子CT、リセット信号端子RTは、データバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBを介してそれぞれ接続されている(図4および図7参照)。パーソナルコンピュータPCとデータバスDB、クロックバスCB、リセットバスRBとは、データ信号線DL、クロック信号線CL、リセット信号線RLを介して接続されている。(18頁8行?13行)
記憶装置20は、メモリアレイ201、アドレスカウンタ202、IDコンパレータ203、オペレーションコードデコーダ204、I/Oコントローラ205および工場設定ユニット206を備えている。(20頁17行?19行)
IDコンパレータ203は、クロック信号端子CT、データ信号端子DT、リセット信号端子RTと接続されており、データ信号端子DTを介して入力されたデータ列に含まれる識別データとメモリアレイ201に格納されている識別データとが一致するか否かを判定する。(中略)IDコンパレータ203は、両識別データが一致する場合には、アクセス許可信号ENをオペレーションコードデコーダ204に送出する。(21頁13行?24行)
オペレーションコードデコーダ204は、アクセス許可信号ENが入力されると、取得した書き込み/読み出しコマンドを解析してI/Oコントローラ205に対して書き込み処理要求または読み出し処理要求を送出する。(22頁3行?6行)
I/Oコントローラ205は、データ信号端子DT、メモリアレイ201と接続されており、オペレーションコードデコーダ204からの要求に従ってメモリアレイ201に対するデータ転送方向ならびにデータ信号端子DTに対する(データ信号端子DTと接続されている信号線の)データ転送方向を切り換え制御する。(22頁9行?13行)
パーソナルコンピュータPCは、既述のようにカートリッジアウト信号COOに基づいてインクカートリッジCA1が装着されるまで待機し(ステップS220:No)、インクカートリッジCA1が装着されると(ステップS220:Yes)、インクカートリッジCA1の記憶装置20が保有する識別データに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS230)。
パーソナルコンピュータPCは送信した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS240)。すなわち、装着されるべきインクカートリッジCA1が装着されている場合には、送信された識別データに対応する識別データを保有する記憶装置20が応答し、誤ったインクカートリッジCAが装着されている場合には、いずれの記憶装置も記憶装置20に対応する識別データに対して応答することができない。パーソナルコンピュータPCは、応答がない場合には(ステップS240:No)、誤ったインクカートリッジCAが装着されている旨を報知し(ステップS250)、ステップS220に戻り、再度、正しいインクカートリッジCAの装着を検出する。誤ったインクカートリッジCAの装着の報知は、例えば、操作パネル13上配置されているランプLMを点滅させても良い。」(26頁21行?27頁10行)

ケ 「[第3実施例]
第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、交換用開口部14を備えず、ユーザが任意のインクカートリッジCAを脱着可能なプリンタに適している。なお、第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、交換用開口部14および交換対象となるインクカートリッジCAの移動を必要としないものの、第1実施例に係るインクカートリッジの識別装置に対して適用可能であるから、以下の説明では第1実施例に係るインクカートリッジの識別装置において用いた符号と同一の符合を用いるものとする。」(31頁5行?11行)

コ 「第3実施例に係るインクカートリッジの識別処理は、インクカートリッジCA1?CA4の初期装着終了後、インクカートリッジCAが空になったとき等に実行される。」(31頁14行?16行)

サ 「パーソナルコンピュータPCは、インク交換要求が発生したと判定した場合には(ステップS400:Yes)、インクカートリッジ特定処理を実行する(ステップS410)。本実施例では、ユーザによって任意のインクカートリッジCAが脱着され得るので、取り外されたインクカートリッジCAが、交換を要求されたインクカートリッジCAと同一であるか否かを特定するためのインクカートリッジ特定処理が必要となる。」(31頁25行?32頁4行)

シ 「パーソナルコンピュータPCは、先ず、交換を要求されたインクカートリッジCAを特定する(ステップS4100)。(中略)以下の説明では、説明の便宜上、インクカートリッジCA1の交換要求が発生したものとする。
パーソナルコンピュータPCは、カートリッジアウト信号COOの入力値COが1となるまで、すなわち、インクカートリッジCAが取り外されるまで待機する(ステップS4110:No)。かかる場合、パーソナルコンピュータPCは、どのインクカートリッジCAが取り外されたかまでは特定することはできず、いずれかのインクカートリッジCAの取り外しを待機することとなる。パーソナルコンピュータPCは、カートリッジアウト信号COOの入力値CO=1を検出すると(ステップS4110:Yes)、先に特定したインクカートリッジCA1に対応する識別データをデータバスDB上に送出する(ステップS4120)。
パーソナルコンピュータPCは、データバスDB上に送出した識別データに対して応答があるか否かを判定する(ステップS4130)。既述のように各インクカートリッジCA1?CA4の記憶装置20?23は、自己の保有する識別データと一致する識別データを受信しない限り応答しないので、識別データをデータバスDB上に送出することによって交換を要求されたインクカートリッジCA1が正しく取り外されたか否かを検出することができる。パーソナルコンピュータPCは、インクカートリッジCA1に備えられている記憶装置20からの応答を検出しない場合には(ステップS4130:No)、交換を要求されたインクカートリッジCA1が正しく取り外されたものと判定し、図16の処理ルーチンにリターンする。すなわち、以上の処理により、交換要求されたインクカートリッジCA1と取り外されたインクカートリッジCAとが同種のインクカートリッジCAであることが識別される。そして、次に、図15に示す処理ルーチンにて、装着されたインクカートリッジCAがインクカートリッジCA1と同種のインクカートリッジCAであるか否かを判定する。
一方、パーソナルコンピュータPCは、インクカートリッジCA1に備えられている記憶装置20からの応答を検出した場合には(ステップS4130:Yes)、全ての記憶装置20?23が保有する識別データに対応する識別データを順次、データバスDB上に送出する(ステップS4140)。かかる場合には、交換を要求されたインクカートリッジCA1以外のインクカートリッジCAが取り外されており、いずれのインクカートリッジCAが取り外されたかを特定する必要があるからである。
パーソナルコンピュータPCは、データバスDB上に順次、送出した識別データのうち、応答のなかった識別データに対応する記憶装置を備えるインクカートリッジCAを特定すると共に、実際に取り外されたインクカートリッジCAの情報として図示しないRAM上に一時的に格納する(ステップS4150)。パーソナルコンピュータPCは、誤ったインクカートリッジCAが取り外された旨を報知し(ステップS4160)、図16に示す処理ルーチンにリターンする。以上の処理によって、交換要求のあったインクカートリッジCA1に代わって実際に取り外されたインクカートリッジCAを特定(識別)することができる。このインクカートリッジ特定処理を実行することによって、取り外されたインクカートリッジCAと装着されたインクカートリッジCAとが同一種のインクカートリッジCAであるか否かを判定することができる。」(32頁6行?34頁3行)

ス 「パーソナルコンピュータPCは、新たなインクカートリッジCAの装着を検出するまで、すなわち、CO=0を検出するまで待機する(ステップS420:No)。パーソナルコンピュータPCは、CO=0を検出すると(ステップS420:Yes)、インクカートリッジ特定処理において特定したインクカートリッジCAに対応する識別データをデータバスDB上に送信する(ステップS430)。
パーソナルコンピュータPCは、特定したインクカートリッジCA(あるいは、インクカートリッジCA1)に備えられている記憶装置(あるいは、記憶装置20)からの応答を検出した場合には(ステップS440:Yes)、新たなインクカートリッジCAが正しく装着されたものと判断し、本処理ルーチンを終了する。一方、パーソナルコンピュータPCは、特定したインクカートリッジCAに備えられている記憶装置からの応答を検出しなかった場合には(ステップS440:No)、先に取り外されたインクカートリッジCAと同種のインクカートリッジCAが装着されなかったものと判断し、誤ったインクカートリッジCAが装着された旨を報知し(ステップS450)、正しいインクカートリッジCAの装着を再度、試みる(ステップS410?ステップS440)。なお、誤ったインクカートリッジCAの報知は、第1実施例において説明した形態に準じて実行される。」(34頁8行?25行)

セ 「[その他の実施例]
図21に示す実施例では、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18が備えられている。インクカートリッジCAの交換時には、制御回路30は、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示す。」(41頁17行?22行)

ソ 「上記実施例では、パーソナルコンピュータPCによってインクカートリッジCAの識別処理が実行されているが、これら一連の処理をカラープリンタ20の制御回路30によって実行してもよい。かかる場合には、インクカートリッジCAの識別処理をカラープリンタ20単独で実行することができる。」(43頁1行?4行)

タ 第2図、第21図の記載から、複数のインクカートリッジ(印刷用記録材容器)CA1ないしCA4が、移動するキャリッジ101の互いに異なる位置に搭載されていることが見て取れる。

(2) 甲第1号証に記載の発明
以上の記載から、甲第1号証には、
「複数のインクカートリッジ(印刷用記録材容器)を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジと、
該インクカートリッジに備えられるデータ信号端子と電気的に接続可能なプリンタ側端子と、
各インクカートリッジに対応して設けられ、交換対象となるインクカートリッジを点灯して示すキャリッジ上のLEDと、
搭載されるインクカートリッジそれぞれの前記端子と接続され、インクカートリッジを識別するための識別データを送出するためのデータバスとを有し、交換対象となるインクカートリッジに対応するキャリッジ上のLEDを点灯させ、その点灯結果に基づいて交換対象となるインクカートリッジを報知するカラープリンタのキャリッジに対して着脱可能なインクカートリッジであって、
前記データバスに接続可能な前記データ信号端子と、
インクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイ、前記データ信号端子から入力される識別データと、前記メモリアレイに格納されている識別データとに応じて応答するIDコンパレータ等を備え、前記データ信号端子から入力される識別情報と、前記記憶素子(メモリアレイ)に格納されている識別情報とが一致する場合に、カラープリンタ側の制御回路に対して応答する記憶装置とを有し、
前記カラープリンタ側の制御回路は、前記応答がない記憶装置を備えるインクカートリッジを、装着されていないインクカートリッジとして検出するようになっているカラープリンタに対して着脱可能なインクカートリッジ。」の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

2 甲第2号証(特開2002-301829号公報)の記載事項
(1)甲第2号証には、以下の記載が存在する。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 被記録媒体にインクを吐出口から吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドに供給するためのインクを貯蔵するインクタンクと、前記記録ヘッド及びインクタンクを搭載するキャリッジを有するインクジェット記録装置において、
前記キャリッジ上にインク色と同じ色相の警告ランプを設け、前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段によってインクタンク内のインクが無くなった場合に対応する前記警告ランプを点灯させるようにしたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】 前記警告ランプをインクタンクに設けたことを特徴とする請求項1記載のインクジェット記録装置。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、記録手段から被記録媒体ヘインクを吐出させて記録を行うインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】インクジェット記録装置に用いられる記録手段の一方式として、シリアル型の記録装置が採用されている。この記録方式のインクジェット記録装置は、例えばキャリッジに記録ヘッド及び該記録ヘッドにインクを供給するためのインクタンクを装着し、前記キャリッジをプラテンローラと平行に往復走行させながら前記記録ヘッドを選択的に発熱させ、記録ヘッドから吐出したインクを被記録媒体に記録し、1行分の記録が終了するとプラテンローラ及びピンチローラによって被記録媒体を1行分搬送させて次行以下の記録を行うものである。
【0003】斯かる従来のインクジェット記録装置において、インク残量が殆ど無いことを警告する手段としては、警告音・本体上部に警告灯の点灯・点滅等の方法がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のインクジェット記録装置には、インクタンク付近には残量検知表示が設けられていないため、交換すべきインクタンクを誤認する可能性があった。
【0005】本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とする処は、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるインクジェット記録装置を提供することにある。」

ウ 「0020】図3及び図4に示すように、ほぼ箱状のキャリッジ3内には、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローのインクをそれぞれ吐出することができる4つのインクジェット記録ヘッドから成る記録ヘッド1と、各インクジェット記録ヘッドにブラック、シアン、マゼンタ及びイエローのインクをそれぞれ供給する4つのインクタンク2bk,2c,2m,2yとが収容されている。
【0021】記録ヘッド固定レバー4は、記録ヘッド1をキャリッジ3に位置決め固定するためのものであり、キャリッジ3のボス3bと記録ヘッド固定レバー4の穴4aが回転自在に嵌合しており、又、記録ヘッド固定レバー4の爪4dとキャリッジ3のストッパ3dが噛み合うことによって記録ヘッド固定レバー4とキャリッジ3が固定される。記録ヘッド固定レバー4のリリース部4bを押すことによってヒンジ部4cが撓み、爪4dがキャリッジ3のストッパ3dから外れ、更に、記録ヘッド固定レバー4は不図示のばねにより図示矢印方向に付勢されているため、記録ヘッド固定レバー4は、図4に示すように回転して開放されるために記録ヘッド1をキャリッジ3から取り外すことができる。尚、3aはガイド軸6(図1参照)が貫通するガイド穴である。
【0022】4つのインクタンク2bk,2c,2m,2yはキャリッジ3に着脱自在に装着されるものであって、その内部にインクが無くなった時点で新たなインクタンクと交換することができる。
【0023】インク残量警告方法としては、公知のインクタンク交換時期検出方法により得られた情報に基づいてインク残量がほぼ無くなった時又は/及び完全に無くなった時にキャリッジ3又は/及びインクタンク2bk,2c,2m,2yに設けられたランプによって交換すべきインクタンクを表示する方法が採用されている。
【0024】本発明に係るインクジェット記録装置において、インクタンク2bk,2c,2m,2y内のインクの残量の検出方法には公知の技術が用いられている。その一例としては、インクタンク内の2箇所に電極をそれぞれ設け、この2箇所の電極間の抵抗値を検出することによってインクの残量を検出する方法、インクの重量を測定する方法(重力センサー等)によりインクの残量を検出する方法、印字したインクのドット数より検出する方法(ドットカウント方式)、インクタンク内のインクを光学的に検出する方法(フォトインターラプセンサー等)等が挙げられる。
【0025】本実施の形態におけるインク警告ランプを設ける場所は、キャリッジ3上又は/及びインクタンク2bk,2c,2m,2y上のユーザーが認識し易い場所が選定される。但し、インクタンク・ヘッド交換等の支障がない場所に設置する必要がある。
【0026】図6はインク残量警告ランプ14を記録ヘッド固定レバー4に設けた例を示すキャリッジ3の斜視図である。前述のように、インク残量が少ないインクタンク上の警告ランプ14を点滅/点灯させることにより、交換すべきインクタンクを間違いなく交換することができる。」

エ 「【0027】<実施の形態2>次に、本発明の実施の形態2について説明する。
【0028】図7及び図8はインク残量警告ランプ14をインクタンク2bk,2c,2m,2y上に設けた例を示すキャリッジ3とインクタンク2bk,2c,2m,2yの斜視図である。前述のように、インク残量が少ないインクタンク上の警告ランプ14を点滅/点灯させることにより、交換すべきインクタンクを間違いなく交換することができる。」

オ 「【0041】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、被記録媒体にインクを吐出口から吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドに供給するためのインクを貯蔵するインクタンクと、前記記録ヘッド及びインクタンクを搭載するキャリッジを有するインクジェット記録装置において、前記キャリッジ上にインク色と同じ色相の警告ランプを設け、前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段によってインクタンク内のインクが無くなった場合に対応する前記警告ランプを点灯させるようにしたため、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるという効果が得られる。」

(2)甲第2号証に記載の発明
以上の記載から、甲第2号証には、
「被記録媒体にインクを吐出口から吐出する記録ヘッドであって、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローのインクをそれぞれ吐出することができる4つの記録ヘッドから成る記録ヘッド1と、各インクジェット記録ヘッドにブラック、シアン、マゼンタ及びイエローのインクをそれぞれ供給する4つのインクタンク2bk,2c,2m,2yと、前記記録ヘッド及びインクタンクを搭載するキャリッジ3と、前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段と、インク残量警告ランプとを有し、
前記インクタンク2bk,2c,2m,2yはキャリッジ3に着脱自在に装着されるものであって、その内部にインクが無くなった時点で新たなインクタンクと交換することができるものであり、
前記検知手段によるインクタンク2bk,2c,2m,2y内のインクの残量の検出方法には、インクタンク内の2箇所に電極をそれぞれ設け、この2箇所の電極間の抵抗値を検出することによってインクの残量を検出する方法、インクの重量を測定する方法(重力センサー等)によりインクの残量を検出する方法、印字したインクのドット数より検出する方法(ドットカウント方式)、インクタンク内のインクを光学的に検出する方法(フォトインターラプセンサー等)等の公知の技術が用いられ、
前記検知手段によってインクタンク内のインクが無くなった場合に対応する前記インク残量警告ランプを点灯させるようにしたインクジェット記録装置のキャリッジに搭載されるインクタンクにおいて、
従来のインクジェット記録装置では、インクタンク付近には残量検知表示が設けられていないため、交換すべきインクタンクを誤認する可能性があったので、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにすることを目的として、
前記インク残量警告ランプを、インクタンク2bk,2c,2m,2yのそれぞれの上に設けるとともに各インクタンク内のインク色と同じ色相のものとし、インクタンク内のインクが無くなった場合に対応する前記インク残量警告ランプを点灯させるようにして、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにした、
インクジェット記録装置のキャリッジに搭載されるインクタンク。」の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 甲第3号証(特開平11-342662号公報)の記載事項
(1)甲第3号証には、以下の記載が存在する。
ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種プリンタ等のような情報機器に用いられる各種カートリッジ類等の対象物の真偽を判定する対象物判定装置及び対象物判定方法に関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】各種プリンタ等のような情報機器では、各種のカートリッジ類が用いられることが多い。例えば、インパクトドットプリンタではインクリボンカートリッジが用いられ、インクジェットプリンタではインクカートリッジが用いられ、レーザプリンタではトナーカートリッジやOPCマガジンカートリッジが用いられる。
【0003】情報機器に用いられるそのような各種のカートリッジ類としては、それらが用いられる情報機器に適合する純正品が用意されているのが一般的であるが、汎用品が市場を流通していることもある。このような汎用品は、模造品であることが多く、模造品であるカートリッジ類を使用した場合には、それが用いられた情報機器を損傷させてしまうような事故が発生することもある。このようなことから、各種のカートリッジ類に模造品が用いられないようにする対策が必要となっている。
【0004】このような模造品対策としては、例えば、カートリッジの取付け機構や駆動機構を複雑にしたり、カートリッジ用の金型を複雑にしてカートリッジ自体の形状を模倣しにくい形状にする、というような対策が従来から採られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】カートリッジの取付け機構や駆動機構を複雑にしたり、カートリッジ用の金型を複雑にしてカートリッジ自体の形状を模倣しにくい形状にするというような模造品対策は、模造品の使用防止や流通阻止のために必要である反面、そのカートリッジが用いられる情報機器の構造が複雑化したり、カートリッジの取付け作業が難しくなったりするというような技術的課題をもたらす。
【0006】本発明の目的は、各種プリンタ等のような情報機器に用いられる各種カートリッジ類等の対象物の真偽を、情報機器の構造を複雑化することなく判定することである。
【0007】本発明の別の目的は、各種プリンタ等のような情報機器に用いられる各種カートリッジ類等の対象物の真偽を、その対象物自体の形状を複雑化することなく判定することである。
【0008】本発明の別の目的は、各種プリンタ等のような情報機器に用いられる各種カートリッジ類等の対象物の真偽を、その真偽判定手法を容易に解析されることなく判定することである。」

