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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1264043
審判番号 不服2011-19120  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-06 
確定日 2012-10-04 
事件の表示 特願2007-224378「ガソリンエンジンの制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月19日出願公開、特開2009- 57860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成19年8月30日の出願であって、平成22年11月11日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成23年1月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年9月6日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年4月19日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年6月21日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年9月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年9月6日付けの手続補正を却下する。

[理 由]

[1]補正の内容

平成23年9月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年1月14日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし13を下記の(b)に示す請求項1ないし12と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
燃料を加圧して吐出する高圧燃料ポンプと、該高圧燃料ポンプにより吐出された前記燃料を蓄圧する蓄圧室と、該蓄圧室内の前記燃料を気筒内に噴射する燃料噴射弁と、を少なくとも備え、前記高圧燃料ポンプは、前記燃料が加圧される加圧室と、該加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁と、前記加圧室内を往復動することにより、前記加圧室内に前記燃料を吸入し、該吸入した燃料を加圧する加圧部材と、該加圧部材を往復動させるポンプ駆動カムと、を少なくとも備えたガソリンエンジンの制御装置であって、
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプから吐出される前記燃料の吐出期間に、前記燃料噴射弁から噴射される前記燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうことを特徴とするガソリンエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記燃料の吐出期間内に、前記燃料の噴射が開始され、該噴射が終了するように、前記燃料噴射弁の前記燃料噴射開始時期及び前記燃料噴射終了時期の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出開始時期に、前記燃料噴射開始時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出終了時期に、前記燃料噴射終了時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出開始時期に、前記燃料噴射開始時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行う噴射開始制御と、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出終了時期に、前記燃料噴射終了時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行う噴射終了制御と、のいずれか一方の制御を選択し、該選択した制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記燃料の燃焼状態に基づいた燃料噴射終了限界時期を設定し、該燃料噴射終了限界時期に基づいて、前記制御の選択を行うことを特徴とする請求項5に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記燃料噴射弁が噴射する前記気筒内の前記燃料の燃焼状態に基づいて前記燃料噴射開始時期の範囲を設定し、前記燃料噴射弁が前記燃料を噴射する噴射開始時期が、前記設定された燃料噴射開始時期の範囲内に収まるように、前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記ガソリンエンジンの吸気行程において、前記燃料を噴射するように前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記加圧部材が前記加圧室を加圧する方向に移動する期間内に、前記燃料を噴射するように前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項10】
前記ポンプ駆動カムは、前記ガソリンエンジンの吸気行程において、前記加圧部材が前記加圧室を加圧する方向に移動するように、配設されていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項11】
前記蓄圧室内の前記燃料の燃圧を検出する燃圧検出手段と、前記蓄圧室の前記燃圧を調整する電制燃圧調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記燃料噴射弁が噴射すべき目標燃圧を設定し、前記検出した燃圧が、前記目標燃圧になるように、前記電制燃圧調整弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項12】
前記蓄圧室の前記燃圧を電気的に調整する電制燃圧調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記燃料噴射弁の噴射終了後に、前記電制燃圧調整弁が開弁するように、前記電制燃圧調整弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項13】
燃料を加圧して吐出する高圧燃料ポンプと、該高圧燃料ポンプにより吐出された前記燃料を蓄圧する蓄圧室と、該蓄圧室内の前記燃料を気筒内に噴射する燃料噴射弁と、を少なくとも備え、前記高圧燃料ポンプは、前記燃料が加圧される加圧室と、該加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁と、前記加圧室内を往復動することにより、前記加圧室内に前記燃料を吸入し、該吸入した燃料を加圧する加圧部材と、該加圧部材を往復動させるポンプ駆動カムと、を少なくとも備えたガソリンエンジンであって、
