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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1264135
審判番号 不服2011-20608  
総通号数 155 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-26 
確定日 2012-10-03 
事件の表示 特願2006-518637「貴金属のCMP」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月20日国際公開、WO2005/005561、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526626〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2004年6月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年6月30日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月17日付けで手続補正がなされ、平成22年9月13日付け拒絶理由通知に応答して、平成23年2月25日付けで手続補正がなされたところ、同年5月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成23年11月16日付けの審尋に対して、平成24年3月14日に回答書が提出されたものである。


第2.平成23年9月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成23年9月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.補正の内容の概要
本件補正は、平成23年2月25日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし32をさらに補正して、請求項1ないし27にするものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)<本件補正前の請求項1>
「 【請求項1】
(i)貴金属層及び第2層を含む基材を
(a)研磨剤、研磨パッド又はそれらの組み合わせからなる群より選択された研磨成分、
(b)臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、有機ハロオキシ化合物、それらの塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択された酸化剤、
(c)当該第2層の除去速度を抑える阻止化合物(stopping compound)であって、
アミン、イミン、アミド、イミド、それらのポリマー、及びそれらの混合物からなる群より選択された正に帯電された窒素含有化合物である阻止化合物、及び
(d)液体キャリヤーを含み、9以下のpHを有する化学機械研磨系と接触させる工程、並びに
(ii)当該基材を当該化学機械研磨系で研磨することにより、当該基材から当該貴金属層の少なくとも一部を除去する工程を含む、基材の研磨方法。」

(2)<本件補正後の請求項1>
「 【請求項1】
(i)貴金属層及び第2層を含む基材を
(a)研磨剤、研磨パッド又はそれらの組み合わせからなる群より選択された研磨成分、
(b)臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、有機ハロオキシ化合物、それらの塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択された酸化剤、
(c)当該第2層の除去速度を抑える阻止化合物(stopping compound)であって、
ポリエーテルアミン、N-4-アミノ(N,N’-ビス-[3-アミノプロピル]エチレンジアミン)、4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン、3,3-ジメチル-4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-フェニルエチルアミン、N,N-ジメチルジプロピレントリアミン、3-(2-メトキシエトキシ)プロピルアミン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオミカミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール、及びそれらの混合物からなる群より選択された正に帯電された窒素含有化合物である阻止化合物、及び
(d)液体キャリヤーからなり、9以下のpHを有する化学機械研磨系と接触させる工程、並びに
(ii)当該基材を当該化学機械研磨系で研磨することにより、当該基材から当該貴金属層の少なくとも一部を除去する工程を含む、基材の研磨方法。」


2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「アミン、イミン、アミド、イミド、それらのポリマー」を、「ポリエーテルアミン、N-4-アミノ(N,N’-ビス-[3-アミノプロピル]エチレンジアミン)、4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン、3,3-ジメチル-4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-フェニルエチルアミン、N,N-ジメチルジプロピレントリアミン、3-(2-メトキシエトキシ)プロピルアミン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオミカミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール」と限定する補正事項を含むので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲、及び平成23年2月25日付けで補正された明細書の記載からみて、上記1.(2)に示すとおりのものである。

(2)引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
本願優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表2003-507896号公報(以下、「刊行物」という。)には、以下の事項及び発明が記載されている。

ア.段落【0001】
「 【0001】
[発明の技術的分野]
本発明は、基体、特に第1の金属層及び第2の層を有する多層基体を研磨する研磨系、組成物及び方法に関する。」

