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審決分類 審判 一部無効 特39条先願  C10B
審判 一部無効 特29条特許要件(新規)  C10B
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C10B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C10B
審判 一部無効 2項進歩性  C10B
管理番号 1264525
審判番号 無効2009-800227  
総通号数 156 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2012-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-02 
確定日 2012-08-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3364065号「炭化方法」の特許無効審判事件についてされた平成23年9月13日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10314号平成24年3月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 平成7年9月29日に、名称を「炭化方法」とする発明について特許出願(特願平7-252462号)がされ、平成14年10月25日に、特許第3364065号として設定登録を受けた(請求項の数7。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書及び図面を「本件特許明細書」といい、特許権者である株式会社ナカタ及び株式会社安田製作所を「被請求人ら」という。)。
本件特許について、株式会社カーボテック(以下、「請求人」という。)から、本件無効審判の請求がされた。一次審決までの手続の経緯は、以下のとおりである。

平成21年10月30日 審判請求書・甲第1?8号証提出
(平成21年11月2日差出)
平成22年 2月 1日 答弁書・乙第1号証提出、訂正請求書
(被請求人ら)
平成22年 3月17日 弁駁書・甲第9?10号証提出(請求人)
平成22年 6月 8日 口頭審理陳述要領書
・甲第11?15号証提出(請求人)
平成22年 6月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人ら)
平成22年 6月 8日 口頭審理
平成22年 7月16日付け 訂正拒絶理由通知書、職権審理結果通知書
平成22年 8月19日 訂正拒絶理由通知に対する意見書
(平成22年8月20日受付)・乙第2?10号証提出(被請求人ら)
平成22年10月27日付け 一次審決

2 これに対し、平成22年12月4日に、被請求人らから、平成22年10月27日にした審決の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に訴えが提起され、平成23年3月3日に訂正審判(訂正2011-390025号、その後特許法第134条の3第4項の規定によりみなし取下げ)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定により、「特許庁が無効2009-800227号事件について平成22年10月27日にした審決中『特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。』との部分を取り消す。」との決定(平成22年(行ケ)第10378号、平成23年3月18日決定)がされ確定した。

3 ここで、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項3に係る訂正、及び、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0007】の訂正について、並びに、「特許第3364065号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決部分については、平成22年12月8日(出訴期間経過時)に確定した(当該請求項3に係る発明に対する審決部分は、この審決の最後の(参考:本件一次審決)を参照のこと。)。
また、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項2、4、5(請求項2ないし4の訂正に起因するもの)、6及び7に係る訂正、並びに、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0006】、【0008】の訂正については、一次審決の送達により確定した。

4 審理再開にあたり、平成23年4月14日付けで、被請求人らに対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知がされたところ、平成23年4月26日に訂正請求書が提出され、平成23年6月9日(平成23年6月10日差出)に請求人から弁駁書(甲第16号証)が提出された。そして、平成23年6月23日付けの訂正拒絶理由通知に対し、平成23年7月7日に被請求人らから訂正拒絶理由に対する意見書(乙第11?21号証)が提出された(なお、平成22年2月1日付けの訂正請求において、上記3で確定した訂正を除く訂正の請求、すなわち、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項1に係る訂正の請求、及び、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0005】、【0026】の訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。)。
そして、平成23年9月13日付けで、請求項1に係る訂正を認めた上で、特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの審決(この審決の最後に(参考)として添付する。)がされた。

5 これに対し、平成23年10月1日に、被請求人らから、平成23年9月13日にした審決の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に訴えが提起され、平成23年(行ケ)第10314号として審理された結果、平成24年3月22日に「特許庁が無効2009-800227号事件について平成23年9月13日にした審決を取り消す。」との判決がされ確定した。

第2 平成23年4月26日付けの訂正請求の適否について
1 平成23年4月26日付けの訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の要旨は、「特許第3364065号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の基準となる明細書について
本件特許については、上記第1の3のとおり、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正の一部が確定しており、上記第1の4のとおり、該確定した訂正を除く平成22年2月1日付けの訂正の請求は、本件訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす。
したがって、本件訂正の請求に際し、基準となる明細書は、平成22年2月1日付けの訂正請求により、請求項2?4、5(請求項2ないし4の訂正に起因するもの)、6及び7に係る訂正、並びに、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0006】?【0008】の訂正がされた特許明細書(以下、「本件基準明細書」という。)ということになる。

3 訂正の内容
本件訂正の請求は、本件基準明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について、以下に示す訂正を求めるものである。ここで、本件訂正の請求書において、特許請求の範囲についての訂正事項である【訂正1】〔a〕?〔g〕を、以下、それぞれ「訂正事項1a」?「訂正事項1g」と表し、発明の詳細な説明についての訂正事項である【訂正2】〔a〕?〔k〕を、以下、それぞれ「訂正事項2a」?「訂正事項2k」と表す(なお、本件訂正の請求書においては、発明の詳細な説明の訂正箇所を特許公報の該当頁及び行で示しているが、上記2のとおり、本件基準明細書の記載内容は、特許公報(すなわち、本件特許明細書)の記載内容とは異なるので、この審決においては訂正箇所を本件基準明細書の段落番号で表すこととする。)。

(1)訂正事項1a
請求項1において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(2)訂正事項1b
請求項1において、「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(3)訂正事項1c
請求項1において、「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(4)訂正事項1d
請求項1において、「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(5)訂正事項1e
請求項2において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(6)訂正事項1f
請求項3において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(7)訂正事項1g
請求項4において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(8)訂正事項2a
本件基準明細書の段落【0005】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(9)訂正事項2b
本件基準明細書の段落【0005】の「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(10)訂正事項2c
本件基準明細書の段落【0005】の「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(11)訂正事項2d
本件基準明細書の段落【0005】の「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(12)訂正事項2e
本件基準明細書の段落【0006】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(13)訂正事項2f
本件基準明細書の段落【0007】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(14)訂正事項2g
本件基準明細書の段落【0008】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(15)訂正事項2h
本件基準明細書の段落【0026】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(16)訂正事項2i
本件基準明細書の段落【0026】の「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(17)訂正事項2j
本件基準明細書の段落【0026】の「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(18)訂正事項2k
本件基準明細書の段落【0026】の「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。

4 本件訂正の請求についての当審の判断
当審は、上記訂正事項1a?1g及び2a?2kは、下記4-1のとおり、訂正の目的要件を満たすものであり、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないものと判断する。
ところで、本件の請求項2?7は、上記訂正事項1a?1gにより直接的に、又は請求項の引用により間接的に訂正の請求がされており、かつ、無効審判の請求がされていない請求項であるから(なお、請求項3も「審判請求は、成り立たない」との一次審決が確定しているので、この審決においては、無効審判の請求がされていない請求項に該当する。)、請求項2?7に係る訂正が特許請求の範囲の減縮若しくは誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正であるときには、これらの訂正が認められるには、訂正後における上記各請求項に記載されている事項により特定される発明が独立特許要件を満たす必要がある。
そして、当審は、下記4-2(2)のとおり、請求項2?7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件訂正後における請求項2?7に記載されている事項により特定される発明は、請求人が提出した甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許出願の際独立して特許を受けることができるもの、と判断する。
以下にその理由を示す。

4-1 各訂正事項についての訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、実質変更の有無について
(1)訂正事項1a、1e、1f及び1gについて
訂正事項1a、1e、1f及び1gは、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された「可燃物あるいは可燃物を含む」を、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正するものであり、可燃物を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】における「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項1bについて
訂正事項1bは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「反対方向から着火させ、」を、「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正するものであり、着火させる対象を原料のガス成分であると特定し、このガス成分を燃焼させることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】における「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、」との記載や、同段落【0013】における「原料の主にガス成分を燃焼させる。」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項1cについて
訂正事項1cは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「投入口側で乾燥させ」を、「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正するものであり、乾燥させる対象を原料に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】における「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項1dについて
訂正事項1dは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「酸化を抑制しつつ」を、「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正するものであり、酸化を抑制させる対象を可燃物に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】における「原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項2a、2e、2f、2g及び2hについて
訂正事項2a、2e、2f、2g及び2hの各訂正は、訂正事項1a、1e、1f及び1gに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項2b及び2iについて
訂正事項2b及び2iの各訂正は、訂正事項1bに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項2c及び2jについて
訂正事項2c及び2jの各訂正は、訂正事項1cに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項2d及び2kについて
訂正事項2d及び2kの各訂正は、訂正事項1dに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1a?1g及び2a?2kについては、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件を満たすものである。

4-2 独立特許要件について
本件訂正による訂正後の明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」という。)のうち、本件訂正発明2及び4?7は、無効審判の請求がされていない請求項に係る発明であり、本件訂正発明3は、無効審判の請求が成り立たない旨の審決が確定していることから、本審決においては無効審判が請求されていない請求項に係る発明として扱うことは先に述べたとおりであるが、これらの何れの発明についても、特許出願の際独立して特許を受けることができないとされる理由は見当たらない。
なお、本件訂正発明2?7は、何れも内容的にみて、本件訂正発明1を限定するものであるが、請求人が主張する何れの理由によっても本件訂正発明1についての特許を無効とすることができないことは、後記第5に記載するとおりである。

4-3 訂正の適否について
上記4-1のとおり、訂正事項1a?1g及び2a?2kについては、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件を満たすものである 。
また、無効審判請求がされていない本件訂正後の請求項2?7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものと認められる。

5 むすび
以上のとおりであるから、平成23年4月26日付けの訂正請求に係る訂正は認められるべきものである。

第3 本件審判請求の趣旨及びその理由
1 本件審判請求時の請求の趣旨及びその理由の概要
請求人は、「特許第3364065号の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との請求の趣旨により、本件審判の請求を行った。
そして、本件審判請求時の請求に係る理由は、特許請求の範囲の請求項1及び3に係る発明についての特許が、概略して下記(1)?(3)の理由により特許法第123条第1項第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものであるというものである。
(1)無効理由1
請求項1及び3に係る発明は、産業上利用することができる発明ではなく、許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないものである。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合するものではなく、特許請求の範囲の請求項1及び3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、また、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
(2)無効理由2
請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の請求項1及び3に係る先願特許発明と同一であるから、特許法第39条第1項に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
(3)無効理由3
請求項1及び3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

2 本件審判請求の趣旨
上記第2で説示したとおり、本件訂正は認めており、また上記第1の3で説示したとおり、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正後の請求項3に係る発明に対する審決は、平成22年12月8日(出訴期間経過時)に確定している。
その結果、本件審判請求の趣旨は、本件訂正による訂正後の「特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であると認められる。

3 本件審判請求の理由
上記1及び2を踏まえると、本件で審理すべき審判請求人が主張する無効理由は、以下のとおりのものであると認められる。
(1)無効理由1
本件訂正による訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明1」という。)は、産業上利用することができる発明ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないものである。また、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載(当審注:本件訂正のうち、発明の詳細な説明の訂正は認められないので、発明の詳細な説明の記載内容については、本件基準明細書による。)は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合するものではなく、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、また、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
(2)無効理由2
本件訂正発明1は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の請求項1に係る先願特許発明(以下、「先願特許発明1」という。)と同一であるから、特許法第39条第1項に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
(3)無効理由3
本件訂正発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

4 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書に添付して提出
甲第1号証 特許第3272182号公報
甲第2号証 製造販売禁止等請求事件の訴状(東京地方裁判所 事件番号 :平成21年(ワ)第19013号、平成21年6月8日付け)
甲第3号証 特開昭51-148701号公報
甲第4号証 特開昭57-111380号公報
甲第5号証 「化学大辞典」(株式会社東京化学同人、1989年10月 20日発行、第1版第1刷、1359頁)
甲第6号証 特開昭51-26627号公報
甲第7号証 特開平6-42876号公報
甲第8号証 特許第3364065号公報(本件特許公報)
(2)弁駁書(平成22年3月17日付け)に添付して提出
甲第9号証 「広辞苑」(株式会社岩波書店、2008年1月11日発行 、第6版第1刷、1807頁及び1939頁)
甲第10号証 「炭のすべてがよくわかる 炭のかがく」(株式会社誠文 堂新光社、2004年6月10日発行、6頁?21頁、34頁?43頁、 80頁?90頁及び116頁?121頁)
(3)口頭審理陳述要領書(平成22年6月8日付け)に添付して提出
甲第11号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判 所民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)
甲第12号証 「機械工学基礎講座 燃焼工学 -基礎と応用-」(理工 学社、2008年2月28日発行、第1版第16刷、16頁?25頁、1 06頁?109頁)
甲第13号証 特開平7-124466号公報
甲第14号証 フリー百科事典「Wikipedia」([online],平成22年5月
21日検索、インターネットURL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%83%B3)ロータリーキルンの一般的な構成が記載されたホームページ
甲第15号証 「JIS工業用語大辞典」第3版(財団法人日本規格協会 、1991年11月20日発行、第3版第1刷、12頁及び1980頁)(4)弁駁書(平成23年6月10日付け)に添付して提出
甲第16号証 製造販売禁止等請求事件の準備書面(2)(東京地方裁判 所事件番号:平成21年(ワ)第19013号、平成21年11月9日付 け)

5 答弁の趣旨・被請求人らの主張の概要、被請求人らの提出した証拠方法
被請求人らは、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。
そして、被請求人らの提出した証拠方法は、以下のものである。
(1)答弁書に添付して提出
乙第1号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所 民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)
(2)訂正拒絶理由通知に対する意見書(平成22年8月19日付け)に添 付して提出
乙第2号証 株式会社アスカムのホームページ中におけるセラミック炭の 説明 (http://www.ascam.net/ceramic.html)
乙第3号証 イー・スペース株式会社のホームページ中におけるセラミッ ク炭の説明(http://www.e-space18.com/construction/item/item01.php)
乙第4号証 やまぐちエコ市場WEBにおけるセラミック炭の説明(http://e co.pref.yamaguchi.lg.jp/ecoichiba/index.php?m=details_matching_no2_block&category=2&c id=50)
乙第5号証 「メッシュ【mesh】」の説明
乙第6号証 yahoo百科事典 「メッシュ」の説明 (http://100.yahoo.co .jp/detail/%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5/)
乙第7号証 「れんたん【練炭・煉炭】」の説明
乙第8号証 関ベン鉱業株式会社のホームページにおける、ベントナイト を練炭・豆炭に混合させることについての説明(http://www.kunimine.co.jp/grou p/kanben/ipann.html)
乙第9号証 株式会社ノリタケのロータリーキルンカタログ
乙第10号証 アルファ株式会社のロータリーキルンカタログ
(3)訂正拒絶理由通知に対する意見書(平成23年7月7日付け)に添付して提出
乙第11号証 信州大学繊維学部材料化学工学課程准教授 高橋伸英氏に よる試験結果報告書(平成23年5月24日)
乙第12号証 合資会社桜産業の通販用ホームページ 「粒状」の使用例 (http://www.bidders.co.jp/dap/sv/nor1?id=146620238&p=y%23body)
乙第13号証 バーミア製チッパーの紹介ホームページ 「粒度」の使用 例(http://www.maruma.co.jp/product/product1/chipper/chipper.htm)
乙第14号証 株式会社カーボテック 新方式炭化装置NSシリーズ概要 資料 「粒度」の使用例
乙第15号証 「マグローヒル科学技術用語大辞典」第2版(株式会社日 刊工業新聞社、1992年11月10日発行、第2版第6刷、1363頁 )「被覆剤」の説明
乙第16号証 国語大辞典(株式会社小学館、昭和56年12月16日発 行、第1版第2刷、2055頁) 「被覆」の説明
乙第17号証 国語大辞典(株式会社小学館、昭和56年12月16日発 行、第1版第2刷、1728頁) 「点在」の説明
乙第18号証 対義語辞典 「密集」の対義語(http://worddrow.net/searchRev erse?keyword=密集)
乙第19号証 株式会社カーボテックのホームページ 有機物を無機物で 被覆して難燃性の炭を製造する説明(http://www.carbo-tec.co.jp/syouhin/tanka/ind ex.html)
乙第20号証 協同組合カーボテック飛騨のパンフレット 有機物を無機 質で被覆して難燃性の炭を製造する説明
乙第21号証 「広辞苑」(株式会社岩波書店、2011年1月11日発 行、第6版第2刷、1022頁) 「固体」の説明

第4 本件訂正による訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)
本件審理の対象となる本件訂正発明1は、本件訂正による訂正後の請求項1に記載された事項で特定される以下のとおりのものと認められる。

「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」

第5 当審の判断
当審は、無効理由1?3のいずれによっても、本件訂正発明1を無効にすることはできないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張
無効理由1について、請求人の主張する具体的な理由は、以下のとおりである。
ア 無効理由1a 「自然法則からすると、無機質粘結材で被覆された可燃物を燃焼させることは不可能であり、そうすると、『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」(審判請求書第8頁10行?13行)
イ 無効理由1b 「『無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出』するのであれば、同様に、外部の酸素も内部に入り込める訳であるから、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項3の『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」(弁駁書第5頁16行?20行)
ウ 無効理由1c 「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」(弁駁書第5頁22行?24行)

(2)無効理由1についての当審の判断
ア 請求人の主張する無効理由1aについて
本件基準明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、最終的に炭化物が排出口14から排出されるのである。従って、この炉部10を用いれば、粒状の原料を連続的に送り、炭化物を連続的に排出でき、工業的に大量の炭化物を効率良く生産できる。」段落【0012】
「16はバーナーであり、排出口14に対向して配設されている。このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。燃焼空気の流れは、原料が送られる方向と反対方向になる。」(段落【0013】)
「点火は排出口に対向して設けられたバーナー16によってなされる。バーナー16は、連続的に送られる前記原料が連続して炭化(燃焼)されるように、放射される炎の強さが調整される。原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。原料は排出口14側で燃焼され、投入口12側では原料が燃焼することで発生する熱気が、バーナー16による送風と共に熱風となり、原料を効率良く乾燥できる。原料を乾燥するためのエネルギーを節約できる。前記原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、ガス化した燃焼物は燃えるが、炭素の酸化は抑制される。このため、通常、燃焼温度は700?800°C程度に抑制される。」(段落【0021】)
「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。また、可燃物を含むものとは、燃える物と燃えない物が混ざった物で、燃えない物はガラス、・・・セラミック、水、等である。」(段落【0024】)
上記のように発明の詳細な説明には、「このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。」(段落【0013】)、「原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。」(段落【0021】)とあり、原料を構成する可燃物については、「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻・・・固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」(段落【0024】)とある。
一方、固体の燃焼については、被請求人らの提出した乙第1号証に固体燃料の燃焼形態として分解燃焼が挙げられており、「蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料では、蒸発の前に燃料の熱分解が生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)中の可燃性ガス成分が、気相中で酸素と燃焼反応を生じることにより火炎が形成される。」(第1頁19行?22行)とあって、発明の詳細な説明に記載された、木材、穀物の殻、コーヒー粕等の可燃物は、蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料であると認められるから、「原料の主にガス成分を燃焼させる」とは、固体である可燃物が熱分解により分解生成ガスを発生し、この分解生成ガスが燃焼すると解するのが自然である。
そして、本件訂正発明1では、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆し、その後、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で焼成している。そうすると、出発原料を構成する可燃物は所定温度まで加熱されると、熱分解により揮発成分が発生し、そして可燃物の表面に被覆されている無機質燃結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部へ噴出し、噴出した揮発成分中の可燃性成分が燃焼(分解燃焼)すると認められる。原料の主にガス成分を燃焼させるとは、このことを指すとするのが相当である。また、可燃物がベントナイト等の不燃物で被覆されていることにより、可燃物は酸素との接触が抑制され、酸化は抑制されるものと認められる。
したがって、「『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」とすることはできない。

イ 請求人の主張する無効理由1bについて
被請求人の提出した乙第1号証には、「II 炭化について」で「炭化とは、熱分解により揮発成分を固体中から追い出し、固体中の炭素の含有率を増加させるプロセス、あるいはその現象のことを一般的に指す。
通常は、酸素を遮断し、不活性雰囲気下で加熱することにより炭化を行うが、空気中でも、加熱・燃焼中に酸素の供給が不完全であれば炭化する。」(第2頁16行?19行)と記載されており、無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出するのであれば、逆に外部の酸素も内部に入り込める余地はあるが、酸素の供給が不完全であれば炭化する、すなわち、可燃物の酸化が抑制されるものと認められる。
したがって、「『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」とすることはできない。

ウ 請求人の主張する無効理由1cについて
請求人は、また、「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」との主張をしているが、「被覆されている無機質粘結材は飛散する」との主張は、無機質粘結材が飛散することの根拠が明らかでなく、当業者の技術常識的にも揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するとはいえない。

(3)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、産業上利用することができる発明であり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。
したがって、請求人の主張する無効理由1によっては、本件訂正発明1についての特許を無効にすることはできない。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人の無効理由2についての主張は、「本件特許発明1・・・は、先願特許発明1・・・の構成要件の全てを充足するものであり、両者は互いに同一である。すなわち、本件特許は特許法第39条第1項の規定に反して登録されたものである。」(審判請求書第9頁下から2行?第10頁1行)というものである。

(2)無効理由2についての当審の判断
ア 本件訂正発明1及び先願特許発明1
本件訂正発明1は、上記第4に記載したとおりのものである(以下に再掲する。)。
「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」

一方、先願特許発明1は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の明細書(以下、「先願特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を成形することなく、ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成することを特徴とする炭化物の製造方法。」

イ 本件訂正発明1と先願特許発明1との対比
本件訂正発明1と先願特許発明1とを対比する。
先願特許発明1の「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物」における「粒状をなす」は、本件訂正発明1の「粒状の固体からなる」に相当し、また、先願特許明細書には、「[可燃物]本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、要するに固体で燃える物全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」(段落【0007】)と記載されており、可燃物には、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体を包含するから、先願特許発明1の「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、」は、本件訂正発明1の「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、」に相当する。
そして、本件訂正発明1も先願特許発明1も「該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、」という工程を有し、本件訂正発明1において、原料は焼成する前に特に成形してはいないから、先願特許発明1の「成形することなく」して得られた「該原料」は、本件訂正発明の「該原料」に相当する。
また、ロータリーキルンは、筒状の炉部を有する炭化炉であり、先願特許発明1において、「酸化雰囲気中で炭化物に焼成すること」とは、実質的に「大気に開放された」状態で焼成することであるといえる。そして、先願特許発明1の原料は「ベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆」して得られたものであり、先願特許明細書に「無機質粘結材としてはベントナイトを含むものを用いる。・・・粘結材の添加量は、上記したように、被炭化材の1%程度の少量添加で酸化抑制効果が現れる。」(段落【0009】)と記載されているように、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成する」ものといえる。
そうすると、先願特許発明1の「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」は、本件訂正発明1の「大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内」で、「前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」に相当する。
そして、先願特許発明1の「炭化物の製造方法」も出発原料である可燃物を炭化させることにほかならないから、先願特許発明1の「炭化物の製造方法」は、本件訂正発明1の「可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するということができる。