前記ポンプ駆動カムは、前記ガソリンエンジンの吸気行程において、前記加圧部材が前記加圧室を加圧する方向に移動するように、配設されていることを特徴とするガソリンエンジン。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
燃料を加圧して吐出する高圧燃料ポンプと、該高圧燃料ポンプにより吐出された前記燃料を蓄圧する蓄圧室と、該蓄圧室内の前記燃料を気筒内に噴射する燃料噴射弁と、を少なくとも備え、前記高圧燃料ポンプは、前記燃料が加圧される加圧室と、該加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁と、前記加圧室内を往復動することにより、前記加圧室内に前記燃料を吸入し、該吸入した燃料を加圧する加圧部材と、該加圧部材を往復動させるポンプ駆動カムと、を少なくとも備えたガソリンエンジンの制御装置であって、
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプから吐出される前記燃料の吐出期間に、前記燃料噴射弁から噴射される前記燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、前記高圧燃料ポンプの吐出開始時期に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうことを特徴とするガソリンエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記燃料の吐出期間内に、前記燃料の噴射が開始され、該噴射が終了するように、前記燃料噴射弁の前記燃料噴射開始時期及び前記燃料噴射終了時期の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出開始時期に、前記燃料噴射開始時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出終了時期に、前記燃料噴射終了時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出開始時期に、前記燃料噴射開始時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行う噴射開始制御と、前記高圧燃料ポンプによる前記燃料の吐出終了時期に、前記燃料噴射終了時期を一致させるように、前記燃料噴射弁の制御を行う噴射終了制御と、のいずれか一方の制御を選択し、該選択した制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記燃料の燃焼状態に基づいた燃料噴射終了限界時期を設定し、該燃料噴射終了限界時期に基づいて、前記制御の選択を行うことを特徴とする請求項5に記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記燃料噴射弁が噴射する前記気筒内の前記燃料の燃焼状態に基づいて前記燃料噴射開始時期の範囲を設定し、前記燃料噴射弁が前記燃料を噴射する噴射開始時期が、前記設定された燃料噴射開始時期の範囲内に収まるように、前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記ガソリンエンジンの吸気行程において、前記燃料を噴射するように前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?7のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記加圧部材が前記加圧室を加圧する方向に移動する期間内に、前記燃料を噴射するように前記燃料噴射弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?8のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項10】
前記ポンプ駆動カムは、前記ガソリンエンジンの吸気行程において、前記加圧部材が前記加圧室を加圧する方向に移動するように、配設されていることを特徴とする請求項1?9のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項11】
前記蓄圧室内の前記燃料の燃圧を検出する燃圧検出手段と、前記蓄圧室の前記燃圧を調整する電制燃圧調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記燃料噴射弁が噴射すべき目標燃圧を設定し、前記検出した燃圧が、前記目標燃圧になるように、前記電制燃圧調整弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。
【請求項12】
前記蓄圧室の前記燃圧を電気的に調整する電制燃圧調整弁と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記燃料噴射弁の噴射終了後に、前記電制燃圧調整弁が開弁するように、前記電制燃圧調整弁の制御を行うことを特徴とする請求項1?10のいずれかに記載のガソリンエンジンの制御装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプから吐出される前記燃料の吐出期間に、前記燃料噴射弁から噴射される前記燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうこと」の記載を、「前記制御装置は、前記高圧燃料ポンプから吐出される前記燃料の吐出期間に、前記燃料噴射弁から噴射される前記燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、前記高圧燃料ポンプの吐出開始時期に基づいて、前記燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうこと」とするものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「制御装置」の制御内容について、「前記高圧燃料ポンプの吐出開始時期に基づいて、」を追加して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうこと」を限定することを含むものであるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項に限定を付加したものといえるので、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平4-308355号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【0005】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために本発明によれば燃料ポンプから吐出された高圧の燃料を燃料供給管を介して共通の燃料蓄圧室に供給し、燃料蓄圧室を夫々対応する噴射管を介し各燃料噴射弁に連結して各燃料噴射弁からほぼ一定のクランク角度毎に順次燃料を噴射するようにした内燃機関において、燃料ポンプを夫々対応した燃料供給管を介して燃料蓄圧室に連結された複数個の燃料ポンプから構成すると共に各燃料ポンプから順次上述のほぼ一定クランク角度毎に燃料を吐出させ、圧力波伝播に対する燃料供給管等価管長を各燃料供給管について等しくすると共に圧力波伝播に対する噴射管等価管長を各噴射管について等しくしている。」(段落【0005】)