イ.段落【0007】ないし【0010】
「 【0007】
・・・(前略)・・・バイア金属及びバリアー金属は同様に除去速度が大きかったので従来単一の系で研磨されていたが、従来の研磨系を使用するバイア金属とタンタル及び同様な材料との組み合わせの研磨は、望ましくない影響、例えば酸化物エロージョン及びバイア金属ディッシッングをもたらす。
【0008】
従って、第1の金属層の平坦化効果、均一性及び除去速度を最大化し、且つ第2の層の平坦化を最少化し、それによって望ましくない効果、例えば第1の金属層のディッシッング、表面不完全性、及び下側形状への損傷を最少化する様式で、第1の金属層及び第2の層を有する基体を研磨する系、組成物及び/又は方法がまだ必要とされている。本発明は、そのような系、組成物及び方法を提供する。本発明のこれらの及び他の特徴は、本明細書の詳細な説明から明らかになる。
【0009】
[発明の概略]
本発明は、第1の金属層及び第2の層を有する多層基体の1又は複数の層を研磨する系を提供する。この系は、(i)液体キャリア、(ii)少なくとも1種の酸化剤、(iii)系が基体の少なくとも1つの層を研磨する速度を増加させる少なくとも1種の研磨添加剤、(iv)第1の金属層:第2の層の研磨選択性が少なくとも約30:1の少なくとも1種の停止化合物、並びに(v)研磨パッド及び/又は研磨材を含み、前記停止化合物は、アミン、イミン、アミド、イミド及びそれらの混合を含む化合物から選択されるカチオン性の窒素含有化合物である。
【0010】
また本発明は、上述の系を基体の表面に接触させ、そしてそれによって基体の少なくとも一部を研磨することを含む、基体の研磨方法を提供する。更に本発明は、第1の金属層及び第2の層を有する多層基体の1又は複数の層を研磨する方法を提供する。この方法は、(a)第1の金属層に研磨系を接触させること、及び(b)第1の金属層の少なくとも一部が基体から除去されるまで、前記系で第1の金属層を研磨すること、を含む。」

ウ.段落【0013】
「 【0013】
本発明の系を使用して、任意の適当な基体、特に多層基体の1又は複数の層を研磨することができる。好ましくは本発明の系を使用して、第1の金属層、第2の層、及び随意に1又は複数の追加の層を有する多層基体を研磨する。適当な第1の金属層としては例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、アルミニウム銅(Al-Cu)、アルミニウムシリコン(Al-Si)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タングステン(W)、窒化タングステン(WN)、貴金属(例えばイリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、銀(Ag)、及び白金(Pt))、及びそれらの組み合わせを挙げることができる。・・・(後略)」

エ.段落【0015】
「 【0015】
酸化剤は、任意の適当な酸化剤でよい。適当な酸化剤としては例えば、少なくとも1つのペルオキシ基(-O-O-)を有する1又は複数の過酸化化合物を挙げることができる。適当な過酸化化合物としては例えば、過酸化物(ペルオキシド)、過硫酸塩(例えばモノ過硫酸塩及びジ過硫酸塩)、過炭酸塩、並びにそれらの酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合を挙げることができる。他の適当な酸化剤としては例えば、酸化ハロゲン化物(例えば塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、並びにそれらの酸、及びそれらの混合等)、過ホウ素酸、過ホウ素酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸(過酢酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、それらの塩、それらの混合物等)、過マンガン酸塩、クロム酸塩、セリウム化合物、フェリシアン化物(例えばフェリシアン化カリウム)、それらの混合等を挙げることができる。好ましい酸化剤としては例えば、過酸化水素、尿素-過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化ベンジル、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酢酸、一過硫酸、二過硫酸、ヨウ素酸、並びにそれらの塩及びそれらの混合を挙げることができる。」