炭化炉内での焼成について、本件訂正発明1では、「(該原料を、・・・)該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で焼成」すると特定されているのに対して、先願特許発明1では、そのような特定がされていない点

ウ 相違点についての当審の判断
上記相違点について検討する。
先願特許明細書において、ロータリーキルンの構造についての記載はない。焼成条件については、段落【0012】に、「[焼成条件]焼成温度は700前後の温度で十分である。焼成雰囲気は酸化?還元雰囲気いずれでもよい。本発明は酸化焼成できるところに最大の特徴がある。焼成はロータリーキルンを使って1?10分程度の短時間で所定温度に加熱して急速焼成して大気中に取り出して放冷するのが最も経済的である。」と記載されているだけである。
本件訂正発明1における「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」とは、原料の送り方向とは反対方向からバーナー等何らかの手段により原料を着火燃焼させるものと認められる。しかしながら、先願特許発明1における発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」には、例えば、原料の送り方向からバーナー等で加熱して原料を焼成する(特開平6-330045号公報参照)等、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」る以外の手段が含まれる。
したがって、先願特許発明1の発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」と、本件訂正発明1の発明特定事項である「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とは、実質的な相違であって、他の発明特定事項の異同につき検討するまでもなく、本件訂正発明1は、先願特許発明1と同一の発明であるとすることはできない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2によっては、本件訂正発明1についての特許を無効にすることはできない。

3 無効理由3について
(1)請求人の主張の概要
請求人の主張は、「本件特許発明1・・・は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載の発明に基づいて特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当する。」(審判請求書第11頁28行?30行)というものである。

(2)無効理由3についての当審の判断
ア 本件訂正発明1の内容
本件訂正発明1は、上記第4に記載したとおりのものである(以下に再掲する。)。
「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」

イ 甲各号証に記載された事項
甲第3、6、4、7号証(以下、「刊行物1」?「刊行物4」という。)には、以下のとおりの事項が記載されている。

(ア)刊行物1(甲第3号証)
(3a)「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用したことを特徴とする豆炭、煉炭等の固形燃料。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。
本発明の目的は、ヘドロ公害の源としてその処理に困難をきわめている製紙工場のパルプ廃滓の無公害化処理、特に有効的な2次利用を兼ねた工業的処理を行うことである。
本発明の次の目的は、ほとんどただ同然に入手できるパルプ廃滓の炭化処理したものをコークス代用成分として使用することで、非常に安価な、そして、着火性と火もちが良く無害な固形燃料を提供することである。」(第1頁左下欄8行?末行)
(3c)「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(第1頁右欄1行?6行)
(3d)「パルプ廃滓の炭化処理にロータリキルンを使用する理由は、特別に造粒工程を設けないでも、安価にパルプ廃滓の炭化した粒状体が得られることにある。
パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(第1頁右欄12行?第2頁右上欄1行)
(3e)「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。
実施例1は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を900℃とし、炉内滞留時間を120分に設定した条件下で炭化処理した場合である。
実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。
実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(第2頁右上欄2行?13行)
(3f)「それぞれの結果は以下の表-1、表-2の通りである。表-1は炭化物の組成を表わし、表-2は炭化物の粒度を示している。





」(第2頁右上欄14行?末行、左下欄表-1、表-2)

(イ)刊行物2(甲第6号証)
(6a)「ロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化したパルプ廃滓を主成分とする断熱性溶鋼湯面被覆保温材。」(特許請求の範囲)
(6b)「本発明においてロータリーキルンを用いるのは、特に別個に造粒工程を設けることなく安価にパルプ廃滓の粒状体を確保し得るからであり、この装置を用いて独特の炭化処理を行うことが本発明の要諦である。ロータリーキルンへパルプ廃滓を装入する場合には、あらかじめパルプ廃滓を圧縮プレス処理によりケーキ状に形成して脱水したものを装入することが好ましい。このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ製錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(第2頁右上欄5行?左下欄5行)
(6c)「さらに本発明おいては、炭化、造粒処理したパルプ廃滓単味でも充分保温材として満足すべき性能を具備するものであるが、特に炭化物の微粉化をさけ比較的揃つた粒状物が得られかつ収率を向上させるために、パルプ廃滓にあらかじめ適量(0.5?3.0%)のバインダーを添加しておくことが有効である。バインダーとしては例えば水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどが挙げられ、」(第3頁左上欄1行?9行)
(6d)「第1表に本発明に係る保温材A、B、Cの成分と公知の焼籾および特開昭48-41924号の乾燥したパルプ廃滓から成る保温材の成分を示す。併せて各保温材の保湿性、体積収縮率、有害物質の発生および粉塵の発生について得られた実験結果を示す。
なお、本発明の保温材Aはロータリーキルンにて吹込み温度800℃および在炉時間25分、Bは700℃×40分、Cは900℃×30分でそれぞれ炭化、造粒処理して得たものである。」(第3頁左上欄15行?右上欄4行)
(6e)「


」(第3頁左下欄第1表)
(6f)「なお、第1表における水ガラスをバインダーとして添加した本発明の保温材Bは、保温材Aに比較して目的粒径物の収率は5%増加し、またでんぷんのりを添加した保温材CはAより3%程度増加したことが認められた。」(第4頁左上欄8?12行)

(ウ)刊行物3(甲第4号証)
(4a)「有機質原料として微生物性、植物性または動物性生体物質を含有する沈積物または塵芥を使用し、空気を遮断して徐々に転化温度を200?600℃に原料を加熱し、・・・有機質原料から高温加熱下に固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法。」(特許請求の範囲第1項)

(エ)刊行物4(甲第7号証)
(7a)「 回転加熱炉の出口近傍に、焼成物の排出量を調節する手段を設けたことを特徴とする間接加熱式回転加熱炉。」(特許請求の範囲の請求項1)
ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(摘記(3d))とあり、ロータリキルンへ装入する前に、パルプ廃滓に予めベントナイトを添加することが記載されているといえる。そして、炭化処理として、「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。・・・実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(摘記(3e))との記載がある。
上記バインダとして記載されている成分の中で、水ガラス及びでんぷんのりは水溶性であり、ベントナイト、セメント及びトバモライトは、水に分散する物質である。そうすると、これらのバインダは、パルプ廃滓の脱水前に加えても脱水時に水とともに大部分が排除されてしまうので、バインダの添加時期はパルプ廃滓を圧搾プレス処理してケーキ状に脱水した後であり、かつ、ロータリキルンへ装入する前であることは明らかである。
そして、パルプ廃滓は出発原料といえるから、刊行物1には、
「パルプ廃滓を出発原料とし、該出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法。」
の発明(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されているということができる。

エ 本件訂正発明1と引用刊行物1発明との対比
本件訂正発明1と、引用刊行物1発明とを対比する。
刊行物1の「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。」(摘記(3b))との記載からみて、また、パルプ廃滓は繊維状物であるパルプから得られる廃棄物であるから、「可燃物」であるといえる。又は、出発原料であるパルプ廃滓が、水分を含む流動体であることを考慮したとしても、本件訂正明細書の段落【0024】には、「可燃物を含むものとは、燃える物と燃えない物が混ざった物で、燃えない物はガラス、・・・セラミック、水、等である。」と記載されており、本件訂正発明1の「該可燃物を含む材料」には水を含みうるから、該水分を含む流動体は、「可燃物を含む材料」であるといえる。
そうすると、後者の「パルプ廃滓」は、前者の「可燃物あるいは該可燃物を含む材料」に相当する。
次に刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。」(摘記(3d))との記載からみて、パルプ廃滓の脱水は、ロータリキルンへの投入の際のパルプ廃滓の水分調整を目的としているといえるから、後者の「該出発原料を脱水したもの」は、前者の「出発原料に水を・・・添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し」に相当する。
また、刊行物1の「バインダとしては、・・・ベントナイト、・・・などがある。」(摘記(3d))との記載からみて、ベントナイトは無機質粘結材であるといえ、パルプ廃滓を脱水したケーキ状のものにベントナイトのような無機質粘結材を添加させる場合には、予め混練することが添加の一態様としては通常のことであるから、後者の「出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し」は、前者の「出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して」に相当する。
そして、刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。」(摘記(3d))との記載からみて、原料は、投入口側で乾燥させ、排出口側で可燃物を炭化させているから、後者の「ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法」は、前者の「投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、・・・前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」に相当する。
以上のことから、本件訂正発明1と引用刊行物1発明とは、
「可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

(ア)本件訂正発明1においては、「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点1」という。)
(イ)本件訂正発明1においては、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点2」という。)
(ウ)本件訂正発明1においては、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点3」という。)
(エ)可燃物を炭化させる工程が、本件訂正発明1においては、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点4」という。)
(オ)可燃物が、本件訂正発明1においては、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点5」という。)

オ 相違点の検討
上記相違点のうち、まず、相違点1及び4について検討する。
上記知的財産高等裁判所判決は、本件訂正後の請求項1に記載された発明(本判決において、「本件訂正発明」という。)について、
「そうすると,本件訂正発明における「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」における「被覆」とは,原料の表面の一部分に無機質粘結材が存在する程度では足りず,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆うが,他方,原料に着火でき,原料のガス成分を燃焼できる程度を超えるほどには原料の表面を覆わないことを意味するものと解される。
これに対し,上記刊行物1の記載によれば,・・・引用発明は,脱水したパルプ廃滓の表面をベントナイト等で被覆しなくても酸化が抑制され炭化することができるものであり,本件訂正発明の上記炭化方法とは,その技術的意義を異にする。・・・
以上によれば,相違点1及び4は実質的な相違点とはいえないとして,本件訂正発明は,引用発明等から容易想到であるとした,審決の判断には誤りがある。」と判示する。
そして、上記判示事項は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件無効審判事件において当審を拘束する。
そうすると、相違点1及び4に係る構成に至ることが刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たことであるということはできないし、その他に相違点1及び4に係る構成に至ることが当業者が容易になし得たことと認めるに足りる証拠もない。
よって、上記相違点1及び4に係る構成は、本件特許出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、相違点1及び4に係る構成を有することによって、「可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。」(本件訂正明細書段落【0026】)という顕著な効果を奏するものと認められる。
よって、上記相違点1及び4の他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3によっては、本件訂正発明1についての特許を無効にすることはできない。

第6 むすび
よって、無効審判請求人の主張する無効理由1?3のいずれによっても本件訂正発明1についての特許を無効にすることはできない。
また、他に本件訂正発明1についての特許を無効とすべき理由は見当たらない。
審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
----------------------------------(参考)本件特許無効審判事件の平成23年 9月13日付け審決


審決
無効2009-800227
京都府京都市中京区竹屋町通り堺町東入る絹屋町117番地の4
請求人 株式会社 カーボテック
京都府京都市下京区東洞院通四条下ル元悪王子町37番地 豊元四条烏丸ビル
代理人弁理士 特許業務法人京都国際特許事務所
長野県長野市若里1丁目10番19号
被請求人 株式会社 ナカタ
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 綿貫 隆夫
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商事務所
代理人弁理士 堀米 和春
長野市中御所3-12-9 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 傳田 正彦
長野県長野市篠ノ井御幣川753番地
被請求人 株式会社 安田製作所
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 綿貫 隆夫
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商事務所
代理人弁理士 堀米 和春
長野市中御所3-12-9 クリエイセンタービル 綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 傳田 正彦

上記当事者間の特許第3364065号「炭化方法」の特許無効審判事件についてされた平成22年10月27日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成22年(行ケ)第10378号平成23年3月18日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結 論
請求項1に係る訂正を認める。
特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
審判の総費用は、これを3分し、その1を請求人の負担とし、その2を被請求人らの負担とする。
理 由

第1 手続の経緯
1 平成7年9月29日に、名称を「炭化方法」とする発明について特許出願(特願平7-252462号)がされ、平成14年10月25日に、特許第3364065号として設定登録を受けた(請求項の数7。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書、特許請求の範囲及び図面を「本件特許明細書」といい、特許権者である株式会社ナカタ及び株式会社安田製作所を「被請求人ら」という。)。
本件特許について、株式会社カーボテック(以下、「請求人」という。)から、本件無効審判の請求がされた。一次審決までの手続の経緯は、以下のとおりである。

平成21年10月30日 審判請求書・甲第1?8号証提出
(平成21年11月2日差出)
平成22年 2月 1日 答弁書・乙第1号証提出、訂正請求書
(被請求人ら)
平成22年 3月17日 弁駁書・甲第9?10号証提出(請求人)
平成22年 6月 8日 口頭審理陳述要領書
・甲第11?15号証提出(請求人)
平成22年 6月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人ら)
平成22年 6月 8日 口頭審理
平成22年 7月16日付け 訂正拒絶理由通知書、職権審理結果通知書
平成22年 8月19日 訂正拒絶理由通知に対する意見書
(平成22年8月20日受付) ・乙第2?10号証提出(被請求人ら)
平成22年10月27日付け 一次審決
(この審決の最後に(参考)として添付)

2 これに対し、平成22年12月4日に、被請求人らから、平成22年10月27日にした審決の取り消しを求め、知的財産高等裁判所に訴えが提起され、平成23年3月3日に訂正審判(訂正2011-390025号、その後特許法第134条の3第4項の規定によりみなし取下げ)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定により、「特許庁が無効2009-800227号事件について平成22年10月27日にした審決中『特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。』との部分を取り消す。」との決定(平成22年(行ケ)第10378号、平成23年3月18日決定)がされ確定した。

3 ここで、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項3に係る訂正、及び、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0007】の訂正について、並びに、「特許第3364065号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決部分については、平成22年12月8日(出訴期間経過時)に確定した(当該請求項3に係る発明に対する審決部分は、この審決の最後の(参考)を参照のこと)。
また、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正において、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項2、4、5(請求項2ないし4の訂正に起因するもの)、6及び7に係る訂正、並びに、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0006】、【0008】の訂正については、一次審決の送達により形式的に確定した。

4 当審は、審理再開にあたり、平成23年4月14日付けで、被請求人らに対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたところ、平成23年4月26日に訂正請求書が提出され、平成23年6月9日(平成23年6月10日差出)に請求人から弁駁書(甲第16号証)が提出された。そして、平成23年6月23日付けの訂正拒絶理由通知に対し、平成23年7月7日に被請求人らから訂正拒絶理由に対する意見書(乙第11?21号証)が提出された。
なお、平成22年2月1日付けの訂正請求において、上記3で確定した訂正を除く訂正の請求、すなわち、特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項1に係る訂正の請求、及び、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0005】、【0026】の訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 平成23年4月26日付けの訂正請求の適否について
1 平成23年4月26日付けの訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の要旨は、「特許第3364065号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求める。」というものである。

2 訂正の基準となる明細書について
本件特許については、上記第1の3のとおり、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正の一部が確定しており、上記第1の4のとおり、該確定した訂正を除く平成22年2月1日付けの訂正の請求は、本件訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす。
したがって、本件訂正の請求に際し、基準となる明細書は、平成22年2月1日付けの訂正請求により、請求項2?4、5(請求項2ないし4の訂正に起因するもの)、6及び7に係る訂正、並びに、発明の詳細な説明についてする訂正のうち、特許明細書の段落【0006】?【0008】の訂正がされた特許明細書(以下、「本件基準明細書」という。)ということになる。

3 訂正の内容
本件訂正の請求は、本件基準明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について、以下に示す訂正を求めるものである。ここで、本件訂正の請求書において、特許請求の範囲についての訂正事項である【訂正1】〔a〕?〔g〕を、以下、それぞれ「訂正事項1a」?「訂正事項1g」と表し、発明の詳細な説明についての訂正事項である【訂正2】〔a〕?〔k〕を、以下、それぞれ「訂正事項2a」?「訂正事項2k」と表す(なお、本件訂正の請求書においては、発明の詳細な説明の訂正箇所を特許公報の該当頁及び行で示しているが、上記2のとおり、本件基準明細書の記載内容は、特許公報(すなわち、本件特許明細書)の記載内容とは異なるので、この審決においては訂正箇所を本件基準明細書の段落番号で表すこととする。)。

(1)訂正事項1a
請求項1において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(2)訂正事項1b
請求項1において、「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(3)訂正事項1c
請求項1において、「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(4)訂正事項1d
請求項1において、「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(5)訂正事項1e
請求項2において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(6)訂正事項1f
請求項3において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(7)訂正事項1g
請求項4において、「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(8)訂正事項2a
本件基準明細書の段落【0005】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(9)訂正事項2b
本件基準明細書の段落【0005】の「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(10)訂正事項2c
本件基準明細書の段落【0005】の「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(11)訂正事項2d
本件基準明細書の段落【0005】の「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(12)訂正事項2e
本件基準明細書の段落【0006】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(13)訂正事項2f
本件基準明細書の段落【0007】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(14)訂正事項2g
本件基準明細書の段落【0008】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(15)訂正事項2h
本件基準明細書の段落【0026】の「可燃物あるいは可燃物を含む」とある語を「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正する。
(16)訂正事項2i
本件基準明細書の段落【0026】の「反対方向から着火させ、」とある語を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(17)訂正事項2j
本件基準明細書の段落【0026】の「投入口側で乾燥させ」とある語を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(18)訂正事項2k
本件基準明細書の段落【0026】の「酸化を抑制しつつ」とある語を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。

4 本件訂正の請求についての当審の判断
当審は、上記訂正事項1a?1g及び2a?2kは、下記4-1のとおり、訂正の目的要件を満たすものであり、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないものと判断する。
ところで、本件の請求項2?7は、上記訂正事項1a?1gにより直接的に、又は請求項の引用により間接的に訂正の請求がされており、かつ、無効審判の請求がされていない請求項であるから(なお、請求項3も「審判請求は、成り立たない」との一次審決が確定しているので、この審決においては、無効審判の請求がされていない請求項に該当する。)、請求項2?7に係る訂正が特許請求の範囲の減縮若しくは誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正であるときには、これらの訂正が認められるには、訂正後における上記各請求項に記載されている事項により特定される発明が独立特許要件を満たす必要がある。
そして、当審は、下記4-2(2)のとおり、請求項5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件訂正後における請求項5に記載されている事項により特定される発明が、請求人が提出した甲第3号証、甲第6号証に記載の各発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない、と判断する。
以下にその理由を示す。

4-1 各訂正事項についての訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、実質変更の有無について
(1)訂正事項1a、1e、1f及び1gについて
訂正事項1a、1e、1f及び1gは、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された「可燃物あるいは可燃物を含む」を、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む」と訂正するものであり、可燃物を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0024】における「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項1bについて
訂正事項1bは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「反対方向から着火させ、」を、「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正するものであり、着火させる対象を原料のガス成分であると特定し、このガス成分を燃焼させることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】における「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、」との記載や、同段落【0013】における「原料の主にガス成分を燃焼させる。」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項1cについて
訂正事項1cは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「投入口側で乾燥させ」を、「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正するものであり、乾燥させる対象を原料に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】における「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項1dについて
訂正事項1dは、特許請求の範囲の請求項1に記載された「酸化を抑制しつつ」を、「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正するものであり、酸化を抑制させる対象を可燃物に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、該訂正は、本件基準明細書の発明の詳細な説明の段落【0021】における「原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、」との記載に基づくものであるから、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項2a、2e、2f、2g及び2hについて
訂正事項2a、2e、2f、2g及び2hの各訂正は、訂正事項1a、1e、1f及び1gに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項2b及び2iについて
訂正事項2b及び2iの各訂正は、訂正事項1bに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項2c及び2jについて
訂正事項2c及び2jの各訂正は、訂正事項1cに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項2d及び2kについて
訂正事項2d及び2kの各訂正は、訂正事項1dに伴い、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載を整えるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件基準明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1a?1g及び2a?2kについては、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件を満たすものである。

4-2 独立特許要件について
(1)訂正後の本件特許発明
本件訂正による訂正後の明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項2】 木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項3】 木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項4】 木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項5】 前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の炭化方法。
【請求項6】 前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする請求項5記載の炭化方法。
【請求項7】 前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いることを特徴とする請求項5または6記載の炭化方法。」

(2)本件訂正発明5の独立特許要件について
ア 本件訂正発明5の内容について
上記(1)のとおり、本件の特許請求の範囲の請求項5は、請求項1?4を択一的に引用した従属請求項であり、本件訂正の請求がされた請求項1?4を引用することにより、間接的に本件訂正の請求がされているといえる。
ここで、本件訂正発明5は、本件訂正発明1?4を引用する部分を書き下すと、以下のようになる((i)?(iv)の符号は当審において付加したものであり、それぞれ本件訂正発明1?4の引用部分に対応する。)。
「(i)木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
(ii)木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
(iii)木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、又は、
(iv)木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法において、
前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法。」

イ 引用刊行物の記載事項
本件特許に係る出願前に頒布された下記各刊行物には、以下の事項が記載されている。
(ア)特開昭51-148701号公報(無効審判請求人が提出した甲第3号証。以下、「刊行物1」という。)

(3a)「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用したことを特徴とする豆炭、煉炭等の固形燃料。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。
本発明の目的は、ヘドロ公害の源としてその処理に困難をきわめている製紙工場のパルプ廃滓の無公害化処理、特に有効的な2次利用を兼ねた工業的処理を行うことである。」(第1頁左欄9行?15行)
(3c)「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(第1頁右欄1行?6行)
(3d)「パルプ廃滓の炭化処理にロータリキルンを使用する理由は、特別に造粒工程を設けないでも、安価にパルプ廃滓の炭化した粒状体が得られることにある。
パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(第1頁右欄12行?第2頁右上欄1行)
(3e)「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。
実施例1は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を900℃とし、炉内滞留時間を120分に設定した条件下で炭化処理した場合である。
実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。
実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(第2頁右上欄2行?13行)
(3f)「それぞれの結果は以下の表-1、表-2の通りである。表-1は炭化物の組成を表わし、表-2は炭化物の粒度を示している。





」(第2頁右上欄14行?末行、左下欄表-1、表-2)

(イ)特開昭51-26627号公報(無効審判請求人が提出した甲第6号証。以下、「刊行物2」という。)

