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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F02F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F |
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管理番号 | 1263774 |
審判番号 | 不服2011-8676 |
総通号数 | 155 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2012-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-04-22 |
確定日 | 2012-09-27 |
事件の表示 | 特願2007-555494「内燃機関のピストン」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月24日国際公開、WO2006/087114、平成20年 8月21日国内公表、特表2008-533349〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯、本願発明 本件出願は、2006年2月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年2月15日、ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月15日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成19年9月11日付けで特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出され、平成22年1月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年7月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月16日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して平成23年4月22日付けで拒絶査定に対する審判の請求がなされたものである。 したがって、本件出願の請求項1ないし6に係る発明は、平成22年7月22日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 構成部分に被着した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る被膜が施されているピストンヘッドを有する、内燃機関のピストンであって、前記被膜が、有機溶剤内において重合可能な有機金属の化合物及び/又は燃焼可能な金属-アルコキシドより製造されている形式のものにおいて、 前記被膜に、金属の色素が混合されていることを特徴とする、内燃機関のピストン。」 第2.引用文献記載の発明 1.原査定の拒絶の理由において引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-231538号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。 ア.「【0007】本発明では内燃機関用ピストンを形成する金属の表面にゾル-ゲル法によるセラミックス層を設ける。ゾル-ゲル法によるセラミックス層は、緻密な皮膜であり、密着性に優れ、耐熱性が良好であり、また高温潤滑性にも優れたものである。セラミックス層を形成する部分は、ピストンの全面である必要はなく、目的に応じて、ピストンヘッド部、摺動部等に形成すればよい。」(段落【0007】) イ.「【0009】ゾル-ゲル法によるセラミックスは、通常、セラミックス原料の液状組成物を塗布し、重合、ゲル化させることによって形成することができる。該液状組成物は、各種の金属アルコキシドや金属ヒドロキシドをセラミックス原料として含有するものであり、この様なセラミックス原料の好ましい例として、 ・・・(後略)・・・」(段落【0009】) ウ.「【0011】これらのセラミックス原料は、通常、有機溶剤、水、これらの混合溶媒等に溶解又は分散して用いられるが、セラミックス原料自体で液状のものは、そのまま用いることも可能である。有機溶剤は、公知のゾル-ゲル法の液状組成物において用いられるものをいずれも使用でき、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル等を有する炭化水素エーテルアルコール類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等の上記炭化水素エーテルアルコール類の酢酸エステル類、エトキシエチルアセテート等のアルコール類の酢酸エステル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、アセトン、キシレン、トルエン等を用いることができる。」(段落【0011】) エ.「【0017】上記セラミックス原料の液状組成物には、更に必要に応じて、充填剤、顔料、被覆補強材等を添加してもよい。顔料及び/又は充填剤としては、通常の無機系のものを用いることができ、例えば、酸化マグネシウム、窒化硅素、窒化硼素、黒鉛、二硫化モリブデン、窒化チタン、酸化ニッケル、石英、シリカ、硅酸ジルコン、アルミナ、酸化チタン、チタンイエロー、炭酸マグネシウム、ドロマイト、炭化硅素、炭化タングステン、酸化鉄(赤、黒)、バリウムイエロー、アンチモンイエロー、コバルトブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、マンガンブラック、マンガンブルー、マンガンバイオレット、ストロンチウムクロメート、タルク、クロムオキサイドハイドレートグリーン、クロムオキサイドグリーン、亜鉛グリーン、炭酸バリウム、チョーク、沈澱炭酸カルシウム、アルミナハイドレート、酸化亜鉛、ホタル石、モリブデン赤、モリブデンオレンジ、クロムイエロー、鉛クロメート、ウルトラマリーン、朱、塩基性炭酸鉛等を用いることができる。