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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1264011
審判番号 不服2010-22340  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-04 
確定日 2012-10-04 
事件の表示 特願2003-159923「電極用炭素材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月26日出願公開、特開2004- 63456〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年6月4日(国内優先権主張,2002年6月5日,日本)の出願であって、平成21年4月20日付けで拒絶理由が通知され、同年6月16日付けで手続補正がされ、平成22年6月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年10月4日に拒絶査定不服審判が請求され、平成23年12月22日付けで当審拒絶理由が通知され、平成24年3月2日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?6に係る発明は、平成21年6月16日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 黒鉛性炭素質物及び炭素化し得る有機化合物を混合し、加熱炭素化処理することによって、該黒鉛性炭素質物の表面に該有機化合物の炭化物が付着してなる電極用炭素材料を製造する方法であって、黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物を噴霧供給しながら100℃?500℃の温度で攪拌することによって、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行った後、加熱炭素化処理することを特徴とする電極用炭素材料の製造方法。
【請求項2】 電極用炭素材料に含まれる有機化合物の炭化物の量が0.1?25重量%である請求項1に記載の電極用炭素材料の製造方法。
【請求項3】 電極用炭素材料のBET比表面積が0.2?10m^(2) /gである請求項1又は2に記載の電極用炭素材料の製造方法。
【請求項4】 電極用炭素材料のタッピング密度が0.5?2g/ccである請求項1?3のいずれか1項に記載の電極用炭素材料の製造方法。
【請求項5】 電極用炭素材料を非水溶媒二次電池にしたときの充放電試験での不可逆容量が50mAh/g以下である請求項1?4のいずれか1項に記載の電極用炭素材料の製造方法。
【請求項6】 請求項1?5のいずれか1項に記載の電極用炭素材料を使用した非水溶媒二次電池。」

(以下、本願の請求項1?6に係る各発明を「本願発明1?6」という。)。

第3 当審拒絶理由の概要
本願発明1?6は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1 特開平9-213328号公報
刊行物2 特開2000-251895号公報
刊行物3 特開平11-354122号公報
刊行物4 特開2001-332263号公報
刊行物5 特開平11-54123号公報
刊行物6 特開平10-334915号公報
刊行物7 特開2000-106182号公報

第4 刊行物の記載事項(以下、審決中、「・・・」は、記載事項の省略を意味する。)
1.刊行物1の記載事項
1-1
「【請求項4】黒鉛性炭素質物粒子と有機物の混合体に芳香族系有機溶媒を添加し、・・・撹拌しながら溶媒の沸点以上600℃未満の温度に加熱して、固形状の中間物質を製造し、該中間物質を、不活性ガス雰囲気下で600℃以上に加熱し炭素化する工程を有することを特徴とする非水溶媒二次電池用電極材料の製造方法。」

1-2
「【請求項1】黒鉛性炭素質物の表面に、・・・有機物の炭化物を付着してなる複合炭素質物からなることを特徴とする非水溶媒二次電池用電極材料。」

1-3
「【0031】
・・・
[実施例1]
(1)混合工程
内容積20リットルのステンレスタンクに炭素質物(N)として人造黒鉛粉末(LONZA社製KS-44:d002=0.336m,Lc=100nm以上,平均体積粒径19μm)を3kgを投入し、炭素質物(S)としてナフサ分解時に得られるエチレンヘビーエンドタール(三菱化学(株)製:50℃における粘度50cpを)1kgを加えて、更に希釈剤としてハードアルキルベンゼン(三菱化学社製)を3.5kg加え、ハンドミキサーにて20分撹拌した。・・・
(2)脱揮・重縮合反応工程
混合工程で得られたスラリー状の混合物を・・・エチレンヘビーエンドタールの熱処理ピッチ化反応を行った。リアクタ内温を430℃に保ち・・・脱気及び脱揮を行い、エチレンヘビーエンドタールの軽質留分と希釈剤の除去を行った。・・・
(3)炭素化工程
上記、炭素質物粒子と十分に芳香族化したピッチの複合粉粒体を回分式加熱炉で熱処理した。複合粉粒体を黒鉛容器にいれた状態で内熱式加熱炉に入れ、窒素ガスを5リットル/分の流量下で3時間で950℃まで昇温し、1時間保持した。その後、室温まで冷却して被覆相が炭素化した複合物を得た。」