(6a)「ロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化したパルプ廃滓を主成分とする断熱性溶鋼湯面被覆保温材。」(特許請求の範囲)
(6b)「本発明においてロータリーキルンを用いるのは、特に別個に造粒工程を設けることなく安価にパルプ廃滓の粒状体を確保し得るからであり、この装置を用いて独特の炭化処理を行うことが本発明の要諦である。ロータリーキルンへパルプ廃滓を装入する場合には、あらかじめパルプ廃滓を圧縮プレス処理によりケーキ状に形成して脱水したものを装入することが好ましい。このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ製錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(第2頁右上欄5行?左下欄5行)
(6c)「さらに本発明おいては、炭化、造粒処理したパルプ廃滓単味でも充分保温材として満足すべき性能を具備するものであるが、特に炭化物の微粉化をさけ比較的揃つた粒状物が得られかつ収率を向上させるために、パルプ廃滓にあらかじめ適量(0.5?3.0%)のバインダーを添加しておくことが有効である。バインダーとしては例えば水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどが挙げられ、」(第3頁左上欄1行?9行)
(6d)「第1表に本発明に係る保温材A、B、Cの成分と公知の焼籾および特開昭48-41924号の乾燥したパルプ廃滓から成る保温材の成分を示す。併せて各保温材の保湿性、体積収縮率、有害物質の発生および粉塵の発生について得られた実験結果を示す。
なお、本発明の保温材Aはロータリーキルンにて吹込み温度800℃および在炉時間25分、Bは700℃×40分、Cは900℃×30分でそれぞれ炭化、造粒処理して得たものである。」(第3頁左上欄15行?右上欄4行)
(6e)「


」(第3頁左下欄第1表)
(6f)「なお、第1表における水ガラスをバインダーとして添加した本発明の保温材Bは、保温材Aに比較して目的粒径物の収率は5%増加し、またでんぷんのりを添加した保温材CはAより3%程度増加したことが認められた。」(第4頁左上欄8?12行)

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(摘記(3d))とあり、ロータリキルンへ装入する前に、パルプ廃滓に予めベントナイトを添加することが記載されているといえる。そして、炭化処理として、「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。・・・実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(摘記(3e))との記載がある。
上記バインダとして記載されている成分の中で、水ガラス及びでんぷんのりは水溶性であり、ベントナイト、セメント及びトバモライトは、水に分散する物質である。そうすると、これらのバインダは、パルプ廃滓の脱水前に加えても脱水時に水とともに大部分が排除されてしまうので、バインダの添加時期はパルプ廃滓を圧搾プレス処理してケーキ状に脱水した後であり、かつ、ロータリキルンへ装入する前であることは明らかである。
そして、パルプ廃滓は出発原料といえるから、刊行物1には、
「パルプ廃滓を出発原料とし、該出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法。」
の発明(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されているということができる。

エ 本件訂正発明5と引用刊行物1発明との対比
本件訂正発明5(上記(i)の炭化方法における)と、引用刊行物1発明とを対比する。
刊行物1の「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。」(摘記(3b))との記載からみて、また、パルプ廃滓は繊維状物であるパルプから得られる廃棄物であるから、「可燃物」であるといえる。又は、出発原料であるパルプ廃滓が、水分を含む流動体であることを考慮したとしても、本件訂正明細書の段落【0024】には、「可燃物を含むものとは、燃える物と燃えない物が混ざった物で、燃えない物はガラス、・・・セラミック、水、等である。」と記載されており、本件訂正発明5の「該可燃物を含む材料」には水を含みうるから、該水分を含む流動体は、「可燃物を含む材料」であるといえる。
そうすると、後者の「パルプ廃滓」は、前者の「可燃物あるいは該可燃物を含む材料」に相当する。
次に刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。」(摘記(3d))との記載からみて、パルプ廃滓の脱水は、ロータリキルンへの投入の際のパルプ廃滓の水分調整を目的としているといえるから、後者の「該出発原料を脱水したもの」は、前者の「出発原料に水を・・・添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し」に相当する。
また、刊行物1の「バインダとしては、・・・ベントナイト、・・・などがある。」(摘記(3d))との記載からみて、ベントナイトは無機質粘結材であるといえ、パルプ廃滓を脱水したケーキ状のものにベントナイトのような無機質粘結材を添加させる場合には、予め混練することが添加の一態様としては通常のことであるから、後者の「出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し」は、前者の「出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して」に相当する。
そして、刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。」(摘記(3d))との記載からみて、原料は、投入口側で乾燥させ、排出口側で可燃物を炭化させているから、後者の「ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法」は、前者の「投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、・・・前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」に相当する。
以上のことから、本件訂正発明5と引用刊行物1発明とは、
「可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
の点で一致し、次の点で相違するということができる。

(ア)本件訂正発明5においては、「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点1」という。)
(イ)本件訂正発明5においては、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点2」という。)
(ウ)本件訂正発明5においては、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点3」という。)
(エ)可燃物を炭化させる工程が、本件訂正発明5においては、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点4」という。
(オ)可燃物が、本件訂正発明5においては、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点5」という。)
(カ)本件訂正発明5においては、「炭化炉での焼成温度が700℃?800℃である」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点6」という。)

オ 検討
(ア)相違点1及び相違点4について
本件訂正発明5の「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」における「被覆」とは、「前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」及び「原料のガス成分に着火および燃焼させ」との特定事項からみて、
「被覆されることによって、炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていることが必要である反面、原料のガス成分に着火および燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを意味するもの」
と解される。
この点を考慮して、引用刊行物1発明について検討する。
刊行物1には、「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。」(摘記(3d))とあり、パルプ廃滓そのものはドロドロの流動体であっても脱水したパルプ廃滓は、ケーキ状であり、一定の形状を保持できる程度には、水分が減少したものである。
そうすると、引用刊行物1発明において、ケーキ状に脱水したパルプ廃滓にベントナイトを添加し、混練したものは、ベントナイトがバインダとして作用するとともに、脱水したパルプ廃滓の表面に一部存在しているといえる。
また、刊行物1の摘記(3f)には、バインダを用いない実施例1に比べ、水ガラスという無機質のバインダを用いた実施例2の方が、残存炭素量割合が多く、灰分割合が少ない、すなわち、炭化物の収率が良い、という結果が得られている。このことは、刊行物1で引用する「特願昭49-98426号」(摘記(3c))に係る出願の公開公報である特開昭51-26627号公報(刊行物2)の記載からも裏付けられる。その刊行物2には、同様にパルプ廃滓の脱水ケーキをロータリーキルンにて炭化処理する方法(摘記(6a)、(6b))が記載されており、同様に、バインダとして水ガラス、ベントナイト等を用いることが記載されているところ(摘記(6c))、「第1表における水ガラスをバインダーとして添加した本発明の保温材Bは、保温材A(当審注:バインダーを使用していない。)に比較して目的粒径物の収率は5%増加・・・したことが認められた」(摘記(6f))と記載されている。すると、刊行物1の残存炭素量割合が多く、灰分割合が少ないという結果は、炭化物の収率が良いことを示していることが明らかである。
そして、ベントナイトも水ガラスと同じく無機質のバインダであるから、刊行物1には、水ガラスやベントナイト等の無機質のバインダが表面に一部存在するケーキ状に脱水したパルプ廃滓が、炭化物の収率が良い、すなわち、水ガラスやベントナイト等の無機質のバインダがパルプ廃滓の表面に一部存在していることにより、酸化を抑制しつつ焼成することが記載されているといえる。
他方、刊行物1の「表-1」(摘記(3f))によると、引用刊行物1発明の炭化方法においては、灰分、すなわち、燃焼して灰となったものが存在しているから、実質的に酸素が供給された状態であるといえるので、そのような状態において、水ガラスやベントナイト等の無機質のバインダがパルプ廃滓の表面に一部存在していることにより、酸化を抑制しつつ焼成されているということは、「炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っている反面、原料のガス成分に着火および燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在する」ものであるということができる。
そうしてみると、刊行物1における「一部存在」は、本件訂正発明5における「被覆」に該当するということができる。
したがって、本件訂正発明5の「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」(相違点1)は実質的な相違点ではなく、また、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」(相違点4)についても実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について
刊行物1には、「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓」(摘記(3a))と記載されている。
ロータリキルン(ロータリーキルンともいう。)とは、「内部装入物を転動によって軸方向に移動させ、ガスとの熱交換によって加熱する、傾斜した回転円筒形の装置。」又は「一方から原料を挿入して、他方から製品を連続的に取り出すこう配をつけた円筒状回転炉。」(「JIS工業用語大辞典」第3版(財団法人日本規格協会、1991年11月20日発行、第3版第1刷、1980頁参照)(請求人の提出した甲第15号証))であり、引用刊行物1発明は、ロータリキルンで炭化処理するのであるから、引用刊行物1発明の炭化方法は、「原料を、・・・筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送」るものである。
そして、引用刊行物1発明は、「熱風吹込温度」が特定されているように、熱風を吹き込んでパルプ廃滓を炭化させるものであるところ、刊行物1には、「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリーキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(摘記(3c))との記載があるので、該ロータリキルンとして、「特願昭49-98426号」の公開公報である刊行物2のロータリーキルンを用いることについても記載されているに等しい事項であるといえる。
ここで、刊行物2には、「ロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化したパルプ廃滓を主成分とする断熱性溶鋼湯面被覆保温材。」(摘記(6a))とあり、パルプ廃滓をロータリーキルンで炭化処理するものであって、同刊行物にはロータリーキルンについて、「このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ製錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(摘記(6b))との記載があり、パルプ廃滓の炭化処理に使用されるロータリーキルンが、燃焼方式がC重油直燃向流型であって、通常広くセメント工業等に使用されている形式のものであることが記載されている。
セメント工業に使用されている形式のロータリーキルンについては、請求人の提出した甲第14号証(フリー百科事典「Wikipedia」([online],平成22年5月21日検索、インターネットURL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%83%B3))に次の記載がある。
「セメント製造に使用されるロータリーキルンの構造を下に示す。



現在セメント工場で一般に使用されているロータリーキルンは、直径4?6m、長さ60?100m、傾斜3?4%、回転数2?4rpm、内部の温度は右端の入り口で400℃、図でFlameと示されている部分の最高温度は1、450℃に達する。燃料は重油やガスが使用される。キルン内では原料はゆっくり回転しながら徐々に送られる。セメント製造の場合約30分滞留している。」
上記記載からみて、このセメント製造に一般に使用されるロータリーキルンは、大気に開放された筒状の炉部を有する炉である。
甲第14号証は、本件特許に係る出願前公知のものであるか否か不明であるが、セメント製造に使用されるロータリーキルンが大気に開放された筒状の炉部を有する炉であることは周知事項である。
例えば、本件特許に係る出願前に頒布された特開平6-66480号公報には、「セメントロータリーキルンは、燃焼バーナーにより形成した高温の火炎によりセメント原料を焼成してクリンカーを生成するための設備として知られており、その一例の構成は図7により示される。この図7は、サスペンションプレヒータ(SP)方式のセメントロータリーキルンの構成概要を示すものであり、これを簡単に説明すると、軸回りに回転される直径数mに及ぶ筒状のロータリーキルン50に対して、その一端部51からSP53で予熱したセメント原料を供給しながら、キルンの終端部52側から燃焼バーナー54により吹き込んだ高温の火炎で原料を焼成してクリンカーを生成させ、生成したクリンカーは、キルン終端部52からクリンカークーラー55に落し、多孔板(図示せず)の上を移送させながら下部から送風される冷却風で冷却するようになっている。」(段落【0002】)との記載があり、図7として以下の記載がある。



また、同じく特開平6-347173号公報には、「従来より、セメントクリンカの焼成や、コンクリート用の軽量骨材を焼成するためにロータリーキルンが用いられている。」(段落【0002】)及び「また、上記装置においては、キルン1の窯前フード9に設けた開口10に、エア噴出装置11によりエアカーテンAを形成した状態で該開口10より赤外線カメラ19によってキルン1内の焼成帯域を撮影することとなり、該開口10に形成した上記エアカーテンAが、熱風、或いは粉塵の該開口10からの噴出を阻止しる作用を果たし、赤外線カメラ19を保護すると共に、該エアカーテンAは固体である耐熱ガラス等に比べて密度が小さく、また汚れることはないためキルン1内の焼成帯域から放射される赤外線を吸収、或いは反射させる作用が少なく、赤外線カメラ19によって感知する赤外線量は真値に近いものとなり、正確な焼成帯域の温度分布状態を長期間に亘って監視し得る装置となる。」(段落【0022】)との記載があり、図1として次の記載がある。


そうしてみると、引用刊行物1発明の炭化方法におけるロータリキルンは、「原料を、筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送」るものであり、このロータリキルンとして、大気に開放された筒状の炉部を有する炉が周知事項であり、この種のロータリキルンには、慣用的に用いられるものと認められる。
したがって、引用刊行物1発明において、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」とすることは当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)相違点3について
刊行物1には、「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓」(摘記(3a))と記載され、「炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。」(摘記(3d))とあり、パルプ廃滓の脱水ケーキを炭化する際に熱風を吹込むことが記載され、上記(イ)で述べたとおり、該ロータリキルンとして、刊行物1が引用する「特願昭49-98426号」(摘記(3c))の公開公報である刊行物2のロータリーキルンを用いることについても記載されているに等しい事項であるといえるところ、その刊行物2には、ロータリーキルンは通常広くセメント工業等に使用されている形式のものとほとんど同様であり、燃焼方式がC重油直燃向流型であることが記載されているので(摘記(6b))、熱風吹込みは「向流」型、すなわち、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む形式であると認められる。
しかも、セメント工業に使用されている形式のロータリーキルンについては、請求人の提出した甲第14号証に上記(イ)における記載事項が記載されており、図の説明の欄に「セメント製造に使われるロータリーキルンの構造、あらかじめ粉砕された原料が右上から入り、焼成されて左下に出てくる」及び図で「Flame」で示される炎の方向が左下から右上に向かっていることからして、この炉は、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む炉であると認められる。
甲第14号証は、本件特許に係る出願前公知のものであるか否か不明であるが、セメント製造に使用されるロータリーキルンについては、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む炉は周知事項である。
例えば、本件特許に係る出願前に頒布された特開平6-66480号公報には、上記(イ)における記載事項が記載されており、「その一端部51からSP53で予熱したセメント原料を供給しながら、キルンの終端部52側から燃焼バーナー54により吹き込んだ高温の火炎で原料を焼成してクリンカーを生成させ、」との記載からみて、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込むものである。
また、同じく特開平6-347173号公報には、「従来より、セメントクリンカの焼成や、コンクリート用の軽量骨材を焼成するためにロータリーキルンが用いられている。」(段落【0002】)及び「以下、本発明にかかる上記焼成炉の焼成帯域監視方法を実現し得る一実施例装置を、図1?図2に従って詳細に説明する。図において、1はロータリーキルンであり、該ロータリーキルン1は、円筒状をした数十メートルの胴部2を有している。該胴部2は、若干傾斜した状態で回転支持ローラー3上に載置され、回転駆動装置4により回転させられる。胴部2の上端開口部5には、原料投入用のシューター6が挿入され、胴部2の下端開口部7には、石炭及び石油等の燃料を燃焼させる燃焼バーナ8が挿入されている。」(段落【0015】?【0016】)との記載があり、「原料投入用のシューター6が挿入され、胴部2の下端開口部7には、石炭及び石油等の燃料を燃焼させる燃焼バーナ8が挿入されている。」との記載からみて、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込むものである。
そうすると、セメント工業において原料を焼成する際に原料の送り方向とは反対方向から熱風を吹き込むことは周知事項であると認められる。
以上のとおり、刊行物1が引用する刊行物2には、通常広くセメント工業等に用いられる形式のロータリーキルンを用いること、このロータリーキルンの燃焼方式がC重油直燃向流型であることが記載されており、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む形式であると認められ、しかも、セメント工業において原料を焼成する際に原料の送り方向とは反対方向から熱風を吹き込むことは周知事項であると認められる。
また、刊行物2における「なお、本発明の保温材Aはロータリーキルンにて吹込み温度800℃および在炉時間25分、Bは700℃×40分、Cは900℃×30分でそれぞれ炭化、造粒処理して得たものである。」(摘記(6d))との記載からみて、当該温度で行う刊行物2における炭化処理においては、原料そのものが着火するより先に、原料であるパルプ廃滓が熱分解され、生成した分解生成ガスが着火、燃焼するのが通常であるから(信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)の1頁18?22行「分解燃焼 蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料では、蒸発の前に燃料の熱分解が生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)中の可燃性ガス成分が、気相中で酸素と燃焼反応を生じることにより火炎が形成される。」(被請求人らが提出した乙第1号証)、及び、「機械工学基礎講座 燃焼工学 -基礎と応用-」(理工学社、2008年2月28日発行、第1版第16刷の107頁17行?108頁2行「分解燃焼は、分解温度が沸点よりも低い高分子の固体燃料が気相中に火炎をともなって燃焼する場合に観察される燃焼形態である.この燃焼では燃料の熱分解が蒸発の前に生じ、発生した分解生成ガス(・・・可燃性ガスと、・・・不燃性ガスの混合気)が、気相中で酸素と反応することによって火炎が形成される.」(請求人が提出した甲第12号証)を参照)、原料のガス成分が着火及び燃焼することは明らかである。
そうしてみると、引用刊行物1発明の炭化方法におけるロータリキルンは、刊行物1が引用する刊行物2に記載されているように、熱風吹込みは「向流」型、すなわち、「原料の送り方向とは反対方向から」、熱風を送り込む形式であって、「原料のガス成分を着火及び燃焼させ」ることは明らかである。また、刊行物1及び2に「原料の送り方向とは反対方向から」との明示の記載がなくとも、刊行物2に記載されたロータリーキルンが、通常広くセメント工業等に使用されている形式と同様のものであり、セメント製造に一般に使用されるロータリーキルンといえば、原料の送り方向とは反対方向から熱風を吹き込むものであることから、「原料の送り方向とは反対方向から」と特定することは当業者が適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、相違点3は実質的な相違点であるとはいえないか、又は、引用刊行物1発明において、刊行物1が引用する刊行物2及び周知事項を考慮して、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とすることは当業者が適宜なし得ることである。

(エ)相違点5について
本件訂正発明5の「・・等の粒状の固体からなる」は、本件訂正明細書の段落【0024】の記載からみて「可燃物」にかかる語であることが明らかである。
そして、該「粒状の固体」とは、本件訂正明細書の段落【0024】に「コーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物」と記載されており、片状等の形状を含み得ることから、特に球状等の特定形状を呈することを意味するのではなく、本件訂正明細書の段落【0010】において、「なお、原料は、炉部10内で送り易いように、粒状であるとよい」と記載されているように、固体であって、炭化炉において、送りやすい程度のあまり大きくないものを意味すると認められる。
他方、引用刊行物1発明の「パルプ廃滓」は、繊維状物であるパルプから得られる廃棄物であるから、固体であるといえ、「ロータリキルンにて炭化処理」(摘示(3a))される程度の大きさであるから、炭化炉において、送りやすい程度のあまり大きくないものであるといえる。
そうしてみると、引用刊行物1発明の「パルプ廃滓」は、本件訂正発明5の「粒状の固体からなる可燃物」に相当するといえる。
また、刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入する」(摘記(3d))との記載から、出発原料であるパルプ廃滓が、パルプから得られる廃棄物だけでなく、水分をも含む流動体であることを考慮したとしても、少なくとも、本件訂正発明5の「粒状の固体からなる可燃物を含む材料」に相当するといえる。
そして、本件訂正発明5の「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等」は単なる例示に過ぎず、これらに限定されるものではない。
したがって、本件訂正発明5の可燃物が「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる」点(相違点5)は実質的な相違点であるとはいえない。

(オ)相違点6について
引用刊行物1発明においては、パルプ廃滓を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入して、熱風吹込温度を700℃又は800℃として炭化処理することは特定されているが、炭化炉での焼成温度については明確ではない。しかしながら、黒炭の乾留温度は、970?1070K(697?797℃)であり(「機械工学基礎講座 燃焼工学 -基礎と応用-」(理工学社、2008年2月28日発行、第1版第16刷、第21頁下から13行?12行参照(請求人が提出した甲第12号証))、黒炭は、木材を乾留して製造するものであるところ、パルプ廃滓も木材を原料とするものであり、木材の乾留温度については、木材の種類により大きく変動するものでないことは、当業者の技術常識であるから、パルプ廃滓の乾留温度も同程度であると認められる。
そうすると、熱風吹込温度を700℃又は800℃とすることにより、その吹き込み温度ではパルプ廃滓が焼成するのであるから、炭化炉での焼成温度と熱風吹込温度と大きく異なるものとは認められない。
したがって、「炭化炉での焼成温度が700℃?800℃である」とすることは、引用刊行物1発明に基づいて当業者が容易になし得ることである。

(カ)発明の効果について
本件訂正発明5の効果は、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。」(本件訂正明細書の段落【0026】)というものである。
しかしながら、上記(ア)で述べたように、引用刊行物1発明も実質的に無機質粘結剤であるベントナイトが可燃物であるパルプ廃滓の表面を被覆していることにより、パルプ廃滓の酸化を抑制しつつ焼成して、炭化物の収率が良いという効果、すなわち、可燃物を好適に炭化させることができるという作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正発明5が格別の作用効果を奏するものであるとすることはできない。

(キ)まとめ
よって、本件訂正後の請求項5に係る発明(本件訂正発明5)は、請求人が提出した甲第3号証(刊行物1)、甲第6号証(刊行物2)に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(ク)被請求人らの主張について
(ク-1)被請求人らは、平成23年7月7日付けの訂正拒絶理由通知に対する意見書(以下、単に「意見書」という。)において、概略以下の主張をしている。
(i)刊行物1における炭化物について
「訂正拒絶理由書・・・において、『ベントナイトも水ガラスと同じく無機質のバインダであるから、刊行物1には、水ガラスやベントナイト等の無機質のバインダがパルプ廃滓の表面を一部被覆することにより、炭化物の収率が良い、すなわち、酸化を抑制しつつ焼成することが記載されている。』と認定しているが、この点については次のような理由により、誤りがある。」(意見書3頁1行?6行)
(i-1)理由1
刊行物1の実施例において、「無機物である水ガラスよりも有機物であるでんぷんのりのほうが炭化の収率が高いという記載になって」いるところ、「無機物における『一部被覆』効果による酸化抑制効果による炭化ということであれば、可燃物である有機物のでんぷんのりをバインダとしていれた場合は、炭化の収率が悪くなることになるが、刊行物1ではそのような事実は記載されていない。」(意見書3頁7行?20行)
「したがって、刊行物1の各実施例に基づいて、無機質粘結材の『一部被覆』効果による酸化抑制効果による炭化について記載されているということは、認められない。」(意見書3頁下から1行?4頁2行)
(i-2)理由2
「刊行物1に記載された、何も入れない実施例1(炭素率35%)と比較して、水ガラスを入れた実施例2(炭素率43%)、でんぷんのりを入れた実施例3(炭素率45%)のほうが、なぜ炭化物の収率が高いかについては、刊行物1・・・に『炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に対して予め0.5?3%程度バインダを添加すると有効的である。』と記載されているとおり、微粉化を避ける目的で、バインダを入れ、造粒(つまり成型し粒経を大きくする)効果により炭化物の収率を上げているのである。」(意見書4頁3?11行)
「刊行物1では、微粉化を防ぐことにより炭化物の効率を上げることしか記載されていないことは明確であり、無機物の一部被覆により酸化抑制効果を果たしている内容は一切記載されていないのである。」(意見書4頁下から5行?3行)