ウ 「【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の情報機器の対象物判定装置は、検知対象物が備える複数の波長毎に反射率が異なる反射体に対して発光部より複数の波長の光を照射する光照射手段と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段と、前記受光手段によって得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定する判定手段とを備える。
【0010】請求項2記載の情報機器の対象物判定方法は、検知対象物が備える複数の波長毎に反射率が異なる反射体に対して発光部より複数の波長の光を照射する過程と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る過程と、得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定する過程とを備える。
【0011】これらの請求項1又は2記載の発明では、検知対象物が備える反射体の反射率が波長毎に異なるため、反射体に複数の波長の光を照射した場合、その反射光の受光量が各波長毎に相違することになる。そこで、反射体からの反射光を受光部で受光して得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定することで、検知対象物の真偽が確かめられる。
【0012】請求項3記載の情報機器の対象物判定装置は、発光部に対して接離する検知対象物が備える複数の波長毎に反射率が異なる反射体に対して前記発光部より第一の波長の光を照射する第一の光照射手段と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段と、前記受光手段によって得られた第一の波長の光に応じた受光量の値が第一の所定値になった場合に反射率適合を認識する認識手段と、前記認識手段が反射率適合を認識した場合に前記反射体に対して前記発光部より第一の波長とは異なる第二の波長の光を照射する第二の光照射手段と、前記受光手段によって得られた第二の波長の光に応じた受光量の値が第二の所定値であるかどうかを判定する判定手段とを備える。
【0013】請求項4記載の情報機器の対象物判定方法は、発光部に対して接離する検知対象物が備える複数の波長毎に反射率が異なる反射体に対して前記発光部より第一の波長の光を照射する過程と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る過程と、得られた第一の波長の光に応じた受光量の値が第一の所定値になった場合に反射率適合を認識する過程と、反射率適合が認識された場合に前記反射体に対して前記発光部より第一の波長とは異なる第二の波長の光を照射する過程と、前記受光手段によって得られた第二の波長の光に応じた受光量の値が第二の所定値であるかどうかを判定する過程とを備える。
【0014】これらの請求項3又は4記載の発明では、検知対象物が備える反射体の反射率が波長毎に異なるため、反射体に第一の波長の光と第二の波長の光とを照射した場合、その反射光の受光量が各波長毎に相違することになる。そこで、第一の波長の光が第一の所定値になった時点で第二の波長の光を反射体に照射し、受光部がその反射光を受光して得られた受光量の値が第二の所定値であるかどうかを判定することで、検知対象物の真偽が確かめられる。この際、受光部による反射体からの反射光の受光という判定基礎データの採取時に、反射体に対する発光部の焦点距離が常に一定することになる。」

エ 「【0015】
【発明の実施の形態】本発明の第一の実施の形態を図1ないし図3に基づいて説明する。本実施の形態は、情報機器としてのインパクトドットプリンタへの適用例である。検知対象物は、インクリボンカセット1である。つまり、本実施の形態は、インクリボンカセット1が純正品であるか模造品であるかを判定するための対象物判定装置及び対象物判定方法についての一例である。
【0016】図1はインクリボンカートリッジ1と受発光ユニット2とを示す斜視図、図2は各部の電気的接続のブロック図である。まず、受発光ユニット2は、二つの発光素子3からなる発光部4と二つの受光素子5からなる受光部6とを一体的に備えたユニットであり(図2参照)、インクリボンカートリッジ1のホームポジション近傍に位置する装置本体のサイドフレーム7に近接する位置に取り付けられている(図1参照)。ここで、インクリボンカートリッジ1は、インクリボン8を内蔵し、図示しないキャリアに着脱自在に取り付けられる。そして、インクリボンカートリッジ1は、図1に二点鎖線で示すホームポジション位置からキャリアの移動に伴い所定の印字領域を用紙幅方向に移動自在である。このようなインクリボンカートリッジ1のホームポジションは、サイドフレーム7に取り付けられたマイクロスイッチ構成のホームポジションセンサ9によって検知される。
【0017】ついで、受発光ユニット2は、サイドフレーム7に形成された検出窓10を介してホームポジションに位置するインクリボンカートリッジ1に対面するように位置付けられている。より詳しくは、受発光ユニット2の配置位置は、発光部4から照射された光がホームポジションに向かうインクリボンカートリッジ1の反射エリア11を反射し、その反射光が受光部6に受光されるような位置である。そして、発光部4を構成する二つの発光素子3としては共にLEDが用いられ、受光部6を構成する二つの受光素子5としては共にフォトダイオードが用いられている。本実施の形態では、一方の発光素子3ともう一方の発光素子3とでは、異なる波長の光を照射するように設定されている。
【0018】ここで、インクリボンカートリッジ1には、その反射エリア11に、反射体としての反射シール12が貼付されている。この反射シール12は、図3にグラフで示すように、受光する光の波長に応じて異なる反射率を持つような光反射特性を持っている。このような反射特性は、反射シール12の表面に塗られたインキの光反射特性に依存する。このような光反射特性を持ったインキ自体は、周知のものである。より詳しくは、反射シール12は、図3のグラフに示すように、より紫外線波長領域に近い波長A(第一の波長という)では反射率がAであり、より赤外線波長領域に近い波長B(第二の波長という)では反射率がAよりも低下するBであるような光反射特性を持っている。そこで、本実施の形態では、受発光ユニット2において、一方の発光素子3は波長Aの光を出射し、もう一方の発光素子3は波長Bの光を出射するように設定されている。
【0019】次いで、各部の電気的接続について説明する。各種演算処理を実行して各部を集中的に制御するCPU13が設けられ、このCPU13には固定データを格納するROM14と可変データを書き換え自在に格納するRAM15とがバスライン16を介してバス接続されている。前述した受発光ユニット2も、バスライン16を介してCPU13にバス接続されている。つまり、受発光ユニット2は、図1に示すように、基板17に搭載されており、この基板17に接続するケーブル18がバスライン16に接続された図示しないI/Oポートに接続されることによってCPU13にバス接続されている。また、バスライン16には、図示しない印字ヘッドとそのドライバを主要構成要素とするプリントエンジン19、前述したホームポジションセンサ9等を含む各種センサ20、各種の駆動源となる各種モータ21、模造品を知らせる表示部22も接続されており、これによってそれらの各部はCPU13の統制下に入る。
【0020】本実施の形態のインパクトドットプリンタは、ROM14に動作プログラムが書き込まれたファームウェア構成を採用しており、このような動作プログラムに従ったCPU13によるプリントエンジン19、各種モータ21及び各種センサ20等の駆動制御によって印字動作が実行される。この際、各種モータ21に含まれている図示しないキャリアモータ(CA Motor)に駆動されてキャリアが用紙幅方向にスライド移動し、これに伴ってキャリアに搭載された図示しない印字ヘッドやインクリボンカートリッジ1が用紙幅方向を往復動する。これにより、シリアルタイプのインクドットプリント動作が行われる。
【0021】図4は、インクリボンカートリッジ1の真偽判定処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、装置の電源投入時及びインクリボンカートリッジ1の交換時に実行される。本実施の形態のドットインパクトプリンタでは、インクリボンカートリッジ1のキャリアに対する着脱は、ホームポジション位置近傍で行われる。このようなインクリボンカートリッジ1の交換作業の実行が各種センサ20に検知されてCPU13に認識された場合、及び、装置の電源投入時には、ROM14に格納された動作プログラムの一部である図4に示すルーチンが起動される。以下、このルーチン、つまり、インクリボンカートリッジ1の真偽判定処理について説明する。
【0022】まず、CPU13の駆動制御によって、受発光ユニット2における一つの発光素子3(LED1)が点灯駆動される(S1)。この時に点灯制御されるのは、例えば第一の波長であるA波長の光を出射する方の発光素子3である。ここに、第一の光照射手段の機能が実行される。次いで、キャリアがホームポジション側に向かうようにキャリアを駆動するキャリアモータが1ステップ分だけ駆動され(S2)、その移動量Nが規定量であるXを超えないかどうかが確かめられた後に(S3)、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out1)がCPU13に認識され(受光手段)、その出力レベル(Out1)が第一の所定値である反射率Aに対応する出力レベルであると判定されるまで(S4)、ステップS2?S4までの処理が繰り返される(図3のグラフ参照)。この時、ステップS3でキャリアの移動量Nが規定量Xを超えたと判断された場合にはエラー処理となり、例えば表示部22に純正品でない旨の報知がなされる(S9)。つまり、この場合には、キャリアに装着されたインクリボンカートリッジ1は模造品であると認定されることになる。
【0023】ステップS4において、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out1)が反射率Aに対応する出力レベルであると判定されると(S4のY)、点灯制御されていた発光素子3が消灯され(S5)、第二の波長であるB波長の光を出射するもう一方の発光素子3(LED2)が点灯制御される(S6)。そして、直ちに、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out2)が反射率Bに対応する出力レベルであるかどうかが判定される(S7、図3のグラフ参照)。つまり、ステップS4のYの処理により、受光素子4の出力レベル(Out1)が第一の所定値である反射率Aに対応する出力レベルになった場合に反射率適合を認識する認識手段の機能が実行される。また、ステップS7の処理により、認識手段が反射率適合を認識した場合に反射シール12に対して第二の波長である波長Bの光を照射する第二の光照射手段の機能と、受光手段によって得られた第二の波長の光に応じた受光量の値が第二の所定値であるかどうかを判定する判定手段の機能とが実行される。
【0024】ステップS7での判定の結果、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out2)が反射率Bに対応する出力レベルであると判定された場合、正常である旨の判定がなされる(S8)。つまり、この場合には、キャリアに純正のインクリボンカートリッジ1が装着されたことが確認される。これに対し、ステップS7の判定が否定的である場合にはエラー処理となる(S9)。つまり、この場合には、キャリアに装着されたインクリボンカートリッジ1は模造品であると認定されることになる。
【0025】このにように、本実施の形態によれば、装置本体の構造やインクリボンカートリッジ1の形状を複雑化することなくインクリボンカートリッジ1の真偽を確かめることができる。したがって、インパクトドットプリンタやインクリボンカートリッジ1を安価に製造することができ、また、インパクトドットプリンタに対するインクリボンカートリッジ1の取り付け作業の容易化を図ることができる。しかも、A波長とB波長という複数の波長の光を利用して真偽判定を行うようにしたので、適性と判断される受光量値を簡単に解析することを困難にし、インクリボンカートリッジ1の真偽判定の水準を高度に維持することができる。さらに、A波長の光が反射率Aに対応する値になった時点でB波長の光を反射シール12に照射してその反射光に基づく受光素子4の出力レベル(Out2)が反射率Bに対応する出力レベルであるかどうかを判定するようにした。このため、判定基礎データの採取時における反射シール12に対する発光素子3の焦点距離を常に一定にすることができ、インクの反射特性のばらつきや検出回路の誤差、あるいは位置精度上の誤差等が生じても、それらの誤差に打ち勝って正確な判定を行うことができる。」

(2)甲第3号証に記載の発明
以上の記載から、甲第3号証には、
「従来、インクジェットプリンタを含む各種プリンタ等の情報機器に用いられる各種のカートリッジ類としては、それらが用いられる情報機器に適合する純正品が用意されているのが一般的であるが、汎用品が市場を流通していることもあり、模造品であることが多く、模造品であるカートリッジ類を使用した場合には、それが用いられた情報機器を損傷させてしまうような事故が発生することもあることから、各種のカートリッジ類に模造品が用いられないようにする対策が必要となっているところ、その対策として、カートリッジの取付け機構や駆動機構を複雑にしたり、カートリッジ用の金型を複雑にしてカートリッジ自体の形状を模倣しにくい形状にするというような模造品対策は、そのカートリッジが用いられる情報機器の構造が複雑化したり、カートリッジの取付け作業が難しくなったりするというような技術的課題をもたらすので、各種プリンタ等のような情報機器に用いられる各種カートリッジ類等の対象物の真偽を、情報機器の構造を複雑化することなく判定することを目的として、
検知対象物である前記カートリッジに反射エリアを設け、該反射エリアに、より紫外線波長領域に近い波長A(第一の波長という)では反射率がAであり、より赤外線波長領域に近い波長B(第二の波長という)では反射率がAよりも低下するBであるような光反射特性を持っている反射シール12を貼付し、
前記情報機器に、前記反射体に対して発光部より複数の波長の光を照射する光照射手段と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段と、前記受光手段によって得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定する判定手段とを備え、
検知対象物が備える反射体の反射率が波長毎に異なるため、反射体に複数の波長の光を照射した場合、その反射光の受光量が各波長毎に相違することになり、反射体からの反射光を受光部で受光して得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定することで、検知対象物の真偽を確かめるようにしたインクジェットプリンタを含む各種プリンタ等の情報機器であって、
前記光照射手段を構成する二つの発光素子3からなる発光部4と、前記受光手段を構成する二つの受光素子5からなる受光部6とを、一体的に備えて受発光ユニット2とし、一方の発光素子3は波長Aの光を出射し、もう一方の発光素子3は波長Bの光を出射するものとし、
検知対象物の前記カートリッジは、キャリアに着脱自在に取り付けられて、ホームポジション位置からキャリアの移動に伴い所定の印字領域を用紙幅方向に移動自在であり、
前記受発光ユニット2は、ホームポジションに位置するカートリッジに対面するように位置付けられており、
前記情報機器の電源投入時及びホームポジション位置近傍で行われる前記カートリッジの交換時に、受発光ユニット2における一つの発光素子3(LED1)が点灯駆動され(S1)、第一の波長であるA波長の光を出射され、次いで、キャリアがホームポジション側に向かうように前記キャリアを駆動するキャリアモータが1ステップ分だけ駆動され(S2)、その移動量Nが規定量であるXを超えないかどうかが確かめられた後に(S3)、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out1)がCPU13に認識され(受光手段)、その出力レベル(Out1)が第一の所定値である反射率Aに対応する出力レベルであると判定されるまで(S4)、ステップS2?S4の処理が繰り返され、ステップS3でキャリアの移動量Nが規定量Xを超えたと判断された場合にはエラー処理となり、例えば表示部22に純正品でない旨の報知がなされ(S9)、前記キャリアに装着された前記カートリッジは模造品であると認定され、対応する受光素子4の出力レベル(Out1)が反射率Aに対応する出力レベルであると判定されると(S4のY)、点灯制御されていた発光素子3が消灯され(S5)、第二の波長であるB波長の光を出射するもう一方の発光素子3(LED2)が点灯制御され(S6)、直ちに、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out2)が反射率Bに対応する出力レベルであるかどうかが判定され(S7)、点灯制御された発光素子3に対応する受光素子4の出力レベル(Out2)が反射率Bに対応する出力レベルであると判定された場合、正常である旨の判定がなされ(S8)、キャリアに純正のカートリッジが装着されたことが確認され、ステップS7の判定が否定的である場合にはエラー処理となり(S9)、キャリアに装着されたカートリッジは模造品であると認定される真偽判定処理が実行されるようにして、
前記情報機器本体の構造や前記カートリッジの形状を複雑化することなくカートリッジの真偽を確かめることができるようにした各種プリンタ等の情報機器。」の発明(以下「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 甲第4号証(特開2001-293883号公報)の記載事項
(1)甲第4号証には、以下の記載が存在する。
ア 「【請求項21】 立体形半導体素子からの伝達を受信する手段を有する請求項19または20に記載のインクジェット記録装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、周囲の環境情報を検知し、その情報を外部へ伝達、表示する機能を有する半導体素子に関する。
【0002】また本発明は、インクタンク内の情報(例えばインク残量)を検知し、外部へ表示、伝達する装置、および該装置を備えたインクタンク、該インクタンクを着脱可能に搭載するファクシミリ・プリンター・複写機等のインクジェット記録装置に関する。
【0003】
【従来の技術】従来、記録ヘッドに設けた複数の噴射ノズルからインクを噴射させながら、記録ヘッドを搭載したキャリッジを印字方向に移動することで、画像をドットパターンで用紙に印字するようにしたインクジェット記録装置においては、記録用のインクを収容したインクタンクを設け、そのインクタンクのインクをインク供給路を介して記録ヘッドに供給するようにしている。そこで、そのインクタンクのインクの残量を検出するようにしたインク残量検出装置が実用に供されるととにも、種々提案されている。
【0004】例えば、特開平6-143607号によれば、図22に示すように非導電性のインクが満たされているインクタンク701の底側の内面に2本(1対)の電極702が配設され、インクタンク701内のインク中には、電極702と対向位置にある電極704が配設された浮揚体703が浮揚している。2本の電極702は、両電極の導通状態を検知する検知部(不図示)にそれぞれ接続されており、両電極の導通状態を検知すると、インクタンク701内のインクが無いことを示すインク残量エラーを発し、インクジェット記録ヘッド705の動作を停止させることが開示されている。
【0005】また、特登録2947245号によれば、図23に示すように下部が底面に向かって漏斗状に形成されるとともに、底面に2つの導電体801,802が設けられ、インク803よりも比重の小さい金属球804が内部に設置される構成のインクジェットプリンタ用インクカートリッジ805が開示されている。このような構成では、インク803が消費されて減っていくとインク803の液面が下がる。それに伴って、インク803の表面に浮かんでいる金属球804の位置が下がっていく。インク803の液面がインクカートリッジ筺体の底面の位置まで下がると、金属球804は2つの導電体801,802に接する。すると、導電体801,802が導通するので、その間に電流が流れる。その通流を検出すれば、インクエンド状態を検出することができる。インクエンド状態が検出されれば、インクエンド状態を示す情報が使用者に知らされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来公報に代表するような、インクタンク内のインク残量を検出する構成が知られているが、このような構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要がある。また、電極間の導通状態によりインク残量を検知するため、インク成分に金属イオンが用いられない等の、使用するインクに制約が生じてしまう。
【0007】また、上記の構成ではインク残量しか検知することが出来ず、その他のタンク内情報を外部が知ることが出来ない。例えばインクタンク内の圧力情報、インク物性の変化などは、インクジェットヘッドを常に安定した吐出量で動作するために重要なパラメータであり、タンク内のインク消費に伴って時々刻々と変化するタンク内圧を外部のインクジェット記録装置にリアルタイムで知らせたり、インク物性の変化を外部へ伝達できるタンクが望まれている。
【0008】さらに、一方的にインクタンク内の検知した情報を外部へ知らせるのみならず、外部からの問いかけに対して内部情報を返答するような双方向の情報のやり取りを実施できるインクタンクが望まれている。
【0009】上記のようなインクタンクを開発するにあたって、本発明者らは、直径1ミリのシリコン・ボールの球面上に半導体集積回路を形成するというボール・セミコンダクター社のボール・セミコンダクターに着目した。このボールセミコンダクターは球形であるため、これをインクタンク内に収容すれば、周囲環境情報の検出や外部との双方向の情報のやり取りを平面形に比べて非常に効率良く行えることが予想された。しかしながら、このような機能を持つものを調査したところ、USP5877943号のようにボール・セミコンダクター同士を電気配線で接続する技術などが存在するだけで、上記の機能を持つ素子自体の開発が必要となった。また、この素子がインクタンクに有効に適用できるものである為には、クリアしなければならない課題もあった。課題の一つは、タンク内に収容された素子を起動させるための電力の供給である。素子の起動のための電源をインクタンクに持たせるとタンクが大型になったり、タンク外部に電源を備える場合でも電源と素子との接続手段が必要になり、タンクの製造コストが増え、タンクカートリッジが高価になるので、外部より非接触で素子を起動させねばならない。
【0010】更なる課題としては、インクタンクのインク液面や液面より一定の距離沈んだインク中で浮遊し得ることである。例えばインクタンク内のインク消費に伴う負圧量の変動を経時的に監視するにはインク液面に素子が位置するのが望ましいが、素子は水より比重の大きいシリコンからなるため、インクに浮遊させることが困難である。
【0011】本発明の目的は、周囲環境情報の検出や外部との双方向の情報のやり取りを非常に効率良く行える立体形半導体素子を提供することにある。
【0012】また、本発明の更なる目的は、インクタンク内の詳細な情報をリアルタイムで検出し、外部のインクジェット記録装置と双方向に情報のやり取りを行うことができる立体形半導体素子、該半導体素子を配したインクタンク、および該タンクを備えたインクジェット記録装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明の立体形半導体素子は、外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、外部の環境情報を入手する情報入手手段と、前記情報入手手段による入手情報と比較するための情報を蓄積する情報蓄積手段と、前記情報入手手段による入手情報とこれに対応する前記情報蓄積手段に蓄積された情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断する判断手段と、前記判断手段にて情報伝達が必要と判断された場合に前記情報入手手段による入手情報を外部へ表示又は伝達する情報伝達手段とを備え、前記情報入手手段、前記情報蓄積手段、前記判断手段、および前記情報伝達手段は前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動することを特徴とする。
【0014】また本発明の立体形半導体素子は、外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、外部からの信号を受信する受信手段と、情報を蓄積する情報蓄積手段と、前記受信手段で受信した信号に応じて前記情報蓄積手段の情報を表示又は伝達する情報伝達手段とを備え、前記受信手段、前記情報蓄積手段、および前記情報伝達手段は前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動することを特徴とする。
【0015】また本発明の立体形半導体素子は、外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、外部からの信号を受信する受信手段と、外部の環境情報を入手する情報入手手段と、前記情報入手手段による入手情報と比較するための情報を蓄積する情報蓄積手段と、前記受信手段で受信した信号に応じて前記情報入手手段に外部環境情報を入手させ、当該入手情報とこれに対応する前記情報蓄積手段に蓄積された情報とを比較し、前記入手情報が所定の条件を満たすかどうかの判断を下す判断手段と、少なくとも前記判断手段による判断結果を外部へ表示又は伝達する情報伝達手段とを備え、前記受信手段、前記情報蓄積手段、前記判断手段、および前記情報伝達手段は前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動することを特徴とする。
【0016】前記受信手段、前記情報蓄積手段、前記判断手段、および前記情報伝達手段は前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動する。さらに上記のような立体形半導体素子は、起電力を他の立体形半導体素子に付与する機能を有してもよい。
【0017】上記のような立体形半導体素子では、前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーは非接触で供給されることが好ましい。」