顔料及び充填剤は、常法に従って、顔料用充填剤、増粘剤等とともに用いることができる。」(段落【0017】) オ.「【0022】セラミックス原料の液状組成物の重合ゲル化は、常温でも進行するが、加熱することによって、ゲル化時間が短縮され、また、重合密度が上がって、セラミックス層がより緻密化する。加熱温度は特に限定はなく、高温で加熱するほどセラミックス層をより緻密化することができ、50?200℃程度で10?30分程度加熱することが適当である。 【0023】尚、ゾル-ゲル法によるセラミックス層では、ピンホールの発生を完全に防止するために、セラミックス原料の液状組成物の塗布、乾燥後、又は加熱硬化後に、更に、該液状組成物を一層又は二層以上重ね塗りし、硬化させて二層以上のセラミックス層を形成させることが好ましい。」(段落【0022】及び【0023】) カ.「【0025】 【発明の効果】本発明の内燃機関用セラミックスコーティングピストンは、密着性に優れた緻密なセラミックス層を有するものであり、耐熱性に優れ、シリンダー内の高温からピストンを形成する金属材料を保護することができる。また、高温においても良好な潤滑性を保持でき、従来の燃焼温度より高い温度にも耐えて内燃機関のエネルギー効率を向上させることができ、また、燃費の向上にも大きな効果を示すものである。」(段落【0025】) 2.ここで、上記記載事項1.ア.ないしカ.から、次のことが分かる。 キ.上記記載事項1.ア.ないしカ.から、内燃機関のピストンのピストンヘッドに塗布される有機溶剤内において加熱硬化可能な金属アルコキシドは、内燃機関のピストンのピストンヘッドに塗布された後で、加熱硬化され、皮膜が形成されることが分かる。 ク.上記記載事項1.エ.から、セラミックス原料の液状組成物には、顔料が添加されることが分かり、また、上記記載事項1.エ.における「上記セラミックス原料の液状組成物には、更に必要に応じて、充填剤、顔料、被覆補強材等を添加してもよい。」の「等」の記載から、セラミックス原料の液状組成物には、必要に応じて添加物が添加されることが分かる。 第3.引用文献記載の発明1及び発明2 上記記載事項1.及び2.より、引用文献には、次の発明が記載されている。 3-1.引用文献記載の発明1 「ピストンヘッドに塗布され、皮膜が施されているピストンヘッドを有する、内燃機関のピストンであって、前記皮膜が、有機溶剤内において加熱硬化可能な金属アルコキシドより形成されている形式のものにおいて、 前記皮膜に、顔料が添加されている、内燃機関のピストン。」(以下、「引用文献記載の発明1」という。) 3-2.引用文献記載の発明2 「ピストンヘッドに塗布され、皮膜が施されているピストンヘッドを有する、内燃機関のピストンであって、前記皮膜が、有機溶剤内において加熱硬化可能な金属アルコキシドより形成されている形式のものにおいて、 前記皮膜に、添加物が添加されている、内燃機関のピストン。」(以下、「引用文献記載の発明2」という。) 第4.新規性に関して 4-1.対比 本願発明と引用文献記載の発明1を対比すると、引用文献記載の発明1における「ピストンヘッド」、「塗布」、「皮膜」、「加熱硬化可能」、「金属アルコキシド」、「形成」及び「添加」は、それらの意図する技術内容及び機能等からみて、本願発明における「「構成部分」または「ピストンヘッド」」、「被着」、「被膜」、「燃焼可能」、「金属-アルコキシド」、「製造」及び「混合」に、それぞれ相当する。 また、引用文献記載の発明1における「顔料」は、「色素」という限りにおいて、本願発明における「金属の色素]に相当する。 したがって、本願発明と引用文献記載の発明1は、 「構成部分に被着され、被膜が施されているピストンヘッドを有する、内燃機関のピストンであって、前記被膜が、有機溶剤内において燃焼可能な金属-アルコキシドより製造されている形式のものにおいて、 前記被膜に、色素が混合されている、内燃機関のピストン。」 という発明である点で一致し、次の(1)及び(2)の点で一応相違している。 (1)ピストンヘッドに施される被膜が、本願発明においては、「被着した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る」ものであるのに対して、引用文献記載の発明1においては、「塗布(本願発明の「被着」に相当。)した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る」ものであるかどうかが明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。 (2)本願発明においては、被膜に、金属の色素が混合されているのに対して、引用文献記載の発明1においては、皮膜(本願発明の「被膜」に相当。)に、顔料(本願発明の「色素」に相当。)が混合されているものの金属の顔料が混合されているかどうかが明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。 4-2.判断 上記相違点1及び2について検討する。 (1)相違点1について 本願発明においては、被膜の原料となる「有機-無機プレポリマー」という用語は、被膜の原料となる「金属-アルコキシド」の上位概念として用いられている。 また、本願発明においては、化学反応である「熱分解」という用語は、化学反応である「燃焼」の上位概念として用いられている。 そうすると、引用文献記載の発明1においても、皮膜(本願発明の「被膜」に相当。)の原料となる「金属アルコキシド」(本願発明の「金属-アルコキシド」に相当。)の上位概念として「有機-無機プレポリマー」という用語を用い、また、4-1.