(ii)「粒状の固体」について
「本件訂正発明5において、出発原料を『粒状の固体』(当審注:意見書では括弧の始まりがないが、文意から補って記す。)に限定したのは、その後に続く、『被覆』における状態について、刊行物1と比較して、その差異を明確にするためである。
刊行物1では、パルプ廃滓が、キルン投入前に『脱水したケーキ状』のものであり、・・・ベントナイトはバインダとして利用されることから、いわゆる「練り込まれる」状態になることは明らかである。」(意見書5頁下から11行?5行)
「これに対して、本件訂正発明5は、出発原料が『粒状の固体』に限定されているので、これにベントナイトを混入したとしても、表面に被覆されることはあっても、バインダとして原料内部に『練り込まれる』状態にならないことは明らかである。
このように、本件訂正発明5は、出発原料を『粒状の固体』に限定することでその後に続く、『被覆』の状態を明確にすること、つまり、本件訂正発明5では、あくまで『被覆』する目的でベントナイトを添加すること明確にすることで、バインダとして『練り込まれる』状態の刊行物1との差異を明らかにしたものである。」(意見書6頁5?13行)
「『訂正拒絶理由通知書』では、『パルプ廃滓』と『粒状の固体からなる可燃物』との比較しかされておらず、この出発原料が後に続く『被覆』する状態にどのような差異が生ずるかについては、考慮されていない。」(意見書8頁下から5行?3行)

(iii)粒状の固体が無機質粘結材で被覆された状態について
「本特許と刊行物1との差異を明確にするため、本特許でいう『被覆』した状態、つまり、『被覆されることによって、炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料を覆っていることが必要である反面、原料のガス成分に着火および燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを意味するもの』が実際にいかなる状態なのかを、・・・実験報告書(乙第11号証・・・)を引用して説明したい。」(意見書9頁4行?12行)
「以上から、木材チップの表面には、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトの結晶がみられ、チップ表面は、ベントナイトによって100%に近い割合で被覆されていることが認められる(乙第11号証・4頁)。
それとともに、図6のb)、c)から、鉱物粒子間には隙間が存在していることが分かる。・・・
したがって、その被覆の状態は、本件特許発明における原料の表面をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆することについて、『訂正拒絶理由通知』が判断した被覆の状態(・・・)を示していると言えるのである。
これが、まさに、本件訂正発明5でいうところの『被覆』の状態である。」(意見書10頁16行?11頁15行)
「バインダとして『点在』(一部被覆)する状態と、『被覆』の状態とは、その言葉のもつ意味からして、対極にある言葉(対義語)であり、明らかに異なること、そして、実際に『点在』(一部被覆)する状態には、酸化を抑制する効果がないことが刊行物1の実施例から明らかであり、『訂正拒絶理由通知』の判断には誤りがある。」(意見書14頁下から2行?15頁3行)
「無機質粘結材が『被覆』する状態と『点在』する状態では、炭化物の収率が異なる」(意見書16頁18行?19行)

(iv)本件訂正発明5によって生産された炭化物の性質について
「本件訂正発明5における『ベントナイトで被覆する』行為を行うと、その成果物として、必然的に、難燃性の炭化物が生成されるのである。
そうであるならば、ベントナイトで『被覆』されているかどうかは、その方法を実施した結果物である炭が、通常の燃える炭(表面燃焼する炭)か、燃えない炭(表面燃焼を防ぐ状態である難燃性の炭)かどうかで判断できることになると考えられる。」(意見書17頁下から5行?18頁1行)
「刊行物1では、発明の名称が『パルプ廃滓を利用した固形燃料』であり、・・・『・・完全燃焼するから無毒であり、・・』との記載がある。・・・ よって、刊行物1が完全燃焼するということは、不燃物であるベントナイトが被覆している状態でないことは明らかである。」(意見書18頁3行?16行)

(ク-2)上記(i)?(iv)の主張について検討する。
(i)について
(i-1)の主張については、刊行物1の無機物である水ガラス、ベントナイト等、と有機物であるでんぷんのりの収率向上効果が、いずれもバインダとしての機能に加え、それぞれ異なる他の機能も有していることによる可能性があるから、でんぷんのりを入れた実施例3のほうが、炭化物の収率が高いからといって、無機物である水ガラスやベントナイトの被覆による酸化抑制効果が否定されるものではない。例えば、被請求人らが、上記意見書22頁5?8行で、「水溶性糖類が加われば、炭化した際、糖類の炭素分も利用できるのである。つまり、原料の炭素収率に加え、糖類の炭素収率を加えることができるのであり、これをもって、効率がよいと表現したものである。」としているように、有機物については、無機物と違って、バインダとしての役割の他に、炭素分を利用できるという機能を有することもあるのである。
そして、(i-2)の主張については、上記(ア)で述べたように、引用刊行物1発明において、ケーキ状に脱水したパルプ廃滓にベントナイトを添加し、混練したものは、ベントナイトがバインダとして作用するとともに、脱水したパルプ廃滓の表面に一部存在しているといえ、また、刊行物1の実施例2及び刊行物2の実施例2に示されるように、無機物である水ガラス、ベントナイト等を用いた場合、バインダを用いない実施例1に比べ、残存炭素量が多く、灰分が少ない、すなわち、炭化物の収率が良い、という結果が得られており、これは酸化を抑制できたことにほかならない。そうすると、ベントナイトが表面に一部存在するケーキ状に脱水したパルプ廃滓が、酸化抑制効果を有するといえるのであるから、「被覆されることによって、炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていることが必要である反面、原料のガス成分に着火および燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを意味するもの」(上記(ア))と解されるところの本件訂正発明5の「被覆」に相当するといえるのである。
なお、刊行物1の表-2に示されるように、実施例1の粒度は、実施例2の粒度よりも1メッシュ以上のものが少なく、50?100メッシュ以上のものが多い割合になっているから、実施例1よりも実施例2の方が炭化物の収率が良いという結果が、「微粉化を避け、比較的そろった粒状物」となっていることのみによるものとは一概にはいえない。
したがって、被請求人らの上記(i)の主張は、当審の上記(キ)の判断を左右するものではない。

(ii)について
被請求人らは、「出発原料が『粒状の固体』に限定」されているとしている。
しかし、上記(エ)でも述べたように、「・・等の粒状の固体からなる」は、本件訂正明細書の段落【0024】の記載からみて「可燃物」にかかる語であることが明らかである。そして、「出発原料」はその後水分量を所要量に調整されるもの、つまり、水分を含んでいてよいものであり、また、「可燃物」だけでなく「該可燃物を含む材料」も「出発原料」としてよいのであるから、「可燃物」が「粒状の固体」からなるものであるからといって、「出発原料」が「粒状の固体」に限定されているとはいえない。
また、上記(ア)で述べたように、ケーキ状に脱水したパルプ廃滓にベントナイトを添加し、混練したものは、ベントナイトがバインダとして作用するとともに、脱水したパルプ廃滓の表面に一部存在しているといえ、上記(ア)の意味における「被覆」に相当するのであるから、「その後に続く、『被覆』の状態」においても実質的な差異があるとはいえない。
被請求人らは、「本件訂正発明5は、・・・ベントナイトを混入したとしても、・・・原料内部に『練り込まれる』状態にならない」と主張するが、上記(ア)の意味における「被覆」は、さらに内部に練り込まれているか否かを特定するものではないから、引用刊行物1発明が、ベントナイトが内部にも練り込まれている状態であったとしても、その点で差異があるということはできない。
したがって、被請求人らの上記(ii)の主張は、当審の上記(キ)の判断を左右するものではない。

(iii)について
被請求人らは、乙第11号証の実験報告書で示される、木材チップ表面が「ベントナイトによって100%に近い割合で被覆されている」ような状態が、「まさに、本件訂正発明5でいうところの『被覆』の状態である」と主張する。
しかしながら、本件訂正発明5でいう「被覆」は、上記(ア)の意味に合致するものであれば全て該当するのであり、一部存在か100%に近い被覆かということで、区別されるものではないから、上記「ベントナイトによって100%に近い割合で被覆されている」ような状態が、本件訂正発明5でいうところの「被覆」の一態様であるとしても、それに限定されるものではない。
そして、本件訂正明細書を参酌しても、ベントナイトの被覆について、「なお、原料に無機質粘結材を被覆するには、・・・単に混練すればよい。」(段落【0024】)と記載するのみであり、100%に近い割合で被覆されていることを被覆という、との定義がされているわけではなく、出発原料に対する添加割合などを規定する記載もない。
また、例えば、「ベントナイト・・・で被覆して、・・・炭化物に焼成すること」(甲第1号証の請求項1)が記載された、先願特許(特許権者・株式会社ナカタ技研)である甲第1号証の特許公報には、ベントナイトの添加量について、「被炭化材の1%程度の少量添加で酸化抑制効果が現れる。」(段落【0009】)と記載されているように、引用刊行物1発明のベントナイトの添加量が「0.5?3.0%程度」(摘記(3d))であり、一部存在ないしは点在の状態であることを根拠に、酸化を抑制する効果がないということはできない。のみならず、上記(ア)で述べたとおり、ベントナイトが表面に一部存在する引用刊行物1発明について、酸化を抑制する効果がみられるのであるから、その存在の程度や状態によって、炭化物の収率向上の程度に差があるとしても、酸化を抑制する効果が否定されることにはならない。
したがって、被請求人らの上記(iii)の主張は、当審の上記(キ)の判断を左右するものではない。

(iv)について
被請求人らは、「本件訂正発明5における『ベントナイトで被覆する』行為を行うと、その成果物として、必然的に、難燃性の炭化物が生成され」、「ベントナイトで『被覆』されているかどうかは、その方法を実施した結果物である炭が、通常の燃える炭(表面燃焼する炭)か、燃えない炭(表面燃焼を防ぐ状態である難燃性の炭)かどうかで判断できることになると考えられる」と主張する。
この主張は、(iii)における、「ベントナイトによって100%に近い割合で被覆されている」ような状態が、「まさに、本件訂正発明5でいうところの『被覆』の状態である」との主張を前提とするものであると認められる。
しかしながら、上記「(iii)について」で述べたとおり、「ベントナイトによって100%に近い割合で被覆されている」ような状態は、本件訂正発明5でいう「被覆」の一態様に過ぎないのであるから、その成果物が、「難燃性の炭化物」であったとしても、本件訂正発明5でいう「被覆」を行うによって、「必然的に難燃性の炭化物が生成される」といえるものではない。
また、本件訂正明細書を参酌しても、「必然的に難燃性の炭化物が生成される」ようなものであるかどうかについて何らの記載も示唆もない。
したがって、被請求人らの上記(iv)の主張は、当審の上記(キ)の判断を左右するものではない。
以上のとおり、被請求人らの上記意見書における主張は、いずれも採用することができず、当審の上記(キ)の判断を左右するものではない。

4-3 訂正の適否について
上記4-1のとおり、訂正事項1a?1g及び2a?2kについては、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項により準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件を満たすものであるから、無効審判請求がされている請求項1に係る訂正を認める。
次に、無効審判請求がされていない請求項2?7に係る訂正及び発明の詳細な説明の訂正について検討する。上記4-2のとおり、本件訂正後の請求項5に係る発明は、無効審判請求がされておらず、かつ、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないので、請求項5に係る訂正は認められない。
そして、無効審判請求の手続において、訂正請求がされている場合において、無効審判請求の対象とされていない請求項についての特許請求の範囲及び発明の詳細な説明又は図面の訂正については、一体不可分にその許否を判断すべきである。
そうすると、上記のとおり、請求項5に係る訂正が認められないので、無効審判請求がされていない請求項2?7に係る訂正及び発明の詳細な説明の訂正についても、一体的に訂正を認めることができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、平成23年4月26日付けの訂正請求については、請求項1に係る訂正を認める。

第3 本件審判請求の趣旨及びその理由
1 本件審判請求時の請求の趣旨及びその理由の概要
請求人は、「特許第3364065号の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との請求の趣旨により、本件審判の請求を行った。
そして、本件審判請求時の請求に係る理由は、特許請求の範囲の請求項1及び3に係る発明についての特許が、概略して下記(1)?(3)の理由により特許法第123条第1項第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものであるというものである。
(1)無効理由1
請求項1及び3に係る発明は、産業上利用することができる発明ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないものである。また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合するものではなく、特許請求の範囲の請求項1及び3の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、また、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
(2)無効理由2
請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の請求項1及び3に係る先願特許発明と同一であるから、特許法第39条第1項に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
(3)無効理由3
請求項1及び3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

2 本件審判請求の趣旨
上記第2で説示したとおり、本件訂正のうち「請求項1に係る訂正」は認めており、また上記第1の3で説示したとおり、平成22年2月1日付けの訂正請求による訂正後の請求項3に係る発明に対する審決は、平成22年12月8日(出訴期間経過時)に確定している。
その結果、本件審判請求の趣旨は、本件訂正による訂正後の「特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」であると認められる。

3 本件審判請求の理由
上記1及び2を踏まえると、本件で審理すべき審判請求人が主張する無効理由は、以下のとおりのものであると認められる。
(1)無効理由1
本件訂正による訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明1」という。)は、産業上利用することができる発明ではなく、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないものである。また、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載(当審注:本件訂正のうち、発明の詳細な説明の訂正は認められないので、発明の詳細な説明の記載内容については、本件基準明細書による。)は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合するものではなく、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、また、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
(2)無効理由2
本件訂正発明1は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の請求項1に係る先願特許発明(以下、「先願特許発明1」という。)と同一であるから、特許法第39条第1項に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
(3)無効理由3
本件訂正発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

4 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(1)審判請求書に添付して提出
甲第1号証 特許第3272182号公報
甲第2号証 製造販売禁止等請求事件の訴状(東京地方裁判所 事件番号:平成21年(ワ)第19013号、平成21年6月8日付け)
甲第3号証 特開昭51-148701号公報
甲第4号証 特開昭57-111380号公報
甲第5号証 「化学大辞典」(株式会社東京化学同人、1989年10月20日発行、第1版第1刷、1359頁)
甲第6号証 特開昭51-26627号公報
甲第7号証 特開平6-42876号公報
甲第8号証 特許第3364065号公報(本件特許公報)
(2)弁駁書(平成22年3月17日付け)に添付して提出
甲第9号証 「広辞苑」(株式会社岩波書店、2008年1月11日発行、第6版第1刷、1807頁及び1939頁)
甲第10号証 「炭のすべてがよくわかる 炭のかがく」(株式会社誠文堂新光社、2004年6月10日発行、6頁?21頁、34頁?43頁、80頁?90頁及び116頁?121頁)
(3)口頭審理陳述要領書(平成22年6月8日付け)に添付して提出
甲第11号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)
甲第12号証 「機械工学基礎講座 燃焼工学 -基礎と応用-」(理工学社、2008年2月28日発行、第1版第16刷、16頁?25頁、106頁?109頁)
甲第13号証 特開平7-124466号公報
甲第14号証 フリー百科事典「Wikipedia」([online],平成22年5月21日検索、インターネット URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%83%B3)
ロータリーキルンの一般的な構成が記載されたホームページ
甲第15号証 「JIS工業用語大辞典」第3版(財団法人日本規格協会、1991年11月20日発行、第3版第1刷、12頁及び1980頁)
(4)弁駁書(平成23年6月10日付け)に添付して提出
甲第16号証 製造販売禁止等請求事件の準備書面(2)(東京地方裁判所事件番号:平成21年(ワ)第19013号、平成21年11月9日付け)

5 答弁の趣旨・被請求人らの主張の概要、被請求人らの提出した証拠方法
被請求人らは、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。
そして、被請求人らの提出した証拠方法は、以下のものである。
(1)答弁書に添付して提出
乙第1号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)
(2)訂正拒絶理由通知に対する意見書(平成22年8月19日付け)に添付して提出
乙第2号証 株式会社アスカムのホームページ中におけるセラミック炭の説明 (http://www.ascam.net/ceramic.html)
乙第3号証 イー・スペース株式会社のホームページ中におけるセラミック炭の説明(http://www.e-space18.com/construction/item/item01.php)
乙第4号証 やまぐちエコ市場WEBにおけるセラミック炭の説明(http://eco.pref.yamaguchi.lg.jp/ecoichiba/index.php?m=details_matching_no2_block&category=2&cid=50)
乙第5号証 「メッシュ【mesh】」の説明
乙第6号証 yahoo百科事典 「メッシュ」の説明 (http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5/)
乙第7号証 「れんたん【練炭・煉炭】」の説明
乙第8号証 関ベン鉱業株式会社のホームページにおける、ベントナイトを練炭・豆炭に混合させることについての説明(http://www.kunimine.co.jp/group/kanben/ipann.html)
乙第9号証 株式会社ノリタケのロータリーキルンカタログ
乙第10号証 アルファ株式会社のロータリーキルンカタログ
(3)訂正拒絶理由通知に対する意見書(平成23年7月7日付け)に添付して提出
乙第11号証 信州大学繊維学部材料化学工学課程准教授 高橋伸英氏による試験結果報告書(平成23年5月24日)
乙第12号証 合資会社桜産業の通販用ホームページ 「粒状」の使用例(http://www.bidders.co.jp/dap/sv/nor1?id=146620238&p=y%23body)
乙第13号証 バーミア製チッパーの紹介ホームページ 「粒度」の使用例(http://www.maruma.co.jp/product/product1/chipper/chipper.htm)
乙第14号証 株式会社カーボテック 新方式炭化装置NSシリーズ概要資料 「粒度」の使用例
乙第15号証 「マグローヒル科学技術用語大辞典」第2版(株式会社日刊工業新聞社、1992年11月10日発行、第2版第6刷、1363頁) 「被覆剤」の説明
乙第16号証 国語大辞典(株式会社小学館、昭和56年12月16日発行、第1版第2刷、2055頁) 「被覆」の説明
乙第17号証 国語大辞典(株式会社小学館、昭和56年12月16日発行、第1版第2刷、1728頁) 「点在」の説明
乙第18号証 対義語辞典 「密集」の対義語(http://worddrow.net/searchReverse?keyword=密集)
乙第19号証 株式会社カーボテックのホームページ 有機物を無機物で被覆して難燃性の炭を製造する説明(http://www.carbo-tec.co.jp/syouhin/tanka/index.html)
乙第20号証 協同組合カーボテック飛騨のパンフレット 有機物を無機質で被覆して難燃性の炭を製造する説明
乙第21号証 「広辞苑」(株式会社岩波書店、2011年1月11日発行、第6版第2刷、1022頁) 「固体」の説明

第5 本件訂正による訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)
本件審理の対象となる本件訂正発明1は、本件訂正による訂正後の請求項1に記載された事項で特定される以下のとおりのものと認められる。

「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」

第6 当審の判断
当審は、無効理由1及び無効理由2については理由がなく、無効理由3については理由があると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)請求人の主張
無効理由1について、請求人の主張する具体的な理由は、以下のとおりである。
ア 無効理由1a 「自然法則からすると、無機質粘結材で被覆された可燃物を燃焼させることは不可能であり、そうすると、『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」(審判請求書第8頁10行?13行)
イ 無効理由1b 「『無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出』するのであれば、同様に、外部の酸素も内部に入り込める訳であるから、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項3の『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」(弁駁書第5頁16行?20行)
ウ 無効理由1c 「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」(弁駁書第5頁22行?24行)

(2)無効理由1についての当審の判断
ア 請求人の主張する無効理由1aについて
本件基準明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、最終的に炭化物が排出口14から排出されるのである。従って、この炉部10を用いれば、粒状の原料を連続的に送り、炭化物を連続的に排出でき、工業的に大量の炭化物を効率良く生産できる。」段落【0012】
「16はバーナーであり、排出口14に対向して配設されている。このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。燃焼空気の流れは、原料が送られる方向と反対方向になる。」(段落【0013】)
「点火は排出口に対向して設けられたバーナー16によってなされる。バーナー16は、連続的に送られる前記原料が連続して炭化(燃焼)されるように、放射される炎の強さが調整される。原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。原料は排出口14側で燃焼され、投入口12側では原料が燃焼することで発生する熱気が、バーナー16による送風と共に熱風となり、原料を効率良く乾燥できる。原料を乾燥するためのエネルギーを節約できる。前記原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、ガス化した燃焼物は燃えるが、炭素の酸化は抑制される。このため、通常、燃焼温度は700?800°C程度に抑制される。」(段落【0021】)
「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。また、可燃物を含むものとは、燃える物と燃えない物が混ざった物で、燃えない物はガラス、・・・セラミック、水、等である。」(段落【0024】)
上記のように発明の詳細な説明には、「このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。」(段落【0013】)、「原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。」(段落【0021】)とあり、原料を構成する可燃物については、「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻・・・固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」(段落【0024】)とある。
一方、固体の燃焼については、被請求人らの提出した乙第1号証に固体燃料の燃焼形態として分解燃焼が挙げられており、「蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料では、蒸発の前に燃料の熱分解が生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)中の可燃性ガス成分が、気相中で酸素と燃焼反応を生じることにより火炎が形成される。」(第1頁19行?22行)とあって、発明の詳細な説明に記載された、木材、穀物の殻、コーヒー粕等の可燃物は、蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料であると認められるから、「原料の主にガス成分を燃焼させる」とは、固体である可燃物が熱分解により分解生成ガスを発生し、この分解生成ガスが燃焼すると解するのが自然である。
そして、本件訂正発明1では、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆し、その後、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で焼成している。そうすると、出発原料を構成する可燃物は所定温度まで加熱されると、熱分解により揮発成分が発生し、そして可燃物の表面に被覆されている無機質燃結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部へ噴出し、噴出した揮発成分中の可燃性成分が燃焼(分解燃焼)すると認められる。原料の主にガス成分を燃焼させるとは、このことを指すとするのが相当である。また、可燃物がベントナイト等の不燃物で被覆されていることにより、可燃物は酸素との接触が抑制され、酸化は抑制されるものと認められる。
したがって、「『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」とすることはできない。

イ 請求人の主張する無効理由1bについて
被請求人の提出した乙第1号証には、「II 炭化について」で「炭化とは、熱分解により揮発成分を固体中から追い出し、固体中の炭素の含有率を増加させるプロセス、あるいはその現象のことを一般的に指す。
通常は、酸素を遮断し、不活性雰囲気下で加熱することにより炭化を行うが、空気中でも、加熱・燃焼中に酸素の供給が不完全であれば炭化する。」(第2頁16行?19行)と記載されており、無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出するのであれば、逆に外部の酸素も内部に入り込める余地はあるが、酸素の供給が不完全であれば炭化する、すなわち、可燃物の酸化が抑制されるものと認められる。
したがって、「『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」とすることはできない。