オ.段落【0026】ないし【0027】
「 【0026】
・・・(前略)・・・好ましくは停止化合物は、上述のように、多層基体の第2の層に作用(例えば付着)し、系による第2の層の除去を少なくとも部分的に抑制する。・・・(後略)
【0027】
停止化合物は、アミン、イミン、アミド、イミド、それらのポリマー、及びそれらの混合からなる化合物の群より選択される任意の適当なカチオン性の窒素含有化合物でよい。・・・(中略)・・・本明細書の記載において「カチオン性」という用語は、系の液体部分中の停止化合物の一部(例えば約5.0%又はそれよりも多く、約10.0%又はそれよりも多く、約15.0%又はそれよりも多く、又は約20.0%又はそれよりも多く)が、本発明の系を使用するpHにおいてカチオンであることを意味している。好ましくは停止化合物のpKa値は、系の液体部分の使用pHよりも1単位大きく、又はそれよりも大きい。例えばpHが6.5の系では、好ましい停止化合物のpKa値は約7.5又はそれよりも大きい。・・・(中略)・・・更に好ましい停止化合物としては例えば、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオアミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレン-ペンタアミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール、又はそれらの混合を挙げることができる。」

カ.段落【0030】
「 【0030】
本発明の系は、任意の研磨パッド及び/又は研磨材を含むことができる。・・・(後略)」

キ.刊行物記載の発明
上記ア.には、第1の金属層及び第2の層を有する多層基体を研磨する研磨系及び研磨方法が示されており、上記イ.に摘示する段落【0010】を参照すると、刊行物記載の研磨方法は、第1の金属層に研磨系を接触させ、第1の金属層の少なくとも一部が基体から除去されるまで、当該研磨系で第1の金属層を研磨する方法であるといえる。
そして、上記イ.に摘示する段落【0009】には、研磨系について、研磨パッド及び/又は研磨材を含み、酸化剤、停止化合物、液体キャリアを有することが示されており、上記エ.には、酸化剤の具体的な構成が示されている。
さらに、上記オ.には、停止化合物が、第2の層の除去を少なくとも部分的に抑制するためのものであることや、停止化合物の具体的構成が示されているうえに、研磨系のpHを6.5とする例示がある。

これらの記載事項を、技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「銅、アルミニウム、アルミニウム銅、アルミニウムシリコン、チタン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、イリジウム、ルテニウム、金、銀、白金、及びそれらの組み合わせである第1の金属層及び第2の層を有する多層基体を
研磨パッド及び/又は研磨材を含み、
過酸化物、過硫酸塩、過炭酸塩、並びにそれらの酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合、酸化ハロゲン化物(例えば塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、並びにそれらの酸、及びそれらの混合等)、過ホウ素酸、過ホウ素酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸(過酢酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、それらの塩、それらの混合物等)、過マンガン酸塩、クロム酸塩、セリウム化合物、フェリシアン化物(例えばフェリシアン化カリウム)、それらの混合、過酸化水素、尿素-過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化ベンジル、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酢酸、一過硫酸、二過硫酸、ヨウ素酸、並びにそれらの塩及びそれらの混合より選択された酸化剤、
第2の層の除去を少なくとも部分的に抑制する停止化合物であって、
イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオアミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレン-ペンタアミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール、より選択されたカチオン性の窒素含有化合物である停止化合物、及び
液体キャリアを有し、pHが6.5の研磨系と接触させる工程、並びに
当該多層基体を当該系で研磨することにより、当該基体から当該貴金属の第1の金属層の少なくとも一部を除去する工程を含む、多層基体の研磨方法。」