ウ 「【0025】また本発明のインクジェット記録装置は、上記のインクタンクを搭載したものである。この場合の記録装置は、インクタンク内の立体形半導体素子へ、前記エネルギー変換手段が変換する外部エネルギーとして起電力を供給する手段を有することが好ましい。前記起電力は電磁誘導または熱または光または放射線が考えられる。更に、上記のインクジェット記録装置は、立体形半導体素子からの伝達を受信する手段を有することが好ましい。
【0026】また本発明は、立体形半導体素子の製造方法であって、Siの全表面上に保護膜Aを形成する工程と、前記保護膜Aの一部に開口を形成する工程と、前記Siの上部のみ除去する工程と、前記Siと保護膜Aとからなるものの内外表面に保護膜Bを形成する工程と、導電性物により空洞部を密閉状態にする工程と、前記導電性物からなる導電体コイルを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0027】また本発明は、立体形半導体素子の製造方法であって、Siの全表面上に保護膜Aを形成する工程と、前記保護膜Aの一部に開口を形成する工程と、前記Siの上部のみ除去する工程と、前記Siと保護膜Aとからなるものの内外表面に保護膜Bを形成する工程と、導電性物により空洞部を密閉状態にするとともに全表面に導電性物膜を形成する工程と、前記導電性物膜をパターニングして導電性物からなる導電体コイルを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0028】また本発明は、立体形半導体素子を用いた通信システムであって、前記立体形半導体素子を配した液体容器と、前記立体形半導体素子に形成された、導電体コイルを有する発振回路、前記容器内の情報を入手する情報入手手段、外部より信号を受信する受信手段および外部へ情報を伝達する情報伝達手段と、前記立体形半導体素子の外部に設置され、前記立体形半導体素子の発振回路との間で電磁誘導によって電力を発生させるための外部共振回路と、前記立体形半導体素子の前記受信手段および前記情報伝達手段とで双方向通信を行う外部通信手段とを備えたことを特徴とする。
【0029】この場合の通信システムでは、液中に浮遊する立体形半導体素子の重心が、当該素子の中心より下部に位置し、且つ、浮遊する液中で回転しないで、安定した揺動をすることが好ましく、立体形半導体素子のメタセンタが、該立体形半導体素子の重心より、重力方向に対して常に上部にあることが好ましい。
【0030】なお、本明細書中の「メタセンタ」とは、釣り合いにある時の重量の作用線と、傾いたときの浮力の作用線との交点を示す。
【0031】また本明細書中の「立体形半導体素子」の「立体形」とは、三角柱、球、半球体、四角柱、回転楕円体、一軸回転体など、種々の立体形を全て含む。
【0032】外部エネルギーの供給方法は、インクジェット記録装置に用いられる場合、素子に外部エネルギーとして起電力を供給する手段は回復ポジション、リターンポジション、もしくはキャリッジ、ヘッド等に設ければ良い。これ以外にも、起電力を供給する手段を有する装置を用いれば、インクジェット記録装置がなくてもインクタンク内部の状態を知ることができ、例えば工場や販売店で用いれば検査などに用いられる(品質保証)。
【0033】(作用)上記のとおりの立体形半導体素子では、素子外部から(好ましくは非接触で)特定のエネルギーを与えると、エネルギー変換手段はその外部エネルギーを異なるエネルギーへと変換し、この変換されたエネルギーにより情報入手手段、判断手段、情報蓄積手段、および情報伝達手段を起動する。起動した情報入手手段は、素子周囲の環境情報を入手する。次に、判断手段は、入手情報と参照するための情報を情報蓄積手段より読み出し、この読み出した蓄積情報と入手情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断する。そして、情報伝達の必要があると判断した場合に、判断手段は入手情報を情報伝達手段により外部へ伝達させる。
【0034】このように周囲環境情報を入手して外部に伝達する機能を立体形の半導体素子に作り込んでいるため、3次元的に情報入手・伝達が可能なので、平板形の半導体素子を用いる場合と比べて、情報伝達の方向の制限も少ない。このため、周囲環境情報の入手、外部への伝達を効率良く行うことができる。
【0035】さらには、外部からの信号を受信する通信手段を付加することにより、受信信号に応じた情報を入手して、蓄積情報との比較判断結果をその入手情報とともに外部へ伝達できるので、外部装置と双方向に信号のやり取りを行なうことも可能である。
【0036】また、このような立体形半導体素子をインクタンク内に少なくとも一つ配することで、インクタンク内に収容したインクに関する情報や、タンク内の圧力などをリアルタイムで外部の例えばインクジェット記録装置に伝達させることが可能である。これは、例えばインク消費に伴って時々刻々と変化するタンク内の負圧量を制御してインクジェット吐出を安定化する上で有利である。
【0037】さらに、立体形半導体素子を動作させるための外部エネルギーを非接触で供給する構成であるので、素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり、エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく、外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。
【0038】例えば、素子の起動エネルギーを電力とした場合は、外部エネルギー変換手段として発振回路の導電体コイルを立体形半導体素子の外表面に巻き付けるように形成することにより、外部の共振回路との間で電磁誘導によって導電体コイルに電力を発生させて、素子に非接触で電力を供給することができる。
【0039】この場合、素子の外表面にはコイルが巻き付けられているので、そのコイルのインダクタンスの大きさはインクタンク内の例えばインクの残量、インク濃度、インクpHに応じて変化する。したがって、発振回路はそのインダクタンスの変化に応じて発振周波数を変更するので、その変更される発振周波数の変化に基づいてインクタンク内のインクの残量などを検出することも可能である。
【0040】そして、立体形半導体素子は、液中に浮遊するための空洞部を有するとともに、素子の重心が、当該素子の中心より下部に位置するように形成されているので、例えば、インクジェット記録装置に搭載された記録ヘッドおよびインクタンクが、シリアルに動作し、インクタンク内のインクが上下左右に揺動しても、安定してインクタンク内のインク中に浮遊しながら、インクに関する情報や、タンク内の圧力などを精度良く検出することができる。その上、素子に形成した上記の発振回路のコイルを、外部の共振回路のコイルに対して安定した位置で保持し、常に安定した双方向通信をも可能にする。」

エ 「【0044】図2は図1に示した素子の動作を説明するためのフローチャートである。図1及び図2を参照すれば、外部Aから素子11に向かって起電力12を与えると、エネルギー変換手段14は起電力12を電力13へと変換し、その電力により情報入手手段15、判断手段16、情報蓄積手段17、および情報伝達手段18を起動する。
【0045】起動した情報入手手段15は、素子周囲の環境情報であるインクタンク内の情報、例えば、インクの残量、インクの種類、温度、phなどの情報を入手する(図2のステップS11)。次に、判断手段16は、入手したタンク内部情報と参照するための条件を情報蓄積手段17より読み出し(図2のステップS12)、この読み出した条件と入手したタンク内部情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断する(図2のステップS13)。ここで、情報蓄積手段17に予め設定してある条件に基づく判断は、例えばインク残量が2ミリリットル以下になったり、インクのphが大きく変化したりした為にタンク交換が必要との判断を行うことが挙げられる。
【0046】ステップS13において判断手段16が外部へタンク内の情報を伝達する必要がないと判断した場合には、情報蓄積手段17に現在のインクタンク内の情報が蓄積される(図2のステップS14)。この蓄積情報は次に情報入手手段15が入手した情報と判断手段16で比較してもよい。
【0047】またステップS13において、判断手段16が外部へタンク内の情報を伝達する必要があると判断した場合には、エネルギー変換により得た電力が、情報伝達手段18で、インクタンク内の情報を外部へ伝達するためのエネルギーへと変換される。この伝達するためのエネルギーは磁界、光、形、色、電波、音などを使用することが可能であり、例えばインク残量が2ミリリットル以下になったと判断された場合には音を鳴らしてタンク交換が必要であることを外部B(例えば、インクジェット記録装置)に伝達する(図2のステップS15)。また、伝達先はインクジェット記録装置のみでなく、特に光、形、色や音などの場合は人の視覚や聴覚に伝達してもよい。さらに、インク残量が2ミリリットル以下になったと判断された場合には音で、インクのphが大きく変化したときには光で知らせるなど、情報に応じてその伝達方法を変えてもよい。
【0048】インクジェット記録装置に用いられる場合、素子に外部エネルギーとして起電力を供給する手段は回復ポジション、リターンポジション、もしくはキャリッジ、ヘッド等に設ければ良い。これ以外にも、起電力を供給する手段を有する装置を用いれば、インクジェット記録装置がなくてもインクタンク内部の状態を知ることができ、例えば工場や販売店で用いれば検査などに用いられる(品質保証)。
【0049】本実施形態によれば、素子がエネルギー変換手段を有しているので、外部と直接的な電気的配線を行う必要がなくなり、外部と直接的な電気的配線を行うことが困難な個所、例えば図11?図14に示すようなインク中など、対象物中のどの個所であっても素子を使用することができる。インク中に素子を配すれば、インクの状態をリアルタイムで正確に把握することが可能となる。
【0050】また、素子がエネルギー変換手段を有しているので、素子を動作させるための起電力を蓄積する手段(本例では電源)を配置する必要がなくなるため、素子の小型化が可能となり、狭い個所、もしくは図11?図14のようにインク中など、対象物中のどの個所であっても素子を使用することができる。尚、本実施例では非接触で起電力を供給したが、一時的に外部と接触して起電力を供給した後、外部と非接触となる形態でもよい。」

オ 「【0059】(第3の実施の形態)図5は本発明の第3の実施の形態による立体形半導体素子の内部構成および外部とのやり取りを表したブロック構成図である。この図で示す形態の立体形半導体素子31は、外部Aから素子31に向かって非接触で供給された起電力32を電力33に変換するエネルギー変換手段34と、エネルギー変換手段34で得た電力を用いて浮力を発生させる浮力発生手段35とを備え、インクタンク内のインク中に配される。
【0060】このような形態では、外部Aから素子31に向かって起電力32を与えると、エネルギー変換手段34が起電力32を電力33へと変換し、その電力33を用いて浮力発生手段35が浮力を発生し、素子31をインク液面で浮遊させる。この浮力は必ずしもインク液面だけでなく、インクが空の状態で吐出を行うのを防止するために、素子の位置が必ずインク液面から一定距離下方に存在するようにしてもよい。
【0061】例えば図6にインクタンクのインク中に浮遊させた素子の位置を、インクの消費変化とともに示す。図6に示すようなタンクではインク供給口36より負圧発生部材37のインクが外部へ導出されるのに伴い、消費された分のインクが負圧発生部材37に保持される。これにより、生インク38中の立体形素子31は、インク液面Hから一定距離下方に存在した状態で、インクの消費によるインク液面Hの位置の低下と共に移動する。
【0062】図7は素子31の位置を確認し、タンク交換の必要性を判断するためのフローチャートである。図5及び図7のステップS31?S34を参照すると、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により素子31に向けて光を発信し、その光を外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信することにより素子31の位置が検知され、この素子の位置によりインクタンク交換の必要があるか等をインクジェット記録装置が判断し、必要がある場合はタンク交換を音や光等で報知する。
【0063】この素子の位置の検出は、発光手段と受光手段が対向して設けられていて、素子の部分が光を通さないことにより位置が確認されるもの、もしくは発光手段から発した光が受光手段に向けて反射することにより確認されるものなどが用いられる。
【0064】本実施形態によれば、液体の比重が異なるなど素子が用いられる環境により素子に必要な浮力などが変化する場合においても、外部からの起電力をエネルギー変換手段により変換して所望の位置に常に素子が存在するように設定することができるので、素子が置かれる環境に関わらず素子を使用することが可能である。
【0065】なお、本実施形態は上述した第1及び第2の実施の形態に適宜組み合わせることも可能である。」