ウ 請求人の主張する無効理由1cについて
請求人は、また、「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」との主張をしているが、「被覆されている無機質粘結材は飛散する」との主張は、無機質粘結材が飛散することの根拠が明らかでなく、当業者の技術常識的にも揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するとはいえない。

(3)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、産業上利用することができる発明であり、本件基準明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。
したがって、請求人の主張する無効理由1については、理由がない。

2 無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人の無効理由2についての主張は、「本件特許発明1・・・は、先願特許発明1・・・の構成要件の全てを充足するものであり、両者は互いに同一である。すなわち、本件特許は特許法第39条第1項の規定に反して登録されたものである。」(審判請求書第9頁下から2行?第10頁1行)というものである。

(2)無効理由2についての当審の判断
ア 本件訂正発明1及び先願特許発明1
本件訂正発明1は、上記第5に記載したとおりである。
一方、先願特許発明1は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の明細書(以下、「先願特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を成形することなく、ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成することを特徴とする炭化物の製造方法。」

イ 本件訂正発明1と先願特許発明1との対比
本件訂正発明1と先願特許発明1とを対比する。
先願特許発明1の「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物」における「粒状をなす」は、本件訂正発明1の「粒状の固体からなる」に相当し、また、先願特許明細書には、「[可燃物]本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、要するに固体で燃える物全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」(段落【0007】)と記載されており、可燃物には、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体を包含するから、先願特許発明1の「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、」は、本件訂正発明1の「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、」に相当する。
そして、本件訂正発明1も先願特許発明1も「該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、」という工程を有し、本件訂正発明1において、原料は焼成する前に特に成形してはいないから、先願特許発明1の「成形することなく」して得られた「該原料」は、本件訂正発明の「該原料」に相当する。
また、ロータリーキルンは、筒状の炉部を有する炭化炉であり、先願特許発明1において、「酸化雰囲気中で炭化物に焼成すること」とは、実質的に「大気に開放された」状態で焼成することであるといえる。そして、先願特許発明1の原料は「ベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆」して得られたものであり、先願特許明細書に「無機質粘結材としてはベントナイトを含むものを用いる。・・・粘結材の添加量は、上記したように、被炭化材の1%程度の少量添加で酸化抑制効果が現れる。」(段落【0009】)と記載されているように、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成する」ものといえる。
そうすると、先願特許発明1の「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」は、本件訂正発明1の「大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内」で、「前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」に相当する。
そして、先願特許発明1の「炭化物の製造方法」も出発原料である可燃物を炭化させることにほかならないから、先願特許発明1の「炭化物の製造方法」は、本件訂正発明1の「可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するということができる。

炭化炉内での焼成について、本件訂正発明1では、「(該原料を、・・・)該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で焼成」すると特定されているのに対して、先願特許発明1では、そのような特定がされていない点

ウ 相違点についての当審の判断
上記相違点について検討する。
先願特許明細書において、ロータリーキルンの構造についての記載はない。焼成条件については、段落【0012】に、「[焼成条件]焼成温度は700前後の温度で十分である。焼成雰囲気は酸化?還元雰囲気いずれでもよい。本発明は酸化焼成できるところに最大の特徴がある。焼成はロータリーキルンを使って1?10分程度の短時間で所定温度に加熱して急速焼成して大気中に取り出して放冷するのが最も経済的である。」と記載されているだけである。
本件訂正発明1における「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」とは、原料の送り方向とは反対方向からバーナー等何らかの手段により原料を着火燃焼させるものと認められる。しかしながら、先願特許発明1における発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」には、例えば、原料の送り方向からバーナー等で加熱して原料を焼成する(特開平6-330045号公報参照)等、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」る以外の手段が含まれる。
したがって、先願特許発明1の発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」と、本件訂正発明1の発明特定事項である「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とは、実質的な相違であって、他の発明特定事項の異同につき検討するまでもなく、本件訂正発明1は、先願特許発明1と同一の発明であるとすることはできない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2については、理由がない。

3 無効理由3について
(1)請求人の主張の概要
請求人の主張は、「本件特許発明1・・・は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載の発明に基づいて特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当する。」(審判請求書第11頁28行?30行)というものである。

(2)無効理由3についての当審の判断
ア 本件訂正発明1の内容
本件訂正発明1は、上記第5に記載したとおりである。

イ 刊行物に記載された事項
刊行物1(甲第3号証)及び刊行物2(甲第6号証)に記載された事項は、上記第2の4の4-2(2)「イ 引用刊行物の記載事項」のとおりである。
また、甲第4号証は、「有機質原料から高温加熱下に固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法」(特許請求の範囲第1項)について記載されたものであり、甲第7号証は、「間接加熱式回転加熱炉」(特許請求の範囲の請求項1)について記載されたものである。

ウ 引用発明
引用刊行物1発明は、上記第2の4の4-2(2)「ウ 刊行物1に記載された発明」に記載したとおりであり、以下に再掲する。

「パルプ廃滓を出発原料とし、該出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法。」

エ 本件訂正発明1と引用刊行物1発明との対比及び検討
上記アのとおり、本件訂正発明1は、上記第2の4の4-2(1)及び(2)「ア 本件訂正発明5の内容について」で示した本件訂正発明5の「前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であること」との限定がないものである。
そうすると、本件訂正発明1と引用刊行物1発明とは、上記第2の4の4-2(2)「エ 本件訂正発明5と引用刊行物1発明との対比」で述べたのと同様の理由により、
「可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」
の点で一致し、次の点で相違するということができる。

(ア)本件訂正発明1においては、「原料の表面を該無機質粘結材で被覆し」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点1’」という。)
(イ)本件訂正発明1においては、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点2’」という。)
(ウ)本件訂正発明1においては、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点3’」という。)
(エ)可燃物を炭化させる工程が、本件訂正発明1においては、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点4’」という。
(オ)可燃物が、本件訂正発明1においては、「木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点5’」という。)

そして、上記第2の4の4-2(2)オ(ア)?(エ)で相違点1?5について述べたのと同様の理由により、相違点1’、4’及び5’については、実質的な相違点であるとはいえず、相違点2’については、引用刊行物1発明において、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」とすることは当業者が適宜なし得ることであり、相違点3’については、実質的な相違点であるとはいえないか、又は、引用刊行物1発明において、刊行物1が引用する刊行物2及び周知事項を考慮して、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とすることは当業者が適宜なし得ることである。
また、本件訂正発明1の効果は、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。」(本件基準明細書の段落【0026】)というものであるが、上記第2の4の4-2(2)オ「(カ)発明の効果について」で本件訂正発明5について述べたのと同様の理由により、本件訂正発明1が格別の作用効果を奏するものであるとすることはできない。
したがって、本件訂正発明1は、請求人が提出した甲第3号証(刊行物1)、甲第6号証(刊行物2)に記載された発明及び及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1は、甲第3号証、甲第6号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
したがって、請求人の主張する無効理由3については、理由がある。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する総費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、これを3分し、その1を請求人らの負担とし、その2を被請求人らの負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
平成23年 9月13日
審判長 特許庁審判官 井上 雅博
特許庁審判官 松本 直子
特許庁審判官 柳 和子

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(参考:本件一次審決)
審決

無効2009-800227

京都府京都市中京区竹屋町通り堺町東入る絹屋町117番地の4
請求人 株式会社 カーボテック
京都府京都市下京区東洞院通四条下ル元悪王子町37番地
豊元四条烏丸ビル
代理人弁理士 特許業務法人京都国際特許事務所
長野県長野市若里1丁目10番19号
被請求人 株式会社 ナカタ
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 綿貫 隆夫
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商事務所
代理人弁理士 堀米 和春
長野市中御所3-12-9 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 傳田 正彦
長野県長野市篠ノ井御幣川753番地
被請求人 株式会社 安田製作所
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 綿貫 隆夫
長野県長野市中御所3丁目12番9号 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商事務所
代理人弁理士 堀米 和春
長野市中御所3-12-9 クリエイセンタービル
綿貫国際特許・商標事務所
代理人弁理士 傳田 正彦

上記当事者間の特許第3364065号発明「炭化方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
明細書の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5についての訂正を除いて訂正を認める。
特許第3364065号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3364065号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。

理 由
第1 手続の経緯
平成 7年 9月29日 出願
平成14年10月25日付け 特許権の設定登録(特許第3364065号 )
平成21年10月30日付け 審判請求書・甲第1?8号証提出
平成22年 2月 1日付け 答弁書・乙第1号証提出、訂正請求書
(被請求人)
平成22年 3月17日付け 弁駁書・甲第9?10号証提出(請求人)
平成22年 6月 8日付け 口頭審理陳述要領書・甲第11?15号証
提出(請求人)
平成22年 6月 8日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成22年 6月 8日付け 口頭審理
平成22年 7月16日付け 訂正拒絶理由通知書、職権審理結果通知書
平成22年 8月19日付け 訂正拒絶理由通知に対する意見書・乙第2?
10号証提出(被請求人)

第2 平成22年2月1日付けの訂正請求の適否について
被請求人は、平成22年2月1日付けで訂正請求書を提出しているので、同訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。
1 本件訂正請求の時期的要件についての検討
本件訂正請求は、特許法第134条第1項の規定に基づいて指定された期間内の平成22年2月1日に提出されたものであるから、同法第134条の2第1項本文に規定されている時期的要件を満たすものである。

2 訂正の要旨
本件訂正請求の要旨は、「特許第3364065号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求める。」というものである。

3 訂正の内容
本件訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。本件審判請求時の明細書の内容と本件特許公報の内容が同一なので、記載箇所については、特許公報の記載箇所で示すことがある。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明について、以下に示す訂正を求めるものである。訂正請求書においては、明細書の特許請求の範囲についての訂正事項を《訂正1》として、〔a〕?〔l〕とし、明細書の発明の詳細な説明についての訂正事項を《訂正2》として、〔a〕?〔o〕としているが、これらの訂正事項をそれぞれ訂正事項1a?訂正事項1l及び訂正事項2a?訂正事項2oとする。

(1)訂正事項1a
請求項1において、「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(2)訂正事項1b
請求項1において、「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(3)訂正事項1c
請求項1において、「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(4)訂正事項1d
請求項2において、「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(5)訂正事項1e
請求項2において、「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(6)訂正事項1f
請求項2において、「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(7)訂正事項1g
請求項3において、「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(8)訂正事項1h
請求項3において、「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(9)訂正事項1i
請求項3において、「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(10)訂正事項1j
請求項4において、「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(11)訂正事項1k
請求項4において、「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(12)訂正事項1l
請求項4において、「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(13)訂正事項2a
特許公報4欄30行の「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(14)訂正事項2b
特許公報4欄31行の「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(15)訂正事項2c
特許公報4欄32行の「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(16)訂正事項2d
特許公報4欄43行の「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(17)訂正事項2e
特許公報4欄43行の「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(18)訂正事項2f
特許公報4欄43行?44行の「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(19)訂正事項2g
特許公報5欄5行の「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(20)訂正事項2h
特許公報5欄5行?6行の「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(21)訂正事項2i
特許公報5欄7行の「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(22)訂正事項2j
特許公報5欄18行の「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(23)訂正事項2k
特許公報5欄18行の「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(24)訂正事項2l
特許公報5欄20行の「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。
(25)訂正事項2m
特許公報10欄19行の「反対方向から着火させ、」を「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と訂正する。
(26)訂正事項2n
特許公報10欄19行?20行の「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。
(27)訂正事項2o
特許公報10欄21行?22行の「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。

4 本件訂正請求に関する当審の判断
本件の請求項1?4は独立請求項であり、請求項5?7は、請求項1?4を直接的又は間接的に引用した従属請求項である。本件訂正請求において、請求項1?4は、直接の訂正がなされている。請求項5?7は、直接の訂正はなされてはいないが、請求項1?4が訂正されたことにより、訂正されることになる。
当審は、上記訂正事項1a?1l及び2a?2oが願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、訂正の目的要件を満たすものであり、かかる訂正が実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではないものと判断する。
本件の請求項2及び4?7に係る発明は、無効審判の請求がなされていない請求項に係る発明であるから、請求項2及び4?7に係る発明について訂正が認められるには、請求項に係る訂正が特許請求の範囲の減縮若しくは誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正であるときには、訂正後の同各発明が独立特許要件を満たしている必要がある。
当審は、請求項5に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるが、訂正後の請求項1を引用する請求項5に係る発明が、請求人が提出した甲第3号証及び甲第6号証に記載の各発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、訂正後の請求項1を引用する請求項5についての訂正は認められないと判断する。一方、訂正後の請求項2及び4に係る発明、訂正後の請求項2?4を引用する請求項5に係る発明及び訂正後の請求項6及び7に係る発明については、独立特許要件を満たすものと認められるので、同各請求項についての訂正は認められると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

4.1 各訂正事項について新規事項追加の有無、訂正の目的の適否、実質変更の有無について
(1)訂正事項1a、1d、1g及び1jについて
「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」との訂正は、特許公報6欄12行?14行の「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、」との記載や、特許公報6欄20行の「原料の主にガス成分を燃焼させる。」の記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、着火させる対象を原料のガス成分であると特定し、このガス成分を燃焼させることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項1b、1e、1h及び1kについて
「投入口側で原料を乾燥させ」との訂正は、特許公報6欄12行?13行の「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、」の記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、乾燥させる対象を原料に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項1c、1f、1i及び1lについて
「可燃物の酸化を抑制しつつ」との訂正は、特許公報8欄46行?48行の「原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、」との記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、酸化を抑制させる対象を可燃物に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項2a、2d、2g、2j及び2mについて
「反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」との訂正は、特許公報6欄12行?14行の「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、」との記載や、特許公報6欄20行の「原料の主にガス成分を燃焼させる。」の記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲の訂正に明細書を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(5)訂正事項2b、2e、2h、2k及び2nについて
「投入口側で原料を乾燥させ」との訂正は、特許公報6欄12行?13行の「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、」の記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲の訂正に明細書を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(6)訂正事項2c、2f、2i、2l及び2oについて
「可燃物の酸化を抑制しつつ」との訂正は、特許公報8欄46行?48行の「原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、」との記載に基づくものであり、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許請求の範囲の訂正に明細書を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明にあたり、かかる訂正は実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(7)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1a?2oについては、特許法第134条の2第1項ただし書で規定する要件及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件を満たすものである。

4.2 独立特許要件について
(1)訂正後の本件発明
訂正後の本件明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項2】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項3】可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項4】可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項5】前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の炭化方法。
【請求項6】前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする請求項5記載の炭化方法。
【請求項7】前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いることを特徴とする請求項5または6記載の炭化方法。」(以下、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明7」といい、まとめて「本件訂正発明」という。)
本件訂正発明2及び本件訂正発明4?7は、特許無効審判の請求がなされていない請求項に係る特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされたものであるから、以下、本件訂正発明2及び本件訂正発明4?7について、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か検討する。
請求人は、下記「第3、2」の「2.1 本件審判の請求の趣旨並びに請求人が主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法」において、本件訂正発明1及び3について無効理由1?3を主張しているので、本件訂正発明2及び本件訂正発明4?7についても、これらの理由について順次検討する。

(2)本件訂正発明2及び4の独立特許要件について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材に更に水溶性糖類を加えて混練し、原料の表面を無機質粘結材とともに水溶性糖類の被膜で被覆するものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明3において、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材に更に水溶性糖類を加えて混練し、原料の表面を無機質粘結材とともに水溶性糖類の被膜で被覆するものである。
無効理由1及び2については、下記「第3、4、4.1」の「(2)無効理由1についての当審の判断」及び「第3、4、4.2」の「(2)無効理由2についての当審の判断」で判断したように本件訂正発明1及び3について請求人の主張する無効理由1及び無効理由2についての理由がないのであるから、無機質粘結材に水溶性糖類を加えたものについても同各理由については理由がない。
次に、請求人の主張する無効理由3について、すなわち、本件訂正発明2及び4について、請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か検討する。
請求人が提出した甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項は、下記「(3)、(3.2)」の「ア 引用刊行物の記載事項」のとおりであり、甲第4号証、甲第5号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された事項は、下記「第3、4、4.3、(2)、(2.2)」の「ア 刊行物に記載された事項」のとおりである。
しかしながら、上記いずれの証拠にも、炭化方法において、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材に更に水溶性糖類を加えて混練し、原料の表面を無機質粘結材とともに水溶性糖類の被膜で被覆することは記載されていない。
そうすると、審判請求人が提出した上記各証拠を検討しても、いずれの証拠にも出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材に更に水溶性糖類を加えることは記載されていないのであるから、下記「(3)、(3.2)」の「イ 引用刊行物に記載された発明」で定義された引用刊行物1発明において、相違点である出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材に更に水溶性糖類を加えて混練し、原料の表面を無機質粘結材とともに水溶性糖類の被膜で被覆することを当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件訂正発明2及び4は、請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本件訂正発明2及び4について独立特許要件を満たさないとすべき理由を発見しない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明2及び4について独立特許要件を満たすものである。

(3)本件訂正発明5の独立特許要件について
(3.1)本件訂正発明5の内容について
本件訂正発明5は、本件訂正発明1?4を択一的に引用する発明であるところ、この発明を引用しない形に書き換えると、以下のようになる。
「可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、又は
可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法のいずれかの炭化方法において、
前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法。」

(3.2)本件訂正発明1を引用する本件訂正発明5(以下、「本件訂正発明5-1」という。)について
(3.2.1)請求人の主張する無効理由1及び2について
本件訂正発明1については、本件訂正発明1が下記「第3、4、4.1」の「(2)無効理由1についての当審の判断」及び下記「第3、4、4.2」の「(2)無効理由2についての当審の判断」で示したように審判請求人の主張する無効理由1及び2について理由がない。
そうすると、本件訂正発明5-1についても無効理由1及び2について理由がないものである。

(3.2.2)請求人の主張する無効理由3について
次に、請求人の主張する無効理由3について検討する。
ア 引用刊行物の記載事項
本件特許に係る出願前に頒布された下記刊行物には、以下の事項が記載されている。
(ア)刊行物1:特開昭51-148701号公報(無効審判請求人が提出した甲第3号証、以下、「刊行物1」という。)
(3a)「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用したことを特徴とする豆炭、煉炭等の固形燃料。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。
本発明の目的は、ヘドロ公害の源としてその処理に困難をきわめている製紙工場のパルプ廃滓の無公害化処理、特に有効的な2次利用を兼ねた工業的処理を行うことである。」(第1頁左欄9行?15行)
(3c)「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(第1頁右欄1行?6行)
(3d)「パルプ廃滓の炭化処理にロータリキルンを使用する理由は、特別に造粒工程を設けないでも、安価にパルプ廃滓の炭化した粒状体が得られることにある。
パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリーキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(第1頁右上欄12行?第2頁右上欄1行)
(3e)「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。
実施例1は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を900℃とし、炉内滞留時間を120分に設定した条件下で炭化処理した場合である。
実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。
実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(第2頁右上欄2行?13行)
(イ)刊行物2:特開昭51-26627号公報(無効審判請求人が提出した甲第6号証、以下、「刊行物2」という。)
(6a)「ロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化したパルプ廃滓を主成分とする断熱性溶鋼湯面被覆保温材。」(特許請求の範囲)
(6b)「本発明においてロータリーキルンを用いるのは、特に別個に造粒工程を設けることなく安価にパルプ廃滓の粒状体を確保し得るからであり、この装置を用いて独特の炭化処理を行うことが本発明の要諦である。ロータリーキルンへパルプ廃滓を装入する場合には、あらかじめパルプ廃滓を圧縮プレス処理によりケーキ状に形成して脱水したものを装入することが好ましい。このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ精錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(第2頁右上欄5行?左下欄5行)
(6c)「さらに本発明おいては、炭化、造粒処理したパルプ廃滓単味でも充分保温材として満足すべき性能を具備するものであるが、特に炭化物の微粉化をさけ比較的揃つた粒状物が得られかつ収率を向上させるために、パルプ廃滓にあらかじめ適量(0.5%?3.0%)のバインダーを添加しておくことが有効である。バインダーとしては例えば水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどが挙げられ、」(第3頁左上欄1行?9行)
(6d)「なお、本発明の保温材Aはロータリーキルンにて吹込み温度800℃および在炉時間25分、Bは700℃×40分、Cは900℃×30分でそれぞれ炭化、造粒処理して得たものである。」(第3頁右上欄1行?4行)

イ 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。
炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。
煉炭、豆炭におけるコークス代用成分として利用する場合、炭化物粒度は大きすぎても小さすぎてもいけないが、炉内操業条件として熱風吹込温度を600?1、000℃程度とし、炉内滞留時間を60?120分の範囲に維持すると、例えば粒径1mm以上の炭化物が比較的容易に得られ、30?70%の収率で表面不活性な炭化物が得られる。・・・
炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、水ガラス、でんぷんのり、ベントナイト、セメント、トバモライトなどがある。」(摘記(3d))とあり、添加剤としてベントナイトが記載されている。そして、炭化処理として、「次に、実際の炭化処理により得られた成分について記する。・・・実施例2は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を800℃とし、炉内滞留時間を90分とした場合である。実施例3は、ロータリキルンへ装入したパルプ廃滓を、熱風吹込温度を700℃とし、炉内滞留時間を60分とした場合である。」(摘記(3e))との記載がある。
上記バインダとして記載されている成分の中で、水ガラス及びでんぷんのりは水溶性であり、ベントナイト、セメント及びトバモライトは、水に分散する物質である。そうすると、これらのバインダは、パルプ廃滓の脱水前に加えても脱水時に水とともに大部分が排除されてしまうので、バインダの添加時期はパルプ廃滓を圧搾プレス処理してケーキ状に脱水した後であることは明らかである。
そうしてみると、パルプ廃滓は出発原料といえるから、刊行物1には、
「パルプ廃滓を出発原料とし、該出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法」(以下、「引用刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