(3)対比
本件補正発明と刊行物記載の発明とを対比すると、刊行物記載の発明の「銅、アルミニウム、アルミニウム銅、アルミニウムシリコン、チタン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、イリジウム、ルテニウム、金、銀、白金、及びそれらの組み合わせである第1の金属層」は、「金属層」であるという点で、本件補正発明の「貴金属層」と共通する。
また、刊行物記載の発明の「第2の層」が、本件補正発明の「第2層」に相当し、「多層基体」が「基材」に相当することは、明らかである。
また、刊行物記載の発明の「研磨パッド及び/又は研磨材」は、研磨パッド単独や、研磨材単独、あるいは研磨パッド及び研磨材の組み合わせを含むから、本件補正発明の「研磨剤、研磨パッド又はそれらの組み合わせからなる群より選択された研磨成分」に相当するといえるし、刊行物記載の発明の「研磨系」は、酸化剤による化学的な研磨だけでなく、研磨パッドや研磨材による機械的な研磨を含むから、本件補正発明の「化学機械研磨系」に相当するといえる。
また、刊行物記載の発明の「過酸化物、過硫酸塩、過炭酸塩、並びにそれらの酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合、酸化ハロゲン化物(例えば塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、並びにそれらの酸、及びそれらの混合等)、過ホウ素酸、過ホウ素酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸(過酢酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、それらの塩、それらの混合物等)、過マンガン酸塩、クロム酸塩、セリウム化合物、フェリシアン化物(例えばフェリシアン化カリウム)、それらの混合、過酸化水素、尿素-過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化ベンジル、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酢酸、一過硫酸、二過硫酸、ヨウ素酸、並びにそれらの塩及びそれらの混合より選択された酸化剤」は、「酸化剤」という点で、本件補正発明の「臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、有機ハロオキシ化合物、それらの塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択された酸化剤」と共通する。
そして、刊行物記載の発明の「停止化合物」は、「第2の層の除去を少なくとも部分的に抑制する」ものであるから、本件補正発明と同様に、「第2層の除去速度を抑える阻止化合物」と表現できるし、刊行物記載の発明の
「イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオアミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレン-ペンタアミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール」が、本件補正発明の
「イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオミカミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール」に相当することは、明らかである。
さらに、「カチオン」とは、陽イオン、すなわち正の電荷を帯びていることを意味するから、刊行物記載の発明の「カチオン性の窒素含有化合物」は、本件補正発明の「正に帯電された窒素含有化合物」にほかならない。
また、刊行物記載の発明の「液体キャリア」が、本件補正発明の「液体キャリヤー」に相当することは明らかであるし、刊行物記載の発明において「pHが6.5」であることは、「6.5のpH」という点で、本件補正発明において「9以下のpH」であることと共通する。
そして、刊行物1記載の発明の「を有し、」という副詞句は、「からなり、」とも表現できるものである。

以上から、本件補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「 金属層及び第2層を含む基材を
研磨剤、研磨パッド又はそれらの組み合わせからなる群より選択された研磨成分、
酸化剤、
当該第2層の除去速度を抑える阻止化合物であって、
ポリエーテルアミン、N-4-アミノ(N,N’-ビス-[3-アミノプロピル]エチレンジアミン)、4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン、3,3-ジメチル-4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-フェニルエチルアミン、N,N-ジメチルジプロピレントリアミン、3-(2-メトキシエトキシ)プロピルアミン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオミカミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール、及びそれらの混合物からなる群より選択された正に帯電された窒素含有化合物である阻止化合物、及び
液体キャリヤーからなり、6.5のpHを有する化学機械研磨系と接触させる工程、並びに
当該基材を当該化学機械研磨系で研磨することにより、当該基材から当該貴金属層の少なくとも一部を除去する工程を含む、基材の研磨方法。」

<相違点1>
金属層及び酸化剤が、本件補正発明では、「貴金属層」及び「臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、ヨウ素酸塩、次亜ヨウ素酸塩、有機ハロオキシ化合物、それらの塩、及びそれらの組み合わせからなる群より選択された酸化剤」であるのに対して、刊行物記載の発明では、「銅、アルミニウム、アルミニウム銅、アルミニウムシリコン、チタン、窒化チタン、タングステン、窒化タングステン、イリジウム、ルテニウム、金、銀、白金、及びそれらの組み合わせである第1の金属層」及び「過酸化物、過硫酸塩、過炭酸塩、並びにそれらの酸及びそれらの塩、並びにそれらの混合、酸化ハロゲン化物(例えば塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、過塩素酸塩、過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩、並びにそれらの酸、及びそれらの混合等)、過ホウ素酸、過ホウ素酸塩、過炭酸塩、ペルオキシ酸(過酢酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、それらの塩、それらの混合物等)、過マンガン酸塩、クロム酸塩、セリウム化合物、フェリシアン化物(例えばフェリシアン化カリウム)、それらの混合、過酸化水素、尿素-過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化ベンジル、ジ-t-ブチルペルオキシド、過酢酸、一過硫酸、二過硫酸、ヨウ素酸、並びにそれらの塩及びそれらの混合より選択された酸化剤」である点。