b)「【0007】
【実施例】図4は燃料噴射弁1と燃料ポンプ2を図解的に示している。図4を参照すると、燃料噴射弁1はノズル口10の開閉制御をするニードル11を具備し、ニードル11の頂部上には背圧室12が、その上方には圧力制御室13が形成される。背圧室12と圧力制御室13間には圧力制御室13から背圧室12に向けてのみ流通可能な逆止弁14が配置され、この逆止弁14の中央部には絞り15が形成される。圧力制御室13はソレノイド16によって作動せしめられる切換制御弁17によって大気通路18又は燃料供給口19に選択的に連結され、燃料供給口19はノズル口10に通ずる燃料通路20と共に噴射管21を介して燃料蓄圧室22に連結される。」(段落【0007】)

c)「【0009】一方、燃料ポンプ2はプランジャ30と、プランジャ30の頂部によって画定された加圧室31とを具備する。プランジャ30の下方には機関によって駆動されるカム32が設けられ、プランジャ30の下端部にはカム32上を転動するローラ33が回動可能に取付けられる。従ってカム32が回転するとそれに伴なってプランジャ30が上下動せしめられることがわかる。加圧室31の下方には燃料供給ポート34が開口しており、加圧室31の上方部は逆止弁36および燃料供給管37を介して燃料蓄圧室22に連結される。また、加圧室31の頂部にはソレノイド38によって駆動される制御弁39が設けられ、加圧室31は制御弁39を介して燃料逃し通路40に連結される。
【0010】カム32は機関クランクシャフトの1/2の速度で回転せしめられ、図4に示すようにカム32は3山を有するのでプランジャ30は 240クランク角度毎に上昇せしめられる。プランジャ30が下方位置にあるときには燃料供給ポート34が加圧室31内に開口し、このとき燃料供給ポート34から加圧室31内に燃料が供給される。次いでプランジャ30が上昇せしめられるがこのとき制御弁39は開弁しているので加圧室31内の燃料は加圧されることなく燃料逃し通路40内に排出される。次いでソレノイド38が付勢されて制御弁39が閉弁せしめられるとプランジャ30が上昇するにつれて加圧室31内の燃料が加圧され、この加圧された燃料が逆止弁36および燃料供給管37を介して燃料蓄圧室22内に供給される。
【0011】図4に示されるように燃料蓄圧室22には燃料蓄圧室22内の燃料圧を検出するための圧力センサ3が取付けられ、この圧力センサ3、機関回転数を検出する回転数センサ4およびアクセルペダルの踏込み量を検出する負荷センサ5が制御装置6に接続される。燃料噴射弁1のソレノイド16は機関回転数や機関負荷にかかわらずに一定時間ニードル11がノズル口10を開弁するように制御装置6の出力信号に基いて制御され、従って燃料噴射弁1からの燃料噴射量は燃料蓄圧室22内の燃料圧によって制御される。燃料蓄圧室22の目標燃料圧は機関負荷および機関回転数の関数として予め記憶されており、圧力センサ3により検出された燃料蓄圧室22内の燃料圧が目標燃料圧となるように燃料ポンプ2のソレノイド38が制御装置6の出力信号に基いて制御される。燃料蓄圧室22内の目標燃料圧は概略的に云うと機関負荷が高くなるほど大きくなる。」(段落【0009】ないし【0011】)

d)「【0012】図1および図2は実際にディーゼル機関50に搭載された燃料噴射弁および燃料ポンプを示している。図1および図2に示されるように燃料蓄圧室22はステー51を介して吸気管52により支持されたコモンレール53内に形成されている。また、図1および図2に示す実施例ではディーゼル機関50は6気筒を有し、各気筒に夫々燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fが設けられている。これらの各燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fは夫々対応する噴射管21a,21b,21c,21d,21e,21fを介して燃料蓄圧室22に連結される。一方、燃料ポンプ2は第1燃料ポンプ2aと第2燃料ポンプ2bからなり、各燃料ポンプ2a,2bは夫々対応する燃料供給管37a,37bを介して燃料蓄圧室22に連結される。第1燃料ポンプ2aと第2燃料ポンプ2bとはいずれも図4に示す構造を有するが第1燃料ポンプ2aと第2燃料ポンプ2bのカム32の位相は互いに60度、クランク角度で云うと互いに 120度ずれており、従ってこれらの燃料ポンプ2a,2bからは交互に燃料が吐出される。次にこのことについて図3を参照しつつ説明する。
【0013】図3に示されるように図1および図2に示されるディーゼル機関の燃料噴射順序は1-5-3-6-2-4となっている。第1燃料ポンプ2aのカム32の位置は1つおきの噴射気筒#1,#3,#2の噴射完了時にカムリフトが最大となるように設定されており、第2燃料ポンプ2bのカム32の位置は残りの1つおきの噴射気筒#5,#6,#4の噴射完了時にカムリフトが最大となるように設定されている。また、各燃料ポンプ2a,2bの制御弁39は前述したようにカムリフトが最大になる少し手前からカムリフトが最大になるまで閉弁せしめられ、このとき各燃料ポンプ2a,2bから燃料が吐出される。従って各燃料ポンプ2a,2bから交互にほぼ一定のクランク角度毎に、図1および図2に示す実施例ではほぼ 120クランク角度毎に燃料が吐出されることがわかる。また、各燃料ポンプ2a,2bからは噴射時期に同期して燃料が吐出されることがわかる。」(段落【0012】及び【0013】)