ウ 本件訂正発明5-1と引用刊行物1発明との対比
本件訂正発明5-1と引用刊行物1発明とを対比する。
刊行物1の「本発明は、パルプ廃滓の粒状炭化物をコークス代用成分として配合使用した豆炭、煉炭等の固形燃料に関する。」(摘記(3b))との記載からみて、パルプ廃滓は可燃物であるから、後者の「パルプ廃滓」は、前者の「可燃物」に相当する。次に刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。」(摘記(3d))との記載からみて、パルプ廃滓の脱水は、ロータリキルンへの投入の際のパルプ廃滓の水分調整を目的としているといえるから、後者の「該出発原料を脱水したもの」は、前者の「出発原料に水を添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し」に相当する。また、刊行物1の「バインダとしては、・・・ベントナイト、・・・などがある。」(摘記(3d))との記載からみて、ベントナイトは無機質粘結材であるといえ、パルプ廃滓のような半固形物質とベントナイトのような無機質粘結材とを混ぜ合わせる場合には、混練することが一般的に行われることであるであるから、後者の「出発原料を脱水したものにベントナイトを添加し」は、前者の「出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して」に相当する。そして、刊行物1の「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。装入口より20m部位までは、乾燥域と想定し、キルン内壁にかきあげ羽根を取付けるのが好ましい。炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。」(摘記(3d))との記載からみて、原料は、投入口側で乾燥させ、排出口側で可燃物を炭化させているから、後者の「ロータリキルンへ装入し、熱風吹込温度を700℃又は800℃として、パルプ廃滓を炭化させる炭化方法」は、前者の「投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」に相当する。
以上のことから、本件訂正発明5-1について引用刊行物1発明と対比すると、本件訂正発明5-1と引用刊行物1発明とは、
「可燃物を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」の点で一致し、次の点で相違する。
(ア)本件訂正発明5-1においては、「原料の表面を無機質粘結材で被覆し」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点1」という。)
(イ)本件訂正発明5-1においては、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点2」という。)(ウ)本件訂正発明5-1においては、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点3」という。)
(エ)本件訂正発明5-1においては、「無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させる」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点4」という。)
(オ)本件訂正発明5-1においては、「炭化炉での焼成温度が700℃?800℃である」と特定されているのに対し、引用刊行物1発明では、そのような特定がなされていない点(以下、「相違点5」という。)

エ 上記相違点1?5についての判断
(ア)相違点1及び相違点4について
刊行物1には、「パルプ廃滓は、予め圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリキルンへ装入するのが好ましい。」(摘記(3d))とあり、パルプ廃滓そのものはドロドロの流動体であっても脱水したパルプ廃滓は、ケーキ状であり、一定の形状を保持できる程度には、水分が減少したものである。
そうすると、引用刊行物1発明において、ケーキ状に脱水したパルプ廃滓にベントナイトを添加し、混練したものは、ベントナイトがバインダとして作用するとともに、脱水したパルプ廃滓の表面を一部被覆しており、また、無機質粘結材が被覆された可燃物を炭化させているのであるから、可燃物は、ベントナイトという不燃の無機質粘結材で被覆されていて、酸化を抑制しつつ焼成されているとするのが自然である。
そうしてみると、本件訂正発明5-1の「原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、」(相違点1)は実質的な相違点ではなく、また、ベントナイトで被覆された可燃物である脱水したパルプ廃滓を炭化させるのであるから、「前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させる」(相違点4)についても実質的な相違点ではない。
(イ)相違点2について
刊行物1には、「ロータリキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用したことを特徴とする豆炭、煉炭等の固形燃料。」(摘記(3a))とある。
ロータリーキルンとは、「内部装入物を転動によって軸方向に移動させ、ガスとの熱交換によって加熱する、傾斜した回転円筒形の装置。」又は「一方から原料を挿入して、他方から製品を連続的に取り出すこう配をつけた円筒状回転炉。」(「JIS工業用語大辞典【第3版】」((財)日本規格協会、1991年11月20日発行、第1刷、1980頁参照)(請求人の提出した甲第15号証))であり、引用刊行物1発明は、ロータリーキルンで炭化処理するのであるから、引用刊行物1発明の炭化方法は、「原料を、筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送」るものである。
また、刊行物1には、「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリーキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(摘記(3c))との記載がある。特願昭49-98426号に係る出願の公開公報である特開昭51-26627号公報は、請求人が提出した甲第6号証(刊行物2)である。
刊行物2には、「ロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化したパルプ廃滓を主成分とする断熱性溶鋼湯面被覆保温材。」(摘記(6a))とあり、パルプ廃滓をロータリーキルンで炭化処理するものであって、同刊行物にはロータリーキルンについて、「このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ精錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(摘記(6b))との記載があり、パルプ廃滓の炭化処理に使用されるロータリーキルンが通常広くセメント工業等に使用されている形式のものであることが記載されている。
セメント工業に使用されている形式のロータリーキルンについては、請求人の提出した甲第14号証(フリー百科事典「Wikipedia」([online],平成22年5月21日検索、インターネットURL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%83%B3))に次の記載がある。
「セメント製造に使用されるロータリーキルンの構造を下に示す。



現在セメント工場で一般に使用されているロータリーキルンは、直径4?6m、長さ60?100m、傾斜3?4%、回転数2?4rpm、内部の温度は右端の入り口で400℃、図でFlameと示されている部分の最高温度は1、450℃に達する。燃料は重油やガスが使用される。キルン内では原料はゆっくり回転しながら徐々に送られる。セメント製造の場合約30分滞留している。」
上記記載からみて、このセメント製造に使用されるロータリーキルンは、大気に開放された筒状の炉部を有する炉である。
甲第14号証は、本件特許に係る出願前公知のものであるか否か不明であるが、セメント製造に使用されるロータリーキルンが大気に開放された筒状の炉部を有する炉であることは周知事項である。
例えば、本件特許に係る出願前に頒布された特開平6-66480号公報には、「セメントロータリーキルンは、燃焼バーナーにより形成した高温の火炎によりセメント原料を焼成してクリンカーを生成するための設備として知られており、その一例の構成は図7により示される。この図7は、サスペンションプレヒータ(SP)方式のセメントロータリーキルンの構成概要を示すものであり、これを簡単に説明すると、軸回りに回転される直径数mに及ぶ筒状のロータリーキルン50に対して、その一端部51からSP53で予熱したセメント原料を供給しながら、キルンの終端部52側から燃焼バーナー54により吹き込んだ高温の火炎で原料を焼成してクリンカーを生成させ、生成したクリンカーは、キルン終端部52からクリンカークーラー55に落し、多孔板(図示せず)の上を移送させながら下部から送風される冷却風で冷却するようになっている。」(段落【0002】)との記載があり、図7として以下の記載がある。



また、同じく特開平6-347173号公報には、「従来より、セメントクリンカの焼成や、コンクリート用の軽量骨材を焼成するためにロータリーキルンが用いられている。」(段落【0002】)及び「また、上記装置においては、キルン1の窯前フード9に設けた開口10に、エア噴出装置11によりエアカーテンAを形成した状態で該開口10より赤外線カメラ19によってキルン1内の焼成帯域を撮影することとなり、該開口10に形成した上記エアカーテンAが、熱風、或いは粉塵の該開口10からの噴出を阻止しる作用を果たし、赤外線カメラ19を保護すると共に、該エアカーテンAは固体である耐熱ガラス等に比べて密度が小さく、また汚れることはないためキルン1内の焼成帯域から放射される赤外線を吸収、或いは反射させる作用が少なく、赤外線カメラ19によって感知する赤外線量は真値に近いものとなり、正確な焼成帯域の温度分布状態を長期間に亘って監視し得る装置となる。」(段落【0022】)との記載があり、図1として次の記載がある。


そうしてみると、引用刊行物1発明の炭化方法におけるロータリーキルンは、「原料を、筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送」るものであり、このロータリーキルンとして、大気に開放された筒状の炉部を有する炉が周知事項であり、この種のロータリーキルンには、慣用的に用いられるものと認められるから、引用刊行物1発明において、「原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、」とすることは当業者が適宜なし得ることである。
(ウ)相違点3について
刊行物1には、「炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは、高温多湿雰囲気化で乾燥-炭化反応が進み、炉内滞留時間と熱風吹込温度で適切に管理される。」(摘記(3d))とあり、パルプ廃滓の脱水ケーキを炭化する際に熱風を吹込むことが記載され、また、「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号明細書にて明らかにされている。」(摘記(3c))とあって、特願昭49-98426号の公開公報である刊行物2には、上記のようにロータリーキルンについて、「このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ精錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、本発明において用いるに適したロータリーキルンの概要を示すと次の通りである。内径1.5?2.5m、キルン長さ40?50m、キルン勾配3?4%、回転数0.5?15rpmの範囲で変速可能、燃焼方式 C重油直燃向流型である。また原料装入口より約20m部位までは乾燥域であると設定し、キルン内壁に適当な掻上げ羽根を取付ける。炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理される。」(摘記(6b))との記載があり、このロータリーキルンは通常広くセメント工業等に使用されている形式のものとほとんど同様であり、燃焼方式がC重油直燃向流型であることが記載されている。
そして、セメント工業に使用されている形式のロータリーキルンについては、請求人の提出した甲第14号証に上記「(イ)相違点2」における記載事項が記載されており、図の説明の欄に「セメント製造に使われるロータリーキルンの構造、あらかじめ粉砕された原料が右上から入り、焼成されて左下に出てくる」及び図でFlameの方向が左下から右上に向かっていることからして、この炉は、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む炉であると認められる。
甲第14号証は、本件特許に係る出願前公知のものであるか否か不明であるが、セメント製造に使用されるロータリーキルンについては、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込む炉は周知事項である。
例えば、本件特許に係る出願前に頒布された特開平6-66480号公報には、上記「(イ)相違点2」における記載事項が記載されており、「その一端部51からSP53で予熱したセメント原料を供給しながら、キルンの終端部52側から燃焼バーナー54により吹き込んだ高温の火炎で原料を焼成してクリンカーを生成させ、」との記載からみて、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込むものである。
また、同じく特開平6-347173号公報には、「従来より、セメントクリンカの焼成や、コンクリート用の軽量骨材を焼成するためにロータリーキルンが用いられている。」(段落【0002】)及び「以下、本発明にかかる上記焼成炉の焼成帯域監視方法を実現し得る一実施例装置を、図1?図2に従って詳細に説明する。図において、1はロータリーキルンであり、該ロータリーキルン1は、円筒状をした数十メートルの胴部2を有している。該胴部2は、若干傾斜した状態で回転支持ローラー3上に載置され、回転駆動装置4により回転させられる。胴部2の上端開口部5には、原料投入用のシューター6が挿入され、胴部2の下端開口部7には、石炭及び石油等の燃料を燃焼させる燃焼バーナ8が挿入されている。」(段落【0015】?【0016】)との記載があり、「原料投入用のシューター6が挿入され、胴部2の下端開口部7には、石炭及び石油等の燃料を燃焼させる燃焼バーナ8が挿入されている。」との記載からみて、原料の送り方向とは反対方向から、熱風を送り込むものである。
したがって、セメント工業において原料を焼成する際に原料の送り方向とは反対方向から熱風を吹き込むことは周知事項であると認められる。
上記のように、特願昭49-98426号の公開公報である刊行物2には、セメント工業に用いられるロータリーキルンを用いること、このロータリーキルンの燃焼方式がC重油直燃向流型であり、炉内に装入されるパルプ廃滓の脱水ケーキは高温多湿条件下で乾燥-炭化反応が行われ、炉の操業条件は装入原料の炉内滞留時間と熱風吹込み温度で管理されることが記載されていて(摘記(6b))、セメント工業において原料を焼成する際に原料の送り方向とは反対方向から熱風を吹き込むことは周知事項であると認められる。
また、刊行物2における「なお、本発明の保温材Aはロータリーキルンにて吹込み温度800℃および在炉時間25分、Bは700℃×40分、Cは900℃×30分でそれぞれ炭化、造粒処理して得たものである。」(摘記(6d))との記載からみて、刊行物2における炭化処理においては、原料であるパルプ廃滓が熱分解され、生成した分解生成ガスが着火、燃焼すること、すなわち、原料のガス成分が着火及び燃焼することは明らかである。
そして、刊行物1には、パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想が特願昭49-98426号明細書にて明らかにされていると記載されているのであるから(摘記(3c))、刊行物1に記載されたパルプ廃滓の炭化処理において、刊行物2に記載された炭化炉を適用することは当業者であれば容易に推考することであって、炭化処理として同様の形式の炭化炉を用いることにより、原料のガス成分が着火及び燃焼することは明らかである。
そうしてみると、引用刊行物1発明において、「該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とすることは当業者が適宜なし得ることである。
(エ)相違点5について
引用刊行物1発明においては、パルプ廃滓を脱水したものにベントナイトを添加し、ロータリーキルンへ装入して、熱風吹込温度を700℃又は800℃として炭化処理することは特定されているが、炭化炉での焼成温度については明確ではない。しかしながら、黒炭の乾留温度は、970?1070K(697?797℃)であり(甲第12号証、第21頁下から13行?12行)、黒炭は、木材を乾留して製造するものであるところ、パルプ廃滓も木材を原料とするものであり、木材の乾留温度については、木材の種類により大きく変動するものでないことは、当業者の技術常識であるから、パルプ廃滓の乾留温度も同程度であると認められる。
そうすると、熱風吹込温度を700℃又は800℃とすることにより、その吹き込み温度ではパルプ廃滓が焼成するのであるから、炭化炉での焼成温度と熱風吹込温度と大きく異なるものとは認められない。
そうしてみると、「炭化炉での焼成温度が700℃?800℃である」とすることは、引用刊行物1発明に基づいて当業者が容易になし得ることである。
(オ)発明の効果について
本件訂正発明5-1の効果は、「無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。」(特許公報第10欄21行?23行)というものである。
しかしながら、引用刊行物1発明も実質的に無機質粘結剤であるベントナイトが可燃物であるパルプ廃滓を被覆しているものと認められるから、無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができるという作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件訂正発明5-1が格別の作用効果を奏するものであるとすることはできない。

オ 被請求人の訂正拒絶理由に対する意見書における主張について
被請求人は、訂正拒絶理由に対する意見書において、訂正拒絶理由に対して以下の主張をしている。
(ア)「引用刊行物1においては、炉内の温度や滞留時間を調整することで、パルプ廃滓が灰になることを防止しているだけであり、本件訂正発明5のように、可燃物の酸化抑制を可燃物の表面を無機質粘結材によって被覆して酸素の供給を遮断する方法については何ら開示されていない。」(訂正拒絶理由に対する意見書第4頁4行?7行)
(イ)「本件訂正発明5のように、『原料の表面を無機質粘結材で被覆することにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成』すれば、表面が焼結された無機質粘結剤で覆われた難燃性のセラミック炭が生成され、引用刊行物1の固形燃料は生成できないのである。」(訂正拒絶理由に対する意見書第4頁13行?16行)
(ウ)「引用刊行物1ではパルプ廃滓にベントナイトをバインダとして混合させているだけであり、審判官殿は、パルプ廃滓の表面に偶然付着しているものを指して一部被覆としているだけである。なぜ、パルプ廃滓にバインダを混合させる必要があるかといえば、非常に細かい粒子であるパルプ廃滓を造粒させるためである。引用刊行物1の表-2に記載されているように、パルプ廃滓にバインダを入れて炭化させた炭化物の粒子サイズが100メッシュよりも細かい粒子も存在することから、パルプ廃滓自体100メッシュよりも細かいものであり、微粒化を避け、造粒させるためには何らかのバインダが必要なのである。」(訂正拒絶理由に対する意見書第7頁11行?19行)
(エ)「引用刊行物2ではなぜ大気に解放された炉であっても炭化物を製造できると述べているかというと、炉内温度と炉内滞留時間をコントロールし、表面燃焼する前に炭化物を回収しようとしているからであると考えられる。すなわち、引用刊行物2の2頁右下の『炉内温度を600?1000℃および炉内滞留時間を10?60分の範囲に維持することが好ましい。・・・上限以上では活性度が増大し、燃焼灰化の傾向が強まり好ましくない。』との記載がその証拠である。このような引用刊行物2の記載からも、大気に開放された炉では温度調整や滞留時間の調整をしないと、原料の表面燃焼が進んで灰になってしまう。・・・以上の点より、引用刊行物1および引用刊行物2のように炭を製造するためのロータリーキルン(炉が大気に解放されているかどうかは不明)に、上記の各刊行物のようにセメントを製造するために炉が大気に解放されたロータリーキルンを単純に組み合わせることはできない。」(訂正拒絶理由に対する意見書第12頁6行?第13頁6行)
(オ)「甲第12号証の該当箇所における記載をよく見ると、『黒炭はクヌギ、ナラ、マツなどの軟木を原料とする木炭で、乾留温度は970?1070Kである。』との記載がされているのみである。引用刊行物1では、パルプ廃滓には多量の水分を含み(圧搾をかけてケーキ状にはしているが)、ロータリーキルン内では、これを造粒しつつ炭化処理をしている。このように引用刊行物1では単なる炭化処理だけではなく、ドロドロの状態から炭化造粒というプロセスを実行しているものであるから、原料及び原料の形状が全く異なっている状態で、木材から黒炭を製造する際の乾留温度を参考にしようとしても参考になるものではない。」(訂正拒絶理由に対する意見書第15頁8行?16行)

カ 被請求人の訂正拒絶理由に対する意見書における主張に対する当審の判断
(ア) 上記被請求人の主張(ア)及び(ウ)について
引用刊行物1には、「炭化物の微粉化を避け、比較的そろった粒状物を得るためには、およびその収率を向上させるため、パルプ廃滓に予め0.5?3.0%程度バインダを添加すると有効的である。バインダとしては、・・・ベントナイト・・・などがある。」(摘記(3d))との記載があり、ベントナイトは、パルプ廃滓のバインダとして添加されるものである。パルプ廃滓同士を接着させるには、パルプ廃滓粒子の大きさに関わりなく各パルプ廃滓の表面がバインダで被覆されている必要がある。また、同刊行物には、「パルプ廃滓の無公害化処分を兼ねて、それを2次的に有効利用できるように炭化処理する技術的思想は、既に特願昭49-98426号(審決注:同出願の公開公報が刊行物2である。)明細書にて明らかにされている。その原理は、パルプ廃滓をロータリーキルンにて炭化処理すると、粒状化した炭化成分が得られる点にある。」(摘記(3c))との記載があり、引用刊行物2には、使用するロータリーキルンについて、「本発明においてロータリーキルンを用いるのは、特に別個に造粒工程を設けることなく安価にパルプ廃滓の粒状体を確保し得るからであり、この装置を用いて独特の炭化処理を行うことが本発明の要諦である。ロータリーキルンへパルプ廃滓を装入する場合には、あらかじめパルプ廃滓を圧縮プレス処理によりケーキ状に形成して脱水したものを装入することが好ましい。このロータリーキルンは通常広くセメント工業、アルミ精錬などや海綿鉄の製造、鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様であり、」(摘記(6b))と記載されており、セメント工業などに使用されるロータリーキルンは密閉式の炉ではないから、技術常識的にみて酸素は供給されているものと認められる。
そうすると、引用刊行物1及び引用刊行物2記載のパルプ廃滓は、その少なくとも一部がベントナイトにより被覆されており、酸素が供給されているロータリーキルンにおいて炭化処理がなされるのであるから、ベントナイトが被覆されていることにより、可燃物であるパルプ廃滓の酸化を抑制しつつ焼成されていると解するのが相当である。
したがって、被請求人の主張する上記(ア)及び(ウ)の主張は是認できない。
(イ) 上記被請求人の主張(イ)について
本件訂正発明5-1では、「原料の表面を無機質粘結材で被覆することにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法」という特定がなされているだけで、難燃性のセラミック炭を製造するとの特定はなされていない。また、本件訂正明細書にも、「本発明は可燃物を炭化させるための炭化方法に関する。」(段落【0001】)との記載があるだけで、炭化物が難燃性のセラミック炭であるとの記載はない。
上記「(ア)及び(ウ)について」で検討したように、可燃物であるパルプ廃滓の酸化を抑制しつつ焼成することにより固形燃料が製造されるのであるから、「原料の表面を無機質粘結材で被覆することにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成すれば、表面が焼結された無機質粘結剤で覆われた難燃性のセラミック炭が生成され、引用刊行物1の固体燃料は生成できないのである」という被請求人の主張は是認できない。
(ウ) 上記被請求人の主張(エ)について
引用刊行物2には、「大気に開放された炉では温度調整や滞留時間の調整をしないと、原料の表面燃焼が進んで灰になってしまう。」との記載があり、原料が表面燃焼することが記載されている。
しかしながら、本件訂正明細書には、「原料が炭化され、炭化物となって排出口から排出される。その炭化物は酸化が抑制されているため、排出されると急激に温度が奪われ、排出された直後に火が消え、効率良く粒状の粒炭というべき炭化物を生産することができる。」(段落【0022】)と記載されている。
上記「排出されると急激に温度が奪われ、排出された直後に火が消え、」との記載からみて、排出される直前の原料は、炭化が進んでいるものであるから、分解燃焼だけでなく、表面燃焼も行われているものと認められる。したがって、本件訂正発明5-1において、「可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して」とは、可燃物が全く燃焼しないということではなく、炭化した可燃物は酸化が抑制されつつも一部は表面燃焼していると解するのが相当である。
そうすると、本件訂正発明5-1も引用刊行物2記載の発明も、程度の差はあっても原料は表面燃焼しているものであって、いずれも大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉を使用するものであるから、被請求人の「引用刊行物1および引用刊行物2のように炭を製造するためのロータリーキルンに、上記の各刊行物のようにセメントを製造するために炉が大気に解放されたロータリーキルンを単純に組み合わせることはできない。」との主張は根拠がなく採用できない。
(エ) 上記被請求人の主張(オ)について
被請求人は、「引用刊行物1では単なる炭化処理だけではなく、ドロドロの状態から炭化造粒というプロセスを実行しているものであるから、原料及び原料の形状が全く異なっている状態で、木材から黒炭を製造する際の乾留温度を参考にしようとしても参考になるものではない。」と主張する。
しかしながら、実際に炭化処理がなされるのは、原料がドロドロの状態ではなく、原料が乾燥され、更に加熱された後、炭化される温度に至ってからである。そうすると、パルプ廃滓も木材を原料とするものであり、木材の乾留温度については、木材の種類により大きく変動するものでなく、乾留温度を970?1070Kとすることは当業者の技術常識であるから、被請求人の上記主張は是認できない。

(3.3)本件訂正発明2?4を引用する本件訂正発明5(以下、「本訂正発明5-2」という。)について
本件訂正発明5-2は、本件訂正発明2?4において、「前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法。」である。
そして、本件訂正発明2及び4については、上記「(2)本件訂正発明2及び4の独立特許要件について」で示したように審判請求人の主張する無効理由1及び2について理由がなく、また、審判請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、審判請求人の主張する無効理由3についても理由がなく、また、他に本件訂正発明2及び4について独立特許要件を満たさないとすべき理由を発見しない。
次に本件訂正発明3については、本件訂正発明3が下記「第3、4、4.1」の「(2)無効理由1についての当審の判断」及び下記「第3、4、4.2」の「(2)無効理由2についての当審の判断」で示したように審判請求人の主張する無効理由1及び2について理由がなく、また、下記「第3、4、4.3、(2)」の「(2.2)本件訂正発明3について」で示したように審判請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、審判請求人の主張する無効理由3についても理由がなく、また、他に本件訂正発明3について独立特許要件を満たさないとすべき理由を発見しない。
したがって、本件訂正発明5-2について独立特許要件を満たすものである。