カ 「【0072】また図9は、インクタンク内及びこれに接続したインクジェットヘッド内にそれぞれ、第1、第2又は第3の実施の形態を適宜組み合わせた立体形半導体素子を配置した例を示している。この例では、第1の実施の形態に対して第3の実施の形態の浮力発生手段および他の素子79への情報伝達機能を付加した立体形半導体素子71がインクタンク72のインク73中の所望の位置に配置される。一方、インクタンク72のインク供給口74と連結した液路75及び液室76を通じて供給されたインクを印字のために吐出口77から吐出する記録ヘッド78には、ID機能(認証機能)を備えた第2の実施の形態の立体形半導体素子79が配置される。この素子79への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい。
【0073】そして、各素子71,79に外部から起電力を供給すると、インク中の素子71は例えばインクの残量情報を入手し、記録ヘッド側の素子79は例えばタンク交換のためのインク残量を判断するID情報を素子71に伝達する。すると、素子71は入手したインク残量とIDを比較し、一致したときのみ、素子79に外部へタンク交換を知らせるよう伝達指示する。素子79はこれを受信して外部にタンク交換を知らせる信号を伝達したり、人の目や聴覚に訴える音や光等を出力する。
【0074】以上のように、素子をある対象物中に複数配することで、複雑な情報の条件を設定することが可能となる。
【0075】また、図8及び図9に示した例では、各々の立体形半導体素子に起電力を供給する構成としたが、これに限らず、ある素子に供給した起電力を情報とともに他の素子に順次伝達する構成であってもよい。例えば図10に示すように、第1の実施の形態に対して第3の実施の形態の浮力発生手段と他の素子への情報伝達機能および起電力供給機能を付加した立体形半導体素子81及び、第2の実施の形態に対して第3の実施の形態の浮力発生手段と他の素子への情報伝達機能および起電力供給機能を付加した立体形半導体素子82がそれぞれ、図9と同様のインクタンク72のインク73中の所望の位置に配置される。一方、インクタンク72と連結した記録ヘッド78には、ID機能(認証機能)を備えた第2の実施の形態の立体形半導体素子83が配置される。この素子83への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい。
【0076】そして、素子81に外部から起電力を供給すると、インク中の素子81は例えばインクの残量情報を入手して、この情報を内部の規定条件と比較し、他の素子へ伝達の必要がある場合は入手したインク残量情報を素子82に、素子82を動作させる起電力とともに伝達する。起電力が供給された素子82は、素子81から伝達されたインク残量情報を受信するとともに、例えばインクのphに関する情報を入手し、記録ヘッド側の素子83に、素子83を動作させる起電力を伝達する。すると、起電力が供給された記録ヘッド側の素子83は例えばタンク交換のためのインク残量又はインクのphを判断するID情報を素子82に伝達する。そして素子82は、入手したインク残量情報およびph情報とIDを比較し、一致したときのみ、素子83に外部へタンク交換を知らせるよう伝達指示する。素子83はこれを受信して外部にタンク交換を知らせる信号を伝達したり、人の目や聴覚に訴える音や光等を出力する。このように、ある素子から他の素子へと情報とともに起電力を供給する方法も考えられる。
【0077】なお、記録ヘッド78は、液路内でヒーター等の電気熱変換素子の熱によりインクを発泡させ、その気泡成長エネルギーにより、液路と連通する微小開口よりインクを吐出するものが考えられる。」

キ 「【0131】ここで、無線LANシステムによる送受信の概要を説明する。下記では、立体形半導体素子から記録装置へのデータ送信について述べる。尚、逆に記録装置側から立体形半導体素子へのデータ送信を行う場合は、それぞれ側にデータIDを配しており、それによって、識別される。」

ク 「【0138】
【発明の効果】本発明の立体形半導体素子によれば、外部エネルギーの変換手段と、該エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動する外部の環境情報の入手手段および、情報蓄積手段、入手情報と蓄積情報を比較し判断する判断手段、入手情報を外部へ表示又は伝達する情報伝達手段とを備えることで、この素子の立体形という形状を活かして、周囲環境情報の入手を効率良く行なえる。また、平板形の半導体素子を用いる場合と比べて、情報伝達の方向の制限も少ない。さらには、外部からの信号を受信する通信手段を備え、この受信信号に応じた情報を入手して、蓄積情報との比較判断結果をその入手情報とともに外部へ伝達することで、外部装置と双方向に信号のやり取りを行なうことも可能である。
【0139】また、このような立体形半導体素子をインクタンク内に少なくとも一つ配することで、インクタンク内に収容したインクに関する情報や、タンク内の圧力などをリアルタイムで外部の例えばインクジェット記録装置に伝達させることが可能である。これは、例えばインク消費に伴って時々刻々と変化するタンク内の負圧量を制御してインクジェット吐出を安定化する上で有利である。
【0140】さらに、立体形半導体素子を動作させるための外部エネルギーを非接触で供給する構成であるので、素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせたり、エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要がなく、外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができる。
【0141】例えば、素子の起動エネルギーを電力とした場合は、外部エネルギー変換手段として発振回路の導電体コイルを立体形半導体素子の外表面に巻き付けるように形成することにより、外部の共振回路との間で電磁誘導によって導電体コイルに電力を発生させて、素子に非接触で電力を供給することができる。
【0142】この場合、素子の外表面にはコイルが巻き付けられているので、そのコイルのインダクタンスの大きさはインクタンク内の例えばインクの残量、インク濃度、インクpHに応じて変化する。したがって、発振回路はそのインダクタンスの変化に応じて発振周波数を変更するので、その変更される発振周波数の変化に基づいてインクタンク内のインクの残量などを検出することも可能である。
【0143】そして、立体形半導体素子は、液中に浮遊するための空洞部を有するとともに、素子の重心が、当該素子の中心より下部に位置するように形成されているので、例えば、インクジェット記録装置に搭載された記録ヘッドおよびインクタンクが、シリアルに動作し、インクタンク内のインクが上下左右に揺動しても、安定してインクタンク内のインク中に浮遊しながら、インクに関する情報や、タンク内の圧力などを精度良く検出することができる。その上、素子に形成した上記の発振回路のコイルを、外部の共振回路のコイルに対して安定した位置で保持し、常に安定した双方向通信をも可能にする。」

(2)甲第4号証に記載の発明
以上の記載から、甲第4号証には、
「記録ヘッドに設けた複数の噴射ノズルからインクを噴射させながら、該記録ヘッドを搭載したキャリッジを印字方向に移動することで、画像をドットパターンで用紙に印字するようにしたインクジェット記録装置において、
従来知られているインクタンク内のインク残量を検出する構成では、インクタンク内に検出用の電極を配置する必要があり、電極間の導通状態によりインク残量を検知するためインク成分に金属イオンが用いられない等の使用するインクに制約が生じてしまう欠点があり、また、従来のものでは、インク残量しか検知することが出来ずその他のタンク内情報を外部が知ることが出来なかったので、インクタンク内のインク消費に伴って時々刻々と変化するタンク内圧を外部のインクジェット記録装置にリアルタイムで知らせたり、インク物性の変化を外部へ伝達したりすることができるインクタンクや、さらに、外部からの問いかけに対して内部情報を返答するような双方向の情報のやり取りを実施できるインクタンクが望まれていることに鑑み、
ボール・セミコンダクターに着目し、この素子をインクタンクに適用するに際し、素子の起動のための電源をインクタンクに持たせるとタンクが大型になったり、タンク外部に電源を備える場合でも電源と素子との接続手段が必要になったり、タンクの製造コストが増え、タンクカートリッジが高価になったりするので、この素子をインクタンクに有効に適用するために、外部より非接触で素子を起動させるといった課題を解決することを目的として、
外部からのエネルギーを異なる種類のエネルギーに変換するエネルギー変換手段と、外部からの信号を受信する受信手段と、外部の環境情報を入手する情報入手手段と、前記情報入手手段による入手情報と比較するための情報を蓄積する情報蓄積手段と、前記受信手段で受信した信号に応じて前記情報入手手段に外部環境情報を入手させ、当該入手情報とこれに対応する前記情報蓄積手段に蓄積された情報とを比較し、前記入手情報が所定の条件を満たすかどうかの判断を下す判断手段と、少なくとも前記判断手段による判断結果を外部へ表示又は伝達する情報伝達手段と、前記受信手段及び前記情報伝達手段とで双方向通信を行う外部通信手段とを備え、前記受信手段、前記情報蓄積手段、前記判断手段、及び前記情報伝達手段は前記エネルギー変換手段で変換されたエネルギーにより作動するようにして、周囲環境情報の検出や外部との双方向の情報のやり取りを非常に効率良く行え、インクタンク内の詳細な情報をリアルタイムで検出し、外部のインクジェット記録装置と双方向に情報のやり取りを行うことができるようにした第1の立体形半導体素子を、前記インクタンクに配するようにし、
第1の立体形半導体素子外部から(好ましくは非接触で)特定のエネルギーを与えると、エネルギー変換手段はその外部エネルギーを異なるエネルギーへと変換し、この変換されたエネルギーにより前記受信手段、前記情報蓄積手段、前記判断手段、及び前記情報伝達手段を起動し、起動した情報入手手段は、インクの残量、インクの種類、温度、phなどの素子周囲の環境情報を入手し、次に、判断手段は、入手情報と参照するための情報を前記情報蓄積手段より読み出し、この読み出した蓄積情報と入手情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断して、外部へタンク内の情報を伝達する必要がないと判断した場合には、情報蓄積手段に現在のインクタンク内の情報を蓄積し、この蓄積情報は次に情報入手手段が入手した情報と判断手段で比較できるようにし、情報伝達の必要があると判断した場合には、前記判断手段は入手情報を前記情報伝達手段により磁界、光、形、色、電波、音などを使用して外部へ伝達させるので、周囲環境情報の入手、外部への伝達を効率良く行うことができ、さらには、前記外部通信手段により、受信信号に応じた情報を入手して、蓄積情報との比較判断結果をその入手情報とともに外部へ伝達できるので、外部装置と双方向に信号のやり取りを行なうことも可能であり、また、インクタンク内に収容したインクに関する情報や、タンク内の圧力などをリアルタイムで外部の例えばインクジェット記録装置に伝達させることが可能であり、かつ、素子の起動のためのエネルギー源をインクタンクに持たせる必要も、エネルギー供給用の配線を素子に接続する必要もなく、外部との直接的な配線を施すことが困難な箇所に使用することができるようにしたインクジェット記録装置であって、
第1の立体形半導体素子に、エネルギー変換手段で得た電力を用いて浮力を発生させる浮力発生手段も備え、前記第1の立体形半導体素子をインクタンクのインク中の所望の位置に配置し、外部Aから第1の立体形半導体素子に向かって起電力を与え、エネルギー変換手段が起電力を電力へと変換し、その電力を用いて浮力発生手段が浮力を発生し、第1の立体形半導体素子をインク液面で浮遊させ、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により第1の立体形半導体素子に向けて光を発信し、第1の立体形半導体素子の部分が光を通さないことによりもしくは発光手段から発した光が受光手段に向けて反射することにより、その光を外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信することにより第1の立体形半導体素子の位置が検知され、この第1の立体形半導体素子の位置によりインクタンク交換の必要があるか等をインクジェット記録装置が判断し、必要がある場合はタンク交換を音や光等で報知するようにし、
また、前記インクジェット記録装置に、前記第1の立体形半導体素子からの伝達を受信する受信手段を備え、該受信手段を、ID機能(認証機能)を備えた第2の立体形半導体素子を前記記録ヘッドに配置したもので構成し、第2の立体形半導体素子への電力供給は、第2の立体形半導体素子表面に配した電極部と前記記録ヘッドを駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行ない、第1及び第2の立体形半導体素子に外部から起電力を供給すると、インク中の第1の立体形半導体素子は例えばインクの残量情報を入手し、記録ヘッド側の第2の立体形半導体素子は例えばタンク交換のためのインク残量を判断するID情報を第1の立体形半導体素子に伝達し、第1の立体形半導体素子は入手したインク残量と伝達されたタンク交換のためのインク残量を判断する前記ID情報とを比較し、一致したときのみ、第2の立体形半導体素子素子に外部へタンク交換を知らせるよう伝達指示し、第2の立体形半導体素子はこれを受信して外部にタンク交換を知らせる信号を伝達したり、人の目や聴覚に訴える音や光等を出力するようにもできる、インクジェット記録装置。」の発明(以下「甲第4号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

第8 当審の判断
1 訂正発明1及び2の課題
(1) 101号訂正明細書には、次のとおりの記載がある。
ア 「このようなプリンタでは、特に信号線の数が増すことはコストを増すなどの要因となる。一方で、配線数を削減するためにはバス接続といった所謂共通の信号線の構成が有効であるが、単にバス接続のような共通の信号線を用いる構成では、インクタンクもしくはその搭載位置を特定することができないことは明らかである。」(段落【0009】)

イ 「本発明はこのような問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発光制御をすることを可能とすることにある。」(段落【0010】)

ウ 「以上の構成によれば、記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続する液体インク収納容器であるインクタンクの接点(パッド)を介して入力される信号と、そのインクタンクの色情報とに基づいて発光部の発光を制御するので、先ず、搭載される複数のインクタンクが共通の信号線によってその同じ制御信号を受け取ったとしても、色情報に合致するインクタンクのみがその発光制御を行うことができ、これにより、インクタンクを特定した発光部の点灯など発光制御が可能となる。次に、このようなインクタンクを特定した発光制御が可能な場合、例えば、キャリッジに搭載された複数のインクタンクについて、その移動に伴い所定の位置で順次その発光部を発光させるとともに、上記所定の位置での発光を検出するようにすることにより、発光が検出されないインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識できる。これにより、例えば、ユーザに対してインクタンクを正しい位置に再装着することを促す処理をすることができ、結果として、インクタンクごとにその搭載位置を特定することができる。」(段落【0019】)

エ 「この結果、複数のインクタンクの搭載位置に対して共通の信号線を用いてLEDなどの表示器の発光制御を行い、この場合でもインクタンクなど液体インク収納容器の搭載位置を特定した表示器の発行制御をすることが可能となる。」(段落【0020】)

オ 「第1受光部210は、インクタンク1のLED101からの発光を受けて、それに応じた信号を制御回路300へ出力する。制御回路300は、後述のように、この信号に基づき、それぞれのインクタンク1のキャリッジ205における位置を判断することができる。また、…エンコーダスケール209が設けられ…エンコーダセンサ211が設けられ…このセンサの検出信号は…制御回路300に入力し、これにより、キャリッジ205の移動位置を知ることができる。」(段落【0079】)

カ 「A番目のインクタンクが装着されていると判断したときは、…該当する色情報のインクタンク1のLED101を点灯する。…4つのインクタンク総てについて装着確認制御が終了し…総てのインクタンクについて、LED101の点灯がされたか否かを判断する。いずれかのインクタンクのLED101が点灯していないと判断したときは、ステップS302以降の処理を繰り返す。…総てのインクタンクのLEDが点灯したと判断したときは、…正常にインクタンクが装着されたか否かを判断する。装着が正常と判断したときは、…着脱処理が正常終了したか否かを判断する。…着脱処理が正常に終了したと判断したときは、…カバー201が閉じられたか否かを判断する。ここで、本体カバーが閉じられたと判断したときは、ステップS105の光照合処理に移行する。」(段落【0101】ないし段落【0107】)

キ 「光照合処理は、正常に装着されたインクタンクそれぞれが正しい位置に装着されているか否かを判断する処理である。本実施形態では、インクタンクの装着位置について、例えば、インクタンクと装着位置の形状を他のインクのインクタンクが装着できないような形状とし、それぞれの色のインクタンクに対応して装着位置を定めるような構成をとらないことから、それぞれの色のインクタンクについて本来の位置でないところに誤って装着される可能性がある。このため、本光照合処理を行い、誤って装着されている場合は、ユーザにその旨を知らせるものである。これにより、特に、インクタンクの形状を色ごとに異ならせることなく、インクタンクの製造の効率化や低コスト化を図ることができる。」(段落【0108】)

ク 「図29(a)に示すように、先ず、第1受光部210に対して、図中左側から右側へ移動キャリッジ205を開始する。そして、最初に、イエローインクのインクタンク1Yが装着されるべき位置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で、インクタンク1YのLED101を発光させる(図24にて説明したように、実際は点灯し所定時間後消灯すること、以下、本照合処理では同様)。インクタンク本来の正しい位置に装着されているとき、第1受光部210はLED101の発光を受光することができ、制御回路300は、その装着位置にはインクタンク1Yが正しく装着されていると判断する。
キャリッジ205を移動しつつ、同様にして、図29(b)に示すように、マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位置のインクタンクが第1受光部210に対向する位置で、インクタンク1MのLED101を発光させる。同図に示す例は、インクタンク1Mが正しい位置に装着されていて第1受光部210はその発光を受光することを示している。順次、図29(b)?(d)に示すように、判断する装着位置を変えながら発光を行って行く。これらの図は、正しい位置に装着されている例を示している。
これに対し、図30(b)に示すように、マゼンタインクのインクタンク1Mが装着されるべき位置にシアンインクのインクタンク1Cが誤って装着されているときは、第1受光部210に対向しているインクタンク1CのLED101は発光せず、別の位置に搭載されているインクタンク1MのLED101が発光する。この結果、このタイミングでは、第1受光部210は受光できないことから、制御回路300は、その装着位置にはインクタンク1M以外のインクタンクが装着されていると判断する。これに対応して、図30(c)に示すように、シアンインクのインクタンク1Cが装着されるべき位置にマゼンタインクのインクタンク1Mが誤って装着されており、第1受光部210に対向しているインクタンク1MのLED101は発光せず、別の位置に搭載されているインクタンク1CのLED101が発光する。
以上説明した光照合処理を行うことにより、制御回路300は本来の位置に装着されていないインクタンクを特定することができる。また、装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には、その装着位置において、他の3色のインクタンクを順に発光させる制御を行うことによって、その装着位置に誤って何色のインクタンクが装着されてしまったかを特定することもできる。」(段落【0110】ないし段落【0113】)

(2)上記(1)のアないしエの記載によれば、訂正発明1及び2の課題は、キャリッジに複数の液体インク収納容器を搭載して使用する記録装置において、コストを低減するため、記録装置と液体インク収納容器との間の配線の方式に、全液体インク収納容器に共通の信号線を用いる共通バス接続の方式を採用した場合でも、各液体インク収納容器がインク色に従ってキャリッジの所定の位置に正しく装着されているか否かを検出することにある。
すなわち、共通バス接続の方式を採用した場合に、記録装置側からの要求に応じて、単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても、例えばイエローの液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には、それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで、それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できないので、その余の構成を加えて、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものである。