e)「【0015】同様に各燃料供給管37a,37bは同一の等価管長を有する。各燃料ポンプ2a,2bから燃料が吐出されると圧力波が燃料供給管37a,37b内を伝播するが各燃料供給管37a,37bは上述したように同一の等価管長を有するので各燃料ポンプ2a,2bが交互に行う吐出作用と同じ周期であってかつ同じ大きさの圧力脈動が燃料蓄圧室22内に発生する。従って図3に示されるように各燃料噴射弁1a?1fからの燃料噴射時期に同期して、又は最大カムリフト位置を図3とは異なる位置に定めた場合には各燃料噴射弁1a?1fからの燃料噴射時期から同一のクランク角度を経過した時期に同じ大きさの圧力脈動が燃料蓄圧室22内に発生することになる。従ってこの圧力脈動は各燃料噴射弁1a?1f内の燃料圧に対して同じ影響を与えることになり、斯くして全燃料噴射弁1a?1fからの燃料噴射量は全て同一となる。なお、図1からわかるように図1に示す実施例では各燃料供給管37a,37bは同一の等価管長を有するばかりでなく、同一の長さ、内径および形状を有している。また、図3に示すように各燃料噴射弁1a?1fからの燃料噴射時期に同期させて燃料蓄圧室22内に圧力脈動を発生せしめるようにするとこの圧力脈動と噴射管21a?21f内を伝播してきた膨張波とが相殺され、斯くして各燃料噴射弁1a?1f内に発生する圧力脈動を弱めることができるという利点がある。」(段落【0015】)

(2)上記(1)a)ないしe)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)d)及び図1及び2の記載によれば、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1f は、燃料を気筒内に噴射するものであることが分かる。

ロ)上記(1)c)及びd)及び図3の記載によれば、制御装置6は、燃料ポンプ2a,2bから吐出される燃料の吐出期間に、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fから噴射される燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fの燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうものであることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明>

「燃料を加圧して吐出する燃料ポンプ2a,2bと、該燃料ポンプ2a,2bにより吐出された燃料を蓄圧する燃料蓄圧室22と、燃料蓄圧室22内の燃料を気筒内に噴射する燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fと、を少なくとも備え、燃料ポンプ2a,2bは、燃料が加圧される加圧室31と、加圧室31内を上下動することにより、加圧室31内に燃料を吸入し、吸入した燃料を加圧するプランジャ30と、プランジャ30を上下動させるカム32と、を少なくとも備えたディーゼル機関50の制御装置6であって、
制御装置6は、燃料ポンプ2a,2bから吐出される燃料の吐出期間に、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fから噴射される燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fの燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうディーゼル機関50の制御装置6。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物に記載された発明における「燃料ポンプ2a,2b」、「燃料蓄圧室22」、「燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1f」、「加圧室31」、「上下動」、「プランジャ30」、「カム32」及び「制御装置6」は、それぞれ、本件補正発明における「高圧燃料ポンプ」、「蓄圧室」、「燃料噴射弁」、「加圧室」、「往復動」、「加圧部材」、「ポンプ駆動カム」及び「制御装置」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「燃料を加圧して吐出する高圧燃料ポンプと、高圧燃料ポンプにより吐出された燃料を蓄圧する蓄圧室と、該蓄室内の燃料を気筒内に噴射する燃料噴射弁と、を少なくとも備え、高圧燃料ポンプは、燃料が加圧される加圧室と、加圧室内を往復動することにより、加圧室内に燃料を吸入し、吸入した燃料を加圧する加圧部材と、加圧部材を往復動させるポンプ駆動カムと、を少なくとも備えたエンジンの制御装置であって、
制御装置は、高圧燃料ポンプから吐出される燃料の吐出期間に、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうエンジンの制御装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