(4)本件訂正発明6及び7の独立特許要件について
本件訂正発明6は、「前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする請求項5記載の炭化方法。」であり、本件訂正発明7は、「前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いることを特徴とする請求項5または6記載の炭化方法。」というものである。
請求人の主張する無効理由1及び無効理由2については、上記、「(3.2)本件訂正発明1を引用する本件訂正発明5について」及び「(3.3)本件訂正発明2?4を引用する本件訂正発明5について」で判断したように本件訂正発明5については、請求人の主張する無効理由1及び無効理由2についての理由がないのであるから、本件訂正発明5を引用した本件訂正発明6及び7についても同各理由については理由がない。
次に、請求人の主張する無効理由3について、すなわち、請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか否か検討する。
請求人が提出した甲第3号証及び甲第6号証に記載された事項は、上記「(3)、(3.2)」の「ア 引用刊行物の記載事項」のとおりであり、甲第4号証、甲第5号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された事項は、下記「第3、4、4.3、(2)、(2.2)」の「ア 刊行物に記載された事項」のとおりである。
しかしながら、上記いずれの証拠にも、炭化方法において、本件訂正発明6の構成要件である「前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いること」及び本件訂正発明7の構成要件である「前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いること」については記載されていない。
そうすると、審判請求人が提出した上記各証拠を検討しても、引用刊行物1発明において、「前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いること」又は「前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いること」を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件訂正発明6及び7は、請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に本件訂正発明6及び7について独立特許要件を満たさないとすべき理由を発見しない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明6及び7について独立特許要件を満たすものである。

4.3 むすび
以上のとおり、訂正事項1a?2oについては、特許法第134条の2第1項ただし書で規定する要件及び同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項で規定する要件に適合するものであるから、訂正を認める。
本件訂正発明5-1は、無効審判請求がなされておらず、かつ、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する特許法第126条第5項の規定に適合しないので、訂正後の請求項1を引用する請求項5についての訂正は認められない。一方、本件訂正発明2、4、本件訂正発明5-2、6及び7、は、無効審判請求がなされておらず、かつ、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第134条の2第1項及び第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合し、請求項2及び4についての訂正、訂正後の請求項2?4を引用する請求項5についての訂正、請求項6及び7についての訂正は認める。
すなわち、明細書の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5についての訂正を除いて訂正を認める。

第3 本件特許発明について
1 訂正後の本件特許発明
上記の結果、本件請求項1?7に係る発明は、本件訂正明細書の記載からみて、以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項2】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項3】可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項4】可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項5】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から着火させ、前記投入口側で乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、
可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法、又は
可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法において、
前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法。
【請求項6】 請求項1、2、3または4記載の炭化方法において前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法において、前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする炭化方法。
【請求項7】 請求項1、2、3または4記載の炭化方法において前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法、又は請求項1、2、3または4記載の炭化方法において前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法において前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする炭化方法において、前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いることを特徴とする炭化方法。」

2 請求・答弁の趣旨・当事者の主張の概要・当事者が提出した証拠方法
2.1 本件審判の請求の趣旨並びに請求人が主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法
(1)審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を
「特許第3364065号の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」
として、概略以下の無効理由1?3を主張し、証拠方法として甲第1?15号証を提出した。
ア 【無効理由1】
本件訂正発明1及び3は、産業上の利用することができる発明ではないから、特許法第29条第1項柱書の規定により特許を受けることができない。また、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に適合せず、また、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものだから、同法第123条第1項第2号に該当し、また、特許法第36条の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当する。
イ 【無効理由2】
本件訂正発明1及び3は、甲第1号証の特許公報に示された特許第3272182号の請求項1及び3に係る先願特許発明(以下、「先願特許発明1及び3」という。)と同一であるから、本件訂正発明1及び3についての特許は特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。
ウ 【無効理由3】
本件訂正発明1及び3は、その出願前日本国内又は外国において頒布された甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。

(2)請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は、以下のとおりである。
ア 審判請求書で提出した証拠方法
甲第1号証 特許第3272182号公報
甲第2号証 製造販売禁止等請求事件の訴状(東京地方裁判所 事件番号:平成21年(ワ)第19013号、平成21年6月8日付け)
甲第3号証 特開昭51-148701号公報
甲第4号証 特開昭57-111380号公報
甲第5号証 「化学大辞典」(株式会社東京化学同人、1989年10月20日発行、第1版第1刷、1359頁)
甲第6号証 特開昭51-26627号公報
甲第7号証 特開平6-42876号公報
甲第8号証 特許第3364065号公報
イ 弁駁書(平成22年3月17日付け)で提出した証拠方法
甲第9号証 「広辞苑」(株式会社岩波書店、2008年1月11日発行、第6版第1刷、1807頁及び1939頁)
甲第10号証 「炭のすべてがよくわかる 炭のかがく」(株式会社誠文堂新光社、2004年6月10日発行、6頁?21頁、34頁?43頁、80頁?90頁及び116頁?121頁)
ウ 口頭審理陳述要領書(平成22年6月8日付け)で提出した証拠方法
甲第11号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所民事第29部B係宛て意見書(平成21年11月6日付け)
甲第12号証 「機械工学基礎講座 燃焼工学 -基礎と応用-」(理工学社、2008年2月28日発行、第1版第16刷、16頁?25頁、106頁?109頁)
甲第13号証 特開平7-124466号公報
甲第14号証 フリー百科事典「Wikipedia」([online],平成22年5月21日検索、インターネットURL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%AB%E3%83%B3
ロータリーキルンの一般的な構成が記載されたホームページ
甲第15号証 「JIS工業用語大辞典」第3版(財団法人日本規格協会、1991年11月20日発行、第3版第1刷、12頁及び1980頁)

3 答弁の趣旨・被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をしている。
そして、被請求人の提出した証拠方法は、以下のものである。
ア 答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証 信州大学繊維学部准教授 高橋伸英氏作成の東京地方裁判所民事第29部B係あて意見書(平成21年11月6日付け)
イ 訂正拒絶理由通知に対する意見書(平成22年8月19日付け)で提出した証拠方法
乙第2号証 株式会社アスカムのホームページ中におけるセラミック炭の説明 (http://www.ascam.net/ceramic.html)
乙第3号証 イー・スペース株式会社のホームページ中におけるセラミック炭の説明(http://www.e-space18.com/construction/item/item01.php)
乙第4号証 やまぐちエコ市場WEBにおけるセラミック炭の説明
(http://eco.pref.yamaguchi.lg.jp/ecoichiba/index.php?m=details_matching_no2_block&category=2&cid=50)
乙第5号証 「メッシュ【mesh】」の説明
乙第6号証 yahoo百科事典 「メッシュ」の説明
(http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5/)
乙第7号証 「れんたん【練炭・煉炭】」の説明
乙第8号証 関ベン鉱業株式会社のホームページにおける、ベントナイトを練炭・豆炭に混合させることについての説明(http://www.kunimine.co.jp/group/kanben/ipann.html)
乙第9号証 株式会社ノリタケのロータリーキルンカタログ
乙第10号証 アルファ株式会社のロータリーキルンカタログ

4 当審の判断
当審は、上記無効理由1及び2は理由がないと判断する。無効理由3については、本件訂正発明1については理由があると判断し、本件訂正発明3については理由がないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

4.1 無効理由1について
(1)請求人の主張
無効理由1について、請求人の主張の具体的な理由は、以下のとおりである。
ア 無効理由1a 「自然法則からすると、無機質粘結材で被覆された可燃物を燃焼させることは不可能であり、そうすると、『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」(審判請求書第8頁10行?13行)
イ 無効理由1b 「『無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出』するのであれば、同様に、外部の酸素も内部に入り込める訳であるから、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項3の『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」(弁駁書第5頁16行?20行)
ウ 無効理由1c 「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」(弁駁書第5頁22行?24行)

(2)無効理由1についての当審の判断
ア 請求人の主張する無効理由1aについて
本件訂正明細書には、次の記載がある。
「炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、最終的に炭化物が排出口14から排出されるのである。従って、この炉部10を用いれば、粒状の原料を連続的に送り、炭化物を連続的に排出でき、工業的に大量の炭化物を効率良く生産できる。」段落【0012】
「16はバーナーであり、排出口14に対向して配設されている。このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。燃焼空気の流れは、原料が送られる方向と反対方向になる。」(段落【0013】)
「点火は排出口に対向して設けられたバーナー16によってなされる。バーナー16は、連続的に送られる前記原料が連続して炭化(燃焼)されるように、放射される炎の強さが調整される。原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。原料は排出口14側で燃焼され、投入口12側では原料が燃焼することで発生する熱気が、バーナー16による送風と共に熱風となり、原料を効率良く乾燥できる。原料を乾燥するためのエネルギーを節約できる。前記原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、ガス化した燃焼物は燃えるが、炭素の酸化は抑制される。このため、通常、燃焼温度は700?800°C程度に抑制される。」(段落【0021】)
「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。」(段落【0024】)
上記のように本件訂正明細書には、「このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。」(段落【0013】)、「原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。」(段落【0021】)とあり、原料を構成する可燃物については、「本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻・・・固体で燃えるもの全般を意味する」(段落【0024】)とある。
一方、固体の燃焼については、被請求人の提出した乙第1号証に固体燃料の燃焼形態として分解燃焼が挙げられており、「蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料では、蒸発の前に燃料の熱分解が生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)中の可燃性ガス成分が、気相中で酸素と燃焼反応を生じることにより火炎が形成される。」(第1頁19行?22行)とあって、本件訂正明細書に記載された、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻等の可燃物は、蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料であると認められるから、「原料の主にガス成分を燃焼させる」とは、固体である可燃物が熱分解により分解生成ガスを発生し、この分解生成ガスが燃焼すると解するのが自然である。
そして、本件訂正発明1及び3では、出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆し、その後、投入口側で原料を乾燥させ、排出口側で焼成している。そうすると、出発原料を構成する可燃物は所定温度まで加熱されると、熱分解により揮発成分が発生し、そして可燃物の表面に被覆されている無機質燃結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部へ噴出し、噴出した揮発成分中の可燃性成分が燃焼(分解燃焼)すると認められる。原料の主にガス成分を燃焼させるとは、このことを指すとするのが相当である。また、可燃物がベントナイト等の不燃物で被覆されていることにより、可燃物は酸素との接触が阻害され、酸化は抑制されるものと認められる。
したがって、「『可燃物が不燃物で被覆されていることにより、酸化を抑制しつつ焼成』するといったこと自体に矛盾をはらみ、意味不明であって、自然法則からしてあり得ないことである。」とすることはできない。

イ 請求人の主張する無効理由1bについて
被請求人の提出した乙第1号証には、「II炭化について」で「炭化とは、熱分解により揮発成分を固体中から追い出し、固体中の炭素の含有率を増加させるプロセス、あるいはその現象のことを一般的に指す。
通常は、酸素を遮断し、不活性雰囲気下で加熱することにより炭化を行うが、空気中でも加熱・燃焼中に酸素の供給が不完全であれば炭化する。」(第2頁16行?17行)と記載されており、無機質粘結材粒子間の間隙や亀裂から揮発成分が外部に噴出するのであれば、逆に外部の酸素も内部に入り込めるが、酸素の供給が不完全であれば炭化する、すなわち、可燃物の酸化が抑制されるものと認められる。
したがって、「『前記無機質粘結材で被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して』ということはあり得ない。」とすることはできない。

ウ 請求人の主張する無効理由1cについて
請求人は、また、「揮発成分が外部に噴出するような間隙や亀裂が発生した場合には、該揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するはずである。」との主張をしているが、「被覆されている無機質粘結材は飛散する」との主張は、無機質粘結材が飛散することの根拠が明らかでなく、当業者の技術常識的にも揮発成分が噴出する際に可燃物の表面に被覆されている無機質粘結材は飛散するとはいえない。

(3) 無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び3は、産業上利用することができる発明であり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、また、本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。
したがって、審判請求人の主張する無効理由1については、理由がない。

4.2 無効理由2について
(1)請求人の主張
請求人の無効理由2についての主張は、「本件訂正発明1及び3は、先願特許発明1及び3の構成要件の全てを充足するものであり、両者は互いに同一である。すなわち、本件特許は特許法第39条第1項の規定に反して登録されたものである。」(審判請求書第9頁下から2行?第10頁1行)というものである。

(2)無効理由2についての当審の判断
ア 本件訂正発明1について
(ア) 本件訂正発明1及び先願特許発明1
本件訂正発明1は、次のとおりである。
「可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
一方、先願特許発明1は、先願特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を成形することなく、ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成することを特徴とする炭化物の製造方法。」

(イ) 本件訂正発明1と先願特許発明1との対比
そこで本件訂正発明1と先願特許発明1とを対比する。
本件訂正明細書には、「表面を無機質粘結材で被覆された可燃物あるいは可燃物を含む物の粉末、粒子と無機質骨材の混合体を焼成して炭化物を製造する際、または、表面を無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆された可燃物あるいは可燃物を含む物の粉末、粒子と無機質骨材の混合体を焼成して炭化物を製造する際にも好適に利用できるのである。」(段落【0023】)とあり、本件訂正発明1において、出発原料は、実質的に粉末又は粒子であるから、後者の「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、」は、前者の「可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、」に相当し、後者の「該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、」及び「該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、」は前者の「該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、」及び「該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、」に相当する。そして、本件訂正発明1において、原料は焼成する前に特に成形してはいないから、後者の「成形することなく」して得られた原料は、前者の「原料」に相当する。また、ロータリーキルンは、筒状の炉部を有する炭化炉であり、先願特許発明1において、「酸化雰囲気中で炭化物に焼成すること」とは、実質的に「大気に開放された」状態で焼成することであり、先願特許発明1の原料もベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して得られたものだから、焼成の際には、無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成する点において異なるものではなく、焼成の際に燃焼するものは、熱分解により可燃物から生成した分解生成ガスであると認められる。そうすると、後者の「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」は、前者の「大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内で原料のガス成分に着火および燃焼させ」に相当する。
そして、先願特許発明1の「炭化物の製造方法」も「可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」に外ならず、後者の「炭化物の製造方法」は、前者の「可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」に相当する。
そうすると、両者は、
「可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉で前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
前者では、「炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で焼成」すると特定されているのに対して、後者では、そのような特定がなされていない点

(ウ)相違点についての当審の判断
上記相違点について検討する。
先願特許明細書において、ロータリーキルンの構造についての記載はない。焼成条件については、段落【0012】に、「[焼成条件]焼成温度は700前後の温度で十分である。焼成雰囲気は酸化?還元雰囲気いずれでもよい。本発明は酸化焼成できるところに最大の特徴がある。焼成はロータリーキルンを使って1?10分程度の短時間で所定温度に加熱して急速焼成して大気中に取り出して放冷するのが最も経済的である。」と記載されているだけである。
本件訂正発明1における「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」とは、原料の送り方向とは反対方向からバーナー等何らかの手段により原料を着火燃焼させるものと認められる。しかしながら、先願特許発明1における発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」には、例えば、原料の送り方向からバーナー等で加熱して原料を焼成する(特開平6-330045号公報参照)等、「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ」る以外の手段が含まれる。
したがって、先願特許発明1の発明特定事項である「ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成する」と、本件訂正発明1の発明特定事項である「原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、」とは、実質的な相違であって、他の発明特定事項の異同につき検討するまでもなく、本件訂正発明1は、先願特許発明1と同一の発明であるとすることはできない。

イ 本件訂正発明3について
(ア) 本件訂正発明3及び先願特許発明3
本件訂正発明3は、以下のとおりである。
「可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」
一方、先願特許発明3は、先願特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された次のとおりのものである。
「粉末状もしくは粒状をなす、可燃物あるいは可燃物を含む物と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水分を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を成形することなく、ロータリーキルン中にて酸化雰囲気中で炭化物に焼成することを特徴とする炭化物の製造方法。」である。

(イ) 本件訂正発明3と先願特許発明3との対比・判断
そこで本件訂正発明3と先願特許発明3とを対比する。
本件訂正発明3は、本件訂正発明1において、可燃物あるいは可燃物を含む材料にさらに無機質骨材を加えて出発原料としたものである。また、先願特許発明3は、先願特許発明1において、可燃物あるいは可燃物を含む物にさらに無機質骨材を加えて出発原料としたものである。
そうすると、本件訂正発明3と先願特許発明3との相違点は、実質的に本件訂正発明1と先願特許発明1との相違点と異ならないから、上記「ア 本件訂正特許発明1について」の「(ウ)相違点についての当審の判断」でした理由と同様の理由で本件訂正発明3は、先願特許発明3と同一の発明であるとすることはできない。

(3)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、審判請求人の主張する無効理由2については、理由がない。

4.3 無効理由3について
(1)請求人の主張の概要
請求人の主張は、「本件訂正発明1及び3は、甲第3号証、甲第4号証及び甲第6号証、甲第7号証に記載の発明に基づいて特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当する。」(審判請求書第11頁28行?30行)というものである。

(2)無効理由3についての当審の判断
(2.1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1及び本件訂正発明5-1(本件訂正発明1を引用する本件訂正発明5)の内容
本件訂正発明1は、「第3」の「1 訂正後の本件特許発明」に記載された事項により特定されるとおりのものである。
一方、本件訂正発明5-1は、上記「第2、4、4.2、(3)」の「(3.1)本件訂正発明5の内容について」の記載からみて、
「可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法において、
前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする炭化方法。」
である。

イ 刊行物に記載された事項
刊行物1及び2に記載された事項は、上記「第2、4、4.2、(3)、(3.2)」の「ア 引用刊行物の記載事項」のとおりである。

ウ 引用発明
引用刊行物1発明は、上記「第2、4、4.2、(3)、(3.2)」の「イ 刊行物1に記載された発明」に記載したとおりである。

エ 本件訂正発明1と引用刊行物1発明との対比及び相違点についての判断
本件訂正発明5-1は、本件訂正発明1の「炭化方法」について、「前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であること」と限定したものである。
そうすると、本件訂正発明1の構成要件の全てを含み、さらに限定したものに相当する本件訂正発明5-1が、上記「第2、4、4.2、(3)、(3.2)」の「ウ 本件訂正発明5-1と引用刊行物1発明との対比」及び「エ 上記相違点1?5についての判断」に記載したとおり、刊行物1及び2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1も、同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2.2)本件訂正発明3について
ア 刊行物に記載された事項
刊行物1(甲第3号証)及び刊行物2(甲第6号証)に記載された事項は、上記「第2、4、4.2、(3)、(3.2)」の「ア 引用刊行物の記載事項」のとおりである。
甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証、甲第9号証?甲第15号証に記載された事項は次のとおりである。
(ア)甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4a)「(1)有機質原料として、微生物性、植物性または動物性生体物質を含有する沈積物または塵芥を使用し、空気を遮断して徐々に転化温度200?600℃に原料を加熱し、発生するガスと蒸気とを適当なガス分離装置および液体分離装置を通して導びき、ガスおよび蒸気の発生が実質的に終了するまで転化温度を維持して固体転化残渣、ガスおよび液体を分離することを特徴とする、有機質原料から高温加熱下に固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法。」(特許請求の範囲)
(4b)「本発明に従つて、有機物質を含有する沈積物または塵芥の微生物性、植物性または動物性の生体物質を空気を遮断した転化温度200?600℃の範囲に徐々に加熱し、加熱の際に気化するガスと蒸気とを適当なガス分離装置および液体分離装置を通して導びき、ガスおよび蒸気の発生が実質的に終了するまで転化温度を維持して固体転化残渣、ガスならびに液体を分離することにより前記課題を解決する方法が見出された。」(第2頁左下欄11行?19行)
(4c)「有機質出発原料に加熱前に転化触媒を予じめ混合しておくと都合がよい。触媒としては酸化アルミニウム・・・または遷移金属酸化物ならびにこれらの混合物を使用することができる。遷移金属酸化物としては酸化チタン・・・を使用することが望ましいが、酸化アルミニウム、モンモリロナイト、酸化アルミニウムと酸化銅との混合物、酸化アルミニウムと五酸化バナジウムとの混合物および酸化アルミニウムと酸化ニツケルとの混合物が特に好ましい触媒であることが分つた。」(第2頁右下欄5行?末行)
(4d)「転化温度は200?400℃の範囲が好都合であるが、とくに好ましくは250?350℃の範囲であり、さらに好ましくは280?330℃の範囲であり、最適温度は約300℃である。」(第3頁左上欄1行?4行)(4e)「実施例 4
乾燥バクテリア塊(Streptomyces種)100gを無水モンモリロナイト5gと空気を遮断して350℃に2時間加熱した。油47gおよび固体状炭含有生成物34gを得た。
油:C 62%;H 12.5%;N 3.2%;S 0.3%;燃焼熱7800Kcal/Kg
固体状炭含有残渣:C 52%;H 1.5%;N 3.2%;S 0.5%;残渣 30.7%;燃焼熱 5100Kcal/Kg」(第4頁左下欄6行?14行)
(イ)甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「炭化[carbonization] 炭化水素その他の有機化合物が高温度で分解し、水素や低分子量の気体分解生成物を発生しながら、炭素質の固体状生成物を与える変化をいう。」(第1359頁左欄下から4行?2行)
(ウ)甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(7a)「【産業上の利用分野】本発明は、被処理材料の充填率を高め生産能力を大幅に高めた、各種材料に焼成、焙焼、乾燥等の熱処理を施す間接加熱式回転加熱炉に関する。」(段落【0001】)
(7b)「回転炉10は、駆動機構(図示せず)に連結されている駆動ギヤ21によって回転される。このとき、回転炉10としては、蒸発不純物の少ない材質を使用するのが好ましく、たとえば、シリカを焼成する場合、シリカと同じ成分をもつ石英管などを使用する。」(段落【0018】)
(エ)甲第9号証に記載された事項
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
(9a)「ちゃっか 【着火】火をつけること。火がつくこと。点火。」(第2欄後ろから8行?7行)
(オ)甲第10号証に記載された事項
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
「c・ロータリーキルン法
回転する円筒型窯を用いる方法で、これも主に鋸屑を炭材にしている。熱源は外熱型で、外部から加熱する方法と内部に熱風を送り込む方法とがあるが、収炭率は低い。」(第9頁3行?6行)
(カ)甲第11号証に記載された事項
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
(11a)「2(審決注:○中の2) 分解燃焼
蒸発温度が分解温度よりも高い高分子の固体燃料では、蒸発の前に燃料の熱分解が生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)中の可燃性ガス成分が、気相中で酸素と燃焼反応を生じることにより火炎が形成される。」(第1頁18行?22行)
(キ)甲第12号証に記載された事項
甲第12号証には、以下の事項が記載されている。
(12a)「(4)木炭(charcoal) 木材を乾留してつくられる発熱量が28?31MJ/kgの固体燃料が木炭で、・・・黒炭はクヌギ、ナラ、マツなどの軟木を原料とする木炭で、乾留温度は970?1070Kである.」(第21頁14行?19行)
(12b)「2.分解燃焼
分解燃焼は、分解温度が沸点よりも低い高分子の固体燃料が気相中に火炎をともなって燃焼する場合に観察される燃焼形態である。この燃焼では燃料の熱分解が蒸発の前に生じ、発生した分解生成ガス(水素、一酸化炭素、炭化水素、アルデヒド、アルコールなどの可燃性ガスと、水蒸気、二酸化炭素などの不燃性ガスの混合気)が、気相中で酸素と反応することによって火炎が形成される.」(第107頁下から4行?第108頁2行)
(ク)甲第13号証に記載された事項
甲第13号証には、以下の事項が記載されている。
(13a)「【請求項1】 珪藻土、セピオライト、ゼオライトのような細孔容量が多く比表面積の大きい鉱物の粉砕物に、有機質の粉体または有機質の液体と混合し、乾留炭化後水蒸気で賦活することを特徴とする吸着剤の製造方法。
【請求項2】 前記乾留炭化工程と賦活工程とを外熱式ロータリーキルンを用いて連続的に行うことを特徴とする請求項1記載の吸着剤の製造方法。」(特許請求の範囲)
(ケ)甲第14号証に記載された事項
甲第14号証には、以下の事項が記載されている。
(14a)「セメント製造に使用されるロータリーキルンの構造を下に示す。