<相違点2>
本件補正発明の化学機械研磨系は、「9以下のpHを有する」ものであるのに対して、刊行物記載の発明の研磨系は、「pHが6.5」である点。

(4)相違点の判断
ア.相違点1について
刊行物記載の発明の金属層には、「イリジウム、ルテニウム、金、銀、白金」が含まれており、これらは、本件補正発明の貴金属であるといえる。また、刊行物記載の発明の酸化剤には、「塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩」が含まれており、これらは、本件補正発明の酸化剤である「臭素酸塩」、「塩素酸塩」、「ヨウ素酸塩」と一致する。
そして、貴金属の層を研磨するにあたり、研磨液に添加する酸化剤として、臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ素酸塩を採用することは、例えば特開2002-33298号公報の段落【0015】ないし【0016】に示すように、本願の優先日前に周知の技術的事項である。
刊行物1記載の発明は、研磨の対象である金属層として、「イリジウム、ルテニウム、金、銀、白金」を含んでおり、また、酸化剤として、「塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩」を含んでいるところ、研磨対象である金属層を貴金属に限定することは、当業者が容易になし得る選択にすぎないし、金属層を貴金属に限定したことに伴って、酸化剤を「臭素酸塩」、「塩素酸塩」、「ヨウ素酸塩」に限定することは、上記の周知の技術的事項を考慮すれば、当業者にとって格別に困難な事項とはいえない。
以上から、刊行物記載の発明の金属層を貴金属に限定し、酸化剤を臭素酸塩、塩素酸塩、ヨウ素酸塩に限定することは、当業者にとって容易である。

イ.相違点2について
刊行物記載の発明における「pHが6.5」であることは、本件補正発明において「9以下のpHを有する」ことに含まれている。
また、化学機械研磨系のpHが研磨の性能を左右することは、当業者にとって、改めて指摘するまでもない自明な事項である。
そして、上記(2)オ.で摘示する段落【0027】に「本発明の系を使用するpHにおいてカチオンであることを意味している。好ましくは停止化合物のpKa値は、系の液体部分の使用pHよりも1単位大きく、又はそれよりも大きい。例えばpHが6.5の系では、好ましい停止化合物のpKa値は約7.5又はそれよりも大きい。」と記載されているように、刊行物には、停止化合物がカチオン、すなわち正に帯電するかどうかは、化学機械研磨系のpHに影響されることが示されている。
そうすると、刊行物の記載に接した当業者であれば、研磨の性能や、停止化合物が正に帯電して、第2層の除去速度を抑えるように考慮して試行を行い、化学機械研磨系のpHの範囲を最適化すればよいことは、当然に理解できる。
さらに、本件補正発明において、「9以下のpH」であることの格別の効果や意義が、具体的に示されているわけでもない。
以上から、刊行物記載の発明において、化学機械研磨系が「9以下のpHを有する」ように構成することは、当業者にとって格別に困難な事項ではない。

(5)請求人の主張について
ア.審判請求書における主張の概要
請求人は、審判請求書の第4ページの(1)[3]欄において、本件補正発明の化学機械研磨系は、(a)ないし(d)成分のみを含むものであると主張(以下、「主張1」という。)している。
また、第7ページの(3)(3.3)欄において、前記主張1を前提として、刊行物記載の発明の研磨系は、(a)ないし(d)成分以外に、研磨添加剤が含まれていることを指摘し、研磨添加剤の有無に関して、構成上の差異がある旨を主張(以下、「主張2」という。)している。