(3)そして、上記(1)のオないしクの記載によれば、訂正発明1及び2の実施形態として、101号訂正明細書には次のものが記載されているものと認められる
「液体インク収納容器であるインクタンクのそれぞれに発光部であるLED101を1つずつ設け、
記録装置の本体側に第1受光部となる受光手段を1つ設け、
記録装置のキャリッジに、例えば4色で1組である4つのインクタンクをそのインクタンクのインク色に対応して決まっている箇所に装着し、装着されたインクタンクの接点(パッド)が本体側の接点(コネクタ)と当接して電気的に接続した状態で、
記録装置の本体側の制御回路300は、本体側の接点(コネクタ)へ1番目の色情報を指定する信号を出力し、各インクタンクの制御部は、記録装置の本体側の接点(コネクタ)と接続するインクタンクの接点(パッド)を介して本体側から入力される信号の1番目の色情報と、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、そのメモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を前記制御回路300に読み出させて、前記制御回路300は、メモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を読み出すことができた場合は、1番目のフラグF(1)を“1”にセットして当該インクタンクのLED101を発光させ、メモリアレイ103Bに記憶されている1番目の色情報を読み出すことができなかった場合には、1番目のフラグF(1)を“0”のままにしておき、2番目、3番目、4番目と、各色情報について同様の処理を順次行って、4つの色情報に対応する4つのフラグF(1)ないしF(4)がすべて“1”にセットされて総てのインクタンクのLED101が点灯したと判断した後に、
1番目の色情報が示すインク色のインクタンクが装着されるべきキャリッジの箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを移動させ、前記制御回路300から1番目の色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を出力し、各インクタンクの制御部は、本体側から入力される信号の1番目の色情報と、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、そのインクタンクのLED101を発光させるとともに、このとき、このLED101からの光は、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていれば前記第1受光部に受光され、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていなければ前記第1受光部に受光されないから、前記第1受光部がLED101からの光を受光したか否かを前記第1受光部からの出力が入力されている前記制御回路300が判断し、2番目、3番目、4番目と、各色情報について同様の処理を順次行って、前記第1受光部からの入力で発光が検出されなかった色情報が示すインク色のインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識し、装着されるべき位置に正しいインクタンクが装着されていなかった場合には、キャリッジのその装着されるべき位置に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを位置させておいて、他の3つの色情報について、色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を順に前記制御回路300から出力させて他の3つのインクタンクのうち、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報が本体側から入力される信号の色情報と一致するインクタンクを順に発光させ、前記第1受光部で発光したLEDからの光を受光したことを検出することによって、そのとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクがその装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定するようにして、インクタンクごとにその搭載位置を特定することができるようにしたもの。」

2 無効理由1について
(1)請求人らは、「投光するための光を発光する」という構成は、「投光するための光」を発光さえすれば、受光手段(又は受光部)に対して直接に光を照射しなくても、その構成に含まれることになることから、受光手段(又は受光部)に対して直接光を照射する場合のみならず、発光した光が反射するなどして間接的に投光されるものも含むから、そのような構成は101号訂正前明細書には記載されておらず、新規事項の追加に当たるものであると主張する。
(2)しかしながら、「前記受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光する前記発光部」との内容は、例えば、本件図面の図3(a)の「第1発光部(LED)101からの光の光軸(矢印)が第1受光部210に向かっている」記載及び101号訂正前明細書の「図3(a)に示すように、…キャリッジの走査範囲の端部にあって、図の右上方向に投光される光を受容する位置に受光部を配置し、その部位にキャリッジが位置したときに第1発光部101の発光を制御することで、記録装置側は受光部の受光内容からインクタンク1に係る所定の情報を認識することが可能となる。」(段落【0036】)の記載、あるいは、段落【0038】ないし段落【0047】、段落【0073】、段落【0079】、段落【0110】及び段落【0111】、並びに、本件図面の図4(a)、図8、図9、図11、図12(a)、図18及び図29の記載からみて、101号訂正前明細書に記載した事項の範囲内において行われたものであると認められる。
(3)101号訂正前特許請求の範囲の記載では、「受光部」が液体収納容器からの光を受光することは特定されてはいたが、液体収納容器からの光が発光部からの光であるとは特定されておらず、発光部の配置や発光部からの光に指向性がある場合の光軸方向などは、受光部の配置や向きとの関係で何ら特定されていなかった。101号訂正により、その液体収納容器からの光が発光部からの光であることが限定されるとともに、101号訂正により「発光部」が受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光するものであことが特定されるのであるから、発光部の配置や発光部からの光に指向性がある場合の光軸方向などは、液体インク収納容器がそのキャリッジに対して装着された記録装置が一つ備える受光部の配置や向きとの関係で限定されたものになる。
(4)したがって、101号訂正の上記訂正内容は、発光部を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。
(5)101号訂正の上記訂正内容は、受光手段(又は受光部)に対して発光した光が反射するなどして間接的に投光されるなどとは特定しておらず、「投光するための光」を発光さえすればよいものでもなく、受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光するものに特定されているものである。よって、受光手段(又は受光部)に投光するための光を発光する限りにおいて、受光手段(又は受光部)に対して直接に光を照射するか、あるいは間接的に投光するかは、訂正発明1及び2の「発光部」に該当するかどうかには関係のないことである。
(6)まとめ
以上のとおりであるから、101号訂正により訂正請求項1及び3に「投光するための光を発光する」発光部と記載したことは、101号訂正前明細書に記載のない新規事項の追加ではなく、実質的な特許請求の範囲の拡張にも変更にも当たらず、平成23年改正前特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に違反するものではない。
したがって、請求人らの主張する無効理由1により訂正発明1及び2に係る特許を無効にすることはできない。

3 無効理由2について
請求人らは、訂正請求項1及び3の記載は、その構成要件が下記の項目aないしgについて技術的認定ができず、101号訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記の無効理由aないしkで説明されるように、訂正発明1及び2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないと主張する。
しかしながら、請求人らの主張する項目aないしg及び無効理由aないしkについては以下の(1)ないし(17)のとおりであるから、これらの理由により、101号訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1及び2の属する技術の分野における通常の知識を有する者が訂正発明1及び2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとすることはできず、訂正発明1及び2は101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないともできず、訂正発明1及び2は明確でないとすることもできない。
したがって、訂正発明1及び2に係る特許は、これらの理由により、特許法第36条第4項第1号並びに第6項第1号及び第2号に規定に違反してされたものであるとも、特許法第123条第1項第4号に該当するものであるともできないから、請求人らが主張する無効理由2により訂正発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。

(1)項目a(個体情報)
請求人らは、「個体情報」には、変化し続けるインク残量が該当し、変化しない色情報も該当し、「製造元情報」、「暗号」あるいは「複数色情報」である場合も含まれるので、構成が不明瞭であると主張する。
しかし、101号訂正前の「個体情報」は101号訂正により「色情報」に訂正されたので、訂正発明1及び2は明確である。訂正請求項1及び3において、「色情報」は、「液体インク収納容器のインク色を示す」ものと特定されているから明確であって、液体インク収納容器が異なる色のインクを2種類以上収納している場合には、複数色情報であってもかまわないものと解される。
請求人らは、101号訂正明細書の記載内容はいまだに訂正されていないので、「状態情報」、「個体情報」、「インク残量」が相互に入れ替えて権利主張する可能性を残しており、訂正発明1及び2の不明瞭を解消できていないとも主張するが、訂正請求項1及び3において「色情報」は「液体インク収納容器のインク色を示す」ものであることが明確であるから、不明瞭ではない。

(2)項目b及び項目e(発光部)
ア 請求人らは、「LEDなどの表示器」がキャリッジ、タンクホルダ、記録装置本体或いは、インクタンクのいずれにあるのかが不明であると主張するが、訂正請求項1では液体インク収納容器が備える構成として「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」と規定され、また、訂正請求項3では液体インク収納容器が備える構成として「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」と規定されているから、「発光部」が「液体インク収納容器」にあることは明確である。
イ 請求人らは、受光時における、発光部と受光手段(及び受光部)との位置関係が不明確であるとも主張するが、訂正請求項1では「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」と、訂正請求項3では「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出すること」と規定されており、発光部が発光する条件及び役割も明確である。
ウ 請求人らは、「キャリッジの位置に応じて特定された」とは、キャリッジ内部の各インクタンクの装着箇所に応じて特定されたという意味とも理解しうるし、移動するキヤリッジのシヤフト上における位置に応じて特定されたという意味とも理解できると主張するが、後者であることは明らかである。
エ 請求人らは、受光手段が発光部からの発光を受光できず、結果としてインクタンクの位置を検出できないような場合に特定色のインクタンクの発光部を光らせる場合も含むとも主張するが、液体インク収納容器が本来の正しい位置に正しく装着されているにもかかわらず、受光手段又は受光部が発光部からの発光を受光できないものが、訂正発明1及び2に含まれることはない。
オ 請求人らは、ホルダ150の穴150Hを構成規定することで投光を可能にする実施例を請求項で明確に規定すべきであると主張するが、この点を請求項に規定しなければならない根拠は見出せない。
カ 請求人らは、隣接するインクタンクの発光部の光を受光しないための「このタイミング」(【0112】)という構成要件などを請求項に規定すべきであると主張するが、訂正請求項1及び3において、訂正請求項1及び3の規定により、「発光部」と「位置検出手段」との相対的な関係は明記されているところ、101号訂正明細書に記載されている技術事項(上記1参照。)からみて、「発光部」と「位置検出手段」との相対的な具体的位置関係をさらに特定する必要があるとまではいえないし、キャリッジがシャフト上のいかなる位置に来たときに、キャリッジ内のどのインクタンクを「光らせる」のかについて特定する必要があるとまではいえないし、隣接するインクタンクの発光部の光を受光しない具体的構成を特定しなければならないとまではいえない。
キ 請求人らは、「位置検出手段の前記発光部に投光するための光を発光する発光部」の規定では、どこに投光するのか、いつ投光するのか或いは常に投光しているのか不明であると主張するが、上記1(3)からみて、「位置検出手段の前記発光部に投光するための光を発光する発光部」の規定は明確である。

(3)項目c(制御部)
ア 請求人らは、「発光部の発光を制御する制御部」は、「接点から入力される色情報に係る信号」がプリンタから供給されなければ、機能しないのであるから、インクタンク単体の発明として技術的に不明瞭であると主張するが、訂正請求項1に記載の発明は、特定の記録装置に用いられることを前提とした液体インク収納容器に関する発明であり、プリンタ(記録装置)側から信号が供給されることが、液体インク収納容器単体の発明を直ちに不明瞭とするわけではない。
イ 請求人らは、電気信号(例えば“01”)と色情報(例えばインクタンク)とがどのように整合するのかも不明であると主張するが、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号」が例えば“01”といったものであれば、これに一致する色情報も例えば“01”といったものであることが明らかである。
ウ 請求人らは、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、」は、技術認定できず、実施例の記載は、当業者が実施できる程度に開示したものではないと主張するが、101号訂正明細書の段落【0083】ないし【0095】及び本件図面の図21ないし図24の記載から、訂正発明1及び2の制御部の一例として、制御部103の入出力制御回路103Aが、記録装置側の制御回路300から送られてきた「色情報」信号が有するインクの色に対応したコードが示す色情報と当該制御部103のメモリーアレイ103Bに格納されている自身の色情報とを比較し、両色情報が一致して当該制御部103を有するインクタンクが特定された後に、該入出力制御回路103Aに送られてくる「制御コード」が「ON」であったとき、該入出力制御回路103Aは、制御部103のLEDドライバ103Cに対してオン信号を出力し、逆に前記「制御コード」が「OFF」であったときは、該入出力制御回路103Aは、制御部103のLEDドライバ103Cに対してオフ信号を出力し、これにより制御部103の入出力制御回路103AがLED101を発光させたり消灯させたりする制御及びその制御部103を把握することができるから、101号訂正明細書の記載に基づき当業者が「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を実施できるものと認められる。
エ 以上のとおり、訂正発明1及び2の「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」は明確であり、かつ、当業者が実施可能なように101号訂正明細書に記載されている。

(4)項目d(位置検出手段)
ア 上記1(3)で述べた実施形態により、移動するキャリッジの互いに異なる位置に搭載した複数の液体インク収納容器の発光部からの光を受光する受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出することができることが明らかであり、上記1(3)で述べた実施形態における「発光部であるLED101を1つずつ設けたインクタンク」、「記録装置の本体側に1つ設けた第1受光部となる受光手段」及び「例えば4色で1組である4つのインクタンクをそのインクタンクのインク色に対応して決まっている箇所に装着した記録装置のキャリッジ」が、それぞれ、訂正発明2の「液体インク収納容器」、「液体インク収納容器からの光を受光する受光部」及び「複数の液体インク収納容器を互いに異なる位置に搭載して移動するキャリッジ」に相当するから、訂正発明2の「液体インク収納容器位置検出手段」の実施例は、上記1(3)で述べた実施形態として、101号訂正明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。しかるところ、訂正発明2では、「位置検出用の受光部」は「液体インク収納容器からの光を受光する」ものであって、「液体インク収納容器」は前記受光部に投光するための光を発光する発光部を有するものであるから、「液体インク収納容器からの光」は「液体インク収納容器」が有する「前記受光部に投光するための光を発光する発光部」からの光であると解するのが妥当であり、そのように解することは、上記1(3)で述べた実施形態の内容と整合する。
したがって、上記1(3)の実施形態からみて、訂正発明2のインク色が「前記キャリッジの位置に応じて特定され」るとは、液体インク収納容器の搭載位置を検出するために発光部を発光して光を受光部に投光するために、液体インク収納容器に備えられる接点から入力されるインク色を示す色情報に係る信号と、液体インク収納容器の情報保持部の保持する少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する際に、入力する信号の色情報が示すインク色とキャリッジを移動すべき位置とが対応させてあることを前提にしているから、キャリッジの位置とインク色とが対応し、キャリッジの位置に応じてインク色が特定できることを意味しているものと解される。
イ 請求人らは、「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段と、」(訂正請求項3)に関し、「液体インク収納容器からの光を受光することによって」だけの条件では、複数のインクタンクのどのインクタンクからの光なのかを規定していることにはならず、隣のインクタンクからの光を受光する構成とも認定でき、また、「該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」は、受光部で「該光を受光する」は、どのように受光するのかが不明であるので、これらの事項は技術認定ができないと主張するが、上記1(3)からみて、訂正発明2は、記録装置側から入力されるキャリッジの位置に応じたインク色の色情報と、その液体インク収納容器の情報保持部が保持している色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、その液体インク収納容器の発光部を発光させるとともに、このとき、この発光部からの光は、その液体インク収納容器がキャリッジの正しい箇所に装着されていれば受光部に受光され、その液体インク収納容器がキャリッジの正しい箇所に装着されていなければ受光部に受光されないようになっているものと解されるから、複数のインクタンクのどのインクタンクからの光なのかは把握でき、受光部は、キャリッジの正しい箇所ではない隣の箇所に装着された液体インク収納容器からの光は受光しないものと解することができる。
ウ 請求人らは、訂正発明2にとって「装着確認制御」及び「光照合処理」が必須であると主張するが、訂正請求項3には、液体インク供給システムが「該液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を備える点、前記受光部は、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され」る点、及び、液体インク供給システムが「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部」を光らせ、その光の受光結果に基づき、前記液体インク収納容器位置検出手段は「前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」点が特定されているから、実施例において、「装着確認制御」を前提とした「光照合処理」含む制御として具体化して記載されている技術事項は、訂正請求項3に技術思想として記載され特定されていると認められる。この訂正請求項3の記載を「装着確認制御」及び「光照合処理」と表現してさらに具体化しなければならない根拠はない。
エ 請求人らは、「光照合処理」は「具体例の一つ」としても記載されていないと主張するが、101号訂正明細書の【0095】ないし【0116】及び本件図面の図25ないし図31に記載されている。
オ 請求人らは、受光手段が、隣接位置にあるインクタンクからの発光を受光して正しく装着されていると誤判断することが無いようにする構成が規定されていないと主張するが、キャリッジの正しい箇所に装着されているインクタンクの発光部から発光された光は受光部で受光され、キャリッジの正しい箇所に装着されていないインクタンクの発光部から発光された光は受光部で受光されない具体的構成としては、発光部が発光する光に光軸を持たせたり、図12に記載されているように導光性部材を用いたりすることが含まれることは、101号訂正明細書の記載から明らかであるところ、このような具体的構成までも特定しなければならない理由は101号訂正明細書の記載から見いだせない。
カ 請求人らは、訂正請求項1及び3には「このタイミング」の規定がないので、発明の詳細な説明の記載は当業者が訂正発明1及び2を容易に実施できるように記載されていない旨主張するが、訂正請求項3は上記イのとおり解することができ、訂正請求項1も同様に解することができるから、101号訂正明細書の段落【0112】で「このタイミング」と記載して説明されている技術事項は、訂正請求項1及び3において明確に規定されている。

(5)項目f(制御部)
項目aについて述べたとおり、101号訂正前の「個体情報」は101号訂正により「色情報」に訂正されたので、訂正発明1及び2は明確である。

(6)項目g(結合)
101号訂正前の「結合」及び「接続」は101号訂正により「接続」に統一されたので、訂正発明1及び2は明確である。

(7)無効理由a
請求人らは、訂正発明1及び2は、「装着確認制御」が終了しなければ、光照合処理(位置検出手段)による誤装着検出、即ち、プリンタが行うインクタンクの位置検出すらできないのであるから、タンクホルダに装着されるべき色のインクタンクがすべて1個ずつ装着されていること及び色情報を各インクタンクから読み出す制御回路300を持つプリンタを必須要件とする発明であると主張する。
しかしながら、訂正発明1及び2の課題は、上記1(2)で述べたとおり、共通バス接続の方式を採用した場合に、記録装置側からの要求に応じて、単純に液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしても、例えばイエローの液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合には、それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけで、それ以上にどの搭載位置につき誤装着があるかを検出できないので、その余の構成を加えて、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものであるから、訂正発明1及び2は、共通バス接続の方式を採用し、記録装置側からの要求に応じて、液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしたものにおいて、液体インク収納容器側に「発光部及び前記発光部を発光させる制御部」を設け、記録装置側に「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」又は「液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を設け、液体インク収納容器側に設ける発光部と記録装置側に設ける受光手段又は受光部とが、液体インク収納容器位置検出手段が液体インク収納容器の搭載位置を確認する際に発光部が発光し、その光を誤装着でないときは受光手段又は受光部が受光し、その光を誤装着であるときは受光手段又は受光部が受光しないような関係にすることによって、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにした発明であると認められる。
したがって、「訂正発明1及び2は、唯一の実施例からすると、タンクホルダに装着されるべきインクタンクがすべて1個ずつ装着されていること及び色情報を各インクタンクから読み出す制御回路300を持つプリンタを前提要件とする発明である」との請求人らの主張は失当である。
液体インク収納容器位置検出手段による液体インク収納容器の搭載位置の確認は、上記1(3)で述べた実施態様のようにすれば実施できるところ、この実施態様のとおりにしなければならない理由はなく、訂正発明1及び2が重要とする点は、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、記録装置側の受光手段又は受光部がその光を受光したか否かといった受光結果を、誤装着かどうかの判別に使用できるようにした点である。
よって、無効理由aは失当である。