1-4
「不可逆容量」は、実施例7で「25mAh/g」、実施例8で「15mAh/g」、実施例9で「8mAh/g」である(【表2】)。

2.刊行物2の記載事項
2-1
「【0041】次に、準備しておいた非晶質炭素前駆体の溶液500gを前記結晶質コアである黒鉛混合物に約13g/minの速度で噴霧供給した。」

2-2
「【請求項12】 前記コーティング段階と同時に粒子の造粒段階をさらに実施する請求項11に記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項13】 前記コーティング及び造粒段階は前記コアを非晶質炭素前駆体溶液で混合造粒するか、前記コアに非晶質炭素前駆体の溶液を噴霧乾燥するか、噴霧熱分解するかまたは凍結乾燥して実施するものである請求項12に記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。」

2-3
「【0025】前記コーティング段階は結晶質、非晶質炭素系の物質またはこれらの混合物の粒子を非晶質炭素の前駆体溶液で混合するか、結晶質または非晶質炭素系物質またはこれらの混合物の粒子に非晶質炭素前駆体の溶液を噴霧乾燥するか、噴霧熱分解(spray pyrolysis)するか、凍結乾燥(freeze drying)することによって実施される。」

2-4
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はリチウム二次電池用負極活物質及びその製造方法に関し、詳しくは、可逆容量が大きく、非可逆容量が小さいリチウム二次電池用負極活物質及びその製造方法に関する。」

2-5
【表1】実施例1?3の非可逆容量が、それぞれ31mAh/g、35mAh/g、36mAh/gであることが記載されている。

3.刊行物3の記載事項
3-1
「【0047】実施例1
石炭系ピッチをテトラヒドロフランで処理してテトラヒドロフラン不溶性成分を除去し、可溶性成分のみで構成されたテトラヒドロフラン可溶性ピッチを製造した。テトラヒドロフランに石炭系ピッチを溶解して製造した溶液(固形分30%)、即ち非晶質炭素前駆体溶液を準備した。粉末造粒器に粒径が約5μmである板状人造黒鉛300gを投入した後、熱風を利用して乾燥した。製造された非晶質炭素前駆体溶液500gを二流体ノズルによって流動している板状人造黒鉛粉体に約13g/minの速度で噴霧供給した。」

3-2
「【0022】前記コーティング及び造粒する工程は、結晶質炭素を非晶質炭素前駆体溶液で混合造粒(mixing and agglomeration)させるか結晶質炭素に非晶質炭素前駆体溶液を噴霧乾燥(spray drying)させるか噴霧熱分解(spray pyrolysis)することによって実施される。」

3-3
「【0013】
【発明の効果】その結果、容量及び効率が優れ、高率充放電容量及び寿命特性が優れたリチウム二次電池用負極活物質及びリチウム二次電池を提供することができた。」

4.刊行物4の記載事項
4-1
「【0041】メソカーボンマイクロビーズが約1mm以上の大きさに成長した前駆体にフリーカーボンを添加してメソカーボンマイクロビーズの表面被覆を行う。被覆方法としては、メソカーボンマイクロビーズの前駆体粒子を流動させながらフリーカーボンを含むピッチを噴霧する方法や、スプレードライ等の方法がある(ピッチ処理)。」

4-2
「【0059】・・・ピッチ類および有機物の少なくとも一方によって表面を被覆する場合に、その際の熱処理を200℃以上、2300℃以下の温度で行うようにすると、得られる黒鉛材料で形成される負極の不可逆容量を一層効果的に低減することが可能となる。」

第5 当審の判断
1.刊行物1に記載された発明の認定
(1)刊行物1には、黒鉛性炭素質物粒子に有機物を混合し、溶媒の沸点以上600℃未満の温度で撹拌しながら中間物質を製造し、該中間物質を炭素化する電極材料の製造方法が記載されている(1-1)。
(2)当該記載における「黒鉛性炭素質物粒子」、「有機物」、「炭素化する」、「電極材料」は、本願発明1における「黒鉛性炭素質物」、「炭素化し得る有機化合物」、「加熱炭素化処理」、「電極用炭素材料」に相当する。
また、当該記載における「溶媒の沸点以上600℃未満の温度で撹拌しながら中間物質を製造」は、揮発分の除去が可能な温度で黒鉛性炭素質物と有機物を撹拌するものであって、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去が同時に行われるものであるから、「100℃?500℃の温度で攪拌することによって、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行った」に相当する。
さらに、刊行物1に記載されたものは、黒鉛性炭素質物の表面に有機物の炭化物を付着した電極材料を製造するものであるから(1-2)、本願発明1における「黒鉛性炭素質物の表面に有機化合物の炭化物が付着してなる電極用炭素材料を製造する」に相当する。
そこで、刊行物1に記載されたものを、本願発明1の記載ぶりに沿って整理すると、『黒鉛性炭素質物及び炭素化し得る有機化合物を混合し、加熱炭素化処理することによって、該黒鉛性炭素質物の表面に該有機化合物の炭化物が付着してなる電極用炭素材料を製造する方法であって、100℃?500℃の温度で攪拌することによって、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行った後、加熱炭素化処理することを特徴とする電極用炭素材料の製造方法』の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