イ.平成24年3月14日付けの回答書における主張の概要
請求人は、回答書第2ないし4ページの(3)(3.1)欄において、追加実験の結果を提示したうえで、阻止化合物によって酸化物(第2層)の除去速度を低減できる効果が示されている旨を主張(以下、「主張3」という。)している。
また、第4ないし5ページの(4)欄において、上記主張3を前提として、本願発明の効果が十分に推認できるから、本願発明が進歩性を有する旨を主張(以下、「主張4」という。)し、さらに、第5ページの(5)欄において、上記主張3を前提として、請求項1における「9以下のpH」を「1?4以下のpH」に限定する用意がある旨を主張(以下、「主張5」という。)している。

ウ.主張1ないし2について
本件補正発明は、上記1.(2)欄に記載したとおりのものであるところ、そこには、化学機械研磨系が、(a)ないし(d)成分「からなる」ことの記載はあるものの、(a)ないし(d)成分のみを含むものであることについて、記載されていない。そうすると、本件補正発明の化学機械研磨系は、(a)ないし(d)成分以外の成分を含むことを排除するものではなく、(a)ないし(d)成分以外の成分を含み得るものと解釈することが、自然である。
また、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項24には、
「 【請求項24】
前記化学機械研磨系が、錯化剤、pH緩衝剤、界面活性剤、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される成分をさらに含む、請求項1に記載の方法。」
と記載されているところ、当該記載は、本件補正発明の化学機械研磨系が、(a)ないし(d)成分以外に、錯化剤、pH緩衝剤、界面活性剤を含み得ることを明示しており、当該請求項24の記載は、上記の解釈と整合する一方で、請求人の上記主張1と整合していない。
以上から、請求人の上記主張1は、特許請求の範囲の記載に基づくものでなく、特許請求の範囲の記載に矛盾するものであるから、到底採用することはできない。
そして、請求人の上記主張2は、上記主張1を前提とするものであるところ、その前提を欠くことになるから、採用できない。

エ.主張3ないし5について
回答書(3)(3.1)欄の追加実験の結果を参照すると、実験に用いた阻止化合物は、DMAMP(2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール)であると理解できるところ、当該DMAMPは、本件補正発明において特定されている阻止化合物ではない。
そして、本件補正発明において特定されている阻止化合物ではないDMAMPにおいて、何らかの効果があるとしても、そこから直ちに、本件補正発明において特定されている阻止化合物においても、同等以上の効果があるとはいえない。
したがって、上記主張3で説明する効果は、本件補正発明の効果とはいえず、本件補正発明の効果を推認できる理由がないから、請求人の主張4及び5を採用することはできない。

(6)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年2月25日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。

2.引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、上記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記2.1.(2)に補正後の発明として記載した発明、すなわち本件補正発明における「ポリエーテルアミン、N-4-アミノ(N,N’-ビス-[3-アミノプロピル]エチレンジアミン)、4,7,10-トリオキサトリデカン-1,13-ジアミン、3,3-ジメチル-4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン、2-フェニルエチルアミン、N,N-ジメチルジプロピレントリアミン、3-(2-メトキシエトキシ)プロピルアミン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、チオミカミン(thiomicamine)、(アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、テトラメチルブタンジアミン、プロピルアミン、ジアミノプロパノール、アミノブタノール、(2-アミノエトキシ)エタノール、」という発明特定事項を、より包括的な概念である「アミン、イミン、アミド、イミド、それらのポリマー」という発明特定事項にしたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を、より具体的に特定したものに相当する本件補正発明が、上記第2.2.(6)に記載したとおり、刊行物記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様に、刊行物記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物記載の発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-04-25 
結審通知日 2012-05-08 
審決日 2012-05-21 
出願番号 特願2006-518637(P2006-518637)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 良隆  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 貴金属のCMP  
代理人 出野 知  
代理人 永坂 友康  
代理人 小林 良博  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  

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