(8)無効理由b
請求人らは、最初に交換すべきインクタンクは1つのみであるから、交換インクタンクも1つであり、結果的に、「装着確認制御」により、交換インクタンクは、色も位置も正常なものだけが装着されることになると主張するが、複数個のインクタンクを取り出してから、新しい複数個のインクタンクを装着することもあり、インクタンクを1個取り出して新しいインクタンクを1個装着したときも、複数個取り出して複数個装着したときも、訂正発明1及び2では、発光部を発光させ、受光部による受光結果に基づいて液体インク収納容器の搭載位置を検出することを同様に行うことが明らかであるので、矛盾があるわけではない。
よって無効理由bは失当である。

(9)無効理由c
請求人らは、101号訂正明細書には開示されていない、交換すべきインクタンク(1M)の色と異なる色のインクタンク(1Y)を装着、つまり交換インクタンクを誤装着した事例を挙げ、誤装着しても異常表示できないと主張している。
しかしながら、101号訂正明細書において説明されている実施形態によれば(図27参照。)、上記のような場合「1M」はどこにも存在しないので1Mに対応するフラグF(A)は「0」のままであり、4つあるフラグ(A)のすべてが「1」になることはないから、ステップS308で本体カバーが開かれているとステップS302以降の処理を繰り返すことになる。ここで、図27のステップS305の発光処理(F(A)←1)におけるLED101の点灯(段落【0101】参照。)は、正常位置に搭載を表示するものではなく、A番目の色情報で指定した色のインクタンクの装着が不完全ではないことを示しているにすぎない。
よって、請求人らが主張する「本事例では、1K、1C、1YのLEDは正常位置に搭載を表示する。」ということにはならない。
4つのそれぞれインク色の異なるインクタンクを全て装着した場合には、このインクタンク装着確認制御はパスし(ステップS309:YES)正常終了(ステップS310)するが、インクタンク相互の装着箇所の入れ違いはこのインクタンク装着確認制御では発見できないところ、この後に光照合処理を行えばインクタンク相互の装着箇所の入れ違いが生じていることも発見でき、更に、キャリッジのその装着されるべき位置に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを位置させておいて、他の3つの色情報について、色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を順に前記制御回路300から出力させて他の3つのインクタンクのうち、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報が本体側から入力される信号の色情報と一致するインクタンクを順に発光させ、前記第1受光部で発光したLEDからの光を受光したことを検出することを行えば、光を受光したことを検出したとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクが、その装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定することまでできるのである。
しかし、インクタンク装着確認制御を行わずに光照合処理を行っても、キャリッジ上の特定の装着箇所に、対応する色のインクタンクが装着されていない(何も装着されていないか他の色のインクタンクが装着されている)ことを検出することはできる。
また、その後上記した「キャリッジのその装着されるべき位置に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを位置させておいて、他の3つの色情報について、色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を順に前記制御回路300から出力させて他の3つのインクタンクのうち、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報が本体側から入力される信号の色情報と一致するインクタンクを順に発光させ、前記第1受光部で発光したLEDからの光を受光したことを検出すること」を行えば、光を受光したことを検出したとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクが、その装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定することができ、それでも光を受光したことを検出しなかった場合には、何も装着されていなかったことを特定できることは、当業者に自明のことである。
また、インクタンク装着確認制御をパスするか否かは4つあるフラグ(A)のすべてが「1」になっているかどうかにより記録装置が決定するから、インクタンク装着確認制御において、インクタンクの装着が不完全ではないことを示すための報知をユーザに対して行うことが必須であるとはいえない。
したがって、無効理由cは失当である。

(10)無効理由d
請求人らは、101号訂正明細書の段落【0141】ないし【0145】及び図39記載の例はメモリアレイが無い構成であり、メモリアレイにあるべきインク残量情報が無い実施例は産業上利用できない発明であるから、不明瞭であると主張する。
101号訂正明細書には「本実施形態が図21に示す第一の実施の形態と異なる点はメモリアレイ103Bが無いことである。」(【0141】)、「本体側の制御回路300からインクタンク1の制御部103における入出力制御回路入出力制御回路103Aに対し、信号線DATA(図20)を介して「開始コード+色情報」、「制御コード」が、クロック信号CLKに同期して送られて来る。入出力制御回路入出力制御回路103Aは送られて来る「色情報」+「制御コード」を合わせて「コマンド」として識別し、LEDドライバ103Cへの出力信号のオン、オフを決定するコマンド識別部103Dを内部に有して構成される。1Kから1Yまでの各色のインクタンクにはそれぞれ異なるコマンド識別部103Dを有する制御部103が搭載されており、それぞれの色における点灯、消灯を制御するコマンドが図40に示すように構成されている。即ち、各色のコマンド識別部103D内には各色の個体情報(色情報)が含まれて構成されていることになり、これと入力された「コマンド」の「色情報」部分を比較、識別して各種の動作を制御する。これにより、例えばインクタンク1Kを点灯させる「K-ON」の色情報+制御コード「000100」を本体が開始コードと共に送信すると、インクタンク1Kのコマンド識別部103Dのみが識別し、インクタンク1Kのみが点灯する、という制御が可能になる。本実施形態では各色毎に制御部103を異ならせて構成する必要があるが、メモリアレイ103Bを搭載する必要が無い点で有利である。」(【0145】)と記載されている。
この記載からみて、コマンド識別部103D内には各色の色情報が含まれて構成されているから、このコマンド識別部103Dが訂正発明1における「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」及び訂正発明2における「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持する情報保持部」に相当する構成である。
してみると、101号訂正明細書の上記記載は、メモリアレイが無い構成であっても、色情報は「情報保持部」に保持されているから、明確である。
そして、訂正発明1及び2は、「インク残量情報」を液体インク収納容器に保持することを必須としていないから、液体インク収納容器にインク残量情報が保持されていなくても不明瞭になることはない。
以上のことから、無効理由dは失当である。

(11)無効理由e
請求人らは、101号訂正明細書の【0005】に記載の特許文献1、2に記載された発明は、夫々、訂正発明1及び2の構成要件及び発明内容に酷似しているにもかかわらず、これらの看過された事実に対する訂正発明1及び2の技術的優位性の説明がなされていないので、訂正発明1及び2の技術課題が不明であり、その効果も認定できず、その発明の特別な技術的特徴が認定できないないと主張する。
しかし、訂正発明1及び2の課題は上記1(2)のとおりであり、訂正発明1及び2はこの課題を解決するために訂正請求項1及び3に記載の構成を備えているのであって、インクカートリッジがキャリッジの誤った位置に装着されるといった課題がない特許文献1や全インクタンクに共通の信号線を用いるといった前提のない特許文献2と比較して、訂正発明1及び2に発明の特別な技術的特徴を見出せることは明らかである。
以上のことから、無効理由eは失当である。

(12)無効理由f
請求人らは、発光の制御はプリンタの制御手段300が行っており、発光の制御をどのように行うかが必須であるから、プリンタの制御手段300の制御方法が明確に限定されていない訂正発明1及び2は、単純に「指定されたらどこにあってもバス接続されると発光するインクタンク」と認定でき、搭載位置を特定することはできない発明であると主張する。
しかしながら、訂正発明1及び2の重要な点は、上記無効理由aについて述べたとおり、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、記録装置側の受光手段又は受光部がその光を受光したか否かといった受光結果を、誤装着かどうかの判別に使用できるようにした点である。したがって、上記請求人らの認定は誤りである。
しかるところ、上記1(2)の課題からみて、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、記録装置側の受光手段又は受光部がその光を受光したか否かといった受光結果を、誤装着かどうかの判別に使用できるようにする具体的構成をどうするかは、発明を実施する際に適宜決定すればよいことであるから、実施態様として記載されている事項をすべて請求項に記載しなければならない理由はない。
よって、無効理由fは失当である。

(13)無効理由g
請求人らは、訂正請求項1の記載では、発光部の配置や構造が明確に特定できるわけではなく、単に「発光部」を具えていることしか把握できないと主張するが、無効理由aについて述べたとおり、訂正発明1は、共通バス接続の方式を採用し、記録装置側からの要求に応じて、液体インク収納容器が保持するインク色の情報と合致する場合に当該液体インク収納容器から応答の信号が返るようにしたものにおいて、液体インク収納容器側に「発光部及び前記発光部を発光させる制御部」を設け、記録装置側に「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」を設け、液体インク収納容器側に設ける発光部と記録装置側に設ける受光手段が、液体インク収納容器位置検出手段が液体インク収納容器の搭載位置を確認する際に発光部が発光し、その光を誤装着でないときは受光手段が受光し、その光を誤装着であるときは受光手段が受光しないように設けることによって、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにした発明であると認められるから、訂正請求項1の記載は、単に「発光部」を具えていることしか把握できないような記載ではない。
よって、無効理由gは失当である。

(14)無効理由h
請求人らは、訂正発明1及び2は、「発光部」についての「前記位置検出手段の前記受光手段又は受光部に投光するため」との記載が希望表現(目的)であって発明を特定する構成ではないと主張するが、訂正発明1及び2が重要とする点は、無効理由aについて述べたとおり、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、記録装置側の受光手段又は受光部がその光を受光したか否かといった受光結果を、誤装着かどうかの判別に使用できるようにした点であるから、訂正請求項1及び3の記載は、発光部と受光手段又は受光部との関係を明確に規定している。
よって、無効理由hは失当である。

(15)無効理由i
請求人らは、「発光部の発光を制御する制御部」、「発光部を発光させる制御部」に関し、101号訂正明細書ではインクタンクのLEDの点滅、消灯はプリンタ本体の制御部300が支配的に行っており、この制御部300は必須の構成要件であるところ、このプリンタ本体の制御部300の構成が訂正請求項1及び3に規定されていない、と主張する。
しかし、訂正請求項1では、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」に関し、色情報に係る信号を発生する構成として、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」と規定されており、制御部300に相当する「電気回路」が規定されている。
また、訂正請求項3では、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」に関し、色情報に係る信号を発生する構成として、「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」と規定されており、制御部300に相当する「電気回路」が規定されている。
請求人らは、インク量情報(インク残量)に基づく点灯、点滅を行うためには、記録装置の「制御回路300」が必須であるとも主張するが、訂正発明1及び2の課題は上記1(2)で述べたとおりであって、インク量情報(インク残量)に基づき発光部を点灯、点滅させることではない。
よって、無効理由iは失当である。

(16)無効理由j
請求人らは、複数のインクタンクが同一形状で互いに同じ位置に装着できること等が規定されていないので、誤装着が発生しない場合も含み、不明瞭であり、特に、訂正請求項3の「互いに異なる位置に搭載可能」とした規定は「互いに同じ位置には装着できない」ことと同義であって、キャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状を異ならせる構成と同義になるので、訂正請求項3に記載の発明の構成要件として認定できないと主張する。
しかし、上記1(2)のとおり、訂正発明1及び2の課題は、イエローの液体インク収納容器とマゼンタの液体インク収納容器の搭載位置を逆にして装着した場合に、それぞれの液体インク収納容器がキャリッジ内にあることだけが検出されるだけでなく、共通バス接続の方式を採用した場合でも液体インク収納容器の搭載位置の誤り(誤装着)を検出できるようにするというものであるから、誤装着できないようにキャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状をインク色毎に異ならせたものは訂正発明1及び2の対象外である。
また、訂正請求項3の「互いに異なる位置に搭載」との記載は、複数の搭載位置に複数の異なるインクタンクが搭載されることを、「互いに異なる位置」と表現しているだけのことと解される。つまり、それぞれのインクタンクが、他のインクタンクの位置とは異なる固有の装着すべき位置を有しているから、各インクタンクの搭載位置につき誤装着という問題を生じ、搭載位置を検出する必要も生じるのである。誤装着できないようにキャリッジの搭載部とインクタンク相互の係合の形状をインク色毎に異ならせる構成という意味ではないことは上記1(2)で述べた訂正発明1及び2の課題からみて明らかである。
よって、無効理由jは失当である。

(17)無効理由k
請求人らは、訂正発明1及び2の効果は、バス接続されたインクタンクを特定できることにあるが、訂正発明2のように、“一致した場合にのみ発光部を発光させる”場合、インクタンクの特定ができないと主張する。
しかし、請求人らの主張は無効理由cと同様に101号訂正明細書の記載を誤解したものである。
上記1(3)で述べたとおり、装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクを特定するのは、キャリッジのその装着されるべき位置に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを位置させておいて、他の3つの色情報について、色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を順に前記制御回路300から出力させて他の3つのインクタンクのうち、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報が本体側から入力される信号の色情報と一致するインクタンクを順に発光させ、前記第1受光部で発光したLEDからの光を受光したことを検出することを行えば、光を受光したことを検出したとき前記制御回路300から出力した信号の色情報が示すインク色のインクタンクが、その装着されるべき位置に誤って装着されてしまったインクタンクであることを特定するのであるから、一致するインクタンクの発光部を光らせて、誤装着されたインクタンクがどの色のインクを収納したインクタンクであるかを記録装置が特定できるのである。
そして、その前に行う光照合処理においては、上記1(3)で述べたとおり、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクが装着されるべきキャリッジの箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されるがキャリッジの他の箇所に装着されたインクタンクのLED101が発光した光は前記第1受光部に投光されない位置にキャリッジを移動させ、前記制御回路300から1番目の色情報とともにLED101の点灯を指示する信号を出力し、各インクタンクの制御部は、本体側から入力される信号の1番目の色情報と、そのメモリアレイ103Bに記憶されている色情報とを比較し、両色情報に基づいてそれらが一致したと判断した場合には、そのインクタンクのLED101を発光させるとともに、このとき、このLED101からの光は、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていれば前記第1受光部に受光され、1番目の色情報が示すインク色のインクタンクがキャリッジの正しい箇所に装着されていなければ前記第1受光部に受光されないから、前記第1受光部がLED101からの光を受光したか否かを前記第1受光部からの出力が入力されている前記制御回路300が判断し、2番目、3番目、4番目と、各色情報について同様の処理を順次行って、前記第1受光部からの入力で発光が検出されなかった色情報が示すインク色のインクタンクは誤った位置に搭載されていることを認識するのである。このように、ユーザではなく制御回路300が、両色情報が一致した場合にのみ発光部を発光させて、「受光部からの入力で発光が検出されなかった色情報が示すインク色の装着箇所には誤ったインクタンクが搭載されている」ことを特定するのである。
よって、無効理由kは失当である。

4 無効理由3について
(1)はじめに
請求人らが主張する無効理由3は、要するに、
訂正発明1及び2は、甲第1号証ないし甲第4号証のそれぞれに記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、かつ、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、訂正発明1及び2に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
というものである。

(2)訂正発明1と甲第1号証発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲第1号証発明の「インクカートリッジ」及び「インクカートリッジに備えられるデータ信号端子」は、それぞれ、訂正発明1の「液体インク収納容器」及び「液体インク収納容器に備えられる接点」に相当する。また、甲第1号証には、訂正発明1の「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」を備える点について明示の記載はないものの、「インクカートリッジに備えられるデータ信号端子」がキャリッジに設けられたデータバスに接続されていることから、キャリッジ側に対応する端子(接点)が設けられていることは当業者にとって自明であるから、甲第1号証発明は、「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」及び「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点」を備えていると認められる。

(イ)甲第1号証発明の「データバス」は、各インクカートリッジのデータ信号端子と接続し、バス接続、すなわち、共通な電気的接続となっており、インクカートリッジ(の色)を識別するための識別データを送信するための配線を有した電気回路であると認められる。したがって、甲第1号証発明は、訂正発明1の「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を備えている。

(ウ)甲第1号証発明の「識別データ」は、インク色を示すものであるから、甲第1号証発明の「インクカートリッジの識別データを格納するメモリアレイ」は、訂正発明1の「液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」に相当する。

(エ)したがって、訂正発明1と甲第1号証発明とは、
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、
搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、
少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、
を有する液体インク収納容器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
前記「記録装置」が、訂正発明1では、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有するのに対して、甲第1号証発明ではこれらを有しない点。

相違点2:
訂正発明1では、前記「液体インク収納容器」に「受光手段に投光するための光を発光する発光部」が備えられているのに対し、甲第1号証発明では、インクカートリッジ(液体インク収納容器)に、発光部が備えられておらず、プリンタ側のキャリッジに、交換対象となるインクカートリッジを報知するためのLED(発光部)が備えられており、また、訂正発明1では、前記「液体インク収納容器」に「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を備えるのに対して、甲第1号証発明では、インクカートリッジ(液体インク収納容器)の記憶装置(制御部)は、プリンタとの接点から入力される識別情報(色情報)に係る信号と、メモリアレイの保持する前記識別情報(色情報)とが一致した場合に、応答信号をプリンタ側の制御回路に対して送り返す動作を制御するものの、上記記憶装置(制御部)においてプリンタ側のキャリッジ上のLED(発光部)を発光させるものではない点。

(オ)よって、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一の発明ではない。

イ 上記相違点1及び2についての判断
次の(ア)ないし(カ)のとおり、上記相違点1及び2に相当する構成は、甲第2号証ないし甲第4号証等に開示されているとは認められず、このほかに、上記相違点1及び2に相当する構成が本件特許の最先の優先日当時において周知慣用技術であったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、甲第1号証発明に、甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項を適用し、さらに、請求人らが主張する周知慣用技術を参酌しても、上記相違点1及び2に係る訂正発明1の構成に想到することが容易であるということはできない。
よって、訂正発明1は、当業者が甲第1号証発明、甲第2号証ないし甲第4号証の記載事項及び請求人らが主張する周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(ア)甲第1号証には、インクカートリッジ上に発光部を設ける構成に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しない。また、訂正発明1の「発光部」とは、単に光を発すれば足りるものではなく、「前記受光手段に投光するための光を発光する」ものである必要があり、訂正発明1では、インクタンクの本来装着されるべき位置が、プリンタに設けた受光手段に投光する位置にある状態で、当該インクタンクに設けた発光部を発光させ、その光を上記受光手段が受光することによって、前記液体インク収納容器の搭載位置の検出を実現するものであるから、訂正発明1において、発光の目的は重要な技術的意義を有するものと認められる。これに対し、甲第1号証発明におけるプリンタ側のキャリッジ上の発光部は、前記のとおり、交換対象となるインクカートリッジを(ユーザーに)報知するためのものであるから、訂正発明1における発光部とは、発光の目的を異にする。
これらの点からみると、甲第1号証発明における発光部と訂正発明1における発光部とは実質的に相違するというべきである。