2.対比
本願発明1と引用発明を対比すると、両者は、黒鉛性炭素質物及び炭素化し得る有機化合物を混合し、加熱炭素化処理することによって、該黒鉛性炭素質物の表面に該有機化合物の炭化物が付着してなる電極用炭素材料を製造する方法であって、100℃?500℃の温度で攪拌することによって、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行った後、加熱炭素化処理することを特徴とする電極用炭素材料の製造方法で一致している。
他方、本願発明1が黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物を噴霧供給しながら黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行うのに対して、引用発明が黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行う際に黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物を噴霧供給していない点で相違する。

3.相違点についての判断
引用発明(電極用炭素材料)の技術分野において、黒鉛性炭素質物を被覆するための炭素化し得る有機化合物を供給するにあたり、黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物を「噴霧供給」することが公知であるばかりでなく(2-1、3-1、3-2、4-1)、刊行物2(2-2、2-3)には、黒鉛性炭素質物の表面に炭素化し得る有機化合物を付着する手段として、黒鉛性炭素質物を炭素化し得る有機化合物の溶液に混合してもよいし、黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物の溶液を噴霧乾燥するか噴霧熱分解してよいことが記載されている。
そして、炭素化し得る有機化合物の溶液の噴霧乾燥又は噴霧熱分解が炭素化し得る有機化合物に含まれる揮発分を除去する工程を兼ねることは当業者にとって明らかである。
さらに、引用発明で用いられる「炭素化し得る有機化合物」、すなわちエチレンヘビーエンドタールは、50℃における粘度が50cpであって(1-3)、これを噴霧供給することは可能である。
したがって、引用発明において、黒鉛性炭素質物の表面に炭素化し得る有機化合物を付着する手段として、引用発明が黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合と該有機化合物中に含まれる揮発分の除去とを同時に行う際に黒鉛性炭素質物に炭素化し得る有機化合物を噴霧供給しながら行うことは、当業者が容易になし得るというべきである。
加えて、引用発明も不可逆容量を可及的に低くするものであって、本願発明1の課題と共通するし(1-4)、引用発明の技術分野において、不可逆容量(「非可逆容量」ともいう。)を可及的に低くすることも周知であって、格別顕著な効果であるとは認められない(2-4、2-5、3-3、4-2)。
よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

なお、請求人は、平成24年3月2日付けの意見書において、実施例4と比較例1を対比しつつ、あたかも「噴霧供給」の有無が不可逆容量の差につながるかのような、明細書に記載のない主張をしている。
しかし、実施例4と比較例1の不可逆容量の差は、攪拌時の温度の差に起因すると解するのが相当である。
すなわち、両者の攪拌時の温度が、それぞれ200℃、60℃であるところ(【0046】(【0042】))、「比較例1と実施例4は、・・・揮発分除去工程を有する実施例4の不可逆容量が小さい」から、「不可逆容量の低減に効果的である」と記載されている(【0053】)。また、「噴霧供給」を行っていない参考例1?3に対して、本願発明1の不可逆容量が低減される実験結果も記載されていない。
加えて、そもそも、本願発明1は、「不可逆容量が小さい電極用炭素材料を、安定して効率的に製造」するという課題を解決するための手段として、「黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合物を加熱炭素化処理するに先立ち、100℃?500℃の温度で加熱処理して該有機化合物中に含まれる揮発分を除去する」ことを特徴としているのであって(【0005】【0006】)、「噴霧供給」は、黒鉛性炭素質物と炭素化し得る有機化合物との混合の一手段にとどまるものである(【0017】)。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2?6については検討するまでもなく、本願は、当審拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-03 
結審通知日 2012-08-07 
審決日 2012-08-21 
出願番号 特願2003-159923(P2003-159923)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土橋 敬介  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 野田 定文
大橋 賢一
発明の名称 電極用炭素材料の製造方法  

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