現在セメント工場で一般に使用されているロータリーキルンは、直径4?6m、長さ60?100m、傾斜3?4%、回転数2?4rpm、内部の温度は右端の入り口で400℃、図でFlameと示されている部分の最高温度は1、450℃に達する。燃料は重油やガスが使用される。キルン内では原料はゆっくり回転しながら徐々に送られる。セメント製造の場合約30分間滞留している。」(「構造」の項)
(コ)甲第15号証に記載された事項
甲第15号証には、以下の事項が記載されている。
(15a)「ロータリーキルン rotary kiln
内部装入物を転動によって軸方向に移動させ、ガスとの熱交換によって加熱する、傾斜した回転円筒形の装置。・・・
ロータリーキルン rotary kiln
一方から原料を挿入して、他方から連続的に取り出すこう配をつけた円筒状回転炉。」
(第1980頁右欄第6行?13行)

イ 本件訂正発明3と引用刊行物1発明との対比・判断
(ア)本件訂正発明3と引用刊行物1発明との対比
本件訂正発明3は、本件訂正発明1において、可燃物あるいは可燃物を含む材料にさらに無機質骨材を加えて出発原料としたものである。
そうすると、本件訂正発明3は、本件訂正発明1と引用刊行物1発明との相違点に加えて、次の点で相違する。
(a)本件訂正発明3においては、「可燃物あるいは可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし」と特定しているのに対し、引用刊行物1発明においては、無機質骨材を出発原料とすることは特定していない点(以下、「相違点6」という。)
(イ)本件訂正発明3と引用刊行物1発明との相違点についての判断
本件訂正発明1と引用刊行物1発明との相違点についての判断は、上記「(2.1)」の「エ 本件訂正発明1と引用刊行物1発明との対比及び相違点についての判断」で検討したとおりである。
そこで次に、相違点6について検討する。
甲第3号証には、パルプ廃滓をロータリーキルンにて炭化処理して粒状化する点について記載されているが(摘記(3a))、可燃物であるパルプ廃滓に無機質骨材を加えて出発原料にする点については記載されていない。
甲第4号証には、有機質原料として、微生物性、植物性または動物性生体物質を含有する沈積物または塵芥を使用し、空気を遮断して徐々に転化温度200?600℃に原料を加熱し、有機質原料から高温加熱下に固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法が記載されている(摘記(4a))。有機質原料は可燃物であるが、この方法は、有機質原料から高温加熱下に固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法であって、具体的実施例である実施例4においても有機質原料である乾燥バクテリア塊を空気を遮断して350℃に2時間加熱して油及び固体状炭含有生成物を得ており、大気に開放された状態で原料を加熱するものではなく、また、固体状、液体状およびガス状燃料を得る方法であって、無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、可燃物を炭化させるものでもない。
そうすると、たとえ微生物性、植物性または動物性生体物質を含有する沈積物または塵芥に無機質骨材が含有されているとしても加熱・炭化方法が全く異なるものであるから、引用刊行物1発明に適用できるものではない。
甲第6号証には、パルプ廃滓をロータリーキルンにて炭化処理を施して粒状化する点について記載されているが(摘記(6a))、可燃物であるパルプ廃滓に無機質骨材を加えて出発原料にする点については記載されていない。
甲第5号証には、「炭化」について(摘記(5a))、甲第7号証には、「間接加熱式回転加熱炉」について(摘記(7a))、甲第9号証には、「着火」について(摘記(9a))、甲第10号証には、「ロータリーキルン法」について(摘記(10a))、甲第11号証には、「分解燃焼」について(摘記(11a))、甲第12号証には、「木炭」及び「分解燃焼」について(摘記(12a)及び(12b))、甲第13号証には、「珪藻土、セピオライト、ゼオライトのような細孔容量が多く比表面積の大きい鉱物の粉砕物に、有機質の粉体または有機質の液体と混合し、乾留炭化後水蒸気で賦活することを特徴とする吸着剤の製造方法。」について(摘記(13a))、甲第14号証には、「セメント製造に使用されるロータリーキルンの構造」について(摘記(14a))及び甲第15号証には、「ロータリーキルン」について(摘記(15a))記載されている。
しかしながら、上記いずれの証拠にも、炭化方法において、可燃物であるパルプ廃滓に無機質骨材を加えて出発原料とすることは記載されていない。
そうすると、審判請求人が提出した上記各証拠を検討しても、引用刊行物1発明において、相違点6である可燃物であるパルプ廃滓に無機質骨材を加えて出発原料とすることを当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件訂正発明3は、請求人が提出した証拠である甲第3号証?甲第7号証及び甲第9号証?甲第15号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、無効理由3については、本件訂正発明1については理由があり、本件訂正発明3については理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第3号証、甲第6号証に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件訂正発明3については、無効審判請求人の主張する無効理由1?3のいずれも理由がなく、その特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。

平成22年10月27日

審判長 特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
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〔審決分類〕P1123.121-ZD (C10B)
1
536
537
4
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審判長 特許庁審判官 井上 雅博 8516
特許庁審判官 柳 和子 7508
特許庁審判官 松本 直子 9546
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭化方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項2】木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項3】木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項4】木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。
【請求項5】前記炭化炉での焼成温度が700℃?800℃であることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の炭化方法。
【請求項6】前記炉部が、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とからなる炭化炉を用いることを特徴とする請求項5記載の炭化方法。
【請求項7】前記炉部が長手方向に複数に分割可能に設けられた炭化炉を用いることを特徴とする請求項5または6記載の炭化方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は可燃物を炭化させるための炭化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、炭焼きのように可燃物を炭化するには、閉塞性のある燃焼空間内に可燃物をプールし、ガス成分を燃焼させている。この方法は、いわば閉塞式の炭化炉であり、炭化炉内への酸素の供給量を抑制することで、炭化した可燃物がさらに酸化して灰にならないようにすると共に、閉塞式のため、炭化炉内の温度を高温に維持でき、ガス成分を木材の芯等の可燃物にかかる内部からも抜き出すことができ、可燃物を効率良く炭化させることができるのである。
ところで、本願出願人は、背景技術として、「可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、該原料の表面をベントナイト等の無機質粘結材で被覆して焼成すると、可燃物を酸化雰囲気で焼成しても灰になるまで燃焼せずに炭化させることができる」という炭化物の製造方法を提案している。この方法によれば、可燃成分が無機質粘結材の微粒子で被覆されることによって酸化が抑制されるためと推察される。この効果は、無機質粘結材と水溶性糖類を同時に被覆するときに、さらに向上する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の閉塞式の炭化炉では、木材等の大型の可燃物から炭を作る際には有効であるが、可燃物を炭化炉内に一旦プールするため、時間的な効率が悪かった。従って、大量の炭化物を工業的に生産するには適さないという課題があった。また、可燃物をプールしてガスを燃焼させるため、炭化炉内が高温になり、炉の内壁をセラミック等の耐熱材で形成する必要があり、工業的に利用できる炭化炉を製作するコストおよび保守するコストが高くなってしまうという課題があった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、可燃物から炭化物を工業的に効率良く生産することが可能である炭化炉を提供することにある。さらに、炭化炉自体の製作コストおよび保守コストを低減することにもある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
すなわち、本発明にかかる炭化方法は、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする。
【0006】
また本発明にかかる炭化方法は、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料を出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする。
【0007】
また本発明にかかる炭化方法は、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする。
【0008】
また本発明にかかる炭化方法は、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料と無機質骨材とを出発原料とし、該出発原料に水を添加し、もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し、該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材および水溶性糖類とを混練して原料の表面を該無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆して、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して、前記可燃物を炭化させることを特徴とする。
【0009】
前記炭化炉での焼成温度を700℃?800℃とすることができる。また、前記炉部を、金属材からなる筒状の内筒部材と、金属材からなり、前記内筒部材が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材よりも大径に設けられた筒状の外筒部材と、前記内筒部材と外筒部材との間隙に設けられた断熱材層とで構成することができる。また、前記炉部を長手方向に複数に分割可能に設けると好適である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる好適な実施例を添付図面と共に詳細に説明する。
図1は本発明による炭化炉の一実施例を示す側面図であり、図2は図1の実施例のX-X断面図、図3は炉部の詳細を説明する断面図である。
10は炉部であり、表面を無機質粘結材で被覆した可燃物或いは可燃物を含む材料を原料とし、その原料の可燃物を炭化させて炭化物を連続的に効率良く生産するために、両端が開放された筒状に形成されている。従来の閉塞式の炭化炉とは異なり、筒状の炉部10の両端は開放しており、いわば開放式の炭化炉である。なお、原料は、炉部10内で送り易いように、粒状であるとよい。
【0011】
また、この炉部10は、長手方向に複数に分割可能に設けられている。すなわち、複数の単位筒状炉10a、10a、・・・が連結されて炉部10が形成されている。単位筒状炉10aは、両端にフランジ11、11が形成されており、このフランジ11を利用して螺子等で長手方向に連結され、筒状に長い炉部10が形成される。このように構成されているため、容易に製作でき、保守保全(メンテナンス)を容易に行うことができる。燃焼部等の老朽化し易い部分は、消耗品として部分的に交換できる。もしも、筒状に長い炉部10を一体に設けるとすれば、変形してしまうなど、製作が困難であると共に、炉部10内の清掃等のメンテナンスを行うことも困難である。
【0012】
炉部10は筒状に長く形成されており、その長さによって、原料を乾燥させる乾燥部A、着火および燃焼させる部分である炭化部Bを好適に設けることができる。また、炉部10の軸心を中心にする回転動と、後述する螺旋状の送り手段によって、原料を炉部10内を通って投入口12から排出口14へ送ることができる。炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され、中途部で着火され、他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて、最終的に炭化物が排出口14から排出されるのである。
従って、この炉部10を用いれば、粒状の原料を連続的に送り、炭化物を連続的に排出でき、工業的に大量の炭化物を効率良く生産できる。
【0013】
16はバーナーであり、排出口14に対向して配設されている。このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して、原料の主にガス成分を燃焼させる。燃焼空気の流れは、原料が送られる方向と反対方向になる。この燃焼空気(加熱乾燥空気)が炉部10内を吹き抜けることによって、後から順次送られてくる原料を好適に乾燥させることができる。原料から発生したガス成分を燃焼させた熱を有効に利用できる。従って、水分を含んだ原料でも好適に乾燥して炭化でき、効率良く炭化物を得ることができる。なお、例えばもみ殻を主材とする原料のような、原料が最初から乾燥している場合にあっては、乾燥部Aの区間を短く設ければよい。
18は煙突であり、排気ガスが排出される。原料を乾燥する際に発生する悪臭を消すには、この煙突18の部分にアフターバーナーを設置すればよい。
原料が投入される投入口12は、原料を供給し易いように、ホッパー状に設けられている。
【0014】
20は駆動ローラーであり、基台22に回転自在に装着され、駆動装置の一例であるモーター24によってチェーン機構25を介して回転駆動される。また、駆動ローラー20は炉部10の単位筒状炉10a、10a同士が連結されたフランジ11の外周側面に当接し、炉部10が軸心を中心に回転できるように支持している。
26は従動ローラーであり、図2に示すように一対で炉部10を支持すると共に、炉部10を、その軸心を中心に回転させることができるように回転自在に設けられている。
従って、モーター24の駆動力によって駆動ローラー20を回転すると、筒状の炉部10を、軸線を中心に回転させることができる。なお、上記の構成からなる回転駆動装置に限らず、歯車機構、ベルト機構、減速機構等を組み合わせて、適宜構成できるのは勿論である。
【0015】
次に炉部10の詳細について説明する。
炉部10は、金属材からなる筒状の内筒部材28と、金属材からなり、内筒部材28が内部に挿入されて二重筒を形成するために内筒部材28よりも大径に設けられた筒状の外筒部材30と、内筒部材28と外筒部材30との間隙に設けられた断熱材層32とから成る。
金属材としては、耐熱性および耐腐食性の良好な材質を選択的に採用できるが、例えば、ステンレススチール(SUS)材を用いることができる。
【0016】
断熱材層32の一例としては、セラミックファイバーを粘着材で硬化させたものを利用することができる。断熱材層32を設けるのは、金属材からのみなる炉部では放熱性が高く、燃焼温度を維持することが難しいことによる。なお、炉部10の内部を保温をするには外筒部材30の外側を断熱材で巻いてもよい。
図3に示すように、33はピンであり、外筒部材30の内壁面から内側方向へ突起しており、断熱材層32が移動することを防止している。このピン33はスタッド溶接等によって外筒部材30の内壁面に固定して設けることができる。このようにピン33を配するのは、特に内筒部材28と外筒部材30が温度変化によって収縮し、断熱材層32が移動し易いためである。
【0017】
内筒部材28の内部には、前記原料を投入口12から排出口14へ送るための螺旋状の送り羽根(スクリュー)であるスパイラル34が固定されている。スパイラル34は、単位筒状炉10aの内筒部材28および外筒部材30の長さと略同一の長さに設定されている。すなわち、スパイラル34も炉部10の長手方向に多数に分割されている。単位筒状炉10aを連結した際にスパイラル34の螺旋が連続した状態にならない場合がある。例えば、隣合うスパイラル34の角度位置がずれた状態で、隣合う単位筒状炉10a、10a同士が連結された場合であるが、そのように連結されても、各スパイラル34が原料を送れる方向に統一されて配されている場合には、各単位筒状炉10aに設けられたスパイラル34は、原料を送るように作用できるため、機能的な不都合はない。
【0018】
また、炉部10の原料を乾燥させる乾燥部A、および原料のガス成分が燃焼される部分に位置するスパイラル34には、粒状の原料を持ち上げるためのかき上げ羽根35をつけるとよい。
乾燥部Aでは、かき上げ羽根35によって原料をかき上げるようにして持ち上げて自然落下させることで、原料をバーナー16によって送風される加熱乾燥空気の流れに好適に当てることができ、原料の乾燥を効率良く行うことができる。
また、原料のガス成分が盛んに燃焼される部分では、かき上げ羽根35により原料をかき上げてかき混ぜることで、原料に空気を十分に当てて均一に燃焼させることができる。
なお、原料から発生する炎が小さくなり、原料を炭化させる炭化部Bでは、原料をかき上げないほうがよく、上記のようなかき上げ羽根を設ける必要はない。
【0019】
次に炉部10の内筒部材28にかかる取付構造の詳細を図3に基づいて説明する。
また、内筒部材28は周方向に複数に分割されている。すなわち、複数の断面弧状の部位を備える分割筒材38が組み合わされて形成されている。
分割筒材38は、断面弧状の部位38aを備える共に、その両側部に隣合う分割筒材38と連結するための連結部38bを備えている。
複数の分割筒材38は、当接された連結部38b、38b同士が固定片40の挟持部40aによって挟持されることで、筒内壁面を形成するように固定されている。具体的には、金属板を折り曲げて形成された挟持部40aがかしめられて固定されている。また、固定片40は支持片部40bで外筒部材30の内部に固定されており、複数の分割筒材38からなる内筒部材28を外筒部材30の内部に支持している。固定片40は、内筒部材28に対して、その全長に設けられる必要はなく、複数の分割筒材38で内筒部材28を形成でき、外筒部材30の内部に内筒部材28を支持できるのであれば、部分的または断続的に設けられていてもよい。また、この固定片40は、特に支持片部40bで断熱材層32が移動することを防止できる。
【0020】
次に上記の構成からなる炭化炉の作用について使用方法と共に説明する。
前記原料が、投入口12から投入されると、炉部10の回転と共に回転するスパイラル34、34aの作用で排出口へ向かって移動される。詳細には、モーター24の駆動力によって駆動ローラー20が回転することによって炉部10が回転される。これにより、最も投入口12側の単位筒状炉10aに固定され、供給ボックス13内に突出されたスパイラル34aが回転し、供給ボックス13内に投入された原料を送る。同様に各単位筒状炉10a内に固定されたスパイラル34が原料を、投入口12から排出口14に向かって送る。炉部10と供給ボックス13とは分離しており、炉部10は回転自在に配設されているが、原料が炉部10と供給ボックス13との隙間から脱落しないように、カバー42が設けられている。
【0021】
点火は排出口に対向して設けられたバーナー16によってなされる。バーナー16は、連続的に送られる前記原料が連続して炭化(燃焼)されるように、放射される炎の強さが調整される。原料の種類によっては、原料自らの特にガス成分の燃焼で、バーナー16は送風だけでよい場合もある。
原料は排出口14側で燃焼され、投入口12側では原料が燃焼することで発生する熱気が、バーナー16による送風と共に熱風となり、原料を効率良く乾燥できる。原料を乾燥するためのエネルギーを節約できる。
前記原料の可燃物は、ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており、酸化が抑制されているため、ガス化した燃焼物は燃えるが、炭素の酸化は抑制される。このため、通常、燃焼温度は700?800°C程度に抑制される。このように燃焼温度が低温であるため、内筒部材28は、例えばステンレススチールのような金属材で形成されているが、耐久性等については問題がない。
【0022】
以上のようにして、原料が炭化され、炭化物となって排出口から排出される。その炭化物は酸化が抑制されているため、排出されると急激に温度が奪われ、排出された直後に火が消え、効率良く粒状の粒炭というべき炭化物を生産することができる。また、同様に炭化物が混在したセラミックボールを焼成できる。
送りスピードは、モーター24の回転数を制御することで自在に調整できる。標準的な送りスピードは、1m/min.程度であり、もみ殻を炭化するような場合には、送りスピードを速めることができ、また、水分の多い原料を炭化する場合には送りスピードを遅くすればよい。
【0023】
次に本発明にかかる炭化炉で好適に炭化される原料について説明する。
上記の構成からなる炭化炉によれば、可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし、該原料の表面をベントナイト等の無機質粘結材で被覆したものから、炭化物を得る方法として好適である。特に、無機質粘結材と水溶性糖類を同時に被覆したものは、さらに効率良く炭化される。
また、表面を無機質粘結材で被覆された可燃物あるいは可燃物を含む物の粉末、粒子と無機質骨材の混合体を焼成して炭化物を製造する際、または、表面を無機質粘結材と水溶性糖類の被膜で被覆された可燃物あるいは可燃物を含む物の粉末、粒子と無機質骨材の混合体を焼成して炭化物を製造する際にも好適に利用できるのである。
【0024】
本明細書の可燃物とは、石炭、木材、竹、プラスチック、穀物の殻(蕎麦殻、もみ殻等)、穀物、食品、およびこれらの加工残査、およびこれらを原料にする廃棄物等、固体で燃えるもの全般を意味するが、特にコーヒー粕、もみ殻、オガコ、穀物等の粉末、粒状の固体で排出される廃棄物に極めて有効である。また、可燃物を含むものとは、燃える物と燃えない物が混ざった物で、燃えない物はガラス、耐火物等のセラミック、水、等である。
無機質粘結材としては、耐火粘土、ベントナイト、特殊粘土等のいわゆる粘土質粘結材が好ましく、とりわけベントナイトの酸化抑制効果が大きい。
水溶性糖類としては、例えば、しょ糖、麦芽糖、ブドウ糖等の小糖類および単糖類がある。
また、骨材としては、無機質廃棄物の粉粒体を利用できる。例えば、鋳物砂、汚泥砂、レンガ、瓦、コンクリートの粒および粉、製鉄高炉スラグ、鋳物のノロ、パーライト、ガラス繊維、ロックウール、廃粘土、焼却炉の灰、スラグ金属の錆等である。
なお、原料に無機質粘結材を被覆するには、コーヒー粕のように原料に水分が含まれている場合は新たに水分を添加することなく、もみ殻のように水分を含んでいない場合は新たに水分を添加し、単に混練すればよい。被膜は薄くても十分な酸化抑制効果がある。また、水溶性糖類の被覆は、糖類を予め水に溶かして使用する場合もあるし、糖類の粉末を混練してもよい。
【0025】
以上、本発明につき好適な実施例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【0026】
【発明の効果】
本発明にかかる炭化方法によれば、木材、穀物の殻もしくはコーヒー粕等の粒状の固体からなる可燃物あるいは該可燃物を含む材料の表面を無機質粘結材で被覆したものを原料とし、該原料を、大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を、該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り、該原料の送り方向とは反対方向から、原料のガス成分に着火および燃焼させ、前記投入口側で原料を乾燥させ、前記排出口側で焼成するようにしているので、前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示す炭化炉の側面図である。
【図2】
図1の実施例のX-X断面図である。
【図3】
内筒部材の取付構造を模式的に説明する断面図である。
【符号の説明】
10 炉部
12 投入口
14 排出口
16 バーナー
18 煙突
20 駆動ローラー
24 モーター
28 内筒部材
30 外筒部材
32 断熱材層
34 スパイラル
38 分割筒材
40 固定片
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-07-03 
結審通知日 2012-07-09 
審決日 2012-07-20 
出願番号 特願平7-252462
審決分類 P 1 123・ 121- YA (C10B)
P 1 123・ 537- YA (C10B)
P 1 123・ 1- YA (C10B)
P 1 123・ 536- YA (C10B)
P 1 123・ 4- YA (C10B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 星野 紹英
小石 真弓
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3364065号(P3364065)
発明の名称 炭化方法  
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所  
代理人 傳田 正彦  
代理人 堀米 和春  
代理人 傳田 正彦  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 傳田 正彦  
代理人 堀米 和春  
代理人 堀米 和春  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 綿貫 隆夫  

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