で述べたように化学反応である「燃焼」に相当する「加熱硬化」の上位概念として「熱分解」という用語を用いた場合に、引用文献記載の発明1におけるピストンヘッドに施される皮膜が、「塗布した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る」ものであるといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。 (2)相違点2について 上記記載事項1.エ.によれば、顔料(本願発明の「色素」に相当。)の一例として、「酸化鉄(赤、黒)」と記載されている。 また、酸化鉄や酸化鉄である「べんがら」を金属の顔料の一種とすることもある(例えば、特開昭63-259553号公報の特許請求の範囲、特開昭52-128927号公報の特許請求の範囲、及び特開2004-156399号公報の段落【0012】参照。)から、引用文献記載の酸化鉄は、無機系のものの一例として例示されているものの、金属の顔料であるということも否定できない。 そして、本願発明においては、金属の色素として具体的な物質が記載されておらず、金属の色素の定義もなされていない。 これらのことを総合すると、引用文献記載の「酸化鉄(赤、黒)」は、金属の顔料(本願発明の「色素」に相当。)ともいえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。 以上のとおり、本願発明は、引用文献に実質的に記載されており、引用文献記載の発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 第5.進歩性に関して 引用文献記載の酸化鉄が、金属の色素ということができないとする場合について以下に検討する。 5-1.対比 本願発明と引用文献記載の発明2を対比すると、引用文献記載の発明2における「ピストンヘッド」、「塗布」、「皮膜」、「加熱硬化可能」、「金属アルコキシド」、「形成」及び「添加」は、それらの意図する技術内容及び機能等からみて、本願発明における「「構成部分」または「ピストンヘッド」」、「被着」、「被膜」、「燃焼可能」、「金属-アルコキシド」、「製造」及び「混合」に、それぞれ相当する。 また、引用文献記載の発明2における「添加物」は、「添加物」という限りにおいて、本願発明における「金属の色素]に相当する。 したがって、本願発明と引用文献記載の発明2は、 「構成部分に被着され、被膜が施されているピストンヘッドを有する、内燃機関のピストンであって、前記被膜が、有機溶剤内において燃焼可能な金属-アルコキシドより製造されている形式のものにおいて、 前記被膜に、添加物が混合されている、内燃機関のピストン。」 という発明である点で一致し、次の(1)及び(2)の点で相違、または、一応相違している。 (1)ピストンヘッドに施される被膜が、本願発明においては、「被着した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る」ものであるのに対して、引用文献記載の発明1においては、「塗布(本願発明の「被着」に相当。)した後で熱分解される、有機-無機プレポリマーより成る」ものであるかどうかが明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。 (2)本願発明においては、被膜に、金属の色素が混合されているのに対して、引用文献記載の発明2においては、皮膜「塗布(本願発明の「被膜」に相当。)に、添加物が混合されるものの金属の色素が混合されているかどうかが明らかでない点(以下、「相違点4」という。)。 5-2.判断 上記相違点3及び4について検討する。 (1)相違点3について 相違点3は、上記相違点1と同じであるから、上記4-2.(1)で検討したように、相違点3は実質的な相違点ではない。 (2)相違点4について 本願発明における「金属の色素」が被膜の反射率を高めるために、被膜の原料に混合されるのであれば、「金属の色素」とは金属光沢を有する一般的な「金属粉末」に相当することとなる。 また、加熱硬化される被膜の原料に、一般的な「金属粉末」を必要に応じて混合することは周知の技術(例えば、特開平10-182835号公報の段落【0053】及び特開平10-183369号公報の段落【0016】参照。以下、「周知技術」という。)である。 そして、引用文献記載の発明2及び上記周知技術は、加熱硬化(本願発明の「燃焼」に相当。)される原料を対象物に塗布して、対象物を被覆するという技術分野に属するものであるということを参酌すれば、引用文献記載の発明2における添加物として、上記周知技術である金属粉末(本願発明の「金属の色素」に相当。)を適用することにより、相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明を全体として検討しても、引用文献記載の発明2及び上記周知技術から当業者が予測できる以上の格別の効果を奏するとも認められない。 したがって、本願発明は、引用文献記載の発明2及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないか、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-04-23 |
結審通知日 | 2012-04-26 |
審決日 | 2012-05-18 |
出願番号 | 特願2007-555494(P2007-555494) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(F02F)
P 1 8・ 121- Z (F02F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岩▲崎▼ 則昌 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
岡崎 克彦 中川 隆司 |
発明の名称 | 内燃機関のピストン |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 矢野 敏雄 |
代理人 | 高橋 佳大 |