(イ)甲第2号証には、甲第2号証発明が記載されているところ、甲第2号証発明は、インクジェット記録装置のキャリッジに搭載されるインクタンクに関し、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにすることを目的として、4つある色の異なるインクを収納したインクタンクのそれぞれの上にインク残量警告ランプを設け、インクタンク内のインクが無くなった場合に対応する前記インク残量警告ランプを点灯させるようにして、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにしたものであるから、甲第1号証発明において、キャリッジ上に設けられている「交換対象となるインクカートリッジを点灯して示すLED」を甲第2号証発明と同様に、複数の色の異なるインクを収納したインクカートリッジのそれぞれの上に設け、インクカートリッジ内のインクが無くなった場合に対応する前記LEDを点灯させるようにすることは、当業者が容易に想到することができたことかもしれないが、仮にそうしたとしても、そのLEDはインクの残量が少量又は空のインクカートリッジをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにするためのものであって、訂正発明1のように液体インク収納容器の発光部からの光を記録装置側の受光手段で受光し、その受光結果に基づいて液体インク収納容器の搭載位置を検出する構成とは、発光部を設ける技術的意義ないし役割が大きく異なるものである。
したがって、甲第1号証発明が、複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、を有する液体インク収納容器であり、甲第2号証発明に基づき、そのキャリッジ上に設けられているLEDを複数の色の異なるインクを収納した液体インク収納容器のそれぞれに設けることを当業者が容易になし得たとしても、上記相違点1及び2に係る訂正発明1の構成、とりわけ、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の液体インク収納容器の発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する構成に想到することは、その動機付けがなく容易ではないというべきである。

(ウ)甲第3号証には、各種プリンタに用いられるインクカートリッジなどの各種カートリッジ類等の対象物の真偽を、プリンタの構造を複雑化することなく判定することを目的として、複数の波長毎に反射率が異なる反射体、具体的には、より紫外線波長領域に近い波長A(第一の波長という)では反射率がAであり、より赤外線波長領域に近い波長B(第二の波長という)では反射率がAよりも低下するBであるような光反射特性を持っている反射シール12を、対象物のカートリッジの反射エリア11に貼付し、前記プリンタに、二つの発光素子3からなる発光部4と二つの受光素子5からなる受光部6とを一体的に備えた受発光ユニット2を設け、前記プリンタのキャリアに対象物のカートリッジを着脱自在に取り付け、該キャリアの移動に伴い所定の印字領域を用紙幅方向に移動自在とし、前記受発光ユニット2が対象物のカートリッジに対面するようにし、対象物のカートリッジの交換時に、一方の発光素子3は波長Aの光を出射し、もう一方の発光素子3は波長Bの光を出射し、対応する受光素子4の出力レベルがそれぞれ反射率A及び反射率Bに対応する出力レベルであると判定されると純正のカートリッジが装着されたと確認し、そうでないと、模造品であると認定することにより、検知対象物の真偽を確かめるようにしたプリンタ及びカートリッジが記載されているところ、甲第1号証発明において、甲第3号証の記載事項を適用し、記録装置の構造を複雑化することなく液体インク収納容器が純正品か模造品かを自動的に確認するために、液体インク収納容器に上記反射体を貼付し、記録装置に、上記受発光ユニットを設け、液体インク収納容器の交換時に、一方の発光素子は波長Aの光を出射し、もう一方の発光素子は波長Bの光を出射し、対応する受光素子の出力レベルがそれぞれ反射率A及び反射率Bに対応する出力レベルであるか否かを判定して純正品か模造品かを確認できるようにすることは、当業者が容易になし得たとしても、上記相違点1及び2に係る訂正発明1の構成、とりわけ、キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の液体インク収納容器に設けた発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する構成に想到することは、その動機付けがなく容易ではないというべきである。

(エ)甲第4号証には、外部からのエネルギーをインクタンク内の立体形半導体素子に非接触で供給する構成が開示されているだけであり、上記立体形半導体素子とプリンタをつなぐための電気的に接続可能な接点に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しないものと認められる。甲第4号証に記載の発明は、従来の構成ではインクタンク内に検出用の電極を配置する必要があったため、インク成分に金属イオンを用いることができないなど、使用するインクに制約が生じてしまうという課題があることを解決するために、立体形半導体素子への外部エネルギーの供給を非接触で行う構成としたものであるから(段落【0006】、【0017】参照。)、立体形半導体素子とプリンタとを電気的につなぐための接点を設けることは、むしろ、上記発明の技術思想に反するものであるということができる。また、訂正発明1における「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ような構成が甲第4号証に開示されているともいえない。

(オ)甲第4号証に記載されたものは、前記(エ)のとおり、上記相違点1に相当する構成を有するものではなく、上記相違点2のうち、「インクタンク内に、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部を備える」構成も有しないと認められる。また、甲第4号証における発光手段及び受光手段と、訂正発明1における発光部及び受光部とは、これらの果たす役割が全く異なるものである。
甲第4号証の【0072】及び図9には、「ID機能(認証機能)を備えた第2の実施の形態の立体形半導体素子79が配置される。この素子79への電力供給は素子表面に配した電極部と記録ヘッド78を駆動するための電気基板上のコンタクト部との接触によって行なってもよい」と記載されているが、ここに記載されている「立体形半導体素子79」は記録ヘッド78に配置されているものであるから、甲第4号証には、インクタンク内の立体形半導体素子には外部からのエネルギーを非接触で供給する構成が開示されているだけであるとの上記(エ)の認定を変える根拠にはならない。
したがって、甲第1号証発明に甲第4号証に記載の事項を組み合わせても、上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるということはできない。

(カ) 周知慣用技術等について
請求人らは、101号訂正明細書の段落【0005】に記載されている特許文献1を挙げるとともに、被請求人が1990年代初期からインクジェットプリンタを製造販売していることを挙げることにより、「LED22、23を持つインクタンク20であって、コネクタ17と、インク残量情報を保持可能なEEPROM41と、通電カウンタ32aの加算値N又はインクタンク用IDとEEPROM41の記憶値N又はインクタンク用IDとに応じて、マイクロプロセッサ31からの指示信号で表示回路22a,23aを作動し、LED22、23の点灯が制御されるインクタンク20がバス接続されている技術事項」は本件特許の最先の優先日より前の周知慣用技術であること、及び、「一般に、個別配線されている複数の機器をバス接続に置き換えて複数機器を個別に制御することは、被請求人が認識している配線の減少だけでなく、略連続したシリアル信号を高速で供給して、複数機器をそれぞれパラレルに制御することが大きな目的であることは知られている。その際、各機器には個別にシリアル信号が接受できるように、各機器に対応した識別データ(ID)をシリアル信号の先頭にもたせ、各機器にその識別データを判別して適性に信号の授受を行わせることは、当業者が回路設計する上で常識であり、EEPROMを採用する場合は当然行われる設計事項である」ことを主張しているが、具体的な証拠に基づかないばかりか、これらは、そのインクタンクがキャリッジに複数個搭載され、それらが誤装着され得ることを課題にしているとの主張ではなく、仮に上記主張が認められるとしても、上記相違点1及び2に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。
また、請求人らは、平成21年7月2日付け上申書とともに参考資料1及び2を提出し、参考資料1からすると「誤装着の課題を解決するために、発光素子からの発光を、回路部品供給システム本体側に設けられた受光素子が受光することにより、位置検出をして誤装着を検知する」ことは本願の最先の優先日前に周知であり(上申書15頁10?12行)、参考資料2からすると、「無線配置(バス接続より優れた配線)された複数の同一形状のインクタンクが誤装着されることを課題とし、その解決方法として、識別情報及び発光部をインクタンクに持たせて、装着後回路部品からの発光を、装置側の受光部が受光して位置検出を行う位置検出手段」は本願の最先の優先日前に周知であった(上申書17頁6?10行)と主張しているが、参考資料1に記載のものは液体インク収納容器や液体インク供給システムとは異なる技術分野である回路部品供給システムに関するものであり、参考資料2に記載の装置側の受光部は装置のどこに配置されているのか、及びキャリッジの移動により対向するインクタンクが入れ替わるかどうかは不明であり、インクタンクの発光部はキャリッジの位置に応じて発光すものではなく、上記相違点1に係る構成すべてと上記相違点2のうち「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する」構成を備えていないから、参考資料1及び2を参酌しても、上記相違点1及び2に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。

(3)訂正発明1と甲第2号証発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲第2号証発明の「4つのインクタンク2bk,2c,2m,2y」、「キャリッジ3」、「ランプ」及び「インクジェット記録装置のキャリッジに搭載されるインクタンク」は、それぞれ、訂正発明1の「複数の液体インク収納容器」、「キャリッジ」、「発光部」及び「記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器」に相当する。

(イ)上記(ア)に照らせば、訂正発明1と甲第2号証発明とは、
「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
光を発光する発光部を有する液体インク収納容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点3:
前記液体インク収納容器が、訂正発明1では「装置側接点と電気的に接続可能な接点」、「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」及び「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部」を有しているのに対して、甲第2号証発明では、「装置側接点と電気的に接続可能な接点」及び「前記発光部の発光を制御する制御部」を有しているかどうかが明らかでなく、「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部」を有しておらず、
前記記録装置が、訂正発明1では「前記液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を有し、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ものであるのに対して、甲第2号証発明では、「前記液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」を有しているかどうかが明らかでなく、「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段」も、「前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」も、「搭載される液体インク収納容器それぞれと共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」も有しておらず、前記液体インク収納容器が有する前記発光部が発光する光は、インクの残量が少量又は空のインクタンクをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにするためのものであって、受光手段に投光するためのものではないから、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせる」ことも、「その光の受光結果に基づき液体インク収納容器位置検出手段が前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」こともしない点。

(ウ)よって、訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明と同一の発明ではない。

イ 上記相違点3についての判断
(ア)甲第1号証には、上記第7の1(2)で述べたとおりの甲第1号証発明が記載されている。

(イ)甲第1号証には、甲第1号証発明に関し、インクカートリッジの誤装着を防止するために、インク色毎に異なる外形形状を有するインクカートリッジとすると、インク色毎にインクカートリッジ用の異なる金型を作成しなければならずコスト高になり、インクカートリッジを再利用する際にインク色毎にしかインクカートリッジを再利用することができず、また、インクカートリッジの誤装着は防止できても交換を要しないインクカートリッジを誤まって取り外してしまうという問題は防止することができず、インクカートリッジを所定の交換位置まで移動させる技術では、交換されるべきでないインクカートリッジの誤った取り外しは防止できても、装着されたインクカートリッジが正しいインクカートリッジであるか否かまでは検出することはできず、誤装着は防止できないという問題があったので、交換されるべきでない印刷記録材容器の誤った取り外しを防止するために、搭載されているインクカートリッジCAに対応する数だけキャリッジ101上にLED18を備え、インクカートリッジCAの交換時には、制御回路30が、キャリッジ101をインク交換位置19まで移動させた後、交換の対象となるインクカートリッジCAに対応するLED18を点灯または点滅させて、交換対象となるインクカートリッジCAをユーザに指し示すようにし、いずれかのインクカートリッジCAが取り外されたことを検出すると、交換の対象となるインクカートリッジCA1に対応する識別データをデータバスDB上に送出し応答がないことを確認することで、交換の対象となるインクカートリッジCA1が正しく取り外されたことを確認し、新たなインクカートリッジCAの装着を検出すると、交換の対象となるインクカートリッジCA1に対応するとして送出した前記識別データをデータバスDB上に送信し、その応答を検出したことにより新たなインクカートリッジCAがインクカートリッジCA1と同種のインクカートリッジCAであり正しく装着されたことを確認するようにしたものであることが記載されている。

(ウ)上記(2)アの対比からみて、甲第1号証発明は「複数の液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、を有する液体インク収納容器。」であるといえる。

(エ)甲第2号証発明は、甲第1号証発明と同様に、液体インク収納容器の交換時には、光を発光する発光部を点灯させて、交換対象となる液体インク収納容器をユーザに指し示すようにしたものであるところ、上記(イ)及び(ウ)からみて、さらに、インク色毎に異なる外形形状を有する液体インク収納容器とすると、インク色毎に液体インク収納容器用の異なる金型を作成しなければならずコスト高になり、液体インク収納容器を再利用する際にインク色毎にしか液体インク収納容器を再利用することができず、装着された液体インク収納容器が正しい液体インク収納容器であるか否かまでは検出することはできず、誤装着は防止できないという問題も解決し、液体インク収納容器の誤装着を防止するために、甲第1号証発明と同様に、前記記録装置を「複数の液体インク収納容器を搭載して移動する前記キャリッジと、該液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点と、搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有する」ものとし、前記液体インク収納容器を「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、を有する」ものとして、液体インク収納容器の交換時には、キャリッジをインク交換位置まで移動させた後、交換の対象となる液体インク収納容器の上の光を発光する発光部を点灯させて、交換対象となる液体インク収納容器をユーザに指し示し、いずれかの液体インク収納容器が取り外されたことを検出すると、交換の対象となる液体インク収納容器に対応する識別データをデータバス上に送出し応答がないことを確認することで、交換の対象となる液体インク収納容器が正しく取り外されたことを確認し、新たな液体インク収納容器の装着を検出すると、交換の対象となる液体インク収納容器に対応するとして送出した前記識別データをデータバス上に送信し、その応答を検出したことにより新たな液体インク収納容器が取り外した液体インク収納容器と同種の液体インク収納容器であり正しく装着されたことを確認するようにすることは、当業者が甲第1号証発明に基づいて容易に想到することができたものである。

(オ)そして、上記(エ)のようにすれば、液体インク収納容器の誤装着の問題は甲第1号証発明を採用することにより解決されるのであるから、甲第2号証発明において、前記記録装置を、甲第1号証及び甲第2号証に開示のない「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段とを有し、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ものとなすことは、当業者が容易に想到することができないものというべきである。したがって、甲第2号証発明における前記液体インク収納容器が有する前記発光部が発光する光を、甲第1号証及び甲第2号証に開示のない「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」における前記受光手段に投光するためのものとすることも、当業者が容易に想到することができないことである。また、甲第3号証の記載にも、甲第4号証の記載にも、請求人らが主張する周知慣用技術にも、これらのことは含まれておらず、記載の示唆もされていない。

(カ)したがって、甲第2号証発明に、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項を適用しても、さらに、請求人らが主張する周知慣用技術を参酌しても、上記相違点3に係る訂正発明1の構成に想到することが容易であるということはできない。
よって、訂正発明1は、当業者が甲第2号証発明、甲第1号証、甲第3号証及び甲第4号証の記載事項並びに請求人らが主張する周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(4)訂正発明1と甲第3号証発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲第3号証発明の「各種プリンタ等の情報機器」及び「キャリア」は、それぞれ、訂正発明1の「記録装置」及び「キャリッジ」に相当し、甲第3号証発明の「『キャリアに着脱自在に取り付けられて、ホームポジション位置からキャリアの移動に伴い所定の印字領域を用紙幅方向に移動自在であ』る『カートリッジ』」と訂正発明1の「キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器」とは「キャリッジに対して着脱可能なカートリッジ」である点で一致する。

(イ)甲第3号証発明の「前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段」と訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段」とは「前記キャリッジの移動により前記カートリッジが対向するように配置され前記カートリッジからの光を受光する受光手段」である点で一致する。

(ウ)甲第3号証発明において、インクジェットプリンタを含む各種プリンタ等の情報機器は、検知対象物である前記カートリッジに反射エリアを設け、該反射エリアに、より紫外線波長領域に近い波長A(第一の波長という)では反射率がAであり、より赤外線波長領域に近い波長B(第二の波長という)では反射率がAよりも低下するBであるような光反射特性を持っている反射シール12を貼付し、前記情報機器に、前記反射体に対して発光部より複数の波長の光を照射する光照射手段と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段と、前記受光手段によって得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定する判定手段とを備え、検知対象物が備える反射体の反射率が波長毎に異なるため、反射体に複数の波長の光を照射した場合、その反射光の受光量が各波長毎に相違することになり、反射体からの反射光を受光部で受光して得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定することで、検知対象物の真偽を確かめるようにしたものであるから、甲第3号証発明の「記録装置(各種プリンタ等の情報機器)」と訂正発明1の「該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段を有し、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置」とは、「該受光手段で光を受光することによって前記カートリッジに関する情報を検出するカートリッジ情報検出手段を有し、その光の受光結果に基づき前記カートリッジ情報検出手段は前記カートリッジに関する情報を検出する」点で一致する。ここで、甲第3号証発明の「反射体からの反射光」、「検知対象物の真偽」及び「判定手段」と訂正発明1の「『液体インク収納容器の前記発光部を光らせ』たその『光』」、「液体インク収納容器の搭載位置」及び「液体インク収納容器位置検出手段」とは、それぞれ、「光」、「カートリッジに関する情報」及び「カートリッジ情報検出手段」の点で一致する。