「高圧燃料ポンプ」に関し、
本件補正発明においては、「加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁」を備えているのに対し、
刊行物に記載された発明においては、「加圧室31(本件補正発明における「加圧室」に相当する。)内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁」を備えているか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

「エンジン」に関し、
本件発明においては、「ガソリンエンジン」であるのに対し、
刊行物に記載された発明においては、「ディーゼル機関50」である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>

「高圧燃料ポンプから吐出される燃料の吐出期間に、燃料噴射弁から噴射される燃料の噴射期間を時期的に重ねるように、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なう」ことに関し、
本件補正発明においては、「高圧燃料ポンプの吐出開始時期に基づいて、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なう」のに対し、
刊行物に記載された発明においては、「燃料ポンプ2a,2b(本件補正発明における「高圧燃料ポンプ」に相当する。)」の吐出開始時期に基づいて、「燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1f(本件補正発明における「燃料噴射弁」に相当する。)」の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうものであるか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

まず、相違点1について検討する。

高圧燃料ポンプにおいて、加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁を備えたものは、本件出願前周知の技術(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2002-188545号公報[特に、段落【0022】ないし【0025】並びに図3及び4]のほか、特開2003-35239号公報[特に、段落【0023】ないし【0026】及び図1ないし4]及び特開2006-161661号公報[特に、段落【0049】及び【0050】並びに図7]等参照。以下、「周知技術1」という。)である。
してみると、刊行物に記載された発明において、周知技術1を適用し、燃料ポンプ2a,2bを加圧室内へ吸入される燃料量を調整する電磁弁を備えたものとして、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。

刊行物に記載された発明は、刊行物における上記1.(1)e)及び(2)ロ)の記載を参酌すれば、燃料蓄圧室内の圧力脈動と燃料噴射による膨張波とを相殺して、燃料噴射弁内に発生する圧力脈動を弱めるために、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期と燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)による燃料の吐出期間とを同期させたものである。
そして、このような技術(技術課題)は、燃料蓄圧室(コモンレール)と燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)とを備えたエンジンにおいて、共通する技術(技術課題)といえる。
一方、燃料蓄圧室(コモンレール)と燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)とを備えたガソリンエンジンは、本件出願前周知の技術(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2002-188545号公報[特に、段落【0019】及び図3]及び同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2006-194177号公報[特に、段落【0108】及び図2]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
してみると、刊行物に記載された発明において、周知技術2を適用し、ディーゼル機関50をガソリンエンジンと置き換えて、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

最後に、相違点3について検討する。

刊行物に記載された発明は、相違点2についての検討の箇所で述べたとおり、燃料蓄圧室内の圧力脈動と燃料噴射による膨張波とを相殺して、燃料噴射弁内に発生する圧力脈動を弱めるために、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期と燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)による燃料の吐出期間とを同期させたものである。
ここで、燃料噴射弁の燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期(以下、「前者」という。)と燃料ポンプ(高圧燃料ポンプ)による燃料の吐出期間(以下、「後者」という。)とを同期させるためには、前者と後者のうち、何れか一方を基準とすることが必要であることは当業者にとって明らかである。
一方、前者と後者とが時期的に重なるように両者を制御することは、本件出願前周知の技術(例えば、特開平8-82266号公報[特に、段落【0017】及び【0088】]及び特開平10-274075号公報[特に、段落【0003】、【0026】及び【0068】]等参照。以下。「周知技術3」という。)であることを考慮すれば、前者と後者のうち、何れを基準とするかは、噴射時期の許容度合いや応答性などに基づいて、当業者が適宜選択する事項であるといえる。
してみると、刊行物に記載された発明において、周知技術3を考慮し、前者と後者とが時期的に重なるように両者を制御する際に、後者を基準として選択し、燃料ポンプ2a,2bの吐出開始時期に基づいて、燃料噴射弁1a,1b,1c,1d,1e,1fの燃料噴射開始時期及び燃料噴射終了時期の制御を行なうようにして、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成23年9月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし13に係る発明は、平成23年1月14日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開平4-308355号公報(以下、「刊行物」という。)には、それぞれ、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(3)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明から、「前記高圧燃料ポンプの吐出開始時期に基づいて、」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術1ないし3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-20 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-17 
出願番号 特願2007-224378(P2007-224378)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
藤原 直欣
発明の名称 ガソリンエンジンの制御装置  
代理人 平木 祐輔  
代理人 関谷 三男  
代理人 渡辺 敏章  

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