(エ)したがって、訂正発明1と甲第3号証発明とは、
「カートリッジを搭載して移動するキャリッジと、
前記キャリッジの移動により前記カートリッジが対向するように配置され前記カートリッジからの光を受光する受光手段を備え、該受光手段で光を受光することによって前記カートリッジに関する情報を検出するカートリッジ情報検出手段とを有し、その光の受光結果に基づき前記カートリッジ情報検出手段は前記カートリッジに関する情報を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能なカートリッジ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点4:
前記カートリッジが、訂正発明1では、接点及び発光部を有する「液体インク収納容器」であるのに対し、甲第3号証発明では、前記記録装置(各種プリンタ等の情報機器)がインクジェットプリンタである場合には、インクカートリッジ、すなわち「液体インク収納容器」であることは当業者に自明であるが、該インクカートリッジは、接点も発光部も有しておらず、
前記キャリッジが、訂正発明1ではカートリッジを「複数」搭載して移動するものであるのに対して、甲第3号証発明ではカートリッジを「複数」搭載してはおらず、
前記記録装置が備える前記受光手段が、訂正発明1では、「一つ」であって、前記カートリッジの発光部からの光を受光する「位置検出用」のものであり、前記キャリッジの移動により対向する前記カートリッジが「入れ替わるように」配置されているのに対して、甲第3号証発明では、二つの受光素子5からなるものであって、前記カートリッジの発光部からの光を受光するものでも、カートリッジ位置の検出用のものでもなく、前記キャリッジの移動により前記受光手段が対向する前記カートリッジは一つであるから「入れ替わる」ことはなく、
前記記録装置が、訂正発明1では、前記カートリッジに備えられる前記接点と電気的に接続可能な装置側接点と、前記受光手段で前記発光部からの光を受光することによって前記カートリッジの搭載位置を検出するカートリッジ位置検出手段と、搭載されるカートリッジそれぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路とを有し、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記カートリッジの前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記カートリッジ位置検出手段は前記カートリッジの搭載位置を検出するものであるのに対して、甲第3号証発明では、前記カートリッジに接点はないため、そのような接点と電気的に接続可能な装置側接点を有しておらず、前記カートリッジに発光部は無いため、前記受光手段で受光する光は前記カートリッジの発光部からの光ではなく、前記カートリッジの搭載位置を検出するカートリッジ位置検出手段も、搭載されるカートリッジそれぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路も有しておらず、前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記カートリッジを光らせることはできないものであり、カートリッジは複数でないからその搭載位置を検出する必要がないものであり、
前記カートリッジが、訂正発明1では、前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点と、少なくともカートリッジのインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、を有するのに対して、甲第3号証発明では、上記のとおり接点も発光部も有しておらず、また、情報保持部も、発光を制御する制御部も有していない点。

(オ)よって、訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明と同一の発明ではない。

イ 上記相違点4についての判断
(ア)上記(2)のとおりであるから、甲第1号証発明は、訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有しておらず、甲第1号証発明のインクカートリッジ(液体インク収納容器)の記憶装置(制御部)は、プリンタとの接点から入力される識別情報(色情報)に係る信号と、メモリアレイの保持する前記識別情報(色情報)とが一致した場合に、応答信号をプリンタ側の制御回路に対して送り返す動作を制御するものの、上記記憶装置(制御部)において「液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」るものではなく、甲第1号証には、インクカートリッジ上に発光部を設ける構成に係る記載ないし同構成を示唆する記載は存在しない。甲第1号証発明におけるプリンタ側のキャリッジ上の発光部は、交換対象となるインクカートリッジを(ユーザーに)報知するためのものであるから、訂正発明1における発光部とは、発光の目的を異にするものであり、甲第1号証発明における発光部と訂正発明1における発光部とは実質的に相違する。

(イ)甲第3号証発明において、甲第2号証発明と同様に、カートリッジをそれぞれ色の異なるインクを収納した複数のインクカートリッジとし、該インクカートリッジのそれぞれの上にLEDを設け、インクカートリッジ内のインクが無くなった場合に対応する前記LEDを点灯させるようにすることは、当業者が容易に想到することができたことかもしれないが、仮にそうしたとしても、そのLEDはインクの残量が少量又は空のインクカートリッジをユーザーが容易且つ間違いなく判別することができるようにするためのものであって、訂正発明1のように液体インク収納容器の発光部からの光を記録装置側の受光手段で受光し、その受光結果に基づいて液体インク収納容器の搭載位置を検出する構成とは、発光部を設ける技術的意義が大きく異なるものである。

(ウ)甲第4号証発明における発光手段及び受光手段と訂正発明1における発光部及び受光部とはその果たす役割が全く異なるものであり、甲第4号証中に、訂正発明1における「『前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部』を光らせ、その光の受光結果に基づき、『前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段』によって、前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成や技術思想を示唆する記載が存在しないことは、上記(2)イ(エ)及び(オ)のとおりである。

(エ)請求人らの主張する周知慣用技術が仮に認められるとしても、また、参考資料1及び2を参酌しても、上記(2)イ(カ)の相違点1及び2に関する理由と同様に理由で、上記相違点4に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。

(オ)したがって、甲第3号証発明に、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証の記載事項を適用しても、さらに、請求人らが主張する周知慣用技術を参酌しても、上記相違点4に係る訂正発明1の構成に想到することが容易であるということはできない。
よって、訂正発明1は、当業者が甲第3号証発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証の記載事項並びに請求人らが主張する周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(5)訂正発明1と甲第4号証発明との対比・判断
ア 対比
(ア)甲第4号証発明の「インクタンク」、「キャリッジ」、「キャリッジを印字方向に移動」、「『インクタンクに配した第1の立体形半導体素子』の『情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる』部分」、「『外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信』する『受光手段』」、「インクジェット記録装置」、「情報蓄積手段」、「『受信信号』、『伝達されたタンク交換のためのインク残量を判断するID情報』」、「蓄積情報」、「『比較判断結果』、『一致したときのみ』」及び「情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる判断手段」は、それぞれ、訂正発明1の「液体インク収納容器」、「キャリッジ」、「キャリッジの移動」、「液体インク収納容器の発光部」、「受光手段」、「記録装置」、「情報を保持可能な情報保持部」、「『入力』される『信号』」、「『情報保持部の保持』する『情報』」、「応じて」及び「発光部の発光を制御する制御部」に相当する。

(イ)甲第4号証発明において、記録ヘッドを搭載し、印字方向に移動するキャリッジは、交換可能なインクタンクも搭載するものであることが明らかであるから、甲第4号証発明の「キャリッジ」と訂正発明1の「キャリッジ」とは「液体インク収納容器を搭載して移動する」点で一致するとともに、甲第4号証発明の「液体インク収納容器(インクタンク)」と訂正発明1の「液体インク収納容器」とは「記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な」点で一致する。

(ウ)甲第4号証発明において、「記録装置(インクジェット記録装置)」は、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)によりインクタンクに配した第1の立体形半導体素子に向けて光を発信し、第1の立体形半導体素子の部分が光を通さないことによりもしくは発光手段から発した光が受光手段に向けて反射することにより、その光を外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信することにより第1の立体形半導体素子の位置が検知されるようになっているから、甲第4号証発明の「受光手段(外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)又は外部Cで受信する受光手段)」と訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段」とは、「前記液体インク収納容器が対向するように配置され前記液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光手段」である点で一致する。また、甲第4号証発明の「受光手段」は、第1の立体形半導体素子の位置を検知するためのものであって、「位置検出手段」であるといえるから、甲第4号証発明の「受光手段」と訂正発明1の「受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」とは「受光手段を備え、該受光手段で光を受光することによって位置を検出する位置検出手段」である点で一致するとともに、甲第4号証発明の「記録装置(インクジェット記録装置)」と訂正発明1の「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する記録装置」とは「光の受光結果に基づき前記位置検出手段は前記位置を検出する」点で一致する。

(エ)甲第4号証発明において、「液体インク収納容器(インクタンク)」に配した第1の立体形半導体素子は、「情報を保持可能な情報保持部(情報蓄積手段)」と、前記「発光部(インクタンクに配した第1の立体形半導体素子の情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる部分)」と、前記外部通信手段により、「入力される信号(受信信号)」に応じた情報を入手して、前記「情報保持部の保持する情報(蓄積情報)」と「に応じて(の比較判断結果を)」その入手情報とともに前記情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる「発光部の発光を制御する制御部(判断手段)」とを備えているから、甲第4号証発明の「液体インク収納容器」と訂正発明1の「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能な情報保持部と、前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部と、前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、を有する液体インク収納容器」とは、「情報を保持可能な情報保持部と、前記発光部と、入力される信号と前記情報保持部の保持する前記情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、を有する」点で一致する。

(オ)したがって、訂正発明1と甲第4号証発明とは、
「液体インク収納容器を搭載して移動するキャリッジと、
前記液体インク収納容器が対向するように配置され前記液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光手段を備え、該受光手段で光を受光することによって位置を検出する位置検出手段とを有し、光の受光結果に基づき前記位置検出手段は前記位置を検出する記録装置の前記キャリッジに対して着脱可能な液体インク収納容器において、
情報を保持可能な情報保持部と、
発光部と、
入力される信号と、前記情報保持部の保持する前記情報とに応じて前記発光部の発光を制御する制御部と、
を有する液体インク収納容器。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点5:
前記キャリッジに搭載する液体インク収納容器の数が、訂正発明1では「複数」であるのに対して、甲第4号証発明では複数ではなく、
訂正発明1では、前記記録装置が「液体インク収納容器に備えられる接点と電気的に接続可能な装置側接点」を有し、前記液体インク収納容器が「前記装置側接点と電気的に接続可能な前記接点」及び「前記受光手段に投光するための光を発光する前記発光部」を有するのに対して、甲第4号証発明では、前記液体インク収納容器と記録装置との間を電気的に接続する「接点」はいずれにもなく、かつ、前記液体インク収納容器の第1の立体形半導体素子の「発光部」はタンク交換を光で報知するために光らせるものであって、その光は人の目や聴覚に訴えるものであるから、「前記受光手段に投光するための光を発光する」ものではなく、
前記受光手段が受光する光が、訂正発明1では「液体インク収納容器の発光部」からのものであるのに対して、甲第4号証発明では、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により第1の立体形半導体素子に向けて発信した光、もしくはその光が第1の立体形半導体素子で反射した光であり、「液体インク収納容器の発光部(インクタンクに配した第1の立体形半導体素子の情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる部分)」からのものではなく、
受光手段で光を受光することによって位置を検出する前記位置検出手段が、訂正発明1では「受光手段で液体インク収納容器の発光部からの光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」であり、前記「液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段」を、前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が「入れ替わる」ように配置して、「一つ」備えたものであるのに対して、甲第4号証発明では、インクタンク交換の必要があるか等を記録装置が判断するために、インクタンク内における第1の立体形半導体素子の位置を検知するもので、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により第1の立体形半導体素子に向けて発信した光、もしくはその光が第1の立体形半導体素子で反射した光を検出するものであって、「液体インク収納容器の発光部(インクタンクに配した第1の立体形半導体素子の情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる部分)」からの光を受光するものではなく、前記インクタンクの搭載位置を検出するものでもなく、インクタンクは複数ではなく、かつ、前記受光手段の数は不明であるから、「液体インク収納容器位置検出手段」とはいえないものであって、かつ、「キャリッジの移動により」前記受光手段に対向するインクタンクが「入れ替わる」ようなものでもなく、
前記記録装置が、訂正発明1では「搭載される液体インク収納容器それぞれの前記接点と接続する前記装置側接点に対して共通に電気的接続し色情報に係る信号を発生するための配線を有した電気回路」を有し、「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ものであるのに対して、甲第4号証発明では、上記のとおり「装置側接点」は無いから、それに対して「共通に電気的接続」するものでもなく、「色情報に係る信号」を発生しておらず、そのための「配線を有した電気回路」も有しておらず、キャリッジの位置に応じて「インク色」が特定されることもなく、「液体インク収納容器の発光部(インクタンクに配した第1の立体形半導体素子の情報伝達手段により光を使用して外部へ伝達させる部分)」は前記キャリッジの位置に応じて光らせるのではなく、タンク交換を光で報知するために必要がある場合に光らせるものであって、その光は人の目や聴覚に訴えるものであるから、前記記録装置の位置検出手段は「光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」ものでもなく、
前記情報情報保持部が、訂正発明1では「少なくとも液体インク収納容器のインク色を示す色情報を保持可能」なものであるのに対して、甲第4号証発明では「液体インク収納容器のインク色を示す色情報」は無いからそれを保持しておらず、
前記制御部の前記発光部の発光制御は、訂正発明1では、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」行うのに対して、甲第4号証発明では、情報入手手段が、インクの残量、インクの種類、温度、phなどの素子周囲の環境情報を入手し、入手情報と参照するための情報を前記情報蓄積手段より読み出し、この読み出した蓄積情報と入手情報とを比較し、情報伝達の必要性を判断して、情報伝達の必要があると判断した場合に行うのであって、「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とに応じて」行うのではない点。

(カ)よって、訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明と同一の発明ではない。

イ 上記相違点5についての判断
(ア)上記アのとおりであるから、甲第4号証発明は、訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有しておらず、甲第4号証発明のインクタンク(液体インク収納容器)の判断手段(制御部)は、「液体インク収納容器の前記発光部を光らせ」るものの、タンク交換を光で報知するために必要がある場合に光らせるものであって、その光は人の目や聴覚に訴えるものであり、受光手段で該光を受光させるために、受光手段に投光するために光らせるのではなく、他方甲第4号証発明の受光手段は、インクタンク交換の必要があるか等を記録装置が判断するために、外部A又は外部B(例えばインクジェット記録装置)により第1の立体形半導体素子に向けて発信した光、もしくはその光が第1の立体形半導体素子で反射した光を検出し、第1の立体形半導体素子のインクタンク内での位置を検知するものであって、インクタンクの「発光部」からの光を受光するものではなく、前記インクタンクの搭載位置を検出するものでもない。甲第4号証発明における液体インク収納容器の発光部は、交換対象となるインクタンクを(ユーザーに)報知するためのものであるから、訂正発明1における液体インク収納容器の発光部とは、発光の目的を異にするものであり、甲第4号証発明における液体インク収納容器の発光部と訂正発明1における液体インク収納容器の発光部とは実質的に相違する。

(イ)上記(2)のとおりであるから、甲第1号証発明は、訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有しておらず、訂正発明1における発光部とは、発光の目的を異にするものであり、甲第1号証発明における発光部と訂正発明1における発光部とは実質的に相違する。

(ウ)上記(3)のとおりであるから、甲第2号証発明も、訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有しておらず、甲第2号証発明における液体インク収納容器の発光部は、交換対象となるインクタンクを(ユーザーに)報知するためのものであるから、訂正発明1における液体インク収納容器の発光部とは、発光の目的を異にするものであり、甲第2号証発明における液体インク収納容器の発光部と訂正発明1における液体インク収納容器の発光部とは実質的に相違する。

(エ)上記(4)のとおりであるから、甲第3号証発明も、訂正発明1の「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され前記液体インク収納容器の発光部からの光を受光する位置検出用の受光手段を一つ備え、該受光手段で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有しておらず、甲第3号証発明における「前記キャリッジの移動により前記カートリッジが対向するように配置され前記カートリッジからの光を受光する受光手段を備え、該受光手段で光を受光することによって前記カートリッジに関する情報を検出するカートリッジ情報検出手段」は、検知対象物であるカートリッジに反射エリアを設け、反射シール12を貼付し、情報機器に、前記反射体に対して発光部より複数の波長の光を照射する光照射手段と、前記反射体からの反射光を受光部で受光してその受光量に応じた値を得る受光手段と、前記受光手段によって得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定する判定手段とを備え、検知対象物が備える反射体に複数の波長の光を照射し、反射体からの反射光を受光部で受光して得られた各波長毎のそれぞれの受光量の値が共にそれぞれの所定値であるかどうかを判定することで、検知対象物の真偽を確かめるようにしたものであるから、訂正発明1における液体インク収納容器位置検出手段とは、発光個所、受光する光、受光の目的、検出内容及び検出の目的の総てにおいて異なるものであり、甲第3号証発明における「カートリッジ情報検出手段」と訂正発明1における「液体インク収納容器位置検出手段」とは全く異なるものである。

(オ)請求人らの主張する周知慣用技術が仮に認められるとしても、また、参考資料1及び2を参酌しても、上記(2)イ(カ)の相違点1及び2に関する理由と同様に理由で、上記相違点5に係る構成が周知技術であったと認めることはできない。

(カ)したがって、甲第4号証発明に、甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項を適用しても、さらに、請求人らが主張する周知慣用技術を参酌しても、上記相違点5に係る訂正発明1の構成に想到することが容易であるということはできない。
よって、訂正発明1は、当業者が甲第4号証発明、甲第1号証ないし甲第3号証の記載事項並びに請求人らが主張する周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(6)訂正発明2についての判断
ア 訂正発明2は、記録装置が「前記キャリッジの移動により対向する前記液体インク収納容器が入れ替わるように配置され液体インク収納容器からの光を受光する位置検出用の受光部を一つ備え、該受光部で該光を受光することによって前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する液体インク収納容器位置検出手段」及び「前記キャリッジの位置に応じて特定されたインク色の前記液体インク収納容器の前記発光部を光らせ、その光の受光結果に基づき前記液体インク収納容器位置検出手段は前記液体インク収納容器の搭載位置を検出する」構成を有し、液体インク収納容器が「前記液体インク収納容器位置検出手段の前記受光部に投光するための光を発光する発光部」及び「前記接点から入力される前記色情報に係る信号と、前記情報保持部の保持する前記色情報とが一致した場合に前記発光部を発光させる制御部」を有するものであるから、上記相違点1ないし5に係る訂正発明1の構成を備えるものであるといえる。

イ したがって、訂正発明2も、訂正発明1と同様に、甲第1号証ないし甲第4号証に記載されたいずれの発明でもなく、また、訂正発明1についての上記(2)ないし(5)それぞれのイの判断における理由と同様の理由で、甲第1号証発明ないし甲第4号証発明を総合し、さらに、請求人らが主張する周知慣用技術を参酌しても、上記相違点1ないし5に係る訂正発明2の構成に想到することが容易であるということはできないから、訂正発明2も、当業者が甲第1号証発明ないし甲第4号証発明及び請求人らが主張する周知慣用技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

(7)まとめ
以上のとおりであるから、請求人らの主張する無効理由3により訂正発明1及び2に係る特許を無効にすることはできない。

第9 むすび

以上のとおり、請求人らの主張及び証拠方法によっては、訂正発明1及び2についての特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-08-10 
出願番号 特願2004-330952(P2004-330952)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (B41J)
P 1 123・ 831- Y (B41J)
P 1 123・ 121- Y (B41J)
P 1 123・ 537- Y (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 星野 浩一
鈴木 秀幹
登録日 2006-04-14 
登録番号 特許第3793216号(P3793216)
発明の名称 液体インク収納容器、液体インク供給システムおよび液体インク収納カートリッジ  
代理人 高柳 司郎  
代理人 長尾 達也  
代理人 西川 恵雄  
代理人 大塚 康徳  
代理人 木村 秀二  
代理人 大塚 康弘  

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